2019年8月5日(月) ごんぎつね 教材分析・解釈...級 全 体 が 固 ま っ た こ...

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第54回 文芸教育全国研究大会 かごしま大会 4年分科会 2019年8月5日(月) ごんぎつね 教材分析・解釈 新美南吉 作(学校図書出版4年下) 青森文芸研 津軽サークル 白川 詔子

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第54回 文芸教育全国研究大会 かごしま大会 4年分科会 2019年8月5日(月)

ごんぎつね 教材分析・解釈 新美南吉 作(学校図書出版4年下)

目次

一 作家と作品

1 作家について…………………………………………2

作品について…………………………………………2

作品と子どもたち

学級の実態(子どもたちにとってこの教材を学ぶ意味)2

子どもたちにつけてきた力…………………………3

この作品をどう読んだか

作品の構造(視点・筋・構成・場面)

①視点………………………………………………4

②筋・構成・場面…………………………………4

表現の特質

①色彩豊かな情景描写と声喩……………………10

②時代を象徴する〈おしろ〉の形象……………11

虚構の方法

①ごんを視点人物としていること………………11

②視角の転換がもたらすもの……………………12

美と真実………………………………………………12

この教材でどんな力を育てるのか

認識の方法

①条件的に見る力…………………………………12

②構造・関係・機能的に見る力…………………13

表現の内容(主題)…………………………………13

認識の内容(思想)…………………………………13

典型をめざす読み……………………………………13

授業をどのように組み立てるか

教授=学習過程………………………………………14

授業の構想……………………………………………14

青森文芸研

津軽サークル

白川 詔子

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一 作家と作品

作家について

新美

南吉 一九一三(大正二)年~一九四三(昭和十八)年

・出

身……愛知県知多郡半田町(現在の半田市)

・本

名……新美正八(しょうはち)

・学

歴……東京外国語学校英語部文科卒業

・職

業……児童文学作家、教師

・代表作……「ごん狐」(一九三二年)、「デンデンムシノカナシミ」(一九三五年)、「おぢいさんのランプ」(一九四二年)、

「牛をつないだ椿の木」(一九四三年)、「手袋を買いに」(一九四三年)

幼くして母を失い、養子に出されるなど寂しい幼少期を送った新美南吉は、中学生時代から創作を始め、弱冠十八歳で「ごんぎ

つね」を執筆しました。病に苦しみ、作家としての成功を前に二十九歳でこの世を去りましたが、その短い生涯を通して、多くの

童話、小説、詩、童謡、戯曲などを創作しています。物語性豊かでユーモアとペーソスに満ちたそれらの作品は、愛知県知多半島

の風土を背景に、哀しみの中にも心の通い合いや美しい生き方といった、普遍的なテーマが描かれ、死後七十年以上経つ現在も、

ますます多くの人に親しまれています。

作品について

新美南吉が十八歳のときに「権狐」の最初の原稿を仕上げる。一九三二(昭和七)年雑誌「赤い鳥」に、鈴木三重吉により手を

加えられた「ごん狐」として掲載された。本作品は「校定新美南吉全集第三巻」(大日本図書出版一九八〇年)所収の「ごん狐」

を定本としている。

「ごんぎつね」が小学校国語の教科書に採用されたのは、一九五六(昭和三十一)年の大日本図書が最初で、その後、東京書籍、

光村図書、教育出版、学校図書、三省堂と、全ての小学校国語教科書で取り上げられています。

作品と子どもたち

学級の実態(子どもたちにとってこの教材を学ぶ意味)

男子十三名、女子六名、計十九名の学級です。四月当初、新しい担任となった私に対し、子どもたちは良い子を演じていました。

前を向いて話を聞く、授業中、無駄話をしない。といった感じです。当たり前だといえばそれまでですが、女子の表情は硬く、問

いかけに対しての反応がないばかりか、笑いすら起こりませんでした。話し声は小さく、二、三人集まってコソコソ話しているの

です。

◆「話すこと」に対する苦手意識

五月の運動会が終わった頃には、国語の授業では、活発な男子の自由発言が目立つようになり、明るくにぎやかな雰囲気になっ

ていましたが、「今の発表を聞いて、○○さんはどう思う?」などと問いかけると、とても困った顔をして固まってしまいます。

その挙げ句、涙ぐんで発言を終わらせることが、何回もありました。また、発言できる子でも、前の人の発言をほとんどそのまま

繰り返して終わったり、小さな声で、もごもごした言い方になったりすることがあります。「話すこと」に不慣れで、自信がない

子が目立ちました。

「白いぼうし」の授業では、学級全体が固まったことがありました。「なぜ、松井さんは帽子を振り回したと思いますか。」と、

問いかけたところ、教室中に「?」があふれてしまったのです。松井さんが、道端に落ちていた帽子を拾い上げた途端、中からモ

ンシロチョウが飛び出したため、あわてて取り戻そうとして帽子を振り回したのですが、それを答えられたのは、学級で一人しか

いませんでした。帽子を振り回したことと、モンシロチョウが飛び出したことを関連づけて考えられなかったようです。

「話すこと」に苦手意識があるのは、文章を読んで場面をイメージ豊かに思い描くことに不慣れなことも要因の一つかもしれま

せん。それは日常生活でも同様で、友だちに面と向かって素直な気持ちを伝えられないことによるトラブルも見られました。

◆女子の人間関係

たった六人しかいない女子の中で、ある日、こんなことがありました。一人の女子が「教室でこれを拾いました。」と、私に小

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さな紙切れを差し出したのです。走り書きで、「ごめんね。なかよくなろう。○○ちゃんとは遊ばないで」というような内容が書

かれていました。○○ちゃんとは勿論、うちの学級の女子の名前だったので、昼休みに女子全員を集めました。皆、お互いを伺う

ような表情で口を閉ざしていましたが、どうにか聞き出したのは、六人のうち、一人が女子側から離れて男子の方にいて、残り五

人は、三人がくっつくと、他の二人はその輪の中に入れないことがよくあり、しかもその組み合わせは時々変わるため、次は自分

が仲間はずれにされるのではないかと不安を抱いているようでした。

◆文芸作品を仲立ちとして

しかし、「無視された。」「『あの子と遊ばないで』と言われた。」と、訴えがあがるたびに話し合いをしても、また、道徳をして

も、根本的な問題解決には至りませんでした。しばらくして忘れていた頃に、同様の訴えが女子からあがるのです。やはり、一人

一人の認識を変えるには、優れた文芸作品を仲だちとして、互いに語り合う経験を多く積むことしかないのだと思いました。国語

の授業で子どもを変える。教材の中の人物に同化したり、人物を外から見て異化したりしながら、自分のものの見方や考え方を深

めていくことが、遠くても近道なのだと。

この「ごんぎつね」という作品は、ひとりぼっちで孤独感をもっているごんと兵十という人物設定や、いたずらをして村人から

嫌がられているごんと村人の関係性など、本学級と似ている部分があります。人は、誰かとつながって生きていきたいと願っても、

相手を固定的に見て嫌な部分だけ見ていては、決して人とつながり合うことはできません。そして、人とのつながりが絶たれた関

係、互いに疎外し合う関係こそが、悲劇を生み出すのだと考えます。

この作品を学習し、ごんや兵十の気持ちに共感することで、人の心の痛みが分かる人になってほしい。そして自分たちの生活を

見つめ直し、五年生に向けて新たな人間関係を作っていくきっかけにしたいと願い、教材分析に取り組みました。

子どもたちにつけてきた力

○詩「春のうた」草野心平

題名のとなりに書かれている〈はじめて土の中から出たときのうた〉という文を条件にして、視点人物である「かえる」が

どんな気持ちで土から出て「はるのうた」を歌っているのかイメージしました。そして〈ケルルン

クック〉はかえるの目と

心を通した表現であることを押さえ、何度も楽しく音読しました。

○物語文「白いぼうし」あまんきみこ

「どんな松井さんか」をめあてに、人物像を刻み上げていく活動を通して、人の気持ちを想像し、人のために行動するやさ

しさを確かめました。「女の子は人間か、チョウの化身か」という問いの学習でそれぞれ根拠を出し合いました。〈よかったね

よかったよ

よかったね

よかったよ〉が一字下げになっていることの意味づけとして、チョウのようでもあり、人間の女の

子でもあるというまとめをしました。《まとめよみ》として、〈白いぼうし〉を中心に〈松井さん〉〈女の子〉〈たけのたけお〉

くん〈夏みかん〉の関係を整理しながら文図に表して、作品の構造・関係を視覚的にとらえさせました。

○説明文「あめんぼはにん者か」

題名が問いの文になっていて、《観点》《仕掛》の役割を担っていることや、段落の要点をまとめる手順などについて学習を

しました。その後、各段落の働きが、予想→実験→結論→考察という流れになっていることに気づかせ、科学者の姿勢につい

てまとめました。

○詩「はじめて小鳥が飛んだとき」原田直友

この詩では《対比》《類比》を中心に学習しました。〈かあさん鳥〉と〈とうさん鳥〉の言動を《対比》することで、〈かあ

さん鳥〉は優しい励ましを、〈とうさん鳥〉は力強い勇気づけを行っていること、表現は違っても、どちらも「無事に飛んで

自立してほしい」という願いは同じ《類比》であることを学習しました。

○物語文「一つの花」今西祐行

戦争教材ということで、《だんどり》では徴兵制度や食べ物がいかに乏しかったかなどを補足してから学習に入りました。

話者が一貫して《外の目》で語っていることを押さえ、目撃者体験をしていきました。読者としてどう思うか、どう見えるか

を各場面でやっていきました。強調の文末〈のでした。〉〈のです。〉が繰り返されていることに着目し、幼い子の言葉までゆ

がめてしまう戦争の非人間性について気づかせたり、会話文に表れる父や母の気持ちを押さえたりしながら、どんな状況での

言葉か《条件》を踏まえて考える学習をしました。

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三 この作品をどう読んだか

作品の構造(視点・筋・構成・場面)

