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Unlocking Growth in the Middle How Business Model Innovation Can Capture the Critical Middle Class in Emerging Markets

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Unlocking Growth in the MiddleHow Business Model Innovation Can Capture the Critical Middle Class in Emerging Markets

Page 2: Unlocking Growth in the Middle...How Business Model Innovation Can Capture the Critical Middle Class in Emerging Markets ボストン コンサルティング グループ(BCG)

ボストン コンサルティング グループ(BCG)

BCG は、世界をリードする経営コンサルティングファームとして、政府・民間企業・非営利団体など、さまざまな業種・マーケットに

おいて、カスタムメードのアプローチ、企業・市場に対する深い洞察、クライアントとの緊密な協働により、クライアントが持続的競

争優位を築き、組織能力(ケイパビリティ)を高め、継続的に優れた業績をあげられるよう支援を行っています。

1963 年米国ボストンに創設、1966 年に世界第 2 の拠点として東京に、2003 年には名古屋に中部関西オフィスを設立。現在世

界 42 ヶ国に 77 拠点を展開しています。

http://www.bcg.co.jp/

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ビジネスモデル・イノベーションで

新興国中間層をとらえる

Zhenya Lindgardt, Christoph Nettesheim, Ted Chan October 2012

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2 THE BOSTON CONSULTING GROUP

新興国で中間層入りする何十億人もの消費者をめぐる争いは、今後 10~20 年でもっとも熾烈な商戦となるだろう。

彼らは2020年までに世界の人口の 30%を占めるに至ると考えられている。だが、多国籍企業の多くは、すでに新興

国に進出している企業を含め、まだこの新しい成長の流れに乗る備えがあるとは言い難い。

端的にいえば、多国籍企業のビジネスモデルは新興国の中間層向けに設計されたものではない。多国籍企業

の多くは、デリーや上海、リオデジャネイロといった大都市のもっとも富裕な消費者層に対し、既存のハイエンド商品

を一般的な流通ルートを通じて提供している。過去に成功をおさめた戦略ではあるが、この最富裕層のセグメントは

すでに飽和状態になりつつある。

先進国向けのビジネスモデルは、こうした国々で中間層の顧客を獲得するには適していない場合がほとんどだ。

多国籍企業が新興国で収益性を確保しつつ成功するには、商品の設計やパッケージのしかたを変えるとともに、全

体のコスト構造を再考し、流通網を最適化する必要がある。

多くの場合、多国籍企業はゲームに出遅れ、新興国の中間層市場はすでに地元の優良企業に席巻されている。

こうした新興国企業は自国市場を飛び出し、グローバルリーダーを追い落とす野心を抱いている。インドの IT 企業

インフォシスは低コストを武器にグローバル市場で IBM やアクセンチュアと競い、ブラジルのエンブラエルは積極的

なアウトソーシングで製造工程のリスクを分散させ、ボーイングや BAE に挑む。多国籍企業は新興国の中間層市場

でのチャンスを追求しながら、自国市場を防衛することも学ぶ必要がある。

新興国中間層の顕著な成長力

新興国向けにビジネスモデル・イノベーションを起こすことは、その成果の大きさを考えると非常に意義のある取り

組みである。新興国経済は今後 10 年、年平均 5.5%で成長すると予想されるが、その間の先進国経済の予想成長

率は 2.6%にすぎない。世界の GDP に占める新興国経済の割合は、現在の 31%から 2020 年には 45%に上昇する

見込みだ。ブラジル、中国、インド、メキシコ、ロシアだけではなく、アフリカや東欧、南米などに位置する多くの国々

が高い経済成長率を達成すると考えられる。

こうした新興国では、中間層の平均収入は年間 8%伸び、2015 年までには全体で 4 兆ドルに達すると見込まれる。

中国の中間層世帯の割合は 2010 年の全体の 28%から、2020 年には 47%に、インドでは同じく 28%から 45%に拡

大するとわれわれは推計している(図表 1)。

だが、新興国中間層の収入は、欧米や日本の中間層に比較すると、依然として著しく低水準にとどまる。ここでは、

中国では家計年収が 7,300 ドルから 23,200 ドル(2010 年ベース価額)までの世帯、インドで 6,700 ドルから 20,000ドル(同)までの世帯を中間層と定義している。しかし、こうした世帯は中間層的な憧れを抱いており、このセグメント

