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Thur Se Dov Skyrim×Overlord

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Thur─Se─Dov~至高のドラゴンロード~(Skyrim×Overlord)

三号

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【注意事項】

 このPDFファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので

す。

 小説の作者、「ハーメルン」の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を

超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。

  【あらすじ】

 RPGの世界的名作「The Elder Scrolls」シリーズ。

 2138年となった今、サイバー技術とナノテクノロジーの進化により、それは体感

型RPG「DRPG」として更なる昇華を遂げていた。

 その中でナンバリングタイトルの五作目「Skyrim」が念願のリメイクを果たさ

れる。

 DRPG化による美しくも厳しいスカイリム地方に魅了されたある青年は、寝食も忘

れ仮初の世界へのめりこんでいくが……。

 

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 Drem─Yol─Lok。定命の皆さんこんにちは。

 ハーメルン様の利用は初めてです。小説書くのも初めてです。でもスカイリムと

オーバーロードってすごく絡ませやすいと思うのに数が少ない。じゃあ書くしかねえ

じゃん、と今に至ります。

 私のムンダスと皆さんのムンダスが違うことは重々承知ですが、こんな世界もありな

んだな、とお付き合いいただければ幸いです。

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  目   次  

────────────

 序章 

1

Thur─Se─Dov《不死者の王》

──────

 見知らぬ土地─1 

28

──────

 見知らぬ土地─2 

53

──────────

 激突─1 

78

──────────

 激突─2 

99

────────

 出発準備─1 

122

 Dovahkiin Ahrk Al

─────────

duin─1 

145

 Dovahkiin Ahrk Al

─────────

duin─2 

172

 Dovahkiin Ahrk Al

─────────

duin─3 

201

 Dovahkiin Ahrk Al

─────────

duin─4 

234

 Dovahkiin Ahrk Al

─────────

duin─5 

270

 そして、雪はトネリコに降った─1 

──────────────────────

297 そして、雪はトネリコに降った─2 

──────────────────────

322 そして、雪はトネリコに降った─3 

──────────────────────

348

────────────

 幕間 

382

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 命有る不死の王と翼無き竜の王─1 

──────────────────────────────────────────

394  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

───────────────

 

420

 命ある不死の王と翼無き竜の王─3 

──────────────────────────────────────────

449 命有る不死の王と翼無き竜の王─4 

──────────────────────────────────────────

472 命有る不死の王と翼無き竜の王─5 

──────────────────────────────────────────

501 命有る不死の王と翼無き竜の王─6 

──────────────────────────────────────────

531

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序章

   2138年、DMMORPGというゲームがある。

 サイバー技術、ナノ技術の進化による仮想現実を体感できるMMORPGのことであ

る。

 それが人気にならないわけはなく、数多くのDMMORPGが現れ、消えていった。

YGDRASIL

 大人気を博し、一時代を築くことになった「

」も今日が確かサービ

スの最終日であり、栄枯盛衰という言葉がよく似合う。

 いそいそとヘッドセット型の専用コンソールをかぶり、PCの前に座り込む彼もその

ゲームはやったことがある。

 ただ、生来の性なのか、顔を合わせない他人といることはストレスでしかなかった。

 現実世界ならどうということはないが、仮想空間の中では表情が動かない。それに対

して声色は自由な感情の色を見せてくれるのだから、頭も心も相手が見えなくなるの

だ。

 仮想現実の中で商談をしてはいけない。このデジタルな世界では非常識といわれる

1 序章

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価値観も、彼のアナログぶりに拍車をかけていた。

Dive Roll Playing Game

 しかし、だからこそ馴染めたこともある。

という、シングルプ

レイ専用のゲームだ。

 電脳法にのっとり、常にプレイングログをとられてはいるがそれ以外のオンライン要

素は一切ない。その仮想空間に人間は自分しかいない。

 だからこそ、人間関係などというわずらわしさは一切なく、自分の世界を心の底から

満喫できた。

 ヘッドセットをつけ終わり、ニューラルリンクを設定したことで情報の奔流が神経を

介し脳をせめぎ立てる。

 情報収集によいからとダウンロードしたアプリだったが、どうにもこの感覚は慣れな

いと彼は思う。

 今度アンインストールして別のソフトをインストールしようと考えながらも、スター

トメニューからあるゲームのショートカットバナーを手繰り寄せる。

 彼はこのゲームが本当にお気に入りだった。

 「The Elder Scrolls Ⅴ:Skyrim ─Ultra Div

e Edition─」という、海外のメーカーから満を持して発売したモンスタータ

イトルだ。いや、だったというほうが正しいだろう。

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 やはり栄枯盛衰とは程よく言ったもので、この「The Elder Scroll

s」というシリーズはほぼ10年おきにリメイクと新作の発表が繰り返されている。

 「Skyrim」はもう発売されてだいぶ時がたつ。

 このゲームはもう100年以上前に発売されたゲームのリブート作品だ。

 息の長いシリーズだからこそできる売り方だろう。

 このシリーズはタムリエルというムンダス世界の惑星ニルンにある、一大陸をベース

に物語がつづられている。

 スカイリム、シロディール、モロウウィンド、ハイロック、エルスウェーア、ハンマー

フェル、サマーセット諸島、ヴァレンウッド、ブラック・マーシュなど、それぞれの地

域に重厚な設定とリアリティあふれる歴史が存在し、それらが互いにくんずほぐれつ複

雑怪奇に絡み合って、非常に素晴らしい世界観が完成している。

 その上、エイドラとデイドラ──それぞれエセリウスとオブリビオンという異世界に

住んでいる──など、さらに素晴らしくもあこぎで、人間くさい神々がニルンを覆って

いる。

 このゲームはその大きな世界の一地方を舞台にしているに過ぎない。

 最近発売された最新作はタムリエル全土が行動範囲になっており、もはや一地域の話

では物足りなくなっている。

3 序章

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 そういった意味でもこの「Skyrim」は古いゲームになりつつあった。

 それでも、彼はスカイリム地方の美しくも厳しい世界が好きだった。初めて触った

「The Elder Scrolls」シリーズだからかもしれない。

 しかし、偉大なる蛮族の英雄と最高神の誇り高き血族たちの戦いは、スカイリムとい

うきらびやかではないが、強く逞しい舞台で彼をいつも興奮させてくれた。

 ショートカットを起動し終え、視界が暗転する。程なくして偉大なる蛮族の英雄を称

える歌が聞こえる。「Skyrim」のメインテーマだ。

 スカイリム地方の主民族である「ノルド」たちの伝承を歌にしている。そしてその伝

佐藤正

さとうただし

承こそが本作の主人公であり、彼──

──の分身であった。

「そんな名前だったか」

 「ゼロ」という名前に苦笑交じりに呟く。

 一番上のセーブデータ、自分の分身の名前にまったく馴染みがなかったのだ。

 プレイ時間がカンストしているにも関わらずまったく覚えていないのは、いつもタイ

トル画面から最新のセーブデータをロードしていたためと、ほぼ適当につけた名前であ

るからだろう。

ゼロ始まり

 最初に作ったキャラだから、

 ゲーム中でも呼ばれることもなくほぼ目に付かないため、一切気にしてなかった。そ

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れにそんな名前よりも確たる自分を体現する呼び名がある。

Dov

Dov─ah─kin

ヴァー

人間定命の者

 誇り高き

の言葉で、「

」。

の言葉で、ドラゴンボーン

と呼ばれる英雄の尊称だ。

 佐藤正はうだつの上がらないぺーぺーの営業である。そんな自分が英雄と称えられ、

賛辞を呈されるのは気分が高揚する。その分現実に戻ればむなしくなるのだが。

 ドラゴンボーンは人の身でありながら、竜の魂を宿す半人半竜の存在だ。

 エイドラの中でも特に力を持つ九大神、その頂点たる最高神アカトシュの恩寵の元、

加護を受けた生きる伝説である。

 代々タムリエルの皇帝血族こそドラゴンボーンであるとされてきたが、実際は時代の

分岐点などにアカトシュが勝手に創造することもできるらしい。

 そういうとあまりありがたみがなく聞こえるが、その者は多才であり、恐れを知らず、

声スゥームの力で定命の者たちを統べ、ドラゴンの魂を奪い、エイドラもデイドラも定命の者で

も等しく混沌を打ち滅ぼす存在である。

 時代の分岐点に立つということは、時代から愛される存在であり、必要とされる存在

なのだ。

 再び暗転した画面が明るくなり、木造家屋の一室に視界が移り変わる。

 MODと呼ばれる有志の追加データで導入した、ドヴァーキンの一軒家である。

5 序章

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 システム上MODを導入しなくても一軒家は建てられるし、もらえもするがどれもピ

ンとこなかったので導入した次第だ。

 今ドヴァーキンがいるのは書斎である。東奔西走し、あらゆる書物を集め、スカイリ

ム中にある書物はすべて揃っている。

 書斎だからといって本をかき集めるのは図書館と混同している気もするが、そのこと

に気づいたのは集め終えた後だった。

 おかげで書斎といいつつ本棚が所狭しと並び、明かりを提供する『灯明』の魔法がこ

められたランタンは本棚の壁に飲み込まれ、影が一面に覆いかぶさっていた。質素な木

目調の机が申し訳なさそうに部屋の隅に縮こまっている。そこだけは専用のランタン

で明るく照らされてはいるが、もはや単なる読書スペースである。

 ドヴァーキンは書斎を出て、自室に向かう。

 はて、何故書斎にいたのだろうか。

 ドヴァーキンはこのゲームでできるすべてを制覇した。できる事はすべてコンプ

リートした。

 今目下行っているのは使いにくいマップシステムの変わりに自分で地図を作ること

だった。ワールドマップ、ローカルマップ、全てだ。

 そうだそうだ、とドヴァーキンはひとりごつ。そのためにマップの外装をどうしよう

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か、他の本の装丁を参考にするべく書斎へ行ったところ、あまりの本の多さに面倒くさ

くなって前回はゲームを終了したのだった。

 百年前の「Skyrim」と、この「Ultra Dive Edition」では

技術的進化が多くある。

 そのひとつが、外装のエディット機能である。もともと先のDMMORPGで流行っ

ていた外見のカスタマイズを輸入して、標準搭載しているのだ。

 「魂石」と呼ばれる動物の魂を閉じ込めた石をリソースに、専用のクラフト台でアイテ

ムの外見を編集することができる。

 無論一から作成するのは相当に骨が折れるため、デフォルトで各アイテムごとに何パ

ターンかのパーツが用意され、それを組み合わせて作ることが一般的だった。

 前回やるべきことを思い出したドヴァーキンは書斎に戻ろうかと思うが、その思考は

却下した。気分転換しよう。何も急ぐ必要はないし、せっかく残り少ない「できること」

なのだから、ゆっくりやったところで罰は当たらない。

 今日は夜も遅いし、外装の作成に没頭して明日の仕事に影響が出てはかなわない。

 仮想現実で現実のことを考えるとむなしくはあるが、社会人である以上、仕方の無い

ことだ。歯車は回り続けるからこその歯車であって、人間であるからこういった娯楽に

興ずるいくばくかの時間が許される。

7 序章

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 今日のところは「ドヴァーキンの平和な日々」などというテーマで適当に遊んでみる

のも悪くない。

 そういうごっこ遊びが楽しめるからこその「Skyrim」なのだ。そうと決まれば、

とドヴァーキンは自室に向かう。

 シックな赤絨毯のしかれた長い廊下を歩き、いくつかのドアを通り過ぎたところで自

室のドアノブに手をかける。

 自室に入ると、そこは落ち着いた木の意匠が淡い日の光で照らされた一室だった。

 程よい広さに派手ではないがしっかりしたつくりの家具が立ち並び、天井や柱、壁面

につるされたランタンから温白色の『灯明』が控えめにもれ出ている。現代ではもう見

ることのない光景だろう。

 仮想現実では現実と混同しないよう、嗅覚や味覚、触覚が制限されている。

 だからこそ、雰囲気を味わうくらいしかできないのだが、それで十分だった。博物館

ぐらいにしか、こういう家はない。

 この現代では味わえない雰囲気も、「Skyrim」を気に入る側面のひとつだ。

 せっかくだから、外に出て目の前の川で水浴びでもしてみようと、ドヴァーキンは姿

見の前に立つ。

 男性美をこれでもかと主張するがっしりとした体型に、金褐色の長髪と髭が映える。

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側頭部の髪はきれいに編みこまれ、それに対して後頭部を飾る剛毛は一歩間違えればず

ぼらな伸び方だった。

 雄雄しさを感じさせる顔は荒々しい海を思わせる青の双眸を中心に、一目でこのスカ

イリムを構成する主民族「ノルド」の顔だとわかる。

 タムリエルの各地方ではそれぞれ主体となる人種があり、ここスカイリムは現実で言

う北欧部族、ステレオタイプのヴァイキングである「ノルド」と呼ばれる種族が古代か

ら繁栄を続けていた。

 せっかくの主民族だからと選択した種族であったが、この野蛮かつ雄大な外見はド

ヴァーキン自体、気に入ってもいた。

 水浴びをするのだからと、ドヴァーキンは着ている服をはずして行く。

 インターフェースコンソールを開き、「防具」の欄にある装備済みアイコンがついたア

イテムを選択し、外す。

 傍から見たら服が一瞬でどこかに無くなっていくのだから奇妙な光景ではあるが、こ

れはゲームだ。

ドワーフ

ドゥー

マー

 MODで追加した

と呼ばれる技術先進種族が作った設定の腕時計だけをは

め、一糸まとわぬ姿──といってもパンツははいている──になったドヴァーキンは意

気揚々と自室を出る。

9 序章

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 パンツの表示を消し、生まれたままの姿になるMODもあるが、冒険中に装備を剥ぎ

取ったNPCたちが問答無用で裸になるので、佐藤正はあまりその手のMODを好まな

かった。

 いかに寒さに強いノルドといえども、スカイリムの厳しい気候にさらされた川に入る

など自殺行為だ。

 しかし、触覚の概念は鈍くなるよう設定されているし、この家の立地は「リバーウッ

ド」と呼ばれる村の中にある。

 隣の山は雪で白くめかしこまれているが、村である以上、仮に現実でもある程度水温

は高いだろうと思う。

 何の根拠もない仮説だったが、特に難しく考える必要は無い。これはゲームだ。ちら

りと腕時計を見れば、二つの文字盤が目に入る。

このゲーム内

 一つが

の時間であり、もう一つが現実世界の時間だ。現実世界の時間は

夜11時50分を指し、一日が終わろうとしている。

 この水遊びごっこが終わったらゲームを終了して寝なければならない。時間的にも

マップ作成は次の休日に行おうと思う。

 自室から出て、廊下を再度抜けて階段を下りる。

 この家は普通の家と比べて広い。二階はいくつかの部屋があり、それぞれフォロワー

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──旅を共にする従者のことだ──たち専用の部屋となっている。

 一階は大広間とキッチン、娯楽場、各クラフトスペースや温泉などの施設があり、地

下には食品保管庫や宝物庫などの倉庫が揃っている。

 この家を導入した後、これだけのスペースで一人暮らすのは寂しいと思い、フォロ

ワーたちから何人か選んで同居している。

 一階に降り立ち大広間を抜けて玄関へ向かおうとしたドヴァーキンが鼻歌を耳にす

る。

 甲殻類の甲羅を素材にし、無骨で雑然とした鎧を身にまとった男性が大広間のテーブ

ルを掃除している。

 あまりに似つかわしくないその姿に少し噴出しそうになったが、この男性もその同居

しているフォロワーの一人だ。

ダークエルフ

マー

 テルドリン・セロ。モロウウィンドの一部、ソルスセイム島で出会った、

の傭兵だ。

 つれているといろいろな場所の感想を述べ、毒舌家で皮肉屋の為、その感想も飽きな

い。

 戦闘面でも魔法と剣術を同時に扱う魔法剣士として非常に頼りになるNPCだ。

 その鎧はひとつのアイデンティティで、キチン質の鎧という。

11 序章

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 その中身はソフトモヒカンで切れ長の目をした、年季と威厳を感じる渋いダンマーな

のだが、恥ずかしがり屋の設定なのか、フルフェイスの鎧しか着用してくれない。

 ただ、セロといえばこのキチンの外見が一番しっくり来るので、ドヴァーキンが無理

に変更することも無かった。

 そもそもMODを導入し、ドヴァーキン含めフォロワーは全員レベルキャップを廃し

て無限にレベルが上がるようにしてある。キチン質の鎧も弱くは無いため、いまさら鎧

の性能など気にしなくてもよいのだ。

 最近の冒険は前衛が近づくまでに後衛が火力を一点集中させ、戦闘が完了してしま

う。

 戦闘の難易度は極限まで達しており、そのため戦闘での楽しみはもう見つけられない

現状だった。

 とは言ってもさすがにこれだけの達人を暇にさせておくのももったいない。鬼畜難

易度の追加クエストMODでも探してみようと頭の隅に浮かべ、いまだ掃除をしている

セロの横を通り過ぎて玄関へ向かう。

 玄関への道を歩いている途中、ふと地下への階段が目に入った。

 この先は倉庫なのだが、一室だけ特別な部屋がある。

 ドヴァーキンはパンツ一丁のまま階段を下りる。木造の階段とは違う、石造りの階段

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が無機質な音を立てる。

 『灯明』が照らす背の低い廊下を進み、一番奥、今までの家屋の意匠とはまったく異質

な扉の前で足を止める。

 黒く、刺々しいその扉はある邪竜の顔を模したものだ。

 見るだけでも禍々しく、力強く異質を放つそれは、一対の炎をともす眼を触ることに

よって開く。

 おぞましい雄叫びを幻聴させながらゆっくりと扉が開き、向こう側の世界が姿を現

す。

 その先は貴族の令嬢が住まうような豪奢で可憐な大部屋だった。

 あらゆる調度品が栄華さを誇り、どこかの国の国宝といっても差し支えない華美さが

あった。

 しかしそれでいてこの部屋においては互いに調和を保っている。

 それだけの華々しい空間に、天蓋付きのこれまた贅沢なキングサイズベットがあっ

た。

 そこに、黒いドレスに身を包んだ幼い少女がいた。この空間でもなお、存在感を放つ

美貌はすさまじく、成長すればそれこそ傾国の美女ともなり得るだろう。

 長い黒髪は闇を吸収したように際限なく黒く、それでいて艶かしく光を映していた。

13 序章

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 白い肌に燃える目は先の扉のように燦燦と輝き、品定めをするかのようにドヴァーキ

ンを見つめている。

 体型は幼く、身にまとうドレスとの対比は背伸びをした子供を思わせるが、その傲慢

な雰囲気がそれを許さない。それもそうかとドヴァーキンは笑う。

「どんな気分だ、アルドゥイン」

 答えは返ってこない。当然だ。これはNPCなのだ。

 この少女は、佐藤正が自作したMODだ。

 外装をつくりそこに既存のAIと自作設定をぶち込んだ。

 プログラミングなどは畑違いだったため、こうやってベッドに腰掛けながらつまらな

そうにしているぐらいの行動しか設定されていない。

 しかし、外装だけは凝りに凝って何個も魂石を消費した自信作だ。

 そして設定こそ肝要だった。

 黒歴史ノートを見返すようで恥ずかしいが、これはかの邪竜、「アルドゥイン」である。

世界を喰らう者

ワー

イー

ター

 最高神アカトシュの暴走した第一子、全ての竜の頂点に立つ竜、

、こ

の「Skyrim」のラスボスであり、この時代のドラゴンボーン、即ち主人公はこの

邪竜を打ち倒すためにアカトシュより生み出された。

 その邪竜の魂は、本来なら最終戦においてドヴァーキンに吸収されず天に昇ってい

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く。アルドゥインは不滅の存在であり、その魂はアカトシュであっても滅することは出

来ない。

 しかし、それでは面白くない。

 アルドゥインはこの世界を滅ぼそうとした。ドラゴンの専制を復活させ、定命の者た

ちを支配しようとした。

 その罰が、この姿だ。罪は罰で償われなければならない。

 佐藤正の脳内設定では、アカトシュの作り出したこの定命の者の器にアルドゥインは

封印されているのだ。

 それをドヴァーキンが管理し、ドヴァーキンが死ぬまでアルドゥイン自身の贖罪とし

て定命の者の生活をさせる。

 これによって、暴走したアルドゥインの魂を沈静化する、という設定になっている。

 なんともご都合主義的だとは思うが、結末に満足しなかったからやった。

 後悔はしていない。

世界のノド

ハイ・フロスガー

 かつて

と呼ばれる山の頂で、師であり、友である老竜パーサーナックスと

の会話が思い起こされる。

「この世界が好きだ。滅んでほしくない」

 用意された選択肢ではあったが、これほど佐藤正の心を代弁した言葉は無かった。

15 序章

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 スカイリムは荒れた土地だった。

 大地も人も、世情すら荒れ果て、滅びが目前まで迫っていた。

 上級王の不在、激化する内戦、宗教への干渉、多発する犯罪……理想郷とは程遠い世

界だった。

 それでも生きる人たちがいた。

 遮二無二生きて、今日をつなぎ、明日を目指す多くの定命の者がいた。

 所詮はゲームだ。それはわかっている。

 しかし佐藤正は心を打たれた。ロールプレイ以前に一人の人間として、この仮想世界

が好きになった。

 だからこそ、それを壊そうとするアルドゥインが許せなかった。

 そこからくる、自分を心を満足させる為の、アルドゥインへの罰だ。

 にしては部屋の造りも凝り過ぎたと思うが、まあそこはこの傲慢な王者のことだか

ら、どこか知らないところでドヴァーキンに集めさせたのかもしれない。そんなミニク

エストがあっても面白い。

 自分の中の少女の姿をしたアルドゥインは、若干丸くなった設定なのだ。悠久の時を

生きたドラゴンがそんなにすぐに変わるとは思わないが、魂は器に引っ張られる。

 パーサナックスも言っていたが、半人半竜のドヴァーキンにもドラゴン特有の破壊衝

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動は存在するらしい。

 しかし、それは器が定命の者だからこそ、相殺しあい、バランスを保っているのだろ

うと佐藤正は考えていた。

 ならばそれにしたがって、アルドゥインもこの少女の器に引っ張られておかしくはな

い。

 まあ、それは寝る前の妄想の種にすればよろしい。

 今はとにかく水浴びだ。

 もはやアルドゥインの姿を確認することが日課になっていたせいでここまで降りて

きたが、今日は「ドヴァーキンの平和な日々」の一ページなのだ。いつまでもここにい

るわけには行かない。

 腕時計を見れば、物思いにふけっているうちに日付も変わってしまったようだ。

 踵を返し、扉から外に出ようとする。

 だが、違和感を感じた。原因である腕時計をもう一度見る。一つは現実世界の、もう

このゲーム内

一つは

の時間が表示されている。

「おかしい。バグったか」

 両方とも止まっているのだ。

 秒針が動かず、現実世界の時刻は0時0分でぴったり止まっており、ムンダスの方と

17 序章

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いえば短針も長針も秒針も消えている。

 時計MODはそんなに複雑なMODではない。

 現実世界の時刻はPCと同期しており、PCとの接続が切れなければ動き続ける。

 ムンダスの時計の針が消えている原因はわからなかったが、おそらく何か別のMOD

の干渉か、PCの方でトラブルがあったのだろう。

 ドヴァーキンは舌打ちする。せっかくごっこ遊びする予定が、今日はバグのあら捜し

と原因解決かな、とゲームを終了させようとする。インターフェースコンソールを起動

しようとして─できない。

「えっ」

 素っ頓狂な声が上がった。こんなバグ聞いたことも無い。

 コンソールがフリーズするバグはあったが、出ないバグは無い。ニューラルリンクを

切って強制終了──できない。

 ドヴァーキンは半分パニックになりかけた。おかしい、おかしいぞ、と何度も強制終

了を試みる。なにも起こらない。

 冷や汗が体を伝う。専用コンソール自体の故障かはたまた──。

「冷や汗だと!?」

 ドヴァーキンは冷や汗をかいていた。

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 冷たい汗が全身から流れているのがわかる。汗をかいている、温度がわかる、仮想現

実では、ありえない。

 考えがめまぐるしく頭を駆ける。

 現実世界の自分が何か事件に巻き込まれたか? いや、ゲーム自体強制終了するはず

だ。強制終了してない以上、脳とデジタルの接続は行われている。

 強制終了できない原因は? なぜ触覚がある? いや待てにおいもする。確かアル

ドゥインの部屋に香木の線香をおいていた。におい?

 なぜ? なぜだなぜだなぜだ──

メイ・ドヴァーキン

鹿

者、

ヴァー

、我が部屋で先ほどから何事だ。さてはシェオゴラスめにでも当

アウス・バイン・ブロン

てられたか? それはいい気味だ! 

 耳を疑った。言葉を発したのは間違いない。

 ここにいる少女だ。

 鈴のように響いた綺麗なそれは、似つかわしくない悪態と罵声であった。

「裸! しかも裸だ! であればサングインか? 馬鹿め! やつと酒を飲むと

ドヴァー

ですらその気高き鱗を脱ぐという。そうか、何故アカトシュがこの器に我を封

じたか理解できたぞ。我はここでこのままお前の慰み物となるのだな。

ジョール・バナール・フィン・ドヴ

。なるほどこの上ない屈辱だ、正しくこれこそ罰

19 序章

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ドヴァー

だ。この性倒錯者め。酔っているとはいえ貴様も

の端くれ。ドラゴンを犯す

ために幼女を象るとは、誇りは無いのかドヴァーキン」

 とりあえず、落ち着かなければならないだろう。

 目の前の少女─アルドゥインの魂が入っている設定─はNPCだ。

 作ったのは自分だ。そしてこんなに朗々とドラゴン語を交えて話す高度なAIを組

んだ覚えは無い。

 それがまるで生きているかのように振る舞い、現在進行形で自分に言葉を投げかけて

いる。

「アルドゥイン、少し、黙れ」

 かすれた声で少女、アルドゥインをにらむ。

 その声を聞くとアルドゥインは愉快そうに笑い声を上げた。

 綺麗な声だが、意地の悪い嫌味な声だった。

アール・ヒィン・セィル!

 その弱弱しい声はどうしたことだドヴァーキン! 死ぬ

のか!? よい! 我もようやく解放される! シェオゴラスだかサングインだか知ら

んがデイドラに感謝する日が来ようとはな! 我はお前を殺せない。だが勝手に死ん

でくれる分には僥倖である! お前の許しが無ければこの部屋から出ることすら出来

ないのだから! お前が─」

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 なおも罵倒を続けるアルドゥインは止まる気配がなかった。

 NPCなのだから感情など無いはずだ。

 その美貌が醜い幸福で歪み、こちらを蔑む黒い炎のような目もプログラムのはずだ。

 だが、アルドゥインは自分の意思で歓喜に笑っているようで、その目は意思を持った

敵意を打ち付けていた。

 そして何よりも会話が成立した。いや、会話といっていいかはわからないが、少なく

とも、自分の意思で発した言葉にアルドゥインは反応し、アルドゥインは自分の言葉を

ドヴァーキンへ返した。

 これはなんだと佐藤正は思う。

 まるで本当に、生きているようだ。

 生命力に満ち溢れた罵詈雑言はなおも続いている。

 ドヴァーキンは現在の状況を確認しなければならない。荒唐無稽な仮説が頭の中に

一つある。それをすぐに確かめなければならない。だというのにこいつは─

 とっさにドヴァーキンは叫んだ。黒い感情が渦になりそれが体を駆け巡って喉で爆

発した。

Fus─Ro─Dah

!」

 ドラゴンは古来、声を使い世界を支配した。

21 序章

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声の力

スゥー

 ドラゴンが叫べばそれは

となり、顕現した力が敵を打ち据えた。

 故にドラゴンにとって論争とはそのまま戦いであり、牙や爪以外にも、声で打ち負か

すこともまた、ドラゴンにとっての常であった。

 そしてドヴァーキン─ドラゴンボーンこそ、この竜の声を「シャウト」として、人で

ありながら使いこなせる英雄であった。

 ドヴァーキンのシャウトを正面から受けたアルドゥインが、力の激流に飲まれ後方に

突き飛ばされる。

 華奢な体がありえない速度で壁に激突し、そのままベッドに落下した。

 ドヴァーキンが放ったシャウトは『揺ぎ無き力』と言い、簡単に言えば衝撃波を飛ば

すシャウトだ。相手を吹き飛ばすだけでダメージは無いが、使い勝手が良いので多用し

ていた。

 その為、この場でもとっさに叫んでしまったのだろう。ドヴァーキンはさらに困惑し

た。

 何故シャウトが使えたのか。

 いや、別に使えないものではないが、本来であればインターフェースメニューから装

備していなければシャウトは使えない。

 ただ単純に言葉を発するだけではゲームでは発動しない。

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 装備して、対応する言葉を紡ぐからこそシャウトは使うことが出来る。

 しかし、今のドヴァーキンはそれを自分の意志で行った。

 アルドゥインをとりあえず黙らせたかった。『揺ぎ無き力』でも使って黙らせようと、

体の動くがままに、喉の爆ぜるままに叫んだら、出たのだ。

ブリト、ドヴァーキン

だ、

ヴァー

。……定命の体とはいえこのアルドゥインを……声で打ち負か

すとは、やはり腐っても……ドラゴンボーン」

 打って変わって賛辞を送るアルドゥインを──相変わらず上から目線ではあるが─

─無視し、アルドゥインに馬乗りになって両手を押さえつける。

 別に他意はない。脈と、呼吸を確認しようと思っただけだ。

 アルドゥインが、やめろドヴァーキンなどと抵抗するが意に介さない。

 組み伏せ、アルドゥインに覆いかぶさる。

 両掌からアルドゥインの命の鼓動が確認できた。

 幼い体どおりの控えめで、言動に似つかわしくない慎ましい命の波だった。

 そのまま耳をアルドゥインの口に近づける。アルドゥインが息を呑む音が聞こえた。

 すぐに緊張の色を纏った呼吸音が短く、しかしはっきりとドヴァーキンの耳をくすぐ

る。

「アルドゥイン、お前、生きてるんだな」

23 序章

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 ドヴァーキンはポツリと呟く。アルドゥインは表情を強張らせ、何も言わない。『揺

ぎ無き力』で飛ばされたときに打ち所が悪かったのか、それともドヴァーキンの言葉が

理解できなかったのか。

 二人の時間が静止してどれくらいがたったであろうか。

 一分か、一時間か、一日か。

 ドヴァーキンはアルドゥインを見据え、アルドゥインは目を閉じ、その縁に涙を浮か

べながら口を閉ざしている。

 大方悔しいのだろうな、とドヴァーキンは思って、笑う。

 これはNPCでは無いと。生きた存在だと。

 先ほど浮かんだ荒唐無稽な仮説が現実味を帯びる。

 強制終了はいまだ出来ない。

 プレイングログしかオンライン要素の無いこのゲームに、プレイヤーを意図的に仮想

現実へと拘束する方法も無い。

 サイバーテロかとも思ったが、もうその線は薄いだろう。目の前のNPCだったドラ

ゴンの少女は、生きているのだ。

 脈があり、呼吸をしていて、感情を持ち、意思を見せる。

 人は見た。次は世界を見なければならない。

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 玄関を抜ければリバーウッドの村に出るはずだ。そこでも色々と試さなければなら

ない。

 いや、その前にこの家にいる他のNPCを確かめるのが先か。

 認めたくは無かった。だが認めてしまえば多くの事実がこの状況を肯定する。

 荒唐無稽な仮説が、根拠を持った仮説になるのだ。

 きっと自分は、この世界に文字通り来てしまったのだ。

 ドヴァーキンとなって。

 英雄として。

 しかし、それではいまだ腕時計のもう一つの謎が解けない。

 現実世界の針が止まったのはわかった。自分は0時0分丁度にこの世界へ来たのだ

ろう。

 ならムンダスの針は何故消えたのか。ムンダスへ来たのならば、そうあれと作られた

この時計はムンダスの時間を刻み続けるはずだ。

 そうあれと命じた、ただのMODNPCに過ぎない目の前のアルドゥインが、作った

ままにそうあるのだから。

「アルドゥイン。ムンダスの時間がわからない。わかることだけでいい。ここはニルン

かどうかわかるか?」

25 序章

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 アルドゥインは豆鉄砲を食らったような顔をした。が、しばらく逡巡するそぶりを見

せた後、思いっきり顔を顰め、わからぬ、とため息混じりに言う。

「言われてみればおかしいぞ、ドヴァーキン。忌々しいアカトシュの力は感じる。だが

モナーヴェン

ドヴァー

弱い。

に感じるはずの

たちに至っては魂を感じぬ。あのパー

サーナックスめに従わなかったドヴ達もいない。いないぞドヴァーキン。我が一族の

気高き魂がどこにも見当たらぬ」

 少女が眉をひそめ、信じられないと何度も自らの能力に集中する。

 アルドゥインはドラゴンの魂を感知できる。その生来の特性により、ドラゴンを集

め、死んだドラゴンを蘇らせていた。

 そのアルドゥインがドラゴンの魂を感じないという。

 アルドゥインが何事かを言おうと口を開いたときだった。

 普段なら落ち着き払った皮肉屋の声が、張り裂けんばかりの焦りをもって、地下室を

通して近づいてくる。

「ドヴァーキン! ド・ヴァー・キーン! おい! ゼロ! なんだかおかしいぞ! 

こっちにいるんだろ! デルキーサスと釣りでもしようかと思って玄関を開けたんだ

! そうしたら──」

 叫びながら部屋に踏み入れた人物は傍と止まる。キチン質の甲殻を用いた鎧が鈍い

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音をあげる。ドヴァーキンは今の状況を思い出した。少女の姿をしたアルドゥインに

ベッドで馬乗りになり、がっしり両手を押さえて組み伏せている、今の状況をだ。

「こんな状況で何をやってるんだお前らは! ドラゴンの肝っ玉はうらやましいな! 

きっとイスグラモルの斧よりでかいんだろうぜ!!」

「「違う!」」

 ドヴァーキンとアルドゥインの声が重なる。

 二人とも器は定命の者とは言えど、魂はドラゴンだ。その声量は恐るべきものであ

る。

 その声はドヴァーキンの一軒家中にこだまし、開口部を抜け、家の外へと漏れ出る。

 外は深い森で、陽光が木々を照らし、風が枝葉を揺らしていたが、二人の声がそれを

上書きするかのように樹木それ自体を揺らし、森がざわめいた。

 森に住むあらゆる生物が声に恐れ、力ある者は声に異常を認めた。

 ドヴァーキンはまだ知らない。この森がトブの大森林という名前だということを。

 ドヴァーキンはまだ知らない。この世界で自分たちがどれだけ異質なのかを。

 ドヴァーキンはまだ知らない。今後自分が巻き込み、巻き込まれる数奇な運命が、今

この瞬間から幕を開けたことを。

27 序章

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Thur─Se─Dov《不死者の王》

見知らぬ土地─1

     セロの言うがままにアルドゥインの部屋を出て、玄関から外へ出ると、そこは鬱蒼と

した森だった。リバーウッドの村のように川のせせらぎも無く、人々の生活音も無く、

ただ枝葉の揺れる音だけがこの目の前を支配していた。ドヴァーキンの一軒家の頭上

だけがぽっかりと開いており、そこから太陽が顔をのぞかせる。まるで家が空から降っ

てきて、その下にあった枝葉が丸ごとそがれたような、そんな不自然な穴だった。

 しかしそれを疑問に思うよりも先に、ドヴァーキンは感動していた。森のにおいとは

こういうものかと。ともすれば臭いともいえる青々しい空気は、ドヴァーキンの鼻腔を

抜け全身を生気で満たした。現代では温暖化によって害悪の代名詞でしかなかった太

陽は、本来の役割である命を育む陽気を大地に降り注ぎ、ドヴァーキンをやさしく照ら

していた。ドヴァーキンはアルドゥインを置いてきてよかったとしみじみ思う。この

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感動をあの罵詈雑言で邪魔されるのは面白くない。

「どう思う、ゼロ。気温も高い。湿度も高い。ここはスカイリムの気候じゃないし、群生

している植物も、樹木もスカイリムとは違う」

 しわがれた、しかし落ち着きのあるだみ声が頭上を見上げていたドヴァーキンの前か

らかけられる。

 湾曲した一対の角を持つ、緑褐色の鱗に覆われた蜥蜴がそこにいた。いや、蜥蜴と言

うと彼はきっと怒るだろう。彼はアルゴニアンと呼ばれる種族で、タムリエルでは毒と

瘴気にあふれる沼地、ブラック・マーシュ地方に住まう一種族だった。

 細く、筋肉質な体が身に纏う布の服を通じてでもわかる。ドラゴンに比べるべくも無

いが、太く逞しい尻尾はきっとアルゴニアンのオスとしては名誉なことなのだろう。彼

はしゃがみこみ、地面の草を摘んでは鼻に近づけ、においを確かめている。

「デルキーサス。これでは釣りは諦めるしかないな。虫取りでもするか。フロストバイ

ト・スパイダーでもいそうな森だ」

 テルドリン・セロがあたりを見渡しながら剣の柄に手を伸ばす。

「お前の冗談も時と場所を間違えればわずらわしいだけだ、セロ。警戒したいならそう

言えばいい。で、どう思うんだ、ゼロ。世界を見てきたお前ならこんな突拍子も無いこ

とたくさんあっただろう」

29 見知らぬ土地─1

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 ドヴァーキンはデルキーサスの視線を感じて、はっとする。ゼロというのはきっと自

分の名だろう。今回のロードはロード画面をはさんでよかったと思った。はさんでな

かったらいったい誰のことを呼んでいるのか、デルキーサスに問い返していたところ

だ。むしろセロのことを訛りか何かで間違って呼んでいると思ってスルーしていたか

もしれない。

「わからない。いや、本当にわからない。俺も今、ものすごく混乱していてな。どちらか

といえば、お前たちの意見が聞きたい」

「そりゃまあ、お楽しみの最中にこんなことになったんだからな」

 セロが意地悪く笑う。ここにくる道すがら、先ほどの少女強姦疑惑は誤解だと話した

が一切信じてくれなかった。

「セロ、人の性癖をとやかく言うのはよせ──まあ、これでセラーナに賭けてたお前は

1,000セプティムをジェイ・ザルゴに支払うことになるんだから、ゼロをいじめた

くなる気持ちもわかる」

「なにまだ決まったわけじゃないさデルキーサス。勝負はマーラのアミュレットを誰の

前で身につけるか、だ。別にそれまでこいつが誰に唾つけようが、まだまだ俺たちの賭

けは続くさ。一発目がアレとは思わなかったが」

 二人が愉快そうにこちらを見やりながら、なにやら剣呑な話をしている。しかしそん

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な賭けをいったいいつからどこで誰と始めたのか。そんなイベントは「Skyrim」

には存在しなかった。元が100年以上前のゲームであるため、攻略情報は100%

揃っていた。あらゆるイベントを起こし、全てのクエストを潰して来たドヴァーキンか

らすれば興味を惹かれる光景ではあったが、すぐに思考を切り替える。

 やはり、二人とも意思と感情を持って話をしている。自分も「Skyrim」のよう

に選択肢を選ぶのではなく、自分で言葉を選んで、自分の声を発して話をした。「Sky

rim」は選択肢を選び、主人公に声は無く、全て地の文での意思表示だけだった。シャ

ウトは例外だが、いかにDRPGでも自分の声で自分の考えを話すことで話が展開する

ことはなかった。あらかじめ蛸足のように分岐する定められたレールを走っていた。

これに加え、先ほど再認識したが自分には五感がある。

 もはや佐藤正がドヴァーキンになったことは疑いようも無い。まだ納得と理解は追

いついていないが、NPCたちが生きていること、自分は文字通りここにいて、仮想現

実が現実になったことは解決した。

 では次の問題は何か。ここはどこか、そして元の世界に帰れるかの二つだ。しかし、

佐藤正は思う。果たして元の世界に価値はあるか。ここでは豊かな自然があり、現代の

自然環境とは比べるべくも無い。一人暮らしで家族のいない自分にとっては彼らフォ

ロワーはいわば家族のような存在だ。個人的にはこちらの世界のほうが魅力的であり、

31 見知らぬ土地─1

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妄想がそのまま形になった快感がある。

 こちらの問題は今のところさして重要ではなく、なんとなく探して、見つかった後に

必要に迫られたら改めて考えればよいと流すことにした。

 さて、それではここはどこかという疑問だが──考えても仕方ないだろう。とりあえ

ず今わかる情報を一つずつ集めて、今後の行動方針を決めるしかない。

 と、ここまで思考をめぐらせた上で、ドヴァーキンは首をかしげる。自分は何故こん

なにも冷静なんだろうと。異世界にきて、帰る手段も無く、自分の姿は変わり、世界が

必ずしも安全ではないとわかった上で、ドヴァーキンは冷静だった。それどころか気分

が高揚してさえいた。知らぬ土地だと。見たことも無い植物、どこかわからぬ世界、も

しかしたらニルンとは違う別の世界。それを踏破し、この世界のマッピングをすること

まで妄想していた。

 ドヴァーキンは短く笑う。以前知識のデイドラロード「ハルメアス・モラ」に言われ

た言葉を思い出したからだ。ハルメアス・モラ曰く、ドラゴンボーンは知識と力の探求

者だと。そのとおりなのかもしれない。焦りより先に好奇心が表に出てきている。そ

れが仮初でも落ち着きを見せている原因なのだろう。これから先、どうするかを分析で

きる程度には。

「セロ、デルキーサス。とりあえず皆を大広間に集めよう。この状況を知っているのは

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この三人だけか? アルドゥインはドラゴンの魂を感じないと言っていた。他にも何

か手がかりがあるかもしれない」

 デルキーサスとセロは話しながらもあたりを警戒していたようで、周囲を見渡し終

わった後、同意を示した。セロの左掌からは赤い光が立ち上り、おそらく近辺の生者を

感知する《生命探知》を使用していたのだろう。そこでドヴァーキンはまた一つ疑問が

増えた。

「セロ。魔法が使えたのか?」

 セロは太陽を見上げながら答える。

「ああ。少なくともマジカはある。太陽から流れているのかは疑問だがな」

 それがマグナスの残した魔力の残滓かはわからないが、使えないよりは使えたほうが

良かろう。後でほかの魔法も全て使えるか確認する必要があると思いながら、ふとド

ヴァーキンは口を開く。

「服の着方がわからん」

 デルキーサスはため息を吐き、セロはいよいよ脳みそまでドラゴンになったか、とひ

とりごちた。

  

33 見知らぬ土地─1

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 ◆

   ドヴァーキンは服を着るのも一苦労だった。今までインターフェースコンソールを

開いて、身につけたいアイテムを選択するだけでよかったのだ。スカイリムに存在する

服の着方などわかろうはずも無い。

持ち物欄

インベントリ

 それに、今まで

に入っていた物品は全て対応する自室の家具にしまわれてい

た。まずは着る服を探すところから始まったのだ。さすがに丸裸で多くの荷物を持て

たゲームとは違い、現実だということをまざまざ見せ付けられた。

 基本的にドヴァーキンは必要以上にインベントリに物を入れなかった。冒険の戦利

品を持ちきれないこともあるし、何よりロールプレイ上、雑多な荷物を剥き身でいくつ

も背負えることに疑問を感じていたからだ。

 しかし、有用なアイテム─ポーションやスクロールは重量もそれほど無く、数多く携

帯していた。それらがインターフェースコンソールを使えないがために勝手に薬棚や

ら本棚に所狭しと敷き詰められていたのだ。まあ、何らかの世界の法則が適用されたの

だろうと、ドヴァーキンは現時点で深くは追求しなったが、いつか解き明かしてみたい

現象だった。

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 ともあれ、服を見つけ、着るのに簡単そうなチュニックとズボンをそれでも苦心しな

がら着た後、これまた履くのに苦労したブーツを踏みしめ、大広間に急ぐ。そこには既

にこの家に同居するよう設定したNPC全員がおり、皆勝手におしゃべりしているよう

だった。

 大広間の楕円形型テーブルに座す影は五つ。テーブルを挟んで両側面に二人ずつ、下

座に一人、上座の椅子は空いていた。あそこが自分の席だろうと予測し、ドヴァーキン

はゆっくりと大広間の影を眺める。

 上座から見て右側面には先程外の確認を共に行ったセロとデルキーサスが座ってお

り、セロの口うるさい皮肉にデルキーサスが懇切丁寧に突っ込みを入れている。対面に

は黒髪赤眼の妖艶な女性と、フードをかぶった見てくれは怪しいが、表情は人懐っこい

半人半獣が好き好きに節操無く話題を提供している。下座の影は、がっしりした肩にか

かる暗褐色の髪を光らせながら、腕組みをしつつ、凛々しい顔で喧騒の中をどっしりと

構えていた。

「来ましたわよ──あら、そんなみすぼらしい服をお召しになって。英雄なんですから、

もっと威厳のある格好をしてもらわないといけませんわ」

 黒髪を揺らし、赤い目でドヴァーキンを上から下まで眺めた後、声を発した女性は上

品に笑う。彼女の名前はセラーナ。純潔吸血鬼の血族で、その父に反旗を翻して

35 見知らぬ土地─1

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ドーンガード

ヴァンパイアハンター

に組した反逆の姫君だ。女性らしい体躯をしならせ、化け物らしい、整い

すぎた顔をいたずらっぽく歪めて大広間のテーブルに頬杖をつく。その服は吸血鬼が

好んで着る装束に包まれており、高貴な身ではあるが若干の地味さがあった。それでも

ドヴァーキンのチュニックよりは数倍ましである。

「いやいやセラーナ嬢。かの大盗賊グレイ・フォックスも平時は平民として振る舞い、ぼ

ろをまとって乞食にすら扮したという。見てくれは問題じゃあない。ジェイ・ザルゴは

そう思う」

 フードをかぶり、魔術師然とした半人半獣の猫男が口を挟む。彼はジェイ・ザルゴ。

以前魔法を学びにスカイリムの一地方、ウィンターホールドへ赴いて魔法大学に入学し

た際、知り合った「カジート」と呼ばれる種族だ。自分に魔術の才能があると断言し、努

バニラ

MODなし

力を怠らない男だ。

の環境ではその努力が報われることは無いが、ドヴァーキン

の環境ではMODを導入し、レベルキャップを廃して多くの魔法を覚えたことで、言動、

性能ともに立派な魔術師となっていた。

 その真正面でセロが鼻で笑いながら、何事か呟いているが、デルキーサスにたしなめ

られているようだ。

 上座に対しての下座──ドヴァーキンの座る席から見て真正面にある椅子に、暗褐色

の髪を持つ女性がその喧騒の中鎮座していた。全身を鋼鉄の鎧で固め、そばには同じく

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鋼鉄製の剣と盾が立てかけてある。がっしりとした体格で、女性というには少し筋肉質

ではあるが、その顔はノルドらしからぬ美人だった。栗色の瞳を静かに走らせ、席を立

ち、ドヴァーキンに一礼する。

 フォロワーの美化MODを入れたとき一番衝撃だったのはこのリディアだった。

 彼女はホワイトランという要塞都市の私兵で、メインストーリー的にホワイトランの

バニラ

MODなし

従士になってしまう関係上、必ず一度はフォロワーになる存在だった。しかし、

ではあまりに不細工かつ筋肉質なため、佐藤正は彼女のために美化MODを入れたと

いっても過言ではない。

 MOD導入前の彼女は巷で「ゴリディアさん」などと呼ばれ、しかしその蔑称もリディ

アそのものを的確にあらわしていた為、まことに遺憾ながらぴったりのあだ名だった。

しかし序盤に仲間になる以上、この顔ぶれの中ではおそらくドヴァーキンと最も付き合

いが長い。ドヴァーキンも思い入れのあるNPCであり、仮に今までの冒険がNPCの

記憶にあるのなら、リディアとは昔話で一夜を明かすことなど苦でもないだろう。

「皆様、従士様の前です。それもセロやデルキーサスから聞けばただならぬ様子。一度

口を閉ざし、従士様のお言葉に耳を傾けましょう」

 女性的ではあるが力強い声でリディアが話し出す。セロとデルキーサスの会話に混

じり、自分の種族的外見のせいで魔法への向上心がどれだけ認められなかったか熱弁し

37 見知らぬ土地─1

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ていたジェイザルゴは、長い髭をなでながら口を閉ざし、デルキーサスは腕を組み、セ

ロはどっかりと椅子に腰掛けながらそれに従う。セラーナは暇そうに自分の爪を眺め

ながらも、その耳はこちらに傾けているようだった。

 ドヴァーキンは口を開こうとして、ためらう。ドヴァーキンは自分の口調に迷ってい

た。フォロワーたちの自分の印象がどういうものか図りかねていたからだ。キャラが

違いすぎればきっと困惑するだろうし、ドヴァーキン自身、友人の口調が昨日と違って

ゲーム内

いたら疑問に思う。

の自分がわからない以上、下手なことは言えない。いきな

NPC

り敬語を使ったり、ぶっきらぼうにしゃべったり、

が生きているとわかった以上、

不安を無駄に感じさせてしまうのは忍びない。

 だからといって自分の人柄を他人に聞いても、それはそれで訝しげに思われるだろ

う。よって、ドヴァーキンは自分の心の赴くままに──思考を放棄したとも言うが──

言葉を紡ぐことにした。

「ありがとう、リディア。さて、戦友達よ。今の状況をどこまで認識しているかはわから

ないが、聞かせてほしい。何が起こっている?」

 ちょっとキザ過ぎるか、高圧的過ぎるかと思ったが、口調に関してはもう気にしない

ことにした。変だといわれたときにでも改めればよい。無理に演技でもして心労を重

ねるのは真っ平ごめんだった。

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「皆目見当も付きません」

「さっぱりわからんな」

「とりあえず、スカイリムではなさそうだ」

 セラーナ、セロ、デルキーサスがそれぞれ口を開く。

「今はリバーウッドではなく森にいて、そこにはスカイリムでは見たことの無い植物が

ある。私が聞き、見たのはそれだけです、従士様」

 リディアが申し訳なさげにうつむく。

 まあそれもそうかとドヴァーキンは自分の髭を触る。髭が生えていることには違和

感を覚えていたが、こうやって考え事をしながら手を遊ばせるには丁度いい。やはり危

険を承知で探索にでも繰り出すしかないかと考えたドヴァーキンの思考が、同じように

髭を撫でていたジェイ・ザルゴの言に中断される。

「ジェイ・ザルゴも何が起こったのかはわからない。けれどゼロ。間違いなく妙な事が

ある」

 何だ、とドヴァーキンは顔をしかめる。ジェイ・ザルゴは自信家で、傲慢と紙一重の

スクロール

言動をする男だった。一度彼の自作した

の実験に付き合い、ひどい目にあっ

たことを思い出す。自分に自信があるからゆえに、あまり自身を客観的に見ない奴だ

が、この状況では全てが貴重な意見だ。ドヴァーキンは手で話の先を促し、ジェイ・ザ

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ルゴを視界の中央に固定する。

「マジカがおかしい。ジェイ・ザルゴにはわかる。ジェイ・ザルゴはいつもマジカと向き

合ってきた。マジカはエセリウスからくる生命の源流だ。魔法はそれを動力にしてい

る。けれど、なんと言ったらいいかわからないがいつもと違うんだ。魔法使いは世界に

流れるマジカを汲み取って行使しているに過ぎない。マジカそれ自体が魔法使いごと

個人に完全に独立しているわけじゃない。許容量がどれだけ違うかが問題なんだ。大

河から桶ですくった水を動力にしているだけなんだ。でも今、ジェイ・ザルゴが魔法を

使おうとすると、疲れる。そう、疲れたんだ学友。マジカは使っても使ってもしばらく

すればすぐに体を満たしてくれる。でもこの、マジカとは別の何かはジェイ・ザルゴか

ら出て行ったきり、空白に流れてこない。大河が無い。桶から使った水は大河からすく

い取ることができない。こんな感覚は初めてだよ。実に妙なことだと思わないかい」

「つまり、マジカに関して言えば、魔法の根源であることに変わりは無いが、特性のいく

つかは異質かもしれないということか」

「そのとおりだゼロ。失ったマジカが回復するかはわからない。魔法の使用はその疑問

が解消するまで控えたほうがいいだろう」

 のどを鳴らして、ジェイ・ザルゴは肩をすくめる。それと同じタイミングで、ドヴァー

キンは目じりを押さえながら口の端を歪め、推測が一つ外れたと話し始める。

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「アカヴィリやサマーセットなんかの別の大陸に転移した可能性も考えていたんだが

