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http://www.***.net 自主制作による生計維持と自己実現の条件 ―日本の同人・インディーゲーム制作者への 質的調査から 七邊信重 (マルチメディア振興センター)

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Entertainment & Humor


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http://www.***.net

自主制作による生計維持と自己実現の条件 ―日本の同人・インディーゲーム制作者への

質的調査から

七邊信重

(マルチメディア振興センター)

自己紹介

七邊信重(Hichibe, Nobushige)

専門

博士(学術, 東京工業大学)

独立系ゲーム開発の目的・条件・結果

ゲーム産業との関係

社会学、ゲーム学

本学会、日本社会学会など

本学会第1回若手奨励賞(2010年)

著作

『妖怪ウォッチが10倍楽しくなる本――妖怪ウォッチのゲーム・アニメ学』

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Independent Game Developers Summit

独立系ゲームのプレイイベント

2015年4月25日(金) 10〜18時

参加費

一般: 無料

出展: 7,500円(一部7,000円)

場所: ベルサール神田

併催: OGC 2015

和田洋一氏が基調講演(予定)

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問題意識

日本の同人誌即売会では、マンガ、アニメ、ゲームなどの自主制作活動が行われている

社会学や文化研究は、自主制作の楽しさや、活動を介した社会関係の特徴を研究。

一方、この世界は、趣味空間であるだけでなく、商品と金銭が交換される「市場」でもある。

制作者と消費者の商品交換、作品の販売企業(以下、仲介者)を介した経済活動、制作者間での経済活動などの多様な経済的行為が実行。

これらの経済的行為を通して、生計維持を日常的に行う自主制作者も存在する。

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問題意識

ゲーム自主制作による生計維持は、2000年代半ばから世界のゲーム業界で見られる傾向。

本研究は、こうした世界的な動きに先行して現実化していた、日本の同人誌即売会周辺でのゲーム自主制作による生計維持に焦点を当て、生計維持やそれによる自己実現が、どのような相互行為により達成されてきたかを、質的データに基づいて探究する。

自主制作: 制作の第一の目的が、作品の制作自体であるような活動。

自主制作場: 参加者の社会関係や市場の総体。

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本研究の構成

1990年代半ばから2010年頃までの自主制作による生計維持の実現の要因を、次の2つに注目して説明する。

①環境的要因

科学技術、消費者、仲介者

②行為者自身の「生存戦略」

制作者間の社会関係

仲介者、消費者との情報交換や観察

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先行研究(社会学)

カルチュラル・スタディーズやファン研究に依拠した、同人誌、同人音楽の制作者の動機、社会関係の研究は多い(金田 2007, 井手口

2012等)。

自主制作場の「市場」としての機能、自主制作による生計維持の実態、それを支える条件、場の歴史的変容についてはほぼ検討していない。

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先行研究(経済学)

中村・小野打(2006)、出口・田中・小山(2009)は、自主制作場を「市場」という視点から考察、この場の拡大が日本のコンテンツ産業の発展要因の一つであることを指摘。

ただし、自主制作者たちの社会関係が日常的にどう形成されているか、これらが制作者の生計維持をどう支えているか、その関係が歴史的にどう変化したかについては、質的調査などを通して、さらに探究する余地が残されている。

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先行研究(ゲーム学)

Guevara-Villalobos(2011)

英国の23名のゲーム自主制作者にインタビュー。

自主制作で持続的に生計を立てる上で制作者間の社会関係が大きな役割を果たしていると指摘。

社会関係の情報・心理的効果(情報共有、不安の軽減等)を考察。経済的効果はほぼ考察せず。

Parker(2013)

独立系ゲームの研究(11年間)の網羅的レビュー。

今後の課題として、「ジェンダー」「プレイヤー」等と共に、「仲介者」「アマチュア制作者」「地域」「オフラインでローカルな社会関係」を挙げている。

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本研究の独自性

先行研究に対し本研究は、次の点で独自性と新規性がある。

ゲーム自主制作による経済活動の実態とその要因を解明する点。

制作者の生計維持の要因として、社会関係に注目する点。また、この社会関係が歴史的にどう変化しているかを説明する点。

日本のゲーム自主制作とそれによる生計維持の歴史と現在の特異性や多様性を明らかにする点。

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調査法

同人誌即売会でゲームを発表している自主制作者(同人ゲーム制作者)に聞き取り調査

自主制作者78名(54サークル)のうち、自主制作

物の売上で生計を立てていることが確認できたのは17名(10サークル)(年齢は2010年現在)。

調査期間: 2004年10月~2014年6月

プライバシー保護のためデータ利用時に氏名・所属等を匿名化することを伝えた。

氏名の代わりに個人識別番号を使用。個人識別番号のアルファベットはサークルを、同じアルファベットの者は同一サークルのメンバーであることを示す。 11

自主制作による生計維持の歴史1

1970年代後半から1990年前半まで、マイコンやパソコン向けにゲームが制作され、そのプログラムが専門誌に掲載され、雑誌・小売店・即売会・パソコン通信等でゲームが販売・配信された。

当時はゲームの需要が大きく、制作者教育機関(専門学校・大学)の数も十分でなかったため、自主制作者の多くがゲーム企業に誘われて就職し、日本のゲーム産業を担った。

パソコン・ゲームの解説を行う編集者・ライターとして、出版社に雇用された者も多い。 12

自主制作による生計維持の歴史2

ただし、この時期に自主制作ゲームの売上で生計を立てられる者はほぼいなかった。

要因:

①国内の家庭用ゲーム市場と商業PCゲーム市場が拡大していた時期であった。

②パソコン自体がそれほど普及していなかった。また、パソコンの仕様が統一されておらず、各仕様のパソコン向けの市場も小さかった。

③自主制作ゲームの流通がほぼ存在しなかった。

ゲーム制作を続けたい者の多くは、会社を起業するか、会社に就職(七邊 2013: 25-31)。

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生計維持の環境的要因1

1990年代半ば以降、生計維持が可能に。

第1の要因

Windows機の一般世帯への普及。

第2の要因

Windows機向けゲームを求める消費者の期待

商業ゲームより相対的に安価で、ニーズが小さかったり発想がなかったため商業会社が制作・販売しなかったゲームが、自主制作者により制作

Windows機向けの1,000円程度の安価なゲームや家庭用ゲーム機では遊べないゲームを求めていたユーザー(高校生や理工系の大学生)の期待に合致。

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生計維持の環境的要因2

第三の要因

制作者と消費者を結びつける仲介者の登場

同人誌のような自主制作物に関しては、即売会での売れ残り(在庫)を販売したい制作者と、作品は欲しいが地方などに住んでいたり多忙で即売会に参加できない消費者が多数存在。

90年代半ば、制作者と消費者のニーズを発見した企業が、両者を仲介するため、自主制作物の委託・買取販売店舗を開設。これが全国化(森川 2003)。

企業での売上が、イベントでの売上を上回る。

ゲームの30~50億円の8割が企業での売上

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自主制作ゲーム

制作者の「生存戦略」

こうした環境的要因だけが自主制作による持続的な生計維持を可能にしたわけではない。制作者自身の「生存戦略」も、これを可能にする大きな要因である。

自主制作者自身が、持続的に生計を立てるために行っていることが、他者(制作者・仲介者・消費者)との社会関係の構築。

以下、「制作者との社会関係」「仲介者・消費者との社会関係」について説明する。

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生存戦略① 制作者間の社会関係

「自主制作者」という言葉の印象と異なり、制作者の多くは、孤立して、ゲームを作り生計を維持しているわけではない。むしろ、社会関係構築を通して、持続的な生計維持を実現。

①サークル内でのルームシェア

目的: 制作上の理由と経済的理由

10万円強の一軒家を、4人でシェア。

②近隣地域の他サークルとの社会関係構築

心理的安心感と、経済関係

作業依頼→達成→信頼→次の作業

近隣に住む傾向(御徒町、大宮、所沢) 18

生存戦略② 仲介者・消費者との情報交換や観察

即売会は、ゲームの販売や宣伝の場であるが、販売企業との「商談」の場でもある。

イベントには仲介会社、ゲーム会社、出版社、研究者、ライターなど、複数の「仲介者」が周流

仲介者と、作品の委託・買取販売の相談、市場動向に関する情報交換が日常的に行われる。

消費者とのコミュニケーションや人気作品の観察などを通して、流行を見ることができる。

制作者は、情報交換や観察により、生計維持の可能性を高めている。

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生計維持を可能にしてきた人と人、 人とモノの関係

1990年代後半から2010年頃までに、ゲーム自主制作で生計を立ててきた者が、人とモノとの間で築いてきた関係を、次の図のように表現できる。

約15年間にわたり構築されてきたこの比較的安定した関係が、持続的な生計維持と、「作りたいものを作る」というライフスタイルの実現を可能にしてきた、と見ることができる。

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1990年代半ばから2010年頃までの 自主制作場

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制作者他制作者

Windows機 仲介者

消費者

(国内)

(国内)

(国内)

(国内、近接)

結論と今後の課題

本研究は、日本でのゲーム自主制作者の経済活動や経済関係、それを可能にする要因を明らかにした。

日本でのゲーム自主制作による生計維持は、環境的条件に加えて、能動的な社会関係構築によって、実現されてきた。

2010年頃から、制作者が築く社会関係がグローバル化し、この社会関係が制作者の生計維持を支えるものになりつつある。

生計維持を可能にする条件の変化、他地域との共通点と差異に関する研究が今後の課題。

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文献 出口弘・田中秀幸・小山友介編, 2009, 『コンテンツ産業論――混淆と伝播の日本型モデル』東京大学出版会.

Guevara-Villalobos, Orlando, 2011, Cultures of independent game

production: Examining the relationship between community and

labour, Proceedings of DiGRA 2011.

七邊信重, 2013, 『ゲーム産業成長の鍵としての自主制作文化』東京工業大学大学院社会理工学研究科価値システム専攻博士論文.

井手口彰典, 2012, 『同人音楽とその周辺――新世紀の振源をめぐる技術・制度・概念』青弓社.

金田淳子, 2007, 「マンガ同人誌――解釈共同体のポリティクス」佐藤健二・吉見俊哉編『文化の社会学』有斐閣,163-190.

森川嘉一郎, 2003, 『趣都の誕生――萌える都市アキハバラ』幻冬社.

中村伊知哉・小野打恵編, 2006, 『日本のポップパワー――世界を変えるコンテンツの実像』日本経済新聞社.

Parker, Felan, Indie Game Studies Year Eleven, Proceedings of

DiGRA 2013.

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ご静聴、ありがとうございました。

七邊信重(Hichibe, Nobushige)

[email protected]

twitter: yakumo415