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B2B のデータ活用 [入門編] 販売データ活用の全体像 販売データの利用はどのように始まり、 どのように進化してきたか ――エピソードと事例でその全体像を探る [実践編1] B2B 営業グループのマネージャになったら 目標達成のためにしなくてはならないことを整理してみよう 「どんな時にどんなデータを使うのか」が見えてくる ――戦略立案から部下指導まで、営業マネージャのグループ運営レシピ [解説編] 各種分析手法の考え方と活用法 部員の誰もが納得できる「データの見せ方」 「何を知るために使う」、「どこを見て判断するか」がわかる ――「直感的な分析」を支える集計表とグラフ・チャートの解説集 [実践編2] スタッフ部門のための BB データ活用

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B2B のデータ活用

[入門編] 販売データ活用の全体像

販売データの利用はどのように始まり、 どのように進化してきたか

――エピソードと事例でその全体像を探る

[実践編1] B2B 営業グループのマネージャになったら

目標達成のためにしなくてはならないことを整理してみよう

「どんな時にどんなデータを使うのか」が見えてくる

――戦略立案から部下指導まで、営業マネージャのグループ運営レシピ

[解説編] 各種分析手法の考え方と活用法

部員の誰もが納得できる「データの見せ方」

「何を知るために使う」、「どこを見て判断するか」がわかる

――「直感的な分析」を支える集計表とグラフ・チャートの解説集

[実践編2] スタッフ部門のための B2B データ活用

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[実践編1] B2B 営業グループのマネージャになったら

1. 本編のねらい

[入門編]では、販売データの分析手法の変遷と、B2B ビジネスにおけるデータと

の付き合い方について述べてきました。

しかしながら、[入門編 販売データ活用の全体像]の「まえがき」にも述べた、

過去の多くの BI やデータ活用の失敗事例に対する「答え」としては、まだ不十

分なのです。

それは、端的に言えば次の問いに対する答えがまだ述べられていないからです。

「個々のグラフの意味や役割は理解できる。ただ自分で集計表やグラフから問題

点を抽出しようとしても、何が『取り上げるべき問題』なのかよくわからない。

だからチームをどうリードしてよいか迷ってしまう」

この言葉はある営業マネージャから発せられたものですが、「データ活用失敗へ

の入口」ともいうべき言葉です。

分析手法とツールの操作を学び、データの集計や見える化ができても、この課題

を解くには、さらにいくつもの要素が必要になるのです。そしてその中には、ユ

ーザが属する業界や市場に固有な要素も含まれてきます。そのため、一般的な議

論としてこの課題を論じることはなかなか難しく、あまり取り上げられないのが

実情のようです。

しかしそれを言っていては、壁は乗り越えられません。

そこで[実践編1]では、B2B 企業の営業グループマネージャのなすべき役割と仕

事を整理しながら、マネージャの方々との会話でよく聞かれる課題や悩みについ

て、解決の糸口を探っていきたいと思います。

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本編を書くきっかけは、[入門編 販売データ活用の全体像]を読んだ何人かの営

