3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224...

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224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の 確保・育成、③労働生産性の向上、④正社員以外の 働き手の能力開発や活用などについて、その現状と 課題を見てきたが、本節においては、人口減少社会 における企業の取組を紹介しつつ、今後の方向性を 見ていくこととする。 (1)技能継承の成果が上がっている企業の特徴 第2節において、企業における2007年問題に対す る危機感が高まっており、取組を行う企業が増えて きているなどについて見てきた。技能継承(ノウハ ウ継承を含む)の取組において、成果を上げる企業 には、以下のような特徴が見られた。 ①技能継承への危機意識が高いこと ②技能継承を主導する組織体制が構築されているこ ③マネジメント・プロセスに技能継承を円滑化する 仕掛けがあること ④計画・プログラムが整備されていること こうした技能継承に成功している企業の持つ基盤 を整理すると、図231-1のようになる。 技能継承取組基盤は、企業規模などによってその 取組が変わってくる。特に、組織体制として十分な 役割分担を行うことができない中小企業では、全て の基盤を経営者または工場長が整備するという場合 も考えられる。実際に、ほとんどの項目を経営者が 主導し、整備している事例が見られた。熟練技能者 に対する技能継承参加への説得やインセンティブ付 与についても経営者が自ら行っている例やこの他に、 工場長が技能継承に係る取組を主導している例もみ られる。このように、基盤整備のために役割分担を 行うことが望ましいが、中小企業などにおいて組織 体制としてそれが難しい場合は、経営者や工場長な どの責任者が複数の役割を兼務し、取組を進めて行 くことが求められる(図231-1)。 (2)技能継承の方式とツール 熟練技能者個人が身につけている技能は、勘や直 感といった、いわゆる「暗黙知」として蓄えられて いる。これを伝承するためには、可能な限り、言語 化、可視化、映像化など、いわゆる「形式知」化す ることが効果的である。 一方、技能の中には、形式知化が非常に困難なも のもあり、このような技能は、実習型の訓練や現場 での直接指導・直接体験によらなければ継承できな 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性 1 熟練技能の継承のための取組 ①方針・ビジョンの浸透� ●方針・ビジョンの浸透� ●継承すべき技能・ノウハウの明確化・共有化� ●教育訓練計画の作成� ②組織体制の構築� ●責任組織の設置� ●責任者の設置� ③「対話」のマネジメント� ●熟練者の暗黙知を引出す対話(質問)� ●熟練者と継承者のコミュニケーション促進� ●チーム内の「対話の場」の創造� ⑤適切なインセンティブの付与� ●熟練者・指導者へのインセンティブ� ●継承者へのインセンティブ� ⑥指導者の確保育成� ●社内の熟練者の指導者化� ●社外・OB人材の指導者化� ⑦評価制度� ●指導者への評価� ●継承者への評価� ●教育訓練プログラムへの評価� ④効果的なツール・教育訓練プログラムの作成� ●効果的なツールの作成� ●効果的な教育訓練プログラムの作成� 出所:厚生労働省委託「先端的職業能力開発に関する有識者研究会報 告書」(2006年)� 図231-1 成功企業に見られる技能継承基盤

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Page 1: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

224

第1節では、人口減少社会におけるものづくり人

材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

確保・育成、③労働生産性の向上、④正社員以外の

働き手の能力開発や活用などについて、その現状と

課題を見てきたが、本節においては、人口減少社会

における企業の取組を紹介しつつ、今後の方向性を

見ていくこととする。

(1)技能継承の成果が上がっている企業の特徴

第2節において、企業における2007年問題に対す

る危機感が高まっており、取組を行う企業が増えて

きているなどについて見てきた。技能継承(ノウハ

ウ継承を含む)の取組において、成果を上げる企業

には、以下のような特徴が見られた。

①技能継承への危機意識が高いこと

②技能継承を主導する組織体制が構築されているこ

③マネジメント・プロセスに技能継承を円滑化する

仕掛けがあること

④計画・プログラムが整備されていること

こうした技能継承に成功している企業の持つ基盤

を整理すると、図231-1のようになる。

技能継承取組基盤は、企業規模などによってその

取組が変わってくる。特に、組織体制として十分な

役割分担を行うことができない中小企業では、全て

の基盤を経営者または工場長が整備するという場合

も考えられる。実際に、ほとんどの項目を経営者が

主導し、整備している事例が見られた。熟練技能者

に対する技能継承参加への説得やインセンティブ付

与についても経営者が自ら行っている例やこの他に、

工場長が技能継承に係る取組を主導している例もみ

られる。このように、基盤整備のために役割分担を

行うことが望ましいが、中小企業などにおいて組織

体制としてそれが難しい場合は、経営者や工場長な

どの責任者が複数の役割を兼務し、取組を進めて行

くことが求められる(図231-1)。

(2)技能継承の方式とツール

熟練技能者個人が身につけている技能は、勘や直

感といった、いわゆる「暗黙知」として蓄えられて

いる。これを伝承するためには、可能な限り、言語

化、可視化、映像化など、いわゆる「形式知」化す

ることが効果的である。

一方、技能の中には、形式知化が非常に困難なも

のもあり、このような技能は、実習型の訓練や現場

での直接指導・直接体験によらなければ継承できな

第3節 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

1 熟練技能の継承のための取組

①方針・ビジョンの浸透� ●方針・ビジョンの浸透� ●継承すべき技能・ノウハウの明確化・共有化� ●教育訓練計画の作成�

②組織体制の構築� ●責任組織の設置� ●責任者の設置�

③「対話」のマネジメント� ●熟練者の暗黙知を引出す対話(質問)� ●熟練者と継承者のコミュニケーション促進� ●チーム内の「対話の場」の創造�

⑤適切なインセンティブの付与� ●熟練者・指導者へのインセンティブ� ●継承者へのインセンティブ�

⑥指導者の確保育成� ●社内の熟練者の指導者化� ●社外・OB人材の指導者化�

⑦評価制度� ●指導者への評価� ●継承者への評価� ●教育訓練プログラムへの評価�

④効果的なツール・教育訓練プログラムの作成� ●効果的なツールの作成� ●効果的な教育訓練プログラムの作成� 出所:厚生労働省委託「先端的職業能力開発に関する有識者研究会報

