6.5 ヴィリアル定理と等分配則 - s研へようこそ! …clausius’...
TRANSCRIPT
6.5 ヴィリアル定理と等分配則
[ミクロカノニカル・アンサンブルでのヴィリアル定理]< 196, 197 >
6N 個の pν,qν(ν = 1, · · · , 3N)をまとめて xi(i = 1, · · · , 6N)と
書くと xi∂H/∂xkの平均は
〈xi∂H∂xk
〉 =∫ d6Nx
h3Nρ(x)xi
∂H∂xk
=1
h3N
∫E≤H≤E+∆E
d6Nx1
Ω(E)xi
∂
∂xk(H−E) (70)
後の便宜を考えて ∂E/∂xkを引いておく.これを少し書き換えて部
分積分を行う
〈xi∂H∂xk
〉 =1
h3NΩ(E)∆E
∂
∂E
[∫0≤H≤E
d6Nxxi∂
∂xk(H− E)
]
=∆E
h3NΩ(E)
∂
∂E
[ ∫0≤H≤E
d6N−1xxi(H− E)∣∣∣xmax
k
xmink
−∫0≤H≤E
d6Nδik(H− E)
](71)
第 1項は積分領域の端でH = Eだから消える.第 2項の微分から
〈xi∂H∂xk
〉 = − δikh3NΩ(E)
∆E[−∫0≤H≤E
d6Nx+ (H−E)|H=E
]
= δik∆E
Ω(E)
ω(E)
h3N
= δik1
∂
∂Eln Σ(E)
≈ δik1
∂
∂Eln Ω(E)
(N → ∞) (72)
2行目から3行目に行くさいにΣ(E) = ω/h3NとΩ(E) = (∂Σ/∂E)∆E
を使った.また最後の行に行くときには,ln Σ ≈ lnΩを使った.分
母は (1/kB)∂S/∂Eだから
〈xi∂H∂xk
〉 = δikkBT (73)
xが座標なら (このとき左辺の量はクラウジウスのヴィリアル
(Clausius’ virial)と呼ばれる)
〈qν ∂H∂qν
〉 = −〈qν pν〉 = −〈qνFν〉 = kBT (74)
26
つまり
−〈ri · Fi〉 = 3kBT (75)
xが運動量なら
〈pν∂H∂pν
〉 = 〈pν qν〉 = 〈p2ν
m〉 = kBT (76)
つまり
〈 p2i
2m〉 =
3
2kBT (77)
などの関係が導かれる.
[同次関数のポテンシャル]< 198 >
とくに粒子間に相互作用が働き,そのポテンシャル φ(|ri − rj|)が n次の同次関数2 であるときには,全ポテンシャルエネルギーを
Φ =∑
<i,j> φ(|ri − rj |)と書くと
〈N∑
i=1
ri · Fi〉 = n〈Φ〉 (78)
の関係が成り立つ.相互作用が距離のべき乗に比例する場合や調和
振動子などがこれに当たる.
[エネルギーの等分配則]< 198, 199 >
ハミルトニアンが,調和振動子のように 2次の同次関数である
とき
H(pν , qν) =3N∑ν=1
(Aνp
2ν +Bνq
2ν
)(79)
3N∑ν=1
(pν∂H∂pν
+ qν∂H∂qν
)= 2H (80)
より f = 2N を系の自由度として
〈H〉 =1
2
3N∑ν=1
(〈pν
∂H∂pν
〉 + 〈qν ∂H∂qν
〉)
=1
2fkBT (81)
つまり 1自由度に平均として kBT/2の熱エネルギーが均等に配分
される.
2n次の同次関数とは f(αx1, · · · , αxN ) = αnf(x1, · · · , xN )であること.これ
を αで微分し α = 1とおくとN∑
i=1
xi∂
∂xif = nf が得られる..
27
[カノニカル・アンサンブルでのヴィリアル定理]< 200 >
カノニカル・アンサンブルではヴィリアル定理の証明も簡単に
できる.