業マネージャから、「もっと詳しく、できれば 0 から教えてほしい」と言われて

いたことです。

彼らは新しく営業グループのマネージャになった人たちで、「営業チームの運営、

とくに目標管理と部下指導を効果的に進めるためにデータを生かしたい」と考え

ているようでした。

そこでここからは、本当に「ゼロ」から考えてみたいと思います。

「ゼロから」というのは、まず「B2B 営業チームはどうあるべきか」というとこ

ろから始めるということです。

その上で、このチームを目指していくために、「どんな戦略を立てて」、「チーム

はどのように行動して」、「マネージャはチームをどうリードしていくのか」とい

うことを考えていきます。

この中では、戦略立案の考え方や、課題発見と解決のためにチームの知恵をどう

引き出すのかなど、先輩マネージャの事例も交えて、具体例とともに述べていき

ます。

そしてこの議論を進めていくと、いろいろな場面で現在の販売状況を確認し、分

析する必要が生じますので、都度それぞれのシーンにふさわしいデータの利用法

を織り込んでいきたいと思います。

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2. [実践編1]のアウトライン

本編では、営業チームの運営について、その考え方と実施方法を詳しく述べ

ていきます。

マネージャには多くの仕事が要求されますが、その一つ一つを取り上げて、

現場に取り入れやすい形で説明します。

この項では

B2B 営業チームのマネージャになったら、

チーム運営全般に関わる知識を整理・補強しましょう。

その実践を通して、知識を「スキル」に高めましょう。

直感的なデータ分析が、それを支援します。

初に、全体を通しての基本的な考え方を確認します。

次にマネージャの仕事の種類を列挙し、ブラックボックス

を作らないように進めるための、説明手順を示します。

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基本的な考え方

① 対象とするビジネス形態として、「企業に対する継続的な取引を行うビジ

ネス」を考えます

「メーカーに部品・材料を販売する商社」や「小売店などへの卸売

業」など

② 営業マネージャのチーム運営の目標を、「注文をいただける営業チームに

育てること」としています

現在はネットを利用した B2B マーケティングが盛んになっており、

メーカーも製品に関わる総合的な情報の発信を強化しています。し

かしメーカーはどの代理店から売れてもハッピーですが、もし当社

が代理店の1つである場合は、当社から売れなくては意味がありま

せん。したがってこの目標は、「顧客側から見て、注文を出すだけの

価値がある営業チームを育てる」ことにあります。

③ 戦略的視点で考え、行動しましょう

「それは当社の強みなのか、弱みなのか」をいつも意識する。

「この商品または顧客に対して、当社は強いのか、あるいは弱いの

か」によって、施策は大きく違ってきます。

「守りに集中しながら、反転・攻勢のための布石を打ち、そして攻

勢 にチャレンジする」という戦略のステップを応用する。

これは「企業再建という、絶対勝たなければならない経営」に使わ

れた戦略であり、各ステップの考え方がたいへんわかりやすいので、

これを個々の顧客や商品に対しても応用していけば、部下の指導や

プレゼンテーションも、非常に説得力のあるものになります。

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営業マネージャの仕事内容

「営業マネージャの仕事」には、一般的に次の項目があげられます。

そして、この内の「① 戦略立案」はさらに次のように細分化されます。

このほかに、チーム運営上マネージャが悩むことが多いという、3 つの課題

があります。

これらの問題は、戦略立案や部員の指導など、様々な場面で出てくるので、

マネージャとしては何らかの「答え」を用意しておく必要があります。

以上述べたことから、今後の説明は次ページの順序で展開していきます。

営業マネージャの仕事 ① 担当チームの営業戦略の立案 ② 目標管理 ③ 部下の育成 ④ 重要顧客の維持・管理 ⑤ 商談の見込み管理と、売上目標と見込みとの差額への対応