な。最悪オブリビオンのどこか──例えば森といえばハーシーンのハンティング・グラ

ウンドかとも思ったが。ジェイ・ザルゴの言葉通りだとすれば、ここはいよいよムンダ

スではないかもしれない。この腕時計を見てくれ」

 ドヴァーキンは大広間の大テーブルに金色の腕時計を放り投げる。軽い音を立てて

テーブルの上に転がったそれをセラーナが興味深く手に取る。

「ドゥーマー製ですわね。これは時計ですか? 文字盤が二つありますが、欠陥品では

なくて? 針が動いてませんし、そもそももう片方は針がありませんわよ」

「針のある方は事前に定めた時間になると音で知らせてくれる、目覚まし時計という奴

だ。ドゥーマーは生活的アイデアも進んでいるようだな。問題は、だ。針が消えている

方はムンダスの時間だ。この世界に来た途端、全ての針が消失した」

 針のある方は現実世界の──佐藤正の世界の──時間だが、話をこれ以上ややこしく

はしたくない。話を円滑に進めるための些細な嘘は、それが話題の主軸に抵触しない限

り有効に使うべきだ。突っ込まれたら後でそ知らぬ顔で訂正すればよい。

「消えた? 針が? 何故針自体が消えますの?」

「ドゥーマーの技術に何故もどうやっても俺たちにわかるものか。アズラにかけて、絶

対にわからないと思うぜ。ま、理解できたときに待っているのは、神の怒りによる種族

41 見知らぬ土地─1

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の消滅だけさ」

 セロが腕時計をよこせとセラーナにジェスチャーしながら言う。セラーナは憮然と

した顔を浮かべながら、テーブルの上を滑らせて腕時計をセロに渡す。

「仕組みはわからないが、原因は推測できる。そう仰りたいのでしょう、従士様」

 リディアがドヴァーキンの考えを先んじて述べる。さすがは我が私兵だと褒めた

かったが、すぐに考えを改める。自分は何様だと。ここに居る元NPC達は、今は自分

の意思を持った人間で、自分が上からいいようにしていい存在ではない。それらを相手

に、巻き込んでしまったという罪悪感と今の状況を解決できない無力感がドヴァーキン

を襲った。

人間P

非人間

 自分は上に立てる立場ではないし、今まであった

の壁はもう無い。お互

いに命ある存在であり、お互いにその存在であることを尊重すべきだ。だからこそ、今

もこれからも、彼らとはきっと対等な立場でなければいけない。

「その通り。気候や植物が違っても、アルドゥインがドラゴンを感知できるのならニル

ンにはいる事になる。だが、アルドゥインはドラゴンを感知できない。ではオブリビオ

ンやエセリウス、もしくはムンダス内のまた違った星に来たのかといえば、本来我々の

世界を覆っているはずのマジカがおかしいという。状況証拠はそろっていると思う。

後は確信を得るだけだ。しかし、確信を得たところで帰れる保証は無い。一生このまま

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この世界に居続けるかもしれないし、居続けられる──生きていける保証もまた、無い。

俺はきっと何かしらにお前たちを巻き込んだのだと思う。きっと元凶だ。すまない。

それでも俺は保証ができない。俺も何がなんだかわからない。俺を糾弾してくれても

いい。立ち去ってくれても構わない。こうなった以上、自分の生存を優先してほしい。

できる限りの支援をする。この状況に納得のいかないものは、構わない。申し出てく

れ」

 話しているうちに、罪悪感と無力感がドヴァーキンの心を完全に支配し尽くした。対

等な立場などと、それこそ上からの態度ではないか。

 もはや彼らはNPCではない。れっきとした生命体なのだ。根幹に根ざすNPCへ

の上位者としての錯覚は、シングル用DRPGである「Skyrim」を長く続けてき

た分、無意識に固着しているのかもしれない。

 彼らを人間だと認めてもなお、その錯覚を抑えきれないことに更に自己嫌悪間が大き

くなった。この態度では嫌われるだろう、今すぐえらそうなことを言ってすまなかった

と謝るべきだろうか──しかし、そんな懸念をよそに苦笑とも諦観とも取れるような小

さな笑い声を皆が漏らしたことに、ドヴァーキンは驚きを隠せなかった。

「本当に、真剣な話、お前といると退屈しないよ。ドラゴンボーン」

 セロは腕時計を指で回しながら笑う。

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「この世界では何が起きるのでしょうね。スカイリム観光が終わったと思ったら今度は

別世界……いえ、別次元ですか。面白くなってきましたわ」

 セラーナが心底うれしそうにドヴァーキンへ笑いかける。

「砦から助けられてからこの方、お前には感謝と恩義を感じている。きっとお前はいつ

も何かに巻き込まれる性質なんだろう。でもだからこそ、俺はお前に恩を返せる」

 デルキーサスがやさしげに目を細め、その細かい牙見せて笑いかける。

「ジェイ・ザルゴは楽しみだ。すごく楽しみだ。自分の知らない魔法がここにはあるか

もしれない。そういう予感をひしひし感じる。ゼロ、君と学友になれて、ジェイ・ザル

ゴをつれてきてくれてありがとう。この世界でもジェイ・ザルゴは大成するよ。それは

間違いない」

 ジェイザルゴがその人懐っこい表情をこれでもかと明るくさせて、興奮した笑いを漏

らす。

「私は従士様の私兵。この命は従士様の為に。ここがどこだろうと、私は忠義を尽くす

だけです」

 リディアがドヴァーキンですらはじめて見るかもしれない微笑を浮かべる。

 ドヴァーキンは見かけ上はわざとらしく嘆息することにした。気を遣われているだ

けかもしれないし、皆強がりを言っているのかもしれない。それでも自分を信じて、こ

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の状況を受け入れ、一緒に頑張ろうと励まされた気がして少し気恥ずかしくなった。心

が感謝の気持ちでいっぱいになった。

 だが未だ、罪悪感が心をつつく。結果論に過ぎないがNPC達は意思を持ち、本来な

ら「Skyrim」の世界で生きていた彼らをこの異常な現象に巻き込んでしまったの

だ。その罪悪感がなけなしの演技を台無しにし、かろうじて吐けたため息も堰を切った

ドヴァーキンの声にかき消された。

「本当にそんなものでいいのか? どれだけ外が危険かわからない。お前たちは俺が勝

手にこの家に住まわせ、結果的に巻き込まれたいわば被害者だ。それでも、一緒に、俺

と一緒にここでも生きてくれるのか?」

 断られたって構わなかった、何をどうすればいいか、今もこれからも定まりきらない

だろう。そんな自分を信じて、付いてきてくれるのか? ドヴァーキンは無意識に立ち

戦友

フォロワー

上がり、

達一人一人の顔を見つめながら震える声で質問した。ドヴァーキンはそ

の雄雄しい顔立ちを歪にさせ、自分でもひどいとわかるくらいの表情を浮かべる。

 しばらくの沈黙の後、フォロワー達はそれぞれ顔を合わせあう。一様に狐につままれ

たような顔をしていたが、何かに耐え切れなくなったかのようにセロが豪快に笑い出

し、つられたようにセラーナが、デルキーサスが、ジェイザルゴが、そしてリディアが

笑い始める。先程の漏れ出るような笑いとは打って変わって、愉快な声が響いた。本当

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におかしそうな、しかし嘲笑ではなく、面白い見世物を見たときのような楽しげな笑い

だった。

「俺は傭兵だ。傭兵が雇い主に従うことがそんなにおかしいか?」

「今更過ぎますわ。私が、私の家庭の事情にあなたを巻き込んだこと、もう忘れていて?

 ディムホロウ墓地で会った時から、きっと私たちは運命共同体なのかもしれませんわ

ね」

「どれだけ遠くへ引きずり回されたって、あの狭い牢よりはずっといい。最近は冒険も

少なくなって、むしろこれくらいの遠征なら丁度いいくらいだ」

「ジェイ・ザルゴは未知の未知と出会えた。つれて来てくれたのは君だ、ゼロ。それには

感謝しても恨むことはきっと無い」

 ドヴァーキンは放心して椅子にへたり込む。

「我々は従士様とともに。失礼を承知で申し上げますと、あなたはいつも持ち前の行動

力で周りを色んな厄介ごとに巻き込み、時には巻き込まれてきました。ついていく方は

一苦労。正直言って、もう慣れましたが。けれど、だからこそ従士様は私たち含め多く

の存在と出会い、世界を広げて来られました。時には辛い時も苦しい時も、死にかけた

時もありましたが─ここにいる者は皆、それ以上のものを従士様から頂いています。だ

私達

フォロワー

から従士様、あなたはお進みください。御自分の心のおもむくがままに。

は、何処

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までも共に歩ませていただきます」

 意思の表明を終えたリディアが、一礼で締めると、全員が頷く。

 結局、皆こう言いたいのだ──いつものように気にせず進め、と。思いが行動となり、

結果異常事態が起きたとしても、それが皆にとってのいつものドヴァーキンであり、し

かしそんなドヴァーキンだからこそついて行くのだと。皆が笑いをあげたのも馬鹿に

しているのではなく、諦めでもなく、ドヴァーキンに対する理解があったから、いつも

と全然違うドヴァーキンの様子におかしくなったのだろう。

ゲーム内で

 ついドヴァーキンも大声で笑いそうになる。確かにその通りだ。

自分は

何をやってきた?

強大な敵

 スカイリムどころか世界の、定命の者たちの命運を一手に任され、

立ち向かい、打ち勝った

ドラゴンボーン

。きっとフォロワーたちからすれば

である

ドヴァーキン

ヤー

と違って、心をすり減らす体験だっただろう。

興味本位で加入した戦士団

ウェアウルフ

 

では、最終的に

になって帰ってきた馬鹿野郎

と思われているだろう。

影と共に在ること

 

は、タムリエルに生きる彼らにとっては不名誉極まりない。

聞こえし者であり、最高の暗殺者

 

だという事実は、なおさら誇れぬことだろう。

アークメイジの肩書き

 

はタムリエルにおいては名誉なことかもしれないが。

47 見知らぬ土地─1

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帝国に組して、同種のノルドを裏切った

 

ドヴァーキンは、もしかしたらノルドである

リディアに恨まれているかもしれない。

デイドラロードのお使い

 

を報酬目当てでこなし、設定上は絶大な力を持つそれらをそ

の辺の壷やらタンスやらに突っ込んで放置していることは、理解できないことかもしれ

ない。

吸血鬼のお家騒動

初代ドラゴンボーンとの戦い

 

も彼らにとっては生死をかける戦

住みもしない家を建てまくった

いだっただろう。

ときはいよいよおかしくなったと思

われたかもしれない。

黒檀の戦士を全員で袋叩き

 

した時は、呆れて物も言えなかったかもしれない。そんな

彼らにとっては異常とも言える道程を、ついてこいの一言で共に歩まされた気分は如何

程のものだろうか。

元から

 なんだ、俺は

そういう奴じゃないか、とドヴァーキンは、もはや全てを受け入

れた。その波乱万丈に彼らは今までつき従ってきたのだ。確かに、今更どうということ

は無いかもしれない。むしろ今まで別の次元に行かなかったことが不思議なくらいだ。

 そうとわかれば、多くは言葉を紡がない。皆にそう言われた以上、もはや迷うことは

何も無い。だが、一つだけしっかりと口に出したい言葉があった。これはドヴァーキン

ではなく佐藤正として、人間対人間で形にしたい気持ちの言葉だった。

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「ありがとう」

 ドヴァーキンは力強く深々と頭を下げる。本当に、皆良い性格をしている。皮肉では

ゲーム内でも

この世界でも

ない。戦友たちに、

、心から感謝を。

 思いの丈を落ち着かせ、思考を整理したドヴァーキンは頭を上げ、気持ちを切り替え

る。これからどうするべきかを速やかに話し合わなければならない。

「話を中断させてしまって悪かった。では、話を戻してこれからのことを話そう。最終

目標は、スカイリムへの帰還。それに異論は無いな」

 皆が一様に同意を示し、ドヴァーキンはそれを確認し終えた後、話を続ける。

「まずそれには帰還方法を探さなければならず、それは我々が今いる世界が何なのか、何

処なのかによって様々だろう。仮にムンダスでないとするなら見つかる可能性は低い

かもしれないが、我々が方法を知らないだけであって、方法自体はどこかにあるかもし

れない。が、とりあえずは」

 ドヴァーキンはいったん言葉を区切り、様々な考えをめぐらせた後、髭を撫でながら

口を開く。

「まずは周囲の安全の確保と、今後の活動に必要な物資の入手を行おう。並行して付近

と世界の情報収集。一つ目は衣食住……住はあるから衣と食だな。いや、安全の確保が

できなければここは放棄せざるを得ないから、やはり衣食住か。二つ目にここがどこか

49 見知らぬ土地─1

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という情報。付随して文明の有無や、有るのであれば国際情勢の確認を急ぐ。三つ目に

自分達の能力の確認。身体能力に問題は無いか。魔法の行使が制限される以上、身体的

なアドバンテージをとらなければ厳しい局面もあるだろう。今考え付くのはこのくら

いかな。何か意見はあるか?」

「先に能力の確認、その後に全員で安全の確保、じゃないか? 情報収集は能力の確認が

取れ次第、適材適所で役割分担という流れだな」

 セロが鎧のつくりを手触りで確認しながら、意見を述べる。そうだな、とドヴァーキ

ンは了承し、目で他の意見を促す。

「基本的に生命体には友好的に接するよな?」

 デルキーサスが心配そうに呟く。

「デイドラのような奴らが跳梁跋扈している可能性もあるが─まあ、基本的なスタンス

はそうだろう。だが、敵対的な存在に遭遇したときは、逃亡を前提に動こう」

「それは何故ですの?」

「セラーナ。この世界の存在がスカイリムの生命体より強靭な可能性は大いにある。慎

重であることにマイナスは無いと思う」

「従士様。一発殴って判断してからでも宜しいのでは?」

「やっぱりノルドの脳みそは筋肉でできてるんだな。牽制しながら逃げればいいだろ

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う。牽制が刺さるならよし、刺さらないなら逃げる。それがスマートなやり方だ」

「よせ、セロ」

「ノルドの戦いは、勝利か、ソブンガルデかです」

「なあ皆、ジェイ・ザルゴの話も聞いてくれ。まずはこの家の設備と物資も確認すべきだ

と思うんだ。特にドヴァーキンが集めてきた星霜の書やアーティファクトなんか、なく

なってたら一大事じゃないか」

 やいのやいのと全員が自由な話を始める。やおら騒がしくなった大広間で、ドヴァー

キンは心の中で、ある一つの覚悟を決める。

 皆そろってスカイリムに帰す、と。自分は、佐藤正はスカイリムの存在ではない。だ

から自分が戻れなくてもそれは仕方が無い。佐藤正自身は元の現実世界に自分を縛る

鎖はないし、固執する理由も無い。しかし、彼らは違う。彼らは「Skyrim」の世

界で物語を紡ぐべき存在たちだ。それに、巻き込んでしまった以上、罪悪感はやはり消

えない。皆が元に戻れるよう最善を尽くすことこそが、自分を信じて付いてきてくれる

彼らへの恩返しと贖罪だ。

 いつの間にかセロとリディアが口論を始め、ジェイ・ザルゴとセラーナがそれを囃し

立てている。デルキーサスは馬鹿ばっかりだ、などとひとりごちながら、背もたれに身

を預けていた。

51 見知らぬ土地─1

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 この先が若干不安になったドヴァーキンだったが、まあ大丈夫だろうと楽観的な確信

を持つ。だって彼らとは、ゲームの中といえど幾多の事件を乗り越えてきたのだ。それ

がこの状況で人間対人間の関係を作って、協力し合うことができる。定命の者の強さは

個の力ではない。団結によって生まれる力こそが強さなのだから。

 いよいよヒートアップしてきた喧騒に対し、ドヴァーキンはそれを止めること、今後

声シャウト

の気合を入れること、二つの意味をこめて、力強く『揺ぎ無き力』の

を放った。

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見知らぬ土地─2

     この見知らぬ土地に来てから数日が経った。まず自分達の能力を確かめることにし

たドヴァーキンたちは、練習用の木製武器で模擬試合を行った。結果は上々であり、皆、

「Skyrim」の時の能力と差異は無いことが判明した。

 加えて、「Skyrim」ではゲームシステムに縛られて見えなかった、個々の戦闘ス

タイルを見極められたのは非常に良い収穫である。

 セロは華麗な片手剣さばきで、相手の攻撃をいなしながら弱点を見極め、的確にそこ

を攻める。模擬戦は魔法の使用を禁じた為、これがセロのベストではないが、それでも

傭兵らしい生きるための剣だった。悪く言えばいやらしい戦い方で、良く言えば洗練さ

れた、勝利への戦い方だ。

 デルキーサスは遠距離では短弓、近距離では小剣と小盾を使い分け、曲芸師のように

めまぐるしく動いて戦う。状況判断能力はぴかいちであり、相手の一挙手一投足で自分

53 見知らぬ土地─2

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の手を即座に変え、常に優位を狙う狡猾さが見て取れた。

 セラーナとジェイ・ザルゴは肉弾戦は苦手のようだった。セロには軽くあしらわれ、

デルキーサスには弄ばれ、セラーナとジェイ・ザルゴの試合においては、今までの扱い

に腹を据えかねたジェイ・ザルゴが、カジート特有の鋭い爪でセラーナを追い掛け回す

光景が繰り広げられた。

「ジェイ・ザルゴはカジートである前に知と魔の求道者だ。毒と短剣で敵を追い詰める

のは他のカジートに任せればいい」

 リディアに取り押さえられたジェイ・ザルゴの不機嫌そうな言に、ドヴァーキンは申

し訳なく思った。セラーナもジェイ・ザルゴもポジションは後衛だ。強力な魔法を前衛

の庇護の下垂れ流し、敵との絶対距離とマジカ供給を最優先で確保しなければならな

い。

 その為の駆け引きなら心得ているだろうが、近接戦のやり取りなど本来はあまり得意

ではないだろう。

 ジェイ・ザルゴは破壊魔法の達人であり、膨大なマジカを破壊魔法の一分野に特化し

きることですさまじい殲滅力を誇る。魔法的攻撃力の要であり、ジェイ・ザルゴがいな

ければ攻撃力の不足により、ジリ貧に陥る危険性すらある。

 それをカバーするのがセラーナで、召喚魔法による死者の肉壁と精霊の火力でサポー

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トを行い、幻惑と変性でからめ手によるアドバンテージ奪取を担っていた。豊富な魔法

を駆使して、あらゆる局面に対応できるよう、セラーナは破壊魔法を含め全ての魔法を

覚えている。ジェイ・ザルゴが大砲ならセラーナは指揮官であり、大砲が正しく敵を撃

滅できる戦場を作る任務が彼女の主だ。

 セロは堅実さ、デルキーサスは柔軟さ、ジェイ・ザルゴは破壊魔法、セラーナは幻惑、

変性、召喚魔法。そして最後にリディアは、防御こそが最大の特徴であろう。

 彼女の得意武器は剣ではない。盾だ。みすぼらしい木盾も、彼女が扱えば不落の要塞

が誇る絶壁を幻視させる。攻撃を愚直に受け止め、愚直に流し、愚直に弾く。しかしそ

盾で殴ること

シー

バッ

シュ

れは攻撃のための布石であり、

で相手の体勢を崩しながら差し込む一撃

は、力強く相手を打つ。

 攻撃力という意味でははっきり言って微妙だが、リディアの役割は攻撃ではなく、守

ることだ。

 セラーナが彼我の戦力差を瞬時に分析し、膨大な魔法で自分達に有利な戦場を敵に強

制する。リディアが前線を張って後衛を守り、敵をひきつけ、セロがもれ出た敵をいな

しながら確実に敵の数を削る。デルキーサスが遊撃に回り、時にはリディアと共に敵を

ひきつけ、時にはセロの討ち漏らした敵を弓で穿つ。そして、ジェイ・ザルゴが後方か

ら強力無比の魔法を行使し、敵に圧倒的致命傷を与えていく。

55 見知らぬ土地─2

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 これが彼らの理想的戦闘方法かもしれない。まあ、「Skyrim」では後衛の魔法が

強くなりすぎてしまい、前衛が敵に接近する頃には敵のいた地点は死屍累々、というの

が常だったが、この世界ではどうかはわからない。戦略と戦術は多く取り揃えておくべ

きだし、それにはまず基本のポジショニングが無ければならない。

 では、ドヴァーキンはどのポジションに着くべきか。しかし、ここまで完成された

パーティーにドヴァーキンは必要ないのではないか、という疑問が出てくる。それはそ

の実その通りであったが、その理由はまた別の至極単純な理由であった。ドヴァーキン

は戦闘において、独立した非常に重要な役割を担うことにしたのだ。

強敵との一騎打ち

 それは

である。ドヴァーキンが模擬戦を始める際、身に着けた装備

は異様な物だった。

 腰の両側には手斧を下げ、後側には小刀を二振り、交差させて携帯した。背部には剣

先を揃えて、それぞれ片手剣と両手剣を背負っており、剣術において舵取りとなる右腕

でいつでも抜き払えるよう、右肩から長さの違う柄を覗かせていた。背中の中心を正面

から見て左側には、簡素なクロスボウがぶら下がっており、臀部にたれ下げた矢筒は、両

手ですぐに扱えるように考えられた所持部位だった。

 斧、ダガー、片手剣、両手剣、クロスボウ。多彩な武器はドヴァーキンの高いスキル

適正を物語っており、「Skyrim」内でも愛用していたラインナップだった。斧はノ

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ルドの誇り、ダガーは二刀流用の加速装置と隠密攻撃用。片手剣は斧と入れ替わりのサ

ブ武器で、両手剣は相手のガードを崩すために。クロスボウは──正直無くてもいい。

気分と雰囲気で。

 これに加え、破壊、変性、幻惑、召喚、回復の全ての魔法と、ドラゴンボーンの所以

声の力

シャ

である

を駆使し、ドヴァーキン単体の戦闘能力は、もはや一人で一つのパー

ティーであるとさえ言うことができる。戦士としての戦い方や感覚も、今まで体感型の

世界で重ねてきた戦闘でさまにはなっていた。ベテランの戦士というレベルではない

が、持ち前の身体能力がそれを十二分にカバーしてくれている。少なくとも、セロのい

なしより早く連撃を叩き込め、デルキーサスの対応より先んじた手を打て、リディアの

防御を大剣の一振りで崩せる程度には。よって、強敵を含む多数の敵軍と対峙した際

は、ドヴァーキンが強敵を狩り、フォロワーたちが雑魚を蹂躙する戦法がまずは安定す

る戦い方かもしれない。

 ただし、この戦法が至上のものではないと思うし、能力確認の模擬戦による情報のみ

で構築した布陣でしかない。今後、戦闘訓練を交えつつ、実戦を踏まえた洗練が必要に

なるだろう。そもそも佐藤正は現実で戦ったことなど無いし、構築材料は中途半端な知

識でしかない。経験も知識も不足している。将来、この問題は行き詰る可能性が大きい

為、情報収集の際はそういった戦略や戦術を学べる対象が存在するかも考慮しなくては

57 見知らぬ土地─2

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ならない、とドヴァーキンは考えていた。

 能力の確認が完了した後、その日は休息を取り、今日まで付近の情報収集を行ってき

た。判明したことは少ないが、それでも何がわからないことか判明しただけでも価値は

あった。それが今後の方針の一部になるし、知らないことを知らなければ、知識を重ね

ることは難しい。欠落した分野を把握してなければ、その補完の仕様が無い。

 ドヴァーキンは今、家のすぐ外で鎧の脱着練習を行っていた。少女の姿をしたアル

ドゥインが、ドヴァーキンの回りをゆっくりとまわり、時に悪態を吐きながらうんうん

と低いうなり声を上げている。他のメンバーは情報収集に出かけており、今日はこの森

の地理を把握することと、副次的に森の外を見つけることを目標に、先刻出発した。

「ドヴァーキン、我はドラゴンだ。定命の者の鎧がどうあるべきかなど、ほとんど興味が

無い。しかしだ、それでも喰らってきた者たちの召し物だ。多少の見識はある。その細

い見識で自信が付くのか甚だ疑問だが、まあ、堂に入っているのではないか」

 ドヴァーキンは皮製の胴当てに毛皮の腰巻を纏い、手足は鉄製の篭手と具足を身に着

けていた。頭には同じく鉄製の兜を被り、装飾の猛々しい角飾りが日の光を浴びて鈍い

輝きを放っている。

 この格好は「Skyrim」のトレーラーや公式画像におけるドヴァーキンの代表的

装備だ。「Skyrim」には防具にも練達スキルが存在し、『軽装』と『重装』といっ

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た、防具のカテゴリによる区分がなされている。

 ドヴァーキンの代表的装備は、見栄えを重視したためかそのカテゴリがちぐはぐで、

軽装と重装が混在していた。防具のスキルはどちらかの装備を統一することで、効果の

perk

ある

を発揮できるようになる。その為、ゲームシステム的には不都合な装備

だったが、種族がヴァイキングたるノルドであること、公式画像を何度も目にし、気に

入っていたこともあって、ロールプレイ上の理由で佐藤正はこの構成が気に入ってい

た。鎧の如何で戦闘の足かせが増えるわけだが、それを重いと思うレベルでもなかった

し、逆に縛りプレイの一環として難易度の調整に微力なりとも一役買っていたように思

う。

 しかし、この世界はゲームではなく現実である。最初は「デイドラ装備」や「ドラゴ

perk

ン装備」の着用も考えたが、この世界で全ての

が適用される保証はないし、一

度着用はしたが、着にくい、脱ぎにくい、動きにくいの三重苦でとても戦えた物ではな

かった。きっと鎧の種別によって適切な戦い方はあるのだろうが、佐藤正は公式画像の

装備を序盤から延延と使っていた以上、この装備が一番しっくり来た。

 自分の思うとおりに体がしなり、剣戟を操る双腕と敵を狙う視界がほとんど阻害され

ることは無い。武器の持ち替えもすばやく行え、防御力以外の点ではベストではないが

ベターな装備だと考えていた。

59 見知らぬ土地─2

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 だが、そんな理論を構築したところで装備できなければ意味が無い。服の着方すら分

らなかったドヴァーキンが、鎧の着方など分るわけがない。だからこうして、セロやリ

ディアに教えてもらった方法を繰り返し練習し、その批評をアルドゥインに任せていた

のだ。

 アルドゥインを外に出すことに不安はあったが、アルドゥインがこの世界に来たとき

無意識にこぼした「ドヴァーキンの許可」を追求したところ、アルドゥインはドヴァー

キンの許可された行動以外は取ることができないという。

 確かにこのアルドゥインは佐藤正の自作MODで、AIの設定──といっても単一行

動の反復しか設定してないが──は自分が行った。筋が通っている気はしたが、少しだ

けアルドゥインを不憫に思った。しかし、その足かせは十分に機能しており、こうやっ

て外に出しても、逃げることも暴れることも無く、ただ命じた「鎧の着脱に関する批評」

のみに従事している。

 セロもリディアも貴重な戦力だし、あのパーティー構成には欠かせない存在だ。かと

いって情報収集の手を休ませる時間も無い。アルドゥインは可哀想だが、この足かせは

大いに利用させてもらおうと思う。

「よし、それならもうこの練習は良いかな。セロとリディアが帰ってきたら完成度を見

てもらおう」

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アーム

ふー

? では叫んでよいのか、ドヴァーキン!」

声シャウト

 この数日、アルドゥインと一緒に行っている実験があった。それは

に関する実験

だ。

 マジカに対する懸念だが、能力の確認後、一日休息をとったことでマジカが全回復し

ていると、ジェイ・ザルゴから報告を受けた。マジカの流出した感覚がなくなり、全身

に魔力が満ち溢れていたらしい。それを聞いたとき、安心はしたが、懸念が疑問に変

わっただけだとドヴァーキンは考えている。

 もはやマジカが別の何かに置き換わった可能性は非常に高く、仮説では有るが他作品

マジックポイント

のRPGでいう、「

」的な特徴がある。使った分は使ったまま回復せず、休息を取

ることで回復する。マジカは消費した分がすぐに回復していくシステムだったし、その

理由はジェイ・ザルゴが以前述べてくれた通りだ。

 これに関しては、この世界の魔法の特徴と法則を早急に把握する必要があり、推論だ

けで魔力を消費し続けるのは危険である。ジェイ・ザルゴにそのことを話したら、嬉々

として原因の究明に当たると言ってくれた。今は探索と並行して、セラーナとともに負

担にならない程度の魔法を使いながら、違和感や差異を抽出してもらっている。ド

ヴァーキンも魔法は全種使えるが、ムンダスとの違いを探るのは、元からムンダスの住

人として在った彼らのほうが適任であろう。

61 見知らぬ土地─2

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 その指示をジェイ・ザルゴへ出した後、ドヴァーキンはふと思い至ることがあった。

「シャウト」はムンダスと違うのか、ということだ。最初に転移したときに行使した『揺

ぎ無き力』は、特段変わったことは無かった。発し方に違和感はあったが、あれはゲー

ム内と現実との差異で、ムンダスとこの世界の差異にはならない。シャウトは自分の主

力であり、なにか影響があればつぶさに対応すべき案件だ。

 それで一度、全種のシャウトを用いて検証を行うべきだと考えたが、魔法と同じく自

分にはムンダスとの違いは分らない。その対策として、アルドゥインを伴っての実験を

行っていたのだった。

連続使用制限

クー

 昨日までの実験でわかったことは、三つ。シャウトの

が存在しないこ

と、その代わり人間である体でシャウトを使用しすぎれば喉が枯れ、声を出せなくなる

こと。最後に、一部のシャウトは完全に使えなくなったこと。

Od─Ah─Viing!

よ、

 ドヴァーキンが不意に叫ぶ。このシャウトは『コールドラゴン』と呼ばれ、メインス

トーリーで協力関係を結んだ赤きドラゴン、「オダハヴィーング」を召喚するシャウト

だった。

 本来なら、咆哮をあげる巨大な真紅が、雄大な翼で空を切り裂いて現れるはずだった

が、何も起こらない。ゲーム内ならバグか何かでどこかの山脈に引っかかって現れない

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こともあったが、これは現実だ。つまり、オダハヴィーングはこの世界にいないことに

なる。

 よって、この『コールドラゴン』は全く使えないシャウトであることになる。同じく、

「ソウル・ケルン」という、魂石に囚われた魂の行き着く世界から、呪われし竜「ダーネ

ヴィール」を召喚するシャウトがある。そちらも使用はしてみたが、ダーネヴィールが

現れることはなかった。

若いレッド・ドラゴン

ヴィー

呪いの呪われし竜

ダー

ヴィー

「ふむ、やはりあの

もここには居らぬ様だな。

まあ、いるのであれば我がその魂を感じるはずであるから、当然ではあるのだが。ド

ズー・ロスト・ナーン・ロアンヌ

アーン・ヴァンミンドラーン

ヴァーキン、

 アルドゥインが喉を雷鳴のように鳴らし、憎悪も無く敵意も無い、この世界で初めて

見る表情を浮かべる。そこに映る感情は疑問だけで、彼──便宜上、今後は彼女と呼ぶ

ことにする──の困惑振りは、解けないパズルを前に立ち尽くす年相応の少女、まさに

それだった。

「オダハヴィーングは理解できる。だが、ダーネヴィールは何故、声に応じない。吸血鬼

ゼィーエ

の小娘が、

やドレモラを召喚していたではないか。お前が言うように奴がソウ

ル・ケルンにいるのであれば、ここに現れておかしくは無い。召喚魔法を使えるという

ことは、オブリビオンに次元的接続が存在する証明になる。ソウル・ケルンも確かオブ

63 見知らぬ土地─2

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リビオンの一つ。これでは話の筋が通らぬのではないか?」

 それはドヴァーキンも理解できない現象だった。召喚魔法はセラーナの要であり、マ

ジカの問題が解消した後、早速使用実験を行ったのだが、問題は無かった。炎、氷、雷

の精霊たちは「Skyrim」と寸分たがわず召喚され、デイドラロードの「メエルー

ンズ・デイゴン」に仕える「ドレモラ」でさえも、姿形を変えることなく顕現させるこ

とができた。オブリビオンからの召喚は行えるはずなのだ。

 しかし、召喚されたそれらは、外見は同一でも決定的に違う点があった。それは、い

ちいち指示を出さなくては全く動かない点だ。「Skyrim」で勝手に動いていた彼

らとはまるで違う。セラーナが付いて来い、と言わなければ棒立ちのままで、攻撃も防

御も術者から逐一指示を飛ばさねばならなかった。とっても面倒ですわね、とストレー

トに不満を漏らすセラーナが記憶に新しい。

 ドヴァーキンには、その被召喚者たちの行動に関連する紐が近くにあった。アルドゥ

インと同じかもしれないと。その紐が結び合わさって、一つの輪を作る。情報という肉

は無く、根拠という骨も無い、仮説にも至らない考えではあったが、要は思い当たる節

レベルの理論があったのだ。

「仮にオブリビオンから召喚されていなかったとしたらどうだ?」

 アルドゥインは、疑問の顔から侮蔑の顔に一瞬で変貌する。何言ってんだこいつ、と

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いわんばかりの表情だ。

「服の着方も忘れ、鎧の着方も忘れ、世界の理まで忘れたか、ドヴァーキン。召喚魔法と

そ・

う・

い・

う・

も・

の・

ではないか」

ム・

ン・

ダ・

ス・

の・

概・

念・

「そうだな、しかしアルドゥイン。この異常事態に

は捨てたほうがいい。

マジカはどうだ? エセリウスからくるそれと性質が全く違った。シャウトはどうだ

? ドラゴンであった頃のお前ならその声帯で際限なく叫べたが、今となっては叫びす

ぎれば喉が枯れる。まだ試していないシャウトの中には、ムンダスと効果が違うものが

あるかもしれない。事実、お前が使ったシャウト──『帰還』のシャウトだったか。あ

れもニルンに転移できるはずが、何も起こらなかったじゃないか」

 アルドゥインは悔しそうに唸る。きっとこの王は、そのとおりだドヴァーキン、など

と殊勝なことは言わないだろう。その代わり、沈黙と喉をもって同意の意を示すのだ。

「その辺りの追究はすべきだが、今行うべきでない。『できることが、全てすべきことで

あるとは限らない』、アルドゥイン。それらは帰還方法を探す段階の一ステップだ。今

は、この世界の法則の中で、我々がいかに適用されるかを見極める。問題を潰すのはそ

れからだ」

 アルドゥインは再度低く唸り、渋々と沈黙する。そして、上空に向かって鬱憤を晴ら

すかのように、恨み節を叫んだ。

65 見知らぬ土地─2

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Yol─Toor─Shul

!!」

 アルドゥインの声が苛烈な炎となる。まるで地獄から炎が爆発したかの勢いで、アル

ドゥインの口から上りあげたそれは、紅蓮の渦を巻き起こしながら、頭上の大穴を怒涛

の如く貫いていった。

   ◆

   不自然に盛り上がった大地が乱立し、まるで出来物の様に土の瘤が大地に敷き詰めら

れている。その肌はむき出しの土くれで、瘤の一つに、褐色の肌をした金髪の少女が顔

をしかめながら考え事をしていた。

 褐色の肌に輝く双眸は、純真なる紺碧と無垢なる鮮緑をたたえ、切りそろえた金髪と、

程よい色の調和を作っている。麗しい外見にそぐわない弱気な相貌は、しかし見目麗し

いからこそ、小動物のような庇護欲を掻き立てた。白色を主とした服装で、背中の若葉

を思わせる装飾布と、若干短めのスカートが風にたなびく。

 彼の名はマーレ。故あって少女の姿をしているが、れっきとした男である。ドヴァー

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キンたちとほぼ同日時にこの世界へ転移して来た、ナザリック地下大墳墓における第6

猛獣使い

ビーストテイマー

森司祭

階層守護者で、姉の

と共に任に当たる

だった。

 身の丈ほどもある杖を突いてマーレはこの瘤にどう木々をはやせば不自然でなくな

るか、頭を痛めていた。至高の御方より命じられたのは、マーレたちの所属するナザ

リックを隠蔽することだった。大地を操り、土と泥で隠蔽する方法はマーレ自身が提案

した方法であり、それに関して守護者統括であるアルベドが苦言を呈していたが、お優

しい至高の御方は、自身の居城が泥と土で汚れることも厭わず、マーレの案を採用して

くれた。しかも、その任の初めに労をねぎらって頂き、ナザリック内では絶対者とされ

る「至高の41人」しか所持を許されない、特別な指輪を賜ったのだ。

 マーレは自分の左薬指に嵌ったそれを眺めながらため息をつく。文字通り、この身に

余る光栄であり、その分この任は絶対に完璧──いや、完璧以上の働きをしなくてはな

らない。姉と相談しながら、第6階層の木々を参考にしてみよう、と思い立ったマーレ

が、不意に異常を感知する。

 誰かに呼ばれた気がしたのだ。呼ばれた方向に振り向くと、はるか遠くに大きな森が

見える。はて、誰かのいたずらだろうか。マーレは不思議に首をかしげる。今、ナザ

リックは至高の御方の厳命で厳戒体制に入っており、そんな中あえてふざける馬鹿はい

ないと思うが。

67 見知らぬ土地─2

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 きっと至高の御方のことを想っていたせいで、労いの言葉を幻聴でもしたのだろう。声異

そう気のせいとして流すことにしたマーレだったが、次に聞こえた、はっきりとした

がそれを許さなかった。

 それはどす黒い怒りだった。それは怨嗟の声だった。今度の声は発生源は分らず、変

わらず小さな声だったが、マーレの感知能力が無くても確かに聞こえるだろう。デミウ

警戒網

ルゴスの放った

にも届いたかもしれない。空間中にこだましたそれは、天地が叫

び、空間が声を発したような錯覚まで覚える。魂がその声を聞き、自分の頭に直接反響

してきた。

 マーレは顔を上げる。異常事態だ。ただ声の大きいものの仕業では決して無い。す

ぐに報告すべきだろうか、まず姉に相談すべきだろうか。逡巡したマーレだったが、次

の瞬間、その決定はすぐ下された。

 森から炎の渦が立ち上る。いや、あれは炎の柱といってよいだろう。これだけ遠く離

れた地点でも認識できるそれは、デミウルゴスが行使する地獄の業火と似た禍々しさが

見て取れた。しかし、それはデミウルゴスとはまた違った禍々しさを持ち、空恐ろしい、

命あるものとして根源的な恐怖を覚える燃え盛り方だった。

 ──報告すべきだ。

 マーレは身を翻してナザリックへ向け駆け出す。あれは異常ではない、異質だ。この

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世界にも自分達の元居た世界にもあってはならない炎だ。情報は少ない上に、幻聴や蜃

気楼で片付けられてしまうかもしれない。しかし、見た者には分る。あれは恐怖かもし

れない。自分の記憶にぼんやりと残る、ナザリックが陥落しかけた日を思い出す。

 やはり至高の御方は間違っていなかった。主人への敬愛を忘れないながらも、マーレ

は全速力でナザリックを目指した。

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆

  「これはひどいな」

 生物の焼けたにおいと、煤の燻ったにおいがドヴァーキンの鼻腔を抜ける。森のにお

いを嗅いだときとは違って、心底気分の悪くなるにおいだった。

「生存者は数名。皆、重症だ。体か心かの違いはあるがな」

 《生命探知》で付近の捜索を終えたセロが、唾を吐き捨てるように告げる。

「最初の生命体との接触が、こうも胸糞悪いとはな。どうやらこの世界の神も性根が捻

69 見知らぬ土地─2

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じ曲がっているらしい」

「セロ、怒りは分る。だが、抑えろ。まずは生存者をどうすべきか判断しなくてはならな

い」

 ドヴァーキンはセロの悪態を手で静止する。

「本当に、どうしてこうなったのかしら。村を襲った者の意図が分りませんわ」

 セラーナと同じく、ドヴァーキンもどうしてこうなったと考えていた。その方向性は

違うようだが。

 アルドゥインとのシャウトの検証が一息ついた頃、ジェイ・ザルゴとデルキーサスが

血相を変えてドヴァーキンを呼びに来た。森の外を見つけ、外周を計るように回ってい

たところ、戦争の──人が燃えて死ぬにおいがしたという。そのにおいをたどった結

果、この焼け落ち、死体が住人となった村を発見したそうだ。すぐにジェイ・ザルゴと

デルキーサスに続き、ドヴァーキンもその村へ向かうことにした。

 アルドゥインには留守を守ってもらい、仮に危険があったときは全力の声で叫ぶよ

う、命じてある。

 そうして到着した村は、村というより集落といったほうがいい規模だが、「Skyri

m」の村も同じような物で、呼称に支障は無い。

 崩壊した村を捜索し、幾人かの人間を発見したが、重傷を負っているか、心が壊れた

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者達だけであった。かろうじて文明レベルがタムリエルの村とそう大差ないことは見

て取れたが、得られた情報はそれだけだ。この村が無事でなかったことは情報の損失と

共に、人間的同情心によりドヴァーキンの心に影を落とした。重症の者達はドヴァーキ

ンの治癒魔法で事なきを得たが、心的ストレスを見れば、何があったかは聞くのもはば

かられる。

「セラーナ、その詮索もよせ。まずは、話せる者から事情を聞き、彼らを護送するか、見

捨てるか選択すべきだろう」

 見捨てる、という単語にデルキーサスが少し不安げな顔をする。ドヴァーキンも冷酷

な判断かと思うが、仮にこの辺りで領地争いがあり、その見せしめや戦略の一つでこの

村が襲撃されたのであれば、彼らを助けるのはイレギュラーだ。計画において、イレ

ギュラーは排除されるのが常であり、その対象にドヴァーキンたちが指定されるのは好

ましくなかった。

 厄介ごとをこなすのには慣れてはいるが、今はまだそのときではない。地盤が整って

もいないのに首を突っ込めば、足を払われて首を落とされかねない。

 ドヴァーキンは生存者の中でも、まだ人の顔を保っている青年を見つけ、近くにしゃ

がみこむ。

「私達は旅のもので、私の名前は──ドヴァーキンという。力になれるかは分らないが、

71 見知らぬ土地─2

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聞かせてくれ。なにがあった?」

 ゼロ、という名前は使わなかった。馴染みの全くない名前だったし、記号で呼ばれて

いる気がして今後も馴染めない気がする。いっそのこと皆にもドヴァーキンと呼ばせ

ようか、と改名の案を思い浮かべたドヴァーキンは口を開き始めた青年を認めてすぐに

思考を取りやめ、青年の言葉に集中する。

「ま、まずは──ありがとうございます。あなたのおかげで、き、傷も癒え、命は──家

族は死に、私にとってあるのは、命、命だけですが、助かりました。ありがとう、ござ

います」

 ドヴァーキンがうなずいてそれに応えると、青年はゆっくりと話を続ける。

「帝国の騎士達が、襲ってきました。家には火を放ち、男も、女も、赤子ですら──殺さ

れました。十分に、破壊と殺しを行った後、彼らはあちらの方角へ──」

 青年が森林の外縁に沿って続く方角を指し示す。とりあえずドヴァーキンたちの家

とは違う方角であり、「帝国」という国が存在する事実が判明した。

 推測できるのは国家間のいざこざと、帝国内での領地争いだ。どちらにしてもド

ヴァーキンが介入するのはまずい。国の戦力とも言える騎士が動いているとなれば、そ

れは国家経営にもとづく計画的行動だろう。基盤の無いこの状況で、国相手に何らかの

アクションを起こすことはまずい。自分の最低位治癒魔法で、青年の傷が一瞬で完治し

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たところを見ると、一般成人男性の村人クラスは低位の能力しかないと判断できるが、

騎士に関しては話が別だ。事を構えるのはまずい。

 ──傷を癒すことだけして、あとは旅の目的云々で立ち去るべきだな。

 心は痛むが、フォロワーとわが身には代えられない。申し訳ないが──とドヴァーキ

ンが口を開きかけたところで、リディアがおもむろに剣を抜き払う音が聞こえた。

「従士様」

 見れば、おのおの戦闘準備を始めていた。リディアは盾と剣を構え、一歩ずつ地を踏

みしめながらドヴァーキンから離れる。セロは崩壊した家屋から飛び出し、右手に剣

を、左手に魔法の光を携え、駆け出していく。デルキーサスが短弓を構え、目でジェイ・

ザルゴとセラーナに合図する。ジェイ・ザルゴとセラーナはそれぞれ防御魔法を自身に

掛け、ジェイ・ザルゴは炎の破壊魔法を、セラーナは召喚魔法の詠唱を始めていた。

 全員の視線の先には、馬を駆って近づいてくる総勢50名程度の戦士団の姿があっ

た。統一性の無い装備であるが、隊列は整然としており、賊の類ではなく統制の取れた

一団であると推測できる。先頭をひときわ速い速度で駆けてくる戦士は、一目で分る屈

強な体と重厚な鎧を身に着けていた。その片手には鎧にも劣らぬ重厚なグレートソー

ドが握られている。

 遅かったか、とドヴァーキンは心で舌打ちする。あれが帝国の騎士かは分らないが、

73 見知らぬ土地─2

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どこかの国の軍隊であれば面倒なことになる。最悪、両国が戦争中であるなど、関係の

冷え切った状況であれば自分達イレギュラーはたいそう厄介なことになるだろう。こ

の状況で逃げてはもう遅い。逆効果だ。幸い、あちらもこちらも戦闘体制に入っている

が、攻撃の意思はいまだ見せてこない。このまま警戒し、かの一団と相見えるのが得策

だろう。

「一つ聞きたい、あれが帝国の騎士か?」

「い、いえ違います。あれは王国の──ガゼフ様! 王国戦士長!」

 青年の顔が途端に明るくなる。先頭に走るあの屈強な男はガゼフといい──戦士長

という身分で、なんらかの理由で平民に慕われているのかもしれない。ならばうまくす

ればやんわりことを運べるかとも思うが、それは甘い考えだろう。

 ドヴァーキンの対応の策が定まりきらないまま、剣を手にしたガゼフがドヴァーキン

一行の前で馬を止める。リディアが割って入り、セロは構え、デルキーサスが弓を引き

絞る。ジェイ・ザルゴはセラーナの指示で、最高位の魔法である達人クラスの魔法の詠

唱を完了させており、セラーナはジェイ・ザルゴと自身の前に副次的前衛として、精霊

達を召喚し終えていた。

 一触即発の空気が流れるが、ことをすぐに構える意思はないと判断し、ガゼフはド

ヴァーキン一行を一人ひとり観察する。

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 山賊のような身なりの男が、この村の青年だろう男のそばでしゃがみこみ、こちらを

興味深く見つめている。この者達が一種のパーティーであるなら、おそらく鉄砲玉のよ

うな奴なのだろう、と王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは考える。身につけた武器も雑

多で、あれを全て使いこなせるとは思えない。大方示威行為の一環であろう。こいつは

いい。

 ガゼフはすぐに視線を正面の女に移す。

 真正面で盾を構える女は、女としては筋肉質で、その覇気は絶対的戦士のそれであっ

た。王国最強の冒険者チーム「蒼の薔薇」の戦士、ガガーランにも引けをとらない存在

感は、彼女の力強さによってより大きく見える。

 そのすぐ後方に、蟹の甲羅を継ぎ合わせたような妙な全身鎧を着た男が居た。中身は

分らないが、体格上は男に見える。右手に剣を、左手に光を握り、独特の構えでガゼフ

を見据えている。左手の光は魔法だろうか、ガゼフには分らないが、仮にそうだとした

らこの男は魔法を使いこなす剣士であり、物怖じしないその構えは圧倒的自信の表れ

だ。魔法を絡めた剣技がどれほど厄介か、想像に難くない。

 弓を引き絞り、こちらを狙うトカゲは、もしかすると話に聞くリザードマンだろうか。

しかし、角が生えてると聞いたことはない。細く筋肉質な体を革の鎧で包み、身軽なそ

の姿から、射手ではなく盗賊や軽業師の可能性もある。

75 見知らぬ土地─2

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 最後方に陣取る二人とその取り巻きは、異様な光景だった。燃え盛る人型の化け物、

氷を削りだして作った氷像のような巨人、小さな雷雲と黒い岩を渦巻かせながら、妖し

げな赤い眼を光らせる異形。その後ろに全身を魔力でたぎらせる獣人の姿があった。

 獣人はビーストマンとか言う奴だろうか。話に聞いたことは少なく、見たことは無い

魔法詠唱者

マジックキャスター

ので判断は付かなかったが、魔法を使えるとは知らなかった。

でないガゼフ

に、その魔法の種類は分らないが、強大な力の塊が、奔流となって形を成しているのが

目と感覚で分る。

 一番後方に陣取る、化け物のような美しさを持つ女、あれが指揮官だろう。妖艶な美

貌とは裏腹に、その血のような真紅の目から漏れ出る殺意は、人間ではないと直感でき

る。人の姿を取っている分、知性はありそうで、その為これだけの異形を集めているの

だろう。リザードマンやビーストマンがいるのも納得できる。あの甲殻類も中身は異

形のそれで、山賊は使いっぱしり。正面の、戦士として気高いだろう女が組している理

由は分らなかったが、事情があるのかもしれない。

 厄介なことになった。帝国騎士の目撃情報に加え、この化け物の一団だ。先の巨大な

炎の柱の件もある。このエ・ランテル近郊の村々は王の直轄地であり、今回ガゼフたち

が帝国騎士の警戒に出張ったのはその為だ。周辺の貴族に協力は仰げず、王自身の戦力

のみが動けるこの状況で、化け物に対し戦力を割ける余裕は極めて少ない。しかし、そ

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れでも、仮に村を目の前の一団が襲撃したのでれば、こいつらはここから逃がすことは

できない。自分の敬愛する王の国民を、殺戮したこいつらだけは。

 しかし、化け物たちは戦闘準備はすれど動く気配は無い。警戒しているだけなのか、

こちらの出方にあわせて後の先を狙っているのか。後者だとすれば、こちらから仕掛け

るのはまずい。数の優位を取っているとはいえ、相手の手が分らない以上、うかつなこ

とはできない。自分は貴族ではなく戦士であり、言論による戦いは苦手なのだが、この

場は言葉による駆け引きを行う局面だろう。

 乾いた唇をなめ、張り裂けんばかりの声を持って一団に言葉を投げかける

 。

「我が名はガゼフ・ストロノーフ! リ・エスティーゼ王国、王国戦士長である! 諸君

らは何者か、この状況はいったいどういうことか説明してもらおう! 返答によって

は、我々の王の刃を以って切り捨てる!」

 ガゼフは再度唇をなめる。さあ、どう動く化け物ども──。

 ガゼフはこれから始まるであろう、壮絶な戦いの予感を全身でびりびりと感じてい

た。

77 見知らぬ土地─2

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激突─1

     続々と馬に乗った戦士達が集まり、陣形を作る。両翼に軍団を分かち、開いた空間に

ガゼフが陣取る。こちらの返答次第でガゼフが先陣を切り、左右から攻め立てながら馬

でなぎ払うつもりだろう。

 まあ、そうなるな。ドヴァーキンは諦める。残念ながら状況証拠が揃い過ぎている。

セロの言うように、この世界の神々も本当に人が──いや、神が悪い、だろうか。

 惨憺たる村の有様、死して黙する村人達、かろうじて生き残った村人は憔悴しきり、そ

の周囲には出所不明の謎の集団。誰だって疑う、ドヴァーキンだってガゼフの立場なら

疑う。

 しかし、逆を言えば状況証拠しかない。根拠だった反論を物的、人的証拠で示せば、穏

便にことを済ませられる可能性はある。ドヴァーキンは唇をなめる。こちとら万年

ペーペーの営業だ──言い訳と責任転嫁には自信がある。

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「違います! 王国戦士長! この方達は我々を助けてくれました! この村を襲った

のは帝国の騎士たちです! あの紋章と鎧を見間違えるはずはありません!」

 素晴らしい、完璧な弁護だ村の青年──ドヴァーキンは心の中で青年の手を握る。

 ドヴァーキンたちの善意を示し、責任の所在は帝国の騎士に。事実として「紋章と鎧」

を挙げ、確かな目撃証言を基にドヴァーキンたちの潔白を訴えてくれた。それが真実で

ある以上、現実として無罪はこちらにある。戦士長の誤解を正すにはそれを分ってもら

う必要があり、その為の人的証拠は使った。ここは一気に畳み掛けるべきだ。

「その通りです、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ様。我々に戦う意思はなく、これは単

なるすれ違いによる誤解です」

 ドヴァーキンはこれからの対応方法を確定させる。まず、フォロワーたちに指示を出

し、武器をしまうことで戦闘の意思がないと知らしめる。ガゼフの剥き出しの警戒心

は、大方、襲い掛かってくるとでも思ってのことだろう。

 そうして意表をついた後は、自己紹介の後、青年と共に経緯と事情を説明すればよろ

しい。ダメ押しに自分達の武器に殺戮の証拠が無いことを見せ、帝国の騎士たちが去っ

ていった方角を伝える。その途中で情報を引き出せれば百点満点だ。逆境を切り抜け、

この村で得られるはずだった情報をガゼフから得ることができる。ピンチはチャンス。

よく言ったものだとドヴァーキンは頭で呟く。

79 激突─1

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 と、ジェイ・ザルゴのうなりをあげて渦巻いている達人魔法が目に入る。その横にい

るセラーナは、精霊達を帰還させず、険しい顔でガゼフをにらみつけていた。あれはま

ずい。すぐにやめさせなくては。

 ガゼフに信用してもらうには、まずセラーナの敵意を鎮め、精霊達を下がらせ、ジェ

イ・ザルゴの魔法を中断させなくてはならない。ジェイ・ザルゴの視覚的にも感覚的に

も威圧する魔法の渦は、戦士団にとっては最も分りやすい示威行為だろう。セラーナの

敵意むき出しの目は、一触即発な空気を更に悪い方向へ後押しする威嚇の目だ。

 だが、すぐにやめさせるにしても、この状況で彼らに走り寄って指示を出すわけには

いかない。ガゼフ達を無駄に警戒させる行動は慎むべきだ。それに、戦意を見せないこ

とをガゼフの前で、行動として見せる必要がある。今二人に走り寄り、魔法を解除する

よう告げてもその言葉はガゼフには聞こえないし、あるいは密談ととられる可能性もあ

る。

 ならば、声を張って攻撃態勢の解除を指示すべきだが、二人とも魔法の制御に集中し

ている上、若干距離が離れている。リディア、セロ、デルキーサスに聞こえる程度の声

声・

を・

量では、指示が届かないだろう。ドヴァーキンは焦りながらもそう分析し、全力で

張・

り・

上・

げ・

る・

「セラーナ!! 精霊たちは帰還させろ!! ジェイ・ザルゴは魔法発動準備の解除を!! 