〈xi∂H∂xk
〉 =∫d6Nx
h3N
e−βH
Zxi∂H∂xk
= − 1
βZ
∫d6Nx
h3Nxi∂e−βH
∂xk
=1
βZ
∫d6N−1x
h3Nxie
−βH∣∣∣xmax
k
xmink
+1
βZ
∫ d6Nx
h3Nδike
−βH (82)
有限の区間に閉じ込められていれば第 1項は零だから
〈xi∂H∂xk
〉 = kBTδik (83)
[ヴィリアル定理と理想気体の状態方程式]< 200, 201 >
(74)を全粒子について和をとった
−〈N∑
i=1
ri · Fi〉 = 3NkBT (84)
の式の力 F の中身を考えよう.理想気体ならば力は壁からのみ働く
から
〈N∑
i=1
ri · Fi〉 = −P∫wall of the container
r · ndA
= −P∫volume of the container
∇ · r d3r
= −3PV (85)
これから直ちに状態方程式 PV = NkBT が得られる.粒子間に同
次関数ポテンシャルの相互作用がある場合には,これと (78)を使
うと
U =1
2[3PV + (n + 2)〈Φ〉] (86)
が導かれる (演習問題 11参照).
28
7 ボルツマン統計の応用
7.1 調和振動子
[N 個の独立な調和振動子からなる系]< 210 − 215 >
ハミルトニアンは
H =N∑
i=1
(p2
i
2m+
1
2kq2
i
)(1)
1個の調和振動子では微視的状態のエネルギー準位は,n = 1, 2, · · · ,∞として
εn =(n+
1
2
)hω (2)
1個の調和振動子の分配関数は
Z1 =∞∑
n=0
e−βεn
= e−βhω/2 1
1 − e−βhω
=
[2 sinh
βhω
2
]−1
(3)
N 個の振動子があれば分配関数は
ZN = ZN1 (4)
これからヘルムホルツ自由エネルギーが
FN = −kBT lnZN = NkBT ln
(2 sinh
βhω
2
)
=N
2hω +NkBT ln (1 − e−βhω) (5)
となる.N個の振動子は独立なので,示量変数のヘルムホルツ自由
エネルギーは 1振動子のものをN 倍しただけのことである.
この結果は,高温では古典統計の結果
ZN =1
hN
∫ N∏i=1
dpidqi e−βH
=
(kBT
hω
)N
(6)
FN = −NkBT lnkBT
hω(7)
29
と一致する (演習問題 9参照).
[エネルギーと比熱]< 211 − 213 >
(5)からエントロピーを計算すると
S
N= − 1
N
∂F
∂T= −kB ln (1 − e−βhω) +
1
T
hω
eβhω − 1(8)
これから内部エネルギーは
U
N=
1
N(F + TS) =
1
2hω +
hω
eβhω − 1(9)
高温 (hω/kBT 1)では,古典統計の結果とその補正が得られる.
U
N=
1
2hω +
hω(1 + βhω + 1
2(βhω)2 + 1
6(βhω)3 + · · ·
)− 1
=1
β
(1 +
1
12(βhω)2 + · · ·
)(10)
このとき hω/2があるおかげで 1次の補正項が消えたことに注意し
よう.低温 (hω/kBT 1)では 2準位系と同じ形になる.
U
N=
1
2hω + hωe−βhω (11)
比熱は
C =∂U
∂T=∂β
∂T
∂U
∂β= NkB
(βhω)2eβhω
(eβhω − 1)2(12)
0.5 1 1.5 22 ΠkT
hΩ
0.2
0.4
0.6
0.8
1
CNk
Figure 1: 調和振動子のエネルギーと比熱.
30
7.2 常磁性
N 個の相互作用のない磁気モーメント µが磁場 Hの中におかれた
常磁性体のエネルギーは
H = −N∑
i=1
µi · H (13)
この統計力学を古典論と量子論で考えよう.
[古典的常磁性体]< 215 − 218 >
古典論では µiは磁気モーメントの方位 θi, φiで系の微視的状態を指定すればよい.分配関数は
Z(β,H,N) =∫dΩ1 · · · dΩN e
βµH∑N
i=1cos θi = (Z1(β,H))N (14)
ひとつの磁気モーメントに対する分配関数は
Z1(β,H) =∫dΩ eβµH cos θ
=∫ π
0sin θdθ
∫ 2π
0dφ eβµH cos θ = 2π
∫ 1
−1d cos θ eβµH cos θ
=2π
βµH
(eβµH − e−βµH
)=
4π
βµHsinh (βµH) (15)
これからヘルムホルツ自由エネルギーが計算できる.
F (β,H,N) = −NkBT ln
[4π
βµHsinh (βµH)
](16)
磁気モーメントの期待値を計算しよう
〈µz〉 =∫dΩµ cos θ
eβµH cos θ
Z1(β,H)
=1
Z1(β,H)
1
β
∂
∂H
∫dΩ eβµH cos θ
= − ∂
∂HF1(β,H) (17)
全磁気モーメントの期待値も同様に
〈Mz〉 = N〈µz〉 = − ∂
∂HF (β,H,N)
= Nµ
[coth (βµH) − 1
βµH
]= NµL(x) (18)
ここでランジュヴァン関数 (Langevin function)L(x)は次のように
定義される.