営業戦略の立案

a. 目標設定 ― 会社からの目標値をチーム内の目標値に配分

b. 戦い方 ― 「強み・弱み」の分析に基づく攻守の選択

c. 武器 ― 商品知識と提案力、営業スキルの強化

d. 援軍 ― 社内サポート部門や仕入先との連携

e. 作戦 ― 情報収集とチーム内共有、知恵の出し合い

f. 検証 ― 「成功/失敗」の検証ポイントの設定

チーム運営上の疑問と悩み

A) 「売れないのは価格が原因」という問題には、どう対応すべきか

B) 「強みと弱み」の分析は、実際にはどのように行うのか

C) 「受注販売」の傾向が強い営業チームの目標設定をどうするか

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今後の説明手順

(1) チーム運営上の疑問と悩みの解決

いろいろな場面で出てくる疑問・悩みの答えを先に考えておきます。

(2) 営業戦略の立案

個々の戦略項目が適切に設定されると、チームの目標管理や部下指導がと

ても考えやすくなります。本文では重要顧客 1 社を例にとり、戦略項目すべて

について、マネージャと担当者が検討する過程を具体的に説明します。

(3) 営業マネージャの仕事

この中の①については前(2)項で触れているので、ここでは②~⑤を 1 つにま

とめて、「グループミーティングの効果的な進め方」として述べていきます。

というのも、部員の持つ情報と知恵を動員しながら課題発見と解決を図るミー

ティングの場こそが、これらのテーマに最もふさわしいと考えるからです。

A) 「売れないのは価格が原因」という問題には、どう対応すべきか

B) 「強みと弱み」の分析は、実際にはどのように行うのか

C) 「受注販売」の傾向が強い営業チームの目標設定をどうするか

a. 目標設定 ― 会社からの目標値をチーム内の目標値に配分

b. 戦い方 ― 「強み・弱み」の分析に基づく攻守の選択

c. 武器 ― 商品知識と提案力、営業スキルの強化

d. 援軍 ― 社内サポート部門や仕入先との連携

e. 作戦 ― 情報収集とチーム内共有、知恵の出し合い

f. 検証 ― 「成功/失敗」の検証ポイントの設定

① 担当チームの営業戦略の立案 ② 目標管理 ③ 部下の育成 ④ 重要顧客の維持・管理 ⑤ 商談の見込み管理と、

売上目標と見込みとの差額への対応

②~⑤を「グルー

プミーティングの

効果的な進め方」

の中で説明する

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3. チーム運営上の疑問と悩みの解決

3-1「売れないのは価格が原因」という問題には、どう対応すべきか

販売をしている以上、価格の問題は常に付きまとうもので、あるマネージャは

「みんなの言うことを聞いていると『どこよりも良いものをどこよりも安く』

と聞こえてくる」と言っていました。もちろんそんなことができるはずもない

ことは、営業部員も顧客もわかっているはずです。

では、この問題にはどのように取り組んでいったらよいでしょうか。

価格政策自体は営業上の重要な施策であり、時には価格で真っ向勝負をしなけ

ればならない時もあります。ただ、顧客がその商品を購入する基準は価格のほ

かにもあり、それは「その商品(群)がライフサイクルのどこに位置づけされ

るか」によって変わってくるのです。したがってマネージャは、その商品がど

の局面にあるのかを判断した上で、みんなが共通の認識に立って、価格政策を

含む対策全体を議論できるように、チームをリードしていただきたいのです。

以上のことを踏まえて、ここでは次の流れに沿って考えていきたいと思います。

① 「顧客が購入を決定する基準」を「コトラーの法則」に照らして確認する

② 「商品のライフサイクル」と各局面の特徴、および顧客の購入意思決定に

影響する要素との関連を整理する

③ 施策を検討する商品が現在どの局面にあるかを調べる手順と、その時に利

用する実績グラフを紹介

④ 価格対策を含む顧客対応策を考える

⑤ まとめ

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① コトラーの法則

フィリップ・コトラー(1931 年~)はアメリカの経営学者で、現代マー

ケティングの第一人者といわれています

その法則は「顧客が購入を決める際は、商品に対する『純顧客価値』を基

準にする」というもので、純顧客価値は次の式で表わします。

純顧客価値=総顧客価値-総顧客コスト

したがって営業活動に当たっては、この純顧客価値を大きくすることが要

求されます。

それでは上のどの項目に着目して、純顧客価値を大きくすればよいのでし

ょうか。それを考えるにあたっては、市場における商品の位置づけをよく

把握しておくことが大事ですので、まず「商品のライフサイクルと、各局

面の特徴」を確認しておきましょう。

総顧客価値(意思決定のプラス要因) +どれくらいその商品がほしいか 製品価値

性能・信頼性・デザイン・希少価値(在庫したい)

+当社のサポート・サービスへの信頼 サービス価値

+当社営業に対する信頼・好意 従業員価値

+当社(ブランド)全体への信頼・好意 イメージ価値

総顧客コスト(意思決定のマイナス要因) -価格に対して評価できるか(安いか) 金銭的コスト

-納期、再販しやすさ、旧商品の切替容易か 時間的コスト

-購入手続き容易か、商品理解は易しいか エネルギーコスト

-当社と取引することへの不安(特に新規取引時) 心理的コスト

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② 商品のライフサイクルと、各局面の特徴

この図は、商品が市場に供給されてからの売上の変化を示したものです。そ

して各期間のビジネスの特徴は次のようになります。

導入期

商品が市場に投入された 初の期間

価格は一般に高めに設定される

顧客はまだその製品の機能や利用するメリットをよく知らないの

で、営業活動は「顧客にこの 2 点を伝える努力をする」ことがポイ

ントになる

製品の機能や利便性を顧客に十分に伝えた上で、顧客が製品価格を

妥当と思うかどうかをリサーチする

すでに同種商品でシェアを確保しているライバルが存在していて、

そのライバルに対して「 初から低価格で勝負」を仕掛ける場合は、

「 後まで真っ向勝負」の覚悟が必要になり、大きなコストがかか

る(これは主に大企業の戦略→「成熟期」の項参照)

成長期

商品の認知が進み、売上が伸びてくる期間(普及需要の期間)

価格は出荷量に応じて徐々に下がる傾向

営業活動は「シェア拡大」のための活動

状況を見ていたライバルの参入が始まる

期間

売上

導入期 成長期 成熟期 衰退期

商品のライフサイクル

注)

左の図は、市場投入後

順調に売上を伸ばし

て「成功」した商品の

例である。

成長期の途中で競合

品に負けるものや、成

長もせずに消えてい

くものもある

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成熟期

商品の機能・利便性の認知が十分に進み、普及需要も一段落して、「選

択需要」の市場になる

価格競争が激化して、「安さは当たり前」の上でのサービス合戦に

なる

商品のモデルチェンジが繰り返される(付加機能やデザイン)

大手企業が力ずくで参入してくる

営業活動は「価格」を含む総力戦となり、「価格で真っ向勝負する」

のか、「価格以外の付加価値で競う」のかという選択が迫られる

衰退期

次世代商品の出現とともに、商品寿命が終わりに近づいてくる

需要の中心は、企業の既存設備の増設や保守のための需要へと移っ

てくる

メーカーの在庫は減り、価格は少し上昇する

営業活動は次期商品に重きが置かれるようになり、現商品は「在庫

処理」に進むか、「なりゆきまかせ」になる

以上のことから、コトラーの言う「純顧客価値」を高めるための営業活動に

は、局面ごとに次のような取り組みが望まれるのです。

導入期と成長期は

商品の機能、利便性、サポート体制など、全体的な「使い勝手」を

顧客にわからせること

成熟期以降は

「価格+付加価値」の競争をしながら、「後継商品」の提案など「次

の商品」を育てること

次項では、当社の販売データを使ってどのように分析するかを考えます。

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③ 商品ごとの市場での位置づけを確認する(ここでは「テレビ」を例に解説)

商品の販売価格を下げるべきかどうかは、以下の手順で検討していきます。

近の販売状況の確認

その商品を含むグループ(テレビなら売れ筋テレビ全品種)につい

て、全社合計、当チーム合計、顧客別レベルで販売動向を調べる(調

べ方は「グラフの利用例」の項で解説)

仕入先や営業部員からの情報も合わせて、商品の市場での位置づけ

を判定する

ディスカッションの例

テーマ: テレビ「TV57VE」の動向調査

資料: 部員が持つ情報と仕入先からの情報

次項に紹介するグラフ類

(PC 画面で見るよりも、印刷して各自自由に比較できる

ようにしたほうが効果的のようです)

方法: 部員によるフリーディスカッションの後、まとめる

討議内容は白板などに記録してみんなで共有する

ポイント:

TV57VE の全社・自部署・顧客別実績推移はどうか

(実績の分析例は次項の「グラフの利用例」に記載)

TV57VE の、他の製品と比べた強み・弱みは何か

(強み・弱み分析の方法は 3-2 項に記載)

