2.5 タンク底部の裏面腐食...2.5 タンク底部の裏面腐食...

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2.5 タンク底部の裏面腐食 タンクの劣化要因の一つである裏面(地盤側)腐食の進行の実態を把握するため、詳 細に裏面腐食を測定できる新しい技術による測定(「連続板厚測定」)の結果を収集し分 析した。なお、タンク底部の裏面腐食の深さの測定方法については、 2.6.5 (5)参照。 2.5.1 裏面腐食の分布と形状 2.5.1 は3基のタンクに対する連続板厚測定の結果を表す。青色は腐食が殆ど進行し ていない領域を表し、比較的腐食が進んでいる領域は黄色や赤色で示してある(顕著なも のは矩形内に見られる)。白色は浮き屋根の支柱保護板などによる欠測箇所を示す。この図 から、タンク底部板の腐食状況はタンクごとに異なり、また、一つのタンク内でも一様で はないことが分かる。 2.5.2 のグラフは図 2.5.1 の最も右のタンクの底板について、連続板厚測定法で測定 された板厚のヒストグラムである。横軸は測定された板厚を示し、縦軸は測定点数(おお よそ面積に比例)を示す。この図から次のことが分かる。 ①底板の板厚の大半は 11.3mm から 12.3mm の範囲内にある。(当該範囲内の測定点数:約7 千万点) ②分布割合は小さいが、板厚が 7.0mm から 9.0mm の範囲内にある部位も存在する。(当該範 囲内の測定点数:約 300 点) ③タンク底部からの流出事故は、②のように局所的に腐食が進んで貫通孔があくことによ って発生するが、この場合でも底部板の大半は、それほど腐食していない可能性がある。 2.5.3 は連続板厚測定データからタンク底部板の腐食形状を表したものである。腐食 の広がりや深さ、分布など腐食の進行の仕方は様々であることがわかり、腐食の将来推定 にあたっては腐食の進行の仕方に関して不確実性があることを考慮する必要がある。図 3.3.5 には腐食の断面形状の例を掲載した。 アニュラ板の一部に深い腐食 アニュラ板及び周辺に腐食 底板部に腐食 2.5.1 連続板厚測定によるタンク底部板の板厚分布の例 237

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2.5 タンク底部の裏面腐食

タンクの劣化要因の一つである裏面(地盤側)腐食の進行の実態を把握するため、詳

細に裏面腐食を測定できる新しい技術による測定(「連続板厚測定」)の結果を収集し分

析した。なお、タンク底部の裏面腐食の深さの測定方法については、2.6.5(5)参照。

2.5.1 裏面腐食の分布と形状

図 2.5.1 は3基のタンクに対する連続板厚測定の結果を表す。青色は腐食が殆ど進行し

ていない領域を表し、比較的腐食が進んでいる領域は黄色や赤色で示してある(顕著なも

のは矩形内に見られる)。白色は浮き屋根の支柱保護板などによる欠測箇所を示す。この図

から、タンク底部板の腐食状況はタンクごとに異なり、また、一つのタンク内でも一様で

はないことが分かる。

図 2.5.2 のグラフは図 2.5.1 の最も右のタンクの底板について、連続板厚測定法で測定

された板厚のヒストグラムである。横軸は測定された板厚を示し、縦軸は測定点数(おお

よそ面積に比例)を示す。この図から次のことが分かる。

①底板の板厚の大半は 11.3mmから 12.3mmの範囲内にある。(当該範囲内の測定点数:約7

千万点)

②分布割合は小さいが、板厚が 7.0mmから 9.0mmの範囲内にある部位も存在する。(当該範

囲内の測定点数:約 300点)

③タンク底部からの流出事故は、②のように局所的に腐食が進んで貫通孔があくことによ

って発生するが、この場合でも底部板の大半は、それほど腐食していない可能性がある。

図 2.5.3 は連続板厚測定データからタンク底部板の腐食形状を表したものである。腐食

の広がりや深さ、分布など腐食の進行の仕方は様々であることがわかり、腐食の将来推定

にあたっては腐食の進行の仕方に関して不確実性があることを考慮する必要がある。図

3.3.5には腐食の断面形状の例を掲載した。

アニュラ板の一部に深い腐食

アニュラ板及び周辺に腐食

底板部に腐食

図 2.5.1 連続板厚測定によるタンク底部板の板厚分布の例

2-37

測定点数

平面図(横1m、縦1m)

断面図

断面図

断面図

断面図

断面図

平面図(横 1.1m、縦 0.65m)

平面図(横1m、縦1m) 平面図(横 1.5m、縦1m)

図 2.5.2 連続板厚測定によるタンク底部板の板厚のヒストグラムの例

図 2.5.3 連続板厚測定データに基づくタンク底部板の腐食形状の例

断面図 断面図

断面図

0

5

10

15

20

25

30

35

40

7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 7.6 7.7 7.8 7.9 8.0 8.1 8.2 8.3 8.4 8.5 8.6 8.7 8.8 8.9 9.0

2-38

2.5.2 裏面腐食速度の経年変動

図 2.5.4 は、裏面腐食深さが大きかったことが報告された新法タンク(3.2の検討に

用いたもの。参考資料-2)について、開放回数の違いによる裏面腐食速度を個々のタン

クごとに表示したものである。定点測定による腐食深さを元に、前回開放時の最大腐食箇

所が今回開放時にも最大腐食箇所であったものと仮定して前回開放と今回開放の期間にお

ける腐食深さを求め、当該期間で除して腐食速度とした。定点測定であることから測定密

度が低く、最大腐食速度の算定にあたり不確実性が高いことに注意が必要である。なお、

資料作成に当たっては、腐食深さが小さかったもの及び腐食深さが測られずに板替えされ

たもの*は含まれていないため、全てのタンクの傾向を表すものではない。

*2.4.1 で述べたとおり、腐食が激しい板について板厚を測定せずに交換し

てしまうものが一定数有り、タンクの底部腐食の実態を把握し、データ分

析を行う上での障害となっている。

図 2.5.4 を見る限り、各回ごとの裏面腐食速度の出現状況に、一定の傾向を見いだすこ

とは困難であり、また、変動の上限を求めることも困難である。なお、定点での測定結果

に基づいて算出した裏面腐食速度であり、最大の裏面腐食速度を表しているとは限らない

ことにも留意する必要がある。なお、実際に裏面腐食速度が変化する要因としては、裏面

防食措置の劣化、雨水進入防止措置の劣化、貯蔵温度の変化、基礎と底部板との接触状況

の変化などが考えられる。

裏面腐食速度が大きいものの特性を調べると、加温されたタンクでは裏面腐食速度が大

きくなる場合があることがわかる一方で、常温のタンクではおおよそ 0.4mm/年程度以内に

収まっていることもわかる。

2回目腐食速度(m

m

/年)

1回目腐食速度(mm/年) 2回目腐食速度(mm/年)

3回目腐食速度(m

m

/年)

図 2.5.4 裏面腐食深さが大きかった履歴のあるタンクの1回目開放時の裏面腐食速度

と2回目開放時の裏面腐食速度(左)及び2回目開放時の裏面腐食速度と3回

目開放時の裏面腐食速度(右)

◆は常温タンク

■は加温タンク

(設計温度 60℃以上を

加温とした)

*腐食深さが小さかったもの及び腐食深さが測られずに板替えされたものは含まれてい

ない。

*定点測定による腐食率である。

2-39

図 2.5.5 及び表 2.5.1 は、新法タンクの開放時に得られたタンクごとの最大裏面腐食深

さから求めた最大裏面腐食速度を、開放回数ごとにデータの得られたタンク数について平

均したものである。図 2.5.6 は裏面腐食速度ごとのタンク基数の分布を表す。これらに用

いられた裏面腐食速度は定点測定に基づく最大裏面腐食深さから得られたものであり、測

定密度が低いことに起因する不確実性が高いことに注意が必要である。開放が進むととも

に裏面腐食速度がゼロでないものの割合が増え、また、裏面腐食速度の大きなものが増え

ていることがわかる。

表 2.5.1 開放回数に対する裏面腐食速度の平均値及び最大値並びに対象タンク基数

部位 開放回 1回目 2回目 3回目

平均値(mm/年) 0.055 0.056 0.069

アニュラ板 最大値(mm/年) 1.3 0.56 0.56

タンク基数 571 448 246

平均値(mm/年) 0.056 0.040 0.057

底 板 最大値(mm/年) 1.2 0.90 1.1

タンク基数 531 425 275

(データ算出の条件)

・板替えや補修内容不明で裏面腐食速度が求められないものを除いた。

・開放時に見つかった最大裏面腐食箇所が、前回開放時の補修後の最大裏面腐食箇所

であったと仮定し、開放間隔年数により腐食速度を求めた。

・使用したデータは定点測定を実施したタンクのみを抽出した。

・裏面腐食履歴データは危険物保安技術協会が保存しているもので各タンクの最も古

いデータを1回目とした。

裏面腐食速度の平均値(mm

/年)

開放回数

図 2.5.5 開放回数に対する最大裏面腐食速度の平均値

2-40

タンクの開放回数と裏面腐食速度との関係を精度よく分析するために、図 2.5.6 で分析

したデータから、過去3回以上の開放実績があり、かつ各開放時の裏面腐食データが全て

得られたタンクを抽出した(図 2.5.7 及び表 2.5.2)。図 2.5.7 は腐食速度ごとのタンク基数

の分布であり、表 2.5.2 はこれらのタンクの各開放時における最大裏面腐食深さから求めた

最大裏面腐食速度を平均したものである。 平均値を見ると2回目と3回目では大きな差異はないものの、ヒストグラムにおける基

数分布を見ると、3回目では最頻値がゼロからずれており、経年により裏面腐食が加速し

ているものと考えられる(要因としては、裏面防食措置の劣化、雨水進入防止措置の劣化、

貯蔵温度の変化、基礎と底部板との接触状況の変化などが考えられる)。図 2.4.5 と比較す

ると3回目ではあっても裏面腐食速度はゼロ付近に分布する傾向を依然示していることか

ら、内面腐食の経年的な加速度合に比較すれば、その度合は緩やかであると評価できる。

1回目

1回目

2回目

2回目

3回目

3回目

腐食速度(mm/年)

