[ application note ]...[ application note ] ms 検出と fusion qbd...

6
1 [ APPLICATION NOTE ] ウォーターズのソリューション S-Matrix 社製 Fusion QbD ソフトウェア 連携する Empower 3 CDS ACQUITY UPLC H-Class PLUS システム ACQUITY UPLC BEH C18 カラム ACQUITY UPLC PDA 検出器 ACQUITY QDa 検出器 キーワード AQbDFusion QbD、分析法開発、フォ ルモテロール、ブデソニド、UPLC-MSACQUITY QDa アプリケーションのメリット 分析法開発に Fusion QbD® および PeakTracker 機能を使用するメリットを説 明する Empower™ 3 クロマトグラフィデータシス テム(CDS)および Fusion QbD ソフト ウェアと組み合わせた、 ACQUITY™ UPLC ™ H-Class PLUS システムによる効率的で高 性能な分析法開発のプロセスを示す 分析法開発におけるピークトラッキングに、 ACQUITY QDa™検出器、 ACQUITY UPLC PDA 検出器および PeakTracker 機能を組み合わせることによる相乗効果を 説明する はじめに 分析法開発のプロセスで、複数のクロマトグラム間でピークをトラッキングする のは課題になることがあります。分離条件が異なることで、サンプル成分の保 持時間のシフトや溶出順序の変動、さらには共溶出することがあるためです。多 くの場合、分析法開発におけるピークトラッキングには、UVスペクトルのみに 頼らざるを得ません。この場合、潜在的なメリットもありますが、複数の制限が あります。例えば不純物や分解物などの類縁物質は、多くの場合UV スペクトル が似ていることが多いため、ピークのトラッキングが困難で不正確になることが あります。さらに類縁物質の場合、UV スペクトルに基づくトラッキングには成 分ごとに純粋な標準試料を注入する必要があるため、ラボの業務効率が低下しま す。この課題に対処する方法として、分析法開発において MS 検出器とフォトダ イオードアレイ(ACQUITY UPLC PDA)検出器を組み合わせ、これら 2 つの 検出器から得られた情報を使用して複数のクロマトグラム間でピークをトラッキ ングすることが挙げられます。 Quality by Design ソフトウェアの開発社である S-Matrix は、ACQUITY UPLC PDA 検出器と MS データを統合して分析法開発におけるピークトラッキングを 行う新しい機能(PeakTracker™)を開発しました。情報を統合することで、 すべての成分を確実に識別し、トラッキングすることが可能になります。LC ステムが ACQUITY QDa検出器を含む場合、ACQUITY UPLC PDA 検出器と MS スペクトルデータを基に、複数のクロマトグラム間で各ピークを自動的に同 定します。PeakTracker 機能は、ウォーターズの LC Empower クロマトグ ラフィデータシステム(CDS)で制御し、Fusion QbD で分析法開発を行うこ とで使用できます。 このアプリケーションノートでは、分析法開発におけるピークトラッキング PeakTracker 機能を使用するメリットについて説明します。特に、ホルモ テロール、ブデソニド、およびこれらの類縁物質の頑健な分析法が、どのよ うに開発されるかについて説明します。このアプリケーションノートでは、 PeakTracker 機能の使用方法や特徴に焦点を当てており、分析法開発のプロセ ス自体は具体的に紹介しません。分析法開発のプロセスについては別にアプリ ケーションノートがありますので、そちらを参照してください 1 MS 検出と Fusion QbD ソフトウェアによるピークトラッキングの自動化 Fadi L. Alkhateeb and Paul Rainville Waters Corporation, Milford, MA, USA

Upload: others

Post on 01-Apr-2021

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

1

[ APPLICATION NOTE ]

ウォーターズのソリューション

S-Matrix 社製 Fusion QbD ソフトウェア と 連携する Empower 3 CDS

ACQUITY UPLC H-Class PLUS システム

ACQUITY UPLC BEH C18 カラム

ACQUITY UPLC PDA 検出器

ACQUITY QDa 検出器

キーワード

AQbD、Fusion QbD、分析法開発、フォルモテロール、ブデソニド、UPLC-MS、ACQUITY QDa

アプリケーションのメリット■ 分析法開発に Fusion QbD® および

PeakTracker 機能を使用するメリットを説明する

■ Empower™ 3 クロマトグラフィデータシステム(CDS)および Fusion QbD ソフトウェアと組み合わせた、ACQUITY™ UPLC ™ H-Class PLUS システムによる効率的で高性能な分析法開発のプロセスを示す