ライバルの影響は? 1 番の強敵は? その理由

新製品・後継品の影響はあるか

新製品・後継品はどんな点が勝っているのか

今後も売れ続けるのか、後継品に変わるのか

発注を断られる理由は価格以外にあったか

まとめ:

TV57VE は「強者」として攻めるべきか、弱者として

守るべきか。攻めるなら価格政策も検討。守るなら

顧客にどんな「価値」を提供するか

TV57VE に今 も求められているサービスは何か

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グラフの利用例(グラフのしくみや意味は別冊「解説編」で詳述)

初に、テレビ「TV57VE」の当チーム合計の販売動向を調べる。

そのために、売れ筋テレビ各製品の実績推移をグラフ化し、その中での

「TV57VE」の位置づけを判定する(下図)

この 2つのグラフからわかることは、「『TV57VE』はテレビの中では当チ

ームの稼ぎ頭であり、今後も売れ続けると期待できる」ということと、

「売れ筋商品群とは言いながら、その中に『TV57VE』に続く商品が育っ

ていない」ということである。

TV57VE

TV57VE

売れ筋テレビの売上マップ

年間累計売上

額 (縦軸)と累

計利益額で各

商品を配置。横

軸に近いほど

高利益率

売れ筋テレビの売上累計推移

当チームの今

期と前期の実

績を売上金額

累計グラフに

したもの 他の テレビ

他の テレビ

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したがって当チームにとって「TV57VE」は、テレビ分野では も重要な

商品で、今後も維持・拡大しなければならない商品ということになる。

そこで「TV57VE」の今後の対応を考えるために、次の検討を行う。

同じグラフを「当社合計」で作り、チーム合計と比較する。

全社的な販売傾向と比較して、当チームだけの問題があるか。

もし「他のテレビ」が当チームだけ売れていない場合は、担当

顧客層の性格なのか、当チームの販売方法が悪いのかをまず確

認し、問題があれば先に解決しておかなければならない。

収集情報から、「TV57VE」の市場での競争の局面を判断する。

同機種を扱うライバル社の動きや、他社競合製品の動向から、

今後の競争状況(特に価格競争激化の可能性)を予想する。

「TV57VE」のメーカーから、後継機種投入を含む「今後のテレビ

のラインナップ戦略」の情報を入手して、「TV57VE」の後継機の

計画がある場合は、「新旧切替時期」までの「TV57VE」の販売維

持と、後継機切替を含む施策を考える必要がある。

「TV57VE」について、直近 1年間の合計売上で顧客別実績の ABC

チャートを作成し、重要顧客にきちんと売れているかを確認する。

予想よりも下回っていると思われる顧客は、次項の方法で年間推

移を確認する

テレビ TV57VE の顧客別年間売上

当チーム担当

顧客の直近1年

間の売上実績

ABC チャート

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下記グラフにより、実績上位顧客から順に 2年間の累計売上の推

移を調べて、落ち込みの大きい顧客がないかをチェックし、価格

を含む拡販策検討の対象顧客を選別する。

「TV57VE」の平均販売単価の推移を調べて、販売価格検討の参考

資料にする

発注方法など、さらに仕入れ値を下げる方法が考えられれば、より強い商品になる。

テレビ TV57VE の平均販売単価推移

TV57VE トップ顧客の売上累計推移

当チームの月ご

との平均販売単

価グラフ

A は利益率改善

のため販売単価

を上げたもの。

B は原単価(仕

入単価)が下が

ったときに売単

価をあまり下げ

ずに利益を確保

している。

当チーム 上

位顧客の売上

実績累計グラ

フ。以下上位順

に、顧客ごとの

推移を点検す

A B

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グラフによる分析の留意事項

前項の分析を行う際の留意事項をまとめると、次のようになる

単一商品の分析をする場合でも、前項の例のように類似商品を含め

た売上マップを利用すると、「強い商品」、「弱い商品」、「後継品」

への意識を高める効果があり、継続的な施策の発想を助ける。

分析に当たってはミーティングを活用し、当社が扱っていない競合

製品の情報を各自持ち寄って、競争状況を議論することが望ましい。

その商品は「強いのか、弱いのか」、「攻めるべきか、守るべきか」

の認識は、部員みんなの納得が得られるようにリードする。

競合状況も考慮して、今後も売れ続ける商品かを考えるように部員

を指導する

「守るための価格政策」が必要になりそうな場合は、同時に「育て

る後継商品」の候補を決めて、その拡売策も一緒に検討する

価格対応以外の施策がないか常に意識する

④ 価格対策を含む顧客対応策を決める

価格を下げるかどうかの検討

価格を下げた場合の数量の伸びと、合計利益の変化を予測する

仕入価格を下げる方法あるか

価格を下げた分のマイナス分をどう補てんするか

今後の販売価格を決める(全体、あるいは顧客別対応)

ライバルが合わせて来たらどうするかを検討しておく

価格変更後のライバルの動きをチェックすることを確認する

次期重点商品(後継品)を選定

営業方法の工夫を話し合う

数量割引を行うか

次期重点商品の紹介・認知拡大を図る

店頭卸の場合は、機能・デザイン・操作性の良い上位商品、または

後継機を並べて、エンドユーザが直接比較体感できるような展示方

法を勧めていく

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部品・材料の卸の場合は、今後それに代わり得る部材 (生産品の機