80

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皆・

、・

武・

器・

を・

下・

ろ・

せ・

戦・

闘・

の・

意・

思・

を・

見・

せ・

る・

な・

! ・! ・

!! 

 次の瞬間、空気が震えた。目に見えない振動が虚空を走り、揺らぎが焼け落ちた村を

襲う。未だ灰色を波打たせる煙が大きく歪み、黒く炭化した材木が、振動を持った空気

の波で崩れる。青年がびくりと体を仰け反らせ泡を吹いて白目をむき、近くにいたリ

ディア、セロ、デルキーサスが耳をふさぐが、間に合わず身をうずくめる。離れている

はずのジェイ・ザルゴとセラーナまで耳を押さえ、肩を震わせている。

 重ねて言うが、ドヴァーキンの声量は、器は定命の者でも魂がドラゴンである以上、恐

グレイビアード

ハイ・フロスガー

るべきものである。かつて

たちが、たった数人で

から

声スゥーム

地表のドヴァーキンを声だけで呼びつけたように、

を会得した者の声量はすさまじ

声スゥーム

い。そして、ドヴァーキンは生まれながらに

を極めている。その声量は、恐るべき、だ

とか、すさまじい、だとかいう次元ではもはや表せないかもしれない。

 これが、ドヴァーキン──佐藤正の認識できない誤算の一つだった。「Skyrim」

の世界をゲームの都合と演出を交えて自己流に理解し、それに疑問を持たないこと。そ

れが佐藤正の中で常識となり、この世界に来ても確認を怠った──確認の必要性自体を

感じることができなかった。つまり、思い込みである。

グレイビアード

 この状況で言えば、

達の声量をゲーム的演出の一種と信じて疑わず、

更なる声の使い手であるドヴァーキンの声量を一般人の範疇に勝手に自己解釈してい

81 激突─1

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たことだ。この世界に転移して来たばかりの時、アルドゥインとともにセロへ叫んだ否

定の言は森中にこだましたし、何日かにわたるシャウトの検証など、気づける機会は相

応にあったはずだ。

 しかし、思い込みがそれを阻害した。ドヴァーキンの声量は佐藤正が転移した以上、

一般的なものと思い込んでいたし、それを思い込みと断定する意識が、鼻から存在しな

かった。

声・

を・

張・

り・

上・

げ・

る・

 よって、先の

判断は佐藤正の──ドヴァーキンの中では正しい判断で

あり、この場によくない空気をもたらしたことにドヴァーキンは気づけない。だが、そ

のよくない空気は、妙な雰囲気、違和感となってドヴァーキンの感覚を小さくつついた。

そして、ドヴァーキンは場の状況を見て初めて、己の失態に気づく。

 自分の声がシャウトを使わずとも異質だと。シャウトを使用せずとも物質としての

空気を震わせ、雰囲気としての空気も震わせてしまった。白目をむいて倒れこんだ青年

は気絶しているようで、青年が気絶したということはつまり、自分の声には身体的ダ

メージもいくらか伴うのだろう。一般的な村人クラスをノックアウトできる程度には。

これでは、攻撃の一種と捉えられても言い訳の仕様がない。

 そして、その事実は、この微妙な状況で最悪の結果をもたらすことは想像に難くない。

この者たちがドラゴンボーンを知っている保障は無いし、知らなかったとすれば、声に

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よる攻撃と錯覚してもおかしくない。

 恐る恐る戦士団に目を走らせれば、先程まで鼻を鳴らしていた筋骨逞しい軍馬が、精

巧な置物にでもなったかのように固まっていた。それに跨る戦士たちもまた、蒼白な顔

で彫像のように微動だにしない。ただ一人、中央に位置するガゼフだけが、驚嘆と困惑

を如実に示し、次の瞬間、修羅とも言える形相で怒りを放った。

「何をした!」

 叫んだだけです、とドヴァーキンは答えたかった。異質を理解してもなお──いや、

初めてその異質を自身でも理解できたのだから、これは不幸な事故だと、言い訳した

かった。しかし、ガゼフの目は完全に敵を見るそれだった。体格の良い体を敵意で滾ら

せ、今にもそのグレートソードを振り下ろしてきそうだ。想像に難くない最悪の結果

は、今ここに現実として現れていた。更に副産物として、想像もしていなかった最悪も

また、ドヴァーキンの周りで結果を残していた。

 これからガゼフに対し、友好的に接する起点であった青年は気絶しており、代わりの

村人達もまた失神している。そこから導き出される答えは、ガゼフの誤解を解く人的証

拠が無くなったことを意味する。最初の青年の弁護も、それに続く経緯の説明を共に行

わなければ、ドヴァーキンは被告であるからして、信頼を勝ち得るのは難しい。

 加えて、ドヴァーキンの「声」による攻撃は、村人を気絶させられることが分った。つ

83 激突─1

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まり、武器に殺戮の証拠がないと示しても、形の無い声で攻撃を行えると判断された以

上、物的証拠による弁明は無駄に終わる可能性が高い。その釈明をされても、ドヴァー

キンがガゼフの立場なら次のように判断する。ドヴァーキンが声を用いて村人を殺害、

あるいは気絶させ、村を焼き放った、と。

 もう逃亡しか道はないのだろうか。もはやガゼフは話を聞いてくれる態勢ではない

し、幸いなことにフォロワー達は既にドヴァーキンの声から回復している。このままガ

ゼフと話をしようにも、解決の糸口は見えない。良ければ平行線、悪ければ口を開いた

瞬間、「声」を警戒して問答無用で斬りかかってくるだろう。

 唯一の心の安寧は、村人達を救ったのが真実であることだ。ドヴァーキン達が撤退し

た後、彼らはガゼフたちに保護されるだろう。そのときに、事実を全て話してくれれば、

あるいは後々ガゼフの誤解は氷解するかもしれない。

 しかし、全ては推論であり、そううまくいかない可能性のほうが圧倒的に大きい。し

かも、目の前にいるガゼフは「リ・なんとか王国」の王国戦士長という、比較的位の高

い人物と想像できる。この人物とのパイプを無碍にし、あろうことか敵対の可能性を残

すのは愚策であると断言できる。

 ドヴァーキンはもう何とでもなれと、腹をくくった。これから自分の取る行動は、情

報が少ない中、非常に危険なものだ。ここでガゼフに叩き切られておかしくない。分の

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悪い賭けだし、配当も、ガゼフの性格も人的価値を見極められていない以上、高いとは

いえないかもしれない。それでも、やるべきだ。事実、この世界の取っ掛かりが目の前

にあり、自分はそれを踏み外すかどうかの瀬戸際にいるのかもしれないのだから。

 ドヴァーキンは再度唇をなめる。自分の心を奮い立たせる。覚悟を決めろ。

 思い出せ、セロのいなしをことごとく潰す自らの剣撃を。

 思い出せ、デルキーサスの読みをことごとく上回る自らの戦術眼を。

 思い出せ、リディアの防御をことごとく崩す、自らの双椀を。

 思い出せ、ジェイ・ザルゴとセラーナの魔法をことごとくしのぐ、自らの知識を。

 思い出せ、アルドゥインを打ち負かす、自分の声を。

「Skyrim」

ドヴァーキン

 信じろ、

を生きてきた、

の力を。

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆

  何がなんだか分らなかった。目の前の下っ端と思われた山賊然とした男が、馬鹿丁寧

な弁明を始めたかと思うと、大地が割れ、空気を裂く「声」が聞こえたのだ。

85 激突─1

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 鼓膜をつんざく異質だったが、かろうじてその内容を聞き取ることができた。耳は機

能を大幅に削がれたが、回復しつつはある。声は頭中に響き、その残響がガゼフの脳に

声の意味を伝えていた。

「何をした!」

 叫んでみるが、自分の声もまだうまく聞き取れない。山賊の声に比べればそよ風のよ

うな怒号だ。山賊が困惑の色に染まった目をこちらに向ける。

 声で相手を意のままに操るモンスターの話を以前、冒険者の誰かから聞いたことがあ

る。推測だが、この山賊はその類の力を持つのではないか。もしかしたらこの風貌は仮

初で、真の姿は悪魔のような奴かもしれない。

 ガゼフは記憶をたどり、頭に響いた声を思い返す。この男は言った、武器を下ろせ、

と。戦闘の意思を見せるな、と。それらが強制力となって戦士達を包み込み、服従させ

ているのかもしれない。

 ガゼフは固まって使い物にならなくなった軍馬を降り、グレートソードを構える。自

分はまだ戦意を失っておらず、こうして武器を構えることができる。強制の声は、同程

度の相手に効き目は薄いと聞いた。ならば、ガゼフはこの男は同程度の力量であると、

推測する。

 村人達は泡を吹いて倒れこみ、ピクリとも動かない。しかし、その胸板は静かに上下

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しており、気絶しているだけと見て取れる。この村の青年が襲撃の犯人は帝国の騎士だ

と言っており、この男たちが助けてくれたと主張していたが、それはもはや疑わしかっ

た。仮にこの男の声が相手を操るものだとすれば、それは村人を操って言わせた言葉の

可能性もある。この一団が帝国の騎士の目撃情報にかぶせて行動を開始したのは、それ

を隠れ蓑にする意図があったのかもしれない。

 山賊もまた、ピクリとも動かなかった。かの一団は全員が声から回復したようで、お

のおの再度ガゼフ、または山賊に視線を向けている。前方の女戦士、甲殻類、リザード

マンは全員武器を収め、後方のビーストマンは魔法を解除してこちらを見据えている。

化け物は、異形たちになんらかの指示を出し、彼女らの更に後方に下げさせている。

 戦闘の意思を見せないことは事実なのだろうか──そう思いかけた瞬間、山賊が唇を

なめ、大きく息を吸い込む。まるで蛙が胸を膨らませたかと錯覚するほどの勢いの良さ

だった。山賊が口を開こうとする。唇が開き、白い歯を覗かせた後、上顎と下顎が分か

たれる。

 ガゼフはそれを許さなかった。次に飛ぶのはもっと強力な「声」かもしれない──考

えるよりも早く山賊めがけて踏み込み、左下段から右上段まで大きく、しかし鋭くグ

レートソードを打ち払う。

 山賊の動きは速かった。半歩片足を後方に引き、打ち払われたガゼフの剣をかわす。

87 激突─1

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その瞬間、山賊の唇の片端がつり上がり、荒くれ者としては似合わない不敵な笑みを浮

かべた。そして、体を引いた反動をつけて武器を抜き、一気にガゼフの懐へ踏み込んで

きた。

 打ち合う。硬質と硬質がかち合う澄み渡る音で、しかし片方の硬質は金属であり、一

方は金属に比肩する硬度を持つ何かだった。ガゼフは経験的にそれは、何らかの生物の

骨だと解釈する。骨は生物の負荷を一手に受ける柱であり、その為、モンスターより脆

弱とされる人間も、その骨は意外に高い硬度を持つ。力のある生物の骨とすれば、下手

な金属よりも上等な武具足りえるだろう。

 事実、山賊の武器は原始的で粗雑な、決して華々しい見てくれではなかったが、強く

逞しい、まさに殺傷の極みだけを追求した容貌をなしていた。

 山賊はその荒々しい斧と小刀をそれぞれ構え、ガゼフの肩口めがけて右手の斧を振り

下ろしてきた。ガゼフは鍔でそれを食い止め、ドヴァーキンの重い一撃に戦慄する。も

し食らえば斧が左肩と左上腕を分か断っていただろう。

「後衛は《治癒の手》を村人達へ! 前衛は各々介抱を!」

 相も変わらず大きいが、さりとて先刻の怪音とは比肩にならない声を山賊が張り上げ

る。

 一団の動きはすばやかった。山賊の指示が自分達に飛んだと悟ると、ビーストマンと

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化け物はすぐに走り出し、女戦士とトカゲ──甲殻類は渋々といった様相だったが、

各々村人達へ駆け寄っていった。

「なあゼロ! そこまで、ここまでする必要は無いんじゃないか!」

 甲殻類が叫ぶ。ゼロというのはこの山賊のことだろうとガゼフは予測する。しかし、

山賊は何も言わない。代わりに、左手の小刀をねじ込むようにガゼフの右ひじ向けて差

し込んできた。

 ガゼフは鍔を軸にして山賊の斧をいなし、力を流しきったところで剣を翻して上段か

ら剣を振り下ろす。しかし、そのいなしは山賊も予想していたようで、斧を反転させて

ガゼフの右脇腹を攻め立てた。

 剣を振りかぶる反動を利用して半身下がったガゼフは、無防備になった山賊の頭を狙

う。だが、山賊の持つ左手の小刀がそれを許さない。再び突き出してくる抉りこみはガ

ゼフの腹部を目指しており、その回避を選んだガゼフは半身下がった時点で足を運び、

距離を取る。

 山賊はそれを見とめると、斧をしまい、背中の──二つあるほうの短い柄のほうだ─

─剣を抜き払うと同時にガゼフめがけて切り払った、舵取りに過ぎない右腕でここまで

の重撃を繰り出せるとは、並々ならぬ腕力を持っているのだろう。斧や小刀と同じく、

荒々しい削り出しの尖骨は神速を以ってガゼフの目の前に迫る。

89 激突─1

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 それを紙一重で弾き、再度重く鋭い金きり音が響く。山賊が片手であるのに対し、ガ

ゼフは両手で剣を握っていたが、衝撃はおそらくガゼフのほうが大きい。自分の手が痺

れているのを感じ、ガゼフは苦々しげに舌打ちを漏らす。しかも、武器の質量はこちら

のほうが上だろう。見たところ片手用の剣で、重さで斬る剣ではあるもののそれは両手

用の──ガゼフのグレートソードよりは軽い物だろう。

 二対の衝撃と疾風が吹き荒れる。山賊は片手剣と小刀を自在に振り回し、フェイント

を織り交ぜながら演舞のようにガゼフを攻め立てる。右と左から、上と下から、優れた

技量によって猛獣の爪を幻視させる連撃が、目まぐるしくガゼフを薙ぐ。

 防戦一方で、足運びもままならなくなったガゼフは、突き出された片手剣に対し、状

況の打開を狙って神速の「武技」を発動させる。

〈即応反射〉

 霞のようにガゼフの体が動く。

〈流水加速〉

 流れるような重厚な剣が、山賊の首へ吸い込まれるように振りぬかれる。

 ガゼフは、「武技」と呼ばれる戦士にとっての魔法じみた技を二連続で使い、山賊を翻

弄しようと試みる。

 しかしその太刀筋は山賊にとめられる。ガゼフの神速に勝る速さで、今度は両手で大

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剣を握り締め、ガゼフの一撃を見切っていた。先程のガゼフの受けと同様に、鍔でガゼ

フのグレートソードをいなし、山賊が斬り返す。

 相手は完全に武器を変えた。今まで手斧による素早くも重い一撃を軸にして小刀で

隙を潰す戦法や、片手剣と小刀で二手三手先を読んだ圧倒的連撃を繰り出す戦法から、

大剣一本による駆け引きを行うようになった。ガゼフの武技を見て、一剣一殺の精神を

以って、確実に仕留めるつもりだろう。

 両足を振り払う剣が、風を切って迫る。ガゼフは短く飛び上がり、空中で身をよじる

と、跳ね除けるような刃を山賊へ放った。下段へ振りぬく剣の遠心力を利用して、山賊

が姿勢を低くする。ガゼフの刃がすり抜け、そのまま振り抜かれるだろう山賊の剣が、

逞しい双腕によって鋭角に軌道を変える。

 違う、一剣一殺ではない。この者の筋力を甘く見ていた。この男は、たとえ雑把で強

張った鉄塊でも、己の手足のように振り回せるだろう。

 低空からの突き上げがガゼフの腹部を襲った。右横によじれるガゼフの体幹に対し、

よじり切る終着点を狙っての見事な一撃だ。

 敵ながら、ガゼフは感心する。多彩な武器は示威行為ではなかった。それらを扱いき

る技量と筋力がかの者にはある。そして、適切な状況判断と柔軟な戦術により、手を変

え品を変え、かの者は致命的な殺傷を効果的に発現できる。こちらは武技を使用した

91 激突─1

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が、あちらは未だ使用していない。

 素の戦闘能力でこれである。使用された場合、この拮抗とぎりぎり言える劣勢を保て

るか。こちらは武技を使ってまで回避しているのに対し、あちらは武技はもちろん、体

幹をほぼそらさず、最小限の見切りでかわし続けている。戦闘が続き、どちらが先に疲

弊するかは一目瞭然だ。この男の戦闘能力は並々ならぬものであり、それは今までの試

合運びから、知覚としても感覚としても理解できる。

 ガゼフは不謹慎ではあるが楽しくなってきた。今、そんな状況でないのは分かってい

る。帝国の騎士が、本当に村々を回り虐殺を行っているのかもしれない。王への忠誠は

無論揺ぎ無いものだし、自らの職責も理解している。

 しかし、ガゼフは戦士だ。戦士としての血が騒ぎ、滾り、渇望するのだ。この男ともっ

と戦いたいと。目の前の山賊──いや、「戦士」は自分が待ち望んだ戦う相手であり、と

もすれば久しく現れなかった、越えたいと思う壁なのかもしれない。

 この男に自分の限界をぶつけてみたかった。ぎりぎりの中で、命を賭け合った勝負を

楽しんでみたくなった。男の顔には、最初にあげた不敵な笑みとは違い、この戦いを楽

自・

分・

の・

思・

う・

と・

お・

り・

状・

況・

が・

動・

い・

て・

い・

る・

満・

足・

感・

しむかのような──

の笑みが浮かんでいた。

戦術

ストーリー

ガゼフにもその満足感は理解できる。自分の組み上げた

どおりにことが運ぶのは、

とても気持ちがいいものだ。

92

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 その余裕を崩してやりたかった。戦士として、こんなにもそう思えたのは本当に久し

ぶりだった。

 勝ちたい、負けたくない。楽しい、もっと打ち合いたい。話したい、この男とそれぞ

れの思う武について語らいたい。この男の求めた力の全てを知りたい。この戦士がど

れほどの高みにいるのか見極めたい。自分と同じか、それとも上か。上ならば何処まで

上なのか。近いのか、まだ見えるところにいるのか、それとも果て無き高みか。そんな

奴に自分の全力を、武の極みを見せ付けたい。驚くだろうか、軽く受け流されるだろう

か。称えられるだろうか、もっと励めと指導されるだろうか。

 ──だからこそ〈六光連斬〉を使ってみたい。

 だが、それは大きな消耗を強いる。まだこの程度の消耗であれば取り返しは付くが、

この後、帝国の騎士を相手取る可能性がある以上、〈六光連斬〉による消耗は無視できな

い。ガゼフの大技中の大技であるそれは、易々と連発できるものではない。任務のため

には体力を残しておきたいが、この戦士を前に全力を出し切れないのはもどかしい。

「従士様! 気がつきました!」

 打ち合いながら逡巡するガゼフだったが、そんな中、女戦士の勇ましく吠える声で、ふ

と我に返る。

 次に聞こえてきたのは、力を持つ「声」だった。女戦士の勇ましい声も霞む、雄大で、

93 激突─1

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猛々しい、大いなる「声」だ。そこで、ガゼフは感覚的にこの戦士の「声」を理解した。

先程のは大きな声だとか、強制力だとか、そういうもので言い表すことができた。だが、

これは違う。きっと我々の「言葉」ではそうあるべき言葉を持たない。

 なぜなら、かの者が放つ言葉は、それ自体が意味を持ち、この者が叫ぶことで、声は

言葉となり、言葉が意味を持ち、ありのまま全てをそうあるように命じるのだ。

 力を持つ声は、声それ自体が力となる。この声を受けた者にしか分らない。

 ガゼフにはそれ以上、言葉にすることはできない。あえてそれでも言葉にするのな

ら、そう、これこそ異質という言葉が意味を持ち、ありのままこの声の力を表すだろう。

「Zun─Haal─Viik!」

 声を聞いた瞬間、意思がガゼフを包み込み、鋼を携えることを魂から否定された。ガ

ゼフの手から剣が零れ落ちそうになるが、かろうじて右手の薬指と小指で食い止める。

それは己の戦士としての意地か、無意識な反射的行為だった。対して、戦士団の武器が

手から滑り落ち、金属が大地を打ち鳴らして鈍い音の重奏を奏でる。

「Fus─Ro!」

 声を聞いた瞬間、力がガゼフを打ち、衝撃となってガゼフを衝いた。今度の声は抵抗

することができず、ガゼフの体がつんのめり、仰向けに大地に転がる。

 これがこの男の力だ。ガゼフは心からうれしく思う。自分はそれを一つだけではあ

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るが、耐えた。

 最初の言葉を魂が知覚した瞬間、体が武器を否定した。武器を持つことを何かが禁じ

たのだ。しかし、ガゼフは耐えた。その何かに自分の意思で抗った。この「声」が、か

の戦士の力であることは疑いようも無い。それにぎりぎりであるが打ち勝ったのだ。

 ガゼフは誇らしげに笑みを浮かべた後、寝転がったまま豪快に笑い出す。後ろの戦士

団が不安げな表情をし、かの一団が訝しげな顔を作るが、ガゼフは意に介さない。

 全くおかしな話だ。剣をあわせてなんとなくだが、理解できた。この山賊然とした戦

士を鉄砲玉なんかと誤解した自分を笑った。こいつはとびきり一等の戦士に違いない。

 先走った疑いを向けた自分を笑った。未だかの一団がこの村を襲った疑惑は晴れな

いが、その線はもう、薄いように思う。

 最初の言葉に強制力はなかった。本当に、ただの声だった。この男の「声」を聞いた

今なら分る。あれは馬鹿みたいにでかい、ただの声だ。その証拠に、あの魂に響き渡る

感覚は一切無かった。

 その大声から先に回復したのはかの一団だ。やろうと思えば全員でガゼフをなぶり

殺しにだってできたはずだ。しかし、そうはしなかった。この戦士がかの一団に命じた

のは、村人の介抱だ。武器をしまわせ、自らの声に気を失った彼らを看るように命じた。

 先に切りかかったのは俺のほうだ、とガゼフは記憶を呼び覚ます。ただ声を警戒し

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て、攻撃をさせまいと先手を打ったつもりだったが、今にしてみればどうだろう。仮に

この戦士が介抱の指示を飛ばそうとしたのを、遮っただけだったら? ──勘違いもは

なはだしい。

 最後に、あの女戦士が放った言葉は、村人の気付けが完了したことの報告だ。それを

聴いた瞬間、この男は戦いを終わらせた。

 つまり、今に至る戦いは全て時間稼ぎであり、おそらくは──指示を先制攻撃で邪魔

しに来たガゼフを警戒し、村人達の介抱を邪魔されないように行動した結果なのだろ

う。この男が介抱の指示を改めて飛ばした際、甲殻類はそこまでする必要は無い、と

言った。要は、この場から逃げればいいという意味だろう。わざわざ危険──この戦士

にとって自分は危険だったのかは分らないが──を冒してまでガゼフをひきつけ、村人

達を介抱する義理は無いだろうと、そういいたかったのかもしれない。

 都合よく解釈しすぎるかもしれないが、その可能性は否定できない。事実、この無防

備に寝転がったガゼフへの追撃は一切無く、ただ武器を収める音だけが聞こえる。

 かの一団に掛けられた嫌疑は状況証拠しかなく、物的証拠は何も無い。だが、状況証

拠は明確に嫌疑を裏付けられるものだ。しかし、村人はかの一団ではなく帝国の騎士の

犯行と証言していた。

 食い違いはあるが、この場の全てを検証し、物証と証言をそろえきった後、冷静に建

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設的な話し合いを行えば、事無く事態が収まったかもしれない。

 ガゼフは決心して飛び起き、グレートソードを収めて戦士に向き直り、おもむろに頭

を下げる。

「すまなかった。剣を合わせて、君達の行動を見て、疑いが早計である事を知った。私の

思い違いだったかもしれない。しかし、君らがこの状況を作った犯人でない証拠を見せ

てはくれないか。重ねて申し訳ないが、その真偽を探るのが我々──王国戦士長である

私の職責だ。ここで何が起き、何を見たのか、聞かせて欲しい」

「頭をお上げください、王国戦士長様。あなたの職責は理解しておりますし、だからこ

そ、その行動と言動を疑うことは、こちらとしてもありませんとも。あなたの行動はあ

の状況では正しかった。事の発端と非は私にございます」

 今までの声とは打って変わって、力強くも優しげな声がガゼフに投げかけられる。や

はり、この男は高潔な戦士なのかもしれない。

「さあ、頭を上げてください、戦士長様。悪いのは本当に私なんですから。頭を上げて、

私達の話をお聞きください」

 既に武器をしまった目の前の戦士は、無造作に、しっかりとした足取りでガゼフに近

づく。戦士はガゼフが頭を上げたのを見とめると、右手を差し出して、軽く笑みを作っ

た。

97 激突─1

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「まず──私の名はドヴァーキンと申します。ある目的の為、世界を旅しております。

世・

界・

を・

股・

に・

か・

け・

て・

それこそ

 でこぼことした岩のような掌と、大樹のような太い指が、柔らかに開く。ゼロという

言葉が出てこなかったのに多少の違和感を感じたが、何か事情があるのかもしれない。

それは後で解明すればよい。

「ありがとう、ドヴァーキン殿。改めて名乗ろう。ガゼフ・ストロノーフだ。是非ガゼフ

と呼んで欲しい」

 ガゼフもまた、同じさまの右手をドヴァーキンへ差し出し、帆柱の結び目のように

がっしりと握手を交わした。

98

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激突─2

   豪華絢爛、装飾華美。巨大な一室はこの世界の価値観でいえば、絶対者の個室にふさ

わしい、まさに至高の様相だった。

 その一室の机に、一体の影が身じろぎもせず座っている。傍には白銀の頭髪と白銀の

髭を携えた初老の男が直立不動の姿勢で待機していた。

 一方、椅子に座する影は、部屋の華美さとは相容れない、漆黒のローブをまとい、そ

の顔はまさに骸骨そのものであった。見方を変えれば、白磁のようにつややかな美しさ

を持つ頭骨だが、正常な──一般的な定命の者たちからすればこれは異形、化け物、ア

ンデッドといわれるそれである。身につける漆黒のローブよりも暗い眼窩の奥には、赤

黒い生への憎しみが鈍く光を放っている様に見えた。

 かの者こそ、この大墳墓を治める至高の御方、絶対者にして超越者と呼ばれるアン

デッドであり、名をモモンガと言った。ここはナザリック地下大墳墓、モモンガの

プライベート・ルームである。 

 モモンガは、片手で白磁の頭部を支えながら、あいているもう一方の手の人差し指で、

99 激突─2

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あ・

一定のリズムを刻みながら机をたたいている。今、モモンガの頭を支配しているのは

る・

報・

告・

からくる疑念と不安であり、机をたたく指は、それに対する明確な対策が打ち出

せないことに苛立っている証左だった。

 ため息を──吐けない体のため、比喩とするが──吐くように一旦思考を打ち切り、

背もたれに身を預けたモモンガは、もう一度その報告を反芻することにした。

闇妖精

ダーク・エルフ

 報告を行ったのは、マーレという

の少年だ。このナザリック地下大墳墓におい

て守護者と呼ばれる者達の一人であり、守護者はいわばモモンガの側近のようなもので

ある。同時に、このナザリックにおいてはモモンガに最も近しい力を持つ、あるいは超

えることができる者達だ。

 その守護者の一人が、ひどく慌てた様相で報告したのが、「森に火の柱を見た」という

内容だった。

 それは、ただの魔法であるかもしれないし、突拍子も無いがこの世界における自然現

象かもしれない。それを見とめたことは確かに報告すべきだが、そのとき、モモンガに

はマーレが何故ああまで慌てているのか、理解できなかった。マーレは弱気な性格で、

見たこともない現象に遭遇することで動転しているのかとも思ったが、どうも違ったら

しい。続く炎の柱の詳細は、マーレが焦る理由を明らかにしたが、今なお思考の大部分

でくすぶる火種をモモンガの頭に残した。

100

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 炎の柱。弱気な少年と言えど、圧倒的レベルとステータスを誇る守護者が恐れる「異

質」の獄炎。マーレ曰く、自分達の世界にも、この世界にも、きっとあってはならない

炎。そして、声。怒気と怨嗟の、まるで世界の咆哮かと錯覚する声。耳ではなく、魂で

知覚するおぞましい声。その正体不明がマーレの焦燥の起因であり、その正体不明こそ

モモンガの苛立ちの火種だった。

 モモンガは再度思考の迷宮に囚われそうになる。しかし、大げさに頭を振ることで迷

宮の入り口の手前で踏みとどまり、椅子から立ち上がることで踵を返すことに成功し

た。

 ──情報が少なすぎる。あれこれ考えて時間を無駄に使うより、生の現場を見るべき

だ。自分の視覚で、聴覚で。マーレも言っていた、実際に見たものにしか、「異質」は知

覚できないかもしれない、と。

 だが、それは危険に過ぎる。この世界の情勢も生態系も何も分かっていない状態で、

モモンガ自身がのこのこ外に出るわけにはいかない。最悪死ぬ可能性があるし、死んだ

として復活できる保障も無い。

 何か無かったか、モモンガは一考する。自らが物理的にも魔法的にも外部に露出する

事無く、視覚として生きた現在を確認できるもの──モモンガは大きく拍手を打つ。あ

る、あるじゃないか。「ユグドラシル」では草葉の陰に隠れていたが、この状況ではきっ

101 激突─2

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と最善の情報収集手段だ。対情報系魔法や攻勢防壁になす術も無いが、自分が間抜け面

して外を回るよりかはずっといい。

 まず探すべきは人だ。それから火の柱の根元。マーレの報告どおりの巨大さなら、目

撃証言があるはず。この世界の情報を集めるのと並行して、順次解明していけば良い。

 我ながら妙案だ、やはり方針は大事だな、とモモンガは心の中でひとりごち、しきり

に首を上下させる。

「どうかされましたか、モモンガ様」

 白銀の初老が、異常を認めたからか心配そうな面持ちで、外見どおりの紳士的声をモ

モンガにやさしくかける。モモンガはそれに気づくと同時に我に返り、咳払い──ため

息と同じくできないので、これまた比喩であるが──を一つすると、手を振って口を開

いた。

「いや、なんでもない。行くぞ、セバス。試してみたいことがある」

 モモンガの言に恭しく一礼し、セバスと呼ばれた執事然とした老人は、すぐ後ろに控

え、モモンガと共に歩き出した。

 やはり超越者とした態度を取り、絶対者と崇敬されるのはどこか落ち着かない。モモ

ンガは若干のやりにくさを感じながらも、意識の中で今後の詳細な行動方針を組み立て

ていった。

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   ◆

   今、何と? ドヴァーキンは震えそうになる声を抑えて、ガゼフに聞き返す。フォロ

ワーたちも、何か意を得たのか苦笑いや表情を硬くするなどで、ドヴァーキンの不安を

あおった。

「炎の柱だ。そしてそれに伴う声。あの大きさでは、近くにあるエ・ランテルからも目視

できただろう。声の方はどうかわからないが」

 話を少し戻すと、先刻ガゼフと握手を交わした後、ドヴァーキンはこの時点まで非常

にうまく物事を進めてきた。始めに立てた対応の計画通り、村人と経緯を説明し、無罪

を釈明した。それはすんなり──意外すぎるほどすんなり受け入れられ、無罪は判定さ

れ、承認された。

 その後、村人達は帝国の走り去った方角を示した。その情報に大きく頷いたガゼフ

は、村人達の護送を戦士団に命じ、すぐにでも馬で急行しようとしたが、馬達はまだド

ヴァーキンの声から回復しきっていなかった。怯えた鼻息を漏らして首を振り、足踏み

103 激突─2

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できる程度には動けるようにはなっていたが、まだ本調子でなかろう。

 そして、馬達の回復を待っている間、ドヴァーキンとガゼフは話をし──ドヴァーキ

ンは旅人であることを隠れ蓑にこの周辺の情報を、ガゼフはドヴァーキンの武を互いに

引き出しあい、着実に親交を深めていたのだ。ちなみにフォロワー達は暇そうに、ド

ヴァーキンの背後で一様に黙りこくって話に耳をそばだてていた。

 冒頭にあったドヴァーキンの聞き返しは、そんな折、ガゼフの不穏当な質問を受けた

ことから口にでた台詞だった。

「炎の柱と、声だって?」

 ドヴァーキンがぶっきらぼうに、言い捨てるような口調で聞き返した。失礼な口調

だったが、「友人」となったドヴァーキンとガゼフにはもはや関係の無いことだ。

 ガゼフと話している最中、ドヴァーキンはガゼフに敬語をやめて欲しいと頼まれてい

た。なんでもドヴァーキンとは対等の立場、友人として今後、付き合っていきたいと懇

願されたからだ。

 ドヴァーキンにその心境は理解できなかったが、承諾することにした。話を聞くうち

にこのガゼフは有名人であり、信頼と信用を集め、それ相応の高い位を持っていること

が分ったからだ。ガゼフとしては戦士として、武を極めんと道を同じくする同胞を見つ

けた喜びから、友人の申し出を行っていたのだが、対してドヴァーキンは無味乾燥な、打

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算的判断でそれを了承していた。ただ単に、この男は利用できそうだから、と。

 そんな計算的思考に裏で没頭していたドヴァーキンだったが、ガゼフの一言で一気に

裏も表も現実に覚めた。ガゼフの言う炎の柱と声は、シャウトの検証中にアルドゥイン

が行使した『ファイアブレス』だろう。確かにあれはゲーム中のものと比べてもかなり

大きな炎だった。加えて、自分の「声」の性質を理解した今、ドヴァーキンはアルドゥ

インの「声」もまた、異質なのだとはっきり理解していた。

 ──やはり抜けが多い。ドヴァーキンは自らの計画と方針の杜撰さに心から失望す

る。これだから、現実世界では万年ぺーぺーなのだ。英雄の器を手にしたとしても、中

身が伴っていなければ意味が無い。

「そう、そしてその声がな、問題なのだ。あの声は君の「声」の性質に似ていた。声色は

君のそれとは違ったが、あの魂に響く感覚は間違えるはずも無い。あの炎の柱も王国と

しては無視できぬ事案だ。なにか知っていることがあれば、教えて欲しいのだが」

 友人に時間を聞くような気軽さで質問をするガゼフだったが、当のドヴァーキンは頭

を抱えたくなる気持ちでいっぱいだった。

 どうするべきか。

 まず、長い沈黙はまずい。であれば、真実を述べるべきか? それもまずい。私達は

異世界から来ました、あれは魂を食らう竜の王の声です。馬鹿め、この世界に余計な波

105 激突─2

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乱を生みかねない。できれば静かに暮らしたいし、できれば静かに帰りたい。混沌を打

ち倒す者が混沌を生み出してどうする。

 知らないと応えるのはもっとまずい。我が家に王国の捜索隊が来たら? もしそれ

がガゼフだったら? 友人を裏切った者として、ガゼフの中の自分の評価は地に落ちる

だろう。加えて、いらぬ諍いを今度はアルドゥインと起こすかもしれない。自分と違っ

てアルドゥインは定命の者への慈悲や仲間意識は一切無い。よって手加減もしない。

 アルドゥインの能力が自分の作った通りなら、それはとてもまずいことになる。大惨

事、大虐殺、大事件──そうなれば自分達は大悪として誅されるだろう。それは避けな

ければならない。最終目的であるスカイリムへの帰還が果たせなくなってしまう。

 そしてなにより、「Skyrim」の概念がこの世界を侵食する事は極力避けるべき

パラドックス

だ。それは法則の

を生みかねない──いや、既に生んでいるかもしれない。

 マジカ、シャウト、ドラゴンボーンという存在、それらがこの世界にどう適用される

か、知るだけでいい。知らしめる必要は無い。認知されることで、この世界に起こりう

るべき事柄や事象が起こりえなかったら? 責任を取ることはできない。この世界に

はこの世界の生き方があって、ムンダスの生き方を投影することは本来あってはならな

いことだ。意図的にそれを行うことは、絶対に禁止するべきだろう。

 では、どうするべきか。ドヴァーキンの思考が光速を超えて流れ行く。ああ、この頭

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の回転の速さは現実世界でも欲しかった。流れ行く思考の一閃が、ある単語を貫きかけ

て止まる。そうしてドヴァーキンは答えを得た。もはやこれしかない。

 嘘を。一挙怒涛の口からでまかせを。いまから自分の口は脳と分離し、あること無い

こと勝手にしゃべるだろう。脳はそれを記憶し、あることはあったこと、ないことは

あったことにできるよう、カバーストーリーを作っていくしかない。整合は後で取る。

時間をかけて矛盾や齟齬を無くす。今は、プロットでも思わせぶりでも端くれを述べる

べきだ。

 ドヴァーキンはわざとらしく咳払いする。それを聞いたガゼフがこちらに神経を傾

けるのがいやでも分る。おそらく、フォロワー達の息を呑む声が、錯覚かもしれないが

聞こえてきた。

「あれは、俺達の旅の目的であり、最大の敵であるものの仕業だ」

 まだ嘘ではない。嘘を真実と錯覚させるには、真実を嘘に紛れ込ませる必要がある。

脳から分離したと言えど、口はまだ定石を忘れてはいないようだった。

「先の火柱は、我々がその大敵をようやく封じ込めることができた証だ。奴の最後っ屁

だな。要は悪あがき、そうだ、ただの悪あがきだ。安心して欲しい。かの敵は我々に打

ち倒され、その脅威はもはや消え去った」

 口がとうとう一人歩きし始める。今回のは完全に嘘でしか構成されていない。

107 激突─2

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「そうか。だからあれほどまでのどす黒い声だったのだな。あれはまるで、怒りか憎し

みの絶叫に感じた。それで、その敵──名前は? 死んだのか?」

 ガゼフは納得したように頷く。

「名はアルドゥイン。邪なる破壊者だ。俺と同じ声の魔法を用い、邪悪な思考を持った

まさに悪そのものだ。そして──死んではいない。この森の中にこの地における拠点

を作ったのだが、そこの地下に封じてある」

 真実と、嘘。拠点はこの地で作ったものではない。それ以外はおおむね真実だろう。

「封印を破られる可能性は? 事の次第では、王国の警備をつけることも視野に入れな

ければならん」

 不安げにガゼフが探りを入れる。

「それには及ばない。俺の声で服従の魔法をかけてある。俺が許可しない限り、奴は地

下から出ることはできない。また、俺の言葉だけで自由に奴を制御できる」

 おおむね真実。アルドゥインの従順さは『服従』のシャウトによるものではなく、こ

の世界のアルドゥインの特性である。

「そんなことができるのか?」

 当然の疑問をガゼフが述べる。

「できる。ガゼフも知っているだろう。我が言葉は原初の力を持ち、その魂に意味を刻

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み付ける。そうなったが最後、抗うことはできない。言葉通りにあるよう、魂を縛られ

るのだから。その服従の声をかけ続け、先刻ようやく縛り付けることができたのだ」

 嘘かもしれないし、真実かもしれない。相手のレベルによって、シャウトには抵抗さ

れるものもある。しかし、この世界にレベルと言う概念があるかは微妙だ。ならばシャ

ウトは抵抗されるか否か。ガゼフが『武装解除』にぎりぎり抵抗したところを見ると、何

らかの条件付けで抵抗はされる可能性がある。根性とか心の強さとかなら話は別だが。

その基準はこの世界の者たち相手に検証するしかないだろう。

「確かに言うとおりだ。あの声は魂を強制する。服従か、想像したくないな。その声を

あてられ続ければどうなってしまうのか……。分った、この件は王にそう報告しよう。

近隣の貴族にも発布し、炎の柱の件は解決したと周知させよう。ただ、その──アル

ドゥイン、だったか? そいつを本当に封じ込めているのかどうか、実証してもらう必

要はあるかもしれん。俺のように声を聞いていないものは眉唾と吐き捨てるだろうし

な」

 王国の剣として、ガゼフは当然の要求を行う。王、貴族達に理解をしてもらうにはそ

うする他無い。

「もちろんだとも、ガゼフ。なんならアルドゥインをつれて王都へ出向くのもやぶさか

ではない」

109 激突─2

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 真実。王都には一度行ってみたい。現状では情報の宝箱だ。そこで自分らの疑惑を

完全に晴らせるのなら一石二鳥だ。

「ああ、それはいいな。俺の名前を検問所で出してくれれば、俺自身が出向こう。検問所

の兵と管理部には俺から話をしておく。王都に来た暁には、是非俺に案内させてくれ」

 嬉しそうにガゼフは笑みを浮かべる。

「ありがとう、ガゼフ。是非そうさせてもらうよ。アルドゥインの件も一段落して、この

地への興味がようやく湧いてきたところなんだ。ところで、俺の仲間の紹介がまだだっ

たな。王都へ赴く際も同行させようと思うから、顔と名前くらいは覚えてやってくれ」

 完了。話を変えるべきだ。ここで口と脳は再度接続し、口は脳の指揮下に入る。

「ああ、そうだな。よろしく頼む」

 ガゼフはフォロワーたちに向き直った。

 乗り切った。ドヴァーキンは心の中で全力のガッツポーズをとる。脳みそをフル稼

働させて履歴は取った。要は、ドヴァーキンたちはアルドゥインを追ってこの地を訪

れ、そして先程その事件はすべて解決したことになった。あとは騒ぎを起こしたことへ

のアフターケアが残るばかりだ。完璧に近い結果だ。ドヴァーキンは満足する。

 しかし、懸念と言うか猜疑もあった。ガゼフがドヴァーキンを信用しすぎる。ガゼフ

はもう少しドヴァーキンを疑ったほうがいい。一連の会話の中にも突っ込むポイント

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はいくつかあったはずだ。真実を織り交ぜてはいるが、基本は荒唐無稽な口からでまか

せなのだから。

 アルドゥインの詳細──実体像、発祥、来歴。ドヴァーキン達の詳細──発祥、来歴、

目的の真偽。いつ拠点を作り、その材料は何処から調達したか。シャウトはガゼフに

とっては未知の力だ。それを一度受けただけで本当に受け入れられるのか。

 少し考えただけでもこれだけの疑念が出てくる。深く考えれば、ぼろはすぐ見つかる

だろうに。

 ドヴァーキンはふと思う。これは話術スキルの力なのだろうか。思えば、シャウトの

検証をしたはいいが、自分の──いや「Skyrim」でスキルと呼ばれる能力の検証

はまだしていなかった。これがもし、話術スキルの一端なのであれば、便利と感じる一

方、空恐ろしいものがある。口の動くがまま話せば、きっとえらいことになる。

 それに、ドヴァーキンはだんだん申し訳なく思ってきた。話術スキルのせいもあるか

もしれないが、ガゼフはドヴァーキンのことを信用しきっているように思える。剣を打

ち合わせたからだという、ガゼフの少年漫画的ノルディックな発言もあったが、それに

かこつけてある事ない事吹き込んだ挙句、ガゼフの友情と信頼を自分は利用しようとし

ている。

 人間的心の罪悪感がドヴァーキンを責める。ガゼフはいわば、転校初日に声をかけて

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くれ、自分から友人となってくれたような親切な奴だ。そんな奴を大切にしないで何が

英雄だ。ドヴァーキンは先程まで行っていた打算を打ち捨てる。最低限、彼の礼には自

分も礼を尽くさねばなるまい。互いに友人と認め合って、しかもドヴァーキンにとって

はこの世界における初めての友人なのだから。

 ドヴァーキンは自己嫌悪に陥りながらも振り返り、フォロワーたちそれぞれを一瞥す

る。

「ガゼフから向かって左から、リディア、セラーナ、テルドリン・セロ、ジェイ・ザルゴ。

デルキーサスという。皆、自己紹介を」

 その言葉に応じて、フォロワー達は各々口を開きだす。

「リディア、と言うわ。従士様──ドヴァーキン様の従者にして、盾の戦士。よろしくお

願いね」

 リディアがなぜか、らしくない憮然とした顔でガゼフに自己紹介を行う。機嫌が悪い

のだろうか。ドヴァーキンはそう感じたが、ガゼフはやはり気高き戦士の勇猛さをその

声から受け取った。

「セラーナと申します。世間知らずですから、話に出た王都、あれは楽しみですわ。是非

観光させてくださいな。以後、お見知りおきを」

 セラーナが気品のある礼を行い、令嬢として恥じない振る舞いを見せる。ドヴァーキ

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ンはくすりと笑ったが、ガゼフは警戒した面持ちでセラーナを見ていた。

「テルドリン・セロだ。傭兵。それ以上でも以下でもない」

 ぶっきらぼうにセロが言い捨てる。ドヴァーキンとしてはもう少し友好的にお願い

したかったが、ガゼフとしては気にならない──魔法を同時に扱える剣士として、彼の

武にもまた、興味があった。

「ジェイ・ザルゴは知と魔の求道者だ。外見的ビハインドはあるが、内面的アドバンテー

ジはすごいよ。ジェイ・ザルゴの名は覚えておいたほうがいい。ジェイ・ザルゴ自身が

保証するからね。何故なら──」

 ジェイ・ザルゴが髭を撫でながら人懐っこい笑みを浮かべ、話を続ける。ドヴァーキ

ンはまた始まったかと嘆息するが、ガゼフはジェイ・ザルゴの言の通り、魔法的脅威を

最たるものとしてその名を忘れぬようにした。

「ジェイ・ザルゴ。その辺にしておけ。すまないな、戦士長。こいつらはゼ──ドヴァー

キン含めて一等濃い連中だが、根本的にはいい奴らだ。俺も、彼らの親切に救われた。

俺はデルキーサス。ジェイ・ザルゴと同じく外見で差別されやすいが、君はそんな奴

じゃないと信じるよ。今後ともよろしく」

 デルキーサスがジェイ・ザルゴをたしなめ、簡潔な自己紹介の後、細い牙を薄く見せ

ながら小さく笑う。アルゴニアンの表情の機微に慣れていたドヴァーキンはなんとも

113 激突─2

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思わなかったが、ガゼフは威嚇されているのかと一瞬身じろぎした。だが先の言動か

ら、笑っているのだとすぐに理解した。

「皆、本当に良い奴らだ」

 ドヴァーキンが心から言葉を発する。

 大きな鼻息といななきが聞こえ、いくつもそれが重なり合う。一同が音の発生源も見

やれば、戦士団の馬達は、ガゼフの馬を含めて回復したようだった。生き物として生命

力にあふれる存在であり、先刻の作り物のような不自然さは完全に消失していた。

「時間かな」

 ドヴァーキンがガゼフに声をかける。

「そのようだ。ドヴァーキン、いつごろ王都に来れそうか?」

「早くて明日、遅くても明後日にはお伺いしよう。早いほうがいいだろう?」

「助かる。貴族達を召集するのに何日か王都に滞在してもらう必要がある。それは構わ

ないか?」

「もちろん。その間に王都を観光させてもらうよ。ありがとう、ガゼフ。この地に来て、

初めて会ったのが君でよかった」

「とんでもない。俺も君に会えてよかった。王都でまた会えるのを楽しみにしている」

 ガゼフは再度ドヴァーキンとしっかり握手を交わすと、素早い動きで自分の馬へ駆け

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寄り、ひらりとその背に跨った。

「本当は、君らにこの帝国の騎士の一件も手伝ってもらおうか、と思ったんだがな」

「それは──」

「わかっているさ。これは国家間のいざこざだ。君ら一般人──一般人といっていいか

は分らんが、完全な部外者を巻き込んでよいものではない。最悪、帝国の手が君らに及

ぶことも否定できんのだからな」

 ガゼフは手綱をしっかりと握り、後方の戦士団に指示を送る。その顔は今まで話をし

ていた顔とは異なり、初めて会ったときのような、義務と誇りに燃える戦士の顔に変

わっていた。

「さらばだ、ドヴァーキン! 俺は王都で待っているぞ!」

 ガゼフの馬が駆け出し、その後に戦士団が続く。地鳴りを起こす軍団は、かの方角へ

向け砂埃と轟音を巻きたて、疾走して行った。

 ガゼフが死ぬとは思えない。帝国の騎士がどんな強さかは分らないが、仮にも王国戦

士長。この世界ではよほどの力を持つのだろう。しかし、不安はある。ガゼフたちが行

く先はもしや死地かもしれない、と。

 効果時間が短いため、効果が有効なまま帝国の騎士達と戦闘することはないだろう。

しかもガゼフに適用されるかは分らない。だが、ドヴァーキンは何かしら手向けを送り

115 激突─2

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たかった。自分にしかできない、自分だからこそできる手向けを。友人の為に、言葉で