の成長がインテリア用品、ヘルスケア商品、金融サービスなど、彼らにとってかつては手が届かなかったが今では必

需品になりつつある商品・サービスの需要を押し上げている。自動車市場における新興国都市の市場シェアを見る

と、他の市場にもこれから起こることがよくわかるだろう。2000年には 新興国都市のシェアは全体の販売額の 8%に

過ぎなかったが、2010 年には 37%まで上昇している。

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3 THE BOSTON CONSULTING GROUP

収入拡大の地理的分布も、多国籍企業にとって見慣れたパターンとは異なる。いくつかの新興国市場では、国

際的知名度の低い、中小規模の都市で経済がより急成長している。新興国では人口500万人に満たない都市の住

民が人口の 83%を占め、人口増加率も大都市よりも大きい。これにより、たとえば、新興国では消費者金融の収入

の 65%がこうした都市であげられている。このような事象は他の産業にも見られ、企業は販売・流通戦略の見直しを

迫られている。

すでに中規模都市への進出を始めた多国籍企業もある。フォードは 2007 年、サマリンダにインドネシアにおける

同社初のディーラーを開設した。その後 2 年間、当地域での売上は年率 30%で伸びている。トミーヒルフィガーは

2010 年、インドのアムリッツアル、ボパール、デヘラードゥーンに出店した。 中国では、ベストバイ、カルフール、ウ

ォルマートなどの巨大小売チェーンが中小都市で急速に店舗網を拡大している。

脅威にさらされる多国籍企業

新興国ではまた、われわれが「グローバル・チャレンジャー」と呼ぶ地元の優良企業群が成長中の中間層を取り込

んで規模を拡大し、自国で、また国外においても従来の経済秩序を揺るがそうとしている。彼らの提供する商品・サ

ービスやビジネスモデルがより洗練されていくにつれ、先進国企業との真っ向勝負となる。自国市場をこうしたチャ

世帯数(百万)

世帯割合(%)

世帯数(百万)

世帯割合(%)

図1. 拡大する中間層が消費をリード

注:所得階層は名目ドルベースの年収換算。2010年中国: 低所得層: 7,300ドル未満、中間層:7,300ドル以上23,200ドル未満、富裕層: 23,200ドル以上。 2020年中国: 低所得者層: 9,900ドル未満、中間層: 9,900ドル以上31,300ドル未満、富裕層: 31,300ドル以上。インド 2010年: 低所得層: 6,700ドル未満、中間層: 6,700ドル以上 20,000ドル未満、富裕層: 20,000ドル以上。インド 2020年: 低所得層: 11,200ドル未満、中間層: 11,200ドル以上33,500ドル未満、富裕層: 33,500ドル以上。すべての所得階層は2005年基準の購買力平価ベースで低所得者層:15,000ドル未満、中間層: 15,000ドル以上45,000ドル未満、富裕層: 45,000ドル以上となるよう調整している。出所: Euromonitor、BCG分析

2010年の 所得分布 2020年の 予想所得分布

中国

インド

12

45

43

21

47

32

4

28

68

6

28

66260

109

24

138

202

91

9

63

152

117

110

32

富裕層

中間層

低所得層

富裕層

中間層

低所得層

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4 THE BOSTON CONSULTING GROUP