能が上がる、コストが下がる、製造効率が向上)があるかどうかを

リサーチする。

⑤ まとめ

営業グループのミーティングにおいては、部員の多くが関心を持つ「価格」

のテーマについて、マネージャが上手にリードすることができれば、部下指

導を効果的に進めることができるようです。

特定の商品それだけではなく、類似あるいは関連商品や、後継品を含め

た全体像を見ながら、「強み・弱み(つまり攻めるのか守るのか)」の判

定のもとに、当面の対応と今後への布石を考える習慣をチームに植えつ

けましょう。

その判定を、広い視野で、かつ戦略的な目で行えるように、当社の実績

資料を活用しましょう。

後にマネージャ諸氏から聞いた部下指導へのコメントも紹介しておきま

す。

選択需要の段階にある商品は価格の競合は避けて通れないが、その時に

はできるだけ「次に来るであろう『ちょっと良い商品』」も一緒に紹介

して、店頭販売の卸先には両者を並べて展示してもらうように指導して

いる。

価格の問題で苦労している部員には、自分が同行して解決できるような

案がない限りは価格対応するしかない。過去に「それを売るのが営業だ」

と言って失敗したことがある。

スーパーでビールを買って「家飲み」すれば一番安く飲めるのに、なぜ

クラブの高いビールを飲みたいのか ―。これを時々みんなと話し合う

ようにしている。

担当者一人での解決が難しそうな場合は、先輩部員、仕入先の担当者、

および商品に詳しい技術者との同行営業などのセッティングを手伝う

ようにしている。

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以上、営業活動では避けることのできない価格の問題について述べてきました

が、この問題については「顧客ごと、案件ごとの個別対応」を中心に考えるべ

きでしょう。

そして営業チームとしては、コトラーの言う「価格以外の価値」でも武装でき

るように、マネージャがリードし、育成していく必要があります。これについ

ては次の 3-2 項でも詳しく述べていきます。

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3-2「強みと弱み」の分析は、実際にはどのように行うのか

ビジネスの競争について論じるときに、「自社の強みと弱みを知る」というこ

とがよく言われますが、「強み」、「弱み」とは具体的にどういうことをいうの

でしょうか。そしてそれはどのようにして見つけるのでしょうか。

実はこの質問を受けることはとても多いのです。

そこでこの項では、「強み」と「弱み」について詳しく述べることにします。

初に注意すべきことは、「強み・弱み」は単なる「特徴」ではないというこ

とです。

あくまでライバルに対しての、競争の優位性の度合いのことを指します。また

当然のことながら、市場や顧客のニーズに合致するものでなければ意味があり

ません。

したがって、この「強み・弱みを知る」ということは、ビジネス戦略を考える

ときの出発点になるのです。

さて、「強み」と「弱み」を探す。何か難しそうに感じますね?

考え方を簡単にするために、「強み」と「弱み」に分けて話を進めましょう。

この「強み・弱み」を意識する習慣を営業チーム内に浸透させるこ

とができれば、戦略立案はもとより、不振原因の追跡や拡売策の検

討に大いに役立つはずです。

さらには営業部員が、ライバル社を意識しつつ自らの営業活動を振

り返るときのチェックリスト、また商談の際に何をアピールするべ

きかを検討する材料としても活用できるものです。

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・「強み」の見つけ方

前に営業チームの目標として、「顧客から注文をいただけるチームになる」

ということを述べました。

であれば、当社からの売上や利益の大きい商品や顧客を抜き出して、「なぜ

買っていただいているのだろう?」と理由を考えれば、今後の営業のヒント

になる「強み」が見えてくるのではありませんか?

商品が良いから? 安いから? いつも在庫があるから? 当社の信

用? 担当営業部員への信頼? サポートが良い? …

いろいろ考えつくでしょう。

今まで取引が続いている以上、その理由の中に当社の「強み」がないわけは

ないのですから。

このようにして、当社ビジネスへの貢献度が大きい、または伸びている商品

や顧客に対して、それぞれの「売れている理由」を考えて整理していくこと

により、「強み」が浮かび上がってくるのです。

そして、この作業を効率よく行うために思い出していただきたいのが「コト

ラーの法則」です。

「よく売れている」ということは、「純顧客価値」が高いということであり、

その価値を高めている理由(つまり「強み」)がこの表の中にある、という

ことになります。

コトラーの法則

顧客価値(+)要因 顧客コスト(-)要因製品価値 金銭的コストサービス価値 時間的コスト従業員価値 エネルギーコストイメージ価値 心理的コスト

純顧客価値=総顧客価値-総顧客コスト

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それでは、この表に記載する内容について具体的に考えてみますが、ビジネ

