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2019 年度 卒業論文
接触引き上げ手法を用いたマイクロニードル
作製プロセス技術の開発研究
2020年 2月 14日
学籍番号:60216054
岡本紗衣
指導教員:幹浩文 講師
和歌山大学 システム工学部 電子計測メジャー
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目次1. 緒言……………………………………………………………………………
……1
2. 皮膚構造とマイクロニードルの投薬方法………………………………………2
2.1 人間の皮膚構造…………………………………………………………………22.2 マイクロニードルの投薬方法の種類…………………………………………3
3. マイクロニードルの従来研究と提案構造………………………………………4
3.1 マイクロニードルの従来研究と課題…………………………………………43.2 提案構造と作製プロセス………………………………………………………5
4.本研究での提案構造の作製プロセス………………………………………………6 4.1 マイクロニードル作製方法の提案……………………………………………•6 4.2 接触引き上げ加工手法による一本針作製……………………………………•9 4.2.1 加熱状態での作製……………………………………………………………•9 4.2.2 維持時間での影響……………………………………………………………10 4.2.3 切り離し速度での影響………………………………………………………13 4.2.4 引き上げ速度での影響………………………………………………………16 4.2.5 引き上げ距離での影響………………………………………………………19
5.結言…………………………………………………………………………………•22
謝辞…………………………………………………………………………………23
参考文献……………………………………………………………………………23
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接触引き上げ手法を用いたマイクロニードル作製プ
ロセス技術の開発研究60216054 岡本 紗衣
要旨 近年投薬治療において皮膚を通して長時間安定した速度での薬物送達を可能にする経皮薬物送達システム(Transdermal Drug Delivery System, TDDS)が注目されている.TDDS は,薬剤が毛細血管を通じて全身を循環するため,胃腸や肝臓での代謝・分解などの初回通過効果を防ぐことができる.しかし,皮膚表面の角質層(厚さ約 20 μm)が薬の通過を妨げる物理的障壁となり対象の薬品種類が非常に限定されるという問題がある.この問題を解決するために,マイクロニードルによる投薬促進分野の研究が活発に行われている. マイクロニードルは角質層を確実に穿刺し,効率的な投薬を実現する可能性をもつ.また,痛み神経までに届かない数百 μm の高さの微小化が可能であるため,使用時の痛みがなく患者に優しく,投薬行為に注射のような特別な資格も必要ないので利便性が高い.また薬剤が長時間安定した投与が可能である.しかし,マイクロニードルの実応用には,投薬方法・針材料・針形状・作製方法・コストの面などの面で様々な制限がある.また,従来研究におけるマイクロニードルは半導体チップ状の厚い基板上にアレイ状に配置しているため,限られた基板面積となり,投薬量が制限されてしまいワクチンなど少ない量でも十分な薬効を発揮できる薬品種類にしか対応できないという課題がある.投薬量の制限課題を解決するため,基板を拡大することにより針本数を増やす方法が考えられるが従来構造では基板が固いため柔軟性に欠け,基板面積を大きくしても曲面をもつ人体表面への適応性が低いという問題がある.つまり,柔軟な基板と強度の高い針を持つマイクロニードルデバイスが求められている. 本研究グループではマイクロニードルの投薬量の制限という課題に注目し,皮膚を穿刺できる針強度と大面積で人体曲面にも適応できる基板柔軟性の両立を実現するマイクロニードルデバイスの新しい構造を提案した.提案構造では,薄いシート状の柔軟基板上に丈夫な針土台となる島を多数配列し,針土台にマイクロニードルをアレイ配置する高い針強度と柔軟性基板の両立を図る.
本研究では,提案構造の加工手法として大量生産に有利な鋳型転写手法を用い,鋳型作製に用いる逆パターンの針構造(中間針)の作製方法として接触引き上げ加工手法を用いる.この手法は,中間針材料がガラス転移点を超えた状
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態で接触棒を用いて引き上げることで,針形成を行うので特別な装置を必要とせず,引き上げ工程の条件により針の形状が容易・寸法が容易に調整可能と考える.本研究では提案構造の具現化に生産加工プロセス技術の確立を研究目標とし,接触引き上げ手法における針の形状・寸法と各影響パラメータとの関係を明らかにすることを研究目的とした.卒論では一本針に注目して針の形状・寸法と各影響パラメータとの関係を詳しく調べたのでその結果について報告する.