告書」(2006年)�

図231-1 成功企業に見られる技能継承基盤

Page 2: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

※1 コラムは、「先端的職業能力開発に関する有識者研究会報告書」の内容を元に、本文に即して書き改めたものである(他の同報告書によるとするコラムも同じ)。

225

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

技能継承-その成功要因-

~厚生労働省委託研究(野村総合研究所)「先端

的職業能力開発に関する有識者研究会報告書」※1

(2006年3月)より~

企業ヒアリングやアンケート調査から、技能

継承の取組について「成果が上がっている」と

する企業の特徴を整理して見ると、次のような

点が成功要因として考えられる。

①技能継承への危機意識が高い

成果が上がっているとする企業は、技能継承

に対して強い危機意識を持っている。社員の年

齢構成の高齢化や生産拠点の海外移転などを背

景に、技能継承に対する危機意識を持ち、経営

トップや技術部門を中心として社内に対して危

機意識が喚起され、浸透しているケースが多く

なっている。

②技能継承を主導する組織・人が明確である

成果が上がっているとする企業は、大企業にあっては、技能継承の方針やプログラム作成を主導す

る責任組織を設置している。責任組織には、技術部門や人事部門だけでなく、組織横断的な委員会や

検討会議が設置される場合もある。

また、責任組織の設置だけでなく、技能継承の意義を社内に浸透させ、教育計画やプログラム、ツ

ールの作成や実践を中心的に担う人材(コーディネーター)が存在している。

中小企業にあっては、経営トップや工場長といった立場の人物が主導者となり、コーディネーター

の役割を果たすことによって技能継承が円滑に進む。

③技能継承を円滑化するための仕掛けがある

成果が上がっているとする企業は、技能継承の取組方針や、継承すべき技能が明確になっている。

また、熟練技能者の高度かつ暗黙的な技能を引き出す効果的な対話(質問)が行われており、熟練

技能者及び指導者、技能継承者に対して効果的なインセンティブが付与されている。

④計画・プログラムが整備されている

成果が上がっているとする企業は、継承すべき技能を効果的に伝達するために、教育訓練計画を整

備している。いつ、誰に対して、どのような技能を、誰が、どのように教えるかについての計画を作

成している。また、教育訓練プログラムとして、OJTやOFF-JTなどを目的に応じて適切に組み合わ

せており、訓練の過程でビデオ教材や電子マニュアルなど効果的なツールを活用している(図231-2)。

コ ラ ム

効果的な教育訓練プログラム、ツールがある�

計画・プログラムが整備されている�

技能継承のための教育訓練計画がある�

責任組織・責任者が明確である�

技能継承を主導する組織・人が明確である�

技能継承への危機意識が強い�

指導者が確保・育成されている�

指導者・受講者・教育訓練プログラムの評価をしている�

マネジメント・プロセスに技能継承を円滑化するための�仕掛けがある�

適切なインセンティブが設定されている�

熟練技能者の暗黙知を引き出す(形式知化)効果的な�対話(質問)がなされている�

取組方針・ビジョンが明確であり、浸透している�

出所:厚生労働省委託「先端的職業能力開発に関する有識者研究会報告書」(2006年)�

図231-2 技能継承の成功要因

Page 3: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

いと考えられるが、OFF-JTとの組み合せや計画的

なOJTの実施により、より効果的かつ効率的に継承

できると考えられる。

また、企業規模の観点からは、規模の大きい企業

では、技能・ノウハウの形式知化、それらの形式知

の教育訓練プログラムへの展開が行われる場合が多

く、教育訓練プログラムとして、OJTやOFF-JT、

個人トレーニングを目的に応じて適切に組み合わせ

たり、ビデオ教材や電子マニュアルなど効果的なツ

ールを活用したりしている例もある(表231-3)。

中小企業では、技能・ノウハウの形式知化を経ず、

暗黙知のまま継承する場合が多くなっているが、継

承に成功している中小企業では、そのための効果的

な計画的OJTが実践されている場合が多い。

226

概要�

出所:厚生労働省委託「先端的企業内職業能力開発に関する有識者研究会報告書」(2006年3月)�

技能・ノウハウデータベース�

ツール� 特徴・有効性�

作業のカン・コツを言語、図表、動画等を用いて解説したものを検索可能なコンテンツとしてデータベース化したもの。�

・技能の種類別、製品別、作業工程別等目的別に検索できる。�

・個人が学びたい時間に学ぶ事が出来、自己学習支援ツールとして有効。�

・作成に多くの資源が必要で、時間を要する。�

マニュアル�

作業工程や作業のカン・コツを言語や数値、図表を用いて解説した手順書(文書形式が主)�

・比較的形式知化し易い技能・ノウハウに対して有効。�

・個人が学びたい時間に学ぶ事が出来、自己学習支援ツールとして有効。�

講義用テキスト�集合研修等で用いる作業のカン・コツやその修得方法を言語や数値、図表を用いて簡単に解説した教科書�

・集合研修等の多くの対象者がいる場合に有効。�

ビデオ教材�作業工程や作業のカン・コツを動画を用いて解説した手順解説教材(動画映像が主)�

・視覚的に理解できるため形式知化が困難な技能・ノウハウに対して有効。�

・作成に多くの資源が必要で、時間を要する。�

e-ラーニング�

作業工程や作業のカン・コツをパソコンやコンピュータネットワークなどを利用して行う教育。動画やテキスト等様々なコンテンツが含まれる。�

・教室で学習を行なう場合と比べて、遠隔地にも教育を提供できる。�

・いつでもどこでも学ぶことが出来るため、自己学習支援ツールとして有効。�

実技用課題� 技能のコツやポイントを実感できるように用意された実技用教材・課題。�

・実地で学ぶスタイルであるため、直感的、体感的に学ぶことが出来る。�

表231-3 技能伝承に活用されるツール

企業の類型から見た教育訓練方策

~「先端的職業能力開発に関する有識者研究会報告書」より~

各企業は、生産における特徴や企業規模、技能のタイプにより、様々な違いがあるが、次のような

類型を考えると、技能・ノウハウ継承などの効果的な教育訓練方策について整理しやすい。この類型

は各企業において、全てが当てはまる訳ではなく、組織・部門がいずれかの特徴や条件に該当してい

るか比較するためのものである。

①全社活動型

このタイプは、企業の競争力の基盤となる高度なコア技能・ノウハウを組織全体で共有することを

ねらった教育訓練を行っている。背景として、熟練技能者が急減している、または急減が見込まれる

場合が多い。また、技能継承の対象者が多く、組織全体で効率的に技能・ノウハウを継承したいと考

えている。多品種少量生産により、数年に一度といった注文に応じた生産などもあり、OJTのみでは

高度な技能・ノウハウの継承がうまく行われないという場合があるが、それを組織的に共有化し残す

必要のある企業である。

コ ラ ム

Page 4: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

227

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

このため、ツールとして、形式知化が困難な技能などを視覚的に理解できるようビデオやe-ラー

ニング等の教材を用いるが、これらツールによる補助と実技実習を交えた伝達を効果的に行うことが

成功の秘訣となっている。

(例:コラム「カン・コツの継承の取組-ビデオ・e-ラーニング、実習の組合せ-」参照)

②マンツーマン継承型

このタイプは、企業の競争力の基盤となる高度かつ形式知化が非常に困難な特殊加工などの技能な

どを保有し、マンツーマンで継承する教育訓練を行っている。背景として、指導する熟練技能者の減

少が比較的急激ではないことがあり、中小企業に多い。

マニュアル化などの形式知化が困難なため、教育訓練方法は、「マンツーマン指導」が中心である

が、適切な実技用課題を用いることなどにより、熟練技能者と継承者の対話を促進していくことが成

功の秘訣である。

(例:コラム「『技能は盗むもの』からの脱却-定年延長により技能継承の指導者として活躍-」

参照)

③ツール活用型

このタイプは、組立加工による生産など、形式知化の難易度が低い技能などを組織全体で効率的に

共有することをねらい、マニュアルやデータベースを用いた個人の自己学習支援を行っている。背景

として、訓練対象が多いため効率を高めるというねらいがある。こうした企業にあっては、技能継承

というよりは、優れた質の高い技能などを組織で共有化することを重視している。

このため、マニュアル、データベース、講義用テキストなど技能などを効率よく伝達するためのツ

ールを作成し、これらを用いた自己学習・OFF-JTを推進することが成功の秘訣である。

(例:コラム「暗黙知の形式知化・デジタルマニュアル化の取組」参照)

カン・コツの継承の取組-ビデオ・e-ラーニング、実習の組合せ-

旭硝子株式会社(東京都千代田区)は、建築・自動車用板硝子、ディスプレイ用ガラスや化学品の

製造を行っており、従業員数約6,000人である。

ここ数年、自動化の推進や構造不況時におけるリストラなどにより、人材バランスが崩れ、熟練・

中核技能者が急激に不足しはじめており、このことにより長年中心的に行ってきたOJTができなくな

りつつあった。また、今後不足すると考えられる技能・ノウハウは新事業・商品開発や基礎技術開発

に対応できる高度な技術・技能であり、社内にそれらの技能・ノウハウを継承する必要があった。

取組の始めに、継承すべき技能、ノウハウを洗い出し、マップを作成した。これらの技能・ノウハ

ウは言葉や文書として現することが困難なカンやコツであるため、ビデオなどでビジュアル化した教

材やe-ラーニング教材を作成している。現在30程度の教材を開発しており、今後使いながら改善し

ていく予定である。

教育訓練はOJTを補完するため研修センターでOFF-JTを行っており、研修の中では実習をできる

だけ取り入れ、自ら疑問を抱き考え解決するという研修を行っている。研修センターには実習棟があ

コ ラ ム

Page 5: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

(3)指導者の確保・育成

第2節で見てきたように、高齢者の雇用確保措置

の導入が進み、団塊の世代も60歳以降の雇用延長が

図られていく方向である。しかし、これをただ問題

の先送りとするのではなく、技能継承につなげてい

くことが重要である。実際に、技能継承の「十分な

成果があがっている」企業では「自社熟練技能者

(現役)を指導者として確保・育成している」場合が

多い。逆に、「あまり成果があがっていない」場合に

は、「指導者の確保が困難である」とする企業が少な

くない(図231-4)。

調査結果から、成果があがっている企業は自社の

228

暗黙知の形式知化・デジタルマニュアル化の取組

ローランドディー.ジー.株式会社(静岡県浜松市)は、業務用大型プリンターなど、コンピュータ

周辺機器の製造販売を行っており、従業員数は約400名である。

担当部長は、かつて別の製造業企業で働いた経験から、ノルマに追われ機械の歯車のような労働現

場であってはならないとの信念を持ち、明るく楽しい製造現場を目指してデジタル屋台生産方式を導

入した。

この方式は、1人1台のセル生産であり、横幅4メートルもある大型プリンターを1人で組み立て

ることができる。作業台のパソコンのデジタルマニュアルに必要な工程が表示されるようになってお

り、また、作業工程に応じて必要なネジなどが部品供給装置により供給される。作業者はデジタルマ

ニュアルを見ながら、組立のコツを習得しつつ実際の組み立て作業を行っており、自分のペースで作

業しながら、1台目より2台目、2台目より3台目と能率を上げている。

デジタルマニュアルは、製造部門の中堅リーダー及び設計部門のリーダーが、現場及び各部門とコ

ミュニケーションを取りながら作成している。コツやミスしやすい部分についてもマニュアルに組み

込み、実際に製品の組立に使用していく中で、更にノウハウをデジタルマニュアルに組み込んでいく。

こうした取組の結果、技能習得のスピードが格

段に速くなるとともに、品質が向上し、生産性

も上昇した。

作業者にとっても、1つの製品を完全に1人

で生産するため、責任感を持つとともに達成感

を持って仕事をするようになり、設計部門に改

善意見を言うようにもなったとのことである。

また、新製品の製造の際には、開発部門の担当

者も自主的に製造の様子を確認しに来るように

なった。

コ ラ ム

り、ガラス槽窯のモデルなどを置き、ばらして組み立てるようなことができる。窯は15年間前後連続

稼動し、中を見ることができないので、修理するノウハウや窯でのトラブル対応などのノウハウをこ

こから学べるようになっている。

教材を作る過程では、伝承すべき技能ごとに、熟練技能者、課長、中堅、若手も含めて4~5名で

チームを組み、対話を重ねる中で教材を作成した。今後も改良を重ねていく予定である。

デジタルマニュアル

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第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

