第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子 ...109 第18節...

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109 第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子の検討 【目的】心・血管系疾患は閉経前の女性には少ないですが、閉経後は増加します。閉経後の 女性の動脈硬化の進行に関連する因子を探るため、動脈硬化の指標である頸動脈エコー所見 の経年変化とそれに関連する危険因子、食事因子について検討しました。 【対象】平成13年から17年3月に循環器病予防ドック(初回)を受診した者 581 人のうち、 21年9月から23年3月までに再受診した女性 91 人の中で、再受診時に閉経していた 87 名(再受診時平均年齢 70.5 歳、平均経年期間7年)。 【方法】1年あたりの頸動脈の内膜・中膜複合体厚(IMT)の変化量を動脈硬化進行度の指標と し、IMT の変化量が+0.1mm 未満を変化なし群、+0.1mm 以上を増加群としました。今回は特に 増加群の多かった右内頸動脈 IMT について身体的な危険因子、及び食物摂取頻度調査(FFQ) の結果を検討しました。 初回は増加群が変化なし群に比べ、HDL コレステロール平均値が有意に低かったですが、その他の 項目は2群間に有意な差はありませんでした。再受診時は増加群が変化なし群に比べ、HDL コ レステロール平均値が有意に低く、LDL コレステロール、トリグリセライド、最大血圧の平均値が有意に高いでし た。再受診時の治療者の割合は2群間に差はありませんでした。 LDL コレステロール値、トリグリセライド値、最大血圧値の階層別割合は、初回は 2 群間に有意な差はな いですが、再受診時には変化なし群が増加群に比べ、高値者の割合が有意に少ないでした。 HDL コレステロール値の階層別割合は初回、再受診時とも 2 群間で有意な差が認められました。 人数 年齢 BMI 年齢 BMI 変化なし群 56 62.4 22.2 69.4 21.9 増加群 31 65.6 22.8 72.7 22.8 合計 87 63.5 22.4 70.5 22.2 χ 2 検定 p=0.043 p=0.034 初回 再受診時 計測部位 変化なし(人) 増加(人) 右総頸動脈 85 2 右内頸動脈 56 31 左総頸動脈 84 3 左内頸動脈 75 12 平均変化量(mm) 0.016±0.031 0.078±0.116 0.018±0.035 0.044±0.060 表1 対象者の頸動脈 IMT の変化状況 表2 対象者の頸動脈 IMT の変化状況 N 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 BMI 変化なし群 56 22.2 ± 2.2 21.9 ± 2.4 kg/m 2 増加群 31 23.0 ± 2.6 22.8 ± 2.4 総コレステロール 変化なし群 56 222.9 ± 31.0 216.1 ± 37.6 mg/dl 増加群 31 221.6 ± 33.1 220.3 ± 33.1 HDL-コレステロール 変化なし群 56 67.7 ± 14.5 *** 73.0 ± 13.9 *** mg/dl 増加群 31 57.0 ± 11.9 61.2 ± 13.5 LDL-コレステロール 変化なし群 56 132.9 ± 33.1 122.4 ± 37.0 * mg/dl 増加群 31 144.5 ± 31.8 138.1 ± 31.3 トリグリセライド 変化なし群 56 87.3 ± 39.1 83.7 ± 30.2 ** mg/dl 増加群 31 101.6 ± 37.9 104.8 ± 38.8 HbA1c 変化なし群 56 5.0 ± 0.5 5.3 ± 0.4 (ヘモグロビンA1c) % 増加群 31 5.3 ± 1.3 5.3 ± 0.6 最大血圧 変化なし群 56 119.0 ± 13.6 119.3 ± 10.0 ** mmHg 増加群 31 124.9 ± 13.2 126.5 ± 13.2 最小血圧 変化なし群 56 69.0 ± 8.2 68.5 ± 8.7 mmHg 増加群 31 71.5 ± 9.4 69.0 ± 9.2 * p<0.05、**p<0.01、***p<0.001 初回 再受診時 表3 初回 再受診時の2群間の検査項目の平均値の比較

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Page 1: 第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子 ...109 第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子の検討

109

第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子の検討

【目的】心・血管系疾患は閉経前の女性には少ないですが、閉経後は増加します。閉経後の

女性の動脈硬化の進行に関連する因子を探るため、動脈硬化の指標である頸動脈エコー所見

の経年変化とそれに関連する危険因子、食事因子について検討しました。

【対象】平成13年から17年3月に循環器病予防ドック(初回)を受診した者 581 人のうち、

21年9月から23年3月までに再受診した女性 91 人の中で、再受診時に閉経していた 87

名(再受診時平均年齢 70.5 歳、平均経年期間7年)。

【方法】1年あたりの頸動脈の内膜・中膜複合体厚(IMT)の変化量を動脈硬化進行度の指標と

し、IMT の変化量が+0.1mm 未満を変化なし群、+0.1mm 以上を増加群としました。今回は特に

増加群の多かった右内頸動脈 IMT について身体的な危険因子、及び食物摂取頻度調査(FFQ)

の結果を検討しました。

初回は増加群が変化なし群に比べ、HDL コレステロール平均値が有意に低かったですが、その他の

項目は2群間に有意な差はありませんでした。再受診時は増加群が変化なし群に比べ、HDL コ

レステロール平均値が有意に低く、LDL コレステロール、トリグリセライド、 大血圧の平均値が有意に高いでし

た。再受診時の治療者の割合は2群間に差はありませんでした。

LDL コレステロール値、トリグリセライド値、 大血圧値の階層別割合は、初回は 2群間に有意な差はな

いですが、再受診時には変化なし群が増加群に比べ、高値者の割合が有意に少ないでした。

HDL コレステロール値の階層別割合は初回、再受診時とも 2群間で有意な差が認められました。

人数 年齢 BMI 年齢 BMI変化なし群 56 62.4 22.2 69.4 21.9増加群 31 65.6 22.8 72.7 22.8合計 87 63.5 22.4 70.5 22.2

χ2検定 p=0.043 p=0.034

初回 再受診時計測部位 変化なし(人) 増加(人)

右総頸動脈 85 2右内頸動脈 56 31左総頸動脈 84 3左内頸動脈 75 12

平均変化量(mm)

0.016±0.0310.078±0.1160.018±0.0350.044±0.060

表1 対象者の頸動脈 IMT の変化状況 表2 対象者の頸動脈 IMT の変化状況

N 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差BMI 変化なし群 56 22.2 ± 2.2 21.9 ± 2.4

kg/m2 増加群 31 23.0 ± 2.6 22.8 ± 2.4

総コレステロール 変化なし群 56 222.9 ± 31.0 216.1 ± 37.6mg/dl 増加群 31 221.6 ± 33.1 220.3 ± 33.1

HDL-コレステロール 変化なし群 56 67.7 ± 14.5 *** 73.0 ± 13.9 ***mg/dl 増加群 31 57.0 ± 11.9 61.2 ± 13.5

LDL-コレステロール 変化なし群 56 132.9 ± 33.1 122.4 ± 37.0 *mg/dl 増加群 31 144.5 ± 31.8 138.1 ± 31.3

トリグリセライド 変化なし群 56 87.3 ± 39.1 83.7 ± 30.2 **mg/dl 増加群 31 101.6 ± 37.9 104.8 ± 38.8

HbA1c 変化なし群 56 5.0 ± 0.5 5.3 ± 0.4(ヘモグロビンA1c) % 増加群 31 5.3 ± 1.3 5.3 ± 0.6最大血圧 変化なし群 56 119.0 ± 13.6 119.3 ± 10.0 **

mmHg 増加群 31 124.9 ± 13.2 126.5 ± 13.2最小血圧 変化なし群 56 69.0 ± 8.2 68.5 ± 8.7

mmHg 増加群 31 71.5 ± 9.4 69.0 ± 9.2* p<0.05、**p<0.01、***p<0.001

初回 再受診時

表3 初回 再受診時の2群間の検査項目の平均値の比較

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食品群別摂取量は初回のその他の野菜摂取量が変化なし群が増加群に比べて有意に多いで

した。再受診時の食品群別摂取量には2群間に有意な差はありませんでした。

再受診時の LDL コレステロール値は豆類摂取量、その他の野菜摂取量と負の相関が油脂類摂取量と

正の相関が認められました。 HDL コレステロール値は肉類摂取量と果物摂取量増加と正の相関が、

トリグリセライド値は菓子エネルギーと正の相関が認められました。

油脂類の摂取量の増加が、右内頸動脈 IMT の増加に影響を与えていると考えられます。

(脂質異常症治療中を除く54名)

相関係数 P値 相関係数 P値 相関係数 P値肉類摂取量 -0.039 0.782 0.340 0.013 -0.050 0.725豆類摂取量 -0.325 0.018 0.009 0.951 -0.168 0.230その他の野菜 -0.278 0.044 0.158 0.258 -0.045 0.747油脂類摂取量 0.322 0.019 0.133 0.344 0.242 0.081菓子エネルギー 0.112 0.424 -0.157 0.263 0.272 0.048肉類摂取量 -0.072 0.610 -0.064 0.648 0.129 0.356果物摂取量 0.212 0.127 0.316 0.021 0.010 0.945いも類摂取量 -0.242 0.081 -0.278 0.044 -0.083 0.557油脂類摂取量 0.280 0.042 0.052 0.713 0.182 0.192