視点

文芸作品はすべて、ある一定の視点を媒介として表現されています。視点とは、

だれの目から、どこから(だれの側から)語っているかということです。視点に

は、見る側(視点人物)と、見られる側(対象人物)があり、図のような関係が

見られます。

文芸学では、すべての視点を《外の目》と《内の目》の組み合わせによって類

別します。《外の目》とは、文字通り、話者が外側から見て語ることで、それに

よって読者は、視点人物をも突き放し、一歩身を引き、あるときは批判しながら、

いわば第三者・目撃者として体験(異化体験)することになります。

一方《内の目》とは、話者が人物の内面(心)になって語ることで、それによっ

て読者は人物の身に寄り添ったり重なったりしながら、人物の心になって読む体験(同化体験)をすることになります。文芸の体

験は、これら同化と異化がない交ぜとなった体験であり、これを《共体験》と名付けています。

本作品では、はじめ話者は、《外の目》で、ごんと周りの状況を説明していますが、第一章の〈ある秋のことでした。〉

からは、ごんの《内の目》に寄り添い重なって語っていきます。それによって読者は、ごんの目と心になって村の様子を見たり、

兵十と加助の話に耳を傾けたりしながら読み進めます。いわゆる同化体験をしながら読んでいくことになります。

しかし、第六章の四行目〈ふと、顔をあげると、きつねがうちの中に入ったではありませんか。〉の文からは、話者の《視角》

がごんの側から兵十の側に転換します。その次にある〈こないだ、うなぎをぬすみやがった、あのごんぎつねめが、またいたずら

をしにきたな。〉という文は、明らかに兵十の言葉でありながら、前の文と同様に「

がついていません。地の文として書かれて

います。これは、話者が兵十の《内の目》に重なっていることを表しており、そのため読者もここで、兵十がごんを憎んで火縄銃

を手にした気持ちが手に取るように分かるのです。

〈「ようし。」〉兵十のこの言葉に、読者は「ごんを撃たないで。」と叫びたくなります。それは、これまでごんがせっせと栗や松茸

を届け続けていたことを知っているからです。が、その読者の思いもむなしく、兵十に撃たれてしまうごん。まさに悲劇です。し

かし読者は、兵十の《視角》に切り替わったことで、〈ごん、おまえだったのか、いつもくりをくれたのは。〉という、兵十の痛恨

の思いを知ることになります。兵十は自分が探し求めていた相手を、自らの手で殺してしまったことで、これから兵十は、自分に

心を寄せてくれた相手を殺してしまったという罪の意識を抱えて生きていくことになるでしょう。取り返しのつかない過ちを犯し

たことで、おそらくこれから先も後悔しながら生きていくであろうと予想されます。

ごんから兵十の側への《視角》の転換によって、この物語は、ごんにとっての悲劇だけではなく、兵十にとっても悲劇であると

意味づけることができます。

筋・構成・場面

題名

「ごんぎつね」という題名により、〈ごん〉という名前のついたきつねの物語であることが分かります。読者である子どもたち

は、きつねに対して、一般的にどうイメージしているでしょうか。誰かを化かすとか、ずるがしこいと思う子どももいれば、〈ご

ん〉という音の響きから、かわいらしい動物をイメージする子どももいるかもしれません。

題名と出合った読者は、これから「ごん」という名前のきつねの物語が始まるという読みの観点を知ると同時に、どんなきつね

の、どんな話が始まるのかと、わくわくしながら興味をもって読み始めることと思います。

このように、題名は《観点》《仕掛》としての働きをもっています。

構成

●場面分け…この作品は、作者によって第一章~第六章まで番号がつけられていますが、授業をするにあたって、第一章と第二

章をさらに場面分けをしました。〈

〉内は、各場面の冒頭の文章です。

内の目(同化体験)

視点人物

対象人物

外の目(異化体験)

語り手

読者

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第一章

一場面〈これは、わたしが小さい時に、村の茂平というおじいさんから聞いたお話です。〉

二場面〈ある秋のことでした。〉

三場面〈兵十がいなくなると、ごんはぴょいと草の中から〉

第二章 四場面〈十日ほどたって、ごんが、弥助というお百しょうのうちのうらを通りかかりますと、…〉

五場面〈そのばん、ごんは、あなの中で考えました。〉

第三章

六場面〈兵十が、赤い井戸の所で、麦をといでいました。〉

第四章

七場面〈月のいいばんでした。〉

第五章

八場面〈ごんは、お念仏がすむまで、井戸のそばにしゃがんでいました。〉

第六章

九場面〈その明くる日も、ごんは、くりを持って、兵十のうちへ出かけました。〉

第一章一場面

〈これは、わたしが小さい時に、村の茂平というおじいさんから聞いたお話です。〉

〈これは〉というのは、「これから始まるお話は」という意味です。〈わたし〉というのは、この作品の作り手(作者)ではなく

話者のことなので、はっきりと区別して扱います。

〈村の茂平というおじいさんから聞いたお話〉だということで、〈そうです。〉と、伝聞の文末が使われていますが、これ以降、

この文末は使われていませんし、〈わたし〉という、話者を示す言葉も出てきません。それによって読者は、〈茂平というおじいさ

ん〉からの聞き語りというよりも、今、まさに目の前で起こっている出来事を見聞きしているような、臨場感をもって読み進めて

いく体験をしていくことになります。

【時代背景】

お城があった時代ということは、武士の時代であるということです。身分制度が厳しく決められており、農民たちは殿様に年貢

を納める義務がありました。そのため領主である殿様は、毎年、決まった分の年貢を確保するために「五人組」という制度を設け

ていました。五人のうち誰かが年貢を払えなければ、連帯責任として他の四人に年貢が加算されてしまうのです。そのためお互い

が、年貢をきちんと納めることができるか、村から逃げだそうとしていないかと監視し合っていたといいます。

この他にも「村八分」という私的制度があり、村のおきてに従わない者に対し、村民全体が申し合わせて、その家と絶交しまし

た。ただし、火事と葬式の二つだけは手伝うということから、それを除いた八分の交際を絶つというものでした。こうした江戸時

代における村人たちは、仲間というよりは、自分を監視する相手として、気を許すことができない関係だったと言えます。

ただ、以上述べたことは、物語の中で直接語られていない上に、読者である四年生は、まだ社会科で歴史を学習していないため、

予備知識がない子がほとんどだと思います。そこで《たしかめよみ》に入る前の《だんどり》で説明する他、〈お歯黒〉などは本

文に出てきた段階で補足したいと思います。

【ごんの基本的な人物像】

〈ひとりぼっちの小ぎつね〉とは、家族や仲間がなく、一匹で暮らしているということです。しかし、それは数の問題だけでは

ありません。〈ひとりぼっち〉という言葉の響きには、もの悲しさが感じられ、孤独で寂しい思いを抱えていることが分かります。

だから〈夜でも昼でも、いたずらばかり〉してしまうのです。しかも、住んでいる所が〈中山から少しはなれた山の中〉だという

ことは、村からあまり離れていない場所を巣にしているということです。〈ひとりぼっち〉の寂しさを紛らわすために、すぐに村

に出かけては、いろいろなものをのぞいてみたいとか、触ってみたいとか、まるで子どものような、好奇心旺盛なごんの様子が見

えてきます。

しかし、その一方で〈しだのいっぱいしげった森の中に、あなをほって住んで〉いたということからは、〈しだ〉を利用して、

外からは中が見えにくく、中からは外が見える作りになっていることが分かります。こういう賢さがあるということは、子どもの

きつねなのではなく、体は小さくても、もう大人のきつねである証拠です。授業では「子ぎつね」と〈小ぎつね〉を対比させるこ

とで、漢字一文字の違いでも、ごんの人物像が違ってくることを明らかにしながら、ごんが〈いたずらばかり〉していた背景には

〈ひとりぼっち〉という孤独な境遇が関係していることをここでしっかり押さえたいと思います。それが、人物の《条件》を踏ま

えて読むことにつながっていきます。

【村人の立場から見たごん】

しかし、そんなごんの行動を、いたずらをされる側の村人たちは、どう受け止めていたでしょうか。〈畑へ入っていもをほり散

らしたり、菜種がらのほしてあるのへ火をつけたり、百しょう家のうら手にあるとんがらしをむしり取っていったり〉されること

は、大迷惑です。畑の土の中のイモを掘り返されたら作物が台無しですし、菜種がらに火を付けられたら、からからに乾燥してい

るためにあっという間に火事になってしまいます。まさに死活問題と言えるでしょう。しかも〈~たり、~たり〉と繰り返されて

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いるということは、まだまだ他にもあるということです。それが〈夜でも昼でも〉行われるのですから、被害を受けている側の村