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1.緒言従来の投薬方法として経口投薬,注射,塗り薬などがある.しかし経口投薬
では,初回通過という胃腸での吸収や分解およびや肝臓での代謝吸収や分解などで薬の効果が少なくなるという問題がある.このことにより,過剰摂取となり,患者に負担がかかる.注射での投与は初回通過効果の問題はないが,薬効を長時間安定維持のできないことや,皮膚組織の損傷などの問題があり,また注射行為に資格が必要である[1].[1].塗り薬や湿布のような皮膚表面からの投薬手法は上記の問題がない.その故,近年,皮膚を経由して長時間安定した速度での薬物送達を可能とする経皮薬物送達システム (TDDS:Transdermal Drug Delivery System)が注目されている.しかし,TDDS は対象とする薬品種類が非常に限定されており,筋肉痛をとる湿布やニコチンパッチに類似したものにとどまっている.この理由としては,皮膚の表面にある角質層が物理的な障害となり薬物の透過を妨げるということが挙げられる.この問題を解決するためにマイクロニードルの研究が活発に行われている[2,3].マイクロニードルは微小な針をもち,薬物の浸透を妨げる角質層を確実に穿刺し,効率的な投薬を実現する可能性をもつ.また,痛み神経層までに届かない数百 μmの高さの微小化が可能であるため,痛みが少なくて済む.マイクロニードルデバイスを用いることにより従来の投薬方法においての一連の課題が解決でき,対象の薬品種類の制限が緩和・解消できれば,TDDS の応用とその波及効果に伴う市場規模が飛躍的に拡大されると想定される.
しかしマイクロニードルの実応用には投薬方法・針材料・針形状・作製方法・コストなどの面で多くの課題がある.また,従来研究におけるマイクロニードルは半導体チップ状の厚い基板上にアレイ状に配置しているため,限られた基板面積となり,大面積基板では柔軟性に欠け,人体曲面に対応できないので,投薬量が制限されてしまい,ワクチンなど少ない量でも十分な薬効を発揮できる薬品種類にしか対応できないという課題がある.特に,投薬において,折れ曲がったりすることなく確実に角質層を穿刺する鋭さと強度を持つ針構造,および身体曲面に貼り付けやすい柔軟性をもつ基板の特性が望ましいが,このようなマイクロニードルはまだ実現できていない.強度が高い針と柔らかい基板の両立を実現できれば,基板の大面積化によって薬品種類による投与量の調整が可能のため,TDDS の応用可能な薬品種類の飛躍的な拡大が期待できる.
本研究グループでは,マイクロニードル技術の従来研究における投薬量制約課題の根本的解決を目標に,大面積化が可能な柔軟性基板と角質層を穿刺できる強度の高い針部で構成されたマイクロニードルの新しい構造を提案した.具体的には,湿布のように柔軟な基板上に丈夫な島状土台をアレイ配置し,島
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状土台にマイクロニードルを高密度にアレイ配置することによって,個々の針土台の確保と基板全体の柔軟性を図る.提案構造の実現には鋳型転写手法を用いるが,鋳型作製に必要な逆パターンの構造(中間針)の実現には接触引き上げ加工手法を用いる.
本研究では,提案構造の具現化に必要な加工プロセス技術の確立を研究目標とし,接触引き上げ加工手法における針の形状・寸法と各影響パラメータとの関係を明らかにすることを研究目的とする.
2.皮膚構造とマイクロニードルの従来研究2.1 人間の皮膚構造 図 2.1 に人間の皮膚構造,表 2.1主な皮膚組織層の寸法を示す.皮膚表面には表皮と呼ばれる薄くて丈夫な層があり,細菌やウイルス,その他の異物の体内侵入を防ぎ,筋肉や神経や血管などの器官は外部から保護されている.表皮層は 200 μm の厚さで形成されており,その中で最も丈夫な保護層は皮膚表面より約 20 μm の厚みをもつ角質層である.この角質層が薬物の浸透の障壁となり,TDDS で投薬する場合投薬種類が分子量の小さい薬物に限定されてしまう.表皮層の下に真皮層が存在し,この層には汗腺,毛包,静脈,動脈があり,痛みを感じる痛神経もある.よって,角質層を貫通し,痛み神経がある真皮層まで届かない長さのマイクロニードルを作製できれば,痛みを与えず薬剤が浸透し,表皮層の毛細血管によって体内に吸収できる.
図 2.1 人間の皮膚構造[4]
表 2.1 皮膚構造の寸法名称 寸法[μm]
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角質層 20表皮層 200真皮層 2000
2.2 マイクロニードルによる投薬方法の種類 マイクロニードルによる投薬方法には,図 2.2 に示すように主に塗り型,塗布型,溶解型,浸透型,中空型がある.塗り型は,針穿刺後にできた傷跡からを薬の通路に活かす投薬方法である.