レンジャーたちから防衛するためにも、新興国の中間層にアプローチするためにも、ビジネスモデル・イノベーション

に取り組むことが非常に重要である。

たとえば、ブラジルのスキンケア商品メーカー、ナトゥーラの売上は 6 割が中間価格帯の化粧品、フレグランス商

品で構成されている。同社は他のラテンアメリカ諸国の市場を注意深く精査し、それぞれの市場にあった商品を投

入、130 万人の「ビューティコンサルタント」を通じた訪問販売を行っている。他にも中国の通信機器メーカーの華為

技術、中国の医療機器メーカーのマインドレイ、インドのタタなど、自国の中間層市場での経験を応用して、他国市

場へ拡大しているチャレンジャー企業もある。

ワイヤレス通信機器業界の例を見てみよう。 2006 年時点でのトップ 7 社はすべて欧米の歴史ある企業だったが、

そのうち 4 社は買収されたか合併し、現在では中国の新興企業である華為技術と ZTE がトップ5入りしている。華為

は、1988 年に設立され、収益性を維持しつつ、桁外れの成長を達成し、2011 年の売上は 320 億ドルに上る。中国

で磨かれた低コストビジネスモデルを武器に、華為は現在、ワイヤレスネットワーク機器の分野でエリクソンに次ぐ世

界第 2 位に位置する。

超低価格車、ナノを開発したタタ・モーターズはインドのトラック市場で培った強みを活用し、他の新興国へ向け

たトラック輸出を推進している。タタはロシアのトラック市場の膨大な潜在的成長性に目をつけ、もし、自社の商品や

ビジネスモデルを市場のニーズに適応させることができれば、地元の完成車メーカーに挑戦する糸口が開けると考

えた。小型トラックを例にとれば、タタのスーパーエースは、ロシアで展開するにはもっとトルクが必要で、荷台も大き

くなければならない。キャビンも広くなければならず、もちろん、ミラーヒーターも必要だ。タタは、どのブランドを押し

出すか、自社所有のサービスセンターを利用するか、自動車ローンをどのように提供するかなど、さまざまなビジネ

スモデルの要素について注意深く検討している。

先進国のビジネスモデルは通用しない

新興国でこうしたグローバル・チャレンジャーと競い合い、中間層の市場に分け入るためには、多国籍企業は現

在うまく行っているビジネスモデルを策定した時と同様に、分析や設計のステップひとつひとつに真剣に取り組む必

要がある。中間層消費者の購買力の相対的な低さや、競争環境の相違、消費者の地理的分散度の高さ、消費者

の優先順位や期待度の違い、急速に変化するインフラ、政治の影響、規制など、新興国市場には特有の事情があ

るため、たいていの場合、何らかのビジネスモデル・イノベーションが不可欠となる(図表 2)。

ビジネスモデル・イノベーションとは、新たなチャンスに取り組むために、新しいバリュープロポジション (価値提案、

誰に何を提供し、どう収益を確保するか)を創造し、それを支える独自のオペレーション・モデル(新たなバリュープロ

ポジションを、利益を上げつつ顧客に届ける仕組み)を構築することだ。衰退期に入っているコアビジネスを再構築

し、新たな成長の道すじを探るときなどにも利用可能である。新興国では、利益を維持しつつ中間層の求める価格

設定を実現するために、少なくとも、オペレーション・モデルは低コストに設計し直さなければならない。

地元の好みにあわせて商品をカスタマイズする必要があることを理解している企業は多いが、それだけでは不十

分だと認識している企業はそれほど多くない。新興国で持続的な優位性を築くためには、ビジネスモデルを根本か

ら変える必要がある。流通網など先進国では当たり前のバリューチェーンの要素に根本的な相違があるため、イノベ

ーションが求められる。

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5 THE BOSTON CONSULTING GROUP

