1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト ·...

21
15 1.拠点形成 現状と課題 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という 世界有数の国際空港に隣接していながら、その経済波及効果が限定的なもの に留まっている大きな要因の一つといえます。もっとも、多古町の将来を展 望すると、成田空港と圏央道のインターチェンジという2大公共交通を結ぶ 地域として、空港機能の更なる向上に向けて重要な役割を担うことになりま す。 そのための課題は、成田空港の容量拡大と圏央道の整備進展の相乗効果を 高められる拠点づくりとともに、その拠点が空港東側地域の玄関口として機 能し、同地域の経済発展につなげられるような戦略的な取り組みを進めてい くことなどがあげられます。 (1) 空港施設の誘致 成田空港の容量拡大と圏央道の整備進展を多古町における地域活性化の機 会ととらえ、空港東側地域の「一鍬田地区」に成田空港施設の誘致を促進し ます。なお、2012年7月には、多古町議会連絡協議会より、同年8月には多 古町長より、成田空港株式会社に対して、空港東側地域を将来の空港施設用 地として活用することを要望しています。 (2) 空港東側ゲートの整備 成 田 空 港 の 年 間 航 空 機 発 着 枠 が 30 万 回 に 拡 大 さ れ る こ と に よ り 、こ れ ま で 発着枠の制限から新規就航が進まなかった国内線やLCCが増便されるなど、 成田空港を起点とした人流・物流の増加が見込まれています。 また、成田空港の東側地域に圏央道が整備されることにより、空港東側地 域と東京都心及び北関東などが環状に結ばれ、新たな人流・物流のネットワ ークが形成されます。このネットワークの競争力を更に高めるために、空港 東側地域の「一鍬田地区」に成田空港施設を誘致するとともに、新規ゲート を開設することや、圏央道の「(仮称)成田小見川鹿島港線インターチェンジ」 などとのアクセス利便性を向上させることが必要です。 (3) 総合高速バスターミナルの整備 成田空港の東側ゲート付近に総合高速バスターミナルを整備し、空港の公 共交通機関の一部として一体的に運用することで、成田空港の交通機能の向 上を図ります。 本バスターミナルは、成田空港及び空港東側地域と首都圏広域を圏央道の インターチェンジを介して結ぶことで、成田空港のアクセス利便性の向上に 寄与します。さらには、公共交通機関に乏しい空港東側地域の玄関口として、 路線バスやパークアンドライドなどの需要に応える拠点として活用すること で、同地域の定住・交流人口の増加にもつながることが期待できます。その 他にも、本バスターミナルは、災害時の防災拠点や高速バス利用者及び乗務 員のための利便施設、商業・観光施設などを併設することで、より多くの利 用者ニーズに対応することが可能です。

Upload: others

Post on 08-Oct-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

15

1.拠点形成

■ 現状と課題

多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化

に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

世界有数の国際空港に隣接していながら、その経済波及効果が限定的なもの

に留まっている大きな要因の一つといえます。もっとも、多古町の将来を展

望すると、成田空港と圏央道のインターチェンジという2大公共交通を結ぶ

地域として、空港機能の更なる向上に向けて重要な役割を担うことになりま

す。

そのための課題は、成田空港の容量拡大と圏央道の整備進展の相乗効果を

高められる拠点づくりとともに、その拠点が空港東側地域の玄関口として機

能し、同地域の経済発展につなげられるような戦略的な取り組みを進めてい

くことなどがあげられます。

(1) 空港施設の誘致

成田空港の容量拡大と圏央道の整備進展を多古町における地域活性化の機

会ととらえ、空港東側地域の「一鍬田地区」に成田空港施設の誘致を促進し

ます。なお、2012 年7月には、多古町議会連絡協議会より、同年8月には多

古町長より、成田空港株式会社に対して、空港東側地域を将来の空港施設用

地として活用することを要望しています。

(2) 空港東側ゲートの整備

成田空港の年間航空機発着枠が 30 万回に拡大されることにより、これまで

発着枠の制限から新規就航が進まなかった国内線やLCCが増便されるなど、

成田空港を起点とした人流・物流の増加が見込まれています。

また、成田空港の東側地域に圏央道が整備されることにより、空港東側地

域と東京都心及び北関東などが環状に結ばれ、新たな人流・物流のネットワ

ークが形成されます。このネットワークの競争力を更に高めるために、空港

東側地域の「一鍬田地区」に成田空港施設を誘致するとともに、新規ゲート

を開設することや、圏央道の「(仮称)成田小見川鹿島港線インターチェンジ」

などとのアクセス利便性を向上させることが必要です。

(3) 総合高速バスターミナルの整備

成田空港の東側ゲート付近に総合高速バスターミナルを整備し、空港の公

共交通機関の一部として一体的に運用することで、成田空港の交通機能の向

上を図ります。

本バスターミナルは、成田空港及び空港東側地域と首都圏広域を圏央道の

インターチェンジを介して結ぶことで、成田空港のアクセス利便性の向上に

寄与します。さらには、公共交通機関に乏しい空港東側地域の玄関口として、

路線バスやパークアンドライドなどの需要に応える拠点として活用すること

で、同地域の定住・交流人口の増加にもつながることが期待できます。その

他にも、本バスターミナルは、災害時の防災拠点や高速バス利用者及び乗務

員のための利便施設、商業・観光施設などを併設することで、より多くの利

用者ニーズに対応することが可能です。

Page 2: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

16

図表 8 総合高速バスターミナルの概要(イメージ)

機 能 内 容

総合高速バス ターミナル機能

圏央道を経由する高速バスをはじめとした各種バスが発着し、乗換え拠点としての機能を担う。 (高速バス、シャトルバス、路線バス、定期観光バス)

自動車利用との 交通結節機能

自動車との結節性を高め、総合的な交通ターミナルとしての機能を充実させる。(パークアンドライド用駐車場、キスアンドライド用停車場、レンタカーなど)

災 害 時 の 防 災 拠点

大規模災害時における自衛隊、消防などの集結地、 救援物資の中継地点、復旧資材等の受渡し場所など

高 速 バ ス 利 用 者及 び 乗 務 員 の ための利便施設

高速バス利用者のための利便施設(待合室、トイレ、コンビニ、交通情報提供センターなど) 乗務員のための利便施設(休憩所、宿泊施設など)

