22 医療ベンチャーで 研究成果実現へ · 16 february 2014...

1
不整脈の新治療法を開発 心房細動(不整脈の一種)の患者は国 内で70万人。脳梗塞のリスクは健康な人 の3倍に上ります。不整脈の根本治療は 日本で普及し始めてまだ十数年です。カ テーテル(細い管)を使って、不整脈の 引き金となる異常な電気回路を電気メス のように焼きます。手術数は増えていま すが、発熱が周囲の組織に悪影響を及ぼ す場合があり、難しい技術です。 そこで、がん治療で実用化されている 非加熱の治療法(PDT)を応用しようと 研究を始めたのが慶應義塾大学大学院理 工学研究科の荒井恒憲教授です。光に反 応する薬剤を静脈から注射し、レーザー 光を病変部に当てて非加熱下で治療する 方法です。ちょうど私が荒井先生の研究 室に入った2007年から本格的に研究を 始め、不整脈にも応用できることを明ら かにしました。 2009年8月には大手医療器機メーカー の役員経験がある二見精彦さんが社長 (現在は会長)に、私が唯一の社員と なって当社を設立。昨年10月からはJST のA-STEP事業で実用化を目指していま す。起業後は研究から開発に比重が移り、 装置の評価や書類作成など、慣れない仕 事ばかりです。現在は社長兼務の荒井先 生と二見会長の人脈でさまざまな方に教 えていただき、荒井研究室や慶應大学医 学部とも共同実験をやっています。医師 も本音の意見をくださるので、やりがい があります。 学問と開発の両刀使い 学部時代は物理学を専攻しましたが、 もっと直接人の役に立つことをしたいと 思うようになりました。学部3年生の頃、 セミナーの調査で興味を持ったのがレー ザーメスでした。それがきっかけで荒井 先生に出会い、修士課程から応用物理に 移りました。興味を持つと、行動が早い んです。 荒井研究室は大手医療機器メーカーに 就職する人がたくさんいます。私も就職 を考えましたが、研究内容をすべて把握 しながら開発までこぎつける経験は、大 手ではなかなかできないと思い、結局こ のベンチャーに入社しました。 今はまだがん治療にしか適用されてい ないPDTですが、応用範囲はきっと広 いはず。もう少し余裕がでてきたら、い ろいろな治療法の企画を出したいです ね。荒井先生は学問と開発の両面を兼ね 備えた方で、私もその子分を自認してい ますから。 女性の特権!? 休日は買物や、昔から続けているクラ シックバレエとジャズダンスを、週2回 楽しんでいます。ジャズダンスは、先日 発表会にも出ました。 女性だからこそ得をすることも少なく ないですね。学会発表などでも覚えても らいやすく、たくさんのアドバイスをい ただきました。女性も男性も、夢中になっ て研究できるものがあれば、信じて突き 進むといいでしょう。ただ、ベンチャー には経営のわかる人が不可欠です。そう いう人脈があれば、好きな研究で起業し てはいかがでしょうか。まるでバレエの 舞台に立ったような華やかで、緊張感の ある雰囲気も味わえます。 発行日/平成 26 年 2 月 3 日 編集発行/独立行政法人 科学技術振興機構(JST) 総務部広報課 〒 102-8666 東京都千代田区四番町 5-3 サイエンスプラザ 電話/ 03-5214-8404 FAX / 03-5214-8432 E-mail / [email protected] ホームページ/ http://www.jst.go.jp JST news / http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/ 2014/February 研究成果最適展開支援プログラム A-STEP「シーズ育成タイプ ライフイノベーション」分野 研究課題「Photodynamic Therapy による非熱的不整脈治療器の開発」 医療ベンチャーで 研究成果実現へ TEXT:池上紅実/ PHOTO:浅賀俊一 編集協力:浅野保(JST A-STEP担当) 22 株式会社アライ・メッド フォトン研究所開発部 主任研究員 伊藤 亜莉沙 慶應大学医学部、理工学部との共同実験で使用する装 置をセットしているところ。「いろんな人と意見交換し ながら研究開発を進めるのが楽しい」と伊藤さん(左)。 ●伊藤さんの詳しい研究内容を知りたい方はこちらへ http://www.arai-medphoton.com/index.html http://www.arai.appi.keio.ac.jp/ いとう・ありさ 1985年神奈川県生まれ。2007年慶應義塾大学理工学 部物理学科首席卒業同大学院理工学研究科。123月同物理情報工学専攻博士課程修了、4より現職博士工学)。趣味小学生からているクラシックバレエとジャズダンス。 荒井先生の研究室のOBOG会で。右から 4人目が荒井先生、先生の右隣が伊藤さん。

