慶應医学賞最優秀レポート2012年度

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2012 年度第 17 回慶應医学賞ト出題者河上教授 Go J. Yoshida 吉田剛 慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御部門博士課程 2 年 【はじめに】 2012 年度第 17 回慶應医学賞において、腫瘍に対するトスシナ サチに基づいて新規治療戦略の開発に長年貢献され新しい知見を見出して いらっしゃる 2 人の著名な博士が選考された。岡野審査委員長が指摘されてい たように、慶應医学賞のこれまでの受賞者と研究テを紐解くと、Steven A. Rosenberg 博士の研究ではサイトカイ IL-2 を発見された 1997 年第 2 回慶應医 学賞受賞者谷口博士、間野博士の研究では CML に対する分子標的薬イチニブ 開発に貢献した 2007 年第 12 回慶應医学賞受賞者 Brian J. Druker など、学術的 に関連性の高い超一流研究者が揃って選考されていることがわかる。 Steven A. Rosenberg 博士は、外科医として、集学的治療化学療法、放射線治 療、手術によっても治らない難治性腫瘍の患者さんと接するうちに、「免疫」 という新しい分野を腫瘍治療に結びつければよいのではないかという発想に至 った。その最大の契機となったのが、Rosenberg 博士は外科医として医療の現場 に立って間もなくして、「原発巣の胃癌が多発性に肝転移を呈していて当時の医 療ベでは手の施しようの無かった患者さんが自然寛解した」という俄かに 信じがたい症例を経験している。ちなみに Rosenberg 博士の数多ある論文のう ち、生涯で最初に書かれた論文はこの症例に関する Case Report である。そこか ら、サイトカイ療法、癌クチ療法、癌抗原特異的 T 細胞受容体遺伝子導 入、腫瘍浸潤パ球TILTumor-infiltrating lymphocyte)療法、養子免疫療法 などといったさまざまな免疫学的治療法を編み出し進行期のノや難治 性の固形腫瘍の治療に臨床応用に至っている。一つの非典型的臨床経過を辿っ

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2012 年度第 17 回慶應医学賞レポート(出題者:河上教授)

Go J. Yoshida (吉田剛)

慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御部門博士課程 2 年

【はじめに】

2012 年度第 17 回慶應医学賞において、腫瘍に対するトランスレーショナル

リサーチに基づいて新規治療戦略の開発に長年貢献され新しい知見を見出して

いらっしゃる 2 人の著名な博士が選考された。岡野審査委員長が指摘されてい

たように、慶應医学賞のこれまでの受賞者と研究テーマを紐解くと、Steven A.

Rosenberg 博士の研究ではサイトカイン IL-2 を発見された 1997 年第 2 回慶應医

学賞受賞者谷口博士、間野博士の研究では CML に対する分子標的薬イマチニブ

開発に貢献した 2007 年第 12 回慶應医学賞受賞者 Brian J. Druker など、学術的

に関連性の高い超一流研究者が揃って選考されていることがわかる。

Steven A. Rosenberg 博士は、外科医として、集学的治療(化学療法、放射線治

療、手術)によっても治らない難治性腫瘍の患者さんと接するうちに、「免疫」

という新しい分野を腫瘍治療に結びつければよいのではないかという発想に至

った。その最大の契機となったのが、Rosenberg 博士は外科医として医療の現場

に立って間もなくして、「原発巣の胃癌が多発性に肝転移を呈していて当時の医

療レベルでは手の施しようの無かった患者さんが自然寛解した」という俄かに

信じがたい症例を経験している。ちなみに Rosenberg 博士の数多ある論文のう

ち、生涯で最初に書かれた論文はこの症例に関する Case Report である。そこか

ら、サイトカイン療法、癌ワクチン療法、癌抗原特異的 T 細胞受容体遺伝子導

入、腫瘍浸潤リンパ球(TIL;Tumor-infiltrating lymphocyte)療法、養子免疫療法

などといったさまざまな免疫学的治療法を編み出し進行期のメラノーマや難治

性の固形腫瘍の治療に臨床応用に至っている。一つの非典型的臨床経過を辿っ

た患者さんの症例に対する考察から、これからの医療の歩むべき道を自分で切

り拓き、passion(情熱)と focus(集中力)を研究に注がれたからこそ成し得た

パラダイムシフトと言っても過言ではないだろう。翌日の河上教授主催のセミ

ナーにおいても、研究に対する情熱(Passion)、一つの分子や生命現象に着目す

る集中力(Focus)、そして忍耐強さ(Perseverance)の 3 つが研究者として成功

するための必要条件であるということが強調されていた。

間野博行博士は、もともとは東京大学医学部附属病院血液腫瘍内科の御出身

であり、リンパ腫や CML などの白血病で頻繁に認められる遺伝子転座による発

癌が上皮系固形腫瘍でも起きているという驚異的な事実を明らかにした。さら

には、「慢性骨髄性白血病の imatinib に対する治療抵抗性獲得」の現象が

「EML4-ALK 陽性肺腺癌の crizotinib の治療抵抗性獲得」のメカニズムに酷似し

ている点を見出されたのも、血液内科医として御活躍されていたころの臨床的

見識の広さ、思考の柔軟性を物語っているのではないだろうか。また間野博士

の業績の中で、他の多くの研究者に欠けている点は「システムづくり」を如何

に重視されているかという点であろう。EML4-ALK のクローニングも偶然の産物

では決してない。レトロウィルスを用いた cDNA ライブリーのシステムを構築し

あらゆる遺伝子産物の発現パターンを retrovirus vector を用いて機械的に検証

できるようにしたのである。EML4-ALK 陽性の肺腺癌の患者さんが、酸素吸引器

で血中酸素圧を維持しながらわざわざ韓国やアメリカなどの海外に赴いて、ALK

阻害剤による治療を受けて劇的に腫瘍が縮退して QOL が向上している事実を目

の当たりにして、ALKoma (ALK シグナルに依存性の高い腫瘍群)のうちやはり非

小細胞性肺癌の 5%近くを占める肺腺癌の患者さんが日本国内で保険適応の範

囲で ALK 阻害剤による治療が受けられるように製薬企業などに働きかけ御自身

でも“ALK Lung Cancer Study Group (ALCAS)”を設立した。このように御自身

が発見した分子から全てが始まり、新しい疾患概念を構築し認知度を高めてい

くという「研究者」としてだけではない、「研究医」としての社会的責任を持っ

た業績の足跡を講演で拝聴し、同じく医師として基礎研究に一生涯従事してい

きたいと考えている自分としては非常に強い感銘を受けた。

研究医の卵である自分が 20 年後、30 年後に難治性腫瘍の治療に貢献する研究

を成し得ると同時に分子病理学の観点から個別化治療を可能とするシステムを

構築するという将来の夢を実現できるかどうかはわからない。だが、彼らのよ

うに諦めずに情熱を持って長い研究者生活を歩んでいけばきっとゴールに辿り

つくことができるのではないか…だからこそ、日々の研究生活を大事にしてい

きたい。

Steven A. RosenbergSteven A. RosenbergSteven A. RosenbergSteven A. Rosenberg((((スティーブンスティーブンスティーブンスティーブン A. A. A. A. ローゼンバーグローゼンバーグローゼンバーグローゼンバーグ))))博士博士博士博士

米国国立米国国立米国国立米国国立がんがんがんがん研究所研究所研究所研究所((((NCINCINCINCI)))) 外科部門長外科部門長外科部門長外科部門長

授賞研究授賞研究授賞研究授賞研究テーマテーマテーマテーマ 「「「「効果的効果的効果的効果的ながんながんながんながん免疫療法免疫療法免疫療法免疫療法のののの開発開発開発開発」」」」

演題名演題名演題名演題名::::The Development of Immunotherapy for the Treatments of The Development of Immunotherapy for the Treatments of The Development of Immunotherapy for the Treatments of The Development of Immunotherapy for the Treatments of

Patients with CancerPatients with CancerPatients with CancerPatients with Cancer

問題問題問題問題 1111

Steven RosenbergSteven RosenbergSteven RosenbergSteven Rosenberg 博士博士博士博士のごのごのごのご講演講演講演講演・・・・RosenbergRosenbergRosenbergRosenberg 博士博士博士博士のおのおのおのお仕事仕事仕事仕事でででで、、、、がんがんがんがん生物学生物学生物学生物学のののの進歩進歩進歩進歩

にににに貢献貢献貢献貢献したしたしたした点点点点、、、、がんがんがんがん治療治療治療治療にににに貢献貢献貢献貢献したしたしたした点点点点をををを、、、、具体的具体的具体的具体的にににに述述述述べべべべ、、、、それにそれにそれにそれに基基基基づいてづいてづいてづいて、、、、今今今今

後後後後のののの展開展開展開展開のののの可能性可能性可能性可能性についてについてについてについて、、、、自分自分自分自分のののの意見意見意見意見をををを述述述述べなさいべなさいべなさいべなさい。。。。

【【【【回答回答回答回答】】】】

【サイトカイン療法の有効性に対する再認識と個別化治療へ向けた原点回帰】

免疫監視機構(immune surveillance)を活性化することで抗腫瘍効果を発揮するために、長年

にわたってメラノーマ、腎細胞癌に対してサイトカイン療法がおこなわれてきた。進行性の腎細胞

癌に対するサイトカイン治療のゴールデンスタンダードはインターフェロンα(IFN‐α)やインター

ロイキン 2(IL‐2)という 2 種類のサイトカインが挙げられる。腎癌に関しては血管新生を阻害する

VEGF 阻害剤と IL-2 を組み合わせたレジメンに対して相乗的な臨床効果があると長らく認識され

てきた。自己の免疫能を高めることで抗腫瘍効果を発揮するサイトカインを BRM(biological BRM(biological BRM(biological BRM(biological

response modifiers)response modifiers)response modifiers)response modifiers)と呼ぶ。適応疾患としては他に菌状息肉腫に対する IFN-γ、血管肉腫に対す

る IL-2 などが教科書的には有名である。IL-2 単独では臨床的効果が乏しいと考えられてきたが、

抗癌剤や下記に詳述する腫瘍浸潤リンパ球(Tumor-infiltrating lymphocytes)療法、養子免疫療

法(Adoptive cell transfer)、全身照射との併用療法により、劇的に抗腫瘍効果が高まることが注

目視されつつある。

IFN-α(I 型インターフェロン)を例にして、どのように抗腫瘍機構を発揮するのかについて概説

する。I 型インターフェロンは、抗ウイルス活性を有する遺伝子の発現、および、MHC 分子の発現

を増強し、樹状細胞の成熟を誘導することにより、ウイルスに対する生体防御機構を活性化する。

I 型インターフェロンは、非感染時には、発現は低く、感染後に著明に発現が増強されるので、そ

の発現の調節は、生体防御にとって極めて重要である。一部の Toll 様受容体(Toll-like

receptor ;TLR)は、この I 型インターフェロンの発現を誘導する。 I 型インターフェロンには、10種

類以上のサブタイプから成るαと1種類のβが存在する。いずれのI型インターフェロンも1種類の

共通の受容体を介して、生物学的機能を発揮する。しかし、αとβとの間で、産生細胞、遺伝子

発現に必要な転写因子が異なっている。そして、Toll 様受容体は、発現分布、活性化する転写因

子群が微妙に異なっており、多様な I 型インターフェロン誘導能を示す。

Toll 様受容体(Toll-like receptor ;TLR)は自然免疫系においてウイルス・細菌の構成成分を認

識することで、タイプ I インターフェロン(IFNα)や炎症性サイトカン産生(IL-1β、TNF-α)の発現誘

導、樹状細胞の成熟化を介してリンパ球に感染防御のシグナルを伝達するパターン認識レセプタ

ーと考えられている。中でも TLR7,8 はウイルス由来の抗原(1 本鎖 RNA) を、TLR9 はウイルス由

来の抗原を、細菌由来の抗原(CpGDNA)を認識することで、MyD88(myeloid differentiation factor

88)を介して IFN-αおよびγ産生を誘導し抗ウイルス応答を誘起する。MyD88 は TLR3 以外のす

べての TLR の下流で NF-kB 活性化による炎症性サイトカイン産生を誘導するが、形質細胞様樹

状細胞において発現する TLR7,9 の下流では IRF7 が活性化されることで IFN-α 産生を誘導する

(Nat Immunol. 2010;11:373-84.,Immunity. 2011;34:637-50.)。

現在までに知られている Toll 様受容体の中で、インターフェロンαを誘導できるのは、

TLR3,TLR7,TLR9 の 3 種類である。ヒト樹状細胞の中では、形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid

dendritic cell; pDC)が、インターフェロンαの産生能が非常に強い細胞として同定されている。この

細胞には、TLR7,TLR9 が発現されており、確かにこれらのリガンドの刺激で、インターフェロンα

の産生が誘導される。しかし、この樹状細胞は TLR3 を発現しておらず、二本鎖 RNA には反応し

ない。二本鎖 RNA 刺激でインターフェロンαを産生するのは、形質細胞様樹状細胞とは異なる系

統に属する樹状細胞である(J Intern Med. 2009;265:43-57.)。実際のウイルス感染の際に、これら

の樹状細胞の subpopulation、および、これらの Toll 様受容体シグナルがどのように関与している

のかは今後の重要な研究課題といえる。

興味深いことに、これら以外の Toll 様受容体刺激では、インターフェロンαは誘導されない。し

かし、TLR4 刺激により、インターフェロンαは誘導されないが、インターフェロンβは誘導される。

インターフェロンβを産生する細胞は、生体内に広く分布しており、細菌感染の際の免疫応答の

調節に関与していると考えられている。一方、TLR2 刺激では、I 型インターフェロンは、αもβも誘

導されない。このように、I 型インターフェロンの誘導パターンにより、Toll 様受容体はいくつかのサ

ブグループに分類できる。TLRを介した炎症シグナルと腫瘍の悪性度との関連性は従来から注目

されており、MyD88 ノックアウトマウスでは IL-6の産生が抑制されることで腫瘍の発生率が有意に

減少するという事実(Science. 2007;317:121-4., J Exp Med. 2010;207:1625-36.)から、MyD88 シグ

ナルが腫瘍の進展に関与することが強く示唆されている。

しかし残念ながら、サイトカイン療法のみによる治療効果には限界があり、さらにはこれらの免

疫療法に適応不能あるいは不応性腎細胞癌患者(non-responder)に関しては有効性を期待でき

る進行期の腎癌患者に対する治療の選択肢の余地は非常に狭いため、サイトカインとは異なる

作用機序を有する新規治療法の開発が切望されていた。腎細胞癌は病理学的に新生血管が豊

富な腫瘍(hypervascular tumor)なため、実際に腎細胞癌に適応があり有効性が認められている

分子標的薬としては VEGF 阻害剤(vascular endothelial growth factor inhibitor)が代表的である。

Sorafenib(ネクサバール)や vebacizumab(アバスチン)などの経ロマルチキナーゼ阻害薬が肺

転移などを呈する進行期腎癌にも有効である。メラノーマにおいても同様のことがいえる。皮膚悪

性腫瘍ガイドラインによると、『遠隔転移を生じたメラノーマ患者にインターロイキン2(IL-2)の大量

静注療法を行うことは有益か』という命題に対する推奨度は C1-C2 と低いエビデンスレベルであり、

その根拠として『進行期メラノーマ患者に対する IL-2 の大量静注療法は、奏効率 15%前後、完全

奏効率6%程度であり、しかも強い有害反応を伴うので、有益とはいえない。ただし、本療法の奏効

例の中には、長期間にわたって再発なしに生存する患者が低率(約 5%)ではあるが存在する。』と

記述されている。

(http://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/skincancer/mm/mm-cq21.html)

VEGF 阻害剤の奏効率(objective response rate:ORR)は 10%程度であり、その作用は腫瘍

の縮小よりも増殖遅延効果が大きいと考えられる。一方で、IFN‐αの作用機序とは、①腎癌細胞

に対する直接的な抗腫瘍効果と②T リンパ球やナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞を介

する間接的な抗腫瘍効果と考えられている。したがって、VEGF 阻害剤とサイトカインの両者を併

用する場合には、相乗的効果(synergistic effect)が高いと期待されている。sorafenib 単剤投与

の場合は、腎癌特異的な細胞障害活性(cytotoxicity)や NK 細胞の活性が全く誘導されないこと

が明らかになっている。しかしながら、sorafenibsorafenibsorafenibsorafenib にににに加加加加えてえてえてえて IFNIFNIFNIFN‐‐‐‐ααααをををを併用併用併用併用したしたしたした治療群治療群治療群治療群においてのみにおいてのみにおいてのみにおいてのみ

腎癌特異的腎癌特異的腎癌特異的腎癌特異的なななな細胞障害活性細胞障害活性細胞障害活性細胞障害活性やややや NKNKNKNK 細胞細胞細胞細胞のののの活性活性活性活性化化化化誘導誘導誘導誘導がががが認認認認められるめられるめられるめられることが注目視されている(J.

Urol. 2010; 184:2549-2556.)。

制御性 T 細胞(Treg)や腫瘍免疫抑制性サイトカインである TGF-βや IL-10 は常に腫瘍細胞が

周囲の微小環境を修飾することで、自身の生存・増殖に有利に働くように増加させる細胞や因子

である。一方で、先述のような IL-2、IFN-αなどのサイトカイン療法と分子標的薬との併用によって、

細胞傷害性 T 細胞(cytotoxic T cell; CTC)や IFN‐γを誘導することが生体内で腫瘍組織を攻撃

する上で極めて重要であると考えられる。

“oncogene addiction (oncogene addiction (oncogene addiction (oncogene addiction (癌細胞癌細胞癌細胞癌細胞ののののアキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱))))“を標的とした分子標的薬では治療開始時には顕

著な治療効果を呈するものの、代替的なシグナル伝達(alternative pathway)が活性化されること

で不応性、治療抵抗性を獲得するという傾向がある。この分子標的薬至上主義による癌治療に

誘発される形質変化こそが、いわゆる”adaptive resistanceadaptive resistanceadaptive resistanceadaptive resistance“である。そうした治療抵抗性の誘導

を抑制するためにも、サイトカインサイトカインサイトカインサイトカインとのとのとのとの併用療法併用療法併用療法併用療法によってによってによってによって、、、、腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞にににに対対対対するするするする免疫監視機構免疫監視機構免疫監視機構免疫監視機構をををを強強強強

化化化化することでのすることでのすることでのすることでの””””dual blockagedual blockagedual blockagedual blockage““““がががが重要重要重要重要になってくるになってくるになってくるになってくる可能性可能性可能性可能性がががが高高高高いいいいと考えられる。

また、分子標的薬が奏功して投薬を中止した際に、腫瘍病変の変化には 2 つの可能性がある。

一つ目の可能性は薬剤ストレスによってエピジェネティックな変化(epigenetic modulation)が起き

た場合である。例えばチロシンキナーゼ阻害剤(【例】頭頸部癌や肺癌の治療に用いる EGFR 阻

害剤である gefitinib)の治療効果が減弱してきた際は、投薬をいったん中止する。臨床腫瘍学の

分野ではこれを、「ドラッグホリデー(drug holiday)」と呼ぶ。1 週間ほどすると治療抵抗性の原因

となっていたヒストンのメチル化などが解除されて、再びチロシンキナーゼ阻害剤の効果が認め

られることはしばしばある。既にこの手法は臨床腫瘍学の現場では常識となっている。

二つ目の可能性はリバウンド現象(rebound phenomenon)によって急激に腫瘍が増大する症例で

ある。脳腫瘍の中でも悪性度の高いGBM(glioblastoma multiforme)に対するVEGF阻害剤の有効

性に対するエビデンスは確立されつつあるが、いったん奏功していた VEGF 阻害剤である

bevacizumab を投与中止することで 治療前の腫瘍サイズの 150%以上にまで re-growth/

"rebound"を呈したという劇的な症例も報告されている(J Neurooncol. 2010;99:237-42.)。

このようなこのようなこのようなこのような事態事態事態事態をををを防防防防ぐためにはぐためにはぐためにはぐためには、、、、もちろんもちろんもちろんもちろん投薬中止投薬中止投薬中止投薬中止にににに当当当当たってたってたってたってステロイドステロイドステロイドステロイドなどとなどとなどとなどと同様同様同様同様にににに徐徐徐徐々々々々にににに投与投与投与投与

量量量量をををを減減減減らしていくらしていくらしていくらしていくtaperingtaperingtaperingtaperingがががが重要重要重要重要であるだろうがであるだろうがであるだろうがであるだろうが、、、、サイトカインサイトカインサイトカインサイトカインをはじめとするをはじめとするをはじめとするをはじめとする別別別別のののの抗癌治療抗癌治療抗癌治療抗癌治療とのとのとのとの併併併併