人たちは、たまったものではありません。

ごんの方は〈ひとりぼっち〉ゆえに相手を求めて村に向かっているわけですが、村人の方はごんのことを、いたずらばかりして

いる悪いきつねであると認識しています。ごんの方は、村人に関心をもち、ちょっかいを出しているのに対し、村人の方はごんの

ことを、いたずらをする、困った存在ととらえています。両者の関係は、ごんの側からの一方通行の関係、つまり心が通じ合って

いない、断絶した関係であることが分かります。

第一章二場面

〈ある秋のことでした。〉

【視点人物の目と心がとらえた、情景描写】

〈ある秋のことでした。〉〈二、三日雨がふり続いたその間、ごんは、外へも出られなくて、あなの中にしゃがんでいました。〉

の部分からは、話者がごんの目と心によりそって語っています。じとじとした秋の長雨の中、あのいたずら好きのごんが三日間も

巣穴から出られなかったのですから、体を動かしたくてうずうずしていたに違いありません。この時の穴の中の様子や気持ちをイ

メージ体験した上で、次の情景描写を読んでみます。

〈空はからっと晴れていて、もずの声がキンキンひびいていました。〉

これを目にしているのは、他ならぬごんです。巣穴から出て最初に見た情景であるという条件を踏まえて読むと、単なる風景で

はなく、この時のごんの気持ち(心情)が反映されていることが分かります。〈空はからっと晴れてい〉たの〈からっと〉という

声喩から、スカッと気分が爽快であることが伝わってきますし、〈もずの声がキンキンひびいて〉いたという声喩からは、青空だ

からこそ、よく響く鳴き声を聞いて心がウキウキする様子が見えてきます。視点人物であるごんの心も晴れやかで、一点の曇りも

ないうれしい気持ちであることが伝わってきます。

情景描写や声喩はこのあとの場面にも出てくるので、まずはこの二場面で、視点人物であるごんが、どんな気持ちで目にしてい

るかを共体験しながら読み進めたいと思います。

【視点の移動】

〈ごんは、村の小川のつつみまで出てきました。辺りのすすきのほには、まだ雨のしずくが光っていました。~ごんは、川下

の方へと、ぬかるみ道を歩いていきました。〉これらの情景描写も話者がごんの目と心に寄り添って語っているものです。そう考

えて読むと、〈すすきのほ〉に残っている〈雨のしずく〉に光が当たって、とてもきれいだととらえていることが分かります。ご

んにとっては、見るものすべてが新鮮で、それを美しいと感じていることが分かります。

〈ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。〉の文には、〈見る〉という動詞の主語が省略

されています。それは、話者がごんに重なっているからです。話者とごんが一体化しているといっても

いいかもしれません。そこで授業では、読者もごんになったつもりで、ごんの心の声を想像してみるこ

とにします。

・〈川の中に人がいて何かやっています。〉……………………川になんか入って、一体、何をやっているんだ?

・〈見つからないように〉〈じっとのぞいてみました。〉……誰なのか知りたいなあ。

・〈兵十だな〉

……分かった、あの顔は、兵十だ。

・〈ぼろぼろの黒い着物をまくし上げて〉〈あみをゆすぶっていました。〉……………………何を捕るつもりだ?

・〈はちまきをした顔の横っちょうに円いはぎの葉が一まい、大きなほくろみたいに〉

…………顔の横っちょうに葉っぱなんかつけて、大きなほくろみたいで

おもしろいな。

こんな感じで、兵十のしていることを事細かく観察しているごん。人物を見て、兵十だと名前が分かるのは、それほど村人の生

活をよく知っているからです。ごんの視点が「遠くの人の姿」→「兵十」→「兵十の行動」→「顔のはぎの葉」とどんどんズーム

アップし、移動しているのは、興味・関心を抱き、よく見てみたいと強く思っていることの表れです。視点が対象に向かって焦点

化していくにつれて、ごんの興味関心も高まっていることが分かります。

第一章三場面

〈兵十がいなくなると、ごんは、ぴょいと、草の中から飛び出して、びくのそばへ…〉

【うなぎ事件】

こうして兵十の行動を興味深く観察していたごんですが、そのうち、興味は、兵十からびくの方へと移っていきます。〈太いう

なぎのはらや、大きなきすのはら〉が見えたからです。そこで、兵十が目の前からいなくなったのを幸いに、ごんは〈ぴょいと草

の中からとびだして〉いきます。〈ちょいと、いたずらがしたくなったのです。〉〈ぴょいと〉や〈ちょいと〉という声喩には、身

軽に、軽い気持ちで行動してしまう、ごんらしさがよく表れています。しかも、三日間、穴にこもっていた後ですから尚更です。

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〈びくの中の魚をつかみ出しては〉〈ぽんぽん投げ込みました。〉きっとその時の〈トボン〉という音を楽しんでいたのかもしれま