商業・観光施設 バスターミナル内または隣接地で商業・観光機能を配置し、集客力を向上させる。 (商業施設)土産物店、地元産品販売店、飲食店等 (観光施設)観光情報センター、スパ施設、ホテル等

◆先進事例紹介① 「市原鶴舞バスターミナル」

(市原鶴舞バスターミナルの概要)

市原鶴舞バスターミナルの立地

は、圏央道の市原鶴舞ICから約

300m。バス専用通路は5バース、

駐車場は一般などの駐車場が合計

44 台、バイク等の駐輪場が 20 台程

度となっている。その他、乗降所や

待合室のほか、イベントや産直など

の利用向けに多目的広場を併設し

ている。

整備にかかった事業費(主要工事

費)は、2億 290 万円。うち社会資

本整備総合交付金(補助率 55%)

等を活用して、全体の3割程度を交

付金で賄った。

市原鶴舞ICは、南市原及び中房総地域の玄関口としての期待が高く、市

原鶴舞バスターミナルは、その拠点施設という位置づけとなっている。

◆「市原鶴舞バスターミナル」施設の概要

面 積約3,270㎡

(借地)延 床 面 積 74.52㎡(借地) 面 積

約2,410㎡(借地)

誘 導 路 約200m 構 造木構在来工法

(市内産木材利用)ゴルフ場 送迎バス 乗降車場

10台

バ ス バ ー ス 5バース ト イ レ男(大1、小1)、女2、

多目的1一 般 駐 車 場 28台

進 入 路 市道6250号線 内 部 設 備椅子20脚程度、発券スペース、

多目的(観光情報発信)スペースタ ク シ ー乗 降 車 場

4台

外 部 設 備自動販売機設置スペース2台分、

多目的広場(イベント、産直の利用)バ イ ク 等駐 輪 場

20台程度

身 体 障害 者・高齢者用駐車

各1台

バスターミナル 待合室 駐車場

Page 3: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

17

(設立経緯)

2012 年度中に供用開始が予定されている圏央道の市原鶴舞ICの整備効

果を地域に呼び込むため、地元のまちづくり協議会と協働してパークアンド

バスライドを活用した地域活性化に取り組むこととした(1999 年)。2001 年

12 月にインターチェンジ周辺のより良いまちづくりと地域の乱開発の抑制

を図ることを目的に立ち上げた「市原鶴舞IC周辺まちづくり協議会」は、

当バスターミナル用地の地権者の取りまとめにも尽力した。

(運用方法) バスターミナルの供用開始に当り、設置及び管理に関する条例「市原鶴舞

バスターミナルの設置及管理に関する条例」を制定した。同条例において、

駐車場及び二輪駐車場の駐車料金は、設立当初は無料とすることとした(但

し、附則で利用状況を検討し、必要に応じて見直すことができることを明記)。

また、多目的広場の使用料は 500 円/日に設定した。

バスターミナル施設の運営者として、指定管理者を地元まちづくり協議会

に決定した。指定管理者への委託料(予算)は 470 万円程度を見込んでいる。

利用を予定しているバス事業者は4社(小湊鐡道、京浜急行バス、鴨川日

東バス、京成バス)で、路線の乗り入れは、現在も牛久駅経由で運行してい

る①茂原方面から羽田空港・横浜行きや、②安房小湊・御宿から浜松町行き

の高速バス路線を予定している。また、近隣ゴルフ場との間を結ぶ送迎バス

は、事前調査の段階では 10 施設程度が路線の乗り入れを希望している。

(設立過程で苦労した点)

バスターミナルの設立過程で苦労した点は以下の通り。 ①関係者(バス事業者や公安委員会、補助金関連、周辺地権者など)が多く、

多方面にわたる配慮と協議が必要であったこと。 ②圏央道の供用開始時期が明確でないため、整備時期や完成後の維持管理方法、

オープニングイベントなどのスケジュール設定が何度も変更になったこと。 ③バスターミナル建設に関する国庫補助制度がなく、特定財源確保に苦労した

こと( 終的には県と調整し社会資本整備総合交付金を活用した)。 ④設置管理条例を制定する際、駐車場料金や管理方法に関する様々な意見があ

ったこと。 ⑤用地関係の地元合意形成に苦労したこと。

(整備効果・今後の課題)

インターチェンジ及びバスターミナルの整備効果として、まずは、①圏央

道の開通により東京・神奈川方面や羽田空港など首都圏からの交通アクセス

の利便性が向上することがある。また、②観光客(ゴルフ客含む)の増加や

観光ツアー等の企画拡充など市内各施設や中房総地区への交流人口の増加が

期待できる。③バスターミナルを起点に市域内の核施設(市原ぞうの国・ゴ

ルフ場・高滝湖・養老渓谷・水と彫刻の丘・観光農園・市民の森など)の連

携強化なども見込まれる。さらに、④サービス施設の立地による新規雇用の

促進や農産物直売所などに地元農産物の販売、新たなビジネスチャンスの創

出など様々な経済効果が生まれる可能性がある。 今後の課題としては、バスターミナルの供用開始後の利用状況によるが、

駐車場の増設が必要になる可能性がある。

Page 4: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

18

(4) 空港眺望公園の整備

空港東側ゲートと圏央道の(仮称)成田小見川鹿島港線インターチェンジ

との間に、空港を一望できる空港眺望公園の整備を促進します。同公園には、

多古町で獲れた新鮮な野菜や多古米などを扱うアンテナショップなどの商業

機能や地域の新鮮な食材を使った料理を提供するレストランなどを付設する

ほか、空港東側地域を起点とした観光ルートなど観光情報の提供コーナーを

設置し、空港東側地域を起点とした広域観光を来訪者に訴求します。

(5) 圏央道インターチェンジ周辺の利活用の促進

空港東側地域に新たに整備される圏央道IC周辺は、広域交通の利便性の

高さから、流通産業をはじめとして、輸出入や出張などで空港を利用する事

業者などに対する優位性は高まるものとみられます。

こうした優位性を積極的に情報発信するなかで、圏央道ICの周辺などを

中心に流通産業や各種製造業などの産業立地を促進します。

図表 9 空港東側地域の拠点形成のイメージ

東側ゲート

(仮称)成田小見川

鹿島港線IC

総合高速バスターミナル

■総合高速バスターミナル機能

高速バス、シャトルバス、

路線バス、定期観光バス

■自動車利用との交通結節機能

パーク&バスライド用駐車場、キ

ス&ライド停車場、レンタカーなど

大規模災害時の防災拠点

高速バス利用者及びバス乗務員

の利便施設

商業施設(土産物店など)

