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量子力学で用いる公式、用語、概念のまとめ千葉 敏
1. 波動
波の波数 k、波長 λ、振動数 ν、角振動数 ω、周期 T、位相速度 vp、群速度 vgの関係
k =2π
λ(1)
ω = 2πν =2π
T(2)
vp = λν =ω
k(3)
vg =dω
dk(4)
2. 粒子的な量と波動的な量の関係
プランク ·ドブロイ ·アインシュタインの関係
運動量:p = hk =h
λ(5)
運動エネルギー:E = hν = hω (6)
h =h
2π(7)
hはプランク定数 (=6.62618×10−34 J · sec)。hc=197.3 MeV · fm = 197.3 keV · pm=197.3 eV · nm = 1.97×103 eV · A。1pm=10−12m、1nm=10−9m、1A=10−10m等。1eV =1.60219·10−19J
3. 対応原理
量子力学では物理量は演算子で表される。運動量は
px = −ih∂
∂x(8)
のように、波動関数に作用する微分演算子で表される。古典的な量(例えば運動エネルギー)を量子力学に翻訳する場合、この関係を用いる。これを対応原理と言う。
この関係を用いると、x方向の運動エネルギーは
Tx =p2
x
2m→ Tx = − h2
2m
∂2
∂x2(9)
と、二階の微分演算子になる。従って、エネルギー保存則
全エネルギー =運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー (10)
は、量子力学では [− h2
2m
∂2
∂x2+ V (x)
]φ = Eφ (11)
1
となる。三次元では[− h2
2m
(∂2
∂x2+
∂2
∂y2+
∂2
∂z2
)+ V (x)
]φ = Eφ (12)
と書ける。一方、エネルギーは
E = ih∂
∂t(13)
4. 和の公式
N∑
n=0
n =N
2(N + 1) (14)
N∑
n=0
n2 =N
6(2N + 1)(N + 1) (15)
N∑
n=0
n3 =1
4N2(N + 1)2 (16)
N∑
n=0
n4 =N
30(N + 1)(2N + 1)(3N2 + 3N − 1) (17)
5. テ-ラ-展開 (x << 1)
f(a + x) = f(a) + f ′(a)x +1
2!f ′′(a)x2 + ... ∼ f(a) + f ′(a)x (18)
1
1− x= 1 + x + x2 + x3 + ... ∼ 1 + x (19)
ex = 1 + x +1
2!x2 +
1
3!x3 + ... = lim
n→∞
(1 +
x
n
)n
∼ 1 + x (20)
sin x = x +1
3!x3 + ... ∼ x (21)
cos x = 1 +1
2!x2 + ... ∼ 1 (22)
√1 + x = 1 +
1
2x− 1
8x2 + ... (23)
ln(1± x) = ±x +x2
2± x3
3+ ... =
∑n
(±1)n xn
n(24)
6. 相対論的エネルギー
• 粒子の静止質量:m
• 粒子の速度:v
• 粒子の運動量:p
• 粒子の運動エネルギー:T
• 粒子の全エネルギー:E
• 光速:c
2
とすると、
E =√
(mc2)2 + (pc)2 = mc2 + T = m∗c2 (25)
m∗ =m√
1− v2
c2
(26)
p = m∗v =E
c2v (27)
粒子が静止している時 (T = p = 0)、
E = mc2:静止質量エネルギー (28)
は以下の通り (1MeVは 6.602×10−13J)。
粒子 静止質量m (g) 静止質量エネルギーmc2(MeV)
電子 9.10953×10−28 0.511
中性子 1.67495×10−24 939.55
陽子 1.67265×10−24 938.26
静止質量エネルギーmc2のことを粒子の質量と言うことが多い(質量がエネルギーで表されていたらmc2のこと)。
非相対論的極限 (pc << mc2)の場合、
E =√
(mc2)2 + (pc)2 = mc2
√1 +
(pc
mc2
)2
∼ mc2
[1 +
1
2
(pc
mc2
)2]
= mc2 +p2
2m(29)
相対論的極限 (pc >> mc2)の場合、または光の場合 (m = 0)、
E = pc (30)
7. 三角関数の積
sin A sin B =1
2[cos(A−B)− cos(A + B)] (31)
cos A cos B =1
2[cos(A−B) + cos(A + B)] (32)
sin A cos B =1
2[sin(A−B) + sin(A + B)] (33)
8. オイラーの公式eiθ = cos θ + i sin θ (34)
これより
e−iθ = cos θ − i sin θ (35)
einθ = (cos θ + i sin θ)n = cos nθ + i sin nθ (36)
cos θ =eiθ + e−iθ
2(37)
sin θ =eiθ − e−iθ
2i(38)
3
9. 双曲線関数
cosh x =ex + e−x
2(39)
sinh x =ex − e−x
2(40)
cosh2 x− sinh2 x = 1 (41)
10. フーリエ変換
F (k) =1√2π
∫ ∞
−∞f(x)e−ikxdx (42)
f(x) =1√2π
∫ ∞
−∞F (k)eikxdk (43)
11. ガウス積分
In(α) ≡∫ ∞
0x2ne−αx2
dr =
√π
2
(2n− 1)!!
2nα−
2n+12 (44)
I0(α) =∫ ∞
0e−αx2
dx =
√π
2α−
12 (45)
I1(α) =∫ ∞
0x2e−αx2
dx =
√π
4α−
32 (46)
Jn(α) ≡∫ ∞
0x2n+1e−αx2
dr =n!