たとえばインドでは、国内の流通業や小売店を保護するために、テスコやウォルマートなど、複数ブランドを扱う外

資系総合小売業チェーンは単独での営業を許されていない。そのため、消費財メーカーはインドの消費者にリーチ

するため、綿密に考えられた、特別の流通スキームを開発する必要がある。

インドの小都市と農村地域に商品を提供しようとした時、どのような課題に直面するか、考えてみてほしい。大都

市から離れた地域には、翌日配達が可能な配送サービスも、大規模な倉庫などの施設もない。小規模事業者は十

分なクレジット履歴を持っていないことが多いため、サプライヤー自らファイナンスを提供しなければならない場合も

ある。こうした特徴から、インドのニーズにあわせた独自のビジネスモデルが必要になってくる。

さらに、「中間層」といっても、国・地域により好みや消費パターンは実に多様である。商品開発、品質、マーケティ

ング、価格設定、販売、流通などの課題は、国ごとに、あるいは、一国のなかでも地域ごとに、いくつものパターンを

考えなければならなくなる。たとえば中国は、文化、民族性、消費行動が実に多様で、単一市場ではなく、むしろ多

くの異なる市場のパッチワークのようなヨーロッパに似ているといわれる。

このような環境で、中間層に向けて魅力的で採算の取れるバリュープロポジションを提供するため、調達や販売と

いった単一機能の強化にとどまらず、ビジネスの多くの側面におよぶ一連の変化を起こすのが、ビジネスモデル・イ

ノベーションである。実行は非常にむずかしいが、成功すれば模倣されにくい。ある産業財多国籍企業の中国部門

バリュープロポジション

商品・サービスターゲット・セグメント

収益モデル

オペレーション・モデル

バリューチェーン

コスト・モデル

組織体制

低い購買力

地理的に分散した消費者

急速に変化するインフラ

政治の影響と規制

異なる競合状況

リソース・コストの相違

消費者の優先順位やニーズの相違

不十分な既存のシステム

出所: BCG分析

図2. 新興国特有の環境: ビジネスモデル・イノベーションが必須

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リーダーはこう語る。「これは、地域の特性に応じ商品を最適化したり、ブランドの複線化を行ったりするだけの問題