年齢調整

変化量

HDL-chol トリグリセライド再受診時

LDL-chol

再受診時

表4 再受診時の血清脂質の値と食事関連因子

(脂質異常症治療中を除く54名)標準化回帰係数 P値

油脂類摂取変化量 モデル1 0.357 0.006モデル2 0.294 0.026

肉類摂取変化量 モデル1 0.291 0.022モデル2 0.210 0.096

モデル1:再受診時LDL-c、HDL-c、TG、年齢で調整

モデル2:再受診時LDL-c、HDL-c、TG、年齢と油脂類(肉類)摂取変化量で調整

表5 重回帰分析による右内頸部動脈 IMT 変化量と油脂類、肉類摂取変化量との関連

<初回> H16.7.21 61歳身長 153.0cm 体重 47.4kg BMI 20.2HDL-c64mg/dl LDL-c171mg/dl TG 87mg/dlHbA1c 5.1% 血圧 108/64mmHg

<再受診時> H22.12.17 67歳身長 151.3cm 体重 48.5kg BMI 21.2HDL-c 69mg/dl LDL-c 174mg/dl TG 121mg/dlHbA1c 5.2% 血圧 110/70mmHg

・栄養素等摂取状況エネルギー1550kcal 脂肪エネルギー比率30% 食塩11.2g

・食品群別摂取量肉類37g 魚介類74g 卵類26g 豆類28g 乳製品415g緑黄色野菜54g その他の野菜126g 果物91g油脂類2g 菓子エネルギー276kcal

・栄養素等摂取状況エネルギー1300kcal 脂肪エネルギー比率30% 食塩9.5g

・食品群別摂取量肉類57g 魚介類64g 卵類4g 豆類38g 乳製品225g緑黄色野菜116g その他の野菜174g 果物46g油脂類23g 菓子エネルギー27kcal

図1 右内頸動脈 IMT 増加例

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【考察】右内頸動脈 IMT の変化なし群では増加群に比べ、再受診時に LDL コレステロール、トリグリセラ

イド、 大血圧の高値者が有意に少ないことから、これらの値を適正に保つことが重要と考え

られました。さらに豆類や肉類、油脂類などの適正摂取など、食事内容を改善して血清脂質

の値を適正に保つことが、また正常値内であっても HDL コレステロールはより高めに、トリグリセライド

はより低めに維持することが閉経女性の動脈硬化の進行を遅らせるのに有効ではないかと考

えられました。

第19節 心理的ストレス負荷に対する性別、年齢別の血圧、心拍数、自律神経活

動および末梢血流量の反応性の比較

心理的なストレスと循環器疾患発症との関連には、性差・年齢差があると報告されていま

す。しかし、心理的ストレス負荷に対する循環器系の反応についての大規模な研究は未だ多

くはありません。

大阪府立健康科学センターでは、循環器疾患と心理的ストレスやそれに関連する自律神経

活動の重要性に着目し、身体測定に限った健康ドックのみならず、約 10 年前からストレスド

ック(心身リフレッシュコース)を開設し、受診者に対し、身体的・心理的症状に関する問

診やストレス負荷試験を含めた身体指標の測定を行っています。それらのデータをもとに

近 9年間(2001 年 12 月から 2009 年 3 月)のストレスドック受診者を対象に、心理的ストレ

ス負荷に対する性別、年齢別の血圧、心拍数、自律神経活動および末梢血流量の反応性の違

いについて検証しました。

対象人数は男女 979 人(男性 338 人、女性 641 人)で、対象者の主な職業構成は、教員 51%

(男性 44%、女性 55%)、一般事務 24%(男性 26%、女性 24%)です。ストレス指標とし

て、トノメトリー法により撓骨動脈で連続測定した収縮期血圧(SBP)、拡張期血圧(DBP)、心

拍数(HR)、心拍数変動(HRV)と、レーザードップラー血流測定による末梢血流量を、2種類

の心理的ストレス負荷中(1.鏡描写試験、2.迷路負荷試験)に測定し、安静時と比較した変

化量を算出しました。自律神経機能は高周波領域(HF, 0.15-0.4 Hz)を副交感神経活動、低周

波領域(LF, 0.05-0.15 Hz)を交感神経活動と副交感神経活動の両方を反映するパワーと見な

し、交感神経系の指標として LF/HF 比を算出しました。

その結果、男女比較では、安静時の平均 SBP、DBP、LF/HF、末梢血流量は男性の方が高く、

HF は女性の方が高いことが分かりました(表1)。また、心理的ストレス試験による変化量

は、SBP、DBP、HR、末梢血流量で女性の方が大きい傾向がありました(表2)。安静時と比較

した迷路負荷試験時の SBP 平均変化量は、男性 10.7mmHg、女性 12.5mmHg (性差:p=0.01)、

HR 変化量は男性 0.8 拍/分、女性 1.9 拍/分 (性差:p=0.004)であり、安静時の値で除した変

化率においても同様の結果であることが確認されました。年齢群別の比較では、男女とも平

均 SBP、DBP は高齢群ほど高く、HF の活動は高齢群ほど低い傾向が見られました。HR は男女

とも年齢による差がありませんでした(表3)。心理的ストレス付加による各変化量・率は、

女性で SBP、HR、鏡描写試験時の LF/HF 変化量・率が高齢群ほど大きく、男性では迷路負荷

試験時の LF/HF 変化率が高齢ほど大きく、末梢血流量の変化量・率が高齢群ほど小さいこと

が分かりました(表4)。

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以上の結果から、循環器系-自律神経系の指標である血圧値、自律神経活動、末梢血流量は、

平均値、心理的ストレス負荷による変化量・率のいずれも男女差を認めました。男女とも、

血圧、自律神経活動とも、加齢に伴う変化は類似していましたが、心理的ストレスに対する

循環器系-自律神経系の反応は性別により異なり、高齢女性でより各変化量が大きいことが示

されました。これらの心理的ストレスから受ける身体的影響の性差・年齢差が、心理的スト

レスと各種疾患との関連に影響している可能性が考えられます。今後、この性差を踏まえて、

循環器系-自律神経系の指標と各疾患との関連を検討する必要があると考えられます。

(表3) 性別年齢層別ストレス負荷による血圧・心拍数・自律神経系の各平均値

男性 女性

10-20代 30代 40代 50代 60代~ 10-20代 30代 40代 50代 60代~N=20 N=51 N=133 N=122 N=12 p value N=35 N=95 N=245 N=240 N=26 p value

最大血圧

ストレス負荷前 116.8 ( 3.3 ) 120.2 ( 2.0 ) 122.6 ( 1.3 ) 125.0 ( 1.3 ) 131.8 ( 4.2 ) 0.02 105.8 ( 2.7 ) 109.2 ( 1.6 ) 113.1 ( 1.0 ) 116.5 ( 1.0 ) 119.2 ( 3.1 ) <0.001ストレス負荷1 129.2 ( 4.3 ) 131.0 ( 2.7 ) 133.6 ( 1.7 ) 135.8 ( 1.7 ) 135.3 ( 5.5 ) 0.44 114.3 ( 3.7 ) 118.9 ( 2.2 ) 122.8 ( 1.4 ) 128.5 ( 1.4 ) 130.7 ( 4.3 ) <0.001ストレス負荷2 128.7 ( 4.5 ) 127.3 ( 2.8 ) 131.5 ( 1.8 ) 131.8 ( 1.8 ) 133.4 ( 5.9 ) 0.67 111.8 ( 3.6 ) 117.7 ( 2.2 ) 120.9 ( 1.4 ) 126.5 ( 1.4 ) 130.0 ( 4.2 ) <0.001ストレス負荷後 114.7 ( 3.9 ) 118.1 ( 2.4 ) 120.8 ( 1.5 ) 120.8 ( 1.6 ) 123.6 ( 5.0 ) 0.47 104.5 ( 2.9 ) 107.6 ( 1.8 ) 108.9 ( 1.1 ) 112.1 ( 1.1 ) 116.1 ( 3.4 ) 0.01

最小血圧

ストレス負荷前 69.1 ( 2.6 ) 74.5 ( 1.6 ) 78.3 ( 1.0 ) 82.3 ( 1.0 ) 79.7 ( 3.3 ) <0.001 63.7 ( 2.1 ) 66.5 ( 1.3 ) 69.4 ( 0.8 ) 71.4 ( 0.8 ) 73.7 ( 2.4 ) <0.001ストレス負荷1 79.8 ( 3.5 ) 83.7 ( 2.2 ) 86.2 ( 1.4 ) 90.0 ( 1.4 ) 81.7 ( 4.5 ) 0.02 70.4 ( 2.7 ) 74.5 ( 1.7 ) 76.7 ( 1.0 ) 79.1 ( 1.0 ) 80.1 ( 3.2 ) 0.01ストレス負荷2 75.8 ( 3.5 ) 78.8 ( 2.2 ) 82.4 ( 1.4 ) 85.7 ( 1.4 ) 78.3 ( 4.5 ) 0.01 67.3 ( 2.7 ) 71.4 ( 1.6 ) 73.0 ( 1.0 ) 76.2 ( 1.0 ) 78.0 ( 3.1 ) 0.003ストレス負荷後 67.8 ( 3.2 ) 72.8 ( 2.0 ) 76.5 ( 1.2 ) 78.6 ( 1.3 ) 72.1 ( 4.1 ) 0.01 61.7 ( 2.3 ) 64.8 ( 1.4 ) 65.1 ( 0.9 ) 67.9 ( 0.9 ) 69.7 ( 2.7 ) 0.02

