腐食センターニュース no. 045 年 月 日 · ... “the corrosion and oxidation of...

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腐食センターニュース No. 045 2008 5 1 20 ガルバニックセル 一つの金属が単独で使われている場合に通常経験される腐食速度―それをはるかに超えるよう な腐食が,卑な(活性な) 金属と貴な(不活性な) 金属との接触によりひき起こされる.この異種金 属接触腐食という腐食形態は,複数の金属の組合わせ使用が避けられない機能性上の要求が強い だけ,わが防食技術に難しい課題を負わせる. Evans 先生の話 1 は,1918 年の実験 2 にはじまる.この結果の解釈をすでに実測されていた 標準電極電位 o E に拠る試みは Al において味噌をつけてしまう(Q1).かなりの年数を要しての ことであるが,代って役目をうけもった海水中腐食電位は一定の成功をおさめるが, quarter-volt criterion 1 など細部での指標は誤信とされる(Q2).電気化学的議論を避けてのファクトベース 一覧表(SL 1)は健全な方向であるが,同時にこの現象のやっかいさを象徴している. Catchment Area という概念は普通鋼の中性水環境での腐食―溶存酸素の還元を内容とするカ ソード反応に支配される―をよく反映するもので,小面積アノード/大面積カソードの組合わせ の危険性を強調する intensity (孔あきを決めるアノード電流密度)増大の観点につながる(Q3). と共に全腐食量の増大という観点も指摘される.さらにアノードとカソードとが分離され両者間 を短絡する回路を流れるガルバニック電流 G I Q4)もまもなく無抵抗電流計で実測されはじめ る(Appendix for Q2). 直接的接触がないにもかかわらず同様の形態が具現する事例― ZnCu (Q5)AlCu (Q6)および,Al 合金の船舶への適用にかかわる本課題の克服(SL 2SL 3)にも,英国の先達による 開拓の歴史を学ぶことができる. なお, Al と並んで重要な Mg については近年でのまとめを別に 2 詳しく記載しているので本稿 では割愛した. 1 U. R. EVANS : THE CORROSION AND OXIDATION OF METALS SCIENTIFIC PRINCIPLES AND PRACTICAL APPLICATIONS”, EDWARD ARNOLD LTD., p. 188207 (1960). 1 quarter-volt 1/4すなわち 0.252 () 腐食防食協会編:腐食・防食ハンドブック,CD-ROM 版,丸善(2000).

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腐食センターニュース No. 045 2008 年 5 月 1 日

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ガルバニックセル 一つの金属が単独で使われている場合に通常経験される腐食速度―それをはるかに超えるよう

な腐食が,卑な(活性な) 金属と貴な(不活性な) 金属との接触によりひき起こされる.この異種金

属接触腐食という腐食形態は,複数の金属の組合わせ使用が避けられない機能性上の要求が強い

だけ,わが防食技術に難しい課題を負わせる.

Evans 先生の話 1)は,1918 年の実験 2)にはじまる.この結果の解釈をすでに実測されていた

標準電極電位 oE に拠る試みは Al において味噌をつけてしまう(Q1).かなりの年数を要しての

ことであるが,代って役目をうけもった海水中腐食電位は一定の成功をおさめるが,quarter-volt

criterion*1 など細部での指標は誤信とされる(Q2).電気化学的議論を避けてのファクトベース

一覧表(SL 1)は健全な方向であるが,同時にこの現象のやっかいさを象徴している.

Catchment Area という概念は普通鋼の中性水環境での腐食―溶存酸素の還元を内容とするカ

ソード反応に支配される―をよく反映するもので,小面積アノード/大面積カソードの組合わせ

の危険性を強調する intensity(孔あきを決めるアノード電流密度)増大の観点につながる(Q3).

と共に全腐食量の増大という観点も指摘される.さらにアノードとカソードとが分離され両者間

を短絡する回路を流れるガルバニック電流 GI (Q4)もまもなく無抵抗電流計で実測されはじめ

る(Appendix for Q2).

直接的接触がないにもかかわらず同様の形態が具現する事例― Zn/Cu (Q5),Al/Cu (Q6),

および,Al 合金の船舶への適用にかかわる本課題の克服(SL 2,SL 3)にも,英国の先達による

開拓の歴史を学ぶことができる.

なお,Al と並んで重要な Mg については近年でのまとめを別に*2 詳しく記載しているので本稿

では割愛した. 1)U. R. EVANS : “THE CORROSION AND OXIDATION OF METALS:SCIENTIFIC

PRINCIPLES AND PRACTICAL APPLICATIONS”, EDWARD ARNOLD LTD., p. 188~207 (1960).

*1 quarter-volt は 1/4V すなわち 0.25V *2 (社) 腐食防食協会編:腐食・防食ハンドブック,CD-ROM 版,丸善(2000).

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Q 1. 鉄と異種金属 X との組合せによる腐食

減量 WΔ *1を 1%NaCl 水溶液中で測定した

Bauer & Vogel のデータが 1918 年に公表 2)

された.これを標準電極電位 oE *2に対して図

1 のように整理した.図から以下の事項がよ

みとれる: a)X = Mg, Zn, Cd と組合せた Fe の WΔ (+印) は著しく小さく,X のそれらは大きい.こ

のとき Mg と Zn の oE は Fe のそれより低

い,ただし,Cd の oE は Fe のそれよりむし

ろやや高く, oE が Mg と Zn の中間に在る

Al の挙動は異様にみえる. b)X = Ni, Sn, Pb, W, Sb, Cu と組合せた Fe の

WΔ (+印)は大きく,X のそれら(〇印)は a)の値よりは小さい.このとき X の oE は Feのそれより高い.

以上のように, a) oE の低いMg・Znが 高いFeの腐食を抑制し,

b) oE の低い Fe が 高い Ni・Cu の腐食を抑制する,という事実を Al と Zn との 関係にあてはめると, oE の低い Al は oE の高い Zn の腐食を抑制すると推定される.

A: Evans は逆であるとのべ,Akimow の論文 3)を引用した.すなわち海水中に置いた全長 4m

のジュラルミン棒はその一端に接触された Zn によって防食され,電位の測定結果も Zn がアノー

ドとして機能することを示した.