腐食速度(mm/年)

腐食速度(mm/年)

腐食速度(mm/年)

腐食速度(mm/年)

腐食速度(mm/年)

図 2.5.6 各開放時の最大裏面腐食速度とタンク基数

2-41

部位 第1回開放 第2回開放 第3回開放

腐食速度の平均値(mm/年)

腐食速度の最大値(mm/年)

タンク基数 158基 158基 158基

腐食速度の平均値(mm/年)

腐食速度の最大値(mm/年)

タンク基数 129基 129基 129基

アニュラ板

0.031 0.073 0.066

0.39 0.48 0.45

底板

0.044 0.056 0.071

0.48 0.9 1.14

図 2.5.7 3回以上の開放実績があるタンクの各開放時の最大裏面腐食速度とタンク基数

表 2.5.2 3回以上の開放実績があるタンクの開放回数に対する

裏面腐食速度の平均値及び最大値並びに対象タンク基数

2-42

図 2.5.8 は石油精製などの圧力設備において

金属材料の腐食損傷事例から求められた腐食速

度の傾向を分析した資料である1)。腐食メカニ

ズムに応じて腐食速度は次の通り区分されてい

る。

Ⅰ 腐食速度 0.15~0.3mm/年:比較的マ

イルドな一般的な環境での腐食

Ⅱ 腐食速度 0.3~0.5mm/年:地下の腐

食、塩素、塩分、H2Sの影響がある

腐食、応力腐食割れ

Ⅲ 腐食速度 0.5~4.0mm/年:エロ-ジ

ョン/コロージョン

ⅠとⅡの区分は環境と材料に支配され、本来の

区分があいまいなものである、とされている。

図 2.5.6 で示したタンクの裏面腐食速度の度数分布は定点測定によるものであることか

ら、測定密度が低いことに起因する不確実性があるが、連続的な分布をしている部分を見

るとおおむね 0.45mm/年以内にあるといえ、また、考えられる腐食機構からも多くのタ

ンクで裏面の腐食環境としては、区分ⅠとⅡと考えて良いと言える。しかし、一部で腐食

速度が高いものも見られており、異常な環境となるものもあることが推察されることから、

タンク底部裏面において激しい腐食が生じる可能性にも留意する必要がある。

引用文献

1)小林英男、柳田省三:「圧力設備の腐食損傷事例と腐食速度の解析」、高圧ガス, Vol.35,

No.3 , p.23-33(1998))

図 2.5.8 腐食損傷事例の公称厚さ

と使用年数の関係1)

2-43

2.6 屋外タンク貯蔵所の事故の要因分析 2.6.1 代表的な事故事例及び 2010年に発生した事故事例

過去の主要な底部からの流出事故の5事例と 2010年に発生した底部からの流出事故2事

例について、事故原因報告書等から得られた事故の情報を以下にまとめる。

(1)不等沈下による溶接部の割れ1)

①事故概要

岡山県倉敷市の製油所内のタンクにおいて、基礎の不等沈下を誘因として側板とアニ

ュラ板を接合する溶接部が破断し、重油 42,888キロリットルが流出、そのうち 7,500キ

ロリットルから 9,500キロリットルが海上へ流出し、瀬戸内海の約3分の1を汚染した。

②発生日時 1974年 12月 18日 20時 40分ごろ

③タンク概要

・形式 固定屋根式

・寸法 直径 52.307m×高さ 23.67m

・容量 48,000キロリットル

・内容物 重油

・アニュラ板:材質 HW50 板厚 12㎜ 底板:材質 SS41 板厚 9㎜

④事故原因

側板に近いアニュラプレートと地盤に隙間が形成され、側板とアニュラ板を接合する溶

接部の部分的割れが生じたことにより、溶接部が破断し、危険物が流出した。

(2)腐食減肉したアニュラ部の溶接部の地震による割れ2)

①事故概要

昭和 53 年宮城県沖地震により、宮城県仙台市の製油所の3基のタンクにおいて、側板

とアニュラ板とを接合する溶接部分が破断し、貯蔵中の危険物 68,100キロリットル(3

基分)が、タンク周囲に設置されている防油堤を越え、また、防油堤下の地盤を洗掘し

て流出し、製油所構内に流出した。うち 2,900 ないし 5,000 キロリットルが海上へ流出

した。

②発生日時 1978年 6月 12日 17時 14分(地震発生)

③タンク概要(3基分。タンク名称:ア.T-217、イ.T-218、ウ.T-224)

・形式 固定屋根式(ア.イ.ウ.)

・寸法 直径 43.588m×高さ 21.855m(ア.イ.)、直径 37.776m×高さ 21.855m(ウ.)

・容量 31,500キロリットル(ア.イ.)、23,700キロリットル(ウ.)

・内容物 C重油(ア.イ.)、減圧軽油(ウ.)

④事故原因

宮城県沖地震によりタンクは、かなり大きな地震動を受けたと考えられる。また、ア

2-44

ニュラ板裏面全面に腐食が見られた。このような要因により、溶接部の貫通割れ、不貫

通割れが伝播し互いにつながり破断したものと考えられる。

(3)底板溶接部の割れ3)

①事故概要

横浜市内の製油所のタンクで底板相互の重ね継手溶接部が破断し、原油が排水溝に 50

キロリットル流出した。

②発生日時 1979年2月4日 12時 30分ごろ

③タンク概要

・形式 浮き屋根式

・寸法 直径 69.765m×高さ 15.29m

・容量 50,000キロリットル

・内容物 原油

・アニュラ板:材質 HT60 板厚 12㎜ 底板:材質 SS41 板厚8㎜

④事故原因

基礎の局部沈下、溶着金属の腐食及び溶接部内部の欠陥の相乗効果によって底板相互

溶接部の重ね継手が破断したもの。

(4)内面腐食による貫通4)

①事故概要

新潟県上越市の製油所内のタンクで底板に生じた内面腐食による貫通孔によりナフサ

が流出。覚知したのは流出開始から 23日後で、その間に地盤に浸透し、地下水を通じて

河川へ流出した。推定流出量は 80キロリットル。河川とタンクの間で掘削を行い、地下

水をポンプアップして河川への油流入を止めた。

②発生日時 2005年 12月7日

③タンク概要

・形式 固定屋根式

・寸法 直径 15.490m×高さ 13.655m

・容量 2,400キロリットル

・内容物 ヘビーナフサ

・アニュラ板:材質 SS41 板厚6㎜ 底板:材質 SS41 板厚6㎜

④事故原因

タンクの底板内面コーティングの施工不良箇所においてコーティングの剥離が発生し、

内面から孔食が発生した。貫通孔(直径約 10mm)が形成され、流出が開始した。12月

31 日に河川で油膜が発見され、事故覚知された。後日液面変動から流出開始日を推定し

たところ 12 月7日とされ、この間の推定流出量は 80 キロリットルとなった。電気防食

2-45

が設置されており、貫通孔付近に裏面腐食はほとんどなかった。

(5)裏面腐食による貫通5)

①事故概要

広島県大竹市のタンクの底板裏面に結露が発生し裏面腐食が発生したもの。リング基

礎に設けられている水抜き口よりスチレンが 200ℓ 流出した。

②発生日時 2003年 7月 7日

③タンク概要

・形式 固定屋根式

・寸法 直径 14.700m×高さ 13.000m

・容量 2,000 キロリットル

・内容物 スチレン(第4類第2石油類)

④事故原因

常温管理の下、底板の裏面に結露が発生したことにより湿潤環境となり、劣化したア

スファルトサンドに含有する塩化物が底板との密着部分で局部濃縮した。更に、通気差

腐食・酸腐食作用も重なって異常腐食に発展したと推定される。

(6)底板の溶接部われによる流出事故事例6)

①事故概要

千葉県市原市の製油所のタンクの底板溶接部が割れ、ジェット燃料が漏洩したもの。

流出量は 0.14キロリットルと算定されている。

②発生日時 平成 22 年1月 24日 16時 50頃(覚知)

③タンク概要

・形式 浮き屋根式

・寸法 直径 67.37m×高さ 18.24m

・容量 51,252キロリットル

・内容物 ジェット燃料(第4類第2石油類)

④事故原因(暫定)

タンクを開放して漏洩箇所を特定したところ、タンク底板の重ね溶接の溶接線近傍で

あり、かつ、ルーフサポート用当て板近傍に長さ約 400mm のコーティング及び底板の割

れが発見された。低サイクル疲労による割れと事業所では推定。

(7)裏面腐食による流出事故事例

①事故概要

和歌山県海南市の石油精製事業所内の屋外タンク貯蔵所から潤滑油約 60キロリットル

(推定)が漏洩しているのを作業員が発見。タンク底板からの潤滑油の漏洩は約2キロ

2-46

リットルであるが、入出荷の記録から推測するとタンク外に約 60キロリットル漏れてい

ると推測される。

②発生日時 平成 22 年4月5日正午頃(覚知)

③タンク概要

・形式 固定屋根式

・寸法 直径 21.3m×高さ 15.225m

・容量 4,900キロリットル

・内容物 潤滑油(第4類第4石油類)(事故発生時は指定可燃物)

④事故原因

タンク底板中央部に5cm×6cm の開口部が発見された。平成 14年に開放点検が実施さ

れており、底板コーティング(エポキシ樹脂)工事実施。内面はほとんど腐食しておら

ず、主に底板裏面からの腐食が進行したものと考えられる。当該開口部を中心に直径 15cm

程度のエリアでは残存板厚はほとんどないものと推測される。なお、平成 19年に内容物

が軽油から潤滑油に油種変更されており加熱配管工事が実施されている。

2-47

2.6.2 タンクの経年劣化と事故要因

タンクの経年劣化要因のイメージを図 2.6.1 に示す。タンクの底部からの流出事故の主

たる素因(経年劣化要因)としては次の3つの要因が考えられる。

・内面腐食による減肉(前項事例(4))