用用用用がががが有効有効有効有効ではないかではないかではないかではないかと期待されている。

加えて、STAT3 遺伝子における遺伝子多型(SNP)が IFN‐αの治療効果と最も強く相関してい

ることが判明している。具体的には、STAT3 遺伝子上流の rs4796793 の遺伝子多型(SNP)が

IFN‐αの奏効率と強い相関性を示しているため、テーラーメイド療法(個別化治療)に向けたバイ

オマーカーとしての有用性も期待されている(J. Clin. Oncol. 2007;25:2785-2791.)。

以上のように、分子標的薬の台頭によって臨床現場での重要性、認識がややもすれば薄れか

けているサイトカイン療法に対して、新規の治療効果が見出されることが大いに期待されている。

【腫瘍に対するワクチン療法による抗腫瘍免疫機構の活性化】

腫瘍に対するワクチン療法(vaccine therapy)によって能動的に腫瘍免疫監視機構を強化する

治療がメラノーマなどの癌種で積極的に行われている。ワクチン療法ではまず、腫瘍細胞に特異

的な核酸、ペプチド(peptide)、タンパク質を外因性に投与することで、抗原提示細胞(antigen

presenting cell; APC)である樹状細胞(dendritic cell:DC)に取り込ませてプロセシングの後に、

MHC(major histocompatibility complex)クラス 1 分子に抗原として提示(クロスプレゼンテーショ

ン; cross-presentation)されることがまず必要となる。APC による腫瘍抗原の提示によって、腫瘍

細胞を選択的に認識して攻撃する細胞傷害性 T リンパ球(cytotoxic T lymphocyte; CTL)が誘

導されることで、この腫瘍抗原特異的な CTL が腫瘍細胞を傷害することで、はじめて、ワクチン療

法の有効性が認められる。

MHC クラス I 分子によって APC が抗原提示をするというクロスプレゼンテーション

(cross-presentation/ cross-priming)は一昔前の免疫学と一見すると矛盾するメカニズムである

(J Exp Med 1976;143:1283-1288.)。一昔前までは、外来性の抗原は樹状細胞などの抗原提

示細胞に取り込まれて MHC クラス II に提示されることによって、CD4 陽性 T リンパ球を活性化さ

せる一方で、細胞傷害性を有する CD8 陽性 T 細胞(CTL)を活性化するのは MHC クラス 1 分子に

提示される内在性抗原であると認識されてきた。すなわち、この古典的な抗原提示経路のみでは、

腫瘍に対するワクチン療法で獲得免疫を誘導することが不可能なのである。MHC クラス I 経路と

は、病原体に感染した細胞内のウィルスなどの抗原をはじめとする細胞内抗原がプロテアソーム

によって分解されて、8‐10 個のアミノ酸残基から構成されるペプチドに分解される。そのペプチド

は transporter activated protein (TAP)というタンパク質によって小胞体へと輸送されて、MHC ク

ラス I 分子と結合して細胞表面に移動する。CTL (cytotoxic T lymphocyte)は APC 細胞膜上に提

示されたペプチド—MHC クラス I 分子複合体を T 細胞受容体(T cell receptor; TCR)によって認識

すると同時に、CD80 (B7.1)、ICAM-1、lymphocyte function-associated antigen-3 (LFA-3)などのT

細胞共刺激分子(co-stimulating molecules)を介して活性化することによって、標的となるエピト

—プを含む分子を発現している腫瘍細胞を攻撃して抗腫瘍効果を発揮する。その点で、効率的

に CTL を誘導するためには、クロスプレゼンテーション(cross-priming)という現象が非常に重要

になってくる。

最近になって、炎症と発癌の関連性や腫瘍随伴性マクロファージ(tumor-associated

macrophage; TAM)の免疫監視回避機構における重要性に再び注目が集まっている。大腸癌で

高率に変異を有する adenomatous polyposis coli(APC)や p53 などは同時に変異を呈するのでは

なく、“adenoma-carcinoma sequence”という単語に集約されるように、多段階的に遺伝子変異を

蓄積することで発癌を誘導すると考えられている(Princess Takamatsu Symp. 1991;22:37-48.)。

その際に、慢性炎症や酸化ストレスといった微小環境でのストレスは、遺伝子変異やエピジェネ

ティック修飾の変化を助長する。TAM はミエロイド系細胞系譜(myeloid cell-lineage)に由来してお

り、制御性 T 細胞や CD11b+/GR1+である myeloid-derived suppressor cells(MDSC)と相互作用し

ている(J Clin lnvest 2007;117:1155-1166.)。

癌遺伝子(Ras、Raf、MEK、AKT)が過剰発現すると、活発な細胞分裂に随伴する DNA 損傷の

蓄積によって、分裂寿命を待たずに急速に細胞老化を mimic したような増殖停止が起こる

(oncogene-induced senescence)。そのため細胞老化という現象はcarcinogenesisを抑制する効果

を有していると考えられてきた。また、老化細胞は endogenous に活性酸素(ROS)のレベルが高く、

パラクライン的に IL1βや TNFαといった炎症性サイトカインを分泌することで、SASP

(senescence-associated secretory phenotype)を誘発するという考え方も台頭してきた。

これまで、腫瘍組織を構成する全ての癌細胞は、新たに 1 個からでも腫瘍組織を形成する能力

を保持していると考えられていた。その増殖の過程で、oncogenic stress(ドライバーとなる癌遺伝

子の活性化やブレーキとなる癌抑制遺伝子の抑制に起因する過増殖による酸化ストレスの蓄積

や染色体不安定性、genomic instability)が、確率論的に新規の遺伝子変異やエピジェネティック

な変化をもたらす。この概念を「確率論モデル:stochastic model」と称する。(Clin Cancer Res.

2010;16: 3113-20.)。『種の起源(origin of species)』で「自然選択説 (natural selection theory)」

を唱えたチャールズ・ロバート・ダーウィン(Charles Robert Darwin)の名前を引用して、腫瘍組織

内におけるこの多様性の変化を"Darwinian selection""Darwinian selection""Darwinian selection""Darwinian selection"と定義づけることができる。一般的に、細胞

や個体がある環境で生存していくためには選択圧選択圧選択圧選択圧、または淘汰圧淘汰圧淘汰圧淘汰圧(selective pressure)(selective pressure)(selective pressure)(selective pressure)と呼ばれる

障壁を乗り越えていかねばならない。

例えば、低酸素刺激で活性化する HIF1-α(hypoxia-inducible factor alpha)とそれが転写を誘導

する遺伝子群があまり働かない腫瘍細胞のクローンでは、血管新生が不十分な領域では「低酸

素」という選択圧によって死滅することになる。逆にある癌遺伝子に生存増殖が高度に依存してい

る oncogene-addictive な腫瘍細胞では、その癌遺伝子や関連するシグナルを遮断するだけで容

易に消滅する一方で、他の生存・増殖シグナルに依存している細胞は選択的に生存・増殖するこ

とが可能であり、微小残存病変微小残存病変微小残存病変微小残存病変((((minimminimminimminimal residual disease; MRDal residual disease; MRDal residual disease; MRDal residual disease; MRD))))を構成し、再発や転移の原因と

なる。

(http://www.gcoe-stemcell.keio.ac.jp/treatise/2012/20120706_02.html)

正常細胞は一定数以上の細胞分裂を遂げると細胞老化(cellular senescence)を起こして癌細胞

への形質転換を防ぐ機構を有しているが、ドライバーである癌遺伝子が活性化していると、アポト

ーシス回避機構を介して、炎症性サイトカインを分泌することで発癌を促進する(SASP;

senescence-associated secretory phenotype)ことがある(Plos Biol. 2008; 6:e301.)。このように細

胞周期やcellular senescenceが腫瘍に対して二面性(double-edged sword)を有している点は非常

に興味深く日進月歩で研究が進んでいる。

腫瘍細胞を排除しようとする免疫監視機構は炎症応答から起動することが多い。その一例が乳

癌細胞の肺転移における好中球の浸潤である。4T07、67NR、168FARN、4T1 細胞という 4 種類

のマウス乳癌細胞株を 8-10 週齢の野生型 Balb/c mice の乳腺(mammary pad)に 10

5

個移植す

るという実験系では、CD44 バリアント(CD44v)を発現している 4T1 細胞のみが肺転移を呈する

(Nat Commun.2012;3:883.)。その際に、肺の転移巣に腫瘍細胞が集簇してサイトカイン、ケモカイ

ンを分泌することで、tumortumortumortumor----entrained neutrophil (TEN)entrained neutrophil (TEN)entrained neutrophil (TEN)entrained neutrophil (TEN)と呼ばれる「腫瘍細胞に教育を受けた好

中球(educated neutrophil)」がリクルートされて、NADPH 依存的に過酸化水素を産生・分泌するこ

とで、酸化ストレスに富む微小環境を作り出す(Cancer Cell.2011;20:300-14.)。こうして、ROS

(reactive oxygen species; 活性酸素種)にて抵抗性を有する CD44v 陽性腫瘍細胞のみが選択

的に生存、増殖することができる。TENのようにレドックスストレスを産生して腫瘍細胞を攻撃する

タイプの好中球では、TLR4 が通常の好中球と比較して強く発現しており、S100A8/9 の産生・分

泌が認められる。血管透過性を亢進することで extravasation(血管外遊走)を介して、肺前転移ニ

ッチの形成を促進するシグナル経路として同定された“S100A8-SAA3-TLR4 経路”が東京女子医

科大学丸山教授らによって明らかにされている。肺組織の前転移ニッチでは、S100A8 の発現上

昇は VEGF や TNF‐α依存性であり、S100A8 や TLR4 に対する中和抗体によって血管透過性亢

進が再び抑制される。加えて、癌細胞を皮下移植したマウスにSAA3に対する中和抗体を投与す

ると、このS100A8-SAA3-TLR4経路が遮断されることによって、肺転移が抑制されることも確認さ

れている。(Nat Cell Biol.2008;10:1349-55.、Cell Mol Immunol 2010;7:94-99)。SAA3 は TLR4 に

認識されて、NFκB を介して自然免疫応答シグナルを活性化する結果、免疫制御が腫瘍にとって

有利に modification を受ける結果として、遠隔転移が促進されることを示している典型例と言える。

TLR4TLR4TLR4TLR4はははは自然免疫系自然免疫系自然免疫系自然免疫系のののの受容体受容体受容体受容体としてとしてとしてとしてLPSLPSLPSLPSをををを認識認識認識認識してしてしてして病原体病原体病原体病原体からからからから宿主宿主宿主宿主をををを防御防御防御防御するするするする方向方向方向方向にににに働働働働くくくく一方一方一方一方でででで、、、、

前転移前転移前転移前転移ニッチニッチニッチニッチではではではでは paradoxicalparadoxicalparadoxicalparadoxical にもにもにもにも炎症炎症炎症炎症をををを mimicmimicmimicmimic するこするこするこすることでとでとでとで腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞のののの生存生存生存生存やややや増殖増殖増殖増殖をををを助助助助けるけるけるける方向方向方向方向

にににに働働働働くというくというくというくという 2222 面性面性面性面性((((doubledoubledoubledouble----edged sword;edged sword;edged sword;edged sword;諸刃諸刃諸刃諸刃のののの剣剣剣剣))))といえるのではないだろうかといえるのではないだろうかといえるのではないだろうかといえるのではないだろうか????

このように、炎症炎症炎症炎症やややや酸化酸化酸化酸化ストレスストレスストレスストレスといったといったといったといった免疫監視機構免疫監視機構免疫監視機構免疫監視機構にににに由来由来由来由来するするするする腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞をををを排除排除排除排除しようとすしようとすしようとすしようとす

るるるる微小環境微小環境微小環境微小環境がががが、、、、腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞によってによってによってによって修飾修飾修飾修飾されてむしろされてむしろされてむしろされてむしろ結果的結果的結果的結果的にににに浸潤浸潤浸潤浸潤・・・・転移転移転移転移をををを促進促進促進促進してしまうしてしまうしてしまうしてしまう

paradoxicalparadoxicalparadoxicalparadoxical なななな側面側面側面側面もももも存在存在存在存在しているしているしているしている点点点点に留意しなければならない。

ミエロイド系細胞系譜(myeloid cell-lineage)が Toll-like receptor(TLR)に代表されるパターン

認識受容体(pattern-recognition receptor:PRR)によって微生物・自己由来のパターン分子であ

る病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular pattern PAMP)やダメージ関連

分子パターン(damage-associated molecular pattern:DAMP)を認識する過程で起こる自然免

疫応答によって、腫瘍組織が免疫反応によって駆逐されることもあれば、腫瘍組織の浸潤・増悪

を許す危険性もある。実際に、骨髄系免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell; MDSC)と

呼ばれる好中球とマクロファージの両方の形質を兼ね備えた分化系譜を呈する細胞は、Gr1 陽性

かつ CD11b 陽性である。MDSC は MMP を活性化させることで腫瘍細胞の浸潤や血管新生を促進

する。抗原提示細胞である CD8 陽性 T リンパ球の産生する IL-12 に暴露されると、MDSC はリプロ

グラミングされて急性期炎症反応の際のサイトカイン(IL-1β、S100A8/9 など)を放出することで

抗腫瘍効果を発揮するという、paradoxical ながらもより効率的な治療に結び付く MDSC の可塑性

ある性質が報告されている(J Clin Invest. 2011;121:4746–4757.)。

このように、腫瘍免疫治療腫瘍免疫治療腫瘍免疫治療腫瘍免疫治療がががが容易容易容易容易にににに臨床的効果臨床的効果臨床的効果臨床的効果をををを上上上上げることができないげることができないげることができないげることができない根本的根本的根本的根本的なななな理由理由理由理由はははは、、、、ミエミエミエミエ

ロイドロイドロイドロイド細胞細胞細胞細胞のののの有有有有するするするする paradoxical responsesparadoxical responsesparadoxical responsesparadoxical responses がががが根底根底根底根底にあるにあるにあるにあると考えられる。樹状細胞と腫瘍随伴性マ

クロファージはともに、PAMP や DAMP に反応することが可能だが、2 種類の細胞の機能する組織

環境は互いに異なる。加えて、樹状細胞と腫瘍随伴性マクロファージが誘導、活性化されるため

に必要な PAMP や DAMP の種類も異なる可能性が大いに考えられる。

【TGF-βシグナルと制御性 T 細胞による癌幹細胞の免疫監視からの回避機構】

抗腫瘍免疫が担癌病態に伴って減弱していく現象の背景には、①①①①腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞ののののクラスクラスクラスクラス IIII MHCMHCMHCMHC 発発発発

現現現現のののの低下低下低下低下などのなどのなどのなどの腫瘍抗原腫瘍抗原腫瘍抗原腫瘍抗原のののの発現低下発現低下発現低下発現低下、、、、②②②②免疫抑制性免疫抑制性免疫抑制性免疫抑制性サイトカインサイトカインサイトカインサイトカインであるであるであるである TGFTGFTGFTGF----ββββのののの分泌分泌分泌分泌などがあ

ることが、かなり以前から知られてきた。免疫生物学と腫瘍生物学の融合において常に問題視さ

れてきた点は、腫瘍に対する免疫機構が二面性(double-edged sword)を有していることである。

好 例 と し て 、 IL-12 は Th1 を 誘 導 す る こ と で 抗 腫 瘍 免 疫 を 促 進 す る が 、 IL-23 は

CD4+/CD25+/FOXP3+を呈する制御性 T 細胞(regulatory T cell; Treg)の分化を誘導することで

むしろ腫瘍の成長を促進させる。2 つの主因として、Th17Th17Th17Th17 優位優位優位優位のののの微小環境微小環境微小環境微小環境ではではではでは Th1Th1Th1Th1 のののの抑制抑制抑制抑制とととと ILILILIL----6666

な ど のな ど のな ど のな ど の 腫 瘍 成 長腫 瘍 成 長腫 瘍 成 長腫 瘍 成 長 をををを 促 進促 進促 進促 進 す るす るす るす る サ イ ト カ イ ンサ イ ト カ イ ンサ イ ト カ イ ンサ イ ト カ イ ン のののの 産 生 亢 進産 生 亢 進産 生 亢 進産 生 亢 進 が 考 え ら れ て い る (Cancer Cell.

2009;15:114-23.)。

まず古典的な腫瘍免疫学の立場から MHC 分子発現と免疫回避機構について、そして近年注

目を集めている腫瘍微小環境における Treg と TGFβ(transforming growth factorβ,トランスフ

ォーミング増殖因子β)シグナルの関連性について癌幹細胞の観点から概説する。

クラス I MHC 分子の溝には腫瘍抗原由来ペプチドが組み込まれており、これが腫瘍細胞特異

的な CD8 陽性 T 細胞の標的となる。クラス I MHC 分子は「どのようにして正常細胞と腫瘍細胞を

見分けているか」に重要であるが、腫瘍細胞におけるβ2 ミクログロブリンの消失やプロテアソー

ムの機能異常によって、クラス I MHC 発現の低下などの腫瘍抗原の発現低下が起こる。細胞内

在性のプロセッシング酵素として働くプロテアソームのうち、LMP(low-molecular protein)-2,7 や

TAP(transporter assciated with antigen processing)の欠損が頻繁に腫瘍細胞では認められるた

めである(J. Exp. Med. 1993;177:265-272.)。

従来の免疫生物学では、CD8 陽性 T 細胞以外にナチュラルキラー細胞(NK 細胞)による抗腫瘍

免疫作用が spare されると考えられてきたが、NK 細胞の表面に存在する MHC クラスⅠ分子を認

識する抑制性受容体 ITIM(Immunoreceptor Tyrosine based Inhibition Motif)が機能することがで

きないことが明らかにされた(Immunol Rev. 2008;224:70-84.)。腫瘍細胞は正常細胞と比べて無

秩序に大量の TGF-βを分泌することで CD4 陽性 T 細胞による免疫作用が抑制されることが知ら

れてきた。持続的ウイルス感染や慢性炎症などが引き金となって腫瘍細胞に対する抑制シグナ

ルが破綻すると、前癌病変の細胞には Ras を含むジェネティック/エピジェネティックな変異が多

段階的に蓄積し、無秩序な増殖性を示す非浸潤段階の悪性度の低い腫瘍病変が形成される。さ

らに進行癌になると、TGF-βシグナルは Ras カスケードなど増殖に関与するシグナルと協調して

腫瘍細胞に働きかけて、浸潤・転移能や自律的的な増殖能などの悪性化という形質の獲得を積

極的に促進すると報告されている(Trends Cell Biol. 2001;11:S44-51.)。言い換えると、TGFTGFTGFTGF----ββββシグシグシグシグ

ナルナルナルナルはははは癌癌癌癌のののの進展進展進展進展にににに伴伴伴伴ってってってって腫瘍抑制的腫瘍抑制的腫瘍抑制的腫瘍抑制的にもにもにもにも、、、、促進的促進的促進的促進的にもにもにもにも働働働働くというくというくというくという二面二面二面二面性性性性をををを有有有有しているしているしているしている。

確かに腫瘍細胞は主たる TGF-β産生の源であるが、Treg からも TGF-βは供給される。TGF-

βは CD4 陽性 T 細胞での IL-2 遺伝子発現を抑制するだけでなく、樹状細胞の分化を抑制する

(Trends Cell Biol. 2001;11:S44-51.)。進行期のメラノーマ約 50 例に対して樹状細胞由来ペプチド

ワクチンと少量の IL-2、IFN-αの投与療法は、CD4(+)/CD25(+)の Treg による抗炎症性サイトカイ

ン IL-10 産生を抑制し、腫瘍免疫を活性化することで予後改善を認めた(Scand J Immunol.

2011;73:222-33.)。癌幹細胞癌幹細胞癌幹細胞癌幹細胞がががが TregTregTregTreg をををを誘導誘導誘導誘導するようなするようなするようなするような免疫逃避能力免疫逃避能力免疫逃避能力免疫逃避能力をををを最最最最もももも強強強強くくくく兼兼兼兼ねねねね備備備備えているこえているこえているこえているこ

とがとがとがとが示唆示唆示唆示唆されつつあるされつつあるされつつあるされつつある。具体的には、CD4(+)/CD25(+)/Foxp3(+)であるTregがTGF-β依存的に

多く誘導されている(Cancer Sci. 2009;101 : 855‒861.)。

つい最近、T 細胞の分化を司る転写因子 Eomesodermin(Eomes)が TGFβによって抑制される

際に、驚くべきことに、JNK-c-Jun 経路を介して抑制されるという、Smad 非依存性の Th17 細胞の

新規分化誘導機構が証明された(Immunity. 2011;34:741-54.)。このように、TGF-βの腫瘍免疫機

構に対する制御機構は未だ完全には解明されていない。だが、Treg をはじめとする免疫担当細

胞を制御する能力に関する腫瘍組織中のヘテロ不均一性はこれまでのさまざまな研究によって

再現性があり、免疫回避機構においても癌幹細胞(CSC)と非癌幹細胞(non-CSC)という階層性モ

デルが存在することを裏付けている。

【担癌患者に対する免疫療法の個別化治療に向けての新規戦略】

【【【【Take Home MessageTake Home MessageTake Home MessageTake Home Message】】】】

1111::::Selection of PDSelection of PDSelection of PDSelection of PD----1(programmed cell death1(programmed cell death1(programmed cell death1(programmed cell death----1), TIM1), TIM1), TIM1), TIM----3 (T cell immunoglobulin and mucin 3 (T cell immunoglobulin and mucin 3 (T cell immunoglobulin and mucin 3 (T cell immunoglobulin and mucin

domaindomaindomaindomain----containing proteincontaining proteincontaining proteincontaining protein----3), 413), 413), 413), 41----BB in the fresh melanoma digest are enriched for tumor BB in the fresh melanoma digest are enriched for tumor BB in the fresh melanoma digest are enriched for tumor BB in the fresh melanoma digest are enriched for tumor

reactive cells.reactive cells.reactive cells.reactive cells.

