100723 秋大会論文 防護柵設置 -...
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北海道小樽市におけるバス停利用高齢者の乱横断実態とその抑制に関する研究*
Reseach on Elderly Pedestrian Crossing and Restraining Them at the Bus Stops*
石川 曜詩**・奈良 照一**・萩原 亨***・平澤 匡介****・鈴木 勝美***** By Yoji ISHIKAWA**・Shoichi NARA**・Toru HAGIWARA***・Masayuki HIRASAWA****・Katsumi SUZUKI*****
1.はじめに
北海道の高齢化は全国を上回るスピードで進行してお
り,高齢者の参画機会の増加に伴う交通問題に積極的か
つ早急に取り組む必要がある.
筆者等1)2)は,これら高齢者事故に対応できる交通安
全対策の提案を行なうことを目的として,高齢者の身体
的・心理的・運転的特性という視点から調査を行った.
その結果,高齢ドライバーの運転特性について,加減速
度が大きくなる傾向があり,この特徴から交通事故につ
ながりやすい状況にあることがわかった.また高齢歩行
者の視点からも行動特性について検討を行い,高齢歩行
者の死傷事故率が道内で最も高い小樽市稲穂地区の国道
5号(以下,モデル区間)を対象に,横断歩道外での横
断(以下,乱横断)の実態と周辺地域の高齢者の移動に
関する意識調査を行い,高齢歩行者の乱横断事故の危険
性について考察を行なった.この結果,高齢歩行者は危
険なタイミングでの横断となりやすい,横断時間が長い
といった特性が明らかとなった.またモデル地区は複数
のバス路線が集中するほか,高齢者のバス利用が多い
(筆者等1)が行った調査結果で,最も利用される交通
手段が路線バス39%)ことが,乱横断事故の発生に影響
していると考えられる.
本研究では,特にモデル区間における高齢者を含めた
バス停利用者の乱横断の実態(行動軌跡)を明らかにす
るとともに,乱横断防止対策のうち,特にハード面の対
策として有効と考えられる乱横断防護柵の設置について
検討する.
2.調査概要
バス停利用者の乱横断抑制を図るためには,中央帯
もしくは路側への乱横断防護柵の設置により,物理的に
*キーワーズ:高齢者,交通安全,交通環境,交通弱者対策
**正員,株式会社ドーコン交通部,TEL 011-801-1520
(北海道札幌市厚別区厚別中央1条5丁目4-1
TEL 011-801-1520,E-mail:[email protected])
***正員,工博,北海道大学大学院公共政策大学院
****正員,工博,独立行政法人土木研究所寒地土木研究所
*****正員,財団法人北海道道路管理技術センター
乱横断を防止する方法が考えられる.しかしモデル区間
のような既成市街地では沿道への出入りや店舗利用,荷
捌き等の駐停車需要が多いため,路側に乱横断防護柵を
開口部無しに連続して設置することは困難な場合が多い.
本実験調査は,道路中央線(ゼブラゾーン)が敷設
されていたことを利用して,そこへ簡易な乱横断防護柵
を設置し,バス停利用者(調査では降車客に着目)に対
してどのような乱横断抑制効果が期待できるかを検証し
たものである.調査は,「現状:仮設乱横断防護柵無
し」に加え,「ケース①:乱横断防護柵をバス停の直近
のみ設置」,「ケース②:乱横断抑制柵を前後の交差点
まで設置」を実施した(図3).調査対象はバス降車客と
し,調査項目はバスの発車状況,乱横断者属性(調査員
の目視による判断,65歳以上を高齢者),乱横断発生時
刻,乱横断者の行動軌跡とした.
3.バス利用に関する高齢者の乱横断実態
3-1.バス停降車客の乱横断率
平成21年11月12日(木)に実施した調査の結果,バ
ス降車客数は,上り線(小樽駅方面)387人,下り線
(札幌市方面)243人が観測されている.モデル区間が
小樽駅から約0.8kmと近いため,小樽駅出発・札幌市方
面行きの下り線バス降車客数は上り線に比べて少ない.
バス降車客の道路横断の状況は,時間帯別で確認す
ると,高齢者は午前11時台前後の日中に多く発生してい
るが,非高齢者は午前8~10時,午後4時~7時の時間帯
に集中して発生している.非高齢者は通勤・通学,帰宅
時でのバス利用が多いため朝夕に集中していると考えら
図1 簡易防護柵設置箇所
写真1 簡易防護柵設置状況
-
れ,高齢者は日中の買物等に伴うものと考えられる.
