よせじま 島遺跡 - あいち埋文 - 愛知県埋蔵文化財セン … 262sp 263sp 264sk...

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調査理由 調査期間 調査面積 24 愛知県埋蔵文化財センター 年報 2013.3 調査の経過 立地と環境 調査の概要 よせじま 島遺跡 安城市小川町 (北緯34度54分29秒 東経137度05分45秒) 中小河川改良事業(鹿乗川) 平成24年9月~平成25年3月 3,000㎡ 酒井俊彦 調査地点(1/2.5万「西尾」) 調査は中小河川改良事業(鹿乗川)に伴い、愛知県建設部から愛知県教育委員会を通じ て本センターが委託を受けて調査を実施したものである。本遺跡は平成19年度及び昨年 度に調査を行い、今回を含めて調査総面積は8,600㎡である。今年度は、平成19年度調査 区の北側に南よりA・Bの調査区を設定した。 本遺跡は矢作川下流域、鹿乗川右岸の沖積地に立地する。左岸の碧海台地上には姫小川 古墳などの古墳群が展開する。平成12年より本センターが調査を行っている鹿乗川右岸 には北から南にかけて姫下、寄島、下懸、五反田、惣作の5遺跡が連続して所在する。鹿乗 川は碧海台地東辺を南北方向に直線的にはしり、遺跡周辺は平坦な地形をなす。旧鹿乗川 は蛇行して走ることが確認され、惣作遺跡、寄島遺跡で東西方向の旧河道が確認されてい る。遺跡はこの旧河川の自然堤防上に展開する。本遺跡南端の旧河道南側に古代の集落が 展開し、下懸遺跡に連続する。旧河道北側では方形周溝墓と大形の古墳の溝と推定される 遺構が検出され、古墳時代の墓域と推定される。この墓域の北側は古墳時代集落域となり、 竪穴住居、掘立柱建物が50棟以上検出されている。今年度の調査区はこの集落域の北部に 相当する。 今回の調査では、上下2面の調査を行った。上面では古代以降の遺構を確認した。主な時 期は古代および中世で少数の土坑等が検出された。全体として遺構の密度が低く、明確な 集落は確認できない。下面の遺構としては古墳時代前半の竪穴住居・掘立柱建物群および 溝群を検出した。竪穴住居はA区で8棟、B区で19棟、掘立柱建物はA区で4棟を確認した。 平成19年度の調査では40棟以上の竪穴住居を検出し、集落の中心と推定される。今年度の A区では竪穴住居数が減り、密度が低くなるが、B区では絶対数、密度ともに増える傾向と なる。集落が北に展開し、別の中心が存在することが想定される。竪穴住居は周溝の幅が 数十cm〜1mとなる本遺跡に特徴的な形態のものが検出された。床面上に炭化物層がある 竪穴住居が多く、炭化した建築部材が倒壊した状況の焼失住居が確認された。これらには 床面上に土器がまとまって検出される例が多い。また特徴的な遺構として集落に先行する 溝群が検出されている。幅が最大60cm深さが最大40cm程度で、数条が一定間隔で平行 して直線的に走る特徴がある。A区南部では溝群が直行して切り合っている。溝の埋土中 からは遺物はほとんど出土しない。古墳時代前期で集落に先行する時期の農耕に関わる遺 構と推定される。また、遺物が比較的多く出土する溝が検出され、時期的にこれらの溝よ り新しく、直角に屈曲し、性格的に異なるものと予想される。その他の時期として、弥生 時代の壷形土器が集中して検出された落ち込み状の遺構がある。明確な掘方が認められな いため、自然面に土器を廃棄した状況と考える。 今後、古墳時代前期の集落の広がりを明らかにすると同時に周辺の古墳との関連を検討 することが課題と考える。 ( 酒井俊彦)

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所 在 地

調 査 理 由

調 査 期 間

調 査 面 積

担 当 者

24

愛知県埋蔵文化財センター 年報 2013.3

調査の経過

立地と環境

調査の概要

ま と め

寄よせじま

島遺跡安城市小川町

(北緯34度54分29秒 東経137度05分45秒)

中小河川改良事業(鹿乗川)

平成24年9月~平成25年3月

3,000㎡

酒井俊彦

調査地点(1/2.5万「西尾」)

調査は中小河川改良事業(鹿乗川)に伴い、愛知県建設部から愛知県教育委員会を通じて本センターが委託を受けて調査を実施したものである。本遺跡は平成19年度及び昨年度に調査を行い、今回を含めて調査総面積は8,600㎡である。今年度は、平成19年度調査区の北側に南よりA・Bの調査区を設定した。本遺跡は矢作川下流域、鹿乗川右岸の沖積地に立地する。左岸の碧海台地上には姫小川

古墳などの古墳群が展開する。平成12年より本センターが調査を行っている鹿乗川右岸には北から南にかけて姫下、寄島、下懸、五反田、惣作の5遺跡が連続して所在する。鹿乗川は碧海台地東辺を南北方向に直線的にはしり、遺跡周辺は平坦な地形をなす。旧鹿乗川は蛇行して走ることが確認され、惣作遺跡、寄島遺跡で東西方向の旧河道が確認されている。遺跡はこの旧河川の自然堤防上に展開する。本遺跡南端の旧河道南側に古代の集落が展開し、下懸遺跡に連続する。旧河道北側では方形周溝墓と大形の古墳の溝と推定される遺構が検出され、古墳時代の墓域と推定される。この墓域の北側は古墳時代集落域となり、竪穴住居、掘立柱建物が50棟以上検出されている。今年度の調査区はこの集落域の北部に相当する。今回の調査では、上下2面の調査を行った。上面では古代以降の遺構を確認した。主な時

期は古代および中世で少数の土坑等が検出された。全体として遺構の密度が低く、明確な集落は確認できない。下面の遺構としては古墳時代前半の竪穴住居・掘立柱建物群および溝群を検出した。竪穴住居はA区で8棟、B区で19棟、掘立柱建物はA区で4棟を確認した。平成19年度の調査では40棟以上の竪穴住居を検出し、集落の中心と推定される。今年度のA区では竪穴住居数が減り、密度が低くなるが、B区では絶対数、密度ともに増える傾向となる。集落が北に展開し、別の中心が存在することが想定される。竪穴住居は周溝の幅が数十cm〜1mとなる本遺跡に特徴的な形態のものが検出された。床面上に炭化物層がある竪穴住居が多く、炭化した建築部材が倒壊した状況の焼失住居が確認された。これらには床面上に土器がまとまって検出される例が多い。また特徴的な遺構として集落に先行する溝群が検出されている。幅が最大60cm深さが最大40cm程度で、数条が一定間隔で平行して直線的に走る特徴がある。A区南部では溝群が直行して切り合っている。溝の埋土中からは遺物はほとんど出土しない。古墳時代前期で集落に先行する時期の農耕に関わる遺構と推定される。また、遺物が比較的多く出土する溝が検出され、時期的にこれらの溝より新しく、直角に屈曲し、性格的に異なるものと予想される。その他の時期として、弥生時代の壷形土器が集中して検出された落ち込み状の遺構がある。明確な掘方が認められないため、自然面に土器を廃棄した状況と考える。今後、古墳時代前期の集落の広がりを明らかにすると同時に周辺の古墳との関連を検討

することが課題と考える。(酒井俊彦)

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トレンチ深堀

炭化物範囲

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撹乱

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古墳時代前期の建物

遺跡遠景(南から) A区全景(南から)

竪穴住居 掘立柱建物

溝群

弥生土器出土状況

 A区遺構図(下面)