2013年度数学ia演習第5 - lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp問題8. r2...
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2013年度数学 IA演習第 5回理 I 1 ~ 10組
6月 17日 清野和彦数理科学研究科棟 5階 524号室 (03-5465-7040)
[email protected]://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html
問題 1. 1変数関数 φ が等式 2φφ′′ = 3 (φ′)2 を満たすとする。(「関数として等しい」という意味です。)このとき、f(x, y) = x2φ(xy) と定義すると fyyfx = fyfyx が成り立つこと示せ。(これも「関数として等しい」という意味です。)
問題 2. R2 全体を定義域とする 2変数関数
f(x, y) =x2y2
x4 + y4ただし f(0, 0) = 0
は (0, 0) で不連続だが、(0, 0) でも 2回偏微分可能である(つまり fxx(0, 0), fxy(0, 0), fyx(0, 0),fyy(0, 0) がすべて存在する)ことを示せ。
問題 3. R2 全体を定義域とする 2変数関数
f(x, y) =x3y
x2 + y2ただし f(0, 0) = 0
は R2 全体で 2回偏微分可能だが、fxy(0, 0) ̸= fyx(0, 0) であり、二つの偏導関数 fxy と fyx はどちらも (0, 0) で不連続であることを示せ。
問題 4. 2変数の Cn 級関数 f の二つの偏導関数が fx = fy (「関数として等しい」という意味です)を満たすなら、n 以下の任意の自然数 m に対して
∂mf
∂xm=∂mf
∂ym
(やはり「関数として等しい」ということです)が成り立つことを証明せよ。
問題 5. x+ y > 0 を満たす (x, y) を定義域とする 2変数関数 f(x, y) を f(x, y) = x log(x+ y) で定義する。次を計算せよ。
(1)∂f
∂x− ∂f∂y
(2)∂2f
∂x2− ∂
2f
∂y2(3)
∂4f
∂x4− ∂
4f
∂y4(4)
∂8f
∂x8− ∂
8f
∂y8
問題 6. 微分可能な 2変数関数 f(x, y) に対し、3変数関数 g(s, t, u) を
g(s, t, u) = f(s2 + 2teu, t2 + 2seu
)で定義する。(
t2eu − se2u) ∂g∂s
(s, t, u) +(s2eu − te2u
) ∂g∂t
(s, t, u) +(e2u − st
) ∂g∂u
(s, t, u) = 0
(恒等的に 0ということ)が成り立つことを示せ。
問題 7. f(x, y) を R2 を定義域とする C2 級関数で fx(3, 1) = 1 と fxy(3, 1) = −1 を満たすものとし、g(s, t) = f(s+ t, s− t) によって g(s, t) を定義する。gs(2, 1)+ gt(2, 1) と gss(2, 1)− gtt(2, 1)の値を求めよ。
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問題 8. R2 全体を定義域とする微分可能な 2変数関数 f(x, y) に対し、R 全体を定義域とする微分可能な 1変数関数 φ(u) で f(x, y) = φ(2x+ 3y) となるものが存在するための必要十分条件は
3∂f
∂x(x, y) = 2
∂f
∂y(x, y)
が成り立つことであることを示せ。
問題 9. {(x, y) | y > 0} を定義域とする微分可能な 2変数関数 f(x, y) に対し、R 全体を定義域とする微分可能な 1変数関数 φ(u) で f(x, y) = φ(xy) となるものが存在するための必要十分条件は
x∂f
∂x(x, y) = y
∂f
∂y(x, y)
が成り立つことであることを示せ。
問題 10. R 全体を定義域とする 2つの関数 cosh t と sinh t を
cosh t =et + e−t
2sinh t =
et − e−t
2によって定義する。微分可能な 2変数関数 f(x, y) に対し、r(> 0) と t を変数とする関数 g(r, t)を g(r, t) = f(r cosh t, r sinh t) としたとき、
∂f
∂x(r cosh t, r sinh t) と
∂f
∂y(r cosh t, r sinh t)
を g(r, t) の偏導関数と r や t の関数を使って表せ。
問題 11. 全微分可能な 3変数関数 f(x, y, z) に
x = r sin θ cosφ y = r sin θ sinφ z = r cos θ (1)
を代入してできる 3変数関数を g(r, θ, φ) とする。三つの関数
∂f
∂x(x, y, z)
∂f
∂y(x, y, z)
∂f
∂z(x, y, z)
に (1)を代入してできる r, θ, φ の関数を g(r, θ, φ) の偏導関数や r, θ, φ の関数を使って表せ。
問題 12. C2 級の 2変数関数 f(x, y) に対し、r(> 0) と θ を変数とする関数 g(r, θ) をg(r, θ) = f(r cos θ, r sin θ) で定義する。
∂2f
∂x2(r cos θ, r sin θ) +
∂2f
∂y2(r cos θ, r sin θ)
を g の 1階や 2階の偏導関数と r や θ を使って表せ。
問題 13. 問題 10でさらに f が C2 級であるとき
∂2f
∂x2(r cosh t, r sinh t) − ∂
2f
∂y2(r cosh t, r sinh t)
を g の 1階や 2階の偏導関数と r や t を使って表せ。
問題 14. 問題 11でさらに f が C2 級であるとき、x, y, z を変数とする関数
∂2f
∂x2(x, y, z) +
∂2f
∂y2(x, y, z) +
∂2f
∂z2(x, y, z)
に (1)を代入してできる r, θ, φ の関数を、g の 1階や 2階の偏導関数や r, θ, φ の関数を使って表せ。
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2013年度数学 IA演習第 5回解答理 I 1 ~ 10組
6月 17日 清野和彦数理科学研究科棟 5階 524号室 (03-5465-7040)
[email protected]://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html
目 次
1 高次偏微分と偏微分の順序交換 2
1.1 高次偏微分、高階偏導関数の定義と記号 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21.1.1 問題 1の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41.1.2 問題 2の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51.1.3 問題 3の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6
1.2 Cn 級関数と偏微分の順序 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 81.2.1 問題 4の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 101.2.2 問題 5の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
2 多変数関数における合成関数の微分公式 12
2.1 合成関数の微分公式だけ特別扱いする理由 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 122.2 合成関数の微分公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
2.2.1 1変数関数に 1変数関数を入れた場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 142.2.2 1変数関数に 2変数関数を入れた場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 152.2.3 2変数関数に 1変数関数を 2つ入れた場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 172.2.4 2変数関数に 2変数関数を 2つ入れた場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 192.2.5 一般の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 212.2.6 問題 6の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 222.2.7 問題 7の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
3 行列を使った記法と変数変換 24
3.1 行列を使って公式をまとめると . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 243.2 変数変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25
3.2.1 問題 8の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 273.2.2 問題 9の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 283.2.3 問題 10の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 293.2.4 問題 11の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30
3.3 変数変換と高階偏導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 313.3.1 問題 12の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 313.3.2 問題 13の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 323.3.3 問題 14の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
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第 5 回解答 2
1 高次偏微分と偏微分の順序交換
1.1 高次偏微分、高階偏導関数の定義と記号
1変数関数 f(x) が定義域全体で微分可能なとき、導関数 f ′(x) という f(x) とは別の 1変数関数ができます。f ′(x) も関数なのですから、微分可能であるとかないとかを考えることができます。そして x = a で f ′(x) が微分可能なら f(x) は x = a で 2回微分可能であると言い1、さらに定義域全体で f(x) が 2回微分可能、つまり f ′(x) が微分可能なとき f ′(x) の導関数ができます。それのことを f ′′(x) と書き f(x) の 2階導関数と言います。すると、今度は f ′′(x) という関数が微分可能かどうかを考えることができ、それが可能なら 3回微分とか 3階導関数ができ、、、というように話が続くのはご存じの通りです。
このことは、多変数関数の偏微分や偏導関数にもそのまま拡張できます。つまり、
偏導関数があらゆる点で偏微分可能ならそれの偏導関数、
それもあらゆる点で偏微分可能ならそれの偏導関数、
それもあらゆる点で偏微分可能ならそれの偏導関数、、、
というように進むわけです。ところが、多変数関数の場合には 1変数関数にはなかった面倒が起こります。例えば、もっとも変数の数が少ない多変数関数である 2変数関数で考えても、偏導関数は「x による」ものと「y による」ものの二つがあります。そして、2階偏導関数はその二つについて「x による」ものと「y による」ものがあるので合計 4つあります。このように、n 階偏導関数は2変数関数の場合でも 2n 個あることになります。記号を決めましょう。
1変数関数のときは、f ′(x), f ′′(x), f ′′′(x), . . . , f (n)(x), . . .という書き方の他に、
df
dx(x)
d2f
dx2(x)
d3f
dx3(x) . . .
dnf
dxn(x) . . .
や、f(x) を下におろした
d
dxf(x)
d2
dx2f(x)
d3
dx3f(x) . . .