観光施設(観光情報センターなど)

空港眺望公園

成田空港東側地域

〈多古町経由広域観光〉

旭・銚子・九十九里

・香取方面

北関東・東北方面

東京都心・中京・関西方面

(仮称)国道296号IC

企業立地などIC周辺

相乗効果

Page 5: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

19

2.圏央道と成田空港のアクセス強化

■ 現状と課題

多古町では、現在、成田空港への交通利便性の向上を図るため「町道飯笹・

西古内線(事業期間:2007~2013 年度)」の道路改良事業を進めています。

もっとも、同事業だけでは、圏央道の整備進展及び成田空港の発着枠 30 万回

化のポテンシャルを空港東側地域に取り込むには不十分であり、更なる成田

空港及び圏央道と空港東側地域を結ぶ道路インフラの整備が課題です。

多古町は、今後、成田空港と空港東側地域のアクセス向上に向けた道路整

備(図表 10)を促進します。

(1) 県道成田松尾線の延伸

圏央道(仮称)成田小見川鹿島港線インターチェンジまでのアクセスの向

上を図るための県道成田松尾線の延伸を促進します。

(2) 国道 296 号の4車線化

圏央道(仮称)国道 296 号インターチェンジから多古町中心部及び匝瑳市

方面へのアクセスを強化するため、国道 296 号の4車線化を促進します。

(3) 町道染井間倉線整備

多古町中心部から芝山千代田駅及び成田空港へのアクセスの向上を図るた

め、町道染井間倉線から芝山千代田駅までの道路整備を進めます。

(4) 圏央道の側道整備

圏央道の(仮称)成田小見川鹿島港線インターチェンジから(仮称)国道

296 号インターチェンジ及び多古工業団地までの側道の整備を促進します。

(5) 一鍬田地先町道多古 1004 号線の整備

成田空港の東側ゲート(本構想の戦略プランで提案)と空港東側地域のア

クセスを強化するため、一鍬田地先町道多古 1004 号線の道路整備を進めます。

Page 6: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

20

図表 10 多古町の道路整備の概要

Page 7: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

21

3.産業振興

■ 現状と課題

多古町の産業の現状をみると、事業所数が 1990 年代半ば以降基調的な減少

傾向を辿っているほか、基幹産業の一つである農業も農業従事者の高齢化な

どから産出額が落ち込んでいます。事業所数の減少や地場産業の低迷などが

地域にもたらす影響として、地域経済の疲弊や税収の落ち込みによる行政サ

ービスの低下、人口流出の加速、里山の荒廃などが懸念されます。

こうした地域産業の衰退の動きに歯止めをかけ、地域を持続的に発展可能

な軌道に乗せるためには、成田空港 30 万回化や圏央道の整備による地域のポ

テンシャル向上を町内外に積極的に情報発信して企業誘致を促進すること

や、次世代型の産業や農業の6次産業化など付加価値の高い新産業を地域が

一体となって創出していくことなどが課題です。

(1) 企業誘致の促進

多古町の企業立地環境は、成田空港に隣接していることや地盤が強固で災

害に強いなど好条件の割には立地に係るコストが低い(地価が安い)など、

企業が立地しやすい環境です。さらに、将来を展望しても圏央道の整備進展

や成田空港の航空機発着枠 30 万回化など企業が立地を検討する上でプラス

の材料もあります。

一方、企業誘致を取り巻く環境をみると、人口減少に伴う国内市場の縮小

が見込まれることや、歴史的な円高、高い法人税、東日本大震災後の電力不

足懸念、放射能汚染問題などから、「国内生産の縮小」と「海外シフトの加速

化」への動きなど厳しい状況にあります。従って、今後の企業誘致戦略にお

いては、業種や企業規模別に企業の立地ニーズを十分踏まえ、多古町の地域

特性に即した企業を誘致対象に、地域をあげて個別企業のニーズに真摯に対

応していくことが求められます。多古町は、地域の産業面のポテンシャルを

踏まえ、立地可能性が高い以下の業種に対して企業誘致を積極的に促進して

いきます。

1) 食料品製造業

多古町の基幹産業の一つである農業とのシナジー効果を図れる業種として

食料品製造業があげられます。多古町には、食料品製造業の集積が多くみら

れるなど、巨大マーケットを抱える東京都心へのアクセス利便性が高く、東

京都心に販売先を抱える食料品製造業の立地に適しています。さらに、多古

町が推進する農業の6次産業化と提携することで、新たな商品開発ができれ

ば、将来的には成田空港を経由して、急速に市場が拡大しているアジアへと

の取引が拡がる可能性もあります。

2) 流通産業

成田空港と圏央道という2大公共交通機能を も有効に活用できる業種と

して流通産業(卸売業、小売業、運輸業、倉庫業など)があげられます。実

際に、多古町に立地している道路貨物運送業は事業所数の構成比が 7.2%で

多となっています。成田空港と圏央道ICの間を円滑かつ短時間で結ぶ空

港東側ゲートとアクセス道路の整備により、圏央道IC周辺地域の物流拠点

としての優位性がさらに向上します。食料品卸売業者や食料品製造業に製品

Page 8: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

22

や原材料を提供する冷凍・冷蔵倉庫(冷蔵庫団地)を誘致できれば食料品製

造業との相乗効果が図れ、多古町に立地するメリットがさらに高まります。

3) 医薬品・サプリメント製造業

日本人の平均寿命の高止まり(2011 年:女性 85.90 歳、男性 79.44 歳)や

高齢化の進行、健康に関する意識の高まりなどを背景に医薬品・サプリメン

トの生産は大きく増加しています(2011 年医薬品生産額:6兆 9,873 億円、

2002 年比+13.7%、薬事工業生産動態統計調査)。また、成田空港の医薬品

の輸出入額は 2007 年の 6,292 億円から 2012 年の 1 兆 710 億円(2007 年比+

70.2%)と大きく伸びています。医薬品製造において医薬品製造用水の品質

確保は大きな課題ですが、多古町の水資源を活用するという観点からみても

医薬品・サプリメント関連企業の誘致は多古町に適しています(株式会社龍

角散ヒアリングによる)。

4) 環境関連産業(環境・リサイクル、エネルギー)