上記の「Zn がアノード…」という記述は,海水中での電位が Al 合金(ジュラルミン)に比較

して Zn がより低いことを意味しており,標準電極電位での高低関係, oE (Al/Al3+)< oE (Zn/Zn2+),の逆である.この不一致は oE が測定される環境を考え直すとおかしいことではない.す

なわち, oE は M/MZ+(活量 1)-の平衡電位であって,金属 M が接している環境は活量 1-を仮

定できる 1mol/L 濃度-の金属イオン MZ+ が溶解している水溶液であって,Bauer・Vogel の試験

液(1%NaCl)および上記海水とも全く異なる. [A: oE の高低関係は少なくとも Al と Zn において,実環境中電位に適用できない]

2)O. Bauer and O. Vogel:Mitt. Mat. Prűf. Amt. Berl., 36, 114 (1918). 3)G. W. Akimow:Korros. Metallsch., 6, 84 (1930). *1 WΔ は mg 単位で示されている.試験時間ほかの条件は不明である. *2 oE (V vs. SHE) は 0. 34 (Cu/Cu2+),-0. 26 (Ni/Ni2+),-0. 136 (Sn/Sn2+),-0. 126 (Pb/Pb2+),

-0. 119 (W/WO2),0. 212 (Sb/SbO+),-1. 68 (Al/Al3+),-0. 40 (Cd/Cd2+),-0. 76 (Zn/Zn2+),-2. 66 (Mg/Mg2+),また-0. 44 (Fe/Fe2+),である.

図 1.Bauer & Vogel の Fe-X 対の腐食量 WΔ の

標準電極電位 oE による整理

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Q 2. 海水という実環境において C(炭素)および金属類が示す電位(腐食電位 Ecorr)が測定

されている 4).図 2 では縦軸・横軸のいずれにもこの電位を目盛り,それぞれの材料が示す Ecorrの目盛位置にその材料名を記入した.縦軸・横軸に並べた材料をそれぞれ M1・M2 という.

M1 と M2 との接触を(M1,M2)で表して,(Fe, Cu)の座標に(7, 3, 1)と書くとき,この

7, 3, 1 は M1=Fe (普通鋼)と M2=Cu とを面積比 S1/S2=0.1, 1, 10 の条件で接触させたとき

M1=Fe の腐食速度が単独時の腐食速度のそれぞれ 7, 3, 1 倍に加速されることを表す.このこ

とは(Cu, Fe)の座標に(1, 3 , 7 )と記入されていることと同内容である.これらの加速率デ

ータは文献5)6)によった. a)M1 上でのアノード,カソード電流密度を A1i , C1i ;M2 上でのそれらを A2i , C2i ; とし,

C1i = C2i = C0i (一定), A2i =0 を仮定すると,S1/S2=0.1, 1, 10 の条件で接触させた場合の

加速率はそれぞれ約(10,2,1)となることを示せ. b)(Al, Al),(Fe, Fe),… のように同じ材料どうしの座標には「1」が記入されている.これらを

結ぶ右上がり 45°の破線上で両材料間の電位差がゼロである.この破線から上下,左右に

0. 25V ずらして引いた 2 本の実線の間にある二材料の接触によっては危険な腐食は起らな

いとしてよいか.

図 2. 異種金属 M1 と M2 とが面積比 S1/ S2=0.1, 1, 10 で接触した場合の自然海水(流速 1 m/s)

中 腐食の加速率* とそれぞれの単独時腐食電位(流速 2.4~4.0 m/s,温度 10~27℃,の 海水中,中央値)との関係. *接触時腐食速度/単独時腐食速度,たとえば( u , v , w )の u , v , w は面積比 M1/M2= 0.1, 1, 10

にそれぞれ対応する値, v または v のみで表すときは面積比 1 での値.また u , v , w で表した u , v ,または w は M1 の, u , v または w で表した u , v ,または w は M2 の,加速率である.

4)F. L. LaQue:”Marine Corrosion, Causes and Prevention”, John Wiley & Sons, p. 197 (1975). 5)(社)腐食防食協会編:“腐食・防食ハンドブック,丸善,p. 175 (2000). 6)I. R. Scholes, D. J. Astlry, J. C. Rowlands:”Bimetallic Corrosion in Seawater”, Her Majesty’s

Stationery Office, London, p. 161 (1977);川本輝明:防食技術,33,478(1984).

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A: M1 から海水中へ流出する電流 1C1A1 )( Sii ⋅− と M2 へ流入する電流 2C2 Si ⋅ とを等しいとお

くと, )/( 12C2C1A1 SSiii ⋅+= ,これを単独時の腐食速度 C0C1A1 iii == oo で除して 加速率 12A1A1 /1/ SSii +=o

21 / SS = 0.1, 1, 10 に対応して上式 = (11, 2, 1.1) となるので,おおよそ(10, 2, 1)としてよい.

この数字を頭に入れて図 2 を見ると, ・M2 = Ti と組合わせる M1 = Fe などでは(-, 2, 1)が少なくないが,M1=Al の(-, 30, 2)はと

くに 30 が大きい. ・ 21 / SS = 0.1 の条件での上記加速率 10 に比較して,M2=C と組合わせる M1=Fe では 10 と一

致しているのに対して,M1=Cu の 40 はやや大きく,M1=Al の 200 はかなり大きい. b)面積比 1 でみても(ニレジスト,Cu)で加速倍率 3,(Pb, Cu)で同 8 が電位差 0. 25V 以下

域に含まれる.これらのデータによっても,このような判断基準は実際に合わないことがわかる.

その上,これら電位は接触前の値に過ぎないので,接触後の腐食速度を決める電位—電流挙動を支

配する十分な能力は備えていないと考えざるをえない.“quarter-volt criterion” とよばれたこの

判断基準を Evans 1)は prevailing fallacies(流布されている誤信)としている.