心拍数

ストレス負荷前 74.3 ( 2.3 ) 74.4 ( 1.4 ) 73.5 ( 0.9 ) 73.4 ( 0.9 ) 69.8 ( 3.0 ) 0.72 73.0 ( 1.7 ) 74.2 ( 1.1 ) 73.5 ( 0.7 ) 72.9 ( 0.7 ) 75.2 ( 2.0 ) 0.72ストレス負荷1 74.7 ( 2.8 ) 74.7 ( 1.7 ) 72.4 ( 1.1 ) 74.3 ( 1.1 ) 70.1 ( 3.6 ) 0.53 72.3 ( 1.8 ) 73.9 ( 1.1 ) 73.8 ( 0.7 ) 73.9 ( 0.7 ) 76.8 ( 2.1 ) 0.60ストレス負荷2 74.3 ( 2.6 ) 74.3 ( 1.6 ) 73.4 ( 1.0 ) 73.7 ( 1.1 ) 70.2 ( 3.4 ) 0.85 72.8 ( 1.8 ) 73.6 ( 1.1 ) 73.3 ( 0.7 ) 73.4 ( 0.7 ) 76.7 ( 2.1 ) 0.62ストレス負荷後 74.3 ( 2.4 ) 74.1 ( 1.5 ) 72.8 ( 0.9 ) 72.5 ( 1.0 ) 67.7 ( 3.1 ) 0.40 72.6 ( 1.7 ) 72.6 ( 1.0 ) 72.0 ( 0.6 ) 70.5 ( 0.6 ) 73.6 ( 1.9 ) 0.21

LF/HF

ストレス負荷前 1.6 ( 0.3 ) 1.6 ( 0.2 ) 1.6 ( 0.1 ) 1.5 ( 0.1 ) 1.1 ( 0.3 ) 0.74 1.1 ( 0.2 ) 1.2 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.2 ) 0.93ストレス負荷1 2.8 ( 0.5 ) 3.0 ( 0.3 ) 2.9 ( 0.2 ) 3.4 ( 0.2 ) 2.5 ( 0.6 ) 0.25 2.1 ( 0.3 ) 2.3 ( 0.2 ) 2.7 ( 0.1 ) 2.9 ( 0.1 ) 3.1 ( 0.4 ) 0.06ストレス負荷2 2.9 ( 0.4 ) 3.2 ( 0.3 ) 2.8 ( 0.2 ) 3.0 ( 0.2 ) 3.0 ( 0.6 ) 0.76 3.0 ( 0.3 ) 2.4 ( 0.2 ) 2.4 ( 0.1 ) 2.7 ( 0.1 ) 2.5 ( 0.4 ) 0.25ストレス負荷後 1.3 ( 0.2 ) 1.5 ( 0.2 ) 1.6 ( 0.1 ) 1.5 ( 0.1 ) 0.7 ( 0.3 ) 0.10 1.1 ( 0.2 ) 1.2 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.2 ) 0.95

HF

ストレス負荷前 72.4 ( 10.4 ) 59.6 ( 6.5 ) 56.4 ( 4.1 ) 45.3 ( 4.2 ) 31.0 ( 13.4 ) 0.03 82.0 ( 8.6 ) 80.0 ( 5.3 ) 56.9 ( 3.3 ) 49.3 ( 3.3 ) 37.9 ( 10.0 ) <0.001ストレス負荷1 42.0 ( 7.7 ) 40.0 ( 4.8 ) 36.2 ( 3.0 ) 21.5 ( 3.1 ) 13.7 ( 9.9 ) <0.001 51.8 ( 5.6 ) 50.1 ( 3.5 ) 35.6 ( 2.2 ) 29.3 ( 2.2 ) 18.0 ( 6.7 ) <0.001ストレス負荷2 41.6 ( 8.6 ) 50.3 ( 5.4 ) 34.6 ( 3.4 ) 24.0 ( 3.5 ) 15.1 ( 11.1 ) <0.001 53.4 ( 5.5 ) 47.9 ( 3.4 ) 38.7 ( 2.1 ) 30.2 ( 2.1 ) 22.3 ( 6.3 ) <0.001ストレス負荷後 63.4 ( 11.1 ) 68.5 ( 6.9 ) 54.8 ( 4.4 ) 44.2 ( 4.5 ) 31.9 ( 14.3 ) 0.02 90.3 ( 8.7 ) 80.6 ( 5.4 ) 57.1 ( 3.3 ) 50.4 ( 3.4 ) 33.4 ( 10.1 ) <0.001

末梢血流量

ストレス負荷前 152.4 ( 17.8 ) 174.7 ( 11.1 ) 175.2 ( 6.9 ) 166.0 ( 7.2 ) 171.1 ( 23.0 ) 0.73 160.4 ( 14.3 ) 155.5 ( 8.7 ) 163.3 ( 5.4 ) 173.8 ( 5.5 ) 156.2 ( 16.6 ) 0.38ストレス負荷1 115.2 ( 18.0 ) 148.9 ( 11.2 ) 148.8 ( 7.0 ) 157.4 ( 7.3 ) 176.3 ( 23.2 ) 0.20 125.9 ( 13.5 ) 131.7 ( 8.3 ) 136.0 ( 5.1 ) 147.5 ( 5.2 ) 146.2 ( 15.7 ) 0.30ストレス負荷2 115.5 ( 18.4 ) 154.2 ( 11.5 ) 153.4 ( 7.1 ) 157.2 ( 7.4 ) 168.2 ( 23.7 ) 0.30 137.7 ( 14.5 ) 132.1 ( 8.9 ) 143.2 ( 5.5 ) 159.4 ( 5.6 ) 156.6 ( 16.8 ) 0.06ストレス負荷後 151.9 ( 17.6 ) 182.9 ( 11.0 ) 183.5 ( 6.9 ) 170.6 ( 7.1 ) 169.7 ( 22.8 ) 0.39 165.8 ( 13.9 ) 154.6 ( 8.5 ) 174.0 ( 5.3 ) 188.9 ( 5.3 ) 173.2 ( 16.1 ) 0.01

(表1) 性別ストレス負荷による血圧・心拍数・自律神経系の各平均値

男性 女性

n=338 n=641最大血圧

ストレス負荷前 123.1 ( 0.9 ) 113.7 ( 0.6 ) <0.001ストレス負荷1 133.8 ( 1.1 ) 124.2 ( 0.8 ) <0.001ストレス負荷2 130.9 ( 1.2 ) 122.4 ( 0.8 ) <0.001ストレス負荷後 120.1 ( 0.9 ) 109.9 ( 0.7 ) <0.001

最小血圧

ストレス負荷前 78.7 ( 0.7 ) 69.6 ( 0.5 ) <0.001ストレス負荷1 86.6 ( 0.9 ) 77.1 ( 0.6 ) <0.001ストレス負荷2 82.5 ( 0.9 ) 73.8 ( 0.6 ) <0.001ストレス負荷後 76.0 ( 0.8 ) 66.1 ( 0.6 ) <0.001

心拍数

ストレス負荷前 73.5 ( 0.6 ) 73.4 ( 0.4 ) 0.90ストレス負荷1 73.5 ( 0.6 ) 73.9 ( 0.4 ) 0.62ストレス負荷2 73.6 ( 0.6 ) 73.5 ( 0.4 ) 0.92ストレス負荷後 72.8 ( 0.5 ) 71.6 ( 0.4 ) 0.08

LF/HF

ストレス負荷前 1.5 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.0 ) <0.001ストレス負荷1 3.1 ( 0.1 ) 2.7 ( 0.1 ) 0.01ストレス負荷2 3.0 ( 0.1 ) 2.5 ( 0.1 ) <0.001ストレス負荷後 1.5 ( 0.1 ) 1.2 ( 0.0 ) <0.001

HF

ストレス負荷前 53.0 ( 2.8 ) 58.1 ( 2.0 ) 0.13ストレス負荷1 31.0 ( 1.9 ) 35.5 ( 1.4 ) 0.05ストレス負荷2 32.9 ( 1.9 ) 37.0 ( 1.4 ) 0.09ストレス負荷後 52.8 ( 2.9 ) 58.9 ( 2.1 ) 0.08

末梢血流量

ストレス負荷前 170.3 ( 4.5 ) 165.6 ( 3.3 ) 0.40ストレス負荷1 150.9 ( 4.4 ) 139.5 ( 3.2 ) 0.04ストレス負荷2 153.1 ( 4.6 ) 147.8 ( 3.4 ) 0.35ストレス負荷後 176.4 ( 4.4 ) 176.2 ( 3.2 ) 0.97

(表2) 性別ストレス負荷による血圧・心拍数・自律神経系の変化量

男性 女性

n=338 n=641ストレス変化量(SBP)