構造が単純で低コスト作製が可能という利点があるが,投薬に手間がかかることや,生体組織の自己修復機能によって傷跡が短時間で閉じるので長時間の安定濃度の維持が困難という問題がある.また,衛生・安全の面からは使い捨てが原則であるが,構造上再利用が可能であるため,発展途上国では再利用による 2 次感染などの問題もある.また,ワクチンの投薬量やデバイスの貼付時間などの設定が難しいという課題がある[5]. 塗布型は,針表面に薬剤をコーティングし穿刺時に吸収される投薬方法である.構造が単純で低コスト作製が可能である.投薬に手間がかからないので利便性が高く,マイクロニードル表面にワクチンが乾燥状態で吸着しているため,溶液状態における保管よりもワクチンの安定性が高いと考えられる.しかし,投薬量の調整が困難で,少量投与しか対応できないという短所があるため,ワクチンなど少量でも効き目の強い薬に限って応用可能である. 溶解型は,針本体を薬剤で作製し,針を体内で溶解させる投薬方法であり,再利用はできないが,作製においての高温工程などの必要性から,使用できる薬品の種類が制限される問題や,特殊構造による作製でのコスト面の問題がある[6,7]. 中空型は,注射針と同様にマイクロニードルの中心に流路があり,シリンダやポンプを用いて一定量の薬剤を注入できる投薬方法である.投薬量を調整できるという利点があるが,使用中に流路が詰まったり,流路構造により針強度が低下したりなどの問題がある.また,流路構造やポンプ機構を伴う作製コスト面での問題,薬品の変質回避など管理面でのコストなどの課題がある. 浸透型は,マイクロニードルの穿刺後,マイクロニードル先端から組織液を急速に吸収し,それによりパッチから膨潤したマイクロニードルを通して薬物を浸透させる投薬方法である.膨潤のため再挿入ができないので二次感染のリスクがないが,薬物は外部パッチよりもマイクロニードルの内部に多く含まれており,送達できる薬物の量が限定される.
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中空型
溶解型
塗布型
塗り型
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図 2.2 マイクロニードルの投薬方法[8]
3.マイクロニードルの従来研究と提案構造3.1 マイクロニードルの従来研究と課題 マイクロニードルの従来研究の初期段階では,針材料に微細加工性に優れたSi やガラス,生体適合性があり優れた機械的特性を持つステンレス鋼などが用いられてきた.しかし,Si とガラスは材料費に加え単品生産のため作製コストが高く,量産に不向きである.また,脆くて生体適合性に欠けるため体内で折れた場合には対応が難しい.ステンレスなどの金属は,微細加工が難しく量産性に欠け,生産コストが高い. ポリマー(樹脂)は低材料費に加え,ホットエンボス(Hot embossing),射出形成(Injection molding),キャスティング(casting)等の転写技術を用いることで,量産性に優れ生産コストを抑えることが可能である.そこで 2000 年代後半からポリマー材料を用いたマイクロニードルの研究が盛んに行われている.近年,ポリ乳酸(PLA:Poly Lactic Acid)やポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Polymethyl methacylate)などの生体適合性を持つポリマー材料による転写作製の研究も行われているが,これらの樹脂系材料は分解速度が遅いという問題から体内でのポリマーの堆積による人体への影響などが懸念される.これらの材料のほかに,マイクロニードルの材料としてゼラチンやポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)などが挙げられる.PVA は合成樹脂の中では例外的に親水性が非常に強く,温水に可溶という特徴をもつ.ゼラチンと PVAはいずれも安価であり,飲み薬用カプセルに用いられるなど生体親和性をもつ. 従来研究では,マイクロニードルを半導体チップ状の厚い基板上にアレイ状に配置しているため,限られた基板面積となり,大面積基板では柔軟性に欠け,人体曲面に対応できないものであり,投薬量が制限されてしまうので,ワクチンなど少ない量でも十分な薬効を発揮できる薬品種類にしか対応できないという課題がある.