現役熟練技能者を中心として熟練技能者を確保し、

指導者として活用している場合が多いことが伺え、

団塊の世代の雇用延長の取組に併せ、技能継承の教

え手としての一層の活用が望まれる。0%� 20%�40%�60%�80%�100%�

出所:厚生労働省委託「先端的職業能力開発に関する有識者研究会報告書」(2006年)�

10081

500

232016

0

0330

868

0

012

340

046

0無回答�

指導者の確保が困難である�

他社熟練技能者(OB)を�指導者として確保している�

他社熟練技能者(現役)を�指導者として確保している�

自社熟練技能者(OB)を�指導者として確保・育成している�

自社熟練技能者(現役)を�指導者として確保・育成している�

�十分な成果が�あがっている�

ある程度成果が�あがっている�

あまり成果があ�がっていない�

全く成果があが�っていない�

図231-4 技能継承の成果の有無別指導者の確保・育成状況

「技能は盗むもの」からの脱却-定年延長により技能継承の指導者として活躍-

ダイヤ精機株式会社(東京都大田区)は社員

数23名であり、各種部品検査のための装置など

の製造を行っている。

企業理念は「超精密加工を得意とする多能工

集団」、経営目標は「流出不良ゼロ、迅速な対

応、納期厳守、品質向上、コストダウン」であ

る。これらの目標達成のためには、熟練者の技

能・ノウハウが極めて重要であるとしている。

現社長が3年前に先代から会社を引き継いだ

当時は、若手の技能育成に対する教育の仕組みがなく、熟練技能者と若手技能者の技能の差が大きく、

背景として若手技能者と熟練技能者のコミュニケーションやOJTがうまく進められていないという状

況にあった。熟練技能者がすぐに退職するわけではないが、徐々に高度な技能が失われてしまうとい

う強い危機感の下、同社では定年退職年齢を60歳から65歳に引き上げるとともに、若手の育成が不可

欠として技能継承の取組を開始した。

中小企業として技術力で勝負しており、継承対象となるのは切削や粗加工等の高度な技能である。

社長自身が取組の責任者として技能継承の重要性を社内に伝え、教育訓練計画作成などを主導してい

る。

以前は、「技能は盗むもの」と考え、若手社員に積極的に教えようとしていなかった熟練技能者に

対しても根気強く危機感、必要性を伝え、指導者として配置した結果、熟練者も教えることに積極的

になった。

指導方法としては、マンツーマンによる指導が中心であり、勘やコツを習得するために設けられる

「実技用課題」を継承者に与えることで、その課題をクリアするために若手社員が熟練技能者(指導

コ ラ ム

Page 7: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

230

(4)技能継承のための支援

国としても、労働者の熟練した技術・技能などの

習得の促進を図るための事業主の取組として、熟練

技能の体系的な管理及び提供などを促すこととして

いる。併せて、技能継承に係る情報提供、相談・援

助を行う窓口の開設、技能継承のための人材確保・

教育訓練の取組に対するノウハウや資金面の支援施

策の強化に取り組むこととしている。

また、近年、中小企業同士のネットワーク形成や、

産学共同のクラスター(集積)形成などの動向が進

展していることを踏まえ、職業能力開発行政におい

ても、関係する行政機関や団体などとの連携の下に、

技術・技能などの交流の場の設定や公共職業能力開

発施設と企業との産学連携などに積極的に取り組む

こととしている。

一方、産業界と大学などの連携による中核人材を

育成・強化するための取組も進められている

者)に質問を繰り返し、熟練者の勘・コツを言葉によって引き出すという好循環が生まれ、熟練技能

者と若手社員の密なコミュニケーションが促進されている。また、社外の教育研修制度も積極的に活

用し、汎用的な技能を習得させている。

こうした取組の結果、同社では、若手社員のモチベーションや技能が向上したと評価している。

産業界と大学等の連携による製造現場における中核人材の育成・強化の取組

我が国では、いわゆる「2007年問題」が懸念されており、また、産業技術の高度化や短サイクル化

が進む中で、人材の能力レベルはそれに追いついていないとの懸念が多くの企業で高まっている。更

に、製造業の約6割がものづくり現場の技術の維持に強い危機感を持っており、こうした人材の技術

レベルを維持・強化することも極めて重要である。多くの産業において、ベテランの技術・ノウハウ

を継承し製造現場の中核的人材を育成するシステムの構築が強く望まれている。

(製造現場の中核人材の例)

◆我が国のものづくりを支える金型・鋳造などの基盤技術を支える人材

◆鉄鋼・造船・石油化学などの大規模プラントの安全管理技術を理解しこれを駆使できる人材

◆輸送機械製造業や精密機械製造業などにおいて最新の加工技術を駆使して生産ラインの革新を担う

人材

◆IT・ナノテクノロジー・材料などのハイテク分野において技術革新を支える高度な計測・分析を担

う人材、技術革新に対応して迅速に最適生産ライン組み込める人材など

しかし、2007年問題は直前に迫っているものの、こうした製造中核人材の育成は個々の企業で体系

的に対応することは困難である。一方で、大学などの教育機関はこうした技術・技能の体系化には長

けているものの、産業界などが大学教育に対するニ一ズを大学側に具体的に示してこなかった等によ

り、産業界のニ一ズをつかむことができなかった。したがって、関連する地域の産業群と大学等の教

育機関の緊密な連携の下、産業界のニ一ズに対応した教材・教育プログラムの開発支援、製造現場な

どでの課題解決を行う長期間の実践的インターンシップの導入等を行い、製造中核人材を育成する実

践的な教育拠点を形成するため、2005年度から、全国で36件のプロジェクトを推進しており、その一

層の充実に努めている。

参 考

Page 8: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

231

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

(1)高校と企業の相互理解の促進

ものづくり分野において、若年者の確保・育成は

重要な課題である。

第2節で見てきたように、新規高卒者に対する求人

の充足率は高く、また、男子を中心に就職者に占め

る製造業への入職者の割合も高いことから、良質な

製造業求人が増えることによって、入職率の向上が

期待できるところである。公共職業安定所を通じて、

申し込んだ新規高卒者に対する求人は、インターネ

ットを通じて全国の高校からも閲覧可能になってい

る。一方で、地元高校との日頃からの相互理解がよ

り円滑な就職の近道となることも多い。地元高校生

の職場体験の受入等は、高校生の職業意識啓発の効

果とともに、相互理解の促進に役立つ。また、1990

年代には、普通科からの製造業への入職者は、数の

上では工業科を上回っており、現在においても工業

科からの入職者数と大きな差はない状況にある。こ

うしたことを踏まえると、工業科のみとの関係では

なく、普通科との関係も築いていくことが望ましい

(図232-1)。

(2)中途採用に当たってのフリーターなどの採用

中途採用については、即戦力を期待して行われる

ことが多いが、フリーターなどの経験に対して、偏

見を持たず、若年者トライアル雇用制度や日本版デ

ュアルシステム等の仕組みを活用し、企業・求職者

が相互に職場・適性等を見極めつつ、納得のいく形

で、採用・就職活動を行うことが効果的である。

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

100,000

0504030201009998979695949392

(人)�

(年)�資料:文部科学省「学校基本調査」�

普通科� 工業科�

図232-1 新規高卒者(普通科・工業科)の製造業への入職者数

2 若年者の確保・育成の取組

日本版デュアルシステムによるものづくり人材の育成

教育訓練機関における座学と企業における実習を並行的に組み合わせて実施する「日本版デュアル

システム」を2004年度から実施している。日本版デュアルシステムは、ものづくり基盤技術関連の職

種においても、機械加工、生産技術、自動車整備、機械設計など様々な職種で実施されている。

茨城県立土浦産業技術専門学院では、2004年10月にデュアルシステムによる機械加工科(普通課程

1年6カ月)を新設し、2006年3月に同科の初の訓練修了生を送り出した。

訓練の概要としては、単なる作業員ではなく、広範囲かつ高度な業務に対応できる技術力と、企業

人としての資質の高い人材を育成することを目標に、始めの6カ月間は、CAD/CAM、数値制御工

作機の3機種のプログラム作成・操作実習などを含む訓練を学院内で行い、以後1年間は企業実習と

同学院での訓練を交互に行った。

コ ラ ム

Page 9: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

(3)若者にとって魅力ある職場づくり

若者にとって、魅力ある職場づくりを進めなけれ

ば、人口減少社会において、企業が中長期的に若者

を確保し、育成していくことは困難である。

魅力ある職場づくりのために、労働生産性の向上

に応じた労働者の処遇の改善に一層配慮すべきであ

る。その際、初任給の向上にのみ着目するのではな

く、必要とされる技能の熟練に応じた処遇がなされ

ることが重要である。技能労働者としてのキャリア

形成の方向性が明確となることによって、若者の目

にも、より魅力ある職場と映ることを意識しなけれ

ばならない。また、賃金だけではなく、若者にとっ

て、魅力ある職場づくりに努力することは、単に、

若年労働者の確保にとどまらず、現場力の向上につ

ながっていく。

232

若年技能者にとって魅力ある職場づくり-ある中小企業の取組事例-

A社(東京都品川区)は、フッ素樹脂加工品の製作・販売を行っている社員数38名の中小企業であ

る。工場長を含め50歳以上が6名いるほかは、従業員は20代と30代から構成される。

ここ数年で納期がかなり短縮化されており、確かな技能がなければ納期を守ることや、不良品を出

さないといったことが達成できなくなっている。若年層が中心ということもあり、今後、技能者が量

的に不足するということは心配していないが、熟練技能者である工場長は現在69歳であり、今のうち

にどれだけ工場長の技能・ノウハウを吸収するかが課題となっている。

同社では、技能継承は、若手技能者にとって魅力ある職場でなければうまくいかないと考えている。

作業現場にはBGMが流れており、服装も作業服ではなく作業時の安全確保に支障のない範囲で自由

であり、ジーンズで作業している若手技能者が多い。また、風通しがよい組織作りに配慮している。

工場長は、指揮命令者というより、チームの支援者として位置づけられており、重苦しい雰囲気はな

い。また、休みもとりやすく、若手技能者のモチベーションアップにつながっている。

コ ラ ム

施設内訓練・・・・2004年10月~2005年3月(6ヵ月)

企業委託型実習・・2005年4月~6月(3ヵ月)

(企業実習と同学院における訓練を1週間間隔で交互

に行う。)

企業就労型実習・・2005年7月~2006年3月(9ヵ月)

(企業実習と同学院における訓練を2週間間隔で交

互に行う。)