・裏面腐食による減肉(前項事例(2)、(5)、(7))

・地震や繰り返し荷重による溶接部の劣化(前項事例(2)、(6))

また、タンクに加わる応力の変化は流出事故の誘因になり得るが、主たる誘因としては

次の3つがあげられる。

・液圧(静液圧、液圧変動、スロッシングによる動液圧)(前項事例(3))

・地震(前項事例(2))

・基礎の不等沈下・局部沈下(前項事例(1)、(3))

なお、タンク底部の劣化要因に影響を与えるものとしては次が考えられる。

・内容物、液温、スラッジの性状、内面コーティングの劣化など

・底板裏面への水の進入、基礎の材質、地下水位、河川からの距離など

・液圧、液圧の変動、溶接部の初期欠陥など

図 2.6.1 タンク底部に係る経年劣化要因

2-48

2.6.3 事故の発生プロセス

タンクの底部の経年劣化から流出事故に至る過程を図 2.6.2 にまとめた。図中の括弧内

の件数は第2章の表 2.3.1、表 2.3.2から容量1千キロリットル以上のものを抽出して各項

目に該当する事故の件数である。タンクには経年とともに腐食や溶接部欠陥(又はこれら

の複合)により強度が低下した劣化箇所が発生する。開放点検によって事前に劣化箇所が

見つかれば補修され、タンクは再度健全な状態に戻るが、開放点検より前に更に劣化が進

行した場合及び開放点検で劣化箇所が見落とされた場合は、液圧(変動)や不等沈下・局

部沈下、地震を誘因として流出事故に至る。容量1千キロリットル以上のものについてこ

のような底部からの流出事故は昭和 49 年以来 34 件発生している。なお、ここでは溶接部

の破断について全て疲労として分類したが、その中には腐食による減肉と溶接部の欠陥の

複合要因であったものも含まれる。この図では、ドラム缶 50 本分に相当する 10 キロリッ

トル以上の流出を大規模流出としたが、13 件の事故が発生している。なお、事業所によっ

ては流出量として回収できた油量を報告していると思われるものもあり、流出量の精度に

ついては確認できないものもあることに注意が必要である。

図 2.6.2 底部流出事故の事故発生フロー

15 18 25 26

29 30 35 39 15 30 43 44 53

43 44 52 53 61 62 75 114 117

61 62 75 90 121 26 29 90 106

106 114 117 121 22 73

133 1 6 7

18 25 35

86

6 22 28 73 18 25 35 39

86 52 133

1 2 3 4 6 28 86 52 133

5 6 7 2 3 4 5 6

2 3 4 5

番号の凡例 39 52 133

腐食 6 28

疲労 2 3 4

地震 5

下線 1㎘~10㎘未満 39 133

経年

劣化

腐食腐食

減肉

溶接部

欠陥

溶接部

の腐食

割れ

点検

補修

貫通 流出

・液圧

・地震

・不等沈下

破断

覚知

した

覚知

おくれ

基礎

変形

対応

(移液)

流出

継続

大規模

流出

少量

流出

火災

堤内

堤外

河川・海洋

汚染

地下水

汚染

事故発生過程フロー ※10㎘以上の流出を

大規模流出とした。

(21件)

(14件)

(22件)

(13件)

(4件)

(9件)

(7件)

(2件)

不等沈下

不支持

内面

裏面

点検

補修

2-49

2.6.4 流出事故の被害拡大シナリオ

流出後、貯蔵量が少ない場合や油の流出速度に対して早い時間に覚知及び対応が完了で

きれば少量流出でとどまるが、覚知や対応が遅れた場合や、流出圧や地震による基礎の変

形・損壊などにより大規模な底部破断が発生した場合には、大規模流出に至る。流出拡大

防止の最終的なよりどころとしては防油堤によって外部への危険物流出を防ぐことが期待

されている*が、事故事例で報告されているように、流出物の勢いにより防油堤を油が乗り

越えたり、防油堤が洗掘を受けるおそれ(2.6.1 の(1)(2)、2.7.3(1)③、(2)①、

②)、地下水を汚染するおそれ(2.6.1の(4)、2.7.3の(1)②)及び防油堤内火災のお

それを考慮すると、タンク外への流出そのものを防ぐことが安全上重要である。

*防油堤の基準は昭和 49 年の岡山県倉敷市での事故や昭和 53 年の宮城県沖

地震による事故を受けて構造等について強化された。

(1)流出事故による火災事例

危険物がタンク外へ流出した場合、火災が発生するおそれがある。石油コンビナートの

防災アセスメントにおいては、流出時の着火確率として 10-1 が使われることが多く7)、想

定しうる災害シナリオとして火災は認識しておく必要がある。タンクからの流出事故に関

連する火災事例としては次のような例がある。

①1980 年川崎市 ポリブテン(第4類第3石油類)が側板腐食孔から流出して火災とな

る。

②2003 年苫小牧市(十勝沖地震) 屋外タンク貯蔵所の配管から原油が流出し火災とな

る。

③2005 年英国(ハートフォードシャー)レベル計の不具合により無鉛ガソリンがあふれ

て火災となる。

(2)環境汚染

保安検査制度の契機となった 1974年岡山県倉敷市の事故では、大規模な海洋汚染が発生

した。流出した重油は瀬戸内海の約3分の1を汚染し、除去作業は約4ヶ月に及んだ。金

額換算可能な被害額としては約 500 億円、うち漁業被害は約 214億円(昭和 49年環境白書)

と算定されている。同様な重油による海洋汚染であった 1997年ナホトカ号の座礁・重油流

出事故(流出量 6240 キロリットル)では、油処理費用及び漁業補償などの請求額は 358億

1400 万円にのぼった8)。海洋汚染の他、土壌や地下水を汚染するとそれらの浄化が必要と

なる。

2-50

2.6.5 事故発生要因に対する管理の状況

(1)概要

特定屋外タンク貯蔵所のタンクにおける流出事故に関係する劣化要因に対して、関連す

る基準及び管理方法について表 2.6.1 にまとめた。管理方法としては、運転中の外部から

の定期点検(標準的には1年に1回)と、定期的な開放点検(容量1万キロリットル以上

のタンクの場合に8年、10年、13年周期)に分類した。

保安検査の周期を延長した場合、検査のための開放時に健全性が確認されている表中の

網がけ部分の劣化が進行することになる。また、運転中の点検と開放時の点検で管理され

ているその他の要因については、内部からの点検と補修の機会が減ることとなる。

(2)保安検査の対象部分

タンクの底部から流出事故が発生すると、全量が流出するおそれがあること、高い液圧

や流速による基礎変形・洗掘が発生するおそれがあること、覚知が遅れて流出が継続する

おそれがあることなど、大量流出に至る危険性が高い。このように万一の事故時に危険性

が高いことから、底部からの流出事故の要因については保安検査によって管理されている。

具体的な事項は次の通り。

①底部の板厚(裏面腐食及び内面腐食)

②底部の溶接部の欠陥

③基礎の不等沈下に関する事項

なお、③については、定期的に外周部の沈下量を測定し、不等沈下量がタンク径の 100

分の 1以上になった場合には臨時保安検査を受けることにより管理されている。

(3)保安検査の対象でない部分

側板や屋根、附属設備については、公的な検査によって健全性を担保することまでは規

定されておらず、その維持管理は屋外タンク貯蔵所の所有者等にゆだねられている。これ

らの中には、運転中の管理が困難な部分(例えば側板内面腐食、ルーフドレーンなどの内

部附属設備など)もある。このような部分に対しては容量1万キロリットル以上のタンク

については、8年、10年、13年ごとの保安検査受検のための開放点検(補修)により、こ

れらの管理の機会が担保されている。第2章の表 2.3.1 から分かるとおり、近年側板から

の流出事故が目立っており、検査対象外のこれらの部位についての管理状況が懸念される。

2-51

表 2.6.1 タンクにおける劣化要因と管理の方法

(4)底部の内面腐食に対する管理の方法

①所有者等は底部の全面に対して目視検査を実施し、コーティングの劣化状況と内面腐

食の発生箇所を把握

②腐食箇所はゲージ等を用いて手動で腐食深さを測定。また、当該腐食箇所の周囲の裏

面腐食状況を確認し、内面腐食箇所の板厚が法令上の基準を満足しているかどうかを

確認。

③法令上の基準を満足していない場合は補修。また、法令上の基準を満足している場合

でも所有者等の自主的な補修基準により当該内面腐食箇所が補修されることもある。

④保安検査において、目視検査を実施し、また腐食箇所の最小板厚が法令上の基準を満

たしているかどうかを市町村長等が確認。

(5)底部の裏面腐食に対する管理の方法

①所有者等はタンク内部から超音波板厚計で板厚を測定する。

②一般的な測定箇所は、昭和 52 年3月 30日付け消防危第 56号通知「危険物の規制に関

する政令及び消防法施行令の一部を改正する政令等の施行について」(以下「56号通知」

という。)等に示された箇所を測定する(図 1.2.1参照)。

③板厚が法令上の基準を満足していない場合は、底部板の取替え補修が実施される。ま

た、前回開放時の腐食の発生状況を勘案し、開放前から底部板を取替えるよう計画さ

れていた板については、開放時の検査は実施されずに底部板が交換されることもある。

劣化要因 技術基準など 運転中の管理(定期点検) 開放時の管理 備考

底部

裏面腐食 最小厚さ規定 裏面防食措置

(雨水進入防止措置)

(目視点検)

板厚測定 ※最小厚さの測定には

腐れしろ3mm を含む。 内面腐食

最小厚さ規定 (コーティング)

― 目視、腐食深さ測定

(コーティング目視調査)

溶接部疲労・欠陥進展 表面欠陥の基準 ― 目視及び非破壊試験

基礎 不等沈下・局部沈下 支持力 外周での沈下量測定 ―

側板

外面腐食

最小厚さ規定 地震等による必要厚さ

規定 (塗装)

目視点検 外部からの板厚測定

(保温材があると点検不

能。)

(板厚規定) (塗装目視調査)