ではない。ビジネスモデル全体にかかわる問題だ。たとえ十分ニーズに合った商品があっても、販売・マーケティン

グ、R&D、人材などの面で従来のやりかたを続けていたら貯金を食いつぶしてしまう。地元企業と競合するために

はビジネスモデルを大きく変える必要がある」。

ビジネスモデル・イノベーションの 4 つのステップ

新興国の中間層市場を切り拓いた多国籍企業は、この市場のチャンスと脅威について、筋道を立てて考えてき

た。筆者らは、こうした成功企業のさまざまな経験からエッセンスを抽出して、以下の 4 つのステップに整理した。こ

れからこの市場に本格的に参入する企業の経営陣のヒントになれば幸いである。

カスタマー・ディスカバリーを通じた事業機会の探索 ビジネスモデル・イノベーションは、各市場におけるタ

ーゲット顧客のニーズや購買行動、買う気になる価格帯を深く理解し(カスタマー・ディスカバリー)、事業機会の潜

在的規模を把握する組織能力を身につけることから始まる。ここでは 2 つの探索方法が有効である。第 1 に、新しい

タイプの需要を引き起こすメガトレンドについて分析すること。第 2 には、中間層の未充足ニーズについての仮説を

深く綿密に検証することである。同時に、コーポレート(本社機能)は、自社で扱う複数の商品・市場にまたがる中間

層向け事業機会を特定すべきである。

5 年ほど前、欧州の電機大手、フィリップスの経営陣は、新興国中間層の興隆というトレンドにより自社が大きな恩

恵を受け得ることに着目した。ヘルスケアが手の届くサービスになっていけば医療機器の市場拡大が見込まれ、高

品質の住宅建設が照明器具へのニーズ拡大につながり、家計資産の増加につれ家電機器や健康器具の市場も

広がる。そこでフィリップスは、まず中国・インド・ブラジルの市場にターゲットを定め、新興国市場に向けた戦略とビ

ジネスモデルを開発した。同社は、この新たなビジネスチャンスをものにするためには、現地の中間層世帯に適した

商品群をポートフォリオに加えることが必要であることを認識した。また、これらの国々の現地組織に、より大きな権

限を与えることにした。

中間層向けの冷蔵庫「チョットクール」を開発したインドのコングロマリット、ゴドレジグループの例は第 2のタイプの

探索方法、すなわちターゲット顧客層に焦点を絞った深い分析にあたる。ゴドレジは、冷蔵庫を持たないインドの

人々がどのように食品を冷やそうとしているかをつぶさに観察し、農村部の女性たちとともにプロトタイプを作成した。

開発した製品は、コンプレッサーも冷媒も使わない、持ち運ぶこともできる軽量の冷蔵庫で、価格帯は 65 ドルから

75 ドルにおさまる。ゴドレジは、既存の製品を改善するのではなく、特定の顧客セグメントに向けたまったく新しい製

品を作ることに取り組んだ。同社はまた、営業部隊、卸、流通業者から成る伝統的なチャネルを使わずに、NGO と

マイクロファイナンス機関の協力を得てインド全土にこの「チョットクール」を拡販した。ゴドレジにはインドの地元企業

であるという優位性はあったが、多国籍企業であっても綿密なカスタマー・ディスカバリーを実行することで、同じよう

に現地市場に対する知識を蓄積できるはずだ。

中間層の中の新しい顧客セグメントの詳細な調査は、できる限り正確かつ定量的に行うべきである。単に新しいビ

ジネスモデルにより得られる潜在利益を推定するだけでなく、それを追求する価値があることを組織のほかの人々

にとっても納得のいくよう明確にしておくためだ。そのためには、ターゲットセグメントの顧客にとっての優先順位を十

分に詳しく精査する必要がある。潜在顧客についてできるだけ多くを学ぶことが、ここでのカギとなる。

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7 THE BOSTON CONSULTING GROUP