実習先企業としては、筑波研究学園都市内の各種研究所及び大学などの実験機器の製作を行ってい

る企業や、精密機械加工を主な業務としている企業など、7企業で訓練を行った。これらの企業では、

若年者の確保や技能・技術の継承に不安を抱えている現状から、受入について積極的であった。

入校した訓練生は、フリーター、派遣労働者、大学中退者、サービス業従事者など様々な経歴や状

況にある若者であったが、企業実習においては現場の厳しさも体験し、同学院における訓練の受講姿

勢も真剣になるなど、良い意味での変化が見られた。訓練修了者14名のうち、就職希望者13名の全員

が、実習先企業も含む製造業企業に就職している。

Page 10: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

233

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

(4)第三の選択肢としての実践型人材養成システ

これまで見てきたように、国内における産業の高

度化・高付加価値化の中で、現場における実践的な

職業能力を持つ人材の確保が強く求められている。

このため、企業が主体となって、新規学校卒業者

を主な対象とし、「自社のニーズに即した教育訓練機

関における座学」と「一定期間、訓練生を雇い入れ

てのOJT」とを効果的に組み合わせて実施する新た

な訓練システム(実践型人材養成システム)を職業

能力開発促進法に位置付けるための改正法案を国会

に提出しており、同法案の成立後は、現場の戦力と

なる実践的な職業能力を備えた職業人を育成するこ

ととし、この実践型人材養成システムを、学生・生

徒にとって就労と就学の双方の要素を併せ持った

「第三の選択肢」として普及、定着させることとして

いる。

「実践型人材養成システム」は、訓練生にとって

は、企業現場のニーズに即した実践的な職業能力を

習得でき、企業にとっては、訓練生の適性、能力を

見極めた上で採用できるという効果を持っており、

若者の職業能力と企業の求める人材とのミスマッチ

を解消し、フリーターとなることを防止することに

資するものである(図232-2)。

教育訓練は、チーム単位でOJTを行っている。

チームは若手社員主体で組まれており、基本的

に若手リーダーが若手を教えている。チーム内

で育成することを基本とするが、チームの判断

で必要と思われる場合、工場長のマンツーマン

指導を受ける。その他、チームで対処できない

事柄については、工場長に質問をくり返し、技

能・ノウハウを身に付けていく。工場長は若手

チームとフラットで対等な立場で業務を行って

おり、そのような関係の中で自然な技能・ノウハウの継承が進められている。

これらは、従業員が上下関係に縛られることなくのびのびと活躍する組織を目指したいとする社長

の経営方針に拠っている。

資料:厚生労働省�

自社で現場の中核を担う�

人材を育てたい企業�

厚生労働大臣に対し、�

訓練計画を申請し、認定�

認定計画に基づく訓練の実施�

認定を受けた場合は、�募集広告等に表示が可能�

教育訓練機関における�理論的な学習�(訓練生が費用を負担)�

企業における有期雇用�による実習(OJT )�(企業が賃金を支給)�

能力評価の実施�

面接等による訓練生の選考�

実践的人材の確保(本採用)�

6ヶ月~2年間�

ハローワーク�による支援�

図232-2 実践型人材養成システム

Page 11: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

(5)若者自立・挑戦プランに基づく施策の活用

若年層の高い失業率や増加する無業者・フリータ

ーなどを背景に、政府は、2002年4月に、文部科学大

臣、厚生労働大臣、経済産業大臣及び経済財政政策

担当大臣の関係4閣僚による「若者自立・挑戦戦略

会議」を発足させ、同年6月、「若者自立・挑戦プラ

ン」を取りまとめた(第5回会議(2004年6月)よ

り官房長官が、第9回会議(2005年10月)より農林

水産大臣が、第10回会議より少子化・男女共同参画

担当大臣が新たに加わり、関係7閣僚となる)。また、

その強化を図るため、2004年12月に開催された同会

議において「若者の自立・挑戦のためのアクション

プラン」を取りまとめ、2006年1月に同アクション

プランの改訂を行い、若者に対する総合的な人材対

策を推進しているところである。

ものづくり現場の若者確保・育成の観点からもこ

れらの施策を活用していくことが効果的である(図

232-3)。

ここまで、技能継承や若年労働者の確保・育成の

取組を見てきたが、これらの取組とも密接に関わっ

て能力開発を促進することによる労働生産性向上へ

の取組は重要である。

従業員への能力開発制度が労働生産性にどのよう

に貢献しているかについての企業の認識を業種別に

見ると、製造業では、半数以上の企業がOJT、

OFF-JT、資格取得への支援のいずれについても労

働生産性への貢献を評価しているが、特に、計画的

なOJTの労働生産性への貢献を評価する企業が多い。

OFF-JT、資格取得への支援を行う場合であっても、

次に述べるように、その能力開発への仕事の位置づ

けが明確か否かによって労働生産性への効果は異な

ってくると思われる(表233-1)。

能力開発が労働生産性の向上に及ぼす貢献は、能

力開発に対する企業の関与の仕方、経営方針などの

基本的な情報の従業員への伝達の仕方、経営方針な

どに関する従業員の理解度など能力開発への企業の

取組によって異なってくる。企業においては、こう

した視点を踏まえ、労働生産性の向上に寄与するも

のとなっているかどうかを検証しつつ、能力開発を

行うことが効果的である。

また、キャリア形成促進助成金や認定職業訓練制

度などを有効に活用して取り組むことが望ましい。

234

職業能力開発促進法及び中小企業労働力確保法の改正案の概要

人口減少社会を迎える中、我が国経済社会の活力を維持・向上していくためには、今後の経済社会

を支える若者の実践的な職業能力を高め、その雇用の安定を図るとともに、団塊の世代が職業生活か

らの引退過程に入ることに伴う「2007年問題」に的確に対処し、我が国の産業の発展に不可欠な「現

場力」を強化すること等が求められている。

このような状況に対応するため、①実践型人材養成システムを事業主が労働者の実践的な職業能力

の開発及び向上を図るための措置として位置付けるとともに、②若者の熟練技能の習得促進のために

事業主が講ずる措置を明確化する、③労働者の自発的な職業能力開発を促進するため、必要に応じ事

業主が講ずる措置として、短時間勤務の導入を追加する、④円滑な技能継承を図るため、若者の実践

的な職業能力の開発・向上に計画的に取り組む中小企業に対して、資金面、人材確保面からの支援を

行うことなどを内容とする職業能力開発促進法及び中小企業労働力確保法の改正案を第164回通常国

会に提出したところである。

参 考

3 能力開発の促進による労働生産性向上への取組

Page 12: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

235

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」の改訂 平成2006年度政府予算額 761億円�(2005年度予算額 756億円)�

「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」の改訂 平成2006年度政府予算額 761億円�(2005年度予算額 756億円)�

「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」の改訂 平成2006年度政府予算額 761億円�(2005年度予算額 756億円)�

改訂の�ポイント�

①フリーターの常用雇用化、ニートの自立化支援など、若者一人ひとりの状況に応じたきめ細かな対策の実施�

②小学校から大学・大学院まで、地域や産業界との密接な連携による、体系的な人材育成の推進�

③地域産業と若者、学校等のつながりの強化を通じた若者と仕事との橋渡しの推進�

1.フリーター25万人常用雇用化プラン等の推進�

25万人の常用雇用化を目標に、フリーターの増加傾向の転換を確かなものとする。�○ジョブカフェ等、働く自信と意欲の向上のための専門サービス窓口の充実�○トライアル雇用、日本版デュアルシステム等、実践的な能力開発の実施�○ハローワークにフリーター向けの窓口を設け、常用雇用化のための一貫した支援の実施�○農業への就業意識の明確化、農業就業体験等による農業就業の支援�

2.地域の相談体制充実等によるニート対策の強化�

市町村、保健・福祉機関、教育機関等の密接な連携により、地域一体となってニート等の若者の職業的自立を支援する。�○「地域若者サポートステーション」を設置し、専門的な相談を行うとともに、地域の若者支援機関のネットワークを活用した支援の実施�○合宿形式による集団生活の中で、働く自信と意欲を付与する「若者自立塾」事業の推進�○ハローワーク等に専門的人材によるカウンセリング体制を整備�○専修学校等において、ニート等に対する「学び直し」の機会を提供�

3.体系的なキャリア教育・職業教育等の一層の推進�

各学校段階を通じ、関係府省が密接に連携して、キャリア教育等を強力に推進する。�○中学校を中心に、5日間以上の職場体験(「キャリア・スタート・ウィーク」)の推進�○民間の経験・アイデアを活用したものづくり体験等の小中高校段階からの職業教育�○ハローワークによる職業意識形成支援事業の充実�○大学における実践的かつ体系的なキャリア教育のための取組を支援�○就労、就学に次ぐ「第三の選択肢」としての「実践型人材養成システム」の普及・定着�

4.産学連携を通じた高度・専門的な人材の育成�

産学の密接な連携により、産業のニーズに応じた若手人材を育成する。�○専門職大学院における高度専門職業人養成の推進�○モノ作り分野等における地域産業と一体となった専門職大学院の設置促進等�○地域産業と高専等との連携により、中小企業の若手技術者を育成�○サービス、IT、MOT等の成長分野を支える専門人材について、産業界と大学院等との連携により、教育プログラムの開発、人材育成拠点形成を推進�

5.若者と地域産業とのネットワークの強化�

若者の地域産業での活躍に向けて、地域一体となって、若者と中小企業や林業・漁業との橋渡しを強化する。�○中小企業の魅力発信や、インターンシップ等を通じた中小企業を体験する機会の拡大�○ドリームゲート事業を通じた起業意識の喚起などにより「チャレンジのすそ野」の拡大を図り、新事業を創出・育成�○「緑の雇用」や漁業現場での長期研修により、林業・漁業の新規就業を促進�

6.若者問題に対する国民意識の向上�

○国民各層の関心を喚起するため、関係者が一体となり取り組む国民会議の開催等国民運動の充実�○若者向けシンポジウム等による若年者問題に関する広報・意識啓発の実施�○女性若年層の就業促進のため、キャンペーンやセ