■ 分析法開発におけるピークトラッキングに、 ACQUITY QDa™検出器、 ACQUITY UPLC PDA 検出器および PeakTracker 機能を組み合わせることによる相乗効果を説明する

はじめに分析法開発のプロセスで、複数のクロマトグラム間でピークをトラッキングするのは課題になることがあります。分離条件が異なることで、サンプル成分の保持時間のシフトや溶出順序の変動、さらには共溶出することがあるためです。多くの場合、分析法開発におけるピークトラッキングには、UVスペクトルのみに頼らざるを得ません。この場合、潜在的なメリットもありますが、複数の制限があります。例えば不純物や分解物などの類縁物質は、多くの場合UV スペクトルが似ていることが多いため、ピークのトラッキングが困難で不正確になることがあります。さらに類縁物質の場合、UV スペクトルに基づくトラッキングには成分ごとに純粋な標準試料を注入する必要があるため、ラボの業務効率が低下します。この課題に対処する方法として、分析法開発において MS 検出器とフォトダイオードアレイ(ACQUITY UPLC PDA)検出器を組み合わせ、これら 2 つの検出器から得られた情報を使用して複数のクロマトグラム間でピークをトラッキングすることが挙げられます。

Quality by Design ソフトウェアの開発社である S-Matrix は、ACQUITY UPLC PDA 検出器と MS データを統合して分析法開発におけるピークトラッキングを行う新しい機能(PeakTracker™)を開発しました。情報を統合することで、すべての成分を確実に識別し、トラッキングすることが可能になります。LC システムが ACQUITY QDa検出器を含む場合、ACQUITY UPLC PDA 検出器と MS スペクトルデータを基に、複数のクロマトグラム間で各ピークを自動的に同定します。PeakTracker 機能は、ウォーターズの LC を Empower クロマトグラフィデータシステム(CDS)で制御し、Fusion QbD で分析法開発を行うことで使用できます。

このアプリケーションノートでは、分析法開発におけるピークトラッキングに PeakTracker 機能を使用するメリットについて説明します。特に、ホルモテロール、ブデソニド、およびこれらの類縁物質の頑健な分析法が、どのように開発されるかについて説明します。このアプリケーションノートでは、

PeakTracker 機能の使用方法や特徴に焦点を当てており、分析法開発のプロセス自体は具体的に紹介しません。分析法開発のプロセスについては別にアプリケーションノートがありますので、そちらを参照してください 1。

MS 検出と Fusion QbD ソフトウェアによるピークトラッキングの自動化Fadi L. Alkhateeb and Paul RainvilleWaters Corporation, Milford, MA, USA

MS 検出と Fusion QbD ソフトウェアによるピークトラッキングの自動化

[ APPLICATION NOTE ]

2

実験方法

混合試料および標準試料の調製ブデソニドとフマル酸ホルモテロールの標準試料は、USP(米国、Rockville)から購入しました。ブデソニド類縁物質 G、E、L もすべて USP(米国、Rockville)から購入しました。これらの化合物の原液は、それぞれの標準試料の必要量を正確に計量し、アセトニトリルに溶解して調製しました。次に、これらの原液を用いて、前述のすべての API と不純物を含む混合試料を調製しました。この混合試料は、各標準試料の原液をサンプル溶媒の 70/30(v/v)水/アセトニトリルに希釈して調製しました。混合試料における各成分の最終濃度は次記のとおりです:ブデソニド 0.4 mg/mL、ホルモテロール 0.15 mg/mL、類縁物質 E および L 0.005 mg/mL、類縁物質 G 0.01 mg/mL。

分析条件LC システム: ACQUITY UPLC H-Cass PLUS シス

テム(カラムマネージャー搭載)

検出器: ACQUITY UPLC eλ PDA 検出器 ACQUITY QDa 検出器

カラム: BEH C18 1.7 µm、2.1 mm × 100 mm (カラム容量(CV)= 346 µL)

pH 範囲: 1 ~ 12(変動)

流速: 0.5 mL/分

移動相 B: アセトニトリル(強溶媒 SS)

移動相 D: 溶媒選択バルブを使用して下記 3 種類から選択:

D1(20 mM 酢酸アンモニウム/ 水酸化アンモニウムバッファー pH = 8.0)

D2(20 mM 酢酸アンモニウム/ 水酸化アンモニウムバッファー pH = 8.5)

D3(20 mM 酢酸アンモニウム/ 水酸化アンモニウムバッファー pH = 9.0)