ストレス負荷前-負荷後 3.0 ( 0.6 ) 3.7 ( 0.4 ) 0.27ストレス負荷1-負荷後 13.6 ( 0.7 ) 14.3 ( 0.5 ) 0.44ストレス負荷2-負荷後 10.7 ( 0.5 ) 12.5 ( 0.4 ) 0.01

ストレス変化量(DBP)

ストレス負荷前-負荷後 2.7 ( 0.4 ) 3.5 ( 0.3 ) 0.12ストレス負荷1-負荷後 10.5 ( 0.6 ) 10.9 ( 0.4 ) 0.56ストレス負荷2-負荷後 6.5 ( 0.4 ) 7.7 ( 0.3 ) 0.01

ストレス変化量(HR)

ストレス負荷前-負荷後 0.7 ( 0.2 ) 1.8 ( 0.2 ) <0.001ストレス負荷1-負荷後 0.7 ( 0.4 ) 2.3 ( 0.3 ) 0.001ストレス負荷2-負荷後 0.8 ( 0.3 ) 1.9 ( 0.2 ) 0.004

ストレス変化量(LF/HF)

ストレス負荷前-負荷後 0.0 ( 0.1 ) 0.0 ( 0.0 ) 0.90ストレス負荷1-負荷後 1.5 ( 0.1 ) 1.5 ( 0.1 ) 0.86ストレス負荷2-負荷後 1.5 ( 0.1 ) 1.4 ( 0.1 ) 0.40

ストレス変化量(HF)

ストレス負荷前-負荷後 -0.1 ( 1.9 ) -0.8 ( 1.4 ) 0.80ストレス負荷1-負荷後 -21.8 ( 2.3 ) -23.4 ( 1.7 ) 0.57ストレス負荷2-負荷後 -19.9 ( 2.2 ) -21.9 ( 1.6 ) 0.45

ストレス変化量(末梢血流量)

ストレス負荷前-負荷後 -6.1 ( 2.2 ) -10.6 ( 1.6 ) 0.09ストレス負荷1-負荷後 -25.5 ( 2.9 ) -36.7 ( 2.1 ) 0.002ストレス負荷2-負荷後 -23.2 ( 2.4 ) -28.4 ( 1.8 ) 0.09

Page 5: 第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子 ...109 第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子の検討

113

<保健指導の技法開発>

第20節 大阪府立健康科学センターにおける特定保健指導の 1 年後の効果の検

【はじめに】2008 年度に開始された特定健診・特定保健指導制度において生活習慣病予防の

ための保健指導が重要視されています。当センターで系統的に実施した特定保健指導の効果

について検討しました。

【対象】2008 年度の健康診断で特定保健指導の対象となった男性 585 人に対して、特定保健

指導を行いました(動機づけ支援 183 人、積極的支援 402 人)。そのうち1年後の 2009 年度

の健康診断を受診した男性 511 人について健診結果の変化を検討しました。

【結果】その結果メタボリックシンドローム(MetS)該当者は 25.2%減少、MetS と予備群を

あわせると 31.1%減少していました(図1)。階層化判定の変化をみると、積極的支援の対

象者は 39.3%減少、動機づけ支援は 29.7%減少していました(図2)。個々の危険因子の有

所見率の変化をみると、血糖高値、脂質異常、喫煙について有意な減少がみられました(図

3)。

* p<0.05 McNemar 検定 ** p<0.01 McNemar 検定

250187

245

154

16

170

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2008年度 2009年度

MetS該当区分割合の変化

N=511

非MetS MetS予備群 MetS該当者

⊿31.1%* (MetS+予備軍)

⊿25.2%*

349

212

162

114

45

140

0%

20%

40%

60%

80%

100%

2008年度 2009年度

階層化判定区分割合の変化

N=511

非該当 情報提供動機づけ支援 積極的支援

⊿29.7%**

⊿ 39.3 % **

図1 図2

(表4) 性別年齢層別ストレス負荷による血圧・心拍数・自律神経系の変化量

男性 女性

10-20代 30代 40代 50代 60代~ 10-20代 30代 40代 50代 60代~N=20 N=51 N=133 N=122 N=12 p value N=35 N=95 N=245 N=240 N=26 p value

ストレス変化量(SBP)

ストレス負荷前-負荷後 2.1 ( 2.1 ) 2.1 ( 1.3 ) 1.8 ( 0.8 ) 4.2 ( 0.9 ) 8.3 ( 2.7 ) 0.08 1.3 ( 1.8 ) 1.6 ( 1.1 ) 4.3 ( 0.7 ) 4.4 ( 0.7 ) 3.1 ( 2.1 ) 0.11ストレス負荷1-負荷後 14.6 ( 2.8 ) 12.8 ( 1.8 ) 12.8 ( 1.1 ) 14.7 ( 1.1 ) 11.8 ( 3.7 ) 0.73 9.8 ( 2.2 ) 11.3 ( 1.4 ) 14.0 ( 0.8 ) 16.3 ( 0.9 ) 14.6 ( 2.6 ) 0.01ストレス負荷2-負荷後 14.1 ( 2.0 ) 9.2 ( 1.3 ) 10.7 ( 0.8 ) 11.0 ( 0.8 ) 9.8 ( 2.6 ) 0.37 7.2 ( 1.7 ) 10.1 ( 1.1 ) 12.1 ( 0.7 ) 14.4 ( 0.7 ) 13.9 ( 2.0 ) <0.001

ストレス変化量(DBP)

ストレス負荷前-負荷後 1.4 ( 1.8 ) 1.6 ( 1.1 ) 1.8 ( 0.7 ) 3.7 ( 0.7 ) 7.6 ( 2.3 ) 0.04 1.9 ( 1.4 ) 1.7 ( 0.8 ) 4.3 ( 0.5 ) 3.5 ( 0.5 ) 4.0 ( 1.6 ) 0.08ストレス負荷1-負荷後 12.1 ( 2.6 ) 10.9 ( 1.6 ) 9.7 ( 1.0 ) 11.1 ( 1.1 ) 9.6 ( 3.3 ) 0.82 8.7 ( 1.8 ) 9.7 ( 1.1 ) 11.6 ( 0.7 ) 11.2 ( 0.7 ) 10.3 ( 2.1 ) 0.42ストレス負荷2-負荷後 8.1 ( 1.5 ) 5.9 ( 0.9 ) 5.8 ( 0.6 ) 7.1 ( 0.6 ) 6.2 ( 1.9 ) 0.43 5.6 ( 1.2 ) 6.5 ( 0.7 ) 7.8 ( 0.5 ) 8.2 ( 0.5 ) 8.3 ( 1.4 ) 0.14

ストレス変化量(HR)

ストレス負荷前-負荷後 0.0 ( 0.9 ) 0.3 ( 0.6 ) 0.7 ( 0.4 ) 0.9 ( 0.4 ) 2.1 ( 1.2 ) 0.62 0.4 ( 0.7 ) 1.6 ( 0.4 ) 1.5 ( 0.3 ) 2.4 ( 0.3 ) 1.6 ( 0.9 ) 0.05ストレス負荷1-負荷後 0.4 ( 1.8 ) 0.6 ( 1.1 ) -0.3 ( 0.7 ) 1.8 ( 0.7 ) 2.4 ( 2.3 ) 0.29 -0.3 ( 1.1 ) 1.3 ( 0.7 ) 1.8 ( 0.4 ) 3.4 ( 0.4 ) 3.3 ( 1.3 ) 0.003ストレス負荷2-負荷後 -0.1 ( 1.3 ) 0.3 ( 0.8 ) 0.6 ( 0.5 ) 1.1 ( 0.5 ) 2.5 ( 1.6 ) 0.63 0.2 ( 1.0 ) 1.0 ( 0.6 ) 1.3 ( 0.4 ) 3.0 ( 0.4 ) 3.2 ( 1.1 ) 0.002

ストレス変化量(LF/HF)

ストレス負荷前-負荷後 0.3 ( 0.3 ) 0.1 ( 0.2 ) -0.1 ( 0.1 ) 0.0 ( 0.1 ) 0.4 ( 0.4 ) 0.56 0.0 ( 0.2 ) -0.1 ( 0.1 ) 0.0 ( 0.1 ) 0.1 ( 0.1 ) 0.0 ( 0.2 ) 0.84ストレス負荷1-負荷後 1.4 ( 0.4 ) 1.5 ( 0.3 ) 1.3 ( 0.2 ) 1.9 ( 0.2 ) 1.8 ( 0.5 ) 0.14 1.0 ( 0.3 ) 1.1 ( 0.2 ) 1.5 ( 0.1 ) 1.7 ( 0.1 ) 2.0 ( 0.4 ) 0.03ストレス負荷2-負荷後 1.6 ( 0.4 ) 1.7 ( 0.3 ) 1.2 ( 0.2 ) 1.5 ( 0.2 ) 2.3 ( 0.5 ) 0.18 1.9 ( 0.3 ) 1.2 ( 0.2 ) 1.2 ( 0.1 ) 1.5 ( 0.1 ) 1.3 ( 0.3 ) 0.09

ストレス変化量(HF)