せん。しかし、〈いちばんしまいに、太いうなぎをつかみにかか〉ったところで、事態は急変しました。うな

ぎがごんの首にまき付いたのとほぼ同時に、兵十に見つかってしまったのです。

首を絞められる苦しさと、兵十に見つかったという恐怖心の板挟み…。〈横っ飛びに飛び出して、一生け

んめいににげて〉いった様子から、どれだけ必死だったかが分かります。それまでののどかな雨上がりの

様子が一変し、緊張感が伝わってくる場面です。実はこの「うなぎ事件」がこの物語の発端であるわけです

が、この時のごんは知るよしもありません。ただ読者にしてみると、すでに結末を知っている再読の段階な

ので、首にうなぎが巻き付いて死にそうになったことが、悲しい結末を暗示しているようにも思われてきま

す。 ご

んは、ほらあなの近くまで来て、兵十が追いかけてこないことを確認し〈ほっとして、うなぎの頭を

かみくだき、やっと外し〉ます。その後、死ぬ思いをさせられたうなぎをどうするかと思いきや、八つ当

たりするわけでも、乱暴に投げ捨てるわけでもなく、〈あなの外の草の葉の上にのせて〉います。ごんの繊

細さが伝わってくる表現です。いたずらばかりしていたと思っていたごんの新たな一面が分かることで、

読者のごんに対する見方が変わってきます。物をどんなふうに取り扱っているかを見ると、その人となり

が分かることを読者である子どもたちに気づかせたいと思います。

第二章四場面

〈十日ほどたって、ごんが、弥助というお百しょうのうちのうらを通りかかりますと〉

【村の様子に興味を抱くごん】

〈十日ほどたって〉ごんはまた、村にやってきます。お歯黒をつけたり、髪の毛をすいてたりしている村人を目にして〈ははん、

村に何かあるんだな。〉と気づきます。〈お歯黒〉とは、明治初期まで長い歴史を経て続いている女性の習慣で、結婚したという証

として、歯を黒く染めるものです。しかし、日々の暮らしに追われている農民は〈お歯黒〉をする間もなく働きづめでしたから、

こうして身支度を整えるのは、特別な時しかあり得ないことを、ごんはちゃんと知っているのです。

兵十の〈その小さな、こわれかけた家の中には、大ぜいの人〉が集まっていること、〈よそ行きの着物を〉着た女たちが、〈表の

かまどで火を〉たき、〈大きななべの中では、何かぐずぐずにえて〉いることから、〈ああ、そう式だ。〉と確信します。そこで好

奇心旺盛なごんは、兵十のうちの誰が死んだのか確かめるために、村の墓地へ先回りして隠れたのでした。葬式ならば、必ず墓地

に行くはずだと推察し、行動する賢いごんであることが分かります。

【生と死を結ぶ、彼岸花の二重のイメージ】

〈いいお天気〉で、〈おしろの屋根がわらが光って〉いて、〈ひがん花が、赤いきれのようにさき続いて〉いると見ているのは、

他ならぬごんです。この情景描写からは明るく晴れやかな様子が伝わってきて、ごんにとっては、村の葬式でさえ、興味が湧く、

うきうきしたイベントのようにとらえている感じがしてきます。

しかし、読者からすると、〈ひがん花が赤いきれのようにさき続いて〉いる光景は、あまりにも赤く鮮やか

すぎて、この世のものとは思えない感じがします。そもそも「彼岸花」という名前は、ご先祖様がこの世とあ

の世を行き来しやすい彼岸の時期にタイミング良く、花を咲かせることに由来しています。先に花が咲き、後

から葉っぱが伸びるという通常の草花とは逆の生態をもつため、昔の人は恐れを抱いていました。「死人花(し

びとばな)」「地獄花」「幽霊花」などの多くの俗名が存在するのはそのためです。毒性があるために、土葬した

遺体がネズミやモグラなどに傷つけられるのを防ぐためにお墓の近くや田んぼのあぜ道などに植えられたそう

です。しかし、もう一つの俗名「曼珠沙華」の方は、法華経などの仏典に由来し、「天上の花」という意味をも

っており、相反するイメージがあります。

ここで、もう一度、四場面の情景をすべて響き合わせて見てみましょう。〈いいお天気で〉〈おしろの屋根が

わらが光って〉いて〈ひがん花が、赤いきれのようにさき続いて〉いる中を、〈カーン、カーン〉と鐘が鳴って、

〈白い着物を着たそう列の者たちがやって来〉ます。これらが遠くからだんだん近づき、〈人々が通った後には、

ひがん花がふみ折られて〉いる光景。葬列の人たちが、おそらく無意識に彼岸花を踏み折って歩き去っていく

様子は、とても残酷な感じがします。これから先に起こるであろう、ごんと兵十の悲劇を暗示していると意味

づけすることもできます。

私たちが住む地域では「彼岸花」はほとんど見かけない花なので、写真を見せたり、名前の由来を教えたりしながら、言葉と言

葉を響き合わせて、四場面の情景を読み味わいたいと思います。

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第二章五場面

〈そのばん、ごんは、あなの中で考えました。〉

【責任を感じ、後悔するごん】

〈そのばん〉とは、葬式を目撃した日の夜のことです。〈うなぎが食べたいと言ったにちがいない。〉〈死んじゃったにちがいな

い。〉〈うなぎが食べたい、うなぎが食べたいと思いながら死んだんだろう。〉と、たたみかけるように、どんどんエスカレートし

て考えています。

これらの言葉から分かるのは、ごんは、葬列での兵十の〈しおれた〉様子から、その悲しみを汲み取り、十日

前のうなぎ事件を結び付けて考えることのできる人物であるということです。兵十のおっかあが「うなぎが食べたい」と言ったか

どうか、真相は分からないはずなのですが、「きっとそうにちがいない。」と、強く断定しています。うなぎを食べれば元気が出て、

おっかあが死なずに済んだかどうかも分かりませんし、ごん自身がおっかあを死なせてしまったわけでもありません。ただ、はっ

きりしていることは、雨上がりのあの日、ごんが兵十のうなぎをびくから盗ったこと、それから十日たって、兵十のおっかあの葬

式があったという事実です。臨終が近づいている母親に、滋養強壮のあるうなぎを食べさせたいと願ったと考えたごんは、〈ちょ

っ、あんないたずらをしなけりゃよかった。〉と、自分のいたずらを強く後悔しています。

人は自分が失敗したと感じた時にどんな行動をとるかで、その人間性が分かると思います。事実から目をそらし責任転嫁したり、

自分の非を認めて謝罪したりなどの行動がある中で、ごんは、自分を強く反省しています。ここから分かるのは、ごんの真面目さ、

誠実さです。これほどまでに自分のせいだと責任を感じるわけは、親を亡くすことがどんなに辛く悲しいことか、そして天涯孤独

がどんなに寂しいことか、自分のことのように分かるからです。

さて、読者である子どもたちは、こんなごんを見てどう感じるでしょう。そこまで責任を感じなくてもいいのにと思う子がい

るかもしれませんし、ごんの思いに共感し、償いをしようとする姿を好意的にとらえる子もいるかもしれません。こうした子ども

たちの感想を学級内で交流していくことで、人に対する見方・感じ方を授業で培っていきたいと思います。

第三章六場面

〈兵十が、赤い井戸の所で、麦をといでいました。〉

【いわし屋事件】が意味するもの

〈兵十が、赤い井戸の所で、麦をといでいました。〉これを見ているのは、ごんです。この時代、ご飯支度は女がやるものです

が、兵十が麦をといでいるのを見て、ごんがつぶやきます。〈おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か。〉この言葉はとても重要です。

これまでごん自身が、自分の気持ちを語ることはありませんでしたが、この言葉には、ごんの孤独感や寂しさがにじみ出ています。

自分が〈ひとりぼっち〉だからこそ、兵十の寂しさ、悲しさが手に取るように理解できたのです。兵十も自分と同じと思うことで、

連帯感を感じていることが分かります。

そんなごんは、いわし屋に遭遇し、突発的にいわしをつかんで兵十の家に投げ込みます。〈うなぎのつぐないに、まず一つ、い

いことをした〉と思ったのです。〈まず一つ〉という言葉や、〈とちゅうの坂の上でふり返って〉兵十の姿を見守る姿から、兵十の

ためにもっと何かしてあげたいという決意が感じられます。

しかし〈次の日〉くりをどっさり拾って、兵十の家に行ってみると、ほっぺたにかすり傷を追い、〈ぼんやりと考え込んで〉い

る姿がありました。てっきり喜んでくれていると思っていたのに、予想外の展開です。兵十のためと思ってやったのに、正反対の

結果になっていました。ごんも、私たち読者も一体何があったのか、真相を知りたいという気持ちになる《仕掛》です。兵十の独

り言から、またしても自分のせいで、兵十に迷惑をかけてしまったことを知ったごん。これがきっかけとなり、兵十への思いはさ

らに深まっていきます。〈次の日も、その次の日も〉〈その次の日には、くりばかりではなく、

松たけも二、三本〉持っていくなど、日増しに兵十に強く思いを寄せていくのでした。初めはうなぎの償いの気持ちとして始まっ

た行為でしたが、六場面のいわし屋事件の失敗をきっかけに、兵十を慰めたい、兵十に何かをしてあげたいという気持ちに変化し

ていきます。孤独なもの同士、親を失ったもの同士の連帯感から、兵十への親近感がどんどん強まっていっていることを子どもた

ちに気づかせたいところです。

ただこの「いわし屋事件」には、もう一つ重要な側面が隠れています。それは、無実である兵十が、なぜぶん殴られたかという

ことです。おそらく兵十は、いわし屋に向かって自分が盗っていないと主張したのではないかと思います。にもかかわらず殴られ

たか、あるいは言い訳さえできないうちに殴られたとも考えられます。いずれにしてもこれを、ただ気の短い、いわし屋の性格に

よって引き起こされた個人的、偶然的な事件としてだけとらえてはいけないと思います。

家の中にいわしが投げ込まれていたという状況証拠だけで、兵十の言い分に聞く耳ももたず、いわし屋が一方的に暴力を振るっ

たということは、兵十が住んでいる世界もまた、話が通じない、人間疎外の状況にあるということです。それぞれが生きるのに必

死で、他人のことなど構っていられない状況にあることを、この場面でしっかり押さえたいと思います。

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第四章七場面

〈月のいいばんでした。〉

【兵十と加助の会話を聞く、ごん】

〈月のいいばんでした。〉これが、この場面を彩る条件です。中秋の名月だからこそ、

ごんは良い気分で〈ぶらぶら遊びに出かけ〉たのです。〈チンチロリン

チンチロリン〉

と松虫の鳴き声が聞こえてくるほど静かな夜であり、ごんの心もまた、虫の音の聞いて

弾んでいることがイメージされてきます。

ここではごんの視角から語られているため〈少し行くと、細い道の向こうから、だれか来るようです。話し声が聞こえます。〉

という表現になっています。月が明るく、すぐ見つかってしまうため、ごんはじっと隠れて会話を聞いています。二人が何を話す

のか興味津々な様子で聞き耳を立てているごんをイメージしながら、兵十と加助の会話を読んでいきます。

【兵十と加助の会話】

【聞き耳を立てる、ごんの気持ち】

「そうそう、なあ、加助。」

「ああん?」

……兵十は、一体、何を話すのかな。

「おれぁ、このごろ、とても不思議なことがあるんだ。」

「何が?」

……不思議なことって何?