環境にやさしい空港「エコ・エアポート」を推進している成田空港にとっ

て、航空機発着回数 30 万回化に伴い増加する廃棄物のリサイクルは大きな課

題であり、環境・リサイクル事業者にとっては大きなビジネスチャンスとい

えます。また、東日本大地震の発生以降、自然エネルギーを見直す機運が高

まっており、全国でメガソーラーの建設が進んでいます。多古町は、これら

の新たな環境関連産業の立地促進を進めていきます。なお、環境・リサイク

ル分野は、政府の日本再生戦略(平成 24 年7月 31 日閣議決定)のなかで日

本の成長の一翼を担う重要な産業(グリーン成長戦略)に位置付けられてい

ます。

Page 9: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

23

◆立地企業紹介① 富士正食品株式会社

1.富士正食品株式会社の概要 ・ 明治 44 年(1911 年)創業の老舗企業。「富士正食品」

としては創業 50 年。本社は銚子市。

・ 昭和 39 年に醤油醸造から食品製造に舵を切り、「富

士正食品」に社名変更。ピーナツ味噌の製造に着手

・ 主力商品は「ピーナツハニー」。他にも落花生を使用

した製品、いわし等を中心とした佃煮など。

・ 工場は銚子に第 1、第 2 工場。営業所は札幌市と熊

本市。

・ 平成 3 年に成田工場(ゼリー専門)を開設。

・ 従業員は 165 名。うち正社員が 99 名、パート等が 66 名。(成田工場は従業

員 46 名。うち正社員が 29 名、パート等は 17 名)

2.多古工業団地に立地した経緯(25 年度に操業予定) 健康志向やダイエットの普及により、ゼリーの人気が高まり、業績向上と

ともにゼリーを増産、成田工場が手狭になった。

工場は住宅地の一角にあり、敷地の拡大も不可能、工場の老朽化も進み修

繕や改修が頻繁に必要になっていた。

移転を検討し始めたころ、成田工場周辺に 2500 坪の土地を見つけたが、開

発予定地と隣接していたことから見送った。また、大栄付近でも移転先を

検討したが、必要面積は確保できたが、水量が確保できないことから断念

した。

そのころ、以前に多古町都市整備課から送付された、多古台への企業誘致

の郵便を読み返し、多古町に連絡したところ、担当課から多古工業団地の

隣接地を紹介してもらい、立地に至った。

3.立地の決め手 ①水が豊富に使えること。

②土地の価格が安価だったこと(2,780 坪で成田市の半額以下)。

③多古町の対応がよかったこと。候補地の半分は町有地、半分は民間所有

地だったが、町の協力により民間所有地の取得が実現した。

④成田から車で 20 分であるため、多古町に移転後も成田工場の従業員はす

べて通勤できること。

⑤圏央道多古インターができれば、取引先を都内に多く持っているため、

情報収集や配送においてメリットが期待できること。

富士正食品㈱本社(銚子市)

Page 10: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

24

◆立地企業紹介② 株式会社龍角散

1.株式会社龍角散・千葉工場の概要 創業が明治4年、会社設立は昭和3年の

老舗企業。

本社は、東京都千代田区東神田

工場・研究所は千葉工場(多古町)のみ。

営業所は大阪市と福岡市。

千葉工場で生産している製品

「一般用医薬品分野」

龍角散、龍角散ダイレクトスティック、

龍角散ダイレクトトローチマンゴー、

お薬飲めたね(嚥下補助剤)

龍角散ののどすっきり飴

「医療用医薬品分野」

ロキソプロフェン錠・ロキフェン錠(鎮痛・抗炎症、解熱剤)

カルデミン錠(活性型ビタミンD3 製剤)

千葉工場は平成3年に操業開始。

従業員は 65 名(うち正社員 42 名、パート・派遣社員 23 名)。

2.多古工業団地に立地した経緯 ・ 創業時の生産拠点は現本社がある東京都神田。手狭となったため、昭和 37

年に船橋市薬円台に移転(敷地面積:約 10,000 ㎡)。

・ 昭和 48 年、船橋工場が龍角散、クララ、龍角散トローチの一貫製造工場と

して完成。

・ 昭和 50~60 年代にかけて工場周辺の宅地化が進み、操業環境が急速に悪化。

・ 茨城県や福島県など複数の移転候補地を比較検討。企業庁から多古工業団地

の紹介があり、条件に合っていたため立地を決めた。

3.立地の決め手 ①「水」がきれいで豊富に使え、安価なこと。

②船橋工場に勤務していた従業員が通勤可能な場所だったこと。

③分譲価格の安さ(敷地面積は 33,092 ㎡と従前の船橋工場の3倍に拡張)。

4.立地環境の強み ・ 圏央道のインターチェンジができれば、本社(東京都千代田区東神田)や取

引先(長野県等)への配送面でのメリットが見込める。

㈱龍角散千葉工場(多古町)