Appendix for Q2 Pryor ら 7)は 25℃の 1N NaCl 中で,Znまたは Al と鋼 (Fe) との面積比を変えて

接触試験を 96h 実施した.金属材料はい

ずれも商用高純度組成で,接液面積は 2~100 cm2であり,背面を被覆して接液面ど

うしを 15 cm離して対向させた.鋼面積

CS は 100 cm2一定のまま Zn または Al の面積 AS を 2~100 cm2にふるときは Znま

たは Al の重量減少を, AS =100 cm2のま

ま CS を 100~2 cm2 にふるときは無抵抗

電流計による短絡電流を,測定した.これ

らの測定値を電流 AI ,または電流密度 ai に換算して面積または,面積比との関係と

して図 3 にまとめた. ・ ai は, CS / AS と比例的な関係にあり,

CS / AS の増大とともに増大する. ・ AI は, CS =100 cm2 と一定の条件域ではほぼ一定値を保ち, AS =100 cm2 一定の条件下 CS が

100 cm2からの減少とともに減少する.すなわち AI は CS に支配されており, AS には依存しな

い. Q2 の図 2 中にある海水中での単独時腐食速度に比べて AS / CS = 0.1, 1, 10 の接触条件下の腐食速

度が何倍になるかの数値は同じ図 2 中に記載されている. 7)M. J. Pryor and D. S. Keir:J. electrochem. Soc., 104, 269~275 (1957).

図 3.Zn-Fe,Al-Fe 対における,アノード(Zn, Al)

の腐食速度 IA,iaとアノード面積 SA/カソード(Fe) 面積 SCとの関係.

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Short Lecture 1 ファクト-ベース一覧表(抜粋) 電気化学的な議論にとらわれることなく,実際に経験された事実を集積する作業を重ねて一つの

表 8)が作られた.この表は,定量性はあえて求めず,接触により侵食が“加速”される危険がある

かという観点でまとめられた.過去の事実ではあっても,予見できない新しい使い方では修正が要

ることもあろうとし,訂正・補充を継続してゆくことにしている. この表を成書 9)から抜粋して表 1 に示した.加速腐食を危惧する金属(左列)と接触相手金属(上

一行)とも 16 群に分けられ,組合せごとに A:危惧なし,B:少しあり,C:著しくあり,D:湿

分のある環境では使わず,ゆるやかな条件下でも適切な防食措置をとる,の評価が記入されている.

またそれらに付く( )内の a,b,・・・,x は補足事項である.一例として,(a) 鋼(Fe)・鋳鉄・Mg合金や(純 Al で)クラッドしていない Al-Cu 合金を防食措置なく腐食性環境にさらすことは(接

触しない)単独時でも避けること,(r)大気中で鋼 (Fe) または Zn めっき鋼と接触するとき,Pbは狭いすきまで PbO を形成しつつ急速に腐食することがある,(v)同じ金属どうしの接合部にすき

ま腐食がおこり易いので適切な充填物をつめること.

表 1 金属(上一行 1~16)との接触による金属(左列 1~16)の腐食程度

Contact metal

Metal considered

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

1 Au,Pt, Rh, Ag Ni steel,cast iron

Cd Zn 13% Cr

2 Monel, Inconel Ni-Mo alloys

3

Cupronickels Ag-solder, Al-, Sn-, bronzes, gun metals

4 Cu, brasses ‘nickel silvers’

5 Ni C B A A ― A A A A A B or C

B or

C A B or C

B or C A

6 Pb, Sn, soft solders C B or

C(t) B or

C(g) B or

C(g) B ―A or

C(r) A A or C(r) A B or

CB or

CB or

C B or

C B or

C A

7 steel, cast iron (a)(f)(w) C C C C C(k) C(k) ― A(m) A(m)(l) A C C C C(k) C A

8 Cd (u) 9 Zn (u)

10 Mg, Mg alloys (chromated) (b)(a)

11 Fe-18Cr-8Ni 12 Fe-18Cr-2Ni 13 13% Cr C C C C B or C A A A A A C C (v) C C A 14 Cr 15 Ti

16 Al, Al alloys (n) (a) (w) (v)

8)“Corrosion and its Prevention at Bimetallic Contact”, H. M. S. O., London, (1958). 9)L. L. Shreir, R. A. Jarman, and G. T. Burnstein : “CORROSION”, vol. 1, 1 : 218~1 : 219,

BUTTERWORTH-HEINEMANN, (1994).

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Q 3. 図 4(1)は矩形の普通鋼が溶存酸素を含

む流水中に置かれていることを示す.鋼の接水

面積(広さを 1 とする)上では鉄(Fe)の溶出

反応(アノード反応,その速度を電流密度 a1i で

表す)と溶存酸素の還元反応(カソード反応,

その速度を電流密度 Ci で表す)とが進んでい

る.図 4(2)は鋼表面の 3/4 がめっきされた

Cu で覆われ,残りの 1/4 の表面でのみ鋼表面

が流水に露出していることを示す.鋼の露出面

でのアノード電流密度は a2i で表すが,カソード

電流密度は鋼上でも Cu 上でも等しく,かつ(1)とも等しい,と仮定する. a2i を a1i と比較せよ.

A: 電気的中性条件* 0CA =− II を要請する.これを表 2 にまとめた.(1)では 11 C1a1 ⋅=⋅ ii ,

したがって C1a1 ii = をうる.(2)では 1)4/1( Ca2 ⋅=⋅ ii から C1a2 4 ii = をうる. 本題は Whitman and Russell による古典的論文 11)によって明示

されたもので,同論文が発表され

て数年後に“ catchment area principle”とよばれるようになっ

たという.この catchment areaは溶存酸素を捕らえてカソード

反応を進行させる表面積で,カソ

ード面積 CS にほかならない.(1)では 1FeC == SS ,(2)では 14/34/1CuFeC =+=+= SSS ,で相等しいので全腐食速度 AI は変ら

ない.しかし,Cu 上ではアノード反応が起らないため,アノード面積 AS が 1/4 に減った Fe 上で

は 4)/( CACca2 ⋅=⋅= iSSii に増大した―この intensity の増大は孔あきには大きく影響する.こ

の(1), (2) にみるような中性水溶液中の鋼の腐食は Ci に支配されることが多く,カソード反応律速

ともよばれる.その極限的な例として,ステンレス鋼と接触した塗装鋼において,塗膜の微小な

ピンホール下の鋼アノードで驚くべき大きな速度での孔あきがおこった 12)―この場合の対策の一

つはステンレス鋼にも塗装を施して同鋼が catchment area として使われないようにすることで

ある.カソードであるステンレス鋼上の塗膜ではピンホールがあってもほとんど害にはならない. 10)ref. 1 の p. 193 11)W. G. Whitman and R.P. Russell:Industr. engng. Chem., 16, 276(1924). 12)(社)腐食防食協会編:金属の腐食・防食 Q&A,コロージョン 110 番,丸善,p.15 (1988). *1 アノード反応 Fe→Fe2++2e ① とカソード反応 0.5O2+H2O+2e→2OH- ②との合成としての 正味反応 Fe +0.5O2+H2O→Fe2++2OH- ③ が進む.①と②とを左辺・右辺ごとに和算してうる

③式において 2e が相殺される―①から②への 2e の授受が過不足なく行われる―こと.