2αn+1(47)
J0(α) =∫ ∞
0xe−αx2
dx =1
2α(48)
J1(α) =∫ ∞
0x3e−αx2
dx =1
2α2(49)
これを用いると
ax2 + bx + c = a
(x +
b
2a
)2
− b2
4a+ c (50)
より ∫ ∞
−∞e−(ax2+bx+c)dx = e
b2
4a−c
∫ ∞
−∞e−a(x+ b
2a)2
dx =
√π
ae
b2
4a−c (51)
注:I0(α)と I1(α)の証明
I0(α) =√
I0(α)2 =
√∫ ∞
0e−αx2dx ·
∫ ∞
0e−αy2dy (52)
=
√∫ ∞
0
∫ ∞
0e−α(x2+y2)dxdy =
√∫ ∞
0dr
∫ π2
0rdθe−αr2 (53)
=
√π
2
∫ ∞
0re−αr2dr
z≡αr2
=
√π
2
1
2α
∫ ∞
0e−zdz (54)
=
√π
2√
α(55)
I1(α) = − ∂
∂αI0(α) =
√π
4α−
32 (56)
4
12. クロネッカーのデルタ
δij =
1 i = jの時0 i 6= jの時
(57)
13. ディラックのデルタ関数 δ(x)
面積が 1で、ある点のみで値を持つ特殊な関数。普通の意味での関数ではなく、積分された時にのみ意味を持つ。この意味で超関数と呼ばれるものの一種。主な性質は以下の通り。
∫ ∞
−∞δ(x)dx = 1 (58)
∫ ∞
−∞f(x)δ(x)dx = f(0) (59)
∫ ∞
−∞f(x)δ(x− a)dx = f(a) (60)
以下は積分記号の中で用いられることを念頭に置いた時に成り立つ式。
xδ(x) = 0 (61)
(x− a)δ(x− a) = 0 → xδ(x− a) = aδ(x− a) (62)
δ(x− a)δ(x− b) = δ(a− b) (63)
δ(f(x)) =∑
xi(f(xi)=0)
1
|f ′(xi)|δ(x− xi) (64)
δ(ax) =1
|a|δ(x) (65)
δ(x2 − a2) =1
2|a| [δ(x− a) + δ(x + a)] (66)
δ((x− a)(x− b)) =1
|a− b| [δ(x− a) + δ(x− b)] (67)
δ(x) =1
2π
∫ ∞
−∞eikxdk (68)
δ(~r) = δ(x)δ(y)δ(z) (69)
f(x)δ′(x− a) = −f ′(a) (70)
14. グリーン関数
∇2 1
r= −4πδ(r) (71)
(∇2 + k2)eikr
r= −4πδ(r) (72)
(∇2 + k2)cos kr
r= −4πδ(r) (73)
(∇2 − µ2)e−µr
r= −4πδ(r) (74)
(75)
15. 半径 rの円の微小角度 dθの部分の円弧の長さ=rdθ
5
16. 球座標(極座標)における半径 rの球面の面積要素
dΩ = rdθ · r sin θdφ = r2 sin θdθdφ = r2d(cos θ)dφ (76)
17. 部分積分d
dx(f · g) = f
dg
dx+ g
df
dx(77)
より、 ∫f
dg
dxdx = [f · g]−
∫g
df
dxdx (78)
またd
dx
(f
dg
dx
)= f
d2g
dx2+
df
dx
dg
dx= f
d2g
dx2+
d
dx
(g
df
dx
)− g
d2f
dx2(79)
より、 ∫f
d2g
dx2dx =
[f
dg
dx
]−
[g
df
dx
]+
∫gd2f
dx2dx (80)
もし、積分範囲が−∞ ≤ x ≤ ∞で、関数 f、gが無限遠でゼロになる (束縛状態の波動関数である)とすると、(78)、(80)式は、それぞれ
∫ ∞
−∞f
dg
dxdx = −
∫ ∞
−∞g
df
dxdx (81)
∫ ∞
−∞f
d2g
dx2dx =
∫ ∞
−∞gd2f
dx2dx (82)
となる。
18. ガウスの公式、グリーンの公式
三次元のある体積要素 V とその表面を S、表面から垂直に外側に向かう単位ベクトルを~nとする。
(a) ガウスの公式 ∫
V
~∇ · ~fd3r =∫
S
~f · d~S (83)
(b) グリーンの公式 ∫
V(∇f · ∇g + f∇2g)d3r =
∫
Sf∇g · ~ndS (84)
∫
V(f∇2g − g∇2f)d3r =
∫
S(f∇g − g∇f) · ~ndS (85)
19. ボーズアインシュタイン積分の一つ
∫ ∞
0
x3
ex − 1dx =
π4
15(86)
20. フェルミ ·ディラック因子を含む積分公式
I =∫ ∞
0g(u)
1
eβ(u−u0) + 1du =
∫ u0
0g(u)du +
π2
6
g′(u0)
β2+
7π4
360
g′′′(u0)
β4+ ... (87)
6
21. 変数分離法
解くべき偏微分方程式が独立変数のそれぞれのみからなる部分に分離することができる場合、すなわち、独立変数を q1、q2、...として
(D1(q1) +D2(q2) + ...) φ(q1, q2, ...) = 0 (88)
という形にできる場合、解φ(q1, q2, ...)はφ1(q1)φ2(q2)...という形に変数分離することができる。ただしDi(qi)は変数 qiのみを含む演算子である。この解の形を上式に代入すると、
(D1(q1)φ1(q1)) φ2(q2)φ3(q3)... + (D2(q2)φ2(q2)) φ1(q1)φ3(q3) + ... = 0 (89)
となるので、この全体を φで割ると
D1(q1)φ1(q1)
φ1(q1)+D2(q2)φ2(q2)
φ2(q2)+ ... = 0 (90)
となるが、この各項はそれぞれ独立変数 q1、q2...のみの関数なので、この等式が常に成り立つためにはそれぞれの項が定数 εi(i=1,2,..)であり、その和がゼロとなる必要がある。すなわち
D1(q1)φ1(q1)
φ1(q1)= ε1 → D1(q1)φ1(q1) = ε1φ1(q1) (91)
D2(q2)φ2(q2)
φ2(q2)= ε2 → D2(q2)φ2(q2) = ε2φ2(q2) (92)
... (93)
かつε1 + ε2 + ... = 0 (94)
となる。従って、それぞれの独立変数のみを含む常微分方程式
Di(qi)φi(qi) = εiφi(qi) (95)
を解けば良い。
22. 自由粒子の波動関数
自由粒子の場合 (V = 0)を考えると、シュレーディンガー方程式はデカルト座標系で
− h2
2m
(∂2
∂x2+
∂2
∂y2+
∂2
∂z2
)φ = Eφ (96)