2222 :::: T cells recognize muT cells recognize muT cells recognize muT cells recognize mutated epitopes are included within PDtated epitopes are included within PDtated epitopes are included within PDtated epitopes are included within PD----1+/TIM1+/TIM1+/TIM1+/TIM----3+/LAG33+/LAG33+/LAG33+/LAG3

((((lymphocyte activation gene 3 proteinlymphocyte activation gene 3 proteinlymphocyte activation gene 3 proteinlymphocyte activation gene 3 protein))))+/41BB++/41BB++/41BB++/41BB+----derived cells.derived cells.derived cells.derived cells.

3333::::TCR (T cell receptor)TCR (T cell receptor)TCR (T cell receptor)TCR (T cell receptor)----beta clonotype analysis suggests that PD1+beta clonotype analysis suggests that PD1+beta clonotype analysis suggests that PD1+beta clonotype analysis suggests that PD1+----derived cells have derived cells have derived cells have derived cells have

undergone clonal expansion.undergone clonal expansion.undergone clonal expansion.undergone clonal expansion.

***

こうした分子腫瘍免疫学の発展、理解に伴って、制御性 T リンパ球(Treg)などを標的とした免

疫監視機構を回避する腫瘍細胞のシステムをオフにするという治療戦略が進められている。免疫

寛容状態を誘導する中心的な存在である Treg を除去して本来 host の抗腫瘍免疫能を復活させ

ることを目的とした治療戦略が一般的である。Treg や MDSC(myeloid-derived suppressor cell)の

よ う な CTL の 機 能 を 抑 制 す る 方 向 に 働 く 細 胞 に 対 し て 、 Treg で 高 発 現 を 呈 す る

GITRL(glucocorticoid-Induced TNF receptor-related ligand)や Treg の転写因子である FOXP3 の

発現を減弱させる試みがなされている。転写因子 Foxp3 は、 胸腺、末梢血においての

CD4/CD25 double positive の T 細胞に特異的に発現している。制御性 T 細胞以外の T 細胞に

Foxp3 を ectopic に強制発現させると、それのみでインターロイキン-2(IL-2)やインターフェロン-

γ(IFN-γ)などのサイトカインの産生が抑制されて、また、CD25 や GITRL のように制御性 T リン

パ球の機能に必要な分子の発現が顕著に増加する。(Scand J Immunol. 2009;70:326-36., Int

Immunol. 2010;22:259-70.,Curr Opin Immunol. 2012;24:217-24.)。こうした戦略で開発された治療

薬の一例としては、2011 年 3 月に FDA によって承認された ipilimumab があり、実際にメラノーマ

や非小細胞肺癌の患者で臨床応用されている(Curr Stem Cell Res Ther. 2012;7:217-28.)。

Treg は CD4 陽性のヘルパーT リンパ球や CD8 陽性 T リンパ球とは独立して commit した免疫

細胞であり、慢性炎症や低酸素などの微小環境の変化に対して、Treg の分化誘導におけるマス

ターレギュレーターである転写因子である Foxp3によってTregは分化状態を安定に維持している。

しかしながら近年になって、Treg の分化状態はこれまで考えられてきたほど静的(static model)で

はなく、慢性炎症など微小環境の変動に依存して Foxp3 の発現および免疫応答の抑制機能を喪

失して、他の系譜に分化したヘルパーT 細胞へと“リプログラミング(reprogramming)”されるとい

う 動 的 な 存 在 で あ る こ と ( dynamic model ) が 注 目 視 さ れ て い る ( Nat. Immunol.

2009;10:1000-1007., Trends Immunol.2011;32:301-306.)。

PD-1(Programmed cell death 1)受容体は T 細胞膜に存在しており、T 細胞の活性化を抑

制する機能を介して、「自己」に対する免疫反応を抑制する。免疫反応が抑制される際には、

PD-1 受容体にリガンドである PD-L1 が結合することが証明されている。一方で、腫瘍細胞

はリガンドである PD-L1 をパラクライン的に発現分泌して、PD-1 受容体と結合することで

免疫反応を抑制し、免疫監視機構から逃れることが明らかになってきている。抗 PD-1 抗体

は PD-1 受容体に結合することで、腫瘍細胞が発現する PD-L1 や PD-L2 と PD-1 受容体が結

合するのを阻害して、その結果として、腫瘍細胞への免疫反応による攻撃が起こることが

期待されている。PD-1 受容体(programmed death-1 receptor)の活性化を阻害することで、

制御性 T リンパ球(Treg)の分化マスターレギュレーター転写因子である FOXP3 の発現を

抑制することで、Treg によるメラノーマの免疫回避機構を抑制することが可能となる(Int

Immunol. 2009;21:1065-77.)。免疫反応が抑制される際に PD-1 受容体は腫瘍細胞が発現・分

泌するリガンドと結合して活性化される。メラノーマ、腎癌、非小細胞性肺癌などに対し

て PD-1 受容体に対するモノクローナル抗体である BMS-936558 の臨床試験(Phase I)が行

われ安全性と一定の治療効果が報告された(N Engl J Med. 2012;366:2443-2454)。米国 Johns

Hopkins 大学の Suzanne L. Topalian 博士らは米国 Chicago で開催された第 48 回米国臨床腫

瘍学会(ASCO2012)でこの臨床試験の成果を発表した。

腫瘍組織浸潤腫瘍組織浸潤腫瘍組織浸潤腫瘍組織浸潤 TTTT リンパリンパリンパリンパ球球球球((((TumorTumorTumorTumor----infiltrating lymphocyteinfiltrating lymphocyteinfiltrating lymphocyteinfiltrating lymphocyte))))療法療法療法療法は腫瘍組織に浸潤している

CD8 陽性 T リンパ球を ex vivo にて、IL-2 によって活性化させて expansion させた後に担癌

患者に戻すという治療法であり転移性メラノーマの治療として有効であることが証明され

ている(Clin. Oncol. 2005;23:2346–57.)。TIL は既に腫瘍細胞に特異的に発現しているタンパ

ク質をエピトープ(epitope)として活性化しているために、ex vivo で遺伝子改変せずに IL-2

によって expansion させるだけでも十分に抗腫瘍効果を発揮すると考えられてきた。既に本

塾では、先端医科学研究所細胞情報部門河上教授、皮膚科天谷教授が中心となって TIL 療法

の共同臨床研究を NCI の Steven A. Rosenberg 博士らと近日中に実施する予定である。

メラノーマや悪性リンパ腫をはじめとする腫瘍細胞に特異的な CTL (cytotoxic

lymphocyte)の clone から TCR 遺伝子を単離して、担癌患者のリンパ球に遺伝子導入するこ

とによって、大量の CTL を効率よく誘導することが可能となり、免疫遺伝子治療へ結びつ

くことが期待されている。言い換えれば、腫瘍特異抗原に特異的な Tcell receptor(TCR)

遣伝子を自家 T 細胞(autologous T cells)に導入して、ex vivo で clonal expansion させるこ

とが可能となったのである。(Science. 2006;314:126-129., Blood. 2009;114:535-546.)。

既にこの ACTACTACTACT((((adoptive T cell transferadoptive T cell transferadoptive T cell transferadoptive T cell transfer;;;;養子免疫療法養子免疫療法養子免疫療法養子免疫療法))))と呼ばれる本手法を用いた遺伝

子導入 T 細胞がヒト腫瘍特異的細胞傷害活性を呈することが確認されており、臨床研究も

行われ、さらなる課題も顕在化しつつあり、さまざまな工夫がなされつつある。具体例と

して癌遺伝子である epidermal growth factor variant III(EGFRvIII)はグリオーマに高発

現している腫瘍特異的に発現している抗原である。EGFRvIII は興味深いことに、腫瘍細胞の

生存増殖や浸潤転移といった malignant potential に寄与する一方で、正常細胞にはいっさい

発現しておらず、免疫療法の標的として有望と考えられてきている。EGFRvIII の変異ペプチ

ドをエピトープとした癌ワクチン療法や樹状細胞療法の臨床試験が既に進められている。

(Clin.Cancer Res.2003;9:4247-4254.,Clin Cancer Res. 2006;12:2326-2330. , Clin Cancer

Res. 2007;13:5256-61., Nature 2012; 490:412-418.)。

TILTILTILTIL 療法療法療法療法とととと比較比較比較比較してしてしてして ACTACTACTACT 療法療法療法療法がががが優優優優れているれているれているれている点点点点はははは、、、、腫瘍組織腫瘍組織腫瘍組織腫瘍組織をををを採取採取採取採取できないできないできないできない症例症例症例症例(【(【(【(【例例例例】】】】脳脳脳脳

組織深部組織深部組織深部組織深部にににに発生発生発生発生したしたしたした膠芽腫膠芽腫膠芽腫膠芽腫などなどなどなど))))ではではではでは TILTILTILTIL 療法療法療法療法をををを実施実施実施実施することはすることはすることはすることは不可能不可能不可能不可能であるがであるがであるがであるが、、、、ACTACTACTACT 療療療療

法法法法ではではではでは腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞にににに特異的特異的特異的特異的ななななエピトープエピトープエピトープエピトープをををを同定同定同定同定さえすればさえすればさえすればさえすれば抗腫瘍効果抗腫瘍効果抗腫瘍効果抗腫瘍効果をををを発揮発揮発揮発揮するするするする免疫細胞免疫細胞免疫細胞免疫細胞をををを

樹立増殖樹立増殖樹立増殖樹立増殖してしてしてして担癌患者担癌患者担癌患者担癌患者にににに投与投与投与投与することができるというすることができるというすることができるというすることができるという点点点点であるであるであるである。。。。

キーポイント:Adoptive Cell Transfer (ACT;養子免疫療法)が何故有効な治療法なのか?

癌ワクチンはこれまで数多くの癌種に対して臨床試験が行われてきたが、例えばアンド

ロゲン耐性型前立腺癌(castration-resistant prostate cancer)ではわずか 4.1 か月の生存期

間の延長を認めたに過ぎず(NEJM 2010;363:411-422.)、長期間にわたり腫瘍細胞の増殖を

抑制する画期的な治療法とは残念ながら言えない。そのような背景もあって、癌ペプチドワ

クチン療法は従来の抗癌剤を用いた治療と有意な治療効果の向上を証明できないと判断し、

2004 年の段階で Steven Rosenberg 博士らは癌ワクチンに対して否定的な見解を示し、新しい腫

瘍免疫療法の開発として ACT などの新規の免疫学的療法に着目した。

1111::::Large number of antiLarge number of antiLarge number of antiLarge number of anti----tumor cells can be cultured.tumor cells can be cultured.tumor cells can be cultured.tumor cells can be cultured.

2222::::High avidity antiHigh avidity antiHigh avidity antiHigh avidity anti----tumor cells can be detected in vitro assays or created in vitro by tumor cells can be detected in vitro assays or created in vitro by tumor cells can be detected in vitro assays or created in vitro by tumor cells can be detected in vitro assays or created in vitro by

genetic engineering.genetic engineering.genetic engineering.genetic engineering.

3333::::The host can be manipulaThe host can be manipulaThe host can be manipulaThe host can be manipulated to provide a favorable tumor microenvironment prior to ted to provide a favorable tumor microenvironment prior to ted to provide a favorable tumor microenvironment prior to ted to provide a favorable tumor microenvironment prior to

administering the cells.administering the cells.administering the cells.administering the cells.

⇒抗癌剤を投与、全身放射線照射してから IL-2 を投与することで劇的に抗腫瘍効果が高

まる。

【例】メラノーマの肝臓、脳の多発性転移が 1 か月で CR(Complete Response)

11 月 30 日のセミナーでの最大のメッセージとして Steven A. Rosenberg 博士はこう述べ

ている。

The combination of TIL The combination of TIL The combination of TIL The combination of TIL and ILand ILand ILand IL----2 appears to be capable of 2 appears to be capable of 2 appears to be capable of 2 appears to be capable of

eliminating the last cancer cell.eliminating the last cancer cell.eliminating the last cancer cell.eliminating the last cancer cell.

メラノーマは他の腫瘍と比較して圧倒的に遺伝子変異のfrequencyが多いことが知られて

いる。また、TIL が認められる癌種もメラノーマに限局される。河上教授が発見されたメラ

ノーマ特異的抗原である gp100 や MART1、Wang 博士が発見された TRP-2 などから考えて

も、皮膚癌の中でもそして神経堤(neural crest)細胞由来の癌種としても非常に特異度の

高い腫瘍であることが窺える。

また、ヒトの MHCI を発現しているトランスジェニックマウスに対してヒト腫瘍抗原を特

異的に感作させたのちに、レトロウィルスベクターにその T 細胞受容体(TCR)を導入して

増幅させて、最終的にヒトの CD8 陽性 T リンパ球に発現させて体内に戻すという治療法も

開発、臨床応用されている(Nature 2012;482:405-409.)。

既にグリオーマ、乳癌、滑膜肉腫、メラノーマ、リンパ腫などの msenchymal-type(間葉

系)な腫瘍で ACT 療法が有効であることが証明されている。しかし今後の研究で、さらに

数多くの癌種で免疫学的治療を実現化させていくためには以下のような戦略が考えられて

いる。

■■■■ILILILIL----12121212 はははは腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞にににに対対対対してしてしてして cytotoxiccytotoxiccytotoxiccytotoxic であるためであるためであるためであるため NFATNFATNFATNFAT プロモータープロモータープロモータープロモーター下流下流下流下流ににににヒトヒトヒトヒト ILILILIL----12121212 遺遺遺遺

伝子伝子伝子伝子をををを挿入挿入挿入挿入したしたしたした遺伝子改変遺伝子改変遺伝子改変遺伝子改変リンパリンパリンパリンパ球球球球のののの投与投与投与投与によるによるによるによる腫瘍局所的腫瘍局所的腫瘍局所的腫瘍局所的なななな ILILILIL----12121212 活性化活性化活性化活性化によるによるによるによる治療治療治療治療

…………NFATNFATNFATNFAT((((Nuclear factor activated TcellNuclear factor activated TcellNuclear factor activated TcellNuclear factor activated Tcell))))転写因子転写因子転写因子転写因子ははははカルシウムカルシウムカルシウムカルシウムややややカルモジュリンカルモジュリンカルモジュリンカルモジュリン依存型依存型依存型依存型のののの

セリンセリンセリンセリン脱脱脱脱リンリンリンリン酸酵素酸酵素酸酵素酸酵素ややややカルシニュカルシニュカルシニュカルシニュ----リンリンリンリンによりによりによりにより活性化活性化活性化活性化されてされてされてされて核内核内核内核内にににに移行移行移行移行してしてしてして、、、、NFATNFATNFATNFAT ははははインインインイン

ターロイキターロイキターロイキターロイキンンンン----2222((((ILILILIL----2222))))のののの発現発現発現発現をををを誘導誘導誘導誘導するするするする。。。。抗原提示細胞抗原提示細胞抗原提示細胞抗原提示細胞((((APCAPCAPCAPC))))がががが TCRTCRTCRTCR にににに結合結合結合結合してしてしてして細胞内細胞内細胞内細胞内

CaCaCaCa 濃度濃度濃度濃度がががが増加増加増加増加してしてしてして即時即時即時即時にににに活性化活性化活性化活性化するするするする NFATNFATNFATNFAT ののののプロモータープロモータープロモータープロモーターのののの特質特質特質特質をををを利用利用利用利用したしたしたした戦略戦略戦略戦略とととと言言言言えるえるえるえる。。。。

■■■■VEGFR2VEGFR2VEGFR2VEGFR2 やややや FAPFAPFAPFAP をををを標的標的標的標的エピトープエピトープエピトープエピトープとしたとしたとしたとした遺伝子改変遺伝子改変遺伝子改変遺伝子改変リンパリンパリンパリンパ球球球球のののの投与投与投与投与によるによるによるによる腫瘍間質腫瘍間質腫瘍間質腫瘍間質、、、、

新生血管新生血管新生血管新生血管をををを標的標的標的標的としたとしたとしたとした免疫学的治療免疫学的治療免疫学的治療免疫学的治療

…………膵癌膵癌膵癌膵癌やややや卵巣癌卵巣癌卵巣癌卵巣癌などのようになどのようになどのようになどのようにヒアルロンヒアルロンヒアルロンヒアルロン酸酸酸酸などのなどのなどのなどの ECMECMECMECM がががが豊富豊富豊富豊富でででで腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞をををを取取取取りりりり囲囲囲囲みみみみニッチニッチニッチニッチ

(niche(niche(niche(niche))))というというというという至適至適至適至適なななな微小環境微小環境微小環境微小環境へのへのへのへの依存性依存性依存性依存性のののの高高高高いいいい癌種癌種癌種癌種をををを攻撃攻撃攻撃攻撃やややや、、、、腎細胞癌腎細胞癌腎細胞癌腎細胞癌、、、、グリオーマグリオーマグリオーマグリオーマのよのよのよのよ

うにうにうにうに血管新生血管新生血管新生血管新生のののの豊富豊富豊富豊富なななな癌種癌種癌種癌種でででで治療効果治療効果治療効果治療効果がががが大大大大いにいにいにいに期待期待期待期待でででできるきるきるきる。。。。

■■■■EBVEBVEBVEBV((((EpsteinEpsteinEpsteinEpstein----Barr virusBarr virusBarr virusBarr virus))))によるによるによるによる腫瘍腫瘍腫瘍腫瘍((((バーキットリンパバーキットリンパバーキットリンパバーキットリンパ腫腫腫腫、、、、上咽頭癌上咽頭癌上咽頭癌上咽頭癌、、、、節外性節外性節外性節外性 NKNKNKNK リリリリ

ンパンパンパンパ腫腫腫腫、、、、膿胸関連膿胸関連膿胸関連膿胸関連リンパリンパリンパリンパ腫腫腫腫、、、、胃癌胃癌胃癌胃癌などなどなどなど))))やややや HPV (human papilloma virus)HPV (human papilloma virus)HPV (human papilloma virus)HPV (human papilloma virus)によるによるによるによる腫瘍腫瘍腫瘍腫瘍((((子宮頚子宮頚子宮頚子宮頚

癌癌癌癌、、、、口腔癌口腔癌口腔癌口腔癌などなどなどなど))))、、、、HTLVHTLVHTLVHTLV----1111((((成人成人成人成人 TTTT 細胞性白血球細胞性白血球細胞性白血球細胞性白血球;ATL;ATL;ATL;ATL))))にににに対対対対してしてしてして、、、、ウィルスウィルスウィルスウィルス特異的抗原特異的抗原特異的抗原特異的抗原をををを特特特特

異的異的異的異的にににに認識認識認識認識するようにするようにするようにするように遺伝子改変遺伝子改変遺伝子改変遺伝子改変したしたしたした TTTT リンパリンパリンパリンパ球球球球のののの投与投与投与投与。。。。

…………腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞にににに発現発現発現発現しているしているしているしているウィルスウィルスウィルスウィルス抗原抗原抗原抗原をををを標的標的標的標的としているためとしているためとしているためとしているため、、、、組織特異性組織特異性組織特異性組織特異性のののの高高高高いいいい治療法治療法治療法治療法

がががが期待期待期待期待できるできるできるできる。。。。但但但但しししし、、、、ドライバードライバードライバードライバー遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子のののの活性化活性化活性化活性化などなどなどなど発癌過程発癌過程発癌過程発癌過程のみのみのみのみにににに必要必要必要必要ななななウィルスウィルスウィルスウィルスであであであであ

るるるる場合場合場合場合にはにはにはには、、、、腫瘍組織腫瘍組織腫瘍組織腫瘍組織のののの維持維持維持維持とはとはとはとは無関係無関係無関係無関係なのでなのでなのでなので治療効果治療効果治療効果治療効果はそれほどはそれほどはそれほどはそれほど期待期待期待期待できないとできないとできないとできないと思思思思われわれわれわれ

るるるる。。。。

…………担癌患者体内担癌患者体内担癌患者体内担癌患者体内のののの腫瘍抗原腫瘍抗原腫瘍抗原腫瘍抗原をををを認識認識認識認識するするするする TTTT 細胞受容体細胞受容体細胞受容体細胞受容体のののの解析解析解析解析のののの結果結果結果結果、、、、抗腫瘍効果抗腫瘍効果抗腫瘍効果抗腫瘍効果をををを発揮発揮発揮発揮できできできでき

るるるる CD8CD8CD8CD8 陽性陽性陽性陽性 TTTT 細胞細胞細胞細胞のののの消失消失消失消失((((depletiondepletiondepletiondepletion))))やややや不応答性不応答性不応答性不応答性((((anergyanergyanergyanergy))))がががが起起起起こるだけでなくこるだけでなくこるだけでなくこるだけでなく、、、、腫瘍腫瘍腫瘍腫瘍にににに

対対対対するするするする免疫反応免疫反応免疫反応免疫反応をををを抑制抑制抑制抑制するするするする方向方向方向方向にににに働働働働くくくく MDSCMDSCMDSCMDSC やややや TregTregTregTreg((((制御性制御性制御性制御性 TTTT 細胞細胞細胞細胞))))などがなどがなどがなどが増加増加増加増加しているしているしているしている。。。。

体内移入した CTL の長期的な生存・増殖が困難なことであり、その克服として、IL-2 の

併用やnaïve T細胞やcentral memory T細胞の活用などが重要視されている(Proc Natl Acad

Sci U S A. 2012;109:4592-7.)。また、サイトメガロウイルス(CMV)特異的な CTL の clone

に腫瘍特異的 TCR 遺伝子を導入することで、体内にウイルス抗原刺激を加えることによっ

て、CTL の持続的活性化を図ろうとする試みも報告されている。成熟 T 細胞への腫瘍抗原

を特異的に認識する TCR を遺伝子導入することによって、理論的には 1 つの CTL が 4 種類

の TCR 特異性を獲得することになる。この治療法は、移植片対白血病効果(GVL 効果; Graft

Versus Leukemia Effect)と類似している。白血病の治療では造血幹細胞移植を行った後に、

ドナーのリンパ球が白血病細胞を異物と認識して攻撃することで、腫瘍組織が縮小または

死滅することにより再発の予防が期待できる。しかしながら本事実は、腫瘍特異的 CTL 活

性の減弱に加えて、治療誘発性に GVHD(graft-versus-host-disease)を惹起する危険をはら

んでいるともいえる。(Blood. 2009;114:1958-67., Clin Infect Dis. 2011;52 : 58-60.)。

【癌ワクチン療法の歴史と現状 ~今後のトランスレーショナル研究の展望~】

免疫システムによる腫瘍組織に対する生体内での作用は感染症による腫瘍縮退から既に18世

紀には推察されており、1893 年になって Coley らの研究グループがグラム陽性球菌を肉腫に注

射したところ、炎症反応に随伴する形で腫瘍の縮退を認めたことで実証されている(Expert Opin

Pharmacother. 2000;1:603-14.,Clin Orthop Relat Res. 1991;262:3-11.)。1970 年代に M.D.アンダ

ーソン癌センターで乳癌患者に対してウシ型結核菌であるBCGを5‐FU、アドリアマイシン、シクロ

ホスフォミドという抗癌剤レジメンに追加して投与したところ、無増悪期間(progression free

survival ; PFS) お よ び 全 生 存 期 間 ( overall survival ; OS) が 延 長 し た ( Annu Rev Med.

