1.1 プラスチックとは - 本・雑誌 日刊工業新聞 …...2 1.1 プラスチックとは...
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プラスチックとは1.1
一般的に分子量が 1万以上の化合物を高分子化合物と呼び、物理的・化学的
性質において、低分子化合物とは異なる特性を有している。天然では植物から
採取されるロジンやゴム、生体由来のたんぱく質など身の回りに数多くの高分
子化合物が存在するが、これを模して人工的に製造された合成樹脂のことをプ
ラスチックと呼んでいる。プラスチックの語源は英語の「plasticity(可塑性)」
で、「形を作ることができる」という意味であるが、日本工業規格では JIS K
6900:1994 においてプラスチックを「必須の構成成分として高重合体を含み
かつ完成製品への加工のある段階で流れによって形を与え得る材料」と定義し
ている。
プラスチックは熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の 2種類に大別される。図 1―1
にそれぞれの樹脂を模式化したものを示す。熱硬化性樹脂は例えばビスケット
のようなものであり、反応が進むと流動性のある状態から不溶不融の状態に硬
化してしまう。これは熱硬化によって分子が網目状の三次元構造になるためで
あり、一度硬化したものは再度熱を加えても分子が自由に動けなくなり軟化し
ない。また、溶剤によって膨潤はしても溶融はしない。一方の熱可塑性樹脂は
例えばチョコレートのようなものであり、製品などに加工された後も再び加熱
することによって形状を自由に変えることができる。これは熱可塑性樹脂が線
状構造の分子によるためであり、熱を加えると分子が自由に動くことで軟化・
溶融する。また、適当な溶剤によって分子間の絡み合いが解けて溶融する。
プラスチックは用途や性能の違いによっても分類することができる。性能は
低いが低価格で加工性の良いものは汎用プラスチック、強度や耐熱性のような
特定の機能を強化したものをエンジニアリングプラスチック(エンプラ)、耐
熱温度が 150 ℃以上で長期間の使用に耐えられるものをスーパーエンジニアリ
ングプラスチック(スーパーエンプラ)と呼んでいる。図 1―2に代表的なプ
ラスチックの分類分けを示す。
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第 1章 プラスチック材料の強度を知ろう
図 1―1 熱硬化性・熱可塑性樹脂の模式図
熱硬化性樹脂
熱可塑性樹脂
加熱
型で冷却
再加熱加熱
溶ける
図 1―2 結晶性・非晶性プラスチックの分類
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル(PMMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)
プラスチック
熱可塑性プラスチック
汎用プラスチック
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)
ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PET、PBT)
ポリサルホン(PSF)、ポリイミド(Pl)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)
スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)
フェノール、エポキシ、ウレタン、シリコーン熱硬化性プラスチック
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分子の結晶構造1.2
プラスチックの中でも熱可塑性樹脂は結晶性と非晶性の 2 種類に大別され
る。高分子の鎖が規則正しく配列している状態を結晶状態、高分子が絡まった
りして不規則に存在している状態を無定形または非晶状態と呼び、前者は結晶
性プラスチック、後者は非晶性プラスチックと呼ばれている。一般に結晶性プ
ラスチックは不透明で硬く、剛性があり、非晶性プラスチックは透明で耐衝撃
性に優れていることなどが特徴である。
表 1―1に代表的なプラスチックを結晶性と非晶性の面から分類したものを
示す。高分子の分子間の結合力の強さや分子の立体構造などの違いによって、
結晶状態や非晶状態となる。結晶性プラスチックといっても 100 %結晶化する
ことはなく、結晶部分と非晶部分とが混在しているため、プラスチック中の結
晶部分の割合を結晶化度という値で表現している。図 1―3は(a)結晶性プラ
スチック、(b)結晶部分と非晶部分とが混在している状態、(c)非晶性プラス
チックをそれぞれ模式化したものである。
プラスチックは温度が変化することで状態が変化する。図 1―4は(a)結晶
性プラスチック、(b)非晶性プラスチックの状態変化をそれぞれ模式化した
ものである。結晶性プラスチック、非晶性プラスチックともに、ガラス転移点
Tg と呼ばれる温度以上の温度では非晶部分の分子鎖の動きが活発になり、水
飴状の粘弾性を有する流動体となる。一方、結晶性プラスチックは融点Tmと
呼ばれる温度以上の温度では結晶部が溶解し、剛性が低下して流動性を示すよ
うになる。なお、溶融したプラスチックを冷却すると、分子鎖の動きは少なく
なり、再度結晶化が始まり、結晶が集合してできた球晶と呼ばれる組織が生成
される。急冷することで結晶化する時間的な余裕がなくなるため、球晶サイズ
は小さくなり、大きな結晶ができにくくなる。
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第 1章 プラスチック材料の強度を知ろう
(a)結晶性 プラスチック
(c)非晶性 プラスチック
(b)結晶部分と非晶部分とが 混在している状態
結晶部分 非晶部分
図 1―3 結晶性・非晶性プラスチックの模式図
表 1―1 結晶性・非晶性プラスチックの分類表
分類 代表例 特徴
結晶性プラスチックPE、PP、PA、POMPET、PI、PEEK、PPS
不透明高剛性・高強度耐薬品性:○
非晶性プラスチックPS、PVC、PMMAABS、PC、PSF、PEI
透明耐衝撃性:○耐薬品性:×
図 1―4 結晶性・非晶性プラスチックの状態変化
固体
溶融
(a)結晶性 (b)非晶性
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分子量と材料強度1.3
プラスチックは巨大な分子から成る重合体(ポリマー)の集合体であるが、
ポリマー分子内部は単量体(モノマー)と呼ばれる分子が共有結合によって繰
り返されたユニットから成っている。なお、モノマー分子自身も原子同士が共
有結合をしている。ポリマー分子の分子量はモノマーの重合度により異なって
くるため、組成は一定であるが分子量は 1つの値に定まらない。つまり図 1―5
のように、分子量はある分布を示すため、平均化した分子量しか得ることがで
きない。これを平均分子量という。平均分子量は、平均の取り方の違いによっ
て数平均分子量や重量平均分子量などがよく用いられるが、どの平均分子量を
採用したかを明確にしなければならない。1.1 項で記述したように、熱硬化性
樹脂は溶融しないため、分子量を推測することは不可能である。一方、熱可塑
性樹脂は溶融するため、溶液になれば光散乱やゲル浸透クロマトグラフィーな
どで平均分子量を測定することが可能である。また、メルトマスフローレイト
(MFR)という値も分子量と相関性がある。MFRは溶融流動性の尺度で、こ
の値が小さいほど流動性が悪く、分子量が大きいことを意味する。
一般に、分子量が大きいものほど粘性が高く、引張り強さなどの材料強度も
大きくなる。これは図 1―6のように、分子量が大きくなれば分子鎖が長くな
り、結果として分子鎖同士の絡み合いが増すためである。分子内では共有結合
であるが、分子間においてはファンデルワールス結合であり、ナイロンのよう
に水素結合とファンデルワールス結合とが混合されたものもある。結合エネル
ギーの大きさは、共有結合>水素結合>ファンデルワールス結合の順で、共有
結合が最も大きい。つまり、応力が負荷されると、結合力の小さい分子間で破
壊することになる。したがって、プラスチックの強度は分子間の結合力によっ
て決まるといえる。なお、分子間で結びついている力は、分子間の距離によっ
て変わり、距離が長くなると力も弱くなる。