3.3 甲板用具(ブロック、テークル、フック、...

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- 21 - 3.3 甲板用具(ブロック、テークル、フック、シャックル、その他) 3.3.1 ブロック (1)構成 ブロック(滑車・block)は図に示すような部分 によって構成されている。 ヘッド(head):ブロック上端 アス(ass):ブロック下端 シェル(shell):ブロックの外郭全体 シーブ(sheave):ロープを導く中心の車 ブッシュ(bush):シーブの回転を滑らかにする ために、その中央にはめ込ん である座金 ピン(pin):シーブの回転軸となりシェルと シーブを貫通する心棒 ストロップ(strop):木製ブロックを必要なところにかけるためにシェルの外側にま わしてあるロープ スワロー(swallow):シェルとシーブの隙間で、ロープが通る部分 ブリーチ(breech):シェルとシーブの隙間で、ロープが通らない部分 スコア(score):ストロップを取り付ける場合のシェルにつけた溝 (2)サイズ ブロックのサイズは、次のように表されている。 ☆木製ブロック→シェルの長さ(㎜ or inch) 木製ブロックシーブ直径= ×シェルの長さ ☆鋼製ブロック→シーブ直径(シェルの形が不定) 中央のへこんだ部分ではなくその外側をはかることになっている。 (3)ブロックの種類 ブロックはシーブの数によって1枚滑車(single block)、2枚滑車(double block) などと呼ばれるが、そのほか材料・構造及び用途などによって次の種類がある。 a.材料による分類 ○木製ブロック(wooden block) シェルが木製のもので、その材料としてけやきやチークなどを使用する。シーブは、 リグナムバイタ・鋳鉄・真ちゅうなどでつくられる。 なお、木製ブロックにはストロップを用いないで鋼製のバンドを使用するものも多く、 そのうちバンドをシェルの内側にはめ込んだものを内帯滑車、外側にはめ込んだ外帯滑車 とがある。 ○金属ブロック(metal block) シェルの材質が鋼板または可鍛鋳鉄でシーブが鋳鉄製の鋼製ブロックや真ちゅうを 材料としたブロックをいう。

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3.3 甲板用具(ブロック、テークル、フック、シャックル、その他)

3.3.1 ブロック

(1)構成

ブロック(滑車・block)は図に示すような部分

によって構成されている。

ヘッド(head):ブロック上端

アス(ass):ブロック下端

シェル(shell):ブロックの外郭全体

シーブ(sheave):ロープを導く中心の車

ブッシュ(bush):シーブの回転を滑らかにする

ために、その中央にはめ込ん

である座金

ピン(pin):シーブの回転軸となりシェルと

シーブを貫通する心棒

ストロップ(strop):木製ブロックを必要なところにかけるためにシェルの外側にま

わしてあるロープ

スワロー(swallow):シェルとシーブの隙間で、ロープが通る部分

ブリーチ(breech):シェルとシーブの隙間で、ロープが通らない部分

スコア(score):ストロップを取り付ける場合のシェルにつけた溝

(2)サイズ

ブロックのサイズは、次のように表されている。

☆木製ブロック→シェルの長さ(㎜ or inch)

2木製ブロックシーブ直径= - ×シェルの長さ

☆鋼製ブロック→シーブ直径(シェルの形が不定)

中央のへこんだ部分ではなくその外側をはかることになっている。

(3)ブロックの種類

ブロックはシーブの数によって1枚滑車(single block)、2枚滑車(double block)

などと呼ばれるが、そのほか材料・構造及び用途などによって次の種類がある。

a.材料による分類

○木製ブロック(wooden block)

シェルが木製のもので、その材料としてけやきやチークなどを使用する。シーブは、

リグナムバイタ・鋳鉄・真ちゅうなどでつくられる。

なお、木製ブロックにはストロップを用いないで鋼製のバンドを使用するものも多く、

そのうちバンドをシェルの内側にはめ込んだものを内帯滑車、外側にはめ込んだ外帯滑車

とがある。

○金属ブロック(metal block)

シェルの材質が鋼板または可鍛鋳鉄でシーブが鋳鉄製の鋼製ブロックや真ちゅうを

材料としたブロックをいう。

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b.構造、用途による分類

○ジンブロック(gin block)

主として荷役用として使用される

鋼製滑車

○スナッチブロック(snatch block)

1枚滑車のシェルをスワローのと

ころで片面だけ切り開き、開閉自由

にしたものである。

ロープの途中でかけはずしができ

るため、導滑車(leading block)に

利用される。

○スイベルブロック(swivel block)