内面腐食

最小厚さ規定 地震等による必要厚さ

規定 (コーティング)

(外部からの板厚測定) 内部目視・腐食深さ測定 (コーティング目視調査)

溶接部欠陥進展 内在欠陥の基準 目視点検 (目視点検)

屋根 腐食 最小厚さ規定 (塗装) 気密性

目視点検 外部からの板厚測定

目視点検

(板厚規定) 内部目視点検

附属設備 腐食 ― 目視点検 作動試験

内部目視点検 (板厚規定)

2-52

(補修実績については2.2参照。)

④保安検査において、上記所有者等の測定箇所から抜き取り測定を行い、最小板厚が法

令上の基準を満たしているかどうか市町村長等が確認する。

⑤以上の通り、裏面腐食は内面腐食と異なり目視による点検ができないため、抜き取り

点で測定した板厚によって傾向管理されてきた。近年、全面を連続的に板厚計測でき

る技術が確立されており、その活用によって内面腐食と同等の管理が可能になると考

えられる。

(6)底部の溶接部に対する管理の方法

①一般的に所有者等は溶接部全線の目視検査を実施する。

②56 号通知に示された箇所または所有者等によっては溶接部全線に対して磁粉探傷試験

等が実施される。

③磁粉探傷試験等の結果、溶接部欠陥が見つかった場合及び安全対策上の所有者等の判

断により溶接部の補修が実施される(補修実績については2.2参照)。

④保安検査において、目視検査及び上記所有者等の試験箇所から抜き取り点に対して非

破壊試験を行い、法令上の基準を満たしているかどうか市町村長等が確認。

(参考)56号通知で示された溶接部の磁粉探傷試験等の検査箇所は以下のとおりである。

①側板及びアニュラ板(アニュラ板を設けていないものにあっては、底板をいう。以下同じ。)

内側の溶接継手、アニュラ板相互の突合せ溶接継手、アニュラ板(側板の内側タンクの中

心部に向かって張り出しているアニュラ板の幅1m以下のものに限る。)及び底板の溶接継

手は全ての箇所

②底板と底板との溶接継手のうち、3枚重ね溶接部継手及び3重点突合せ溶接継手は全ての

箇所

③アニュラ板(側板の内側からタンク中心部に向かって張り出してアニュラ板の幅が1mを

超えるものに限る。)及び底板の溶接継手の3枚重ね溶接部継手及び3重点突合せ溶接継手

は全ての箇所

底板と底板との溶接継手のうち底板の横方向の溶接継手であって、溶接作業者及び溶接施工

法が同一であるものは、任意の1箇所

⑤ジグ取付け跡で試験を行うことが必要と認められる箇所

(7)検査周期と事故要因との関連

タンクは、検査周期が長くなるとその間に経年劣化が進行するがその進行速度は一定と

は限らない(2.4、2.5参照)。また、基礎と底部板との接触状況の変化やコーティン

グの剥離のような劣化速度を大幅に変化させるような劣化要因もタンク底部板では生じう

る。これらに対して、定期的な開放による安全性の確認と必要箇所に対する補修による安

全性の回復によってタンクの安全を維持してきた(図 2.6.3参照)。検査周期の検討にあた

っては、補修機会の間隔が変わることで劣化進行度合の不確実性の影響が変化することに

注意が必要である。

2-53

図 2.6.3 タンクの経過年と補修による板厚の関係のイメージ図

また、保安検査においては、検査対象である底部の板厚や溶接部の健全性についての確

認の他に側板や屋根、附属設備の劣化状況についても点検補修されており、これらはタン

クの余寿命を考える上で勘案すべき事項とされている9)。保安検査の周期の検討にあたって

は、このような事項についての安全性の担保方法についても配慮が必要である。

(8)タンクの底部に作用する応力と特定屋外タンク貯蔵所のタンクに係る構造基準

①底板に作用する応力

・溶接による残留応力、基礎からの底板の浮き上がりに起因する応力

・基礎の不等沈下・局部沈下、地震による不等沈下・局部沈下による応力

②底板に対する構造基準

・容量1万キロリットル以上の新法タンクの底板の最小厚さは 12mm(省令第 20条の4第

2項第2号、告示第4条の 17第2号)。この厚さには腐食しろ3mmを含む 10)。

③アニュラ板に作用する応力

・溶接による残留応力、基礎からの底板の浮き上がりに起因する応力

・基礎の不等沈下・局部沈下、地震による不等沈下、局部沈下による応力

・側板荷重、側板に対する液圧(静液圧、動液圧)による曲げ応力

・地震時の底部浮き上がりによる曲げ応力

④アニュラ板に対する構造基準

・新法タンクのアニュラ板の最小厚さ及び寸法は、最下段の側板厚さに応じて定まって

いる(表 2.6.2参照)。この厚さには腐食しろ3mmを含む 9)。

・また、地震時のタンク浮き上がり挙動に対しては、二次設計の考え方が取り入れられ

ており、アニュラ板のうち側板から 500mmの範囲については、想定地震動に対し塑性

変形が一定範囲でとどまるような板厚となるように規定されている(省令第 20条の4

第2項第1号の2、告示第 79条)。

・溶接方法は、容量1万キロリットル以上の新法タンクについては裏当て材を用いた突

き合わせ溶接(又はこれと同等以上の強度を持つ方法)(省令第 20 条の4第3項第3

号)

・基礎は、変形しにくい構造となるよう、必要とする支持力や地下水からの距離、補強

2-54

措置が定められている(省令第 20条の2第2項第4号、5号、6号)。

表 2.6.2 アニュラ板の最小厚さに係る基準

側板の最下段の厚さ

(単位 ㎜)

アニュラ板の各寸法等(単位 ㎜)

側板外面から

の張出し寸法

側板内面からタン

ク中心部に向かつ

ての張出しの長さ

最小厚さ

15を超え 20 以下のもの 75 1,000 12

20を超え 25 以下のもの 100 1,500 15

25を超え 30 以下のもの 100 1,500 18

30を超えるもの 100 1,500 21

2-55

2.6.6 事故事例からの要因分析

表 2.3.1、表 2.3.2から抽出した容量1千キロリットル以上のタンクの底部からの流出事

故について、事故事例集及び事故原因調査報告書から、事故要因と開口部の寸法について

まとめた(表 2.6.3 及び表 2.6.4 参照)。通常運転時の底部の事故 29 件のうち、初期不良

が関与している事故は4件(基礎工事、摩耗、オーバーグラインダ2件)(約 14%)にとど

まり、経年劣化が主要な事故要因であると言える。なお、コーティングの施工不良や溶接

部の内部や裏面のきずが関与しているものもあると想定されるが、これらは現在の技術で

は発見できないもので、その後の経年劣化により不具合が拡大して流出事故に至ったと考

えることが合理的であり、経年劣化が主要な事故要因であると整理した。

開口部の寸法についてはデータが少ないが、内面腐食による事故 17件のうち5件で寸法

が報告されており、直径数 mmから数十 mm

とされている(複数の貫通孔が見つかって

いる事例もある。)。裏面腐食の事故4件の

うち2件で開口部寸法が報告されており、

それぞれ直径3mmと 50×60mmである。こ

れらのことから、局所的な腐食により直径

数 mm~数十 mm程度の貫通孔があくことに

より流出事故が発生することがわかる。

図 2.6.3は国内の危険物施設からの腐食

による流出事故の、開口部の寸法(腐食孔

の直径:縦軸)と流出量(漏えい量:横軸)

の関係を示したものである 11)。開口部の

寸法が大きいと流出が少量にとどまらな

いことは言えるが、開口部の寸法が小さい

場合の流出量には大きなばらつきがある

ことがわかる。流出量は、開口部の寸法よ

りも、貯蔵量や圧力、流出から対応完了ま

での時間による影響が大きいと言える。

容量の大きなタンクの底部から流出事

故が発生した場合、高い液圧や流出速度に

よる基礎の弱化と流路の形成によって基

礎の変形洗掘を引き起こして大規模な破

断に至る場合がある。このような事例は、

1974 年倉敷市1)、1978 年仙台市2)、2005 年ベルギー12)、2007 年フランス 13)で発生してい

る。図 2.6.4 は 2007 年 12 月に発生したフランスの事故事例のもので、当初小規模な流出

であった事故が、基礎の損壊により急激に拡大した事例である。大型タンクからの流出事

B 腐食発生箇所

B 図 2.6.3 危険物施設からの腐食による流出事

故の、開口部の寸法と流出量の関係 11)

内面腐食貫通孔の例(事故事例 90)

2-56

故では、当初は小規模流出でも急激に拡大する危険性が高いことが分かる。また、幸いに

して大規模流出には至らなかったものの基礎の一部が損壊された我が国における事故の例

を図 2.6.5に示す。

図 2.6.4 底部流出事故が基礎損壊により大規模な流出事故へ拡大した事例(フランス)13)

当初は少量流出であった

(1月 11日 15時) 基礎が変形洗掘された

(1月 12日8時)

基礎が洗掘された結果、底部の下に隙間

を生じ、アニュラ板が破断している状況

この間に急激な流出があり、防油堤を超えて外部

へ流出。住民の避難や道路や鉄道の封鎖、河川の

汚濁を引き起こした。

Φ7mm の穴からの流出で基礎が局部的に洗掘された

事例 別の基礎損壊事例

図 2.6.5 国内での基礎の損壊事例(大規模流出に至らなかったもの)

2-57

表 2.6.3 容量1千キロリットル以上のタンクの底部からの流出事故概要(通常運転時)

№ 発生年月日

許可容量(キロリットル)

事故時容量(キロリットル)

貯蔵油種 発生箇所 箇所詳細

内裏面 コーティング有無

設置年月日

経過 年.月

被害範囲 流出量

(キロリットル)

経年劣化以外の要因

開口部寸法 (mm)・箇所数

6 1974/12/18 50000 42888 C重油 底板×側板溶接部

溶接部破断 ―

1973 12.15 1.0 海上 47,888.0 基礎工事 不明

15 1976/05/14 30000 21400 重油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1969 7.31