dn
dxnf(x)
という書き方がありました。はじめの方のシンプルな書き方は、1階偏導関数の fx(x, y), fy(x, y)という書き方に当たります。だから、例えば fx(x, y) という関数を y で偏微分した偏導関数のことは (fx)y(x, y) と書けばよいわけですが、括弧がなくても誤解は起こらないでしょうから fxy(x, y)と書けばよいでしょう。つまり、f(x, y) の 2階偏導関数は
fxx(x, y) fxy(x, y) fyx(x, y) fyy(x, y)
の 4つあることになります。添え字のうち左の方にある変数で先に偏微分することに注意してください。3階偏導関数は
fxxx fxxy fxyx fxyy fyxx fyxy fyyx fyyy (1)
の 8個です。(長くなるので fxxx(x, y) などの「(x, y)」を省いて書きました。)1f ′′(a) を考えられるためには f ′(x) は a の近くで存在すれば十分なので、f(x) が定義域全体で微分可能であるとい
うところまで仮定しなくてもよいのですが、話がややこしくなるので、ここでは定義域全体で微分可能な場合だけ考えることにします。
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第 5 回解答 3
大げさな方の書き方に当たる 1階偏導関数の書き方は
∂f
∂x(x, y) と
∂f
∂y(x, y) あるいは
∂
∂xf(x, y) と
∂
∂yf(x, y)
です。だから、例えば x による偏導関数を y で偏微分した 2階偏導関数は
∂
∂y
(∂f
∂x
)(x, y)
と書くことになるわけですが、これはいかにも大げさなので、1変数関数のときと同じように分数の掛け算のまねをしてもう少しシンプルにまとめましょう。
∂2f
∂y∂x(x, y) あるいは
∂2
∂y∂xf(x, y)
とするわけです。この書き方の場合、右側にある変数で先に偏微分することになります。つまり、
∂2f
∂y∂x(x, y) = fxy(x, y)
というように二つの記法で偏微分する変数の順番を逆に書くことになるので気をつけて下さい。な
お、同じ変数で続けて偏微分する場合には、1変数関数のときと同様「分母」にも「二乗」の書き方を使います。だから、f(x, y) の 4つの 2階偏導関数は
∂2f
∂x2(x, y)
∂2f
∂y∂x(x, y)
∂2f
∂x∂y(x, y)
∂2f
∂y2(x, y)
となります。3階偏導関数は
∂3f
∂x3∂3f
∂y∂x2∂3f
∂x∂y∂x
∂3f
∂y2∂x
∂3f
∂x2∂y
∂3f
∂y∂x∂y
∂3f
∂x∂y2∂3f
∂y3
です。シンプルな書き方の式たち (1)と同じ順番に書いておきましたので、対応関係を確認してみてください。また、(1)と同様に (x, y) は省略して書きました。記号が決まったので、具体的に考えてみましょう。
まず、素直な例として f(x, y) = x3y2 で計算してみます。
∂f
∂x(x, y) = 3x2y2
∂f
∂y(x, y) = 2x3y
なので、
∂2f
∂x2(x, y) = 6xy2
∂2f
∂y∂x(x, y) = 6x2y
∂2f
∂x∂y(x, y) = 6x2y
∂2f
∂y2(x, y) = 2x3
となります。すべての 2階偏導関数が存在し、さらに fxy(x, y) = fyx(x, y) が成り立っています。もう少し抽象的に定義された関数で高次偏微分の計算を練習してもらおうというのが問題 1です。
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第 5 回解答 4
1.1.1 問題 1の解答
示したい関係式に出てきている偏導関数たちをすべて計算しましょう。1変数関数の積の微分法と合成関数の微分法を使います。
∂f
∂x(x, y) = 2xφ(xy) + x2yφ′(xy)
∂f
∂y(x, y) = x3φ′(xy)
∂2f
∂x∂y(x, y) =
∂
∂x
∂f
∂y(x, y) = 3x2φ′(xy) + x3yφ′′(xy)
∂2f
∂y2(x, y) =
∂
∂y
∂f
∂y(x, y) = x4φ′′(xy)
となります。よって、
∂f
∂x(x, y)
∂2f
∂y2(x, y) = 2x5φ(xy)φ′′(xy) + x6yφ′(xy)φ′′(xy)
および、∂f
∂y(x, y)
∂2f
∂x∂y(x, y) = 3x5 (φ′(xy))2 + x6yφ′(xy)φ′′(xy)
です。今、2φφ′′ = 3(φ′)2 と仮定しているので、この二つは等しくなります。 □
以上は「素直」で「きれい」な例でした。次は「汚い」例です。
f(x, y) =
{1 y ∈ Q0 y ̸∈ Q
というのを考えてみましょう。この関数は y を固定すると、y が有理数でも無理数でも x の定数
関数なので、x での偏微分はあらゆる点で可能であり、
∂f
∂x(x, y) = 0 (常に値が 0の定数関数)
となります。よって、fx(x, y) を x で偏微分することも y で偏微分することも可能であり、
∂f
∂x2(x, y) =
∂f
∂y∂x(x, y) = 0
となります。一方、x を固定すると、f(x, y) は y の関数として「y が有理数なら 1、無理数なら 0」という関数ですので、y で偏微分することはあらゆる点で不可能です。よって、y による偏導関数
fy(x, y) は存在しません。ということは 2階偏導関数 fyx(x, y) も fyy(x, y) も当然存在しません。このように、いくつかの 2階偏導関数は存在するが他の 2階偏導関数は存在しないというやっかいな状況も起こるのです。こういうのをいちいち相手にするのはいかにも面倒ですので扱うのはや
めにして、次のような名前で呼ばれる性質を持つ関数をもっぱら扱うことにします。
すべての変数での偏導関数が存在するとき(1回)偏微分可能、
すべての 2階偏導関数が存在するとき 2回偏微分可能、
すべての 3階偏導関数が存在するとき 3回偏微分可能、
、、、
すべての n 階偏導関数が存在するとき n 回偏微分可能、
、、、
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第 5 回解答 5
さて、f(x, y) が n 回偏微分可能ならば、すべての n 階偏導関数が存在するのですから、その前に n− 1 階偏導関数がすべて存在しなければなりません。ということは、n 回偏微分可能な関数はn 以下のすべての k について k 回偏微分可能だということになります。しかし、前回見てもらっ
たように、偏微分というのは関数が連続でなくてもできてしまうことがあるので、1変数関数の場合と違って、n 回微分可能だからといって n− 1 階偏導関数がすべて連続であるとは限りません。また、x3y2 の例では fxy(x, y) = fyx(x, y) という「偏微分する変数の順序によらない」という性質が成り立っていましたが、これも 2回偏微分可能だからといって必ずしも成り立つわけではありません。そのような微妙な例を見てもらうのが問題 2と問題 3です。
1.1.2 問題 2の解答
まず、不連続であることを示しましょう。一般に 2変数関数 g(x, y) について「g(x, y) が (0, 0)で連続」とは (x, y) を (0, 0) に近付けるあらゆる近付け方で g(x, y) が g(0, 0) に収束することでしたので、「g(x, y) が (0, 0) で不連続」とは (x, y) を (0, 0) に近付ける近付け方で g(x, y) が g(0, 0)に収束しないものが一つでもいいから存在することです。そこで、この f(x, y) に関してそのような近付け方を一つ見つければよいということになります。
y = x という関係を保ったまま (x, y) → (0, 0) とすると、
limy=x→0
f(x, y) = limx→0
x2x2
x4 + x4= lim
x→0
12
=12
となります。一方、f(0, 0) = 0 と定義されています。この二つの値が一致しないので f(x, y) は(0, 0) で不連続です。次に (0, 0) における 2次偏微分の値を計算するために偏導関数を計算します。(x, y) ̸= (0, 0) では「式一本」なので商の微分の公式をつかって計算できて、
∂f
∂x(x, y) =
2xy2(y4 − x4)(x4 + y4)2
∂f
∂y(x, y) =
2x2y(x4 − y4)(x4 + y4)2
となります。また、(0, 0) では定義に従って計算して、
∂f
∂x(0, 0) = lim
x→0
f(x, 0) − f(0, 0)x
= limx→0
0 − 0x
= 0
∂f
∂y(0, 0) = lim
y→0
f(0, y) − f(0, 0)y
= limy→0
0 − 0y
= 0
となります。
最後に (0, 0) での 4つの 2次偏微分が存在するかどうか、定義に従って計算してみましょう。
∂2f
∂x2(0, 0) = lim
x→0
fx(x, 0) − fx(0, 0)x
= limx→0
0 − 0x
= 0
∂2f
∂y∂x(0, 0) = lim
y→0
fx(0, y) − fx(0, 0)y
= limy→0
0 − 0y
= 0
∂2f
∂x∂y(0, 0) = lim
x→0
fy(x, 0) − fy(0, 0)x
= limx→0
0 − 0x
= 0
∂2f
∂y2(0, 0) = lim
y→0
fy(0, y) − fy(0, 0)y
= limy→0
0 − 0y
= 0
となって、すべて存在します。 □
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第 5 回解答 6
1.1.3 問題 3の解答
まず、x による偏導関数 fx(x, y) を計算しましょう。(x, y) ̸= (0, 0) では商の微分の公式を利用して、
∂f
∂x(x, y) =
3x2y(x2 + y2) − x3y · 2x(x2 + y2)2
=x2y(x2 + 3y2)
(x2 + y2)2
となります。一方、(x, y) = (0, 0) では、偏微分の定義に従って計算すると、
∂f
∂x(0, 0) = lim
x→0
f(x, 0) − f(0, 0)x
= limx→0
0 − 0x
= 0
となります。
同様にして y による偏導関数を計算すると、(x, y) ̸= (0, 0) では
∂f
∂y(x, y) =
x3(x2 + y2) − x3y · 2y(x2 + y2)2
=x3(x2 − y2)(x2 + y2)2
であり、(x, y) = (0, 0) では
∂f
∂y(0, 0) = lim
y→0
f(0, y) − f(0, 0)y
= limy→0
0 − 0y
= 0
となります。