シェルに取り付けた鋼製バンドにス

イベルを付けたもので、ブロックが自由

に回転して向きを変えることができる。

(4)強度と規格

ブロックの規格はJISに規定され、強度については次のような標準になっている。

☆鋼製ブロック → ピン又はフックなどの付属具の強度

ストロップ使用の場合 → ストロップの強度☆木製ブロック

ストロップ使用しない場合→ ピン又はフックなどの付属具の強度

ファイバロープには木製ブロックを使用し、ワイヤロープには鋼製ブロックを使用する

が、ブロックの大きさと使用する索の太さとの関係は次のような標準になっている。

☆鋼製ブロック----------- シーブの径 =ワイヤロープの径の約17倍

☆木製ブロック----------- シェルの長さ=ファイバロープの径の約10倍

3.3.2 テークル

(1)構成

テークルは、次のように構成される。

移動しない定滑車(stational block)

移動する動滑車(movable block)

テークルに通すフォール(fall:通索)

フォールは、次のように構成される。

・固 定 さ れ た 部 分→スタンディング・パート(standing part)

・移 動 す る 部 分→ランニング ・パート(running part)

・力をかけて引く部分→ホーリング・パート(hauling part:引手)

(2)種類

テークルの種類と倍力は、別表に掲げるとおりである。

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チ ー ク ノし の 稚 菓買 と 偉 力

名 称 出資t■■■竪当 引き手

(数字はシーア教:m) 方向 実倍力壬3≡蓋 1.シングルホイップ$i叩Ie}hip

‘・ノ√ノ㌧1

1

固定滑車と遺棄の簡単なもので力の方向を 下 10/11= 0.91

かえるだけで借力はない。一名ホイップとも

いう。

2.ランナーrunner

シングルホイップを逆にし、固定滑車虻勤 1

u よ2。/11=1.82 滑車として使用したもので、他の子ークルと H f′ソ‘′‘ l.l・ H u f上 H l l 2

組み合わせることが多い。

』f~■’′一組

3.ダブルホイップdol」ble油ip l

ランナーとホイップを組み合わせたもので 2ぎ下 円 】 1 2 -

20/12=1.67

このため一名ランナーアンドホイップ(ru! l

l

nnerand-hip)ともいう。 ! i

4.ガン・チークルguntackle 2 20/12=1・67 2個の単汁辛からなり、通索の引き手のヰ

き方(あるいは根本の取付位鷹)によって、

倍力が変わる。 3 2= 2.5 i2甜2. 下妻 E 3 【 30/13=2・31

i

4 H 40/13=3.08 ‖ 5.ラフチークルIufftackle各々1価の 単清書と複汁辛からなり、勤滑車に単滑車を 使えば倍力は3、複漕手を使えば4となる。 小型のものをウオサブテー州(伯tChtackIe)ま H H

上 川 n

6.ツーフォールドパーチェス 4 4下 4 H 40/14=2.86 仙ofold叩rCha$e

i

2個の社滑車からなり引き手のヰき方によ

り偉力が4倍力、または5倍力となる。 上 5 4= 3.57

7.スリープオールドパーチェス 6 6 n 60/16=3.75 ‖ threefoldpLJrCha$e

2個の3校滑車からなり、事、-ト,●ヒーットのr-

フ“ロックなどに取り付けられ、重t物の精げ降 7. 6= 4.:適 しに使われる。

i H ′ 6書下. 【 】上 - lr ll’ H H .■† n 8.シングルスバニッシュバートン

SinglespanishbLJrtOn l

3 1 30/12= 2.5 l

i

9.ダブルスバニッシュバー トン

2個の単滑車と通素を囲のように迎み立て ′:▲ノ■‘_

2

double spanish burton l

複汁手を定滑車として2個の単滑車を勤滑 下l 5

妄Ⅹミニル讐宗三三毛深甥誤だ i

10.ベルパーチェスbellpLJrChase 5 下 7 70/15= 4.67

もので、偉力は了倍であろ。 認更._.-ト。.・. 1シ′′∽1ニ1;づ 6 l H

1

8 80/14= 5.7l

12.ラフアポシラフILJffuponluff 9 l H H 90/16=5.63

12 16=7.5

ユ、ユ×-1となろ。 ラフチークルの引き手に更にラフチーク を取り付けた磯子ークルて、引き手接続那 組み合わせ方によって値力は、3×3、3 6 上 下l 上 16 16=10

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(3)倍力

テークルにかける荷重に対する引手の力の割合を倍力と言い、

『見かけ倍力』と『実倍力』がある。

見かけ倍力:テークル各部に働く摩擦などを無視した倍力を見かけ倍力という。

実 倍 力:ブロックのシーブとピンの間、シーブとロープの間などには摩擦があり、

これらの摩擦によって荷重の大きさはシーブ1枚について1/10程度増加すると考えられる。

このようにテークル各部に働く摩擦などを考慮した倍力を実倍力という。

(4)取扱い要領

a.テークルのフォールは一般に右まわりに通し、シーブ数の多いブロッ

クを使用するときは、引手を中央のシーブから導く。

b.使用前にフォールのもつれをきれいに取る。

c.同一のロープを繰り返し使用するときは、ホーリング・パートとスタンディン

グ・パートを振り替えて使用する。

d.ブロック及びテークルを分解し,必要な部分にはグリスアップする。

e.シーブの部分は、ロープとの接触あるいはそれ自体の回転など も酷使される

部分なので特に点検し、シーブに切り欠きがある場合には使用しない。

3.3.3 フック( ) JIS-F2105hooks(1)種類

a.プレインフック( )plain hookb.リバースアイフック( )reverse eye hookc.ダブルスイベルフック( )double swivel hook