となる。左辺は対応原理により運動エネルギーを表したものである。ここで、変数分離、つまり波動関数として
φ(x, y, z) = X(x)Y (y)Z(z) (97)
という形のものを選ぶと、上式に代入して
− h2
2m
(d2X(x)
dx2Y (y)Z(z) +
d2Y (y)
dy2X(x)Z(x) +
d2Z(z)
dz2X(x)Y (y)
)= EX(x)Y (y)Z(z)
(98)
7
となる。この両辺をX(x)Y (y)Z(z)で割ると
− h2
2m
(1
X(x)
d2X(x)
dx2+
1
Y (y)
d2Y (y)
dy2+
1
Z(z)
d2Z(z)
dz2
)= E (99)
となる。ここで左辺の各項は独立変数 (x, y, z)の関数の和であるが、その和が常にある定数Eに等しいということは、それぞれが常に定数に等しいということを意味する。そこで、
− h2
2m
1
X(x)
d2X(x)
dx2= εx (100)
− h2
2m
1
Y (y)
d2Y (y)
dy2= εy (101)
− h2
2m
1
Z(z)
d2Z(z)
dz2= εz (102)
と置くと、εx + εy + εz = E (103)
という条件が成り立つ。
23. 周期的境界条件
方程式
− h2
2m
1
X(x)
d2X(x)
dx2= εx (104)
の解は
X(x) = exp
(i
√2mεx
hx
)(105)
という形に書ける。ただし exp x ≡ exを表す。従って、y及び z方向の成分も含めて書くと
φ(x, y, z) = A exp
(i
√2mεx
hx
)exp
(i
√2mεy
hy
)exp
(i
√2mεz
hz
)(106)
となる。Aは規格化定数である。
ここで、考えている体系が十分に大きい体系の場合に、それを一片が Lの直方体に分割する。Lが十分大きいとすると、この一つの直方体のみで無限に広がった空間と考えることができる。さらにこの直方体の上下左右に性質の等しい直方体が並んで全空間を覆っていると考える。すると、直方体の中に存在する粒子の性質を表す波動関数は周期 Lの周期関数となるはずである。このことは、上で解いた波動関数X(x)が
X(x + L) = x(x) (107)
という性質を有することを意味する。これより
exp
(i
√2mεx
h(x + L)
)= exp
(i
√2mεx
hx
)(108)
→√
2mεx
hL = 2nxπ (109)
→ εx =1
2m
(2nxπh
L
)2
(110)
8
ここで nxは任意の整数である。
自由粒子の場合、エネルギーは、運動量 pxと
εx =p2
x
2m(111)
の関係があるので、(110)式より、
px =2nxπh
L=
nxh
L(112)
となるが、これはpxL = 0, ± h, ± 2h, ± 3h, ... (113)
という飛び飛びの値を持つことを意味する。運動量を用いて書くと、波動関数は
φ(x, y, z) = A′ exp(ipx
hx
)exp
(ipy
hy)
exp(ipz
hz)
(114)
= A′′ exp(i2πnx
Lx
)exp
(i2πny
Ly)
exp(i2πnz
Lz)
(115)
となる。A′、A′′は規格化定数である。
24. 位相空間
位置と運動量を座標軸とする仮想的な空間、位相空間を導入する。上の結果 ((113)式)は位相空間の一つの自由度(今の場合は x方向の自由度)の面積 h毎に異なった量子状態が存在することを示している (∆p ·∆x = h)。同じことが y及び z方向の自由度に対しても言えるので、粒子数が 1であれば体積 h3毎に粒子が取り得る量子状態がある。粒子数がN 個であれば、自由度は 3N であり、体積 h3N 毎に粒子が取り得る量子状態があることになる。位相空間の次元としては 6N になる。
もし、巨視的なエネルギーに比較してエネルギー間隔 hが小さければ、微視的状態はほとんど連続的に分布していると考えることができる。このような場合に微視的状態数を知りたければ、粒子が取り得る位相空間(運動量空間×座標空間)での体積を求めて、それを h3N で割れば良い。例えば一つの粒子が運動量 p~p + dp、体積 V の中に閉じ込められているとすると、この粒子の占める位相空間での体積は、まず運動量空間での球殻の体積が
4π(p + dp)3
3− 4πp3
3= 4πp2dp (116)
なので、位相空間の体積は、通常の空間での体積 V を掛けて
4πV p2dpV (117)
となる。従ってこの中にある量子状態の数は
dW =4πV p2dp
h3(118)
である。同様に、N 粒子系の場合も、N 粒子の運動量空間での体積 ( 3N 次元球殻の体積)V N
p とN 個の粒子の占める体積要素 V N を書けたものを h3N で割れば量子状態の数を求めることができる。
9
ただし、量子補正として、量子力学固有の粒子の多重度を考慮する必要がある。例えば、電子はスピン量子数を持っており、その成分が 2つの値を取ることができるので、量子状態の数は上のようにして計算した値の倍となる。光子の場合はスピンの値は 1であるが、横波であるという条件から自由度が一つ減って 2となるので、やはり 2を掛ける必要がある。一般にこのような多重度を gとすると、
電子 g = 2 (119)
光子 g = 2 (120)
スピン Sの粒子 g = (2S + 1) (121)
これらより、微視的状態の数は
W = gV N
p V N
h3N(122)
のように計算することができる。
もし、こららの粒子が同種粒子の場合は、量子力学では識別不可能なのでこれをさらにN !で割る必要がある。
25. 一粒子の状態数
一粒子の状態数
dW = g4πV p2dp
h3(123)
をエネルギーの関数として計算しておく。ここで一粒子のエネルギーを εとして、二つの場合を考える。
(a) 非相対論的粒子この場合、
ε =p2
2m(124)
なので、
p2 = 2mε (125)
dp =2m
2pdε =
√m
2εdε (126)
p2dp =√
2εm3dε (127)
従って
dW = g2πV (2m)3/2
h3
√εdε (128)
(b) 相対論的粒子この場合は
ε = pc (129)
なので
p2 =ε2
c2(130)
dp =dε
c(131)
10
これより、
dW = g4πV
h3c3ε2dε (132)
となる。
26. 複素積分 ∫ ∞
−∞f(x)dx = 2πi
∑
i
Res(f(zi)) (133)
