vol.83 no.6 2010 第2世代臨界モードpfc制御ic「fa5590シリー … · 富士時報 vol.83...

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富士時報 Vol.83 No.6 2010 405( 49 ) 1 まえがき 近年電子機器小型化軽量化い,スイッチング 電源普及している。スイッチング電源では,コンデ ンサインプット整流 ・ 平滑回路採用しているため, 変換大量電源高調波電流発生している。電源高 調波電流増加は,機器動作障害や,力率低下による 無効電力増加などの問題発生させるため,高調波電流 一定以下える法的規制われている。 この高調波電流および力率問題解決するためには, 力率改善PFCPower Factor Correction回路必要 となる。力率すことができるアクティブフィ ルタ方式PFC 回路使われるようになってきてい アクティブフィルタ方式PFC 回路制御する IC は,大電力250 W 以上)の電源いられる連続モー PFC 制御 IC と,小電力いられる臨界モード PFC 制 御 IC とがある。 連続 モード PFC 制 御 は,インダク タの 電流 がゼロになる MOSFETMetal - Oxide - Semiconductor Field - Effect Transistor)をターンオンさ せるため,ピーク電流くできる。さなインダクタで きな電力ることができるが,ターンオンのノイズと 損失きい。一方臨界モード PFC 制御は,インダク タの電流がゼロになることを検出して MOSFET をターン オンさせるため,ターンオンのノイズと損失さくでき るが,ピーク電流くなる。このため,インダクタをきくする必要があり,大電力電源ではコストアップとな る。 富士電機では,連続モード PFC 制御 IC 臨界モード PFC 制御 IC 両方製品化している。 また,地球環境るために,電気製品全般エネル ギーが重要となってきている。EPS 注1EuP 注2などの電子機 消費エネルギーを制限する規格られ,年々そのしくなっている。 これらの規格では,待機電力制限や,軽負荷めた 負荷領域での最低効率平均効率制限がある。PFC 回路においても,待機電力削減や,軽負荷での効率可能制御 IC められている。 富士電機では,第 1 世代臨界モード PFC 制御 IC して,「FA5500 シリーズ 製品化 した 。さらに, 市場要求えるため,待機電力削減し,軽負 荷時効率改善する第 2 世代臨界モード PFC 制御 IC 「FA5590 シリーズ開発ったので報告する。 2 第 2 世代の臨界 PFC 制御 IC 今回開発 した 第2世代 臨界 モード PFC 制 御 IC 「FA5590 シリーズ外観図₁す。また,第1世 臨界モード PFC 制御 ICFA5500 シリーズ」との表₁す。 .₁ 特徴 前述したように,PFC 回路待機電力削減軽負荷 効率向上のほかに,電源のコストダウンや安全性などがめられている。 第 2 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA5590 シリーズ」 菅原 敬人 Takato Sugawara 大和  誠 Makoto Owa 手塚 伸一 Shinichi Tezuka “FA5590 Series” of 2nd Generation Critical Mode PFC Control ICs 電源消費電力削減貢献するため,第 2 世代臨界モード PFCPower Factor Correction制御 ICFA5590 リーズ」を開発した。オン幅固定制御方式採用して待機電力削減するとともに,軽負荷時最大発振周波数制限する 機能により効率改善している。また,インダクタの電流がゼロになるタイミングを検出する方式変更してインダクタの 補助巻線不要にしている。そのため,電源部品点数なくなりコストを削減できる。同時保護機能充実精度向 により,安全性向上にも貢献できる製品となっている。 To help reduce power consumption in power supplies, the FA5590 Seriesof 2nd generation critical mode PFC (power factor correction) control IC has been developed. Standby power is reduced by using a fixed ON-time control system, and efficiency is improved by using func- tion to limit the maximum oscillation frequency during light-load operation. Additionally, the method for detecting when the inductor current becomes zero has been changed to eliminate the need for an auxiliary winding of the inductor. Consequently, the power supply has fewer parts and cost can be reduced. Also, an enhanced protection function and improved accuracy enable these products to contribute to improved safety. 注1EPS国際エネルギースタープログラムの外部電源装置EP S基準国際エネルギースタープログラムは,OA 機 エネルギーのための国際的環境ラベリング経済産業省米国環境保護庁相互承認している。 注2EuP環境配慮設計する EU欧州連合)の指令