不明 防油堤内 0.2 ― ピンホール ×2箇所 不明

18 1977/01/31 30000 不明 C重油 底板母材部

腐食開孔部

内面 1971 9.16

5.3 防油提内 85.0 ― 不明 不明

22 1977/12/08 4700 3260 軽油 底板溶接

部 溶接部破断

― 1958 4.28

19.6 防油堤内 不明 溶接部初層の欠陥が上部へ進展しピンホールに接続

不明

25 1978/06/16 24000 9251 原油 底板母材

部 摩耗開口部 不明

1973 9.17 4.7 防油堤内 49.7

ルーフドレンが底板と接触し摩耗

不明

26 1978/07/29 3000 3000 重油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1968 2.2

10.5 敷地内 1.2 ― 不明 不明

28 1979/02/04 50000 11826 原油 底板溶接部

溶接部破断

― 1964 2.27

14.9 構内排水溝

50.0 ―

長さ 5080

29 1979/02/13 7350 3000 C重油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1968 2.2 11 敷地内 1.2 ― 不明

不明

30 1979/04/22 22855 4900 C重油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 不明 不明 敷地内 0.02 ― 不明

不明

34 1980/02/06 99,000 不明 原油 底板溶接

部 溶接部破断

― 1971 9.14

8.4 敷地内 0.07 ― 不明

35 1980/02/23 4000 不明 C重油 底板母材部

腐食開孔部

裏面 1958 4

21.9 防油提内 10.9 ― 不明

39 1980/06/26 30000 4500 灯油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1959 2.10 20.5 構内地中 16.0 ― 不明

不明

2-58

№ 発生年月日

許可容量(キロリットル)

事故時容量(キロリットル)

貯蔵油種 発生箇所 箇所詳細

内裏面 コーティング有無

設置年月日

経過 年.月

被害範囲

流出量 (キロリットル)

経年劣化以外の要因

開口部の寸法 (mm)・箇所数

43 1980/12/06 3180 不明 ナフサ 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1972 1.17 8.9 敷地内 不明 ― 不明

不明

44 1980/12/22 10926 液レベル1.5m

軽油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1972 3.4

8.8 敷地内 不明 ― 不明 不明

52 1982/08/10 1024 不明 ガソリン 底板母材部

腐食開孔部

内面 1964 1.24

18.5 構外畑地 46.1 熱影響部 不明 不明

53 1982/09/29 2000 1470 C重油 底板母材

部 腐食開孔部

裏面 1969 5.1 13.4 敷地内 0.8 ― 不明

61 1984/12/10 1500 480 B重油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1952 6.12

32.5 敷地内 0.6 ― 不明 不明

62 1985/06/11 109817 90081 原油 ミキサー下部アニュラ板

腐食開孔部

内面 1972 10.3

12.7 防油提内 0.1 ―

φ7 無し

73 1988/07/05 82641 不明 原油 底板溶接部

溶接部破断

― 1975 3.6

13.3 地中 0.4 オーバーグラインダ

不明

75 1989/12/17 84548 75000 原油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1973 8.3 16.4 防油堤内 0.8 ― 不明

不明

86 1995/01/13 28970 3522 軽油 底板溶接

部 溶接部破断 ―

1968 5.15 26.7

防油堤内 地下水 142.6

融合不良、オーバーグラインダ、し

わ 長さ 655

90 1997/04/13 110000 15600 原油 底板母材部

腐食開孔部

内面 1972 9.28

24.5 防油堤内 1.3 ― 30×50、30×40、

数㎜径 有

106 2001/06/27 50000 11000 原油 底板母材

部 新基準

腐食開孔部

内面 1970 12.4

30.6 防油堤内 8.0 ―

φ10×2箇所 有

114 2003/01/25 9800 不明 原油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1967 12.26

35.1 構内 0.03 ― 不明 不明

2-59

№ 発生年月日

許可容量(キロリットル)

事故時容量(キロリットル)

貯蔵油種 発生箇所 箇所詳細

内裏面 コーティング有無

設置年月日

経過 年.月

被害範囲 流出量

(キロリットル)

経年劣化以外の要因

開口部の寸法 (mm)・箇所数

117 2003/03/15 50000 11600 原油 底板母材

部 腐食開孔部

内面 1970 12.4 32.8 構内 0.13 ― φ10

121 2003/07/07 2000 350 スチレン 底板母材

部 腐食開孔部

裏面 1981 11.4

21.8 構内 0.7 ― φ3

133 2005/12/07 2400 不明 ナフサ 底板母材部

腐食開孔部

内面 1973 9.17

32.2 構外河川 80.0 ― φ10 有

2010/01/24 51252 不明 ジェット燃料

底板溶接部

溶接部破断 ―

1969 7.23 40.5 防油堤内 調査中 調査中 長さ 400

2010/04/05 4900 860 潤滑油

底板母材部

底板母材部

裏面 1963 2.11

47.2 防油堤内 調査中 調査中 50×60

2-60

表 2.6.4 容量1千キロリットル以上のタンクの底部からの流出事故概要(地震時)

№ 発生年月日

許可容量

(キロリットル)

事故時容量(キロリットル)

貯蔵油種 発生箇所 箇所詳細

コーティング有無

設置年月日

経過 年.月

被害範囲 流出量

(キロリットル)

事故原因 開口部寸法 (mm)・箇所数

1 1978/06/12 31,421 不明 灯油 アニュラ板

×側板 ― ― 1972 8.15 5.8 防油堤内 滲み 宮城県沖地震 不明

2 1978/06/12 31,470 不明 重油 底部亀裂 ― ― 1972 11.8

5.6 海上 26,798kℓ

流出 宮城県沖地震 長さ 39100、4600

3 1978/06/12 31,508 不明 重油 底部亀裂 ― ― 1972 12.18

5.5 海上 23,705kℓ流出

宮城県沖地震 長さ 34000、27500

4 1978/06/12 23,608 不明

減圧軽油 底部亀裂 ― ―

1973 1.25

5.4 海上 45kℓ流出 宮城県沖地震 不明

5 1978/06/12 23,588 不明

減圧軽油 底部亀裂 ― ― 1973

1.25 5.4 海上 17,644kℓ

流出 宮城県沖地震 長さ 36300、19400

6 1983/05/26 2,000 不明 軽油 底板×側板 ― ― 不明 12.7 防油堤内 滲み 日本海中部地震 不明

7 1983/05/26 1,000 不明

軽油 底部 (ドレン部)

― ― 不明 11.6 防油堤内 滲み 日本海中部地震 長さ 100

2-61

2.6.7 危険物が流出した場合の影響事例

(1)危険物の流出事故により想定される被害事象

危険物の流出事故が発生した場合,どのような被害事象が起き得るのか図 2.6.6 に整理

した。石油プラント等から危険物が大規模に流出した場合、流出した危険物の価値、破損

した施設の修理費、施設停止による機会損失などの直接損害の他に、漁業者など周辺事業

者、関連事業者、住民、生態系への影響など間接的な影響が生じる。事故が大規模になる

と、直接的被害額に比べて間接的被害額の方が数倍オーダーで大きくなる場合があり、間

接的被害は保険でカバーされることもあるがその額については推定が非常に困難である。

図 2.6.6 危険物の流出事故が発生した場合に想定される被害事象

被害事象には、経済的損失など金額換算しやすいもののほか、金額換算が難しいものも

ある。後者には、生態系に及ぼす影響、ガス臭や油膜による生活環境保全上の支障 14)、火

災になるかもしれないという周辺住民の不安感が考えられる。特に日本の場合、大規模な

危険物施設が住宅地に隣接していることも多くあり、これらの金額換算できない影響が発

生しやすいと考えられ、周辺住民の立場から見れば、危険物の流出事故は1件でも減少さ

せることが重要である。以上のような観点から、過去の危険物流出事故事例について、事

故概要、被害状況、補償額、その他の影響について調査した。

2-62

国土交通省HPより

(2)エクソン・バルディーズ号原油流出事故 15)

①事故概要

・事故発生日:1989 年3月 24日未明

・事故現場:米国アラスカ州沖 プリンス・ウ

ィリアム湾

・事故概要:1989年3月 23日午後9時過ぎ、エ

クソンモービル社が所有する石油タンカー

「エクソン・バルディーズ号」は 5,300 万ガ

ロン(20 万キロリットル)の原油を積み、ア

ラスカ州のバルディーズ石油ターミナルを出

発し、カリフォルニア州に向かった。しかし,翌 24日午前0時過ぎ、アラスカ州沖プ

リンス・ウィリアム湾で座礁し、積載量の約 20%である 1,100 万ガロン(4万2千キ

ロリットル)の原油が流出した。

②被害状況

・原油 1,100 万ガロン(4万2千キロリットル)が流出。流出油はプリンス・ウィリア

ム湾一体に広がり、350マイル(560km)以上の地点まで到達した。

・ニシン、鮭等の魚類、海鳥、海獣等に甚大な被害が発生しニシン漁は壊滅的な打撃を

受け、2億8千万ドル(約 250億円)を超える被害。

・事故により海鳥 25 万羽、ラッコ 2800 頭、ハクトウワシ 250 羽が死亡。環境汚染が大

きな問題となった。

③補償額

・エクソンモービル社の補償額

汚染除去費用 約 21 億ドル(約 1900億円)

漁師を含む地元住民への補償金 3億ドル(約 270億円)以上

・エクソンモービル社への懲罰的損害賠償

1994年アンカレッジ地裁判決:50億ドル→控訴

2006年連邦控訴裁判決:25億ドル→控訴

2008年連邦最高裁判決:5億 700万ドル(約 460億円)

・エクソンモービル社負担総額は 43億ドル(約 3900億円)

(3)ナホトカ号重油流出事故 17)