事業機会を実行可能なビジネスモデルに落とし込む 顧客ニーズが特定され、事業機会が把握できたら、新たな

バリュープロポジションとそれに見合ったオペレーティングモデルの開発を行う。未充足ニーズとそのニーズの根幹

にある、消費者が大切にしている価値が何なのかをつきとめ、それらを満足させるビジネスモデルを開発しなければ

ならない。

ビジネスモデル・イノベーションは、ビジネスモデルの枠組みのすべての要素に関連する。バリュープロポジション、

バリューチェーン、組織、コスト構造などを新興国の中間層市場に向けて変更しなければならないことが多いため、

いろいろな側面で自社の旧来のビジネスモデルから脱却しなければならなくなる場合が多い。

たとえば、先進国のKFC ユーザーのなかで、中国のKFCを見てそれとわかる消費者はそういないだろう。KFC は

中国では、「ケンタッキーフライドチキン」をグローバルブランドに押し上げた、「メニューは少なく、テイクアウト中心、

低価格のファストフード店」というモデルを捨てた。1990 年代前半に新しい経営陣が、中国の中間層にとってより魅

力的に見えるようブランドを拡張した結果、中国の KFC は、一般のファストフード店よりメニューが豊富で地元の好

みにあわせたメニューもそろっている。店舗スペースはアメリカの店舗の 2 倍。メニューを拡充したために KFC 標準

より大きなキッチンが必要となり、また、顧客が座ってゆっくりできるよう、フロアスペースも広くとっているためだ。中

国の KFC は自らを「中間層が特別な日に来られるレストラン」と位置づけている。

これまでとは異なるバリュープロポジションを実現するため、中国の KFC は調達やバリューチェーンといったオペ

レーション面も一から構築し直さなければならなかった。KFC が通常各国で活用している物流ネットワークは中国に

はない。そこで同社は、倉庫やトラック、食品安全管理組織などから成る物流部門を自ら構築した。

新興国市場では、KFC と同様、他の多国籍企業も未整備なインフラや物流面の課題に直面する。原料の調達や

顧客へのリーチのために革新的な解決策を考案する必要があり、ときにはバリューチェーンをそっくり構築し直さな

ければならない場合もある。

また、低価格帯に対応するため、コスト構造も変革する必要がある。さもなければ、収益性が見込めないまま成長

のための投資を続ける破目に陥る。大手消費財メーカー、ユニリーバは、インドの中小都市では、物流コストを抑え

るため小売店向けのサービス・レベルを低く設定している。トラックによるジャスト・イン・タイムの納品ではなく、2 日に

一度、担当者が自転車やスクーターで小売店を回る。担当者はひとりで販売、オーダー取りからデリバリーまでをこ

なす。

実験し、拡大し、繰り返す コーポレート部門は、新興国での新しい事業にリソースを本格的に投入する前に、その

事業が本当に実行可能なのか、きちんと確認しなければならない。一方で、事業部門のマネジャーがリスクを避け

新規のビジネスモデルを提案しようとしないというのも望ましくない。

ここではコーポレートが大きな役割を担う。異なるビジネスモデルの実証実験をどうマネジメントするか、リスクをど

う低減するか、地域に最適化したモデルという点と点をどうつないで全体像をつくり上げるか――こうした議論を円

滑に行えるよう、コーポレートが主導すべきだ。これはすなわち、ブランド、製造、調達などの各領域で、どのプラット

フォームは全社共通に活用し、何は新市場にあわせて変える必要があるか、という判断をしていくことにほかならな

い。正しい情報と、その情報からインサイトを引き出す力、実行能力。こうしたものすべてが組み合わせられて正しい

意思決定を可能にする。

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8 THE BOSTON CONSULTING GROUP

ビジネスモデルの根幹となる仮説は、実証実験(パイロット)によって低コストで証明することができる。ユニリーバの

「シャクティ」と呼ばれる、女性起業家を活用した訪問販売システムも、ごく少数の起業家からスタートしている。

パイロットで採算が立つことが実証できたら、迅速に、かつ効率的に規模を拡大しなければならない。リソースは

通常、本部でコントロールするため、現地の裁量権と本部から見た効率性のバランスをとるために、あらゆるレベル

のリーダーがより柔軟に、協力して対応する必要がある。

KFCは中国で中小都市への展開を目指していたため、拠点数の急拡大が戦略の要だった。そのため、中国では

同社の伝統的な拡大モデルであるフランチャイズ方式を捨て、当初は直営店として出店することで、700以上もの中

小都市に進出してきた。これによりオペレーションにも目が届き、調達を一元化することもより容易になった。

急速にビジネスを拡大するもう一つの方法が、地元の製造企業を買収することだ。フィリップスは中国、インド、ブ

ラジルで 8 つの医療分野の企業を買収。地元市場に対する知見や安価な製造施設、中小都市の病院やクリニック

とのより深いリレーションを手に入れた。同社はカスタマイズされた、より低価格の商品の開発を目指していた。ヨー

ロッパやアメリカに出回るプレミアム製品の 3 分の 1 ほどの価格で買える、カテーテル検査施設などだ。フィリップス

はいわゆる「build, buy and partner」(自社内での事業開発、買収、提携・協業)アプローチを選び、新興国で急速

に拡大する成功モデルを練り上げた。買収により新しいビジネスモデルを手に入れ、自前の投資と戦略的提携によ

りそれを補強するというものだ。

単独での進出やリスクの大きい買収を避けたい場合は、地元企業とのジョイントベンチャーという選択肢もある。イ

ギリスの大手小売チェーン、テスコの取り組みはその好例といえる。テスコは、マレーシアで存在感を増すため、

RHB 銀行グループと提携して 22 の店舗でシンプルな金融商品の提供を始めた。提携クレジット・デビットカード発

行から 1 年経った 2010 年、両社はテスコのインストアブランチで RHB の新しいサービスモデル、「Easy」の提供を

始めた。これは、ローンや現金の引き出しなど基本的なサービスがごく簡単な手続きで利用できるモデルである。店

舗にはセルフサービスのターミナルが設置され、店舗にいる行員はごく少数、窓口も書類も不要だ。この画期的な

サービスのおかげで、RHB はローンを拡大することができ、テスコはより多くの中間層の顧客を店舗に誘導すること

に成功した。顧客にとってはテスコの商品券をもらえることが Easy を使う動機づけとなっている。

新興国市場をビジネスモデル・ポートフォリオとして管理する いくつかの新興市場で中間層にリーチできたら、今

度は複数のビジネスモデル、ブランドを管理する必要があると感じるようになるだろう。個々の商品をポートフォリオ

に統合して管理することが多いのと同様、ビジネスモデルもポートフォリオとして管理すべきである。ポートフォリオ・

アプローチをとることで、全社的視点から、キャッシュリターン、リスクのレベル、展開タイミングなどの審査・検討が可

能になり、学びを他の現地組織と共有しやすくなる。

現地マネジャーが動きの速いビジネスチャンスをうまくとらえられるよう、意思決定プロセスを簡素化しておくことは

どんな変革においても有効である。ゼネラル・エレクトリックは、現地組織をシニアマネジメントの直下に置けば、新

興国市場への取り組みが定常的に経営幹部の優先課題となることに気づいた。こうすることにより、製品やビジネス

モデルのリバース・イノベーションが可能になり、現地組織がコーポレート部門から必要な時に十分なサポートを得

られるようになる。

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9 THE BOSTON CONSULTING GROUP