Resは留数を表す。ただし、留数とは、関数 f(z)をローラン級数で表した時
f(z) =∞∑
n=−∞An(z − a)n (134)
の n = −1の項。
27. 熱力学、統計力学
(a) ボルツマン因子一定の温度 T にある古典的な巨視的体系(無数の粒子の集団)が、内部エネルギーEを持つ確率は、ボルツマン因子
e− E
kBT (135)
で与えられる。ここで kBはボルツマン定数で、1.38054×10−16erg K−1。
(b) エントロピー
S = kB ln W (E) = kB ln Ω(E)dE (136)
ここで、W (E)はエネルギーEの周りの±dE2の区間にある状態数、Ωは単位エネル
ギーあたりの状態数 (=状態密度)。
(c) 温度
∂S
∂E=
1
T(137)
28. エルミート共役
複素数を要素とする行列H を考える。この行列のエルミート共役H†とは、各要素の複素共役を取って行と列を入れ替えたものを意味する。すなわち
(H†)
ij≡ H∗
ji (138)
二つの行列のエルミート共役は、
(AB)†ij = (AB)∗ji =∑n
A∗jnB
∗ni =
∑n
(B†)
in
(A†)
nj=
(B†A†)
ij(139)
従って(AB)† = B†A† (140)
同様に(ABC...)† = ...C†B†A† (141)
11
29. エルミート行列
エルミート行列とは、エルミート共役が自分自身に等しい行列のことを言う。つまり
H† = H (142)(H†)
ij≡ H∗
ji = Hij (143)
特に、対角要素は (H†)
ii= H∗
ii = Hii (144)
のように実数である。
30. ユニタリー行列
エルミート共役が逆行列に等しい行列 U をユニタリー行列と言う。すなわち、
U † = U−1 (145)
従ってU †U = UU † = I (146)
(ただし Iは単位行列を表す)。
31. 行列の指数関数
ある行列Hの関数を考える:U = eiH (147)
この意味は、右辺をテーラー展開して得られる行列のことである。すなわち
U = 1 + iH +1
2!(iH)2 + ... = 1 + iH − 1
2!H2 + ... (148)
もし、Hがエルミート行列の場合、上式のエルミート共役は
U † = 1− iH† − 1
2!(H†)2 + ... = 1− iH − 1
2!(H)2 + ... = e−iH (149)
従ってこの演算子 U はユニタリーである。
32. ディラックのブラケット記号
シュレーディンガー方程式の結果得られる波動関数は、いろいろな量子数によって区別される。普通は φn(x)のように書かれる。ここで nは量子数、xはこれが座標の関数であることを示す。この関数を抽象的な無限次元ベクトル空間におけるベクトルと見なして |φn >または |n >のように書くことにする。そして、座標の関数であることを表すために、
φn(x) =< x|φn > (150)
と書くことにし、その複素共役を
φ∗n(x) =< φn|x > (151)
と定義する。二つの波動関数 φn(x)、ψm(x)の内積は∫
ψ∗n(x)φn(x)dx =∫
< ψm|x >< x|φn > dx (152)
と書かれる。
12
33. 正規直交完全系
ある関数系 φn(x):(n = 1, 2, ..)が正規直交完全系であるとは、規格化直交条件∫
φ∗n(x)φm(x)dx = δnm (153)
を満たし、任意の関数 f(x)を展開できること、すなわち
f(x) =∑m
Cmφm(x) (154)
を意味する。この時、展開係数Cnは上式に左から φ∗n(x)をかけて積分すると∫
φ∗n(x)f(x)dx =∑m
Cm
∫φ∗n(x)φm(x)dx =
∑m
Cmδnm = Cn (155)
となる。従って、
f(x) =∑m
Cmφm(x) =∑m
[∫φ∗m(y)f(y)dy
]φm(x) (156)
と書くことができる。この式を変形すると
f(x) =∫ [∑
m
φ∗m(x)φm(y)
]f(y)dy (157)
となるが、これが常に成り立つためには、∑m
φ∗m(x)φm(y) = δ(x− y) (158)
である必要がある。なぜなら、これが成り立てば
f(x) =∫ [∑
m
φ∗m(x)φm(y)
]f(y)dy =
∫δ(x− y)f(y)dy = f(x) (159)
と自明の等式となるからである。従って、関数系 φn(x):(n = 1, 2, ..)が完全系であるための条件は ∑
m
φ∗m(x)φm(y) = δ(x− y) (160)
である。右辺を形式的に 1と書いて、さらにディラックのブラケットを用いて関数 φm(x)を |m >、φ∗mを< m|と書くと、関数系 |m >が正規直交完全系であるとは
< m|n > = δnm (161)∑m
|m >< m| = 1 (162)
と書けることを意味する。右辺の 1はデルタ関数を意味する。
34. ブラケット記号を用いる量子力学の形式
ある演算子のエルミート共役は、行列のエルミート共役と同じように複素共役をとって行と列を入れ替えたもので定義される:
< ψm|A†|φn >=< φn|A|ψm >∗ (163)
13
もし、Aがエルミート行列 (A† = A)であれば、
< ψm|A†|φn >=< φn|A|ψm >∗=< ψm|A|φn > (164)
特に |ψm >と |φn >が同じものであればAの平均値は
< A >=< φn|A|φn >=< φn|A|φn >∗ (165)
となって、実数であることがわかる。物理量の測定値は常に実数値で得られるので、物理量に対応する演算子はエルミート演算子である。また、物理量に対応する演算子の固有関数は正規直交完全系を張るものとする。物理量に対応する、正規直交関数系を固有関数として持つエルミート演算子のことを観測可能量という意味でオブザーバブルと呼ぶ。正規直交完全系とは、上で説明したように、任意の関数を固有関数を用いて展開できることを表す。従って、演算子Aがオブザーバブルであれば、固有関数系 |n >が存在して、
A|n > = an|n > (anは実数) (166)
< n|m > = δnm (167)∑n
|n >< n| = 1 (168)
|Ψ > =∑n
Cn|n > (169)
Cn = < n|Ψ > (170)
などが成り立つ。
位置の固有関数はデルタ関数である((62)式)。すなわち
< x|x′ >= δ(x− x′) (171)
である。また座標の任意の関数を
f(x′) =∫ ∞
−∞δ(x− x′)f(x)dx (172)