図 4.10) (1) は裸の鉄を酸素を含む流水に浸し

ている,(2) はこの鉄表面の 3/4 の面積を銅で覆って同じ流水に浸している,ことを断面で示した模式図である.

表 2 図 4 への補足説明

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Q 4. 表 3 の模式図 0) では表面積 1 の鋼(Fe)試片のみを,同 1),2)では,0)と同じ鋼試

片に加えて同面積(1)または 2 倍(2)の Cu 試片を浸して,鋼と Cu 試片からの導線を外部

にて無抵抗電流計 A に接続している. 鋼および Cu 試片では同等のカソード電流密度 Ci が流れ,かつ Cu の溶出反応は起らないこ

とを仮定すると,表中に示したように,以下のようになることを確かめよ. ・鋼の腐食速度およびアノード電流密度の比は 0):1):2) = 1:2:3, ・電流計に流れる電流 Gi は 1)で Ci ・1, 2)で Ci ・2 .

表 3 二つの異種金属を外部回路で接続する(接触させる)

A: 前問でのように電気的中性条件 0CA =− II を使う. GI の観点では,アノード電流は金

属を出て水溶液へ入りカソード電流はその逆であることを前提に,例えば 1)では,Cu に入る Ci 一本を画き,Fe 上では 0)と同じ Ci と Ai との2本に Ai 一本を加えれば,正味流出電流

)1(2 ACA ×=− iii となって Cu への流入電流 Ci と等しくできる.この場合 Ca1 2 ii = は 0)の 2倍,同様に 2)では Ca2 3 ii = .この,電流の連続性は上記の系全体での電気的中性条件と同内容

である. Evans 先生の実験結果 13)を表 4 に示す.0.1N NaCl 中では接触相手が Ni の場合に (a):(b):(c)が 1:2:3 に最も近く偶然な(fortuitous)結果かもしれないと評されている.この比がもっ

と高い Cu は加速効果に優れるカソードであること,Pb は逆であること,がわかる. Cambridge 給水中では同比が 1:2:3 よりは著しく低い.それでも Cu のそれは Ni や Pb ほ

ど低くはない.これら低比の理由として,水溶液の抵抗率が高いことや CaCO3の析出などがあげ

られている. 表 4 面積比をかえて貴な金属と接触した鋼の腐食量比(25℃,14 日間)*

接触金属 0.1N NaCl 水溶液 Cambridge 給水 ** a b c a b c

Cu 1 : 2.80 : 4.17 1 : 1.25 : 1.58 Ni 1 : 1.91 : 2.86 1 : 0.72 : 0.83 Pb 1 : 1.24 : 1.47 1 : 0.93 : 0.93

* U. R. Evans:J. Soc. chem. Ind. (Lond.), 47, 73T(1928). ** a:鋼単独時(接触なし),鋼の接液部寸法は幅 2.5 cm,深さ方向長さ 4.0 cm,

表面はサンドブラスト仕上げ.面積比は 鋼:他金属=1:1 (b),1:2 (c).

* 後述 Q5,表 5 の ⑤:①:③では鋼の代りの Zn と,Cu との同様な組み合わせ条件下に

4:8:10 = 1:2:2.5 という結果をえている. 13)ref. 1 の p. 196.

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Q 5. 英国非鉄金属研究協会が定めた温水系

設備の設計要領では,Cu 管を Zn めっき鋼製貯

槽に接触させることは有害であると規定した.

以降の 10 年間において,この規定を無視した

設備において多くの早期損傷事例が経験され

た.しかしなお問題の出ていない設備もあった

*1 ので,再検討がなされた 14).このうち最も

簡明な試験結果 図 5 を紹介する.

単独で浸した Zn⑤は 64h で 5mg 溶出した.

同じ面積の Cu と接触させた Zn①では 8mg 溶

出,2 倍面積の Cu と接触させた Zn③では 10mg

溶出した.これら①③では Cu により Zn の溶

出が加速され,かわりに Zn により Cu の溶出

が防止されたので液中 Cu2+濃度はほとんど増

えていない.

さて,Cu 単独で浸した⑥,⑦で,もちろん Zn

溶出はないが,Cu2+濃度が 0.60mg/L⑥,

0.90mg/L⑦と著しく増えたのは,溶存酸素によ

り Cu が腐食したためであろう.このような液中に Zn を浸すと,①,③のように Cu とは接続し

ていないのに,Zn が 12mg 溶出しそれは Cu の面積のちがい―1-Cu②と 2-Cu④―には依存して

いない.これはどう理解しうるか.

A: 試験後の Cu2+濃度が⑥→②では 0.60→0.28mg/L,⑦→④では 0.90→0.52 mg/L,と低下し

ていることに注目する.低下分―前者で 0.32,後者で 0.38mg/L―の Cu2+ は Cu°として Zn 上

に析出し,この Cu°が周囲の Zn 溶出に働いた,と考えられる. この試験における,Cu による Zn 腐食の加速を表 5 にまとめた.Zn 板を Cu 板と直接的に接触

させた場合*2,Cu 板の面積が Zn 板と同じ(Zn:Cu の面積比が 1:1)①ではそのとおりに働い

て 1+1=2 倍の加速率をもたらしたが,Zn 板の 2 倍の面積の Cu 板を用いた(Zn:Cu の面積比

が 1:2)③では実効面積比は 1:1.5 とやや低下した*3. 設問対象の②,④において,Zn:Cu の面積比の計算値は 1:2 で 1+2=3 倍の加速率である.

この加速は Zn 上に析出した Cu°によるもので,この Cu°の析出量(液中から除去された Cu2+

量)が 7.6 E—2 mg ②,6.4 E—2 mg ④と同程度であることを反映して両者で同じになっている.