①事故概要

・事故発生日:1997 年1月2日未明

・事故現場:日本海 島根県隠岐島沖

・事故概要:1997年1月2日未明、ロシア船籍タンカー,ナホ

トカ号はC重油 19,000 キロリットルを積み、風速約 20m、

米国海洋大気圏局HPより

2-63

波高約6mの状況下、上海からペトロパブロフスクに向け航行中、島根県隠岐島沖北

北東約 106kmで船首部分が破断し、船尾部分が沈没した。船首部分は潮流と風に流さ

れながら1月7日午後、福井県坂井郡三国町安東岬付近の岩盤に漂着した。この事故

で積載されたC重油 6,240キロリットルが流出した。

②被害状況

・C重油 6,240 キロリットルが流出。流出したC重油は潮に流され、島根県から秋田県

にかけての海岸に甚大な汚染被害が発生。

・地元自治体、漁業者や観光業者等に大きな被害を与えた。風評被害により、重油流出

による海洋汚染がなかった地域の漁業(カニ等)や地元の観光業の売上げも減少。

・油回収作業・清掃作業に地元住民およびボランティアが多数参加したが、5名が過労

等で死亡。

・青森県から山口県の日本海岸沿岸には、油汚染により被害を受けた鳥類(絶滅危惧種

を含む)が多数漂着した。このうち保護収容された個体数は 1,315 羽であり、種とし

ては 11 科 37 種が記録され、最も多かったのがウトウで 497 羽、ついでウミスズメで

455 羽であった。収容されなかったものと海岸に達する前に海底に沈んだものをあわせ

ると、実際の被害はウミスズメで保護収容数の2~3倍、ウトウで6~7倍の個体数

と推定された。18)

③補償額

・2002年8月に和解が成立、補償額は 261.27億円。

国及び海上災害防止センターへの補償額

請求者 請求内容 請求額 補償額

国 油防除・回収・清掃費用 15億 19百万円 18億 87百万円(注 1)

海上災害防止センター 油防除・回収・清掃費用 154億 21 百万円 124億 50百万円(注 2)

(注1)債権権利法上必要とされる遅延損害金を含む。(注2)仮設道路に係る補償額 20億 48百万円を含む。

その他の被害者への補償額

請求者 請求内容 請求額 補償額

漁業者 漁業被害(清掃費用は除く) 50億 13百万円 17億 69百万円

観光業者 観光被害(水族館含む) 28億 41百万円 13億 44百万円

地方自治体 油防除・回収・清掃費用 71億 43百万円 56億 38百万円

船主 不明 11億 29百万円 7 億 74百万円

その他 不明 27億 48百万円 22億 65百万円

(国際油濁補償基金資料による)

2-64

(4)米国石油採掘基地爆発炎上・原油流出事故 19)

①事故概要

・事故発生日:2010 年4月 20日夜

・事故現場:米南部ルイジアナ州沖(ベニス南東約 84km)のメキシコ湾

・事故概要:メキシコ湾のBP社操業の石油掘削基地「ディープウォーター・ホライズ

ン」で突然大きな爆発があり、基地が炎上した.事故で 126名の作業員の内 11名が行

方不明、17 名が負傷(内3名が重傷)したとされている。この爆発事故で水深約 1,500

メートルの海底と基地を結ぶパイプの3ヶ所が破損、大量の原油が流出し、掘削基地

の海上部分は4月 22 日に水没した。原油の海洋への流出は7月 15 日に蓋がされるま

で続いた。別の油井の掘削により完全に対応が終了したのは9月 19日である。

②被害状況

・8月2日に発表した総流出評価量は、約 490万バレル(78万キロリットル)(誤差は±

10%)、うち、海洋に流出したもの約 410万バレル(65万キロリットル)である。

・米政府は約 20 万 km2 (瀬戸内海の約 10 倍)で漁業規制。大規模な汚染被害が広がっ

ている。

③補償額

・BP社の負担コストは6月 14 日までに約 16 億ドル(約 1460 億円)に達した。なお、

非常事態宣言をした4州(ルイジアナ,ミシシッピ,アラバマ,フロリダ)に、合計

で1億 7500 万ドル(約 159 億円)を提供。

・BPは6月 16 日、地域住民への補償原資などとして、200 億ドル(約 1.8 兆円)を拠出

することで米大統領と暫定合意。

・BPの発表によれば、BP本体及び補償機関の支払い済み及び支払い手続き中の補償

金の総額は、9月 30 日時点で 2,350,689,296ドル(約2千億円)

(5)水島重油流出事故 20)

①事故概要

・事故発生日: 1974 年 12 月 18 日

・事故現場:岡山県倉敷市の瀬戸内海に面した製油所

・事故概要:5万キロリットルのドームルーフタンクの最下段の側板とアニュラ板のす

み肉溶接部に割れが発生し、重油が漏洩した。重油の移送に失敗し、タンクの直立階

段の転倒で防油堤が破壊したため、流出した重油が排水溝を経て瀬戸内海へ拡散した。

タンク外に流出した重油は約 43,000キロリットルにも及んだ。

②被害状況

・重油約 43,000 キロリットルのうち 7,500~9,500 キロリットルが海上に流出。瀬戸内

海の1/3が汚染された。

・流出した重油は、強風や引き潮などで、香川県坂出、高松市、鳴門海峡まで達し、ノ

2-65

リやハマチの養殖などの漁業に壊滅的な打撃を与えた。

・延長 470km に及んだ流出重油の回収作業に携わった人は、延べ 357,000 名。瀬戸内海

海岸線の清掃作業が終了したのは翌年 4月 15日。

③補償額

・回収費用,漁業補償,企業の休業損害などの被害総額は約 500億円と言われている。

(参考)流出事故被害推定額

企業 約 250億円

漁業補償等 約 160億円

その他 約 20億円

合計 約 430億円

(昭和 50 年経済白書より)

(6)英国バンスフィールド油槽所火災 21)

①事故概要

・事故発生日: 2005 年 12 月 11 日

・事故現場:英国ヘメル・ヘムステッド バンスフィールド油槽所

・事故概要:油槽所のタンクへ無鉛ガソリンを受け入れ中、レベル計の不具合によりオ

ーバーフローが発生した(400キロリットル以上と推定)。蒸気に着火し、爆発炎上し、

タンク 23基に炎上した。負傷者 43名、火災の鎮火まで5日を要した。

②被害状況

・油槽所及び周辺工場が爆風や火災により破壊された。鎮火まで5日を要し、油槽所に

貯蔵されていた約 10 万キロリットルの燃料のうち約6万キロリットルが消失。

・燃え盛る燃料からの煙がイギリス南部を越えて広範囲に広がった。使用された消火剤

に含まれた PFOS(有機フッ素化合物の一種.毒性のため廃絶・制限対象)が地下水を

汚染した。

・ヒースロー空港への航空燃料のうち約 50%を供給するパイプライン基地であったため、

パイプラインの停止により同空港での航空機への給油に長期間にわたり支障が生じた。

・オーストラリア・極東及び南アフリカ便の長距離路線は、燃料補給のため、他空港を

経由することを余儀なくされた。

③補償額

・事故による経済損失は以下のとおり試算されている。

坂出市HPより

2-66

<影響を受けたセクターごとの経済損失内訳>

航空産業 245百万ポンド(約 330億円)

賠償請求 625百万ポンド(約 840億円)

管轄庁及び政府の介入 15百万ポンド(約 20億円)

水道水の環境被害 2百万ポンド(約3億円)

緊急対応 7百万ポンド(約9億円)

合計 894百万ポンド(約 1200億円)

<上記「賠償請求」の内訳>

敷地内企業 5名 103百万ポンド(約 140億円)

敷地外企業 749名 488百万ポンド(約 660億円)

個人 3,379名 30百万ポンド(約 40億円)

地元官庁 7名 4百万ポンド(約5億円)

合計 4,140名 625百万ポンド(約 840億円)

・16 の会社が移転し、1,422 名の従業員も転勤となった。合わせて企業の移転あるいは

倒産により、1,200名が職を失った。

(7)ペンシルバニア州 Floreffeのタンクからの流出事故 22)

①事故概要

・事故発生日: 1998 年1月2日

・事故現場:米国ペンシルバニア州 Allengheny郡 Flooreffe Ashland Oil社

・事故概要:15100キロリットル(400万ガロン)の陸上タンクの側板が一気に裂け、灯

油が急激に流出し防油堤を破壊し 3,785 キロリットルが構外へ流出した。一部は

Monongahela川に流入し広範囲に水環境を汚染した。

②被害状況

・ピッツバーグ周辺の約百万人の住民の飲料水の取水ができなくなり、飲料水供給に支

障が出た。

・1,200世帯が避難し、数十の工場、複数の学校が閉鎖された。

・生態系を破壊し数千に及ぶ野鳥や魚を殺した。死亡したカモやアビ、ウ、カナダガン

などの水鳥の数は 2,000~4,000羽と算定されている 23)。

2-67

(8)ダイヤモンドグレース号事故 24)

①事故概要

・事故発生日: 1997 年7月2日

・事故現場:東京湾中ノ瀬

・事故概要:タンカー「ダイヤモンド・グレース号」が東京湾中ノ瀬で座礁し、原油 1,550

キロリットルが海上に流出した。軽質な原油であったため、揮発した原油成分により

広範囲に悪臭被害を生じた。消防本部へ住民から「着火のおそれ」について問い合わ

せがあったことなど、住民には安全性に関する懸念が生じた。

・「事故後約6,7時間で引火しやすい低沸点炭化水素は揮発して空気中に拡散したと推

測された。夏で水温も高く、風も吹いていたので、揮発が速かったのであろう。この

辺の判断を誤っていれば、エンジンの火が油膜に引火し、一面の火の海になった可能

性もあったのである。」25)

②被害状況

・風下側に当たる千葉県を中心として、遠くは茨城県水戸市まで及ぶ範囲で、悪臭に関

する問い合わせや苦情(苦情件数:千葉県 3,200件以上、東京都 458件、茨城県約 100

件)があった 26)。

・悪臭による救急搬送は 21 名(東京都 18 名、千葉県3名。うち1名は経過観察のため

入院。)、千葉県内の医療機関受診者は 21名と報告されている。

・この事故による損害額は約 30 億円と日本海難防止協会によって推定されている。

(参考)東京湾で原油 2.3 万キロリットルが流出した場合の推定損害額は約 287 億円と

試算(日本海難防止協会による。)。

引用文献

1)三菱石油水島製油所タンク事故原因調査委員会:三菱石油水島製油所タンク事故原因

調査報告書、昭和 50 年 12 月 18 日 2)消防庁危険物技術基準委員会:1978 年宮城県沖地震東北石油仙台製油所石油タンク破

損原因調査報告書、昭和 54 年9月 20 日 3)T 株式会社 K 製油所:No.19 タンク油漏洩事故原因調査報告書、平成 18 年9月 4)M(株)O 事業所:スチレンタンク漏洩に対する報告書、平成 15 年9月 5)K工業株式会社C製油所:タンク底板漏洩事故に関する事故調査報告、2010 年8月 6)消防庁特殊災害室:石油コンビナートの防災アセスメント指針、平成 13 年 7)矢崎真澄・後藤真太郎:ナホトカ号重油流出事故における地方公共団体の補償請求の

査定基準について、地球環境研究、Vol. 8, 2006 8)消防庁:屋外タンク貯蔵所の余寿命推定に関する調査検討報告書、平成 20 年2月 9)石油コンビナート地帯防災対策技術援助委員会:タンク及び基礎に関する技術基準(案)

報告書、昭和 51 年 12 月

2-68

10)A. Kamei (1987): “Leakage Accidents due to Corrosion in Plant Handling Hazardous Materials”, Corrosion Engineering, Vol. 36, pp. 603-609.

