企 業 変 vol.84 2000 革 を 支 援 す る abc ab m - unisys特 集 企 業 変 革 を 支 援...

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A B C A B M Vol.84 2000 The Executive Magazine from Unisys

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特集企業変革を支援するABC/ABM―競争優位の確立とコスト削減の両立

Vol.84

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The Executive Magazine from Unisys

Vol.84

INDEX

経営戦略とABC/ABM 4~11専修大学 教授 商学博士 櫻井 通晴氏

環境変化に合わせた変革や改善によって、企業競争力を維持・強化しながら、一方でコスト削減をも実現しなければならない。ABC/ABMはこの相反する要求を実現する究極のコスト削減策であり、変革実現手段である。ここでは、ABCの本来の役割を見直すとともに、経営戦略の策定への事例を紹介しながら、ABCの将来の活用方法を示唆する。

企業改革を支援するABC/ABM 12~21

プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社戦略コンサルティングサービス事業部ABM担当パートナー 松川 孝一氏

競争優位の確立とコスト削減の両立による効率経営の実現

業務改革失敗の最大の要因は、数値目標不在にある。改善に向けた数値目標、改善課題を設定し、その上で業務ごとの原価の算出、効果の試算が行われなければならない。ABCは業務可視化と成功計測の決め手となり、ABMは企業の付加価値を確実に増加させる必勝法である。ABC/ABM実践を成功に導くにはいかなる点に留意すべきかを論じる。

ABC/ABMによるIT投資マネジメント 22~29岐阜経済大学 教授 松島 桂樹氏

これまで大きな溝が存在していた企業戦略とIT投資が密接な関係を持ってきた。今、IT投資を企業戦略の一環として位置付けた戦略的マネジメントが求められている。すなわち事前評価から業績評価までそれぞれの局面で投資対効果を把握し、その有効性を検証する一貫的なマネジメント・サイクルの確立である。その手段として注目を集めているABC/ABMをベースとしたIT投資マネジメントの構築が必要である。

特集:企業変革を支援するABC/ABM-競争優位の確立とコスト削減の両立

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30~35 日本ユニシスの提供する統合ABC/ABMシステム日本ユニシス株式会社

アドバンストコンサルティング部 シニアコンサルタント 福田 英明

日本ユニシスはABCソフトウェア・パッケージで世界No.1の販売シェアを持つABC Technology社の「Oros」を推奨している。ここでは、Orosの機能概要、Orosを使用したABCモデルの構築事例を紹介する。

産業構造の転換、情報技術の進展、市場のグローバル化などによって経営スタイルやビ

ジネス活動の変革が迫られている。急速に変化する市場の要求に迅速に対応するために業

務プロセス、意思決定、マネジメント・スタイルなどの変革が急務である。特に、世界市

場への対応にはコスト競争力が決め手であり、戦略的なコスト管理が不可欠である。

こうした局面への対応は、経営戦略との連携を図りつつ、現実を直視する視点から行わ

なければ効果は上らない。現実の業務の実態を明らかにし、コスト構造を把握することで、

変革が現実的なものとなり明確な効果の測定も可能になる。こうした企業変革手段として、

今ABC/ABMが注目を浴びている。

本号では、ABC/ABMはいかに経営戦略や企業変革を支援できるかを論じる。

36~45 ABC/ABM分野No.1を目指す日本ユニシスのコンサルティング・サービス

日本ユニシス株式会社アドバンストコンサルティング部 主席コンサルタント 吉岡 正

日本ユニシスでは、ABC/ABMの考え方をベースにして原価低減、業務プロセス改善に関わるさまざまな問題解決に向けたコンサルティング・サービスを提供している。本稿では、ABC/ABMの中心課題である活動の分析と捉え方、ABMとしての業務改善アプローチ、トータルコスト・マネジメントとしてABC/ABM、TCO、さらに今後の方向性としてバランス・スコアカードについて紹介する。

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経営戦略とABC/ABM

専修大学 教授 商学博士

櫻井 通晴氏

はじめに

1980年代の後半にキャプラン=クーパーなどハー

バード大学のスタッフがABC(Act iv i ty -Based

Costing:活動基準原価計算)を誕生させた直接的な動

機が何かと問われるならば、筆者はためらいなく、「そ

れは日本企業に打ちのめされたアメリカ企業を支援する

ための経営戦略のツールを生み出すことにあった」と答

えるであろう。戦略的な支援の中心的な目的は、赤字製

品からの撤退と、収益性の高い製品系列への切り替えの

ための製品戦略の策定にあった。

ABCはまさに経営戦略のツールとして80年代の後半

に生み出された。このことは、キャプランが当時、しば

しば強調していたことである。

一方、バブル経済の絶頂期にあった当時の日本企業は、

アメリカの経済人が主張するような意味での経営戦略の

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ツールを必要としてはいなかった。そのため、グローバ

リゼーションも現代ほどの重要性をもたず、日々の原価

低減活動以上のツールを必要としなかった日本企業は、

むしろ、ABCの戦略的な利用には背を向けていた。当

時の日本企業は、原価低減にのみ努力していれば、世界

企業と互角以上に戦えたからである。

日本企業が真に経営戦略を必要とするようになったの

は、90年代になってバブル経済が崩壊してからである。

それは、世界一の所得水準に達し、為替変動の波をもろ

に受けて国際競争力を低下させ、ゼロサムゲームの中で

の競争の場におかれている日本企業は、従来の延長線上

で競争することができなくなったからである。ここに、

80年代のアメリカが必要としていたと同じ意味での経

営戦略や原価低減の必要性が高まってきたのである。

本稿は、バブルが崩壊した90年代後半以降の日本企

業がどのようにABCを戦略的に活用してきたかを考察

する。それは21世紀の我が国の企業のあり方を示唆し

ていると思われるからである。

具体的には、ABCの本来の役割を見直すとともに、

経営戦略の策定にABCを活用したいくつかの事例を紹

介することで、ABCの将来の活用方法を示唆したいと

思う。

ABCの沿革とその役割

80年代の後半に経済的な沈滞によって苦しみぬいた

アメリカ企業が、90年代になって奇跡ともいえる再生

をとげた。現在のアメリカの繁栄と成功は、日本企業を

ターゲットにした80年代から現代までの血の滲むよう

な努力の成果であることを、われわれは見過ごしてはな

らない。逆に、バブル崩壊以降の不況からなかなか完全

には立ち上がれていない日本企業は、バブル時代におけ

る一部の企業にみられた放漫経営と政争にあけくれた政

治のつけがまわってきているといえなくもない。

アメリカ企業は80年代に、アメリカ再生のためにあ

らゆる手段を用いてきた。政治的な面からみれば、日本

企業のアメリカ進出に圧力をかけて、自動車会社をはじ

めとして多くの日本企業のアメリカ進出を果たさせて日

本的経営の優れた点を学び取ったり、政治的な圧力をか

けて日本の“不公正貿易”を弾劾することでアメリカ産

業の保護に努めた。

ビジネスの世界では、品質管理、原価管理、経営戦略

の面でアメリカは種々の経営革新を生み出してきた。ま

ず、品質管理では、世界中に品質管理の指導を行っていた

アメリカの品質管理の専門家を自国に呼び寄せ、自国の立

場から品質管理を徹底的に研究させ、一時は世界に冠たる

品質管理の手法となった日本のTQCを改善して、アメリ

カ企業に適合したTQM(Total Quality Management)

を生み出した。

その結果、90年代になると日本企業でTQMを研究し、

デミング賞に相当するマルコム・ボルドリッジ賞にチャ

レンジしている企業も多い。遂に日科技連は96年には

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品質管理の名称を日本固有のTQCからTQMに変更

【TQM委員会, 1998】するに至っている。

原価管理の領域では、世界のトヨタが生み出した戦略

的コスト・マネジメントの手法たる原価企画を徹底的に

研究し、現在ではコスト低減の優れた手法として消化す

るとともに、自らはコンカレント・エンジニアリングを

誕生させるに至っている。

経営戦略の領域では、グローバル経営における戦略経

営のあり方を徹底的に研究するとともに、製品戦略の他、

M&Aや戦略的連携によって経営組織のエンパワーメン

トを見直す機会を提起してきた。日本企業から得てそれ

に戦略的な意味を付与して誕生させたアウトソーシング

は80年代以降広く普及したが、最近では、シェアー

ド・サービス、サプライ・マネジメントなどの経営戦略の

ツールを次々と生み出している。

原価低減と戦略的コスト・マネジメントに関連して、

アメリカ企業は80年代後半から、膨れ上がった間接費

を効率的に管理するためにABCを用いて経営のスリム

化に必死の努力を果たしてきた。さらに90年代には、

アメリカがこれまで製品戦略にのみうつつを抜かしプロ

セスの改善努力をおろそかにしてきたとの反省から、リ

エンジニアリング(reengineering:業務改革)を誕生さ

せ、仕事のやり方を抜本的に見直す方法を確立した。

製品戦略の手法として誕生したABCは、90年代に入

るとリエンジニアリングと結びついて、プロセスと関連

してムダな活動の排除に効果的なABM(Activity-

Based Management:活動基準管理)を生みだし、原

価管理の手段として活用されている。さらに95年前後

からは、予算に関連させたABB(Activity-Based

Budgeting:活動基準予算)を生みだした。その結果、

ABC/ABM/ABBは経営のツールとしてアメリカ経済

の再生と発展に寄与してきている。

ABCとは何か、何を目的としているか

ABCはどのような背景から生まれ何を目的としてい

たか。ABMはどのような背景から生まれたか。まず、

ABCから見ていこう。

伝統的な原価計算によれば、一つの工場で大量生産品

と多品種生産品を生産しているときに、大量生産品に余

分な原価が負担され、その結果、いわゆる内部相互補助

がなされてしまう。ABCによれば、手数こそかかるが、

適正な原価算定がなされるようになる結果、適切な製品

戦略が可能となる。

伝統的な原価計算によると、なぜ大量生産品に余分な

原価が負担されるのか。それは、伝統的な原価計算では

直接作業時間や機械時間などの操業度をもとに、製造間

接費を原価計算対象に費用負担させるからである。伝統

的には製造間接費の配賦基準として直接作業時間や機械

時間が用いられてきたが、これらの時間は操業度の大小

によって変化する。

ここで原価計算対象(cost objective)とは、原価計

算の計算対象のことをいう。給付ともいい、製品やサー

ビスは典型的な原価計算対象である。操業度とは、生

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産・販売能力を一定とした場合のその利用度をいう。

直接作業時間や機械時間は典型的な操業度である。

現代の経営においては、価値観の多様化に対応するた

め、70年代の後半から急速に多品種少量生産品が一般

化してきた。大量生産では規模の経済が働くが、多品種

少量生産は範囲の経済が働く。多品種少量生産品はバッ

チあたりの生産量は少ない(操業度が低い)が、手のかか

る活動が多い。製品種類が増えれば、製品や生産を支援

する手のかかる活動(支援活動)が増えてくる。この意味

での支援活動には、段取り費、企画・設計費、技術関連

費用、マテハン(material handling:資材や原材料の

社内運搬)、在庫管理、品質検査に関わるコストがある。

これらの製造間接費は操業度(例えば、直接作業時間)