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富士時報 Vol.83 No.6 2010

405( 49 )

1 まえがき

近年,電子機器の小型化,軽量化に伴い,スイッチング

電源が広く普及している。スイッチング電源では,コンデ

ンサインプット型の整流 ・ 平滑回路を採用しているため,

変換に際し大量の電源高調波電流が発生している。電源高調波電流の増加は,機器の動作障害や,力率の低下による

無効電力の増加などの問題を発生させるため,高調波電流を一定以下に抑える法的規制が行われている。

この高調波電流および力率の問題を解決するためには,

力率改善(PFC:Power Factor Correction)回路が必要となる。特に高い力率を出すことができるアクティブフィ

ルタ方式の PFC 回路が広く使われるようになってきてい

る⑴

アクティブフィルタ方式の PFC 回路を制御する IC に

は,大電力(250 W 以上)の電源で用いられる連続モー

ド PFC 制御 IC と,小電力で用いられる臨界モード PFC制御 IC とがある。連続モード PFC 制御は,インダク

タの電 流がゼロになる前に MOSFET(Metal-Oxide-

Semiconductor Field-Effect Transistor)をターンオンさ

せるため,ピーク電流を低くできる。小さなインダクタで

大きな電力を取ることができるが,ターンオンのノイズと

損失が大きい。一方,臨界モード PFC 制御は,インダク

タの電流がゼロになることを検出して MOSFET をターン

オンさせるため,ターンオンのノイズと損失を小さくでき

るが,ピーク電流が高くなる。このため,インダクタを大きくする必要があり,大電力の電源ではコストアップとな

る。

富士電機では,連続モード PFC 制御 IC と臨界モード

PFC 制御 IC の両方を製品化している。

また,地球環境を守るために,電気製品全般の省エネル

ギーが重要となってきている。EPS〈注 1〉

,EuP〈注 2〉

などの電子機器の消費エネルギーを制限する規格が作られ,年々その規格が厳しくなっている。

これらの規格では,待機電力の制限や,軽負荷を含めた

広い負荷領域での最低効率や平均効率に制限がある。PFC回路においても,待機電力の削減や,軽負荷での効率の向上が可能な制御 IC が求められている。

富士電機では,第 1 世代の臨界モード PFC 制御 IC と

して,「FA5500 シリーズ」 を製品化した⑵

。さらに,前述の市場要求に応えるため,待機電力を削減し,軽負荷時の効率を改善する第 2 世代の臨界モード PFC 制御IC 「FA5590 シリーズ」 の開発を行ったので報告する。

2 第 2 世代の臨界 PFC 制御 IC

今 回 開 発 した 第 2 世 代 の 臨 界 モード PFC 制 御 IC 「FA5590 シリーズ」 の外観を図₁に示す。また,第 1 世代の臨界モード PFC 制御 IC「FA5500 シリーズ」との比較を表₁に示す。

₂.₁ 特徴

前述したように,PFC 回路の待機電力の削減と軽負荷時の効率向上のほかに,電源のコストダウンや安全性の向上などが求められている。

第 2 世代臨界モード PFC 制御 IC「FA5590 シリーズ」 

菅原 敬人 Takato Sugawara 大和  誠 Makoto Owa 手塚 伸一 Shinichi Tezuka

“FA5590 Series” of 2nd Generation Critical Mode PFC Control ICs

電源の消費電力の削減に貢献するため,第 2 世代の臨界モード PFC(Power Factor Correction)制御 IC「FA5590 シ

リーズ」を開発した。オン幅固定制御方式を採用して待機電力を削減するとともに,軽負荷時の最大発振周波数を制限する

機能により効率を改善している。また,インダクタの電流がゼロになるタイミングを検出する方式を変更してインダクタの

補助巻線を不要にしている。そのため,電源の部品点数が少なくなりコストを削減できる。同時に保護機能の充実,精度向上により,安全性の向上にも貢献できる製品となっている。

To help reduce power consumption in power supplies, the “FA5590 Series” of 2nd generation critical mode PFC (power factor correction) control IC has been developed. Standby power is reduced by using a fixed ON-time control system, and efficiency is improved by using func-tion to limit the maximum oscillation frequency during light-load operation. Additionally, the method for detecting when the inductor current becomes zero has been changed to eliminate the need for an auxiliary winding of the inductor. Consequently, the power supply has fewer parts and cost can be reduced. Also, an enhanced protection function and improved accuracy enable these products to contribute to improved safety.