次に、すべての 2階偏導関数が存在することを確認しましょう。(x, y) ̸= (0, 0) では fx(x, y) もfy(x, y) も有理式(つまり多項式分の多項式)ですので、どちらも偏微分可能です。だから、(0, 0)で 4つの 2次偏微分がすべて存在すれば、この f(x, y) は 2回偏微分可能だということになります。が、その前にあとで fxy と fyx が (0, 0) において不連続であることを示すために必要なので、(x, y) ̸= (0, 0) でも fxy(x, y) と fyx(x, y) のみ具体的に計算しておきましょう。
∂2f
∂x∂y(x, y) =
(x2(x2 + 3y2) + 6x2y2)(x2 + y2) − 4x2y(x2 + 3y2)y(x2 + y2)3
=x2(x4 + 6x2y2 − 3y4)
(x2 + y2)3
および、
∂2f
∂y∂x(x, y) =
(5x4 − 3x2y2)(x2 + y2) − x3(x2 − y2)2x2(x2 + y2)3
=x2(x4 + 6x2y2 − 3y4)
(x2 + y2)3
となります。見てわかるとおりこの範囲(つまり (x, y) ̸= (0, 0))では
∂2f
∂y∂x(x, y) =
∂2f
∂x∂y(x, y)
が成り立っています。
さて、それでは fxx(0, 0), fxy(0, 0), fyx(0, 0), fyy(0, 0) を定義に従って計算しましょう。
∂2f
∂x2(0, 0) = lim
x→0
fx(x, 0) − fx(0, 0)x
= limx→0
0 − 0x
= 0
∂2f
∂y∂x(0, 0) = lim
y→0
fx(0, y) − fx(0, 0)y
= limy→0
0 − 0y
= 0
∂2f
∂x∂y(0, 0) = lim
x→0
fy(x, 0) − fy(0, 0)x
= limx→0
x3x2
(x2)2 − 0x
= limx→0
1 = 1
∂2f
∂y2(0, 0) = lim
y→0
fy(0, y) − fy(0, 0)y
= limy→0
0 − 0y
= 0
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第 5 回解答 7
となります。以上、すべて存在するので、f(x, y) は 2回偏微分可能です。また、この計算結果からわかるとおり、
∂2f
∂y∂x(0, 0) = 0 ̸= 1 = ∂
2f
∂x∂y(0, 0)
となっています。
最後に、fxy(x, y) と fyx(x, y) がどちらも (0, 0) で不連続なことを示しましょう。問題 2の解答の初めにも書いたように、「g(x, y) が (0, 0) で不連続」とは (x, y) を (0, 0) に近付ける近付け方でg(x, y) が g(0, 0) に収束しないものが一つでもいいから存在することです。そこで、fxy と fyx それぞれについてそのような近付け方を一つずつ見つければよいということになります。
fxy(x, y) において y = 0 を保ったまま x→ 0 とすると
limx→0
∂2f
∂y∂x(x, 0) = lim
x→0
x2 · x4
(x2)3= lim
x→01 = 1 ̸= 0 = ∂
2f
∂y∂x(0, 0)
ですので、fxy(x, y) は (0, 0) で不連続です。また、fyx(x, y) において x = 0 を保ったまま y → 0とすると
limy→0
∂2f
∂x∂y(0, y) = lim
y→00 = 0 ̸= 1 = ∂
2f
∂x∂y(0, 0)
ですので, fyx(x, y) も (0, 0) で不連続です。 □
問題 2の関数では fxy(0, 0) = fyx(0, 0) となっていますが、これはいわば偶然であって、(というか、関数が x と y について対称だからですが、)問題 3の関数のようにその二つが一致しない関数が存在します。一方、問題 3の f(x, y) の場合、fx(x, y) や fy(x, y) は (0, 0) においても連続、つまり f(x, y) は C1 級です。従って、微分可能でもあり f(x, y) そのものが連続関数でもあります。しかし、問題 2 の関数は f(x, y) が (0, 0) で連続でないのですから微分可能でなく、もちろんC1 級でもありません。このように、2回偏微分可能という条件は「弱すぎる」という印象が拭えません。これについては次の節で考えます。
なお、問題 2の 2階偏導関数も (0, 0) で不連続です。実際に計算してみると、(x, y) ̸= (0, 0) では∂2f
∂x2(x, y) =
6x8y2 − 24x4y6 + 2y10
(x4 + y4)3
∂2f
∂y∂x(x, y) =
−4x9y + 24x5y5 − 4xy9
(x4 + y4)3=
∂2f
∂x∂y(x, y)
∂2f
∂y2(x, y) =
2x10 − 24x6y4 + 6x2y8
(x4 + y4)3
となります。よって
limt→0
∂2f
∂x2(0, t) = lim
t→0
2t2
= ∞
limt→0
∂2f
∂y∂x(t, t) = lim
t→0
∂2f
∂x∂y(t, t) = lim
t→0
2t2
= ∞
limt→0
∂2f
∂y2(t, 0) = lim
t→0
2t2
= ∞
となって (x, y) の (0, 0) への近づけ方でそれぞれの (0, 0) での値に収束しないものがあるので、すべての 2階偏導関数が不連続です。また、問題 3の f(x, y) が C1 級であること、つまり fx(x, y) と fy(x, y) が((0, 0) でも)連続であることは、fx(x, y) や fy(x, y) に x = r cos θ, y = r sin θ を代入して r → 0 としてみることで示すことができます。是非自分で確認してみてください。
-
第 5 回解答 8
1.2 Cn 級関数と偏微分の順序
2回偏微分可能なのに微分可能でない関数があるということ一つだけでも、「2階偏導関数がすべて存在する」という条件だけでは何か大切なことが抜けているという印象を与えるに十分だと思
います。一方、前回学んだように、C1 級、つまり 1階偏導関数が存在するという条件だけでなくさらに 1階偏導関数が連続であるということまで課すと、もとの関数が微分可能になりました。そのことから推して、「n 階偏導関数がすべて存在する」という条件に「それらがすべて連続である」
ということまで付け加えておくとよいことが起こりそうな気がするでしょう。そこで、この条件
すべての n 階偏導関数が連続
を満たす関数に Cn 級関数という名前を付けることにします。
f が Cn 級関数ということは f のすべての n− 1 階偏導関数のすべての偏導関数が連続ということなので、特に f のすべての n− 1 階偏導関数は C1 級であり、ということは微分可能であり、ということは連続関数でもあります。つまり、Cn 級関数は Cn−1 級関数でもあるということです。
これを繰り返せば、
Cn 級関数は n 以下のすべての k について Ck 級関数であり、特に微分可能である。
ということが結論できます。
しかし、これだけでは n 回微分可能ということより Cn 級の方がありがたいというには物足り
ない感じでしょう。実は、Cn 級関数は偏微分の順序についてとても嬉しい性質を持っています。
話がややこしくなるのを防ぐために、まず C2 級でその「嬉しい性質」を紹介します。� �定理 1. f(x, y) が C2 級関数ならば
∂2f
∂y∂x(x, y) =
∂2f
∂x∂y(x, y) が成り立つ。� �
証明. 注目する点 (a, b) を任意に一つ選んで固定します。fxy(a, b) を定義で書くと、
fxy(a, b) = limk→0
fx(a, b+ k) − fx(a, b)k
= limk→0
limh→0
f(a+ h, b+ k) − f(a+ h, b) − f(a, b+ k) + f(a, b)hk
となり、fyx(a, b) も同様に、
limh→0
limk→0
f(a+ h, b+ k) − f(a+ h, b) − f(a, b+ k) + f(a, b)hk
となります。つまり、この二つは h と k を 0に近づける順番だけが違うわけです。この二つの式の分子(同じ式)から hk という項をひねり出すために「C1 級関数は微分可能」
の証明でやったように平均値の定理を利用します。まず、
φ(x) = f(x, b+ k) − f(x, b)
とおくと、φ(x) は微分可能な関数ですので、平均値の定理により、0 < θ < 1 を満たす実数 θ で
φ(a+ h) − φ(a) = φ′(a+ θh)h
を満たすものがあります。この式を φ ではなく f で書けば、
f(a+ h, b+ k) − f(a+ h, b) − f(a, b+ k) + f(a, b) = {fx(a+ θh, b+ k) − fx(a+ θh, b)}h (2)
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第 5 回解答 9
となります。さらに、この θ と h に対して
ψ(y) = fx(a+ θh, y)
とおいて平均値の定理をまた使うと、
ψ(b+ k) − ψ(b) = ψ′(b+ ωk)k
を満たす、0 < ω < 1 なる ω があります。これを f に戻して書くと、
fx(a+ θh, b+ k) − fx(a+ θh, b) = fxy(a+ θh, b+ ωk)
となります。この式の右辺を式 (2)の左辺の中括弧の中身と置き換えると
f(a+ h, b+ k) − f(a+ h, b) − f(a, b+ k) + f(a, b) = fxy(a+ θh, b+ ωk)hk
となります。よって、fxy(a, b) や fyx(a, b) の定義の lim の中身は、どちらも
fxy(a+ θh, b+ ωk)
です。
ここで f(x, y) が C2 級であることを使います。C2 級なので fxy(x, y) は連続です。よって、h, k の 0への近付き方によらずに fxy(a+ θh, b+ ωk) → fxy(a, b) が成り立っています。特に、hと k のどちらを先に 0にしても収束先は変わりません。これで fxy(a, b) = fyx(a, b) となることが証明できました。 □
注意. 証明をよく読むと分かるように、使ったのは「fxy(x, y)が (a, b)で連続である」ということだけです。証明の中で x と y の役割を取り替えれば、「fyx(x, y) が (a, b) で連続である」ということだけでもこの定理が成り立つことになります。だから、問題 3の関数のような fxy(a, b) ̸= fyx(a, b)となる関数は fxy(x, y) と fyx(x, y) の両方とも (a, b) で不連続でなければならないのです。