ストレス負荷前-負荷後 9.0 ( 7.5 ) -8.9 ( 4.7 ) 0.8 ( 3.0 ) 1.1 ( 3.1 ) -0.8 ( 9.6 ) 0.26 -8.3 ( 6.2 ) -0.1 ( 3.8 ) -0.3 ( 2.4 ) -1.0 ( 2.4 ) 4.5 ( 7.2 ) 0.71ストレス負荷1-負荷後 -21.4 ( 9.0 ) -28.5 ( 5.6 ) -18.6 ( 3.5 ) -22.7 ( 3.7 ) -18.2 ( 11.6 ) 0.67 -38.5 ( 7.3 ) -30.5 ( 4.5 ) -21.8 ( 2.8 ) -21.0 ( 2.8 ) -14.6 ( 8.6 ) 0.07ストレス負荷2-負荷後 -21.8 ( 9.4 ) -18.2 ( 5.9 ) -20.2 ( 3.7 ) -20.2 ( 3.8 ) -16.7 ( 12.1 ) 0.99 -36.9 ( 6.4 ) -32.9 ( 4.0 ) -18.5 ( 2.4 ) -20.1 ( 2.5 ) -11.1 ( 7.4 ) 0.001

ストレス変化量(末梢血流量)

ストレス負荷前-負荷後 0.5 ( 7.5 ) -8.2 ( 4.7 ) -8.4 ( 2.9 ) -4.5 ( 3.0 ) 1.4 ( 9.6 ) 0.65 -5.4 ( 7.1 ) 0.9 ( 4.3 ) -10.7 ( 2.7 ) -15.1 ( 2.7 ) -17.0 ( 8.3 ) 0.03ストレス負荷1-負荷後 -36.8 ( 10.7 ) -34.0 ( 6.7 ) -34.7 ( 4.2 ) -13.2 ( 4.3 ) 6.6 ( 13.9 ) <0.001 -40.0 ( 9.3 ) -22.9 ( 5.7 ) -38.0 ( 3.5 ) -41.4 ( 3.6 ) -27.0 ( 10.8 ) 0.07ストレス負荷2-負荷後 -36.4 ( 9.0 ) -28.7 ( 5.6 ) -30.2 ( 3.5 ) -13.4 ( 3.6 ) -1.5 ( 11.6 ) 0.002 -28.2 ( 7.9 ) -22.5 ( 4.8 ) -30.8 ( 3.0 ) -29.5 ( 3.0 ) -16.5 ( 9.2 ) 0.42

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114

1年後の体重の変化率と検査値の変化(1年後血圧、糖、脂質いずれか治療中を除く治療中を除く) N=474

(mg/dl)

(mg/dl)

(mg/dl)

注)空腹時血糖:初年度、1年後ともに食後10時間以上経過している者N=331体重増加群N=164、体重不変・体重4%未満減少群N=206、体重4%以上減少群N=104

一元配置分散分析 *P<0.05 **P<0.01

(%)

1.8  

‐1.5  

‐4.2  ‐6.0 

‐4.0 

‐2.0 

0.0 

2.0 

増加 不変、4%未満減少 4%以上減少

収縮期血圧の変化(mmHg)