が増えるから増加するのではなく、支援活動に関連した

活動が増えるがゆえに増加するのである。それゆえ、例

えば一つの工場のなかに、一方では支援活動が増大して

いる工場と他方では大量生産品が併存している場合に

は、操業度関連の配賦基準をもとに製造間接費を配賦す

ると、製造間接費は大量生産品に余分に負担させられる

ことになる。

このような欠陥を避けるためには、活動をもとにした

配賦基準によって製造間接費を配賦すべきである。

ABCはこのように製品の多様化という80年代後半の新

しい製造環境のもとで誕生した。固有の意味でのABC

を定義づければ、ABCとは「活動、資源、および原価計

算対象の原価と業績を測定する方法」【Raffish=Turney,

1991】である。

ABCが伝統的な原価計算と異なるのは、次の二点

【Cooper et al., 1992】にある。第一は、コスト・プー

ルとして部門ではなく、活動が用いられること、および

第二に、活動から原価計算対象への原価の割り当てに原

価作用因が用いられることにある。

ABCの当初の目的は、製品戦略にあった。事実、ア

メリカの半導体産業は70年代の後半から80年代初期

にかけて、正確な原価算定を誤ったために、実際には採

算性の高い製品系列から撤退せざるをえなかったという

苦い経験をもつ。しかし、ABC情報によって、負け犬

商品からヒット商品に生産をシフト【Johnson, 1992】

することができた-経営戦略に有効であった-といわれ

ている。

ABMとは何か、ABMで何ができるか

ABCは公正かつ合理的な原価算定を通じて、各種の

製品戦略に役立てられる。その意味から、ABCは測定

の視点(measurement view)に立脚している。ABCは、

合理的な製品原価の算定を通じて製品組み合わせ戦略に

役立てられると同時に、活動に焦点を合わせて、原価管

理や合理的な価格決定のための情報を提供する。

アメリカ企業の経営者は、誕生直後からABCに多大

な期待を寄せてきた。シャーマン【Sharman, 1990】は

次のようにまで述べている。「ABCは西側世界で生み出

されたもので、まだ日本企業は追いついていない。しか

しやがては追いついてくるであろう。ABCは、次の戦

争的戦い、つまり経済的サバイバル戦を切り開くために、

管理会計担当者が企業に提供できる秘密兵器である」と。

しかし、90年代になるとアメリカ企業はリストラの嵐

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が一回りすると同時に、ABCのようなリストラの手法

だけではアメリカ経済の再生はできないことがしだいに

明らかになってきた。プロセスの改善によって業務改革

を実施しようとするリエンジニアリングが誕生したの

は、まさにこのような時期であった。

そのようなアメリカ経済の動きに呼応するかのよう

に、ABCへの批判が高まり、その結果、92年前後にな

ると、プロセス変革のためのABMが実務化の手によっ

て考案された。

ABMは、原価作用因を用いて活動を分析することで

活動分析、原価作用因分析、業績分析によって経営改善

を図ろうとする手法である。ABMではマッピングと呼

ばれる手法を用いて、企業内で問題とされている活動を

包括的に一覧表示する。このマッピングによって、原価

作用因あるいは非付加価値活動を識別し、不要な業務や

活動を削除する。ABMの目的は資源配分にあるのでは

なく、効果的な原価低減活動の実施にある。しかも、活

動の分析を顧客満足との関係で実施することにその特徴

がある。

最近の“ABC”は純粋な意味でのABCではなく、目

的によってABC(正確な原価算定)にもABM(原価低減の

ための分析)にも活用できるものとなっている。なぜな

ら、正確な原価の算定は原価管理の基礎にもなるからで

ある。そのため、あえてABCとABMを表現するために、

最近ではABC/ABMと表されることも少なくない。

日本企業における経営戦略目的のABCの事例

我が国でも、ABC/ABMはオムロン、SANYO、リ

コー、日本電気システム建設、アルプス電気などで成功

を収め、NTT(日本電信電話株式会社)は98年から接続

会計(注:NTTの市内回線網を新電電が利用する際に支

払う回線接続料が、今年4月から2年間で約20%引き

下げられることになった。日本経済新聞2000年7月

20日)にABCを導入した。日本の9電力もまた2000年

1月からABCを託送料金の算定に活用している。銀行へ

の戦略的コストマネジメントへの活用は実質的に99年

6月から始まった。第一号はあさひ銀行で、さくら銀行

がそれに次いでいる。現在は地方自治体へのABCの適

用も始まっており、ABCは我が国でもその適用範囲と

深さにおいて、日本の組織体に多大なインパクトを及ぼ

している。

そこで、日本企業の先進的な事例のうち三つ【櫻井編,

2000】をとりあげ、ABC/ABMが日本企業ではどのよ

うな形で経営戦略に役立てられているかを述べる。

(1)消費財卸売業者へのABCの導入

IT革命の一つのインパクトは、中間業者の中抜きにあ

る。今日の消費財卸業界は小売業界低迷の影響をも受け、

非常に厳しい状況に追いこまれている。このような卸売

業界へのABC適用に努力を傾けているのは、プライス

ウオーターハウスクーパースコンサルタントである。

最初に取り上げるのは、消費財卸売り業者へのABC

の適用である。

ABCによる原価分析によって摘出された改善経営課

題は、従来とは違って、極めて戦略的なものであった。

主要な課題は、次にみるように、経営そのものにかかわ

る問題である。

①フレックスタイム・シフト制度の導入

②小売店舗作業のアルバイト化

③メーカーへのリベート交渉力の向上

④返品情報の見直し

⑤コンビニ向け庫内加工作業の見直し

⑥標準品揃えサービスの開発

⑦EDIの推進

この課題から明らかなように、現代における経営改善

は、従来のものと比べると極めて戦略的な要因が大きい。

それは、従来のように経営の単なる合理化だけでは立ち

行かない卸売業界の状況から導かれたものといえる。

(2)銀行業における採算管理情報の戦略への活用

従来、銀行は輸送船団方式によって大蔵省の保護下に

おかれていた。このような状況にあっては、採算管理や

原価低減の必要性は、無いに等しかったといってよい。

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しかし、多額の不良債権という重圧下で自由競争のもと

におかれた金融機関は、自らの発想をもとに利益管理や

原価管理を実施していかなければならなくなっている。

そこで最も効果的な経営戦略と原価低減のツールとして

選択されたのが、ABCであった。

銀行業におけるABCの活用は二種類ある。一つは、

従来のように商品別のコストだけでなく、商品別・顧客

別のコストを算定することで、商品戦略に役立てること

である。今一つは、いくつかの支店の業務活動をABC

で分析し、その結果から数個の支店の活動をベンチマー

キングすることで、原価低減に役立てることである。本

稿で検討したいのは前者である。

あさひ銀行が構築したABCシステム、“新収益・原価

計算システム”では、顧客一人ひとりとの取引収益が銀

行収益の源泉であるという認識のもとに、顧客別採算管

理を実施している。具体的には、次のとおりである。

①商品別採算では、顧客取引において、どの商品の組み

合わせで収益が構成されているか

②担当者別採算では、誰が顧客を担当しているか

③営業店別採算では、顧客がどの営業店に勘定を有して

いるか

④部門別採算では、顧客がどのセグメントに属している

か、ただし、ここでセグメントとは、法人大企業、中

堅企業、中小企業、個人などをいう。

顧客採算分析の最も特徴的な点は、図1のような分布

図を書くことで、銀行がどんな戦略を取るべきかを明示

できることにある。

収益:高��原価:低�

A

原価�

収益:高��原価:高�

D

収益:低��原価:低�

B

収益:低��原価:高�

C

収   益�

図1 採算計算の分布図

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Aは収益性の高い顧客である。優遇措置が必要となる。

Bは収益性が低いので、規模の経済が得られるように積

極的なマーケティングが必要となる。Cは銀行にとって

最も“おいしくない”顧客である。排除されるべき顧客

であるともいえる。Dは銀行にとって大切な顧客である

が、コスト引き下げによって収益性が改善される顧客で

もある。

このような顧客別分析ができるのも、伝統的な手法で

は不完全で、ABCによって初めて顧客別の分析まで可

能になったからである。ABCの導入によって、導入担

当者は頭取からねぎらいの言葉をもらい、頭取はこれを

当行のコーポレート・アイデンティティにしたいとのこ

とであったという。

(3)製造業における製品戦略

日本の製造業でも、ABCを適用することで製品戦略

に成功した企業が数多くある。その一つ、オムロンは情

報機器の生産においてABCを適用することで、試作品

と生産途中で仕様を変更した製品に予想を上回る多大な

コストがかけられていることを発見し、経営改善につな

げることができた。さらに、仕様変更が頻繁に行われる

当該製品の収益性が低いために、製品の撤退戦略やアウ

トソーシングにもABCを活用することができた。

オムロンがABCで解決を意図している経営課題は、

成長構造作りと収益構造作りである。前者は商品開発に

おけるプロセスコストを分析し、収益性に応じた顧客対

応業務を強化することで成長構造を構築している。後者

は、間接業務の効率化を図るとともに、正確な原価の算

定によって機種の統廃合を図っている。そこで用いられ

ているのは、図2のようなポジショニング・マップである。

ポジショニング・マップによってオムロンは採算の優

れた製品の生産と販売に努力を傾け、不採算機種から撤

退するといった戦略を実施している。このような分析が

可能になるのも、結局はABCによって正確かつ確実な

原価分析がなされているからである。今後、日本企業で

ABCを戦略的に使用するところは、ますます増加する

と思われる。

ABC/ABMで“効果性重視の経営”の実現を

ABCは製品戦略や原価管理に極めて効果的な管理手

法である。90年代の多くの日本企業は固有の意味での

ABCよりもABMによる原価低減活動に関心を抱いてい

た。それは、当時の我が国企業はまだそれほど経営戦略

を必要とする状況ではなかったからである。経営戦略へ

の必要性の認識が低かったこともある。しかし、21世

紀の我が国では、経営戦略への支援機能としてのABC

の役割がますます高まってくると思われる。そこで本稿

では、ABCの経営戦略への役立ちを主要な目的とする

ABC/ABMの意義を中心に述べてきた。

ただ、ABCの経営戦略への適用やABMの原価削減活

動への適用には、我が国固有の問題もあり、留意すべき課

題がある。そこで最後に、ABCを経営戦略や業務改善

に活用するにあたって留意すべきことを述べておきたい。

ABCは製品戦略という名のリストラに活用できる。

精確な原価が算定されるために、どこにムダがあるかが

明らかになるからである。ABCによると、多品種少量

機種戦略� 積極拡大機種� 拡大機種� 現状維持機種�

高収益機種�

不採算機種�

戦略見直機種�

図2 ポジショニング・マップ

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生産はコストがかかりすぎることが明らかになる。同様

に、試作品や研究開発品は大幅なコストがかかることが

明らかになる。ただ、多品種少量生産品の生産にコスト

がかかるからといって大量生産に逆戻りするようなこと

があっては、顧客満足に反する。また、研究開発に金が

かかるからといって研究開発を遅らせたら、企業の将来

はない。

ABMはプロセスの改善によってリエンジニアリング

に役立てることができる。日本企業はABMをリエンジ

ニアリングに活用する企業が多い。なぜなら、ABMの

実施によって非付加価値活動が明らかになり、削減すべ

きコストの発見に役立つからである。アメリカでは、

ABMの結果を利用することで不要な従業員のレイオフ

をすることが可能である。しかし、日本企業がそのよう

な安易な方法をとることは、―トップが外国人に代わっ

た企業などを除けば―なかなか難しいし、そのような

荒っぽいリストラが許されるべきかも議論のあるところ

である。ある日本企業では、ABCの結果として1,000名

の従業員のうち、4分の1に当たる252名が不要である

ことが明らかになったが、すぐに解雇するようなことは

せず、商品開発研究所を設けることで研究開発組織を活

性化して、3年をかけて余剰の従業員を新規事業に振り

替えることを計画した。つまり、経営上の非効率を発見

したが、その非効率を解消する方策に工夫を加えること

で、モチベーションを高めるのに成功したのである。

筆者は、企業には将来ますます効率化が求められてく

ると思う。ゼロサムゲームのなかで国際競争を勝ち抜い

ていくためには、経営戦略や経営の効率化が必要だから

である。しかし効率だけを追求しては真の人間の幸せは

得られない。そこで、ABCによって得られた効率化の

成果を人間の幸せに結びつけるために、筆者はここ数年

来、“効果性重視の経営”【櫻井, 2000】を主張してき

た。経営効率を最終の目的とするのではなく、経営効率

の向上によって得られた成果を従業員の真の幸福、サプ

ライヤーとの共生、地球環境の保護、社会的責任の充足

に振り向けた調和ある経営を主張しているのである。

ABC/ABMの実施によって多くの企業が“効果性重

視の経営”を実現し、すべてのステークホールダーが満

足できる状況を確立できることを心より期待する。

[参考文献]*Cooper, Robin, Robert S.Kaplan, Lawrence S. Maisel,Eileen Morrissery and Ronald M. Oehm, ImplementingActivity-Based Cost Management, Moving From Analysisto Action, CMS, 1992, 11頁*Johnson, H. Thomas, Relevance Regained, The FreePress, 1992, 147-149頁*辻厚生、河田信訳『米国製造業の復活』中央経済社、1994年, 176-177頁*Lewis, Ronald J., Activity-Based Models for CostManagement Systems, Quorum Books, 1995, 137-141頁*Raffish, Norn, and Peter B.B. Turney, editor, Glossary ofActivity-Based Management, Journal of CostManagement, 1991, 55-58頁*櫻井通晴『間接費の管理―効果性重視の経営―』中央経済社、1995年、163-165頁*櫻井通晴(a)『新版管理会計』同文舘、2000年、33-35頁*櫻井通晴(b)「日本企業におけるABCの現状と課題」『旬刊経理情報』811号, 1997年2月 18-24頁*櫻井通晴(c)「日本企業におけるABCの現状と課題」『旬刊経理情報』812 号, 1997年3月 14-20頁*櫻井通晴編『ABCの基礎とケーススタディ』東洋経済新報社, 2000年, 1-347頁*Sharman, Paul, A Practical Look at Activity-Based Costing,CMA Magazine, February 1990, 12頁*TQM委員会『TQM 21世紀の総合「質」経営』日科技連,1998, Ⅲ。