あり、声となる手向けを。友人が、危険へ向け突貫していくのだから。

Mid─Vur─Shaan

!」

 ドヴァーキンの口から、鼓舞と激励の言葉が、そのまま力として放たれる。正しき勇

気はその激励で激しい力を持ち、かの者を強くあるように命じるだろう。

 気休めでしかない。自己満足にもならない。でも何もしないよりはずっと良い。あ

とはガゼフを信じ、この世界の神ではないが、アカトシュの庇護と、タロスの恩寵が彼

にあることを祈ろう。

パラドックス

 この行為はこの世界の未来へ

を引き起こすかもしれない。それでも、戦いに向

かう友人へ激励一つしない男が、英雄と呼べるだろうか。これはできる事であり、すべ

き事だ。ドヴァーキンはそう信じて疑わなかった。

   ◆

   後方から聞こえた「声」にガゼフは勇気付けられる。感覚だけではない。体もその

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「声」に勇気付けられた。魂が「声」を聞き取り、刻まれた「言葉」が力となってガゼフ

の全身に満ち溢れた。

「ありがとう」

 軍馬の蹄の音でかき消されるような音量だったが、口にせずにはいられなかった。

 あの強大な友が、強大な声で後押ししてくれたのだ。この先にいるのが、帝国の騎士

だろうが化け物だろうが、なんであれ負ける気はしない。

 ガゼフは周囲の戦士を見渡す。戦士達も、馬ですらあの「声」の力を受け取っていた

ようで、その表情からは戦意と覇気が、まるでどうどうと音を立てて満ち溢れているよ

うに見えた。

 きっとガゼフも同じ顔をしているのだろう。

 ガゼフはより強く手綱を握り締める。先刻とは打って変わって気力に満ち溢れた馬

を駆り、これから臨む戦いへ、激昂の雄叫びを上げた。

   ◆

  

117 激突─2

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ガゼフ

ドヴァーキン

 リディアは納得できなかった。何がと言えば、

へ対する態度

だった。

ドヴァーキン

 

は明らかに手加減していたようにリディアは思う。

 セロのいなしを上回る連撃は、まるでクマの爪のようにすっとろかった。デルキーサ

スより早いはずの対応力は、マンモスの戦い方より鈍いものに見えた。自分の砦の如き

防御を崩す剣撃は、スキーヴァーの前歯みたいに軟弱だった。

ドヴァーキン

ガゼフ

 そんな本気を出していない

に対し、あろうことか

は対等に接した

いなどと、友人になりたいなどと、のたまったのだ。

 リディアは憤慨しそうになった。かの方はドラゴンボーンである。定命の者をドラ

ゴンから守り、世界を食らう竜の王を退け、世界を救った至高の英雄だ。

 加えて、誇り高き同胞団の導き手であり、歴史ある魔術大学のアークメイジ。スカイ

リムにおける戦士と魔術師の最頂点に君臨する最上位者だ。

 そして、ナイチンゲールであるとともに聞こえし者。称えられる肩書きではないが、

光は影と共に在り、表は裏があるから表になれる。いつの時代も必要とされる、善に保

ドヴァーキン

証された悪だ。

が導くそれらは影として、裏として正しくあるべき姿へ戻

ることができた。表だけでなく、裏の世界も正した影の功労者だ。

 何より、スカイリムの不毛な混乱をその強大な力で終結させ、内乱で疲弊するスカイ

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自分の故郷

リムを、中立のため板ばさみになった

を助けてくれた大恩人だ。

ガゼフ

 その時代の絶対者と言うべき、神にも等しい最高の存在を前に、

はなんと礼儀

知らずなのだろう。手を抜かれたことにも見抜けず、英雄のシャウトを受けたにもかか

わらず、厚顔無恥、傲岸不遜、実に腹ただしい。戦士としての誇りはないのだろうか。

ドヴァーキン

ガゼフ

 

の考えは理解できる。

には取り入っておくべきだろうし、それが

この世界に対する潤滑油となってくれる。

ガゼフ

 それに、

はそういった素晴らしき英雄の足跡を知らないのだろうし、それを知

らない者をあの場で責め立てても意味がない。今後付き合っていく上で、それらの功績

を知ってもなお、態度が改まらなければ、話は別だが。

 だからこそ、自分は何も言わないのだ。その目論見と心境の理解が無ければ、不敬者

として即刻切り捨ててやったのに。

ガゼフ

ドヴァーキン

 物思いに耽ってみれば、

と戦士団の影はもう見えない。

の帰還の

指示により、各々拠点へ向け歩き始めている。

 全員、自分が守るべき存在だ。

 セロとはたまに喧嘩するし、その指摘がノルドとしての誇りを茶化されるものだか

ら、時々殴り合いにも発展しそうになる。けれども、傭兵であるにもかかわらず金のた

めではなく、何よりこの場の全員の為にその剣を振るってくれる。素直じゃない奴だ

119 激突─2

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が、素直じゃないだけでお人よしと言っていい。

ドヴァーキン

 ジェイ・ザルゴを

が連れて来た時は面食らったが、付き合ってみれば悪

い奴じゃない。自信家で誇大妄想癖なところはあるが、それを現実にしようとひたすら

努力している。非常に好感の持てる生き方だと思う。

ドヴァーキン

ドヴァーキン

 デルキーサスは

の優しさを如実にあらわす結果だ。

には

種族など関係ない。困っている人を助けるのは当たり前。路頭に迷う命があれば、見返

りを求めずそれを助ける。英雄だからとか使命だとか、大それたものではない。ただ心

の赴くがまま──悪く言えば何も考えずに、自分の正しさに向けて行動するのが

ドヴァーキン

なのだから。

 セラーナにも同じようなことが言える。セロと同じく素直じゃないから、面と向かっ

ドヴァーキン

て言えないだろうが、

へは感謝の念で一杯だと以前酔った口から聞いたこ

とがある。吸血鬼だからとノルド式蜂蜜酒の一気を煽ったのが悪かった。泣き上戸だ

とは知らなかった上、なんだか色々と申し訳ない話も一緒に聞いた覚えがあるが──と

ドヴァーキン

もあれ、普段は

を小ばかにする言動を取ったりするが、それは信頼と感謝

の裏返しだと断言できる。

ドヴァーキン

 皆、

に惹かれ、集った大切な仲間だ。この仲間達のためなら自分の命は

惜しくない。もろ手を挙げてソブンガルデに邁進できる。

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「どうした、リディア。帰るぞ」

 雄雄しく、優しげな声がかけられる。

 ああ──そうです従士様。私はあなたを守る為の盾。あなたを慕う者たちの為の砦。

それが誇らしい。首長に命じられた私兵としてではなく、リディア個人として、あなた

と、あなた達を心から守りたい。

「はい、従士様。行きましょう、共に」

 私は誓いました。この世界に来たときに。例えタムリエルよりも、ニルンよりも、ム

ンダスよりも強大な敵があろうと、全ての外敵からあなたと、あなた達を守ると。たと

えこの身が滅びようと、たとえソブンガルデに行けなかろうと、たとえスカイリムに戻

れなくなろうと、私は誓います。絶対に護ってみせる。

 例え、どんな手段を使ってでも。私の大切な人達は、私が御護りします。

121 激突─2

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出発準備─1

     リディアを伴い、デルキーサスの先導で森の中の拠点を目指す。地理を確認すれば、

あまり森の奥には位置していないらしく、外周面に近い場所に転移してきたようだっ

た。これは好都合でもあり不都合でもある。森の外へアクセスしやすいことはつまり、

外部から発見される確立も大きくなる。

「この世界の人間で警備してもらえればいいのだが」

 不意にドヴァーキンの口から言葉がこぼれる。反応したのはセラーナだった。

「あら、何処をですか?」

「我々の家だ。帰りやすい、すなわち見つかりやすい。王都に赴いている間、発見される

と面倒だ。警備がいる。見つかったときの備えとして、この世界の人間を幾人か住まわ

せるのもいいかも知れない」

「ならあの戦士長の部下でも借りてみては? あの警護の提案、飲めばよかったでしょ

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うに。改めてこちらから話してみたらどうですか? 無碍には断らないでしょう。

はっきり言って弱い殿方で、助力を仰ぐのは少し癪ですが」

「そうです、セラーナの言うとおりだわ。あの男、ちょっと従士様と打ち合えたからって

いい気になって。思い出しただけでも腹が立ちます」

 リディアの強い口調にドヴァーキンは少し面食らう。「Skyrim」での彼女の

キャラクターにそぐわない発言だったからだ。いや、ゲーム上の人柄しか見てないか

ら、断言はできないのだが。

 これも悪い思い込みだな、とドヴァーキンは改めて先入観の強さを感じ入った。

「セラーナ、リディア、よせ。ガゼフは俺の友人だ。それに、手加減したわけじゃない。

ガゼフはこの世界における足がかりかもしれなかった。事実その通りだ。殺さない程

度に、力量を見極めながら戦う必要があった。思うところはあるのだろうが、他者を無

駄に貶めるのはよせ。それではアルドゥインとなんら変わらん」

 はーい、と間の抜けた返答がセラーナから返ってくる。リディアのほうといえば、未

だふくれたような表情で短く、はい、と漏らすだけだった。

「ガゼフの部下を借り受けるのは、遠慮したい。国の息がかかっていない……傭兵のよ

うな奴がいいな。雇いやすくて切りやすい。金さえ渡せば言うことを聞く、そんな使い

勝手のいいのがほしい」

123 出発準備─1

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 そんなことをいいながらドヴァーキンはふと思う。この世界でセプティム金貨は使

用できるのだろうか。だがさして気にすることも無い。セプティム金貨は本物の金を

使用しているから、貨幣価値が金本位制で成り立っているなら、最悪溶かして換金すれ

ばいい。

 金本位制でなくとも、価値のあるものを何点か売り払えばよい。兵がいる以上、武器

に需要はあるだろう。

 最終手段としては、盗賊としての自分のスキルを試すいい機会になる。

 ドヴァーキンはお金についてはそこまでで打ちきり、すぐに次の思考に切り替える。

 次に思ったのは、ドヴァーキンがガゼフと言葉を交わせた理由だ。ガゼフの言葉は明

らかに口の動きとあっていなかった。フォロワーたちとは確認できなかった現象だ。

これも何らかの世界の法則なのだろうか。

 発している言葉が変換されて耳に入り、脳で咀嚼される。便利ではあるが、空恐ろし

い。原因が分らなければ、その法則が適用されなくなったとき、解決策を講じることが

できなくなる。

 調査、解明、対処すべき問題がねずみ算式に増えていく。ドヴァーキンは頭を痛めた

が、つらいとは思わない。むしろ楽しい。自分は力と知識の探求者だ。知らないことが

あれば、その数だけ楽しみが増えるだけ。

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 森に入り、木漏れ日がドヴァーキンの顔に貼り付く。自分の考えに没頭しすぎて、

木々にぶつかりそうになるのをドヴァーキンは気づかない。それをリディアに両手で

優しく方向転換されながら、ドヴァーキンたちは森の奥へその姿を消していった。

   ◆

   異様な光景だった。いや、微笑ましいと言うべきか。全身黒ずくめの少女が、巨大な

げっ歯類に跨ってはしゃいでいた。やれ歩け、だとか、走れ、だとか高圧的な物言いで

はあるが、あの姿はやはり年相応の幼さしか感じない。フォロワーたちも顔をしかめた

り、唖然としたり、ジェイ・ザルゴだけは見たことも無いその生き物に興奮している様

子だったが、一様に呆然とした空気を漂わせていた。

「おお。ドヴァーキン! 待ちかねたぞ!」

 目をキラキラさせて、アルドゥインがこちらを見とめる。

「アルドゥイン、それは?」

 ドヴァーキンがアルドゥインの下で縮こまる巨大生物を指差す。

125 出発準備─1

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 ドヴァーキンにはそれはある一種の生物にしか見えなかった。ハムスターと言う奴

だ。しかも、この毛並みはジャンガリアン。愛らしいつぶらな瞳が、小ぶりな鼻と細か

に動く髭と共に、非常に高度なかわいらしさを演出している。しかし、その尾は硬いう

ろこにびっしり覆われており、まるで小さな竜の尻尾の様だった。

「そ、それがしは森の賢王と申す者で──」

コス・ナーロ゛ト

! 主の許可無く口を開くな、馬鹿者め!」

「ひいぃ、姫、申し訳ないでござるよ!」

竜ドヴ

「姫ではない! 我が名はアルドゥイン。

を統べる王だ!」

 漫才のような掛け合いだが、きっと当の本人たちは真剣なのだろう。アルドゥインは

烈火のごとく勢いのある暴言を吐き、ジャンガリアンハムスターは怯えた色を目に浮か

べて、瞳よりも丸く全身を丸めながらおののく。

「……アルドゥイン、それは?」

 ドヴァーキンが再度問いかける。

下等生物

ラー

ブロン

「我が従僕だ、ドヴァーキン。さて、

よ。この忌々しい

に経緯を説明して

やれ」

 やっぱり王だとか上司だとか、上に立つ人間は下の者に仕事を振りたがるのだろうか

とドヴァーキンは内心思い、苦笑する。

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 ハムスター──森の賢王と名乗ったそれ──は恭しく一礼し、改めて口を開く。

「それがし、森の賢王と申す者。この森林の我が領域に異変を感じ取ったため、ここへ赴

いた時、我が主、アルドゥイン様と邂逅し、主従の関係を結んだ次第にござるよ」

「そうだともドヴァーキン。この愚鈍なる生き物は恐れ多くも我が前に立ちはだかり、

矮小なるその力を持って牙を突き立ててきたのだ。我はそれを歯牙にもかけず、我が声

を以ってこやつの心を抉り、服従させ」

「森の賢王よ」

 非常に長くなりそうなアルドゥインの言を断ち切り、ドヴァーキンが口を挟む。アル

ドゥインの気持ちも分るが、今はご高説や自慢話を聞いているときではない。大体何が

起こったかは予想できるし、大筋さえあっていれば会話に齟齬も生じまい。

 それよりも、ドヴァーキンには別に聞きたいことがある。なにしろ、これはまたとな

い都合のよい展開かもしれないのだから。

 あからさまに不機嫌になるアルドゥインを無視し、ドヴァーキンは慎重に、だが性急

に話題を展開する。段階を踏めばすんなりいく話だが、一歩間違えばうるさい野次が入

るとややこしくなってくる。ドヴァーキンはそう判断し、アルドゥインへ目配せで「黙

れ」と念を送る。

「ドヴァーキンよ、我が言に割ってはいるとは」

127 出発準備─1

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「黙れ、アルドゥイン。俺と森の賢王との会話に口を挟むな」

 わかってなかった。今後、アルドゥインにはアイコンタクトは通じないものとして想

定を行う必要がある。ドヴァーキンから命令されればアルドゥインは従うほか無い。

饒舌な言葉の力は鳴りを潜め、不機嫌そうな顔でアルドゥインは口をつぐむ。

「さて、森の賢王よ。1つだけ前提を話した後、2点ほど確認したい。前提として、俺は

そのアルドゥインよりも絶対的な存在だ。アルドゥインは我が言の葉に逆らえず、よっ

てアルドゥインの臣下であるお前には一切の不平を認めない。いいな?」

 威厳の出し方など一切分らないが、ドヴァーキンは全身全霊で威圧的な雰囲気を発し

た。

 それが功を奏したか分らないが、森の賢王は黙って首を縦に振った。

「よろしい。では次に確認だが、1点目として、先程我が領域とお前は言ったが、この家

の周辺はお前の縄張りなのか? 2点目として、お前のその名はどういう経緯でつけら

れた?」

 質問は二つだが、これの回答は二つと限らない。ドヴァーキンの狙いは、このハムス

ターを我が家の番とすることだ。そうすれば王都へ、ひいては今後、全員で外出する際

の憂いが和らぐ。それでも懸念はあり、完璧ではないが。

 1つ目の質問は、単に言葉の足を取ったので確認を行ったまでだ。これの回答がイエ

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スなら、2つ目の質問はさして重要ではなくなる。この辺が縄張りならハムスターに警

備を任せればいい。

 その回答がノーであった場合、保険を立てる必要がある。その為の2つ目である。こ

のハムスターの所属と来歴の確認だ。

 ドヴァーキンは、森の賢王、とは二つ名だろうと考える。本名は別にあるかもしれな

い。その二つ名が誰かから与えられたものなら、与えた者は誰なのか。何処にいて、ど

ういう身分で、いかなる関係性なのか。またはおのずから名乗っているだけなのか。そ

れが分ればハムスターの来歴を手繰ることができる。

 仮に上位者がいるとすれば、アルドゥインには申し訳ないが部下にさせるわけには行

かない。波風立たせないためにもハムスターは即解放の上、新たな番を探すべきだ。

「この一帯はそれがしの縄張りにござる。この森は東、西、南にそれぞれ番がいて、拙者

は南を縄張りとしているのでござるよ。東の巨人、西の魔蛇、南の魔獣──その魔獣こ

そそれがし、森の賢王にござる」

 そこでハムスター──森の賢王は一旦言葉を区切る。

「賢王ですって」

 セラーナがドヴァーキンの腰帷子を引っ張りながら囁き掛けてくる。左手で口元を

上品に隠してはいるが、セラーナの顔には意地悪い薄ら笑いが張り付いていた。なんと

129 出発準備─1

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なく言いたいことはわかる。

「そして、この名は人間達がそれがしをそう呼び始めたため、通称として名乗っているも

のでござる。それがし、同族に未だ会ったことが無いため、種族名すらもわからないし、

どう名乗っていいものやらさっぱりわからんのでござるよ」

 ふむ、とドヴァーキンは思考に入る。

 森の賢王がこの辺りの主と分った以上、警備は任せてよかろう。人間が呼び始めたも

のなら、二つ名の発祥は畏敬であるだろうし、それなら抑止力として申し分ない。所属

も無いようだし、後腐れの無い関係──森の賢王の意思は度外視して──を築ける。万

一に備えての手離れも良い。

 ただ一つ、魔獣を使役している怪しげな集団、などといわれの無い疑いをもたれる可

能性もある。しかし、現状メリットのほうが強く、先々に発生しうる保証の無いデメ

リットは先に対策を考えれば済む話だろう。幸いアルドゥインが手綱を握っている為、

使うのも捨てるのも簡単に済む。

 であれば、提案としてこの場で全員に発言を──いいや、一度アルドゥインに確認を

取ったほうが──しかし、それでは──

 ドヴァーキンはだんだんと思考に囚われ始める。

 もともと佐藤正の性格として、物事を考えすぎる節が多分に存在していた。その為、

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「Skyrim」でも会話の選択肢一つに十数分、思考をめぐらせることはざらにあった

のだ。

 現実世界においては、どうしようもなくテンポの悪い会話となる。だが、分岐や好感

度などを余計に気にする彼にとっては必要な間であり、どうしようもなく削ぐことので

きない時間であった。

 あれこれ考えているドヴァーキンの横で、フォロワーたちが森の賢王を好き好きに弄

繰り回していた。その上で、アルドゥインが偉そうにふんぞり返っている。

「スキーヴァーじゃないのか」

 デルキーサスが森の賢王の頬をつねる。

「スキーヴァーはこんな尻尾をもっていないよ」

 ジェイ・ザルゴは何処からとも無くメモ帳を取り出し、森の賢王の外見をスケッチし

始めた。

「では……熊ではなくて?」

「ホ…ホーカー?」

「ホーカーはさすがに無いだろう」

 セラーナの予想に続けてリディアも私見を述べるも、セロに一蹴される。

「いや、こやつはデイドラだ! 不可思議な魔法も使っておった!」

131 出発準備─1

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 無い胸を張ってアルドゥインがふんぞり返り、誇らしげに表情を明るくさせる。よほ

ど配下ができたことが嬉しいのか、その顔は紅潮しており、いつもの残虐性は鳴りを潜

めているようだった。

「ああ、デイドラか」

「デイドラだって? ジェイ・ザルゴはデイドラとは思わない」

「もう面倒ですしデイドラでよろしいですわ」

「……ホーカーのデイドラ……?」

「……リディアは腹が減ったのか?」

 セロが呆れたため息をつくと、リディアは、違います、とだけ言ってふいと顔を背け

る。

「それよりも、よろしいので、アルドゥイン? あなたを差し置いて、『賢王』などとこ

の子は名乗っておりますが? あなたが王なのであれば、この子も王であるのはおかし

くはなくて?」

 先程と同じ、黒い微笑でセラーナがアルドゥインを見上げた。しかし、セラーナの予

想に反して、アルドゥインは余裕のある表情で、仰々しく片手を持ち上げるだけだった。

竜ドヴ

下等生物

ラー

「よい、許す。我は

の王であり、こやつは

の王。まず位が違うわ。被支配者の

王に対抗心をむき出す程、我は狭量ではない」

132

Page 139: Thur Se Dov そぽかょめゐそ~ Skyrim×Overlord¼ˆSkyrim×Overlord) 三号 きポ仮初タ世界ドタヒホェヤジわィー くきDRPG化ゼベボ美ヵィビ厳ヵわくあヷまぴ地方ゼ魅了ォポケろボ青年ダぎ寝食ビ忘ポボくきグタ中ジぞょつまょぇこヷぜみタ五作目しSkyrimじー念願タまふヷうャ果ケォ

 アルドゥインはそう言って、持ち上げた手で森の賢王の頭を叩く。ぺしぺしと言った

擬音の似合う叩き方だが、森の賢王は痛がるしぐさをとり、やめてほしいでござる、と

アルドゥインに連呼する。

 セラーナは違和感を感じた。こういうからかい方をすればアルドゥインはすぐ釣れ

ると分っていたし、ドヴァーキンの結論が出るまでからかってやろうと思ったのだが、

見事にあしらわれてしまった。

 しかし、違和感の原因はアルドゥインの対応だけでなく、別の、もっとそれより大き

なところにある気がする──なにがどう、とうまくは言い表せないが、恐らく、森の賢

王へ向けるアルドゥインの表情と態度に対して、かもしれない。

 まじまじと見てみれば、アルドゥインの顔は大きなぬいぐるみを買ってもらった少女

にしか見えず、また、態度もまるで友達と接しているようで、アルドゥインのイメージ

とは全くそぐうことの無い雰囲気である。

 そういえば、森の賢王は同族がいないと言っていた。アルドゥインも、この世界に同

族の魂を感じないと言っていた。両者とも、この世界における同種の生命体が存在しな

い。

「まさか、ですわね」

 考えすぎかとセラーナは苦笑し、同じように、未だに考えすぎているドヴァーキンに

133 出発準備─1

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ちょっかいでも出そうと、喧騒から踵を返していった。

   ◆

   結局、森の賢王にはこの家の警護を任せることにした。アルドゥインの高慢さと気ま

ぐれに今回は助けられたと言えよう。

 あの喧騒の後、森の賢王から情報を聞き出そうと試みたが、森の外のことはほとんど

分らなかった。とはいえ、収穫もあった。森の地理と生態系、食料や薬草の自生場所だ。

 大まかにも森林の地理が判明したことは喜ばしく、同時に食糧供給のめどが立ったの

も、一つの課題が消えたといえよう。

 食料は「Skyrim」内ではほぼ趣味のアイテムであり、消費期限や保管などの都

合が一切無かった。現実ではそうもいくまい。定期的に消費と供給を繰り返す必要が

ある。森の賢王の情報は、狩りや採取を容易にしてくれるだろう。

 何より錬金術の材料に目星をつけられることはいいことだ。人間がたまに採取しに

来る場所、とのことで、薬効は少なからず期待できる。これで、闇雲にその辺の草花や

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木の実をもいでは、口に入れる必要が無くなった。

 まあ、口に入れるのは変わらないのだが、地域が限定できるだけでリスクは減る。毒

になんぞ好んで当たりたくは無い。

 食料確保と同じく、自然の素材が主になる錬金術は、素材の安定した入手が困難であ

る。この世界に錬金術師の店舗が存在する保証は無い。それに、「Skyrim」と同じ

効果を持つ動植物類が自生しているとは限らない。

 この世界の人間が、森に入ってまで採取する薬草であれば、安全度は高く、錬金術実

験の素材第一号としては申し分なかろう。

 ドヴァーキンは、アルドゥインが森の賢王を「食べ」なくてよかったと切に思う。森

の賢王は非常に力になってくれた。彼がいれば後顧の憂いは薄く、貴重な情報までも提

供してくれる。人間ではないこともプラスの要素だ。所属が無いのもよい。まさに、こ

の状況を万能に打開してくれるジョーカーが彼であった。

 しかして、アルドゥインは何故、森の賢王を従属させたのだろうか。丸くなっている

とはいえ、アルドゥインの性格として、敵対的生命体をすべて滅却せしめる激情さは変

わらないはずだが。

 だからこその気まぐれなのだろう、とドヴァーキンは物思いを終わらせた。今度は体

を動かす番だ。目の前のごみ置き場──宝物庫という名の物置と、格闘する番であろ

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う。

「あった! 『メエルーンズのカミソリ』だ!」

 セロが大声を上げて、大樽の底から身をもたげる。右手を高々と掲げ、その手には『灯

火』の光を受けて妖しく煌く、邪な短刀が握られていた。

「あ……あとは?」

 くたびれた様子のデルキーサスが、様々な品を用途別に並べている。武器、防具、杖、

雑貨、本、使途不明の謎の物品、などなど、このごみ山から掘り出した、文字通りごみ

からお宝まで多種多様である。

「デイドラアーティファクトは全部見つけたんじゃないか?」

「アーティファクトは、ね。後はこの山を何とかしないと……なんとかしないとね」

 王都遠征へ向けた荷造りを各自行っていたはずだった。しかし、今取り組んでいるの

は宝物庫の掃除である。というのも、皆、この世界でも着の身着のまま旅ができる力が

薬品

ポーション

あることが分った為、必要分の食料と

、万一に備えた上等な装備を整えるだけで、準

備はすぐ済んでしまったのだ。

 そうしてそのうち、ジェイ・ザルゴが以前提案していた「物品の確認」を皆が思い出

し、準備をあらかた終えた後、こうして宝物庫まで赴いているのであった。それがいけ

なかった。思い出してはいけなかった。ただ倉庫を開いて、眺めて──などと考えてい

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たドヴァーキンは、甘かった。

 宝物庫といっても名ばかりである。地下にあるこの部屋は、やや広い、こざっぱりし

た石室に質素な木の宝箱が整列していており、武器の陳列棚やマネキンが並んでいるだ

けの部屋だった。そう、だった。

 さて、ドアを開けてみれば、そこには口をあけてだらしなくなった宝箱に、堰を切っ

てあふれた濁流の如く、ガラクタが放り出されていたのだ。部屋はガラクタの海が波

立っており、口をあけた宝箱がさもたゆたう小船のようだった。陳列棚は難破船の残骸

よろしくひっくり返っており、マネキンがドザエモンのように溺れて埋まっている。

 ドヴァーキンは推測する。「Skyrim」から現実に移った弊害だと。ゲームでは

好きなだけ物を収納に突っ込むことができた。掌サイズの金庫に、身の丈ほどもある大

斧をしまうこともできた。絶対に入らないような仕舞い方だが、そこはゲームだからシ

ステム上、収納には何でも仕舞えたのである。

 それをいいことに、ドヴァーキンはこの部屋の、扉の一番近くにある宝箱に何でもか

んでも詰め込んで仕舞っていた。

 クエストの報酬や本棚に入りきらなかった本、錬金術や鍛冶の習作、失敗作など。

 練金・鍛冶・付呪素材や食料は、アクセスしやすさを考慮して、各クラフト台の専用

大型収納に仕舞っているが、それ以外のどうでもいいものはここに捨てるように投げ入

137 出発準備─1

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れていたのだ。

「デイドラアーティファクトはどうでもよくないよなぁ……」

 この弊害での最大の被害は、宝箱の外、陳列棚やマネキンに飾っていたアーティファ

クト、ユニークアイテムまでもこのガラクタ山に吸収されていることだった。

 ゲーム内ではいかに微妙アイテムとはいえ、設定上強力なそれらを、このごみ山にお

ざなりにしておくのは気が引ける。仮想世界が現実になった以上、アーティファクトの

設定が現実に適用されている可能性は大いにある。このまま野ざらしにせず、厳重に保

管して置くべきだろう。

 その為にも、この宝物庫の惨状はなんとかせねばなるまい。

「今日は出発できないなぁ……」

 恐らく、これをすべて分別して片付けるのは夜までかかる。うららかな午後の冒険

は、かび臭い地下での肉体労働に取って代わられた。まあいつかはやらねばならないこ

とであるし、早めに発見できて逆に良かった点もあるだろう。

 そう前向きに考えねば、この物量に心が押しつぶされそうだ。

「一度、別の部屋に運び出したほうがいいな。もう並べられんぞ」

 デルキーサスが重くなった両手をあてがい、歪んだ腰を勢いよく伸ばす。

「そうね、小分けにして運び出していって、分担しながら分別と再整理にはいりましょ

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う。従士様」

「ああ、一階の居間と応接間と──アルドゥインの部屋かな、無駄に広いし。あと一室─

─ああ、《星霜の間》があるか」

「入っていいのかい?」

 ジェイ・ザルゴが訝しげに問いかける。

 星霜の間とは、この家MODに搭載されている機能、もとい部屋の一つだ。『星霜の

書』と呼ばれるクエストアイテムは、クエスト属性が付与されている為、捨てることが

出来ず、アイテム欄の邪魔者になりやすい。

 そのため、ウィンターホールド大学にある図書館『アルケイナエウム』へ寄贈できる

が、折角のタイトルアイテムを手放すのは惜しい、とのことで、機能の一つとして、保

管用の部屋が盛り込まれているらしい。

 星霜の書は、「The Elder scrolls」のタイトルが示すとおり、この

ゲームにおける最大のキーアイテムだ。

 ナンバリングによっては影の薄い存在だが、「Skyrim」ではアルドゥインの封

印、『時の傷跡』の生成、『ドラゴンレンド』の取得など、ストーリーにおいて非常に重

要な役割を持っていた。

 設定上の力もすさまじく、エイドラ・デイドラを含む神々ですら介入や所持をためら

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うほどの存在だ。

 一言で言ってしまえば、予言書。星霜の書は、森羅万象が因果で決まっているのなら

ば、その結果による那由多の世界軸を全て、予め記している。

 要は、星霜の書に書いてあることは必ず起こることであり、この世の全て──名も無

い町民が露天で蜂蜜酒を何本買ってお釣りをいくらもらうかまで、星霜の書は克明に予

言しているのだ。

 すなわち、星霜の書に書いてある事以外は起こりえず、よって星霜の書を読解し、理

解できるのであれば、それは世界の運命を管理できることになる。

 しかし、星霜の書の本質は予言の力ではない。予言の力は一側面に過ぎず、他にも、

様々な力が備わっているが、その詳細は全く不明である。

 まとめれば全知全能の万能機であるのだが、来歴や用途、著者すらも完全に不明で、お

まけに勝手に増えたり減ったり、書物としてあるまじき特性も備えている。

 現時点で何巻あるかも詳しくは断言できず、現状ドヴァーキンが所持しているのは

〈竜〉、〈血〉、〈太陽〉の三巻である。

「別にいいさ。ただ置いてあるだけの部屋だ。そのくせ広さだけはあるんだから、たま

には扉を開けて、空気を入れ替えてやらないとな」

 別に問題はあるまい、とドヴァーキンは考える。読むにしても使うにしても、明確な

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意思を持って呼びかけなければ星霜の書は反応しない。その実、クエストで使う時以外

は、星霜の書は完全な置物だ。重量20もある、用途無しの雰囲気アイテムである。

「まあ、そういうことなら遠慮なく触らせて──じゃない、入らせてもらうよ」

 ジェイ・ザルゴが髭を撫でて軽く笑う。

「触るのはよせよ? 何が起こるかわからん。ただ、転移してきてからこっち、星霜の書

の確認をしてはいなかったからな」

「無くなってたら大変ですからね」

 別に万能機と言っても足が生えて歩き回るわけではないんだが、確かに何らかの変化

がある際は対処すべき問題だろう。何しろ神をも上回る、いわば「世界の真理」なのだ

から。

「よし、そうと決まれば、だ。俺はアルドゥインに部屋を空けるよう話してきて、星霜の

書を確認して──空気を入れ替えながら待ってるとしよう」

「逃げますのね」

「逃げたな」

「さて、リディア。運び出しの指揮は任せる。リディアなら大体の物品の来歴はわかる

だろう」

「はい、従士様。おまかせください」

141 出発準備─1

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「投げるんですわね」

「投げたな」

 セラーナとセロの視線が痛いが、仕方あるまい。何しろ整理整頓、掃除は苦手なのだ

──ではなく、星霜の書の確認という大仕事がある。

 ドヴァーキンは、まさに逃げるように足早に部屋を出ると、アルドゥインの部屋へと

足を運ぶ。いくらか恨み節は聞こえたが、結局分担作業なのだから、分別と運び込みを

頑張ることでお詫びとしよう。

 アルドゥインの部屋は宝物庫を出てすぐだ。宝物庫を出て左側を見やれば、禍々しい

黒の門が座し、目を象った取っ手の装飾光が視界の中央を渦巻く。

 幅の広い廊下の対岸、正面を見れば、星霜の間だ。特に変哲の無い鉄製のドアが、石

壁と同化してまるで牢獄への入り口のように思える。

 ──見るだけ見ていくか。別にそれからアルドゥインに話を通してもいいだろう。

ドヴァーキンはそう考え、真正面の鉄の塊に手をかける。

 古くなっているのだろうか、錆びているのだろうか。ドアはまるで抵抗しているかの

ように重い感触を伝え、しかし音も立てず開く。開いた先は仄暗い闇で、奥から青いマ

ジカの光が揺らめいてる。

 入り口から入って通路を歩けば、そこはかとなく処刑場への道のりか、または闘技場

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へ向かう闘士用通路の錯覚をドヴァーキンに与えた。開けるときと違ってドアは、諦め

たかのようにすんなり閉まり、ドヴァーキンは歩みを進める。

 それほど長くない通路を出れば、そこは地下にあるのを忘れさせる広大さがあった。

とはいっても部屋の範疇であるが。石材のみで構成された長方形の玄室は、目地の整っ

た壁が四方を囲み、装飾の施された柱が、まるで楔のように天井を貫いて床へ打たれて

いた。

 前方最奥部には水で満たされた囲いの中に祭壇が設けられており、水中から四本の透

明な柱が伸びている。石柱とはまた違った人工物然としたそれらは、青い魔法の光を滝

のように循環させながら、アクアリウムのように輝いていた。

 ここで、ドヴァーキンはすぐに違和感に気づいた。違和感の原因も、すぐにわかった。

大股でその原因に近づく。青い光が迫り、視界が急な光を吸い込んで眩む様だったが、

そんなことはまさに目にも入らず、ドヴァーキンは一つの光の柱に近寄っていく。

 本来、無いはずの柱。回り巡るマジカの小波で構成されるそれの中には、荘厳と不可

思議の白銀で作られた、一巻の書物が封じられている。

 ドヴァーキンが所持している星霜の書は、三巻。ここに本来あるべきは、三本の封印

の柱。

 あり得るべきでない柱の中に、ドヴァーキンは手を入れる、危険は無い。

143 出発準備─1

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 あり得るべきでない星霜の書を掌で包む。感触は氷を触っているかのようで、烈火に

焼かれるようで、棘を握りつぶすようで、水を掬うようで。

 柱から抜き取る。ありえるべきでない星霜の書は、確かに存在していて、その質量を

ドヴァーキンの双椀に預ける。外見は他の星霜の書と変わらず、ドヴァーキンは恐る恐

る、この星霜の書に綴られた名を読み上げる。

 読める。幸い、佐藤正の世界の言葉──英語で書かれていた。はっきりと刻印された

その題名は、一つの綺羅星が存在を主張するかのように強く、しかし、量産的な普遍さ

を感じさせる機械的な彫り方で刻まれていた。

〈Overlord〉と。

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Dovahkiin Ahrk Alduin─1

    ナザリック地下大墳墓最高指導者の執務室は豪華だ。

 室内に置かれた調度品の数々は、丁寧さと豪奢さを兼備しており、程よい塩梅で執務

室を彩っている。装飾は細微であり、遠近によって表情の違う細工は執務室の品位を高

める一つの要素であった。

 純粋なる赤で床を染め上げる絨毯もまた、歩けば薔薇の花園を遊歩するが如く優雅で

あり、足が感じる感触は、母が赤子を抱きしめるかのように淡い優しさと、しっかりと

した確かな感触があった。

 黒檀の机と、その最奥に交差する紋様入りの刺繍旗は、ここが上位者の執務場と言う

ことを黙然と示している。

 非常に広い部屋──というより空間であるが、調度品、絨毯、旗や机、それに冷たい

厳かさの壁や床まで清掃が行き届いており、それらが本来持つ魅力を損なわないよう、

塵一つ無く磨き抜かれている。

145 Dovahkiin Ahrk Alduin─1

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 この部屋の主人は、黒檀の机に革貼りの椅子をもたげ、その暗い眼窩で眼前に畏まる

従僕達を見据えていた。

「アインズ様、我らが至高なる御君。我らナザリック階層守護者一同、今ここに須くはせ

参じてございます」

 アインズと呼びかけられたその「骸」は重く響く声で頷く。かの者こそ、このナザリッ

クの最高指導者、モモンガである。

  モモンガは名を変えていた。かつて栄光を極めたギルド名、『アインズ・ウール・ゴ

ウン』へと。

 何故、名を変えたか? それは、この名であれば、かつての仲間が集うのではないか

と希望を抱いたためである。プレイヤーであるモモンガがこの世界へ転移したのであ

れば、他のプレイヤーもまた転移している可能性が大きい。

 その中に、かつての『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーがいるのではないか、い

るのならば、この名に呼応してくれるのではないか、そういった一縷の望みをかけて、彼

は名を変えたのだ。『アインズ・ウール・ゴウン』の名を再度、天下に轟かせるために。

 ──そして、目下否応無しにちらつくある『プレイヤーと思しき者達』の牽制のため

に。

「ご苦労。さて、お前達を呼んだのは他でもない。アルベドよ」

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「はっ」

 先程アインズへ呼びかけた女性が、恭しくかしづく。彼女はアルベドといい、ナザ

リック階層守護者の統括・管理を行っている者である。艶美な体躯にやわらかい微笑を

浮かべ、背の翼を静かになびかせる。

「守護者達に私の指令を伝えよ。守護者達はまずそれを良く聞き、各自、段取りと打ち合

わせを行え。質問があればアルベドに問うがよい」

「かしこまりました」

 長い黒髪をたなびかせ、アルベドが身を起こす。たなびいた黒い羽と、頭部にねじれ

る一対の角が人間ではないことを確信させるが、それでもその容姿はまさしく絶世の美

女であった。

「では、アインズ様の指令を今から伝えます。まずは、大前提を話しましょう。各守護者

に共通して原則が二つあります。一つ、決して正体は表立たず、極力露出を控え、いか

なる場合でもナザリックの存在を暴露しないこと。二つ、我らナザリックに匹敵する強

者を発見した際は、速やかに報告を行い、即時帰還すること。いいわね?」

「正体、でなければいいのですか?」

 長身で細身の男が面を上げる。まとう雰囲気は浅黒く、どこか邪悪なものだ。丸眼鏡

で隠された切れ長の目は理知と狡猾さを感じさせ、背後の銀のプレートに包まれた禍々

147 Dovahkiin Ahrk Alduin─1

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しい尻尾が、くねりと波打つ。

 彼こそナザリック第七階層守護者であり、ナザリックの頭脳、デミウルゴスだ。黒い

髪を後ろになで上げ、三つ揃えでネクタイを決めた相貌は紳士を思わせるが、実際の邪

悪さにかけてはナザリックでも随一であろう。

「ええ、デミウルゴス。正体でなければ。ただし、仮初であってもやり過ぎないように。

避けたいのはナザリックの存在が露呈すること。情報もまとまらないこの状況では、対

処も隠蔽も難しくなるわ」

「ええ、わかっておりますとも」

「それを踏まえてあなたへの指令よ。デミウルゴス、この世界を恐怖に陥れなさい。ナ

ザリックの戦力、あなたのシモベは勿論、他守護者のシモベまで動員しても構わないわ。

あなたは最恐の王となって、この地に君臨なさい」

 ほう、とデミウルゴスが眼鏡を光らせる。視線をアルベドから主人の──アインズの

下に走らせ、意を得たり、と言わんばかりに薄ら寒い邪悪な笑みを浮かべた。

「わかりました。アルベド、後で大体のプロットを話します。段取りの詰めはそこで」

「任せたわ。では、シャルティア」

「はい」

 小柄で華奢な少女が、伏せた顔を大げさに上げる。熱い視線を主であるアインズに向

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けた後、冷たく、淡白な目をアルベドへ向けた。

 その目は鮮血の赤で染まりきっており、白よりも白い、不気味なほど綺麗な肌がその

赤を際立たせる。長く雅な銀髪は念入りに手入れされ、せせらぎのように纏められてい

た。

 黒を基調としたドレスはフリルとリボンで装飾されており、美しい相貌に、うるさく

ない可憐さのアクセントを加えている。

 彼女は、ナザリック第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォール

ンである。

「あなたへの指令は、この世界における強者の捜索と確保。特に〈武技〉と呼ばれる技能

を有した者を捕獲して頂戴。多少血を吸ったり──壊れても構わないわ」

「いいのでありんすえ?」

「狙いは──」

 厳かな低音が響くと同時に、守護者達が再度姿勢を低くする。口を開いたのはアイン

ズだ。守護者達の動きがぴたりと止まり、物音一つしなくなった空間に、際立ってアイ

ンズの声が透き通る。

「狙いは、この世界固有の『強さ』を見極めることだ、シャルティア。故に戦闘能力に長

けるお前であるからこそ、任せられる。コキュートスは目立ちすぎるからな。〈武技〉と

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呼ばれる我々の知らない特性──その一端をつかむためにも、お前の仕事は極めて重要

だ。頼んだぞ」

「は、はい! ありがとうございますアインズ様! シャルティア・ブラッドフォール

ン、我が存在に変えましても、必ずや御身のために最高の結果を出してご覧に入れます

!」

 主からの直接の期待の言葉に、興奮極まった声でシャルティアが一礼する。白い肌は

朱に染まり、感極まった瞳を瞠目して、シャルティアは次の指示を待つ。

「アルベド、続けてくれ」

「──はい」

 アルベドをちらりと一瞥したアインズは、不機嫌そうなアルベドの顔を目にした。や

はり、話の腰を途中で折ったのがまずかったのだろうか。ワンクッション、謝罪を入れ

てから先を促すべきだっただろうか。

 いまだ上位者然とした態度に戸惑いを隠せないアインズは、あれやこれやと不安に

思っては心を痛める。沈静化が作動するほどの機微ではないので、蕁麻疹のような気持

ち悪いむずがゆさが、心の隅に悶々と居座り始めていた。

 アインズのそんな内情を知らず、アルベドはシャルティアへの補足を続ける。

「シャルティア、何点か注意して欲しいことがあるわ。まず、あなたが探すのは戦闘能力

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に関する強者よ。それ以外、例えば権力的、生活的な人物に関しては、情報を得れども

接触はしないで頂戴」

「理由を聞いても?」

「別の者が任務に当たるからよ。あなたは、まず〈武技〉を目星に戦闘能力的強者を探し

なさい。次に、任務の内容上、あなたは外部との接触が多くなる。もう一度言うけれど、

無駄な荒事や露出は控えるように」

「誘拐や暗殺は良くても、強盗や公開殺人などはダメって事ね。わかってますえ」

「そうよ。そして最後。我らナザリックに匹敵する、何がしかの〈力〉を認めたときには

──絶対に関わらずすぐに戻ってきなさい」

「逃げろと? 情報を集めずに?」

「そうね、逃げなさい。無様でもいいから、とにかく逃げなさい。これはアインズ様から

の厳命よ。いいわね、必ず関わらないこと。もし〈力〉を認めた場合、出来うる限り記

憶にとどめて報告して頂戴」

 どこか釈然としない──絶対的強者である自分が逃げることが許せない──シャル

ティアは、憮然としつつも小さく承諾する。至高の御方の厳命とあれば、守る意外選択

肢は存在しない。

「いいわね。次に、コキュートス」

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「ハッ」

 巨大な昆虫が半身を揺り起こす。物理的にも雰囲気的にも冷たい空気を身にまとい、

白銀の甲殻が氷河の如く打ち震える。大顎と二対の腕が力強さを主張し、巨体もあい

まってこれ以上の無い威圧感を発している。

 ナザリック第五階層守護者、コキュートス。巨大な昆虫の武人であり、武器を扱う戦

闘では、ナザリックにおいて無類の強さを誇っている。コキュートスは表情の読めない

複眼でアルベドを見据えた。

「あなたはナザリック地下大墳墓の警護よ。この地に攻め入る者がいないとも限らな

い。マーレがうまく隠してくれているから、存在が公になっている可能性は低いでしょ

うけど──あなた以外に適任がいないの」

 コキュートスは、大顎をかち合わせ、金属的な重低音を鳴らす。

「……御身ノ為トアラバ」

 甲殻をぎこちなく軋ませながら、コキュートスが面を下げる。コキュートスとしては

自分も同じように、何らかの使命を果たしてアインズに忠誠を示したかったが、致し方

ない。ナザリックの警護責任者となれば責任は重く、かけがえの無い名誉である。

 ──今ハ、コノ任ヲ完遂スルコトコソガ、ナザリックノ、延イテハ、アインズ様ヘノ

忠誠ニナル。コキュートスは自分にそう言い聞かせ、次に来る活躍の場に望むことにし

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た。

「ありがとう、コキュートス。それでは最後、アウラ、マーレ」

「はい!」

「は、はい……!」

 対照的な二つの声が反響する。いや、正確には前者の元気のよい声は反響したのだ

が、後者の声は弱弱しく、壁や天井に到達する前に失速して、むしろ消え入りそうな大

きさだった。

 元気良く返事したのは、アウラ・ベラ・フィオーレ。ナザリック第六階層守護者で、弱

弱しい態度の弟、マーレ・ベロ・フィオーレも同じく第六階層守護者である。

 アウラの方は快活とした明るい表情で、アルベドに視線を向ける。背格好はまさに子

闇妖精

ダークエルフ

どものそれで、実際

としてはまだ子どもである。女の子であるが男装しており、

マーレと同じくそれは深い故あってのことだ。

 一方のマーレといえば、たどたどしく面を上げ、吹けば飛ぶような目線をアルベドへ

送る。二人の性格と服装は対照的であり、似通っているところは髪と肌、そして瞳の色

ぐらいであった。まさに、姉は太陽、弟は月の対比がしっくり来る。

「あなた達には、二人で一つの任に当たってもらいます。このナザリック近郊に存在す

る森林──『トブの大森林』の調査と記録、そして現地生命体の確保、保護、収容。加

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えて、仮拠点の建築よ」

「へ? 二人で? それだけなら、建設用のゴーレムとか、労働力さえ貸してもらえれ

ば、あたし一人でもできそうなもんだけど」

「そうね、アウラ。ただ、理由があるの。それはもう一つの任務の為よ。さて、マーレ。

あなたが見た『炎の柱』は、地理的に言ってトブの大森林からのもので間違いないわ」

 マーレが、ぶるりと身を震わせる。あのときの怨嗟の声を思い出したのと、これから

アルベドの言う指令にいやな予感を覚えたためだ。確かにあのいやな感覚は、知覚した

自分にしか分らないだろう。かといって、再度魂に響かせるのはごめんこうむりたい。

「もう一つ、あなたたちへの最後の指令は──」

 しかし、マーレの震えはすぐに止まる。あの炎の柱など、どれほどのものか。

 マーレ含め、守護者達、ナザリックに所属する者たちは全て、『至高の四十一人』の力

と加護を受けている。その中でも唯一絶対、無間至高であるモモンガ、もといアインズ・

ウール・ゴウンがこの場に在らせられるのだ。

 かの御方の圧倒的御力の前では、全てが霞む。マーレはこう思う、高き頂の山麓にす

ら至らない我が身であるからこそ、あの正体不明に怯えているのだと。

 きっと『至高の四十一人』であれば、あの程度、道化た力にしか感じまい。その絶対

的信頼と安心感が、マーレの心を穏やかにし、覚悟を明確にする。

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 至高の方々の頂点、アインズ・ウール・ゴウンその人のお役に立つことが出来るのだ。

その喜びこそナザリックにおける最上の至福。

 恐れが消えることは無い。しかし、それ以上の幸福と責任がある。守護者であるマー

レであるからこそ、果たせず、また果たすべき責がある。

 決意を目に走らせ、マーレが顔を上げ、アインズに視線を向ける。

 その顔に満足したのか、アルベドの顔に微笑が浮かんだ。その表情だけ切り取れば、

まるで聖母のような自愛に満ちた者かと錯覚させるほどであった。

 アルベドは切った言葉をまたつなぐ。一息入れ、アウラとマーレだけではない、守護

者全員にその名を心に刻むように、一言に力を入れながら、口を開く。

「あなた達への最後の指令は、トブの大森林に潜む者たち──件の炎の柱の原因、『アル

ドゥイン』と『ドヴァーキン』の捜索と監視よ」

  ◆

  アインズは自室に戻り、これからのことを整理していた。

 まずは、何より情報収集である。

 アインズの得意はメタゲームだ。

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 情報を収集し、相手の戦法と特性を判明させる。その為に敗北を取ったところで問題

ない。それが致命的でなければ幾度と無く重ねてもよい。

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず。目下敵と限ったわけではないが、最悪の状況

を仮想すれば、暫時的な敵と置いて間違いはない。よって、まずは、敵を知らなければ

なるまい。

 アインズは暗い眼窩の底にある紅を明滅させつつ二人の人物の名を反芻する。

 アルドゥイン、ドヴァーキン。やはり、聞き覚えが無い。トッププレイヤーにも、有

名なギルドのメンバーのどれにも該当しない。

 しかし、この二人のどちらかは、プレイヤー、もしくはこの世界のレベルを逸脱した

存在である可能性が非常に高いと、アインズは考える。

 その根拠は、件の『炎の柱』と、決定的なのはカルネ村で出会った、王国戦士長ガゼ

フ・ストロノーフの証言であった。

 アインズは、カルネ村でガゼフとかわした会話を思い出す。非常に短い会話であった

が、今後の指針を決めるのに重要な情報のかけらが、散逸していた。

 まずは、村長が口を開いた。家へ案内してくれるという。アインズはガゼフに先を促

す。礼を言ってガゼフは村長に続く。

 村長の家に着き、全員が椅子に座る。アルベドは屋外で待機させていた。

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 アインズにとっては他愛も無い話から始まる。村長にガゼフが交渉する。村に泊ま

る、屋外でも構わない、死体の処理を手伝う。交渉は滞りなく完了した。

 交渉が終われば、アインズへガゼフからの質問攻めが始まった。こちらを怪しんでい

たのだろう。しかし、カルネ村を助けた事実の手前、それは信用の領域内での疑り方

だった。

 そして、ガゼフの最後の質問。そう、ここ、ここからが問題だ。

 今までのは記憶のフラッシュバック。流れ行き最後は消却される当たり障りの無い

記憶。

 ここからは、問題が解決されるまでは決して消えることの無い、鮮明なる考察だ。

 ──ゴウン殿、ぶしつけに色々聞いてすまなかったな

魔法詠唱者

マジックキャスター

 ──いえ、王国戦士長様。当然の御対応ですよ、

的な理由があるとは言え、

私の見てくれや来歴は不審者そのものでしょうから

 ──重ねてすまないな、そう言ってくれると助かる──ゴウン殿、これは単純に興味

からの質問だが。これで最後だ

 なんでしょう、と応える。あの時は手短にして欲しかった。しかし、今思えばもっと

能力強化

時間が欲しかった。ガゼフや他の戦士達、馬までもが何らかの

効果を受けてい

た。それが『ドヴァーキン』による物だとしたら、話を聞く意味でもガゼフへ全面的に

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協力したかもしれない。

 それに気づきながら流していたこともあいまって、アインズには悔いが残る。

 ──アルドゥイン、もしくはドヴァーキン、と言う名に心当たりは無いかな?

