20121022 paidcontent nojima
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お金を払うに値するコンテンツビジネスの構造とは
MEDIVERSEペイドコンテンツ研究会セミナー
2012年10月22日
成蹊大学経済学部 教授 野島 美保
専門:経営情報論(経営学)
自己紹介
①ITによって、人の働き方や企業活動はどう変わるのか?
例)流通の情報化(電子受発注システム)
②EC・デジタルコンテンツという新市場の特性を知る
2008年 『人はなぜ形のないものを買うのか-仮想世界のビジネスモデル』 NTT出版
2010年~2011年 ITMedia ビジネス誠 連載コラム
©2012 Miho Nojima
電子書籍は多くのリーダーが販売されているのに、なぜ利用が一般化しないのか。
紙よりもかさばることなく保存ができ合理的であるのに、なぜ電子へと利用スタイルが切り替わらないのか。 紙の新聞は月額3000円以上するのに、ネットニュースとなると無料が当たり前で金を出し渋るのはなぜだろうか。
根本的な考え方を変える 消費スタイルを変える ビジネスモデルを変える
ソーシャルゲーム業界のデータドリブン経営 ゲームとは何か ライトユーザーを取り込む サービス業としてのゲーム データを中心においた新しい開発・運営 会社組織の変革
便利なはずなのに定着しないデジタルコンテンツ
ソーシャルゲームとは、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上で提供され、SNS のユーザーが主にブラウザ上でゲームを介してコミュニケーションがとれるオンラインゲーム(矢野経済研究所2012)
ソーシャルゲーム市場
3年で3000億円に急成長 テレビゲーム市場(2010年) 国内ソフト出荷高 2591億円 海外ソフト出荷高 4115億円
ソーシャルゲーム市場の位置づけ
©2012 Miho Nojima
1 ユーザー層の拡大
ゲーマーではない一般層に訴求
SNSをベースにしたこと(日本では携帯SNS)
コミュニケーション(ソーシャル)とゲームの関係を再定義
「ゲームではないゲーム」 新しい需要
2 オープンプラットフォーム 「釣りスタ」2007年当時にはなかった発展
オープンプラットフォームにより、コンテンツとユーザーコミュニティを分化
分化⇒ユーザーをコンテンツ寿命から切り離し、集客の対象をプラットフォームへ
オープン化⇒3rdパーティの参画で、一気に市場拡大
3 マネタイズの成功と高利用単価
従量制のアイテム課金の特性
売り切り型のコンテンツ販売とは異なるビジネスモデル
マネタイズを中心に考えた独自のマーケティング・運営(データドリブン経営)
ソーシャルゲーム急成長の理由
©2012 Miho Nojima
1 ゲームのカジュアル化 ゲーム概念の変化:ゲーム性よりも暇つぶし
2 フリーミアムモデルの成功 基本無料アイテム課金
MMO時代から引き継がれ、洗練された
3 サービス業としてのソーシャルゲーム
脱パッケージ、売り切り型からサービスへ、多様な料金体系 (単純にアイテム課金を入れれば良いわけではない)
サービス業としての開発運営を実現する組織⇒ヒットの再現性
ソーシャルゲームビジネスの理解
©2012 Miho Nojima
従来のマーケティングの考え方では、金を払うのはハードユーザー。そこに効率的にターゲットを絞る。
ソーシャルゲームでは、消極的利用の人でも、「あるルールに従えば」金を払うようになると考える。
これがマネタイズ(無料から収益を生む)ビジネス
簡単なだけのミニゲームではない
始めるときのハードルを低くして、中盤以降は没入を生む、奥行のあるゲーム作り
ただし、中盤から様々な制約が出てくる。金を払うか友人を招待するか、プレイ時間をかけるか。
1 暇つぶしとしてのゲーム
暇つぶしという消極的利用から有料利用に結びつける
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1102/23/news008.html ©2012 Miho Nojima
無料から始まるビジネス アンダーソン(2009)『FREE』
2 フリーミアムモデルの成功
無形財かつ使用価値がないものを売る ⇒欲を生み出す仕組み
従来の物財の論理が通用しない。「便利だから、安いから買う」
最初から『高級肥料』が欲しくて『サンシャイン牧場』を始める人はいない。
無料だから・暇だから・友達がいるから試してみる。そして結果的に課金をする。
なぜコンテンツがマネタイズできないか?