と展開できるので、これは完全系を成している。従って∫
dx|x >< x| = 1 (173)
と書ける。実際、この両辺に |f >を掛けて積分し、左から< x′|を掛けると
< x′|f >= < x′|∫
dx|x >< x|f >=∫
dx < x′|x >< x|f >=∫ ∞
−∞δ(x−x′)f(x)dx = f(x′)
(174)と書ける。これより、任意の波動関数の内積は
∫< ψm|x >< x|φn > dx =< ψm|φn > (175)
と書くことができる。
平面波 φ ∼ eikxは、波数 kの固有状態を座標表示したものなので、
< x|k >=
1√2π
eikr : デルタ関数による規格化1√Leikr : 長さLの箱による規格化
(176)
14
である。逆に
< k|x >=
1√2π
e−ikr : デルタ関数による規格化1√Le−ikr : 長さLの箱による規格化
(177)
である。デルタ関数による規格化を用いると、フーリエ変換は
φ(k) =< k|φ >=∫
< k|x >< x|φ > dx =1√2π
∫e−ikxφ(x)dx (178)
逆変換は
φ(x) =< x|φ >=∫
< x|k >< k|φ > dk =1√2π
∫eikxφ(k)dk (179)
となる。これは (42、43)式で与えたフーリエ変換の定義通りである。また、(179)式は、運動量の固有関数も完全系を成していることを表している:
∫dk|k >< k| = 1 (180)
35. 表示の変換
ある関数を座標の関数として表したものを φ(x)とする。ブラケット記号を用いて書くと
φ(x) =< x|φ > (181)
である。これに、関数< k|x >を掛けて xで積分し、|x >の完全性を用いると∫
dx < k|x >< x|φ >=< k|φ > (182)
のように運動量空間の関数が得られる。上でも説明したが、これがフーリエ変換である。また、別の変換関数< ψn|x >を掛けて積分すれば
∫dx < ψn|x >< x|φ >=< ψn|φ > (183)
となる。これは ψnを座標とする表示でのこの関数の値である。このように座標軸として用いる関数を変更することを、表示の変換または基底の変換という。この変換はユニタリーである。
物理量を表す演算子をAとすると、表示を変換する時にAに対しては変換UAU †を施すと約束すれば、変換によって行列要素は変化しない。また、ベクトル同士の内積も変化しない。
36. 行列の固有値
n行 n列の任意の行列Aに対して、あるベクトル vi(i = 1...n)があって、
Avi = αivi (184)
(ただし、αはある数)となる時、viを固有ベクトル、αiを固有値と言う。
上式は
Avi = αiIvi (185)
(A− αiI)vi = 0 (186)
15
等式|A− αiI| = 0 (187)
が成り立つことが必要である。これを永年方程式と言う。固有値はこの解として求められる。
ユニタリー行列 U を用いて変形すると
UAU †Uvi = αiUvi (188)
これは、Uviが行列 UAU †の固有ベクトルで、固有値は元々の固有値 αiと同じ値であることを意味する。
37. 行列の対角化
任意の行列Aを、ユニタリー行列 U を用いて対角行列Bにできる場合、
UAU † = B, (189)
B =
B11 0 0 ... 0
0 B22 0 ... 0
... ... ... ... ...
0 0 0 ... Bnn
(190)
Aが対角化されたと言う。上の議論から、Bの各対角要素がAの固有値で、固有ベクトルは bi = Uvi = (0, 0, ..., 1, 0, ...)T である (viは行列Aの固有ベクトル)ことがわかる。なぜならば
Bbi = Biibi = UAU †Uvi = UAvi = αiUvi = αibi (191)
従って行列を対角化できれば固有値と固有ベクトル (vi = U †bi) の両方を求めることになる。
もしAがエルミート行列であれば、
B† = (UAU †)† = UAU † = B (192)
つまりBもエルミート行列である。エルミート行列の対角要素は
B∗ii = Bii (193)
のように実数なので、エルミート行列の固有値は全て実数である。
38. 行列形式による量子力学
シュレーディンガー方程式を解くとは、ハミルトニアンHの固有値Ei(i = 1..z)及び固有関数 |i >(i=1..z)を求めることである:
H|i >= Ei|i > (194)
ハミルトニアンはオブザーバブルなので、固有関数は正規直交完全系を成す:
< i|j > = δij (195)∑
i
|i >< i| = 1 (196)
16
この時、次のような行列を考える。
Hij ≡< i|H|j > (197)
具体的に計算すると
Hij = Ej < i|j >= Ejδij =
E1 0 0 ... 0
0 E2 0 ... 0
... ... ... ... ...
0 0 0 ... Ez
(198)
これはハミルトニアンの固有値を対角要素に持つ対角行列である。この行列の固有値は対角要素そのものであり、ハミルトニアンの固有値でもある。
これに対して、別のオブザーバブルH ′の固有関数系 |φn >, n = 1..zを考える。この固有関数系も正規直交完全系を成すとすると、
< φn|φm > = δnm (199)∑n
|φn >< φn| = 1 (200)
が成り立つ。この関数系を用いて作った行列Aを
A = Anm : Anm =< φn|H|φm > (201)
とする。関数系 |i >と |φn >を用いて、次のような行列を作る:Uim ≡< i|φm > (202)
するとU †
mi = U∗im =< φm|i > (203)
これより、
(UU †)ij =∑m
UimU∗jm =
∑m
< i|φm >< φm|j >=< i|j >= δij (204)
(U †U)nm =∑
i
U∗inUim =
∑
i
< φn|i >< i|φm >=< φn|φm >= δnm (205)
すなわち、U † = U−1であり、U はユニタリー行列である。この行列U を用いて新たな行列B = UAU †を作る:
Bij =∑nm
UinAnmU †mj =
∑nm
< i|φn >< φn|H|φm >< φm|j >=< i|H|j >= Ejδij (206)
従って、
B = UAU † =
E1 0 0 ... 0
0 E2 0 ... 0
... ... ... ... ...