L(x) ≡ coth x− 1
x(19)
31
高温,弱磁場,つまり x 1のときには
L(x) ≈ x
3− x3
45(20)
〈Mz〉 ≈ Nµ2
3kBTH (21)
このことから帯磁率 (磁化率: magnetic susceptibility)はキュリー
の法則 (Currie’s law) に従うことがわかる.
χ = limH→0
∂〈Mz〉∂H
=Nµ2
3kBT(22)
逆に低温,強磁場,つまり x 1のときには
L(x) ≈ 1 − 1
x(23)
となる.µは µB = 9.27× 10−24J/T程度なので,常温 T = 300Kで
はH = 10Tとしても x = 0.022であり弱磁場の場合にあたる.
[量子的常磁性体]< 215 − 218 >
量子力学によると,磁気モーメントは角運動量演算子を使って
µ = gµBjと書ける (j全角運動量,gランデ因子).磁場中のエネル
ギーの固有値は
E = −gµBHm (24)
m = −j,−j + 1, · · · ,+j (25)
となるので,分配関数は (演習問題 15参照)
Z1(T,H) =j∑
m=−j
eβgµBHm (26)
と書ける.
j = 1/2のときは g = 2,ε = µBHとして
E =
+ε, (m = −1/2)−ε, (m = 1/2)
(27)
これは 2準位系である.
Z(β,H,N) =(eβε + e−βε
)N= 2 coshN (βε) (28)
F (β,H,N) = −NkBT ln (2 cosh (βε)) (29)
32
これから熱力学諸量を計算すると
S = −∂F∂T
∣∣∣∣∣H,N
= NkB [ln (2 cosh (βε)) − βε tanh (βε)](30)
U =∂(βF )
∂β
∣∣∣∣∣H,N
= −Nε tanh (βε) (31)
〈Dz〉 = − ∂F
∂H
∣∣∣∣∣T,N
= NµB tanh (βε) (32)
C =∂U
∂T
∣∣∣∣∣H,N
= NkB(βε)2sech2(βε) (33)
角運動量 jの一般の値については
F (T,H,N) = −NkBT ln
[sinh (βgµBH(j + 1/2))
sinh (βgµBH/2)
](34)
33
7.3 2準位系と負の温度
ここでは一粒子のエネルギーがE = 0と E = εの二つの順位をと
りうるN 個の粒子からなる 2準位系を考える.
[2準位系の復習 (ミクロカノニカルの扱い)]< 223, 224 >
x ≡ U/Nεと書くと,エントロピーは
S(U,N) = kB
[U
εlnNε
U+Nε− U
εln
Nε
Nε− U
]= −kBN [x ln x+ (1 − x) ln (1 − x)] (35)
1
T=dS
dU=dx
dU
dS
dx=kB
εln
1 − x
x=kB
εlnNε− U
U(36)
エネルギーU,あるいはこれを εで割ったE = εの準位にある割合
p+は
U =Nε
1 + eε/kBT(37)
p+ =U
Nε=
e−ε/kBT
1 + e−ε/kBT(38)
0.2 0.4 0.6 0.8 1UNΕ
0.2
0.4
0.6
0.8
1
SNk
Figure 2: 2準位系のエントロピー.
[2準位系の復習 (カノニカルの扱い)と負の温度]< 224, 225 >
カノニカル・アンサンブルでは
Z(T,N) = (1 + e−ε/kBT )N (39)
F (T,N) = −NkBT ln (1 + e−ε/kBT ) (40)
34
励起状態にある確率は
p+ =e−ε/kBT
1 + e−ε/kBT(41)
いずれの場合も 2準位系では p+が温度を決めていると考えるこ
とが出来る.励起状態と基底状態にある割合の比 p+/p0から温度は
次のように定義される.
ε
kBT= − ln
p+
p0= − ln
p+
1 − p+(42)
ほかにエネルギーが逃げていかなければ系に強引にエネルギーを注
入していくと p+ > p0とすることができる.このような反転分布
(p+ > p0)ならば温度は負であると言ってもよい.
エネルギーの上昇に伴う温度の変化は温度変化は
T = 0 → T > 0 → T = ∞
→ T = −∞ → T < 0 → T = −0
完全平衡ではこのような分布は実現できないが,レーザーの発振の
ような場合,一時的には部分系で負の温度が実現する.