1977;28:489-515.)。1991 年にベルギーの Boon 博士らの研究グループがメラノーマ細胞を用い

て HLA 拘束性に特異的にメラノーマ細胞を攻撃する T 細胞である CTL(cytotoxic T lymphocyte)

が認識する分子である癌・精巣抗原の一つ MAGE-1(melanoma-associated antigen)を同定、単

離することに成功し、腫瘍抗原を樹状細胞などの抗原提示細胞(APC;antigen-presenting cell)が

提示しそのエピト—プを認識することで、腫瘍免疫が機能するという事実を明らかにした(Science

1991;254:1643-1647.)。この研究を基盤として、1995 年にメラノーマに対する HLAHLAHLAHLA----A1A1A1A1 拘束性拘束性拘束性拘束性

MAGEMAGEMAGEMAGE----3333 にににに対対対対するするするする癌癌癌癌ペプチドワクチンペプチドワクチンペプチドワクチンペプチドワクチンが開発され臨床研究(トランスレーショナルリサーチ)が実

施された(Cancer Res 1995;55:2236-2239.)。

しかしながら、研究デザインのプライマリーエンドポイントで(primary endpoint)である腫瘍縮小

効果に関しては、予想に反して、癌ペプチドワクチン療法は従来の抗癌剤を用いた治療と有意な

治療効果の向上を証明できず、2004 年当時から National Cancer Institute (NCI)に所属されてい

た今回の慶應医学賞受賞者 Steven Rosenberg 博士らは癌ワクチンに対して否定的な見解を示し

た。その後、細胞免疫学、遺伝子発現網羅的解析の発展に伴って、治療標的となる候補抗原同

定法の発展や免疫アジュバントや腫瘍免疫抑制シグナルに対する技術開発が可能となり、癌ワク

チン療法は目覚ましい進歩を遂げることになった。

2007 年に The Cancer Vaccine Clinical Trial Working Group から腫瘍免疫療法の臨床試験に関

する論文が発表され、「癌免疫療法の臨床試験を実施する際には必ず proof of principle (POP)を

実証してから治療効果を判定する研究デザインを組んで臨床試験を実施するように」という推奨

がなされた。癌免疫療法の基礎研究を臨床応用する際のアルゴリズムとしては重要なステップを

明示したうえでフローチャートを作成することや、臨床試験の評価法としては腫瘍サイズの縮退に

重点を置いた RECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)という化学療法治験の評価

法ではなく、免疫学的評価基準(irRC; immune-related response criteria)が適していることなどが

提唱されている(Journal of Immunotherapy 2007;30:1-15.)。その後、さまざまな癌腫に対して、

腫瘍免疫治療、癌ワクチンの開発が行われたが、その一つとして 2010 年に転移性アンドロゲン

抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer)と呼ばれるホルモン療法に不応性を呈す

る前立腺癌に対して SipuleucelSipuleucelSipuleucelSipuleucel----TTTT が治療用ワクチンとして世界で初めて FDA によって認可された

のである(Expert Rev Anticancer Ther. 2011;11:25-8.)。

癌ワクチン療法は分子標的薬と同様に正常組織では比較的発現が少なく腫瘍細胞に特異的に

発現する傾向にある分子を標的としているため、副作用(side effect)は現れにくい。また高齢者

社会が進んでいる日本での癌患者の数が増加している現状を鑑みると、高齢者や基礎疾患を有

するなどで治療選択肢が狭められている患者さんの QOL(quality of life)を相対的に損なわずに

治療を継続することができると期待されている。また、特記すべき点として癌ワクチンによる免疫

療法と抗癌剤・放射線などの従来の治療法は、治療メカニズムが全く異なる点から、理論的には

既存の薬物療法や放射線治療による adaptive resistance を増悪させる可能性は少ないと思われ

る。言い換えると、同じ細胞傷害性であっても抗癌剤とは異なる毒性プロフィールであるため、腫

瘍免疫療法が既存の薬物療法などの限界を補完できると大いに期待されている。

【質問】

1111----1111

転移性の進行度メラノーマの患者末梢血から分離したエクソソーム(exosome)は、TYRP2、

VLA-4、HSP70、MET、Rab27a などのメラノーマタンパク質を高濃度に含んでいる。そのた

め、治療経過での予後予測の有用なバイオマーカーとしての有用性が期待できます。転移

性が高いメラノーマのエクソソームは、受容体型チロシンキナーゼ MET を介して、骨髄前

駆細胞を絶えず「教育」することによって原発腫瘍の転移挙動を増加させます。メラノー

マ由来のエクソソームはまた、転移前の部位(pre-metastatic niche)で腫瘍細胞の血管漏出

(extravasation)を誘導し、骨髄前駆細胞を Met が陽性である血管形成誘導型の表現型へと

再プログラム化する可能性が高いとも報告されています(Nature Medicine.2012;18:883-891)。

以上の事実を踏まえて、ステージ 3、4 のメラノーマの患者さんのエクソソームで特異的に

発現している TYRP2、VLA-4、HSP70、MET、Rab27a などのタンパクを腫瘍免疫治療経過

におけるバイオマーカー(biomarker)にするのに対してはどうお考えでしょうか?

RAB1A, RAB5B, RAB7 and RAB27A, regulators of membrane trafficking and exosome

formation, are highly expressed in melanoma cells with advanced stage. Melanoma-derived

exosomes promote vascular leakiness at pre-metastatic sites, thereby inducing extravasation at

the metastatic foci and reprogramming bone marrow –derived progenitor cells (BMDCs). That is

why I think those molecules specific to melanoma-derived exosomes can be useful as biomarker

during the clinical course for the treatment with tumor vaccine. I am grateful to have your

opinion on the significance of exosome analysis as the biomarker during the treatment with

tumor vaccine.

1111----2222

自己免疫疾患の中には慢性炎症のためか発癌を惹起しやすい疾患が存在します。代表例と

して、PM/DM(多発性筋炎/皮膚筋炎)における胃癌、肺癌などの悪性腫瘍発症例や SjS(シ

ェーグレン症候群)における悪性リンパ腫発症例が挙げられます。これらの症例に対して

免疫を修飾する治療であるワクチン療法、樹状細胞療法などの安全性はどのようにお考え

でしょうか?

There exist several autoimmne disorders which trigger tumorigenesis probably due to chronic

inflammation. Typical examples are as follows; lung or gastric cancer in PM/DM, and malignant

lymphoma in Sjögren's syndrome. The clinical evidence about safety and efficacy of tumor

vaccine therapy has already established?

1111----3333

腫瘍抗原を特異的に認識する T リンパ球を用いた adoptive immunotherapy(養子免疫治療)

に対するメラノーマの治療抵抗性の原因が、腫瘍微小環境から分泌される炎症性サイトカ

インの一つである TNF-αによるメラノーマ細胞の脱分化に随伴する腫瘍抗原の陰性化であ

ることが最近明らかになりました(Nature 2012; 490:412-418.)。また図解の通り、メラノ

ーマは H3K4 ジメチラーゼである JARID1B (KDM5B/PLU-1/RBP2-H1)によるエピジェネティ

ックな制御によって腫瘍形成能などのステムニスにおいて、非常に高い可塑性を有する腫

瘍であることは以前から指摘されてきました(Cell. 2010;141:583-94.)。以上の事実を踏ま

えて、腫瘍細胞の分化度を規定する炎症性サイトカイン TNF-αや epigenetic modulator であ

る JARID1B を養子免疫治療におけるバイオマーカーや個別化治療決定因子にすることにつ

いてはどうお考えでしょうか?

It has recently been implicated that inflammatory cytokine TNF-alpha is mainly responsible for

the resistance of melanoma tissue against the adoptive cell transfer therapies (ACT) with

cytotoxic T lymphocytes that specifically target melanocytic antigens. Indeed, TNF-alpha

induces a reversible process of dedifferentiation. Furthermore, the expression of H3K4

demethylase JARID1B (KDM5B/PLU-1/RBP2-H1) is dynamically regulated during the clinical

course and does not follow a hierarchical cancer stem cell model because JARID1B-negative cells

can become positive and even single melanoma cells irrespective of selection are tumorigenic.

This plasticity of melanoma cells as a dynamic process mediated by a temporarily distinct

subpopulation is referred to as “dynamic stemness model,” as shown in the following figure.

These results strongly support the idea that the serum titer of TNF-alpha cytokine or the

expression level of JARRID1B in tumor tissue acquired by biopsy is expected to be the useful

biomarker. I am very appreciated if you would be kind to have your opinion.

1111----4444

なぜ TIL (Tumor-infiltrating lymphocyte)はメラノーマのみで認められるのでしょうか?遺伝

性ミスマッチ修復遺伝子に欠損のある遺伝性非ポリポーシス大腸癌(Linch syndrome)でも

免疫細胞の浸潤が高度であることは病理学的に知られていますが、TIL の存在は HNPCC の

患者に発症した大腸癌の組織でも稀である。メラノーマ特異的抗原である MART-1、gp-100

などは MHC-I クラス T 細胞が特異的に認識しやすい発現局在を呈しているのでしょうか?

I would like to know the reason why only advanced-staged melanoma shows the presence of

tumor-infiltrating lymphocytes (TIL). Even in the colon cancer tissue of the patients of the Linch

syndrome, which is well known to be rich in immunocytes in the tissue, there exists no TILs. Is

there any unique localization or expression pattern of MART1 or gp-100, which are both ezsily

recognized by CD8-positive T cells?

1111----5555

卵巣腫瘍に最もよく起こる転移形式は腹膜播種(種を蒔くように癌細胞が腹膜を広がっ

ていく転移)です。腹膜播種が進むと腹水が貯留してきます。その腹水中には数多くの癌

幹細胞がスフェロイド状に浮遊していることが知られています。最近になって、腹水を伴

う進行期の卵巣癌に対して、抗 EpCAM と抗 CD3 抗体を含むカツマキソマブ(Catumaxomab;

商品名レモマブ、Remomab)の劇的な臨床効果の有用性が注目されています。しかしなが

ら、腫瘍免疫学の観点から考えますと、カツマキソマブの薬理機序を TCR の抗原認識のシ

グナルが CD3 分子を介して T 細胞内に伝達されることを阻害してしまうことになり、T 細

胞の活性化を阻害することになります。そう考えるとこの薬剤は逆に腫瘍免疫監視機構を

阻害してしまうのではないでしょうか?

Ovarian cancer frequently causes intraperitoneal dissemination, so that advanced ovarian

cancer is often accompanied by severe ascites including spheroid enriched in cancer stem-like

cells. Catumaxomab, an anti-human EpCAM and anti-CD3 monoclonal bi-specific antibody, has

attracted clinical attention due to the dramatic curative effect for EpCAM-positive tumors which

are resistant to conventional chemotherapy. In the perspective of tumor immunology, CD3 is an

important molecule for performing a critical role in the augmentation of TCR (T cell receptor)

signaling response against cancer cells. It seems quite paradoxical that blocking of the CD3

signaling by Catumaxomab is useful for cancer treatment.

間野博行間野博行間野博行間野博行((((まのひろゆきまのひろゆきまのひろゆきまのひろゆき))))博士博士博士博士

自治医科大学分子病態治療研究自治医科大学分子病態治療研究自治医科大学分子病態治療研究自治医科大学分子病態治療研究センターゲノムセンターゲノムセンターゲノムセンターゲノム機能研究部教授機能研究部教授機能研究部教授機能研究部教授

東京大学大学院医学系研究科東京大学大学院医学系研究科東京大学大学院医学系研究科東京大学大学院医学系研究科ゲノムゲノムゲノムゲノム医学講座特任教授医学講座特任教授医学講座特任教授医学講座特任教授

授賞研究授賞研究授賞研究授賞研究テーマテーマテーマテーマ 「「「「肺肺肺肺がんがんがんがん原因遺伝子原因遺伝子原因遺伝子原因遺伝子 EML4EML4EML4EML4----ALK ALK ALK ALK のののの発見発見発見発見とととと分子標的分子標的分子標的分子標的

治療治療治療治療へのへのへのへの貢献貢献貢献貢献」」」」

演題名演題名演題名演題名::::Targeting Essential Growth Drivers in Human CancerTargeting Essential Growth Drivers in Human CancerTargeting Essential Growth Drivers in Human CancerTargeting Essential Growth Drivers in Human Cancer

問題問題問題問題 2222

間野博士間野博士間野博士間野博士のごのごのごのご講演講演講演講演・・・・間野博士間野博士間野博士間野博士のおのおのおのお仕事仕事仕事仕事でででで、、、、がんがんがんがん生物学生物学生物学生物学のののの進歩進歩進歩進歩にににに貢献貢献貢献貢献したしたしたした点点点点、、、、がががが

んんんん治療治療治療治療にににに貢献貢献貢献貢献したしたしたした点点点点をををを、、、、具体的具体的具体的具体的にににに述述述述べべべべ、、、、それにそれにそれにそれに基基基基づいてづいてづいてづいて、、、、今後今後今後今後のののの展開展開展開展開のののの可能性可能性可能性可能性

についてについてについてについて、、、、自分自分自分自分のののの意見意見意見意見をををを述述述述べなさいべなさいべなさいべなさい。。。。

【回答】

【正常肺幹細胞研究の最先端と肺癌の古典的病理学、肺癌幹細胞】

=肺組織の正常幹細胞について=

正常なさまざまな組織では幹細胞と呼ばれる細胞が存在している。幹細胞(stem cell)では、「自

己複製能」、すなわち自分自身のクローンを増幅させる能力と、「多分化能」、すなわち多様な細

胞の系統に分化していく能力の2つを併せ持っていることが重要であるとされている。個体の発生

も、おおもとを辿れば受精卵やES細胞の起源である内細胞塊(inner cell mass; ICM)であり、多分

化能をこれらの細胞が持っているからこそ、最終的にさまざまな組織や細胞が全身に分布するこ

とができるのである。加齢に伴ってそれぞれの組織での幹細胞は次第に減少していく。近年、とり

わけ注目されているのが、「脳の幹細胞」である。長らく脳には幹細胞は存在せず一度損傷を受け

た神経組織は絶対に修復しないと考えられてきたが、多くの研究グループによって、脳室下帯

(subventricular zone; SVZ)などに実は成人になっても神経幹細胞が存在することが報告されて

いる。

基底膜とは、上皮細胞とそれを機械的、物理的に支える間質組織との境界線を構成するもので

ある。組織幹細胞の維持には基底膜を構成する細胞外マトリックスからのインテグリン刺激などが

必須であることが多数の研究室から報告されている。自己複製によって生み出された正常組織の

幹細胞集団は、均一な幹細胞の集団では決してない。細胞周期を停止したおとなしい均一な幹

細胞の集団と、増殖・分化に必要な前駆細胞を生み出す細胞周期をフル回転させている幹細胞

とが混在して存在している。

組織ごとに分化増殖の頂点に位置する幹細胞と、最下層に位置する最終分化した大量の細胞

との中間には前駆細胞(transit amplifying cells; TA 細胞)というものが存在する。すなわち、正常

乳腺の幹細胞は前駆細胞を介して最終分化を遂げるのである。必要に応じてそれらを供給する

頂点に位置する幹細胞のバランスによって、組織の恒常性は長期にわたり維持される。さすがに

分化が進行した細胞では幹細胞に戻ることはできないが、TA 細胞は幹細胞に戻ることができると

いう可逆性を持っており、もっぱらこれを「可塑性(plasticity)」と呼ぶ。以上のように、正常組織の

恒常性(ホメオスタシス)を維持していくうえで、正常な組織幹細胞システムにおける自己複製と

分化増殖の fine tuning は、非常に精巧に制御されている必要がある。

細気管支上皮や肺胞上皮を構成する多彩な細胞への多分化能を有する肺正常組織幹細胞は

細気管支と肺胞の移行領域である broncho-alveolar duct junction (気管支肺胞性上皮接合部;

BADJ)に存在することが証明されており、bronchio-alveolar stem cell(BSC)と命名されている。

この BSC という幹細胞は clara cell secretory protein(CCSP)と surfactant protein(SP)-C という

2 種類のクララ細胞、杯細胞から分泌される界面活性剤に近いタンパク質を共発現していること

が特徴であると報告されている(Cell 2005;121:823-835.)。CCSP を発現している細胞の分化過

程を lineage-tracing 法を用いて調べたところ、CCSP 陽性細胞は自己複製能を呈し、線毛細胞へ

分化することができるが、肺胞上皮細胞への分化能を示さず、肺胞上皮の幹細胞/前駆細胞は別

に存在することが強く示唆されている(Cell Stem Cell 2009;4:525-534.)。CD90 を表面マーカ

ーとする pro-surfactant protein-C (pro-SP-C)陽性である間葉系幹細胞(MSC; mesenchymal stem

cell)がサ-ファクタントを産生する肺胞上皮Ⅱ型細胞に分化することが明らかになっている。この

CD90/pro-SP-C 共陽性の MSC では血管内皮前駆細胞や造血幹細胞/前駆細胞のマーカーであ

る CD34、CD45、CD31 や VEGF 受容体 II 型を発現しておらず、上皮細胞のマーカーである E-カド

ヘ リ ン も 陰 性 であ る こ と か ら 、間 葉 系 細 胞 と し て の 性 質 が CD90/pro-SP-C 共 陽 性 の

committed-MSC では保持されていることが示唆されている。逆に間葉系細胞のマーカーであるビ

メンチンやα/SMA の発現を認める。ナフタレンなどを用いた chemical-induced injury に随伴する

細気管支および肺胞上皮の修復再生において、これらのある程度 commit した MSC が上皮系細

胞 であ る 肺 胞 上 皮 Ⅱ 型 細 胞 に 分 化 増 殖 す る こ と が 明 ら か に され ている ( Lab Invest.