図232-3 若者の自立・挑戦のためのアクションプラン

Page 13: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

236

業種�

建設業�

製造業�

卸売・小売業、飲食・宿泊業�

金融・保険業、不動産業�

運輸・通信業�

サービス業�

計画的な�OJT71.8�

73.7�

71.3�

79.6�

60.7�

67.5

OFF-JT

57.1�

56.9�

58.9�

66.7�

46.9�

57.2

資格取得�への支援�83.9�

50.5�

40.3�

67.2�

59.4�

60.2

備考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働者の働く意欲と雇用管理のあり方に関する調査」(2004年)のデータを同機構にて再分析。�出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の行う教育訓練の効果及び民間教育訓練機関活用に関する研究結果」(2006年)

数字は、「大いに役立つ」+「役立つ」の合計(%)�

従業員数�

100人未満�

100~299人�

300~499人�

500~999人�

1000人以上�

68.0�

63.0�

72.7�

76.4�

80.2

36.0�

48.7�

56.6�

65.6�

75.0

68.0�

66.4�

62.1�

58.6�

51.5

表233-1 能力開発のための制度の労働生産性への貢献

労働生産性を高める能力開発のポイント~独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業の行う教育訓練の効果及び民間教育訓練機関活用に関する研究結果」から~

2004年11月実施の「労働者の働く意欲と雇用管理のあり方に関する調査」データの再集計・分析か

ら見いだされた、従業員の能力開発により労働生産性を高める際のポイントは以下のとおりである。

①従業員の能力開発の実施状況(実施量)と労働生産性との間には密接な関係があり、従業員の能力

開発を積極的に行っている企業ほど労働生産性を高めていること。

②従業員の能力開発によって労働生産性を高めるためには、能力開発に対する会社の方針や関わり方、

経営方針や事業方針といった必須情報に関する伝達の仕方、それらの情報の共有の度合い、理解度

などについて一定の決まりがあること。

③従業員の能力開発を実施するに当たっては、会社が明確な方針を持って積極的に関わることが大切

であること。

④従業員に対して、会社の経営方針などの全従業員にとって必須の基本的な情報は、彼等の仕事を会

社の経営方針にまで位置付けられるように明確かつ具体的に伝えること。そして、このことによっ

て、個々の従業員に対して何が期待されているかが伝わるようにすること。

⑤情報を伝える仕組みが構築されていて、それが効果的に機能していること。

⑥従業員がそれらの情報を自分の仕事のレベルにまで落とし込んで理解をし、自分の能力開発目標を

見出せるようにすること。

コ ラ ム

Page 14: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

237

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

キャリア形成促進助成金制度

事業主が、その従業員について、職業訓練の実施、自発的な職業能力開発の支援、職業能力評価の実

施、キャリア・コンサルティング機会の確保を行った場合に支給する助成金であり、独立行政法人雇

用・能力開発機構が支給機関となっている。

1 助成金の種類

(1)訓練給付金

年間職業能力開発計画(以下「計画」という。)に基づき、その従業員に職業訓練を受けさせる

場合の助成

(2)職業能力開発支援促進給付金

計画に基づき、労働協約又は就業規則に定めるところによって、従業員の申出により、教育訓練、

職業能力検定又はキャリア・コンサルティングを受けるために必要な経費を負担した又は休暇を与

えた場合の助成

(3)職業能力評価推進給付金

計画に基づき、その従業員に、一定の資格試験等を受けさせた場合の助成

(4)キャリア・コンサルティング推進給付金

計画に基づき、その従業員に、外部機関等に委託又は企業内にキャリア・コンサルタントを配置し

て、一定の要件に該当するキャリア・コンサルティングを受けさせた場合の助成

(5)地域人材高度化能力開発助成金

地域雇用開発促進法に基づく一定の地域に所在する事業主が、その従業員について、職業訓練を

受けさせる場合又は従業員の申出により、教育訓練を受けるために必要な経費を負担若しくは休暇

を与えた場合の助成

(6)中小企業雇用創出等能力開発助成金

中小企業労働力確保法に基づく一定の要件を満たす事業主が、その従業員について、職業訓練を

受けさせる場合又は従業員の申出により、教育訓練を受けるために必要な経費を負担若しくは休暇

を与えた場合の助成

2 助成の基本的要件

(1)労働組合等の意見を聴いて、事業内職業能力開発計画及びこれに基づく年間職業能力開発計画を

作成している事業主であって、当該計画の内容をその雇用する労働者に対して周知しているもので

あること。

(2)職業能力開発推進者を選任していること。

3 キャリア形成促進助成金(訓練給付金)支給実績

2002年度 2,517百万円、19万人(うち製造業 505百万円)

2003年度 5,702百万円、35万人(うち製造業1,134百万円)

2004年度 6,011百万円、38万人(うち製造業1,157百万円)

製造業に係る支給実績については、全体の20%前後を占めている。

参 考

Page 15: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

第2節においては、パート・契約社員・嘱託とい

った非正社員や、派遣労働者及び請負労働者といっ

た外部労働者について、技能蓄積やキャリア形成上

の問題などについて取り上げた。

本節においては、こうした課題に対する取組を見

ていくこととする。

(1)非正社員についての均衡処遇や正社員登用に

ついての考え方

製造業においてパートなどの非正社員が多数就労

しているが、職務内容などが違う場合が多いため、

単純な比較は困難であるが、正社員との賃金の差が

見られる。非正社員の職務内容、意欲、能力、経験、

成果などに応じた処遇についての措置を講じること

などにより、正社員との均衡処遇を図るべきもので

ある。また、均衡処遇に配慮するとともに、非正社

員から正社員への転換に関する条件整備や、非正社

員の意見を聞く機会の設置などの措置を図るなどの

取組を進めるべきであるが、このことは、単に、非

正社員の処遇改善にとどまらず、非正社員の就労意

欲の高まりによる労働生産性の向上が期待できるも

のである。

238

パートタイム労働者からの正社員登用

B社(兵庫県明石市)は、電子・電気機器設計製作、プリント配線基盤設計製作、樹脂成型品用金

型の設計製作を行っている従業員数全体91名、うちパートタイム労働者20名の企業である。

パートタイム労働者の希望と勤務状況などを判断して、正社員登用を行っているほか、正社員を募

集する場合に、同種の業務に従事するパートタイム労働者(入社後1年以上)には、優先して応募の

機会が与えられている。1991年には、パートタイム労働者の退職金規程が整備されたが、この年、18

名が正社員へ転換し、その後も正社員に転換する者が続いている。

本制度を始めたことで、正社員に登用された労働者のみならず、パートタイム労働者の士気向上に

つながっているという。

コ ラ ム

人材投資促進税制

①基本制度

教育訓練費を前2事業年度の平均額(基準額)より増加させた企業について、その増加額の25%に

相当する金額を当期の法人税額から控除する(法人税額の10%限度)。

②中小企業の特例

中小企業については、教育訓練費を上記基準額より増加させた場合、教育訓練費の総額に対し、増

加率の2分の1に相当する税額控除率(上限20%)を乗じた金額を当期の法人税額から控除する(法

人税額の10%限度。①との選択が可能)。

※中小企業については、地方税(法人住民税)においても課税標準を法人税額控除後の額とする。

参 考

4 正社員以外の労働者の能力開発・キャリア形成の取組

Page 16: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

239

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

(2)非正社員・外部労働者から正社員への登用

製造業で働くパート・アルバイト・嘱託・契約社

員について労働者の正社員への登用の希望の有無を

調査した結果では、「現在仕事をしている会社の正社

員になりたい」38.1%、「現在仕事をしている会社と

は別の会社の正社員になりたい」14.8%といった回

答がある一方、「正社員にはなりたくない」という回

答も27.5%と少なからず見られる(図234-1)。働き

方の選択として、希望する場合には正社員への転換

もできる、ということが望ましいが、実際に、なん

らかの形で非正社員や派遣労働者に対する「正社員

への登用制度」があるとする製造業企業は約4割であ

る(図234-2)。企業において、さらに、非正社員か

ら正社員へ転換するための条件整備などを進めるこ

とが望まれる。

0 10 20 30 40 50(%)�

備考:非正社員は、パート・アルバイト、嘱託、契約社員等(派遣労働者、請負労働者は含めず。)�

資料:厚生労働省委託「能力開発基本調査」(2006年)�

38.1

32.2

14.8

15.6

27.5

34.1

10.6

10.8その他�

正社員には�なりたくない�

現在仕事をしている�会社とは別の会社の�正社員になりたい�

現在仕事をしている�会社の正社員に�

なりたい�

製造業�

全業種�

図234-1 正社員登用の希望(非正社員)

パートタイム労働指針-均衡処遇、正社員への転換、能力開発などのポイント-

パートタイム労働指針(「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関す

る指針」)は、パートタイム労働者の適正な労働条件の確保や雇用管理の改善に関して、事業主が講

じるべき措置について定めたものである。

参 考

パートタイム労働指針の基本的考え方

1 労働基準法、最低賃金法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの労働関係法令を遵守すること

2 パートタイム労働者について、その就業の実態、正社員との均衡などを考慮して処遇すること

4 正社員に応募する機会を付与すること

5 正社員へ転換するための条件を整備すること

6 パートタイム労働者との話し合いを促進すること など

3 中でも、正社員と職務が同じパートタイム労働者について、人材活用の仕組みや運用などが正社員と実質的に異ならないパートタイム労働者かどうか

(人事活用の仕組み・運用が同じ)正社員と処遇の決定方法を合わせるなどの措置を講じた上で、意欲、能力、経験、成果などに応じて処遇することにより、正社員との均衡の確保を図るよう努めること

(人材活用の仕組み・運用が異なる)人材活用の仕組み・運用が異なる程度を踏まえつつ、意欲、能力、経験、成果などに応じた処遇についての措置を講じることにより、正社員との均衡を図るよう努めること