プロファイル: 10% B で 3 分間平衡化 (4.3 CV)

10% B で 1.0 分間アイソクラティック (1.4 CV)

グラジエント時間 12 ~ 25 分で、 10% B ~ 60% B へ変化

60% B で 1.0 分間アイソクラティック (1.4 CV)

0.1 分間で 60 % B ~ 5 % B に変化

10% B で 3 分間アイソクラティック(4.3 CV)

注:% B と % D の合計は 100% になります。

カラム温度: 30 ~ 50 °C(変動)

検出(UV): 244 nm

注入量: 5 µL

MS 条件MS システム: ACQUITY QDa 検出器

イオン化モード: ESI+

キャピラリー電圧: 0.8 kV

コーン電圧: 15 V

ソース温度: 600 °C

データ管理: Empower 3 クロマトグラフィデータ システムおよび Fusion QbD (リリース 9.9)

[ APPLICATION NOTE ]

3MS 検出と Fusion QbD ソフトウェアによるピークトラッキングの自動化

結果および考察関連のアプリケーションノート1 で、Analytical Quality by Design(AQbD)原理に基づいたブデソニド、ホルモテロール、および類縁物質の分析法の開発について詳しく説明しています。この分析法開発のプロセスには、スクリーニングと最適化を経て、最終的にデザインスペースの特性解析をしています。PeakTracker機能は、最適化の段階で、頑健なデザインスペースを作成するために活用されています。まず、温度、グラジエント勾配、グラジエント時間、流量がクロマトグラフィー性能に及ぼす影響をスクリーニングすることで最適化されます。最適化に必要な実験計画は Fusion QbD ソフトウェアを用いて作成しました。次に、この実験計画を Empower CDS にエクスポートすると、一連の分析に必要なすべてのメソッド類がEmpower CDS内に自動的に作成されました。Empower CDS を使用して一連の分析を実行し、データを波形解析した後、それらの結果データを Fusion QbD にインポートしました。次に、PeakTracker 機能用いてピークをトラッキングし、数学的モデルにより、「Best Overall Answer(BOA)」および「Acceptable Performance Region(APR)」を予測しました。以下に、PeakTracker の非常に有用な機能の一部をまとめます。

部分的および完全に共溶出した成分を自動的に識別可能2 つの成分が共溶出する場合、一方の成分はクロマトグラム上で「隠れる」ことになり、UV 情報だけを頼りにトラッキングすると、この成分の保持時間や分離度など一部のクロマトグラフィーデータは欠落します。しかし、PeakTracker 機能では、ピークトラッキングに ACQUITY UPLC PDA 検出器と ACQUITY QDa検出器から得られるスペクトルデータの両方を使用するため、 「 隠 れ て い る 」 成 分 ま で も が 自 動 的 に 検 出 さ れ 、 欠 落 し た ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー デ ー タ を 補 完 で き ま す 。 これにより、予測モデルの質と正確度を大幅に向上できます。例えば図 1 で示すように、成分 B と C は完全に分離していませんが、PeakTracker 機能を使用することで、これら 2 つの成分はデコンボリューションされ、欠落した保持時間と分離度のデータが補完されて、デザインスペースが作成されました。

A. Formoterol B. Budesonide Related E C. Budesonide Related L

D1. Budesonide Epimer B D2. Budesonide Epimer AE1. Budesonide Related G (Epimer 1) E2. Budesonide Related G (Epimer 2)

A D1 D2

図 1. PeakTracker機能を使用して、複数のクロマトグラムで対象となるすべての成分をトラッキングするメソッドを作成する画面。 B と C は完全に共溶出していますが(上のクロマトグラム)、デコンボリューションして保持時間のデータ(表)を割り当てています。

[ APPLICATION NOTE ]

4MS 検出と Fusion QbD ソフトウェアによるピークトラッキングの自動化

ピークトラッキングの自動化 PeakTracker 機能の重要なポイントは、保持時間や溶出順序が変動しても、複数のクロマトグラム間で自動的にピークトラッキングができることです。トラッキングが完了すると、同定された成分はEmpower CDS で解析されたすべての UV 結果データに対して、化合物名が自動的に登録されます。このピークトラッキングの自動化により、ACQUITY QDa 検出器から得られる質量情報を分析法開発に活用する際の効率が大幅に向上します。ここで注意すべきなのは、異性体やエピマーのように UV スぺクトルデータも MS スペクトルデータも非常に類似している場合、一部のピーク情報が誤って割り当てられる場合があることです。そのためこのソフトウェアでは、図 2 に示すようにトラッキングが完了する前に情報を手動で編集することができるようになっています。PeakTracker 機能にはさらに、各ピークの MS および UV スペクトルをプロットでも数値でも表示できる機能や、トラッキングの結果を手動で編集できるツールが搭載されています。