バス降車後の道路横断者は上り線138人,下り線108
人となっており,このうち乱横断の発生割合は,上り線
では非高齢者29%,高齢者41%,下り線では非高齢者18%,
高齢者21%と,上下線ともに高齢者の乱横断率が高い状
況にあった.特に,上り線では高齢者の約4割が乱横断
しており,バス利用者と乱横断には強い関係がみられた
(表1,図2).なお,確認された乱横断者は,1人を除
き,全て降車したバスが発車した後に発生している.
3-2.バス停降車客の乱横断の行動軌跡
モデル区間を約10m間隔でA~Sに19分割し,バス降
車客の乱横断位置を観測した結果,上り線ではわき道が
あるH 区間付近での乱横断が非常に多くみられた.O 区
間にもわき道があるものの,O 区間付近での乱横断は少
ない.これは,O 区間のわき道とH 区間のわき道では横
断歩道までの延長が異なり,横断歩道までは離れている
H 区間のわき道部のほうが多く発生していると考えられ
る.またH 区間・O 区間の乱横断率は,ともに非高齢者
に比べて高齢者のほうが高い.下り線では,非高齢者と
高齢者の乱横断率はほぼ同じであるが,区間別でみると,
高齢者のみ M~O 区間での乱横断が発生しており,高齢
者は横断歩道が近い状況にあっても乱横断してしまって
いる.(図3)
4.バス停利用者の乱横断防護柵設置時の乱横断実態
前述のとおり,高齢者の乱横断は日中の明るい時間帯
で発生しているため,午前6時~午後5時に着目して分
析を行った.
4-1.モデル区間全体でみた乱横断発生状況の変化
乱横断防護策の設置実験の結果,道路横断者全体(年
代区分無し)の発生率は,現況 29%に対し,ケース①
25%,ケース②22%と,防護柵設置によってそれぞれ 4%
減少,7%減少した.しかしながら年代別の乱横断発生状
況は,高齢者の現況 32%に対し,ケース①27%,ケース
②30%,非高齢者の現況27%に対し,ケース①24%,ケー
図2 乱横断発生割合(防護柵無し)
図4 上下線別・年代別乱横断発生割合
0%
20%
40%
100%
29% 25% 22%
①無 ②
32%27% 30%
①無 ②
27% 24%18%
①無 ②
37% 40%30%
①無 ②
41%46%
39%
①無 ②
34% 37%
26%
①無 ②
20%
8% 10%
①無 ②
23%
10% 13%
①無 ②
18%7% 9%
①無 ②
82% 93% 91%77% 90% 87%80% 92% 90%66% 63% 74%59% 54% 61%63% 60% 70%73% 76% 82%68% 73% 70%71% 75% 78%
上下線6:00~17:00
上り線6:00~17:00
下り線6:00~17:00
全体 高齢者 非高齢者 全体 高齢者 非高齢者 全体 高齢者 非高齢者 横断歩道 乱横断
無 防護柵設置無し① パターン①(防護柵 短)② パターン②(防護柵 長)
0%
20%
40%
100%
非高齢者 高齢者 非高齢者 高齢者
上り線 下り線
横断歩道
乱横断
29%
71%
41%
59%
18%
82%
21%
79%~~
表1 バス停降車客の道路横断状況(防護柵無し)
非高齢者 高齢者 非高齢者 高齢者横断歩道 70 23 50 37乱横断者 29 16 11 10
99 39 61 47
上り線 下り線
全横断者138 108
図3 バス降車客行動軌跡(経路別割合)
-
ス②18%となり,非高齢者は設置範囲が広いほど乱横断
抑制効果が高いが,高齢者は効果の差はみられない.そ
のため,高齢者は周囲の状況(防護柵の延長の違い)を
特に意識せずに,乱横断をしている傾向にあるといえる.