Page 17: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

240

期間工からの正社員登用

トヨタ自動車株式会社(愛知県豊田市)では、期間従業員からの正社員登用制度を設けている。

期間従業員(当初4~6ヵ月契約)として入社し、本人希望と職場ニーズにより9~11月契約への

期間延長者を対象に、準社員採用試験の受験者募集が行われている。正社員への登用希望者は、職場

推薦を受けて受験することができる。

合格者は、準社員として3ヵ月勤務し、準社員期間中に更に社員登用試験を実施して合格者を正社

員に登用する仕組みである。

期間従業員の中には、当初から、一定期間のみの就労を目的とする人がいる一方、正社員への登用

を希望して入社する人や、入社後に正社員への登用希望を持つ人もおり、実際に仕事を経験し、納得

した上で準社員採用試験に応募している。このため、同社にとっても、現場を知り意欲のある人材を

登用できるというメリットがあり、正社員登用後の定着率も高いと評価している。

期間従業員から登用されたある正社員は、「作業が効率よくできるようになってきた時など、自分

がステップアップしていくのを実感したときに充実感を覚えます。後輩に負けないようにしっかり気

を入れて仕事を継続するのが目標です。」と語っている。

なお、準社員採用試験は、期間従業員としての入社時期により受験対象者を分けて年4回実施され、

1人の受験機会は年1回となるが、次の年にも受験の機会がある。

期間従業員から正社員への登用数は毎年の採用計画によって異なるが、2005年度には、938名が正

社員に登用されている。

コ ラ ム

0 10 20 30 40 50(%)�

資料:厚生労働省「労働力需給制度についてのアンケート調査」(2005年)�

43.5

29.4

3.8

3.4

17.9特に考えていない�

パートタイムやアルバイト、�派遣労働者として働きたい�

自分で企業を経営したい�

今後も請負労働者として�働きたい�

正社員として働きたい�

図234-3 請負労働者の今後の希望

資料:厚生労働省委託「能力開発基本調査」(2006年)

5.6%�

50.1%� 44.3%�

無回答�なし�あり�

図234-2 非正社員・派遣労働者に対する正社員登用制度の有無(製造業)