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企業改革を支援するABC/ABM競争優位の確立とコスト削減の両立による効率経営の実現

プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社戦略コンサルティングサービス事業部 ABM担当パートナー

松川 孝一氏

改革やシステム導入がうまく行かないのはなぜか

●成果がうやむやになってしまうのはなぜか

最近、身近で起こったシステム導入やプロセス改善な

どを思い出してほしい。それらは成功しただろうか、そ

れとも失敗しただろうか?

貴方がプロジェクト・メンバーであれば、「成功した」

と答えたいだろう。貴方が現場サイドのメンバーで少し

でも苦い思いをしていれば、「失敗した」と答えるかもし

れない。貴方が経営者であれば、この質問を聞かれるの

はちょっと困るかもしれない。「失敗した」か「成功した」

か、大抵の場合どっちともいえるし、どっちともいえな

いのである。何らか少しでも良くなっていれば、「成功

した」と言いたくなるのが経営者である。

それでは、「プロジェクトに投入した社員の人的コス

ト、コンサルタントなどの外注コスト、システムなどの

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購入コストをかけているが、これは何年で回収されるの

だろうか」と経営者に聞くとする。日本において90%

以上のプロジェクトの場合、この質問に対して完全にお

手上げである。なぜなら、プロジェクトに投入した社員

の人的コストなんて計算したことがないはずだからであ

る。さらにはプロジェクト導入の本来のリターンである

効果測定は、大抵の場合なされていないのである。

敵を作りたくない。失敗を認めたくない。官僚的な組

織であればあるほど、リスクを避けるために目標を明確

化することを嫌がるものである。日本の組織において、

目標数値を明確化され、それによって給料が変動したり、

賞罰が決定される組織は営業と一部の役員だけである。

目標を設定され、目標を達成するために頑張る経験をそ

れ以外の社員は誰もしていない。ましてや、社内プロ

ジェクトを推進する企画部門などの間接部門のメンバー

が自ら首を絞める可能性のある数値目標を設定するだろ

うか。

売上向上のための営業支援システム導入プロジェクト

があった。プロジェクトの目的には“業務改善を通した

営業力向上”が謳われていたが、システムの機能は経費

精算と日報管理であった。この会社の営業マンは、この

システムが入った結果、さらに日報にかける時間が増加

し、顧客サービスが低下したのを誰も気がつかなかった。

ある企業の新ERPシステムの導入もしかりである。

このシステムが入って在庫がリアルタイムに見られるよ

うになった。しかし、発注担当は、いまだにシステムから

在庫リストを出力して、発注用紙を持って倉庫まで行っ

て、在庫商品の前で発注用紙を記入している。誰も彼に、

発注する際に倉庫に行かなくてよくなった旨を伝えてい

ないからである。倉庫へ行かなくて済むようになると彼

の仕事は半日で終わってしまうが、彼に他の仕事は与え

られていないのである。

新ERPシステムを使えば、浮いた半日分で、他の倉

庫の在庫状況を見ながら、無駄な発注・在庫を横持ち活

用により削減したり、売上トレンドをベースに発注量を

調整したりするような、肝心で高付加価値な業務ができ

るはずであった。しかし残念ながら、この会社において、

ERPシステムの新機能は使われないお飾りだったので

ある。

なぜこのようなことが日常茶飯事なのだろうか。理由

は以下の三点にある。

①経営者がゴールのイメージを持っていないから

②改善・改革のためのインフラ(業務可視化・原価管理・評

価報奨)ができていないから

③減らすべき業務と増やすべき業務を、ちゃんと区分け

していないから

●経営者がゴールのイメージを持っていないから

改革に先立って、ある会社の社長はこう言った。

「このペースでいけば、本業における売上は3年間で

10%下がる。仕入れ価格が変わらないとすると、1年

以内で赤字転落である。営業、マーケティング、システ

ム、企画ができる優秀な人材を現業から90人引き抜い

て新規A事業に対し、投入したい。今回の改革のために、

5年かけて社員の契約社員化を進めてきた。パートを含

めた契約社員の比率は全社員の30%の200人に達す

る。この契約社員の50%、100人を削減、年間5億円

のキャッシュを生み出すことを前提にこれを投資にまわ

し、システム導入、業務の集約化、取引先の見直し、新

規事業の構築を行う。

この改革が成功すれば、売上が10%下がっても現業

の効率は約15%向上する。3年後のプロジェクト成功

の暁には、全社員の給与を最低10%は向上させること

を約束する」。ここまで言えれば合格である。

プロジェクト着手時に社長がお手並み拝見的姿勢であ

る会社の場合は、絶対に効果は出ない。業務を止めさせ

るのも、現業から人を引き抜くのも、契約社員化を進め

るのも、投資を決めるのもすべて経営者の仕事である。

数値をもって経営者がゴールのイメージをプロジェクト

に伝え、自分が責任を持って決断し、遂行することを約

束しない場合、プロジェクトはすでに失敗しているとい

える。

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●改善・改革のためのインフラ(業務可視化・原価管理・

評価報奨)ができていないから

上記のように経営者が数値をもって目標を語れるため

には、経営者がリスクを負っていることと、現場業務が

理解できていることが必須条件である。

欧米の場合、改革や改善を行う際、現場をスクラッ

プ・ビルド(社員をそっくり入れ替えること)する傾向が

ある。つまり、一旦、現場の人員を外し、ゼロベースで

再度必要な人員のみ調達する。その結果、設計通りに業

務は構築され、善し悪し関係なく、設計通りに業務が遂

行される。悪い設計の場合には業績が悪くなるし、良い

設計の場合業績が良くなる。そのため、マネジメントと

設計者の責任意識(リスク指向)が高くなり業務ノウハウ

がこの両者に蓄積される傾向がある。

日本の場合は、現場をスクラップ・ビルドすることが

ない。結果として、現場にはその道数十年のプロがいる。

彼らは自分が働きやすいように個別に現場業務を変えな

がら長年仕事をやってきたのである。日本においては、

彼らに現場業務は握られていることになり、経営者も設

計者も現場を十分に良く知らないので、改革を現業の担

当者に任せて進めようとする傾向がある。その結果、設

計者や経営者の意図は現場のレベルでうやむやになり、

意図しないシステムの使われ方をしたり、また、改革に

対する反発があって、やり直しが余儀なくされたりする。

改革は、あくまでも現状の否定から始まるのであるから、

現場主導で改革ができるわけがないのである。

さて、日本のこの穏当な雇用文化を生かしながら、ホ

ワイトカラー業務を抜本的に良くすることはできないの

であろうか。日本の工場内における地道な改善活動

(TQC)にそのヒントがある。日本産業の競争力は工場に

おける地道な改善活動を通した高品質、ローコスト化の

成果である。工場でできることが、なぜホワイトカラー

でできないのであろうか。違いは三点である

①工場の業務は可視化されている。誰が何をどのように

行っているか皆が知っている

②工場にはコスト計算の仕組みがあり、原価管理されて

いる

③よりローコストにしたり、より品質を向上すると評価

され報奨される

このような仕組みがあるからこそ、工場の現場では設

業績�

現場�

経営者�

設計者�ビジネス�ノウハウ�

経営�ノウハウ�

スクラップ&ビルド�

フィードバック�システム�

アメリカ型◯�

業績�

現場�

経営者�

設計者�

現場�ノウハウ�

ウヤムヤ�

日本型×�

業績�

現場�

経営者�

設計者�

経営�ノウハウ�

ビジネス�ノウハウ�

現場�ノウハウ�

ビジネス�可視化�

日本型改善改革インフラ=ABC/ABM

日本型◯�

図1 改善・改革モデルの比較

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計者(生産技術担当)、経営者(工場長)、現場(作業担当)が

三位一体となって業務の改善に取り組むのである。(図1)

ホワイトカラーの世界においても同様である。工場と

同様の環境にすれば良いのである。

①ホワイトカラーの業務を詳細に棚卸し、またはビデオ

などで常時撮影し可視化する

②ホワイトカラーの世界にもサービス・コスト計算の仕

組みを導入し、原価管理する

③よりローコストにしたり、より品質を向上すると評価

され報奨される

●増やすべき業務と減らすべき業務をきちんと区分け

していないから

企業は“何か”を生み出して、その分の対価を回収す

ることで初めて存在の意義があるといえよう。生み出す

その“何か”が“付加価値”である。付加価値は支払う

側(顧客)が対価を支払う根拠となるものである。 (図2)

*競争力源泉活動(Strategic Core:SC)

「他社(他人)ではなく当社(自分)を選んでくれる理由を

維持構築する活動」を“競争力源泉活動”と呼んでいる。

この活動がなくなれば、顧客は当社を選ばなくなり、結

果的に当社は衰退の道をたどるのである。逆に当社が存

在している理由は、この競争力源泉活動がどこかにある

からである。

企業固有の強み(コアコンピタンス)はこの競争力源泉

活動の一部である。競争力源泉活動は個人それぞれの個

性、能力に起因するものと、企業がプロセスとして培っ

てきたものの二種類あり、後者のみが企業の強み(コア

コンピタンス)である。

個人にとって競争力源泉活動は他人ではなく、自分を

選んでもらえる活動であり、“他人にはできない”、やっ

ていて気持ちのいい“ボランタリー的わくわく業務”で

ある場合が多い。さらに、この業務は遂行すればするほ

ど企業や業界にとって、より必要な人材としてアピール

できるため、自分のキャリアになる活動と言ってもよい。

とにかく、社員にとっても企業にとってもこの競争力源

泉活動(SC)はより増やすべき業務なのである。

*付加価値活動(Value Added:VA)

「お客様がお金を払う物やサービスを形成する活動」を

“付加価値活動”と呼ぶ。メーカーの付加価値は製品を

他社(他人)ではなく、�当社(自分)を選んでくれる�理由を構築維持する活動�

もっと増やす�競争力源泉活動�

(Strategic Core: SC)�

お客様がお金を払う物や�サービスを形成する活動�

増やす�付加価値活動�

(Value Added: VA)�

それ以外の活動� 減らす�非付加価値活動�

(Non Value Added: NVA)�

*自分のキャリアになる�*ボランタリー的ワクワク業務�*やる気と比例�

*自分のキャリアにならない�*やらされている事務処理調整業務�*経営から指示しないと絶対減らない�

活動単位での�人・物・金�

(リソース)�最適配分�

図2 付加価値分析とは?