2011;91:363-78.)。

肺正常幹細胞の性質は正常乳腺幹細胞の性質と酷似していることが最近の研究で明らか

になり注目視されている。K5-CreER/Rosa-YFP マウスを用いた乳腺幹細胞に関する新しい

所見が報告されている。発生段階で CK14 陽性前駆細胞が乳腺を構築する全ての細胞系譜に

分化する能力を有している。E17 では腺房細胞マーカーである CK8 と筋線維芽細胞マーカ

ーである CK14 を両方発現している細胞が豊富に存在する。YFP 陽性細胞をドキシサイクリ

ン投与下でトレースしたところ、YFP 標識細胞集団と CD29(強陽性)、CD24(弱発現)細

胞集団とがほぼ一致した。ドキシサイクリン投与 10 週間後には、腺房細胞と筋線維芽細胞

それぞれに相互排他的に最終分化した像が認められる。また、上皮系統細胞の幹細胞マー

カーである Lgr5 は興味深いことに CK14 陽性の腺房細胞ではなく、筋線維芽細胞で多く発

現している。NOD/SCID マウス乳腺脂肪織への連続移植実験の結果、それぞれの系統前駆細

胞は既に commit した細胞系譜にしか分化しないという性質を示し、多分化能を喪失してい

た(Nature Letter 2011; 479:189-)。以上の結果から revised Model of Mammary differentiation

モデルが提唱されている。CK14 陽性の bi-potent progenitors(筋線維芽細胞と腺房細胞の 2

つの細胞系譜へと分化する能力)は成体のマウスでは喪失し、それぞれの細胞系譜にしか

分化増殖しなくなる(restricted-differentiation)。

妊娠でホルモン応答性の状態では、細胞のターンオーバーにより再構築される際に筋線

維芽前駆細胞(CK14 陽性)が脱分化、活性化して bi-potent 能を再び獲得して、腺房細胞前

駆細胞(CK8 陽性)を供給する。すなわち、従来従来従来従来のののの常常常常にににに乳腺組織乳腺組織乳腺組織乳腺組織をををを構築構築構築構築できるできるできるできる多分化能多分化能多分化能多分化能をををを

有有有有するようなするようなするようなするような幹細胞幹細胞幹細胞幹細胞はははは存在存在存在存在せずせずせずせず、「、「、「、「定常状態定常状態定常状態定常状態でででで dormantdormantdormantdormant かつかつかつかつ多分化能多分化能多分化能多分化能をををを有有有有さないさないさないさない筋線維芽細筋線維芽細筋線維芽細筋線維芽細

胞胞胞胞」」」」こそがこそがこそがこそが””””乳腺幹細胞乳腺幹細胞乳腺幹細胞乳腺幹細胞””””にににに相当相当相当相当するするするすると考えられる。

しかしながら、本論文には以下の矛盾点が存在する。これまで乳腺組織に散在すると考

えられていた CD24 陽性、CD49f 陽性の乳腺幹細胞では、ランダムに不活性化されるはずの

X 染色体がいずれの幹細胞でも一致していることから、発生初期の段階でどちらかの X 染

色体が lyonization(ライオニゼーション;Xist のような long non-coding RNA によってラン

ダムに一方の X 染色体が不活性化される現象)された幹細胞がモノクローナルに増殖して

いると考えられる(Cancer Res.1996;56:402‒404.)。しかし今回の論文と照らし合わせると、

乳腺組織再構築の際に複数の筋線維芽前駆細胞が脱分化、活性化して bi-potent となるため、

それぞれの不活性型 X 染色体は細胞ごとに異なるはずである。だからこそ「「「「筋線維芽前駆筋線維芽前駆筋線維芽前駆筋線維芽前駆

細胞由来細胞由来細胞由来細胞由来のののの bibibibi----potentpotentpotentpotent 能能能能をををを有有有有するするするする細胞細胞細胞細胞」」」」とととと従来従来従来従来のののの「「「「乳腺幹細胞乳腺幹細胞乳腺幹細胞乳腺幹細胞」」」」がががが同同同同じじじじ identityidentityidentityidentity であるかどであるかどであるかどであるかど

うかうかうかうか慎重慎重慎重慎重なななな検証検証検証検証がががが必要必要必要必要であるであるであるである。

=肺癌の病理組織像と肺癌幹細胞について=

肺癌の病理組織型の 90%以上は扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌、小細胞癌が4大組織型で

ある。小細胞癌と他の 3 つの組織型は非小細胞癌とに大別される。そのうち、扁平上皮癌

と小細胞癌は喫煙が発生に関与する。扁平上皮癌では腫瘍は肺門部で塊状の結節を形成し

気管支を巻き混むことで上大静脈症候群などを呈しやすく、病理学的には角化壊死した

cancer pearl (癌真珠)を認めることが多い。腺癌では高分化であることが多く、末梢に発生

した腺癌では既存の肺胞上皮組織を置換しつつ増殖することが多く、細気管支肺胞上皮癌

(BAC; broncho-alveolar carcinoma)の形態を呈することが多い。腫瘍細胞の細胞質にはア

ルシアンブルーで染色される粘液産生をみる。大細胞癌は大きな結節を形成することが多

く、腫瘍境界も明瞭であり、腫瘍周囲には肺内転移もみられることが多い。分化度は腺癌

などと比較して低いことが多く進行が早い。小細胞癌は神経内分泌系細胞と類似しており、

非常に悪性度が高く、転移を早い段階に起こしやすい。腫瘍細胞は軽度大小不同が見られ

るが、細胞の大きさは小型で核クロマチンは顆粒状で間質に乏しい傾向にある。ロゼット

の形成が認められることが多い。小細胞癌は神経内分泌系の細胞に近い形質があり、免疫

染色で CD56(N-CAM)やシナプトフィジンが細胞膜に陽性となる。CD56 および N-CAM は

病理診断上で非常に有用である。

肺癌幹細胞は正常肺組織の幹細胞と同様に bronchio-alveolar stem cells(BASCs)が

cell-of-origin になると考えられている。但し、肺癌の組織型は 4 つとも全く異なり BASC が

malignant transformation した後に、果たしてどのように組織型の違いが生じるのかどうか

は謎に包まれている。分化度に依るとはいえ腺癌のように腺管を形成する細胞もあれば、

小細胞癌のように神経内分泌系の細胞に近い形質と高い遊走能や浸潤能を獲得している細

胞もある。1 つの仮説として「BASCs(正常の肺組織の幹細胞)が癌化の初期化イベントを

辿った後にそれぞれの組織型に偽分化(pseudo-differentiation)する」と考えられるが、あ

まりにも cell context が組織型で異なるため、「組織型に依って cancer stem cell (cell-of-origin

of lung cancer)が異なる」という仮説の方が likely であると考えられる。実際、医学部時代

に暗記した「肺門部に発生しやすい組織型と末梢肺に発生しやすい組織型の分類」を思い

出すと、全ての肺癌幹細胞が bronchio-alveolar stem cells(BASCs)であるとは到底考えら

れない。

もう一つ重要なことは、非小細胞性肺癌の組織型と喫煙歴との関連性が大きく異なるこ

とである。実際に喫煙歴と発症率の相関性が高い組織型の肺癌細胞では Nrf2 と呼ばれるレ

ドックス制御分子に高率に変異が認められる。非ストレス状態の細胞において Nrf2 は Keap

1によって細胞質において核内移行が抑制されているが、親電子性物質・活性酸素・小胞

体ストレスなどの刺激を受けると、Nrf2 は Keap1の抑制が解除されて活性化され核内に移

行する。核内 Nrf2 は ARE element に結合することで、親電子性物質の解毒化酵素であるグ

ルタチオン S-転移酵素(GST)や NAD(P)H キノン還元酵素(NQO1)などの異物代謝酵

素群、グルタチオン合成酵素やヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)などの酸化ストレス防御遺

伝子群、抗炎症性遺伝子群、ユビキチンプロテアソーム系に関与する遺伝子群、ヘム・鉄

代謝遺伝子、薬物トランスポーター遺伝子などの遺伝子発現を統合的に制御しており、ス

トレスに対する恒常性維持機構として働いている(Trends Biochem. Sci.2009;34:176-188.)。

エラスターゼ誘発性肺気腫モデルにおいてマクロファージで Nrf2 依存的に発現し,好中球

エラスターゼ活性を阻害していることが報告された。また、CD36 は Nrf2-ARE の標的分子

の一つとして酸化 LDL によって発現誘導される因子として発見された経緯がある。タバコ

誘導性肺気腫モデルのマクロファージでは Nrf2 依存的に CD36 が誘導され、好中球の貪食

能に関与することが示唆されている(Genes Cells. 2005;10:1113-1125.)。特記すべき点として

は、喫煙による化学物質刺激や酸化ストレスによる DNA 損傷に基づく遺伝子変異に

oncogene-addicted した癌(幹)細胞と、全くそういった喫煙が誘発要因となる機序に関係

ない組織型での癌(幹)細胞とを同一と考えるのも飛躍があると考えられる。

=分子病理学的な観点からの ALKoma について=

2012 年 4 月の第 101 回病理学会総会のランチョンセミナーで癌研の間野博士のもとで研

鑽を積まれた竹内賢吾博士(がん研究会がん研究所. 分子標的病理プロジェクトリーダー)

による素晴らしい講演を聴くことができた。彼はその講演の中では、最近 Nature Medicine

に掲載された、ALK の融合遺伝子の新しい fusion 相手である ROS1 を同定した経緯をかな

り詳しくお話しされていたが、ALK-NPM、ALK-EML4、ALK-RET、ALK-CARS など約 20 種

類の fusion gene が報告されている。EML4-ALK 融合遺伝子は腺癌をはじめとする非小細胞

肺癌のおよそ 5%の症例で認められ、興味深いことに癌遺伝子 EGFR、K-RAS の活性型変異

と相互排他的(mutually-exclusive)である。受容体型チロシンキナーゼである ALK に対す

る分子標的薬(molecular-targeting drug)である crizotinib も臨床的効果を呈する症例は確か

に多い。しかしながら、crizotinib がたとえ臨床的効果を示しても治療経過中に ATP-結合サ

イト(ATP-binding site)に新規変異が加わった抵抗性クローンが、増悪した腫瘍組織にお

いて細胞競合の結果としてpredominantになり治療抵抗性になることから問題視されている。

ALK 陽性肺腺癌の特徴としては、以下の 4 大病理学的特徴が挙げられる。

①①①①若年発症若年発症若年発症若年発症のののの肺腺癌肺腺癌肺腺癌肺腺癌

②②②②非喫煙者非喫煙者非喫煙者非喫煙者

③③③③粘液産生粘液産生粘液産生粘液産生をををを伴伴伴伴いいいい、、、、腺房状構造腺房状構造腺房状構造腺房状構造をををを示示示示すすすす低分化腺癌低分化腺癌低分化腺癌低分化腺癌((((印環細胞印環細胞印環細胞印環細胞のののの出現出現出現出現もももも認認認認めることありめることありめることありめることあり))))・・・・・・・・・・・・

mucmucmucmucinous cribriform patterninous cribriform patterninous cribriform patterninous cribriform pattern とととと呼呼呼呼ばれているばれているばれているばれている。。。。

④④④④ほぼほぼほぼほぼ全症例全症例全症例全症例でででで転写因子転写因子転写因子転写因子 TTF1TTF1TTF1TTF1 ががががホモホモホモホモ均一性均一性均一性均一性にににに陽性陽性陽性陽性。。。。

人工誘導性癌幹細胞モデル(induced cancer stem cell model; iCSC)を作製するプロジェクト

を、先端医科学研究所遺伝子制御部門(佐谷研)では長年の間、展開している。本研究が、

卵巣癌・グリオーマ(脳腫瘍)・絨毛癌・リンパ腫などさまざまな種類の癌種で進められて

いくうちに、少数の限定した遺伝子操作(minimal genetic modifications)によって、分化し

た細胞のプログラムを変更することが可能であることが認識された。正常細胞に必要最小

限の遺伝子操作を加えることで、過形成や遺伝子不安定化という時期をほとんど経ること

なく、永続的な自己複製能と分化能を有する「癌化」というイベントが直接的に起こると

考えられる。佐谷研では既に大西博士が中心となって、induced cancer stem cell model(iCSC)

研究では、oncokinase である ALK の機能獲得型変異(gain-of-functional mutation)のみで癌

化することが脳腫瘍と乳癌で既に明らかにしている(未発表データ; in preparation)。従来の

K-Ras や c-Myc の活性型変異を遺伝子導入(transfection)した神経幹細胞(neural stem cell)

を Ink4a/ARF(p16/p19)ノックアウトマウスに同種移植(orthotopic transplantation)した際

に発症する膠芽腫と同様に、ALK 単独で発症した膠芽腫でも、1) giant cell(多核巨細胞)

の出現、2) pseudo-palisading necrosis(壊死領域周囲に腫瘍細胞の核が柵状に配列している

病理所見)、3) hypervascular tumor(新生血管が豊富な腫瘍)というヒトの膠芽腫に特徴的

な病理学的所見を再現することに成功した。しかしながら、後述する mucinous cribriform

pattern を呈する例は皆無であり、やはりこの所見は「同同同同じじじじ oncokinaseoncokinaseoncokinaseoncokinase であるであるであるである ALKALKALKALK にににに依存依存依存依存

しているしているしているしている腫瘍腫瘍腫瘍腫瘍とととと言言言言ってもってもってもっても、、、、融合型変異融合型変異融合型変異融合型変異のののの ALKALKALKALK にににに依存依存依存依存するするするする肺腺癌肺腺癌肺腺癌肺腺癌でのみでのみでのみでのみ認認認認められるめられるめられるめられる所見所見所見所見であであであであ

るるるる」と考えられる。

こうした ALK-related lung cancer では Ink4a/ARF(p16/p19)、PTEN、p53 などのブレー

キ役となる癌抑制遺伝子の機能不活性型変異を加えずとも malignant transformation する現

象が脳や乳腺でも証明できたと仮定すると、肺組織肺組織肺組織肺組織のののの正常幹細胞正常幹細胞正常幹細胞正常幹細胞にににに ALKALKALKALK 変異変異変異変異のみがのみがのみがのみが加加加加わっわっわっわっ

たたたた細胞細胞細胞細胞こそがこのこそがこのこそがこのこそがこの場合場合場合場合はははは cancer stem cellcancer stem cellcancer stem cellcancer stem cell にににに相当相当相当相当するとするとするとすると言言言言ってもってもってもっても過言過言過言過言ではないではないではないではないだろう。

【治療病理学における EML4-ALK 発見の意義と分子標的薬による治療抵抗性】

ALK は anaplastic lymphoma kinase の略であり、1620 アミノ酸からなる細胞膜貫通型の

チロシンキナーゼ(tyrosine kinase)である。また、この遺伝子はヒト 2 番染色体短面内に

マップされる。ALK はチロシンキナ-ゼスーパーファミリーのなかで比較的独立したメン

バーであり、他のチロシンキナーゼと比較すると相同性がかなり異なる。歴史的には ALK

は非ポジキンリンパ腫の中でも稀なサブタイプである未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic

large cell lymphoma:ALCL)においてしばしば特徴的な染色体転座である t(2;5)(p23;q35)

によって形成される融合型チロシンキナーゼ NPM-ALK として同定され脚光を浴びた

(Science 1994:263:1281-1284.)。その後の研究によって ALK は oncogenic にドライバー遺

伝子産物として働くが、融合変異することで恒常的にシグナルを活性化するだけでなく、

点突然変異(point mutation)や増幅型変異(amplification)も報告されている。ちなみに ALK

のリガンドとしては脳神経の発達で重要とされている Jelly belly (Jeb)や pleiotrophin(PTN)

などが存在する(Development. 2010;137:3523-33.)。ただし、融合型変異 ALK ではリガンド

依存性がないと考えられており、後述する細胞内領域の 2 量体化(dimerization of intracellular

domain)が恒常的活性に必須であると考えられている。脳腫瘍の中には PTN などのリガン

ドの発現レベルが異常に高い症例もあり、実際にリガンドや受容体である ALK の発現を抑

制すると腫瘍細胞の生存・増殖能が顕著に低下する。しかしながら、必ずしもそうした ALK

のリガンドがup-regulationしている症例でALKが変異を呈しているとは限らない(Neoplasia.

2009;11:145-56.)。

小児腫瘍の中でも悪性度の高い神経芽細胞腫(neuroblastoma)における変異 ALK の病態

生理に関してはかなり研究が進んでいる(Nature. 2008;455:971-4.)。点突然変異によるアミ

ノ酸置換(F1174L)は、ALK に対する分子標的治療薬として開発された crizotinib に対する

治療抵抗性の原因として盛んに研究が行われている。その結果、この突然変異を有する ALK

遺伝子産物は PI3K/AKT/mTOR シグナルと MAPK シグナルという癌細胞にとって極めて重

要な生存・増殖シグナルを活性化させ、神経芽細胞腫で頻繁に認められる n-Myc の増幅型

変異(amplification)によって相乗的に神経芽細胞腫の悪性度を高めることが明らかになっ

た。通常では癌遺伝子である n-MYC は GSK3βによってリン酸化されてユビキチンプロテア

ソーム分解を受けるが、変異 ALK(F1174L)に限らず、ALK の発現量が多いという遺伝子発

現プロフィールは、細胞株でもマウス組織でも、GSK3βの酵素活性を阻害することで、

n-MYC のタンパクレベルの安定性に寄与するという事実が明らかとなった。その上で、ATP

結合ポケット(ATP-biding pocket)に競合する形で mTOR 複合体の PI3K/AKT/mTOR シグ

ナル活性化を抑制する薬剤 Torin2 を crizotinib とともに投与すると劇的な抗腫瘍効果が認め

られた。具体的には、ATP 結合において mTORC1 のアンタゴニストとして働くことで mTOR

シグナルを阻害する Torin2(20 mg/kg/day) を crizotinib(100 mg/kg/day)とを、同時投与す

ることで、はじめて抗腫瘍効果が発揮された。投与を開始して 7 日間で無治療群では 2 倍

まで腫瘍サイズが増加しており、Torin2 や crizotinib それぞれ単独で投与しても腫瘍サイズ

は維持されたままで無増悪期間(FRS; free progression survival)にあまり影響しなかったが、

2 つの薬剤を同時に投与することではじめて治療効果を発揮して 7 日後には腫瘍サイズが

50%近くにまで縮小した。分子発現レベルでは crizotinib でリン酸化 S6 が完全に消失し、

一方で Torin2 との併用療法でリン酸化 ALK の発現が消失していたが、単独投与ではリン酸

化 MEK、ERK などの生存シグナルに関わる下流分子の活性化は抑制しきれなかった。生存

率は有意に伸びたものの、いずれにせよ 2 剤同時投与群でも全例(n=10)が治療開始 40 日

以内に死亡しており、根本的な神経芽細胞腫やパラガングリオーマに対する治療戦略が期

待される(Cancer Cell. 2012;22:117-30.)。

炎症性乳癌(Inflammatory Breast Cancer)と ALK の関連性に関しては昨年参加したカリ

フォルニアでの AACR-NCI-EORTC で特別講演があったので記憶に新しいが整理しておく。

炎症性乳癌(inflammatory breast cancer)は 5 年生存率が 40%未満であるという非常に予

後不良な乳癌のサブタイプである。明らかな腫瘤は触れないため、乳房の炎症性疾患(急

性乳腺炎・乳輪下膿瘍)として誤診されやすいが、乳房はほぼ全域で硬化しており、広範

な浮腫・発赤・熱感・疼痛を伴う最も予後不良な乳癌である。病理学的所見は乳房真皮内

のリンパ管の腫瘍塞栓による二次性の広範な浮腫・発赤・熱感・疼痛である。テキサス大

学の Frederika Robertson 教授らの研究によって、炎症性乳癌の症例の多くで ALK の

amplification が起きており、ALK 阻害剤である crizotinib が xenograft Model(異種移植モデ

ル)で有効であることが明らかとなった(J Natl Cancer Inst 2012;104:87-88.)。既に

ALK/c-Met に対する分子標的薬の治験(Phase I)が炎症性乳癌患者群を対象にして既に取

り組まれている。

一般的に、分子標的薬は慢性的に投与すると、腫瘍細胞が生存・増殖に必要な代替的な

シグナル伝達(alternative pathway)を活性化させるという“adaptive resistance ”という

現象やヒストンのメチル化、アセチル化を修飾することで epigenetic に薬剤抵抗性を獲得す

る現象を誘導することで、治療抵抗性でなおかつ高い腫瘍内ヘテロ不均一性(intratumoral

heterogeneity)を招いてしまう。分子標的薬単剤による治療に誘発される治療抵抗性に関す

る警笛のような研究は最近になって相次いで報告されているが、そういった adaptive

resistance に対して alternative pathway も同時に阻害しようという“dual blockage”が有効

であることを強く示唆していると考えられる。

進化生物学的進化生物学的進化生物学的進化生物学的にはにはにはには個体個体個体個体がががが形質形質形質形質をををを変化変化変化変化させるにはさせるにはさせるにはさせるには短短短短くてもくてもくてもくても数千年数千年数千年数千年、、、、長長長長ければければければければ億年単位億年単位億年単位億年単位ののののレレレレ

ベルベルベルベルでのでのでのでの時間時間時間時間をををを要要要要するがするがするがするが、、、、腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞はははは内在内在内在内在するするするするゲノムゲノムゲノムゲノム不安定性不安定性不安定性不安定性によるによるによるによる遺伝子変異誘発性遺伝子変異誘発性遺伝子変異誘発性遺伝子変異誘発性やややや