同液中に浸した Cu 板の面積のちがい―Zn 板と同じ②,Zn 板の 2 倍④―は Cu2+としての溶出量

には反映されたが,Cu°としての同じ面積の Zn 板への析出量には反映されなかった.

図 5 Zn の腐食に及ぼす Cu 接触の影響.試

験片の接水面積は Znと 1—Cu:3×2cm2,2—Cu:6×2cm2;二試片(Znと 1—Cu または Zn と 2—Cu)を同じ槽水に浸すときの対向距離は 1cm,試験液は静止の硬水 A で 200cc,40℃;試験時間 64h.

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表 5 Cu による Zn 腐食の加速とその駆動力.

Zn の腐食 Zn 腐食の加速分 Zn:Cu 面積比 Zn と Cu との接触 除去された Cu2+量

重量減* 電流密度** 重量減 電流密度 計算値 状況 Cu2+濃度

mg/cm2 μA/cm2 mg/cm2 μA/cm2 mg/L mg mg/cm2 *

⑤ Zn 4/6 8.6 1:0 なし →0.04 ~0

① Zn / 1—Cu 8/6 17 4/6 8.6 1:1 あり(外部で接続) →0.04 ~0

③ Zn / 2—Cu 10/6 21 6/6 13 1:1.5 あり(外部で接続) →0.05 ~0

⑥ 1—Cu なし →0.60

② Zn 1—Cu 12/6 26 8/6 17 1:2 なし(同槽中に共浸***) 0.60→0.28 7.6E-2***) 1.3 E-2

⑦ 2—Cu なし →0.90

④ Zn 2—Cu 12/6 26 8/6 17 1:2 なし(同槽中に共浸***) 0.90→0.52 6.4E-2***) 1.1 E-2 * :Zn の片面面積 3×2cm2を用いた. ** :試験時間 64h での平均値として求めた. ***:Zn 上に析出した Cu0が Zn と「接触」した.

*1 二つの隣接する集合住宅で同じ Cu 管/Zn めっき鋼製貯槽—設備を使うが給水が異なった.

すべてが 4 年内に損傷した設備での平均 Cu2+濃度は 0.32mg/L に対し,10 年損傷がなかっ

た方のそれは 0.03 mg/L であった.ここに現われた Cu の溶出性を分けた水質は遊離 CO2

にあり,その分析値は前者では 4.1 mg/L(pH 5.19)まで,後者では 1.1 mg/L(pH 5.48)であった.著者 14)は 2 mg/L(pH 5.35)以上は推奨できないとしている.

*2 この場合の Cu による Zn 腐食の加速は“direct electrolytic effect of contact”とよばれてい

る.電位差をかけることから電気分解 electrolysis という意識があるのであろう.パイプラ

インの迷走電流による腐食をはじめ electrolysis とよんだのと同様であろう. *3 Zn による Cu の防食作用が,導線の接続点から遠い Cu 板上ほど低下していたとの記述が

ある.Wagner 長さ(センターニュース No. 042,p.23) )/()( SACW iBBL ρ+= を, 1

AC decadeV04.0 -⋅== BB , 2Acm21 −= μi 下に求めると E30.2cm/S =⋅Ωρ (工業用水 ), E4 (河川水) のときそれぞれ 0.381.90cm/W ,=L になり,Zn/Cu—間距離 1 cm 前後である.

試験水の E33cm/S =Ωρ ( 27.1/cmW =L ) ほどであろうか. 14)L. Kenworthy : J. Inst. Met., 69, 67-90 (1943).

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腐食センターニュース No. 045 2008 年 5 月 1 日

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Q 6. 英国の公共水道水中で使われていた Al および Al 合金におこった激しい孔食は,静止ま

たは低速で動いている硬水中でピットが低い丘 (mound) 状の腐食生成物 (Al (OH)3 が主) の

下に成長することから‘nodular pitting’とよばれた*1.

原因究明の一環として実施された再現試験結果 15)の抜粋を表 6 に示す.

水質No. 1~4が孔食形態を再現することからCa2+, Cl-, Cu2+, 曝気および pHの 5条件が十分

条件である.また Cu2+ を添加しない No. 5~8,および Cl-を添加しない No. 9~11 ではいずれ

も「ピットなし」であるから,Cu2+ と Cl-とは必要条件でもある.さらに,Ca2+も必要条件で

もある*2.

さて,上記の曝気および pH の条件は,より具体的には溶存酸素と HCO3-とを意味する.こ

のことを表脚注(*) に留意して説明せよ.

表 6 Euston 給水の諸成分を取捨した人工水中における商用高純度 Al の腐食(8 週間). 水溶液中成分 (part/106)

No. Ca2+ Mg2+ SO42- Cl- Cu2+ 曝気* pH * 平均重量減** 侵食状況

100 6 30 30 0.03 mg/dm2

1 〇*** 〇 〇 〇 〇 〇 7.7~8.2 5.2

2 〇 〇 - 〇 〇 〇 7.3~7.9 12.2

3 〇 - 〇 〇 〇 〇 7.6~8.0 6.0

4 〇 - - 〇 〇 〇 7.4~8.0 6.8

Euston給水と同じ

孔食を再現

5 〇 〇 〇 〇 - 〇 7.7~8.2 1.4 ピットなし

6 〇 〇 - 〇 - 〇 7.3~7.9 1.4 〃

7 〇 - 〇 〇 - 〇 7.6~8.0 2.2 〃

8 〇 - - 〇 - 〇 7.4~8.0 1.2 〃

9 〇 〇 〇 - 〇 〇 8.5~8.7 1.6 〃

10 〇 〇 - - 〇 〇 7.7~7.9 2.6 〃

11 〇 - 〇 - 〇 〇 7.9~8.5 3.2 〃 * :CO2と空気を水溶液に通して pH 7. 8 を目途に調整した. ** :試片数 2 または 4 (No.1) の平均値.低速の Euston 給水中での 8 週間後の値は,平均重量減で

約 180 mg/dm2(平均侵食深さで 6.7μm),平均ピット深さは 0. 58 mm. ***:水溶液がこの成分を含むことを「〇」で示し,含まないことを「-」で示す.