〈注 1〉EPS:国際エネルギースタープログラムの外部電源装置(EP

     S)基準。国際エネルギースタープログラムは,OA 機

     器の省エネルギーのための国際的な環境ラベリング制

     度。経済産業省と米国環境保護庁の相互承認の下で運

     営している。

〈注 2〉EuP:環境配慮設計に関する EU(欧州連合)の指令

第2世代臨界モードPFC制御 IC「FA5590シリーズ」富士時報 Vol.83 No.6 2010

406( 50 )

これらの要求に応えるため,FA5590 シリーズは次の特徴がある。

⑴ 制御方式と電流検出方式の変更従来の FA5500 シリーズのピーク電流制御方式からオン

幅固定制御方式に変更することにより,入力電圧の検出抵抗を不要とし,部品点数と待機時の消費電力を削減した。

さらに,インダクタのゼロ電流の検出を IS 端子で行うこ

とにより,補助巻線とバイパスダイオードが不要になり,

電源システムの低コスト化を可能とした。

⑵ 最大発振周波数の制限軽負荷時のスイッチングの最大発振周波数を制限するこ

とにより,MOSFET のスイッチング損失を低減し,平均効率を改善した。

⑶ 保護機能の充実従来の FA5500 シリーズのスタティック過電圧保護に加

え,ダイナミック過電圧保護機能を追加することにより,

起動時のインダクタの音鳴りをなくした。また,過電流検出の高精度化を行い,電源の安全性を向上させた。

₂.₂ 動作説明

⑴ 待機電力の削減(オン幅固定制御)

この力率制御 IC では,発振器によらず,自励発振を利用している。図₂に概略動作回路を,図₃にスイッチング

動作における各部波形を示す。

図₃の時刻 t1において,MOSFET(Q1)がオンすると,

インダクタ(L1)の電流はゼロから上昇する。同時に IC内部のランプ発振器の出力 Vramp が RT 端子の抵抗で決ま

る傾きで上昇する。

時刻 t2において,ランプ発振器の出力 Vrampとエラー

アンプの出力 Vcompを PWM コンパレータが比較し,

Vramp>Vcompで Q1 はオフし,ランプ発振器の出力は低下す

る。Q1 がオフすると,L1 の電圧は反転し,D1 を通して

出力側へ電流を供給しながら,L1 の電流は減少する。

時刻 t3において,L1 の電流を IS 端子で検出し,電流が

ゼロになるタイミングをコンパレータで検出する。RTZC端子の抵抗で決まる遅延時間の後に Q1 がオンし,次のス

ACQ1

Rs

D1L1

C1 +

OUT

FB

2.5VERRAMPCOMP

R

S

Q

IS

Vo

TIMER

SPOVP

UVLODelay RAMP

OSC

Restart

Restart-0.6V

-10mV

RT

RTZC

+-

+-

+-

+-

Vds

I L1I in

V comp

V ramp

7

1

2

5

4

3

PWMcomp

OCPcomp

ZCDcomp

図₂ 概略動作回路

OUT(Q1 gate)

Q1Vds

I L1

V comp

V rampPWMcomp出力

(reset)

ZCDcomp出力(set)

t 1 t 1t 2 t 3

図₃ スイッチング動作における各部波形

表₁ 臨界モードPFC制御 ICの比較

項 目 「FA5590シリーズ」(第2世代)

「FA5500シリーズ」(第1世代)