今証明した「C2 級ならば fxy = fyx」ということと、「Cn 級関数は Cn−1 級関数でもある」ということを合わせると、
f(x, y) が Cn 級関数なら、f(x, y) の n 階以下の偏導関数は x で何次偏微分し y で偏微分したかという数だけで決まり、偏微分した順序にはよらない。
ということが結論できます。例えば、f(x, y) が C4 級以上なら
fxxyy = fxyxy = fxyyx = fyxxy = fyxyx = fyyxx
が成り立ちます。例えば fxxyy = fxyxy がなぜ成り立つか考えてみましょう。f が C4 級なら C3
級でもあります。f が C3 級ということは fx と fy が C2 級ということです。よって
fxxy =∂2fx∂y∂x
=∂2fx∂x∂y
= fxyx
が成り立ちます。この両辺を y で偏微分して fxxyy = (fxxy)y = (fxyx)y = fxyxy となります。偏微分する順序まで考慮すると 2n 個あった n 次偏微分(2変数の場合)が、Cn 級だと事実上 n+1個(もちろん 2変数の場合です。x での偏微分が 0回から n 回までだから n+ 1 種類になります)に減ってくれるのです。
このように偏微分する順序によらずに出来上がる偏導関数が同じであるということを利用する
と、偏導関数を楽に計算できる場合があります。その例が問題 4と問題 5です。
-
第 5 回解答 10
1.2.1 問題 4の解答
数学的帰納法で示します。
1階偏導関数については∂f
∂x=∂f
∂yであることは問題の仮定なので成り立ちます。
∂m−1f
∂xm−1=∂m−1f
∂ym−1が成り立っていると仮定して
∂mf
∂xm=∂mf
∂ymが成り立つことを証明しましょ
う。今 f は Cn 級関数なので偏微分する変数の順序を交換しても得られる偏導関数は同じです。
よって、
∂mf
∂xm=
∂
∂x
∂m−1f
∂xm−1=
∂
∂x
∂m−1f
∂ym−1=
∂m−1
∂ym−1∂f
∂x=
∂m−1
∂ym−1∂f
∂y=∂mf
∂ym
となります。 □
1.2.2 問題 5の解答
(1) これはただ計算するだけです。
∂f
∂x(x, y) = log(x+ y) +
x
x+ y∂f
∂y(x, y) =
x
x+ y
なので、∂f
∂x(x, y) − ∂f
∂y(x, y) = log(x+ y)
となります。
(2) fx(x, y) の x による偏導関数と fy(x, y) の y による偏導関数を普通に計算して引き算をしてももちろんかまいませんが、ここでは f(x, y) が C2 級であることを利用した計算法を紹介しましょう。
C2 級であることから∂2f
∂y∂x(x, y) =
∂2f
∂x∂y(x, y)
が成り立ちます。よって、
∂2f
∂x2− ∂
2f
∂y2=∂2f
∂x2− ∂
2f
∂x∂y+
∂2f
∂y∂x− ∂
2f
∂y2=
∂
∂x
(∂f
∂x− ∂f∂y
)+
∂
∂y
(∂f
∂x− ∂f∂y
)となります。(うるさいので「(x, y)」は省きました。)この最後の式に (1)の結果を代入して、
∂2f
∂x2− ∂
2f
∂y2=
∂
∂xlog(x+ y) +
∂
∂ylog(x+ y) =
1x+ y
+1
x+ y=
2x+ y
となります。
(3) これも普通に fxxxx(x, y) と fyyyy(x, y) を計算して差をとっても結構ですが、f(x, y) が C4
級であることを利用した計算をしてみましょう。
C4 級であることから、特に
∂4f
∂y2∂x2(x, y) =
∂4f
∂x2∂y2(x, y)
-
第 5 回解答 11
が成り立つので、
∂4f
∂x4− ∂
4f
∂y4=∂4f
∂x4− ∂
4f
∂x2∂y2+
∂4f
∂y2∂x2− ∂
4f
∂y4=
∂2
∂x2
(∂2f
∂x2− ∂
2f
∂y2
)+
∂2
∂y2
(∂2f
∂x2− ∂
2f
∂y2
)となります。(うるさいので「(x, y)」は省きました。)最後の式に (2)の結果を代入すれば、
∂4f
∂x4− ∂
4f
∂y4=
∂2
∂x22
x+ y+
∂2
∂y22
x+ y=
∂
∂x
(− 2
(x+ y)2
)+
∂
∂y
(− 2
(x+ y)2
)=
4(x+ y)3
+4
(x+ y)3=
8(x+ y)3
となります。
(4) これも普通に fxxxxxxxx(x, y) と fyyyyyyyy(x, y) を計算して差をとっても結構ですが、f(x, y)が C8 級であることを利用した計算をしてみましょう。
C8 級であることから、特に
∂8f
∂y4∂x4(x, y) =
∂8f
∂x4∂y4(x, y)
が成り立つので、
∂8f
∂x8− ∂
8f
∂y8=∂8f
∂x8− ∂
8f
∂x4∂y4+
∂8f
∂y4∂x4− ∂
8f
∂y8=
∂4
∂x4
(∂4f
∂x4− ∂
4f
∂y4
)+
∂4
∂y4
(∂4f
∂x4− ∂
4f
∂y4
)となります。(うるさいので「(x, y)」は省きました。)最後の式に (3)の結果を代入すれば、
∂8f
∂x8− ∂
8f
∂y8=
∂4
∂x48
(x+ y)3+
∂4
∂y48
(x+ y)3=
∂3
∂x3
(− 24
(x+ y)4
)+
∂3
∂y3
(− 24
(x+ y)4
)=
∂2
∂x296
(x+ y)5+
∂2
∂y296
(x+ y)5=
∂
∂x
(− 480
(x+ y)6
)+
∂
∂y
(− 480
(x+ y)6
)=
2880(x+ y)7
+2880
(x+ y)7=
5760(x+ y)7
となります。 □
x で偏微分する操作∂
∂xと y で偏微分する操作
∂
∂yをまるでただの数(というか文字)のよう
に扱って、
a8 − b8 = (a4 + b4)(a2 + b2)(a+ b)(a− b)
という因数分解のように、
∂8f
∂x8− ∂
8f
∂y8=(∂4
∂x4+
∂4
∂y4
)(∂2
∂x2+
∂2
∂y2
)(∂
∂x+
∂
∂y
)(∂
∂x− ∂∂y
)f
と分解して右の方から順番に計算していったわけです。このように Cn 級だと、つまり偏微分の
順序を自由に交換できると、まるで文字式のような感覚で高次偏微分を計算することができるの
です。
-
第 5 回解答 12
2 多変数関数における合成関数の微分公式
2.1 合成関数の微分公式だけ特別扱いする理由
高校で 1変数関数の微分を勉強したとき、まず微分や導関数を定義し、次に多項式や三角関数などのよく出会う関数の導関数を具体的に求め、最後に積、商、合成関数、逆関数の微分法を調べ
ました。これらの「公式」が手に入ったことによって、具体的に微分できる関数がいくつかあると
き、それらを足し引きしてできる関数はもちろん、掛けたり割ったり合成したり逆関数を作ったり
しても微分できることになり、「式一本」で書ける関数は何でも微分できるようになったわけです。
このように、積や合成関数の微分公式があると、微分できる関数の世界が一気に広がります。
ところが、多変数関数の場合には事情が違ってきます。偏微分は注目した変数以外は定数と見な
すことによる 1変数関数としての微分ですし、基本的な多変数関数(つまり、式で書ける多変数関数)は式で書ける 1変数関数をいくつかそれぞれ別の変数を持つ関数として用意し、それらを足したり引いたり掛けたり割ったり合成したりしてできるものなので、多変数関数が具体的に与えられ
たら、それを偏微分することは 1変数関数の微分の知識の範囲内で完全にできてしまうからです。このような具体的な偏微分の計算は既にたくさん経験してもらいました。例えば、f(x, y) =
xy sinx cos y とすると、x で偏微分するときは y cos y は定数扱い、y で偏微分するときは x sinxは定数扱いなので、
∂f
∂x(x, y) = y cos y
d
dx(x sinx) = y cos y(sinx+ x cosx)
∂f
∂y(x, y) = x sinx
d
dy(y cos y) = x sinx(cos y − y sin y)
というように 1変数関数の積の微分法で計算できてしまいます。商の微分も全く同様です。また、例えば sin z に z = x2y3 を合成した関数 g(x, y) = sinx2y3 を考えても、やはり x で偏微分するときは y3 は定数扱い(つまり x2 の係数)、y で偏微分するときは x2 は定数扱い(つまり y3 の
係数)なので、
∂g
∂x(x, y) = 2xy3 cosx2y3
∂g
∂y(x, y) = 3x2y2 cosx2y3
と計算できます。なお、多変数関数には逆関数は存在しないので2、「多変数関数そのものについて
の逆関数の微分法」というものは存在しません。(多変数で逆関数に当たる概念は逆写像です。次
回扱う変数変換が逆写像を持つ写像に当たります。)
多変数関数の微分は偏微分よりむしろ 1次近似(微分可能ということ)ではないかと思うかも知れませんが、1次近似式の二つの係数は偏微分の値なのですから、結局、偏微分さえ計算できればよいので、やはり 1変数関数の微分の範囲内に収まってしまいます。しかし、上の計算は 1変数関数のときとはちょっとだけ違っている面があります。というのは、1変数関数のときには、基本的な関数の導関数を求めるのとは別に積、商、合成関数の微分法を「公
式」として用意したのでした。だから、例えば大学に来て初めて出会うことになる逆三角関数のよ
うなものでも、高校のときに用意しておいた公式だけで微分を計算することができるわけです。と
ころが、上に例を書いたような偏微分の計算は、偏微分しようとする関数の中に現れている 1変数関数が導関数を既に知っている関数だったからできたように見えます。つまり、多変数関数の偏微
2z = f(x, y)の逆関数とは、(x, y) = (g1(z), g2(z))であって f(g1(z), g2(z)) = z と g1(f(x, y)) = x, g2(f(x, y)) = yを満たすものということになりますが、(x, y) = (g1(z), g2(z)) というのは z をパラメタとするパラメタ曲線ですので、f(x, y) の定義域(平面内で広がりを持つ部分)全体を値域とすることはできません。よって、多変数関数には逆関数は存在しません。
-
第 5 回解答 13
分そのものに対する「公式」にはなっていないわけです。具体的な関数の姿を使わない理論として
偏微分の間の関係を考えるには、いわば抽象的な「公式」を求めておかなければなりません。
とは言え、積や商の微分公式は実はほとんど 1変数のときのままです。実際、例えば f(x, y) とg(x, y) の y に定数 b を代入してできる x の 1変数関数を φ(x) = f(x, b), ψ(x) = g(x, b) と書くことにすれば、f(x, y) と g(x, y) の積の (a, b) における x による偏微分は、偏微分の定義から
∂(fg)∂x
(a, b) =d(φψ)dx