エピジェネティックエピジェネティックエピジェネティックエピジェネティックなななな変化変化変化変化をををを介介介介するするするする環境環境環境環境へのへのへのへの高度高度高度高度なななな適応能力適応能力適応能力適応能力によってによってによってによって、、、、短期間短期間短期間短期間にににに進化進化進化進化をををを遂遂遂遂

げてげてげてげて他他他他のののの腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞腫瘍細胞クローンクローンクローンクローンとととと細胞競合細胞競合細胞競合細胞競合してしてしてして勝勝勝勝ちちちち残残残残ろうとするろうとするろうとするろうとする、「、「、「、「多重人格性多重人格性多重人格性多重人格性」」」」をををを有有有有するするするする、「、「、「、「進進進進

化論的化論的化論的化論的にににに最強最強最強最強のののの生物生物生物生物」」」」であるであるであるである。。。。問題点問題点問題点問題点はははは、、、、分子標的薬分子標的薬分子標的薬分子標的薬のののの安易安易安易安易なななな投与投与投与投与がこのがこのがこのがこの「「「「進化進化進化進化」」」」をををを加速加速加速加速

化化化化しているしているしているしている危険性危険性危険性危険性があることであるがあることであるがあることであるがあることである。。。。このようにこのようにこのようにこのように環境適応性環境適応性環境適応性環境適応性のののの高高高高いいいい「「「「腫瘍腫瘍腫瘍腫瘍」」」」というというというという生物生物生物生物にににに

どのようにしてどのようにしてどのようにしてどのようにして立立立立ちちちち向向向向かうべきなのかをかうべきなのかをかうべきなのかをかうべきなのかを、、、、われわれわれわれわれわれわれわれ研究者研究者研究者研究者、、、、臨床医臨床医臨床医臨床医はははは常常常常にににに考考考考ええええ続続続続けなけれけなけれけなけれけなけれ

ばいけないばいけないばいけないばいけない。。。。

間野博士らは肺腺癌をはじめとする非小細胞肺癌の約 5%の症例において、2 番染色体短

腕内に微小な逆位が生じることで、受容体型チロシンキナーゼ ALK の細胞内領域

(intracellular domain)が微小管会合タンパク質である EML4 と融合することで、新しい融

合型チロシンキナーゼEML4-ALKが生じることを発見した(Nature. 2007;448:561-566.)。

慢性骨髄性白血病慢性骨髄性白血病慢性骨髄性白血病慢性骨髄性白血病 染色体転座染色体転座染色体転座染色体転座 tttt((((9 ; 229 ; 229 ; 229 ; 22))))いわゆるいわゆるいわゆるいわゆるフィラデルフィアフィラデルフィアフィラデルフィアフィラデルフィア染色体染色体染色体染色体によってによってによってによって

生生生生じるじるじるじる BCRBCRBCRBCR----ABLABLABLABL 融合遺伝融合遺伝融合遺伝融合遺伝子子子子

濾胞性濾胞性濾胞性濾胞性リンパリンパリンパリンパ腫腫腫腫 t(14:18)(q32:q32)t(14:18)(q32:q32)t(14:18)(q32:q32)t(14:18)(q32:q32)転座転座転座転座::::BCL2BCL2BCL2BCL2 遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子・・・・免疫免疫免疫免疫グロブリングロブリングロブリングロブリン重鎖重鎖重鎖重鎖((((IgHIgHIgHIgH))))

遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子

マントルマントルマントルマントル細胞細胞細胞細胞リンパリンパリンパリンパ腫腫腫腫 t(11:14)(q13:q32)t(11:14)(q13:q32)t(11:14)(q13:q32)t(11:14)(q13:q32)転座転座転座転座::::BCL1BCL1BCL1BCL1((((CCND1CCND1CCND1CCND1))))遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子・・・・免疫免疫免疫免疫グロブリングロブリングロブリングロブリン

重鎖重鎖重鎖重鎖((((IgH)IgH)IgH)IgH)遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子

EwingEwingEwingEwing 肉腫肉腫肉腫肉腫 t(11;22)(t(11;22)(t(11;22)(t(11;22)(q24;q12)q24;q12)q24;q12)q24;q12)転座転座転座転座::::11111111 番染色体番染色体番染色体番染色体のののの FLIFLIFLIFLI----1111 遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子とととと 22222222 番染色体番染色体番染色体番染色体

のののの EWSEWSEWSEWS 遺伝子遺伝子遺伝子遺伝子のののの融合遺伝子融合遺伝子融合遺伝子融合遺伝子 EWS/FLIEWS/FLIEWS/FLIEWS/FLI----1111

このように、それまで染色体転座といえば造血器腫瘍や Ewing 肉腫に特異的なものであ

ると認識されており、上皮系腫瘍でも染色体転座が発癌の原因となるという発見は非常に

インパクトの高いものであった。選択的スプライシングによって生み出される EML4 の複

数のエクソン上にセンスプライマーを設定することで、異なる融合点をエクソンとする

EML4-ALK に対してマルチプレックス RT-PCR 法を開発した。肺癌検体のパラフィンブロッ

クから laser microdissection (LMD)を用いて回収した RNA をマルチプレックス RT-PCR 法で

スクリーニング解析したところ、EML4-ALK 陽性肺腺癌の症例ごとに異なる EML4 エクソン

部位でALKと融合するような多様性が発見された。EML4遺伝子とALK遺伝子の融合では、

ALK 遺伝子側の融合点は exon 20 の先頭部位に一定しているが、EML4 遺伝子側では融合点

は多様であり、エクソン 2,6,13, 14,15, 17,18, 20 などの variant が報告されている。その中

でも EML4 エクソン 13 との融合率が 33%、EML4 エクソン 6a/b との融合率が 29%であり、

大半を占めている。(Eur J Cancer. 2010;46:1773-1780.)。興味深いことに、EML4 mRNA に

対する選択的スプライシング(alternative splicing)を制御する転写因子や epigenetic

modulator は未だ明らかになっていない。また、CD44 の選択的スプライシングは、転写因

子である ESRP1(epithelial splicing regulatory protein 1)やクロモドメインタンパク質である

HP1γ(Nat Struct Mol Biol. 2011;18:337-44.)、そしてつい最近報告された grainyhead-like 2

(Grhl2)などによって多面的かつ緻密に制御されている。Grhl2 は CD44 のみならず、E-カ

ドヘリンや Claudin4 (tight junction 形成に必要な接着分子)の発現誘導に司る点で「上皮細胞

ら し さ を 制御 す る」転 写 因 子 であ る (Mol Biol Cell. 2012;23:2845-55., Cancer Res.

2012;72:2440-53.)。CD44 はどの可逆性エクソンが挿入されるかに依存して機能が異なって

くる。例えば可逆性エクソン 6 を含む CD44v6 は、HGF(hepatocyte growth factor)の受容

体である c-Met と共役して、癌細胞における生存・増殖シグナルの一つである Ras/MAPK

経路を活性化することが報告されている(Genes Dev. 2006;20:1715-20.)。また、可逆性エ

クソン 8-10 を含む CD44v9 は、CD98(4F2)重鎖を介して xCT と結合して細胞膜での安定性

を高めることで、シスチン(cystine)の細胞質への輸送を促進する。シスチンはグルタチオン

(GSH; glutathione)産生の律速段階となる基質であり、CD44v8-10 は間接的に GSH 産生量

を高めて ROS 軽減に寄与する(Cancer Cell. 2011;19:387-400.)。対照的であるが、どうやら

EML4-ALK 融合遺伝子の場合にはどのエクソンで融合しても顕著に phenotype に影響が出現

するということはないようである。

もともと EML4 遺伝子と ALK 遺伝子はヒト 2 番染色体短腕上の 12Mbp しか離れていない

近距離に、お互いに反対向きに存在しているため転位(inversion)は起きにくいと考えられ

ているが、実際に EML4-ALK を有する肺癌患者の検体から得られた cDNA を解析すると、

EML4-ALK の EML4 領域には、2 量体化してはじめて活性化される coiled-coil ドメインが存

在しており、この coiled-coil ドメイン依存的に EML4-ALK が恒常的に 2 量体化することで活

性化されることが明らかになっている。その後、EML4 と同様に coiled-coil ドメインを有す

る KIF5B、KLC1 と ALK との融合が報告された。肺癌以外に関しても、炎症性筋線維芽細胞

性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor)における CLTC, TPM3, TPM4, ATIC, CARS,

RANBP2 などと ALK との融合、腎癌における vinculin (VCL), TPM3, EML4 と ALK との融合

も明らかになっている(Clin Caner Res. 2009;15:3143-3149., Cancer. 2011;117:2709-2718.

PLos One. 2012;7 e31323)。

ALK 融合遺伝子を持つ肺癌の組織型は概して腺癌(adenocarcinoma)に限られる。肺腺癌

のおよそ 5%に認められる融合遺伝子であり、決して稀な変異とはいえない。臨床腫瘍学的

には、非喫煙の若年女性発症例が多い。組織学的には粘液産生性細胞(mucin-producing tumor

cells)が充実性あるいは篩い状構造(cribriform pattern)を呈しながら増殖するとい

う”mucinous cribriform pattern”と呼称される特殊な病理像を示す。通常の肺腺癌では見ら

れない組織構築であり、2012 年 4 月の日本病理学会総会でのセミナーでは「mucinous

cribriform pattern”⇒ALKoma 型の肺腺癌」を連想する重要性を強調する演題が多数あった

のを記憶している。またほとんどの症例で TFF1 転写因子の核内発現が高度であることも特

記に値する。予後に関する報告では、ALK 変異陽性の肺腺癌の方が ALK が intact な肺腺癌

よりも予後良好であるとされている(J. Thorac Oncol. 2011;6:774-780, J. Thorac Oncol.

2012;7:98-104.)。

分子病理学の観点から考察しても興味深いことに、肺腺癌では、EGFR(epidermal growth

factor receptor)や K-Ras の変異と EML4-ALK とは相互排他的な関係にあり、EML4-ALK を

有する肺癌症例では EGFR は intact である。逆に EGFR が恒常的に活性化している変異

(gain-of-functional mutation)を有する肺癌では、ALK は他の遺伝子群と融合していない。

本事実から 2010 年 ASCO において「EGFREGFREGFREGFR 変異変異変異変異がががが認認認認められずめられずめられずめられず、、、、非喫煙非喫煙非喫煙非喫煙・・・・腺癌腺癌腺癌腺癌・・・・若年若年若年若年のののの症例症例症例症例

のののの場合場合場合場合にはにはにはには EML4EML4EML4EML4----ALKALKALKALK 融合遺伝子融合遺伝子融合遺伝子融合遺伝子をををを調調調調べるべるべるべる必要必要必要必要があるがあるがあるがある」ことが推奨された。また同学術集

会において、EML4-ALK 融合遺伝子のある肺腺癌患者群では、EML4-ALK が認められない患

者群に比べて、生存期間や増悪までの期間が長いことが、シスプラチンとペメトレキセド

による治療を受けた患者群を対象にしたレトロスペクティブ解析(retrospective analysis)

で明らかとなっている。皮肉なことに、これまで EML4-ALK の変異を有していた肺腺癌の

患者さんたちは、変異 EGFR 陽性の肺腺癌で著効するイレッサなどの恩恵にあずかっていな

かったことになる。本事実本事実本事実本事実もももも今後今後今後今後、、、、病理病理病理病理----臨床臨床臨床臨床のののの連携連携連携連携においてにおいてにおいてにおいて治療病理学治療病理学治療病理学治療病理学((((therapytherapytherapytherapy----oriented oriented oriented oriented

pathologypathologypathologypathology))))へのへのへのへの転換転換転換転換がががが如何如何如何如何にににに重要重要重要重要であるかをであるかをであるかをであるかを示唆示唆示唆示唆するするするする良良良良いいいい例例例例であるであるであるである。。。。

実際に EML4-ALK 融合遺伝子を有する肺腺癌でも腫瘍細胞の多様性の獲得に随伴する治

療抵抗性は例外ではない。EML4-ALK が陽性の肺腺癌症例に対する crizotinib の臨床試験に

おいて、治療開始時は ALK 阻害剤が著効したが約半年後には再発して crizotinib 不応性とな

り病勢が悪化した症例に関して、間野博士らは治療前と再発後の肺癌検体を次世代シーク

エンサーによって解析した。その結果、再発時にのみ EMIA-ALK のキナーゼドメイン内に新

規の遺伝子変異が 2 種類同定された。これら変異のひとつは ALK 内の 1156 番目のシステ

インをチロシンに置換する点突然変異であり、もう一つの点突然変異は 1196 番目のロイシ

ンをメチオニンに置換するものであった(NEJM 2010;363:1734-1739.)。興味深いことに、

これら 2 種類の変異はたがいに別々の cDNA 上に存在していることから、腫瘍組織内であら

たに独立した 2 種類の細胞クローンが出現したと考えられる。まさに、ヘテロ不均一性に

富む遺伝子背景を有する細胞や個体が、お互いの生存をかけた競合や環境由来のストレス

(選択圧/淘汰圧; selective pressure)などによって選択的に淘汰されるが如くして、他の生

存・増殖シグナルに依存している腫瘍細胞が ectopic に出現して微小残存病変(minimal

residual disease; MRD)を構成し、再発や転移の原因となるわけである。

(http://www.gcoe-stemcell.keio.ac.jp/treatise/2012/20120706_02.html)

ALK 阻害剤に対する耐性のメカニズムとしては、imatinib に対する bcr-abl 融合遺伝子の

新規変異による抵抗性の獲得と酷似している。すなわち、C1156Y あるいは L1196M 変異で

は ATP 結合ポケットの立体構造の変化(conformational change)が生じることで、ALK 阻害剤

である crizotinib が結合することができなくなる。二次的変異では ALK の ATP 結合ポケッ

ト(ATP-binding site)の底部に位置する gatekeeper 部位に多く認められ、tyrosine kinase

抑制に対する耐性を獲得する(PNAS 2011;108:7535-7540.)。そこで、イマチニブの第 2 世

代チロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブなどが開発されたのに倣って、ALK 阻害剤に

ついても第 2 世代の開発が急務となっている。

ALK 阻害剤である LDK378 の連日経口投与は忍容性があり、crizotinib 治療歴のある患者

を含めて ALK 陽性非小細胞肺癌患者では抗腫瘍効果が認められることが、進行癌患者を対

象とした臨床試験(Phase I)で確認されたことを、米国 Massachusetts General Hospital の

Alice T. Shaw 氏らは第 37 回欧州臨床腫瘍学会(ESMO2012)で発表されている。基礎研究

においても、新規の低分子 ALK 阻害剤である LDK378 は、ALK 陽性の NSCLC の異種移植モ

デルに対して腫瘍縮小効果が確認されている(Front Oncol. 2012;2:17.)。

EML4-ALK の発癌過程における重要性を検証するために、間野博士らは SPC プロモーター

領域とポリアデ二レーション領域の間に FLAG epitope tag を付加した EML4-ALK cDNA を

insertion することで、EML4-ALK cDNA を肺胞上皮特異的に発現するトランスジェニックマ

ウスを作製、解析した(PNAS 2008;105:19893-19897.)。このコンディショナルトランス

ジェニックマウスでは、生後数週間という短期間に両側の肺に数 100 個の肺腺癌を発症し

た事実から、EML4-ALK 陽性肺癌においては、EML4-ALK 遺伝子こそが発癌(carcinogenesis)

の主因であることが in vivo において証明された。但し、竹内博士が開発した高感度免疫染

色法を用いていないためか、ROS1 や RET などの oncogenic tyrosine kinase を 3T3 細胞に遺

伝子導入することで悪性化させたという最近の論文(Nature Medicine 2012;18:378-381.)の免

疫染色データと比較すると、2007 年 PNAS のコンディショナルトランスジェニックマウス

で発症した EML4-ALK 陽性の肺腺癌の ALK 免疫染色像は非特異的な染色が多く、決して美

しいとは言い難い。

RET や ROS1 に関しても、ALK と同様の oncogenic tyrosine kinase であるため、EML4-ALK

融合遺伝子陽性の肺腺癌の症例群と同様に、それぞれのチロシンキナーゼに対する特異的

阻害剤が有効な治療薬になると大いに期待されている。例えば、実際に EML4-ALK や

KIF5B-RET などの oncogenic tyrosine kinase をマウス正常細胞にトランスフェクションする

と EGF、FGF、Wnt などの成長因子(growth factor)を添加しなくても細胞の増殖能が高ま

るばかりか、癌細胞に特徴的な足場非依存性(anoikis に対する抵抗性)が獲得される。こ

れらのトランスフォームした細胞の culture medium に RET 阻害剤であるバンデタニブ

(vendetanib)を濃度依存的に添加したところ、KIF5B-RET を遺伝子導入した細胞では速やか

に apoptosis が誘導された。しかしながら、EML4-ALK を強制発現した細胞には影響はなか

った。本事実から、組織およびキナーゼドメインに特異的な RET 活性阻害剤を開発するこ

とで、RET 融合遺伝子陽性の肺腺癌に対して非常に有効な臨床効果を発揮する分子標的治

療法が現実化すると考えられている。

2007 年の PNAS の EML4-ALK 陽性肺腺癌モデルに関する論文では、実際にマウスに経ロ

摂取可能な ALK 阻害作用を有する化合物である 2,4-pyrimidinediamine の誘導体を 10mg/kg

の dose で連日経口投与したところ、10 日目には抗腫瘍効果を顕著に発揮して、わずか 1 か

月以内に EML4-ALK によって発症した肺腺癌はほぼ消失したのである。また、先のトラン

スジェニックマウスではほぼ全例で生後 6 か月は生存したことから、ALK 阻害剤の効果を

より適切に評価するために、3T3 マウス線維芽細胞に oncogenic molecule である EML4-ALK

をトランスフェクション(遺伝子導入)して免疫不全マウスに同所移植を行った。ALK 阻

害剤を投与した群では移植 1 か月後の生存率は 100%であったが、コントロール群では肺野

に播種(dissemination)を来して急激な転帰を迎えた。これらの治療実験の成果は、ALK 阻

害剤が EML4-ALK 陽性の肺腺癌症例の有効な分子標的療法であることを裏付ける結果であ

る(PNAS 2008;105:19893-19897.)。

但し、気管支肺胞特異的気管支肺胞特異的気管支肺胞特異的気管支肺胞特異的にににに EML4EML4EML4EML4----ALKALKALKALK をををを発現発現発現発現するするするするトランスジェニックマウストランスジェニックマウストランスジェニックマウストランスジェニックマウスにおいてにおいてにおいてにおいて発生発生発生発生するするするする

肺腺癌肺腺癌肺腺癌肺腺癌のののの病理組織学像病理組織学像病理組織学像病理組織学像はいわゆるはいわゆるはいわゆるはいわゆる““““mucinous cribriform patternmucinous cribriform patternmucinous cribriform patternmucinous cribriform pattern””””をををを呈呈呈呈しておらずしておらずしておらずしておらず、、、、そのそのそのその乖離乖離乖離乖離のののの

主因主因主因主因がどのようなものであるかがどのようなものであるかがどのようなものであるかがどのようなものであるか、、、、そしてそのそしてそのそしてそのそしてその病理組織像病理組織像病理組織像病理組織像のののの乖離乖離乖離乖離がががが ALKALKALKALK 阻害剤阻害剤阻害剤阻害剤によるによるによるによるマウスマウスマウスマウス治療治療治療治療

実験実験実験実験ととととヒトヒトヒトヒト治験治験治験治験((((clinical trialclinical trialclinical trialclinical trial))))とにとにとにとに影響影響影響影響するするするする可能性可能性可能性可能性をををを今後検証今後検証今後検証今後検証していくしていくしていくしていく必要性必要性必要性必要性があるがあるがあるがあると思われる。

【質問】

2222----1111

神経芽細胞腫において n-Myc の転写発現の増強に ALK が関与する一方で、横紋筋肉腫や肺

腺癌では ALK の増幅性変異は認めるものの、そうした n-Myc と ALK との相互作用は報告さ

れていないようです。癌種による n-Myc と ALK との相互作用の違いは非常に興味深いです

が、fusion gene としての ALK の見地から御意見を頂けないでしょうか?

In contrast to neuroblastoma, rhabdomyosarcoma and ALK-dependent lung adenocarcinoma

with ALK amplification do not induce the up-regulation of n-Myc. I would like to have your

opinion on why the relationship between ALK and n-Myc is totally different depending on the kind

of tumors.