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研究開発、製造、マーケティングし、流通を通じて消費

者に送り届けるとともに、アフターサービスを実施する

ことである。小売業の付加価値は地域の消費者が必要と

する商品を調達、陳列し、消費者の選択の機会を与え、

対価を回収することである。

付加価値活動の中には、先にあげた競争力源泉活動が

含まれる場合もあるが、付加価値活動をただ実施してい

るだけでは競合に勝つことはできない。何か他と違うこ

とを実施して初めて競争力の源泉となるのである。

昨今、競争力源泉でない付加価値活動はアウトソース

の対象とする企業が増えてきている。例えば、ある新薬

メーカーでは、競争力の源泉である新薬開発に経営資源

を集中するため、付加価値業務のうちドクター説明業務

をアウトソースする例も出てきている。

*非付加価値活動(Non Value Added:NVA)

「競争力源泉でも付加価値活動でもない活動」を“非付

加価値活動”と呼ぶ。この業務は一般的に社員個人から

見れば、「やらされている事務処理調整業務」である。こ

の業務は、どれだけがんばって実施しても自分のキャリ

アにならない業務である。企業としても、社員としても

この業務は極力減らすか、社外にアウトソースしたい業

務である。

しかし、非付加価値活動は、経営から指示されない限

り、増えることはあっても、減ることはないのである。

古い組織ほど過去からの“しがらみ”でやらされている

NVA業務が多い。

印刷�内容を�作成�

終了�社内�移動�コピー�

ホチ�キス�

社内�移動� 配布�

開いて�読む�

ファイル� 廃棄�判断�社内�移動� 廃棄�

配って読んでファイルするまでの活動(4人に配布)�紙資料の流通� 期末に整理廃棄する活動�

1分��

50円�1件あたりABC

1件あたりABC

1分��

50円�

2分��

100円�

2分��

100円�

2分��

100円�

2分��

100円�

1分�×4�200円�

0.1分�×4�20円�

0.2分�×4�40円�

0.2分�×4�40円�

計800円/件�

メール�送信+�ファイル�

内容を�作成�

終了�開いて�読む�

廃棄�判断� 廃棄�

電子メール�

1分��

50円�

0.15分�×4�30円�

0.1分�×4�20円�

計100円/件�

紙資料の流通コストは電子メールのなんと8倍!!�伝わるまでに10倍以上のリードタイム!!�

図4 ABCの例:電子メールと文書DBの効果

ビジネスをアクティビティ単位に細かく分解し�アクティビティ単位のコストを算出すること�

受注�200円/件�

報告�2千円/回�

紙作業�50円/枚�

ミーティング�4万円/回�

システム入力�300円/件� エラー処理�

900円/回�

仕分け�作業�8円/個�

配送 20円/個�

移動 4千円/回�

企画 20万円/企画�

プレゼンテーション�3千円/回�

待ち時間 1千円/回�

電話受け 400円/回�

ビジネス�

アクティビティ�(活動)�

図3 ABCの考え方

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●ABCとは何か?

ABC(Activity-Based Costing=活動基準原価計算)

はその名のとおり、活動単位に原価を計算することであ

る。 (図3)

活動とは「文書を印刷する」、「印刷された文書を取り

に行く」、「文書をホチキス止めする」、「綴じられた文書

を配る」などの一連の業務プロセスを構成する最小要素

である。

ここでの“活動”は必ずしも人間が行っているものと

は限らない。機械であっても何かを処理していれば“活

動”と考えてかまわない。一人の人間が行う活動の種類

は少ない人で50、多い人で500以上と幅がある。一般

的に物流業務などの定型業務(ルーチンワーク)をしてい

る人は活動の種類は少なくなるし、逆に営業や管理職な

ど、非定型業務を行っている人の活動種類は多くなる。

(図4)

一つの企業全体の活動を整理するとその数は3,000~

3万以上になることもある。企業活動の種類数は、事業

業務可視化と成功計測の決め手、ABC の種類数、組織の数、業務の標準化度合いに応じて変動

することになる。

ABCの計算ロジックはさまざまである。プライス

ウォーターハウスクーパースコンサルタントでは一つの

ABC計算方法として“活動コスト=単価×時間×回数”

のロジックを提唱している。

例えば、ある顧客Aのために企画書を作成していると

する。企画書作成には、年俸1,000万円の社員(単価

100円/分)が平均4時間(240分)かけて、年間4回行っ

ているとすると、ABCの計算は以下のとおりになる。

企画書1通あたりの作成コスト:

24,000円=人件費単価100円×1通あたり時間240

顧客Aのための年間企画書作成コスト:

96,000円=人件費単価100円×1通あたり時間240

分×年4回

ここで、企画書作成96,000円のコストはどうある

べきだろうか?

まず、企画書作成は顧客に望まれているものだろうか。

それともただ前任者がやっていたから継続してやってい

ABC�コスト�

単価�

100円/分�9万6千円� 240分/1回� 4回/年�

=� 時間�×� 回数�×�

ABC計算ロジック�

最適な�アクティビティ�コスト�

高単価�or�

低単価�

時間増�or�

時間減�

回数増�or�

回数減�=� ×� ×�

アクティビティ・コスト分析�

顧客Aに対する�企画書作成コスト�

営業上級職単価� 企画書作成時間� 年間企画件数�

コストの大きな�アクティビティから分析�

図5 ABC計算ロジックと改善課題抽出方法

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るだけだろうか。企画書作成により何か当社にメリット

があるのだろうか。

まずはその活動の存在意義(付加価値性)を考える。意

義が無ければ潔くその活動は廃止である。

企画に意義があるのであれば、次はこの年俸1,000万

円の人がやらなければいけないことか考える。企画書作

りをマニュアル化して年俸500万円の一般総合職が企

画できるようにすれば、活動コストは半分になる。また、

企画を標準化、テンプレート化し、4時間かかっている

企画作成作業を1時間でできるようにすると、さらにコ

ストは4分の1である。

企画書1通あたりのコストがこれだけで8分の1に

なったが、あとは回数である。仮にこの企画書1通で顧

客の扱っている死に筋商品を減らし、売れ筋商品を確実

に増やすことができるのであれば、年4回の提案を月1回

(年12回)実施したほうがより良いかもしれない。

このように活動の特性から単価×時間×回数をコント

ロールし、最適な“コストと効果”の兼ね合いをコント

ロールすることがリスク無き改革の基本なのである。

(図5)

何千もの活動を改善、改革の観点で一つひとつ分析す

ると、通常の企業の場合、100件以上の改善施策が抽

出でき、約30~40%のコスト削減か生産性向上を活

動レベルで抽出することができる。あとは実行すること

と、改善に合わせて人員の再配備を行うことで、真の生

産性向上につなげることが可能になる。

●今までのABCが失敗した理由

ABCは10年以上前に日本に入ってきたもので、別に

新しい概念ではない。それなのに、なぜ普及しなかった

のだろうか。筆者はこう考える。①目的が不明確で何に

使うかはっきりしていなかった、②データが正確ではな

かった、③評価報奨制度に組み込まれていなかった、の

3点である。

5~7年前にABCが日本で活発に議論された際、いく

つかの先進的企業がABCシステム導入を試行している。

タイムシートで活動別、製品群別に時間を収集し、シス

テムに入力、人件費を配分するやり方である。確かに製

品群別のコストと利益が計算され、また、製品群別のコ

ストが計算されている。

ある企業において、このABCシステムが7年間も運

用されていたが、あまり活用されていなかった。確かに

製品別のコストは出るが、それ以上の使い方が見えない

のである。詳細度が足りなく、改善には使えないし、タ

イムシートなのでデータが正確でない恐れがあり、評価

制度に組み込めない。結局、誰の評価報奨にも関係の無

いこの製品別のコストや活動別のコストは経理部と役員

に配布されるだけであったが、実際は誰も見ていないの

である。この会社では毎年なんと4,500万円(社員5人

分以上)の膨大な活動コストが、タイムシート記入、タ

イプ入力、データ計算、印刷出力に対し無駄に費やされ

ているのである。

かつて、ABCシステムを闇雲に導入した企業は多か

れ少なかれこのような経験を持ち、ABCに対しアレル

ギーを持っている企画部門のメンバーも少なからずいる

はずである。

●新しいABCシステムの考え方=二種類のABC

このような失敗をしないためにも、ABCは目的を達

成する道具と考え、目的に応じたABCの方法を選択し、

実施することが望ましい。筆者はかねてから、二種類の

ABCを提唱している。

一つは、改善、改革課題の抽出、効果試算およびプラ

イシングや人員のシミュレーション分析のため、年に1~

2回実施するための詳細な積み上げ型ABC。もう一つ

は改善成果のモニタリング、顧客別損益の評価目的など

で、月次か週次でシステム的に計算されるべき配賦型

ABCである。 (図6)

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詳細型ABCは改善が具体的に探り出せるよう活動は

詳細に分類し、インタビューやストップウォッチ形式で

単価×時間×回数を調査し、表計算システムやデータ

ベース・システムを用いて整理分析を行う。

配賦型ABCは人件費などを活動別に配賦し、顧客や製

品別に活動コストを積み上げ計算することで活動別、顧

客別、製品別のコストを計算する。市販のABC計算パッ

ケージ(Woodland、SAP/CO-ABC、Oros、Oracle-

Activaなど)や表計算ソフトを用いて、基幹システムや

会計システム、現場の情報入力システムからデータを収

集し、月次や週次でコスト計算を行うことになる。

特に、顧客別の営業利益(売上から原価、販管費を引

いた経費引き後の利益)をきちんと計算し、利益管理に

役立てている企業は、まだほとんどないといってよい。

売上が多いからといって儲かっているとは限らないし、

サービスを多く提供している場合、粗利が高くとれてい

るからといって儲かっているとは限らない。逆に粗利が

低くても、サービスゼロで済む顧客は儲かる優良顧客か

もしれない。

顧客別に儲かるか儲からないかわかっていないのに、

どの顧客を大切にすればいいか仕分けることなど、でき

るわけがない。

CRM(Customer Relationship Management)は、

顧客別損益管理から始まるといっても過言ではない。

企業の付加価値を確実に増加させる必勝法、ABMとは何か?

●ABMとは?

同じ業種なのに勝ち組企業と負け組企業があるのはな

ぜだろうか。なぜなら、勝ち組企業は“今やるべきこと”を

ちゃんとやっているからである。逆にいえば、負け組企

業は“今やるべきこと”でないことばかりやっているとも

言えよう。企業の競争力は、まさに「従業員が何をどう

やっているのか」のみで決まるといっても過言ではない。

このような “今やるべきこと”を思いつきや偶然で

はなく、意図的、かつ確実に設計構築するためにはビジ

ネスの設計図が必要になる。「アクティビティ・ベース

ド・マネジメント(活動基準管理:ABM)」はビジネスを

活動単位に細かく分解し、活動の単位で付加価値とコス

トの両面から、“今やるべきこと”のビジネス・モデルを

設計、構築、導入する方法論である。 (図7)

目的�

詳細ABC調査�

5,000~5万種類/会社�

1回~2回/年�

20~200/会社�

月次または週次�

活動種類数�

データ更新�頻度�

財務会計との�連動性�

改善・改革�戦略シミュレーション�プライシング�

“積上ベース”なので�単価に標準値を使うと�差異が発生する�

DB系システム�(Excel、DW)�

〈詳細ABCロジック〉�活動コスト=単価×時間×回数�

改革達成度のモニタリング�評価報奨(給与連動)�顧客・商品採算性�

“配賦ベース”か�“原価割当てベース”なので�

差異が発生しない�〈原価割当てベース=CAM-Ⅰロジック〉�

活動コスト=資源コスト×�資源ドライバ(資源消費量/資源総量)×�活動ドライバ(資源消費量/活動総量) �

または�〈活動ベース配賦〉�

活動の特性を勘案した配賦基準で配賦�

管理会計システム�ABC パッケージ�(財務会計と連動)�

ABCベース�コスト・営業利益管理�

システム�

計算ロジック�

システム�

図6 2つのABCシステムの比較(2つのABCは企業に両方必要である)