Page 11: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

25

(2) 農業の6次産業化の推進

多古町は、全国で2番目に田の耕地整理(明治 34~43 年)が行われるなど

古くから農業の盛んな地域であり、多古米は江戸時代から味の良さが評判に

なっていました。多古町の農業産出額は、千葉県の郡部のなかでトップとな

っているなど、多古町にとって農業は基幹産業の一角を占めています。

しかしながら、農業従事者の高齢化の進行に伴う後継者難やTPP(環太

平洋戦略的経済連携協定)の行方など農業を取り巻く環境は厳しさを強めて

います。今後も多古町が持続的な農業振興を目指すためには、これまで通り、

品質の高い農作物を栽培することに加え、高付加価値化による収益性の向上

が必要不可欠です。多古町では、既に多古米を活用した「多古舞(多古米純

米吟醸酒)」や「多古米お米サブレ」など商品化されています。また、2012

年5月には、多古高校がコンビニエンスストア「サークルKサンクス」との

共同開発で地元産品を活用したおにぎりを開発し、商品化するなど産学連携

の動きもみられます。こうした動きを更に広げていくとともに、多古町の豊

かな緑を活用したグリーンツーリズムとの相乗効果も図るなど農業価値の

大化を目指します。

なお、2011 年3月には6次産業化法が施行され、農林漁業生産と加工・販

売の一体化や、地域資源を活用した新たな産業の創出を促進するなど国をあ

げて支援する体制ができました。また、千葉県にも千葉地域センター農政推

進グループに6次産業化プランナーが配置され、サポートを受けることも可

能になっています。

Page 12: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

26

◆先進事例紹介② 農業の6次産業化の取り組み「世羅町」

(世羅町の概要) 世羅町は、広島県のほぼ中央に位置し、2004 年 10 月 1 日に旧世羅郡世羅

町と甲山町、世羅西町の3町が合併し、現在の「世羅町」となった。面積は

279 ㎢と多古町(73 ㎢)のほぼ4倍と広い。マツタケや梨、トマト、米など

農産物の一大生産地であり、観光農園や農作物の販売所が多い。人口は約

17,000 人(高齢化率は 35%)と多くはないが、町の中心部にはスーパーや家

電量販店等の大型店が集まり、備後地方中部の商業の中心地となっている。

降雪や台風などの災害も比較的少なく、日照量も安定しているため、 近で

は、広島県内では唯一となるメガソーラー発電所が建設されている。

(農業の6次産業化に取組んだ経緯) 世羅町は、島中部台地国営開発事業として 1977 年~1997 年(21 年間)に

かけて 19 団地 38 農園(357ha)が整備され、世羅町は、県中東部の食糧

基地に位置付けられた。世羅町の 1997 年頃の農業は、農産物(米等)の出

荷価格の落ち込みなどから農家経営が不安定な状況であった、農地の荒廃が

進んでいた。このままでは地元農業が壊滅してしまうという危機的状況のな

かで、1997 年の広島県「農村地域6次産業推進事業」を契機として、世羅町

は「6次産業化」をキーワードに農業振興事業を始めることとなった。

(6次産業化の取組内容) ①「世羅高原6次産業推進協議会」の設立(1998 年 1 月)

1998 年1月に、合併前の甲山町、世羅町、世羅西町、JA世羅郡(当時)、

広島県尾三地域事務所(当時)により、「世羅高原6次産業推進協議会」を設

立した。同協議会では、「100 万人のお客様と一緒につくる人間優先のせら高

原」というスローガンのもと、①啓発事業、②推進のための事業導入、③ビ

ジョンの策定、④研修会の開催、⑤ネットワークの育成という5つの活動を

6次産業化の柱とした。

②「世羅高原6次産業ネットワーク」の設立(1999 年7月) 同協議会の活動をさらに拡大させるために、1999

年7月に「世羅高原6次産業ネットワーク」を設

立した。同ネットワークは、2012 年7月時点で 66

団体が加入している。6次産業ネットワークの加

入団体は 66 団体だが、人数ベースでは 1,400 人と

大きな組織となっている。会員は、①イベント部

会、②販売促進部会、③生産商品開発部会、④体

験交流部会、⑤郷土料理部会、⑥研修情報部会の

6つの部会に所属している。生産商品開発部会で

は、世羅高校との共同開発で「世羅っとした梨 ラ

ンニングウォーター」をつくり、2010 年3月の発

売以来、2年間で 20 万本を売り上げるヒット商品

となった。

③活動拠点施設「夢高原市場」の整備 世羅高原6次産業ネットワークを活かした活動

が活発化するなか、2006 年4月には、活動拠点施設「夢高原市場(協同組合

夢高原市場)」を整備した。同施設は、世羅町と企業による第3セクターが運

営する農業公園「せらワイナリー」のなかに世羅町の指定管理施設として店

舗を設置した。「元気を売りますせら夢高原!元気を買いにせら夢高原!」を

世羅町役場の中にあった看板

Page 13: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

27

キャッチフレーズに、生産者による対面販売や特産加工品のブース販売など

を行っている。

◆夢高原市場の概要

法人設立 2006 年4月

法人種類 事業協同組合

組合員 41 団体

施設整備

広島県立せら県民公園(せら夢公園)内にある。

施設は、世羅町が建設し(事業費 3,547 万円)、(協)夢高原

市場が指定管理者として管理、運営しているもの。

運営内容 野菜や果物の加工品の販売、郷土料理のテイクアウト、農村

の暮らし体験交流、ワイナリーレストランへの食材提供など

アンテナショップ ひろしま夢ぷらざ(広島市)

(農業6次産業化の取組み効果)

6次産業ネットワーク会員の売上高(レジ売上)は、6次産業推進協議会

設立前(1997 年)の8億 4,700 万円から、2010 年の 16 億 7,300 万円(1997

年比+97.5%)まで倍増した。また、観光入込客数(レジ通過者数)は、6

次産業ネットワークが設立された 1999 年の 706,468 人から 2010 年には

1,253,708 人(1999 年比+77.5%)に増加している。6次産業化の推進によ

り、個々の農家収入は下げ止まっているほか、6次産業に取組む農家には意

欲的な後継者がいることが多い。

(農業の6次産業化の成功のポイント:考察) ポイント 概要

農業者の強い危機意識 地場産業に乏しい世羅町にとって、基幹産業の一つである農

業の衰退は地域の衰退に直結する大きな問題であり、世羅町

の農民や地域の強い危機意識が出発点となっている。

行政(キーマン)の強いリー

ダーシップ

6次産業推進協議会の立ち上げなどで、コーディネーター役

を務めたのが、広島県の元生活改良普及員の後(うしろ)由

美子氏である。各農家を一つの方向性に導いたので後氏の熱

意が大きい。

ネットワーク(連携)づくり 6次産業推進協議会で縦軸をつくり、6次産業ネットワーク

で農民同志の横軸をつくるなど、世羅高原全域で取り組める

ネットワークづくりが成功の原動力となっている。

地域内に大型レジャー施設

がないこと

世羅町内には、大型レジャー施設がない。大型レジャー施設

は集客力が高い反面、地域への回遊性は低い。世羅町では、

各施設の横のつながりが強く、ニーズにあった農園や飲食店

などを紹介できることが強みの一つといえる。

ブランド化の推進 世羅高原一帯をネットワーク化したことにより、「世羅町」

としてのブランド化に成功したことも成功の一要素。 近で

は、韓国や中東諸国など海外からの視察も増えている。

(今後の課題) 商工会など異業種との連携は今後の大きな課題である。商工会の協力・支

援は殆ど得られていなかったが、 近になって、ようやくイベントなどには

参加してくれるようになった。地域が活性化していくためには、業態の垣根

を越えた連携による相乗効果が欠かせないため、できるだけ早い段階で商工

業者の理解を得ることが取組みのポイントといえる。

Page 14: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

28

(3) 環境に配慮したまちづくり(スマートシティの構築)