各部名称:1.アイ( ) 2.バック( ) 3.クリア( )eye back clear4.ビル( ) 5.クラウン( )bill crown

(2)強度

○安全使用力略算式:ton

(0.1~0.05)×d (d〈㎜〉:背部-backの断面径)2

断面円に近いほど0.05に近い値とする。

○大きさの表示:フックの径〈㎜〉

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3.3.4 シャックル( ) JIS-B2801shackles(1)種類

a.ストレートシャックル

( )straight shackleb.バウシャックル

( )bow shackle

各部名称:

1.ジョー(jaw)

2.ボルト、ピン(bolt,pin)

3.ラグ( )lugs4.クリア( )clear5.クラウン( )crown

(2)強度

○安全使用力略算式:ton2 2a.・・・・0.6×d b.・・・・0.45×d

○大きさの表示:シャックルピンの径〈㎜〉

3.3.5 その他

(1)スイベル( )swivel

(2)リギン スクリュー( )rigging screw

(3)アイ ボルト( )eye bolt

(4)リング ボルト( )ring bolt

(5)クリート( )cleat

(6)ターンバックル( )turn backle

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3.4 腐食と防食

3.4.1 腐食

○金属が化学的反応または電気化学的反応により、変質破壊される現象

(1)腐食と潰食

金属表面に接する環境中の物質との不必要な化学反応による金属の消耗現象腐 食:

かいしょく

液体または湿潤なガス体が金属の一部において急速に流れるとき、あるいは衝撃潰 食:

を与えるとき、その部分に孔食といった機械的作用を及ぼす現象

cavitation“ ”:キャビテーション(空洞現象)

船尾部のプロペラや舵のように、水中に溶解している空気(淡水20℃では空気として約30㏄

/㍑,そのうち酸素は約6㏄/㍑)が圧力の急激な低下により爆発的に泡となり、すぐ物体に衝突

して潰れ、物体に圧力波を与えて繰り返し応力による腐食疲労を起こし、衝撃部に疲労亀裂を発生

しながら孔食を生じる現象。

(2)腐食の種類

a.酸化作用:

空気中あるいは水中にある酸素と化合すること、又は水素を失う反応。

cf:<←→還元作用:水素と化合すること又は酸素を失う反応>

酸化作用の著しい場所:船体露出部,水線部

2 2 2Fe+2H O→Fe(OH) +H

3水酸化第1鉄 :水酸化第2鉄Fe(OH)cf

b.電食作用(galvanic corrosion):

2つの異なった金属間に電流が流れ、陽極化した金属が腐食すること。

電食作用の著しい場所:船体外板部

単位:Volt・・・・・イタリア物理学者 A.VOLTA 1745~1827

金属体がその接する電導性水溶液との間に生ずる電位差)主な金属の標準電極電位(

Cu(Cu ) H(H ) Fe(Fe ) Zn(Zn ) Al(Al ) Mg(Mg )++ + ++ ++ +++ ++

0.34 0 -0.44 -0.76 -1.69 -2.31(V)

電極電位の異なる2つの金属体を、電導水溶液にひたし、上部を導線で結合すると、

高い 陰極 Cathode:カソード 抑制電極電位の 金属 ( ):腐食

電極電位の 金属 ( ):腐食 =消耗低い 陽極 anode):アノード 促進腐食促進要素:①両電極の電位差が大きい(流れる電流が大きい)。

②水溶液の電導度が大きい。

局部電池(local Cell)の形成←→Short-circuit cell(短絡電池)

単一の金属又は合金であっても、その材質表面の局部的不均一(組成、組織、内部歪、

表面状態等)により、活性な部分が陽極となって腐食されることがある。即ち、加工程度

の大きな部分や凹部が陽極となり、局部電池を形成する。

c.純化学作用 酸とアルカリの化学作用

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(3)腐食環境

①大気

空気の組成( )窒素78%,酸素21%,二酸化炭素0.03%,アルゴン0.9%等

②水

ア.清水→水酸化物

イ.海水→食塩重量濃度10%以上→純水より腐食量は する。減少0.005ipy(Inch Per Year)=0.0127cm/year

1Inch=2.54cm

③温度・・・・・・化学反応速度は10℃上昇毎に2倍になると言われる。

④燃料、油脂

重油、灯油、軽油、揮発油、潤滑油等の石油系

cf:純粋な鉱物油には腐食性はない。

⑤さび

ミル・スケール→鉄に対して陰極→鉄の腐食増大 ←

赤さび・・・・・多孔吸湿性→水分を保存→鉄に対して陰極 →

3.4.2 防食

(1)防食方法

a.環境との接触遮断:表面被覆防食

①塗料被覆=塗装

②金属化合物被覆

③ホーロー被覆 ガラス質材の溶融固着

④溶融金属被覆 亜鉛・錫

⑤電気メッキ 陰極金属の上に陽極金属を電気分解的に付着

⑥金属張り合わせ

⑦FRP,ゴム材被覆

b.環境の改善

①除湿

②水の脱気・・・・・ボイラー防食

溶解ガス体は、ガス圧大の低温水中に存在しやすい

真空暴露 or 蒸気流の注水加熱

③腐食抑制剤(corrosion inhibitor)