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●リストラじゃ会社は良くならない

業績が悪化したので経費削減、給与カット、人員削減

などのリストラを実行し、来たるべき好景気まで我慢す

る。景気が良くなったら何とかなるさ。このように考え

る経営者が後を絶たない。今までは行政や財閥系グルー

プがそれなりに助けてくれたが、助ける側ももはや限界

である。さらに人材の流動化が以前より活発化しており、

会社とともに我慢するタイプの社員は随分少なくなって

きている。

もし本業が不景気で人員が余ったのであれば、今こそ

競争力向上のチャンスである。景気が悪くなったら“今

減らすこと”を先に考えるのが負け組経営者。“今増や

すべきこと”を先に考えるのが勝ち組経営者である。

“今増やすべきこと”とは、まさに企業固有の競争力源

泉活動(=コアコンピタンス)を強化すること、それを生

かして他社がなかなか真似できない新しいビジネスを構

築することである。

●企業固有の競争力源泉活動

企業固有の競争力源泉活動は自社業務プロセスの中に

ある。自社が存在している理由は顧客が他社ではなく、

自社を選んでくれるからである。他社には真似できない

技術やサービスを継続的に生み出し、維持するプロセス

が社内のどこかに存在しているから当社も今まで生き

残ってきているのだ。

長年培ってきた現業の強みは他社には簡単に真似でき

ない。また独自であるが故、業務を知らない外部からは

分かりにくい。さらには、業務を遂行している本人や

サービスを受けている顧客でさえも明示的に意識してい

ない場合がある。

ABMにより現状業務を活動別に整理し、付加価値と

コストを分析することで業務を“可視化”(内容と規模

がわかるビジネス設計図)すると、他社では行われてい

ないサービスや他社に比べ突出して多く時間をかけてい

る活動がある。このような特徴的な活動やサービスが企

業固有の競争力源泉活動であることが多い。

プロセス改善(BPR)�

拠点業務処理の統合(シェアドサービス)�

専門会社への移管(アウトソーシング)�

コスト�削減�

ABC

ABM

業務の数値化による共通認識の確立、課題の明確化�

ABCABCベースコスト管理システムによる継続的評価・報奨�

人員配備最適化(リソース・マネジメント)�

業績・技能ベース給与制度�

利益・プライシング管理(CPS)�

コスト�最適�

サービス別顧客ニーズ分析�

競争力源泉サービス強化�

“現業の強み”を生かした新規事業構築�

戦略的�強み�構築�

図7 ABCの活用と展開=ABM

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●参入障壁を構築する

イトーヨーカドーは新しくリテール銀行業務を始める

としているが、現業の強みであるローコストでシステム

的なサービス提供の開発維持プロセスと、すでに構築し

た店舗、ネットワークを最大限活用した結果生まれるも

のと理解している。この現業の強み(既存のローコスト

供給の開発維持プロセス)において、既存銀行は絶対に

追いつくことはできないだろう。

昨今大人気だが、意外と儲からないインターネット・

コマースのジレンマも、まさにその参入障壁の低さにあ

る。早い者勝ち狙いでシェア確保を急ぐあまり、前倒し

でマーケティング・コストや設備コストを投下してしま

う。しかし、消費者側から自由に選べるのがインター

ネット・コマースの本質である。シェアが一旦取れても、

あっという間に競合の猿真似サービスに消費者は移って

しまう。

ABMの観点で分析するとインターネット・コマースは

現業の流通活動の一部を単にインターネットに置き換え

ただけである。インターネット・コマースにおいて商品

開発やサービス開発、価格設定の要素において、他社と

違うアピールが必要であることは店頭販売以上に重要で

ある。また物流やアフターサービスのリアルワールドも

結局残ることになる。

システム活用や表面的な工夫は競合からすぐに真似さ

れてしまうので、参入障壁にはなりえない。人間系のプ

ロセスにのみ参入障壁は構築できるのである。つまり、

一連のプロセスのどこか人間系プロセスに企業固有の競

争力源泉活動が生かされた上で、集中的に消費者に対し

アピールできる場合のみ、継続的に競争優位に立てるの

である。

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ABC/ABMによるIT投資マネジメント

岐阜経済大学 教授

松島 桂樹氏

IT投資評価の動向とその課題

日本の景気低迷の一因としてIT投資の不足を指摘し、

緊急なIT投資が必要であるとする議論が少なくない。し

かし、国や業界レベルでのインフラ整備への投資は別と

して、個別企業におけるIT投資が、外圧や一種のムード

によって実施されるべきではなく、いうまでもなく厳密

な採算性をもとに意思決定されなければならない。

汎用コンピュータからオフコン、パソコンの時代を経

て、現在はインターネットを代表とするWebへと、ITの

中心が大きく変わってきた。当初は機械化による手作業

からの置き換え効果、言い換えると情報処理による効果

が主に算定されたが、その後、非定型的な情報支援による

間接的な効果が重視されるようになった。さらに最近で

は、戦略への貢献、企業変革への支援、業務の標準化、情報

の統合化、また、企業連携による新たなビジネス・モデル

創出などが効果として考慮されるようになってきた。

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このような積極的で広範な領域にチャレンジすればす

るほど、その評価をめぐっては、定量的効果測定が困難

で、因果関係づけがあいまいであるとされ、有効な評価

プロセスが確立されていないのが現状である。

本稿では、その大きな要因として企業内部での業績評

価指標の定量化が進んでいないことを指摘し、より戦略

的なIT投資においてこそ、ABC/ABM(Activity-Based

Co s t i n g:活動基準原価計算/Ac t i v i t y - B a s e d

Management:活動基準管理)をベースとした業績評価

指標の整備による統合的なIT投資マネジメントの構築が

必要であると考える。

IT投資評価の基本的問題点

一般に、IT投資の経済性評価の困難性に関して、基本

的な誤解があるように思える。SCMの導入によって在

庫を1,000個削減できるとしよう。今年度は、従来の在庫

を活用できるため1,000個分の費用が不要になる。1個

の購入価格が1万円とすれば1,000万円の支出が不要に

なり、キャッシュフロー上の利益として財務報告書上で

も確認できる。

在庫削減効果に支払金利の低減を加えることが多い。

金利を8%とすれば80万円/年が効果金額となるが、原

材料を購入する度に必ずしも借り入れるわけではないの

で、支払わずに済んだ流動資金1,000万円が、この効果

の実体である。これを預金として保有するなら金利は

0.01%程度でしかなく、他の事業に投資するならば、その

事業の予想ROIから利益を試算するのが現実的である。

このように支払い金利の削減を効果とすると、その数

値が実に大きな幅をもち、金利の設定如何によって効果

金額が大きく変化するので、必ずしも客観的な指標とは

いえないことがわかる。

また、JITのように在庫をなくし製造リードタイムを

短縮することは、需要変動に即応する生産システムにつ

ながるのであるから、最終的に売上高の増大が期待され

るはずである。しかしこのような効果は不確実で定量化

が困難なため、リスク回避型の経営者は、それがいかに

本質的であるとしても確実な効果しか認めようとしない

であろう。

さらに、他社の事例がそのまま自社で実現できるとは

いえないばかりか、それが自社の戦略的課題でないなら

ば、それを単純に金額換算することは、もはや意味がない。

最近話題のTOC(Theory Of Constraints)にならえば、

在庫を全体的に減らすのは効果的ではなく、むしろネッ

ク工程の前には在庫を集中させることが、プロセス全体

のスループットを高めると考える。つまり投資対効果の

因果関係は各企業の戦略コンテキストに依存するので

あって、それは、客観的に“ある”のではなく、各企業

ごとに“つくる”ものであると考える方が妥当といえる。

IT投資マネジメント・サイクルの構築

効果的なIT投資マネジメントを実施するためには、各

企業ごとに、戦略に基づいて投資と効果に関する因果関

係モデルをデザインしなければならない。本稿では、そ

の基本的アプローチとして以下を提起する。

*利害関係者(トップ・マネジメント、情報システム部門、

利用部門)間での合意形成

*事前から事後に至る一貫的な評価プロセスの構築

*財務的指標と管理的指標の変換

(1)利害関係者(トップ・マネジメント、情報システム

部門、利用部門)間での合意形成

IT投資の起案者は、客観的な評価手法がないことを嘆

くことが多い。例えば、ITを理解せず戦略を明示しない

トップ・マネジメント、部門の利害を重視する利用部門、

そして、技術力の高さを誇示する情報システム部門を相

手に説得しようとするならば、オールマイティな評価方

法を求めるのも無理もない。しかし、これまで述べてき

たように、それは“ないものねだり”なのである。IT投

資を正しく評価するための評価ルールは、その企業の戦

略コンテキストに基づき合意された重要業績評価指標

(KPI: Key Performance Index)をいかにして構築する

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かにかかっている。

トップ・マネジメントは、情報システム投資に際して

情報システム部門に検討を依頼することが多い。しかし、

多数の開発・運用要員と多額の予算を抱えている情報シ

ステム部門は、中長期的情報システム計画と経営者の戦

略や要求とを調整し、経営者とは異なった利害を持って

提案するのである。

IT投資の意思決定とは、経営者による投資のコミット

メント(確約)と、提案者による効果のコミットメントと

の交換であるといえる。しかしネットワークを中心とし

た最新のIT投資においては、投資の提案者である情報シ

ステム部門が直接的に効果を生み出すことはできない。

利用者がデータの収集や他部門との迅速なコミュニケー

ションにITを活用した結果として、自部門や顧客に生産

性向上がもたらされるのである。情報システム部門は、

使用方法を利用部門にガイドすることはできても、利用

者での効果を明確に記述することは困難であって、効果

が得られるかどうかは利用部門の問題とならざるを得な

い。さらに、効果は論理的に導き出されるというよりも、

目標的な数値、すなわち利用部門が効果目標をどう設定

するかに依存するのである。 (図1)

(2)事前から事後に至る一貫的評価プロセスの構築

事後に投資評価を確認し難いことが、効果的なIT投資

マネジメントを阻害しているとされる。したがって、事

前から事後までを一貫的なマネジメント・サイクルとし

て捉え、事前に評価すべきKPI指標を明確にしておくこ

とが極めて重要である。IT投資マネジメント・サイクル

をまわすことによって、利害関係にある部門やトップ・

マネジメントとの情報共有が促進され、意思決定上のリ

スクが軽減することで、迅速な意思決定と早期な投資回

収が図れるのである。 (図2)