0 0 0 ... Ez
(207)
となって、ハミルトニアンの固有値を求めることができた。また、固有関数は
|i > =∑n
|φn >< φn|i >=∑n
(< i|φn >)∗|φn >=∑n
|φn > U †ni (208)
|φn > =∑
i
|i >< i|φn >=∑
i
|i > Uin (209)
17
であるから、|i >と |φn >はユニタリー変換で結ばれる関係にある。対角化に用いる行列U が分かれば元々のハミルトニアンの固有関数系 |i > を求めることもできる。このように、シュレーディンガー方程式を解くことと行列の対角化は全く同値である。
ハミルトニアンの固有値と固有関数を直接求めることが困難な場合は、それに近い演算子の固有関数系を用いて行列< φn|H|φm >を求め、その行列を数値的に対角化すれば、求めるハミルトニアンの固有値を求めることができる。束縛状態の問題では、調和振動子の固有関数は分かっているので、調和振動子の固有関数を |φn > として問題を解くことが良く行われる。解きたい問題になるべく近い演算子の固有関数を用いると少ない項数で答えを得ることができるので、問題に応じて適切な関数系を用いると良い。
39. 演算子の行列表現
上で出てきたように、ある正規直交関数系 φn(n = 1, 2, ..)を考えて、それを用いて演算子 Aから行列を作ることができる:
A = Anm : Anm =< φn|A|φm > (210)
これを基底系 φn(n = 1, 2, ..)による行列表現と言う。別の演算子 Bに対する行列表現は
B = Bnm : Bnm =< φn|B|φm > (211)
である。Aと Bの積を Cとすると、その行列表現は
C = Cnm : Cnm =< φn|C|φm >=< φn|AB|φm > (212)
であるが、一方、行列の積を取ると∑
i
AniBim =∑
i
< φn|A|φi >< φi|B|φm >=< φn|AB|φm >=< φn|C|φm >= Cnm (213)
となって、演算子の積を表す行列と、演算子を表す行列の積が等しいことがわかる。ただし完全性関係
∑i |φi >< φi| = 1を用いた。この意味で、演算子と行列は、積に関して 1
対 1対応をしている。和についても同様である。
もし、演算子の集合がある演算(積、和など)について群を成している場合、対応する行列の集合も群を成している。その関係が 1対 1であるとき、演算子の群と行列の群は同型であると言う。
40. 確率変数と確率分布
完璧な装置を用いてある物理量 xを測定したとする。完璧であるとは、誤差や偏差の全くない装置であると考えて欲しい。このような装置を用いても、測定対象が揺らぎを持っていれば、測定するたびに違う値が得られる。例えば量子力学では確率しか与えられないので、測定値は波動関数の絶対値の二乗で決まる確率を持って分布する。このような物理量を、統計学では確率変数と呼ぶ。
物理量 xに対するN回の測定を行って、測定値の集合 x1, x2, ..., xN が得られたとする。この時、xの分布を特徴づける量として、以下のような量を考える。
xの平均値 (標本平均) : < x >=1
N
N∑
i=1
xi (214)
xの分散 (標本分散) : σ2 =1
N − 1
N∑
i=1
(x− < x >)2 (215)
xの標準偏差 (標本標準偏差) : σ =
√√√√ 1
N − 1
N∑
i=1
(x− < x >)2 (216)
18
標準偏差は、平均値の周りの分布の幅を表す。また、xの値が x~x + dxに入る確率をP (x)dxとすると、このP (x)を確率変数 xの確率分布と言う。量子力学では、粒子の位置を表す確率分布は P (x) = |φ(x)|2である。確率分布は、
P (x) ≥ 0 (217)∫ b
aP (x)dx = 1、(xの定義域を [a, b]とする) (218)
< x > =∫ b
axP (x)dx (219)
σ2 =∫ b
a(x− < x >)2P (x)dx =< x2 > − < x >2 (220)
→< (x− < x >)2 > = < x2 > − < x >2 (221)
という性質を有している。
41. 量子力学の歴史
19世紀後半から 20世紀初頭にかけて、測定技術の向上に伴って、それまで築きあげられてきた古典力学では説明できない現象が多数発見されるようになった。それらは大きく分けて二つの方向、すなわち
(a) 原子や分子のようなミクロな対象が関係する現象
• 黒体輻射• 原子スペクトル• 光電効果
(b) 光速に近い物体の運動や電磁気学が関係する現象
に分類できる。このうち、1.のミクロ現象を説明するために量子力学が、2.を説明するために相対性理論が開拓された。
このうち量子力学では、光も物質も、波であり粒子であるという二重性を有することと、これらを表す波の振動数と波長を ν、λとすると、対応するエネルギーE 及び運動量 pが
E = hν (222)
p =h
λ(223)
で表されるという仮定 (プランク ·アインシュタイン ·ドブロイの仮定)に基づいて理論が構築された。ここで hはプランク定数と呼ばれる定数である。また、光に対しては、E = pc
という関係が相対性理論から導かれた。統計力学でもこれらの関係式、及び量子力学のいくつかの結論を用いる必要があるので、ここではそれらについて必要最小限の事項について述べる。量子力学を学んだことのある人はこの節を省略しても構わない。
量子力学はいろいろ常識と反する仮定を必要としたり結論をもたらす。その中に状態の離散性(許される状態が飛び飛びの値で識別されること)、スピン量子数、フェルミ粒子とボーズ粒子という概念、及び同種粒子の非識別性がある。
42. 量子数
下で述べるように、量子力学の世界を記述する基礎方程式はシュレーディンガー方程式である。この方程式は飛び飛びのエネルギーの値で解を持つので、状態をとびとびの値で識別することができる。このように、状態を識別するとびとびの値のことを量子数と呼ぶ。
19
43. 同種粒子の非識別性
まず、量子力学では対象とするミクロな複数の同種粒子を識別することはできないと仮定する。例えば、粒子 1が状態α にあり、粒子 2が状態 βにあるという状態と、粒子 2が状態α にあり、粒子 1が状態 βにあるという状態は全く区別が付かないため、これらを重複して数えてはいけない。もし粒子数がN個であれば、N個の粒子をN個の異なる状態に配置する場合の数はN !個あるが、それらの状態を区別してはいけないことになる。従って、ある条件の下でN 個の同種粒子を配置する場合の数を全て数えていった場合、最終結果をN !で割る必要がある。これが統計力学で必要な量子補正の一つである。