「おっかあが死んでからは、だれだか知らんが、おれに、

くりや松たけなんかを、毎日毎日くれるんだよ。」

……それは、おれだよ、おれ。

「ふうん、だれが?」

「それが分からんのだよ。おれの知らんうちに置いていくんだ。」……当たり前だ。だって見つからないように、こっそり持って

行ってるんだからな。

「ほんとかい?」

……加助のやつ、疑っているな。

「ほんとだとも、うそと思うなら、あした見にこいよ。

そのくりを見せてやるよ。」

……うそじゃないったら。本当だよ。よし、明日も持って行ってやろう。

「へえ、変なこともあるもんだなあ。」

……ちっとも変なことじゃないのにな。そうか、おれのこと知らないもの

な。

授業では、兵十と加助の会話文を聞いて、ごんがどんなことを感じているか、ごんの内の目になって語らせていきたいと思いま

す。そして、ごんが兵十たちの会話を興味深く聞いている姿をイメージさせていきます。

第五章八場面

〈ごんは、お念仏がすむまで、井戸のそばにしゃがんでいました。〉

【神様のしわざ】だと考えた理由

兵十と加助の会話が気になって仕方がないごんは、〈お念仏がすむまで、井戸のそばにしゃがんでいました。〉もはや散歩の気分

ではありません。それ以上に、自分が栗を持って行っていることを気づいているのか知りたくてたまらないのです。長時間、お念

仏が終わるまでじっと待ち続けていたのでした。その帰り道、兵十と加助の後を〈兵十のかげぼうしをふみふみ〉ついて行ったご

ん。兵十が何を話すか聞きたいと、ついつい兵十の影を踏むほど近づいている、健気なごんの様子が見えてきます。

〈おしろの前まで来た時、加助が言いだしました。〉唐突に話し始めたわけは、きっと加助も先程の話を考え続けていたからで

しょう。出した結論が〈さっきの話は、きっと、そりゃあ、神様のしわざだぞ。〉ということです。〈えっ?〉と、兵十はびっくり

して、加助の顔を見ます。これには、さすがのごんも〈へえ、こいつはつまらないな。〉〈おれが、くりや松たけを持っていってや

るのに、そのおれにはお礼を言わないで、神様にお礼を言うんじゃあ、おれは、引き合わないなあ。〉と思います。見つからない

ように行動しているとはいえ、せめて自分がやっていることを兵十に気づいてほしい、認めてほしいという願いがあることが分か

ります。

では、加助はなぜ神様のしわざと考えたのでしょうか。それは、兵十にしても加助にしても、家まで来て届け物をしてくれそう

(視点人物)ごん

話者

読者

(対象人物)兵十・加助

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な人が、一人も思い浮かばなかったからです。だからこそ、こんなことをしてくれる人物は、神様しかあり得ないという結論を導

き出したわけです。そもそも、相手が思い浮かばないというのは、村人同士でお裾分けしたり届け物をしたりするような関係性が

ないということです。一場面の【時代背景】でも述べたように、封建時代の農民たちは年貢を納めるのに必死で、隣近所に分けて

あげる余裕など皆無なのでした。こうしてお念仏の行き帰りを一緒に歩いている加助と兵十であっても、親しそうに見えても、実

は互いに物をやりとりしたり助け合ったりする間柄ではないということなのです。そういう意味では、兵十もごんと同様に、お母

さんを亡くして以来、孤独だったということが分かります。

ごんの方も、見つからないようにこっそり届けていたのですから、兵十が気づかないのは当たり前と言えば当たり前なのですが、

二人の会話を聞き、〈おれは引き合わないなあ。〉と感じています。自分だと気づいてほしい、兵十とつながりたい、これが本心だ

ということです。こんなごんに対し、兵十の方は全くそのことに気づいていません。ごんと兵十の関係は、どちらもひとりぼっち

の境遇であり、お互いの寂しさを分かり合えるはずの二人でありながら、つながっていない、通じ合っていない関係性を確認した

いと思います。

第六章九場面

〈その明くる日も、ごんは、くりを持って、兵十のうちへ出かけました。〉

〈その明くる日も〉とは、兵十と加助の会話を聞いたその翌日もまた、ということです。前日〈お

れは、引き合わないなあ。〉と、残念に思ったにもかかわらず、いつも通りに通い続ける、一途さが

分かります。

【視角の転換】

〈その時、兵十は、ふと顔を上げました。と、きつねがうちの中へ入ったではありませんか。〉

ここから、話者の視角は、兵十の側に転換していきます。〈こないだ、うなぎをぬすみやがった、

あのごんぎつねめが、またいたずらをしにきたな。〉という兵十の言葉には、強い憎しみが感じられ

ます。うなぎを盗んだあの憎い相手が、今まさに自分の目の前にいるのですから、逃がしてはならな

いと、怒りに火がついたのです。火縄銃を手にして〈ようし。〉と、火薬をつめる兵十。しかし、こ

こまでごんに同化してきた読者は知っています。「兵十、今まで栗や松茸を届けていたのは、このごんなんだよ。」と。ところが、

そのことを兵十は知りません。人物は知らないが( ×

)

読者は知っている(

○)

というハラハラする、緊迫した場面です。

〈ごんは、バタリとたおれました。兵十はかけよってきました。〉しかし、〈うちの中を見ると、土間にくりが固めて置いてある

のが目につきました。〉この瞬間、兵十は、すべてを察知しました。もしも栗がバラバラに置かれていたなら、ごんによって栗を

いたずらされたと思ったでしょうが、固めて置いてあったことで、大事に抱えて持ってきたことが分かったのです。〈ごん、お前

だったのか、いつもくりをくれたのか。〉この問いかけに〈ぐったりと目をつぶったまま、うなず〉いた、ごん。自分が知りたか

った、栗や松茸を届けてくれた正体がごんであることにようやく気づいた兵十は〈火なわじゅうを、ばたりと取り落としました。〉

手にしていた銃を落としてしまうほど力が抜け、呆然と立ち尽くす姿には、神様の正体が、あのいたずらもののごんだったという

こと、そのごんを自分が撃ってしまったことのショックの大きさが表れています。

最後の場面になって、兵十の側に《視角が転換》したことで、読者は、兵十の心の中を知ることができました。つながりたいと

思い続けた相手によって殺されてしまったごんにとっても、兵十にとっても、悲しい結末となってしまったのです。

ただ、せめてもの救いは、最後の最後で兵十とごんが通じ合ったことです。〈ごん、お前だったのか、いつもくりをくれたのは。〉

この言葉を聞き〈ぐったりと目をつぶったまま、うなず〉いたごん。兵十に分かってもらえたことは、ごんにとって最高の喜

びだったことでしょう。この瞬間、ごんの気持ちが兵十に届いたのです。

ただ読者としては、なぜ命を落とす寸前でしか分かり合えなかったのかと、釈然としない気持ちが残ります。もっと前に分かっ

ていれば、死なずに済んだでしょうし、気持ちが通じ合った、いい関係になれたはずだからです。

これから先、兵十はごんを殺したという事実を胸に抱えたまま、生きていくことになります。とても辛く悲しいことです。〈青

いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。〉という表現は、とても象徴的です。子どもたち一人一人がどんなことを感じる

か、交流させたいと思います。

表現の特質

色彩豊かな情景描写と声喩

この作品では、ごんの目と心でとらえた情景が、色鮮やかにみずみずしく描かれています。話者がごんの《内の目》になって表

現された描写なので、ごんがどんな気持ちで見ているかをイメージすることが必要です。

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たとえば、一場面で、雨上がりの日、三日ぶりに穴から出てきたごんに見えたのは、空が〈からっと晴れていて、もずの声がキ