 無かった。しかし、今までと違い質問の意図が分らない。

 ──聞いたことありませんね。誰でしょうか?

 ──ふむ、タイミング的にも仲間、もしくは知り合いかとも思ったのだが──ゴウン

殿は『炎の柱』を目撃したかね?

 炎の柱。マーレが見た異質、守護者すら恐怖する現象。『アルドゥイン』と『ドヴァー

キン』の単語がここで『炎の柱』とつながった。

 ──いえ、見てはおりません。ただ、私の──使用人が目撃したそうで

 実際に目撃していないのだから、そう言う他無かったと思う。

 自身の関連者をほのめかすことは避けたかったが、これはあの柱と声の情報を別観点

から拾えるチャンスだった為、無駄にしたくは無かった。

 ──使用人から聞きはしたものの、要領を得なくてですね。『炎の柱』に関係する人物

なのですか?

 ──そのようだ……なんでも、トブの大森林に『アルドゥイン』という大悪党が逃げ

込んだらしくてな。あの『炎の柱』は奴によるものらしい

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 きな臭い、それが第一印象だ。この世界の情勢や地理の情報が少ない故に正確な判断

は出来ないが、基本的に穿って見るべきだろう。

 マーレの言うとおりの規模であれば、その力を行使する大悪党が暴れた余波が見当た

らない。当然激しい戦闘があっただろう。大悪党ならば目くらましに森を燃やすなど、

凶行に及ぶかもしれない。

 だが、村人達は襲撃の方に精神をすり減らしていたし、森の外側から見る限り、大森

林に異常は見られなかった。小動物や鳥類が逃げ出すことも無い。

 ──まあ、ドヴァーキンという男が、その原因であるアルドゥインを打ち倒したため、

もう心配は要らないがな

 ますますきな臭い、アインズはそう考えた

 ──ほう、そのドヴァーキンさんとやらはどういう方なのですか? 冒険者でしょう

か?

 ──いや、どうも遠方の地方からアルドゥインを追って流れ着いたらしい。大森林に

目立たないよう拠点を立て、そこでアルドゥイン打倒の機会を窺って──

 ──戦士長!

 ここでガゼフの部下が、スレイン法国の部隊を発見し、報告に乱入した。会話が途切

れる。ガゼフが立ち上がり外の様子を確認しようとする。

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 ──会話を続けるのは困難か

 以上が、考慮すべき情報が集約された部分である。

 マーレが恐れるほどの炎と声、それはアルドゥインによるものだ。ならば、きな臭く

はあるが、現状の事実としてアルドゥインを打ち倒せるドヴァーキンとは何者だ?

 アウラかマーレだけに調査と監視を命じるのは、リスクが高い。ならば、二人で行動

して欲しい。危険性は依然残るが、単独よりは薄らぐだろう。二人いっぺんに、と言う

別の危険性も増えるが。

 地理的にナザリックとトブの大森林は近しい距離にある。いざとなればコキュート

スを向かわせることも出来る。

 だが、万が一接触するようなことがあれば、そこは友好的に進めるよう指示をする。

そのためにも、外見上警戒されにくい彼女達を選んだのだ。

 二人には、直接アインズの口から補足したほうがいい。そのほうが強制力が働くだろ

うし、この件に関しては、こと慎重に進めなければならない。

 アルベドがアインズの指示を曲解するとは考えにくいが、一歩誤ればいらぬ対立を招

く可能性もある。

 今のところ互いに干渉は無く、感情的にはイーブンの状態だ。

 そこを維持したまま情報を収集し、有利に接触の機会を設けることがアインズの理想

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である。今回のアウラとマーレの任務は、その第一手なのだ。だからこそ、慎重に穏便

に行動しなければならない。

 シャルティアに釘を刺したのもその為だ。ナザリックより先行して転移してきたプ

レイヤーであれば、可能性としてギルド丸ごと転移した可能性もある。単一の転移で

も、地盤を固める猶予が存在したと想定すべきだろう。

 ならば、戦力でねじ伏せるより、相手の地力やコネクションを利用してビハインドを

埋めるべきだろう。今自分達は、ナザリックというこの世界でのイレギュラー群でしか

構成されていない。

 だが──彼らは友好的だろうか? 排他的であれば? 異形種狩り等をこの世界で

も行っていたとしたら?

 いや、その為のアウラとマーレだ──むしろ、排他的なスタンスをこの世界でも構築

しており、加えて先制攻撃してくるのであれば大義名分が出来る可能性のほうが大き

い。その為の餌、『アインズ・ウール・ゴウン』を使うのだ──

 アインズの頭脳で思索がねじれ回り、回転する。未だ見ぬ、敵か味方かも分らぬプレ

イヤーの影は、アインズに曇天のように重くのしかかっていた。

  ◆

161 Dovahkiin Ahrk Alduin─1

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  立派な城門であった。スカイリムの要塞とは比べるべくも無い、堅牢で長大な石壁が

都市を囲っている。

 勇壮な鉄門は、門自体が門番かとも錯覚させるような存在感を放ち、太陽の陽をを鈍

く照り返している。

 スカイリムの都市で言えば、ソリチュードが近いだろうか。しかし規模は数倍あり、

確かに王都と呼ばれるだけある。厳密に言えば、ソリチュードはいわば地方都市であ

り、逆に比較するほうがおかしいのだが。

 ここはリ・エスティーゼ王国王都。距離はあったものの、何とか徒歩で来ることがで

きた。いや、徒歩ではない。ほとんどマラソンに近い徒歩で来た。今日は、ガゼフと約

束したぎりぎりの日付である。そうでもしなければ、多分間に合わなかっただろう。

 ドヴァーキンは、またも「Skyrim」脳の自分を恨んだ。「Skyrim」では遠

出と言っても、特に徒歩のみで問題無い。

 スタミナが続く限りスプリントすることが出来るし、スプリントを使わなければ永遠

に走っていられる。しかしそれはゲームだからであって、天候や物資、道中のアクシデ

ント等はゲームデザイン上、現実とは全く違う。

 英雄の体になったからとはいえ、基本は定命の者である。レベルの関係上、スタミナ

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の保有量も桁違いであったため、一般的な生命体よりははるかに体力は持ったが、疲れ

が無いと言うわけではない。

 だから結局、こういう様になってしまうのだ。鎧の裏地が汗を吸い込み、肌にしつこ

く粘りつく。タールか何かを擦り込んだかのように、皮膚には不快感しかなく、反面、喉

は干からびきった砂漠のように荒い渇きを訴えていた。

 だが、その不快感も、目の前に見える王都のおかげで、幾分か和らぐ。旅の目的地と

は本当に偉大だ。知らない場所に行くのと、知っている場所に行くのでは心の感覚や時

間の感覚がまるで違う。

 ドヴァーキンは兜を外して汗をぬぐい、街道の脇によけ、腰を下ろす。まだ朝である

ためか、太陽の威力が幾分か弱いことが救いであった。ドヴァーキンは切れる息を整え

ながら、街道の後方に視線を向ける。

 遠くに豆粒のような三つの影が見える。言うほど遠くは無いが、大体二、三百メート

ルほどだろうか。恐らく風を切って全力疾走しているのだろう。右へ左へ人や貨物を

よけつつ、三つの影が近づいてくる。

 リディアとセラーナ、そしてアルドゥインだ。

 ──セロ、ジェイ・ザルゴ、デルキーサスは、いない。トブの大森林の自宅で、留守

番である。

163 Dovahkiin Ahrk Alduin─1

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 ドヴァーキンは近づいてくる彼女らをぼんやりと見つめながら、出発前の彼らを思い

出していた。

 ドヴァーキン、俺たちは王都には行かない。デルキーサスが視線を合わせず、そう低

く呟きかけてきた。

 当然、ドヴァーキンは理由を問いただした。王都へは全員で行くものと考えていた。

その為に森の賢王を警備に当たらせているのだから。あの好都合が全く無駄になるし、

なにより新しい土地を皆で見て、共有したかった。

 それを伝えても、三人の意見は変わらなかった。デルキーサスは黙って首を振り、セ

ロも悪態すらつかずに、行かない、の一点張りだった。

 そこでジェイ・ザルゴが言った言葉が決定的だった。亜人種は、おとなしくしていた

方がいいよ、と。

 確かに、三人とも外見上は一般的な人間とはかけ離れている。ガゼフやその部下達の

中に、亜人種は存在しなかった。もしかしたら王国はノルドやブレトン、インペリアル

のようないわゆる人間種の国なのかもしれないし、亜人種がいたとしても微妙な立場か

もしれない。

 その主張は最もだった。ごもっともであった。しかし、ドヴァーキンは腹に据えかね

る。勿論、三人に腹を立てているのではない。

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 また、人種問題か。ドヴァーキンは心底嫌な気分で、三人の留守を了承した。亜人種

である彼らだからこそ、何より経験から察知しての行動だったのだろう。

 タムリエルでは、人種問題が強く禍根を残している。とりわけスカイリム地方は、ノ

ルドとその他人種間の関係が最悪で、主に歴史的背景から来る怨恨に根ざしている所が

大きかった。

 それは戦争や陰謀の火種になるほどの深い溝であり、ドヴァーキンが「Skyrim」

で最も納得できないことの一つでもあった。

 人種が違うから、宗教観が違うから何なのか。種族的な先入観と、ワンサイドの主観

的な歴史でしか、命を判別できないのか。個と個で見れば、皆等しく定命の者だ。

 確かに、境遇が違えばドヴァーキンも理解できたかもしれない。むしろ、人種で人を

見る人間になっていたかもしれない。それでも納得と容認は出来なかった。気持ちは

わかるが、と言うやつだ。

 ──面倒の種は極力持ち込まないほうがいいだろう。話をややこしくしたくないし

な。まあ、片付けも終わっていないし、丁度いいさ。行ってこい。

 デルキーサスはそう優しげに諭してくれたが、ドヴァーキンは、デルキーサスの目に

一瞬映るわびしさ、悲しさの色を見逃さなかった。

 まあ、この世界も同じような人種問題があるとは限らない。ドヴァーキンはそう思う

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ことでとりあえず納得し、三人に留守を預け、外見は普通の人間に見えるメンバーだけ

で王都に赴いたのであった。

「……ええ、期待、した……わた、くし、が──馬鹿でした……とも!」

 息も絶え絶え、セラーナがドヴァーキンの横に崩れるように腰を落とす。普段の上品

さは風に吹かれて消え、背を丸めて恥も無く胡坐をかきながら、手団扇で己を扇ぐ。

「……馬で、も…買うのかな、とか……! 馬車……、でも雇う、のか……とか、考えて

いた……私が、馬鹿でしたわ!」

 険しい顔を作ったセラーナが、手団扇を解いてドヴァーキンの頬を人差し指で押し、

つつく。その眉間には深いしわが出来ていて、多分それは女性が作ってはいけない表情

だと思う。

「悪かった、悪かった」

「悪いと思っていないでしょう、あなたは! ええ、そうでしょうとも! 私が初めて同

行したときのこと覚えてまして? ディムホロウ墓地から城まで全力疾走! しかも

あなた、城へも泳いで渡ってましたよね!? 本当、セロの言うとおり、脳みそまでドラ

ゴンなのではないですか!?」

 いや、それはしょうがないことなのである。ディムホロウ墓地からの強制ダッシュは

申し訳ないと思うが、ヴォルキハル城への遠泳は、試したくなるものなのだから。そこ

166

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にボートがあるのなら、泳いでもいけるはずだと、試さずにいられようか。いや、いら

れまい。

 しかし、ゲーム内での行動がNPCの記憶に残っているのは、やはり確定的なのかも

しれない。この世界に転移したときに、何らかの改ざんが行われているのだろうか? 

ゲーム的な行動が、現実面での齟齬をきたさないように。

「あ、ほら! また別のこと考えてますわね! 私、分るんですから、あなたのそういう

ところ!」

 いまだにセラーナの目は険しく、フードから覗く顔は女性ではなく、もはや吸血鬼の

それと言ったほうがいい。

 彼女は吸血鬼であるため、日中はこうして目深にフードを着用している。純粋なモラ

グ・バルの眷属たる彼女は、一般的な『まがい物』とは違い、特に日光を浴びても問題

ないのだが、どうも気分的に太陽を毛嫌いしているらしい。

 何事も雰囲気ですわ、雰囲気、とはセラーナの弁だが、雰囲気を大事にするのならば、

ドヴァーキンはまず、吸血鬼は日の本に出てはいけないように思う。

「はあ……はあ、それくらい、に……してあげなさい、セラーナ」

 遅れて、いつもの鎧を着込んだリディアが、アルドゥインをつれて到着する。肩で息

してはいるが、鍛え方が違うのだろう、少し呼吸を整えるだけで、セラーナのように疲

167 Dovahkiin Ahrk Alduin─1

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労困憊の様相は呈していなかった。

 しかし、隣のアルドゥインは今にも崩れ落ちそうなくらいであった。一応、素性を隠

すため魔法使いのローブを着させ、『ドラゴンプリーストの仮面』をつけさせている。そ

んな状態で走り回ったのだから、むべなるかな、当然である。

「アルドゥイン、大丈夫か?」

「……」

 アルドゥインからの無言の抗議。ドヴァーキンは失念していた。アルドゥインの声

は封じていたのだ。許可が無ければアルドゥインは話せないし、その仮面も取ることが

できない。

 基本的にアルドゥインは滅ぼすべき、「Skyrim」の敵だ。スカイリムだけでな

く、かのドラゴンは定命の世界を滅ぼす者。しかし、だからといってぞんざいに扱うの

は心が痛む。

 アルドゥインもまた、「Skyrim」に生きる命なのだ。ドヴァーキン──佐藤正が

余計な真似をしなければ、今回の転移に巻き込まれることは無かった。いわば、被害者

だ。

 それに、このアルドゥインは、残虐性と暴力性を鎮め、浄化するために少女の姿を象

らせているのである。見てくれでどうこう言うつもりは無いが、姿形が女子供であれ

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ば、多少は憐憫や庇護欲が出てくるのが生物としての常だろう。

「すまなかったな、アルドゥイン」

 ドヴァーキンはアルドゥインの仮面を外す。ドヴァーキンが仮面を取った瞬間、アル

ドゥインは勢い良く息を吸い込み、むせる。ドヴァーキンはアルドゥインの背中をさす

り、彼女が落ち着くまで待つことにした。

「ふふ、この程度でへばっては、ドヴァーキンには到底ついていけませんわよ。流氷の浮

く、極寒の海に鎧をつけたまま入っていくような男ですから」

「ああ……そんなこともあったわね」

「……! ……、……!」

 咳き込み、涙目になりながらセラーナに抗議の目を送る。何を言いたいのかは分らな

いが、まず間違いなく自分に関する抗議だろうと、ドヴァーキンは微妙な顔でリディア

に視線を送る。

「……従士様、大丈夫ですよ、私達は。ええ、慣れてますから」

 若干棘が立っている気はするが、リディアは微笑を浮かべてドヴァーキンへ視線を合

わせた。

 そのうち、アルドゥインも落ち着きを取り戻し、再度仮面を着用する。

「それで、あれが王都ですのね」

169 Dovahkiin Ahrk Alduin─1

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 埃を振り落としながら、セラーナが目先の城門を見つめて言う。

 門の前には既に列が出来ており、検問だろうか、所持品のチェックや王都に来た目的

などを話しているようだった。

「かなり大規模な都市ですね。我々で言う帝都のような所なんでしょうか」

「そうかもな。スカイリムのどの要塞よりも大きい。まあ王都なんていう以上、この国

の首都だ。何があるか楽しみじゃないか」

「ええ、それはもう! 私、早く観光したいですわ。さっさと用件を終わらせて、目一杯

楽しみましょう」

「ふふ、セロたちのお土産も忘れないようにしないとね」

 ドヴァーキンは、自分で楽しみとは言いつつも、遊びに来たのではないことは分って

いる。

 今回の目的は、ドヴァーキン達の潔白の主張、存在の正当性を証明する事である。要

は、この世界に対する自己プレゼンテーションと言っていいだろう。その為にアルドゥ

インを連れて来たのであるし、王都の中では、不意な行動は慎まねばならないだろう。

 全てを話すつもりは無いが、話さねば矛盾の生じることもある。プランと勝算はあ

る。最悪、奥の手も存在する。ガゼフと言う身分のある後ろ盾もあるのだし、破綻する

ことは無いだろう。

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 そして、この王都訪問は速めに、かつ問題なく終わらせなければならない理由もある。

超越者

オーバーロード

 星霜の書──本来あるべきはずではない、第四巻目〈

〉の書。あれの解明をし

なくてはならない。その為には、トラブルで滞在が長引くなどの自体は避けたい。

 あの書が何故増えたのかはわからない。書の中身も、他の星霜の書との関連性も一切

不明だ。

 正直ドヴァーキンにとって、頭の痛い問題ではある。だが、それはこの王都の件が終

わってから集中して考えるべき事だ。

 ──まずは、ガゼフに会わねばなるまい。そこから貴族達に話す内容を、ガゼフと打

ち合わせてみよう──

 ドヴァーキンは再び兜を被り、歩き出す。

「さて、鬼が出るか、蛇が出るか」

 後に続くリディアから、無意識なのだろう、独り言のように言葉が漏れる。

 それは一体どちらのことだろうな──ドヴァーキンは苦笑しながら、三人を引き連れ

て城門の列へと向かっていった。

171 Dovahkiin Ahrk Alduin─1

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Dovahkiin Ahrk Alduin─2

  息が切れ、足が重い。重力がアルドゥインの体を縛り、空気ですらアルドゥインの歩

みを遮る。

 体中の疲労感がアルドゥインの小さな体を押しつぶしてしまいそうだった。

 前方のドヴァーキンとセラーナはあれだけ走った後だと言うのに、飄々と会話を交え

ている。横に立つリディアも、一息ついた後は軸をそらす事無く、整然とした戦士の姿

勢を取り戻していた。

 アルドゥインが感じている疲労は、実のところドヴァーキンたちが感じている疲労と

大差ない。

 しかし、定命の体に慣れないアルドゥインにとっては生まれてすぐに味わう疲労の苦

しみであり、その対処も慣れも無いことから、ことアルドゥインにとってこれは大いな

る困憊であった。

 ──情けない。

 自虐交じりの溜息も漏らせず、アルドゥインは独り歩みを進める。

 天空を己の黒で包み、その畏怖で地上を覆う翼。

172

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 定命の者のわずかばかりの勇気を切り裂き、希望を肉片へと堕としせしむる爪。

 魂を喰らい、世界を貪る牙。

誰・

 アルドゥインはかつての自分の姿に思いを馳せながら、疲れ切ってだらしなく歪む

か・

の手を、仮面越しに見やる。

 白く、鱗一つ無い弱弱しい掌に、塵芥すら裂けなさそうな申し訳程度の爪。

 背負う翼の感触は無く、背には汗と衣服のへばりつく呪いの様な気持ち悪さしかな

い。

 舌でなぞる歯は小さく小奇麗に生えそろい、行儀の良い咀嚼が十分期待できるだろ

う。

 アルドゥインは思う。これは一体何なのだろうか。この手は一体誰のものなのだろ

うか。この意識は一体真実なのだろうか。

 自分は本当にあのアルドゥインなのだろうか。

 アルドゥインがドヴァーキンとアカトシュに封ぜられ、面白みの無い悪趣味な部屋に

閉じ込められて以来、自分の魂が不安定になっていく感覚がアルドゥインに付きまとっ

た。

 その感覚は日に日に増していったが、自らの記憶と竜戦争から続く定命の者への憎

悪、渇き食らう己の欲望こそアルドゥインの証明であり、己を見失うことは皆無だった。

173 Dovahkiin Ahrk Alduin─2

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 しかしこの世界に来てより、アルドゥインの心を苛ませる大きな要因が一つ増えた。

竜ドヴァー

 それは自分の他の

の魂を知覚できなくなったことだ。

竜ドヴァー

 スカイリムにいた頃は、この体でもアルドゥインは他の

を知覚できた。竜

ドヴァー

 よって、この状況はアルドゥインの能力の失陥というより、この世界に

が存在しな

い可能性のほうが大きいだろう。竜

ドヴァー

 アルドゥインにとって、他の

がどうなろうと根本的には知ったことではない。

声の道

スゥー

 しかし、アルドゥインの

に従う者に関しては己の同胞である。

竜ドヴァー

 他の

への同族意識──裏切り者のパーサーナックスも含め──も曲がりなりにも

竜ドヴ

アルドゥインも

であるからして、一応存在はしている。

竜ドヴ

 この世界にただ一体の

もいない。アルドゥインはそれに孤独感を感じており、その

孤独感を感じる事実こそ問題だ。

 本来の自分なら、不遜に笑って孤高を貫くだろう。孤独感など感じる由も無し。

 同族がいないからといって、それが何するものであろうか。

竜ドヴァーは本来群れず、社会を作ることはあっても馴れ合うことは無い。

 基本的には孤独の生き物であり、それこそ孤高にて一切の畏怖と敬意を集める絶対の

頂点なのだ。

竜ドヴァー

 その

の支配者たるアルドゥインに関しては、ことさらにその色が強い。

174

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 孤独など慣れきっており、そもそも当たり前のことであるのだ。

 だというのに、この寂寞に取り残された焦燥感を何故、今さらに感ずるのか。

 魂は器に依存する。

 アルドゥインも知識としてその事実は自覚していた。

竜ドヴ

 だからこそ

の器でなはく、定命の者の近似物であるこの器をドヴァーキンは選択し

たのだろう、とアルドゥインは理解している。

竜ドヴ

 しかし、それによって引きこされる

の時との感覚差は、アルドゥインを苛立たせた。

 この孤独感も、本来定命の種族が同族を全て失った場合、感じる思いなのだとアル

ドゥインは考える。

 それをあろうことかアルドゥインが感じている──どうしてもそれがアルドゥイン

には受け入れられない。

 疲労感と同じく、本来アルドゥインに定命の心の機微など理解できるものではない。

竜ドヴァー

存・

在・

し・

な・

い・

概・

念・

を無理やりに押し付けることは、ある意味一種の拷問に近い手法

だった。

下等生物

ラー

 ──だからこそ、あの

を生かしたのは気まぐれなどではない。竜

ドヴァー

 アルドゥインは丸すぎる目と無駄に生えそろった毛皮に、かろうじて

に通ずる尾を

持った正体不明の毛玉に思いをはせる。

175 Dovahkiin Ahrk Alduin─2

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竜ドヴ

 この

と乖離した心の赴くがままにしていれば、それはそれで気が楽になった。

竜ドヴ

のアルドゥインであれば、森の賢王を生かす余地など皆無だっただろう。

 だが今のアルドゥインにあったのは同情と共感だった。

 同族のいない森の賢王に対しての共通意識が、アルドゥインの破壊衝動を上回った。

 お前も寂しかろう、と。

 それは意図的なものではなく、無意識に成り行きを進めていくうちにそうなってし

まったのだ。

 そして、残ったのは苛立ちや怒りではなく安息だった。

 これは実に効果的な強制方法だと、自虐交じりにアルドゥインは感心する。

 ──アカトシュの入れ知恵だろう。

 このまま行けば、ドヴァーキンとアカトシュの狙い通り、本当にアルドゥインから

ドラゴンの心

が消えうせるかもしれない。

 だがそれは果たしてアルドゥインといえるのだろうか。

クロシス

竜ドヴァー

 ──

、憂鬱は

の陥りやすい罠だ。これではいかんな。

 アルドゥインが大仰に頭を振り、物思いから我に返る。

 すると、同じくしてドヴァーキン達の歩みが止まったことにアルドゥインは気づく。

 改めてアルドゥインが顔をあげれば、目の前にはうすら高い石壁と体格のいい門が聳

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え立っていた。

要塞ホールド

 どうやら物思いしているうちに、王都とかいう

までついていたらしい。

 ドヴァーキンを先頭に既にまばらに出来ていた列に加わり、アルドゥインもそれに

従って無言でドヴァーキンの横につける。

「改めてみると……大きいですわね」

 セラーナが列から外れて城壁に触れ、感嘆した面持ちで城壁の上辺を見上げる。

 アルドゥインもつられてその視線を追った。

 風化しつつもしっかりと組み合わさった城壁は高く根ざし、一つ一つの石目の大きさ

からよほど頑丈な建造物なのだろうと推察できる。

 だが、どれだけ立派な城壁でもそれは定命の者にとってのものだ。

竜ドヴ

 土だろうが石だろうが、

にとっては悪あがきに過ぎない。翼を以って飛び越えられ

るし、少し体をぶつけてやれば、あっけなく崩落するだろう。

「城門もホワイトランとは比べ物になりませんね。あんなに大きい門、どうやってつ

くったのかしら」

 リディアが背伸びしながら前方の門を見やる。

 アルドゥインは背伸びせずに、体を傾けて前方に視線を移す──今のアルドゥインの

身長では背伸びしたところで、前の商人風の男の荷物に頭をぶつけるだけだ。

177 Dovahkiin Ahrk Alduin─2

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 木と鉄で出来た巨大な門構えは、スカイリムより数倍堅牢な感触を受け、物言わず脅

威を堰き止めるに十分なつくりだった。

 なるほど、あれだけの門はアルドゥインも見たことがない。

 しかし、所詮は定命の者が作った物であるから、どうせ一喝すれば閂や門衛ごと塵の

ように吹き飛んで行くだろう。

竜ドヴ

 どれもこれも──

なら、の話であるが。

竜ドヴ

にはそれだけの力がある。

 今のアルドゥインに、果たしてそれほどの力はあるのだろうか。

竜ドヴ

 声の力はそれほど失ってはいないが、

としての力は最早振るうことは出来ないだろ

う。

 そう考えると、アルドゥインはそれ以上城門を直視できず、わざと焦点を外した目で

視線をそらした。

 それからしばらく上の空でいたアルドゥインだが、不意に透き通る鐘の音が鳴ったか

と思うと、行列が進み始めた。

 進み具合は一定の間隔を保って進んでおり、途中いくばくか待たされるものの遅すぎ

る速度ではない。

 そのうちアルドゥインの低い背でも検問のような窓口が見えるようになり、寝ぼけ眼

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なのかどうにもぱっとしない顔の兵士が、処理を行っているようだった。

「次」

 すぐ前に並んでいた商人風の男の手続きが終わると、小窓から兵士がやおら手招き

し、ドヴァーキンへそう呼びかけた。

 ドヴァーキンを先頭にアルドゥイン達が小窓の目の前で進むと、兵士がいぶかしげな

表情を浮かべる。

 なぜそのような表情を浮かべるのかアルドゥインにはわからなかったが、ドヴァーキ

ンは察するところがあったのか、兵士が口を開くより前に言葉を発した。

「ガゼフ・ストロノーフ戦士長の要請で参りました、ドヴァーキンと申します」

 スカイリムでは知名度のあるドヴァーキンだが、この地ではそうもいかない。

 相手に無駄に警戒させない配慮であることはわかっていたが、ドヴァーキンらしから

ぬ馬鹿丁寧な言葉遣いで、内心小馬鹿にした目をアルドゥインは送った。

「戦士長の? ドヴァーキン……ああ、少し待て」

 思い当たるところがあったのか、兵士が後ろを振り返り何事か呼びかける。

 しばらくして別の壮年の兵士が小窓から顔を出し、おもむろにドヴァーキンたちを一

瞥した。

「……戦士長から話は聞いている。戦士長がいらっしゃるまで別室で待機してもらお

179 Dovahkiin Ahrk Alduin─2

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う」

 壮年の兵士はそう言うとあごをしゃくりあげ、ある方向を指し示した。

 その先には古びた鉄製の扉があり、二名の若い兵士が待機している。

「わかりました。皆、行こう」

 ドヴァーキンが先頭を切って扉へと進み、リディアとセラーナもそれに続こうとした

ところで、小窓からそれを差し止める声が聞こえた。

「待て! 檻か馬車かは無いのか」

「檻?」

 ドヴァーキンが翻って、疑問を呈する。

「そうだ。えーと……アルドゥイン、だったか。件の者の護送もある為、そちらも監視下

に置くよう命じられている。危険な人物なのだろう?」

「ああ、それなら心配要らないでしょう。アルドゥインには行動の制限をかけています。

何にも危害を及ぼすことは出来ません」

「行動の制限だと?」

 壮年の兵士が顔をしかめる。

「そうです。これがそのアルドゥインなのですが──」

 ドヴァーキンがアルドゥインを指し示す。

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「まず身に着けている仮面とローブはこの者の力を抑制します。今は羽虫一匹殺す力は

ありません」

 まず嘘八百である。アルドゥインは心の中で嘆息した。

 確かに魔法的力の内在する装身具だが、その効果は全くの別物だ。

 アルドゥインの力を抑制する根源は、ドヴァーキンの声に他ならない。

 ドヴァーキンの言うとおり、今のアルドゥインは一切の行動を制限されている。

竜ドヴ

 しかし、

の力を失ったところで羽虫どころか殆どの定命の者をひねり潰せるくらい

の力はあるのだが、その力を行使できない以上、羽虫程度も殺せないと言って確かに差

し支えあるまい。

「次に、私の声はこのアルドゥインの行動を制限します。今は私についてくること以外

は自由に行動できません。王都や市民の皆様に危害を及ぼすことは一切無い、と断言で

きるでしょう」

「信用できんな」

 壮年の兵士がすぐさまに断言する。

 アルドゥインでも兵士に賛同するほどに、根拠の無い申し開きだ。当然だろう。

 壮年の兵士が何事か言いかけたときだった。ドヴァーキンが不意に息を大きく吸い

込んだ。

181 Dovahkiin Ahrk Alduin─2

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Iiss

!」

竜ドヴァー

『氷晶』のシャウトの第一音節。

の言葉で氷の意味を持つ単語は、凍結の概念を温度

の無い低温で形作り、壮年の兵士を縛する。

 物言わぬ氷像となった兵士は後ろ向きに倒れこむ。

 その様は無機質で粗暴であり、小石が道端に転がるかのようで、まるで人間が自然に

出来る硬直ではなかった。

 それを認めたほかの兵士が剣を抜き放つ。

 外で待機していた兵士達も異常を察し、同様に剣を抜き払ってドヴァーキン達を取り

囲んだ。

 アルドゥインは困惑する。こういう事態を防ぐために、ドヴァーキンは我が声を封じ

ているのではないか、と。

 騒ぎを起こさないよう厳命し、それを一番避けるよう動くはずのドヴァーキンが一体

何をしているのだろうか。

 アルドゥインの困惑をよそに、ドヴァーキンは兵達の抜き身の剣を流し見て、またも

別のシャウトを放った。

Zun─Haal─Viik

!」

 相手武器を奪う、鋼を否定するシャウト『武装解除』だ。

182

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 このシャウトに影響を受けたものは所持する武器を取り落とし、ドヴァーキンの周囲

の兵士達もその通りになった。

「これでわかったか?」

 先ほどまでは打って変わって威圧的になったドヴァーキンの声が大きくこだまする。

 ドヴァーキンは身を乗り出して小窓を覗くと、『氷晶』から解放され床から半身をもた

げて唖然とする、壮年の兵士に二の句を続けた。

「さぁ、戦士長にお目通りを。我が声がそのまま、ドヴァーキンの証明になるだろう」

   ◆

   通された部屋はなんとも簡素な部屋だった。

 数脚のみすぼらしいボロ椅子と、鉄板でめちゃくちゃに補強された最早鉄製とも呼べ

る机だけが乱雑におかれている。

 応接室というより聴取室であり、部屋というより倉庫といった方がよさそうだ。

 ドヴァーキンが無造作に椅子に座ると、対面に壁に体を預けて不躾に立つセラーナが

183 Dovahkiin Ahrk Alduin─2

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目に入った。

 ああ怒っているな、とドヴァーキンは理解する。細い眉はつりあがって、鋭利な剣先

のようにドヴァーキンを威嚇していた。

「悪かった」

「だから、悪いと思ってないでしょう、あなたは! 肝が冷えました! 反乱軍の次は国

を相手に戦争する気ですの!?」

 申し開きをしたいところだが、ドヴァーキンには話せない事情があった。

 先ほどの悶着は、話術スキルの検証だった。

 聴聞の際に話術スキルを有効活用できれば非常に有利になる。

 しかし、以前焼け落ちた村でガゼフに対し効力を感じたが、あの壮齢の兵士に通用は

しなかった。

 以前は荒唐無稽な口からでまかせで、今回は根拠も無い状況での信用へのアプローチ

だったが、スカイリム的にはどちらも説得スキルの適用される方法だろう。

 ガゼフの場合はほぼ完全に意識を手放しながら話し、兵士へは前もって準備した文言

で説得を行った。そこに違いがあるのだろうか、とドヴァーキンは推察するが、試行回

数が少ない以上断言できない。

 とはいえ最後の恐喝は話術スキルの賜物だろうか。現実世界の佐藤正は、あそこまで

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高圧的で大胆な物言いを出来る人物ではなかった。

 あの啖呵は燃えるように勢い良く口から出でたが、反面心は林のように穏やかで、冷

静だった。

 現実の自分からしてみれば、肝を潰して弱弱しい声をひりだすのが精一杯だったろ

う。

 ここでドヴァーキンは、前提としての疑問に思い当たる。

 そもそも「Skyrim」では話術スキルはゲームの進行を円滑にするためのシステ

ムであり、それが現実世界に適用される可能性は限りなく低い。

 ガゼフのときはたまたまうまくいったのであって、スキルの適用自体できないのかも

しれない。

 最後の(威圧)としかいえない様な物言いも、実際現実として単なる脅しでしかない。

 が、かと言って以前の自分と比較すると、『Skyrim』のスキルの適用は否定しき

れない。

 ──結局、結論を出すためには繰り返し検証が必要だ。

「ほらまた! 絶対聞いてないですわ!」

「ま、まぁまぁ」

 口から火が出る勢いで怒声を放つセラーナを、リディアがなだめる。

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「でも従士様、本当にどうしてあんなことを? 私達には騒ぎになることは控えろと

言っていたでしょう」

 リディアもまた──こちらは純粋な疑問だが、ドヴァーキンに問いかける。

 ドヴァーキンも話術スキルの検証のみで騒ぎを起こそうとは思いつかない。もっと

穏便に済ませる方法はいくらでもあるだろう。

 また別の狙いがドヴァーキンにはあった。

「シャウトの力を知らしめたかった」

「はぁ」

 リディアが呆けたように穿った声色で相槌を打つ。

「──言い方を変えれば、聴聞前のタイミングで、シャウトを使うべきだと思った。そう

して、俺は声の魔法で何でも出来るのではないかという、ある意味で恐怖心を植えつけ

たかった。この国と敵対せず、損害を出さない程度にな。スカイリムにいた頃ならば、

ドラゴンボーンの力は自ずと皆が知っている。しかし、ここでは誰もこの力の一端も知

らないだろう」

「……なぜそうする必要が?」

 リディアはドヴァーキンの意図が解せずに質問する。

「リディア、俺は今回の聴聞が、聴聞だけですんなり終わる可能性は低いと思っている。

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例えば──庭に浮浪者がねぐらを作ったとする。どうする?」

「即刻立ち退かせます」

「そうだろう。恐らくあの森林はこの国の領地内で、俺達はそこに勝手に拠点を作って

いる、まさに立ち退くべき浮浪者だ」

「つまり、立ち退かせたくても立ち退かせられない浮浪者にしたかった、ということです

か?」

 セラーナが意を得たように手をたたいた。

「そうだ。しかしそれだけでは目の上のたんこぶ状態。いらぬ敵愾心を煽りかねない。

そこで交渉だ。あくまで我々は関与してほしくないだけ。火柱の騒ぎを起こして、なお

かつ領地を侵犯したことは謝罪はするし、必要とあらば税金等の義務も果たそう。ただ

し、下手に出すぎるのも問題だ。そこで、シャウトの力を遠まわしにちらつかせたい。

ふっかけるつもりならこちらにもそれ相応の力はあるぞ、とな。それを最も簡単に示威

できるのは、この世界で未知であろう、シャウトが適任だと思ったんだ。できるだけ穏

便に済ませるのが最善だが、その体裁だけを貫けば足元を見られるからな」

「別に聴聞の場でシャウトを使えばよろしいのでは?」

「うん、それでもいいかと最初は考えた。けれど、脅迫まがいになる。かといって、脅迫

行為を避ければ無難なシャウトしか使えないし、それでは示威として弱い。剥き身のナ

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イフで脅すのではなく、我々は衣服の下にナイフを持っていて、それが何本かわからな

いから手がつけられない、しかもそれが実は斧なのではないか──という状況を作りた

い」

「そんなにうまくいくでしょうか?」

「いかないかもしれないし、いくかもしれない。ガゼフは俺の声の力を報告はしている

だろう。後はそれを実際に示す後ろ盾が必要だが──やりすぎはご法度だな。ガゼフ

にも迷惑がかかる。あの兵士達がうまく情報を拡散させてくれればいいんだが」

最・

終・

手・

段・

 ──しかし、うまくいかなければ、

もある。召喚魔法に関しての仮説が間

違っていなければ、の話だが。

 ドヴァーキンは心の中で自分にだけそう付け足した。

「……でも納得できません。話してくれれば、それ相応に動きましたのに」

「うん、まぁ、それは今後気をつける」

「本当かしら……あら」

 セラーナが何かに気づいたかのようにもたれかけた身を起こし、扉に視線を移す。

 ドヴァーキンも注意深く耳を澄ませば、外の廊下から足音が聞こえてきた。

 程なくして鉄製の扉が開かれ、ガゼフが姿を現す。

 どこか疲れきった様相の彼は大きなため息をついてドヴァーキンを見やる。

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「派手に暴れたそうだな」

 ガゼフは身を投げ出すようにそう言い放つと、ドヴァーキンの目の前の椅子にどっか

りと腰掛けた。

「すまない、騒がせる気は無かったんだが……どうにも信用してもらえなくてな」

 先ほどの悪巧みなどどこ吹く風で、ドヴァーキンは本当に申し訳なさそうに俯く。

「……まあ、そうだろうな。俺もアルドゥインを剥き身で持ってくるとは思ってなかっ

たわけだが……本当にそれが、あの火の柱の原因なのか?」

 先ほどの兵達から報告を受けたのだろう、ガゼフは眉をひそめ、仮面とローブに身を

包んだアルドゥインを警戒の色でねめつける。

「想像とは全く違うな……そもそも人であるか疑わしいとさえ思っていたが」

「声を聞いてみるか?」

「いやいや、やめてくれ。ドヴァーキン言っておくが──その……叫ぶのをやめてくれ

ないか? 皆が不安になる」

 ガゼフの台詞にドヴァーキンが思わず口角を歪め、噴出す。

「なんだ、おかしなことでも?」

「い、いやすまない。俺の故郷でも──同じことを何度も言われたんだ」

 ドヴァーキンは「Skyrim」の衛兵達を思い浮かべ、心の中で笑う。

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 ガゼフの台詞が彼らとあまりに一言一句そっくりだった為、反射的に噴出してしまっ

たのだ。

 ドヴァーキンはすぐに取り繕ってガゼフに向き直る。

「そうだな、声を使うのはやめておこう。騒ぎを起こしてすまなかった」

「ああ、そうしてくれ。兵達を宥めるのは大変だし、市井に悪いうわさが立ちそうだ……

さて」

 ガゼフが膝に手をついて大仰に立ち上がる。

「行こうか、ドヴァーキン。王都を案内しよう」

 言うが早いかガゼフは立ち上がり、扉を開く。

「ああ、よろしく頼む」

 ドヴァーキンも立ち上がってガゼフの促す先に付き従い、リディアとセラーナもそれ

に従った。

 アルドゥインは言わずもがな、ドヴァーキンの横をついて歩く。

 一行はガゼフの案内で待機室を出た後、城門をすぎてしばらく歩いた。

 程なくして大通りに出で、王都のメインストリートだろうか、朝にも関わらず、様々

な人々が往来を闊歩している。

 商人のような者、王都の住民のような者、推測するに主婦や小間使い、兵士もまばら

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に見ることが出来る。

 更に、「Skyrim」では見たことも無いような派手な鎧武者や、逆に素朴で、いか

にも駆け出しといった風の戦士達も何度か見かけた。

 検問所の行列でも散見された身なりだが、この世界は傭兵や賞金稼ぎのような職の需

要が高いのだろうか、とドヴァーキンは勘案する。

 であれば、ドヴァーキンにも興味がある。全て終わった後に、ガゼフに聞いてみて、こ

の世界の職探しをするのも悪くない。

 どの道、この世界の貨幣を稼ぐ必要があり、まさしく「Skyrim」でやってきた

ようなことがそのまま収入になるのなら、これ以上のことは無いだろう。

 すれ違う人々も、ウィンドヘルムやドーンスターのような陰気臭さは何処にもない。

生気に満ちて溢れているとはいえないが、彼らの顔には、スカイリムと同じく、今日を

精一杯生きようとする活気が見て取れた。

 道の両端には威厳のある建造物がいくつも立ち並び、住宅や施設などの建物の区分は

分らないが、古めかしく年季の入った外見で、無骨ではありながらしっかりと大地に根

ざすつくりであった。

 また、遠く王都の奥には、それこそ立派としかいえない建物がいくつも立ち並んでい

るようで、更に遠方には堅牢で雄大な城壁の中に、いくつもの塔が朝の霞の中にたたず

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んでいた。

 あれは宮殿か何かだろうか。多分にして長大で気迫のある建造物は、ドヴァーキンの

目を通して、その心に感動を与えた。ハイヤルマーチの沼地から、ソリチュードを始め

て目撃したときも、同じように見とれていた気がする。

 リディアもセラーナもせわしなく首を動かし、はわぁ、だのうわあだの、歓声を上げ

ては二人でかしましく楽しんでいるようだった。

 アルドゥインでさえ、借りてきた猫のようにおとなしくなり、きょろきょろとその不

気味な仮面を左右上下に動かしている。

「すごいな。すごい。こんな都会は見たことが無い」

 ひとしきり眺め終わり、嘆息しながら、ドヴァーキンは素直にそう思ってガゼフに問

いかけた。

「君のことだから、皮肉ではないだろうが。残念ながら、まだ改善の余地がある。しかし

俺も、この王都を褒められるのは素直に嬉しい。ありがとう」

 しかし、ガゼフから帰ってきたのは素直な返答ではなく、どこか含みのあるものだっ

た。何かあるのだろうか。ドヴァーキンは疑問に思う。

 今のところ、初訪問時印象のよい街、独占トップを爆走中なのであるが。

要塞ホールド

「そうか。けどまあ、俺の知っている

──都市の中で、これ以上の規模は見たことが

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無い」

 少なくとも、「Skyrim」でこの王都に匹敵する都市はない。スカイリムに存在す

る全ての要塞を合わせても、この規模の半分にも満たないだろう。

「はは、ならバハルス帝国の首都に行けば、もっと度肝を抜かれるぞ」

「へえ、帝国はもっとでかいのか? この規模でも十分すごいと思うが」

 それにはまた、興味を引かれる。そのうち帝国にも観光しに行くべきだろう。だが、

入国の問題が出ると面倒だし、色々と準備せねばならないだろうが。

「そうだな、かなりのものだ」

「そうか、じゃあ、抜かれる度肝を次までに、また準備しておくさ」

 さして面白くない軽口を叩き、ドヴァーキンは笑いかける。

「ははっ、それはいい!」

 それに反応して、ガゼフが屈託の無い笑みを浮かべる。

 なんだ、そんな顔も出来るのか、とドヴァーキンは感心した。

 あの時見た限りでは、ストイックで硬派な武闘派男児かと思ったが、そこはやはり人

間、友人と接するときはまた違った面を見せるのだろう。

「しかしガゼフ、どこまで行くんだ?」

 しばらく歩き、朝霞のカーテンの中から宮殿と思しき大芸術品が顔を覗かせたところ

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で、ドヴァーキンはガゼフに問いかけた。

「ああ、まずは君らを王宮まで送る。王宮の一室を借りて、君らはそこで滞在できるよう

に手配した」

「……王宮?」

「うむ──ドヴァーキン、君らの礼式は王国と共通のものか? 例えば、最敬礼とか」

 ドヴァーキンは首をかしげる。確かに貴族達と顔を合わせるのであれば、相応の礼儀

があるだろう。しかし、最敬礼とは妙だ。

「いや、どうだろうな。礼法とは無縁だったから、略式でも教えてくれると助かる」

「そうか、わかった。実はな、ドヴァーキン。詳しい経緯は話せないのだが──君らの聴

聞は国王自身が執り行うことになった」

 ガゼフの衝撃の発言に、ドヴァーキンは目を剥いた。

   ◆

   アウラの任務は順調だった。至高の主人、モモンガ──もといアインズ・ウール・ゴ

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ウンより勅命を受けて数日ほどしか経過していないとはいえ、初動でまごつくことが無

かったのは良い滑り出しだ。

 まあまごつく要素は無いんだけどね、とアウラは心の中でひとりごつ。

 ざわめく大自然の中、雰囲気にそぐわない木造建築物がアウラの眼前にどっしりと構

空の目

スカイ・アイ

えている。眼前といっても〈

〉の効果で、ある程度離れたところから、ではある

が。

 手近な木の上で気配を消しながら、アウラは注意深くその家を凝視していた。木々に

遮られてあまり遠方からは視認できないとはいえ、この距離なら察知される可能性は十

分低いだろう。

 アウラとマーレのこの森における任務は三つ。トブの大森林の地理、生態系の調査と

現地生物の確保、ならびにナザリック仮拠点の建設。

 そして、この森林を拠点にしているという謎の人物──ドヴァーキン、アルドゥイン

の調査だ。

 ドヴァーキンとアルドゥインの調査に関しては、アウラは時間を掛けるつもりでい

た。

 というのも、この広大な森にわざわざ拠点を構えているのだから、なんらかの偽装が

施されている可能性が高い。人目に触れたくない理由が何かある、とアウラは予測して

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いたからだ。

 そうなってくると、アウラの使役する魔獣を無為に動かし続けるのはためらわれる。

 現地生物とは違う魔獣たちが徘徊し続ければ、相手の警戒心を刺激してしまうかもし

れない。

 また、魔獣たちがドヴァーキンたちに接触する可能性もある。そこで戦闘になったり

すれば後々の森林の調査にも影響が出てくるだろう。

 そこで、アウラは自らが直接ドヴァーキン達の調査を行うことにした。

 アウラの能力を駆使すれば、水面下に調査を行うことが出来るし、何より接触した場

合の対応の幅が広がる。

 しかし、アウラは肩透かしを食らうことになった。

 調査を始めてわずか数日の内に、自然と調和しつつも人工物と主張する不自然な木造

家屋を発見したのだった。それが目の前の───ードヴァーキンとアルドゥインの拠

候・

補・

だ。

 そこに住んでいるのは、元々この森林に住んでいる原住民の可能性も否定しきれない

以上、候補としておく他無い。

 まずは、ドヴァーキンないしアルドゥインと確定できる証拠を見つけるべきだろう。

 現時点で分っていることは、そこに居を構えていたのは三人組であること。

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 一人は奇妙な鎧に身を包んだ剣士で、もう一人は服を着て歩くトカゲ。最後に、ふさ

ふさの尻尾をくねらせながら鼻歌を歌う獣人だ。

 アウラはトカゲと獣人に強い興味を引かれていた。見たことも無い、自分の知らない

魔獣かもしれない。

使役テイム

 もしドヴァーキンとアルドゥインに関係が無く、アインズの許可が下りれば

して

みたい。

 ──おっと、いけないいけない。集中しなきゃ。

 散漫になりつつあった意識を、アウラは引き戻す。

 ひとまず、アウラのすべきはドヴァーキンとアルドゥインが真に件の家屋に居住して

いるかの確認だ。

 取れる方法はいくらかある。しかし、前提として主人からは接触を禁じられており、

危害を加えることも無いように言いつけられている。

 一番リスクが無く確度が高いのは、警戒されにくい魔獣または隠密に長けた魔獣を交

代制で張り込ませ、会話などから情報を拾うことだろう。

 しかし、アウラ達の任務はこれだけではない。大森林の調査と並行すべき以上、それ

らの魔獣を割くのは両調査の長期化を予感させる。

 アウラは勲功を焦っていた。というのも、弟のマーレがリング・オブ・アインズ・ウー

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ル・ゴウンをアインズから賜ったことが理由の一つだ。

 双子である以上、弟の名誉は誇らしいものではあるが、守護者の一人としてみれば嫉

妬や羨望をぬぐいきることは出来ない。

 弟が受勲とも言える誉れを受けて、姉として対抗心を生やすなというのは酷であろ

う。

 主人アインズ・ウール・ゴウンがドヴァーキンとアルドゥインを警戒し、今後の方針

の一部として重要視していることは何となく察知できる。

 それらの調査を完遂すれば、自分もリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを授与

されるかもしれない。

 しかし、競争相手は他にも居る。他の守護者達だ。

 他の守護者達もアウラと同様何かしらの任務を帯び、この世界に散っていった。

 仮に先を越されてしまえば、敷居は高くなっていくだろう。時間をかければかけるほ

ど、不利になっていくことは明らかだった。

 魔獣たちに任せれば情報の確度にかける。かといって、指揮を執るアウラが四六時中

張り付くわけにも行かない。

 しかも、あの家屋がドヴァーキンとアルドゥインのものでなければ、調査はまた一か

ら始めなくてはならない。

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 アウラの中で結論はすぐに出た。

 一番手っ取り早く、確実に確認できる方法──それはあそこに潜入することだ。

 仮にドヴァーキンやアルドゥインに関連するのであれば、二人の存在を確定できる物

証があるはずだ。手記でも手紙でも何でもいい。あそこにドヴァーキンとアルドゥイ

ンがいると証明出来る物品があれば、疑いようも無く任務を遂げられる。

 潜入するのは問題なく可能だろう、とアウラは考える。自分の持つレンジャーのスキ

ルと生来の知覚があれば、見つからずに行動できる自信があった。

 それに向こうも交代制で警戒しているとはいえ、この大森林に隠れるように居を構え

ながら、偽装を一切施していない相手だ。

 彼らの行動パターンさえ熟知できていれば、容易いだろう。

 これは僥倖だ。これは幸運だ。

 他の守護者を出し抜き、いの一番で主人の役に立てるチャンスなのだ。

「よし、決まり!」

 第一に彼らの生活パターンを把握し、潜入に都合の良い時間帯を見つけること。

 第二に、家屋の構造を外見から予測し、最適なルートを見つけること。

 最後に、もし潜入が発覚した場合の回避方法を準備しておくこと。

 自分の指に煌くリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを夢見ながらも、アウラは

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家屋前にたむろする三人組に意識を集中するのだった。

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Dovahkiin Ahrk Alduin─3

  ジェイ・ザルゴは夜の屋上で番をしていた。

 セロやデルキーサスと交代制で見張りをしてはいるが、全くといって良いほど何も起

こらない。

 たまに森の賢王が通りがかり話をすることはあったが、異世界に来たのにトラブルや

刺激の無い毎日にジェイ・ザルゴは若干退屈していた。

 ジェイ・ザルゴは己の自慢の髭を整えながら、溜息を吐く。

 ──こんなことなら、仮装でもしてついていくべきだったかな。

 溜息のあと、大仰に背伸びしたジェイ・ザルゴは空を仰いだ。

 頭上の見慣れた、或いは見慣れない黒い天蓋。一面の星空に、ぽっかりと穴を開けた

ような白い空白が見える。

「あれは月なんだろうか」

 誰にでもなく、ジェイ・ザルゴはそう問いかけた。

 星々は空をたゆたう黒い海の中で、煌々と己の命を煌かせる。

 淡く、それでいて確かにそこにある光は、ジェイ・ザルゴの脳を満たして清らかにし

201 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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てくれる。