ただし、固体内の格子点に束縛された原子のように局在化した粒子の場合は、格子点一つ一つを区別することができるので、このような粒子集団を考える場合はN !で割ってはいけない。
44. スピン
全ての粒子はスピンという量子数を持っている。スピンは磁気モーメントに対応する量であるが、量子力学ではスピンの値は整数値または半整数値 (1/2, 3/2, ...)に限られている。スピンはベクトルと同じく x、y、z成分を持つが、その中でスピンの大きさ Sと同時に決定できるのは一つだけで、例えばそれを z成分とすると、スピンの z成分の値は−S,−S + 1, ..., S − 1, Sという 2S + 1個の値を持つ。これらの状態は全て異なる量子状態に対応するので、スピンを除く量子状態を一つ決めても、その中には 2S + 1個の異なる状態があると考える必要がある。この値 2S + 1をスピン多重度と言う。従って多粒子系の統計力学等で用いる状態数を計算する際はスピン多重度を掛ける必要がある。
熱力学の第三法則は、絶対零度ではエントロピーがある一定値に収束するという定理である。絶対零度では粒子の運動は凍っているため、粒子の持ちうる自由度はスピンの方向の違い、すなわちスピン多重度のみである。もしスピンがゼロであれば、スピン多重度は1でエントロピーは ln 1 = 0となる。スピンがゼロでない粒子の場合、絶対零度でのエントロピーは kB ln(2S + 1) という一定値に収束するが、古典的には絶対零度でのエントロピーをゼロと考える場合も多い。
45. ボーズ粒子とフェルミ粒子
整数のスピンを持つ粒子をボーズ粒子、半整数のスピンを持つ粒子をフェルミ粒子と言う。さらに
(a) ボーズ粒子は、一つの量子状態に何個の同種粒子でも入ることができるが
(b) フェルミ粒子は一つの量子状態には一つの同種粒子しか入ることができない
という重大な性質の違いがある。これはパウリによって導入された仮定であるが、これまでこの仮定に反する事実は見つかっておらず、むしろこの仮定によって多くの事実が説明されてきた。従ってこれは真実として認めるべき事項である。
なお、電子はスピン 1/2を持つフェルミ粒子である。従ってある量子状態には一つの電子しか入ることができない。しかし、上で述べたスピン多重度 2S + 1のために、スピン以外の量子数で指定した一つの状態には 2つの電子が入ることができる。
46. シュレーディンガー方程式
ミクロな系の従う基礎的方程式(古典力学のニュートン方程式に対応する)はシュレーディンガー方程式である。質量mの粒子がポテンシャル V の中にある場合、この粒子の
20
存在確率を表す波動関数 φは、方程式(− h2
2m∆ + V
)φ = Eφ (224)
に従う。これは二階の微分方程式であり、Eはこの粒子の持つエネルギーである。hはプランク定数 hを 2πで割ったものである。また、波動関数は固有関数と呼ばれ、|φ(r)|2が位置 rに粒子が存在する確率を表す。上の方程式はスツルム ·リウビユ方程式と呼ばれる方程式の一種であり、その性質として、無限遠でゼロとなる境界条件を課すと固有値 E
は、ある特定の飛び飛びの値しか許されない。従って粒子の持つエネルギーは、小さい順に番号を付けると、
E = E1, E2, E3, ... (225)
E1 ≤ E2 ≤ E3... (226)
という性質を持つ。この一つ一つの値が異なる量子状態(微視的状態)に対応し、異なる波動関数が解となる。その一つ一つを固有状態、固有関数と言う。
47. 最小不確定波束
ガウス型の波動関数
φ(x) =1
π1/4√
dexp
(ikx− x2
2d2
)(227)
を考える。この波動関数の絶対値の二乗を全空間で積分すると
∫ ∞
−∞φ∗(x)φ(x)dx =
1√πd
∫ ∞
−∞exp
(−x2
d2
)dx (228)
であるが、Gauss積分の公式∫ ∞
−∞e−αx2
dx =√
πα−1/2 (229)
を適用すると (α = 1/d2)
1√πd
∫ ∞
−∞exp
(−x2
d2
)dx =
1√πd
√πd = 1 (230)
と、正しく規格化された波動関数であることがわかる
次に、この波動関数を用いて、< x >、< x2 >、< p >、< p2 >を求める。
< x >=∫ ∞
−∞φ∗(x)xφ(x)dx = 0 (231)
は、被積分関数が奇関数(x=0の左右で符号が逆)であることからすぐに求まる。次に
< x2 >=∫ ∞
−∞φ∗(x)x2φ(x)dx =
1√πd
∫ ∞
−∞x2 exp
(−x2
d2
)dx (232)
は、ガウス積分の公式 ∫ ∞
−∞x2e−αx2
dx =
√π
2α−3/2 (233)
21
を用いると (α = 1/d2)
< x2 >=1√πd
∫ ∞
−∞x2 exp
(−x2
d2
)dx =
1√πd
√π
2d3 =
d2
2(234)
となる。これらより、位置の分散(不確定性の大きさ)は
< ∆x >2≡< (x− < x >)2 >=< x2 > − < x >2=d2
2(235)
となる。
次に< p >、< p2 >を求める。p = −ih ∂∂xに注意して
< p >=∫ ∞
−∞φ∗(x)pφ(x)dx = −ih
∫ ∞
−∞φ∗(x)
∂
∂xφ(x)dx (236)
であるが、∂
∂xφ(x) = (ik − x
d2)φ(x) (237)
となるため、∫ ∞
−∞φ∗(x)
∂
∂xφ(x)dx =
∫ ∞
−∞φ∗(x)(ik− x
d2)φ(x)dx =
1√πd
∫ ∞
−∞(ik− x
d2) exp
(−x2
d2
)dx = ik
(238)となる。従って
< p >= −ih · ik = hk (239)
である。次に
< p2 >=∫ ∞
−∞φ∗(x)p2φ(x)dx = −h2
∫ ∞
−∞φ∗(x)
∂2
∂x2φ(x)dx (240)
を計算する。
∂2
∂x2φ(x) =
∂
∂x
∂
∂xφ(x) =
∂
∂x(ik − x
d2)φ(x) = ik(ik − x
d2)φ(x)− 1
d2φ− x
d2(ik − x
d2)φ(x)
=
(−k2 − 2ik
x
d2− 1
d2+
x2
d4
)φ(x) (241)
従って∫ ∞
−∞φ∗(x)
∂2