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図 3.2 マイクロニードルデバイスの提案構造:(a)提案構造の3次元図;(b)提案構造の断面図
3.2 提案構造と作製プロセス 従来のマイクロニードル作製技術は高価な装置を必要とする複雑な作製プロセスと,生体に対する針素材の安全性や十分な薬物量を人体に投与できない機構面などの課題がある. 本研究グループでは,マイクロニードルの従来研究における投薬量制限問題に注目し,デバイスの大面積化手法により根本的解決を図る.デバイスの大面積化を適用するうえで針強度と基板の柔軟性の両立は欠かせない技術課題であり,課題解決の具体的手法として,図 3.2 に示すように,柔軟性を持つ薄い基板上に厚い島状の土台を多数分布配置し,島状の土台上に個々の針を高密度にアレイした構造を提案してきた[9].提案構造を持つマイクロニードルデバイスの実現によって,角質層を穿刺できる針強度と人体の曲面部位に適応できる基板柔軟性の両立が可能となる. 提案構造の具現化には適した加工プロセス技術が必要であり,具体的な加工プロセスにおいては,量産・低コスト製作に優位な鋳型転写手法を用いることを考える. 本研究では,具現化するためのアプローチとして鋳型作製に必要な針構造の新たな作製方法を提案し,加工プロセスの検討を行った. 図 3.2 に示した本研究グループでの提案構造の作製手法として,低コスト化に有用で大量生産に優れた鋳型転写手法を用いる.鋳型材料には,微細構造の転写性能と鋳型の寸法安定性や熱的,機械的,化学的安定性に優れる特徴を有するポリジメチルシロキサン(PDMS:Poly Di Methyl Siloxane)を用いる.鋳型作製に用いる針構造(中間針)の作製後,PDMS 製鋳型を作製し,その鋳型にゼラチンや PVA などのマイクロニードル材料を転写することによって,湿布のようなマイクロニードルパッチを実現する.
4.本研究での提案構造の作製プロセス4.1 マクロニードル作製方法の提案 本研究では,PDMS 製鋳型を作製するために必要な中間針の作製方法として,接触引き上げ手法を用いた.この手法は,ガラス基板上に中間針材料をスピン
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コータにより成膜し,熱処理し硬化工程後,その膜をガラス転移温度以上に加熱することにより針の成形性を確保し,ガラス転移点を超えた状態の中間針材料の表面に接触棒の先端を接触させ,ゆっくりと引き上げることにより中間針構造を形成する.この手法では,従来の方法より針の形状・寸法の調節が容易であると考える.
作製工程の詳細を図 4.1 に示す.まず,①の工程で中間針材料をガラス転移点を超える温度まで加熱し,針の成形性を確保した状態に接触棒を接触させる.次に②の工程では,接触棒の引き上げを行う.③の工程では,引き上げた SU-8 を硬化させるために,引き上げ完了した接触棒をその位置で維持する.それと同時に加熱を停止する.最後に④の工程では,接触棒を一気に引き上げることで切り離しを行い,中間針構造を形成する. 本研究では,中間針材料として,微細加工性や耐熱性に優れ,生体適合性を持つエポキシ系感光性レジストである SU-8 3050 を用いた.SU-8 の材料特性を表 4.1 に示す.また,未露光で加熱,冷却し硬化させた SU-8 のガラス転移温度は 50~55 ℃である[10].樹脂はある温度以上に加熱すると軟質のゴム状態となるが,冷却すると硬質なガラス状態となる.このガラス状態になる温度のことをガラス転移温度といい,樹脂はある温度以上に加熱すると硬質のガラス状態となる.このガラス状態になる温度のことをガラス転移温度といい,樹脂の一種である SU-8 もガラス転移温度以上の加熱での成形が可能である. 接触引き上げ手法では,表 4.2 に示すように多くのパラメータが針形成に影響を及ぼす.これらの影響要素を制御することにより針の形状・寸法を制御可能と考える. SU-8 の成膜にはスピンコータ(ミカサ製 MIKASA SPINCOATER IH-DX2)を用いた.また,引き上げ実験では図 4.2 に示す実験系で行った.スピンコータで成膜し熱硬化した SU-8 をホットプレート上にガラス転移温度以上に加熱し,PC とステージコントローラ(SIGMAKOKISHOT-202-High-performance2axis stage controller)と一軸ステージ(SIGMAKOKI 製 LTD-SGSP26-200)により接触棒の移動距離と速度を制御した.