15)F. C. PORTER and S.E. HADDEN:J. appl. Chem., 3, 385-409 (1953). *1 この nodule は,その下に酸性液がとりこまれて孔食がおこるといわれていることから,ピットの

生成以前からできているものと想われる.Al 製の食器などにこの形の孔食が起らないのは拭き乾かす操作がこの nodule を除去するからであり,同様に湯沸かし器に起らないのは,高温の硬水で形成される CaCO3や高温ほどできやすい保護性皮膜が nodule を強化するからである,としている.Euston 給水系においても,この nodule が除去されやすい高流速・乱流条件下に加えて,50℃以上の温度条件下では孔食はほとんど起こっていない.

*2 表 6 には含めなかった No. 33~38 では CO2通気を用いて pH を 5.6~6.5 に調整した 6 条件で同様の孔食を再現した.したがって上記の pH (~7.8) は必要条件ではない.ただしこの論文が扱っている英国の 9 地域の水道水で No. 33~38 の pH 範囲(5.6~6.5) に含まれるのは,pH の最も低い 6.1~6.5(Lochaber)である.pH (~7.8) はむしろ前提条件である.

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腐食センターニュース No. 045 2008 年 5 月 1 日

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A: 大気との平衡を仮定すると,25℃,pH 7. 8 での HCO3-濃度は 0. 32m mol/L(19mg/L)と計

算される.人工水の調整については Appendix で説明する.この HCO3-(bicarbonate)が論文中で

“temporary hardness (e. g. calcium bicarbonate)”とよばれる.この temporary は,気相中の CO2ガス

分圧に応じて存在しその変動に応じて増減するという揮発性を指すのであろう.また,calcium

bicarbonate は図 6(b)に示される Ca2+ + HCO3-を指すのであろうか.Mg2+,Cl-,SO4

2- *3 がなけれ

ばCa(HCO3-)2ともかけるモル比になること事実である.またこれをNaHCO3にとりかえるとNaCl

水溶液中のような針先状のピットとさらに多数の微小ピットしかできず,nodular pitting は再現で

きなかったことから,不溶性の Ca(または Mg)系に限るとしている.この Ca-HCO3-はピット

発生の初期にカソード反応で生じるアルカリを中和して pit 内での酸性化を助ける*4 役割をもつ

としている.どのマウンドの中心にも気泡の逃げ道が空いており,試験初期に盛んに発生したガ

スの分析二例では 4%と 16%の H2,残りのほとんどは N2 であった.マウンド直下のピット内に

固体の腐食生成物はなく,液の pH は試験紙によって 3. 5~4. 0,過酸化水素は検出されず,London

市水中濃度の,数 10 倍の Cl-と 2 倍の SO42-を検出している.

脱気水では,6 週間経ってもピットは発生せず,通気水中 30 日間で発生させたピットの継続成

長も,認めなかった.すなわち溶存酸素は本質的に必要である.Cu2+が孔食を促進するのは,皮

膜の細孔部に Cu°として析出して溶存酸素還元を内容とするカソード反応のためのよい場をつ

くることによってであるから,その供給は一時的でもよい*5.これには Cu2+の必要濃度がピット

の成長継続段階ではかなり低い(0.005/106未満?)事実もある.実際の Euston 給水中の Cu 濃度

は 0.01 未満~0.03 part/106で,表 6 の試験水に添加した 0.03 part/106はその上限である.この腐食

を早くにとりあげたSeligman & Williamsの1920年の論文ではCu2+の有害性が指摘されていない.

その後 Sawyer & Brown(1947)は重金属(Cu 0.09/106,Co 0.08/106,Ni 0.03/106)の影響を調べた.

ほとんどの研究者間で Cu 塩が worst であることは一致しており,Sn・Ni も同様の影響を与えると

する研究者も多い.ただほとんどの論文で取り上げられる濃度が 0.1/106~1/106かこれ以上であっ

て,0.1/106未満が稀であった.

*3 Appendix 本文二行目の記述をうけて

*4 HCO3-+OH-→CO3

2-+H2O,Ca2++HCO3-+OH-→CaCO3+H2O

*5 いったん析出して「よいカソード」を作れば,その後の持続的供給は必ずしも必要

でない,との意.

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腐食センターニュース No. 045 2008 年 5 月 1 日

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Appendix for Q 6 Euston 給水を模擬する人工水の調整 1)この調整には蒸留水のほかに,CaCO3,MgO,CuO,HCl,H2SO4,および CO2と空気の通気,

を使う.そこで水質をつくるイオンは,Ca2+,Mg2+,Cl-,SO4-,および HCO3

-であると仮定

して次の電気的中性条件を要請する.H+,OH-,Cu2+,CO32-は量的に無視する.

2[Ca2+]+2[Mg2+]+(-1) [Cl-]+(-2) [SO42-]+(-1) [HCO3

-]=0

ここで,[Mg2+]=6 mg/L÷24.3 g/mol=0.247 m mol/L,[SO42-]=30 mg/L÷96.1 g/mol=0.31 m

mol/L,[Cl-]=30 mg/L÷35.4 g/mol=0.85 m mol/L,であるから上式は

2[Ca2+]-0.98 (mg/L)=[HCO3-] ①

2)Ca2+/CaCO3 — の平衡条件は,log [Ca2+]+2 log [HCO3

-]=-9. 27 (25℃) ② 3)大気平衡下,25℃での液の pH は pH=log [HCO3

-]+11. 29 ③

以上の関係式を図 6 の(a) (b) に記入した.

Mg2+,Cl-,SO42-の共存しない場合 16)の S

点は 2[Ca2+]≒[HCO3-]=1 m mol/L,pH 8. 29

にある.

上記調整ではまず CaCO3 を水中に入れ CO2

を吹き込んで次の反応を進める.

CaCO3+H2O+CO2 → Ca2++2HCO3- (1)

逆向きの反応

Ca2++2HCO3--CO2 → CaCO3+H2O (2)

を進めるには空気を吹込んで大気平衡より

過剰の CO2分を除く.これが「CO2と空気を

通気」の具体的内容であろう. 目標とする pH 7.8 (a) をうるには,図(b)

の線①上でそれを与える組成 [Ca2+]=0.65 m

mol/L 分の CaCO3 を反応(1)によって全量溶

け込ませればよい.たぶん少し多めに溶かせ

てのち,反応(2)により大気平衡を確実にする

のがよいのであろう.この場合生成した

CaCO3は排出する必要がある.でき上った人

工水の pH は 図(a) の右方に示すように表 6

の No. 1~5 で 7.3~8.2 の範囲で変動している.