**

1.1  

‐1.3  

‐4 .5 ‐6.0 

‐4.0 

‐2.0 

0.0 

2.0 

増加 不変、 4%未満減少 4%以上減少

拡張期血圧の変化

**

2 .4 

‐13.0  

‐49.9 ‐50.0 

‐30.0 

‐10.0 

10.0 

増加 不変、 4%未満減少 4%以上減少

トリグリセライドの変化

‐1.0 

1.0 

3.0 

5.0 

増加 不変、4%未満減少 4%以上減少

HDLコレステロールの変化

0

‐0 .1

‐0 .3‐0.4 

‐0.3 

‐0.2 

‐0.1 

0.0 増加 不変、4%未満減少 4%以上減少

HbA1cの変化1 .7

0.8

‐1.8‐2.0 

‐1.0 

0.0 

1.0 

2.0 

増加 不変、4%未満減少 4%以上減少

空腹時血糖の変化

‐0.20 .5

5.2

**

**

**

**

**

**

**

***

次に、1年後の体重変化が「4%以上減少」「不変または4%未満減少」「増加」の3群に

分け、群間で検査値の変化に差があるかについて検討しました。対象者 511 名の中で1年後

に血圧、血糖、脂質異常のいずれかの治療を受けている者を除いた 474 名を対象に解析した

結果、体重が4%以上減少した者は体重が増加した者と比べて血圧値(収縮期、拡張期とも)、

血中脂質(トリグリセライド、HDL コレステロール)、血糖指標(空腹時血糖、HbA1c)のい

ずれにおいても改善がみられました(図4)。

【考察】特定保健指導の結果、1年後のメタボ関連の検査値、MetS 該当者および MetS+予備

群の判定割合、階層化判定割合(積極的支援・動機づけ支援該当者)、メタボの構成因子の有

所見率、禁煙率の改善がみられ、その効果が示されました。

また、1年後の体重が4%以上減少した者は、そうでない者に比べて検査値が有意に改善

していたことから、同指標は減量目標の目安となることが示唆されました。

図4 1年後の体重の変化率と検査値の変化

図3

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115

第21節 特定保健指導における体重減量者のインタビューによる成功要因の質

的検討

【目的】特定保健指導で体重4%以上の減量に成功した事例を対象としてインタビュー調査を

実施して、減量の成功要因を質的に検討し、量的な検討結果と合わせて今後の保健指導の充

実に役立てることを目的としています。

【方法】当センターでは、厚生労働科学研究「生活習慣病対策における行動変容を促す効果

的な食生活支援の手法に関する研究」(主任研究者:女子栄養大学 武見ゆかり)の一環とし

て、当センターでの指導例を対象に 18 例の減量成功要因を質的検討しました。対象は平成2

0年4~8月に特定保健指導を受けた男性 477 人のうち、支援終了時に体重が 4%以上減量し

た 64 人の中で、インタビュー調査への了解を得た 18 人(動機づけ7人、積極的支援 IT コー

ス1人・検査 IT コース8人・面接レターコース1人・検査レターコース1人)です。

保健師・管理栄養士がインタビュアーとなり 30 分程度の個別インタビューを実施し、面談

直後記録シートと逐語録を作成しました。インタビューは、①「減量に成功した要因は何だ

と本人が思っているか。取り組んでいる時の気持ちとその変化を把握する。」②「減量に対す

る特定保健指導の影響を、プラス面・マイナス面を含めて把握する。」ということを目的に実

施しました。逐語録から成功要因に関係すると思われる文章を抽出し、質的データ分析法を

用い分析しました。

【結果】対象者の特性は平均年齢 48.1 歳、初回平均腹囲 91.6 ㎝、6ヶ月後平均腹囲 84.5 ㎝、

初回平均体重 77.0 ㎏、6ヶ月後平均体重 70.4 歳、体重減少割合-8.42%、初回平均 BMI 26.0

㎏/㎡、6ヶ月後平均 BMI 23.9 ㎏/㎡でした。

個別インタビューの結果、成功要因として以下の5つの点が示唆されました。

①『強い動機があること』:取り組みのきっかけとして特定保健指導の対象になったことなど

を上げていますが、単に体重減量が目的ではなく、何のために減量に取り組むかといった

価値づけ、すなわち「親より先には死ねない」「糖尿病になりたくない」などの言葉が聞か

れ、上位目標のあることが窺えました。

②『生活習慣の改善目標の取り組み方に無理がないこと』:苦しい思いをせず、自分のせ活に

合わせて調整しながらほどほどに取り組むことが継続につながると思われました。

③『減量効果の実感が得られていること』:「身体が軽い」「服のサイズが変わった」など取り

組んだ成果が体感として感じていることは継続を大きく支えていると思われました。

④『取り組みに工夫があること』:「体重をこまめに計る」「歩く量を増やす」など、プランで

設定した目標以外に自分に合った工夫がなされていました。

⑤『家族の協力があること』:「お弁当を作ってもらった」「妻と一緒にウォーキング」など家

族の協力が支えになっていました。

また、インタビューを通して、減量成功者は以下の3つのタイプに分けられることが示唆

されました。

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116

【まとめ】以上のことから、支援者は、単に減量目標を持ってもらうだけでなく、自分の身

体状況が先々どのように変化をし、生活にどのような影響があるか想像してもらうこと、無

理なプラン立てにはならないよう支援すること、効果の上がる工夫を自分の生活の中で考え

てもらうことなどを提案する必要であると考えられました。

また対象者のタイプによって、それぞれに合う支援のあり方に変えることも必要であると

思われました。

質的検討により得られた結果を量的にも妥当かどうかを検討するため、今年度は「特定保

健指導の取組みに対する意識アンケート」を保健指導直後に実施しており、今後、データを

取りまとめて保健指導に役立てたいと考えています。

第22節 喫煙状況と食習慣、運動習慣、睡眠障害との関連性の検討

【目的】喫煙は心血管疾患、がんなどの重要な危険因子としてのみならず、メタボリック・

シンドロームの促進因子でもあることが報告されています。喫煙者がメタボリック・シンド

ロームになりやすい理由はいくつか考えられていますが、そのひとつに、喫煙者の食品摂取

に偏りがみられることや身体活動不足であることが報告されています。喫煙は単独でも大き

な健康リスクですが、他の不健康な生活習慣と結びつくことによって、さらに大きな健康上

のリスクになり得ると考えられます。しかし、喫煙と生活習慣との関連や、禁煙すると生活

習慣の偏りが禁煙後の年数とともに改善するかについて、詳細に検討したものはほとんどあ

◆マイペースで取り組むタイプ

自分のペース守り無理をしないで取り組んでいくタイプで「押し付けられるのはい

や」「無理をしたくない」などの言葉が聞かれました。

支援のあり方としては、健康目標は低くし、目標は少し頑張ればできるものを設定

するなど 無理のないことが重要。うまくいかない場合は、厳しくするのではなく、

目標変更を提案 するなど、柔軟な支援が必要と思われました。

◆目標達成タイプ

決めた目標に向かって、必ずやるという固い意志を持って進むタイプで「決めたこ

とは実行する」「やるべきことはイヤでもやる」などの言葉が聞かれました。

支援のあり方としては、効果の上がる具体的なアドバイスや効果に対する期待感を

高めるような支援が有効であると考えられました。また急激な減量につながらない

よう、取り組みがやり過ぎとならない配慮が必要と思われました。

◆約束やルールを守るタイプ

枠にはめられると実行しなければと思うタイプで「支援メールがくるからやらない

といけない」「枠にはめられてよかった」などの言葉が聞かれました。

支援のあり方は、日々の実行報告を守ろうという力が強いので、きめ細やかな支援

が有効であると考えられました。また支援終了後も継続してもらえるような働きか

けが必要と思われました。

Page 9: 第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子 ...109 第18節 閉経女性の頸動脈の動脈硬化進行に関連する食事因子の検討

117

りません。そこで、喫煙を含む複数の不健康な生活習慣を有する健診受診者への保健指導の

あり方を検討する基礎資料を得るために、喫煙状況と食習慣、運動習慣、睡眠障害との関連

を検討しました。

【方法】当センターの健診を 2009 年度に受診した男性 4,009 人(平均 46.1 歳)と女性 1,620

人(平均 40.4 歳)です。喫煙習慣と各習慣との関連について多重ロジスティック回帰分析を

行いました。

【結果】男性の現在喫煙者は 33.6%、過去喫煙者は 32.6%、非喫煙者は 33.8%であり、女

性では順に 10.9%、8.1%、81.0%でした。

喫煙と生活習慣との関連について図1、2に示しました。まず、喫煙と食習慣、飲酒習慣

との関連については、以下の結果が男女共通してみられました。すなわち、現在喫煙者は、

非喫煙者に比べて砂糖入り飲料を毎日とる、味付けが濃い、醤油・ソースをかける、朝食欠

食、果物・大豆製品・乳製品が少ない、1合/日以上の飲酒という食習慣および飲酒習慣の偏

りがみられました。一方、間食・夜食については毎日とらないことが明らかになりました。

男性の喫煙者でのみ、夕食が遅い、漬物を2回/日以上とる、早食い、魚介類が少ない、麺類

の汁を全部のむ、野菜が少ない、満腹までは食べない傾向がみられました。女性の喫煙者で

は、卵を毎日とらない傾向がみられました。

喫煙と身体活動、睡眠との関連については、男性の喫煙者では、非喫煙者に比べて、運動・

身体活動が少ないものが多く、いびきや睡眠時呼吸停止といった睡眠障害が多くみられまし

た。

男性において、禁煙後の年数別にみた生活習慣との関連について図 3 に示しました。男性

では禁煙すると、食品摂取の偏りや運動不足、多量飲酒が禁煙後の年数とともに改善して、

喫煙しない人に近づくか、それ以上の望ましい方向に変わることがわかりました。

図1 現在喫煙者における各習慣ありの調整オッズ比(非喫煙者を基準)男性

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男性において、禁煙後の年数別にみた生活習慣との関連について図 3 に示しました。男性

では禁煙すると、食品摂取の偏りや運動不足、多量飲酒が禁煙後の年数とともに改善して、

喫煙しない人に近づくか、それ以上の望ましい方向に変わることがわかりました。

【考察】喫煙は、男女ともに食習慣の偏りや飲酒と関連し、男性では運動不足、睡眠障害と

も関連することが明らかになりました。男性では、禁煙によって運動や食習慣にも改善が波

及する可能性が考えられました。現在は禁煙治療を受ければ比較的容易に禁煙することがで

きます。喫煙している人は、まず禁煙をはじめとして生活習慣の改善に取り組むのがよいと

考えます。

図3 現在喫煙および喫煙年数別にみた各習慣ありのオッズ比-男性

図2 現在喫煙者における各習慣ありの調整オッズ比(非喫煙者を基準)女性

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<地域対策>

第23節 特定健診・特定保健指導の効果的な運用に向けての提言-疫学研究と予

防対策の現状からみた考察-

平成20年度に始まった特定健診、特定保健指導制度により、地域住民対象の健診・保健

指導は、実施主体が市町村保健センター等から国保や健保等の医療保険者へと転換され、内

容的には、メタボリックシンドロームの発見と指導に重点が置かれるようになりました。

本制度は、メタボリックシンドロームが日本国民の循環器疾患罹患の危険因子としてどの

程度寄与しているか等の疫学的なエビデンスが不十分なままで開始されたこともあり、腹囲

に基づく層別化の有効性やその基準値の根拠が厳しく問われています。同制度をより効果的

に運用するために、大阪府立健康科学センターが実施してきた疫学研究と予防対策の現状を

整理し、現制度での課題や今後の方向性について提言したいと思います。

1.疫学研究からの考察

厚生労働省は「保健指導への活用を前提としたメタボリックシンドロームの診断・管理の

エビデンス創出のための横断・縦断研究」班(研究代表者:門脇孝)を立ち上げ、わが国に

おける疫学的エビデンスを検討してきました(表1)。大阪府立健康科学センターも分担研究

者として参画し、これまでに実施してきた精度の高い健診や脳卒中・虚血性心疾患の発症調

査のデータを分析してまいりました。

表1.保健指導への活用を前提としたメタボリックシンドロームの診断・管理のエビデンス

創出のための横断・縦断研究

研究代表者 門脇 孝 (東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科 教授)

班員名簿 (平成21年度)門脇 孝 東京大学大学院医学系 (研究代表者)島本 和明 札幌医科大学医学部内科学第二講座清原 裕 九州大学大学院医学研究院環境医学分野大門 真 山形大学医学部内科学第三講座中尾 一和 京都大学大学院医学系研究科臨床病態医科学伊藤 千賀子 グランドタワーメディカルコートライフケアクリニック磯 博康 大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学講座公衆衛生学伊藤 貞嘉 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座齋藤 康 千葉大学野田 光彦 国立国際医療センター糖尿病・代謝症候群診療部岡村 智教 国立循環器病センター予防検診部北村 明彦 大阪府立健康科学センター島袋 充生 琉球大学医学部附属病院第二内科中川 秀昭 金沢医科大学医学部健康増進予防医学(公衆衛生学)斉藤 功 愛媛大学大学院医学系研究科公衆衛生・健康医学分野山田美智子 放射線影響研究所・臨床研究部山田 信博 筑波大学富永 真琴 山形大学医学部器官病態統御学講座山内 敏正 東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科原 一雄 東京大学医学部附属病院医療評価・安全・研修部高本偉碩 東京大学大学院医学系研究科

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全国の男性約 1万 3000 人、女性約 1 万 6000 人を平均 8~9年間追跡調査して、循環器疾患

の発症の危険因子を分析した主な結果は、

1)男女ともウエスト周囲径(腹囲)は循環器疾患発症の独立した危険因子ではありませ

んでした(表2)。循環器疾患の発症には、男女ともに、加齢、低 HDL コレステロール

血症、高血圧、喫煙、糖尿病、高脂血症が有意に関連していました。

2)ウエスト周囲径は循環器疾患発症の独立した危険因子ではなかったものの、ウエスト

周囲径が大きいほど高血圧、脂質異常、高血糖といった危険因子を重複して合併する

危険度(オッズ比)が高いことがわかりました(図1)。

3)ウエスト周囲径が大きくてかる危険因子を2個以上有する者(メタボリックシンドロ

ーム)は、男女ともに循環器疾患の発症を有意に高める(ハザード比が大きい)こと

が示されました(表3)。

4)メタボリックシンドロームを定義するウエスト周囲径の基準は男女とも 75~90cm の範

囲内であれば妥当である、またウエスト周囲径の替わりに BMI を用いてもメタボリッ

クシンドロームの循環器疾患発症のリスクはほぼ同程度であると考えられました(表

4)。

*β偏回帰係数=偏回帰係数×1000

連続量については1SD増加分の変化量を示した

耐糖能低下:空腹時血糖値≧110mg/dlまたは非空腹時血糖値≧140mg/dlまたは薬物療法中

表2.全循環器疾患発症のリスクファクター

-ロジスティック回帰分析-

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5)現行の特定保健指導で用いられている動機づけ支援レベル、積極的支援レベルは、男