2222----2222

肺腺癌において EGFR 変異症例群と EML4-ALK 陽性症例群とは相互排他的であるという事

実は腫瘍生物学的にも臨床腫瘍学的にも非常に興味深いです。

すなわち、これまで EGFR 変異を有する肺腺癌で著効していたイレッサ(Gefitinib)などの分

子標的薬が、実は ALKoma ではあまり治療効果がなかった可能性が高いことになると思い

ます。まさに後述する「治療病理学」の重要性を物語る好例だと思います。

分子生物学的な観点に戻りますが、逆に、EGFR 変異、EML4-ALK の融合遺伝子の両方が陽

性であると細胞死や増殖能低下などを招き細胞競合で淘汰されるという可能性はあります

でしょうか?それとも発癌の段階から全く異なる変異なのでしょうか?そうだとしても完全

に相互排他的な点は説明しきれないと思います。

I was very surprised to find out that the cases of mutant EGFR-positive lung adenocarcinoma

and those of EML4-ALK-positive lung adenocarcinoma show the mutually exclusiveness each

other. Is there any possibility that tumor cells positive for both mutant EGFR and EML4-ALK are

depleted through the cell competition to form “the tumor cell society.”

Furthermore, this is clinically important finding. After all, Gefitinib (Iressa, Astra Zeneca

Pharmaceuticals) is a tyrosine kinase inhibitor that induces dramatic clinical responses in lung

adenocarcinoma with mutant EGFR, so that EML4-ALK-positive lung cancer patients are not

likely to have the same benefit.

Have you ever confirmed that how the cells positive for both mutant EGFR and EML4-ALK show

the significant change of phenotype such as cell cycle arrest or apoptosis? Even if EGFR

mutation is independent of EML4-ALK fusion gene and vice versa, it is quite strange that there

is no tumor cells positive for both mutant EGFR and EML4-ALK.

【回答】It It It It still still still still remains to be known, butremains to be known, butremains to be known, butremains to be known, but・・・・・・・・・・・・

EGFR、K-RAS、ALK いずれも下流で活性化される oncogenic stress は同じであるためこれ

ら上流分子が同時に活性型変異を呈すると下流シグナルが過剰に活性化されるために、ア

ポトーシスや dormancy (G0 phase arrest)を呈するようなネガティブフィードバック機構や

癌細胞の生存増殖に不利な oncogenic stress が働くのが原因ではないだろうか?

マウス線維芽細胞 3T3 に両方の遺伝子変異をトランスフェクションした際に focus

formation がどうなるのか、すなわち正常細胞で認められる contact inhibition が喪失するの

かどうか、検証するのが本疑問を解決する上で一番の近道と考えられる。

***

⇒最新論文情報

BMC Cancer で先日 EML4-ALK と EGFR 変異を同時に有する肺腺癌の症例報告が発表され注

目を集めている。

A case of lung adenocarcinoma harboring EGFR mutation and EML4-ALK fusion gene

H. Tanaka et al.

BMC Cancer 2012, 12:558

(http://www.biomedcentral.com/1471http://www.biomedcentral.com/1471http://www.biomedcentral.com/1471http://www.biomedcentral.com/1471----2407/12/5582407/12/5582407/12/5582407/12/558)

本論文によると、既に肺の原発巣から肝臓、骨に多発性の転移を認め、erlotinib

(tyrosine-kinase inhibitor;TKI)を投与しているが治療効果を認めず、変異 EGFR を標的とし

た治療は無効であると考えられている。しかしながら現在日本国内で ALK 阻害剤の認可が

下りていない以上、ALK を標的とした治療は実施できないというジレンマにあるという。

本論文の discussion によると、5 症例ほどこれまでに EML4-ALK と EGFR 変異を同時に有す

る例外的な肺腺癌の症例が報告されているが、いずれも TKI に対する治療応答性は低い傾向

にあるようである。

***

2222‐‐‐‐3333

気管支肺胞特異的に EML4-ALK を発現するトランスジェニックマウスにおける肺腺癌の

発症、予後は確かに劇的な経過でありますが、病理組織学的にはいわゆる“mucinous

cribriform pattern”を呈していないと思います。その原因としてはどのようなものが考えら

れるでしょうか? またその病理組織像の乖離が ALK 阻害剤によるマウス治療実験とヒト

治験(clinical phase)とに影響する可能性はありますでしょうか?

To be sure, the established transgenic mouse lines that express EML4-ALK specifically in the

lung alveolar epithelial cells show the clinical features as lung adenocarcinoma similar to the

cases of human, but I wonder why those conditional transgenic mice model does not resemble to

the “mucinous cribriform pattern” of human EML4-ALK-positive lung adenocarcinoma in the

perspective of histopathology.

Besides, this pathological discrepancy does not affect the outcome of clinical trial of crizonitib

against human adenocarcinoma with EML4-ALK compared with the outcome of therapeutic

experiments using mouse model with ALK inhibitory compounds?

【回答】前述のとおり、bronchio-alveolar stem cell(BSC)と命名されている幹細胞は、clara

cell secretory protein(CCSP)と surfactant protein(SP)-C という 2 種類のクララ細胞、杯細胞か

ら分泌される界面活性剤に近いタンパク質を共発現していることが特徴であると報告されている

(Cell 2005;121:823-835.)。SP-C プロモーター領域の下流に EML4-ALK 遺伝子を挿入して作製

したトランスジェニックマウスであるため、必ずしも cell of origin (腫瘍の起源細胞)の観点からして

完全にヒトの ALKoma の病理像である“mucinous cribriform pattern”を再現できるとは限らない。

2222‐‐‐‐4444

僕が知る限りでは EML4 mRNA に対する選択的スプライシング(alternative splicing)を制御

する転写因子は未だ解明されていないと思います。ALK と融合するエクソンが多彩である

中でどのスプライシングバリアントと結合するかに依存して、EML4-ALK による悪性化への

関与や肺腺癌の臨床症状も異なるのでしょうか?また、EML4 の選択的スプライシングを制

御する上流分子が EML4-ALK 陽性の肺腺癌の治療標的となる可能性はありますでしょうか?

As far as I know, it is little known about the regulator for alternative splicing of EML4 mRNA.

Diversity of ALK isoforms binding to ALK is responsible for the clinical heterogeneity of

EML4-ALK (+) lung adenocarcinoma? Furthermore, the master regulator for alternative splicing

of EML4 mRNA is expected to the therapeutic target?

問題問題問題問題 3333

日本日本日本日本におけるにおけるにおけるにおける今後今後今後今後のののの Translational Research Translational Research Translational Research Translational Research のののの推進推進推進推進にににに関関関関してしてしてして、、、、自分自分自分自分のののの意見意見意見意見をををを述述述述べべべべ

なさいなさいなさいなさい。。。。

【回答】

トランスレーショナルリサーチトランスレーショナルリサーチトランスレーショナルリサーチトランスレーショナルリサーチ((((Translational ResearchTranslational ResearchTranslational ResearchTranslational Research))))すなわちすなわちすなわちすなわち基礎医学基礎医学基礎医学基礎医学とととと臨床医学臨床医学臨床医学臨床医学のののの

融合融合融合融合、、、、フィードバックフィードバックフィードバックフィードバックによるによるによるによる向向向向上上上上こそがこそがこそがこそが今後今後今後今後のののの腫瘍医学腫瘍医学腫瘍医学腫瘍医学のののの発展発展発展発展においてにおいてにおいてにおいて最重要課題最重要課題最重要課題最重要課題とととと言言言言っっっっ

てもてもてもても過言過言過言過言ではないではないではないではない。。。。そこでそこでそこでそこで、、、、日本日本日本日本がががが現在抱現在抱現在抱現在抱えているえているえているえている創薬創薬創薬創薬システムシステムシステムシステムのののの問題点問題点問題点問題点、、、、今後今後今後今後のののの課題課題課題課題にににに

ついてついてついてついて、、、、そしてそしてそしてそして間野博士間野博士間野博士間野博士のののの研究研究研究研究テーマテーマテーマテーマであるであるであるである診断病理学診断病理学診断病理学診断病理学からからからから治療病理学治療病理学治療病理学治療病理学へのへのへのへのシフトシフトシフトシフトにおけにおけにおけにおけ

るるるるバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカー発見発見発見発見のののの意義意義意義意義というというというという 3333 つのつのつのつの観点観点観点観点からからからから具体的具体的具体的具体的なななな文献文献文献文献をををを参考参考参考参考にしつつにしつつにしつつにしつつ考察考察考察考察したしたしたした

いいいい。。。。

【がんの基礎研究から創薬への新展開という着眼点からの考察】

臨床治験は第Ⅰ相試験(臨床薬理試験)、第Ⅱ相試験(探索的臨床試験)、第Ⅲ相試験(検証

的臨床試験)、そして第Ⅳ相試験(製造販売後臨床試験)の 4 段階から構成される。抗がん剤の

臨床治験の特徴として、二重盲検化試験(double-blind test)やプラセポ(placebo)対照試験は少な

く、単剤投与よりもむしろ多剤併用療法や集学的治療が多いことが挙げられる。

これまでは、アカデミア(大学、研究機関)が新薬の候補となる薬剤を探索する一方で、製薬会

社は臨床試験を行い最終的に製造販売承認申請が厚生労働省から認可され市販後安全性調査

を実施するという仕組みが創薬の流れであると認識されてきた。しかし現実にはアカデミアと製薬

企業との間で認識のギャップが存在するために、この流れが滞ってしまうことが多い。医師・研究

者側の多くの人間は特異的標的分子の同定や病態生理の基礎医学的理解までが自分たちのな

すべきことであり、アッセイ系の開発・新規バイオマーカーの探索・疾患動物モデルの開発までは

アカデミア側の仕事の範疇ではないと考えている。一方で、製薬企業側は既にアッセイ系によっ

て同定されたヒット化合物を提示されてはじめて高額な資金を要する治験に着手しようという姿勢

でいる。このため、アカデミアアカデミアアカデミアアカデミアとととと製薬企業製薬企業製薬企業製薬企業のののの両者両者両者両者ともがともがともがともが関与関与関与関与しないしないしないしない「「「「非臨床試験非臨床試験非臨床試験非臨床試験」」」」がががが「「「「誰誰誰誰もももも足足足足をををを踏踏踏踏みみみみ

入入入入れないれないれないれない領域領域領域領域(death vall(death vall(death vall(death valley)ey)ey)ey)」」」」としてとしてとしてとして存在存在存在存在してしまっているしてしまっているしてしまっているしてしまっている。この部分を埋める上でベンチャー企業

は非常に重要な役割を果たす存在であるが、残念ながら米国などと比べて日本国内でのベンチ

ャー企業への国家レベルでのサポートは少ない。今後わが国における新規抗がん剤開発の諸問

題を解決するためにも、産官学連携を推進していくことこそ重要であるといえる。

アカデミアでは新薬の候補となる薬剤を探索する際に、①特異的標的分子、シグナル、現象の

同定を行う、②適切なアッセイ系の構築、③薬剤スクリーニング、④ヒット化合物の同定、⑤薬剤

最適化(すなわち、低濃度で効果的であり、なおかつ体内での安定性の観点からの薬剤の至適

化)という大まかに 5 つのステップを踏むことになる。アッセイ系では酵素活性といった化学的なも

のに留まらず cell-based および phenotype-based といった in vitro での実験系が必要となる。スク

リーニングでは化合物、抗体、有機化学的にデザインされた化合物を用いるだけでなく、既に別

の疾患で適応薬として知られている薬剤のデータベースを用いて既存薬の新たな活性を検討す

ることができる。

僕の所属する遺伝子制御部門(佐谷研)では、およそ 2000 種類の既存薬ライブラリーを用いて

スクリーニングを行っている。既存薬の新たなターゲットとなる疾患を同定し臨床に応用する仕組

みをしばしば“drug repositioning (既存薬の新しい位置づけ)”と称する。利点としては以下の 3 点

が 挙 げら れる 。まず 、人 体 に 対 する安 全 性 が既 に 担 保 され てお り薬物 動 態 (PK/PD ;

Pharmacokinetics/Pharmacodynamics)に関するデータが存在することである。また、基礎研究で

開発されているアッセイ系の概念を臨床試験においても証明できる。そしてアカデミア側の医師・

研究者は案外、創薬のプロセスに関する知識に乏しく既存薬ライブラリーを用いたプロセスを通し

て創薬が如何に実現するかという仕組みを学習することができる。しかしながら、既存薬ライブラ

リーを用いた創薬では、製薬企業側が特許期限の過ぎているために、大きな収益につながらない

という「医療の進歩とは関係のない」理由によって臨床試験に関心を示さないという問題点がある。

また希少疾患の治験では患者数が少ないために、製薬企業が敢えて高額の資金をかけての臨

床試験をしてまで創薬開発を躊躇してしまうケースが多い。

その打開策として主に以下の 3 つの戦略が考えられる。

①①①① 疾患疾患疾患疾患のののの新規概念新規概念新規概念新規概念のののの確立確立確立確立やややや薬剤薬剤薬剤薬剤のののの適応疾患適応疾患適応疾患適応疾患をををを拡大拡大拡大拡大することですることですることですることで、、、、新新新新たにたにたにたに特許特許特許特許をををを出願出願出願出願してしてしてして企業側企業側企業側企業側

のののの収益収益収益収益につなげるにつなげるにつなげるにつなげる

②②②② 厚生労働省厚生労働省厚生労働省厚生労働省などなどなどなど国家国家国家国家レベルレベルレベルレベルでのでのでのでの支援支援支援支援をををを増増増増やすことでやすことでやすことでやすことで、、、、疾患動物疾患動物疾患動物疾患動物モデルモデルモデルモデルをををを用用用用いたいたいたいた非臨床試験非臨床試験非臨床試験非臨床試験

やややや初期段階初期段階初期段階初期段階のののの臨床試験臨床試験臨床試験臨床試験をををを公的資金公的資金公的資金公的資金によってによってによってによって実施実施実施実施するするするする。。。。

③③③③ 同同同同じじじじアッセイアッセイアッセイアッセイ系系系系をををを用用用用いたいたいたいた新規薬剤新規薬剤新規薬剤新規薬剤ををををアカデミアアカデミアアカデミアアカデミアとととと企業企業企業企業とでとでとでとで共同開発共同開発共同開発共同開発をををを行行行行うううう。。。。

これらのアプローチによりスムーズな創薬の流れが生まれることが大いに期待される。

【診断病理学から治療病理学へのシフトにおけるバイオマーカー発見の意義】

腫瘍病理診断(組織型、分化度、浸潤度など)は臨床的に問題となっている腫瘍組織が

原発巣であるか遠隔臓器からの転移巣であるのか、WHO 分類ではどの深達度、ステージの

範疇に含まれるのか、そして一般的な治療法と予後はどのようなものであるのかなどを決

定する上で必須である。その情報をもとに臨床医・病理医が連携しながら癌治療を進めて

いる現状における病理学の位置づけは「診断病理学診断病理学診断病理学診断病理学((((pathology for diagnosispathology for diagnosispathology for diagnosispathology for diagnosis))))」に近い。し

かし今回慶應医学賞を受賞された間野博士らのように世界では様々な癌種においてシグナ

ル伝達、浸潤度・転移能を反映する優れた標的分子が見出されており、今後の医学におけ

る病理学の位置づけは「治療病理学治療病理学治療病理学治療病理学((((pathology for therapypathology for therapypathology for therapypathology for therapy))))」ではないかと考えている。分

子標的治療薬が数多く開発、適応されている現在、どのような癌細胞のシグナル伝達を阻

害することが最も効果的な治療に結びつくのかを判断する指標としての分子病理学の発展

が期待されていると思われる。

2012 年 11 月 15 日近畿大学医学部ゲノム生物学教室の西尾教授による大学院特別講義(病

理学)にもあったように、FDA におけるバイオマーカーは以下のように定義されている。

““““ a characteristica characteristica characteristica characteristic thatthatthatthat isisisis objectivelyobjectivelyobjectivelyobjectively measuredmeasuredmeasuredmeasured and evaluatedand evaluatedand evaluatedand evaluated asasasas anananan indicatorindicatorindicatorindicator ofofofof

normalnormalnormalnormal biologicbiologicbiologicbiologic processesprocessesprocessesprocesses,,,,pathogenicpathogenicpathogenicpathogenic processesprocessesprocessesprocesses,,,, orororor pharmacologic responsespharmacologic responsespharmacologic responsespharmacologic responses totototo aaaa

therapeutictherapeutictherapeutictherapeutic interventioninterventioninterventionintervention””””

バイオマーカーは定量化できる、すなわち、測定可能な特性値であり、ヒトまたはモデル動物に

おける生理学的プロセス・薬理学的プロセス・および疾患プロセスを反映しているものでなけれ

ばならない。治療に伴うバイオマーカーの変化は臨床的反応(「腫瘍サイズ縮退」などのいわゆる

“治療効果”)を反映するものでなければならない。

厳密には、分子標的薬におけるバイオマーカーは 2 種類存在する。

1111)))) Proof of ConceptProof of ConceptProof of ConceptProof of Concept にににに用用用用いるいるいるいるバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカー:::: 分子標的薬分子標的薬分子標的薬分子標的薬がががが適切適切適切適切にににに腫瘍組織腫瘍組織腫瘍組織腫瘍組織にににに治療作用治療作用治療作用治療作用をををを発揮発揮発揮発揮すすすす

るかどうかをるかどうかをるかどうかをるかどうかを判定判定判定判定するためのするためのするためのするためのバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカー

2222)))) Predictive MarkerPredictive MarkerPredictive MarkerPredictive Marker にににに用用用用いるいるいるいるバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカー:::: 分子標的薬分子標的薬分子標的薬分子標的薬のののの有効性有効性有効性有効性やややや副作用副作用副作用副作用をををを予測予測予測予測するためのするためのするためのするための

バイオマーカーバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカー

テーラーメード治療(個別化治療)の実現には至適バイオマーカー(valid biomarker)の同定が

必要条件となる。決して分子標的薬に限ったことではない。しかしながら valid biomarker は、近年

日進月歩の勢いで開発が進みつつも予想外の副作用や adaptive resistance (治療中に獲得され

る治療抵抗性)が問題視される現状を考えると、上述の 2 種類のバイオマーカー(Proof of

Concept に用いるバイオマーカーならびに Predictive Marker に用いるバイオマーカー)に対する

理解が臨床腫瘍学や創薬分野において非常に重要になってくる。治療中に獲得される治療抵抗

性だけでなく組織バンキングを構築することで臨床病理・分子病理(遺伝子変異・シグナル伝

達)・臨床経過などを総括的にデータベース化することを通してはじめて、テーラーメード治療(個

別化治療)を実現することができると思われる。

頭頚部扁平上皮癌や EGFR 陽性転移性大腸癌に適応のあるセツキシマブ(Cetuximab)をはじ

めとする EGFR に対するヒト・マウスキメラ化モノクローナル抗体薬では、

(1)標的分子である EGFR の発現量および

(2)細胞内のシグナル伝達分子である KRAS の遺伝子変異の有無の 2 つが至適バイオマーカー

(valid biomarker)となる。

KRAS が変異型である場合には EGFR 非依存的に KRAS シグナルが恒常的に活性化される

ことで、たとえ EGFR シグナルを阻害しても腫瘍細胞への抗腫瘍効果は全く発揮されない。このよ

うに”oncogeneoncogeneoncogeneoncogene addictionaddictionaddictionaddiction”をもたらす遺伝子変異を同定して遺伝子ごとに肺腺癌を分類すること

によって、分子病理学的な特徴を明らかにすることが可能となる。”oncogeneoncogeneoncogeneoncogene addictionaddictionaddictionaddiction”をもたら

す遺伝子変異それぞれに適した治療方法を確立することで、肺腺癌症例全体の治療成績が飛躍

的に向上すると期待されている。そもそも”oncogeneoncogeneoncogeneoncogene addictionaddictionaddictionaddiction”とは、2006年にコロンビア大学の

Bernard Weinstein 博士らによって提唱された概念である (Nat Clin Pract Oncol. 2006;3:448-57.)。

腫瘍細胞が driver mutation(ドライバー遺伝子の変異)に依存して増殖している状態を指す単語

である。 ”oncogeneoncogeneoncogeneoncogene addictionaddictionaddictionaddiction”が起きる正確なメカニズムは未だ不明であるが、driver mutation

によって産生される c-Src, EGFR, bcr-abl などの癌遺伝子産物が生存シグナルを活性化する一方

で、bcl-2 などのアポトーシス関連タンパク質の発現および活性化を抑制していることが背景にあ

ると考えられている (Cancer Cell. 2006;10:425-35., Nat Rev Cancer. 2008;8:121-32.)。前述したと

おり、“oncogene addioncogene addioncogene addioncogene addiction (ction (ction (ction (癌細胞癌細胞癌細胞癌細胞ののののアキレスアキレスアキレスアキレス腱腱腱腱))))“を標的とした分子標的薬は治療開始時こそ顕

著な治療効果を呈するが、代替的なシグナル伝達(alternative pathway)が活性化されることで

MRD(minimal residual disease; 微小残存病変)・転移巣などが不応性、治療抵抗性を獲得すると

いう傾向がある。この「分子標的薬至上主義」によって誘発される腫瘍の性質の変化こそが、いわ

ゆる”adaptive resistanceadaptive resistanceadaptive resistanceadaptive resistance“といえる。この現象は、抗生物質を慢性的に投与した際に出現する多

剤耐性緑膿菌(multiple-drug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)の出現の仕方と酷似し