ンキンひびいて〉いる情景でした。〈からっと〉〈キンキン〉という《声喩》が加わることで、空の青さだけではなく、澄んだ空気

感や空の高さ、辺りに響くもずの声などの様子から、ごんの心がとても晴れやかで、うきうきしていることが伝わってきます。

さらに、二場面でも、〈いいお天気〉で〈おしろの屋根がわらが光って〉いると見ているのは、視点人物であるごんです。墓地

の周りの彼岸花の赤、葬列の白といった色彩を含めた自然描写も具体的で、ごんが〈村になにかあるんだな。〉と、真相を知るた

めに興味深く周りの情景を観察している様子が分かります。

ただ、読者にとっては〈赤いきれのように〉一面に咲き続いていた彼岸花が、葬列の人々が通った後に〈ふみ折られて〉いる情

景は、物語の結末に起こる、ごんが銃で撃たれる場面が想起されて、身につまされる感じがします。もちろんごんは、これから自

分に起こる悲劇を知らずに見ているわけで、再読である読者だからこそ感じることです。色鮮やかに咲いている「生」のイメージ

と、不吉な「死」のイメージが相まって、二重のイメージで読むことができます。まさに真っ赤な彼岸花が「生と死」を結ぶキー

ワードとなっています。

時代を象徴する〈おしろ〉の形象

実は〈おしろ〉という言葉が、四つの場面にさりげなく描かれています。

・一場面〈中山という所に、小さなおしろがあって、中山様というおとの様がおられたそうです。〉

・二場面〈遠く向こうには、おしろの屋根がわらが光っています。〉

・四場面〈中山様のおしろの前を通って、少し行くと〉

・五場面〈おしろの前まで来たとき、加助が言いだしました。〉

これらは単に、場所や時代を示すだけの言葉ではありません。たとえば、三場面の「いわし屋事件」では兵十が一方的に殴られ

れ、泥棒と決めつけられています。いわしという物証があるのは確かですが、自分の弁明をしようにも聞いてもらえない時代だと

いうことです。兵十のいる世界は、人間同士、話し合えば通じ合う可能性がありながら、通じ合わない世界であることを表してい

ます。これは武士が権力を握り、お百姓から年貢を取り立てている時代だからです。刀や権力、または腕力のあるものが力を握っ

ている世界なのです。

同様に、四、五場面で兵十と加助が会話をする場所が〈おしろの前〉です。見過ごしてしまいがちですが、人物の背後に常に〈お

しろ〉があることで、こうした封建時代がイメージされてきます。これと加助と兵十の会話から分かるのは、兵十に栗や松茸を持

って来てくれる人物は神様以外、考えられない、思い浮かばない世界であるということです。みんな生きることに必死で、家族を

養うために、人様に食べ物を分け与えることなど考えることすらない時代だということが象徴的に描かれています。

つまり、ごんと兵十の悲劇は、一対一の個人の問題ではなく、〈中山様というおとの様のおられた〉時代背景が、要因となって

引き起こされたもので、その象徴となっているのが〈おしろ〉の形象ということです。

虚構の方法

きつねである、ごんを視点人物としていること

文芸では、たとえ人間以外のものでも、人間のように話したり、行動したり、何かを感じたように表現されているものを《人物》

と類別しています。この作品では、ごんぎつねは《人物》です。〈しだがたくさんしげった、あなの中〉に住んでいるという、き

つねらしさがありながら、していることや考えていることは、実に人間的です。つまり、きつねのイメージと人間のイメージが複

合されることで《人物形象》となっているのです。

では、ごんを視点人物として設定していることで、どんな真実が見えてくるでしょうか。

ごんは〈ひとりぼっちの小ぎつね〉で、〈昼でも夜でも、いたずらばかり〉しているため、村人から嫌われている存在です。兵

十が火縄銃を手にしたのも、できることなら駆除してしまいたいという村人みんなの気持ちがあるからです。つまり、ごんは村人

から、その存在を否定されている、疎外されている存在だということです。

しかし、ごんが視点人物として描かれていることで、わたしたち読者は、ごんが兵十のためにどんなに尽くしてきたか知ること

になります。ごんはいたずらもするけど、好奇心いっぱいで、しかも細やかな感性の持ち主であることや、一度思いを寄せたら、

たとえ報われないと知っても栗や松茸を届け続ける、一途な心の持ち主だということも理解できます。いたずら好きという自分た

ちとの共通性があり、しかも純粋な心のごんのことを、読者である子どもたちは我が事のように思い、大好きになっていくのです。

しかし、こんなごんの思いや行動は、兵十には伝わりません。いわし屋が兵十を「ぬすびと」と一方的にぶん殴ったように、兵

十もまたごんのことを「ぬすっとぎつね」としか見ていないからです。というのも、兵十たち人間の言葉はごんに通じるけれども、

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ごんは自分の気持ちを面と向かって言葉で伝えることができないという、疎外された人間関係があるからです。そのため兵十は、

まさかそのごんが自分に栗を届けてくれていたとは夢にも思わないのです。

ごんぎつねの悲劇は、つながりたいのにつながることができない社会のありようを含め、人間疎外の関係が生み出したものです。

ごんを視点人物としたことで、悲劇の根源が見えてきます。

視角の転換がもたらすもの

ごんぎつねの虚構の方法として、特徴的なことが《視角の転換》です。

はじめは、話者がごんの目と心で語っていたものが、終わりになって兵十の《内の目》に重なるところが出てきます。これによ

って、読者は、ごんの視点になることでごんの気持ちが理解でき、同時にごんを「ぬすっとぎつねめ」と憎んで殺そうとする兵十

の気持ちも、手に取るように分かるのです。「兵十、栗を持って来たのはごんだよ。だから銃を撃たないで」と叫びたくなります。

しかし、撃ってしまった後で「ごん、お前だったのか、いつもくりをくれたのは。」と真実を知った兵十。〈火なわ銃をばたりと取

り落とし〉てしまうほど、狼狽しています。兵十の言葉はどこにも書かれはいませんが、強い後悔の念を抱いているだろうと想像

できます。やっと分かり合えた時が、命が燃え尽きる瞬間だったことに、読者はやりきれない気持ちを覚えます。分かり合えたと

思ったのも束の間、それが死ぬ瞬間だったということは、ごんや兵十だけではなく、読者にとっても悲劇です。誰かとつながって

いたいという願いは、ひとりぼっちのごんだけではなく、母親を亡くして天涯孤独となった兵十も、そして読者である子どもたち

も同じです。

同じ願いをもちながら、どうしてこんな悲劇が起こってしまったのか…。読者に問いが生まれる瞬間です。この問いについて考

えることで、言いたいことが言えず分かり合えない関係、一方通行ですれ違いの関係こそが悲劇を生むのだという認識内容に向け

た話し合いをしていきたいと思います。

美と真実

〈ごん、お前だったのか、いつもくりをくれたのは。〉〈ごんは、ぐったりとしたまま、うなずきました。〉この瞬間、兵十とご

んの心は通じ合いました。人はだれかとつながっていたいと願うものであり、自分の存在を認めてほしいと願っています。そんな

ごんの思いや行為を、最後の最後に兵十が分かってくれたことは、読者として本当にうれしく思います。しかし、その反面、死ぬ

直前でしか分かり合えなかったことは、とても悲しいことです。

〈青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。〉

現実には血なまぐさい惨劇であるはずの現場を、話者は〈青いけむり〉と表現することで、ごんと兵十の心が通い合った姿を悲

しくも美しいものとして見せてくれています。願いが叶ったと安堵を覚えるものの、やはりそこには悲しみが存在します。「通じ

合えてよかった、うれしい。しかし、死んでしまって悲しい。」「悲しいけどうれしい」この相反する二つの感情を同時に感じる読

者体験《美の体験》は、子どもたちの心に強く残り「どうしてこんな悲劇となってしまったのか」という問いを生み出していくこ

とになります。それがこの物語における、美と真実であると考えます。

この教材でどんな力を育てるのか

認識の方法

条件的に見る力

ごんの人物像を刻み上げて行く中で、はずしてはいけないのが〈ひとりぼっちの小ぎつね〉であるということ、〈中山から少

しはなれた山の中〉に住んでいるという、ごんの条件です。ひとりぼっちで寂しいからこそ、人里に出ていたずらをしてしまう

ととらえる、条件的な見方ができる力をつけたいです。

また、情景描写をイメージするにも、ごんの条件が関わってきます。〈夜でも昼でも、いたずらばかり〉していたごんが、三

日もの雨で、外へ出られなかったとしたらどうだろうか、初めて穴から出た瞬間の気持ちはどうだろうと考えることは、ごんの

条件を踏まえて読むからこそ可能となります。

一方、兵十が、ごんを火縄銃で撃ってしまったのはなぜかと考えると、それは、ごんが栗や松たけを持ってきてくれていたこ

とを知らなかったからです。ごんだと知ってさえいたら、あのような悲劇にはならなかったということです。ごんだと知らなか

ったという条件を踏まえると、兵十の行為は仕方がないことだと読者に理解できるのです。

この「条件的に見る力」は、文芸作品を読みだけではなく、実際に人と人の関係を作り上げていく上で、とても重要です。「~

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という時だからこそ」「~という場所だからこそ」「こういう環境だからこそ」など人物の条件や状況の条件をを踏まえて考える

ことで、お互いに理解し合い、つながり合うことができると思うからです。この条件的な見方から切り口に、認識内容に迫って

いきたいと考えます。

構造・関係・機能的に見る力

構造・関係・機能的な見方・考え方とは、作品がどのようなしくみになっているか、全体と部分、部分と部分がどのようにつ

ながっているか、どのような働きをしているかと見る見方です。

この作品は、視角が転換することで、ごんの内面だけでなく、

兵十の内面も分かる構造になっています。ごんの視点だけで語

られると、兵十の怒りや憎しみ、悲しみが読者には見えてきません。しかし、視角が兵十に転換したことで、ごんと兵十の両者

の悲劇であることが分かります。

表現の内容(主題)

お互いにひとりぼっちで寂しい境遇にある者同士であり、本来ならば分かり合える関係でありながら、殺し殺されると言う形

でしか心が通じ合えなかった、ごんと兵十の悲劇。

認識の内容(思想)