計画作成局面においては、トップ・マネジメントから

の目標設定、さらにバランスト・スコアカードで提起さ

れる学習と成長、社内プロセス、顧客満足、財務的視点

の四つの視点による指標が、事前にトップ・マネジメン

トから表明されることが重要である。

これによって、IT投資が実現すべき機能と支援内容、

全社的観点での効果目標からブレークダウンされた利用

部門の課題が提示される。従来の計画作成局面では、機

能仕様については、利用部門と多くの時間をかけて検討

するが、効果について議論することはあまりないため、

経営者�

効果� 投資�

サービス提供�

利用部門� 情報システム�部門�

図1 合意形成における利害関係者の枠組み

計画作成�

(Preparation)�

投資意思決定�

(Decision Making)�

業績測定�

(Performance   �

   Measurement)�

1.システム機能要件�

2.効果目標�

1.財務的指標による投資採算性評価�

2.リスク評価�

1.達成度の評価と管理�

2.改善へのフィードバック�

図2 IT投資マネジメント・サイクル

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利用部門は、いわば多く要求することが自部門の利益に

合致するので、要求仕様は肥大化しがちであった。そし

て効果項目と効果金額は、情報システム部門が投資を正

当化するために、利用部門との合意形成不十分なまま決

められることが多く、誰が効果に責任を持つのかは、あ

いまいとなりがちであった。

新しいアプローチでは、情報システム部門と利用者との

間での効果項目の数値に関する合意形成が重視される。

投資意思決定局面は、経営者が投資を採択するかどう

かを決める重要な局面である。一般に、投資は企業業績、

すなわち財務的指標の改善を目指して実施されるので、

投資と効果を、できる限り貨幣的価値で表現することが

望ましい。また、そのことが外部に対する説明可能性

(accountability)を高めることにもなる。

業績測定局面は、投資意思決定で確約された効果が予

定どおり達成されたか否かを測定する。事後に業績が追

跡されないならば、事前に効果を過大に見積もっても責

任を取らされないため、その場限りのIT投資評価となる

かもしれない。プロジェクト完了後に結果を確認するだ

けではなく、進行途中で状況に応じて改善活動や是正な

どの管理を行うことによって、期待どおりに効果が発揮

されないのは、経営環境が原因なのか、機能が満足され

ていないからか、などの分析や利用状況の精査ができる

ことが業績測定の重要な機能である。

したがって、効果データの収集は、経営者の思いつき

で行われるものではなく、KPI指標に関する客観的な

データを、定常的かつリアルタイムにモニターできるよ

うなシステムを構築すべきである。

(3)財務的指標と管理的指標の変換

従来の経済性評価手法では、金額表現可能な直接効果

(材料費削減など)、間接効果(歩留向上など)、そして定

性的効果(競争力強化、企業イメージアップなど)を抽出

し総合的に評価することが多い。これは一見、非常にバ

ランスのとれた方法のように見えるが、IT投資マネジ

メントの観点からは、投資効果を一貫的に取り扱えない

ために不十分である。

利用部門と効果目標について検討する計画作成局面に

おいては、管理的指標が中心となるが、意思決定局面で

は、いくら投資して、いつ、いくら回収できるか、そこ

にどのくらい不確実性やリスクがあるかがトップ・マネ

ジメントにとって重要な情報であるので、回収期間法や

現在価値法などの計算技法を駆使して、投資と効果を金

額で評価するための財務的指標が不可欠である。1億円

投資して5日間納期短縮されるという案件は、そのまま

では採算性を評価できないからである。つまり、管理的

指標を財務的指標に変換する方法が、IT投資マネジメン

トにとって極めて重要な問題なのである。

業績評価局面で、財務的指標を用いてIT投資を評価す

ることは現場に無用の混乱を引き起こしかねない。例え

ば、社員の生産性向上の効果として人件費の削減を効果

として提案しても、事後に評価指標として確認できるの

は、生産性向上の数値であって削減された人件費ではな

い。解雇されたのであれば、財務報告書で効果金額を確

認することができるかもしれないが、余剰人員を他部門

へ転換することによる新規事業の採用抑制は、財務報告

書上では確認できない。解雇や職務転換施策はIT投資マ

ネジメントの問題ではなく、トップ・マネジメントがIT

投資の効果をどのように活用するかという戦略的な問題

である。したがって、業績評価局面では、達成度が具体

的に確認できる管理的指標が有効である。

このように、新しいIT投資マネジメントでは、計画作

成局面では管理的指標、投資意思決定局面では財務的指

標、業績評価局面では管理的指標と、目的に応じて指標

を使い分けなければならない。

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例えば不良率の10%低減は何%の原価低減に相当す

るというように、事前に社内標準として、管理指標と財

務的指標との間の変換係数について合意を形成していな

ければ効果的なIT投資評価は難しい。 (図3)

IT投資を、一過性の設備投資評価技法を中心に検討す

るのはもはや適切ではない。戦略的なIT投資であればあ

ABC/ABM活用によるIT投資マネジメント

(1)活動ベースの経営システムによる

IT投資マネジメント

るほど、そして、継続的な投資であればあるほど、企業

業績の向上を、さらにはビジネス・モデルをより直接的

に支援するので、企業の業務プロセスの効率性やビジネ

ス・モデルの業績を測定するためのKPI指標を投資評価

に組み込まなければならない。

本稿では、ABC/ABM技法をもとに、活動ベースの経

営システム概念によるコスト・ドライバ分析からKPI指

標を導出することを提起する。 (図4)

ABCは、もはや単なる原価計算の技法ではなく、業

務改革・改善のための情報支援を含む幅広い経営管理の

ためのツールへと拡張してきた。すなわち、成果を生み

ABB=予算編成�

ABM=原価改善�

ABC=原価算定�

リアルタイム�ABC=原価追跡�

・ドライバ�

・活動原価�

・予算レート�

図4 活動中心の経営管理

効 果� 効 果�

定量的効果�+�

定性的効果�

財務的指標�視 点�

検討結果�

目的�

管理的指標�

金額表現� 達成度表現�

投資採算評価� 管理改善�

従来の評価フレーム� 新しい評価フレーム�

図3 新たな評価フレーム

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出すための活動が資源を消費すると考え、活動を介して、

資源と製品や顧客などの原価計算対象を関連づけるので

ある。

活動ベースの経営システムは、目的の異なる三つのサ

ブシステムから構成される。

原価計算対象の原価算定を目的とする「ABC」、多元

的(製品別、顧客別、地域別など)原価分析をもとにして

活動の改善を目的とする「ABM」、活動をもとにした予

算管理を目的とする「ABB(Activity-Based Budgeting)」

である。そして、各局面において、戦略策定や予算編成

局面における資源やキャッシュフローへの影響を予測す

るための情報を提供し、プロセス指向の経営管理を支援

するためにコスト・ドライバを活用する。すなわち、

ABCの段階での原価算定のためのコスト・ドライバが、

ABMにおいては改善のための指標として活用される。

さらに、ABBでは、成果のために必要な活動量と、

活動が消費する資源量とを指標して関係づけるためにコ

スト・ドライバが用いられる。まさしく、活動ベースの

経営システムを構築することが、KPI指標を整備するこ

とにつながるのである。

(2)コストドライバを利用した効果算定

品質管理システムの投資効果事例を検討してみよう。

X社では、製品A、B、Cを製造販売している。従来の原

価計算方法では、各製品とも利益を出していた。活動基

準の原価計算を導入するために、活動の定義、コスト・

ドライバを識別し原価を計算しなおした結果、従来、

1.4億円の利益があるとされていた製品Aが-7.9%、

1.6億円の赤字となってしまった。販売関連活動と障害

関連活動の原価が他の製品よりもはるかに高くなってい

ることが明らかになった。

これらの結果に基づき、製品Aの今後について、撤退

すべきか、体制の再構築によって再起を図るべきか、に

ついて検討がなされた。その結果、成長性が見込めると

して、現在のプロセスを見直すことによって、大幅な収

益改善の方向を検討することになった。

ABCにおけるコスト・ドライバ分析を実施することに

よって、製品Aの特性と活動コストの関係の実態がより

把握できた。つまり、製品Aは高度に技術性の高い製品

であり付加価値も高いが、技術力や顧客とのきめ細かな

対応が不可欠な手のかかる商品であり、この努力を怠る

と納入後に、使い方がわからない、思ったような性能が

でない、他の機器との不整合を起こすなど、顧客サイト

での障害や不満となってX社に跳ね返ってくる。しかし

販売量が少なく利益が出ないため、要員を投入すること

ができなかった。その結果、顧客とのコミュニケーション

が不足し、さらに障害が発生する、という悪循環に陥っ

ていることが数字からも明確になってきた。

この結果を参考にして、製品品質の安定、とりわけ顧

客現場での障害の減少に取り組むために、プロセスを見

直して分散されていた要員を集中するなどの品質管理体

制強化と障害情報のデータベース化が提案された。品質

が向上すれば必ずや販売数量も増大すると考えたからで

ある。

障害関連活動を活動グループとしてまとめ、障害件数

をコスト・ドライバとして原価分析を行った。この分析

によって障害件数と障害関連活動コストとの関係が明確

になり、どのくらい障害件数を削減すれば、いくらコス

ト削減が可能かを算定できる。障害件数の削減目標を

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40%と設定し、それは、9,800万円に相当することがわ

かった。

このように、財務的言語の管理的言語への翻訳、すな

わち両指標を相互変換できることが、コスト・ドライバ

分析の重要な役割であることが理解できる。削減された

障害件数を障害関連活動コストの低減に変換することに

よって、品質の改善が製品コストにどのように影響を与

えるかが明らかになった。

そして、この障害件数という指標は事後においても容

易にデータ収集が可能である。このような係数を設定し

ておくことで、IT投資によってどのような効果が獲得で

きるかを、事前、事後に共通で合意可能な管理的指標と

期待効果の金額としてリアルタイムに管理することがで

きる。 (図5)

おわりに

本稿で提起している論点は極めてシンプルなものであ

る。第一に、IT投資は企業戦略達成にもっとも貢献する

KPIの改善をサポートする。第二に、KPIは、企業の戦

略コンテキストに基づき、活動をもとにした指標として

設定される。第三にKPIの改善目標は、利害関係のある

トップ・マネジメント、利用部門、情報システム部門の

三者で合意する。第四に、IT投資の業績評価は、事後に

KPIの変化を時々刻々コックピットのようにビジュアル

に表示することで、タイムリーに関係者間で共有される。

このようなアプローチを実施することによって、IT投資

は促進できると考える。いいかえれば、IT投資マネジ

メントは、IT投資を抑制するのでなく促進するのだ、と

いうことが理解されるであろう。

改善率%�

利益率%�

10

20

15

10

5

0

-5

-10

0 20 30 40 50

受注件数�

障害件数�

改善効果�

図5 品質改善とコストの関係

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[参考文献]*Kaplan, R. S. and David P. Norton, The Balancedscorecard: Translating Strategy into *Action, Harvard Business School Press, 1996.(吉川 武男訳『バランススコアカード~新しい経営指標による企業変革~』生産性出版,1997年.)

*Kaplan, R. S. and R. Cooper, Cost & Effect: UsingIntegrated Cost Systems to Drive *Profitability and Performance, Harvard Business SchoolPress, 1998(櫻井通晴訳『コスト戦略と業績管理の統合システム』,ダイヤモンド社,1998年)

*松島 桂樹 「リエンジニアリング゙におけるABCの有効性」『企業会計』1995年10月号.*松島 桂樹『インターネット/イントラネット時代のモノ作り経営』中央経済社、1997年*松島桂樹『戦略的IT投資マネジメント-情報システム投資の経済性評価』白桃書房,1999年.