∂x2φ(x)dx =
∫ ∞
−∞φ∗(x)
(−k2 − 2ik
x
d2− 1
d2+
x2
d4
)φ(x)dx
=(−k2 − 1
d2
)+
1
d4
d2
2= −k2 − 1
2d2(242)
これより
< p2 >= −h2(−k2 − 1
2d2
)=
h2
2d2+ (hk)2 (243)
従って、運動量の分散(不確定さの大きさ)は
< ∆p >2≡< (p− < p >)2 >=< p2 > − < p >2=h2
2d2(244)
22
となる。
以上の結果から
< ∆x >< ∆p >=
√d2
2
h2
2d2=
h
2(245)
となって、この波動関数の場合は、不確定性関係
∆x ·∆p ≥ h
2(246)
を満たす最小不確定性の波動関数となっている。
48. ガウス積分の計算
次のような積分を考える。I =
∫ ∞
−∞e−ax2
dx (247)
これと同じ積分を積分変数を yと書いても答えは変わらない。従って
I =∫ ∞
−∞e−ay2
dy (248)
これよりI2 =
∫ ∞
−∞
∫ ∞
−∞e−a(x2+y2)dxdy (249)
この積分は、xと yを二つの座標軸とする全平面上での積分である。そこで、極座標での積分に変換する
x = r cos θ (250)
y = r sin θ (251)
r2 = x2 + y2 (252)
平面の全体をカバーするためには、rは 0から∞まで、θは 0から 2πまでの範囲で積分する。積分変数を変換する際に生じるヤコビアン J は
dxdy = Jdrdθ (253)
J =
∣∣∣∣∣∂x∂r
∂x∂θ
∂y∂r
∂y∂θ
∣∣∣∣∣ =
∣∣∣∣∣cos θ −r sin θ
sin θ r cos θ
∣∣∣∣∣ = r (254)
∴dxdy = rdrdθ (255)
となる。これらを用いて、元の積分を rと θを使って書き直してから、t = r2、dt = 2rdr
と置いてから部分積分すると
I2 =∫ ∞
0dr
∫ 2π
0dθre−ar2
= 2π∫ ∞
0re−ar2
dr (256)
= 2π∫ ∞
0re−at 1
2rdt = 2π
1
2
∫ ∞
0e−atdt = π
[−1
ae−at
]∞
0(257)
=π
a(258)
従って
I ≡∫ ∞
−∞e−ax2
dx =
√π
a(259)
23
次にI2 ≡
∫ ∞
−∞x2e−ax2
dx (260)
を計算するには、
I2 = − d
daI (261)
であることを利用すれば、
I2 =∫ ∞
−∞x2e−ax2
dx =1
2
√π
a3(262)
となる。同様にして
I4 =∫ ∞
−∞x4e−ax2
dx = − d
daI2 =
3
4
√π
a5(263)
一般に
I2n ≡∫ ∞
−∞x2ne−ax2
dx = − d
daI2n−2 (264)
という漸化式から計算できる。
積分範囲の下限が 0の場合は
I0 =∫ ∞
0e−ax2
dx =1
2
∫ ∞
−∞e−ax2
dx =1
2
√π
a(265)
となる。
49. 合流型超幾何関数
微分方程式 [z
d2
dz2+ (b− z)
d
dz− a
]w(z) = 0 (266)
を合流型超幾何微分方程式(またはKummer方程式)と言う。ただし a、bは任意の複素定数であるが、bは 0または負の整数でないとする。この微分方程式の一つの解は
w(z) = cM(a, b, z) (267)
で与えられる。cは任意定数、Mは合流型超幾何関数 (confluent hypergeometric function)(またはKummer関数)
M(a, b, z) = 1 +a
b
z
1!+
a(a + 1)
b(b + 1)
z2
2!+ ... =
∞∑
n=0
(a)n
(b)n
zn
n!(268)
(a)n ≡ a(a + 1)...(a + n− 1) =(a + n− 1)!
(a− 1)!=
Γ(a + n)
Γ(a), (a)0 = 1 (269)
である。ただし Γ(z)はガンマ関数で、整数 nに対しては
Γ(n + 1) = n! (270)
である。b 6= −n(nは正の整数)の場合、(266)式の一般解wは
w = c1M(a, b, z) + c2z1−bM(a− b + 1, 2− b, z) (271)
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で与えられる。ただし c1、c2は任意定数である。
合流型超幾何関数の |z| → ∞での漸近形は
M(a, b, z) =Γ(b)
Γ(b− a)eiεπaz−ag(a, a− b + 1,−z) +
Γ(b)
Γ(a)ezza−bg(1− a, b− a, z) (272)
ε =
1, −π/2 < arg z < 3π/2
−1, −3π/2 < arg z ≤ −π/2(273)
g(a, b, z) =∞∑
n=0
(a)n(b)n
n!zn= 1 +
ab
z+
a(a + 1)b(b + 1)
2z2+ ... (274)
nを負でない整数とすると、(269)式より (a)n+1 = 0、つまりM(−n, b, z)は n次の多項式になる。一方、a 6= −nの場合、M(a, b, z)は |z| → ∞で ezのように振る舞う。
合流型超幾何関数は、以下の性質を有する:
M(a, b, z) = ezM(b− a, b,−z) (275)
a = −nに対しては、wは Laguerre多項式によって
M(−n, k + 1, z) =n!
(k + 1)n
Lkn(z) (276)
と表される。
50. ラゲールの多項式
微分方程式[z
d2
dz2+ (k + 1− z)
d
dz+ n
]w(z) = 0, (k, n = 0, 1, 2, ...,∞) (277)
の解はラゲールの多項式と呼ばれる:
w = Lkn(z) =
[(n + k)!]2
n!k!M(−n, k + 1, z) =
n∑
s=0
(−1)s [(n + k)!]2
(n− s)!(k + s)!s!z2 (278)
母関数はe−zt1−t
(1− t)k+1=
∞∑
n=0
tn
(n + k)!Lk
n(z), (|t| < 1) (279)
直交規格化関係は ∫ ∞
0e−zzkLk
n(z)Lkm(z)dz =
[(n + k)!]3
n!δnm (280)
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