11)Employment, Labour and Social Dialogue, Federal Public Service: “Safety Alert : Rupture of an (atmospheric) crude oil storage tank”, Document No. : CRC/ONG/013-E, November, 2006.

12)Arnaud Guéna, Emmanuelle Poupon, Mikaël Laurent: “AMBES OIL DEPOT -Crude oil tank failure 12/01/2007-”,Freshwater Spill Symposia 2009.

13)中央環境審議会土壌農薬部会土壌汚染技術基準等専門委員会:油汚染対策ガイドライ

ン―凹油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え

方―、平成 18 年3月 14)アラスカ州HP 15)U.S. Fish & Wildlife Service HP(2010 年3月 23 日参照) 16)吉田文和:油濁汚染による損害の賠償補償問題―ナホトカ号事故を事例として- 17)辻禎之・関谷直也:風評被害の経済的損失に関する研究、安全工学、Vol.45, No. 6、

pp.439-444、2006 18)古南幸弘:油汚染による海鳥被害とその後、海と安全、No. 532, 2007 春号 19)http://www.restorethegulf.gov/ 20)赤塚広隆、小林英男:失敗知識データベース失敗百選 水島のタンク破損による重油

流出(http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search) 21)Buncefield Major Incident Investigation Board: “The Buncefield Incident 11

December. 2005, The final report of Major Incident Investigation Board”, 2008 22)ペンシルバニア州HP 23)Times.com HP 24)消防庁被害報 25)徳田拡士:D・グレース号事故に思う、海と安全、No.463、1997 年夏号 26)吉田直美他:ダイヤモンド・グレース号油流出事故における大気試料の測定結果につ

いて、千葉県環境研究所研究報告、第 30 号、1998

2-69

2.7 海外の屋外タンク貯蔵所との比較

2.7.1 環境に関する比較

(1)自然環境

タンクの劣化要因のうち裏面腐食は、地温、雨量などの環境要因により進行速さが異な

る。我が国は、温暖で降水量が多いため、欧米諸国と比べて裏面腐食が促進される可能性

が高い。また、基礎の変形の要因となる地震の発生頻度も高く、タンクの破損に対する環

境要因は欧米に比べて不利な条件にある。欧米と日本の環境の違いについて、表 2.7.1 に

まとめた。

表 2.7.1 タンクを破損する環境要因の比較1)、2)、3)、4)

年平均降水量(mm) 年平均気温(℃)

過去 10 年間のM7以

上の地震の発生件数

日本 1690 東京 16.6 14

米国 国 715

ニューヨーク州

ニューヨーク市 1200

ミネソタ州

ミネアポリス 719

アラスカ州

ジュノー 1379

カリフォルニア州

ロサンゼルス 305

7.4

5.1

4.8

15.2

欧州 イギリス 1220

フランス 867

ドイツ 700

ロンドン 10.0

パリ 10.9

ベルリン 9.7

2(トルコ)

(2)社会的環境

タンクから大規模に流出事故が起きた場合、火災のおそれが高まることに加え、環境汚

染が発生する。これらの被害の影響度は、住宅地との距離、地下水の高さや河川海岸まで

の距離などのタンクの立地や、沿岸海域の利用状況などによって決定されると考えられる。

また社会のリスク許容度とも関係するであろう。例えば、米国におけるタンクからの火災

は 1990 年~2002 年の 13 年間に 124 件発生している5)(参考:我が国は2件。)。また、バ

ージニア州内の 380キロリットル(100万ガロン)以上の貯蔵容量を持つタンク施設で地下

水の分析を行った施設のうち 85%で地下水の汚染が見つかっているとされている6)。

2-70

2.7.2海外の規制の状況

(1)米国

米国連邦政府としては 40CFR112(パイプラインに係るタンクは 49CFR195)にタンクにつ

いての規定があるが、構造健全性の検査周期については規定されていない。主として州政

府が、環境汚染防止の観点から、タンクについての規制を行っているようである。タンク

の開放検査の周期などについては、規定がある州と規定がない州に分かれる。

開放検査する周期について、3つの州(ニューヨーク州、バージニア州、サウスダコタ

州)では、10年と定めている。

①バージニア州

総計 3,785キロリットル(100 万ガロン)以上の貯留能力を持つ事業所の約 45キロ

リットル(12,000ガロン)以上の陸上タンク若しくは単体で 3785キロリットル以上の

容量の陸上タンク(貯留場所で消費される No.5、No.6 oil(重油)タンクは除く。)が

対象。所有者等が州当局に対して正当性を示せれば延長が可能(9VAC25-91-130)。

②ニューヨーク州

38キロリットル(10,000ガロン)以上の陸上タンクが対象。同州内に数十万基あり

総容量は約 1,320 万キロリットルとされる。例外:油井の陸上タンク、二重底若しく

は不浸透性障壁があり漏洩検知システム、電気防食、外面塗装がなされている陸上タ

ンク(6NYCRR613)。

③サウスダコタ州

陸上タンクの総容量が 946 キロリットル(25 万ガロン)超の施設の陸上タンク(容

量 94.6 キロリットル以下のものを除く。)が対象。

州によっては、開放検査の周期についての規定がないところがある(例えばカリフォル

ニア州)。そのような場合にはタンク所有者等によって周期が決定されていると考えられる

が、過去の調査等によれば、 API653(Tank Inspection, Repair, Alternation, and

Reconstruction)という民間規格に基づいて周期など維持管理方法を決定する所有者等が

多いとされている。また、州によっては API653に準拠することを定めている州もある。例

えばアラスカ州では、タンクの検査は API653によることを規定している。

・アラスカ州

容量 38 キロリットル(1万ガロン)以上の陸上タンク又は 1,600キロリットル(42

万ガロン)以上の精製油を扱う施設の陸上タンク又は原油 3,200 キロリットル(21 万

ガロン)を扱う施設の陸上タンクの所有者は、API653(第3版)に基づき点検保守し

なければならないとしている。また、設置から 30年を超える陸上タンクについては州

当局によって間隔を短くしても良いと付記されている。下記「類似タンク」仮定は認

められていない(18AAC75.065)。

API653(第4版)では、標準として、タンクは設置後 10年(対象タンクによく類似した

タンクがあって当該類似タンクの腐食速度が対象タンクに適用可能とタンク技術者によっ

て判断された場合には別途決めることができる。)以内に開放検査することとされている。

2回目以降の開放検査の時期については、将来も同じ速さで腐食が進行すると仮定して

2-71

前回開放時に測定された腐食速度を用いて、底部(又は側板)の板厚が一定の厚さになる

までの年数を計算してその年数を用いることとされている(但し最大でも 20 年以内)。こ

の方法により、実際にどのくらいの周期でタンクの開放検査がなされているか実態は不明

だが、ミネソタ州汚染管理庁(Minnesota Pollution Control Agency)によれば、2000年に開

放検査があった容量 300~12,490 キロリットルの 55 基のタンクの平均検査期間は 11.5 年

であったとされている7)。

API653 第4版(2009 年4月)では別な検査時期決定方法として、RBI という考え方に則

り、タンク技術者が、タンクの仕様や流出した場合の影響も考慮して次の検査時期を決め

ることも可能とされている。この考え方を採用した場合、初回の検査はタンクの仕様に応

じて 12~25 年以内、2回目以降の上限は 25 年、さらに、流出拡散防止障壁(タンクの底

部や基礎に設置して流出を感知するとともに拡散を防止する機能を有する特別な機構)を

有するものは上限として 30年が示されている。なお、このような長期の期間が規定された

のは近年であり、適用実績(例えば事故の発生率など)は明らかではない。また、実際の

検査期間は、容量や仕様、立地によって技術者が決めることとされており、立地や構造、

容量等が我が国の保安検査対象の屋外タンク貯蔵所と同等なものに対してどのような期間

が適用されつつあるのかについても情報が不足している。このため、このような上限年数

が我が国の屋外タンク貯蔵所に適用可能かどうか議論することは現時点では困難である。

(2)欧州

欧州については文献によれば開放検査周期の間隔は次の通りとされている8)。

ベルギー:20年

フランス(原油及び clean product):10年

ドイツ:5年(検査のレベルによっては 10年へ延長可能。)。

オランダ:12年

イギリス:規定なし

イギリスなど国による規定がない場合には、タンク所有者等が開放検査周期を決めるこ

ととなるが、その際には欧州の民間規格である EEMUA159(User’s Guid to the Inspection,

Maintenance and Repair of Aboveground Vertical Cylindrical Steel Storage Tanks)又は API653が