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③ ④②①維持
スライドガラス針材料
接触棒中間針
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図 4.1 接触引き上げ手法による針形成の工程
表 4.1 SU-8 の材料特性[11]密度[g/ml] 1.153粘度[mm2/s] 12000
密着強度[MPa] シリコン/ガラス 71/23引張強度[MPa] 73
表 4.2 接触引き上げ手法における針形成に影響をおよぼすパラメータ1 環境温度・湿度2 中間針材料・膜厚3 接触棒の先端形状・寸法・材質4 加熱温度・時間5 引き上げ速度・引き上げ距離6 維持時間7 切り離し速度
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図 4.2 引き上げ実験ための実験系[12]
4.2 接触引き上げ手法による一本針作製4.2.1 加熱状態での作製一本針作製における基本工程条件について SU-8 をスライドガラス上にスピンコータで 2000rpm で 30秒間成膜した(膜厚 約 70μm) .その後, 表 面 皮膜が 発生し な い よ う に 65℃ で 60 分 ,75℃,85℃,95℃,105℃,115℃で各 20 分ホットプレートを用いて加熱することにより SU-8膜内の溶媒を揮発させた後,室温(23 )℃ で 24 時間以上自然冷却を行い,SU-8 を硬化させた.主な基本のパラメータを表 4.3 に示す. (行を変えず、上に続く)その後,SU-8 の硬化膜を 55 ℃に加熱したホットプレート上に設置し,サンプルが 55 ℃になりガラス転移点を超えた状態でSU-8膜の表面に接触棒を接触させる.そのままホットプレートの電源を ONにしたままの加熱状態で接触棒を 2 μm/s の速度で 1 mm 引き上げた後,引き上げを停止し,基板を加熱状態で 20 分間の停止維持時間を設けた.その後維持後,接触棒を 700 μm/s の速度で一気に引き上げ,切り離しを行うことによって接触棒の先端に SU-8樹脂のマイクロニードルが成形できた. 成形結果を図4.3 に示す.ホットプレートの電源を ON のままでの成形結果では,図 4.3 (a)に示すようにった.接触棒側の方を中間針として使用する.55 ℃で加熱した状態で維持時間を設け切り離した場合,図 4.3 (a) のように中間針の先端形状が曲がってしまった.これは引き上げた SU-8 がまだ柔らかい状態で切り離し同時に曲がってしまったと考える.このことにより,切り離し時に SU-8 を硬化させる必要がある.切り離し時に SU-8 を硬化させるために,引き上げ完了後にホットプレートの電源を OFF にし,加熱を停止した.加熱を停止した状態で維持時間 20 分を設け,700 μm/s の速度で一気に切り離した.作製した針形状を図 4.3 (b)に示す.引き上げ停止後の停止維持時間中はホットプレートの電源を OFF にし加熱を途中で停止し,SU-8 部をの自然冷却でし硬化したほうが針形成に適していることがわかった.接触引き上げ手法を用いた一本針成形過程における基本工程条件を表 4.3 に示す.また,各工程条件の針成形への影響について次節から詳しく述べる.
8
500 μm500 μm一本針本体
接触棒
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(a)加熱状態 (b)加熱停止図 4.3 加熱状態と加熱を途中で停止した場合で作製した針の形状
表 4.3 一本針作製における基本工程条件影響パラメータの基本条件環境温度・湿度 16.0~24.0 ℃・25~50 %中間針材料・膜厚 SU-8 3050・約 70 μm
接触棒の先端形状・寸法・材質 平坦・Φ300 μm・ステンレス製加熱温度・時間 55 ℃・引き上げ時間と同じ
引き上げ速度・引き上げ距離 2 μm/s・1000 μm引き上げ停止維持時間 20 分
切り離し速度 700 μm/s4.3.2 維持時間によるでの影響 (4.2.2→ 節などの整理番号を再確認・調整してください) 4.3.1 4.2.1 と同様の成形方法で維持時間が針成形への影響について調べた.維持時間以外の各工程条件は,表 4.3 と同様である.に SU-8 の成膜・硬化を行う.次に,55 ℃に加熱したホットプレート上にサンプルを設置し,サンプルが 55 ℃になったと同時に接触棒を接触させる.そのまま加熱した状態で 2 μm/s の速度で 1 mm 引き上げる.引き上げ完了後に加熱を停止し,維持時間を設ける.最後に接触棒を 700 μm/s の速度で一気に引き上げ,切り離しを行う.維持時間以外の影響パラメータは表 4.3 のように設定し,維持時間が針形成の形状・寸法の影響を調べた.維持時間はそれぞれ 10 分,20 分,30 分として 3サンプルずつ作製を行った.(残りのほかの節も上と同様の要領でコンパクトに表現してください) それぞれの維持時間で作製した針の長さの結果を表 4.3(番号が重複:整理する)に示す.また,維持時間ごとに,接触棒の先端から棒の軸方向での距離におけると針の直径との関係を図 4.4,図 4.5,図 4.6 に示す.維持時間ごとの針本体の作製結果をそれぞれ表 4.4,表 4.5,表 4.6 に示す(作製結果は,写真だから表ではなく図として扱う).どの維持時間でも結果にばらつきが出てしまった.これは接触棒を SU-8 の膜表面中間材料に接触させる時点で接触具合にばらつきが出てしまったと考える.また環境温度や湿度による影響はをはっきりとする傾向性が見られなかった.その中でも維持時間 10 分が一番ばらつきが大きかった.これは,維持時間が短いことにより中間針材料が柔らかいので切り離し時に伸びてしまうことが原因である.維持時間が 20 分と 30分では,維持時間が 10 分のときよりはばらつきが少ないため,針の再現性がとりやすいと考える.また,針の長さが短い方が針の直径は細く,どの針も
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一気に針の直径が細くなる. よって,引き上げ停止時間中間針材料がの冷却時間が長い方が針形成に適していることがわかった.