安定性 制御方式 電圧制御 ピーク電流制御

低待機

入力電圧検出 不 要 要

スタンバイ消費電流 30µA 1mA

低コスト

ゼロ電流検出補助巻線 不 要 要

高効率 最大発振周波数制限機能 あ り な し

負荷応答

エラーアンプ最大出力電流 ±40µA ± 10µA

安全性

過電流検出電圧 −0.6V± 3.3% 1.5V± 20%

ダイナミック過電圧保護機能 あ り な し

ソフトスタート機能 あ り な し

図₁ �第 2世代臨界モード PFC 制御 IC「FA5590 シリーズ」の外観

第2世代臨界モードPFC制御 IC「FA5590シリーズ」富士時報 Vol.83 No.6 2010

407( 51 )

イッチングサイクル t1に移行する。この動作の繰返しに

より,IC は臨界動作する。

上述のスイッチング動作において,PFC 回路の負荷が

一定の場合,Vcompは一定となり,オン幅は一定になる。

このとき,インダクタのピーク電流は⑴式で与えられる。

 I

LV

tmax

in

on=

…………………………………………⑴

  Imax:L1 のピーク電流   Vin:入力電圧   L:L1 のインダクタンス値   ton:オン幅⑴式において,L,tonは一定のため,L1 のピーク電流

は Vinに比例する。その波形は入力電圧と同じ AC 波形と

なる。この動作により力率改善が可能となる。

この制御方式は,一般にオン幅固定制御と呼ばれている。

従来のピーク電流制御では,入力電圧を検出する必要があ

るため,待機時に入力電圧検出抵抗によって,⑵式に示す

電力が消費されていた。一方,オン幅固定制御では,入力電圧を検出する必要がないので,この電力が削減できる。

 P

RV

2loss

vinin= …………………………………………⑵

  Ploss:入力電圧検出抵抗での損失   Vin:入力電圧  Rvin:入力電圧検出抵抗値従来の FA5500 シリーズの評価用ボードの場合,⑵式に

基づいて計算すると,損失は入力電圧 230 V で 77 mW と

なる。EPS や EuP などの待機電力の規格には,2011 年度以降,電子機器の待機時の消費電力を 500 mW 以下にし

なければならないという規定がある。規定の上限である

500 mW の 15% に相当する 77 mW が削減でき大きな効果が期待できる。

⑵ 軽負荷時の効率改善臨界動作の PFC 回路は,軽負荷時にスイッチング周波

数が増加し,MOSFET のスイッチング損失が増え,効率が低下するという問題がある。第 2 世代の FA5590 シリー

ズは,最大発振周波数を制限する機能によって軽負荷時に

おける周波数の上昇を抑制し,MOSFET の損失を低減し

て効率を改善している。

図₄に,最大発振周波数動作の波形を示す。スイッチン

グ周波数が最大発振周波数 Fmax以下の場合,IC はインダ

クタ電流がゼロになるタイミングを検出し,RTZC 端子で

決まる遅延時間 tZCDの後に MOSFET をターンオンさせる。

スイッチング周波数が Fmaxで制限される軽負荷時の場合,インダクタ電流がゼロになるタイミングを検出しても,

tZCDの後にターンオンせず, t=1/Fmaxの周期でターンオン

する。効率と力率はトレードオフの関係がある。そこで,

電源設計者は,Fmaxを RT 端子の抵抗で調整して,電源の

要求仕様に合わせて力率 - 効率の設定を行えるようにし

ている。

図₅に,100 W 定格の電源で比較した FA5500 シリーズ

と FA5590 シリーズの軽負荷時の効率を示す。FA5590 シ

リーズは,FA5500 シリーズと比較して,20% 負荷で効率が 3 ポイント上昇している。また,20%から100% までの

平均効率では 1 ポイント上昇している。

EPS,EuP の効率に関する規格には,最低効率を規定するものと,平均効率を規定するものがある。どちらの規格に対しても FA5590 シリーズを使用すると,軽負荷時の

効率改善により効率アップの効果が得られている。

⑶ 電源システムの部品点数削減に貢献

インダクタ電流

MOSFETのVds

t zcd

Fmax=1/t

図₄ 最大発振周波数動作の波形

90~264V + +

Input

Filter

入力電圧検出抵抗

削減

削減

削減

インダクタ

バイパスダイオード

VCCGNDRTRTZC

FBOUTCOMP

IS

昇圧ダイオード

Vac

図₆ �「FA5590シリーズ」を使用することにより「FA5500シリーズ」から削減できる電源部品

効率(%)