・人とは、誰かとつながり合いたいと願うものである。

・言いたいことが言えず、分かり合えない人間関係が悲劇を生み出す。

典型を目指す読み

典型化とは「ごんぎつね」を物語の世界だけで終わらせず、自分たちにも似たようなことがないかと考えることです。

私は、目の前の子どもたちを見て「もしかしたら、自分が『言いたくても言い出せない』状況を作り出していたのかもしれない」

と思った瞬間、その罪の深さに心が震えました。そして、その日を境に、私は折に触れ、担任としての自分の言動を振り返るよう

になりました。そういう意味では、この「ごんぎつね」は、私の指標の一つともいえる作品です。

子どもたちには、「言いたくても言えない時はどんな時か」と、具体的に考えさせたいと思います。ごんと兵十のように、殺し・

殺される関係ではなくても、傷つけたり・傷付けられたりした経験は、どの子にもあると思うからです。人からやられたことはす

ぐ訴えることができますが、自分が軽い気持ちで行ったことが人を傷付けていたかもしれないと気づくとき、きっと新しい人間関

係が生まれると信じています。

ごんや兵十のような悲劇を生み出さないためにも、わたしたちはどうしたら、人とつながり、分かり合える人間関係をつくれる

のか、「ごんぎつね」の世界は、自分たちも同じであると気づき、言いたいことが言えない世界になってはいないか、見直すきっ

かけにしていきたいと思います。

【参考文献】

・西郷竹彦文芸・教育全集13

文芸学入門

・新国語教育事典

西郷竹彦監修

文芸教育研究協議会著

・文芸教育82号

文芸学理論にもとづく授業実践

「切実な文芸体験(共体験)をつくりだす読み」大平芳子(京都文芸研)

・西郷竹彦教科書指導ハンドブック

小学4年の国語

・光村版

教科書指導ハンドブック

新装小学校四学年

国語の授業

・西郷竹彦・教科書(光村版)指導ハンドブック

ものの見方・考え方を育てる

小学校四学年・国語の授業

・第五二回

文芸教育全国集会提案レポート

辻村禎夫(京都文芸研)

・第五三回

文芸教育全国集会提案レポート

小林良子(広島文芸研)

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五 授業をどのように組み立てるか

教授=学習過程

(全十三時間)

《だんどり》作者について……………………(授業時間外)

《とおしよみ》

《よみきかせ》「はじめの感想」………

(1)

《たしかめ読み》

第一章

一場面………………………(1)

二場面………………………(1)

三場面………………………(1)

第二章

四場面………………………(1)

五場面………………………(1)

第三章

六場面………………………(1)

第四章

七場面………………………(1)

第五章

八場面………………………(1)

第六章

九場面………………………(2)

《まとめ読み》……………………………(1)

《まとめ》「おわりの感想」

…………………(1)

授業の構想

ねらい

めあて・てがかり・板書

てだて・てじゅん

●題名が《仕掛》になって

ごんぎつね

新美南吉

・作者の紹介をする。

いることに気づかせる。

「ごんぎつね」を読み、はじめの感想を書こう

●読み聞かせを通して、は

題名

ごんぎつね

○「ごんぎつね」という題名から、ど

じめの感想をもたせる。

んなことを感じますか。

きつね

○「きつね」と比べるとどうですか。

・読み聞かせ

・はじめの感想を書かせる。

●説明をくわしく言いかえ

題名

ごんぎつね

○〈わたし〉とは誰でしょう。

させることで、ごんの

作者

新美南吉

・作者と話者を区別させる。

基本的人物像をとらえさ

話者

わたし

・人から聞いた話〈~そうです。〉の

せる。

いつ

おしろのある時代

文末表現に着目させる。

おとの様→村(お百しょう)まずしい

・お城のあった頃はどんな時代だった

○めどんなごんだろう

条件

説明する。

・ひとりぼっちの

小ぎつね

○どんなごんぎつねでしょう。

・しだのはえた森の中

あな

・ひとりぼっちの意味や、住んでいる

・少しはなれた山の中

場所などを条件的にとらえさせる。

・夜でも昼でも

○ごんはどんな気持ちでいたずらをし

ていると思いますか。

・名前がごん

・いたずらしそう

・わるがしこい

・ずるいきつね

・さびしい

・かまってほしい

・いたずらをして遊びたい

・人間にはつかまらない

ようにしたい ・

親×

・兄弟×

・友だち×

よみきかせ (1/13時間) 第1章 一場面(2/13時間)

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第1章 二場面(3/13時間) 第1章 一場面(2/13時間)

●情景描写には、視点人物で

あるごんの気持ちが表れて

いることに気づかせる。

●ごんに同化しながら読む

ことで、兵十に心を寄せて

いく、ごんの人物像をとら

えさせる。

●いたずらについて、ごんと

村人、それぞれの立場から

考えさせる

○めどんなごんだろう。

・ある秋

・二、三日雨が

ふり続いた

・外へも出られず

・あなの中

しゃがむ

・ほっとして

・空はからっと晴れて

・もずの声がキンキンひびいて

・雨のしずく

じっとのぞいてみました。

・人の体

・ぼろぼろの着物

・兵十の動き

・顔

・はりきりあみのふくろ

・太いうなぎ、大きなきすのはら

・兵十の動き

きょうみしんしんの、ごん

わくわくしている、ごん

ごん

いたずらばかり

ほり散らしたり

火をつけたり

むしり取ったり

夜でも昼でも

村人

○二、三日も穴の中にいるごんになって言って

みよう(同化)

・声喩のイメージ化

〈からっと〉〈キンキン〉〈ちょいと〉

〈ぽんぽん〉〈トボンと〉

・情景描写は、ごんの目と心に見えたもの、聞

こえたものであることを押さえる。

○ごんの目に映ったものを順番に見ていきな

がら、ごんになって、心に浮かんだことを言

ってみよう。(同化)

○だんだん近づいているこの見方から、ごんの

どんな気持ちが分かりますか。(

異化)

○今日の学習の感想を書きましょう。

○ごんのいたずらは、村人にとっては、どん

なものだったでしょう。

・村人の生活にかかわるいたずらが繰り返さ

れていることから考えさせる。

○ごんと村人はどんな関係だといえますか。

○なぜごんはこんなことをすると思いますか

○今日の学習の感想を書きましょう。

・おもしろい

・楽しい遊び感覚

・めいわく

・腹がたつ

・にくたらしい

話者

読者

やったあ、これで思いっ

きりいたずらできるぞ。

せまくて、つらい

体がムズムズ

あきる、ひま

目と心が近づいている

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第2章 四場面(5/13時間) 第1章 三場面(4/13時間)

◆村を興味深く観察し、何の

行事があるか知りたがって

いるごんの人物像をとらえ

させる。

◆墓地の情景描写が明るさ

(

生)

と暗さ(

死)

の二重のイ

メージをとらえられること

に気づかせる。

◆ごんの言動や声喩を手が

かりにして、いたずらを楽

しむ、ごんの人物像をとら

えさせる

○め

ごん

お歯黒

かみをすく

「村に何かあるんだな。」

「秋祭りかな。」

おおぜいの人

よそ行きの着物

表のかまど

大きななべ

「そう式だ。」

〈墓地〉

いいお天気

おしろの屋根がわらが

光って

ひがん花が

赤いきれのように

カーンカーン

白い着物のそう列

ふみ折られた花

兵十

いつもは元気のいい顔が

なんだかしおれていました。

○め

ごん

ぴょいと

ちょいと

いたずら

あみより下手へ

ぽんぽん投げこむ

トボンという音

じれったくなって

頭をびくの中へ

キュッといって首へ

まきついたうなぎ

草の上にのせておく

投げ捨てる

兵十

「うわあ、ぬすとぎつねめ。」

どなりたてました。

四場面の前半〈兵十のうちのだれが…〉まで

○ごんはどんなことを考えながら、村を歩い

ているでしょう。(同化)

・ごんが村の様子に詳しいことをとらえさせ

る。

・お歯黒について補足する。

四場面の後半〈お昼がすぎると…〉から

○墓地でごんが見たもの、聞いたものはなんで

しょうか。(同化)

・葬列

(

かみしも、鐘の音)

や、彼岸花(

色、由

来、俗名、生態)

などの補足をする。

○ごんから見ると、そう列はどのように見えま

すか。(同化)

○読者から見ると、どんな感じがしますか。

(異化)

○今日の学習の感想を書きましょう。

○どんなごんか分かるところに線を引きまし

ょう。

・《声喩》をイメージ化させる。

○〈草の上にのせてお〉くのと「投げ捨てる」

を《対比》しよう。

○どんなごんのことだと思いますか。(

○今日の学習の感想を書きましょう。

どんなごんだろう。

対比

話者

読者

どんなごんだろう。

うきうき 明るい

墓地の挿絵

さびしい・悲しい 読者

二重のイメージ

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第3章 六場面(7/13時間) 第2章 五場面(6/13時間)