(a) =dφ
dx(x)ψ(a) + φ(a)
dψ
dx(a) =
∂f
∂x(a, b)g(a, b) + f(a, b)
∂g
∂x(a, b)
となります。(二つ目の等号で 1変数関数の積の微分法を使っています。)x での偏微分を下付添え字で fx, gx などと表し、「どこでの偏微分か」を表す (a, b) を省略して書けば、1変数関数の積の微分法の式にもっと似た形の
(fg)x = fxg + fgx
で表すことができます。商の微分も全く同様で、 1f(x,y) の (a, b) における x による偏微分は、上の計算と同じ記号を流用すると、
∂
∂x
(1f
)(a, b) =
d
dx
(1φ
)(a) = − 1
(φ(a))2dφ
dx(a) = − 1
(f(a, b))2∂f
∂x(a, b)
となります。(二つ目の等号で 1変数関数の商の微分法を使っています。)つまり、(1f
)x
= −fxf2
というように 1変数関数のときと全く同じ式になっているわけです。というわけで、残ったのは合成関数の微分公式だけです。以下、公式の形と使い方の実例を説明
して行きます。ただし、証明は講義にまかせることにして省略させていただきます。
2.2 合成関数の微分公式
合成関数の微分公式を証明抜きで紹介します。多変数の合成関数には多くの変数と多くの関数が
出てくるので、ここでこのプリントでの記号の使い方も合わせて決めてしまいましょう。読んでい
て記号で混乱したらここに戻ってみて下さい。
1変数関数が二つ、例えば f(x), g(x) があったとき、もしも g(x) の値域が f(x) の定義域に含まれているなら、g(x) を f(x) の x のところに入れることができます。ただ、このように書くと xが二重の意味を持ってしまう(g の独立変数としての意味と、g の従属変数としての意味)ので、
紛れがないように文字を決めましょう。普通「y = g(x) を f(y) に代入する」というように記号を決めると思いますが、この後 2変数関数を考えるときに文字が足りなくなってしまうので、1変数のときからギリシャ文字を使わせてください。
あとで 2変数関数を考えるときに変数は 2つ一組で必要になります。よく使う組は (x, y), (u, v),(s, t) などでしょう。しかし、u と v は対応するギリシャ文字がどちらも同じ υ(ウプシロン)で少々使い勝手が悪いので、ここでは (s, t) を使うことにしましょう。(s と t に対応するギリシャ文字はそれぞれ σ と τ です。)変数が一つしかないときは普通 s より t を使うと思いますが、2変数になったときの混乱を避けるために、1変数のときは s を使うことにします。x に対応するギリシャ文字は ξ、y に対応するギリシャ文字は η なので、x に代入される関数を ξ(s) や ξ(s, t)、yに代入される関数を η(s) や η(s, t) としましょう。ξ や η という文字になじみの薄い人も多いと思いますが、是非ここで慣れてください。
-
第 5 回解答 14
2.2.1 1変数関数に 1変数関数を入れた場合
1変数関数 f(x) に 1変数関数 ξ(s) を合成するということは、イメージ的には図 1のようなものを考えることです。これは「s に f(ξ(s)) を対応させる」という歴とした関数ですので、関数らし� �
ξ fs ξ(s) f(ξ(s))
図 1: 「1変数関数を二つ合成する」ということのイメージ� �い記号を決めておくのがよいでしょう。f(ξ(s)) でよいのでは?と思うかも知れませんが、f(ξ(s))という記号には「関数そのものを表す部分」がないのが問題です。関数 f(x) は (x) を省いて f と書くことができる、つまり f が関数そのものを表しているように、f(x) に x = ξ(s) を代入してできる関数にも、このようにして定義された関数だということが一目で分かるような「関数そのも
のを表す記号」を決めたいわけです。f(ξ(s)) がダメな理由は大きな括弧があるからなので、それを省いてやったらどうか、と思うかも知れませんが、そうすると fξ(s) となって積と紛らわしくなってしまいます。そこで、f と ξ の間に「積ではなくて合成だよ」ということを表す印を入れて
やればよいのではないかと思えてくるでしょう。積は「·」で表すことが多いので、もう少し偉そうに「◦」にするのが一般的です。つまり、
関数 f ◦ ξ をf ◦ ξ(s) = f(ξ(s))
で定義する
というわけです (図 2)。� �
ξ fs f(ξ(s))
f ◦ ξ
図 2: 出力口と入力口を貼り付けて全体を大きな箱に入れる� �f の独立変数と ξ の独立変数を別な文字で表したように、物理などの具体的な状況を考えると
きには f の独立変数と ξ の独立変数は別な意味を持つ量を考えることが多いと思います。このよ
うな場合には、定義域(を含む R)や値域(を含む R)をはっきり書き表す「写像の記法」を使うと状況がよりはっきりするでしょう。
f ◦ ξ : R ξ−−−−→ R f−−−−−→ R
-
第 5 回解答 15
となります。この記法やイメージ図 1と f ◦ ξ や f(ξ(s)) という記号では f と ξ の順序が逆になっていることに注意してください。
この場合の合成関数の微分公式は高校のときに学んだとおり、
d(f ◦ ξ)ds
(s) =df
dx(ξ(s))
dξ
ds(s) すなわち (f ◦ ξ)′(s) = f ′(ξ(s))ξ′(s)
です。変数 s を省いて「関数そのもの」の等式として書くと
d(f ◦ ξ)ds
=(df
dx◦ ξ)· dξds
すなわち (f ◦ ξ)′ = (f ′ ◦ ξ) · ξ′
となります3。
注意. 上の書き表し方はかなり丁寧というかくどい書き方です。多くの場合 x = ξ(s) を代入して
d(f ◦ ξ)ds
(s) =df
dx(x)
dξ
ds(s) あるいは (f ◦ ξ)′(s) = f ′(x)ξ′(s)
と書くでしょう。さらに、s と x の対応は分かり切っているので、それを省いて
d(f ◦ ξ)ds
=df
dx
dξ
dsあるいは (f ◦ ξ)′ = f ′ · ξ′
と書くことの方が多いかも知れません。右側の書き方では、f は x の関数なのだから f ′ は x で
の微分、ξ は s の関数なのだから ξ′ は s による微分しかあり得ないので誤解の余地はないわけで
す。そのことを逆手に取ると、左側の書き方ではどの変数による微分かをはっきり書いているのだ
から、f ◦ ξ のことを f と書いてしまっても誤解は起こりえないとも言えます。つまり f そのものは x でしか微分できないのだから、 dfds と書くことによって f と ξ の合成関数を微分しているこ
とまで表せていると考えるわけです。さらに 関数 ξ は x に代入されるわけですから、ξ と書かず
に x と書いてしまってもこれまた誤解の余地はないはずです。というわけで、
df
ds=df
dx
dx
ds
という、物理の本などでよく見かける書き方が得られるわけです。
この書き方は、df や dx をただの数だと思って普通に分数の掛け算をすると両辺が一致するの
で印象に残りやすいのですが、これから見るように、多変数関数の合成関数の微分公式ではそうは
なっていないので、かえって間違いの元になる可能性もあります。気を付けましょう。
2.2.2 1変数関数に 2変数関数を入れた場合
次に 2変数関数を合成することを考えたいのですが、「入れ物」の方の関数 f と中に入る方の関数 ξ(と η)の両方を一遍に 2変数関数にすると混乱しやすいと思うので、徐々に変数の数を増やして行きましょう。
まず f(x) に x = ξ(s, t) を合成することを考えます。この場合は 1変数関数に 1変数関数を合成する場合と大差ありません。実際、記号は
f ◦ ξ(s, t) = f(ξ(s, t))
と全く同じで済むし、イメージ図も図 3を真ん中でくっつけて図 4になるだけで、1変数関数に 1変数関数を合成するときとの違いは、一番左側の「独立変数の入口」が二つあるということだけ
です。
-
第 5 回解答 16
� �ξ f
s
ξ(s, t) f(ξ(s, t))t
図 3: 2変数関数の出力を 1変数関数に入力する� �� �
ξ f
s
f(ξ(s, t))
f ◦ ξ
t
図 4: 出力口と入力口を貼り付けて全体を大きな箱に入れる� �写像の記法では、二つの変数 s, t を平面上の点の座標のように考えて
f ◦ ξ : R2 ξ−−−−→ R f−−−−−→ R
と書きます。
この場合の合成関数の微分公式は次のようになります。
∂(f ◦ ξ)∂s
(s, t) =df
dx(ξ(s, t))
∂ξ
∂s(s, t)
∂(f ◦ ξ)∂t
(s, t) =df
dx(ξ(s, t))
∂ξ
∂t(s, t)
すなわち
(f ◦ ξ)s(s, t) = f ′(ξ(s, t))ξs(s, t) (f ◦ ξ)t(s, t) = f ′(ξ(s, t))ξt(s, t)
です。関数そのものの等式として書くなら、
∂(f ◦ ξ)∂s
=(df
dx◦ ξ)· ∂ξ∂s
∂(f ◦ ξ)∂t
=(df
dx◦ ξ)· ∂ξ∂t
すなわち
(f ◦ ξ)s = (f ′ ◦ ξ) · ξs (f ◦ ξ)t = (f ′ ◦ ξ) · ξt
となります。f は 1変数関数なので、その微分は dfdx や f′ など 1変数関数の微分の記号を使って
います。
合成関数が 2変数なので s による偏微分と t による偏微分の二つあって 1変数関数同士のときより複雑に見えるかも知れませんが、よく見ると事実上 1変数関数同士のときの公式と同じであることがわかるでしょう。その理由は偏微分の定義を思い出してみればわかります。例えば、f ◦ ξ(s, t)
3· は掛け算です。(s) がある場合のように · なしでももちろんよいのですが、わかりにくいようなので (s) なしの方では付けることにしました。
-
第 5 回解答 17
の (s0, t0) における s による偏微分とは、t のところに定数 t0 を代入してできる s だけの 1変数関数 f ◦ ξ(s, t0) の s0 における微分です。一方、f ◦ ξ(s, t0) とは ξ(s, t) に t = t0 を代入してできる s だけの 1変数関数 ξ(s, t0) を 1変数関数 f(x) に合成したものです。だから、f ◦ ξ(s, t) の(s0, t0) における s による偏微分とは、1変数関数 f(x) に 1変数関数 ξ(s, t0) を合成してできる数の s0 における微分にほかならず、よって、得られる式も(1変数関数の微分と偏微分の記号の違いはあるものの)同じ式になるというわけです。このことは、
合成関数の微分公式においては、中に入る方の関数が 1変数だろうと多変数だろうと
違いはない
ということを意味しています。
2.2.3 2変数関数に 1変数関数を 2つ入れた場合