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日本ユニシスの提供する統合ABC/ABMシステム

福田 英明

日本ユニシス株式会社アドバンストコンサルティング部 シニアコンサルタント

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日本ユニシスは、お客様にABC/ABMコンサルティン

グ・サービスを提供する際、ABCソフトウェア・パッケー

ジでは世界No.1の販売シェアを持つABC Technologies

社製の「Oros」を推奨している。

Orosは1980年代にアメリカで、ABCの誕生と同時に

開発され、55カ国、6,000社、16,000ライセンスの導入

実績を持つ。日本はアメリカに比べれば、まだまだ

ABCの普及は遅れているが、最近、金融機関、流通業、

公共機関など、業種を問わずOrosに関する問い合わせ

が増えており、日本でのABC/ABMのマーケットが急

速に拡大している。

ABCソフトウェアの分類

現在、市販されているABCソフトウェアは大きく次

の二つに分類される。

(1)PC上で単独稼働するABCパッケージ

(2)ERPに組み込まれたABCシステム

PC上で稼働するABCパッケージは、サーバ上のERP

システムから財務会計情報などを取り込み、そのERP

システムとは一歩離れた世界でABCモデルを構築する。

ABC/ABMを初めて導入する企業にとっては不安定

要素も多く、経費項目、活動(アクティビティ)、あるい

は原価計算の対象となる商品/顧客などを手軽に変更し

ながら、ABCモデルを構築する必要がある。そのため

には図1のPC上で単独稼働するパッケージを使用する

方が良い。また、図2のABCシステムと比較し短期間

かつ低コストで導入できるメリットを持っている。さら

に、会社全体ではなく、まず部分的にABCを導入し、

プロセス改善に役立てたいという企業にとっても図1の

パッケージの方が向いている。

ABC/ABMを全社的に定着させるためには、やはり

ERPなどの基幹システムに組み込むことが理想的であ

ろう。

Orosの機能概要

OrosはWindows 95、98上で稼働するPC版ABCパッ

ケージであり、図1に分類される。

Orosは次の図3に示すように、Oros ABCPlusを中心

として、いくつかのモジュールからなる。

(1)Oros ABCPlusは、ABCモデルを構築し、原価を算

出するエンジンとなるものである。Excelシート上の

データを直接取り込んだり、Excelシート上に直接

データを出力する機能も持っている。

(2)Oros Links EngineはOracleなどの外部データベー

スからデータを取り込むためのモジュールである。こ

れを使用すれば、ERPシステム上のデータを直接

サーバ� PC

ERP�システム�

ABC�パッケージ�

図1 PC上で単独稼働するABCパッケージ

ABC

ERPシステム�

サーバ�

その他�原価計算�

人事管理�一般会計�

図2 ERPに組み込まれたABCシステム

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Oros�Designer

Oros�Rule

Oros�Report

Oros�ABC Plus

Oros�ABC View

Oros�Strategy

Oros�Links EngineRDB

Oros�Automation

Excel

Oros�Connect

Oros�Survey

Oros�Budget

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

1月� 2月� 3月� 4月�

図3 Orosの構成

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

1月� 2月� 3月� 4月�

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

1月� 2月� 3月� 4月�

損益計算書�貸借対照表�

キャッシュフロー計算書�納税申告書�IR情報�

Oros�Designer

Oros�ABCPlus

Oros�Links�Engine

総勘定元帳�

ERPパッケージ�または�

既存システム�

ドライバ情報�業務改善目的�

�プロセスコスト�

:�

意思決定目的��

顧客別原価情報�商品別原価情報�

:�

図4 OrosとERPとの連動

Orosに取り込むことが可能になる。

(3)Oros DesignerはABCモデルのデータを分析する

OLAPツールである。ドリルダウンや多次元分析、

グラフ出力などが可能となる。

この三つのモジュールを組み合わせれば、図4のよう

なフレームワークが構築でき、ERPシステムから一般

の会計帳票に限らず、経営の意思決定あるいは業務改善

のために必要な幅広い情報を得ることが可能になる。

Orosを使用したABCモデルの構築

では、Oros ABCPlusを使用して、図5に示す薬品卸

会社のABCモデルをOrosで構築する例を示す。

このモデルは原価計算対象(コスト・オブジェクト)を

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顧客とし、顧客ごとのコストの計算および採算性の分析

を目的とする。

(1)リソースからアクティビティへのコストの割り当て

まず、一般会計システムの総勘定元帳データであるリ

ソースを、リソース・ドライバを使用して、各アクティ

ビティ(活動)に割り当てる。使用するドライバは費目に

より異なる。例えば、人件費は、各従業員が各活動に費

やした作業時間数により、倉庫等の減価償却費は各活動

に使用しているその倉庫の面積により割り当てる。

画面1は、構内部門の人件費をアクティビティに割り

当てる例を示す。構内部門の要員は四つの活動(「検品」、

「保管場所へ置く」、「在庫調整」、「整理整頓」)を行い、

それぞれに費やした時間は330、2,200、200、500時間

である。Orosはその作業時間数に従って構内部門の人

件費をこれら四つのアクティビティへ割り当てる。

他のリソースも、同様にして作業時間数あるいは占有

面積などをドライバとして、アクティビティへ割り当て

る。

(2)アクティビティからコスト・オブジェクトへの

コストの割り当て

アクティビティへ割り当てられたコストは次にコス

ト・オブジェクトである顧客へ割り当てる。

画面2では、配送コストを各顧客に対する商品の売上

個数をドライバとして割り当てている(各顧客に対する

売上個数は右画面のドライバ量の列に示されている)。

同様にして、他のアクティビティのコストも伝票枚数な

リソース�

作業時間�占有面積�

リソース�ドライバ�

輸送部門�人件費�車両費�施設費�事務費�減価償却費�支払輸送費�

構内部門�人件費�車両費�施設費�事務費�減価償却費�

受発注部門�人件費�車両費�施設費�事務費�減価償却費�

管理部門�人件費�施設費�事務費�減価償却費�

アクティビティ�

売上個数�配送回数�伝票枚数�

アクティビティ�ドライバ�

入庫業務�検品�保管場所へ置く�

保管業務�在庫調整�整理整頓�

出庫・納品業務�ピッキング�検品�積込�配送�

受注業務�電話受注�セールス受注�オンライン受注�

発注業務�電話発注�オンライン発注�

売掛回収業務�請求�集金�

買掛支払業務�請求�支払�

コスト・オブジェクト�

一般開業医�A国立病院�B外科医院�C大学病院�D内科病院�E市民病院�

図5 薬品卸会社のABCモデル

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どのドライバにより各顧客に割り当てられる。最終的に

計算された顧客ごとの総コストはコストの列に示されて

いる。

Orosは、以上のようにして構築したABCモデルを使

用して、OLAP(多次元分析)ツールと連動し、グラフィ

(3)結果の分析

カルに分析結果をレポートする機能を備えている。

図6および図7に、顧客別活動別コストおよび顧客別

収益性分析の例を示す。

図6により、顧客別に何のコストがいくらかかってい

るかが明らかになり、図7により各顧客の収益性が明ら

かになる。

画面1 Oros画面(リソース)

画面2 Oros画面(アクティビティ)

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以上Orosの紹介をしたが、最近は日本製のABCパッ

ケージも販売され始めている。日本ユニシスは、他ソフ

トベンダーの動向もウォッチしながら、常に最適なツー

ルを活用してお客様にコンサルティング・サービスを提

供していきたいと考えている。

120,000

100,000

80,000

一般開業医�A国立病院�B外科医院�C大学病院�D内科病院�E市民病院�F大学病院� G医院�

60,000

40,000

20,000

0

(千円)�

入庫業務�

Legend

保管業務�出庫納品業務�受注業務�発注業務�売掛業務�買掛業務�

図6 顧客別活動別コスト

240,000(千円)�

200,000

一般開業医�A国立病院�B外科医院�C大学病院�D内科病院�E市民病院�F大学病院� G医院�

160,000

120,000

80,000

40,000

0

コスト�

Legend

売上�

図7 顧客別収益性分析

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ABC/ABM分野No.1を目指す日本ユニシスのコンサルティング・サービス

日本ユニシス株式会社アドバンストコンサルティング部 主席コンサルタント

吉岡 正

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企業内において経営者、業務担当者、情報システム部

門それぞれが現在直面している大きな問題の一つは、自

社の業務内容が全体としてよく見えない…どのような業

務が行われているのか、その中でどこにコストがかかっ

ているのか分からない…ということではないだろうか。

その結果、業務に問題があるのは分かっているのだが、

どこから手をつければよいのか、業務を変更した時にどの

ような効果があるのか分からず、結果として改善への着手

が遅れてしまう。業務の内容とそのコストを分かる、知る

ためには、ABM(活動基準管理)というアプローチがある。

もう一つの問題は、販売している商品ごとにどれだけ

コストがかかっているか、あるいはお客様ごとに、どれ

だけコストがかかっているかわからない。そのため、ど

ABCとABM の商品に力を入れたらいいのか、どのお客様により良い

サービスをすればいいのかなどの計画が立てられないこ

とになる。商品やお客様(これを原価計算対象:コスト・

オブジェクトと呼ぶ)別のコストを知るためには、

ABC(活動基準原価計算)というアプローチがある。

このABCとABMの考え方をもとにして原価低減・業

務プロセス改善に関わる、さまざまな問題を解決してい

くことになる。

ABC/ABMの概念そのものは最近一般的になってき

ており、さまざまな場面で適用されつつあるが、その中

でも業務プロセスと活動の把握・分析は中心的な課題で

ある。ここでは、日本ユニシスの考える活動の分析とコ

ストの捉え方、ABMとしての業務改善のアプローチを

述べる。さらにトータル・コスト・マネジメントとして

のABC/ABMとTCO(Total Cost of Ownership)、お

活動�

外部要素�

情報の流れ�

商品の流れ�

仕入先� お客様�

お客様�

0.�物流プロセス�

レベル0

仕入商品� 配送商品�

詳細化�(レベル1)�

発注� 発注指示�

配送指示�

注文�

ASNASN入荷商品� 引当済商品�

引当済受注�

配送商品�

出庫商品�棚入商品�

棚入結果�

棚入指示�

在庫商品�

1.�受注�

2.�出荷�

3.�配送�

4.�在庫�

5.�発注�

6.�入荷�

7.�棚入�

入荷商品�

ピッキング・リスト�

検品後商品�

仕入先�

倉庫�

図1 活動モデルとプロセスの詳細化

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よび今後の方向性としてBSC(バランスト・スコアカード

:Balanced Scorecard)について述べる。

活動の分析

ABCとABMは本質的に異なるのかという議論がある。

ABCは原価算定でABMは業務改善という目的を明確に

持てば、それぞれのアプローチやモデルは若干異なるが、

業務プロセス…活動の分析は共通していると考える。

これまでの一般的な業務分析では、組織を横断した一

連の仕事のまとまりである「業務プロセス」という捉え

方をしてきた。そこでは業務機能を中心として全体の効

率性・一貫性・整合性などを追求してきた。

仕事を見える形にするために、DFD(データフロー・

ダイアグラム:仕事の流れの表現方法)で分析を行い、

活動モデルを作成する。DFDは「活動(機能)」、「入力」、

「出力」で仕事を表し、段階的に詳細化していく。 (図1)

活動とは局所的な仕事の単位であり、プロセスは複数

の活動から構成される一連の仕事の単位である。プロセ

ス-サブプロセスの階層構造もある。「物流プロセス」

のように大きく捉えた場合には、「受注」はサブプロセ

スとして捉える。「受注」を詳細化した「電話で注文を受

ける」などが活動となる。

このように、プロセスをレベルに分けて段階的に詳細

化していく。最上位のレベル0では、インプットとアウ

トプットによりプロセスの範囲が規定される。さらにレ

ベル1・レベル2…と詳細化される。1レベルの詳細化で

は5~9程度の活動に分かれる。通常、レベル1は業務の

本来の機能(業務体系)を表し、レベル2以降は業務の手

続きと仕組みを表す。一般的に、レベル2まで分析すれ

ば仕事の大枠を捉えることができる。

コストの把握と業務プロセス

ABC/ABMでは、活動に対して「コスト」という切り

口を付加し、どの活動にどれだけのコストがかかってい

るかをおさえる。

ABCでは原価計算対象(コスト・オブジェクト)を設定

(図2の例では「お客様」)して、そのコストを求める。

活動コストでは、ある活動全体のコスト(ex.「出荷」全

体で390万円)と1回あたりの処理コスト:単位コスト

(ex.「出荷」1回当り1,300円)が求められる。単位コストは、

「結果としてこれだけかかったコスト」というものから、

「1回処理するのにこれだけかかるコスト…標準単位コ

人�

(人件費etc)�

建物�

(減価償却費etc)

システム�

(リース料etc)

リソース・ドライバ�

<物流プロセス>� アクティビティ・

ドライバ�

(原価計算対象)

250万円�

お客様B

お客様A

180万円�

出荷�

@1300円�

@800円� @1200円�@3600円�

受注�

在庫�

配送�

図2 業務プロセスとコスト

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スト」という形に視点を移していくことができる。標準

単位コストは、1件の処理にこれだけ時間がかかるとい

う「標準処理時間」と関連を持つ。

次は、この標準単位コスト(標準処理時間)をいかにし

て下げることができるかという業務改善につながる。ま

た各活動の時間を分析する中で、個々人の仕事の仕方…

時間の使い方…も見えてくる。 (図3)