4-2.上下線別乱横断発生状況の変化
モデル区間の上下線それぞれバス停は,バス停
(E,M)と最寄横断歩道(A,S),乱横断防護柵の開口部
(わき道のあるH区間)の位置関係が異なるため(E-A-
H,M-S-H),上下線別で考察を行なった.下り線のバス
停降車客の乱横断は,乱横断防護柵設置により高齢者が
12%減少,非高齢者が 10%減少し,年代別の違いは確認
できないがどちらも乱横断抑制効果が高く得られた.こ
れは,下り線側のバス停は横断歩道までの距離が約 38m
と近く,誘導効果が得られやすいことが要因と考えられ
る.乱横断防護柵の設置方法の違いでみると,高齢者で
はケース①13%減少,ケース②10%減少,非高齢者ではケ
ース①11%減少,ケース②9%減少となり,同様に年代別
の違いは確認されないが,一定の乱横断抑制効果が確認
された.これは,バス降車時に目の前に防護柵が設置し
てある時点で,横断者が迂回するか乱横断するかの判断
をしていることが考えられる.
一方,上り線のバス降車客については,乱横断防護柵
設置による効果は,高齢者が 1%増,非高齢者が 3%減と
効果が得られなかった.上り線では,最寄横断歩道まで
の距離が約 60m と長く,乱横断防護柵の開口部(H 区
間)での乱横断を抑制するには至らなかったものと考え
られる.
4-3.下り線バス停降車客に着目した行動軌跡の分析
前述のとおり,乱横断防護柵設置によって一定の乱横
断抑制効果が確認された下り線のバス停降車客の行動軌
跡に着目し,どのような変化があるかについて分析を行
った.バス停降車後に,乱横断が集中するH区間(乱横
断防護柵の開口部)のわき道へ向かう道路横断者を確認
すると,現状(防護柵無し)ではバス停降車後約80%が
乱横断し,わき道へ移動していたが,ケース①では 17%,
ケース②では 20%と乱横断の抑制が図られた(図 5).
これは,バス停と横断歩道までの距離約38mと近接して
おり,迂回感が少ないためと考えられる.同様に,上り
線のバス降車客のうち,H 区間のわき道に移動する人に
着目し,行動軌跡を分析すると,現状では全て乱横断し
ているのに対し,ケース①では92%,ケース②では100%
となっており,乱横断抑制効果は得られていない.上り
線では最寄横断歩道(距離約60m)よりもわき道H 区間
まで(距離約50m)のほうが近く,バス停降車後にH 区
間に向かって歩き出し易い状況に加え,A 区間の横断歩
道までの 120m を歩くと,要する時間が高齢者は 150 秒
(0.8m/s),非高齢者は120秒(1.0m/s)となり,連動
した国道 5 号の信号が約 70 秒毎に全赤となるため,歩
いている最中に必ず全赤となる乱横断しやすい状況が生
まれてしまうために,防護柵の設置効果が得られにくい
と考えられる.
5.重回帰分析による乱横断発生率の推定
乱横断発生率に影響を及ぼす要因およびその程度を把
握するため,調査結果より乱横断発生率を目的変数,道
路・環境要因・属性を説明変数とした重回帰式を構築す
る.分析データは高齢者の乱横断が確認される日中(午
前6時~午後17時)の時間帯を抽出し,迂回強度・年
代・防護柵延長割合から調査結果を12パターンに分割し,
集計を行った.なお,横断後に区間外に移動していく人
についても,乱横断の実態が確認されているため,デー
図6 変数に用いる延長データ
図5 乱横断防護柵設置による下り線バス降車客の行動軌跡(わき道への進入)の変化
-
タから除かずにすべての道路横断者を集計対象とした.
重回帰式によるモデル式は,
を構築し,目的変数 は乱横断発生率として,
説明変数 には,迂回強度 ,年代 (カテゴ
リーデータ),防護柵延長度 を用いた.
迂回強度 は,横断歩道までの延長そのまま用いる
よりも,2乗することで目的変数との相関が高く得られ
たため,2乗したものを算出式に用いた.また防護柵延
長度 は,バス停前後での防護柵の設置効果に違いが
あることが予想されるため,設置延長度合いを分けて算
出し,乱横断多発箇所までの防護柵設置延長を2乗する
ことで,同様に目的変数と相関が高く得られたため,算
出式に用いた.以上の式により算出したデータ(表2)
を用いて重回帰分析を行った.
有意確率F<0.01,自由度調整済み決定係数R2(補正
R2)=0.913と分析精度が高く,得られた重回帰式は以
下の通り.
