第4回 強磁場の発生方法 (定常磁場、パルス磁場)...
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第4回. 強磁場の発生方法(定常磁場、パルス磁場)
磁場の発生方法
平たく言うと磁場の発生方法は左に示したコイルに電流を流す場合(a)と永久磁石を用いて発生させる場合(b)しかない。
前者が磁場の強さを任意に変化させられるのに対して後者は難しくまた数テスラに上限がある。
磁場の単位について
• 磁場の単位– CGSガウス単位系 エルステッド (Oe)
– MKSA SI単位系 アンペアパーメーター (A/m)
1 A/m=4px10-3 Oe
• 磁束密度の単位– CGSガウス単位系 ガウス (G)
– MKSA SI単位系 テスラ (T)
1 T=104 G
真空中 B=m0H m0:透磁率
1 Gの磁束密度を発生させる磁場は1 Oe m0=1
また、テスラとガウスの関係は1万倍とわかりやすいため、慣用的に磁場の単位をガウス、テスラで表す。
ちなみに地磁気の大きさはおよそ0.3~0.5ガウス
身の回りのものと様々な磁石の磁場(磁束密度)の大きさ
地磁気の大きさ 0.3~0.5 G
ピップエレキなどのフェライト磁石の表面 ~4000 G (=0.4 T)
ネオジウム磁石の表面 ~1 T
超伝導磁石(市販されている最高磁場) 20 T
非破壊のパルス磁石 100 T
破壊型のパルス磁石(電磁濃縮法) 720 T
破壊型のパルス磁石(爆縮法) 2000 T以上
磁場、温度、圧力の制御可能範囲の変遷
磁場は20世紀に最大1000テスラ、最小10-13
テスラに拡がった。
銀河系磁場
磁場の強さと対応する物理量, 自然現象磁場(磁界)
10-10 10-5 1 105 1010
磁場の強さ (テスラ = T)
1 eV1 K
白色矮星
ブラックホール?
磁束量子 (hc/2e)
地磁気 電子対エネルギー (mc2/mB)
中性子星
磁性体の内部磁場
筋肉
目脳波
生体磁気
永久磁石
超伝導マグネット ハイブリッドマグネット
非破壊型パルスマグネット
10-10 10-5 1 105 1010
[人工的な磁場] 破壊型パルスマグネット
1 cm-1
極限科学ー強磁場の世界 伊達宗行著パリティ物理学コースより
化学的カタストロフィ
化学的カタストロフィー
水素分子の場合 電子のスピンが対になり非磁性
結合軌道
反結合軌道我々の体などを構成している分子はスピンが反対向きになり結合軌道を作っているが、磁場が強くなるとスピンが同じ向きになった方がお得。そうすると分子は作れなくなる。物質相が大きく変わる。生き物は生きられなくなる!
1万~10万テスラ
対生成
電子と陽電子は通常一緒になってガンマー線を出し、単独で存在できない。
磁場
とても強い磁場中では電子と陽電子のスピンを磁場にそろえて別々に存在した方がエネルギー的にお得。
+
-
+
-ガンマー線
粒子の数が不安定になる。
ブラックホール(100億テスラ)
1ターンコイル上の磁場
z=0上
a2
IH
無限に長いソレノイド(n:単位長さあたりの巻数)
H=nI
ビオサバールの法則
有限サイズのソレノイド中の磁場
}z)(baa
z)(baaz)ln(b
z)(baa
z)(baaz)ln-{(b
)a2(a
1k
21
22
21
22
12
21
22
21
22
H=nkI
中心からz(m)離れた所
z=0とすると
2
22
2211
2222
12
11ln
)1(
baa
baaln
)a(a
bk
=a2/a1, =b/a1
消費電力と発生磁場
4λd
11)(αβ(αρ)R(
)
312 ap
p
1
0a
W
1)(2
1k
0H
2
22
211
ln1)(2
G
p
充填率:, 抵抗率: 全抵抗
d×dの線断面
直流電源につないで定常磁場を発生したときの中心磁場 H0 (A/m)
消費電力 W=RI2
ρa
Wλ
1
GH 0
ソレノイドコイルの形状因子G
Gの最大となる点
=3, =2, G=0.142
ヘリカルコイルと形状因子G
22
2
βαβ
β1βlnα
πβlnα2
1G
最大G =6~7, =2, G=0.166
消費電力の評価
銅製(=1.8x10-8(m))のヘリカルコイル(内径6 cm)
G=0.166, =0.8 (仮定)
20 Tの磁場を発生させると W=620万ワット
電気機関車 500万ワット東北新幹線 1000万ワット
ヘリカルコイルは冷却の観点から水冷磁石やハイブリッド磁石(後述)に使用
銅製(r=1.8x10-8(Wm))のソレノイドコイル(内径6 cm)に1.5 Tの磁場を発生させると
G=0.142, =0.9 (仮定)
W=8万5千ワット 実際の使用には倍くらいの冷却能力必要
透磁率の大きな軟鉄を用いて磁気回路を組む
cm~1.3x104 飽和磁化が限界 3Tくらいまで
強磁場は物性研究にどう役立つ?