ABMでは、活動に対して原価作用因(コスト・ドライ

バ)…活動を左右する要因…を設定し、この実績値を分

析することにより業務改善につなげる。

分析から改善へ

活動の分析で作られた活動モデルをもとに業務の改善

を行う。業務の改善では主として①コスト情報をもとに

原価低減を目指す(VA:付加価値活動、NVA:非付加

価値活動、原価作用因:コスト・ドライバ)、②顧客から

見た価値を中心にプロセス改善を行う(VE:バリュー・

エンジニアリング)、③情報を中心にプロセスの一貫性・

効率性を追求する(システム・エンジニアリング、E-R

モデル)の三つの観点が必要になる。改善結果は原価作

用因をもとにした業績評価指標や、活動コストの削減度

合いにより評価する。

詳細な説明は省略するが、活動を分析してコスト(時

間)をおさえた上で、主としてお客様の観点で設定され

た期待効果に基づき、詳細レベルの活動の付加価値・非

付加価値を判断しながらプロセスの改善を行う。問題点

の解決や期待効果/評価尺度を達成するためには仕事

20%�

12%�

28%�

23%�

17%�

会議、ミーティング�

移動�

顧客訪問�

事務作業�

その他�

個々の活動にどれだけ時間が�かかっているか� → どれだけコストがかかっているか�

図3 営業の仕事と活動分析

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(活動)の流れが変わる場合があるので、プロセス全体の

フローをおさえることが必要である。さらに、プロセス

全体の一貫性・効率化を図るためには、情報を中心とし

た捉え方が必要になる。

図4では、「注文」が情報(エンティティ)の例であるが、

これはE-Rモデル(Entity Relationship モデル)として

分析される。ABMプロジェクトに続けて、図6にある

ようにE-Rモデルを中心としたシステム化計画を行う

ABCの目的の設定�

モデルのデザイン�

モデルの構築�

データの投入と計算�

結果の評価・分析�

・原価計算(製品、商品、顧客…) → 意思決定�・間接費の状況把握�

・プロセスの分析と活動の設定�・コスト・オブジェクト、リソースの設定�・パスとドライバの設定�

・ツールによるモデルの構築〔注〕� リソース、活動、コスト・オブジェクト� リソース・ドライバ、活動ドライバ、パス�

・リソース(経理データ)…期間、負担部署などの考慮�・リソース・ドライバ量、活動ドライバ量�

・コスト・オブジェクトの原価、単価(単価あたり原価)� とコスト構造�・活動別の原価、単価(単位あたり原価)とコスト構造�

図5 ABCプロジェクトの実施ステップ

達成されているか� <期待効果/評価尺度>�実現すべきことは�

・時間(60分)以内に�・間違いなく�

配送指示�

配送指示�

商品�

商品�

3.�商品を届ける(配送)

注文:エンティティ(実体)

3.5�サインをもらう�

3.4�商品を下ろす�

3.3�商品を運ぶ�

3.2�商品を積み込む�

3.1�商品を確認する�

2分:40円�15分:300円�

30分:600円�

9分:180円�

1分:20円�

サイン済受領票�受領票�

原価作用因:配送時間�

お客様�

注文�

57分:1,140円�

図4 活動モデルと業務改善

〔注〕ABCツールとしては、別稿で紹介しているような「Oros」などのソフトウェアがある。ABCツールには、モデルのデザインで設定されたリソース、活動、コスト・オブジェクト、リソース・ドライバ、活動ドライバ、パス(リソース→活動、活動→コスト・オブジェクト)を入力し、さらにリソース・データ、リソース・ドライバ量、活動ドライバ量を入力して計算すると、活動コストとコスト・オブジェクト・コストなどが求められる。

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ことにより、情報システムの範囲の設定および設計へと

移っていく。

プロセスを見直す場合には、以下のポイントで行う。

①非付加価値業務(不必要な業務)は廃止する

②共通に行える業務は集約する

③重複している業務は一本化する

④専門性の高い業務は集中化して効率化を図る

⑤自動化できるものはシステムにまかせる

このような処理の見直しは仕事の流れの変更を伴うこ

とが多いので、活動モデルをもとにプロセス全体をおさ

えておくことが必要である。これ以外にも、さまざまな

問題点の解決や課題の実現を目指すことが必要になる

が、ABC/ABM分析によってそれらを具体的なコスト

という形で把握することが可能になる。

ABC/ABMコンサルティングについて

ABC/ABMプロジェクトを進める上で大事なことは、

目的を明確にすることである。主な目的として

①製品・サービス・顧客などのコストを知り、いろいろ

な意思決定に役立てる(ABCプロジェクト)

②業務のコストを知ることを通して業務改善・改革を行

う(ABMプロジェクト)

の二つがある。この二つの組み合わせで、次のような

ケースが考えられる。

・コスト把握:ABCプロジェクト

・業務変革:ABMプロジェクト

・コスト把握+業務変革:ABCプロジェクト+ABMプ

ロジェクト

ABMの目的の設定�

モデルのデザイン�

モデルの構築�

データの投入と計算�

結果の評価�

業務改善�

システム化計画�

設計/構築�

・業務改善、原価低減�

・プロセスの分析と活動の設定�・原価作用因(コストドライバ)の設定�・リソースの設定、パスとドライバの設定�

・ツールによるモデルの構築〔注〕�  リソース、活動、�  リソースドライバ、パス�

・リソース(経理データ)…期間、負担部署などの考慮�・リソース・ドライバ量、原価作用因量�

・原価作用因あたりの単価�・活動別の原価、単価(単位あたりの原価)

・コスト低減�・付加価値活動、非付加価値活動�・活動機能の期待効果と問題の解決�

<情報システム構築>�・BOIM法� (Business Oriented Information Modeling)� E-Rモデル(Entity Relationshipモデル)� により情報の観点を付加する。�

図6 ABMプロジェクトの実施ステップ

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ABMプロジェクトでは、どのコストを対象に分析を

行うかを考える。人件費(通常はこれがコスト全体の6~

7割を占める)を中心にして人の関係するプロセスの改善

を行うケース、人件費以外の管理可能費も含めた活動コ

ストを捉えて改善を考えるケースがある。

後者の場合は、例えば情報処理費に関連して情報シス

テムを、機器のリース料や減価償却費に関連して情報基

盤を検討するなど、対象とするビジネス分野全体の改善

に結びつけていく。情報基盤や運用に関連するコスト・

マネジメントとしては、後述するようにTCO(Total

Cost of Ownership)のアプローチを取り入れ、トータ

ル・コスト・マネジメントを実現することが必要になる。

ABCプロジェクト、ABMプロジェクトとも期間は3カ

月前後である。ABC+ABMのプロジェクトの場合は、

業務分析が重複しないため4~5カ月程度になる。

プロジェクトの実施体制は一般的に図7のようになる。

ABC/ABMプロジェクトは、トップダウンで進める

必要がある。ステアリング・コミッティは経営層で構成

され、全体の方向性を決める。また、結果の報告を受け

てこれを評価する。プロジェクト・メンバーは、

ABC/ABMプロジェクトが対象とする業務に関連する

部門のキーマンで構成される。

プロジェクトは、毎週2日程度のワークショップ(全員

で検討・討議していく)により進めていく。ワークショッ

プでは日本ユニシスが各回ごとに考え方・進め方の説明

を行い、全員で検討・討議する。各ワークショップの間

は各人が割り振られた調査・検討を行い、次回のワークシ

ョップでまとめていく。この過程で身につけた分析方法

は、新しいプロセスを分析する際に役に立つはずである。

トータルコスト・マネジメント:ABC/ABMとTCO

これまでは、主として製品やサービスなどの原価計算

を目的とするABCと、業務改善を目的とするABMを見

てきた。最近はIT化が非常な勢いで進展しており、そ

こでは情報基盤に関連するコストが大きな問題となって

きている。TCOでは、情報基盤に関して人件費を中心

とした管理・運用コストを分析する。目に見えないコス

ト・隠れたコストであるエンドユーザ運用コストを捉え、

業務プロセスを支える情報基盤を確立することも重要な

コスト・マネジメントの分野である。 (図8)(図9)

お客様体制�

コンサルティング�サービス�

日本ユニシス体制�

コンサルティング・リーダー�

コンサルタント�

ステアリング・コミッティ�

プロジェクト・リーダ�

事務局�

プロジェクト・メンバー�

××部門�

○○部門�

△△部門�

図7 プロジェクトの実施体制

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平均� ビジネス系� IT技術系� バックオフィス系� 管理職� その他�0.3�21.4�1.0�2.0�5.2�8.0�4.5�1.3�9.2�2.1�0.6

電話サポート�自宅作業�PC障害�サーバ等の障害�ピア・サポート�Futz�自主学習�正規研修�EUD�PC管理�サーバ管理�

0.4�30.4�1.3�1.6�3.5�7.0�2.6�0.0�1.2�1.3�0.6

0.1�23.4�1.0�2.4�4.3�7.1�3.9�2.1�14.9�1.7�0.8

0.2�0.2�1.8�1.4�12.3�8.8�10.5�0.0�1.7�1.3�0.7

0.1�22.2�0.2�1.2�2.9�10.0�5.5�1.2�4.6�7.1�0.1

8.0�0.0�0.0�0.0�16.0�25.0�0.0�0.0�0.0�0.0�0.0

0

10

20

40

30

50

60

70

どの活動にコストが�かかっているか�

図9 職務別エンドユーザ運用コスト例(単位:時間/月)

ABM

活動コスト�

業務改善�

TCO

運用コスト�

情報基盤�

ABC

製品コスト�

顧客コスト�

業務�

IT

コスト/活動�

図8 トータル・コスト・マネジメント

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ABC/ABMはコストの把握による製品戦略・顧客戦

略などへの適用、業務のムダや高コスト活動の把握によ

る業務プロセスの改善等に非常に有効である。もちろん

業務プロセスとは企業の目的を達成するためにあり、顧

客との関連を持っており、その中で人が働いている。

このように考えた時、ビジネス全体の視点で捉えた

BSC(バランスト・スコアカード:Balanced Scorecard)

がある。BSCの基本コンセプトは、1992年のハーバード・

ビジネス・レビュー誌に掲載されたキャプランとノー

トンの論文により公表された。それ以降、欧米では多く

の企業で取り入れられてきた。

これは図10にあるように経営戦略を中心として、ビ

ジネスを財務・社内ビジネス・プロセス・顧客・従業員(学

習と成長)の四つの視点で捉えようというものである。

BSCは、財務、社内ビジネス・プロセス、顧客、従業

員(学習と成長)の四つの視点それぞれに業績評価指標を

設定して戦略の達成を管理する業績評価システムとして

・ABM�

・SFA�

・SCM�

・TCO�

・CTI�

・アウトソーシング�

・ABC�

・CRM�

・ECR�

・DCM

・KM�

・業績評価�

・MBO

顧客�の視点�

財務�の視点�

ビジョンと�戦略�

学習と成長�の視点�

社内ビジネス�プロセスと視点�

図10 BSCの4つの視点と関連キーワード

今後の方向性としてのBSC(バランスト・スコアカード:

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の機能や、オペレーショナル・コントロールの手段、経

営戦略策定~戦略展開のための戦略的マネジメント・シ

ステムなどの性格を持っている。

また、図10では、改革のための手法を各視点にマッ

ピングしてある。このようにBSCは、さまざまな形で活

用することが可能であるが、ABC/ABMがコストとい

う観点で業務を定量化して捉えたように、ビジョン・戦

略に結びついた業績評価指標を通してビジネスを定量的

に捉えるところに特徴がある。

ABC/ABMを含んだ、より大きい概念としてのBSC

が今後の方向性になると考えられる。

2年前に比べると、最近はABC/ABMの適用例が増

えてきている。金融業での顧客別収益管理や、物流業で

の顧客別・商品別コストの把握と物流改善、また管理間

接業務の業務改善などへの適用ニーズも多い。ネット

ワークを中心とした情報基盤に関する管理・運用コスト

も大きな問題であり、従来から取り組んできたが、今後

もトータル・コスト・マネジメントとして、そのニーズ

は増えていくであろう。

さらに、ABC/ABMを包含した今後の方向性である

バランスト・スコアカードも重要な分野であり、多くの

企業で取り入れられていくと考えられるが、これらに対

して日本ユニシスとしても積極的に取り組んでいくつも

りである。