f が 2変数関数 f(x, y) で、これに二つの 1変数関数 ξ(s), η(s) を合成する場合を考えましょう。この場合は今までとは違って少し複雑になります。イメージ図 5を見て下さい。� �
s コピー機 s
s
ξ
η η(s)
ξ(s)
f f(ξ(s), η(s))
図 5: 2変数関数に 1変数関数を二つ合成するには「コピー機」が必要� �注意. ここで、中に入れる関数を ξ(s), η(t) というように別な独立変数を持つ 1変数関数にしてはいけません。「関数を合成する」ということの意味は、
元の独立変数(たち)を別な独立変数(たち)の従属変数と見なす
ということなので、f(ξ(s), η(t)) という関数は
元の独立変数 x, y を新しい独立変数 s, t の従属変数と見なす
ということになってしまいます。つまり、この場合 ξ(s) という関数は s の 1変数関数ではなく、sと t を変数に持つ 2変数関数だがたまたま t には依存していない、と考えなくてはならないということになるわけです。だから、f(ξ(s), η(t)) という合成関数はこのあとで紹介する「2変数関数に 2変数関数を合成する」という場合に入ることになります。
さて、これまでと同じようにイメージ図 5の出力口と入力口を貼り付けて一つの関数を作ってみましょう。すると、図 6のようになります。 これまでは大きな箱(つまり新しい関数)の中には古い関数たちが入っているだけでしたが、この場合は「コピー機」まで中に入ってしまっていると
ころが違います。これまでの 2つの場合には、新しい独立変数 s(や t)の従属変数は x ただ一つ
-
第 5 回解答 18
� �s コピー機 ξ
η
f f(ξ(s), η(s))
図 6: 大きな箱の中にコピー機まで入ってしまっているところが今までと違う� �だったのに、この場合には s の従属変数が x と y の二つあるところが大きな違いを生むのです。
そのことが原因で ◦ を使った合成関数の「名付け」もうまくいきません。それを考えるには関数(すなわち行き先が R)をはみ出して、ξ と η を合わせて一つの写像(今の場合は行き先が R2)と見なさなければならないのです。
しかし、「関数をはみ出す見方」は講義では扱われなかったので、それについてはこのプリント
でも(あらわには)説明しないことにします。
さて、f ◦ ξ のような記号がないので、
φ(s) = f(ξ(s), η(s))
と記号を変えることにします。(φ は f に当たるギリシャ文字です4。)すると、
dφ
ds(s) =
∂f
∂x(ξ(s), η(s))
dξ
ds(s) +
∂f
∂y(ξ(s), η(s))
dη
ds(s)
すなわち、
φ′(s) = fx(ξ(s), η(s))ξ′(s) + fy(ξ(s), η(s))η′(s)
となります。ξ と η は 1変数関数なので dξds や ξ′ という 1変数関数の微分の記号を使うことは前
の場合と同じです。
既に指摘したように、関数の範疇に留まるならこの場合は ◦ を使った合成関数の書き方ができないので、ここから (s) を取り除いて関数そのものの間の等式を作ることはできませんが、x =ξ(s), y = η(s) はわかっているものとしてしてしまえば、
dφ
ds=∂f
∂x
dξ
ds+∂f
∂y
dη
dsあるいは φ′ = fx · ξ′ + fy · η′
と書くことができます。
合成関数の中にコピー機が入っていること、つまり x も y も s に依存していることから、s で
微分するだけなのに x による偏微分の項と y に偏微分の項の両方が出てきてしまうのです。
f が x だけの関数だった場合の 1変数関数の合成関数の微分公式と f が y だけの関数だった場合の 1変数関数の合成関数の微分公式の両方が足されてしまう
4正確には physics や photograph の ‘ph’ に当たるのだと思います。
-
第 5 回解答 19
と見れば自然に見えてくるのではないでしょうか。
注意. このタイプの合成は力学でよく出会います。平面の各点 (x, y) にある「量」f(x, y) が与えられている一方、その平面上を時刻 t に (ξ(t), η(t)) という場所にいるように運動している粒子があったとき、時刻 t に粒子の居場所に対応する「量」を対応させることで関数 φ(t) ができるわけです。例によって物理では φ という新しい文字を避けて f と書き、ξ と η のことも x, y と書い
てしまうので、df
dt=∂f
∂x
dx
dt+∂f
∂y
dy
dt
となります。これでも誤解の余地はないというわけです。さらに、時刻による微分は上付きの点で
表すことが多いので、
ḟ =∂f
∂xẋ+
∂f
∂yẏ
と書いたりします。
2.2.4 2変数関数に 2変数関数を 2つ入れた場合
「1変数関数に 1変数関数を入れた場合」と「1変数関数に 2変数関数を入れた場合」で実質的な違いがなかったのと同じ理由で、「2変数関数に 1変数関数を 2つ入れた場合」と今から述べる「2変数関数に 2変数関数を 2つ入れた場合」にも実質的な違いはありません。新しい変数が一つ増えたのでもう一つコピー機が必要になり、合成関数の中にはコピー機が 2台入っていることになりますが、例えば s という変数で偏微分する場合には、s の通るコピー機はそのうちの 1台だけなので「2変数関数に 1変数関数を 2つ入れた場合」と同じになるわけです。イメージ図は図 7と図8です。� �
s コピー機 s
s
ξ
η
η(s, t)
ξ(s, t)
f f(ξ(s, t), η(s, t))
t コピー機 t
t
図 7: コピー機が 2台必要� �「2変数関数に 1変数関数を 2つ入れた場合」と同様、写像を使わず関数の範疇だけで考えるなら、f と ξ と η と ◦ という記号で合成関数を表すことはできないので、φ を使って
φ(s, t) = f(ξ(s, t), η(s, t))
-
第 5 回解答 20
� �s コピー機
ξ
η
f f(ξ(s, t), η(s, t))
t コピー機
図 8: コピー機が 2台入っているが、それぞれの変数の通るコピー機は 1台だけ� �と表すことにします。すると、
∂φ
∂s(s, t) =
∂f
∂x(ξ(s, t), η(s, t))
∂ξ
∂s(s, t) +
∂f
∂y(ξ(s, t), η(s, t))
∂η
∂s(s, t)
∂φ
∂t(s, t) =
∂f
∂x(ξ(s, t), η(s, t))
∂ξ
∂t(s, t) +
∂f
∂y(ξ(s, t), η(s, t))
∂η
∂t(s, t)
すなわち、
φs(s, t) = fx(ξ(s, t), η(s, t))ξs(s, t) + fy(ξ(s, t), η(s, t))ηs(s, t)
φt(s, t) = fx(ξ(s, t), η(s, t))ξt(s, t) + fy(ξ(s, t), η(s, t))ηt(s, t)
となります。x = ξ(s), y = η(s) はわかっているものとしてして省略した書き方をすると、
∂φ
∂s=∂f
∂x
∂ξ
∂s+∂f
∂y
∂η
∂s
∂φ
∂t=∂f
∂x
∂ξ
∂t+∂f
∂y
∂η
∂t
あるいは
φs = fx · ξs + fy · ηsφt = fx · ξt + fy · ηt
となります。
ゴチャゴチャしてわかりにくく見えるかも知れません。しかし、考えてみれば偏微分というのは
微分しない変数のことは定数と考えるのですから、s で偏微分する場合 t は定数扱いなので公式の
中に t による偏微分は出てくるはずがありません。一方、「2変数関数に 1変数関数を 2つ入れる
-
第 5 回解答 21
場合」と同様、s という変数は x と y の両方を通じて f にかかわっているのですから、s での偏
微分には x による偏微分と y による偏微分の両方が入っていなければおかしいということになり
ます。
注意. このような f と s, t との関わり方を考えると、次のような方法で公式を書き下せば間違い
にくいのではないかと思います。
s で偏微分する場合で考えてみましょう。
まず一つ目の方法として、
1変数関数の合成関数の微分公式を繰り返す
と考えてみます。まず f が x だけの関数であるかのように考えて
∂f
∂x
∂ξ
∂s
と 1変数関数の微分公式で d を ∂ に変えたものを書きます。次に、f を y だけの関数であるかのように考えて、このとなりに
∂f
∂y
∂η
∂s
を書きます。そして最後に真ん中に + を書いて
∂f
∂x
∂ξ
∂s+∂f
∂y
∂η
∂s
とするわけです。
もう一つの方法として、
f のすべての変数が s に依存しているのだから、f の偏微分はすべて出てくる
という方に着目してみましょう。この場合にはまず f の偏微分を
∂f
∂x
∂f
∂y
と間をあけて並べて書いてしまいます。そして、x による偏微分には x に入っている関数 ξ を偏
微分したい変数 s で偏微分したものを掛け、y による偏微分には y に入っている関数 η を s で偏
微分したものを掛けて足し合わせるわけです。
∂f
∂x
∂ξ
∂s+∂f
∂y
∂η
∂s
となります。
2.2.5 一般の場合
このプリントでは原則として 2変数の場合しか扱いませんが、ここまでの 4つの場合でどのように公式が変化したかをよく見てもらえれば、f が n 変数関数で、そこに n 個の m 変数関数を入
れた場合の微分公式も正しく予想できるだろうと思うので、ここに答を書いておきましょう。
f(x1, x2, . . . , xn) に xi = ξi(s1, s2, . . . , sm) を入れてできる s1, s2, . . . , sm の関数を φ とします。
φ(s1, s2, . . . , sm) = f(ξ1(s1, s2, . . . , sm), ξ2(s1, s2, . . . , sm), . . . , ξn(s1, . . . , sm))
-
第 5 回解答 22
です。これの si での偏微分は次のようになります。ただし、長くなるので「どこでの微分か」を
省いた書き方で書きます。
∂φ
∂si=
∂f
∂x1
∂ξ1∂si
+∂f
∂x2
∂ξ2∂si
+ · · · + ∂f∂xn
∂ξn∂sn
=n∑
j=1
∂f
∂xj
∂ξj∂si
です。
2.2.6 問題 6の解答
合成関数の微分公式の計算練習として問題 6を解いてみましょう。
解答. 2変数関数 f(x, y) に二つの 3変数関数
ξ(s, t, u) = s2 + 2teu η(s, t, u) = t2 + 2seu
を合成した関数が g(s, t, u) です。つまり、
g(s, t, u) = f(ξ(s, t, u), η(s, t, u))
です。よって、合成関数の微分公式により
∂g
∂s=∂f
∂x
∂ξ
∂s+∂f
∂y
∂η
∂s= 2s
∂f
∂x+ 2eu
∂f
∂y
∂g
∂t=∂f
∂x
∂ξ