 それはニルンとなんら変わることはない。

 しかし、この星空の中で確実に違うことが一つあった。

 それは月だ。

 じっと見続ければ、ジェイ・ザルゴを吸い込んでいくかのようで、この月から降り注

ぐ光はジェイ・ザルゴたちを抱擁してはくれなさそうだった。

 少なくとも、あの月はジェイ・ザルゴが知るカジートたちの母ではない。

「月さ」

 ふと声のかかるほうを見れば、デルキーサスが天窓から身を乗り出して上ってくるの

が見えた。

「一つしかないがな。交代だ」

「……マッサーとセクンダに会えないのはそわそわする。ありがたく代わってもらうと

しよう」

 マッサーもセクンダも、カジート──タムリエルのエルスウェーアに住まう獣人族が

信仰する神々だ。

 ニルンでは、月が二つあった。紅く妖しげに光る大きなマッサーと、純白で清く控え

めに輝くセクンダ。

202

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 双子の月と呼ばれるエルスウェーアの神だ。

「虚無の夜を過ごしたカジートも、こういう気分だったんだろうか」

 ジェイ・ザルゴの独り言に、デルキーサスが何かを言うことは無かった。

 デルキーサスにも信仰する神がいる。しかし、それはカジートであるジェイ・ザルゴ

とは違う神だ。

 アルゴニアンの文化や信仰は理解されがたい。そもそも種族として暗殺者を排出し

ていた種族であり、タムリエルの中でもアルゴニアンは異質の種族だ。

 ブラックマーシュの文化はタムリエルに浸透していないし、その逆も然り。

 その為、ブラックマーシュから出たことの無いアルゴニアンにしてみれば、デルキー

サスは異端者として疎外されるだろう。

 特にセロ──ダークエルフと寝食を共にしているのは、アルゴニアン迫害の歴史上、

頭がおかしいとそしられるに違いない。

 それだけアルゴニアンの文化は閉鎖的で、相互理解はほぼ無いに等しい。

 よって、必然的に他種族への理解も薄い。デルキーサスもその例外ではなかった。カ

ジートであるジェイ・ザルゴの悲しみを真に理解することは出来ない。

 だからこそ、デルキーサスは何も言わずに話題をそらした。何かを考えれば、その分

ジェイ・ザルゴの寂しさもまぎれるだろうと。

203 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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「……しかし、ドヴァーキンたちは何をやっているんだろうな。もう十日も経つ」

「なに、学友ならよろしくやってるよ。きっと何か新しい玩具を見つけたんだ」

 ジェイ・ザルゴもデルキーサスも、もちろんセロも、ドヴァーキン達の帰りが遅いこ

とに関しては心配していなかった。

 スカイリムでそんなことはしょっちゅうあったからだ。むしろ十日だけなら散歩し

てるだけといって過言ではない。

吸血鬼

ラー

 長いときは一ヶ月以上家を空けるときもあり、そのときは新しい星霜の書と

拾ってきた。

 ドヴァーキンは英雄だ。定命の者の枠にとらわれない、ある意味で神々に近い定めら

れた英傑なのだ。

 ジェイ・ザルゴは彼と初対面したときを思い出す。

 その頃は、冷やかしで大学の門を叩いた。毛無し族の一人だと思っていた。

 ノルドたちは魔法の何たるかを一切理解していない。魔法も錬金術も一緒くたにし

て、からかう程度の知性しか無い種族なのだ。

 しかし、彼はそのころ既にジェイ・ザルゴの魔法的能力を凌駕しており、魔法に対し

ての造詣も深かった。

 何より、ノルドであるのに魔法に対して敬意を払っており、偉大な技術を我が物にせ

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んという素晴らしい向上心を知ったとき、ジェイ・ザルゴは彼を学友と認めた。

 それから大学で起きた騒動を通して、ジェイ・ザルゴは彼についていけばさらに大成

できると判断したのだ。

 ジェイ・ザルゴはドヴァーキンの全てを──いや、大体を信用している。

 たまにとっぴな行動や不可解な挙動をするのに目をつぶれば、彼はこの世界でも英雄

であり続けるだろう。

 それはデルキーサスもセロも同じはずだ。

 むしろ、今度はどんな馬鹿げた事態をひっさげてくるのか、楽しみですらある。

「やってるか」

 急に聞こえた渋い声に注意を向けると、開かれた天窓から顔だけをのぞかせるセロが

目に入った。珍しくキチンの兜を脱ぎ、切れ長の赤い目が闇に灯っている。

「やってるよ」

 ジェイ・ザルゴが喉を鳴らして返答する。

「ようやく終わったぞ、後片付け」

 セロの発言にデルキーサスが瞳孔を広げ、ジェイ・ザルゴより太い喉を疲れたように

鳴らす。

「ああ、ようやくか」

205 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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「ようやくだね」

 ジェイ・ザルゴとセロは悪戦苦闘した家の片づけを思い出す。

 問題は殆ど起こらなかったが、何より苦戦したのはその分量だった。

 ドヴァーキンが集めた武具、書物、薬品、錬金素材、生活用品、使途不明品、ゴミ。ち

なみに全部捨てずにとっておくよう、ドヴァーキンは彼等に口うるさく申し伝えてい

た。

 木の皿など、他の皿がたくさんあるのに何故わざわざとっておく必要があるのだろう

か。

 ジェイ・ザルゴ達が訝しんだのは言うまでもない。

 その分量の中でも、一番彼等が苦労したのは書物だ。嵩張る上に量が多く、同じ題名

の本も多くあった。

 それらを一冊一冊整理整頓しながら本棚に並べていく作業は、量が量なら楽しめるも

のだが、こと今回に関しては心を空にして無機質に体を動かさないとやっていられな

かった。

 アルケイナエウムの管理者、オークのウラッグが口うるさくなる理由も分かるという

ものだ。

 あれだけ苦労して整理したものを汚されては、確かに頭に来るものがある。

206

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 だが、ジェイ・ザルゴにとって最大にして唯一の問題はそこではなかった。一番の問

題は、結局本棚を一つどころか一角占領するほどに存在していた、オグマ・インフィニ

ウムだ。

 禍々しく知へと誘う禁断の書が散乱していた光景は、ジェイ・ザルゴの精神をひどく

削った。

 誘惑に負けず、発狂もしなかった自分を褒め称えたいところだ。

 ドヴァーキンがどうやってあれだけの量を手に入れたのか、はなはだ疑問である。

 あれはデイドラロードのハルメアス・モラが生み出したアーティファクトで、そうそ

う手に入れられるものではないはずだ。

 まさか、ハルメアス・モラからたかった訳でもあるまい──いや、ドヴァーキンなら

やりかねない、とジェイ・ザルゴは思い直す。

 改めて、定命の者の枠内に収まることの無い学友に舌を巻く思いだ。

 ジェイ・ザルゴが強敵を討ち滅ぼした感慨に浸っていると、セロがおもむろに天窓か

ら身を乗り出し、手に持っていたビンをジェイ・ザルゴとデルキーサスに見せ付ける。

「ということでだ──歌にもあるように、苦難の時は終わりを告げた」

 月夜をその身に移し、まるで星空を閉じ込めたように光るビンは、ブラック・ブライ

ア秘蔵の蜂蜜酒だ。

207 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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「──まあ、いいか。そうだな」

 警戒を切らすことに若干の不安を覚えたデルキーサスだったが、この十日間何一つ問

題は起こっていない。

 一日くらい問題ないだろう、とセロから酒瓶を受け取る。

 ジェイ・ザルゴといえば逡巡するそぶりも見せずに、酒瓶をセロからひったくった。

「そうだよ、どうせドヴァーキンたちも今頃楽しくやってるさ──ではでは、我々の健闘

をたたえて!」

 ジェイ・ザルゴの嬉々とした音頭と共に、三人は酒瓶をあおった。

  ◆

  当のドヴァーキンは全く楽しくなかった。

 喜怒楽は抜け落ち、哀だけが顔面に闊歩する悲惨な面持ちだった。

 今ドヴァーキン達は数人の兵士に囲まれ、国王謁見の間へ続く石畳の廊下を歩いてい

る。

 一歩一歩踏みしめるごとに、まるで足の裏に胃があるかのようにドヴァーキンの胃が

圧迫されていく。

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 傍らにはリディアとセラーナが付き従い、背後には手足を拘束されたアルドゥインの

檻が王国の兵士達に引かれていた。

 国王への聴聞にあたり、この数日あてがわれた王城の一室で頭がねじ切れるほど考え

をひねり出し、リディアやセラーナとも相談を行ったが──結局、相手の要求に素直に

従うしかない、という結論に達した。

 そもそも相手は国王だ。一介の貴族とは違い、国の最高権力者である。

 この時点で、ドヴァーキン達にしてみればほぼ詰みの状態に近い。

 交渉などもってのほかで、仮に交渉できたとして、最終的な着地点は理想とは程遠か

ろう。

 ドヴァーキンはリ・エスティーゼ王国の民ではないが、一国の王の要求ないし下命を

無碍にすることは到底出来ない。

 何よりドヴァーキン達にとって、王国は完全にアウェーだ。ドヴァーキン達の味方は

ほぼ居ないに等しい。ガゼフが国王にどうこう意見できる立場とは思えない。

 国王がわざわざ出張るほどの理由が分れば、そこを足がかりにつけ込むことも出来た

だろうが、それを知るのは不可能に近かった。

 火の柱が原因かとも思ったが、その可能性は低い。

 王都に来た際の扱いとしてはそこまで厳重な警戒を受けていた様子は無かったし、実

209 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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害も無く、報告上は収束した事件なのだから、ドヴァーキンたちは国王自身で聴聞を行

う意義がいまいち理解できなかった。

 ガゼフにもそれとなく聞いてはみたが、当然部外者にそこまで情報を渡せるはずも無

く、得られたのはガゼフの謝罪だけだった。

 そうして、ドヴァーキンは何の対策も心構えも出来ぬまま、こうして聴聞の日を迎え

ることになった。

 ドヴァーキンとしては最早なるようになれ、というやけっぱちの心境である。

 反面、どんな無茶を言い渡されるのかを想像すると、胃が縮こまって消えてなくなり

そうだった。

 先導する兵が歩みを止め、ドヴァーキン達もそれに倣う。

 派手ではないが重厚に装飾を施された扉が、彼らの前に聳え立つ。

 この扉の向こうが謁見の間だ。当然、引き返すことは出来ない。

 先頭の兵士が、手にした槍の石突を床に打ち付ける。石突が床を鳴らし、思いのほか

澄み渡るきれいな高音が鳴り響く。

 その動作は大げさで、一見すると大根役者の三流芝居のようなわざとらしさを感じさ

せるが、それはドヴァーキンがこの国の文化に慣れていないせいだろう。

 王国の儀礼としては様になっているのかもしれない。

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 響き渡る石突の音が周囲の石造りの目に染み渡った頃、それを計ったかのように目の

前の大扉が開かれた。

 仰々しく、或いはじれったく開いていく扉を前に、ドヴァーキンは目を閉じて深呼吸

する。

 ──ショール様、マーラ様、ディベラ様、キナレス様、アカトシュ様……とにかく神

様、お助けください──

 この台詞を放った人物の末路を鑑みるに、ドヴァーキン達の未来が明るくなるとは到

底思えないが、祈るだけならただである。

 少なくとも気休めにはなる。神妙な顔でドヴァーキンは祈りをあげた。

 震えるまぶたを落ち着かせるようにゆっくりと開くと、ドヴァーキンの目の前に大き

な空間が広がっていた。

 基本的には城内と同じ石造りの広間だったが、広さはどの部屋よりも段違いだ。

 突き抜ける天井は王の威光を天まで届かせんという気概を感じさせ、ブルーパレスな

ど目でもなく、ドラゴンズリーチよりも広い空間は採光された光で荘厳に照らされてい

る。

 所々に下がる垂れ幕や調度品は力強く権力を修飾しており、両脇に居並ぶ兵士達もそ

れに一役買っていた。

211 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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 スカイリムでは望めない程の大広間に一瞬感激したドヴァーキンだったが、すぐに思

い直し前方の人物に集中する。

 椅子が三つある。どれも煌びやかで重く威厳を放つ意匠だが、当然中央の物が一番立

派だった。傍らにはガゼフと、銀色の甲冑を身に着けた若い兵が控えている。もう一

人、蛇のように──まるでアルゴニアンの狡猾さを思わせる人物が控えていたが、あれ

も所謂側近であろうとドヴァーキンは解釈する。

 そして、他より数段小高く誂えられた台座に鎮座するその椅子には、リ・エスティー

ゼ国王──ランポッサ三世の姿があった。

 ドヴァーキンは勝手に国王のイメージを作り上げていた。ウルフリックのような獅

子を思わせる人物か、タイタス・ミード二世のように静かに威厳を発する姿を想像して

いたのだが、ランポッサ三世はそのどれにも似つかなかった。

 眼窩は落ち窪み、痩せこけた顔は華々しい装束を以ってしてもなお、どこか弱弱しさ

を感じさせる。

 ほつれて整いきれないほどに年季の入った白髪、老樹のようにひび割れた皺、健康的

でないその風貌はあまりに老齢過ぎると一見して察することが出来る。

 だが、落ち込んだ眼窩に輝く目、そして表情は凛々しかった。年を感じさせない圧倒

的な威圧感を放っている。

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 両脇の椅子の片方は空席であったが、もう片方は美しい女性が座していた。

 ドヴァーキンは数瞬目を奪われた。あまりにも美しすぎるその存在は、ドヴァーキン

を驚愕させた。

 光を湛える瞳は宝石でもはめ込んでいるかのようで、海よりも空よりも純然たる青で

満ちている。

 黄金を漉き取ったかとも思わせる長髪は、どの賛美もその美麗さを完全に称えること

は出来ないであろう。

 あれは月か、太陽か。人間と言うにはあまりに完成された美である。

 一瞬呆けたドヴァーキンだが、歩みを止めた王国の兵士を見とめ、すぐさま我に返る。

 周囲の兵士達が国王への最敬礼を始め、ドヴァーキン達も合わせて──正確に言えば

一瞬遅れたタイミングでぎこちなく敬礼した。

 ガゼフにみっちりと仕込まれたドヴァーキン達だったが、付け焼刃なりには一応、形

にはなっているはずである。その証拠に、ガゼフが少し安堵した表情を浮かべた。

「陛下。ドヴァーキン並びにその従者達、そしてアルドゥイン。ただいま御前に拝謁し

て御座います」

 先頭の兵士が国王に対し口上を述べ、跪く。

 ドヴァーキンもそれに応じて頭を垂れ、跪いた。

213 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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「うむ、ご苦労。下がってよい」

 ランポッサ三世が悠然と片手を振る。それは上位者としての貫禄を示す動作で、ド

ヴァーキンには到底真似する事は出来ないだろう。

 ランポッサ三世の動作に応え、兵士達は広間の両脇に移動し始める。

 ランポッサ三世の前に残されたのは、ドヴァーキンとリディアとセラーナ、折に束縛

されたアルドゥインだけだ。

「さて、ドヴァーキンとやら。今回の件、まことに大儀であった。また、聴聞の場に足を

運んでもらえたことに謝辞を述べると共に、長らく待たせてしまい申し訳無く思う」

 なるほど、国王として十分の威厳に満ち溢れた声であり、人としても好感の持てる人

物だ。ドヴァーキンは嘆息した。

 恐らく王として優秀な彼に、駆け引きなどほぼ望むことは出来ないだろう。老齢で世

代を明け渡す時期に差し掛かりながらも、王位に付いている事がその証左だ。

「貴君が王国に果たしてくれた功績は余りあるものがある。後ほど心ばかりだが褒美を

とらせよう」

 ドヴァーキンは悟られないように鼻で笑った。それと同時に諦観してさえもいた。

 大抵、こちらに有用な話──特に鼻先に確実に食えそうな人参をぶら下げる手口は、

代わりに追いかけるための足をもぐ前兆だ。

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「……畏くも陛下よりそのような言葉を頂戴つかまつる事は、このドヴァーキン、至福の

極みにございます。心より御礼──」

「よい。貴君が異国の者であることは、我が戦士長より報告を受けておる。そう畏まら

ずとも、ここでは揚げ足を取る者はいない」

「……ありがとうございます」

「さて、まずは、だ。ドヴァーキン、貴君らは何処よりこの地へ赴いた?」

「……陛下、お許しください。我々の出自を明言することは出来ません」

「……ほう、何故か」

「我々の来歴は非常に特殊で──デリケートな問題を孕んでおります……陛下といえ

ど、いえ陛下だからこそ、お話することは憚られます。ただし、王国とその民に危害を

加えることは一切無いと誓いましょう。我々の目的はこのアルドゥイン、それだけで

す」

 ドヴァーキンのその言葉は実にあやふやで、的を射ない回答だった。

 しかし、ドヴァーキンはリ・エスティーゼ王国が、帝国なる国家と戦争状態であるこ

とを理解していた。ガゼフと出会った村の惨状、そして証言からそれは根の深い微妙な

問題であることはそれとなく察知している。

 それを念頭に置き、先程のドヴァーキンの発言は更なる厄介ごとを匂わせれば、追及

215 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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を免れられるのではないかと考えてのものだった。

「Skyrim」

ゲー

スカイリム

 半分賭けに近い思考だが、

のことも

のことも一切明け渡さ

ないようにするには、この方法が最善だった。

「……」

 ランポッサ三世の目が鋭くなる。疑われているのか、それとも何かしら思うところが

あるのか、深い皺をよりいっそう深くさせドヴァーキンを見据えていた。

 しばらく沈黙の続いた両者だが、ランポッサ三世のため息でそれは途切れる。

「わかった。貴君らにも事情があり、我々にも事情がある。我も詮索はやめておこう」

 ドヴァーキンは賭けに勝った。一つの懸念が消え、喜びの感情が戻りつつある。

 だがそれも刹那の夢で、ドヴァーキンは自身に刺さる一つの──不気味な視線に気づ

いた。

 見透かされているような気がしたのだ。

 ドヴァーキンを射さすそれは、麗しく美しい、或いはだからこそ空恐ろしく空虚な青

い瞳だ。

 その目は相変わらず綺麗なものだったが、その綺麗さがはるか高みからドヴァーキン

を見下ろしているような感覚を覚えさせる。

 瞳の奥からその考えを読み解くことは出来ない。あれは本当に宝石ではなかろうか、

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とドヴァーキンが内心焦りながら苦笑したとき、ランポッサ三世からの問いが響いた。

「して、それが件のアルドゥインか」

 ランポッサ三世がドヴァーキンから視線を逸らし、アルドゥインの檻を見つめる。

 それと同時に、ドヴァーキンを燻らせる双眸の光もまた、アルドゥインへ移った。

「はい」

「仮面を外しても問題は無いか?」

「はい。私の声で行動を制限しております──リディア」

 ドヴァーキンがリディアに呼びかけると、リディアが恭しくうなづきアルドゥインの

横に回る。そのまま格子の間から手を入れ、ゆっくりとアルドゥインの仮面を取り払っ

た。

 仮面の下から現れたのは、やはり本来のアルドゥインとは似ても似つかぬ年端も行か

ない少女の顔だ。

 その目は牙を持ったようにランポッサ三世に噛み付いており、ドヴァーキン達のよう

にアルドゥインが傅くことは無かった。

「──驚いた。子供ではないか」

 ランポッサ三世の声色に動揺が見て取れた。周囲の兵士からも小さなざわめきが起

こり、ガゼフも目を白黒させている。

217 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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 ただ一人──いや、二人、蛇のような男と太陽の姫君は微動だにせず、まっすぐとア

ルドゥインを見据えていた。

「見た目は子供ですが、これは偽りの器。本来のアルドゥインでは御座いません。今は

この器にアルドゥインを封じ込めております」

「報告には大地を揺るがす怒声と共に、天を突く猛火の柱が起こったと聞く。ドヴァー

キンよ、疑うようですまぬが、本当に彼女がそれを成し得るほどの力を有しているのか

?」

 ドヴァーキンは逡巡した。シャウトを知らない側からすればもっともだろう。

 シャウトへの理解を間違いなく得られる方法は、体感してもらう他無い。「Skyr

im」でも自分がドラゴンボーンか疑われることはあったし、その度にシャウトこそが

己の証明となってきた。

「……言葉での説明は少し困難です。実際にお見せしましょう」

 ここはシャウトをドヴァーキンが選び、アルドゥインに実演してもらうのが早いだろ

う。

 まさか、ただのプレゼンテーションで首をはねられることはあるまい。

「危険は無いのか?」

 ガゼフが横槍を入れる。彼はこの中で唯一シャウトを受けている。その上、国王の眼

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前であるのだから当然の心配だろう。

「問題ないものをお見せします、戦士長。少しばかり、失礼を働くかもしれませんが」

 ドヴァーキンはランポッサ三世の顔色を伺いたてるが、ランポッサ三世は抑揚のある

動作で先を促す。

「構わぬ。戦士長の認めたこの男が、この場で狼藉を働くことはなかろう」

「ありがとうございます──では」

 ドヴァーキンが立ち上がり、アルドゥインに向き直る。

オブリビオン

 改めてアルドゥインを見れば、燦々と燃え爛れる

のような目に変わりは

無く、眉間には地割れのごとく皺を寄せ、ドヴァーキンを目で射殺さんとばかりにねめ

つけている。

 しかし、その様はどこか違和感を覚えさせた。

 ドヴァーキンはそれを具体的に捉えることは出来なかったが、転移当初よりアルドゥ

インの小さい体がより一層縮こまったように見え、放つ覇気は根元が変わらずともどこ

か萎れた雰囲気をかもし出している。

 ドヴァーキンはそれを錯覚として思い直す。今やるべきは思案ではなく、実践であ

る。

「アルドゥイン、揺ぎ無き力の第一音節のみ発言を許す」

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 ドヴァーキンがそういうや否や、アルドゥインが小さな息継ぎを行った。

 次の瞬間に放たれた言葉は、その息継ぎとアルドゥインの小柄さからは到底結びつか

ぬ力の波動だった。

「Fus!」

 鋭く耳を聾するアルドゥインの叫びが、力たる力としての意味を纏い、ランポッサ三

世を襲った。

 風が吹き荒ぶでもなく、水がうねり狂うわけでもなく、ただ純粋に力として具現化し

た衝撃は、ランポッサ三世を巻き込んで眩ませる。

 狼藉とも取れる行為に剣を抜きかけた兵もいたが、アルドゥインの声量に押し負け、

耳を塞いだ。

 力の奔流が謁見の間を駆け抜ける。

 それは束の間の出来事であり、星が瞬いて消えるような短さだった。しかし、初めて

シャウトを認識した彼らにとっては長大な異質の体験だった。

 謁見の間には残響と小さな地鳴りだけが残り、沈黙が訪れる。

 一切の音を取り去った静寂はしばらく続き、その場にいた者達の耳がようやく音を取

り戻したとき、彼らは逆に違和感を覚えた。

「失礼をお許しください、国王陛下」

220

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 ドヴァーキンが仰々しく頭を垂れる。

 流石と言うべきか、ランポッサ三世とドヴァーキンの間には抜刀したガゼフが陣取っ

ていたが、後方に見える当人は驚嘆に眼を開きながらも当惑している様子は無かった。

「しかし、十分にお分かり頂けたでしょう。これがアルドゥインの力の一端です」

「うむ──よく、分かった。戦士長、もうよい。我が身に大事は無い」

 ランポッサ三世はそれに礼の言葉を続け、ガゼフに控えるよう命じた。

 それを受けたガゼフは警戒しながらも剣を収める。

「この声の力は、ドヴァーキン──貴君もまた、使うことが出来るのだな」

「はい、アルドゥインと私のみ有する力です」

「聞いたことも無い言葉の響きであった。言葉自体が、力を持つのか? 魔法のような

ものか?」

「魔法と同一視されることもございますが……端的に言えばある種の呪詛、と申しま

しょうか。言葉そのものにも力は内在しておりますが、言葉のみでは力を発揮すること

は出来ません。常人が行使するには非常に長く苦しい修練を積む必要があります。し

かし、体得することが出来れば、言葉の表せる概念は遍く森羅万象の悉くを操ることが

出来るでしょう」

「なるほど。だがアルドゥインは勿論、貴君もそこまで年齢を重ねていないように見え

221 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

Page 228: Thur Se Dov そぽかょめゐそ~ Skyrim×Overlord¼ˆSkyrim×Overlord) 三号 きポ仮初タ世界ドタヒホェヤジわィー くきDRPG化ゼベボ美ヵィビ厳ヵわくあヷまぴ地方ゼ魅了ォポケろボ青年ダぎ寝食ビ忘ポボくきグタ中ジぞょつまょぇこヷぜみタ五作目しSkyrimじー念願タまふヷうャ果ケォ

るが」

「私とアルドゥインは特別なのです、陛下。我々の故郷では、そういった神の祝福を受け

た存在が稀に現れます」

「アルドゥインも、その祝福を受けていると?」

「正確に言えば、祝福された血脈でございます。それが必ずしも善き者に受け継がれる

保証が無いのです」

「──ふむ。あれだけの力を持つのなら、伝承や噂になってもおかしくは無いが──そ

う言った話は聞いたことが無いな」

「……我々は、この力を今まで秘術として守り続けてきました。誰にも悟られず、求める

ものが現れないように」

「なるほど……それでは、我がこれ以上の仔細を問うても時間の無駄であるか」

「ご賢察、恐縮の極みでございます」

 ランポッサ三世が小さく息を吐くと共に、背もたれに身を預けた。

 今までに交わされた問答は、無論ドヴァーキンのカバーストーリーだ。

 出来る限り「Skyrim」の情報を明らかにせず、さもあり得る話のようにでっち

上げたものである。ほぼほぼ真実で構成されてはいるが、肝心な所はぼかして捻じ曲げ

ている。

222

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 本当の事を知る物にとっては稚拙なほら話だが、知らないものにとってはある程度、

真実味を帯びた筋書きになっているだろう。だろう、と言うより、そうであってほしい

と願い半分でドヴァーキンは考えていた。

 当然細かい質問でえぐられ続ければ、泥で固めたそれはあっけなく中身を見破られる

ことだろう。

 しかし、それが露呈しない可能性だってある。

 火の柱騒ぎは既に収束しており、ガゼフと出会った村で、王国は帝国なる国家と戦争、

或いは小競り合いの状態にあることは判明している。

 村々が焼き払われると言う実害も出ている以上、国策としてドヴァーキンたちよりも

そちらを重要視すべきだし、国の頂点たる王なら尚更その思考に至るだろう。

 かと言って一度アルドゥインの存在が発覚した以上、この問題をおざなりにはできな

い。

 その為、ドヴァーキン達の来歴よりは極悪人アルドゥインの方が優先される可能性は

高い。

 ひとまず、今のところはドヴァーキンの想定から大きく外れてはいない。

 次にランポッサ三世から発せられる言葉が、今後の受け答えの方針を決めていくだろ

う。

223 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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 ドヴァーキンは今一度頭の中を整理し、ランポッサ三世からの言葉を待った。

  ◆

  この時期は例年、バハルス帝国との小競り合い──カッツェ平原での戦争が起こる。

 王国にとっては微妙な時期だ。

 そんな大事な時期に、折り重なってランポッサ三世の頭を痛める事態が連続した。

 まずは、帝国の兵士に偽装したスレイン法国の工作。そして、エ・ランテル近辺で起

こった火の柱。

 スレイン法国の秘密部隊の件は、少数にしか知らしめていない。それに、そちらの件

魔法詠唱者

マジックキャスター

はアインズ・ウール・ゴウンという謎の

のおかげでひとまずの難は去った。

危うく戦士長を失うところであったが。

 今後のことを考えると頭痛の種に変わりは無い。向こうが行動を起こした以上、襲撃

や工作が一度で終わりとは考えにくい。しかし、さしあたり早急に問題が噴出すること

は無いだろう。スレイン法国の最終的な狙いは分らないが、初動をしくじったとなれば

計画を練り直すのが定石だ。

 目下、問題になる火種は火の柱の方である。

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 実害が出ていない上に収束した事件ではあるが、真に収束したとはいえない。こちら

の処理を間違えば反対派の助長を促し、王派閥を脅かすだろう。

 元々この聴聞も、王派閥の貴族達が行う予定でいた。

 しかし、何処から察知してきたのか貴族派閥の者も介入を望んできた。理由は容易に

想像できる。王派閥のみでこの件を処理して欲しくないからだ。

 あわよくば虚偽の内容をでっち上げ、事件を脚色して王家の失脚まで目論むかもしれ

ない。

 それだけ、この国の政治は率直に言って腐っている。

 故に、ランポッサ三世がとりなし、直轄地であることを理由に今回の席を設けた。そ

れを何処から知ったのか、第三王女のラナーが社会勉強と称して強引に同席してしまっ

たのだが。

 娘に血なまぐさい話を聞かせる気の無かったランポッサ三世だったが、結局は娘の

駄々に根負けしてしまった。

 そう、血なまぐさい話になる。ランポッサ三世は、細めた目を眼前で頭をたれる男に

改めて向ける。

 身辺調査の結果は芳しくなく、そもそも時間も人手も足りなかった。この男達に関し

ては、何から何まで発言から全てを推測するほか無い。

225 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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 聞きなれない名前、言葉それ自体が力を持つ秘術、明らかにされない詳細。

 ──我々の来歴は非常に特殊で──デリケートな問題を孕んでおります……陛下と

いえど、いえ陛下だからこそ、お話することは憚られます。

 王国の関与を完全に避けてほしい口ぶりだった。

 逆に警告と捉えてもいいだろう。これ以上の深入りをさせず、形だけの完了を望む提

案とも取れる。

 ランポッサ三世としても、重要なのはそこではなかった。いらぬ詮索をして、仮に王

国に飛び火するようなことがあれば、それは失策である。

 それに、あの危険な秘術を明るみに出すことは、ランポッサ三世としても望ましくな

い。

 ドヴァーキンの声の力に関しては、ランポッサ三世は眉唾物として聞いていた。戦士

長からの報告然り、王都でのちょっとした騒ぎも然り。

 しかし、先程その片鱗に触れて全てを悟った。あれには底知れぬ力がある。生き物が

本来持つべきでない凄まじい力を感じる。

 魂に響き、体が言葉の意味を解さずともそれ通りに動く──そんな力が言葉自体に内

在するのなら、きっと意のままに世界を操ることが出来るだろう。対応する言葉があれ

ば何でも出来ると予測して間違いでもあるまい。

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 その秘術が仮に貴族達──それどころか世界に拡散すれば、世界は混迷を極める。こ

こは大人しくドヴァーキンの警告を聞き、これを世界から閉ざすべきだ。

 その上、ドヴァーキンは曲がりなりにも王国に対して貢献してくれた人物だ。

 焼け落ちた村から生存者を救護し、アルドゥインの脅威を未然としてくれた。

 その恩がある以上、ここで目をつぶっても罰は当たらないだろう。

 ランポッサ三世は、彼らの来歴を追及する必要は無いと断定した。

 であれば、ここからはいよいよ血なまぐさい話になる。ランポッサ三世は隣に座るラ

ナーを気にかけながらも、口を開いた。

「ドヴァーキンよ。アルドゥインの身柄を引き渡してもらうことは可能か」

「引き渡す、と申しますと……?」

 ドヴァーキンが訝しげな声色でランポッサ三世に問いかける。

「そのままその通りの意味だ」

「……理由をお聞きしても構わないでしょうか」

「アルドゥインは──処刑せねばならぬ」

 再度、場は静寂に浸かった。ドヴァーキンが鞭に打たれた馬のように上半身を躍り上

げ、かと思えば短く息を飲み、口を閉ざしてしまったのだ。

 ランポッサ三世は疑問に思った。

227 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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 アルドゥインは大悪である。であれば、ドヴァーキン達が暫定的な封印を施している

とはいえ最終的に処断する事に変わりは無いだろう。

 だと言うのに、目の前のドヴァーキンは動揺に支配されているように見えた。混ざり

気の無い青い瞳は、まぎれもなく打ち震えている。

「どうした、ドヴァーキン。我の言に如何な疑問がある」

「……い、いえ……失礼致しました──陛下、アルドゥインの処刑は難しいかと思われま

す」

「……それは異なことを言う。何故か」

「はい。アルドゥインは不死の存在です。魂を滅ぼせることはできません。いずれ、必

ず蘇ります。処刑するだけ無駄でございましょう」

 ランポッサ三世は顔を顰めた。さもありなん。唐突に随分と突飛な話をされたのだ

から。

「アルドゥインは不死の種族です。一度肉体的な死を迎えようと、その魂は必ずや蘇り、

世界へ災厄を撒き散らすことでしょう。アルドゥインはこのまま、私が封印したままに

しておくのが最善でございます」

「ドヴァーキンよ、それに簡単には頷けぬ。その言を信ずるに値する根拠が無い。それ

に、我──いや、王国としてアルドゥインをそのままにしておく事は選択肢として存在

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しない。これだけは譲れぬ」

 その通り、ランポッサ三世はアルドゥインをこのまま返還する気は無かった。

 王国における勢力の均衡を崩さぬためだ。

 アルドゥインを処刑しなかった場合の末路は、想像に難くない。

 貴族達はそれを王の失態とし、鬼の首を取ったように王派閥の力を削ぎに来るだろ

う。

 直轄地の問題をおざなりにした、故も知らぬ男の痴れ言に惑わされて悪逆の徒を野に

放った──アルドゥインを見逃した場合、さらす隙があまりにも多く、危険すぎる。

 聴聞自体も貴族達を介入させず、強引な手段をとったのだ。この件において、既に貴

族達からの反感は高まりつつある。

 それはレェブン候を同席することで相殺の見込みは立っているが、未だ薪をくべられ

ていることに変わりはない。

 その状況で貴族達に付け入る隙を与えては、上がるはずのない炎を生むことになる。

 帝国との会戦を控えたこの時期に、均衡を崩すことは避けなければならない。

 よって、ランポッサ三世にはアルドゥインを処刑する道以外無いのだ。

 ドヴァーキンから言葉が発せられることは無かった。恐らく言葉を組み立てている

のであろうが、その思考の遅さは致命的である。

229 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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 沈黙は言論において禁忌に他ならない。この男は交渉ごとや隠し事が恐らく下手な

のだろう、とランポッサ三世は見なした。

王・

国・

と・

し・

て・

「ドヴァーキンよ。仮に蘇りが真であっても、

アルドゥインを処刑すること

は揺ぎ無い。復活しようが復活しまいが、それは考慮に値しない。魂が死なぬとはい

え、肉体を殺すことは可能なのだろう? アルドゥインの処刑、という事実が必要なの

だ。仮にも邪悪かつ大いなる悪辣が我が王国を脅かしたと言うのに、それを王自身が裁

かぬとあれば、我が身の如何を問われよう」

 ランポッサ三世はドヴァーキンへ畳み込んだ。彼の言葉はドヴァーキンやアルドゥ

インのように力を持たない。しかし、三十余年もの間貴族達と闘争してきた王の口は伊

達ではない。

 相手が黙すると言うのなら、それは屈服の合図になる。そうなってしまえば後は脳が

号令をかけ、口が相手を貫き、言葉は心の臓を抉るだけだ。

 相変わらずドヴァーキンは押し黙り、表情を窺い知る事は出来ない。

 ここでドヴァーキンに事の真偽を問うのは簡単だ。

 だが、彼は焼け落ちた村で王国の民を救助してくれた。また、アルドゥインを押さえ、

王国への被害を未然に防いでくれた。

 王国はドヴァーキンに恩義がある。しかし、その恩はドヴァーキン達の事情を詮索し

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ない事で報いたつもりだ。

 何らかの事情があることはランポッサ三世は察していたし、半ばドヴァーキンの言を

信頼もしていた。

 人知を超えた力を持つ者だ。あるいはもしかすると、という可能性もある。

 事実、伝承の中とは言え不死の存在は歴史上観測されてきた実績もある。

 だが、それとこれとは話が別だ。

 ランポッサ三世は王国を、王国の民を愛している。

 これ以上治世を不安定にしない為にも、彼の立場から譲歩することは出来なかった。

 有り体に言えば、ランポッサ三世は焦っていたと言えるだろう。

「……わかり、ました。アルドゥインはお預けします」

 出がらしを搾り出したように、薄くか細い声をドヴァーキンがひり出す。

 ランポッサ三世は安堵の息をつく。

 これでいい。ドヴァーキンが──例えば反論や否定的な意見を繰り返すようであれ

ば、少し姑息で強行的な手段に出る他無かった。

 とりあえず、穏便に済んだことをランポッサ三世は歓迎した。

「ただ──執行の日は私も立ち合わせて頂きたく、何卒お願い申し上げます」

 それくらいなら良いだろう、とランポッサ三世は判断する。それにもし、不測の事態

231 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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が起こった際、王国の兵士では対応できない可能性もある。

 ドヴァーキンの申し出は、王国にとって益しかない。

「よかろう、ドヴァーキン。恐らく貴君にも使命があるのだろうが、飲み込んでもらえて

貴君には重ねて感謝する。日取りと詳細は追って知らせよう。それまでは、王城に滞在

してもらって構わぬ」

「……ありがとうございます」

「うむ──それでは、下がってよい。後の処理は我らに任せ、貴君らは休息を取りたま

え」

 ランポッサ三世はドヴァーキン達を引き連れてきた兵士達に合図し、退室させるよう

に促す。

 彼らは恭しく一礼するとドヴァーキン達の周囲に控え、退室の口上を述べた。

 ふと、ランポッサ三世はドヴァーキンの後方に意識を向ける。

 かっちりと噛み合った堅牢な檻の中に、少女がうずくまっている。

 声の力を見せ付けたときの雰囲気は鳴りを潜め、小さな体を抱きかかえるようにし

て、紅に輝く目を臥せっていた。

 ──このような少女を、政争の道具として処断せねばならぬとは。

 ランポッサ三世は脳裏に浮かんだその考えをすぐさま打ち払う。

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 たとえ外見が少女であっても、本質は大悪に変わらぬ。見た目に惑わされ、情に絆さ

れるのは一時の迷いでしかない。

 ──だが、それでも。

 もう一度、ランポッサ三世はアルドゥインの小奇麗な顔を見つめる。

 長く艶のある黒髪に、人形のように精巧に整えられた顔立ち。

 朱に染まる大きな瞳。

 瞳と同じく鮮やかな色合いの小さな紅唇。

 華奢でひ弱な印象を抱かせる細身の体躯。

 どれだけその建前を念頭に置こうと、彼にはどうしても、目の前の檻にいるそれが太

平を貶める大悪党ではなく、不安に怯えるただの少女に見えて仕方が無かった。

233 Dovahkiin Ahrk Alduin─3

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Dovahkiin Ahrk Alduin─4

    アウラは、彼らの警戒心の無さに心底呆れ返った。そして同時に感謝した。

 潜入の機会を探っていた最中、勝手に夜中に酒盛りを始め、獣人たちは酔いつぶれて

寝てしまった。これはまさに絶好の機会と言える。この機を逃す手は無い。

 アウラは腰掛けていた枝から飛び降り、迅速に、しかし隠密に行動を開始する。まず

は、周辺の確認だ。警報等のトラップを仕掛けている可能性もある。

 草を掻き分け、闇に溶けながらアウラは自身の知覚を総動員する。彼女が持つ生来の

感覚とレンジャーのスキルが合わされば、大抵の罠を見破ることが出来る。

 案の定、幾つか罠が仕掛けてあった。小動物を生け捕りにする為の物から、簡易的な

ブービートラップまで。しかし、その中に見慣れないものがあることにアウラは気づい

た。

 赤い光を仄かに放つ、幾何学的な魔方陣だ。ちょうど人の足がすっぽり納まる大きさ

のそれは、聞き知れない魔力を帯びている。魔方陣を踏むことで作動するのだろう、と

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アウラは直感するが、同時に違和感を感じた。

魔法詠唱者

マジックキャスター

であれば確と分かるのであろうが、残念ながら彼女の魔法的な知識は薄い。

無くはないが、広く深くは無い程度だ。よって、若干の違和感をアウラは判別できず、今

は関係の無い考えだと棄却した。

 魔方陣から意識を外し、再度周囲に集中する。トラップは至る所というわけでもな

く、無いよりはましであろう数しか無い。配置も不規則で、それが絶妙なバランスなら

ば良いのだが、完全に素人の適当仕事である。これでは、知の無い獣がかかるかも危う

いだろう。

 杜撰にばら撒かれた罠──ゴミと言っても差し支えないそれらは、掻い潜るまでも無

い。無用心に歩みを進めるだけで、用心になるとさえ言える。

 それだけ、ここの家主は自信があるのだろうか。アウラはこの有様にして逆に用心を

もたげるが、しかし、その力もどうせ至高の御方に遠く及ぶべくも無いと思い直す。そ

して、その絶対的力を持ってしても警戒を怠らない智慧に、心から畏敬の念を抱いた。

 そうして、思いを馳せる余裕を保てるほどに、アウラは難なく家屋の壁までたどり着

く。

 その時だった。

 離れていた距離では気づかなかったが、外壁に張り付いた途端、微弱ながらも確かな

235 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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怖気がアウラを襲ったのだ。アウラは咄嗟に周囲を確認するが、何も見当たらない。恐

らく、家の中から伝わるように発散されているのだろう。

 ──何かある。

 平凡な家屋には不釣合いの禍々しさだ。彼女が感じるそれは表現し難いが、敢えて言

うなら忌避感が近い。微弱なものではあるが、生理的な嫌悪感をかもし出し、圧倒的な

拒否感を脳が訴えてくる。とにかく、アウラが今まで感じたことの無い気配だった。

 鳥肌が立つのはいつぶりだろう──アウラは冷ややかに自嘲する。あの獣人たちは

よくもこの場で酒盛りできたものだ。

 数瞬戸惑いに身を預けたアウラだが、すぐに意を決して正面の戸口へ向かう。

 これは紛う事無き異常事態であり、確認して報告すべき事柄だ。見過ごすことは出来

ないし、ともすればシャルティアの任務かもしれないが、正体とまではいかずとも概要

の確認はすべきだろう。

 玄関もまた平凡で、特徴の無い木製の造りである。だが、その隙間から放たれる雰囲

気は、到底一般建築物の様相でない。例えば悪魔の居城と形容してさえ、陳腐に感じて

しまう。

 アウラは一応聞き耳を立て、扉の隙間や鍵穴を調べてみる。しかしというかやはりと

いうか、ここにも罠らしい罠はない。

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 彼女は短く息を止め、静かにドアノブに手をかける。そして、音を立てないよう注意

してドアノブを捻り、扉を開いた。

 果たして彼女が開いた扉は、やはり伏魔殿などに類する地獄の門だったのだろうか。

扉を開いた瞬間、どすの利いた雰囲気が強くなる。外部ではまだ微弱だったそれは、内

部に踏み入ることでよりはっきりと感ぜられた。外では霧散する気体だったものが、粘

性の液体に変質して彼女の肺を一杯にする。

 アウラははっきりと嘔吐感を感じた。胃袋が裏返り、喉を閉じても胸を突き破って吐

しゃ物が溢れそうだ。

 曲がりなりにも、いや、曲がりなど無く彼女はナザリック地下大墳墓の階層守護者だ。

至高の四十一人より生み出だされ、栄光あるアインズ・ウール・ゴウンの名誉を戴く英

傑である。雑然雑多に蔓延る惰弱な雑兵などとは格が違う。

 その彼女にここまでの怖気を感じさせる存在など、一体如何なるものであるか。

 数日前に見た、弟の狼狽振りがアウラの脳裏によぎる。マーレも、これと似た不穏に

当・

た・

り・

外・

れ・

く・

じ・

さらされたのだろうか。ならば、

であることに喜ぶべきか、

に嘆息すべ

きか。

 どの道、この正体を確認しなくてはならないだろう。ドヴァーキンやアルドゥインに

関係が有ろうと無かろうと、守護者にここまでの感覚を与える存在など、厄介事である。

237 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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実態を突き止め、主人に報告すべき事案だ。

 アウラは、この家に住む者達の正気をいよいよ疑った。何を好き好んで、このような

おぞましさと暮らしているのか。気配自体に気づかないわけではあるまい。

 数歩、纏わりつく空気をかきわけて、歩みと共に恐怖を嚥下しながら歩く。

 内部は明かりが落とされ、蝋燭の孤独な光が点在するばかりだ。彼女の目は暗闇で制

限されないので、問題は無い。

 とりあえずは、動く者や不審な物は見当たらなかった。悪鬼羅刹が跳梁跋扈し、鮮血

が霏々と炎に降り注ぐ事も無い。ただただ、穏やかな宵闇が停滞の中で沈黙している。

 安堵していいものか、逆に危惧すべきか。ひとまず、アウラの潜入は成功した。

 どうやら玄関の先は大広間のようで、奥には二階に続く階段が見える。大広間への戸

口の傍らには、更なる暗闇を覗かせる下り階段が、深淵の穴のように開いていた。そこ

からは、更に濃い瘴気が立ち込めている。

 選択肢は無い。大広間を通るのは避けたいし、何より邪気が漏れ出てるのは下り階段

だ。

 嫌な空気に、地下。気の滅入りそうなアウラだったが、意を決して暗い穴へと翻った。

冷たい石の段に手を伸ばして確認する。欠け、割れ、古く見える階段だが、造りはしっ

かりしているようだ。同時に石壁も確認し、怪しい所が無いと分かった。

238

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 そして、アウラは下に続く暗闇に目を向ける。

 紛うことなき漆黒が一面に広がっていた。気が遠くなる程に闇が地下へと食い込ん

でおり、深みへと収束している。黒よりも黒い本物の闇は、そのせいで逆にわざとらし

くも見えた。

 張り付く暗闇をはがせば、得体の知れない何かが確実に犇いている。得体を知るには

この暗闇をはがすしかない。

 しかし、手を伸ばしたら自分はどうなってしまうのだろうか。アウラは逡巡する。ど

れだけ手を伸ばそうと、この暗闇はそれを飲み込んでしまうかもしれない。身を沈めれ

ば、魂さえこの闇に溶けてしまうかもしれない。

 ──そんなわけがない。どうしたアウラ。

 臆病になる自分を無理にでも奮起し、アウラは石段を踏みしめた。

 ──ほら、何も起こらない。大丈夫だ。

 片足を出し、また一段降りる。異形がアウラを引き裂くことも無ければ、闇が彼女の

足を引きずることも無い。

 アウラは、何となくこの忌避間の原因を理解し始めていた。それは未知。知らぬもの

への恐怖、既知を侵すが故のどうしようもない拒絶。

 普通ならばそれは好奇心に取って代わるものだが、きっとこの先に待つものは普通で

239 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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ない。だからこそ恐怖心が勝り、煽られる。

 どうしようもなく弱気な自分を自嘲しながら、次いでアウラは二段目に足伸ばす。

 そんな調子で、ゆっくりとだがしっかりとアウラは階段を下り始めた。

 固い石段は、アウラの靴に鳴らされると渇いた音を鳴らす。その反響を啜って、闇は

殊更に大きくなっていった。

 無味な反復のせいで、ずっと暗いじっとりとした階段は、長さの感覚をアウラから剥

奪する。

 そうして幾程かも分らぬまま階段を踏みしめ、アウラは遂に地下の石畳を見とめた。

 しかし、彼女はそこではたと立ち止まってしまう。とてつもない暗闇をひびで割く石

畳は、暗黒であつらえたかと見紛うほどに瘴気を色濃く孕んでいる。石目の一筋一筋

に、恐怖が形となって染み込んでいるかのようだ。

 アウラの動悸は激しくなり、心が命の警鐘を鳴らす。冷や汗で張り付いた衣服がうっ

とおしく感じるが、それを抑制するほどに吐き気が沸き立っている。

「逃げてたまるか。ここまで来たんだ」

 無意識にアウラはつぶやく。彼女の階層守護者としての自負心が、屈服することを許

さない。彼女は今、未知の脅威を至高の御方の前に暴かんとする尖兵だ。

 自身に喝を入れ、重い膝を揺り動かす。ようやくの思いで、彼女は石段を降りきった。

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 その時だった。燃え盛る二つの光が、闇を燦々と切り裂いて彼女を射止めた。

「っ!」

 紅に染まる苛烈な視線に、彼女は吃驚して危うく声を漏らしそうになるが、反射的に

歯を噛み締めることでそれを食い止めた。

 漆黒に在るにも関わらず、はっきりと黒く浮かぶ鎧のような甲殻。鋭く生え揃った

牙、そしてアウラを射して離さない、業火の双眸。

 あれは間違いなく、何某かの化け物だ──アウラは臨戦態勢をとるが、しかし直後に

拍子抜けた。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花。アウラは、その双眸が生気の無いただの意匠であること

に気づいた。よく見れば中央に直線の亀裂があり、端には蝶番がある。気づいてしまえ

ば、それは悪趣味なただの扉だった。

 ──驚かしてくれちゃって。

 家主の感性を疑いながら、アウラは苦虫を噛み潰す。ナザリックにも似たような意匠

はそこかしこにあるが、あそこまで底冷えする異様なものは存在しない。

 地が固まったわけではないが、アウラの緊張の糸は少し緩んだ。それと同時に、幾ば

くか余裕が生まれる。アウラは周囲の確認を始めた。

 特徴の無い石目の廊下は少し狭く、幾つかの部屋に続いている。いずれも雰囲気に似

241 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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つかわしくない、錆びれた鉄製の扉だ。不思議なことに光源を作る道具は見当たらず、

そのせいでここまでの暗闇が生じているのだろう。

 通路の奥には先ほどの悪趣味な扉があるが、件の邪悪な気配は、あの扉の向こうから

感ぜられない。雰囲気的にはそちらから漂うべきなのだろうが、邪気は彼女の左手にあ

る平凡な鉄扉から漂っている。

 アウラは直後、引き返すべきではないかと思い至った。思考の坩堝がほぐれ、緊張か

ら解放された空白に一抹の記憶が流れ込む。

 ──我らナザリックに匹敵する、何がしかの〈力〉を認めたときには──絶対に関わ

らずすぐに戻ってきなさい。

 ──逃げろと? 情報を集めずに?