④電気防食 ○流電陽極法 ○外部電源法

c.材料の選択使用

①材料についての製造及び加工上の注意 ②組立使用上の注意:

材料の不均一 リベット、溶接、鍛接

材料への不純物混入 を避ける

材料への応力集中

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3.4.3 汚損と防汚

(1)船体付着生物の種類

水線下外板に生物が付着する現象を船底汚損(ファウリング: )という。付着生fouling物のうち植物(下記①)については、比較的寒冷な季節に繁茂して、日光と酸素の供給の

多い水線付近に付着することが多い。また動物(下記②~⑧)については、大体温暖な季

節に生成発育し比較的船底に近い場所に付着し、殻を付着するものは死滅してもその殻が

船体の摩擦抵抗の主な原因となる。塩分が少なく淡水に近いような水域でも、温度が高い

地方では動物類の付着を見ることもある。付着生物の種類として次のようなものがある。

①海藻類(アオサ・アオノリなど):日光に富む水面下2 3m以内に付着する。~

②フジツボ:約150種ある。

③セルプラ ④コケムシ ⑤カキ類 ⑥ホヤ

⑦エボシ貝:長期停泊中に付着する。 ⑧カラス貝:長期停泊中に付着する。

(2)船体汚損による速力減少

一般に抵抗増加は

出渠後3か月以降1か月毎にRfの3~5%

出渠後6か月以降1か月毎にRfの5~10%

Rf:水の粘性に基づく船体の摩擦抵抗

航走中の船体が受ける全抵抗

水抵抗 摩擦抵抗造波抵抗

空気抵抗 剰余抵抗渦抵抗

速力の減少=抵抗の増加

抵抗の増加に影響を及ぼす諸要素1.船体付加部の抵抗増加:ビルジキール、プロペラシャフト等2.船底汚損による抵抗増加:

船底塗料の剥離、錆の発生、海藻の付着など3.外力による抵抗増加:風圧、波浪の衝撃等4.浅水影響による抵抗増加:船の喫水に比べて水深の浅い場合

(3)防汚

塗装による防汚 塗装以外の防汚(本格的な実用化には難題が多い)

火力発電所取水パイプで一部実用化○A/F塗装 ○海水の電気分解:弱アルカリ性 陽極 2Cl = Cl +2e-

4OH =O +2H O+4e-2 2

Cl +2OH =ClO +H O- - -2

2 2陰極 2H O+2e=2OH +H-

海水中で次亜塩素酸ナトリウムとなり海水生物付着防止作用

超音波振動(細胞破壊・温度上昇・数百万Hz)○SPC塗装 ○超音波利用=

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3.4.4 塗料と塗装

塗料:流動状態で物体の表面に塗り広げたとき、連続する膜となって固着し、

塗装の目的を果たすもの。

塗装:塗料を物体の表面に塗って塗膜を形成すること。

(1)塗料の一般的な組成顔 料(着 色 要 素) 着色塗料

塗膜形成部分 樹脂等(塗膜形成主要素)

添加剤(塗膜形成副要素) 展色剤(透明塗料)

溶 剤(塗膜形成助要素)

(2)塗膜を形成するための諸要素

(ア)顔料:水、溶剤、油類に不溶性の微粉末で、塗料を着色し隠蔽力を与える。

(イ)樹脂等(塗膜形成主要素)

○天然樹脂:動植物の生理的作用(時には病理的作用)により作られる物質のうち、

無定形で不揮発性、有機溶媒に可溶な物質をいう。水に不溶で加熱すると軟化する。

主に針葉樹等から分泌し、代表的なものに松脂がある。松脂を蒸留すると精油として

のテレピン油が留出し、後に真正の樹脂すなわちロジンが残る。

また昆虫の分泌物にはセラックがある。

○合成樹脂:比較的簡単な成分の原料から化学的方法で合成した天然樹脂類似の物質で、

天然樹脂と物理的な性質は似ていても化学的性質は全く異なる。種類は多く、いずれ

も各種の原料を結合または重合させたもので、溶剤には可溶性のものと不溶性のもの

がある。天然樹脂の代用としてこれに優る原料として塗料の製造に広く利用される。

○高分子誘導体:天然の高分子化合物を化学的に処理して製造し、合成樹脂に類似の性

状となるものを塗料の原料とする。繊維素(セルロース)誘導体とゴム誘導体がある。

○油脂:中性脂肪ともいい、脂肪酸のグリセリンエステルからなる。常温で固体のもの

を脂、液体のものを油という。空気酸化により硬化するものを乾性油、硬化しないも

のを半乾性油(または不乾性油)という。塗料には乾性油が用いられる。

(ウ)添加剤(塗膜形成副要素)