∂t+∂f
∂y
∂η
∂t= 2eu
∂f
∂x+ 2t
∂f
∂y
∂g
∂u=∂f
∂x
∂ξ
∂u+∂f
∂y
∂η
∂u= 2teu
∂f
∂x+ 2seu
∂f
∂y
となります。ただし、g や ξ, η の偏微分は (s, t, u) における、f の偏微分は (ξ(s, t, u), η(s, t, u))における偏微分です。この結果を問題の式の左辺に代入すると、(
t2eu − se2u) ∂g∂s
+(s2eu − te2u
) ∂g∂t
+(e2u − st
) ∂g∂u
=(t2eu − se2u
)(2s∂f
∂x+ 2eu
∂f
∂y
)+(s2eu − te2u
)(2eu
∂f
∂x+ 2t
∂f
∂y
)+(e2u − st
)(2teu
∂f
∂x+ 2seu
∂f
∂y
)=(2st2eu − 2s2e2u + 2s2e2u − 2te3u + 2te3u − 2st2eu
) ∂f∂x
+(2t2e2u − 2se3u + 2s2teu − 2t2e2u + 2se3u − 2s2teu
) ∂f∂y
= 0∂f
∂x+ 0
∂f
∂y= 0
となります。 □
2.2.7 問題 7の解答
2階偏導関数は偏導関数という 2変数関数の偏導関数です。だから、合成関数の 2階偏導関数は、合成関数の微分公式で偏導関数を計算し、その結果にまた合成関数の微分公式を適用することで計
算できます。つまり、2階だろうが何階だろうが合成関数の微分公式をくりかえし適用するだけであって、特別な公式は必要ありません。そのことの確認も込めた計算練習が問題 7です。
-
第 5 回解答 23
解答. 合成関数の微分公式により、
∂g
∂s(s, t) =
∂f
∂x(s+ t, s− t)∂(s+ t)
∂s+∂f
∂y(s+ t, s− t)∂(s− t)
∂s
=∂f
∂x(s+ t, s− t) + ∂f
∂y(s+ t, s− t)
∂g
∂t(s, t) =
∂f
∂x(s+ t, s− t)∂(s+ t)
∂t+∂f
∂y(s+ t, s− t)∂(s− t)
∂t
=∂f
∂x(s+ t, s− t) − ∂f
∂y(s+ t, s− t)
となります。よって、
∂g
∂s(2, 1) +
∂g
∂t(2, 1)
=∂f
∂x(2 + 1, 2 − 1) + ∂f
∂y(2 + 1, 2 − 1) + ∂f
∂x(2 + 1, 2 − 1) − ∂f
∂y(2 + 1, 2 − 1)
= 2∂f
∂x(3, 1) = 2
です。
ここで、φ(s, t) と ψ(s, t) という関数を
φ(s, t) =∂f
∂x(s+ t, s− t) ψ(s, t) = ∂f
∂y(s+ t, s− t)
によって定義します。これを使うと、上の偏微分の結果は
∂g
∂s(s, t) = φ(s, t) + ψ(s, t)
∂g
∂t(s, t) = φ(s, t) − ψ(s, t)
と書くことができます。このことに注意して gss(s, t) と gtt(s, t) を計算しましょう。
∂2g
∂s2(s, t) =
∂gs∂s
(s, t) =∂φ
∂s(s, t) +
∂ψ
∂s(s, t)
=∂fx∂x
(s+ t, s− t)∂(s+ t)∂s
+∂fx∂y
(s+ t, s− t)∂(s− t)∂s
+∂fy∂x
(s+ t, s− t)∂(s+ t)∂s
+∂fy∂y
(s+ t, s− t)∂(s− t)∂s
=∂2f
∂x2(s+ t, s− t) + ∂
2f
∂y∂x(s+ t, s− t)
+∂2f
∂x∂y(s+ t, s− t) + ∂
2f
∂y2(s+ t, s− t)
および
∂2g
∂t2(s, t) =
∂gt∂t
(s, t) =∂φ
∂t(s, t) − ∂ψ
∂t(s, t)
=(∂fx∂x
(s+ t, s− t)∂(s+ t)∂t
+∂fx∂y
(s+ t, s− t)∂(s− t)∂t
)−(∂fy∂x
(s+ t, s− t)∂(s+ t)∂t
+∂fy∂y
(s+ t, s− t)∂(s− t)∂t
)=∂2f
∂x2(s+ t, s− t) − ∂
2f
∂y∂x(s+ t, s− t)
− ∂2f
∂x∂y(s+ t, s− t) + ∂
2f
∂y2(s+ t, s− t)
-
第 5 回解答 24
となります。今 f は C2 級と仮定しているので fxy = fyx です。よって、
∂2g
∂s2(2, 1) − ∂
2g
∂t2(2, 1) = 2
(∂2f
∂y∂x(2 + 1, 2 − 1) + ∂
2f
∂x∂y(2 + 1, 2 − 1)
)= 4
∂2f
∂y∂x(3, 1) = −4
となります。 □
合成関数の微分公式をつかった計算は手順が多く、一つ一つの手順について「何を計算している
のか」を見失ってしまいがちです。慣れるまでは、上の計算のようにわざわざ新しい関数の記号を
増やしてでも「一歩一歩計算する」という着実な道を踏み外さないことをお勧めします。
3 行列を使った記法と変数変換
この節では、合成関数の微分公式についてもう一歩掘り下げ、変数変換に伴う偏微分の変化をや
みくもにではなく確実に自信を持って計算できるようになることを目標とします。
3.1 行列を使って公式をまとめると
講義と第 4回の演習の第 1.8節で「勾配ベクトル grad f」というものが出てきました。これは(x, y) に対して
grad f =(∂f
∂x(x, y),
∂f
∂y(x, y)
)という「偏微分係数を横に並べたベクトル」を対応させるものでした。この grad f を「2変数関数に 2変数関数を 2つ入れた場合」の公式
∂φ
∂s=∂f
∂x
∂ξ
∂s+∂f
∂y
∂η
∂s
∂φ
∂t=∂f
∂x
∂ξ
∂t+∂f
∂y
∂η
∂t
から抽出してみましょう。(φ(s, t) = f(ξ(s, t), η(s, t)) としています。)つまり、grad f と gradφが現れるように行列を使って式を書き直してみるわけです。すると、(
∂φ
∂s
∂φ
∂t
)=(∂f
∂x
∂f
∂y
)( ∂ξ∂s
∂ξ∂t
∂η∂s
∂η∂t
)すなわち、
gradφ = grad f ×
(∂ξ∂s
∂ξ∂t
∂η∂s
∂η∂t
)となります。(× は行列としての掛け算です。もちろん普通は書きませんが、「ここは掛け算だよ」ということをはっきりさせるためにあえて書きました。)偏微分(あるいは偏導関数)を一つ一つ
別物だと思わず、勾配ベクトルという一つのものだと考えると、合成関数の微分公式は右から行列
を掛けるという形にまとめられるわけです。この形は、1変数関数の合成関数の微分公式
φ′ = f ′ξ′
で φ′ と f ′ が勾配ベクトルに、変数変換の微分 ξ′ が行列になったと見ることができます。変数変
換は 2変数以上になると関数ではなく写像になるので、このことは「写像の微分は行列であるべき」ということを示唆しています。実は実際にそのように考えるのがよい、ということが説明でき
るのですが、講義の範囲外ですのでこのプリントでも説明せず、変数変換を考えるとき、行列を
使った記法が便利であるということ紹介するだけにしておきます。
-
第 5 回解答 25
3.2 変数変換
行列の記法を使うと「微分の変数変換」が簡単に計算できます。
まず、1変数関数の場合で考えてみましょう。f(x) を x = ξ(s) により s の関数に変数変換してみましょう。どちらの変数で考えているかハッキリさせるために、ξ(s) を入れた合成関数を g(s)と書くことにします。つまり、g(s) = f(ξ(s)) です。合成関数の微分法により
dg
ds(s) =
df
dx
(ξ(s)
)dξds
(s)
となりますが、この式の登場人物のうち dgds とdξds は s の関数で、
dfdx は(今は x に ξ(s) が入って
いるから s の関数ですが、本来は)x の関数です。だから、この公式は s の関数を x の関数と s
の関数で表しているわけで、少々据わりが悪い感じがします。
ここで、もし ξ(s) が逆関数を持つなら、逆関数の微分法(逆関数の微分は 1ξ′(s) になる)からξ(s) の微分は任意の s について 0にならないので、両辺を ξ(s) の微分で割ることができます。すると、
dg
ds(s)
dξ
ds(s)
=df
dx(ξ(s))
というように、左辺は s の関数、右辺は x の関数(に x = ξ(s) を合成した関数)という形に表すことができます。
このように、合成関数というものが
新しい変数 s の関数を、古い変数 x の関数と新しい変数 s の関数によって定義する
というようにできているので、合成関数の微分公式は、
新しい変数による微分を、古い変数による微分と新しい変数による微分によって表す
という形になっており、「変数の分離」という観点からは整理し切れていない形になっています。だ
から、例えば
左辺に新しい変数による微分、右辺に古い変数による微分
という形にしたければ、上で行った割り算に当たる操作をしなければならないことになります。
行列の記法を使うと、多変数関数の場合にも同じ操作を「割り算」として表すことができます。
文字数が多くなるのを防ぐために 2変数で説明しましょう。f を x と y を変数とする関数とし、ξ(s, t) と η(s, t) を x と y にそれぞれ代入した合成関数を g(s, t) とします。
g(s, t) = f(ξ(s, t), η(s, t))
ということです。このとき、合成関数の微分公式を行列の積を利用して表したものは(∂g
∂s
∂g
∂t
)=(∂f
∂x
∂f
∂y
)( ∂ξ∂s
∂ξ∂t
∂η∂s
∂η∂t
)(3)
でした。このままでは左辺は新しい変数 s, t の関数で、右辺は新しい変数 s, t の関数と古い変数
x, y の関数(に x = ξ(s, t) と η(s, t) を合成した関数)が混ざっています。この「混ざり」を解消して左辺は新しい変数の関数のみ、右辺は古い変数の関数のみとするには、右辺の行列の逆行列を
両辺に右から掛ければよいわけです。
-
第 5 回解答 26
もちろん、そのためには右辺の行列に逆行列がなければなりません。そこで、1変数のときと同じように ξ(s, t), η(s, t) が変数変換であったとしてみましょう。つまり、x と y を変数とする二つの関数 σ(x, y), τ(x, y) で、
ξ(σ(x, y), τ(x, y)) = x, η(σ(x, y), τ(x, y)) = y
および
σ(ξ(s, t), η(s, t)) = s, τ(ξ(s, t), η(s, t)) = t
となるものが存在したとします。(変数の組 (x, y) をもうひとつの変数の組 (s, t) に変換する関数の組が ξ, η で、(s, t) を (x, y) に変換する関数の組が σ と τ であり、この二つの変数変換が互いの逆変換になっているということです。)すると、例えば最初の二つの式を x と y で偏微分する
と、合成関数の微分公式により(∂ξ
∂s