94

92

90

88

86

96入力電圧230V

出力電力(W)

10 20 30 40 50 600

FA5590シリーズ

FA5500シリーズ

図₅ �「FA5500シリーズ」と「FA5590シリーズ」の軽負荷時の効率比較

第2世代臨界モードPFC制御 IC「FA5590シリーズ」富士時報 Vol.83 No.6 2010

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第 2 世代の FA5590 シリーズは,FA5500 シリーズに比べて,周辺部品を大幅に削減し,電源のコストダウンを実現できる IC となっている。図₆に,FA5590 シリーズを

使用することにより,FA5500 シリーズから削減できる電源部品を示し,次に概略を説明する。

⒜ 第 2 世代の FA5590 シリーズは,オン幅固定制御方式を用いるので,FA5500 シリーズで必要であった入力電圧検出抵抗が不要になっている。それに伴い,高い入力電圧が印加するパターンを引き回さなくてよい

ため,電源基板の設計が容易となる。

⒝ 従来の FA5500 シリーズでは,インダクタの電流が

ゼロになるタイミングをインダクタの補助巻線の電圧で検出していた。FA5590 シリーズでは,IS 端子を従来のプラス検出からマイナス検出へ変更することで,

L1 の電流がゼロになるタイミングを IS 端子で検出し

ている。これによりインダクタの補助巻線が不要にな

る。補助巻線がないので,部品のコスト削減だけでは

なく,補助巻線を巻く工程が削減でき,電源製造工程

の短納期化にも貢献する。

⒞ PFC 回路は,非絶縁の昇圧回路であるため,入力電圧投入時に,出力の電解コンデンサへのチャージ電流が流れる。この電流は通常動作時の電流より十倍以上大きい電流(ラッシュ電流)である。

 従来の FA5500 シリーズは,IS 端子がプラス検出のため,MOSFET がオフしているときに L1 の電流を検出できず,このチャージ電流発生時にスイッチン

グしてしまい,昇圧ダイオードが破壊してしまう。こ

れを避けるため,FA5500 シリーズを使用した電源で

は,入力と出力をバイパスするダイオードが挿入され

ている。

 前述のとおり,FA5590 シリーズは IS 端子がマイ

ナス検出であるため,このチャージ電流が流れている

間,MOSFET をターンオンさせないことが可能であ

る。これにより,昇圧ダイオードの破壊を防ぐことが

でき,従来必要だった入力と出力をバイパスするダイ

オードを削減できる。

100

70

オン幅(%)

ダイナミック過電圧保護

スタティック過電圧保護

FB電圧( /  )

1.051(2.5V)

1.09

VV FB

図₇ 過電圧保護動作

PFC回路起動

ダイナミック過電圧保護なし

ダイナミック過電圧保護あり

音鳴りなし

音鳴り発生

スタティック過電圧保護動作

時間

1.09

1.05

FB電圧( /  )

VV

FB

図₈ PFC回路起動時動作

85~264Vac

F1016.3A

J101 R102510k

R103510k

C101

0.47µ

1

12

3

L

N

FB

COMP

RT

RTZC

VCC

OUT

GND

IS

FA5590

L101

TH1015D22

D101600V25A

C2011µ

R207150

IC201C2101000p

L201 175µH 390V200W

VCCGND

J201

L102R101510k

ZT101

C1021000p

C1031000p

C1040.47µ

C1052200p

C1062200p

D201

R215620k

R216620k

R217620k

R218680k

R21916k

VR201

C202220µ

R20822

R20947k

D203

C21156µ

+R214100k

C2090.1µ

R2010.068

R213

47

C2082200pR212

20kC2070.01µ

R21151k

C2120.01µ

C2050.1µC206

0.15µ

R21068k

J202

D205

1

4GNDERA91-02

D204

FMH21N50ESQ201

YG952S6RP

図₉ 応用回路例

第2世代臨界モードPFC制御 IC「FA5590シリーズ」富士時報 Vol.83 No.6 2010

409( 53 )

これらのことにより,FA5590 シリーズは FA5500 シ

リーズと比較して,電源の部品や製造工程を削減し,電源のコストダウンを実現できる IC となっている。

⑷ 安全性の向上(ダイナミック過電圧保護)