Page 18: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

241

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

また、請負労働者に対して今後希望する働き方の

調査では、「今後も請負労働者として働きたい」

29.4%、「パートタイムやアルバイト、派遣労働者と

して働きたい」3.4%に対して「正社員として働きた

い」43.5%と、引き続き請負労働者として働くこと

を希望する者が一定割合いる一方で、正社員として

働くことを望む者が相当な割合でいることが分かる

(図234-3)。

さらに、転職する際にどのようなことを重視して

請負・派遣会社を選ぶかについての調査では、請負

労働者40.2%、派遣労働者48.6%が「工場の正社員に

なることができる仕組みを持っていること」を重視

するとしている。また、「派遣・請負会社の正社員に

なることができる仕組みを持っていること」につい

ても、請負労働者23.5%、派遣労働者16.8%が重視す

るとしている(「製造業における請負・派遣社員の働

き方に関するアンケート」2005年)。

実際に、外部労働者については、派遣先企業や請

負発注元企業がそのまま、雇用している例もあり、

「過去1年間に受け入れた請負労働者が請負発注元に

そのまま就職したことの有無」について、24.0%の

事業所が「有」と回答している(図234-4)。また、

「派遣労働者を社員に登用する制度の有無」について、

製造業の派遣先企業では、「正社員として登用する制

度がある」22.0%、「嘱託、契約社員として登用する

制度がある」9.6%と回答している(図234-5)。

正社員への登用を希望する者にとって、こうした

請負発注元企業や派遣先企業において正社員への転

換の可能性があるということは重要である。今後、

派遣元企業や請負企業が、雇用する労働者の技能を

高度化するなど労働者のキャリア形成を促進する取

組を進めていくとともに、発注元企業や派遣先企業

での正社員登用の仕組みを関係者において整備して

いくことが望まれる。

正社員を希望する非正社員や外部労働者が、他の

企業に転職する中で、正社員となれるよう国として

支援することも重要である。このため、2005年5月

からフリーター20万人常用雇用化プランに基づき、

フリーターなどの常用雇用化を図ってきたところで

ある。さらに常用雇用化の目標を25万人とし、引き

続きフリーターなどの常用雇用化の促進を図ってい

く。

また、公共職業安定所では、正社員としての就職

を望む求職者の希望の実現に向けて、正社員求人の

確保に重点を置いた求人開拓を推進するとともに、

未充足である非正社員求人について、可能な限り正

社員求人となるよう求人条件の変更の働きかけを行

うことなどに取り組んでいる。

資料:厚生労働省「労働力需給制度についてのアンケート調査」�(2005年)�

1.2%�

22.0%�

67.3%�

9.6%�

制度がない� 不明�

嘱託、契約社員として登用する制度がある�

正社員として登用する制度がある�

図234-5 製造業の派遣先企業において派遣労働者を社員に登用する制度の有無

資料:厚生労働省「労働力需給制度についてのアンケート調査」�(2005年)�

2.8%�

73.1%�

24.0%�

不明�ない�あり�

図234-4 請負労働者が請負発注元にそのまま就職したことの有無

Page 19: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

(3)非正社員や外部労働者などの職業能力開発に

ついての環境整備

第2節でみてきたように、就業形態の多様化の中で、

製造業においても非正社員や外部労働者といった正

社員以外の働き手が多数おり、これら非正社員や外

部労働者は、正社員に比べて十分な職業能力開発機

会を得られない者が多い。こうした状況を放置すれ

ば、これらの者の十分な職業能力の開発及び向上が

図られず、職業キャリアの持続的な発展は困難とな

る。

このため、企業内においてバランスの取れた職業

能力開発機会が提供されるよう、例えば、事業内職

業能力開発計画における非正社員の位置づけの明確

化、企業内外のキャリア・コンサルタントによる相

談・援助などの支援を個々の企業の実情に応じて行

うことが望まれる。

製造業で働く外部労働者については、若年層が中

心になっていることから、将来に向けた能力開発や

キャリア形成の問題は一層重要である。また、事業

者においても、今後、経済が回復するとともに、労

242

フリーターから正社員へ-トライアル雇用の活用-

トライアル雇用事業は、事業者が、フリーターなどの若者を一定期間試行雇用することにより、そ

の適性や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進することなどを通じて、試行

雇用後の常用雇用の移行を図るものである。

また、トライアル雇用を実施する事業主には、最大3ヶ月間奨励金が支給され、一定の負担軽減が

図られている。

A君(20歳、男性)は、工業高校電気科卒業後、バイク便のアルバイトなどで2年間就労していた

が、正社員としての就労経験はなかった。

本人は、手先も器用な方であり、ものづくりの仕事がしたい、技術を身につけたいという希望があ

るものの、製造業の経験がなく、応募への不安があるということであった。

一方、工業用刃物製作、研磨などを事業内容とするC社(埼玉県八潮市)においては、「経験は問

わないが、真剣に取り組む気持ちがある人を採用したい」という意向があり、トライアル雇用中にそ

れを見極めたいとして、トライアル雇用の求人を出していた。

公共職業安定所において、A君は、仕事に対する不安の解消や、長期的に働くことができるかどう

か見極めた上で常用雇用へ移行できることなどトライアル雇用のメリットについて説明を受けたとこ

ろ、トライアル雇用を希望し、同社のトライアル求人に応募し採用となった。

本人は、「まさに自分がやりたいと思っていた仕事に巡り会えた。これからもこの仕事をがんばっ

ていきたい。」という前向きな姿勢で仕事に取

り組み、同社からも「特殊な仕事であるが、本

人も真剣に取り組んでおり、今後も期待できそ

うな人に来てもらえた。」と高評価を得、3ヵ

月のトライアル雇用後、正社員に移行した。

本人は、トライアル雇用中に仕事の見極めが

できたことから、正社員への移行後も、「仕事

がおもしろく、やりがいがある。」とのことで

あり、職場での定着に結びついている。

コ ラ ム

Page 20: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

243

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

働力需給が引き締まってきている中で、若年人口が

減少することを十分踏まえておく必要がある。

こうした観点から、派遣労働者については、その

職業キャリアの持続的な発展の観点に立って、派遣

元事業主による職業能力開発の取組、派遣先事業主

による派遣労働者の自発的な職業能力の開発及び向

上への協力などとともに、業界団体などにおける職

業能力評価に関する取組を促進することが望まれる。

また、請負労働者については、一般の現場作業要員

の多くが請負企業の非正社員と考えられるが、非正

社員を含めた労働者に対する能力開発やキャリア形

成支援などを推進していくとともに、昇進・昇格の

ルートの確立に努力していくことが望まれる。

また、発注元企業や派遣先企業においても、人口

減少社会にあって、現場力を維持・発展させる観点

から、安易な外部労働者への依存とならないよう点

検を行うとともに、法令を遵守した上で、しっかり

した雇用管理や技能水準を維持する企業をパートナ

ーとして選択することが求められる。

正社員以外の勤務実態及び職業能力開発の在り方

については、本人及び企業のニーズが様々であるこ

とから、国としても、より詳細に把握した上で、非

正社員・外部労働者も含めて、全ての労働者が適切

に能力開発や技能蓄積を行えるよう労働市場を有効

に機能させるための社会基盤整備を進めていくこと

が必要である。

労働者派遣企業の新展開-認定職業訓練による教育訓練の充実-

D社(東京都大田区)は、労働者派遣事業及び生産請負事業を行っている企業である。全国8ヵ所

にトレーニングセンターを保有しており、派遣労働者及び請負労働者のための研修を行っている。同

社は、もともと技能研修には力を入れており、それぞれの現場ごとの研修を行っていたが、専門の研

修施設を設けた方が効率的・効果的であるため、2003年に第1号のトレーニングセンターを開設し、

その後も整備を進めてきた。

同社では、勤務地と仕事の内容を明示して労働者を募集し、面接にて勤務地の企業名、派遣・請負

の区別などを明らかにして仕事内容の説明を行った後、トレーニングセンターにおいて担当する仕事

の内容に応じて3日~1ヵ月の研修を行い、その後各現場に派遣・配属している。また、このような

初任時の研修以外にも、能力向上訓練としてスキルアップのための研修や、現場のリーダーのための

研修も行っている。

トレーニングセンターには、半導体製造に関しては半導体製造装置の実機、自動車については、実

車及び溶接機、家電機器についてはオシロスコープなど、必要な装置・機器が整備されており、また、

専任のトレーナーも配置され、本格的に生産現場で必要な知識・技能が得られるよう配慮されている。

このうち、Eセンターの半導体製造科、自動車製造科、家電機器製造科の3科については、県知事

より職業能力開発促進法に基づく認定職業訓練

としての認定を受けたところであり、同社とし

ては、他のセンターについても今後認定を受け

るべくコースの整備などを進めることとしてい

る。

このような取組の結果、取引先企業からの技

能レベルについての評価が同社の強みとなって

いるとのことである。また、労働者にとっても

必要な知識・技能が身に付くとともに、初めて

の製造現場であっても、事前研修により安心し

コ ラ ム

Page 21: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

子供から大人までの国民各層が技能の重要性を広

く認識し、ものづくりに親しむ社会を形成すること

が、ものづくり立国の基盤整備のため特に重要であ

る。

このため、次のような各種の取組が行われている。

(1)技能尊重のための取組

①ものづくり日本大賞による技能尊重気運の醸成

我が国産業・文化の発展を支え、豊かな国民生活

の形成に大きく貢献してきた「ものづくり」を着実

に継承し、さらに発展させるためには、製造現場の

ものづくり中核人材や、伝統的な「匠」の技を受け

継ぐ人材が必要であり、とりわけ、今後を担う中堅

世代、若年世代の存在が重要である。

このため、最先端の技術から伝統的・文化的な

「技」まで幅広い分野において、中核を担う「脂の乗

った」中堅世代のうち特に優秀な人材(「ものづくり

名人」)に対して、内閣総理大臣が表彰を行う制度

「ものづくり日本大賞」が創設され、2005年8月に第

1回の表彰が行われた。チームワークの良さが日本

の「ものづくり」を支えているとの観点から、個人

だけではなく、グループも受賞の対象とされており、

25件59名が受賞した(第2部第5章第3節参照)。

このような制度を通じて、国民的に「ものづくり」

を盛り上げていくことによって、現場の方々が誇り

を抱き、もっと頑張ろうと思えるような社会、子供

たちが将来の仕事として「ものづくり」に興味を抱

くような社会の実現を目指している。

今後、表彰は2年に1回の頻度で行われることと

なっている。

244

第1回ものづくり日本大賞表彰式

2005年8月4日、総理大臣官邸で、第1回

「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣表彰が行

われた。

小泉総理からは、被表彰者に、「日本はもの

づくりに優れた国民性を持っています。日本の

文化と伝統、そして技。皆さんは常に創意と工

夫を怠らないで常にものづくりに精進されてお

られる。改めてお祝いと敬意を表したいと思い

ます。今後とも皆さんの技と心意気を後に続く

人たちにも伝えていただきたい。日本にのみで

はなく、ものづくりの大切さを世界に発信して

いただきたい。」とお祝いの言葉が述べられた。

コ ラ ム

5 ものづくり立国の基盤整備に向けた国民的気運の醸成

て仕事に就くことができるというメリットがある。

同社では、機械保全などの技能検定取得を奨励しているほか、設計・開発試作分野など更に付加価

値の高い技術を持った人材の育成に力を入れていくこととしている。

Page 22: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

245

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

②卓越した技能者表彰制度(現代の名工)

卓越した技能者を表彰することにより、広く社会

一般に技能尊重の気風を浸透させ、もって技能者の

地位及び技能水準の向上を図るとともに、青少年が

その適性に応じ、誇りと希望を持って技能労働者と

なり、その職業に精進する気運を高めることを目的

とした表彰制度である。

被表彰者は、都道府県知事、全国的な規模の事業

を行う事業主団体その他当該表彰を受ける者の推薦

に当たる者から推薦(個人推薦)のあった次の各号の

すべての要件を満たす者のうちから、厚生労働大臣

が技能者表彰審査委員の意見を聴いて決定する。

①きわめてすぐれた技能を有する者

②現に表彰に係る技能を要する職業に従事している

③技能を通じて労働者の福祉の増進及び産業の発展

に寄与した者

④他の技能者の模範と認められる者

表彰は、厚生労働大臣が毎年1回、概ね150名の被

表彰者に表彰状、卓越技能章(楯及び徽章)及び褒

賞金(10万円)を授与して行われる。

1967年度に第1回の表彰が行われて以来、2005年

度の第39回の表彰までで4,388名が表彰された(1995

年度までは毎年度概ね100名を表彰し、1996年度から

は概ね150名を表彰している)。

2005年度「現代の名工」の技

小お

澤ざわ

茂しげ

男お

氏(61歳)

【電気めっき工 (株)三ツ矢(東京都品川区)】

各種めっき加工に長年従事し、従来とは異なる工法を開発、またその技術や加工法を規格・標準化

することに多大な貢献をしている。氏は、その長年の経験から独創的なアイデアと試行錯誤を重ね、

従来の反射効率87%以上は困難とされていたレーザー光の集光反射効率を99.8%以上に向上した新し

い金めっき技術と加工法を開発した。この技術は、毛利衛氏が「エンデバー」で行った半導体単結晶

及び超伝導合金の製作において使用された「イメージ炉」の金鏡面反射鏡に用いられ、地上では得る

ことの出来ない金属生成に貢献した。また、この結果、各社のレーザー光反射鏡に対するニーズへの

対応が可能となり、産業機器や医療用機器にまで使用されるようになった。

めっき業界における技能振興に尽力するとともに、有害金属による環境汚染の排除改善のために代

替金属の開発にも携わり、環境保全の改善にも寄与した。

コ ラ ム

Page 23: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

246

片岡かたおか

宏ひろ

巳み

氏(62歳)

【冷間鍛造工 (株)アルファ(静岡県沼津市)】

アルミの冷間鍛造メーカーとして長年培った技能・知識をもとに、試行錯誤を繰り返した後、独自

の加工技術マイクロフォージング(金属素材を室温で、金型を用いて圧縮成形する冷間鍛造のこと)

を世界に先駆けて開発し、従来不可能とされていた精密、超微細な形状のヒートシンク(コンピュー

ターの放熱のために使われる部分)の量産に成功した。氏の開発した方法により、他社の追随を許さ

ない高い放熱効率のヒートシンクが製造され、IT業界の進展に多大な貢献をした。

渡わた

部べ

年とし

男お

氏(30歳)