女ともに、循環器疾患発症の危険度(ハザード比)が高い群であることが示されまし

たが、同時にウエスト周囲径が基準未満でも、リスク因子が1個以上有する者は、循

環器疾患発症の危険度が高いことがわかりました(表5、6)。

図1.ウエスト周囲径とリスクファクター重積のオッズ比

ウエスト周囲径(cm) リスクファクター:血圧高値、脂質異常、血糖高値

表3.全循環器疾患発症の年齢調整ハザード比

メタボリックシンドロームの

診断における基準値

男性 女性

ハザード比 PAF ハザード比 PAF

ウエスト周囲径

75cm 1.54 15.1 1.64 12.1

80cm 1.57 14.1 1.64 10.4

85cm 1.65 12.1 1.61 7.5

90cm 1.79 8.4 1.47 3.6

BMI 25kg/㎡ 1.65 8.0 1.45 4.6

表4.非メタボリックシンドローム群に対するメタボリックシンドローム群の全循環器疾患発症の年齢調整

ハザード比と PAF

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以上の結果をまとめますと(図2)、内臓脂肪が蓄積する(ウエスト周囲径が大きくなる)

と高血圧、糖尿病、高脂血症といった危険因子を合併しやすくなり、危険因子を合併すれば

メタボリックシンドロームと判定され、特定保健指導の動機づけ支援、積極的支援の対象と

なります。しかしながら、現実には日本人の循環器疾患の危険因子は複数存在し、特に、高

血圧、糖尿病、そして喫煙の影響力が大きいと考えられます。メタボリックシンドロームは

あくまでも危険因子の一つの概念に過ぎないものと考えられます。それゆえ、メタボリック

シンドロームのみでなく、それ以外の人でも何らかの危険因子を有する場合は、循環器疾患

を予防するための適切な対処が必要であるということになります。

情報提供レベル 動機付け支援レベル

積極的支援レベル対照群

ウエスト周囲径

<85cm

BMI<25

+リスク0

ウエスト周囲径

<85cm

BMI<25

+リスク1個

ウエスト周囲径

<85cm

BMI<25

+リスク2個以上

ウエスト周囲径≧85cm+リスク数

1個 or

ウエスト周囲径

<85cm

BMI≧25

+リスク数1-2個

ウエスト周囲径

≧85cm+リスク数

2個以上 or

ウエスト周囲径

<85cm

BMI≧25

+リスク数3個以上

人数 2,048 2,451 1,609 2,189 2,033

発症数 37 86 74 97 83

ハザード比

1.001.66

(1.12-2.46)

2.05

(1.37-3.07)

1.79

(1.21-2.64)

2.83

(1.90-4.22)

表5.全循環器疾患発症の年齢調整ハザード比(男性)

情報提供レベル 動機付け支援レベル

積極的支援レベル対照群

ウエスト周囲径

<90cm

BMI<25

+リスク0

ウエスト周囲径

<90cm

BMI<25

+リスク1個

ウエスト周囲径

<90cm

BMI<25

+リスク2個以上

ウエスト周囲径

≧90cm+リスク数

1個 or

ウエスト周囲径<90cm

BMI≧25

+リスク数1-2個

ウエスト周囲径

≧90cm+リスク数

2個以上 or

ウエスト周囲径<90cm

BMI≧25

+リスク数3個以上

人数 4,938 3,484 1,428 2,012 521

発症数 43 91 53 62 18

ハザード比

1.002.08

(1.43-3.01)

2.61

(1.72-3.95)

2.14

(1.43-3.21)

3.88

(2.22-6.80)

表6.全循環器疾患発症の年齢調整ハザード比(女性)

動機付け支援

レベル

動機付け支援

レベル

積極的支援

レベル

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大阪府立健康科学センターではこれまでに、危険因子の蔓延状況には地域差、職域差があ

ることから、循環器疾患の予防対策は、地域・職域の特徴や課題に応じた形で実施されるの

が望ましいと主張してきました。今回の疫学研究班の成果をふまえ、全国一律の基準でメタ

ボ対策を実施するのではなく、地域・職域の現状分析の結果に基づき、メタボリックシンド

ロームを含めた複数の危険因子の中から重点項目を判断し、その重点因子を的確に発見でき

る健診項目の設定と健診に続く系統的な保健指導や受診勧奨を行うといった柔軟性のある対

策を行うことを提言したいと思います(図3)。

図2.疫学研究成績からの考察-1

図3.疫学研究成績からの考察-2

全国一律の基準で健診・保健指導を実施

地域、職域の現状分析の結果にもとづいた上で、メタボリックシンドロームを含めた複数の危険因子の中から予防の重点項目を決定

↓重点項目を的確に発見できる健診項目の設定とそれに続く保健指導、受診勧奨を実施

↓重点項目の改善度を指標として効果判定

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2.予防対策の現状からの考察

平成20年度の全国の特定健診受診率をみますと、保険者間で大きく差があり、40~59 歳

の年齢層では、男性では、組合健保と共済健保で 70%以上であったのに対し、全国健康保険

協会と国保組合では約 40%、市町村国保は も低く 10~20%の受診率でした(図4)。女性

では、組合健保と共済健保でも 40~50%程度で、全国健康保険協会、国保組合、市町村国保

は 20~30%の受診率でした(図5)。このことは、自営業者や中小企業勤務者、および勤務

者の被扶養者の多くが健診未受診であることを示しています。

図4.特定健診受診率(全国男性、平成 20 年度)

図5.特定健診受診率(全国女性、平成 20 年度)

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特定保健指導実施率についてはさらに低調であり、特定保健指導の対象者全体に対して、

保健指導の実施率はわずか 7.8%と 10 人に 1人も満たない数字でした(表7)。このことは、

メタボリックシンドロームをハイリスク者として重点指導する現行の特定保健指導制度が十

分に機能していないことを意味しています。

こうした中で、私どもが関わっています、循環器疾患予防に先進的に取り組んでいる地域

では、予防対策を地域全体の課題としてとらえ、年齢区分や保険者の種類に関係なく、住民

全体が同じ健診を受けられるように工夫しています。

秋田県井川町では、社会環境の変化に伴い顕在化してきた血圧レベルの再上昇や肥満、糖

尿病の増加などの地域全体に共通する健康問題に対しては、地域ぐるみの予防対策を推進す

る必要があるという認識のもとで、予防対策の要である健診は、町民全員が年齢区分無しで

受けられるよう体制を整備しています(図6、写真)。その結果、町の集団健診受診者数は、

国保加入者よりも社保加入者の方が多く、また、39 歳未満や 75 歳以上の方も受診できてい

ます(表8)。さらに、町民全体が健診を受けるという意識の結果として、国保加入者に限っ

ても、その健診受診率は高いという結果となっています。

表7.特定保健指導の対象者の割合及び特定保健指導実施率(全国、平成 20 年度)

人数 割合・実施率

特定保健指導の対象者 3,942,621 19.8%

特定保健指導の終了者 307,847 7.8%

図6.秋田県井川町における取り組み

人口 5,847 人、世帯数 1,615(内、国保加入 919)(平成 17 年)

厚生労働省「平成20年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況」より作成

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大阪の八尾市南高安地区では、住民自らが成人病予防会という組織を作って、健診や様々

な健康づくり活動を行っています(図7、写真)。この地区での結論も、地域の健康づくり活

動の要である健診は、住民全員が保険者の種類に関係なく受けられる形で継続したいという

ものでした。住民の願いを市も十分に理解し協力しながら、保険者に関係なく集団健診を受

けられる体制を構築しています。その結果、国保加入者、後期高齢者、社会保険加入者、30

歳代、被扶養者など多くの住民の方が、同じ集団健診を受けることが実現できています(表

9)。

表8.年齢・性別健診受診者数 (秋田県井川町、平成20年度、6月分)

年齢 男女別人口 国保加入者数 (受診者数)

国保受診率国保 社保 総数申込み書配布

数 (特定対象者)

20~39歳男 314 55 13 36 49 23.6

女 313 40 12 68 80 30.0

40~44歳男 143 29 7 12 19 24.1

女 148 15 6 29 35 40.0

45~49歳男 157 33 6 24 30 18.2

女 169 22 5 33 38 22.7

50~54歳男 193 42 13 22 35 31.0

女 187 30 7 52 59 23.3

55~59歳男 257 72 19 54 73 26.4

女 253 69 38 100 138 55.1

60~64歳男 198 83 46 45 91 55.4

女 208 90 59 65 124 65.6

65~69歳男 174 106 62 37 99 58.5

女 214 121 81 70 151 66.9

70~74歳男 170 117 69 34 103 59.0

女 223 123 79 62 141 64.2

75歳以上男 299 後期対象 126

女 504 後期対象 160

40~74歳

男 1905 482 222 228 450 46.1

女 2219 470 275 411 686 58.5

計 4124 952 497 639 1136 52.2

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127

健診受診率、保健指導実施率の問題のみならず、特定健診、特定保健指導制度の発足後に

見えてきた課題は多いと思われます。わが国は、国民皆保険制度のもとで、結核予防対策か

ら脳卒中予防対策に至るまで、地域全体に働きかける集団的な生活習慣病予防対策のシステ

ムを築きあげてきました。さらに、住民グループが主体となって集団健診や健康づくり活動

などが積極的に展開されている地域も出来てきました。このようにして培われてきた日本式

の予防対策のシステムを、本制度は「分割」したと考えられます。すなわち、健診は、保険

図7.八尾市南高安地区成人病予防会における取り組み

地区人口約 2 万人、予防会会員約 5000 人

・循環器健診 1月下旬(集団)

