volkswagenグループのecu開発におけるシームレスな通信テスト ... · 2020. 3....
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しかし、これに必要なテストアプリケーションの作成と管理には、 要求に対する深い理解が必要となり、また多くの時間も要します。これは実行すべきテストの数だけでなく、その複雑さも原因です。ECUを少し変更しただけでも、テストの大幅な適合が必要に なる場合もあります。このように、社内でのテストの実装には かなりのコストが伴います。テスト会社に依頼するという代案も ありますが、そこでのテスト実行に要するコストを考えると、開発期間を通して継続的にテストを実施するのは通常は不可能です。
このアプローチでもう1つ問題になるのは、サプライヤー、テスト ハウス、自動車メーカーのいずれを問わず、テスト実装には細かい部分で多少の差異がありうる点です。現行のテスト仕様書に基づくテストで異なる結果が出た場合、時間のかかるトラブルシュー ティングは避けられません。問題の原因は必ずしもECUではないため、気まずい思いをしながらも、そのエラーの責任の所在を明確にしなければなりません。最終的にテストの前提が間違っていたり、単に実装に誤りがある場合もありますし、テスト仕様書の不備が原因ということもありえます。
ECUは狭い意味で求められる機能を満たすだけでなく、各自動車メーカー固有の要求を考慮しながら、ECU環境にシームレスに 統合できなければなりません。そのため、機能テストの他にも集中的な通信テストが必要です。この通信テストでは正常な状態の 挙動はもちろん、多様なエラー状態にあるECUの挙動もチェックされます。これにはメッセージが届かない、伝送時のプロトコル 違反、電圧低下などの供給電圧の障害、短絡によるバス電圧の 障害など、さまざまな状況が含まれます。
サプライヤーやVAGでのテスト
このようなすべてのテスト制約の下で、テスト対象デバイスが適切に、定義されたとおりに動作するかどうかについての主な責任はサプライヤーにあります。ただし、メーカーの立場としても、自社 内でテストを行ってECUの挙動の適合性を検証することは理に かなっています。メーカー側でのこのようなテストは一般に、ECU開発の後半のフェーズで行われますが、エラーは発見が遅れる ほど修正コストがかかるとよく言われます。そのためサプライヤーは、自動車メーカーのテストで初めてエラーに気付くのではなく、できるだけ早期にエラーを検出することを望んでいます。
Volkswagen AG (VAG) のECU開発では、サプライヤーが実施する特定のテストに対し、ネットワークの適合性チェック、複数のECU間における円滑な連携の保証、メーカー側の最終受け入れ時の主要な判断基準といった特別な役割が与えられています。開発者やサプライヤーはVAG専用のテストツールを使用して、VAGの仕様書である高速CAN用のDUM.857.BE.1と、Network Management-High用のDUM.000.AC.Aに準拠した自動テストを実施していますが、これが大幅な時間とコストの削減につながっています。
自動テストに関わる自動車メーカー/サプライヤーの工数を最小限に
VolkswagenグループのECU開発におけるシームレスな通信テスト
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ボタンを押すだけでテストを実施
ECUテストのコスト削減と品質向上は決して矛盾することでは ありません。それは、Volkswagen (VW) グループ専用に作成 された、ベクターのテストおよびシミュレーションシステムであるCANoeの拡張機能を見れば明らかです。CANoeテストパッケージVAGを使用すれば、サプライヤーのECU開発者やテスター、 テストハウス、そしてもちろんVWグループ内の各部門が、圧倒的なスピードでそれぞれの目標を達成できます。高速CANや Network Management (NM) Highの自動コンフォーマンス テストを行うためのテストコンフィギュレーションはボタンを 押すだけで生成でき、また、準備作業も不要です。このテストパッケージのバージョン4.0は、DUM.857.BE.1およびDUM.000.AC.Aの最新のテスト仕様書を実装するほか、VWとの間で調整 済みのテストカバレッジを備えています。テストシステム開発に おけるVWとの長年の緊密な協力関係と、幅広いユーザーベースからのフィードバックの結果、同社の要求に即した、高い品質の コンフォーマンステストを実装が実現しています。特に、CANoeテストパッケージVAGには、コンフォーマンステスト用とUnified Diagnostic Services (UDS) 経由の診断クエリー用のテストライブラリーが含まれています。これらのライブラリーは、 CANoe固有のプログラミング言語であるCAPL (Communication Access Programming Language) で記述されているため、 必要な場合は、テストフローそのものを把握することも可能です。この製品はコンフィギュレーションジェネレーターも備えており、それによってリンク済みの関連ライブラリーと、用途に合わせて 特別に適合された残りのバスシミュレーションを持つテスト コンフィギュレーションが作成されます(図1)。このステップは製品に無料で付属するCANoe AddOn VAG Multibus Packageに よって実行され、これにはシミュレーションジェネレーター、インタラクションレイヤー、ネットワーク管理が含まれています。