【電子応用機械器具組立工 松下電器産業(株)ヘルスケア社(神奈川県横浜市)】

補聴器の製造に従事して、特にオーダーメイド型補聴器のものづくりにおいて卓越した知識・技術

を有している。個々の難聴者の耳孔形状や、聴力損失度合い、実際の聴こえ状態を考慮して、氏の高

い加工技術・性能調整をもって、難聴者の音の世界を取り戻す手助けをしている。さらに、保守活動

においては自ら直接市場に出向き、顧客の生の声を聴いて日常的な品質改善に活かしている。

また、自ら電子機器組立で技能検定1級を取得し、職場の技能レベル向上に努め、職場全体での取

得率約50%を達成させた。現在は女性への修理技術の伝承にも取り組み、後進技術者の育成にも尽力

している。

※片岡宏巳氏及び渡部年男氏の両氏については、第1回ものづくり日本大賞内閣総理大臣表彰を併せ

て受賞している。

Page 24: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

247

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

輝く技能-技能五輪全国大会-

1.技能五輪全国大会

国内の青年技能者の技能レベルを競うことに

より青年技能者に努力目標を与えるとともに、

技能を身近に触れる機会を提供するなど、広く

国民一般に対して技能の重要性、必要性をアピ

ールし、技能尊重気運の醸成を図ることを目的

として1963年から毎年10月~11月に開催してい

る。また、同大会は技能五輪国際大会(隔年開

催)に派遣する選手の予選大会も兼ねている。

なお、同大会は、地方における一層の技能振

コ ラ ム

(2)ものづくり立国の基盤整備

「ものづくり立国」事業として、ものづくり技能

の重要性を国民各層に浸透させるための各種事業を

国民的規模で展開し、また、2007年問題が顕在化す

る2007年に我が国で開催される2007年ユニバーサル

技能五輪国際大会を活用して技能尊重気運を醸成す

るとともに、若年ものづくり人材の育成を推進する

こととしている。

①工場、民間・公共の訓練施設などの親子などへの

開放促進

若年者のものづくり離れを解消し、ものづくり技

能の理解を促進するためには、若年者に対してもの

づくり技能に触れる機会を提供することが必要であ

ることから、企業の工場・訓練校、公共職業能力開

発施設活などを開放し、ものづくり現場を見学し、

ものづくりを体験する場を確保する。

②ものづくり技能に関するシンポジウムの開催

国民各層がものづくり技能の重要性を認識し、そ

のことによって、社会における技能尊重気運の醸成

を図るため、ものづくり技能に関するシンポジウム

や優れた技能者による技能の実演などを全国の主要

7都市で開催した。

③各種技能競技大会の実施

(ア)技能五輪全国大会

国内の青年技能者の技能レベルを競うことにより、

青年技能者に努力目標を与えるとともに、技能尊重

気運の醸成を図ることを目的として、1963年から毎

年開催されている。

(イ)技能グランプリ

優れた技能を有する1級技能士などが参加する技能

競技大会であり、隔年で開催されている。

(ウ)若年者ものづくり技能競技大会

職業能力開発施設、認定職業訓練施設、工業高等

学校等において技能を習得中の20歳以下の者を対象

としたものづくり技能競技大会であり、2005年8月に

第1回の大会が開催された。

④2007年ユニバーサル技能五輪国際大会を活用した

気運醸成

若年者の国際的な技能競技大会である技能五輪国

際大会と障害者の国際的な技能競技大会である国際

アビリンピックが2007年に「2007年ユニバーサル技

能五輪国際大会」として我が国静岡県で史上初めて

同時開催されることから、同大会の広報・啓発など

その成功に向けた取組を実施することにより、技能

尊重気運の醸成を図ることとしている。

なお、技能五輪国際大会には、原則として前年の

技能五輪全国大会の優勝者が出場できることとなっ

ている。

Page 25: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

248

興を図るため、1998年の第36回の群馬大会以降は、毎年地方で開催しているが、2005年は10月に山口

県において、初めてアビリンピック(全国障害者技能競技大会)と同時期に開催された。2006年も香

川県において、アビリンピックと同時期に開催される予定である。

2.山口大会の特徴

ここ数年、初めて参加する企業、一時参加を見合わせていたが再参加することとなった企業などが

増えたことにより参加選手数は1,094人と過去最多を記録した。

ものづくり基礎技能職種では、旋盤、フライス盤、メカトロニクスにおいて参加選手が増加傾向が

見られる。

中・高校生を始めとする来場者数は86,000人を記録した。技能フェアなどの併催イベントでは技能

に身近に触れてもらうことで、技能の大切さ、素晴らしさを多くの来場者にアピールすることができ

た。

技能フェア風景メカトロニクス職種競技風景(生産現場と同様のFA(生産自動化)モデルを使って、装置の設計、組み立て、調整能力、プログラミング、ネットワーク運転、トラブルシューティングなどの能力を競う)

Page 26: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

249

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

技能五輪参加までの道のり

自動車部品業界で世界トップクラスの(株)デンソー(愛知県刈谷市)では、技能の世界を志す若

者にデンソー工業技術短期大学校で必要な技能・知識等を習得(1~3年間)させ、卒業と同時に同

社の技能職場へ配属している。また、そうした青年技能者(19~21歳)の中から適性を見極め選抜し

た9~10名(採用数全体の約3%)を技能五輪の選手として育成している。

選手の育成には技能五輪メダリストが指導者として当たり、精神力・技能・体力等の更なる向上を

図るため、2~3年間の厳しい訓練を行うこととなる。この訓練を通じ指導者にも高度な指導力を身

に付けさせ、選手・指導者双方が技能職場の中核となり得る人材として成長させる。

こうして鍛え磨かれた青年技能者は、新製品の試作、生産設備の開発、研究開発の支援、後の技能

五輪選手の育成、若年技能者等への指導などの分野で幅広い知識・技能を活かし活躍している。

コ ラ ム

技能五輪国際大会(ヘルシンキ大会)での活躍-金メダリストたちのメッセージ-

今回で38回を迎えた技能五輪国際大会が、

2005年5月25日から6月1日にかけて、フィン

ランドのヘルシンキで開催された。

本大会には、世界37カ国・地域から39職種660

名が参加し、我が国からも2004年10月に開催さ

れた第42回技能五輪全国大会(いわて大会)で

優秀な成績を収めた32職種36名の選手が鍛錬さ

れた技を出し切った。

コ ラ ム

青年技能者の頂点を目指す同社選手 ポリメカニクス職種で金メダルを獲得した同社選手(左から2人目

第43回技能五輪全国大会(山口大会) 第38回技能五輪国際大会(ヘルシンキ大会)

開会式風景(於:ヘルシンキアイスホール)

Page 27: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

250

世界の頂点を目指し、自らの技能の限りをつくす日本の選手達

日本選手団、金メダル獲得数世界第1位

日本選手団の金メダル獲得数は5個で、スイス、南チロル・イタリアに並び1971年の第20回大会以

来となる世界第1位となった。

また、金銀銅のメダル獲得数は8個で世界第5位となった。

前回の大会に比べ、メダル獲得数が減ったのは、国際大会競技職種の統廃合で日本が得意とする精

密・機械系種目が減ったためとも考えられるが、主要ものづくり競技の金メダル数で世界のトップに

立った意味は大きく、次回、日本で開催される第39回大会(静岡大会)に向け、大きな弾みとなった。

ポリメカニクス職種競技風景 自動車板金職種競技風景

情報ネットワーク施工職種競技風景

メカトロニクス職種競技風景 電子機器組立て職種競技風景

Page 28: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

251

第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

国際大会へ参加した感想(☆)と世界に挑む技能五輪選手へのメッセージ(★)(年齢は大会参加当時)

渡辺章二(20歳)・(株)デンソー(愛知県刈谷市)

ポリメカニクス職種金メダル

☆選手、エキスパートがみんなフレンドリーだった。国によって色々な加工法をし

ていたので勉強になった。

★多少の英語は話せるようにしておいた方が良いと思います。他国の選手との交流

を深めましょう。

平田彰彦(22歳)・日産自動車(株)(神奈川県座間市)

メカトロニクス職種金メダル

☆参加して良かったことは、まずは金メダルを取れたこと。印象に残ったのは会場

で日本人を発見したときのうれしさ。

★コミュニケーションは大事。言葉が伝わらなくても、表情や仕草で伝える努力を

すると向こうも何とか理解しようとか、何とか伝えようと思ってくれるはず…少

なくとも自分はそう感じた。

メカトロニクス職種で金メダルに輝いた平田彰彦選手(左)と遠藤裕司選手(右)

閉会式風景(於:ヘルシンキアイスホール)

機械製図CAD職種で金メダルに輝いた大貫和俊選手

Page 29: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

252

遠藤裕司(20歳)・日産自動車(株)(神奈川県座間市)

メカトロニクス職種金メダル

☆国内とは違った雰囲気、緊張感を味わうことができた。他国の選手から自分たち

とは異なった作業の進め方など今後に活かせるものを学べた。金メダルをとった

ことは一生の思い出であり誇りです。

★国際大会のステージ、表彰台の上は国内とは比べものにならないくらいの達成感

があります。

大貫和俊(20歳)・(株)日立ハイテクノロジーズ(茨城県ひたちなか市)

機械製図CAD職種金メダル

☆国際交流を図れたことが良かったです。もう少し英語を勉強しておけばと思いま

した。たくさんの思い出をありがとうございました。

★国際大会は国内大会と違い堅苦しい感じがないので、競技を楽しんで欲しいです。

赤塚孝幸(21歳)・(株)日立インダストリイズ(茨城県土浦市)

CNCマシニング職種金メダル

☆多くの仲間に出会えたことが本当に良かった。現場に帰ってからも学ぶことが多

いと思うので、何でも積極的に取り組みたい。

★勝ち負けを意識せず、自分の最高だと思える競技をしてほしい。

小湊大輔(21歳)・(株)協和エクシオ(東京都渋谷区)

情報ネットワーク施工職種金メダル

☆たくさんの人たちにお世話になり、心から感謝している。国際大会での経験を活

かして現場でがんばっていきたい。

★結果も大事だが、とにかく、いっぱい楽しんだ方がいい。

以上6名については、第1回ものづくり日本大賞内閣総理大臣表彰を受賞している。(第2部第5章

第3節参照。)

日本で開催、2007年ユニバーサル技能五輪国際大会

2007年ユニバーサル技能五輪国際大会は、第39回技能五輪国際大会及び第7回国際アビリンピック

の総称であり、史上初めて、我が国(静岡県)において、両大会を同時開催するものである。

技能五輪国際大会は、青年技能労働者の国際的な技能の競技大会であり、参加国における職業訓練

の振興及び技能水準の向上を図るとともに、国際交流と親善を図ることを目的として開催されるもの

である。

また、国際アビリンピックは、障害者の国際的な技能の競技大会であり、参加国における障害者の

職業的自立意欲の増進及び職業技能の向上を図るとともに、広く障害者への理解を促進し、国際交流

コ ラ ム

Page 30: 3 人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性224 第1節では、人口減少社会におけるものづくり人 材育成の観点から、①熟練技能の継承、②若年者の

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第2章 人口減少社会におけるものづくり人材の育成

人口減少社会におけるものづくり人材育成の方向性

第3節

と親善を図ることを目的として開催されるものである。

本大会は、若者の製造業離れや熟練技能者の技能継承等が問題となる中、次代を担う青年技能者の

技能の向上に寄与するとともに、青年技能労働者の職業観の確立や国民各層の技能尊重気運の醸成に

資するものとして、また、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う

共生社会の実現を目指す上でも極めて意義のある大会であり、国も本大会の成功に向けて、必要な支

援をしていくこととしている。

1 大会日程・場所

2 主催

(財)2007年ユニバーサル技能五輪国際大会日本組織委員会

3 大会規模

大 会 2007年ユニバーサル技能五輪国際大会

期 間 2007年11月7日(水)~21日(水)・15日間

「第39回技能五輪国際大会」(沼津会場) 「第7回国際アビリンピック」(静岡会場)

11月7日(水)~21日(水)・15日間 11月13日(火)~18日(日)・6日間

競 技 門池地区(沼津市) ツインメッセ静岡(静岡市)

11月15日(木)~18日(日)・4日間 11月15日(木)~17日(土)・3日間

開会式 グランシップ(静岡市)

※「第39回技能五輪国際大会」及び「第7回国際アビリンピック」の合同開会式

11月14日(水)

閉会式 キラメッセぬまづ(沼津市) グランシップ(静岡市)

11月21日(水) 11月18日(日)

「第39回技能五輪国際大会」 「第7回国際アビリンピック」

参加国数 40ヶ国程度 40ヶ国程度

実施職種数 40職種程度 30職種程度

関係者(選手、審査員等) 約2,500人 約1,000人