従来の FA5500 シリーズには,起動時や負荷急変時など

に出力が一定電圧以上に上昇すると,スイッチングを停止して出力電解コンデンサが耐圧破壊を防ぐスタティック過電圧保護機能を搭載している。

しかし,スイッチングを急に停止すると,インダクタ

電流が急変して,音鳴りが発生する。そこで,FA5590 シ

リーズでは,図₇に示すように,従来のスタティック過電圧保護機能に加え,FB 端子電圧が 2.5 V を超えると,オ

ン幅を過電圧に比例して狭くするダイナミック過電圧保護機能の二つの過電圧保護機能を搭載している。

通常,FB 端子は,エラーアンプの基準電圧とほぼ同じ

2.5 V で動作している。起動時または負荷急変時に出力電圧が上昇し,FB 端子の電圧が 2.5 V を超えると,最初に

ダイナミック過電圧保護機能によりオン幅が狭くなり,出力電圧の上昇を防ぐ。それでも出力電圧が上昇すると,ス

タティック過電圧保護によりスイッチングを停止する。出力電圧が一定電圧以下に戻ると,スイッチングを再開する。

図₈に,ダイナミック過電圧保護の有無による PFC 回路起動時の動作の違いを示す。ダイナミック過電圧保護機能があると,オン幅を過電圧に比例して狭くし,インダク

タ電流は出力電圧の上昇に伴って徐々に減少する。インダ

クタの電流の急変がないため,音鳴りはしない。

また,FA5590 シリーズでは,上述の過電圧保護機能のほかに,MOSFET の過電流保護検出の精度向上,⑵で

述べた最大発振周波数を制限する機能により,異常時に

MOSFET の高速スイッチングを防止する機能,⑶で述べ

たラッシュ電流発生時に MOSFET をスイッチングさせな

い機能などの電源部品の破壊を防ぐ機能により,電源の安全性の向上を行っている。

3 応用回路例

図₉に,応用回路例(入力 85 〜 264 V,出力 390 V,

200 W)を示す。図₁0 に同回路で測定した力率特性比較を,

図₁1 に第 2 世代の FA5590 シリーズの高調波電流特性を

示す。

力率特性は,ワールドワイドな入力電圧 100 V と 230 Vの定格負荷で,一般的な電子機器に求められる力率 0.95以上を維持できている。

高調波電流特性は,電子機器に必要な IEC 61000-3-2クラス D の規格を満足している。

4 あとがき

電源の待機電力の削減,軽負荷時の効率改善,コスト

削減,安全性の向上を実現できる第 2 世代の臨界モード

PFC 制御 IC 「FA5590 シリーズ」 について紹介した。今後も,さまざまな市場要求に合わせた機能を持つ系列化を

行うとともに,年々厳しくなる規格 ・ 市場要求に応える開発を行っていく所存である。

参考文献⑴  鹿 島 雅 人 ほ か. 電 流 連 続 モ ー ドPFC回 路 用 電 源IC

「FA5550/5551シリーズ」. 富士時報. 2007, vol.80, no.6, p.441-

444.

⑵ 鹿島雅人, 城山博伸. CMOS力率制御用電源IC. 富士時報.

2001, vol.74, no.10, p.551-553.

菅原 敬人スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括部ディスクリート・IC 技術部。

1.0

0.9

0.8

0.7

力率

出力電力(W)

0 50 100 150 200

FA5590(入力電圧 100V)

FA5500(入力電圧 100V)

FA5590(入力電圧 230V)

FA5500(入力電圧 230V)

図₁₀ 応用回路での力率特性比較

1

10

0.1

0.01

0.001

高調波電流(A)

AC100V入力,200W出力

IEC 61000-3-2クラスDの規格

次数

1 53 15 25 35 39

図₁₁ 応用回路での「FA5590シリーズ」の高調波電流特性

富士時報 Vol.83 No.6 2010

410( 54 )

大和  誠スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括部ディスクリート・IC 技術部主査。

手塚 伸一スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括部ディスクリート・IC 技術部。

第2世代臨界モードPFC制御 IC「FA5590シリーズ」

* 本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する

商標または登録商標である場合があります。