表 4.3 維持時間が針の長さに及ぼす影響[μm]サンプル番号
(環境温度[ ]℃ ,湿度[%])
維持時間[分]10 20 30
1(19.5 ℃,37 %) 1410 830 8102(16.3 ℃,35 %) 1030 810 7613(22.4 ℃,47 %) 910 728 856
平均値 1117 789 809
図 4.4 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(10 分) 表 4.4 維持時間 10 分での針本体の作製結果
1 2 3
図 4.6 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(20 分)
表 4.5 維持時間 20 分での針本体の作製結果
10
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 16000
50
100
150
200
250
1410μm1030μm910μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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1 2 3
図 4.7 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(30 分)
表 4.6 維持時間 30 分での針本体の作製結果1 2 3
4.3.1.4 切り離し速度によるでの影響 4.3.1 と同様に SU-8 の成膜・硬化を行う.次に,55 ℃に加熱したホットプレート上にサンプルを設置し,サンプルが 55 ℃になったと同時に接触棒を接触させる.そのまま加熱した状態で 2 μm/s の速度で 1 mm 引き上げる.引き上げ完了後に加熱を停止し,20 分の維持時間を設ける.最後に接触棒を一気に引き上げる.切り離し速度以外の影響パラメータは表 4.4 のように設定し,切り離し速度が針形成の形状・寸法の影響を調べた.引き上げ速度を 100 μm/s,700 μm/s,1500 μm/s としてそれぞれ 3サンプルずつ作製した. 切り離し速度がそれぞれ 100 μm/s,700 μm/s,1500 μm/s での作製結果を表4.7 に示す.また,それぞれの切り離し速度での接触棒からの距離と針の直径を図 4.8,図 4.9,図 4.10 で示す.切り離し速度ごとの針本体の作製結果をそれぞれ表 4.8,表 4.9,表 4.10 に示す.どの切り離し速度でも結果にばらつきが出てしまった.これは接触棒を中間材料に接触させる時点で接触具合にばらつ
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0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 10000
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100
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300
810μm
761μm
856μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
0 200 400 600 800 1000 12000
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100
150
200
250
830μm810μm728μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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きが出てしまったと考える.切り離し速度が遅い方が,切り離す時に中間針材料が伸ばされ針の長さが長くなったと考える.また,切り離し速度が 1500 μm/s では,針の長さのばらつきが少なく,針の直径もばらつきが少なく,再現性がとりやすいと考える.切り離し速度が速いほうが,切り離しの伸びが少ないので,切り離し速度は速いほうが針の長さを調整しやすい.環境温度と湿度による傾向的な影響は見られなかった. よって,切り離し速度が速いほうが針の長さのばらつきが少なく,針の長さが短くなった.