ス形態によって記入内容の考え方が異なるので、注意が必要です。

例えば「製品価値」について考えてみましょう。

もし、販売している商品があなたの会社で生産しているものであったなら、

「製品価値」は商品そのものの価値、すなわち機能や性能、デザインや品質、

信頼性などが「強み・弱み」の判定項目になるでしょう。

では本編で取り上げているような、「小売店への卸売り」や「メーカーなど

への部品・材料の販売」を行っているようなビジネスではどうでしょうか。

「あなたの会社が独占販売権を持っている」なら別ですが、多くの場合は、

同じ商品があちこちで売られているわけですから、「あなたの会社からその

製品を買った時の価値」を製品価値として考えることになります。

わかりやすい例でいえば、「当社から買うと、その製品がもっと使いやすく

なる、当社オリジナルのオプションがセットになっています」というような

ことでしょうか。

このほかにも、次のような例が考えられます。

① もしあなたの会社とライバル社が同じ製品を提案している場合は、「あ

なたの会社がその製品にとても詳しくて、どこも提案できないような使

い方、売り方を提案できる」ならば、顧客はあなたが提案する製品に大

きな魅力を感じるでしょう。

② あなたの会社とライバル社が、顧客の課題解決に向けた異なる製品を提

案している場合は、顧客はその製品価値(つまり課題解決までのコスト、

取り組みやすさ、効果)について説得力のある方の提案を採用するでし

ょう。

このように卸売業や商社などの B2B ビジネスにおいては、あくまで「自社」

を中心にしてコトラーの表を記入していきます。

そしてもう一つ、この表を記入しやすくする方法を提案します。

それは例えば「製品価値」を考えるときに、この項目は「プラス(+)の要

因」となっていますが、製品価値について思いつく要素が必ずしもプラス要

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因ではない場合があるときはどうしましょうか?(「この機能は他に勝って

いるが、この機能は負けている」という場合)

このときは表にどのように記入すればよいか迷ってしまいますね?

そこで「顧客価値」と「顧客コスト」をそれぞれ「ライバルに対する勝ち負

け」で記入してみるのです。

そして記入が終わった表を総合的に見て、「強み・弱み」を判定するように

します。

要は顧客側に立って当社とライバル社を比較して、「どの要素で勝っている

のか、負けているのか」を判断しやすくすればよいのです。

以上のことを踏まえて、卸売業や商社などの B2B ビジネスにおけるコトラー

の表を、「ライバルとの勝敗表」に変形してみました。その表と代表的な記

入項目の例を次ページに示します。

コトラーの法則では、顧客価値を「+の要素」、顧客コストを「-の要素」と

して、純顧客価値を「総顧客価値-総顧客コスト」と表現していますが、次

に紹介する表では、顧客価値・顧客コストともライバルに対する勝ち負け(い

ずれも、顧客が喜ぶ方が「勝ち」)で表わし、純顧客価値は総合的な勝ち負

けで判定することを提案しています。

以後この表を「強み・弱み分析表」と呼ぶことにします。

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顧客価値 対ライバル強弱 顧客コスト 対ライバル強弱

項目 比較要素 勝← 引分 →負 項目 比較要素 勝← 引分 →負

製品価値

機能、信頼性、デザインなど

金銭的コスト

製品の納入価格

独占販売権あり 保守・サポート契約料

製品の利点の説明に自信

当社だけの付加製品あり

関連製品の品ぞろえ充実

サービス価値

自前のサポート体制あり

時間的コスト

常備在庫品で短納期

技術力・専門性あり 在庫量多く、大量納品可

メーカー連携サポートあり 希少品だが、調達力に自信

設置サービスあり

定期連絡会議・勉強会実施

対象部署 or 担当者 or 顧客 or 商品 ライバル社 強み/弱み 分析表 (1/2)

製品価値欄の「機能、信頼性…」は、比較対象が競合する別製品の場合に記入。

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顧客価値 対ライバル強弱 顧客コスト 対ライバル強弱

項目 比較要素 勝← 引分 →負 項目 比較要素 勝← 引分 →負

従業員価値

商品知識が豊富

エネルギーコスト

直送など配送体制充実

今後の市場動向に詳しい 当社ネットで商品選択し易い

情報提供の質と量に勝る 店頭販売支援実施

ソリューション提案力あり 卸先との同行営業実施

拡販策の提案を行っている

顧客側の課題を知っている

顧客担当者との人間関係良好

イメージ価値

その商品の代理店の歴史長い

心理的コスト

新製品の情報提供が早い

その製品の専門性のイメージ 新製品切替時の在庫品に対応

その商品の扱い高多い

当社の知名度、ブランド力

対象部署 or 担当者 or 顧客 or 商品 ライバル社

強み/弱み 分析表 (2/2)

心理的コスト欄の「在庫品対応」は、新製品発売時に顧客の持つ旧製品在庫に対して、交換や価格対応などをする場合に記入。

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*「強み・弱み分析表」利用上のポイント

「分析対象」には、「当社とライバル社」、「Aメーカーと B メーカーの

製品群」といった大きなくくりで設定することもできますが、営業チ

ームの強み・弱みの分析には、顧客のそれぞれに対して、その担当部

員と、必要ならば主力製品(群)の組み合わせで設定します。

また、ライバル社と、分かればそこの担当者も記入しておきます。

このように分析対象とする顧客や商品、担当者やライバルを明確にす

ると考えやすくなります。

なお対象顧客には、直近の年間実績構成比合計が 70%くらいまでの上

位顧客と、それ以外の顧客については「チームとして今後伸ばしてい

きたい顧客」や、「 近の実績が落ち込んでいる顧客」、「現在の取引は

小さいが、相手のポテンシャルは大きい顧客」などを選択して分析し

ておくと、戦略を組み立てていく際に役立つ資料となります。

(次項「弱みの見つけ方」と「強み・弱み分析対象の抽出方法」も参考にしてください)