迂回強度が強く,年代が高齢者のほうがより乱横断
発生率が高くなり,防護柵延長度が高いほど乱横断発生
率が下がるというモデル式を得られた.また各変数のt
値を確認すると,迂回強度 が9.70と高く,防護柵設
置延長度 も2.92>2となっており,防護柵の設置区
間を長くするか,バス停位置を横断歩道に近づけること
で,乱横断発生率が低下すると考えられる.バス停から
横断歩道側までの区間に防護柵を全て設置した場合,
乱横断発生率は0.3~0.4%程度しか減少しないが,バス
停から乱横断多発区間まで最大限防護柵を設置したケー
ス2の防護柵設置割合を固定し,バス停位置を上下線そ
れぞれ横断歩道側に2m移動した場合,それぞれ約6%低
下させることができると予想される.(表4)
6.おわりに
本研究では,高齢歩行者の乱横断による事故が多い
小樽市稲穂地区の国道5号を対象に,バス停利用に関す
る乱横断の実態とその抑制のための方策についての実験
を行い,バス停直近への簡易な乱横断防護柵の設置によ
って,一定の乱横断抑制効果が得られた.一方で,高齢
者の乱横断に着目すると,防護柵設置延長の違いをあま
り意識せずに渡っていると考えられ,渡れる箇所があれ
ば渡るといったように乱横断していると考えられる.す
なわち,交差点までの距離が近い状況でも乱横断をして
しまうため,高齢者への乱横断抑制効果を高めるために
は,横断歩道の近くまで連続的な乱横断防護柵の設置が
必要と考えられる.また乱横断発生率に起因する要因と
して,最寄横断歩道までの延長が強く影響することがわ
かった.乱横断抑制のためには,今回の乱横断防護柵の
ほかにもハード・ソフトを含め様々な対策が考えられる
ため,これらの対策との組み合わせを含めた総合的な見
地から,引き続き取り組んでいきたい.
謝 辞
最後になりますが,今回現地での調査の実施にあた
り,小樽開発建設部工務課ならび小樽道路事務所には多
大なご協力をいただきました.この場をかりてお礼申し
上げます.
【参考文献】
1)萩原,平澤,鈴木,菅藤:北海道小樽市における高
齢者の交通問題とその利用実態に関する研究,第39
回土木計画学研究・講演集Vol.39, 2009
2)平澤,葛西,萩原,鈴木,奈良:高齢ドライバーの
運転特性と高齢歩行者の行動特性に関する研究,土
木学会北海道支部論文報告集第65号,2009
3)高山,中山,福田:高齢者の横断歩道外における横
断行動の実態およびその意識に関する調査分析,土
木計画学研究・講演集Vol.24,2004
4)One-Jang Jeng, George Fallat:Pedestrian Safety and Mobility Aids for Crossings at Bus Stops,2003
dcxbxaxy +++= 321ˆ
y
31.2541.003.787.0ˆ 321 −−+= xxxy
1x
3x
道路横断者数乱横断者数=y
1x
年代 =2x 【非高齢者:0,高齢者:1】
延長乱横断多発箇所までの)(横断歩道までの延長 2
1 =x
( )延長乱横断多発箇所までの
防護柵設置延長12
3 =x
表2 使用データ
1x 2xxi
3x
目的変数乱横断割合 迂回強度 年代 防護柵延長度
9 51 17.6 45.13 0 0.003 44 6.8 45.13 0 10.155 56 8.9 45.13 0 19.5610 43 23.3 45.13 1 0.003 30 10.0 45.13 1 10.153 23 13.0 45.13 1 19.5621 61 34.4 72.00 0 0.0022 59 37.3 72.00 0 3.2019 74 25.7 72.00 0 20.8016 39 41.0 72.00 1 0.0012 26 46.2 72.00 1 3.2015 38 39.5 72.00 1 20.80
説明変数乱横断者数
道路横断者数
長最寄横断歩道までの延防護柵設置延長2+
3x
表4 乱横断発生率の予測値 実測値 予測値 2m移動時 減少割合
非高齢者 25.7 28.8 22.4 -6.4高齢者 39.5 35.8 29.5 -6.4非高齢者 8.9 5.9 -0.2 -6.1高齢者 13.0 13.0 6.9 -6.1
上り線
下り線
表3 重回帰分析結果 重決定係数R2
自由度調整済みR2標準誤差サンプル数
分散有意確率F
係数 標準誤差 t定数項d -25.31 5.76 -4.39変数x1 0.87 0.09 9.70変数x2 7.03 2.39 2.95変数x3 -0.41 0.19 -2.92
0.937
3.78E-0539.65
124.13
0.913