可塑剤、乾燥剤、硬化剤、増粘剤、防腐剤、防食剤など塗料中に少量を加えるこ

とにより、塗料の性状を調整する薬剤であるが、塗料によっては全く使用されない

こともある。

(エ)溶剤(塗膜形成助要素)

塗装しやすいように、塗料の粘度を調整するために加えられ、特殊な場合を除い

ては空気中に蒸発し去り、塗膜として残らない。下塗りや素材を冒さないで樹脂な

どをよく溶解する力があり、塗装方法にあった蒸発速度を持たすことが必要である。

(3)塗料の機能と塗装の目的防 食防 汚 物体表面の保護

塗料の機能 絶 縁 塗装の目的

装 飾物体表面の美化

清潔化

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(4)船舶用塗料の種類と特徴

(アルキド樹脂※1塗料)1.油性および油変性塗料

多価アルコール(例えばグリセリン)と多塩基酸(例えばフタル酸)との加熱縮合物

(※2)を脂肪油又は脂肪酸で変性した油変性アルキド樹脂を一般にアルキド樹脂という。

長所:乾燥性が良く、耐候性・光沢が優れている。→船舶用として没水部以外の場所に多

く使用されている。

短所:耐水性がやや劣る。→水分・湿気の多い所には使用できない。

※1:フタル酸樹脂とも呼ばれるがアルキド樹脂の方が広義

※2:脱水しながら重合することを縮合という

:船舶用塗料として幅広く利用されている。2.塩化ゴム系塗料

塗装場所→①船底 ②外板 ③デッキ ④上部構造物

種類:ヒュアータイプ→塩化ゴム+可塑剤

ブレンドタイプ→塩化ゴム+合成樹脂 or 各種ワニス

長所:1.速乾性

2.耐水性・耐アルカリ性に優れ、厚い塗膜を形成する。

3.重ね塗装→(溶剤・展色剤)の主成分が旧塗膜の主成分と良く馴染み、旧塗膜

との付着性良好(相互付着性良好)

短所:耐油性がない

:塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合樹脂3.ビニル樹脂塗料

長所:1.速乾性

2.耐水性・耐候性・耐薬品性に優れている。

3.相互付着性良好

短所:1.塗膜が薄いため塗装回数を多くする必要がある。

2.鋼面に対する付着性が劣るため、必ず付着性の良いプライマーの塗装が

必要となる。

4.エポキシ樹脂塗料

エポキシ樹脂とポリアミド樹脂あるいはアミンアグクトなどと組み合わせて使用す

る。主剤と硬化剤を使用前に混合して使用する。

主な溶剤→キシレン、トルエン、アルコール、ケトン等

長所:1.耐久性大

2.厚膜塗装可能

3.物理的性質(密着性、耐衝撃性、耐磨耗性)が優れている。

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4.耐水性、耐塩水性が優れている。

5.耐油性、耐薬品性が優れている。 choke:枯らすこと

短所:屋外暴露では、塗膜表層がエポキシ樹脂特有のチョーキング現象を呈する。

5.タールエポキシ樹脂塗料

瀝青質塗料の長所(耐水性と経済性)とエポキシ樹脂塗料の長所(密着性、

強靱性、耐薬品性)を組み合わせた塗料

長所:1.硬化塗膜は優れた密着性、防食性、耐衝撃性、耐磨耗性、耐薬品性を有

し、特に耐水性、耐塩水性は他に類を見ない。

2.没水部、海水バラストタンク等の重防食塗装の中心で、エポキシ樹脂塗

料に比べて安価である。

短所:1.瀝青質含有のため色相が限定される。

2.塗装インターバル(重ね塗装の間隔)が制限される。

6.無機ジンク塗料

特徴:亜鉛の電気化学的性質を利用した防食塗料で、単膜又は有機上塗塗料と組み合わせ

て使用される。

種 類 主 成 分

A→ タイプ ジンク リチウム 成分の混合により反応水 溶 性 無 機 塗 料 珪 酸 な ど の 珪 酸塩と亜鉛粉末

B→アルコール タイプ ジンク エ チ ル し強固な塗膜を形成溶性 無機 塗料 珪 酸 と 亜 鉛 粉 末

7.その他

(1)ポリウレタン樹脂塗料・・・水線部、外舷、デッキ、タンク、上部構造物

(2)ノンブリード型タールエポキシ樹脂塗料・・・デッキ、タンク、ホールド

(3)シリコン樹脂塗料

(4)アクリル樹脂塗料・・・外舷、デッキ、上部構造物

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(5)船底塗料

anti-corrosive bottom paint1.A/C:

1号船底塗料、船底防錆塗料

外板用錆止め塗料、塩化ゴム系が普及している。

anti-fouling bottom paint2.A/F:

2号船底塗料、船底防汚塗料

外板用防汚塗料

自己研磨型防汚塗料=セルフポリッシングコンポジション(SPC)

Self Polishing Composition塗膜が海水に接触すると防汚剤が加水分解されて防汚効果を示し、

同時に被膜形成樹脂が水可溶性となる。塗膜自体が徐々に溶解する点が特徴で、

これによって防汚効果と研磨効果が生まれる。塗膜の厚さが200~300ミクロン

で、1.5~2年間はノードックOK、燃料費の節約は12%以上といわれる。

boot-topping paint3.B/T:

3号船底塗料、水線塗料

近は、A/C,A/Fを使用し、B/Tを使用しないことが多い。

(6)塗装面積

水線上部構造物の外舷塗装面積

①IHI式 (IHI:石川島播磨造船所)

0.6×船の長さ×船幅+2×船の長さ×上甲板までの高さ

(L :m)(m) (L :m) (m)oa oa

②旧海軍式

2.8×船の長さ×外舷平均高

(L :m) (m)oa

3.5 入渠修理

3.5.1 ドックの種類

(1)乾ドック(dry dock)

ドックゲート(dock gate) ケイソン(caisson)

(2)浮きドック(floating dock)

(3)スリップウェイ(slip way)

傾斜路、スロープ(slope)、小型船用

(4)乗揚げドック(engraving dock)

潮汐の干満を利用する、小型船用

(5)係船堀(wet dock)

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3.5.2 入渠準備

船舶安全法 検査の準備

3.5.3 入渠作業

(1)ドライアップ後の確認事項

①水線下船底外板、舵、プロペラなどの破損、亀裂、凹損、変形等の有無

②船底外板の汚損状況

③船底塗料の剥離

④保護亜鉛板の腐食及び取付状態

⑤ドプラーログ等の航海計器センサー部分の状況

⑥キールの盤木(キールブロック)への着地状況

(2)入渠中の作業

①外板清掃及び塗装

②錨及び錨鎖の渠底への繰り出しとチェーンロッカー点検・整備

③舵つり上げブッシュ等の摩耗状態確認

④船舶安全法等の関係法規による検査準備及び受検

⑤保護亜鉛板の点検及び新替

⑥各配置タンクの点検と防食作業

(3)入渠中の注意事項

①火災及び盗難

②船外への排水など(汚水処理装置、雨水→デッキスカッパー、物の投棄)

③重量物の移動→→→厳禁

④安全対策:照明、足場確認、防護ネット、安全ベルト、酸欠対策

⑤工事監督

3.5.4 出渠作業

注水開始前の確認事項

①各部への張水日時連絡

②ポットムプラグ(キングストンバルブ)閉栓、プラグヘッドセメント盛り確認

③外板塗装の塗り残しのないことを確認

④トリムコンディションの検討:=入渠時のコンディション

⑤船底部修理箇所の確認(ノンリターンバルブ、ゲートバルブ関連工事)

⑥各タンクのマンホール閉鎖

⑦カーゴポート、スカッツル等の外舷開口部閉鎖

⑧陸揚げ船用品の船内搬入

⑨甲板部・機関部責任者、ドック側船体担当技師立ち会いによる船底検査

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3.6 船舶検査

船舶は、船舶安全法及び船舶安全法施行規則により、人命の安全と船舶が安全

に航行できること(堪航性)を目的として、所定の時期に、原則として国の検査を受ける

ように義務付けられている。

また、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律等によって、海洋汚染防止設備等が技

術基準に適合しているかどうかについて、定期的あるいは臨時の検査を受けるように定め

られている。

3.6.1 検査対象船舶

①船舶安全法第2条

堪航性と人命の安全のために必要な構造と施設を強制された船舶

②船舶安全法第3条

満載喫水線の表示を強制されている船舶

③船舶安全法第4条

電波法により無線電信施設を強制されている船舶

3.6.2 船舶検査

船舶安全法関係の検査を以下に示す。

(1)定期検査(定検)

船舶が初めて航行の用に供されるとき、または、船舶検査証書の有

効期間が満了したとき(船舶の種類によって異なるが、5年又は6年毎)に受

けるもので、船舶の構造、設備等の全般にわたり根本的に行う精密な検査であ

る。

(2)中間検査(中検)

定期検査と定期検査との中間に行われ、船舶検査証書の残存有効期

間を担保するため船舶の構造、設備等の全般にわたり簡易に行う検査である。

第1種中間検査(1 )及び第2種中間検査(2 )並びに第3種中間検査(3 )中検 中検 中検

の3種類がある。

(3)臨時検査(臨検)