この表を記入する際に、「これは製品価値に入るのか、サービス価値に

入るのか」と悩むことがあったら、近いと思うところに入れておいて、

全体としての純顧客価値を判定するのがよいでしょう。

あまり難しく考えずに、 初は分かるところだけ記入して、グループ

のディスカッションや情報収集を通して内容を充実させていく方法も

お勧めです。これは部員の教育(顧客情報収集や、自分の営業方法の

振り返り)にも効果的だと思います。

顧客については、「顧客の抱えている課題や、今後の計画を当方がどれ

位把握できているか」ということも、競争要因になります。

商品については、個別商品だけではなく、「分類」などでグループ化し

た方が分かりやすいことがあります。

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・「弱み」の見つけ方

簡単に言えば、「ライバルの強み」の反対が「当社の弱み」となりますが、

その見つけ方は少し複雑です。

分析の対象とする商品や顧客は、いわゆる「売れていない商品や顧客」とな

りますが、単に「売れていない」と言っても、次の 3つのケースがあります。

① 売ろうとしているのに売れていない

② 市場では売れているのに当社からは売れていない

③ 成り行きで受注販売しているだけ

この内の①と②は競争に負けていると判断されますが、③はとくに営業活動

はしていない「御用聞き」のパターンです。このことからお分かりのように、

「弱み」の分析対象は①と②、2つを取り上げて考えることが妥当です。

したがって分析対象の顧客や商品を抽出する際は、「現在の実績は少ないが、

当社として今後伸ばしていきたいもの」を選び出すようにして、分析にはや

はり前に挙げたチェックシートを使います。

「弱み」の分析は少し難しいです。

「弱み」の理由を部員に問えば、必ず「価格」の問題が出てきます。しかし

ながら、あまり売っていないのに仕入先がいい値段を出してくれることはな

いでしょう。となれば、赤字覚悟で売るか、売れる見込みがないのに大量発

注して仕入れ値を下げるか、いずれにしてもハッピーな結果にはなりません。

それでもライバルに対抗するとすれば、ライバルの「弱み」を見つけ出して

そこを攻めるか、ライバルの「強み」の内、 も攻略しやすいところを見つ

けることが必要になります。

したがって「弱み」の分析に当たっては、よりライバルを意識して、ライバ

ルの「強み」と対比させながら分析することが望まれるのです。

なお、実績上位のものに対しても、「もっと売れないのか?」と考えること

で、思わぬ「弱み」を発見できることがありますので、試してみてください。

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・「強み・弱み」分析対象の抽出方法

分析対象の顧客や商品の抽出は、年間の実績グラフを使うと便利です。

次に 4つのグラフとその特徴を簡単に紹介します。

(ここでは顧客別分析の例で話を進めますが、商品別分析の時は「顧客」を「商

品」と読み替えてください。)

これから示すグラフは、ある営業チームの顧客別実績比較のためのもので、

① 年間売上の単純比較

② 移動年計推移の比較

③ 対前年売上伸び率と、チーム合計利益に対する構成比とで比較

④ 年間の売上金額と利益金額への貢献度を直感的に比較

の、4つの例を示したものです。

それぞれに特徴がありますが、実際に使用するグラフは「慣れ」と「好み」

によって選ばれているようですので、いろいろ試してみて、チームのみんな

がわかりやすいと思うものを使ってください。

① 全顧客の年間売上 ABC チャート ② 全顧客の移動年計売上推移

年間売上実績の大きい順に顧客を並べ

て、構成比の累計グラフを表示したもの。

このグラフを使う場合は、構成比累計70%

位までの顧客を「優良顧客」として強み

分析対象にする

「弱み分析対象」はそれ以外の顧客の中

から「伸ばしたいもの」や、実績が下降

していると思われるものを選択する

顧客別に、2年間の売上の移動年計グ

ラフを表示したもの。季節変動に惑わ

されずに傾向を把握できる

推移が上位安定、または伸びているも

のを強み分析の対象にする

このグラフが下降しているものは、そ

の理由に「 近弱くなっている要素」

がないかを確認する必要がある

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抽出する顧客の範囲は、あまり厳密に考える必要はありませんが、「目標管

理」のことを考えると、「強みの分析対象」は、売上または利益の 70~80%

を占める範囲で抜き出すとよいでしょう。

目標管理については別項で述べますが、一般に、売上構成比合計 70~80%

までの顧客が、「ある程度数字が予測できる顧客」で、「その他」を含む残り

が、スポット受注など、いわゆる「成り行き」で商売している顧客、という

企業が多いようです。

したがって、目標の 7・8割位は数字が読めるような戦略を立てておくこと

が、目標管理をやりやすくしてくれます。

なお、売上、利益のどちらで考えるかは、企業の考え方によって異なるよう

ですが、普通は「売上」が採用されています。

次項では、「強み」と「弱み」の分析段階で、あると便利なグラフを紹介し

ます。

③ 全顧客年間売上ポートフォリオ ④ 全顧客年間売上マップ

縦軸に前年対比の売上伸長率、横軸にチ

ーム全体の合計利益に対する利益構成比

を取り、各顧客をプロットしたもの(円

の大きさは売上)