地球温暖化など環境問題への配慮と持続可能な社会を目指して、再生可能

エネルギーやスマートグリッドなどを活用した環境配慮型都市(スマートシ

ティ)の構築に向けた取り組みが世界中で加速しています。千葉県内でも、

柏の葉キャンパスが「公民学連携による自律した都市経営」をテーマに地域

活性化総合特別区域(総合特区)の認定を受けて取り組んでいます。

多古町でも、従来から環境保全や地球温暖化防止に関する町民の意識啓発

や本町の事務事業で排出される温室効果ガスの削減に取り組んで参りました。

成田空港もエコ・エアポート基本計画でCO2 排出削減目標を定めるなど地球

環境への取り組みを行っており、空港周辺地域でもそれぞれ同様の取り組み

がみられます。もっとも、これまでの取り組みは個々の活動に留まっており、

地域が一体となった取り組みには至っておりません。今後は、成田空港が核

となって、地域一体で環境に配慮したまちづくりに取り組むことが求められ

ています。このような方針を成田空港周辺地域が全面に打ち出すことにより、

空港周辺地域に 先端の環境関連企業が集積するなど、成田空港周辺地域の

魅力を高める付加価値となります。

なお、多古町では、住宅開発が予定されている多古台において環境配慮型

住宅をコンセプトとしたまちづくりや、メガソーラーの誘致、太陽光発電な

どを活用した新たな事業(植物工場など)の検討など環境に配慮したまちづ

くりをできるところから推進します。

Page 15: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

29

4.観光振興、集客・交流促進

■ 現状と課題

成田空港の容量が 30 万回に拡大することに伴うLCCや国際・国内線など

の新規就航などにより、成田空港を拠点とした新たな観光ツアーが増えるな

ど交流人口の増加が見込まれています。

もっとも、目玉となる観光施設がない多古町の 2011 年の観光入込客は 62

万人と成田市(1,230 万人)の 5.0%に留まっています。また、成田空港を利

用して訪日した外国人の都道府県別訪問率(2010 年)をみると、東京都の

87.1%に対し、千葉県は 21.2%(うち成田 8.2%)と低位に留まり、前泊・

後泊の需要を割り引いて考えると、千葉県全体でみても外国人の観光入込客

はかなり限定的となっています。

これらの状況からみると、多古町が航空機発着枠拡大に伴う新たな観光客

の受け皿となるためには、広域観光ルートの創出やニューツーリズムの推進

など、これまでにない取り組みにより新たな地域の魅力や観光需要を生み出

し、町内外に向けて情報発信していくことが必要です。

(1) 広域観光ルートの創出

多古町では、2011 年 11 月に散歩コースマップ「たこるんぱ(図表 11)」を

作成し、町内の観光資源を一体化することで地域の魅力を高めることに取り

組んでいます。しかしながら、多古町の「道の駅多古あじさい館」や日本寺

などの観光資源は、単体で見る限りでは、観光客への訴求力に乏しいことも

事実です。成田空港を利用する観光客の目を空港東側地域に向けさせるには、

犬吠埼や香取神宮、九十九里浜など、もっと大きな目線で観光地・観光施設

を結ぶ観光ルートをつくるなど広域連携が必要不可欠です。空港東側ゲート

及び圏央道ICに隣接した総合高速バスターミナルなどを発着点として、北

総・南総方面への魅力的な観光ルートづくりを推進します。

図表 11 散歩コースマップ「たこるんぱ」

Page 16: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

30

(2) ニューツーリズムの推進

ニューツーリズムとは、従来の観光旅行とは異なり、旅先での人や自然と

の触れ合いなど地域の特性が重要視された新しいタイプの旅行です。日本で

は、国土交通省の観光立国推進基本計画(2007 年6月)に基づいて、政府が

ニューツーリズムの創出・流通を促進しています。

多古町の地域資源をみると、豊かな緑や田園風景、温暖な気候、農業(新

鮮な食材)、ゴルフ、町民のホスピタリティなどがあげられます。これらの地

域資源を積極的に活用し、多古町の風土にあったニューツーリズムとして以

下の取り組みを推進します。

① ヘルスツーリズム

ヘルスツーリズムとは、医学的な根拠に基づく健康回復や維持、増進につ

ながる観光のことで、主に医療行為を受けるための手段として行われるメデ

ィカルツーリズムなども広義の意味でヘルスツーリズムに含まれます。

多古町の豊かな緑を活用した森林療法や新鮮な食材の提供による食事療法

などに加え、美容に関するサービスを提供することで、多古町にくれば健康

できれいになれるという「健康・美容ツーリズム」を推進します。多古町が

成田空港に近いとい利点を活かして、アジアの女性の「健康で美しくなりた

い」というニーズも取り込みます。

② スポーツツーリズム

千葉県は年間を通して温暖な気候に恵まれており、多古町を含む下総台地

はなだらかで平坦な土地が多いことから、グランドや競技場の整備に適して

います。また、多古町は、中学校や多古高等学校にゴルフ部があるなどスポ

ーツが盛んな土地柄です。

これらの地域の特徴を活かして、大型スタジアムの誘致を推進するととも

に、サッカーやテニス、ゴルフ、サイクルスポーツ( 注 )などの合宿・試合の

受け皿としての機能強化を図ります。2012 年はLCC元年といわれるように

ジェットスター・ジャパンやエアアジア・ジャパンが大阪、札幌、福岡、沖

縄に新たに就航しました。こうした割安な航空券を活用して、例えば、年の

半分近くは雪に閉ざされる北海道の冬のスポーツ需要に対応するなど、多古

町の成田空港に近いという強みを前面に押し出すことで、スポーツ関連需要

を多古町に取り込みます。

(注)千葉県観光物産協会主催の自転車ロングライドイベント。「ツール・ド・

千葉 2012(参加者:3日間で述べ 2,150 人)」では多古町北部がコース(S