表 4.7 切り離し速度が針の長さに及ぼす影響[μm]サンプル番号
(環境温度[ ]℃ ,湿度[%])
切り離し速度[μm/s]100 700 1500
1(22.4 ℃,26 %) 1315 930 9102(19.0 ℃,28 %) 1861 1076 9243(17.7 ℃,35 %) 1178 868 910
平均値 1451 958 915
図 4.8 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(100μm/s)
表 4.8 切り離し速度 100 μm/s での針本体の作製結果1 2 3
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0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 20000
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100
150
200
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1315μm1861μm1178μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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図 4.9 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(700μm/s)
表 4.9 切り離し速度 700 μm/s での針本体の作製結果1 2 3
図 4.10 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(1500μm/s)
表 4.10 切り離し速度 1500 μm/s での針本体の作製結果1 2 3
4.3.1.5 引き上げ速度によるでの影響 4.3.1 と同様に SU-8 の成膜・硬化を行う.次に,55 ℃に加熱したホットプレート上にサンプルを設置し,サンプルが 55 ℃になったと同時に接触棒を接触させる.そのまま加熱した状態で 1 mm 引き上げ,引き上げ完了後に維持時間 20 分設けた.引き上げ速度以外の影響パラメータは表 のように設定し,
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0 200 400 600 800 1000 1200 14000
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200
250
300
930μm1076μm868μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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切り離し速度が針形成の形状・寸法の影響を調べた.引き上げ速度は 2 μm/s,10 μm/s,20 μm/s としてそれぞれ 3サンプルずつ作製した. 引き上げ速度がそれぞれ 2 μm/s,10 μm/s,20 μm/s での作製結果を表 4.11 に示す.また,それぞれの引き上げ速度での接触棒からの距離と針の直径を図4.11,図 4.12,図 4.13 で示す.引き上げ速度ごとの針本体の作製結果をそれぞれ表 4.12,表 4.13,表 4.14 に示す.どの引き上げ速度でも結果にばらつきが出てしまった.これは接触棒を中間材料に接触させる時点で接触具合にばらつきが出てしまったと考える.引き上げ速度が速いほうが中間針材料の冷却時間が短くなるので,切り離すときに中間針材料が伸びることにより針の長さが長くなり,針の太さが細くなった.引き上げ速度が 2 μm/s では針の直径は直線的に小さくなるが,引き上げ速度が 10 μm/s と 20 μm/s では針の直径は曲線的に小さくなる.引き上げ速度が 10 μm/s と 20 μm/s では針の直径のばらつきが少なく,再現性が取りやすいと考える.環境温度と湿度による傾向的な影響は見られなかった. よって,引き上げ速度が速くても針形成は可能であり,引き上げ速度が速いほうが針の長さが長く,針の直径が小さい傾向がある.
表 4.11 引き上げ速度が針の長さに及ぼす影響[μm]サンプル番号
(環境温度[ ]℃ ,湿度[%])引き上げ速度[μm/s]
2 10 201(21.2 ℃,36 %) 630 1120 12022(18.7 ℃,33 %) 1000 1160 12303(22.5 ℃,37 %) 880 963 1006
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0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 10000
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100
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300
910μm924μm910μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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平均値 837 1081 1146
図 4.11 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(2μm/s)
表 4.12 引き上げ速度 2 μm/s での針本体の作製結果1 2 3
図 4.12 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(10μm/s)
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0 200 400 600 800 1000 12000
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100
150
200
250
630μm1000μm880μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
0 200 400 600 800 1000 12000
50
100
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200
250
300
1120μm1160μm963μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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表 4.13 切り離し速度 10 μm/s での針本体の作製結果1 2 3
図 4.13 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(20μm/s)
表 4.14 切り離し速度 20 μm/s での針本体の作製結果1 2 3
4.3.1.6 引き上げ距離によるでの影響 4.3.1.1 と同様に SU-8 の成膜・硬化を行う.次に,55 ℃に加熱したホットプレート上にサンプルを設置し,サンプルが 55 ℃になったと同時に接触棒を接触させる.そのまま加熱した状態で 2 μm/s の速度で引き上げる.その後,加熱を停止し,維持時間 20 分設けた.引き上げ距離以外の影響パラメータは表4.4 のように設定し,切り離し速度が針形成の形状・寸法の影響を調べた.引き上げ距離は 500 μm,1000 μm,1500 μm でそれぞれ 3サンプルずつ作製した.
引き上げ距離がそれぞれ 500 μm,1000 μm,1500 μm での作製結果を表 4.15に示す.また,それぞれの切り離し速度での接触棒からの距離と針の直径を
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0 200 400 600 800 1000 1200 14000
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100
150
200
250
300
1202μm1230μm1006μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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図 4.14,図 4.15,図 4.16 で示す.引き上げ距離ごとの針本体の作製結果をそれぞれ表 4.16,表 4.17,表 4.18 に示す.どの引き上げ距離でも結果にばらつきが出てしまった.これは接触棒を中間材料に接触させる時点で接触具合にばらつきが出てしまったと考える.引き上げ距離の変化により,針の長さは変化した.引き上げ距離が 500 μm,1000 μm であれば,引き上げ距離以上の針ができることもある.だが,引き上げ距離が 1500 μm になると,1500 μm以上の針はできなかった.引き上げ距離が 500 μm では針の直径が直線的に小さくなるが,引き上げ距離が 1000 μm,1500 μm では針の直径が曲線的に小さくなった.また,引き上げ距離が 1000 μm,1500 μm では環境温度と湿度が高くなると針の長さは長くなった.これは,中間針材料が切り離し時に柔らかく,伸びることにより長くなったと考える.