売上の伸びと利益構成比から優良顧客を

選択して、「強み分析対象」とする

チャート左下にある顧客の中から、「伸ば

したい」、「伸びるはずだ」、または「実績

が落ちてきている」と思われるものを「弱

み分析対象」とする

縦軸に売上金額、横軸に利益金額を取

り、各顧客をマッピングしたもの

ポートフォリオに比べて「伸び」や「構

成比」は分からないが、売上・利益への

貢献度や利益率が直感的にわかる

売上・利益の規模から優良顧客を選定し

て「強み分析対象」とする

チャート左下にある顧客の中から、「伸

ばしたい」、「伸びるはずだ」と思われる

ものを「弱み分析対象」とする

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・「強み」と「弱み」の分析を支援するグラフ

分析過程で、対象顧客の実績推移や販売内容を詳しく知りたい時に便利なグ

ラフを紹介します。(グラフのしくみや意味は別冊「解説編」で詳しく解説)

指定顧客の売上 Z チャート

全顧客のメーカー別内訳(左)、指定顧客の月次推移(中央)と累計推移(右)

指定顧客年間売上マップ軌跡

①は毎月の売上金額グラフ、②は累計

グラフ、③は移動年計グラフ。形が「Z」

に似ているので「Zチャート」

①だけでは「季節変動」のため傾向が

わかりにくいので、②と③のグラフが

その判断を助ける

しくみを理解すれば誰にもわかりやす

く、季節変動に惑わされないので、個々

の顧客や商品の動向把握に便利

縦軸に売上、横軸に利益を取り、指定

顧客の今期(青)と前期(緑)の月次累計

軌跡を描いたもの

したがってグラフの傾きの違いは、利

益率の変化を表わす

顧客ごとに 2 年間の実績の変化を直感

的に比較することができる

上のグラフは顧客ごとの売上棒グラフに、製品メーカー別内訳を表示したもの。

左から、全顧客の年間売上のメーカー別内訳、指定顧客の 2年間の月次売上推移、指定顧

客の売上を 1 年ずつ累計推移グラフに表示

各顧客に対する当社の強み・弱み判定用に使う

内訳によく利用されるのは、製品メーカーや商品分類が多い。メーカー内訳の動向は、当

社と仕入先との連携効果の評価、商品分類はそれに対する当社の商品知識やサポート力の

判定の参考になる

① ②

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3-3「受注販売」の傾向が強い営業チームの目標設定をどうするか

市場の変化に対応できる目標管理の土台を作る

卸売業や部品材料のビジネスでは「プル販売」の傾向が強く、顧客別目標金額

を設定しても、中々その通りには進まないという傾向があります。

一方、会社から示されるチーム全体の目標数字は、チームの営業部員ごとに配

分され、さらに部員はそれを担当顧客別に割り振る、というケースが多いよう

ですが、先の事情から「単なる数字合わせになっていて、計画自体あまり意味

がない」ということをよく聞きます。

このような状況下では、「部員や顧客に対する『目標達成』のためのディスカ

ッションをすること自体が、無意味のように思える」とのこと。

しかしながら、一つの「営業チーム」として活動する以上は、営業部員ごとに

目標数字を設定することは、部員のモチベーションを高めることにつながりま

すし、また部員の仕事(貢献度)を評価する、人事上の重要な指標として使われ

ることもあります。

では、このような環境の下で、チーム内の目標設定に何か良い知恵はないでし

ょうか。これに対するマネージャの意見は、次のようでした。

営業マネージャ諸氏の意見は…

「会社として必要な目標金額は、やはり 終的には営業部員一人

一人の目標値に振り分けられるべきだろう」ということで、これ

については納得できる。

「部員の目標値をどのようにして詳細な計画に落とし込むか」と

いうことについては、「わかりやすさ」という点で、やはり顧客別

に目標設定するのが良いと思う。ただし目標値の精度を上げるた

めに、顧客情報を基に目標値の定期的な見直しを行い、都度実情

に合った目標値(=行動計画)への変更も必要だ。

したがって部員ごとの目標管理は「顧客ごとの管理」ではなく、

担当顧客の合計実績で行うべきだろう。

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そしてこの意見をベースに、「変化に対応できる目標管理」のやり方を考えて

いくと、次のようにまとめることができます。

「必達目標」として営業部員に課せられるノルマを、「プル販売」で達成する

― 上の図は B2B ビジネスの進め方についてのヒントを示しています。

以後の目標管理は、この方式をベースに考えていくことにします。

目標管理のポイント ・営業マネージャの目標管理 ・営業部員の目標管理

営業部員の目標を

担当顧客別に配分

顧客1

顧客n

……

営業部員は、自分の合計目標の達成

が危ぶまれるときには、目標と見込

みの差額を埋めるために、担当顧客

全体を見渡して、拡販の方策を考え

なくてはならない。

そのためには、顧客ごとの販売内容

の傾向と変化、顧客が抱えている課

題など、収集した情報を総動員して

行動計画を立てることが重要だ。

マネージャは、部員ごとの実績の見

込み(担当顧客の見込み合計)と目

標との間に不足があれば、それを埋

めるべく指導しなければならない。

また場合によっては、ある部員の不

足分を他の部員の上乗せ分でカバー

する必要が生じることもあり得る。

そのためにはマネージャ自身も、主

要顧客の動向をよく把握しておく必

要があり、日ごろの情報収集が重要

になる。

チームの目標を

営業部員に配分

部員1

部員n

……