⇒1円でも値段を付けてしまうと、「それに見合うものなのか」といちいちユーザーに考えさせてしまうから。
品質を上げれば比例して価格が上がる、従来の常識が通用しない。
フリーミアム・モデル(少数の有料ユーザーがサービス全体を支える) 試用品とは違い、無料のまま使い続けられる。
無料と有料に格差があり、それについてユーザーが納得している状況。
企業は、集客(無料)と課金をわけて考える。無料の威力で集客する。
©2012 Miho Nojima
日本では2006年にオンラインゲームで導入
当時定額制だったが、カジュアルユーザー取り込みのためにハードルを下げるのに基本無料を始めた。その代わりに、ゲームアイテムを販売。
成功例「スカッとゴルフパンヤ」
1 ゲームプレイが浅いうちは無料でできる
2 単価が可変化する (定額制で頭打ちしていた単価が上昇)
オンラインゲームの客単価(ARPPU)は4000円位
3 ユーザー判断で無料か有料か決められる
(単なる従量制との違い)
「金を払ってでもプレイしたいと思わせるノウハウ」が、ゲームビジネスとして蓄積していった
アイテム課金とは
©2012 Miho Nojima
http://www.pangya.jp/
満足度曲線の変化(野島(2008)『人はなぜ形のないものを買うのか-仮想世界のビジネスモデル』より引用、一部加筆) 満足度曲線の変化(野島(2008)『人はなぜ形のないものを買うのか-仮想世界のビジネスモデル』より引用、一部加筆) 満足度曲線の変化(野島(2008)『人はなぜ形のないものを買うのか-仮想世界のビジネスモデル』より引用、一部加筆)
満足度曲線の変化(野島(2008)『人はなぜ形のないものを買うのか』より引用、一部加筆)
単価の可変化と満足度との関係
初期のMMO⇒1~2年はβテストとして無料提供してから定額制に移行。ゆっくり課金のタイミングを図る。毎月のユーザー満足度を知る。
ソーシャルゲーム⇒リリース後、ランキングにのる数週間が勝負。毎日のスパンでユーザー満足度を把握する必要。
ゲームへのアクセス記録(ログデータ)から、間接的にユーザーの満足度を推し量る、データマイニング系の手法へ。
©2012 Miho Nojima
時間
離脱
有料利用
無料利用 課金
アクイジション リテンション マネタイズ
100人 70人 50人 40人
5人
©2011 Miho Nojima
指標
登録者数の増加 AU(アクティブ率)の向上 PU(課金率)の向上
離脱
Game Life-Cycle (Time/Age of Game)
Acquisition Retention Monetization
初期離脱 翌日残留(1日~7日) チュートリアル完了 アクティブユーザー DAU(日) MAU(月) ログイン頻度 セッションタイム レベル毎の離脱率 月次離脱率
広告効果 CTR 一人当たり広告料 ユーザー属性 バイラル効果 インバイト数 インバイト数/DAU インバイト承認率 バイラルプロモーション
最初の課金 課金転換率(PU/AU) 最初に売れるアイテム 課金ユーザー属性 客単価 ARPPU 一回当たりの支払い単価 ライフタイム・バリュー
指標
消費者心理
何もないところに欲をつくる :仮想アイテムの価値を宣言 欲をつくりだす ゲーム進行上の限界 既に課金する友人・他人の目線 心理的取引コストの削減 無料アイテムとの差の演出 アイテム購買を体験させる (コインプレゼント) バーチャル資産の価値保全 マネー・アイテムの流通・価格管理 客単価の増加
明日も明後日もログインさせる :能動的目的にスイッチ 習慣化のためのゲームニクス
ログインボーナスなど、毎日プレイするメリットを演出 リズム感のあるリワード設計 継続するほど得をする報酬設計 ゲーム内に目標をもたせる レベル・アイテム ランキング・競争 成功体験と失敗体験 ソーシャルによる継続性 比較・競争・友人・仲間
ゲームプレイのきっかけづくり :消極的目的から膨らませる 認知 広告・ランキング・IP利用 消極的利用目的 バイラル 暇つぶし 初回の敷居を下げる わかりやすいチュートリアル プレイしながら理解する直感操作 初回で達成感と成功体験を演出
(野島2011 Gazecki2012をもとに作成)