tage-1)の一部となっており、将来的には道の駅多古あじさい館を

サイクリング大会の拠点として活用する方向性も考えられる。なお、千

葉県は、2011 年よりサイクルツーリズムモデル事業としてサイクリング

モデルコースの設定(中房総・南房総地域)やサイクルステーションの

整備、サイクリングガイドマップの作成配布、サイクリングポートサイ

トの開設を行っている。

③ グリーンツーリズム

多古町では、田植え体験やじゃがいも・さつまいも掘り体験など「都市と

農村との交流事業(豊饒のさと多古ふれあい事業実行委員会主催)」が毎年開

催されているほか、多古高等学校では、地域住民と生徒が農業実習を通して

Page 17: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

31

交流する開放講座「地域の人々と学ぶ農業生産」に取り組んでいます。

このような地場産業の農業を活用した交流活動を町内全域に拡大し、地域

全体で様々な農村体験が可能なまちづくり「(仮称)農村ギャラリー」の形成

を促進します。

④ アートツーリズム

多古町は、町内の牧歌的な風景などがテレビドラマやCM撮影で多数取り

上げられるなど、フィルムコミッションを積極的に受け入れています。

このような芸術家の創作意欲を掻き立てるような風景などに加えて、「ギャ

ラリーなかまち」などのアート施設や寺社仏閣(日本寺や峰妙興寺など)、史

跡(多古藩陣屋跡や渋谷嘉助旧宅正門など)、多古町歴史民俗資料館などをめ

ぐり、陶芸・創作体験も行えるようなアートに関連した観光振興を行います。

さらには、成田空港に近いという利便性を活かして、芸術関係に携わる国

内外の芸術家が集えるような施設づくりやイベントを行います。

(3) 集客・交流拠点の整備

多古町の観光振興の中心拠点として機能している「道の駅多古あじさい館」

の拡充を促進するとともに、空港東側ゲート及び総合高速バスターミナル隣

接地あるいは圏央道IC周辺、圏央道側道などを候補地として、地元産品の

アンテナショップや観光情報発信機能等を有した新たな集客・交流拠点を整

備します。圏央道沿線であれば、圏央道のサービスエリアとしての役割を想

定し、圏央道の利用者が多古町を素通りすることがないよう情報発信ととも

に利用促進を図ります。サービスエリアとして圏央道と接続が図れれば、多

古町の新たな玄関口としてスマートインターチェンジの設置も期待できます。

また、地元経済への波及効果が大きい滞在型の観光振興を目指して、地元

の宿泊施設の活用に加え、空き家や公共・公益施設の空きスペースなどの活

用を推進します。

Page 18: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

32

◆先進事例紹介③ 農村交流拠点

(交流施設「しんのみくうかん」について) 「しんのみくうかん」の経営母体である「農事組合法人 多古町旬の味産

直センター」は 1987 年に発足。多古町を中心に周辺地域(旭市や匝瑳市、山

武市、八街市、富里市など)の農家約 100 世帯(員外利用も含めると 350 世

帯程度)で産直センター事業を行っている。

産直センターにおける野菜の直売のほか、生産者が選んだ7品目ほどの旬

の野菜などをボックスに入れて週に 1 回お届けする「野菜セット」の宅配事

業も行っている。この利用者は、現在は 1,500 人程度となっている。産地を

身近に感じて欲しいという想いから、ボックスには野菜と一緒に、生産者の

記事や産地情報、レシピなどを入れている。

「野菜セット」を媒介として利用者と産地の交流が日常化したこともあっ

て、利用者に食事や農村体験を提供できる常設の拠点が必要ではないかとい

うことになり、2000 年に交流施設「しんのみくうかん」をオープンさせた。

「しんのみ」とは「みそ汁の実(具)」がなまった言葉。農家がみそ汁に入

れるような自家用野菜を作る畑をしんのみ畑というが、「しんのみくうかん」

は、しんのみ畑でつくった野菜など多古町ならではの新鮮な食材や農村体験

を通じて都市部の住民と繋がりを持ちたいという想いを込めている。

(農村体験メニューについて) 収穫体験は、春のたけのこ掘り

から始まり、人参、じゃがいも、

とうもろこし、ブルーベリー、梨、

生落花生、さつまいもなど季節に

応 じ て 様 々 な 野 菜 や 果 物 の 収 穫

を 都 市 部 の 住 民 に 楽 し ん で も ら

っている。

手作り体験は、地元産小麦・国産小豆を使った田舎

まんじゅうや太巻き寿司(寿司の模様は多古町の町木

であるさざんかやチューリップなど)のほか、本格的

な窯焼きのピザやパンなどが人気である。その他、ネ

イチャーラリーや陶芸教室、絵手紙教室、木工、竹炭

づくりなど幅広いメニューを楽しんでもらっている。

市民農園「私のたんぼ」では、春の田植えから始ま

り秋の「多古しゅんの米(独自のネーミング)」の稲

刈りまで利用者は年間2~3回は多古町を訪れて米

づくりを楽しんでいる(参加登録者 4,000 人程度、グ

ループ単位での申し込みもあり、全員が多古町を訪れ

るわけではない)。

農 家 レ ス ト ラ ン で は 、 旬 の 野 菜 を 使 っ た 料 理 を

1,000 円(ランチ)で提供している。メニューは、季

節の天ぷらや新鮮野菜のみそ汁、フレッシュサラダ、

煮物などの惣菜、古代米ごはん又は太巻き寿司などと盛りだくさんである。

当施設の年間利用者は約 6,000 人。主な利用者は、東京都江東区の小学校

5~6年生が毎年収穫体験で訪れているほか、神奈川県の子どもたちの来訪

も多い。県内では、横芝光町など近隣地域の子供会などの来訪(20~30 人程

度のグループ)や、多古町のソフトボール、野球、サッカーなどのチームが

太巻き寿司手作り体験

農家レストラン

とうもろこし収穫体験

Page 19: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