・結果説明会 3月(2日間)

・OB会総会 6月

・盆踊り大会 8月

・健康相談(骨密度測定)9月

・予防会総会 12月

住民のボランティアが主体的に健康づくり活動を継続

・会報紙発行 年3回

・歩く会 11月

・OB会料理講習会 年1回

・健康科学センターのイベント

参加 年数回

・生活習慣病の勉強会 年数回

(予防会の結論)地域の健康づくり活動の要である健診は、住民全員が保険者

の種類に関係なく受けられる形で継続したい

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者ごとに内容、期間、受診機関が異なりますし、保健指導は、メタボとそれ以外に分割され、

メタボの人は危険因子の集積度によって指導内容が分けられます。このことで、住民に「国

保」と「国保以外」といったフラグがたち、地域の予防対策の中のハイリスクアプローチと

ポピュレーションアプローチの一体的な運用に不連続性をもたらすようになったと考えられ

ます。さらには、がん予防対策、介護予防対策との間でも不連続性をもたらし、がん検診の

受診率や生活機能評価の実施率の減少にもつながっています。

こうした健康管理システムの変化が続くと、健康づくりに関わる住民組織や住民の意識自

体も変化するのではないかと懸念されます。日本人に適した地域ぐるみの生活習慣病予防対

策といった要素が薄れ、個人個人が自己責任で健康管理を行う社会となれば、国民の健康格

差はさらに拡大し、健康管理が不十分な層からの循環器疾患の多発とそれに続く医療制度、

介護制度への負担の増加につながると思われます。特定健診・特定保健指導の評価時期とな

る平成24年度に向けて、予防医学に携わる関係諸機関が、住民の視点にたった予防対策の

フレームワークを改めて設計していく必要があると考えられます。

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第24節 特定健診導入期の地域における循環器疾患予防対策の展開(第 3 報)

-大阪府八尾市 M 地区-

八尾市 M 地区(人口約 23000 人)は昭和52年に住民主体の健診を実施するべく、自治会

や婦人会などが中心となって成人病予防会(予防会)を結成し、健康科学センターや八尾市、

医師会、保健所などと共に活動を行ってきました。しかし、平成20年度より実施されてい

る特定健診・保健指導は保険者が実施主体となることから、保険者が混然となってしまう地

域における集団検診は、市町村が実施する場合、国保以外の保険加入者の受診時に費用面の

問題が生じることになることから、その実施が困難となってしまう場合が想定されました。

そこで、我々は予防会や市と協議を行ない、①健診の受診料金は、予防会・八尾市・健康科

学センターの3者での話し合いの結果、65 歳以上は加入している保険に関わりなく一律予防

会会費の 1,000 円としました。65歳未満については、自己負担金と 1,000 円の合計金額とし、

高額を 2,000 円に設定しました。②健診受診希望者の申し込み受け付けは予防会と八尾市

が行いましたが、受診券の配布は従来予防会で行っていたものを、八尾市からの郵送に変更

しました。その結果、旧制度下の平成19年度の健診受診者は申込者 2,778 人、受診者は 2,421

人でしたが、平成20年度では申込者 2,038 人、受診者は 1,814 人でした。平成22年度の

特定健診を今年1月から2月にかけて実施したのでそのことについて報告します。[対象・方

法]予防会(会員数約 5,100 人)の主たる構成メンバーである予防会役員および保健推進課

と受診者減に対応するための問題点・解決方法を検討し、健診を実施しました。①国保など

からの受診券が送付される時期に会報誌を発行し、受診券の保管を広報しました。②特定健

診の項目に心電図や血液検査項目を付加し、充実した検査内容であることの告知を実施しま

した。③平成17~19年度に1度でも受診し、平成20~21年度に健診を受診しなかっ

た 1,241 人に受診勧奨はがきを送付しました。

【結果・考察】平成21年度は健診受診者数は 1,965 人であり、平成20年度より 151 人受

診者が増加していました。受診者増については、①制度がある程度浸透し、受診券を保管し

ていた人が増加したこと、②受診券を発行する保険者が増加したこと、③他施設で特定健診

を受診した結果、項目が少ないことがわかったことなどが影響していることが考えられまし

た。しかし平成 22 年度の健診受診者数は 1,973 人であり、微増に止まりました。受診勧奨者

対象者(はがきを送付した 1,241 人)で受診した人は 153 人でした。ただ、今回は受診券を

使用した人が増加していることから、受診券の発行が比較的きちんと行われるようになった

と思われます。来年度に向けては、希望者には直接健康情報など送付することとし、さらな

る受診者増につなげていきたいと考えています。

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<血液精度管理>

第25節 特定健診の検査項目に総コレステロールの追加を期待する

【目的】特定健診では、総コレステロールが廃止、LDL-コレステロールが新規追加された。

日米の標準化成績(A,B)から、この判断を検証します。

【方法】HDL-コレステロールと LDL-コレステロールの直接法は、わが国の7社の試薬メーカ

ーが独自に開発し、世界市場に導入されて 10 年以上が経過しました。わが国では、(A) 大阪

府立健康科学センターが試薬メーカーを対象に2年毎に CDC/CRMLN の脂質標準化プログラム

による標準化(1996~2008 年)を実施し、また、臨床検査室を対象とした標準化(2006~2008

年)も実施しました。米国では、(B) NIH と CDC が試薬メーカーを対象に日米リポ蛋白標準化

検討プロジェクトによる標準化(2004~2010 年)を実施しました。

【結果】(A) 大阪府立健康科学センターの標準化成績では、試薬メーカーの標準化達成率は、

総コレステロールで 100%、HDL-コレステロールでは 98%であるのに対して、LDL-コレステ

ロールは 67%に留まります。臨床検査室を対象とした LDL-コレステロールの標準化達成率

は 70.4%でした。(B) 日米リポ蛋白標準化検討プロジェクトでは、二つの論文が得られまし

た。第一に、健常者では HDL-コレステロールで8社(米国から1社が参加)中6社が、LDL-コ

レステロールでは8社中5社が判定基準を満たしたが、脂質異常症や循環器疾患患者では

HDL-コレステロールも LDL-コレステロールも、すべての直接法は判定基準を満しませんでし

た。第二に、高トリグリセライド検体以外では、LDL-コレステロールの直接法は Friedewald

の計算式に勝る結果は得られず、non-HDL-C で評価するのが望ましいという結論でした。日

米の標準化成績に相互矛盾は認められません。日本動脈硬化学会は「特定健診については、

総コレステロールを測定項目に加えることを強く希望する」声明(2010 年 4 月 26 日)を発表

しました。

【考察】(1) 特定健診に総コレステロールを廃止して、LDL-コレステロールを導入したこと

は、早すぎました。LDL-コレステロールの直接法の試薬は完成途上にあり、参考値として限

定使用が望ましい。正確度の改良が望まれます。(2) 特定健診に LDL-コレステロールよりも

信頼性の高い総コレステロールの追加を期待します。(3) 日本動脈硬化学会の声明を支持し

ます。

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第26節 同位体希釈/ガスクロマトグラフ/質量分析計による総コレステロール

の精密分析法の確立

【目的】次世代の基準分析法として、同位体希釈/ガスクロマトグラフ/質量分析計による総

コレステロールの精密分析法を確立します。

【方法】濃度未知検体に、内部標準物質としてコレステロールの同位体である 3,4-

13C2-cholesterol を添加し、加水分解後、トリメチルシリル誘導体に導く。その後、磁場型

質量分析計(日本電子 GC mateII)により、濃度未知検体の質量電荷比 m/z 368.4 と内部標

準物質の質量電荷比 m/z 370.4 の両フラグメント・イオンを検出し、質量電荷比の差異から

検量線を引き、コレステロールの正確な濃度を求めます。測定精度を把握するために、CDC

由来の 3 種類の管理血清(MQ, Q27, Q28)と NIST 由来の標準血清 SRM1951b を測定しました。

【結果】精密度(ばらつきの程度)は、日内変動が 0.08%--1.57%、日差変動が 0.20%--0.51%

でした。CDC と NIST で確立された目標値と比較した場合、正確度(正確さの指標)は、CDC

に対して+0.39%、NIST に対して+0.03%を示しました。相関係数は、0.9998 でした。

【考察】以上の成績から、総コレステロールの精密基準分析法としての精度は十分と考えら

れます。今後は、HDL コレステロールと LDL コレステロールへの応用を検討します。

【文献】 S.H. Edwards, S.D. Pyatt, S.L. Stribling, R. Washburn, M.M. Kimberly, G.L.

Myers. Gas chromatography-isotope dilution mass spectrometry method for multi-level

serum cholesterol analysis. Clin Chem 2007; 53(6S), A43 [Abstract]

【その他】AACC へのポスター発表の結果、本学会のリポ蛋白分析に関する部門賞(AACC

Division Award for Excellence in Research) を受賞しました。