物質の性質を決める電子の状態
変える
物性を調べる上には重要な物理環境
•サイクロトロン共鳴
•電子スピン共鳴
•核磁気共鳴
•磁気光学測定
•電気磁気伝導
•磁化測定
• 電子の位相
• 電子の周期性
• 電子相関
• 縮退をとる:多様性
• 絶縁体、半導体、磁性体、超伝導、金属
調べる
定常磁場とパルス磁場定常磁場
パルス磁場
時間
信号
信号
時間
連続波
・・・ 時間変化がない磁場
・・・発生装置が比較的コンパクト
1 T ~ 0.67 K
・・・ 寒剤(液体ヘリウム, 4.2 K)にかかる
・・・ 時間変化がある磁場
・・・ 瞬間的に大電流を発生させる
・・・ 通常, マグネットを液体窒素(77 K)
例)超伝導マグネット
費用が高い。
ための大型電源が必要
発生装置の規模が大きい。
で冷却した状態で使う。
寒剤のコストは低い。
磁場発生方法
定常磁場 常伝導磁石
鉄心を持つ電磁石 (3T)
水冷ビッターコイル (33T)
超伝導磁石 ヘリウム利用 (24T)
ヘリウムフリー (24.6T)
ハイブリッド磁石 (45.1T)
パルス磁場 非破壊型パルス磁石 (100T)
破壊型パルス磁石 一巻きコイル法 (270T) 磁場濃縮法
爆縮法 (> 2000 T)
電磁濃縮法 (720T)
高磁場の発生
※108~1010 T:中性子星、ブラックホール
爆縮法コイル
非破壊パルスコイル
電磁濃縮コイル
磁場(T)
時間(S)
10410-2 10210ー4 10610-8 10-6
1
10
100
1000
10000
1
水冷銅磁石
ハイブリッド磁石
電磁石
超伝導
磁石
定常磁場
永久磁石
NdFeB: 最強の永久磁石で0.5~1Tの磁場を容易に出せる。温度係数が大きいので磁気回路の設計には注意SmCo: NdFeBに次ぐ強力磁石。NdFeBに比べて温度特性が良い。フェライト: NdFeBやSmCoに比べると磁気特性は低いが、安価で化学的に安定。あまり強い磁場が必要でない用途や水の中などの使用環境が金属磁石に適していない用途アルニコ: SmCoに匹敵する残留磁化、保磁力は小さい。残留磁化の温度係数が他に比べて小さいことが長所。
永久磁石磁気回路
永久磁石による磁気回路
永久磁石を用いたMRI
電磁石の構成と磁気回路
鉄心断面積 S(m2) 空隙 断面積Sa (m2)
鉄心 長さ L(m) 長さ La(m)
鉄心 透磁率 m(H/m)
励磁コイル 巻数 N1, N2電極片の形状
電磁石に発生する磁場
LS
Sa
m
a
2211
1
a0
a
a0
2211
L
1)INI(N
]Sμ
L
μS
L[
Sμ
ININH(A/m)
)μ/μ( 0鉄心の比透磁率:m
通常 L>>La, S~Sa, I1=I2=I
N1I1+N2I2=2NI
LNIH /m2
1T以下の磁場 102~103
Fe-Co合金の軟磁性体
電磁石の長所と短所
長所
• 寒剤を使わなくてすむ
• 磁場発生の向きが水平面
• 磁場の向きを自由に変えられる
• 磁場の空間強度分布や磁場勾配を変えられる
短所
• 大重量
• ジュール熱が発生するため水冷の必要性
• 磁場ヒステレシス(<0.01 T)
水冷磁石の2つのタイプ
従来強磁場では強度的に強いポリへリックスが使用されてきた。
水冷ビッター磁石
冷却水
ビッター型水冷銅マグネットビッター板冷却水路締付ボルト
ビッター板切れ目
絶縁
多数のパラメータが相互に関連
電流(温度分布で変化)磁場(電流分布で変化)温度(電流分布、水温で変化)
応力(電流磁場、許容応力は温度の関数)
温度 応力
冷却孔の配置・形状
・磁場:30 mm 径に 30 T・直流電源:15 MW、熱に変換・冷却水:純水10℃を 700 m3/h( 6 MW )
物質・材料研究機構の水冷磁石
冷却設備
※MIT、フロリダ高磁場研(NMR)
超伝導体の超伝導転移温度
1900 1920 1940 1960 1980 20000