A. Formoterol B. Budesonide Related E C. Budesonide Related L

D1. Budesonide Epimer B D2. Budesonide Epimer AE1. Budesonide Related G (Epimer 1) E2. Budesonide Related G (Epimer 2)

A D1 D2

図 2. PeakTracker 画面。ピークトラッキングが完了する前に、必要に応じてピークの割り当てを手動で編集できます。

分離度マップ(Rs–Map)ピークトラッキングが完了すると、データは分析法開発の準備が整い、すべての性能目標を満たす可能性が高い最終的なデザインスペースを提示できるようになります。新しい Fusion QbD ソフトウェア(9.9)では、すべての性能目標を満たす最適な分析法を特定するためのデザインスペースを、より簡単でより正確に作成できるようになりました。新しい Fusion QbD では、Empower CDS からクロマトグラムをインポートすると、各クロマトグラムから全てのピークについて、分析法開発に必要なデータ(保持時間、シンメトリー係数、高さ、面積、半値幅、SN比など)も自動的にインポートします。これにより、クロマトグラム中の任意のピークの性能目標を非常に簡単に設定できるようになりました。さらに、新しいソフトウェアでは、 USP、EP または JP の分離度の計算式を使用して、特定の分析条件下で、同定された全てのピークの分離度が正確に予測できるようになりました。例えばこの場合、性能目標はすべてのピークの USP 分離度が 1.5 以上で、ホルモテロールのピークのテーリング係数が 1.25 未満であるデザインスペースを作成することでした。図 3 に示すように、Fusion QbD では、同定されたすべてのピークの予測分離度の結果が様々なグラフ形式で表示できます。

[ APPLICATION NOTE ]

5MS 検出と Fusion QbD ソフトウェアによるピークトラッキングの自動化

A

B

C

図 3. Fusion QbD の Rs–Map 画面。A:Rs–Map の 2D 等高線プロット(良好な分離が得られる条件範囲を明示)、B:2D 重ね書き(暖色エリアの条件範囲が設定した性能目標を超えていることを意味している)、C: 3D プロット(Z 軸 は Rs-Map)。

図 4. データとクロマトグラムの予測結果を視覚化する Fusion QbD 画面。A:共溶出が予測される分析条件、および B:堅牢な分離が予測される分析条件。A および B のクロマトグラムは、 それぞれ 2D 重ね書き上の十字ポインターの位置の分析条件から得られる予測クロマトグラムです。 複数のピーク(B、C、D1、D2、E1、E2)が連続する範囲の拡大クロマトグラムが挿入されます。

D1 D2 D1 D2

BA

Rs=0.417 Rs=2.476

新しい Fusion QbD には更に、分離度の最小要件を動的に設定する機能が追加されており、分離度の最小要件を設定すると、その都度 Fusion QbD は Rs-Map データを更新して、ピークが指定された性能目標を満たしているかどうかを視覚的に確認できるようになりました(図 4)。

[ APPLICATION NOTE ]

Waters、The Science of What’s Possible、ACQUITY、UPLC、Xevo、QDa、および Empower は、 ウォーターズコーポレーションの商標です。その他すべての登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。

©2020 Waters Corporation. Produced in the U.S.A. 2020 年 2 月 720006734JA AG-PDF

参考文献1. F.L. Alkhateeb, P. Rainville, Applying a Software-

Assisted Analytical Quality-by-Design Approach for the Analysis of Formoterol, Budesonide, and Related Compounds by UPLC-MS. アプリケーションノート2019 年 8 月720006654JA.

まとめ

Empower 3 CDS および Fusion QbD ソフトウェアと ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムを組み合わせて、Quality by Design アプローチによる、ブデソニドおよびその類縁物質のベースライン分離が初めて達成できました。 このアプリケーションノートで実証されたことを、以下にまとめます。

■ クロマトグラフィーの分析法開発において PeakTracker 機能を使用することによる簡単さ、正確さ、メリット

■ 複雑な分離およびピークトラッキングの課題を解決する PeakTracker 機能

■ PeakTracker 機能と ACQUITY QDa MS検出器を使用することによる 相乗効果