ECUに電力を供給するVH1160と、CAN/CAN FDネットワークインターフェイスのVH6501をストレスモジュールと併せて使用することにより、テストシステムはテストを完全に自動化できます (図2)。
テストを完全に自動化するハードウェア
テストシステムは、VH1160の供給電圧制御機能を利用して、テスト対象デバイスのさまざまな電力供給状況をシミュレーションします。VH1160は電源、GND、IGN などの端子を独立して切り替えるためのリレーを持つほか、テスト対象ECUの消費電流を正確に測定でき ます。また、USB経由のリモート制御を通じて、多彩な電圧応答とフォールトをシミュレーションできます。これによって過電圧、電圧不足、電圧低下に対するテスト 対象デバイスの応答を得ることができます。
一方、V H 6 5 0 1 U S BハードウェアモジュールはCAN/CAN FDネットワークでのデジタル/アナログ妨害のシミュレーションに使用でき、同時に、通常の
CAN/CAN FDネットワークインターフェイスとしても機能します。物理特性と論理レベルを再現可能な形で変更できるのに加え、 柔軟なトリガーおよび妨害ロジックにより、CAN/CAN FDメッセージの任意のビット位置を特定して破損させることができます。
VAGからサプライヤーへのテスト基盤の提供
ECUの通信が、TBAD(test basis coordination documentation)とC A Nネットワークデータベース(D B C)の形で一貫して 記述されていることは、テスト環境を円滑に設定するうえで最も 重要な前提条件の1つです。これらのファイルはいずれもメーカー側が作成し、サプライヤーに提供します。ネットワークや残りの バスシミュレーションに関する自動車メーカー固有の情報はDBCに格納されていますが、TBADにはECUに関する詳しい情報が 含まれています。このドキュメントはECUごとに改めて作成する 必要があり、TxおよびRxメッセージ、診断パラメーター、ダイアグノスティックトラブルコード(DTC)、時間設定、仕様書のバージョンなどに関する情報をXML形式で提供します。つまり、TBADは、 コンフォーマンステストを正しく設定するのに必要になる具体的な情報を提供します。また、このファイルはVWグループが提供するエディターを使用してサプライヤーが編集したり、DTCなどを使って補足したりすることができます。テストコンフィギュレーション ジェネレーターはTBADとDBCを読み込み、それらから残りの バスシミュレーションとXMLテストフローモジュールで構成された、CANoeテストコンフィギュレーションを生成します(図1)。
図1:ボタンを押すだけで、CANoeテストパッケージVAGは完全なテストコンフィギュレーション を作成し、テスト実行を開始し、レポートを生成します
図2:CANoeテストパッケージVAGのテスト設定図
ECU
VH6501
VH1160
USB
USB
CAN/CAN FD
GND IGNBAT
CANoe Test Package
VAG
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わかりやすく整理されたHTMLテストレポート
TxおよびRxメッセージの数にもよりますが、生成されるテスト ケースは時に数百個に上ります(図3)。各テストケースからは、 詳細なHTMLテストレポート(図4)と、ASCII形式のログファイルが生成されます。テストレポートの内容は、テスト仕様書の番号に対応したセクション番号で整理されています。エラーがカラーで 強調されているため、ユーザーは実行したテストケースの成功と失敗をすばやく把握できます。
まとめと展望
CANoeテストパッケージVAGと、ベクターのVH1160テスト ハードウェアおよびVH6501を使用することにより、標準のCANツールに基づく、コスト効率のよいテスト環境を構築できます。 ここで説明したソリューションにより、ECU開発者とテスターは、VWと同じテストを最小限の工数で実行できます。テスト実行が完全に自動化されるため、コンフォーマンステストをいつでも、しかも最小限の工数で繰り返し実行することができます。その ため、サプライヤーは開発プロセス全体を通して広範なテストを実施できるようになり、早い段階でのエラー検出が可能になり ます。結果として時間の節約と開発コストの削減が実現し、それがそのまま製品品質の向上につながります。CANoeテストパッケージVAGはVWがテストおよびリリースしています。同社はサプライヤーに対し、高速CANとNM-Highの テストにはこのパッケージを使用するよう明確に推奨しており、 そのため、このテストシステムは独自の地位を市場で確立してい ます。
CANoeテストパッケージVAGには、将来の要求に応えるための 修正が既に計画されており、Secure On-Board Communication (SecOC) のニーズなどにも対応する予定です。 画像提供元:Vector Informatik
■ 本件に関するお問い合わせ先ベクター・ジャパン株式会社 営業部E-Mail: [email protected]
図3:コンフォーマンステストのフロー制御
図4:実行に成功したテストケースの詳細レポート
Joachim Scharf (Dipl.-Ing.)ネットワークおよび分散システムのプロダクトラインの 上級ソフトウェア開発エンジニアとしてベクターに 入社し、CANoeテストパッケージVAGのプロダクト マネージャーとリード開発者を兼任。