開発期間の短縮
集客はプラットフォームと共同
サービスを提供しながら、ゲーム内容を改変していく(バグ、アップデート)
人の流れをみながら、サイトデザインや勝率などを変える(チューニング)
チューニングに重きを置き、リアルタイム(毎日、毎時)でゲーム内容を変えることで、課金率や単価を上げていく。
ソーシャルゲーム
3 サービス業としてのソーシャルゲーム
©2012 Miho Nojima
物販としてのゲーム
「動く」プログラムをつくることが開発のゴール
開発と販売が切り離されている
ヒットは確率 ⇒よいプロデューサー、広告露出
売上・ユーザーの反応は次作開発にフィードバック
サービスとしてのゲーム
ユーザーがゲームを使い続けお金を払う状態がゴール
リリースした後の運営
基本無料なのでゲームプログラムを作るだけでは売上にならない
ユーザー反応はリリース中のゲームの改善につなげる
リリースしてから数週間での改善のスタートダッシュ、その後の長い運営
ヒットは確率だけではなく、運営で作りだすもの
Games as Service
©2012 Miho Nojima
ログデータ解析によりユーザーの日々のプレイ状況を測定して数値化し、ゲームシステムの修正すべき点を洗い出し、運営中のゲームにリアルタイムで改変を加えていく手法。
データドリブンのアプローチ
1 数量的アプローチ 統計手法の精緻化、数学・統計学の専門家の雇用
2 運営的アプローチ 開発や運営スタッフからの定性情報・経験の活用
3 組織的アプローチ 会社組織としてPDCAサイクルを回す仕組み
データドリブン経営
©2012 Miho Nojima
時間や進捗を示す変数
全ユーザーに占める比率
横軸:時間や進捗を示す変数 プレイ期間 ログイン時間 ログイン回数 ゲームレベル
ゲーム進捗度・画面遷移
100%
縦軸:ユーザー行動を示す変数 ログインの有無 ログイン時間 ログイン頻度
特定時間帯のプレイ 課金の有無 支払客単価
原因を探る
50%
課金ユーザー/登録ユーザー
登録 チュートリアル 初ミッション 報酬 初友人・・・ ゲーム進捗度
0 5分 10分 15分 ・・・ 総ログイン時間
レベル1 レベル2 レベル3 ・・・ ゲームレベル
初日 2日 3日 ・・・ プレイ期間
AU:アクティブユーザー/登録ユーザー
注)通常、課金率(PU)というと、課金ユーザー/アクティブユーザーを指すが、図は課金ユーザー/登録ユーザーを想定して描いた。アクティブユーザーを分母とする方が高い数値になる。
©2012 Miho Nojima
大規模データのリアルタイム処理システム ゲームサーバから分析サーバにデータを移行・集計
全体を把握する: KPIの算出 KPI:登録ユーザー(UU)、アクティブユーザー(AU)、課金ユーザー(PU)、ARPPU(課金客単価)、売上 日次・週次・月次によるKPIの変動をチェック PV・UU・AU・PU等の基本データを社内で共有・蓄積・活用する仕組み(BI:Business Intelligence)
ゲーム内分析
個別のゲームについて、具体的なゲーム内行動やゲーム進捗度を表す変数とKPIとの関係を分析 例えば、AUが下落する個所を見つけ、詳細な原因分析を行う。
分析結果をもとにゲーム内容を改変し、その結果をチェックする(PDCAサイクル)。
複数の代替案がある場合には、評価を行う(A/Bテストなど)。
サンプリング調査
一人のユーザーにフォーカスして、課金利用するまでの動向を追っていく。
サンプリング調査で詳細に分析し、離脱ポイントやパターンを発見する。複数要因が絡んでいる場合、多変量解析を行う。
データマイニング
大量データを機械的に処理
「どの変数が関連しあうか」という仮説を発見する
ゲーム間分析
複数のゲームを展開している場合、あるいはプラットフォームにおける応用分析。ゲーム間の併用・回遊パターンを分析する。
個別タイトルに依存しない、ソーシャルグラフの掌握とブランド形成をねらう。
開発・運営サイドの 定性情報 現場の勘と経験 ユーザーの声 ユーザーの観察
ユーザー行動の特徴や問題点の把握
仮説 仮説
詳細
応用
人間による仮説発見 機械による仮説発見
ゲームプログラムの改変 イベント施策
PDCA
©2012 Miho Nojima