ている。実際に MDRP は以下のような複数の機序によってキノロン系抗生剤(シプロフロキサシン

CPFX など)、カルバペネム系抗生剤(イミペネム IPM やメロペネム MEPM)や抗緑膿菌用のアミノ

グルコシド系薬であるアミノカシン AMK に対しての耐性を獲得している。

1) 薬剤分解・修飾酵素の産生

2) 薬剤作用部位の変異

3) 菌体内へ薬剤が入りにくくする・強制的にくみ出す

4) バイオフィルムの形成

これは癌細胞が治療中に獲得する抵抗性(acquired resistance)や癌幹細胞が発癌する当初から

有している形質と一致する。

1) 抗癌剤によって誘発される活性酸素種(ROS)を消去する還元型グルタチオン(GSH)やカタラ

ーゼなどの anti-oxidant molecule 産生量の増加

2) EML4-ALK や Bcr-abl などが代表例だが、ATP-結合ポケット部位の変異に伴う conformational

change で標的分子に結合できなくなる

3) ABC トランスポーター(ATP-binding cassette transporter;SP 分画に関わる ABCG2 が最も有

名)の発現増加、機能亢進

4) 細胞外マトリックス(ECM)中のヒアルロン酸などの産生量が多くなり腫瘍血管の血流が乏しく

なるだけでなく、血管から漏れ出した抗癌剤が癌細胞に到達する前に ECM で活性を失ってしまう

加えて、実際には”oncogeneoncogeneoncogeneoncogene addictionaddictionaddictionaddiction”という概念は提唱されているほど単純ではないことを

実感している。HCT-116 とはβカテニン/Wnt シグナル(古典的 Wnt シグナル)が恒常的に活性化

しており下流で発現が誘導されるc-Mycにaddictionしている細胞であると考えられている。そこで

HCT-116 細胞に対して si-RNA-mediated c-Myc depletion を施行したところ、予想に反して生存細

胞数および増殖能に顕著な差異を認めなかった(自験例自験例自験例自験例)。このようにいくつかの癌細胞で

は”oncogeneoncogeneoncogeneoncogene addictionaddictionaddictionaddiction”していると報告されているシグナル伝達や下流の癌遺伝子産物とは独

立した形で、alternative に癌細胞の増殖や悪性度の維持に貢献しているカスケードが既に存在し

ていると考えられる。”oncogeneoncogeneoncogeneoncogene addictionaddictionaddictionaddiction”を以てして「癌細胞のアキレス腱(Achilles' heel)」と表

現している総説や教科書を散見するが、それはあくまで癌化する段階(oncogenesis stage)の話

であって、実際にはもっと複雑な事象が隠れていることを認識する必要性があるだろう。

確かに分子標的薬の開発は目覚ましい発展を遂げているが、特定のシグナル伝達を抑制

されたことで代償性に別のシグナル伝達が活性化されて癌細胞の増殖、転移能が高まって

しまい、むしろ病勢を悪化させてしまうケースが少なからずあることが問題視されている。

例えば、HER2 の gain-of-functional mutation(機能獲得型変異)を有する乳癌に対してハー

セプチン(trastuzumab)などの HER2 陽性腫瘍細胞を特異的に攻撃する薬が汎用されてい

る。HER2 陽性腫瘍細胞は乳癌、胃癌において発現が認められており癌幹細胞に近いと鉗得

られている。ハーセプチンは癌幹細胞を標的とした治療薬と言える点で、癌幹細胞を研究

している腫瘍学者の間ではハーセプチン投与による腫瘍浸潤・再発に対する抑制効果に過

剰な期待があったのも事実である。

しかしながら、最近になって驚くべきことに、癌抑制遺伝子癌抑制遺伝子癌抑制遺伝子癌抑制遺伝子 PTENPTENPTENPTEN のののの変異変異変異変異があるがあるがあるがある場合場合場合場合はははは

ILILILIL----6666----STAT3STAT3STAT3STAT3 によるによるによるによる positive feedbackpositive feedbackpositive feedbackpositive feedback 機構機構機構機構によってによってによってによって変異変異変異変異 HER2HER2HER2HER2 陽性乳癌陽性乳癌陽性乳癌陽性乳癌ににににハーセプチンハーセプチンハーセプチンハーセプチンをををを投投投投

与与与与するとむしろするとむしろするとむしろするとむしろ癌幹細胞癌幹細胞癌幹細胞癌幹細胞がががが増加増加増加増加するするするするという皮肉な現象が明らかにされている。IL-6

positive-feedback loop は Stat3 をリン酸化させ核内移行させることで NFκB を活性化しさら

に IL-6 産生分泌量を増加させるというメカニズムである。

CD44(high)/CD24(low)を呈する乳癌幹細胞の割合は IL-6 と正に相関して増加するため、IL-6

中和抗体を投与することで、長期間にわたるハーセプチン投与で誘発される EMT および

EMT によって誘導される乳癌幹細胞の増加を抑制することが可能となる(Molecular Cell.

2012;47:1–15.)。IL-6 は腫瘍微小環境での慢性炎症のみならず、正常な造血能維持や炎症反

応の制御など多彩な生体機能において重要な役割を担うサイトカインである。

IL-6-JAK-STAT3 シグナルが過剰に活性化されると、関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)

を代表とする自己免疫疾患の病態が形成される。RA 患者の血液中や関節液中では IL-6 の増

加が認められ、RA の活動性や関節破壊(パンヌス)の程度と相関することが既に知られて

いる。したがって、IL-6-JAK-STAT3 シグナルを阻害することで RA の病態の改善が期待さ

れてきた経緯があり、IL-6 の受容体に対する中和抗体としてトシリズマブ(商品名アクテム

ラ)が臨床応用されている。膠原病に対する既存薬の新規抗癌剤としての重要性は慢性炎

症に伴う EMT と癌幹細胞増加を抑制する目的で、今後ますます適応が拡大されていくと期

待される。

実際に僕が所属する遺伝子制御部門(佐谷研)では 2011 年に CD44v8-10 が xCT 輸送体(シ

スチン-グルタミン酸輸送体)の細胞膜安定性を介してシスチンの細胞内取り込みを促進す

ることで還元型グルタチオン(GSH)の産生量を増加させて酸化ストレス抵抗性を獲得させ

ることを報告した。また本論文では、xCT 阻害剤であるスルファサラジンが CD44v-xCT-GSH

axis を抑制して癌細胞の酸化ストレスへの感受性を高めることで、CDDP(シスプラチン)

と相乗的にヒト大腸癌細胞株 HCT-116 の皮下移植モデルの腫瘍サイズを縮小することに成

功した(Cancer Cell. 2011;19:387-400.)。本論文を proof of concept として、CD44v8-10 を高

発現している胃癌、大腸癌細胞を標的とした新規治療薬としての治験が既に進んでいる。

RA や潰瘍性大腸炎などに適応のある抗炎症性の薬剤であり、先ほどの IL-6 受容体拮抗薬と

適応拡大のシナリオが酷似している点は非常に興味深い。

もう一つ最近報告された大腸癌の adaptive resistance に関する有名論文を紹介する。

PI3K-Akt-FOXO3a シグナルは細胞周期制御、アポトーシス回避機構、代謝制御、ストレス

耐性など幹細胞らしさ(ステムニス)の維持に必須である。インスリンや成長因子が外因

性に加わることでこのシグナルが活性化されて、FOXO3 がリン酸化されることで核内から

細胞質にトランスロケーションして、CDK 阻害剤 p21 などの転写が抑制されて、細胞増殖

が促進される。大腸癌において Wnt シグナルと Akt シグナルという 2 つの生存増殖シグナ

ルのクロストークの重要性は以前から指摘されてきたが、核内βカテニンが蓄積している

古典的 Wnt シグナルが過剰に活性化している大腸癌細胞では、PI3KPI3KPI3KPI3K----AktAktAktAkt----FOXO3aFOXO3aFOXO3aFOXO3a シグナルシグナルシグナルシグナル

阻害剤阻害剤阻害剤阻害剤であるであるであるである APIAPIAPIAPI----2222 がががが EEEE----カドヘリンカドヘリンカドヘリンカドヘリンのののの relocation(relocation(relocation(relocation(細胞質内細胞質内細胞質内細胞質内におけるにおけるにおけるにおける EEEE----カドヘリンカドヘリンカドヘリンカドヘリン凝集体形凝集体形凝集体形凝集体形

成成成成))))をををを誘導誘導誘導誘導してしてしてして””””cell scatteringcell scatteringcell scatteringcell scattering””””がががが起起起起きてきてきてきて転移転移転移転移がががが促進促進促進促進されることがされることがされることがされることが問題視問題視問題視問題視されており、API-2

と同時に古典的 Wnt シグナル阻害剤(厳密にはβカテニンを分解する Axin を活性化するタ

ンキラーゼ阻害剤)である XAV-939 を投与することで dual blockage が可能となる(Nature

Medicine 2012;18:892-902.)。臨床腫瘍学でも API-2 と呼ばれる PI3K-Akt-FOXO3a シグナル阻

害剤が臨床試験 Phase-II に進んでおり応用化されつつあるが、大腸癌細胞株 HT29 を遺伝子

改変(tamoxifen-inducible AKT-insensitive mutant of FOXO3a (FOXO3a3A-ERTM)と stable

β-catenin S33Y mutant that is inducible by doxycycline)して免疫不全マウスの虫垂に同所

移植して形成された腫瘍に API-2 を投与すると、逆にリンパ節や肝臓に遠隔転移を生じる。

以上以上以上以上のののの事実事実事実事実をををを踏踏踏踏まえるとまえるとまえるとまえると、、、、分子標的薬分子標的薬分子標的薬分子標的薬のののの適応適応適応適応をををを決定決定決定決定するにあたってはするにあたってはするにあたってはするにあたっては、、、、核内核内核内核内ββββカテニンカテニンカテニンカテニンをををを

predictive biomarkerpredictive biomarkerpredictive biomarkerpredictive biomarker としたとしたとしたとした、、、、治療診断決定治療診断決定治療診断決定治療診断決定のためののためののためののための分子病理学分子病理学分子病理学分子病理学のののの観点観点観点観点からのからのからのからの検証検証検証検証がががが必要必要必要必要に

なってくると思われる。

このように、最も有効な治療法を、エビデンスに基づいて患者一人ずつ個別に決定するに

は、「適切なバイオマーカー(valid biomarker)を利用することで分子病理学を臨床病理学に組

み込んでいく」という試みが必要条件になってくる。上記の 2 つの論文報告から示唆され

る治療病理学(therapy-oriented pathology)の在り方としては、消化器外科消化器外科消化器外科消化器外科、、、、乳腺外科乳腺外科乳腺外科乳腺外科などなどなどなど

のののの臨床医臨床医臨床医臨床医がががが AktAktAktAkt 阻害剤阻害剤阻害剤阻害剤ややややハーセプチンハーセプチンハーセプチンハーセプチンをををを投与投与投与投与するかどうかするかどうかするかどうかするかどうか決定決定決定決定するするするする場合場合場合場合はははは必必必必ずずずず病理医病理医病理医病理医がそがそがそがそ

のののの患者患者患者患者のののの検体検体検体検体におけるにおけるにおけるにおける核内核内核内核内ββββカテニンカテニンカテニンカテニン量量量量、、、、PTENPTENPTENPTEN のののの変異変異変異変異のののの有無有無有無有無をををを事前事前事前事前にににに検証検証検証検証しししし、、、、治療病理学治療病理学治療病理学治療病理学

のののの観点観点観点観点からからからから病理病理病理病理----臨床臨床臨床臨床がががが連携連携連携連携してしてしてして治療方針治療方針治療方針治療方針をををを決定決定決定決定していくしていくしていくしていく体制体制体制体制が必要となるであろう。

plasticityplasticityplasticityplasticity のあるのあるのあるのある癌細胞癌細胞癌細胞癌細胞ののののシグナルシグナルシグナルシグナル伝達伝達伝達伝達やややや治療抵抗性治療抵抗性治療抵抗性治療抵抗性のののの機序機序機序機序をををを明明明明らかにしていくことこそがらかにしていくことこそがらかにしていくことこそがらかにしていくことこそが、、、、

テーラーメードテーラーメードテーラーメードテーラーメード治療治療治療治療((((個別化治療個別化治療個別化治療個別化治療))))をををを実実実実現現現現するためのするためのするためのするための根幹的根幹的根幹的根幹的なななな必要条件必要条件必要条件必要条件となるととなるととなるととなると考考考考えられえられえられえられ

るるるる。。。。

とりわけ術後迅速病理診断では、センチネルリンパ節生検などによって転移の有無を決

定する上で有用である。センチネルリンパ節とは、腫瘍組織から直接、リンパ流を最初に

受けている微小リンパ節転移(micro-metastasis)が起こりうるリンパ節を指す。この概念

を SN 理論 (sentinel lymph node theory)と呼ぶ。1992 年に Morton らが melanoma に対して世

界で初めて施行し(Arch Surg. 1992;127:392-9.,Semin Surg Oncol. 1993;9:219-23.)、それ以降、

乳癌・卵巣癌・消化器癌などの術後迅速診断に応用されている。開腹手術における大網側

からの色素注入による SN 同定は既に多くの医療施設で普及している(J Surg Oncol.

2007;96:671-7.)。SN 理論によって①SN の分布(SN mapping)および②生検による転移の有無

を判断することが可能となり、リンパ節郭清を積極的に最小限に留めるテーラーメード療

法(個別化治療)が実現すると期待されてきた。

しかしながら、SN 理論に基づく診断にも残念ながら限界が存在する。実際にセンチネル

リンパ節生検で腫瘍細胞が存在しないと診断された症例(pN0)のうち、約 25%が潜伏的な微

小転移(occult metastasis)を遠隔臓器に既に形成しており、遅発性に遠隔転移巣が拡大す

ることが報告されている(JAMA. 2009;301:745-52.)。また、癌抑制遺伝子である p53 が胚細

胞の段階(germ-line)で機能抑制型変異(loss-of-functional mutation)を呈している Li-Fraumeni

症候群や DNA 損傷修復に関与する分子が欠損している HNPCC (familial hereditary polyposis

colorectal carcinoma )のように、同時に多臓器が腫瘍に侵される double cancer を呈するよう

な tumor-predisposing case では、センチネルリンパ節生検の有効性は低いと言わざるを得な

い。

加えて、原発不明癌(cancer of unknown primary lesion; CUP)における“診断病理学”か

ら“治療病理学”へのシフトの重要性を述べたいと思う。CUP とは、「臨床的に注意深い全

身検索や経過観察を行っても原発巣が同定できない転移性の腫瘍を示し、様々な腫瘍が混

在した不均一な疾患グループ」と定義されている。全身 CT、FDG-PET などの画像診断の普

及や新規の腫瘍マーカーの開発によって CUP と診断される症例数は年々減少している。し

かし数%の割合で CUP と診断され、有効な治療法がないという極めて予後不良な症例は存

在する。組織型は圧倒的に腺癌が多く剖検時に 70-80%の割合で原発巣が同定される(原発

不明がん診療ガイドライン 2010 年版日本臨床腫瘍学会編)。原発巣が自然治癒するために

剖検時にも原発巣が同定できない CUP の症例や、治療が奏功して原発巣が完全緩解を呈し

てから数年後経過してはじめて腫瘍の再発・転移が指摘される症例では、脈管内を浮遊す

る播種性腫瘍細胞(disseminated tumor cells;DTC)が原因になっていると考えられている

(Cancer Cell.2008;13:58-68.)。DTCDTCDTCDTC からからからから遅発性転移遅発性転移遅発性転移遅発性転移がががが成立成立成立成立するするするするメカニズムメカニズムメカニズムメカニズムとしてはとしてはとしてはとしては、、、、DTCDTCDTCDTC

がががが血管内侵入血管内侵入血管内侵入血管内侵入((((intravasationintravasationintravasationintravasation))))のののの能力能力能力能力はははは高高高高いがいがいがいが血管外遊出血管外遊出血管外遊出血管外遊出((((extravasatioextravasatioextravasatioextravasationnnn))))のののの能力能力能力能力がががが低低低低いたいたいたいた

めにめにめにめに、、、、原発巣原発巣原発巣原発巣がががが消退消退消退消退したしたしたした後後後後もももも長期長期長期長期にわたってにわたってにわたってにわたって遠隔転移遠隔転移遠隔転移遠隔転移のののの原因原因原因原因となるというとなるというとなるというとなるという説説説説とととと、、、、早期早期早期早期のののの段段段段

階階階階でででで既既既既にににに転移巣転移巣転移巣転移巣にににに生着生着生着生着しているがしているがしているがしているが増殖増殖増殖増殖できないできないできないできない状態状態状態状態((((quiescentquiescentquiescentquiescent))))であることがであることがであることがであることが原因原因原因原因であるであるであるである

というというというという説説説説がありがありがありがあり、、、、未未未未だだだだ決着決着決着決着はついていないはついていないはついていないはついていない(J Pathol. 2011; 223:195-204.)。

600 群以上の乳癌症例に対するコホート研究では、c-Src キナーゼ活性が高い腫瘍と遅発

性骨転移との間に強い相関が認められている(Cancer Cell. 2009;16:67-78.)。c-Src キナーゼ

は CXCR4 と協調して、CXCR12 による Akt シグナル活性化を増強することが明らかにされ

ており 19、血中に放出された DTC の生存維持に深く関与すると考えられる。また、Src キ

ナーゼ活性化は PI3K、MEK(mitogen activated protein kinese kinase)阻害剤に対する腫瘍の感

受性を低下させることが in vivo で確認され、治療抵抗性の原因の一つと考えられる(Cancer

Cell 2010;17:547–559.)。bcr-abl 融合遺伝子陽性の白血病患者に対して投与される第 2 世代

チロシンキナーゼ阻害剤の一つであるダサチニブ(Dasatinib)は、Src キナーゼも阻害する

ことが知られており、DTC に基づく遅発性転移の予防や治療に期待がもたれる。

DTC は腫瘍免疫を司る T 細胞や IFN(インターフェロン)γのようなサイトカインの影響

によって、静止期(dormant status/ quiescence)すなわち G0 期にあることが知られている

(Nat Rev Cancer. 2007;7:834-46.)。また転移性乳癌症例における DTC は乳癌幹細胞マーカ

ーである CD44

high

/CD24

low

を呈すると同時に、近年 CD44 とともに癌幹細胞マーカーとして

注目されている aldehyde dehydrogenase (ALDH)1 や BMI1 に関しても陽性であることが多い

(Cell Stem Cell.2007;1:555-67., Breast Cancer Res. 2007;9:R55.)。原発巣を手術で摘出後に

化学療法を施行したにも拘らず、DTC は治療抵抗性に形質を維持しながら血流や骨髄をは

じめとする微小転移巣で存在が認められる。加えて癌幹細胞の増殖因子である上皮成長因

子(epidermal growth factor; EGF)や線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor; FGF)-2

に よ っ て 細 胞 増 殖 能 が 亢 進 す る よ う に な る 点 も 注 目 さ れ て い る ( Br J

Cancer.2003;89:539-45.)。

つまり、DTC が以下の 3 つの必要条件を満たす点において、新たな転移巣を形成する能力

を持った DTC は、癌幹細胞にかなり類似した形質を有すると想像できる。

① 血流内で循環しつつ腫瘍形成に必要な自己複製能、多分化能を維持すること

② 癌幹細胞の細胞表面マーカーを有し治療抵抗性を示すこと

③ 癌幹細胞の増殖因子によって Ki-67 が陽性化すること

逆に癌幹細胞や DTC に特異的に発現する分子こそが浸潤(invasion)、転移(metastasis)、

再発(relapse)に寄与している可能性が高い。「浸潤、転移、再発」という 3 つの観点から長

期間にわたって患者さんの病態を経過観察・把握しながら早期診断、治療介入していくた

めには、従来従来従来従来のののの感度感度感度感度、、、、特異度特異度特異度特異度からしてからしてからしてからして改善改善改善改善のののの余地余地余地余地のあるのあるのあるのある腫瘍腫瘍腫瘍腫瘍マーカーマーカーマーカーマーカーにににに代代代代わるわるわるわる適切適切適切適切ななななバイバイバイバイ

オマーカーオマーカーオマーカーオマーカーをををを探索探索探索探索していくしていくしていくしていく必要必要必要必要があるがあるがあるがある。。。。そのそのそのそのバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカーバイオマーカーこそがこそがこそがこそが、、、、病理診断病理診断病理診断病理診断をををを「「「「確定確定確定確定診診診診

断断断断をするをするをするをする病理学病理学病理学病理学((((診断病理学診断病理学診断病理学診断病理学)」)」)」)」からからからから「「「「個別化治療個別化治療個別化治療個別化治療をををを可能可能可能可能にするにするにするにする病理学病理学病理学病理学((((治療病理学治療病理学治療病理学治療病理学)」)」)」)」へへへへ

とととと飛躍飛躍飛躍飛躍させるさせるさせるさせる鍵鍵鍵鍵になるとになるとになるとになると信信信信じてやまないじてやまないじてやまないじてやまない。。。。