Upload: others

Post on 31-Mar-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 22 医療ベンチャーで 研究成果実現へ · 16 February 2014 不整脈の新治療法を開発 心房細動(不整脈の一種)の患者は国 内で70万人。脳梗塞のリスクは健康な人

16 February 2014

不整脈の新治療法を開発

 心房細動(不整脈の一種)の患者は国内で70万人。脳梗塞のリスクは健康な人の3倍に上ります。不整脈の根本治療は日本で普及し始めてまだ十数年です。カテーテル(細い管)を使って、不整脈の引き金となる異常な電気回路を電気メスのように焼きます。手術数は増えていますが、発熱が周囲の組織に悪影響を及ぼす場合があり、難しい技術です。 そこで、がん治療で実用化されている非加熱の治療法(PDT)を応用しようと研究を始めたのが慶應義塾大学大学院理工学研究科の荒井恒憲教授です。光に反応する薬剤を静脈から注射し、レーザー光を病変部に当てて非加熱下で治療する方法です。ちょうど私が荒井先生の研究室に入った2007年から本格的に研究を始め、不整脈にも応用できることを明らかにしました。 2009年8月には大手医療器機メーカーの役員経験がある二見精彦さんが社長

(現在は会長)に、私が唯一の社員となって当社を設立。昨年10月からはJSTのA-STEP事業で実用化を目指しています。起業後は研究から開発に比重が移り、装置の評価や書類作成など、慣れない仕事ばかりです。現在は社長兼務の荒井先生と二見会長の人脈でさまざまな方に教

えていただき、荒井研究室や慶應大学医学部とも共同実験をやっています。医師も本音の意見をくださるので、やりがいがあります。

学問と開発の両刀使い

 学部時代は物理学を専攻しましたが、もっと直接人の役に立つことをしたいと思うようになりました。学部3年生の頃、セミナーの調査で興味を持ったのがレーザーメスでした。それがきっかけで荒井先生に出会い、修士課程から応用物理に移りました。興味を持つと、行動が早いんです。 荒井研究室は大手医療機器メーカーに就職する人がたくさんいます。私も就職を考えましたが、研究内容をすべて把握しながら開発までこぎつける経験は、大手ではなかなかできないと思い、結局このベンチャーに入社しました。 今はまだがん治療にしか適用されていないPDTですが、応用範囲はきっと広いはず。もう少し余裕がでてきたら、いろいろな治療法の企画を出したいですね。荒井先生は学問と開発の両面を兼ね備えた方で、私もその子分を自認していますから。

女性の特権!?

 休日は買物や、昔から続けているクラ

シックバレエとジャズダンスを、週2回楽しんでいます。ジャズダンスは、先日発表会にも出ました。 女性だからこそ得をすることも少なくないですね。学会発表などでも覚えてもらいやすく、たくさんのアドバイスをいただきました。女性も男性も、夢中になって研究できるものがあれば、信じて突き進むといいでしょう。ただ、ベンチャーには経営のわかる人が不可欠です。そういう人脈があれば、好きな研究で起業してはいかがでしょうか。まるでバレエの舞台に立ったような華やかで、緊張感のある雰囲気も味わえます。

発行日/平成 26 年 2 月 3 日編集発行/独立行政法人 科学技術振興機構(JST) 総務部広報課〒 102-8666 東京都千代田区四番町 5-3 サイエンスプラザ電話/ 03-5214-8404 FAX / 03-5214-8432E-mail / [email protected] ホームページ/ http://www.jst.go.jpJST news / http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/2014 / Februar y

研究成果最適展開支援プログラムA-STEP「シーズ育成タイプ ライフイノベーション」分野研究課題「Photodynamic Therapy による非熱的不整脈治療器の開発」

医療ベンチャーで研究成果実現へ

TEXT:池上紅実/ PHOTO:浅賀俊一編集協力:浅野保(JST A-STEP担当)

22

株式会社アライ・メッドフォトン研究所開発部主任研究員

伊藤 亜莉沙

慶應大学医学部、理工学部との共同実験で使用する装置をセットしているところ。「いろんな人と意見交換しながら研究開発を進めるのが楽しい」と伊藤さん(左)。

●伊藤さんの詳しい研究内容を知りたい方はこちらへhttp://www.arai-medphoton.com/index.html http://www.arai.appi.keio.ac.jp/

いとう・ありさ1985年神奈川県生まれ。2007年慶應義塾大学理工学部物理学科を首席で卒業、同大学院理工学研究科に進学。12年3月同物理情報工学専攻博士課程修了、4月より現職。博士(工学)。趣味は小学生の時から続けているクラシックバレエとジャズダンス。

荒井先生の研究室のOBOG会で。右から4人目が荒井先生、先生の右隣が伊藤さん。