定期検査又は中間検査以外の時期に、船舶の構造、設備等について、

船舶の堪航性又は人命の安全確保に影響を及ぼす恐れのある改造又は修理を行

うとき、

①航行区域 ② 大とう載人員

③制限汽圧 ④満載喫水線の位置

⑤その他船舶検査証書に記載された条件

の変更を行うときに受ける検査である。臨時検査を受けなければならない項

目によっては、定期検査項目に似た精密な検査となる。

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(4)臨時航行検査

この検査は、未だ船舶検査証書の交付を受けていない船舶、中間検

査などを受検中のために船舶検査証書の効力が停止されている船舶などを検査

地へ回航する必要が生じた場合に、臨時に航行させるために必要な事項に限っ

て行われる検査である。

(5)特別検査

一定の船舶について、例えば保守管理が不十分であるために事故が

著しく生じていることにより、その材料、構造、設備又は性能が定められた基

準に適合していない恐れがあると認められる場合に、これらの船舶を対象とし

て特別検査を受けるべき旨を公示し、一定の期間を定めて特別に行う検査であ

る。

(6)製造検査

船舶検査の完全性

を期するために、船

体及び機関並びに構

造に深い関わりのあ

る排水設備及び満載

喫水線について、製

造段階の過程におい

て行うもので船の長

さ30メートル以上の

船舶を対象として、

その製造に着手した

ときから受けるべき

検査である。長さ30

メートル未満の船舶

であっても、製造者

が希望する場合には

製造中からこの検査

を受けることができ

る。

4.船舶の安全と海上災害

4.1 安全管理と災害防止

図 災害発生要因

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4.2 船員の労働災害

図 船員災害発生率(年千人率)の推移

年間の船員災害(疾病)者数年千人率= ×1000

年間の平均船員数

各業種の災害発生状況[職務上の休業4日以上(平成8年データ)]

○鉱業18.4,林業28.5,建設業7.3,港湾荷役事業9.3,

○汽船12.5,漁船24.3

[例題]

船内における労働災害は、どのような原因によって発生するか。物的原因及び人的原因

について説明せよ。〈1N-6-07〉

物 的 原 因①機器・設備・用具等の不備によるもの

動力機械の運動部分が暴露されて,適切な防護装置がとられていない。機械・設備の構

造的欠陥,材質不良,強度不足,用具類の構造的欠陥,設置場所不良など。

②作業場の不整とんによるもの

作業場の静止物,移動物,吊下物などが整理されていなかったり,作業空域が不十分,

0

10

20

30

40

西暦(年)

災害発生率(千人率)

1980 85 90 1995

合計 汽船 漁船 その他

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足元の状態,通行の確保が悪いなど。

③ 危険または,不適な環境によるもの

火災・,爆発性物質,腐食性物質等人体に有書な危険物を扱う作業。感電,異常高温,

異常低温,騒音,酸素欠乏,げん外作業など。

④保護具,作業衣の不適によるもの

保護具,作業衣など個人用防護具の材質,強度不足,検知器具等の検知能力欠陥など構

造的要因によるもの。

⑤ その他環境の不備によるもの

標識・標示・色彩等の不備など。

人 的 要 因①作業管理の不適によるもの

作業にあたって適切な指揮命令が行われていなかった。作業方法,手順にミスがあった。

人員の配置が適切でなかったなど。

②無理な姿勢,身体の不調によるもの

③疲労,身体の不調によるもの

過重労働,深夜労働等により疲労が蓄積されていた。肉体的,精神的にも不調であった

り,病後の回復が不調。二日酔の状態など。

④不熟練によるもの

未経験者,年少船員等作業に習熟していなかったこと。作業自体複雑で困難なものなど。

⑤不注意,錯誤によるもの

⑥保護具の不使用によるもの

作業に適した保護具を使用していたか。常備されていたか。いつでも使用できるよう整

備管理がされていたか。使用方法にミスがなかったか。検知器具についても同様。

⑦ 安全,衛生教育の不徹底によるもの

新人教育,再教章,技能研修など職場内の安全・衛生に関する訓練・教育の不徹底など。

4.3 災害防止と安全対策

4.3.1 規則(人的):船員法、船員労働安全衛生規則

4.3.2 規則(物的):日本工業規格(JIS),世界標準規格(ISO)

4.3.3 安全対策:

①ハインリッヒの法則(1対29対300の法則)

②KYT

③指差呼称

④フェール・セーフ

⑤ブレーン・ストーミング

⑥OJT

⑦TBM

⑧フール・プルーフ

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ハインリッヒの法則(1対29対300の法則)Ⅰアメリカの損害保険会社の統計技師であったハインリッヒが、5万件の災害事例を分析した

結果に基づいて提唱した災害強度の確率を示し、330件の類似した事故のうち、重傷:軽傷:

無傷事故となる確率は、1:29:300になることを報告した。

無傷事故の300には、事故が発生したものの幸いにも災害とはならなかったか、あるいは職

場において“ヒヤッ”とした、“ハッ”としたことがあったなどが該当する。このような無傷

事故をそのまま放置するとついには災害事故につながることをハインリッヒは警告した。

災害を防止するためには、発生した災害のみに注目するのではなく、災害にならなかったこ

の「300」をなくす、すなわち職場の不安全状態、不安全行動をなくすことが大切であること

を示唆している。

これらの趣旨を受けた企業での災害防止運動として、“300運動”、“ヒヤリハット撲滅運

動”、“ヒヤリハット提案制度”などがある。

KYT:危険予知訓練Ⅱ職場の作業状況を描いたイラストシートを見たり、あるいは実際の作業現場や作業状況を実

際に見学したり写真を見ながら、その現場や作業の中に潜む危険要因とその危険要因が引き起

こす現象について、職場の少数グループで自由に話し合い、意見を出し合ってみんなで理解す

る。そして、危険のポイントや重点実施項目を確認し、作業・行動の前に安全を先取りする訓

練を危険予知訓練という。危険(Kiken)のK、予知のY(Yochi)、訓練( Training)のT

をとって『KYT』と略称されている。

このKYTは、昭和49年(1974年)住友金属工業が開発した全員参加の安全先取り手法で、

指差呼称(ゆびさしこしょう、しさこしょう)とKYTを一体のものとした新KYTや短時間

KYTなど各種のKYTが開発され、多くの会社に取り入れられている。

KYTの進め方のポイントは、「みんなで早く正しく」であり、短時間のKYTを日々のミ

ィーティングの中で行うことにより、危険に対する感受性を高めるだけではなく、チームワー

クの強化、職場の問題解決にも役立てることができる。

指差呼称Ⅲ人間は本来ミスをする動物であり、人間の注意力には限界があり、ついうっかりということ

は、認めざるを得ない自然現象である。ミスを防ぐために作業工程・作業過程の段階毎に、自

分の行動と周囲の状況を「○○ヨシ!」と対象を大きな声で呼称しながら確認することを指差

呼称という。作業を安全に誤りなく進めていくのに効果がある。

指差呼称は、確認すべきことをしっかり眼で見て、右腕を伸ばし右手人差し指を差しながら、

大きな声で例えば、「右舷後方、ヨシ!」などと唱え、耳は自分の声を聞いて確認することに

より、注意力を集中させ、意識レベルを高めることができる。実験によれば、指差呼称する場

合は何もしない場合に比べて、ミスの発生率が1/3程度になるといわれている。

(Fail Safe)Ⅵ フェール・セーフ機械あるいはシステムが正常に作動しない(フェール:fail)時であっても事故や災害をも

たらさず、安全を確保できる機構をいう。航空機の運航、船舶の運航、鉄道の走行などの輸送

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システムには大幅に取り入れられている考え方で、機械設計・システム設計には欠くことので

きない考え方である。

フール・プルーフと合わせて、『本質的安全システム』と呼ばれる。

(BS:Brain Storming)Ⅴ ブレーン・ストーミング1930年代に、アメリカの広告代理店副社長A.F.オズボーンが考え出したアイデア創出法をい

う。方法としては、一つの具体的なテーマを与えて、集団的にアイデアをまとめるが、次の4

原則を守ることになっている。

①批判禁止:出されたアイデアについて批判や評価をしない

②大量生産:どんなアイデアでもよいからどんどん出す

③自由奔放:自由奔放に奇抜なアイデア大歓迎

④便乗加工:他人のアイデアに便乗し加工を加えること大歓迎

危険予知訓練をはじめ、職場での様々な問題解決の話し合いに活用されている。

(On The Job Training)Ⅵ OJT見習い訓練を意味し、仕事・作業を通じて監督者が、現場で部下を訓練することをいう。

教育訓練で得られた知識や技能、技術が正しく現場で実践されているかをマン・ツー・マン

で指導訓練するもので、特に安全衛生面では確実な実践と実行動作がポイントである。そのた

めOJTの重要性が強調され、現場監督者の存在が注目される。

またOJTには作業者自身による問題解決能力を高める効果もあるとされている。

(Tool Box Meeting)Ⅶ TBMTool Box(道具箱)の周りや職場の片隅で、作業者が気軽に集まり、職長を中心に

話し合う短時間のミィーティングをいう。作業開始前の通常5~10分間に行われるもので、船

舶関係ではスタンバイミィーティングとも呼ばれる。始業前だけではなく、午後の作業再開時、

あるいは終業時にも実施される場合がある。

ミィーティングでは、作業者のひとりひとりが本音で自分の体験を話したり、安全に関する

意見を述べることが肝要とされ、このミィーティングを通じて、安全についての申し合わせを

して実行する。

また作業者自身の安全意識を高めるとともに作業者の安全に関する意見を吸収することがで

きる。

(Fool Proof)Ⅷ フール・プルーフ作業手順や機械の危険性などをよく理解していない人(愚か者=a fool)が操作しても、誤

操作が発生せず、たとえ誤操作が発生しても危険な状態に陥ることの無いように工夫されたシ

ステムをいう。

例えば、配電盤で扉を開くと電気が自動的に遮断され、閉じると通電することで事故の発生

を物理的に不可能にするインターロック装置などがこれにあたる。

不注意でミスをおかしやすい特性を持つ人間が、安全な作業を進めていくうえで極めて基本

的な考え方である。