35
7.4 内部自由度のある気体
気体分子は分子の回転振動などの内部自由度を持っており,これら
も比熱などに寄与する.ここでは簡単のため 2原子分子を例にとっ
て何が起きるかを見てみよう.
[2原子分子の回転 (古典力学)]< 226 − 229 >
Figure 3: 古典的な 2原子分子.
古典力学では,異種原子からなる 2原子分子の回転の運動エネ
ルギーは
K =1
2I(θ2 + sin2 θφ2) (43)
I = m1a21 +m2a
22 (44)
と書ける.ここで a1,a2は分子の重心から両方の原子核までの距
離である.ハミルトニアンは
Hrot =1
2I
(p2
θ +1
sin2 θp2
φ
)(45)
これから,1分子の回転運動についての分配関数が計算される.
Zrot =1
(2πh)2
∫ π
0dθ
∫ 2π
0dφ
∫ ∞
−∞dpθ
∫ ∞
−∞dpφ
exp[− 1
2IkBT
(p2
θ +1
sin2 θp2
φ
)]
=1
(2πh)2
∫ π
0dθ
∫ 2π
0dφ
√2πIkBT
√2πIkBT sin2 θ
=2IkBT
h2 ≡ T
Θ(46)
[問題] (15)で θでの積分中に現れた sin θが上の式に現れないの何故か?
1分子の回転運動についての熱力学的量は
Frot(T ) = −kBT ln2IkBT
h2 (47)
36
Srot(T ) = −∂Frot
∂T= kB
[ln
2IkBT
h2 + 1
](48)
Urot(T ) = Frot(T ) + TSrot(T ) = kBT (49)
[2原子分子の回転 (量子力学)]< 230 − 232 >
今度は量子力学によって考える.ハミルトニアンは角運動量演
算子 Lを使って
Hrot =1
2IL2 (50)
と書ける.この固有値は,角運動量の量子数 (l = 0, 1, 2, · · ·,m =
−l,−l + 1, · · · , l − 1, l)を使うと
εl,m =h2
2Il(l + 1) (51)
となる.1分子の回転運動についての分配関数は
Zrot =∞∑l=0
l∑m=−l
e−βεl,m (52)
=∞∑l=0
(2l + 1) exp
[− h2
2IkBTl(l + 1)
](53)
高温と低温の両極限での振舞いを調べよう.
i) 高温 (h2/2IkBT 1)では
Zrot ≈∫ ∞
0dx (2x+ 1)e
− h2
2IkBT(x2+x)
=2IkBT
h2 (54)
となって古典力学の結果と一致する.
ii) 低温 (h2/2IkBT 1)では
Zrot ≈ 1 + 3e− h2
IkBT (55)
となり,2準位系の上の準位が 3重に縮退している場合に相当する
ことがわかる.
1分子の回転運動についての熱力学的量は
Frot(T ) ≈ −kBT ln (1 + 3e− h2
IkBT ) ≈ −3kBTe− h2
IkBT (56)
Srot(T ) ≈ 3h2
ITe− h2
IkBT (57)
Urot(T ) ≈ 3h2
Ie− h2
IkBT (58)
Crot(T ) ≈ 3kB
(h2
IkBT
)2
e− h2
IkBT (59)
37
以上の計算は,同種原子の A2ではなく異種原子からなる分子
ABについて正しい式である.量子力学で同種粒子の場合には回転
準位に制限がつくことがわかっている.
[問題] ここではある特定の軸の周りの回転しか考えていないが,ほかの軸
のまわりの回転がどうなるかを考えよ.
[2原子分子の振動]< 232 − 233 >
原子間の相対距離の変化は分子の振動となる.1分子の振動の
エネルギーは n = 1, 2, · · · ,∞として
εn =(n+
1
2
)hω (60)
ω =
√κ
µ(61)
と書けるだろう.ここで µは換算質量 (= m1m2/(m1 +m2)),κは
バネ定数
κ =∂2V (r)
∂r2
∣∣∣r=a
(62)
である.したがって,分子振動はあまり温度が高くなければ調和振
動子のものと同じである.温度が高くなって高エネルギーの状態が
効いてくると非調和性が見えてくる.
[現実の 2原子分子]< 233 − 234 >
酸素分子では hω/kB = 2.2 × 103K,h2/2IkB = 2K位である.
常温では,kBT hω,kBT h2/Iなので,回転運動は励起され
るが振動はあまり比熱に効かないと考えられる.
38