20
40
60
80
100
120
140
160
180
年
超伝
導転
移温
度T
c(K
)
Nb3Ge
Nb3Sn
NbNNbPbHg
Tl系
-
Bi系
Y系
La系
“高温”超伝導体の発見
超伝導現象発見BCS理論の完成
MgB2
液体窒素温度(77K)
Hg系
BKBO
秋光 純
J. G. ベドノルツ K. A. ミューラー
135K
J.バーディーン L.クーパー R.シュリーファー
H.K.オンネス
(2008)
LaFeAsO1-xFx
細野秀雄
鉄ヒ素系
(圧力下〜160K)
H3S
2015(圧力下203K )
超伝導磁石開発の歴史
• 1911 カマリンオネスの超伝導現象の発見
第一種超伝導体では自分の発生する磁場で超伝導が壊れる磁場(臨界磁場)が低く実用にならない。Pb 4.2 K Hc=650 Oe
• 1950年代第二種超伝導体の発見
• 1961 クンツラーがNb3Snを用いた超伝導磁石で6 Tを発生 (超伝導磁石元年)
実用になっているものはNbTi合金、Nb3Sn金属間化合物
研究用マグネットの発生磁場の推移
1975 1980 1985 1990 1995 200015
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
centr
al field
(T
)
year
NRIMNRIM
KfK
Oxford
KfK
+ Bi-2212
+ Nb3Al
TML
4.2 K 2.2 K
Nb3Sn+V3Ga
NbTi+Nb3Sn+V3Ga
NbTi+Nb3Sn
NbTi+Nb3Sn
NbTi+Nb3Sn
NbTi+Nb3Sn
(+B-2212, Nb3Al)
Year
Ce
ntr
al F
ield
(T
)
超伝導線材 ※MgB2=38K
4.2 K NbTi 11 T
Nb3Sn 28 T
銅のマトリックスの中に多芯の超伝導線材が埋まっている。
ヘリウムの相図
1気圧でのヘリウムの液化温度4.2 K
温度を下げると2.17 Kで超流動ヘリウムになる。
磁束のピン止め
磁場中で超伝導体に電流を流すとローレンツ力によって磁束の運動が生じる。
磁束の動き →電場→電圧の発生 (抵抗がゼロでなくなる)
磁束の動きを止める (磁束のピン止め)
このときの最大電流 ---- 臨界電流 Ic
ピン止め点:常伝導の析出物、添加物、転位、結晶粒界
臨界磁場が高い高温超伝導だが、臨界電流が小さいので実用化が難しい
超伝導磁石の臨界値
磁場
温度
電流密度臨界温度 Tc
上部臨界磁場 Hc
臨界電流密度 Jc
物質固有
製造方法に依存
臨界磁場、臨界温度
BCS理論で説明される超伝導体中では
20
c2
ep
Dc
2π
φB
)N(0)V
1)exp(
1.45
Θ(T
QD: デバイ温度、N(0): 電子状態密度Vep: 電子と結晶格子の相互作用の強さf0: 磁束量子、 : コヒーレント長
超伝導磁石の構造
上の超伝導磁石の断面図は右にようになる
ラムダチップでマグネットを冷やして2.2 Kでの動作を可能にする
NbTiコイル
(低磁場側)
Nb3Snコイル
(高磁場側)
NbTi/Nb3Sn 超伝導磁石の組み立て
外層-1コイル(Nb,Ti)3Sn
外層-2コイルNbTi
飽和超流動ヘリウム(1.8 K)
43
00
中層コイル(Nb,Ti)3Sn
Bi-2212 内層コイル
液体ヘリウム(4.2 K)
Bi-2212
試験用小コイル
18 T
(160mm)
21.4 T
(61mm)
23.4 T
(13mm)
磁場提供に使用実用性を実証
23 T超伝導マグネット
1993以降世界記録を保持現在のマグネットは24T
ノーベル化学賞 2002年
Professor Kurt WüthrichProf. John B. Fenn
(Virginia Commonwealth Univ.)