16)(社) 腐食防食協会 編:金属の腐食・防食 Q&A,電気化学入門編,丸善,p. 175(2002).

図 6.目途とする pH と HCO3-濃度との関係

(25℃,大気平衡下) (a) と電気的中性条件を満たす Ca2+濃度と HCO3-濃度との関係(b). 両図中右上の点☉ は Ca2+ 初期濃度100 mg/L で CaCO3 と平衡する pH,HCO3-濃度.

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Short Lecture 2 Al 合金の船舶への適用 17) この歴史は 1892 年に始まる.早くも 1895 年には Al 製ヨットの Cu 製金具付近での腐食,

Cu を含む Al 合金板での激しい局部腐食が報告された.このような教訓をふまえての 1954 年

当時を象徴する二つの写真,United States 号(主に上部構造に 2000 トンの,また約 120 万個の

リベットに,Al 合金を使用)および Sunbrayton 号(建造中のボーキサイト運搬船,8400 トン,

上部構造物はすべて Al 合金製),がこの論文の図 1,2 に掲載されている. 1)Barnacle Bill 号 1934 年に建造された 30 ft.長の救命ボートで,Al-3.5%Mg 合金材がリベットで枠組に接合さ

れた.試験目的の塗装仕様は,外板の外側では Al 顔料ワニス,内側では灰色の ZnO プライマ

ー,のいずれも一回塗りというものであった.当初 Itchen 川の河口に 2.5 年間係留されふじつ

ぼが厚く堆積したことから表記の名がつけられた.しかし,外板・リベットとも損傷をうけな

かった.その後は小エンジンをつけて海上業務に従事し,オランダと英国当局による検査を終

戦まで受けた.この間塗装のぬり替えは一度も実施されなかったが船体に腐食はなかった.た

だ Cu 管の出口直下に Al 酸化物の白いこぶを認めたが,その下の孔食は無視しうるほどであっ

た.陸上に揚げられ展示されている 1954 年現在いつでも使える状態を保っている. 2)DianaⅡ号 1931 年に進水した 5. 5 ft.長のエンジン付ヨット.South Coast 付近での業務のあと,海軍小

船舶 Gr. の指揮下にパトロール任務,ついでレーダー実験に従事した.この船の状況は極めて

良いとみなされたが,詳細検査は第三者機関により戦後になされた.重大な劣化は発見されず,

青銅製プロペラ—付近でのガルバニック作用も起っていなかった,たぶん予防措置として Zn板を船尾に取付けていたためであろう.1951 年までの検査結果での も顕著な特徴は,すべ

ての押出し断面端・板材の切断端などが指を切るほど鋭いままで残っていたことであり,これ

は,通常であれば腐食量が 大と期待される,船底においても同じであった. 3)犠牲 Zn 板を取付けない実験船 1944~45 年に建造された 105-ft.長の小型舟艇.マホガニー材(hull)の表面を Al-Mg 合金の

さやで覆って補強し熱帯地域での虫害に備えた.青銅製プロペラによる Al hull の“electrolytic”attack を防止するための慣行-犠牲 Zn 板の取付け-もやめてみている. 試運転につづいて水線下の船体に腐食が出たことが公表され検査がはじまった.船尾でのブ

リスターは水線下で数多く,水線上でも一定数,認められ,Al 合金板を留めるためのボルト*1

やねじ*2の頭の多くは腐食生成物を含むブリスターに囲まれていた. 1948年の検査後 Al合金の試験円板が Znまたは Cdめっき*3されたねじによって各所に取り

つけられた.これらのうち hull のさや役の Al 合金に電気的に接続されたものだけに 1951 年の

検査で侵食が認められ,その程度はステンレス鋼製留めねじの近くで甚大であった.同時に測

られた hull さやと Ni めっきプロペラシャフトとの電位差は,外部シャフトで約 1V,内部シャ

フトでゼロ,であった.なおプロペラの材質が Al 青銅であること,これが置かれていた船尾

に侵食が局在したことも追記されている. 17)D.C.G. Lees : Chem. and Ind. (Lond.) p. 949 (1954).

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4)Hg も含む防汚塗料を適用されたモータボート外板の腐食 含 Hg 化合物を Al 合金船底(外板水線下部)に使うべきでない*4 ことはたえず叫ばれてき

たが,この警告は時々無視されることがあった.以下は数(several)年間運河に係留された Silver Shell 号の検査結果である. 激しい腐食は水線下において平均直径が約 1/2 in.という大きなブリスターの形をとって起

こり,侵食深さは Al 合金板厚さの約半分に達していた.多くの場合ブリスターは破裂してい

て,層状金属の粗くめくれ上がった端部では,層間に硬い殻状の黄色ぽい白色腐食生成物が在

った.その殻の下には同色の乾いた粉状の腐食生成物が多量あり,薄片状の金属も混じってい

た.この殻が破れるとき充填物は乾いた銀砂のように飛び出すのであった. 食孔内の充填物から検出された微量の Hg は,難溶性の硫化物や Al 合金を活性化しうる形

をとっており,これらの破片を水に漬けると目にみえる量の水素を発生した. 以上の外板水面下の状況とは対照的に.船内部と外部水線上方とでは侵食はほとんど認めな

かった.これは船底(bilge)内の Al 合金に侵食がなかったことと一致している*5. 5)救命ボート外板の腐食-皮膚摩擦 (chafing) による塗膜/Zn めっき-の擦り減り 客船において,Al 合金製救命ボートが約 2 年ごとにうける作りつけのブイタンクの圧力試

験に失格することが多かった.これは,外板の腐食による孔あきがボートを固定する Zn めっ

き鋼製太鋼(鋼索)のからみで起ったためである.外板の孔あき箇所は鋼索に近接する面域に限

られ,鋼索のその箇所でも発錆が(他の箇所より)先行していた. 原因は救命ボート塗膜の擦り減りと鋼索のめっき Zn の損耗との同時進行によるようだ.す

なわち,塩水噴霧にされされた時(Zn めっきを失った)鋼と(塗膜を失った)Al との組み合

わせの腐食が進み,Al 合金外板の急速な腐食をひきおこした.なお,この chafing は鋼索側で

の何らかの工夫,あるいは外板/鋼索‐間への離間材の挿入によって回避できよう. *1 すべての付属器具類はステンレス鋼製ボルトで留められていた *2 Al 合金さや板につくった凹みに Zn クロメートプライマーを塗り,ここに Cd めっき鋼製ねじ

を(マホガニー材まで)打ち込む.このねじ頭にさらに Zn クロメートプライマーを塗り,穴

をパテで満たし滑らかな傾斜をつけて仕上げ塗装を施した. *3 Cd めっきより Zn めっきのほうでより満足すべき結果をえて,従来の印象を確認した,とし

ている. *4 Hg による Al の腐食はセンターニュース No.035(2005 年 9 月 1 日号)に掲載 *5 同じ船底内に,Al 合金とは合板に隔てられて,バラストとして積まれていた銑鉄はかなりひ

どく発錆していた.