∂ξ
∂t
)( ∂σ∂x
∂σ∂y
∂τ∂x
∂τ∂y
)=(∂x
∂x
∂x
∂y
)= (1, 0)
および (∂η
∂s
∂η
∂t
)( ∂σ∂x
∂σ∂y
∂τ∂x
∂τ∂y
)=(∂y
∂x
∂y
∂y
)= (0, 1)
となります。この二つを行列の積を使って同時に表すと、(∂ξ∂s
∂ξ∂t
∂η∂s
∂η∂t
)(∂σ∂x
∂σ∂y
∂τ∂x
∂τ∂y
)=
(1 00 1
)
が得られます。これは左辺の二つの行列が互いに相手の逆行列であることを示しており、特に、式
(3)の右辺の行列は逆行列を持つことが分かります。よって、式 (3)の両辺にその逆行列である(∂σ∂x
∂σ∂y
∂τ∂x
∂τ∂y
)
を掛ければ目的が達せられます。
しかし、微分する前に x = ξ(s, t), y = η(s, t) を s と t について解いて σ(x, y) と τ(x, y) を求めてからそれらを x と y で偏微分してしまっては元も子もありません。なぜなら、そのようにし
て得られた偏微分は x と y を変数とする関数だからです。我々の狙いは、式 (3)の右辺の行列がs, t を変数とする関数でできているので、これの逆行列を両辺に掛けることにより s, t を変数とす
る関数を左辺に集めることです。だから、微分する前に解くのではなく、微分してできた行列に逆
行列の公式を適用するのです。具体的には(∂ξ∂s
∂ξ∂t
∂η∂s
∂η∂t
)−1=
1∂ξ∂s
∂η∂t −
∂ξ∂t
∂η∂s
(∂η∂t −
∂ξ∂t
−∂η∂s∂ξ∂s
)
とするわけです。これを式 (3)の両辺に右から掛け、見やすいように右辺と左辺を取り替えて書くと、 (
∂f
∂x
∂f
∂y
)=
1∂ξ∂s
∂η∂t −
∂ξ∂t
∂η∂s
(∂g
∂s
∂g
∂t
)( ∂η∂t −
∂ξ∂t
−∂η∂s∂ξ∂s
)となります。これは
古い変数による偏微分を新しい変数による偏微分で表す
-
第 5 回解答 27
という形になっています。
なお、このように書くと、最後の式を暗記すべきと感じてしまうかも知れませんが、そんなこと
はする必要がない(というか、しない方が安全)ということは、上の議論の筋道が理解できていれ
ば分かってもらえるものと思います。
3.2.1 問題 8の解答
2x+ 3y が一つの変数であるような変数変換を施してしまうというのが方針です。例えば、
s = 2x+ 3y t = y (4)
とし、f(x, y) を s と t の関数と見なしたものを φ(s, t) とします。つまり、
f(x, y) = φ(2x+ 3y, y)
となる関数を φ とするということです。(この φ(s, t) は、式 (4)を逆に解いた
x =s− 3t
2y = t
を f(x, y) に入れたもの
φ(s, t) = f(s− 3t
2, t
)です。しかし、この問題を解くには、式 (4)を逆に解く必要はありません。「逆に解けるからこのような φ(s, t) が存在する」ということだけ確認できていれば O.K.です。)すると、合成関数の微分公式により、
∂f
∂x(x, y) =
∂φ
∂s(2x+ 3y, y)
∂s
∂x(x, y) +
∂φ
∂t(2x+ 3y, y)
∂t
∂x(x, y)
=∂φ
∂s(2x+ 3y, y) · 2 + ∂φ
∂t(2x+ 3y, y) · 0 = 2∂φ
∂t(2x+ 3y, y)
および、
∂f
∂y(x, y) =
∂φ
∂s(2x+ 3y, y)
∂s
∂y(x, y) +
∂φ
∂t(2x+ 3y, y)
∂t
∂y(x, y)
=∂φ
∂s(2x+ 3y, y) · 3 + ∂φ
∂t(2x+ 3y, y) · 1 = 3∂φ
∂s(2x+ 3y, y) +
∂φ
∂t(2x+ 3y, y)
となります。ということは、
3∂f
∂x(x, y) = 2
∂f
∂y(x, y) ⇐⇒ 6∂φ
∂s(s, t) = 6
∂φ
∂s(s, t) +
∂φ
∂t(s, t) ⇐⇒ ∂φ
∂t(s, t) = 0
となります。最後の式の意味は「φ(s, t) は t によらない」ということなので、φ は s だけの 1変数関数です。これで、
3∂f
∂x(x, y) = 2
∂f
∂y(x, y) ⇐⇒ f(x, y) = φ(2x+ 3y)
が示せました。 □
-
第 5 回解答 28
3.2.2 問題 9の解答
問題 8と全く同様です。つまり、xy が一つの変数であるように変数変換を施してしまうわけです。まず、s, t を、例えば
s = xy t = y
とおきます。今 y > 0 が定義域なので、特に y ̸= 0 ですからこの式は x, y について解くことができます。(具体的には
x =s
ty = t
ですが、この問題を解く上では必要ありません。)よって、
f(x, y) = φ(s, t)
となる関数 φ が存在します。(具体的には
φ(s, t) = f(st, t)
ですが、このように φ を表すことはこの問題を解く上では必要ありません。)
すると、合成関数の微分公式により、
∂f
∂x(x, y) =
∂φ
∂s(xy, y)
∂s
∂x(x, y) +
∂φ
∂t(xy, y)
∂t
∂x(x, y)
=∂φ
∂s(xy, y) · y + ∂φ
∂t(xy, y) · 0 = y ∂φ
∂s(xy, y)
および
∂f
∂y(x, y) =
∂φ
∂s(xy, y)
∂s
∂y(x, y) +
∂φ
∂t(xy, y)
∂t
∂y(x, y)
=∂φ
∂s(xy, y) · x+ ∂φ
∂t(xy, y) · 1 = x∂φ
∂s(xy, y) +
∂φ
∂t(xy, y)
となります。よって、
x∂f
∂x(x, y) = y
∂f
∂y(x, y) ⇐⇒ xy∂φ
∂s(xy, y) = xy
∂φ
∂s(xy, y) + y
∂φ
∂t(xy, y) ⇐⇒ y ∂φ
∂t(xy, y) = 0
となります。今、f の定義域が y > 0 なので、最後の式を y で割ることができて、
∂φ
∂t(s, t) = 0
となります。これは φ が t によらない s だけの 1変数関数であることを意味します。以上より、
x∂f
∂x(x, y) = y
∂f
∂y(x, y) ⇐⇒ f(x, y) = φ(xy)
が示せました。 □
以上は「変数変換」という視点が重要ではあるもの、行列による記法の利点は特に感じられませ
んでした。行列による記法は問題 10で活かされます。
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第 5 回解答 29
3.2.3 問題 10の解答
まず cosh t と sinh t の微分を計算しておきましょう。
d cosh tdt
=(et)′ + (e−t)′
2=et − e−t
2= sinh t
およびd sinh tdt
=(et)′ − (e−t)′
2=et + e−t
2= cosh t
です。このことを踏まえて合成関数の微分公式を適用すると、
∂g
∂r(r, t) =
∂f
∂x(r cosh t, r sinh t)
∂(r cosh t)∂r
+∂f
∂y(r cosh t, r sinh t)
∂(r sinh t)∂r
=∂f
∂x(r cosh t, r sinh t) cosh t+
∂f
∂y(r cosh t, r sinh t) sinh t
および、
∂g
∂t(r, t) =
∂f
∂x(r cosh t, r sinh t)
∂(r cosh t)∂t
+∂f
∂y(r cosh t, r sinh t)
∂(r sinh t)∂t
=∂f
∂x(r cosh t, r sinh t)r sinh t+
∂f
∂x(r cosh t, r sinh t)r cosh t
となります。この 2つを行列の記法を使って一遍に書くと、(∂g
∂r(r, t),
∂g
∂t(r, t)
)=(∂f
∂x(r cosh t, r sinh t),
∂f
∂y(r cosh t, r sinh t)
)(cosh t r sinh tsinh t r cosh t
)
となります。最後の 2行 2列の行列の逆行列を計算すると、
(cosh t)2 − (sinh t)2 = e2t + 2 + e−2t
4− e
2t − 2 + e−2t
4= 1 (5)
であることから、 (cosh t r sinh tsinh t r cosh t
)−1=
1r
(r cosh t −r sinh t− sinh t cosh t
)となります。これを両辺に右から掛けると、(
∂f
∂x(r cosh t, r sinh t),
∂f
∂y(r cosh t, r sinh t)
)=(∂g
∂r(r, t),
∂g
∂t(r, t)
)(cosh t − sinh t
−1r sinh t1r cosh t
)
となります。これを計算して成分同士の等式に直すと、
∂f
∂x(r cosh t, r sinh t) =
∂g
∂r(r, t) cosh t− 1
r
∂g
∂t(r, t) sinh t
∂f
∂y(r cosh t, r sinh t) = −∂g
∂r(r, t) sinh t+
1r
∂g
∂t(r, t) cosh t
となります。 □
最もよく出会うのはもちろん極座標変換 x = r cos θ, y = r sin θ ですが、極座標変換は講義で例として取り上げられたので、その代わりに x = r cosh t, y = r sinh t というなじみのない変換を出題しました。もう一つ、3変数の場合の例として、空間極座標変換を計算してみましょう。問題 11です。
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第 5 回解答 30
3.2.4 問題 11の解答
三つの関数 ξ(r, θ, φ), η(r, θ, φ), ζ(r, θ, φ) を
ξ(r, θ, φ) = r sin θ cosφ η(r, θ, φ) = r sin θ sinφ ζ(r, θ, φ) = r cos θ
と置きます。式 (1)の合成は、x = ξ(r, θ, φ), y = η(r, θ, φ), z = ζ(r, θ, φ) です。合成関数の微分公式を行列の積を使って書き表すと、
(gr gθ gφ
)=(fx fy fz
) ξr ξθ ξφηr ηθ ηφζr ζθ ζφ
=(fx fy fz
) sin θ cosφ r cos θ cosφ −r sin θ sinφsin θ sinφ r cos θ sinφ r sin θ cosφcos θ −r sin θ 0
(6)
となります。右辺の 3次正方行列の逆行列を両辺に右から掛けましょう。(3次正方行列の逆行列の求め方を数 IIでまだ学んでいない人は、fx, fy, fz を未知数とする 3元連立一次方程式と見なして解いてください。)逆行列を掃き出し法で計算することも可能だと思いますが、ここでは余因子
行列を行列式