33

親交を深めるために自然体験や花火などを楽しんでいる。

(「BRAぶらしんのみ祭り」について) 初は、野菜セットの利用者を招いて「郷土料

理試食会」を行い、消費者との交流を図っていた

が、この取組みが 2000 年からは「BRAぶらし

んのみ祭り」に受け継がれ、毎年 11 月の第2土

曜日に開催するようになった。

このイベントでは、産直センターの農家 12 軒が

自宅の庭先や屋内をイベントスペースとして解

放して、もてなしの料理や飲み物を参加者に提供

している。開催スタッフは多古町次浦地区の農家

100 戸を中心に 250 人程度で運営している。参加

者はこれらの農家の軒先を心ゆくまで食べ歩き

ができ、イベントを通して都市部の住民と農家と

の交流が生まれている。2012 年は約 800 人の来

訪があった。

参加者は、神奈川県や県内北西部など都市部の

住民が多く、野菜セットの利用者が多い。参加費

は 1,500 円で、農家自慢の郷土料理やお酒を食

べ・飲み放題で楽しめる。普段はなかなか入るこ

とのできない農家に入れることも都市部の住民に

は人気のようだ。

組合員の農村画家が、日ごろ書き溜めた絵画を

農家の一室をギャラリーとして開放している。農

村の風景を切り取った絵画が都市住民には新鮮なようで好評を博している。

(国際交流について) 当施設は、東南・東アジア地域農業青年国際会議(ビアカンペシーナ)の

視察で外国人の訪問を定期的に受け入れている。2010 年7月には、韓国の女

性企業家(4H倶楽部)6名が日本の農業の流通・雇用形態などを学ぶため

当施設を訪れた。参加者は、旬の味産直センターの生産者を訪ね、栽培法や

販売、経営手法に至るまで熱心に質問していたほか、夜は当施設で宿泊して、

同センターの青年部と交流した。このような視察としては、これまでに台湾

やカンボジア、タイなどからの来訪を受け入れた。

(しんのみくうかんの活動成果について) しんのみくうかんの活動成果は、消費者(主に都市部の住民)との信頼関

係が構築できたことに尽きる。東日本大震災の発生後、2011 年3月 25 日に

は多古町のホウレンソウから暫定規制値を上回る放射性物質が検出された。

その後、多古町の野菜は風評被害にあい、値崩れや販売苦戦に陥ったほか、

いまだにたけのこ狩りが不人気な状況が続くなど後遺症が残っている。この

ような産地が苦境の時に産地を支えてくれたのは、しんのみくうかんを媒介

として顔の見える付き合いをしてきた消費者であった。今後もできるだけ生

産者と消費者の距離を縮められるような活動に取り組んでいきたい。

(その他) 次世代を担う農家の育成にも取り組んでいる。これまでも東京都(篠崎)

や埼玉県、福岡県、福島県などから 20 代の研修生を受け入れてきた。なかに

は、多古町を気に入って多古町の島地区に住みついた若者もいる。

「BRAぶらしんのみ祭り」マップ

「BRAぶらしんのみ祭り」の風景

Page 20: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

34

5.定住促進

■ 現状と課題

成田空港の周辺地域には、成田空港の容量拡大に伴って、空港関連産業(L

CCなど)の立地が今後も続くものとみられます。さらに、圏央道ICの整

備により東京都心や北関東へのアクセス利便性が向上し、企業立地や空港東

側地域の産業・観光振興などの進展が見込まれることから、社員の移住など

の空港周辺地域の住居ニーズが高まっています。こうした住居ニーズを多古

町に取り込めるよう、多古台の住宅や住宅情報の整備など定住促進を図りま

す。

(1) 多古台の住宅整備

多古台の開発状況は、住宅開発を行う事業者が決定し、2012 年度中に開発

許可を取得できるよう手続きを進めているところです。多古町民の三世代同

居率は約4割と高く、多古町の特徴となっていますが、多古台の開発におい

ても、1区画当たりの敷地面積を広くするなど、将来的に三世代同居も可能

となるような特徴づけにより、多古町らしさを打ち出していくことが必要で

す。多古台の住宅開発による住宅地の供給拡大は、進学、就職等で多古町を

離れていった世代のUターンを喚起することにもつながります。三世代同居、

あるいは三世代近居、という居住スタイルを推進し、多古町で育った子ども

たちが帰ってくることのできるまちづくりの拠点に多古台は位置づけられま

す。また、環境に優しいなどまちづくりのコンセプトを明確に打ち出すこと

で、さまざまな住宅購入ニーズに応えられる暮らしやすいまちづくりを進め

ます。

(2) 住宅情報の整備(空き家バンク等)

多古町のなかで急速に増加している空き家を有効利用して定住促進につな

げるため、新たに独立する世帯や転入希望者に対して、空き家や空き地を町

で一元管理し、希望者に対してタイムリーに情報提供できる仕組みとして、

空き家と居住者をマッチングさせる「空き家バンク」事業を推進します。

図表 12 【参考】空き家バンクの事例(世羅町ホームページ:平成 24 年 7 月現在)

Page 21: 1.拠点形成 - 多古町ウェブサイト · 多古町には、成田空港及び空港を取り巻く交通機能を活用して地域活性化 に結び付けられる拠点がありません。このことは、多古町が成田空港という

35

(3) 二地域居住の促進

仕事をリタイアした世代が、第二の人生をより充実して過ごすための居住

スタイルとして「二地域居住」が注目されています。

多古町は、東京都心から至近距離に位置しているものの、昔ながらの田園

風景が広がっており、訪れる人々の心を癒すことができるなど二地域居住の

高いポテンシャルを持っています。二地域居住の推進は、その延長線上に定

住も考えられるなど、将来の人口増加に寄与する取り組みです。また、古民

家や空き家を二地域居住用の家屋として購入するニーズも想定されることか

ら、二地域居住者も視野に入れて住宅ニーズの把握や住宅情報の提供に努め

ます。