参照されることが多いとされている。EEMUA159第3版(2003年)では、標準的な周期とし

て表 2.7.2 の通り定めている。なお、EEMUA の 2003 年より前の版には、代表タンクの考え

方が示されていたが、第3版には記載されていない。

2-72

表 2.7.2 EEMUA159第3版(2003 年)の標準的な周期

*気候コード

A:暖かく高湿。例えば熱帯、亜熱帯地域。

B:温暖でしばしば雨と風がある地域。

C:暖かく乾燥 例えば砂漠。

EEMUAではこのほかに、RBI に則って開放検査周期を決める方法が規定されている。1回

以上の開放検査でタンクの腐食速度を求め、管理基準板厚までの残り板厚との関係から次

の検査時期を決める方法であるが、タンクの仕様などによる事故の発生のしやすさと事故

時の被害程度も勘案するものである。この手法によれば表 2.7.2とは異なる周期を適用する

ことができる。立地や構造、容量等が我が国の保安検査対象タンクと同等なものに対して

どの程度の周期が適用されているのかについて、また、その結果としての事故の発生状況

など保安レベルについての情報は入手できていない。

(参考:EEMUAの RBI に基づく開放検査周期決定の具体的な方法)

将来も同じ速さで腐食が進行すると仮定して前回開放時に測定された腐食速度を用いて、

底部(又は側板)の板厚が一定の厚さになるまでの年数を計算し、その年数に信頼性係数

(例えば 0.5)を乗じた年数を次の開放までの期間とする。信頼性係数は「事故の発生しや

すさ」と「事故時の被害程度」に応じて決める。事故の発生しやすさは電気防食の電位差

などで評点化し、事故時の被害度合は経済、環境、健康への影響を分類して評点を与える。

この2つの因子を組み合わせて評点化し、信頼性係数とする。さらに信頼性係数を検査の

精密さなどの度合によって増減させる。

グループ

サービス、条件

検査頻度

外部ルーチン目視

検査 (月)

外部詳細目視検査 (側板と屋根の肉厚検査

を含む)(年)

内部の詳細目視検査 (側板と屋根の肉厚検

査を含む)(年)

気候コード*

A B C A B C

1 スロップ油、腐食性化学物質、非処理水、海水(コーティン

グなし) 3 1 1 1 3 3 3

1A 上記サービス

(コーティングあり) 3 5 5 7 7 7 7

2 低温貯槽 3 (特別に扱われている:詳細省略)

3 原油 3 5 5 7 8 8 10

4 燃料油、ガス油、潤滑油、ディーゼル油、苛性ソーダ、不活性・非腐食性化学物質、

3 5 8 10 12 16 20

5 Jet A-1

(コーティングあり) 3 10 10 15 15 15 20

6 軽質油、灯油、ガソリン、分

解留分、処理水 (コーティングなし)

3 3 5 7 8 10 12

7 加温・保温タンク(外部UT検査は、側板の底部近くと屋根の周り何点かで測定)

3 3 3 5 6 6 6

2-73

2.7.3 海外の屋外タンク貯蔵所の事故の情報

公表されている海外の屋外タンク貯蔵所における事故データを収集した。

(1)米国

①1995 年米国 General Accounting Officeの報告9)

米国環境庁が推定した「漏えいしたあるいは漏えいしている陸上貯蔵タンク数」は 67,034

基にのぼり、陸上タンクからの年間の推定漏えい量は 16万~20万キロリットルとされてい

る。

②1986 年米国サウスダコタ州 10)

同州最大都市スーフォールズで屋外タンクからの流出による大規模な地下水汚染が発見

された。1986年9月 17日、ヘイワード小学校においてスーフォールズ市消防局が可燃性ガ

スの測定を行い爆発下限界の 40%の濃度のガスを検出したため、小学校に対し即時避難命

令が出された。ヘイワード小学校の室内空気から測定されたベンゼン濃度はアメリカ毒性

物質疾病登録機関の基準値の約千倍であった。

53 基の調査井戸が掘られ、浅層地下水の汚染調査が行われた。ベンゼン、エチルベンゼ

ン、トルエン、キシレン、ガソリン、燃料油、ジェット燃料などが検出された。5基の汚

染除去用の井戸が掘られた。汚染発生源として、パイプライン事業者のタンク基地の中の

容量 5,845キロリットル(直径 25.9m、高さ 12.2m、底板板厚 6.35mm、浮き屋根式)の陸

上タンクの可能性が指摘されている。

③1988 年1月2日米国ペンシルバニア州 11)

同州 Floreffeにおいて 15,100キロリットル(400万ガロン)の灯油タンクの側板が一気

に裂け、10.7m(3.5ft)の波が生じて防油堤を破壊し 3,785キロリットルが構外へ流出し

た。一部は Monongahela川に流入し広範囲に水環境を汚染し、飲料水の取水に支障が出た。

約 1,900 キロリットル(51 万ガロン)以上の油は未だ回収されていない。原因は側板最下

段の溶接部欠陥と低温環境による脆性破壊とされている。

(2)欧州

①ベルギー連邦ベーフェレン市 12)

・概要

ベルギー連邦ベーフェレン市の大手石油会社の油槽所で原油タンクの底板が破断し、

貯蔵していた全量の 37,000 キロリットルが 15 分間で流出した。波となった油が防油堤

を乗り越え、堤外に約3キロリットル流出した。防油堤内の油に対して泡消火剤による

被覆を試みるが強風のため全面を覆うことはできなかったが、幸い着火することはなか

った。この事故によって、タンク基礎の一部が洗掘され、タンクが傾いた。前回の内部

点検から 15 年が経過した時点の事故であった。

・発生日 2005 年 10 月 25 日

・タンク概要

形式 浮き屋根式

寸法 直径 54.5m×高さ 17m

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容量 40,000キロリットル

危険物 原油

アニュラ板:材質不明 12.7㎜ 底板:材質不明 板厚 6.35㎜

・事故原因

側板から約 1.5mの底板に、幅 20cm、長さ 35mの三日月状の内面腐食域があり、孔食

はないものの、均一腐食が激しく、板厚はほぼゼロとなっていた。他の底板部分には大

きな腐食は認められなかった。底板に低い部分が形成されて水が滞留し、腐食が進行し

たと考えられている。大量漏えいに先立って、少量の漏えいがあったが、基礎に浸透し

肉眼検知されることがなかった。流出により基礎の一部の強度が低下し、底板の溝に沿

って板が裂け、流れ出た原油によって基礎が洗掘され、タンク本体が傾いた(下写真参

照)。

写真 基礎破壊の結果傾斜しているタンクの状況

②フランスの事故事例 13)

・事故概要

ボルドー近郊の Ambes 石油基地のタンクの底部からの流出事故。当初は小流出だった

がその後基礎が破壊され底部が破断し、原油 13,500キロリットルが流出した。うち 2,000

キロリットルは防油堤を乗り越えて構外へ流出した。地下水を汚染するとともに河川に

流出し、潮流の作用もあって、3河川が約 40キロメートルに渡って汚染された。泡消火

薬剤による出火防止の他、周辺大気の監視(可燃ガス、硫化水素、芳香族炭化水素類な

ど)、周辺住民の避難、周辺事業所や鉄道、港湾管理者への警告(Alert)、流出防止水路

の掘削、河川での防除が行われた。事故の状況を次ページの写真に示す。

・発生日時

2007年1月 11日

・タンク概要

形式 浮き屋根式

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写真:当初の小流出状況 写真:その後底板が破断した状況

③英国 14)

・溶接部欠陥に起因する事故(クリーブランド)

1999 年7月 21 日発生。内容物は 30%シアン化ナトリウム。内容物 750 トンのうち 16

トンが流出した。溶接部のスラグ巻き込み箇所で局部腐食が発生したことが原因とされ

ている。流出物は排水系から Tees川に流入した。

・底部腐食による事故(ハンプシャー)

1999年7月 14日発生。製油所のタンクから 400キロリットルの軽質シリア原油が流出

した。同製油所ではその後 19ヶ月の間に2件の流出事故が発生している(国内通報基準

のため ECRA には報告していない)。原因はタンク底部の腐食とされている。

・底部腐食による事故(マイルドフォードヘブン)

2005 年7月発生。油槽所のタンクから 653 トンの灯油が流出した。原因はタンク底部

の腐食とされている。同タンクでは 2001年にも同様な事故を起こしている。その補修が

要求規格(required standard)を満たしていなかったとされた。

引用文献

1)国土交通省土地・水資源局水資源部:平成 21年版日本の水資源

2)http://www.allcountries.org/uscensus/

3)http://www.esrl.noaa.gov/

4)理科年表 2010 年版

5)Henry Persson and Anders Lonnermak: ”Tank Fires”, SP Report 2004:14, SP Swedish National

Testing and Research Institute,2004

6)Kevin Mould:”Is Ground Water Protected against Releases from Aboveground Storage

Facilities?”, International Oil Spill Conference, 1995

7)Chris Bashor, ”Reducing the Risk of Aboveground Storage Tank Floor Leaks”, Freshwater Spills

Symposium, 2002

8)(財)機械システム振興協会:機械システム等のメンテナンス最適化のための RBM手法

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の開発に関するフィージビリティスタディ、平成 17年3月

9)United States General Accounting Office: “Aboveground Oil Storage Tanks – Status of EPA’s

Efforts to Improve Regulation and Inspections-, GAO/RCED-95-180, July 1995

10)サウスダコタ州水・天然資源局:”Assessment of Hydrogeologic and ground water

contamination data in the vicinity of the Hayward Elementary School, West 12th street, Sioux

Falls, South Dakota”, Open file report No. 44-UR, 1988

11)ペンシルバニア州HP

12)Employment, Labour and Social Dialogue, Federal Public Service: “Safety Alert : Rupture of an

(atmospheric) crude oil storage tank”, Document No. : CRC/ONG/013-E, November, 2006.

13)Arnaud Guéna, Emmanuelle Poupon, Mikaël Laurent: “AMBES OIL DEPOT -Crude oil tank

failure 12/01/2007-”,Freshwater Spill Symposia 2009.

14)Major accidents notified to the European Commission, England, Wales and Scotland

(http://www.hse.gov.uk/comah/eureport/)

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