田中耕一氏(島津製作所)
タンパク質の質量分析
タンパク質のNMRによる構造解析
(ETH Zürich)
タンパク質構造解析用NMR施設
■NMRによる構造解析・利点: 溶液で計測可能・欠点: 分子量限界 30000・計測: 3重共鳴多次元NMR・標識: 安定同位体標識
13C、15N
理化学研究所横浜研究所ゲノム総合科学研究所
構造図と模式図
結晶中のミオグロビン ミオグロビンの
二次構造を示した模式図(赤いチューブはα-ヘリックス)
ミオグロビン1分子
PDB ID: 1MBN
900MHz NMR (21.1 T) 920MHz NMR (21.6 T)
Bruker, Oxford 物質材料研究機構
タンパク質構造解析用NMR超伝導磁石
920 MHz : 146 NOEs146500 MHz : NOEs44
高周波数化による分解能の向上
1H NMR1H NMR
×102 ×102
15N
NM
R
放射光X線を利用したタンパク質構造解析
X線構造解析用のタンパク質単結晶
ノーベル医学生理学賞 2003年
Professor Paul C. Lauterbur (The University of Illinois)
Professor Sir Peter Mansfield
(The University of Nottingham)
Raymond
Damadian
頭部functional-MRI画像(聴覚刺激:「あいうえお」刺激)
MRアンギオグラフィー
MRI装置
脳科学
医学
磁気共鳴イメージング(MRI)
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 20100
2
4
6
8
10
12
14
Ce
ntr
al F
ield
(T
)
Year
500 MHz
商用機
NbTi at 4.2 K
?
商用機
MRIの発生磁場の推移
オハイオ州立大学人体用MRI
(8 T, 80 cm)
NeuroSpin(仏、独)3 T人体用MRI
11.7 T人体用MRI
11.7 Tサル用MRI
17 Tマウス用MRI
脳機能解明
ヘリウムフリー超伝導磁石
臨界電流が小さい高温超伝導線を太い超伝導のリード線として使うと熱伝導率が低いので小型冷凍機で十分冷やせる。
高温超伝導電流リード線Bi2Sr2Ca2Cu3O10
H=0 T, Jc=1000 A/cm2
4 KのGM冷凍機
15 Tまで市販
(高温超伝導線材、GM-JT 冷凍機使用)
無冷媒型超伝導マグネット 25 T
24.6T/52mmソレノイド型(室温空間物性測定用)
東北大学金属材料研究所強磁場超伝導材料研究センター
超伝導磁石のクエンチクエンチの要因
(1)磁気的な不安定性フラックスジャンプ交流ロスによる内部発熱
(2)電磁力による不安定性超伝導線材の摩擦を伴う動きエポキシ含浸コイルでのエポキシの割れ
(3)その他超伝導線材のターン間ショート接続部の発熱
クエンチ
常伝導転移と拡大 抵抗発生
ジュール発熱温度上昇
ハイブリッド磁石の内部構造
無冷媒ハイブリッドマグネット (IMR)
最高磁場 28 T, 32 mm
東北大学金属材料研究所強磁場超伝導材料研究センター
ハイブリットマグネット
7~8 MW
31.1 T 有効径32 mm
(ポリヘリックス)
28.1 T有効径52 mm
(ビッター)
ハイブリッドマグネット (TML)
最高磁場 37.9 T, 32 mm
35.5 T, 52 mm
水冷銅マグネット室温ボア:32 mm
23.84 + (14.02) = 37.86 T 13.35 MW
(34.45 kA, 387.6 V )室温ボア: 52 mm
21.52 + (14.02) = 35.54 T12.82 MW
(34.88 kA, 367.5 V)
超伝導マグネット室温ボア:400 mm
発生磁場:14.2 T
ハイブリッド磁石の大きさと設置国
日本2箇所(東北大金研、物材機構)
米国フランスオランダ中国
超伝導磁石ボア径
300~500 mm
線材に働く張力応力X半径
ハイブリッドマグネット発生磁場の推移
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 200515
20
25
30
35
40
45
50
NHMFL
MIT
IMR
MIT
MIT
MIT
MIT
IMR
NHMFL
TMLTML
GHMFL
U. Nijmegen (MIT)
U. Oxford
中心
磁場
(T)
西暦 (年)
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