よって,引き上げ距離を制御することにより,作製する針の長さを制御することが可能だと考えられる.
表 4.15 引き上げ距離が針の長さに及ぼす影響[μm]サンプル番号
(環境温度[ ]℃ ,湿度[%])引き上げ距離[μm]
500 1000 15001(22.5 ℃,37 %) 500 1006 13592(19.5 ℃,32 %) 493 966 12373(19.0 ℃,31 %) 600 850 1223
平均値 531 941 1273
図 4.14 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(500μm)
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50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 5500
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100
150
200
250
300
500μm493μm600μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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表 4.16 引き上げ距離 500 μm での針本体の作製結果1 2 3
図 4.15 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(1000μm)
表 4.17 引き上げ距離 1000 μm での針本体の作製結果1 2 3
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0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 10000
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100
150
200
250
300
1006μm
966μm
850μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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図 4.16 針の直径と接触棒の先端からの距離の関係(1000μm)
表 4.18 引き上げ距離 1500 μm での針本体の作製結果1 2 3
5.結言 本研究では,提案した医療用マイクロニードルの作製において,鋳型転写工程に必要な手法を用いるための鋳型作製のための中間針の作製に接触引き上げ手法を用いた.という加工手法を行った.しかしながら,中間針を接触引き上げ手法で作製する際には多くのパラメータが関連しており,その各パラメータが中間針の形状・寸法にどのような影響を与えるか調べるため,本研究ではまずは一本針に注目した.一本針作製における基本工程条件その作製プロセスの確立を目指した. 露光前の未感光状態の SU-8 熱硬化樹脂のガラス転移温度はが 50~55 ℃である.のガラス転移点を超えた状態での接触引き上げ手法は,各パラメータの制御により,針の形状や寸法が制御できることが可能だとわかった.しかし,針の形状・寸法の再現性がとれるほどの精度とれていない.針の直径は一気に小さくなるものが多かった. 接触引き上げ手法を用いた一本針作製において,本研究では針の形状寸法に
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0 200 400 600 800 1000 1200 14000
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100
150
200
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1359μm1237μm
1223μm
接触棒の先端からの距離 [μm]
針の
直径
[μm]
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対する各工程条件の影響について次のような知見が得られた:1.2.………上のように,箇条書きで本研究を通じて得られた知見(形状・寸法への影響や再現性への影響において,はじめて分かったこと)・研究結果を表 4.3 の基本工程条件の順番で述べる。その後、再現性に一番影響が大きい要素は何かを述べ,再現性改善方法(方向性)を示す.
接触棒側への針の形成として,維持時間が短く,引き上げ速度が速いと切り離すときの中間針材料の冷却時間が短いため伸びてしまう.また,切り離し速度を速くした方が,伸びが少ないため針の寸法を調節しやすく,引き上げ距離を変えることにより針の長さも調節可能である.そして,中間針材料膜面と接触棒との接触具合を調節することが今後必要だと考える.接触引き上げ手法は,中間針材料である SU-8 の冷却時間を調節し,粘度を制御することにより,針の形状・寸法の再現性をとることが可能だと考える.また,今回は各影響パラメータを詳細に調べたが,パラメータごとに再現性をとりやすいものとそうではないと考える.切り離し速度と引き上げ速度はばらつきが少ない.維持時間は特に特にばらつきが大きい.
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謝辞本研究は,和歌山大学システム工学部システム工学科在学中,生体医工学研
究室において,本研究の指導教員幹浩文講師に専門的な知識の教授,適切なご指導,叱咤激励をして頂いたことが自分の成長に繋がったと信じております.ここに深く感謝申し上げます. また,研究について別の分野の視点から様々なご指導をいただいた土谷茂樹教授に深く感謝いたします. 本研究の遂行において,多大なるご協力をして頂き,貴重な意見を下さったMEMS班の皆様に感謝の意を表します. 最後に,在学中,苦楽をともにした生体医工学研究室の皆様の存在が自分の大きな励みになったこと,心より感謝いたします.
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