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Short Lecture 3 Al 合金を使う造船上の推奨工法 17) 以下では,塗装前処理と防汚材の組成とは割愛して,ガルバニックコロージョン関連の practicesのみを紹介する. 1.Al/鋼(Fe) — 接合部の措置 造船に Al を使用すると鋼との接合部が必ずできるので,この組合せが塩分環境で腐食を起こさ

ないよう特別の注意を払う必要がある.Al 船での腐食のほとんどはこれに具現している.両金属間

の電位差は大きくなく,鋼が Al によりカソード防食される*1 ということはできないし,適切な防

食措置なしでは接触した両金属がいずれも侵食される. 船上での鋼/Al‐接合部の防食は以下の 3 方法で達成しうる;

1)接合部に水分が集まらないように工夫する(イオン回路の遮断), 2)両金属をお互いから分離する(電子回路の遮断), 3)鋼に表面処理を施して,両金属間の電位差を小さくする.

1)は両金属が接触する線あるいは面の配置を工夫して,両金属が一連の腐食性環境(例えば,一

つの水溜り)に曝されない(浸されない)ようにすることを要求している.鋼アングルに Al 板を

リベットで接合するという重要なケースにおいて,アングルの垂直フランジは 5 in. 以上の高さに

揚げてリベットの並ぶ線を木材甲板より十分高くする.リベット材料は鋼・Al のいずれでもよいが,

リベットと板の材料を weather(外気)側で同一にすることが要点である.しいていずれがよりよ

いかというと,外気側をリベット・板とも Al にする (b) のがよい,水はけがよいからである(図

7).

図 7.鋼アングルに Al 合板板をリベット接合する場合の配置.

2)Al を鋼から離間させるのに何層かのゴム類材料を使うのは,リベットの効力を低下させるため,

造船にはごくまれにしか採用されない.ただし“Neoprene”テープは鋼アングル/Al 板—間にとき

どき使われる.他方ボルト接合に伴っては“Neoprene”または“Tufnol”パッキングが頻繁に使わ

れる.離間材についてそれが非吸水性であることを確かめることが常に重要で,この点で上記の

Neoprene のほか,塩化ビニルや瀝青質材料も使える.さらに,このような絶縁材料の切出しに当っ

ては十分に幅広い寸法にして,水分が両端を橋架けし両金属が一連の電解質に接することを防止す

る必要がある.

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3)両金属間の電位差を小さくするための鋼表面の変更には以下の 3 つ,すなわち Al,Zn または

Cd で被覆する方法がある.

2.Al/Cu 合金 — 接触 この組合わせは電位差がより大きいことからも,鋳鉄または鋼 (Fe) とのそれよりも激しい腐食

をもたらしやすい.最も危惧される実例は Cu 合金プロペラ/Al 合金外板-で,後述のとおり Znアノードを取付けるのが防食上の慣例である.同様に,黄銅支柱のような部材も Al 合金から絶縁

されねばならない.しかしながら,これら付属器具はおそらく Al で作れるものである.この観点

では舶用電信用が黄銅で作られていたものが,ごく最近開発されたレーダー装置はほとんど Al で作られていることは,意義深いことである. *1 海水中で鋼を防食できる Al 合金はのちに日本で開発された 18).これを可能にした Al-In,Al-Sn

系の電気化学的特性の基礎は熱処理にあり,過飽和の In (Sn) を含む合金を高温から焼入れた

強制固溶体をつくることである 19).関連の分極曲線・その他元素の影響も後に公表された 20).

17)D. C. G. Lees : Chem. and Ind. (Lond.) p. 949 (1954). 18)坂野 武, 戸田一夫:防蝕技術, 11, 486-492 (1962) ; T. Sakano, K. Toda, M. Hanada : Mater. Prot., 5,

No.12, 45 (1966). 19)久松敬弘, 小玉俊明:軽金属, 19, 352 (1969) ; 19, 358 (1969). 20)当摩 建, 工藤 元:防食技術, 34, 3 (1985).

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目 次

さびは世につれ(5)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コンクリート構造物の環境劣化(1)~(4) (センターニュースNo.039-042) に関する質問・・・・・・・・・・・・・・

電子材料としての銀の腐食挙動と硫黄ガスによる 腐食の特徴(第2回)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Q&A in 兵庫―

反応器のジャケット溶接構造について・・・・・・・・・・・

ステンレス鋼の腐食について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 苛性ソーダに対するステンレス鋼の腐食について

釣り針のさびについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ボイラーに使用する復水処理剤・・・・・・・・・・・・・・・・・

プレート式熱交のすきま腐食・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

316ステンレス鋼の海水中でのすきま腐食・・・・・・・・

90℃海水熱交用管材料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最近の問合わせから― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ガルバニックセル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ Q1 標準電極電位による解釈・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Q2 quarter-volt criterion・・・・・・・・・・・・・・・・・・

SL1 ファクト-ベース 一覧表(抜粋)・・・・・・・・・・・・・

Q3 catchment area・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Q4 ガルバニック電流・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Q5 ZnとCu ― 直接/間接—接触・・・・・・・・・・・・・・・

Q6 Cu2+ イオンによるAlの孔食・・・・・・・・・・・・・・・・

SL2 Al合金の船舶への適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ SL3 Al合金を使う造船上の推奨工法・・・・・・・・・・・・

1

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腐食センターニュース No.045

(2008年5月1日)

発行者:(社)腐食防食協会 腐食センター

〒113-0033 東京都文京区本郷1-33-3

電話 :03-3815-1302,Fax:03-3815-1303

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