 ──そうね、逃げなさい。無様でもいいから、とにかく逃げなさい。これはアインズ

様からの厳命よ。いいわね、必ず関わらないこと。もし〈力〉を認めた場合、出来うる

限り記憶にとどめて報告して頂戴。

 傍で聞いたアウラにも、シャルティアが憮然とした理由に察しはついた。ナザリック

の階層守護者に尻尾を巻いて逃げろと言うのだ。不服に思わぬはずが無い。

 だが今、アルベドの真意が分った。彼女は知恵者である。派手に動けないナザリック

だが、この世界の情報は少ない。たとえ守護者の戦慄する〈力〉の正体が知れずとも、そ

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ういったものがあることだけ分ればよいのだ。

 この怖気の正体が何なのか、確かめたい気持ちは依然としてアウラにある。恐らくだ

が、それを突き止め、もしドヴァーキンやアルドゥインにつながれば彼女は叙勲される

かもしれない。敬愛するアインズ・ウール・ゴウンより名誉を賜ることが出来るのだ。

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは欲しい。敬愛する御方のお褒めに預かり

たい。それは所詮、アウラだけの思いだ。ナザリックの益になることは何一つとして無

い。よって、その為にアルベドの──延いては至高の御方の命に背くことはできない。

 それに、漠然とだが何処と無く、或いは不明であるものの明確にアウラは〈力〉を感

じている。これがナザリックに匹敵するかは分らないが、少なくとも守護者が危険を感

じるのなら、それは脅威に他ならない。

 ここで逃げたところで他の守護者達から後ろ指をさされる事も無い。そういう命で

あるし、それを笑うことは主人を嘲ることと同義だ。もしかしたらシャルティアは憎ま

れ口を叩くだろうが、それはそうあれと命じられた彼女の業であるし、裏には親愛があ

ることをアウラは理解している。

 ──やっぱり引き返そう。遅くは無い。

 アウラの考えは固まった。意固地になりすぎたと自省する。これはアウラではなく、

ナザリックとして解決すべき問題だ。

243 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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 そうと決まれば、長居する必要は無い。早速、アウラは階段へと踵を返したのだが─

─「……え?」

 翻って石段を視認した時だった。

 深淵があった。

 名状しがたい何某か。

 宇宙的恐怖を醸し出す忌まわしき混沌。

 ひしゃげた影の上に病的な広がりを浮かべ、空間を蝕むように広がっていく。

 いつからそこにあったのか。音も無く、動きもなかった。アウラは困惑する。

 そんな彼女をよそに、深淵は形を取らず、音も立てず、それでいて狂ったようにねじ

り立ちながら、彼女の眼前に聳え立った。

 これだ、これが全ての正体だ──アウラは瞬時にそう判断した。脳を様々が目まぐる

しく混ざってははじけ飛ぶ。考えるべきこと、行動すべきことがあるはずなのに、アウ

ラはその場から一歩も動くことが出来ない。

 臓物を握り潰す悪しき圧迫感が、血液がたちどころに蒸発する禍々しさが、アウラの

魂をがんじがらめにして一挙怒涛に襲い来たのだ。

「急げ、下だ!」

244

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 遠く、本当に遠いところからしわがれた叫び声が聞こえた。深淵がアウラを隔て、急

速に世界から離れ行く。それは錯覚や形容でなく、現実として起こったことだ。

「近くに来い、面前へ」

 唐突だが、不気味なほど静かなる声が深淵より発せられた。地獄から響くのだと、即

座に分るおぞましさだ。故に、狭いはずの廊下であろうと、声は山彦の如く深く残響す

る。

 呼応してふらりとアウラの足が動く。それは彼女の意思であって、彼女の意思でな

何・

か・

い。抗えない謎の誘惑が、彼女を導くのだ。この

の声に耳を傾けてはならないと感

じたが、感じることが出来ただけだ。

「私は未だ見ぬものの保護者。未知の知を知る者。全知の王である。真なる異なる、不

闇妖精

ダークエルフ

定かつ定命なる異邦の

よ。お前をずっと待ち望んでいた」

「私を……?」

 はっとなってアウラは口をつぐむ。そして自分が歩み寄ったことに気づき、一歩飛び

退いた。これと会話してはならない。なんとか、逃れる手段を探さなくてはならない。

生・

ま・

れ・

て・

「そうだ。彼奴等とは異なる命の来訪を──この世界に

より」

 アウラの意図に反して、深淵は優しく語り掛ける。

「お前の望みもまた、知っている。名誉が欲しいか。褒賞を望むか」

245 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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 先程まとめたばかりのアウラの決意が揺らぐ。猜疑心より前に、アウラの黒い部分が

首をもたげ、棄却したはずの思考を拾い上げた。

 アウラは目を固く閉じ、耳を塞いだ。アウラの意思と関係なく、この声は彼女の心を

突き動かしてくる。アウラの思ってもいない感情を突きつけてくる。

 声を聞いてはならない、姿を見てはならない。

 無駄な抵抗であると半ば悟りつつも、アウラは抗った。

「恐れずとも良い。お前の葛藤も既に分っている。アウラ・ベラ・フィオーラ──」

「──っ、やめろ……あんたの話なんか聞くもんか」

 自分の名を呼ばれるが、そこに驚愕は無い。きっとこの深淵は、本当に全てを知って

いる。そういった説得力が、認めがたくも存在している。

 アウラの心中は遅い後悔で満たされた。この家を発見したとき、報告して指示を仰げ

ばよかった。この家の異常を認めたときに、すぐに引き返せばよかった。

「ここには過去と未来、そして今を知る手がかりがある。全てを知り、知識を司る我が身

でさえ知り得ぬことが眠っている」

「……やめろ」

「振り返り、奥より二番目の戸を開けよ。その先にある、書を読むのだ」

「やめろ──」

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「そうすれば、遍く森羅万象の尽く──それらを、お前の意のままに操る事が出来る。お

前に出来ぬことは何も無くなる」

「やめろ……っ!」

「例えばそう──お前の創造主に会うことさえ出来よう」

 その言葉を聴いた途端、アウラの中で固持してきた何かが、ふつと切れた。それと同

時に、彼女にとっては最高の、畏れ多くも最愛の姿が脳裏に浮かぶ。

 いつしか、アウラの前から姿を消した、至高の四十一人が一人。姿が脳裏に浮かんだ

後、背景を彩るのは彼女との思い出だ。

 ──ぶくぶく茶釜様。

 最初に力をなくしたのは、両腕だ。塞いでいたアウラの長い耳が露になり、深淵の声

が良く彼女の耳に吸い込まれてゆく。

「そうだ、お前のよく知る、お前がいくら望もうと手に入らぬものが、あれを読むだけで

手に入るのだ」

「嘘だ」

 次に事切れた意思は、口だ。深層の、彼女が求むるも満たされぬ空白が、小さな口を

押し広げる。思い出だけでは、それを塞ぐことができなかった。むしろ、押し広げるこ

とを助長する。

247 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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「そう思うのは、お前が知らぬからだ。星霜の知識を得れば、叶えられぬ願いなど在りは

しない」

「──」

 最後に、アウラは目を開いた。うつろになった新緑と紺碧の双眸が、深淵の闇に染ま

る。

「そうだ、アウラ。創造主の名を聞かせてみろ」

「……ぶくぶく茶釜様」

「優しく、お前たち姉弟をとてもよく愛していた」

 アウラは無言で首肯する。

「私はそのことを知っている。お前達姉弟の抱く、とても大切な想いだ。ああ、そうか。

そうだろう。私の世界にも、この世界にも存在しない知識だが、お前の世界と、他なら

ぬお前の記憶が知識として溢れ出てくる……とても寂しい歳月を重ねたようだな」

「……本当に、ぶくぶく茶釜様に会えるの?」

「それはお前次第だ、アウラ・ベラ・フィオーラ。お前のかけがえの無い、彼女を愛する

心こそがそれを為し能う。お前は、その自身の心を偽りだと抜かすか? 創造主によっ

単・

な・

る・

刷・

り・

込・

み・

て与えられた、

だと」

「そんなわけない! あたしは──」

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超越者

オーバーロード

「ならば示して見せよ。さあ、振り返り、〈

〉の書へと歩みを進めるが良い。私も

知らぬ、この世界の真理をその手に収めよ! 共に奇跡をもたらそうぞ!」

 その言葉がもたらされた時、アウラは幽鬼のように首だけで振り返った。

 変わらず変哲の無い石の廊下に、錆びかけた鉄製の戸口が並んでいる。深淵の言う奥

から二番目の扉は殊更にくすみ、錆で錠をしたかのように固く閉ざされていた。

「そうだ、アウラよ」

 深淵は柔らかな語調を崩さず、アウラの背を声で後押しする。首だけでなく、アウラ

の体もまた、錆の扉へと向きつつある。

「──そして、お前達姉弟とその創造主こそが、新たなるアインズ・ウール・ゴウンとな

るのだ」

 だが、深淵より今しがた発せられた言葉が、アウラの動作をぴたりと止めた。

 相も変わらずおぞましげに蠢く深淵だったが、どことなく苛立たしい──身震いのよ

うな動作を行う。

「……どうした? アウラ・ベラ──」

「うるさい、汚物め」

 深淵へと振り返らず、アウラは背を向けたまま悪態を吐き捨てる。

「何?」

249 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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 それを受けて、初めて深淵の和らげな語気に歪みが生じた。

「……あたしが──馬鹿だった。仮にも守護者が、お前のような小物にどうにかされる

なんて……笑っちゃうよね。お前はさっき、知っているだけと言ったな。やっぱりそう

だ……お前は知っているだけで、あたし達のことを少しも理解していない。あたしのこ

とも……マーレのことも……ぶくぶく茶釜様のことも──そして、アインズ様のこと

も」

 アウラは未だうろんげな思考を振り払って、ゆっくりと、しかし幽鬼とは違って確か

な意思を以って、腰に下げた鞭に手を伸ばす。

「……あたし達がどんな思いでアインズ様に仕えているか。アインズ様──いや、モモ

ンガ様があたし達にとってどういった存在で……どんな気持ちで最後まで残り続けて

くれたのか」

 深淵は何も言わず、ただ燃え滾るようにその身を捩じらせる。

 アウラはそれを意に介さない。言葉を強く持ち、自身の思いの丈を解き放つ。

「ぶくぶく茶釜様──『アインズ・ウール・ゴウン』があたし達にとってどういう意味を

持つのか! あたしを惑わすな、邪神め!」

 アウラは突如振り返り、怒涛の感情の渦を反動に、鞭を刹那に振り上げた。

「消えろ!」

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 心を爆発させて慟哭し、疾風に暗闇を割く。

「お前みたいな奴が──知った風な口をきくなぁ!」

 暗黒に翻った鞭は一閃、薙ぎ振るわれた刃よりも鋭く、狙い違わず深淵を両断した。

 遅れて、渇いた無機な破裂音が石目に反響する。アウラは最早、色の違う両の瞳を閉

じることは無い。また、耳を塞ぐこともない。

「……急いたか。まあ、よい」

 あたかもその言葉が合図だったかのように、深淵は崩壊を始めた。同時にアウラの意

識から混濁が消え、明瞭な思考を取り戻すが、急速な疲弊が同じく明確に迫る。それで

も、アウラは決して深淵から目をそらさず、すぐさま二撃目の構えに入った。

 だが、崩れ行く深淵はそれを歯牙にもかけず、歪んだ音調で言葉を続け始める。

「アウラ。私には分る。お前は必ず、私の下に戻ってくる。定まるが故に、命は絶えるこ

とを捨てぬ。知るが故に、知らぬを知る。為せるということは、それだけで為したくな

るもの」

 深淵の中に、どす黒い、寒気のする笑い声が蠢いた。

「最後に告げよう。我が名はハルメアス・モラ。そうだとも、お前の言うとおり──知識

外なる邪神

を司る

である。アウラ・ベラ・フィオーラ──ゆめ忘れるな……深淵はいつ

でも、お前を観察しているぞ。時来たりて力願わくば、我が名を言の葉に乗せて紡ぎだ

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せ──」

 それが深淵──ハルメアス・モラの最後の言葉だった。この世にあらざる形を幾多に

よじらせながら、暗い、とても暗い縁を光がなぞり、そして剥がれる様に立ち上って消

えていく。最後まで、おぞましい嘲笑を残しながら。

「……ふざ──けん、な……」

 アウラは、ひざから崩れ落ちた。精神を磨耗しすぎたのだ。視界が霞がかり、四肢に

力が入らない。やはり、あのハルメアス・モラに何某か精神的な術をかけられていたの

だろう。それに抵抗し続け、跳ね返した彼女は見事なものだが、もう限界だ。

 かろうじて這い蹲りながら顔を上げれば、遠かったはずの暗闇に、淡い光が近づいて

くるのが分る。金属がこすれる音に足音が重なり、深淵の向こうより聞いた、しわがれ

た声が聞こえてきた。

 アウラが最後に見たのは、緑色の甲殻に朱がさした、なんとも言えない色合いの蜥蜴

の顔だ。よく分らない、暖かい光が柔らかく照っていたのも覚えている。

 アウラの意識は、それきり完全に途切れた。

   

252

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 ◆

   ドヴァーキンたちは王城にあてがわれた一室に戻っていた。

 華美ではないが風格のある家具や調度品が居並び、刺繍の施された柔らかな椅子がド

ヴァーキンを包む。

 だがそれは、淀むドヴァーキンの苛立ちを癒すことは無い。えずくように湧き出る焦

燥感と不快感が、それを一層助長させる。

「どうします?」

 小難しい作りの円卓を挟んで、セラーナもドヴァーキンと同様に腰掛けた。

 リディアは廊下につながる扉の傍らで、その声に聞き耳を立てながらも外を警戒して

いる。

「どうもこうも──ああ、糞ったれ。どうしろってか全く」

 ドヴァーキンは舌打ちと共に悪態を吐き捨てる。

 彼は苛立ちが生む灰汁を吐いたつもりだが、灰汁だまりが解消されることは無かっ

た。

 所詮、自分は一般人なのだ。ドヴァーキンはまざまざと実感する。

253 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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 ──偉そうにセラーナやリディアに講釈したところで、何も出来なかったではない

か。

 嘘、動揺、稚拙さ、甘さ。事態を好転できなかった要因はいくらでもある。

 ランポッサ三世は為政者であり、ドヴァーキン──佐藤正はただの一般人だ。

 結局、足りない経験でいくら手管を使ったとして、場数も思慮深さも到底追いつけた

ものではない。

 どうにかこうにか今の状況に陥らずに済んだやり方もあっただろうが、彼にその方法

は見当もつかなかったし、浮かんだとしてももう遅い。

 そう分ってはいるのだが、ドヴァーキンはやはり後悔と自己嫌悪の沼から這い出せな

いでいた。

 天井をうつろな目で見上げるドヴァーキンに、セラーナはため息を吐く。

 同時にリディアに目配せもするが、彼女はその視線に気づくも、ただ肩をすくめるば

かりだ。

「ドヴァーキン、あなたがしおれてしまっては、文字通り話になりません。もっとしゃ

きっとしてくださいな」

 あけすけなセラーナの言葉に、ドヴァーキンは手を上げて応じる。

「ああ……そうだな。すまない」

254

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 未だ思考は粘つくものの、セラーナの言うとおり意識を切り替えなくてはならない。

 ドヴァーキンは重い体を起こしてセラーナとリディアを視界に捉え、居住まいを正し

た。

「構いませんわ。それでドヴァーキン、あなたこのままアルドゥインを処刑させるおつ

もりですか?」

 その問いかけをドヴァーキンは「いや」とだけ言って否定した。

 何が起こるかわからない、と言うのがドヴァーキンの率直な意図だ。

 ドラゴンの姿ですぐに復活するかもしれない。または、魂をこの世界に野放しにする

かもしれない。

 もしかしたら、復活後のアルドゥインはドヴァーキンの制約を受け付けないかもしれ

ない。

 だが、それらは確かに本音ではあるのだが、半分建前でもある。

 ドヴァーキンが一番危惧するのは、アルドゥインが復活せず、そのまま死んでしまう

ことだった。

 アルドゥインもまた、転移の被害者だ。スカイリムに還すべき存在に変わりない。

 彼女を見捨てることは、ドヴァーキンの罪悪感が許しはしなかった。

「そうですわね。私としても、アルドゥインはあのまま封じておくのが最善と思います

255 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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わ。では、どうやってそれを成しえるかですが……脱獄させましょうか? こう、あな

たの隠密能力を活かして」

 セラーナがおどけて手を広げ、抜き足差し足の真似事を始める。

「連れ出せたとしても見つかる危険性が高すぎる。見つかったら言い訳が聞かない。難

しいな。アルドゥインだけで逃げてもらったほうがいい。制限を解除して脱走させる

か?」

「戦士長や国王への説明と矛盾が生じますわ。それに、アルドゥインと話をする必要が

あります。となると、何かしたと思われるのは確実でしょうね」

「じゃあ──俺がウェアウルフになってアルドゥインを強奪する、とか」

「その最中にあなたがいなければ、真っ先にあなたが疑われるでしょう。ばれた時を考

えると私たちまで処刑されそうですわ。吸血鬼とウェアウルフなんて、完全に人類の敵

ではありませんか」

 セラーナとのそういったやり取りがしばらく続いた。

 セラーナが提案し、ドヴァーキンが否定する。ドヴァーキンが提案し、セラーナが否

定する。時折リディアが口を挟み、論が出尽くした後は全員で頭を捻る。

 ぽつぽつと何かしらの案が生まれたが、立ち消えては振り出しに戻っていく。

 程なくして沈黙が訪れた。どれだけ綿密に計画を練っても、最終的には疑われる結果

256

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になるのが目に見えている。

 後ろ暗い──話せない事情がある以上、ドヴァーキンたちはどこまで言っても灰色

だ。

 その色が何で混ざり合った結果なのか、証明できなければ打つ手は無い。

 一度それを覆せる案はまとまりかけたのだが、それも結局はご破算となった。

 きっかけは、リディアの疑問だった。ドヴァーキンは自分の幻影を作れないのかと尋

ねたのだ。

 と言うのも、グレイビアードは自らの似姿をシャウトで作り出せると思い出したため

だ。

 それなら従士様も使えるのでは、とリディアは期待を寄せて問いかけてくれたのだ

が、ドヴァーキンは首を横に振った。そのシャウトを構成している単語が分らなかった

のだ。

「どうして覚えてないんですか……使えてたら非常に有益でしたのに」

「……面目ない」

「従士様、アルドゥインなら使用できるのでは? アルドゥインの幻影を処刑台に立た

せれば」

「……だが、それには国王を説得しなければならない。それは国王を共犯者にすること

257 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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だ。現状、それに足る材料がこちらには無い──いや、証明できようが、俺達のほぼ全

てを話すしかない。どうあってもそれは避けたい」

「そうですか……」

 それを境に、議論は完全に止まってしまった。

 ランタンが作る部屋の陰影だけがせわしなく揺らぎ、三人の呼吸の音だけが虚空に消

え行く。

「……いっそのこと、処刑場で暴れましょうか」

 セラーナが呟くように荒唐無稽な話を言い出した。

「私は吸血鬼の王セラーナ! 裏切りを見抜けないとは愚かな奴らですわ! アルドゥ

インは頂いていきます! ……というように」

「却下だ」

「でしょうね……でも精霊達もドレモラも呼べますし、全ての魔法を駆使すれば逃げ切

れそうな感覚はあるんですが」

 その言葉を、ドヴァーキンの思考の矢がひょうと射止めた。それはドヴァーキンが聴

聞の為に想定した、最終手段に関わるキーワードだった。

 想定とは違う展開と不確定な手法に、今まで彼の深層意識にお蔵入りしていたが、セ

ラーナの言葉にたった今掘り返された。

258

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こ・

の・

世・

界・

の・

「待て、セラーナ。一つ聞きたい。

召喚魔法についてだ」

「召喚魔法?」

「そうだ。あれはオブリビオンから対象を呼び出す魔法だが、この世界の精霊達はまる

で人形のように意思を持たない」

「そうですわね。いちいち指示を出す必要があります」

「そして、ニルンへと帰還するアルドゥインのシャウトが使えなかった以上、ムンダス─

─オブリビオンとの次元的な接続は無い。であれば、一体何故精霊達を召喚できる?」

「……それは、ええと……?」

 セラーナが瞠目して、美麗な肌に皺を寄せて思案する。対して、ドヴァーキンの中で

はある一定の結論が出ていた。

「俺はこう考えた。あの精霊達は──人形のようなものじゃないか、と」

「人形?」

 眉間の皺はそのままに、セラーナが薄く赤い瞳を覗かせる。

「この世界に来たときに、あちらの世界と何らかの摺り合わせが起こった可能性は高い。

俺達は存在しないのはずの存在だ。この世界の法則──例えば、マジカのあり方はまさ

に、こちらの世界に整合を取られたと言えるだろう」

 そう、マジカの本質は完全に変容している。ムンダスのそれと性質が違う以上、それ

259 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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はこの世界の法則にマジカが組み込まれたことに他ならない。

 ならば、魔法そのものが変質したとして不思議ではない。ドヴァーキンはそう考え

た。

「よって、召喚魔法も有様が変化した。精霊達やドレモラが自律しないのは、オブリビオ

ンから呼び出されていないから。証明はできないが、召喚されているあれらは、きっと

──概念体とでも言えばいいか。そういった物に成り変っているんじゃないか……と

思うんだが、どうだ?」

 ひとしきり持論の展開を終えたドヴァーキンは、背もたれに体重をかけつつセラーナ

からの返答を待つ。

 どちらかと言えば、ジェイ・ザルゴに話すべき内容だろう。しかし、セラーナは長い

時を生きた吸血鬼である。第四紀──「Skyrim」の世代が知らないことを知って

いるし、知識に対する欲求も高い。この問題を思案する素養は十全にある。

 セラーナは薄く開けた目をそのままにしながら、じっと虚空を眺めていた。対して、

リディアは目を白黒させて、ただ場を見守っているばかりである。生粋のノルドの戦士

である彼女には、魔法は便利な手品としか認識できない為、当然の反応ではあるのだが。

「サイジック会──でしたか? あなたが大学にいたときに会ったと言う。あの人たち

が聞いたら、卒倒しそうな話ですわね」

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 セラーナが鼻で笑い、言葉を続ける。

「確かに一理あります。ただ、もしそれが正しければ──いよいよ帰還の望みが薄く

なってきますけれど」

「まあ、そうなるな」

「あっさり言わないでくださいな……それで? ええ、その論には賛成ですとも。この

話が、アルドゥインと何か関係があって?」

「使えなくなったシャウトがあるな?」

 ドヴァーキンが満を持して身を乗り出し、口の端を歪ませた。

 それを見とめたセラーナは一瞬呆けたものの、すぐにドヴァーキンの意図を察する。

「……それは飛躍しすぎでは?」

「試す価値はある」

「実力行使ですか?」

「いや、今度こそ交渉する。多少、腹の内を明かすことになるだろうが。しかし、生体と

あ・

い・

つ・

ら・

して

を見せられるのなら、話は違ってくるだろう」

「脅迫になりませんこと?」

交・

渉・

強・

大・

な・

存・

在・

の・

協・

力・

「そうならないよう、

するんだ。対価は、

。相手は国のトップだ。

懐刀は多すぎても足りないくらいだろうよ。早速、ガゼフにとりなしてもらえるか聞い

261 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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てみよう。いや、まずはアルドゥインが幻影のシャウトを使えるかどうかだな」

 ドヴァーキンは軽い体を起こして立ち上がり、晴れやかな表情を作った。

   ◆

  ゲーあ

、使えるとも。我を誰だと思っている。貴様のような出来損ないとは訳が違うの

だぞ」

 瑞々しい響きとは裏腹に、憎たらしい悪態が牢に木霊する。

 一夜明けた今、ドヴァーキンはアルドゥインと面会に彼女の牢を訪れていた。

 警備は厳重で、常に複数人の兵士が常駐している。

 当然面会の立会いを要求されたが、それはガゼフに依頼していた。

 ガゼフにはある程度事情を打ち明け、昨晩の内に協力を申し出ている。

 国王に再面会するための第一ステップだ。

 明かしたのは、ドヴァーキンの意味、ドラゴンボーンの使命、そしてドラゴン──ア

ルドゥイン他声を扱う者達の正体。

262

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 無論、秘匿された伝承と言うカバーストーリーを被せてではあるが、それはタムリエ

ルに関する情報を隠すためだ。

 ドヴァーキンは自分の素性とアルドゥインの情報を「Skyrim」の知識に抵触し

ない範囲で話し、また、黙っていたことを誠実に謝罪した。その上で、アルドゥインの

処刑を回避するための協力を申し出たのだ。

 ガゼフはただ黙してドヴァーキンの話を聞いていたが、最後には快諾してくれた。

 ガゼフ自身も、アルドゥインの処刑に思うところはあったのだと言う。ただ、彼の立

場上、王の決定に異を唱えることは出来なかった。

 その為、「秘密を打ち明けてくれて嬉しく思う。王都の危機を防げるのなら、俺でよけ

れば力になろう」と夜分にも関わらず相談にまでのってくれた。

 本当にいい男である、とドヴァーキンは思う。彼のような友を得たことは、利害抜き

に素晴らしいことだ。

 ガゼフは、ドヴァーキンが素晴らしい戦士だからだと言う。友情と言うよりある種、

敬意と取れる感情かもしれない。

 しかし、今回の件で、ドヴァーキン達のあずかり知らぬところで動いてくれた部分も

あるだろう。ガゼフはそれを友の為だと言い放つが、いずれガゼフから受けた様々な恩

には報いるべきだ。何分、ドヴァーキンにはガゼフへの後ろめたさもある。結局、彼を

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欺き続けていることに変わりは無いのだから。

「<Fiik>、お前達の言葉で鏡、反映。<Lo>は欺き、謀り。<Sah>──幻。

ジョール・フェン・ニス・トル

定命の者はごく短時間しか維持できぬだろう

これが《幻影の囮》だ。

。だが我は、我が力の続く限り

幻影を維持できる。また、精細に操ることも可能だ。言葉の本質を理解できぬ貴様らに

は無理な芸当だろう。例えば、<Fiik>は映すべきを考えねばならぬ。自身を世界

にフィーク、象るのではない。自分を含めた世界をありのままに照り返すのだ。己の似

姿をスゥームが表すのではなく──

 物思いにふけるドヴァーキンをよそに、アルドゥインが誇らしげに講釈をたれる。

 無い胸を張り、せっつくように舌を回し続けるのは、今まで声を出す機会に恵まれな

かったせいか。

 ドヴァーキンは、命を落すと分っていながら剛毅なものだと半ば感心する。

 しかし、思えばアルドゥインは自身が不滅だという考えに揺ぎが無いのだろう。とも

すると、自分がドラゴンの姿で復活し、呪縛から解放されると期待しているのかもしれ

ない。

 目の前にいる少女は、姿こそ変われどやはり竜の王なのだ。しばしばその気迫が薄れ

る感覚はあったが、ドヴァーキンはそれを思い違いだと断じる。

スゥーム・ロス・ニ・ズル

シャ

スゥーム・ロス・ザーン

。貴様らはまずその真理を──」

264

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「アルドゥイン、それはまたの機会にしよう。口を閉じろ」

 無造作に放たれたドヴァーキンの言葉は、すぐさまアルドゥインの喉を閉じる。

 邪魔をされたアルドゥインは歯を食いしばってドヴァーキンを睨むが、その視線はド

ヴァーキンに軽くいなされてしまう。

 ほう、と感嘆するような吐息がガゼフから漏れ出た。

「さて、お前にそのシャウトを使えるか確認したのは他でもない。お前の処刑を回避す

るためだ」

 アルドゥインの瞳孔が、怒りから疑惑に変わる。怒気の発散を止め、顎で話の先を促

し始めた。

「処刑の回避とは少し語弊があるかもしれないが──お前の幻影を処刑台にあげ、あた

かもお前が死んだように見せかける。ガゼフ、それなら問題無いんだろう?」

「ああ。王が危惧されているのは貴族達に隙を見せること。確かにアルドゥインを処刑

した、と事実さえ作ってしまえば、この件において付け入る隙は無くなる。そうなれば、

王もとどまってくれるかもしれん」

「アルドゥイン。お前にはまず、《幻影の囮》と《霊体化》のシャウトだけ使用を許可す

る。処刑の当日は幻影が連行されると同時に、霊体化を使用して檻から出ろ。俺は

《オーラ・ウィスパー》を発動しておくから、脱出後はまっすぐに俺のそばまで戻って来

265 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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い。そして、王都にいる間は霊体化を解除せず俺に付き従うこと。いいな?」

 アルドゥインはその言葉に逡巡する素振りを見せたが、すぐに首を縦に振った。

 彼女にしては珍しい動作で、敵意は一切無く、傲慢さのかけらも無い。

 ドヴァーキンはその仕草に素直な驚きを見せる。沈黙を武器に駄々をこねるか、何ら

かの手段で抵抗すると考えていたのだ。先程の思い違いと、印象の矛盾が生じる。

何・

処・

ま・

で・

ア・

ル・

ド・

 思えば、ドヴァーキンはこの少女を象ったアルドゥインが、果たして

ゥ・

イ・

ン・

なのか見極めていない。彼の判断材料は、「Skyrim」での設定と、自身が生

み出したMODによる後付のみだ。

 他人の思考を読むなど不可能が常ではあるが、こと「Skyrim」のキャラクター

を読み解く分には、ドヴァーキンには幾ばくかのアドバンテージが存在する。

 だが、返せばそれは先入観である。再三確認を取ったことだが、彼らは最早NPCで

ないのだ。

 ドヴァーキンは若干の限界を感じる。この世界を生き抜き、スカイリムへの帰還を目

指すには、やるべきこと、できるようになるべきことが多すぎる。正直頭も手も回らな

い。

 フォロワーたちの協力を得てもなお、だ。それは、今回の聴聞で嫌と言うほど身に染

みた。

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 彼らには組織力が無い。個々の力はすさまじいと言えるかもしれないが、規模や行動

力の点では天井が低い。

 加えて、ブレインの不在。その気になれば百鬼夜行を引き連れて、行脚の後を荒野に

せしむる彼らだが、謀に関しては人並みの知恵しか持たない。

 組織力、あるいは協力者──人手不足は如何ともしがたい問題だ。

 協力を募れば、必ずぼろが出る。ドヴァーキンたちは異世界の住人だ。どうあがいて

もその差異は露呈しよう。

 森の賢王は例外だ。ああいった都合のいい存在が転がってくる望みは薄い。

 この世界の情勢を掴む事が出来、事情を共有し、ある程度の生活が保障され、物量を

そろえて気兼ねなく検証や実験を行える組織は無いものか。全知全能、過去、今、未来

を見通す知慧の化身がいれば尚ありがたい。

 そんなものは、十中八九存在しないだろう。

 それでも、ドヴァーキンは渇望せずにはいられなかった。

 ──無いものねだりをしてもしょうがない。

 数瞬の思考を終え、ドヴァーキンの耳はガゼフの逞しい声を聞き取った。

「まずは一安心か」

 短く頷いたドヴァーキンはガゼフに視線を向ける。

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「とりあえずは、だが。ありがとう、ガゼフ」

「構わんさ。これの正体が、不死のドラゴンだというのだからな。そんな奴が王都に放

たれる可能性を見過ごすわけには行かない」

「……すまない。こんなことに巻き込んで」

「大丈夫だ、ドヴァーキン。王も俺に話したとおりの事情を打ち明けてくれれば、きっと

理解してくれる……それで、その方法なのだが──再三聞いてすまない、本当に安全な

んだろうな?」

 ガゼフが不安げな顔で、慎重な声を出す。その声にドヴァーキンは真剣な面持ちを返

した。

名・

「それこそ大丈夫だ。ガゼフ。ドヴァーキンの

は、伊達じゃない」

 その真剣さを保ちつつ、ドヴァーキンは固くガゼフと視線を交差させる。

 どうやら、この世界でもドラゴンは特別な存在のようだ。それはガゼフとの相談で判

明した。

 伝承や逸話も多くあり、中でもドラゴンに跨るゴブリンの戦士の話は、状況を忘れて

心躍らせたものだ。

 それに、この国に伝わる御伽噺の中には、天変地異を操るドラゴンに関するものも

あった。その際、ガゼフからアルドゥインとの関連性を指摘されたが、それは否定して

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おいた。余計な混乱を生むべきではない。

 しかし、ドラゴンの認識が変わらないのは都合がいい。それはこれからの状況を有利

にさせる。

 ドヴァーキンの中では、半ば確信があった。必ず、先の聴聞よりはうまくいく自信が

ある。

 ドヴァーキンはいまだ不安げに曇るガゼフを晴れやかにするため、スカイリムの先人

に倣って勇気付けた。

「ショールの髭にかけて誓おう」

 言霊とは本当にあるものなのだろうか。シャウトを使う身としてそれは疑うべくも

無いが、ドヴァーキンの自信は、その言葉でますます確固たる物となった。

 その高揚した気分のせいだろうか。彼は、ガゼフがより一層不安になったことと、「髭

か……」という微妙な呟きに気づくことは無かった。

269 Dovahkiin Ahrk Alduin─4

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Dovahkiin Ahrk Alduin─5

   夢を見た。

 雪が薄く散り、地面は真白で埋め尽くされている。そこに一体の黒いドラゴンが横た

わっていた。刺々しく荒々しい外見のドラゴンは、幻想的な純白の世界に際立って映え

る。

「Wo los zu?」

 とても低い声で、世界から失われた言葉を呟く。

「Wo los zu?」

 焦点の定まらぬうつろな目で、何処までも続く、終わりの無い雪景色を見つめながら。

「Wo los zu?」

 外見からは想像もつかぬ、か細く高い声で──ただただ人形のように同じ言葉を繰り

返す。

「Wo los zu?」

 ひどく命を持たぬその言葉は、舞い散る雪と共に、雪原に物言わず降り積もった。

270

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   ◆

   ドラゴンとは、力の象徴である。

 その圧倒的な力はあらゆる命をねじ伏せ、あまねく天下万里へと至る。その力は恐る

べきものであり、とどまるところを知らず、故に行き過ぎていた。彼らは在るだけで畏

怖された。彼らはその名前だけで不幸を振りまいた。

 彼らはある時、天災以上に力を表していた。

 だが、恐れのみならず、裏腹に人の本能は力への羨望を煽った。高き頂は分りやすく、

確かな憧憬を集める。畏怖されるからこそ、敬服の目を向けられる。ドラゴンはいつし

か、災禍為すとも明確な力の頂点として奉られ始めた。

 彼らはある時、力による支配者であった。

 だから、彼らを打ち倒すことは──ドラゴンと同格以上になることは、生きとし生け

る者最高の栄誉である。高嶺の花を踏みつけられるのは、頂点に立った者だけだ。

 世界は、その力によって力を討ち果たした者達を英雄と崇拝した。或いは、魔王と平

271 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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伏した。強大より強大な、無双の覇者達。いつの頃からか、そういった者達がドラゴン

の支配を打ち倒すようになり、ドラゴンは必ずしも支配者では無くなった。

 彼らはある時、力を示すための証明になった。

 そうして彼らは、時代の移り変わりと共に語り継がれてきた。伝承となり、伝説とな

り、やがては御伽噺となり、まろぶ時間と命の螺旋の中、ドラゴンは力の象徴であり続

ける。

 これからも、きっとそう在るだろう。覇を力にて成す大いなる存在は、深く、遠くあ

らゆる命に刻まれ続けるのだ。

 そして、リ・エスティーゼ国王──ランポッサ三世も、その例外でない。

 だからこそ、彼の心中は如何ばかりであろうか。彼は今、刻まれた伝承と現実でまみ

えているのだ。

 彼の目前で、隆起する逞しい筋肉に赤い鱗が奮い立ち、呼気にあわせて甲殻が重く擦

れる。威風堂々の体躯をもたげ、悠然と翼を広げながら、鋭角の眼光が翻る。その姿、疑

うべくも無い。それは伝説が形を成して、書から抜きん出たようにそのままだ。

 リ・エスティーゼ王国にある王都、ロ・レンテ城ヴァランシア宮殿、謁見の間にて、そ

れは一息のうなり声を上げた。

 

272

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  ◆

  「オダハヴィーングと申します」

 静寂に浸かる謁見の間に、ドヴァーキンの声が波紋を作った。

 オダハヴィーングと紹介されたドラゴンは、重低音のうなり声を上げながら穏やかに

呼吸を繰り返す。それは見るものによっては猛っているようで、怒りを表しているよう

にも見えるだろう。末広がる翼のおかげで、威嚇と表現しても過言ではない。

飛竜

ワイバーン

「なんと、ドラゴン……いや、

か……!」

 ひどくかすれた声で、ランポッサ三世は目前の怪物に戦慄する。

飛竜

ワイバーン

「……いいえ、確かに造形は

種に似通ってはいますが、これはドラゴン──失われた

竜言語でドヴ、と呼ばれる者たちです。れっきとしたドラゴンですよ」

 ランポッサ三世の漏らした言葉をドヴァーキンはやわらげに否定する。

 彼は述べながら、オダハヴィーングを見やった。造形は「Skyrim」そのままで、

雄雄しく呼吸を繰り返す所作は、それが現実だと言うことを一呼吸ごとに実感させてく

れる。

273 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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生・

き・

て・

は・

い・

な・

い・

 しかし、このオダハヴィーングは

。これは、この世界で変質した召喚

声の意味

スゥー

魔法と

によって形作られた、人形に過ぎないのだ。

 ドヴァーキンは、なんとなくこの世界でのスゥーム──シャウトがどういう力を持つ

かつかみ始めていた。大意はゲーム内でのそれと同一だ。しかし、本来竜言語とは言葉

それ自体が力を持つものである。故にドラゴンの言葉は、発するだけでその概念を具現

化する。それはアルドゥインが、《幻影の囮》をゲーム中の性能より昇華して使えること

が証明になるだろう。つまり、設定上のスゥームが現実になっていると考えられる。

 ならば、それと変質した召喚魔法を組み合わせたらどうか──ドヴァーキンはそう考

えたのだ。この世界での召喚魔法は、端折れば「Skyrim」そっくりの人形を創造

する魔法になっている。であるならば、使えなくなった《コールドラゴン》のシャウト

──これに声の力を組み合わせてみてはどうか、と。

 結果的にそれは成功し、ドヴァーキンはこうやって擬似的にオダハヴィーングを呼び

出すことができている。ならば他の竜、ダーネヴィールは勿論のこと、ミルムルニルな

どの敵だったドラゴン達も召喚できるかもしれない。本来共闘できぬはずの彼らと空

を共にできる──その期待は、ドヴァーキンを興奮させた。

 しかし、折角波立った彼の興奮も、すぐに穏やかになってしまった。なぜなら、彼ら

は彼らであって、彼らでないからだ。

274

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 ドヴァーキンはオダハヴィーングを見て思う。ゲームと変わらぬ体、変わらぬ目、変

わらぬ声。しかし、それはオダハヴィーングを象った別の何かである。少し間の抜け

た、それでもドラゴンとして高潔なあの若きレッドドラゴンは、ここにいない。

「《Od》──雪、《Ah》──狩人、《Viing》──翼。かの名前はそれを表してお

ります。その名の通り、遥か雪の降る地にて彼を下してより、このオダハヴィーングも

アルドゥイン同様、私の支配下に入っております」

 そういいながら、ドヴァーキンは思考を打ち切る。そして、動くだけの彫像からラン

ポッサ三世へ視線を戻した。

「このように、私はドラゴンを使役することができ、また打ち倒すことが可能です」

「そうやって貴君は力を高め、アルドゥインを封じた、と……ドラゴンボーン、そしてド

ラゴン、いやドヴァーか──なんとも……それこそ御伽噺のようであるが……こう、実

物を見せられてはな」

 ランポッサ三世は、興奮と恐怖がない交ぜになった顔でオダハヴィーングを一瞥し

た。謁見の間にはガゼフ含め数名の兵士がいたが、彼らも同様だった。

「はい、ですから──御話しましたとおり、アルドゥインの幻影を処刑し、そのように見

せかけてください。どうか、アルドゥインを封じたままにして欲しいのです。あの竜は

──」

275 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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「ワールドイーター……全てを喰らう者。神より出でた神に最も近き被造物……そうで

あったな?」

 ドヴァーキンの言を遮って、ランポッサ三世が問う。彼はそれに黙して頷き返した。

「よい、ドヴァーキン。我の中で、結論は既に出ている……貴君の言うとおりにしよう。

当日まで貴君らには気の抜けぬ状況が続くかもしれんが、早急に段取りは進める」

「陛下──ありがとうございます」

 ドヴァーキンはひとまず胸をなでおろす。一時はどうなることかと思ったが、どうや

ら穏便に済みそうである。無論、それを狙った節もある。ガゼフを後ろ盾につけ、同様

の説明を行うと同時にドラゴンを召喚し、そのインパクトの内に話を進めてしまう。そ

うすれば、深い介入や詮索は起こりにくくなるだろう、と予測したのだ。結果的には

上々、大成功と言えるだろう。

 しかし、それだけでは本当に脅迫まがいの方法になってしまうし、何より譲歩が無い。

否、そもそも騒ぎを起こしたのはドヴァーキン達なのだから、譲歩と言う言葉は不適切

である。

 故に、彼は王国への贖い──罪滅ぼしを申し出ていた。即ち、アルドゥイン含め自分

達を見逃してもらう代わりに、王国への協力を申し出たのだ。勿論、情報や人脈を求め

ての卑しさもあったが、基本的には誠意からくる考えである。何より、それこそがガゼ

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フへの恩返しにもなる、とドヴァーキンは考えていた。

「よい、本当によいのだ、ドヴァーキン、貴君がそのように後ろめたさや──罪悪感を感

じることなど何も無い……だからこそ、貴君の提示した条件に関してだが」

 急に心の内を見透かされたようで、はっとしてドヴァーキンは下げた礼を崩す。見れ

ば、ランポッサ三世は神妙な面持ちになって、ドヴァーキンを見据えていた。その目は

真剣そのもので、先程までの興奮や、恐怖は無い。オダハヴィーングなど一切眼中に無

いように、ドヴァーキンを真っ直ぐに見つめている。

「今から述べることは、国王としての言でなく一個人の──私という、一人の男の私見と

して聞いて欲しい。よいな?」

 その眼差しに、ドヴァーキンは気圧されると同時に一言一句聞き漏らしてはならぬと

身構えた。彼にランポッサ三世ののたまう弁は予想できなかったが、直感として、その

言葉は自分に重大な影響を及ぼすと予感していた。

「はい」

 重く響き渡る声でドヴァーキンは返答する。ランポッサ三世はその声色に何かを感

じ取ったのか、仰々しく頷きながら、口を開いた。

「私は、王として苦心することが多い。私にもっと力があれば、貴族達にもっと真っ当な

ものが多ければ。隣国がもっと弱小であってくれたなら──そういった荒唐無稽な逃

277 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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避もまた、胸中に現れ出でることもある」

 苦く、それでいてどこか自嘲気味なランポッサ三世は、ドヴァーキンの隣に控えるオ

ダハヴィーングに目を向けた。

「しかしな、それは定命の者の──人間と言う小さな世界の、ごくありふれた苦心にすぎ

ない。王と言う枠内で見れば、当たり前の苦悩であろう。私はそれを嘆くことはあれ

ど、投げ出すことは無い。私は民を愛している。臣下を愛している。王国を──愛して

いる」

 やおら彼は立ち上がった。そのままゆったりとした動作で、壇上から階下に足を向

け、それでも視線は落さぬよう、良く通る声で話を続ける。

「確かに、お前が王国に与してくれれば状況は変わろう。それは王国の為になるかも知

れぬ。しかし、しかしだドヴァーキン。お前はわが国の剣となった時、敵を討たねばな

らぬ。王国の敵と言えど、それは王国にとってであって、世界にとって敵ではない……

皆等しく、ただ精一杯に生きているだけなのだ。よいか──言うまでも無いが、世界に

とって全ての命は無辜なのだ」

 そしてランポッサ三世はドヴァーキンへ歩を進めた。一人の兵士がそれを制止しよ

うと動きかけるが、ガゼフに手で阻まれる。彼の困惑と抗議の目に、ガゼフはただ首を

振って応えた。

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「考えてみよ、ドヴァーキン。お前は英雄だ。私が与り知らぬだけで、お前は幾多の混沌

を征し、巨悪を滅ぼしてきたのだろう。ならば──」

 ランポッサ三世がドヴァーキンの眼前で足を止める。

「お前の守るべきものとは何だ」

 ドヴァーキンはその言に、何か恐ろしげなものを見たように絶句した。

「……それは……」

「お前は、王国の剣となって、守るべき者たちを切り伏せるのか」

「……私は」

「すまぬ、責めているわけではないのだ」

 顔を伏せたドヴァーキンに、ランポッサ三世は片膝をついて柔らかく笑いかけた。そ

して、ドヴァーキンの肩に手をかけ、「私が言いたいのは」と再度口を開く。

「つまり──お前は、定命の、定命を守る、定命の為の戦士であるべきだ。この地では毎

日、魔物や悪しき者共によって様々な無垢の命が奪われておる。お前は王国ではなく、

王国を含めたその民草達にとっての、大いなる剣であって欲しい。ドラゴンボーンの力

で・

き・

る・

こ・

と・

であれば、王国を強力にすることも出来よう。

だが、しかし──それは英雄

す・

べ・

き・

こ・

と・

ではない。英雄は、英雄にしか出来ないことを為すべきだドラゴンボーン

よ。そして、我々はその祝福を祈ろう」

279 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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 その言葉に、ドヴァーキンは老竜の面影を見た。ランポッサ三世の穏やかな顔は、い

くつもの皺でひび割れている。それを醜いと思うことは無く、哀れに思うことは無い。

それこそ、年輪のように時代を刻んできた王の証左であるのだから。

 その皺一つ一つが爛れ朽ちた竜の甲殻へと重なり始める。パーサーナックス──彼

も、この地に来たれば似たような言葉を投げかけるのだろうか。しかし──それはド

ヴァーキンではなく、佐藤正を責めた。いままでどこか疑問で、それでも考えないよう

にしていた問題を、様々な感情と共に表出させてしまった。

 そこからの詳細は、おぼろげである。話の筋としては冒険者組合がどうとか、援助が

どうとか、そういった内容だったことは胡乱げに覚えている。

 唯一つ、彼が覚えているのは──取り繕った自分の表情に、どす黒い寂寞感がこびり

ついていたことだけだ。それが何故なのか、彼は自身でよく理解できている。ランポッ

サ三世の言はドヴァーキンに向けられたものだが、彼に向けられたものではない。

 彼──佐藤正は決して、英雄ではないのだから。

   ◆

 

280

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 「……英雄、か……」

 時は少しばかり流れ、ドヴァーキンたちは今、エ・ランテルと呼ばれる都市の宿屋に

居た。地理的には王国の端、国境付近にあり、ドヴァーキン達が転移した先のトブの大

森林に近い。

アーム

? なんだドヴァーキン。何か言ったか?」

「……なんでもない」

 ドヴァーキンは、宿屋の一室で体を休めていた。アルドゥインと同室の二人部屋で、

部屋決めの時リディアがしつこく食い下がったが、結局アルドゥインから目を離せない

ということで、二人は同室に居る。

 そのアルドゥインといえば、今は椅子と格闘していた。その表現が適切かわからない

が、四脚の内一脚だけを床に接地させて、それを維持させようとしていた。セラーナが

以前見せびらかすようにやっていた癖で、アルドゥインは彼女に挑発されて躍起になっ

ているというわけだ。

 ランポッサ三世を説得してからの動きは、ドヴァーキン達の予想より速かった。アル

ドゥインの幻影は見事処刑され、ドヴァーキンの案はうまくいった。不慮の事故も無

く、期間的にも内容的にも理想の結果と言える。

281 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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 それもこれも、王やガゼフが彼らの拘束を出来るだけ縮めるために尽力してくれたか

らだ。その上、冒険者組合への推薦や物資・資金の援助などを、苦しい政治状態の中で

提供してくれることになった。ドヴァーキンは王国に恩を返すつもりだったが、結果と

して逆に恩を増やしてしまっている。

 そうやって手厚くしてくれるのは、ランポッサ三世の言の通り、ドヴァーキンが英雄

だからである。紛う事なき証明を、彼は行ったのだ。それは喜ばしいことだったが、同

時にドヴァーキンの心を燻らせた。

コラーヴ

ズーゥ・ドレイ・ニー

? 