どんな市場でビジネスモデル・イノベーションを起こすときにも必要となる、共通のプラットフォームを構築して、現

地組織が一から始めなくても済むようにすることもできる。「ボイス・オブ・カスタマー入門」「流通システムキット」といっ

たものを考えてみてほしい。こうしたプラットフォームの管理はエリアの統括部門に任せてもよいし、シェアドサービス

センターで行ってもよい。エリアの統括部門では地理的に近く、消費者特性、競合状況、流通の進化度合いが似通

った複数の市場をグループ化して管理することで、ベストプラクティスの共有や自動化を効率的に推進できる。シェ

アドサービス型モデルは、従来コールセンターやキャッシュマネジメントなど非中核機能で使われてきたが、中間層

消費者に直接かかわる業務にも活用できるはずだ。

新興国事業のポートフォリオを構築すると、組織はその力を成長分野に集中することを迫られ、中間層市場への

取り組みを短期的思考や投資不足から守ることができる。企業はまた、成長機会を活用するために組織構造も変革

しなければならないこともある。

ハネウェルは成長著しいインドと中国の自動車市場に取り組む際に、組織構造を変えた。自動車部門のトップの

直下に、この2国での自動車関連ビジネスを統括する管理職を新設したのだ。この職務を担う幹部は現在上海に駐

在している。

ポートフォリオ・マネジメントをきちんと行うためには、高い目標と評価基準を持たなければならない。だが、成熟市

場の評価基準は新興国では間尺に合わないことが多く、新興国の現状にあわせて再設計する必要がある。財務的

な指標より、マーケットシェアのような先行的指標がこうした市場には適している。

2009 年、シーメンスの CEO、ピーター・ロシャは中間層市場の制覇をすべての事業部の最優先課題と位置づけ

た。各事業部は中間層市場でトップになるための戦略を策定することを求められ、これを推進するために 50 人の社

内コンサルタントのサポートを無償で受けられるようにした。同社はまた、各国で付加価値を高めるための目標とロ

ードマップを設定し、四半期毎の厳格な追跡システムを構築した。中間層市場でのマーケットシェアを中心に、各国

でのプロダクトマネジャーや研究員の数、現地生産比率、従業員の定着率などさらに詳細な指標も追跡している。

新興国事業のポートフォリオにおける組織面の課題は、先進国の事業群とは異なる。革新的なビジネスモデルを

携え中間層市場に進出する取り組みは、従業員の起業家精神を重視する事業立ち上げ時のオペレーションと似通

っている。現地のチームは単に「来四半期の営業目標を達成する」といった限られた範囲を超え、起業家のように、

事業の経済性のあらゆる要素を熟慮しなければならない。一方で、コーポレート側のリーダーは、すすんで従来の

ビジネスモデルに代わる選択肢を検討したり、しかるべきリソースを確保したり、複数の現地チームと定期的に話し

合ったりしなくてはならない。

経営陣による現状監査から始めよう

長らく自社の標準的モデルを輸出することに頼ってきた多国籍企業にとって、変化が大きく不安定ともいえる新

興国の環境でビジネスモデル・イノベーションを起こすことは困難を極める場合がある。現地市場についての詳細な

知識やリソースが不足している場合もあり、グローバルな調整や合意形成といった組織能力を高める必要もあろう。

新しいビジネスモデルが既存モデルの売り上げを侵食してしまうおそれもあるため、中核事業にも手を打っておく必

要がある。

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10 THE BOSTON CONSULTING GROUP