◆ひとりぼっちになった兵十

に心をよせ、償いをしよう

とするごんの思いをとらえ

させる。

◆兵十といわし屋、兵十と

ごんはそれぞれ一方的な関

係であることに気づかせ

る。

◆ごんの独り言から、自分の

行動を後悔するごんの人

物像をとらえさせる。

○め

ごん

「おれと同じひとりぼっちの

兵十か。」

いわしを兵十の家に

投げ込む

うなぎのつぐない

まず一ついいこと

次の日

くりをどっさり

兵十

だれがいわしなんかを

おかげでひどい目に

いわし屋

次の日も、その次の日も

その次の日には松たけも

○め

ごん

そのばん…そう列を見た日

・うなぎが食べたいと

言ったにちがいない。

・それで、持ち出したんだ。

・うなぎを取ってきてしまった。

・だから、食べさせることが

できなかった。

・死んじゃったにちがいない。

・ああ、うなぎが食べたいと

思いながら死んだんだろう。

ちょっ、あんないたずら

しなけりゃよかった。

強く後かいするごん

兵十

○〈おれと同じひとりぼっちの兵十か。〉とい

う言葉から、ごんのどんな思いが分かります

か。(同化)

○ごんは何のつもりで、いわしを投げ込んだの

でしょう。(同化)

○なぜ兵十は「自分ではない」と言わなかった

のでしょう。。

・兵十がいくら弁明しても信じてもらえない

一方的な関係をとらえさせる。

○〈次の日も、その次の日も〉は、ごんのどん

な気持ちが繰り返されているでしょう。

(類比)

・兵十に親しみを覚え、心を寄せていく様子を

過程的にとらえさせる。

○今日の学習の感想を書きましょう。

○〈そのばん〉とは、いつの日の晩ですか。

○穴の中でごんがどんなことを考えたか、見

ていきましょう。

・ごんの思考過程をとらえさせる。

・〈~にちがいない〉の文末表現は強い確信を

もった推量であり、事実かどうかは分から

ないが、ごんがそう思っていることをおさ

える。

○こんなごんを見て、どう思いますか。(

異化)

○今日の学習の感想を書きましょう。

どんなごんだろう。

通じ合わない関係

どんなごんだろう。

通じ合わない関

一方的な関係 兵十へのつぐない

信じてもらえない

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第5章 八場面(9/13時間) 第4章 七場面(8/13時間)

◆ごんの兵十に寄せる思いの

強さをとらえさせる。

◆兵十と加助の住む世界が

分かり合えない、一方的な

関係であることをとらえさ

せる。

◆兵十と加助の会話を聞き、

自分の行為をどう思って

いるか気になってしかた

がない、ごんの思いをとら

えさせる。

○め

ごん

お念仏がすむまで

いどのそばにしゃがんで

二人の話を聞こうと思って

かげぼうしをふみふみ

「へえ、こいつはつまらないな。」

「おれが持っていってやるのに、

おれにはお礼を言わないで

神様にお礼を言うんじゃ、

おれは引き合わないなあ。」

兵十

「えっ。」

「そうかなあ。」

「うん。」

加助

「そりゃあ、神様のしわざ

村人

だぞ。」

「あれからずっと考えてい

たが、どうも人間じゃな

い、神様だ。」

○め

ごん

月のいいばん

ぶらぶら遊びに

チンチロリン

兵十

「とても不思議なこと」

「おっかあが死んでからは、

だれだか知らんが、おれ

にくりや松たけなんかを

毎日毎日くれるんだよ。」

「それが分からんのだよ。」

「うそと思うなら、あした

見に来いよ。」

加助

「へんなこともあるもんだ

なあ。」

○なせごんは、お念仏がすむまで、しゃがんで

いたのでしょう。

○二人の話を聞こうと思っていることは、ごん

のどんな様子から分かりますか。

・〈かげぼうしをふみふみ〉をイメージ化させ

る。

○神様のしわざと聞いて、ごんはどんな気持ち

になったと思いますか。(同化)

○加助はどうして人間ではなく、神様のしわざ

と考えたと思いますか。

・神様以外に考えつかないほど、人間関係が希

薄であることに気づかせる。

○こんなごんを見て、どう思いますか。(

異化)

○今日の学習の感想を書きましょう。

○どんなばんのことですか。

・中秋の名月であることをおさえることで、

ぶらぶら遊びに行ったごんの気持ちに同化

させる。

○兵十と加助の会話の後に、ごんの言葉を入

れてみましょう。(同化)

・ごんは自分のことが話題になっていると知

り、兵十が何と言うか気になっていること

をとらえさせる。

○こんなごんを見て、どう思いますか。(

異化)

○今日の学習の感想を書きましょう。

どんなごんだろう。

通じ合わない関係

気づいてほしい 助け合えない関係

どんなごんだろう。

気づいてほしい

通じ合わない関係

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第6章 九場面(11/13時間) 第6章 九場面(10/13時間)

◆殺されたごんだけでなく、

殺した側の兵十にとっても

悲劇であることをとらえさ

せる。

◆ごんを殺そうと銃を構え

た兵十の気持ちと、真実を

知って後悔する兵十の気

持ちをとらえさせる。

○め

兵十

ドンとうちました。

うちの中を見ると

土間にくりが固めて置いて

あるのが目につきました

「おや。」

びっくりして

「ごん、おまえだったのか、

いつもくりをくれたのは。」

火なわじゅうをばたりと

取り落としました

ごん

ぐったりと目をつぶったまま

うなづきました。

うれしい

悲しい

青いけむり

○め

兵十

ふと顔を上げると

きつねが入ってきたでは

ありませんか。

うなぎをぬすみやがった

あのごんぎつねめが

またいたずらを

「ようし」。

火なわじゅう

ごん

その明くる日も

神様と言われても、つぐない

を続けるごん

○〈ばたりと取り落とし〉たことから、兵十の

どんな様子が分かりますか。

○〈ごん、お前だったのか、いつもくりをくれ

たのは〉の後に続く、兵十の心の声を考えよ

う。(

同化)

○後悔する兵十を見て、どう思いますか。

・通じ合っててよかったという思いと、通じ合

ったけど死んでしまって悲しいという、相反

する読者の思いを出させる。

・ごんにとっても、兵十にとっても悲劇である

ことをとらえさせる。

○最後の〈青いけむりが…〉を読んで、どんな

ことを感じますか。

○今日の学習の感想を書きましょう。

○〈その明くる日も〉というのは、どんな日

ですか。

・ごんの償いの気持ちはずっと変わらず続い

ていることを押さえる。

○〈ふと顔を上げ〉たのは誰ですか。

・ここから兵十に視角が転換したことをとら

えさせる。

○兵十の気持ちが分かる言葉に線を引きまし

ょう。

・言葉の使い方で相手をどう思っているかが

分かることを押さえる。

○銃を構えた兵十に、読者であるみんなは

何と言いたいですか。

○兵十を見てどう思いますか

○今日の学習の感想を書きましょう。

どんなごんだろう。

どんな兵十だろう。

殺したいほど、にくい

全然気づいていない

どんなごんだろう。

どんな兵十だろう。

やっと兵十に気づいてもらった

うった後で,ごんだと気づいた

読者

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まとめ(13/13時間) まとめよみ(12/13時間)

◆おわりの感想を書かせるこ

とで、自分の生活と向き合

わせる。

◆ごんだけでなく兵十にとっ

ても悲劇であることに気づ

かせ、悲劇の本質をとらえ

させる。

◆自分たちの世界を典型化

し、同じようなことがなか

ったか、これからどんなふ

うにしていきたいか考えさ

せる。

○め

ばたりと取り落としました

・取り返しがつかない

・後かいしている兵十

・気づかなくてごめん

・信じてあげなくてごめん

・悪いやつと決めつけてごめん

・命をうばってごめん

かわいそう

ごん 殺された

悲げき

読者

まちがって

兵十

殺した

うってしまった

自分を責めて

苦しむ

悲げき

言いたいことが言えなかったから

傷つけ

傷つけられ

後かい

・意見を受け止める

・人を決めつけない

・相手がどんな状況か考える

・自分がされていやなことはしない

・これまでの自分を振り返って、おわりの感想

を書く

○「ごん、お前だったのか、いつもくりをく

れたのは」に続く兵十の心の声を考えよう。

(

同化)

○後悔する兵十をみてどう思いますか。。

・兵十にとっても悲劇だととらえさせたい。

○なぜ、こんな悲しいことになってしまった

のでしょうか。

○言いたいことが言えない時とは、どんな時

ですか。

○言いたいことが言える学級になるには、ど

んなことが大事だと思いますか。

なぜ、こんなに悲しいことになって

しまったのだろう。

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