だが、実際のところビジネスモデル・イノベーション以外の選択肢はそれほど多くない。中間層の市場で支配権を

譲ることは、最終的にはグローバルでの支配権を譲ることにほかならないためだ。どの国で戦うかに関わらず、競合

企業のビジネスモデルが遅かれ早かれ業界地図を塗り替えていく。つまり、新興国の中間層に向けてビジネスモデ

ルを適応させることは、先進国市場で防衛線を引くことでもある。

このプロセスをスタートし、自社の適合性を判断するために、現在のビジネスモデルの「ヘルスチェック」を行い、

「強み」と「改善や抜本的な変革が必要な領域」を特定することをお勧めする(図 3)。また、現状監査の一環として、

新興国市場の代表者を含む経営陣で、次の問いについて議論してみるとよいだろう。

今後 5 年で、現実的に浸透可能な中間層は、どの国・セグメントか。その市場には現在、現地企業も含めどの

ような競合企業が存在するか。彼らから学ぶべきものは何か。

中間層市場の消費者の未充足ニーズにはどんなものがあり、最も優先順位が高いニーズは何か。

こうしたニーズを満たすため、どのようなバリュープロポジションを新たに設計すればよいか。自社の組織はカス

タマイズや商品設計の柔軟性に優れているか。中間層に新しいバリュープロポジションを低コストで提供するた

めに、オペレーティングモデルはどのように変えるべきか。提携や買収が必要か。

ターゲットセグメント

商品・サービス

収入モデル

コスト・モデル

組織体制

バリューチェーン

主な要素

バリュープロポジション

オペレーション・モデル

図3. ビジネスモデル・イノベーションに向けたチェックリスト

出所: BCG分析

価値提案の明確さ

魅力的な "価格に見合う価値" の創出

ターゲットセグメントとそのニーズの明確な理解

ターゲット顧客のニーズを継続的にとらえる組織能力

価格構造、価格帯の魅力度

顧客ニーズと収益性のバランス

自社内業務の戦略的優位性

経営資産の新興国市場への適応性と、資産の活用レベル

コストモデルの競争力

市場機会をレバレッジする組織能力 (ソーシングなど)

戦略を支援する組織体制の構築

適切なインフラ(プロセスなど)

優位 劣位

イノベーションを起こせるか

同等

競合と比較した優位性

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11 THE BOSTON CONSULTING GROUP

新興国市場でビジネスを立ち上げる担当者は誰か。現地マネジャーはカスタマー・ディスカバリーや新ビジネ

スモデルの実験を行う能力を備えているか。変革を主導した経験があるか。

自社組織は標準化と同様に、多様化にも対応できるか。迅速な意思決定を促進できるガバナンス体制を構築

しているか。

自社組織は、実証実験を行い、早期にビジネスモデルの成否を判断する態勢ができているか。実証実験は十

分に行っているか。きちんと検証して有望であることが実証されたビジネスモデルをスケールアップする明確な

プロセスを有しているか。

同一市場内の異なる層にアプローチするために複数のビジネスモデルをマネジメントする態勢ができているか。

ビジネスモデル・イノベーションを支援するプラットフォームや、新しいモデルを育てるインフラは整っているか。

これらの問いに答えていくことで、無限のビジネスチャンスと10億人を超える中間層消費者へのアプローチのスタ

ートラインに立つことができる。彼らは、自分たちの悩みを解決してくれる、実生活に即した、手の届く価格の商品を

熱望している。このことは、今後少なくとも 10 年から 20 年の間は収益を伴って売り上げを拡大し続けることが可能な、

莫大なチャンスにつながる。

原題: Unlocking Growth in the Middle: How Business Model Innovation Can Capture the Critical Middle Class in

Emerging Markets Zhenya Lindgardt BCG ニューヨーク事務所 パートナー&マネージング・ディレクター Christoph Nettesheim BCG 北京事務所 シニア・パートナー&マネージング・ディレクター Ted Chan BCG 香港事務所 パートナー&マネージング・ディレクター

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12 THE BOSTON CONSULTING GROUP

弊グループでは、企業経営に関する様々なテーマについてコンサルティングサービスを提供しております。ご関心をお持ちの方

は、[email protected] までお問い合わせください。

2012 年 10 月発行

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