! ドヴァーキン! 我にかかればこの程度、簡

単なことだ!」

 アルドゥインの歓喜の声に、ベッドに寝転がるドヴァーキンは首だけをちらと向け

た。若干辟易したその顔は、ストレスがたまりそうだから、と軽い気持ちで会話を許可

したことに後悔している表情だった。

 彼が見れば、そこには背もたれにしがみ付きながら、器用にバランスを取って、椅子

を直立させているアルドゥインが居た。しかし、重心が定まらないためか足を大きく広

げ、ヤジロベエのように揺らいでいる。そのせいでドレスが見えそうで見えない誘惑的

な裾の動きを見せている。

 しかし、今のドヴァーキンにはさして興味の惹かれる光景ではなかった。明日には拠

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点へ戻り、今後の方針について仲間達と打ち合わせる予定だ。そのために考えるべき事

は多いし、決めておくこともある。何よりも、ランポッサ三世からの言葉──いや、期

待とも取れる信頼が重しとなって、自己嫌悪を彼の心に沈めていた。

「よかったな」

 そうとだけ言って、ドヴァーキンは壁の方へ寝転んだ。今はただ、思考にだけ没頭し

ていたかったのだ。

「なんだ、ドヴァーキン、我が非凡の──」

「うるさい。黙ってくれアルドゥイン」

 吐き捨てるように言って、ドヴァーキンは半ば八つ当たり気味にアルドゥインを黙ら

せた。彼の背からけたたましい転倒音と、大きく喉を鳴らす声にならない声が聞こえ

る。

 だがそれもしばらくして収まった。恐らく床に入ったのだろう──それならば明か

りを消してくれ、と心の中で悪態をついたドヴァーキンは、また寝返りを打って身を起

こそうとした。

 その時、起こした顔の至近距離に、アルドゥインの不機嫌そうな顔が迫った。あわや

唇の触れそうな距離で、ドヴァーキンの顔をねめつけている。

 視界一杯のそれに大きく驚いたドヴァーキンは、反射的につんのめって頭を壁にぶつ

283 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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ける。さすがにタフな肉体といえど、無防備にぶつけてしまえば悶絶物だ。ドヴァーキ

ンは、後頭部を抑えてうずくまる。

「なんだアルドゥイン! 驚かすな!」

「……」

「何とか言え、この……!」

 そこで、自分がアルドゥインを黙らせていたことにドヴァーキンははたと気づく。そ

して、アルドゥインの声を許可しようとした時、部屋のドアが大きく開け放たれた。

「従士様! ご無事ですか!? アルドゥイン、あなたやはり生かしておけないわ! イ

スミールにかけて、絶対に殺してやる!」

 ネグリジェ姿のリディアが、愛用の剣を携えて、部屋に飛び込んでくる。寝食にても

主の身を案ずる従者の鏡だが、時と場合というものがある。付け加えるなら、適切な格

好というものもだ。後ろにニヤついたセラーナが見えるが、恐らく止める気は無いだろ

う。フォロワーが意思を持ってこの方、ドヴァーキンは濃すぎる彼らのキャラクターに

振り回されっぱなしだ。来た当初は勇気付けられたが、心が凹んだ今となっては、ド

ヴァーキンはそれらに辟易する気持ちが大きくなってしまっていた。

「リディア! なんでもないんだ、戻れ!」

 そうして、つい彼は声を荒げてしまう。リディアは剣を握り締めたまま凍りつき、セ

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ラーナも表情を訝しげなものへ変えた。

「じゅ、従士様……?」

「……ああ、いや、すまない、すまん、なんでもない、ほんとうに──なんでもないんだ。

すまん。もう、戻れ」

 顔を手で覆い隠して、ドヴァーキンはリディアたちに背を向ける。それでも何かいい

たげなリディアだったが、セラーナに制され、名残惜しそうに踵を返した。

「──ドヴァーキン」

 その後を追ったセラーナだったが、戸を閉める際、一度彼に呼びかける。反応は無い。

「……おやすみなさい」

 セラーナもまた、何かを堪え、戸を静かに、重く閉じた。

 それを音で確認したドヴァーキンは、明かりを消す。月と星が狂ったように窓から煌

いて、彼の思うように部屋が暗くなることは無かった。

「……」

 すると、一部始終を黙って見ていたアルドゥインが、何かに耐えられなくなったよう

に跳ね、ドヴァーキンの前に回りこんだ。

「なんだ……ああ、話していいぞ、アルドゥイン。だが音量は抑えろ。もう寝──」

「ドヴァーキンよ。ドヴァーは孤高が故に、感情の機微には鈍い」

285 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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 許可されるや否や、アルドゥインはドヴァーキンを遮ってその声を発した。いつもど

おり少女然とした瑞々しい響きだったが、しかしこの時だけは元のアルドゥインに近し

い、低い語勢だった。

「何を──」

「だがクロシス、憂鬱には敏感である」

 そういうとアルドゥインはベッドに尻を投げ、ドヴァーキンに向き直る。

「……」

「……」

 論が続くと思ったドヴァーキンだったが、アルドゥインは何かを迷うように目をしば

らく泳がせた。

 静寂が続く。星が巡り、月が乱れ光を放っている。光だけで窓を押し開いてしまうの

ではないかと思うほど、強く。

 意を決してか、アルドゥインが口を開いた。

「何故我を殺さなかったとか、救ったとか、理由は問うまい」ゆっくりとアルドゥインの

声は光に溶けていく。

「ドヴはありのままを受け入れ、それをねじ伏せる。とやかくは問わぬ、問わぬが──

アーズ」

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 息を吸い込んで、アルドゥインは強烈な紅蓮の双眸で、ドヴァーキンを射さした。

「アーズ……そうとも、感謝は──している」

 ドヴァーキンは耳を疑った。あの悪逆非道、邪知暴虐のアルドゥインが、感謝を、素

直に、潔く口にしたのだ。それも不倶戴天の敵相手にだ。

「……は?」

 彼から、思わず素っ頓狂な声が上がる。だがそれを無視して、アルドゥインは舌をま

わした。

「だから、話せ」

「何を?」

 唐突に促されても、ドヴァーキンにはアルドゥインの意図がさっぱり読めない。

「……察しの悪い奴だ。そういうとこだけドヴァーぶるな、ドヴァーキンよ」

「いや、今の流れで──」

「ええい、だから、何かあるのだろう、なにかあったのだろう! お前の憂鬱を聞いてや

る! 聞いてやるだけだ! これで貸し借り無しと言っているのだ、ドヴァーキン!」

 許された範囲で最大限声を荒げ、大仰な身振り手振りでアルドゥインはそう主張す

る。要は──素直になれないドラゴンの、らしからぬ励ましであった。

 つい、ドヴァーキンは苦笑する。本当にこれはアルドゥインなのだろうか──そこ

287 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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で、ふとある考えが彼の脳裏をよぎった。

 アルドゥインも、ある意味自分と同じといえるのではないだろうか、と。アルドゥイ

元・

々・

自・

分・

だ・

っ・

た・

も・

の・

ンは器が、ドヴァーキンは中身が、という違いがあるが、

が変質し

たことに変わりは無い。

 アルドゥインは聞くだけだといった。

 話すだけなら、話だけなら──

言・

葉・

を・

受・

け・

る・

だ・

け・

「むしろそれこそ感謝せよ。竜の王が、甘んじて

と言うのだ。何も言

いはせぬ。論争ではなく、正しく己を表現できる機会を、与えてやろうと言うのだ」

 ──話すだけなら、いいか。理由は知らないが、アルドゥインのその言葉が、ドヴァー

キンの背中を苛烈に、或いは優しげに押したような気がした。

「ある男の話をしよう」

 そう言って、ドヴァーキンもまた、ベッドに腰掛けた。

「そいつは……普通の人間だったんだが。ある日──不思議な世界を知った……厳しい

寒さと……荒れた大地の、小さいが……大きい世界だ」

 ぽつぽつと、ドヴァーキンが語り始める。彼の声も、星星と月の光に混ざり合った。

「知っただけじゃ、満足しなくてな。そいつは、その世界に──ある死刑囚となって、

行ったんだ。擬似的にな、本当に行けたわけじゃない。そしたら、思いのほか楽しくて

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さ」

 様々な思い出が、彼の中を駆けた。初めて「Skyrim」に触れたとき、インストー

ルするまでのもどかしさ、起動したときの嬉しさ。

「世界にのめりこんだ。寝ることも食うことも惜しんで。そんなに綺麗な世界じゃな

かったさ。寒そうだし、殺風景だし、会う人会う人嫌な奴ばっかでさ。騙されるわ裏切

られるわ……理不尽で、難しいことばっか言って」

 目を閉じれば、何処に何がしまってあるか、記憶の本棚が暗闇一杯に末広がる。背表

紙を見るまでも無く、彼にはその全てがどんな本だったか手に取るように分る。

「でもさ、薄汚い遺跡を抜けた先に、泣きたくなるほど綺麗な景色が、ばあって広がった

ときは──ずっと眺めていたな。変な奴も嫌いな奴もいたが、好きな奴も大切にしたい

──友人にしたいのもいた。それに、よく話してみれば──誰だって、一生懸命だった

りするんだ。どんなに汚くても、どんなに醜くても、やりたいこと、やるべきことがあ

る。そのために、皆、精一杯なんだよ。そいつにとっては別の世界の、物語をなぞるよ

うに他愛ないことだったが、皆あの世界の中では生きてるんだ」

 彼の声色がだんだんと楽しげになり、弁を振るう。

「そう思うと、恋しくなるんだよ。触れ合う内に、度に、世界が好きになっていく。そし

て、そのうちに男は世界を救うんだ、他ならぬ男の意思で。好きだから、滅んで欲しく

289 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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ないから──世界が」

 それを聞くとアルドゥインは若干苦い表情を作ったが、何も言うことは無かった。た

だ黙し、彼の話を聞き入っている。

「そして英雄と讃えられ、男の旅はそこから始まったと言っても良い。そうして色んな

所に行って、色んな事をやりつくした──けれどやっぱり、男にとってそこは閉じた世

界なんだ。ある日、先が見えてしまった。世界で出来ることは、少なくなった」

 懐かしむ目の色を、彼は変える。

「そんなときだな。男はいつの間にか、本当に英雄の力を手にしてしまった。男が触れ

たかった世界とは異なるが、男は英雄となって、世界の片鱗を触れるところに……何故

か来てしまったんだ」

 彼の目の色は一瞬にして、哀愁に染まった。

「始めは戸惑ったが、嬉しかったさ。夢にまで見た世界だ。だが、やることなすこと元の

世界と勝手が違うし、失敗ばかりだ。英雄のようにはいかない。その内、思ったんだ。

彼は英雄じゃない。彼はただの人間だ。それがなんだか──」

 哀愁に言葉を切り、彼は少しの間を置いて、口にした。

「悲しくてしょうがなかった。全てを裏切っている気がした。自分で自分が許せなく

なった」

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 肺の中の全てを吐き出すように、引き絞った言葉が放たれた。大きくも無く、張りも

無いが、それは様々な思いをごちゃ混ぜにして、ただ濃密な塊となって──男の口から、

出た。

「なあ、アルドゥイン。彼は英雄じゃない」

 男が頭を抱えて、うずくまる。

「ただの人間なんだ……!」

 また、静寂が音を取り払った。部屋に溶け合った二人の声もいつしか離れ、消え、無

音という心地よくももの悲しい瞬間が訪れる。その空間に音を立てることは、とても難

しいことだった。

 では我からも話をしよう──しかし、少女の声がその静寂を引き裂いた。紙を裂くよ

うに容易く、はっきりと大胆に。

「あるところにドラゴンがいた。ドラゴンは誇り高く、最強だった。だが、あるときドラ

ゴンは別の肉体に封ぜられた。しかしそれがなんだというのか。簡単なことだ。少し

は悲観したが、ドラゴンは変わらず誇り高く、最強だったことに気づいたのだ」

 得意げさは無く、それでも真っ直ぐと男を見る少女に悲嘆は無い。年相応の声色だ

が、それ以上の強い意志が、言葉の端々に瞬いた。

「そうだ、簡単なことだ。馬鹿馬鹿しい。簡単なことだったのだ」

291 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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 自嘲気味だが嬉しげに少女は笑った。豪胆に、可愛らしく。

「その男に言ってやれ──いや、我が言ってやろう。その男は紛れも無く英雄であると。

擬似的な体験だからなんだ、閉じた世界だからどうした──その者は、誇り高く最強の

存在を、間違いなく打ち破ったのだ」

 力強い言葉を可憐に言って、少女はベッドから飛び降り、窓際で外の景色を眺める。

「クォスティード・サーロ・アーク。それは確かに運命なのかもしれん。今この瞬間、お

前と居ることも或いは、誰かの定めた運命なのかもしれぬ。だが、我は──我こそはア

ルドゥインなるぞ。運命を言い訳にはせぬ。宿命に弄ばれるだけの存在ではない!」

 アルドゥインは、窓を勢いよく開けた。すると、夜風が待っていたかのように吹き込

む。冷たいが、冷たいからこそ心地よい、とてもいい夜風だ。

「姿形は変われども、我はドヴであり、王である」

 そしてアルドゥインは似つかわしくない、急におどけた口調になって、言葉を続ける。

対してその目は、月の光を照り返して燦々と燃え上がっていた。

二・

人・

「まあ、

いたとて詮無きことよ。出来損ないをいくつ重ねたとして、わが力には遠く

最・

初・

か・

ら・

お・

か・

し・

か・

っ・

た・

の・

だ・

及ばぬ。ようやく、どことなく理解できた。単に、

。考えて

もみよ、我が定命の器に封ぜられるなど、本来アカトシュでも出来えぬことだ。それが

出来るのなら貴様は要るまい。だがどうしたことか、それが実際に、今ここで起こって

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いる。ならば、貴様が本来のドヴァーキンと違う──別の何者であっても、さして驚き

はせぬ」

 小さくも雄大な、目に見えぬ翼を持つその背中は、大きかった。だから、男は縋った。

縋って、そして問うた、何故──と。

「忘れたのか? タムリエルの常識は捨て去ったほうがいい──お前が言ったのだぞ、

ドヴァー・キーン」

 アルドゥインが翻る。黒髪が踊って、打ちしなる尾のように鮮烈な弧を描いた。

フォル、ロセイ・ドヴァーキン

で、

ヴァー

ズーゥ・コラーヴ・ニド・

ノル・ドヴ・ド・ハイ

? 

 男はその言葉に顔を上げる。聞き間違えようはずも無い。それは、男とアルドゥイン

が、初めて会った時の言葉だ。目前のドラゴンは、逆光で真っ黒に染まっているが、た

だ紅の瞳だけは確かに男を睨みつけている。

 その朱を受けて、男の灰の目に、燻りが生まれた。

「言葉の意味を知らぬと見える。自らドヴァーを名乗るとは何たる不届きものよ」

 嬉しげに、朱の瞳が踊る。

 男には見えた。吹雪の中、はばたく漆黒の王が。こちらを見下ろし、雪の向こうで蔑

んで嗤う竜の顔が。

「出会った時より、お前は変わらず半端者だ。これまでもそうなのだ。これからもそう

293 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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だろう」

 男の目が燃え上がった。

「だがそれでも、お前はこのアルドゥインを打ち破った。ならば誇れ。己が存在に矜持

を持て。お前は混沌を打ち倒した英雄だ。姿形が変わったとて──お前の軌跡は確か

に、世界に残り続ける。これまでもそうなのだ、これからもそうだろう? なあ、ド

ヴァーキン」

 そしてドヴァーキンは立ち上がった。

 そうだ、人格こそ違うのかもしれない。しかし彼もまた、ドヴァーキンとして、英雄

として「Skyrim」を駆け抜けた一人である。ならば何を恐れることがあろうか、彼

の足跡こそドヴァーキンの歴史であり、「Skyrim」の歴史なのだから。

「ありがとう、アルドゥイン」

 ドヴァーキンは窓の桟に手をかけて、未だ淀むところはありつつも朗らかな声をアル

ドゥインにかける。

「これで、貸し借り無しだ。しかし忘れるなドヴァーキン。本来、我とお前は相容れぬ存

在。馴れ合うことはせぬ。お前を食らうのは我だし、我を殺すのはお前だ」

 アルドゥインは笑った。言葉に反して少女らしい無邪気な笑みだったが、同時に高潔

で獰猛であった。ドヴァーキンは、彼女にしか出来ない、綺麗な顔だと思った。

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 きっとドヴァーキンも同じような顔をしているのだろう。ドヴァーキンは、確かにそ

う感じた。

   ◆

   夢を見た。

 雪が薄く散り、地面は真白で埋め尽くされている。そこに一体の黒いドラゴンが横た

わっていた。刺々しく荒々しい外見のドラゴンは、幻想的な純白の世界に際立って映え

る。とても低い声で、世界から失われた言葉を呟く。焦点の定まらぬうつろな目で、何

処までも続く、終わりの無い雪景色を見つめながら。外見からは想像もつかぬ、か細く

高い声で──ただただ人形のように同じ言葉を繰り返す。

 しかし、一人の男が黒いドラゴンに寄り添った。すると、ドラゴンは呟かなくなった。

 彼らは互いに、お互いの温もりを感じあった。例えそれが刹那の幻想だったとして

も、雪が降る間だけだったとしても──互いにそこにいる、そこにある。それを、感じ

取れる。それだけでよかった。

295 Dovahkiin Ahrk Alduin─5

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 きっと、それが彼らにとっての理想なのだろう。

 ──時にして、今日はドヴァーキン達が拠点を発って約二週間ほど。

 また、アウラ・ベラ・フィオーラが消息と報告を絶って、三日後である。

 幾千幾万の星が、大いなる月を讃えて狂乱の輝きを強めたその夜、一つの報告が、火

急としてナザリックに届けられる。

 ドヴァーキンの旅は、未だ終わらない。

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そして、雪はトネリコに降った─1

   淡く陽光の降り注ぐ、うららかな午後だった。

 森林の中にあるこの家も、それを享受していた。木製の素朴な窓は開け放たれ、太陽

の温もりが直接、綿のように溢れる。

 窓際のベッドで、穏やかに眠る彼女もその温かさに包まれているのだろう。安らかな

顔で、可愛らしい寝息を立てていた。金糸の頭髪は光に揺らぎ、そよ風が森の香りを乗

せて褐色の肌を撫でる。

 平和の午睡だとか、安寧のシエスタとかいう表現が良く似合う良き日であった。

 しかし、そんな情景に似つかわしくない動きが起こる。なんと、緑褐色の鱗に覆われ

た腕が、彼女の上着に突然手をかけたのだ。

 手は、そのまま上着越しに彼女の体をなぞっていく。華奢な肩から細い首回り、控え

めな胸、薄い腹と背──時には指で何かをもみ上げ、押し、執拗にまさぐった。動きか

らは、金貨一杯の宝箱から更なる財宝を求める貪欲さを窺える。どちらかといえば、手

より舌のねちっこさを感じる動きだ。

297 そして、雪はトネリコに降った─1

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 そして、鱗に濡れた手は少女の上半身から布団を引き剥がし、下半身へと移る。太も

もからつま先までを十分に、同様の動きでなぞり尽くした後、満足したのかその手は一

度引き下がった。

 だが、それで終わりではなかった。あろうことか、その手は少女の上着のボタンに手

をかけたのだ。手馴れた動きで、留め金を外し、速やかに少女の可愛らしい肌着を露出

させ、そして──。

「……んっ」

「あっ」

 悩ましげな声を出して覚醒した少女──アウラ・ベラ・フィオーラと、間抜けな声を

出して固まった鱗の手の主──デルキーサスの目がかち合う。

 どこかで鳥がさえずった。

「いやああああああああああああ!!」

 次の瞬間、アウラのけたたましい絶叫が、部屋を、廊下を、居間を抜け家中に木霊し、

大森林を駆け抜ける。弾かれたようにデルキーサスはアウラから飛びのき、盛大に尻餅

をついた。

「どうかしたか! またハルメアス・モラか、それともシェオゴラスか!」

 すると、同じくけたたましく喉を鳴らして、ジェイ・ザルゴが木製のドアを開け放っ

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た。何事か、いつも人懐っこい笑みは鳴りを潜め、剣呑な顔つきでチーズのこびりつい

たおたまを振り上げ、部屋に闖入する。

 しかし、ジェイ・ザルゴが見たのはうっすらと涙ぐみながら胸元を隠すアウラと、湯

桶を頭から被ってずぶ濡れの、それでも必死に何か許しを請うデルキーサスの図であっ

た。

「待て! 俺は傷の確認を──」

「うるさい! この変態!」

「そんなに声を荒げるな、まだ──」

「だまれ、この──ッ」

 何事か言いかけた時、アウラは立ちくらんだようにその場でバランスを崩す。デル

キーサスがそれを抱きとめ、ジェイ・ザルゴも慌てて近寄った。

「女の子は丁重に扱わなきゃ」

「茶化してる場合かジェイ・ザルゴ! ああ、ほらこんなに真っ青になって──」

 デルキーサスは自らの腕に倒れ付した少女を優しく抱き起こす。褐色の肌は生気が

抜けていくように見る見る彩度を落としていき、色違いの両目はそれぞれ枯れていくよ

うに淀んで行きつつあった。

「離、せ……離してよ──どうせッ、あんたら……あいつの……ハルメアス・モラの──

299 そして、雪はトネリコに降った─1

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家来、か、なん、か……でしょ……!」

 その言葉に、デルキーサスとジェイ・ザルゴはすぐさま顔を見合わせあう。二人の顔

にあるのは確信と、それに埋もれた小さな絶望感だった。

「なあ、アウラ。聞いてくれ。ああ──大丈夫だ、大丈夫だとも。俺はデルキーサスだ、

分るか? まだ君は精神が混乱している。俺達は自己紹介を済ませたはずだし、あの邪

神の手先でもなければ変態でもない」

 デルキーサスの腕の中で、アウラは短く、荒い呼吸を繰り返す。その律動にあわせて

新緑と紺碧の眼が揺らぎ、何かを探るように、或いは何かに怯えるように焦点を乱し続

ける。デルキーサスはそれに伴って噴出する脂汗を、湯を含めた薄布で優しくふき取っ

た。

「そうさ、アウラ・ベラ・フィオーラ。もう、大丈夫だよ。心配ない。この大魔術師ジェ

イ・ザルゴが、君の安全を保障する。だからほら、安心して君はベッドに戻るんだ。も

うじきあったかいエルスウェーア・フォンデュが出来上がるからね」

 ジェイ・ザルゴもまた、デルキーサスにあわせて声をかけ、剣呑な顔からいつもの笑

顔を優しげにアウラに向けた。

「……デルキーサス……ジェイ・ザルゴ……」

 アウラの呼気が次第に安定し始める。打ち震えぼやけ始めた双眸も、やがてその光を

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取り戻し始めた。

 ──そうだ。あたしは──こいつらは──

 ようやくアウラの脳が覚醒し始め、体と現在の状況の同期を始める。

 まず、彼女はこの家に忍び込んだ。それ自体はなんとも無いことだったが、彼女はそ

こで会ってしまったのだ。蠢く深淵、知識の悪魔、あらゆる命を冒涜する極まれり混沌

外なる邪神

デイドラロード

──

"ハルメアス・モラ"と。

 その際、ハルメアス・モラに必死に抵抗し続けたアウラは精神を磨耗しきり、意識の

限界を迎えてしまった。何を隠そう、それを助け出し、彼女の献身的な看護を行ってい

るのがデルキーサス、ジェイ・ザルゴの両名である。

「……行かなきゃ、でも──あたし、伝えなきゃ。帰らなきゃ」

 記憶の整合がとれたことで、彼女は落ち着きを取り戻したかに見えたが、今度は焦燥

が、平静を削いだ。

 ──こうしてる場合じゃない。早く、早くナザリックに、アインズ様に──

 そしてひとしきりもがいたところで、急激な頭痛がアウラを襲った。世界が色を失う

ほど強烈に、邪悪が内部から頭を引きちぎろうとしてくる。それは激痛などという生易

しいものではなく、この世の痛みを形容する言葉を出しつくしてもなお、例えられぬほ

どの痛みだ。

301 そして、雪はトネリコに降った─1

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 アウラは声にならない叫びを上げる。頭を抑え、その痛みを跳ね除け堪えようとする

が──それより早く、彼女の脳の防衛機構が、彼女の意識を安寧の暗闇に沈めた。

「……アウラ?」

 急に脱力した彼女を心配して、デルキーサスは呼びかける。念のため心音を確認する

が、規則良い鼓動は不定を刻む事無く、アウラの生を証明している。

「……眠ったかい?」

 ジェイ・ザルゴのその問いかけに、デルキーサスは首肯した。アウラは安らかに目を

閉じ、先程までの容態とは打って変わって穏やかな寝顔に戻っている。

 ただ、その額に一筋の脂汗が浮き出て、彼女の寝顔に軌跡を作って流れ落ちた。大粒

で、まるで涙のように額から目を、頬を伝う。

 デルキーサスはそれを丁寧にふき取った。それが彼女を起こさぬように。それが彼

女の苦しみを、少しでも吸い出してくれたことに祈りつつ。

「……」

「……回復にはもう少し時間がかかりそうだね。回復魔法が、精神にも作用すればよ

かったんだが」

 デルキーサスがアウラを抱き起こし、ベッドに戻すのを見届けた後、おたまを手でい

じりながら、ジェイ・ザルゴが言う。

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「ああ、だがこの子は相当強い子だったんだろう。完全に精神を汚されたわけじゃない

し、支配されても居ない。いずれ必ず回復するし──それまで、絶対に俺達がこの子を

守る」

 もがいたことによって乱れたアウラの髪を、デルキーサスはゆっくりと整える。ま

た、太陽が柔らかくアウラの顔を照らし始めた。

「そうとも。けれど、あまり余裕が無いのもいけないよデルキーサス」

 朗らかに笑った後、ジェイ・ザルゴはおたまの柄でデルキーサスを小突く。

「で、どうだった? 少しはエルフもいいとか──思っちゃったりしたんだろうか?」

「は?」

「この子は──うん、この子は間違いなく美人になるよ。ジェイ・ザルゴはそう思う」

 顔中の毛並みを朗らかから意地の悪さに変えて、張り詰めた表情を崩したデルキーサ

スをジェイ・ザルゴは笑う。

「馬鹿を言うな……ドヴァーキンじゃあるまいし」

 デルキーサスが嘆息気味にそう言い放つと、ジェイ・ザルゴが喉で笑った。それから、

転移当初にセロが面白おかしく語ったドヴァーキンとアルドゥインの珍事を思い出し、

二人して静かに笑いあう。

 しばらくそうしていた後、どちらとも無く彼らは寝息を立てるアウラを見やった。

303 そして、雪はトネリコに降った─1

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 耳長はエルフの特徴だ。褐色の肌と森林で出会ったことから、彼らはアウラを

ウッドエルフ

マー

かと推測したが、それにしては顔立ちが人間種に近く、髪も自然に溶け込

まない色合いをしている。

 だが、そんなことはどうでもいい。どうしてアウラがこの家に居たとか、何をしてい

たか──それらも、彼らにとっては重要でない。

 彼らに共通して存在する、断固たる思いは二つ。一つは、必ずこの少女を守り、無事

に元の生活に戻すこと。もう一つは──いたいけな異邦の少女を食い物にしようとし

た、ハルメアス・モラを絶対に許さぬこと。

 それは、この場に居ないテルドリン・セロも同じである。彼は今、その邪神の痕跡と

──付随して、消失したあるアイテムの捜索を行っていた。

「……ドヴァーキンか。帰ってきたら、怒られるかな?」

「まあ、そのときはそのときだ。全力で謝ろう」

 そのアイテムとは、ある二つのデイドラアーティファクトである。

 ハルメアス・モラの秘宝である、禁断の知識が書き込まれているという『黒の書』。

 そして、もう一つ──類まれぬ気まぐれの主、荒唐無稽をそらんじる不定の者、狂気

の王"シェオゴラス"が秘宝もまた、その姿を忽然と消していた。

 その秘宝とは、千変万化をその身で表し、喜怒哀楽にて有象無象を無常に象る狂乱の

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杖──名を、『ワバジャック』という。

 風で森がざわめいた。その風は間違いなくそよ風に違いなかったが、デルキーサスは

森のざわめきの方に、不穏さを感じ取った。

「だから……早く帰ってきてくれ、ドヴァーキン。大変なことが始まりそうだ」

 デルキーサスの声を、森のざわめきが打ち消した。

   ◆

   静寂のせいで、眼鏡を直す音すら大きく聞こえる。

 苛立たしげに腕を組む所作が、かすれた音を立てた。

 緊張と、不安と、また怒りから来る心音もけたたましい。

 杖を持ち直し、持ち手を静かに変えようとも、震える手がそれを許さない。

 最後に、硬質のがちり、という音が響き渡った。

「マダカ、デミウルゴス」

 耐え切れなくなった苛立ちを乗せて、コキュートスが口を開いた。

305 そして、雪はトネリコに降った─1

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 ナザリック地下大墳墓──玉座の間。当然玉座には至高の御方アインズ・ウール・ゴ

ウンの姿があり、傍らにはアルベドが侍っていた。玉座から低い階下には、階層守護者

達が勢ぞろいしていたが──その数は五である。正確な総数は八に一を足して九だが、

ここにいない執事長と第四、第八階層守護者を数えても八である。

 即ち、一人欠落している。その欠員とは無論、アウラ・ベラ・フィオーラその人であ

る。

 アウラがいない。アウラがここに居ない。守護者達はその事実を、それぞれの胸中に

どんな思いと共に抱いているのだろうか。

「……」

「デミウルゴス!」

 その思いをぶちまけるかのように、コキュートスが声を荒げた。

「やっています! 焦らせないでください、コキュートス!」

 デミウルゴスもまた、似つかわしくない声色で怒鳴る。

「……スマン」

 一旦何か言いたげに口を開きかけたコキュートスだったが、少しだけ青い複眼の光を

弱めることでそれを嚥下し、素直にデミウルゴスへ謝罪した。

 ──ソウダ、イマハ諍イナド起コスベキデナイ。

306

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 再度沈黙が訪れた玉座の間にて、デミウルゴスは力への集中──シモベたちの行使

と、情報の吸い上げに戻る。

 アウラが姿を消したトブの大森林と呼ばれるその森は、鬱蒼としすぎていて思うよう

に探索が進まない。その為かなりの数のシモベをデミウルゴスは行使しており、その集

中力は膨大に彼を削っていた。

 ただ単純にアウラを探すだけなら、もっと適任は居る。しかし、アウラがいなくなっ

た──何らかに巻き込まれたか、誘拐か、原因すら不明である以上、直接守護者が赴く

わけには行かない。かと言って、情報系魔法の使用は危険であり、加えてナザリックは

今だこの世界を未開である。派手には動けず、また大規模に行動することはむしろ状況

の悪化を促す。

 それらの条件をクリアしつつ、また確実にアウラを発見するためには、自分の手足の

ようにシモベを行使でき、且つ臨機応変さにおいては右に出るものの居ないデミウルゴ

スが適任だった。 

 しかし、さすがのデミウルゴスと言えど余裕など無い。焦燥に駆られる心は比例し

て、余裕とは対岸の苛立ちを大きくする。

 その原因は、森林の障害の多さでもなければ、集中力の消費量でもない。

 正しく彼は痛烈に実感していた。アウラが自分達にとって、どれだけ大きな存在で

307 そして、雪はトネリコに降った─1

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あったか。否、守護者一人を欠かすということが、自分達の心をどれだけ苛ませるか─

─それこそが最大にして唯一の原因である。

 それは想像出来たとしても決して想像したくない事であるし、まず想定の必要の無い

ことだと考えていた。

 だが、それは間違いだったのだ。現に、アウラは消息を絶ち、それによって自分達は

ここまで追い詰められることになっている。

 ──甘えていた。

 デミウルゴスは苦虫を噛み潰したように顔を顰め、自戒する。自分は、恐らく自分以

外の守護者達もまた、お互いを信じすぎるあまり見えていなかったことがあった。

後・

悔・

後・

悔・

教・

訓・

 しかし、それを

にしてはいけない。

でなく、

とせねばならない。

 ──どこですか、アウラ……あなたは何処に居るのですか……ッ!

 よって、アウラは必ず助けねばならない。いや、必ず救い出す。デミウルゴスは、彼

女の消失が報告されたその日に、そう固く誓ったのだ。

 そうであったのだが──デミウルゴスの分析では、アウラが生存している確率は半々

である。それが報告されてから、まだ一日も経過してないが、報告された時点で消失か

ら三日経っている。三日──何かあっても戻ってくるには十分すぎる期間であり、何か

考・

え・

ら・

れ・

る・

あれば十分に──

期間である。

308

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 それに大森林をシモベの視界を共有してみると、どこか不穏げに森がざわめいてい

る。彼は詩人でなく、むしろ対極に位置する現実主義者だが、どこか嫌な予感をぬぐい

きることが出来なかった。

 ならば、それは焦りから来る幻覚であればよかった。余裕の無い自分が生んだ悲観的

な憶測だと、鼻で笑えればよかった。

 デミウルゴスは、シモベを通じて唐突に悲鳴を聞いた。

 瞬間、彼の何かに亀裂が入ったような気がした。

 彼の、デミウルゴスの良く知る声だった。

 良く知る声が、悲鳴となって彼の耳に届けられた。

 それの意味するところは、なんだろうか?

 聡明な彼なら、瞬時に答えを導き出せるだろう。

 だが、本当にそれは導き出して良い答えなのか。

 けたたましく、何かを拒絶するような感情が込められた、普段なら快活さの中に少女

らしい乙女の響きがあって、デミウルゴスの知っている、良く知る、ありえない──つ

い先日までは屈託の無い笑顔を、共に苦楽を、これまでもこれからもいつまでも、待ち

続けて、一緒に、ナザリックの階層守護者として、ああ、そう、これから、なんと、こ

れからじゃないか、アウラ。

309 そして、雪はトネリコに降った─1

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 ──アウラ。聞き間違えようはずも無い。

「アインズ様、先程アウラと思しき声を、我がシモベが探知いたしました」

 デミウルゴスはそうして、上の空で告げた。

「何ッ! 確かかデミウルゴス!」

 一瞬、表情の無いはずのアインズに喜色の笑みが浮かんだように見えた。それほどま

でに喜ばしい感情を秘めた声だった。

「デミウルゴス、ヨクヤッタ!」

 コキュートスが興奮して、普段聞いたことも無いような高音で叫ぶ。

「お姉ちゃん、ああ、よかった──おねえちゃん」

 マーレが腰を抜かしたようにへたり込む。

「……ふん、心配ばかり、し損なりんした。まあ、最初から心配なんてしてないけどぇ」

 顔を顰めながらも口の端を嬉しさに歪め、シャルティアはそっぽを向く。

「落ち着きなさい、あなた達。場所を特定しなければ、迎えに行ってはあげられないわ」

 言葉に反して、アルベドが喜色満面の笑顔で胸をなでおろす。

 だが、それらは全て、デミウルゴスの目には届かない。彼はただ、何も無い、本当に

何も無いがらんどうの中空に目を投げ出していた。耳には単一で雑多に、遠く混ざって

くぐもる雑音が響いた。

310

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「ゥオッホン! さて、静かにせよ、お前達──まだ声だけだ。アルベドの言うとおり、

実際に見つけてやらなくては……それでデミウルゴス、アウラは──」

「悲鳴でした」

 デミウルゴスは、言葉を被せてただ義務的に呟いた。主の言葉に、ただ報告せねばな

らないと反射的に声を出した。アインズの言を遮るなど、普段なら咎められ、処罰すら

されるべき愚行である。

 だが、今この時は──その発言を聞いた者に、それを咎める気など一切出てこなかっ

た。

 その言葉は、一転して嬉々にまみれた彼らを、衝撃と共に絶望へと追いやったのだ。

 故に沈黙が訪れる。誰もが皆、デミウルゴスの言葉を疑って、誰もが皆、デミウルゴ

スの言葉を待った。嘘だと。ちょっとした冗談だと。嬉しさに負けて似合わずお茶目

してしまいました、と。なんでもいいから、皆、彼に何かを言って欲しかった。

「……嘘、よね? デミウルゴス」

 アルベドのその声に、デミウルゴスはようやく我に返る。なんという失言、なんとい

う浅慮か。普段の彼ならばあの場で絶対に口に出すことは無かっただろう。失礼を承

知の上で壇上でアインズだけに報告するか、もしくは事の全体像をつかむまでそ知らぬ

顔で居たことだろう、

311 そして、雪はトネリコに降った─1

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 ──私は、なんと……愚かな……

 デミウルゴスは、膝をついた。

 彼は最後まで何も言わなかったが、それが、事の重大さを雄弁に物語った。

 マーレの泣き出す声がだけが、ようやく鮮明に聞こえた。

   ◆

  「……殺してやる」

 最初に沈黙を破ったのは、アインズではなく、アルベドでもなく、シャルティアだっ

た。

 彼女は激しく歯を食いしばり、血の涙すら流れんと目を充血させて怒りを滾らせる。

「……殺してやるッ!」

 刹那、怒声と共にシャルティアは翻る。頭髪は憎しみに燃える業火の如く立ち上り、

あらん限りの力を込めて地を踏みしめ、玉座の間の出口を目指した。

「……」

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 だれもが一様に、がらんどうだった。シャルティアには、一番最初に、そこへ真っ黒

に茹る憎悪が目一杯に流れ込んできたのだ。

 状況は、想定出来る限り最悪の結果に近かった。

「……ッ! 待ちなさい! シャルティア!」

 シャルティアの姿に意識が跳ね、我を取り戻したアルベドが、全力で彼女を呼び止め

る。

 しかし、シャルティアは止まらない。彼女にあるのは、ただ友の復讐を果たす為の怨

家族アウラ

嗟だ。彼女は今、

を助くというたった一つの、同時に絶対に失ってはいけない使命

を帯びた一条の大槍でしかない。

「シャルティア! 待ちなさい! シャ──」

「シャルティアッ! 待てッ!」

 シャルティアの足が止まる。そう、彼女は槍でしかない──槍を、持ち手が引き止め

た。

「シャルティア、待つんだ」

 暗い眼下にシャルティアのそれと同じ赤い瞳が灯る。いや、果たしてそれはシャル

ティアより大きな憤怒の炎であるかもしれない。だが、しかし。

「いいえ。待ちんせん。アインズ様の命といえど、これだけは守れんせん。わたしは、今

313 そして、雪はトネリコに降った─1

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すぐアウラの元へ行きんす」

 シャルティアは振り返らずに言った。感情の篭っていない音程で、抑揚無く淡々と。

「駄目だ」

「アインズ様は!」

 弾けた様にシャルティアは体を揺り動かして、前のめりに手を広げる。どこか悲痛な

顔で、声で、その視線を玉座の上へと投げた。

「アインズ様はお悔しくないのですか! アインズ様は、アウラが心配でないのですか

! アウラは今こうしている間にも、助けを求めているのかもしれない! もしかした

二・

度・

と・

会・

え・

な・

い・

か・

も・

し・

れ・

な・

い・

ら、二度と──

! わたしには、それを黙って見ている事

なんて出来ま──」

誰・

が・

黙・

っ・

て・

見・

て・

い・

ろ・

と・

言・

っ・

た・

私・

は・

待・

て・

と・

言・

っ・

た・

ん・

だ・

ッ!! 

ッ!! シャルティア・ブ

ラッドフォールン!!」

 絶叫はつんざき、響き、アインズの声は玉座の間に爆発した。その声に、守護者達は

皆蒼白となって、我へと返り、ひれ伏す。だが、シャルティアはひれ伏さなかった。生

気の無い彼女ですら、極限を通り越して顔が青ざめていたが、細い足がロングスカート

越しでも分るほど震えていたが、それでもなお、目は、目だけはアインズを捉えて離さ

なかった。

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「もう一度言う。私は、待てと、言ったんだ……悲鳴だけだ──そう、今は、声だけだッ

!」

 そう言い放って、アインズはシャルティアの反応を待たず、すぐさまデミウルゴスに

視線を移す。

「デミウルゴス! 状況は!」

「……ッ! は、はっ、只今、アウラと思しき悲鳴の方へ全シモベ共を向かわせておりま

す! まもなく、第一陣が到着します!」

「アルベド!」

「はっ!」

「状況が確認でき次第すぐに発つ! アウラの状況に合わせられるよう、迅速且つ最大

限に準備せよ! それとデミウルゴス! 情報系攻性防壁を懸念して最低限の探知系

魔法しか許可しなかったが、これより全て使用を許可する! 何体かシモベを失うかも

しれんが、問題ないな!」

 アインズのその言葉にアルベドは恭しく跪き、デミウルゴスも迷いが晴れたように礼

を返した。

「コキュートス! そして──シャルティア!」

「ハッ!」

315 そして、雪はトネリコに降った─1

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「……はっ!」

「お前達は、アウラ救出の先鋒を任せる! 仮に戦闘が必要になった際、切り込みは頼ん

だ!」

「御意!」

「……! お任せくんなまし……!」

 コキュートスが冷気を勢い良く噴出させ、シャルティアははっとした顔の後、不敵な

顔で微笑んだ。

「──マーレ」

 そして最後に、アインズは跪きながらも今だ小さくしゃくりあげるマーレに声をかけ

る。

「……アインズ様──」

「……マーレよ。お前の姉は、私が、いや、お前も含めた私たちが──必ず見つけ出し、

ナザリックへ連れ帰るのだ」

 アインズは、右手に握り締めたスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの石突を

床で鳴らす。

「アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて。絶対に」

 ──そうだ、まだ決まったわけじゃない。

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 頭を深々と下げるマーレから視線を離して、アインズは思考に身をやつした。

 ──悲鳴だ。悲鳴でしかない。アウラが襲われていた、攻撃されていた光景を見たわ

けじゃない。そもそもそれなら、悲鳴より先に爆音などの異常が現れるはずだ。仮にも

百レベルNPCを一切の音無く、ただ悲鳴一つだけで葬り去るなど早々出来るもんじゃ

ない。なにより──この世界のレベル的に、それを為し得る存在が一体いくら居る? 

確かに居ておかしくないが、溢れかえっているわけでもない。なら、まだ全然、救いは

ある。

 そうして冷静に考えられたのは、ひとえにアンデッド特有の沈静化作用だろう。全く

持って苦々しげに感じることもある能力だったが、こういうときばかりは本当に助かる

力である。

 そして、アインズは目を閉じ、デミウルゴスからの報告を待った──が、すぐに違和

感に気づく。違和感に浸った瞬間は詳しく感知できなかったが、目を閉じていくばくか

のときが流れたときだっただろう。

 あまりに静か過ぎる。守護者達の所作や、動きから発せられる音──哀れなマーレの

すすり泣きすら、聞こえなくなっていた。

 ──なんだ?

 そして、アインズはゆっくりと目を開いた。

317 そして、雪はトネリコに降った─1

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 霧。第一にそれ。

 斜めに傾いたテーブル。第二に、これ。

 椅子。第三に──自分が四脚の内一脚だけを地面に設置させ、絶妙なバランスで直立

している椅子に座っていることに気づいた。テーブルが斜めになっているのではなく、

アインズが斜めの椅子に腰掛けていたのだ。

「な……ん──? 何だ? 何が起こった!」

 跳ね除けるようにアインズは椅子から飛び降りた。椅子は、ヤジロベエのように揺ら

ぎながら、それでも不思議と倒れることは無い。

「アルベド!」

 返事は無い。

「デミウルゴス!」

 返事は無い。

「コキュートス!」

 返事は無い。

「シャルティア!」

 返事は無い。

「マーレ!」

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 返事は無い。

 アインズの声は霧に吸い込まれ、音域を無くしやがて空間に消え去った。

 そこで、アインズははっとしてもう一度叫ぶ。

「アウラ!!」

「は〜い」

 その時、声がアインズの後ろからかかった。が──それはアウラの声でなく、全く彼

女でないとはっきり分る、しわがれた老人の声だった。

 アインズはすぐさまそちらへ身を返す。

 その声の主は、霧の中にあっても不思議とはっきり姿を保っており、また珍妙な出で

立ちだった。

 赤や青や紫や、いろいろな色を混ぜて切り貼りしたような奇怪な衣服。靄のかかった

山のように薄ら白い毛髪と髭。浅黒いのか色白いのか良く分らない肌。たった一つ─

─明らかに気が狂っていると断定できる、ぶっ飛んだとしか言いようの無い、焦点の定

まらない瞳孔。それが、アインズをしかと見つめていた。

「何者だ……ッ!」

 アインズは咄嗟に身構える。

「ああ? 何者? なにものだと!? この、シェオゴラスに向かって? 人の家に土足

319 そして、雪はトネリコに降った─1

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で上がりこんだのはお前だろう? この骨!」

 怒り狂った顔で、老人──シェオゴラスは、アインズを怒鳴り散らした。

「んん、ああ──いや、上げたのはワシだったか? いや、そもそもここはワシの家か?

 まず──なんだろうなここは。ははっ、ワシにも分らん!」

 一転不思議そうな顔で周囲を見渡したかと思うと、急に朗らかな顔で愉快に笑い始め

た。

 ──なんだ、こいつは……!

「ああ、違う違う、ここはそう、オホン。ようこそ、不定かつ定命──定命? ああ、口

上を真似るのはよそう。ようこそ、骨! ここは多分、シヴァリング・アイルズと呼ば

れる世界──だと思う。そして何を隠そう、ワシこそ"狂気の王"シェオゴラス! 

……多分な」

 おどけたように言った後、老人は何がおかしいのか、また愉快そうに腹を抱えて笑い

出した。

 ──本当に、一体何なんだこいつは……。

 ふと、アインズは右手のスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの感触に違和感

を感じた。

 アインズは、右手を手繰り、一瞥する。

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 そこに握られていたのは、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンではなく、百

面相を貼り付けて、珍妙ななりをした木製の細杖であった。

321 そして、雪はトネリコに降った─1

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そして、雪はトネリコに降った─2

   「なんだ──これは……杖?」

「杖? ああ、お前にはそれが杖に見えるのか」

 握っていたはずのスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを探し、アインズは視

線を霧に彷徨わせる。いずれも、藍に霧吹き滲んだ景色。画用紙に、水彩絵具を秩序無

く垂らした煩雑な光景。霧はアインズにとって鬱陶しいものだったが、それが何故なの

か、彼は腑に落ちなかった。

(……視界が制限されるからに決まっている)

 彼はそう結論付けた。また、それを振り払うように一通り首を回したが、スタッフ・オ

ブ・アインズ・ウール・ゴウンどころか、先程まで居た守護者達の面影も、やはり見当

たらない。

 ただ、異様に傾いた椅子と机、シェオゴラスと名乗った煩わしい老人、そして──何

よりアインズ自身の存在だけが、しっかりと形をなしている世界だった。

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(なんだここは……見渡す限りの霧と、意味不明な椅子。情報が少なすぎる。しかし、何

らかの干渉を受けたのは確かだ……最高の警備と対策を施した玉座の間に居た、俺に対

して。シェオゴラス──プレイヤーか? ユグドラシルでは聞き覚えのない名前だが

……)

 アインズの思考が目まぐるしく回転するが、痺れを切らしたような怒声が飛ぶこと

で、それは打ち切られた、

「骨! 質問に答えんか!」

 シェオゴラスのしわがれた声だ。

「……ここは何処だ」

 しかし、アインズはそれを無視して質問を返した。

 アインズに、シェオゴラスへ付き合う義理は無い。ましてそんな時間などあるはずも

無い。彼は、アウラの為に、行動せねばならないのだ。アインズは状況の分析を取りや

め、帰還の方法を模索する。

(ナザリックに向けて介入できるほどの力……間違いなく脅威だが、今は何よりもまず、

早く戻って、皆とアウラを迎えに行かなければ)

 アインズはマーレに、アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けてそう誓ったのだ。それ

はあらゆる事柄を地に伏せて、至上の命題としたことを意味する。彼は、必ずアウラを

323 そして、雪はトネリコに降った─2

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無事にナザリックへ連れ戻さなければならない。もしそれを違えば、彼はアインズ・

ウール・ゴウンを──かつての仲間達を裏切ることになる。

(なにより、ぶくぶく茶釜さんの遺児といっても良いアウラを、失ってたまるものか!)

 この無意味な一分一秒が、アウラの命を着実に削っているかの知れないと考えると、

アインズは居ても経っても居られなかった。

「なんだ、ワシの聞き間違いか? 最近耳かきをサボっていてな。ワシにはどうも、お前

が質問に答えたようには聞こえんかったな?」

 しかし、一方のシェオゴラスは、お茶らけた手つきで片耳をほじり始める。その挑戦

的な目は、アインズの内心を見透かしているかのように、的確に彼の焦りを蔑ろにした。

「……もう一度だけ、聞いてやる。ここは何処だ。いや、どこであっても、いい。私を、

すぐに元の場所に戻せ」

 その仕草に、沈静化までも行かない苛立ちがアインズの心を炙る。

 だが、相手は最高レベルのセキュリティを施したナザリックに、情報干渉出来るほど

の実力がある。アインズが事を構えるのは、不味すぎるし、彼もそれは理解している。

ただし、確かにアインズの怒りの炉には、火がくべられた。

 渇いた、何かの軋む音が響き始める。アインズがその怒りと焦りで無意識に右手を握

り締め、細杖を万力のように締め上げているのだ。

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 その時、ふとアインズはシェオゴラスの目線の行き先が、自分ではなくなっているこ

とに気づく。未だに挑発的で憎たらしい顔を維持しているが、アインズの持つ杖へ一瞥

を繰り返していた。

(……物は試しか)

「……ふーむ。よほど、余裕が無いと見える。お前は骨だが、骨太でないな……ああ、分

るか? 今のはちょっとしたジョーク! つまり……皮肉だ! ああああ、待て待て待

て! わかった、わかった! わかったよ……ワシの負けだ。頼むからそれをへし折ら

んでくれ。ほら、悲しげな顔で──なんとも可哀想だと思わんか、人情無し」

 シェオゴラスが苦い表情でわざとらしいため息をつく。

 アインズが、力を込めて杖を握り締めたのだ。

 シェオゴラスはこの杖を壊されたくないのか、いままでのおちょくる姿勢から回れ右

して、実に真剣な面持ちに様変わる。

(ようやく、話をする気になったか。スマートじゃないけど、これでいい。奴も争う気は

無いのか?)

 心の中でアインズはため息をついて、シェオゴラスへと向き直る。

「さて、何の話だったか……悪いが、もう一度言ってはくれんか? ワシは物忘れが激し

いのでな……これは冗談じゃないぞ。誠に遺憾だが、本当だ」

325 そして、雪はトネリコに降った─2

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「ここは何処だ。そして、私を元の場所に戻せ」

 手短に、かつ重厚にアインズは含みを込めた声色でシェオゴラスを威嚇する。やはり

少しは話をする気になったのか、今度の彼は姿勢を正しつつ、しっかりとアインズの目

を見ていた。

「ああ、そんな話だったか。しかし、それは本当に重要か? おまえにとって、何である

か? 一体全体、何だというのか?」

 しかし、戯言は相変わらず繰り返される。アインズは、言葉に静かな怒気を込めると

共に、明確な敵意と憤怒をシェオゴラスに叩きつけた。溜まったアインズの苛立ちは、

今すぐにシェオゴラスを捻り殺そうとしている。

 とは言うものの、やはり、相手は未知数である。ナザリックの防壁を破る以上、どう

しても格上である可能性が十分にある。その場合、例えばシェオゴラスを殺すことでこ

の空間から逃れられるとなっても、リスクの方が圧倒的に大きい。

(……今は、冷静になるんだ)

 高鳴る心臓に合わせ、肋骨が震えるような感覚が彼に付きまとう。アインズには肺が

無い。心臓も無い。よってそれは間違いなく錯覚であるのだが、いくらそれを理解して

も、自分に言い聞かせても、落ち着くことはなかった。

「ふざけるな」

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「ふざけるな? 狂乱の王子に、ふざけるな、とは……はぁ、無知とは恐ろしいものだな

……ま、いい。いいともさ。ならば、狂言は回すものだし、議事は進めるものだ」

 そんなアインズの胸中を察してか、ようやく、シェオゴラスは論を続ける意思を言葉

の端に見せた。時を同じくして、アインズの鎮静化も追いつく。

(よし、それでいい。良く耐えた、俺。三度目は無いと思えよ、クソジジイ……。まずは

場所……と言いたいところだが、やっぱり戻してもらうのが先だ。出来る限り状況と

……このジジイの詳細を覚えておいて、ナザリックに情報を持ち帰るだけにとどめよ

う。さて──)

 短い考慮の後、アインズは再度シェオゴラスへ問いかけようとした──が、それより

早く、シェオゴラスが意地の悪い笑みを浮かべるのが見えた。

 アインズはそれに、紛う事なき嫌な予感を覚えた。

か・

き・

混・

ぜ・

棒・

「実はな……お前の持っているそれは杖だ! 杖以外に何に見える? 

か!?

 ムハハハ──」

 その予感は、見事に的中した。

 仏の顔も三度までと言う。アインズの怒りは、今度こそ爆裂して、彼の中に衝動を生

んだ。

 鎮静化は、間に合わなかった。

327 そして、雪はトネリコに降った─2

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 思い切り、思い切りアインズは目の前の老いた顔を殴りつける。右手の杖を振りぬ

く。シェオゴラスの顎がこめかみを基点に綺麗に横へスライドし、鈍く凄惨な音を立て

て破壊される。意外にも綺麗な白い歯と骨が霧の中に散らばって、唾液に混ざった血液

と共に妖しくきらめく。それらは全て、シェオゴラスが瞬きする間を狙い、違わず遂行

された。

「ほう? お前を殺せば、元に戻るかと思ったんだがな。それは間違いか。或いは、まだ

死んでないのか、ジジイ」

 怒りの頂点を通り越した時特有の、耳鳴りするような、澄み渡るような衝動が、純粋

にアインズを突き動かす。出来た血だまりがローブの裾を汚すことも厭わず、アインズ

は倒れ付した──というより半ば吹き飛んだシェオゴラスへと歩を進めた。

「なんということだ、ワシの顎が無い。いや、問題は髭の方だ」

 しかしというか、やはりというか、あれほど凄まじい殴られ方をしてもなお、シェオ

ゴラスは飄々としていた。

「話す気になったか?」

「いいや。残念だがこれでは話す舌がない」

 アインズは石突で彼の胸を突いた。石突がシェオゴラスの胸を貫き、行き場を失った

血の循環がそこから噴流となってあふれ出す。

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「いいぞ、その敵愾心、残虐さ……そして執着ともいえる義務感──違うな、利己心だ。

それこそワシが見たかったものだ」

 目を覆いたくなるような凄惨さの中、シェオゴラスは上顎だけで愉悦に笑った。アイ

ンズの眼窩に光る、数多の黒い感情の光が大きくなる毎に、彼はますますその上唇を天

に向ける。

「そうか。ならば、残念だがもう見納めだ」

 アインズは、純粋になりすぎて単一になった声で受け答えた。同時に片手で杖の天地

を返し、強くシェオゴラスの壊れた顔目掛けて振り下ろす。当たれば、間違いなく哀れ

な老人の頭は弾け、惨たらしい死体が転がることだろう。それを容易に想像できるほ

ど、苛烈な勢いだった。

 だが、アインズが砕いたのは憎たらしいシェオゴラスの顔ではなく、石か金属かも分

らぬ謎の大地だった。

 そして、先程までより若干落ち着いた調子の声が、アインズの背後からかかる。それ

でも耳障りなことには変わらず、間違いなくそれがシェオゴラスのものであると証明し

ていた。

「待て、せっかちめ、無礼者め、前後不覚の世間知らずめ。骨、今は楽しんでいる場合で

はないだろ? それは少しばかりお預けだ。後で、有象無象相手に思う存分発揮しろ

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……ああ──この骨……顎鬚の長さが前と違う。ワシを殴ろうとした奴は今まで大勢

いたが、実際に、しかもここまで手ひどく実現できたのはお前だけだぞ」

 彼の台詞を聞くや否や、アインズはすぐさま杖を振りぬこうとするが、シェオゴラス

がそれを手で制した。彼の体はすっかり元に戻っており、不思議と無傷の有様である。

「待て。お前はワシのしたい話をしたくないようだ。だが、ワシもお前のしたい話がし

たいわけじゃない。じゃあ、何でワシはお前に会いに来たのだろうな? ただ、ワシは

殴り合いをするためにお前に会いに来たわけではない。それは分る。だったら、ノルド

の誰かに会いに行くとも」

 シェオゴラスはうってかわって平坦な口調になる。それから、なにもない空間に腰掛

けると、まるでそれが玉座であるかのように不遜且つ悠然と振舞い始め、顎鬚の感触を

確かめた。

「ん、そうだとも。そうか? いや、待てよ? 喜べ。お前の大事な、アウラだかマーラ

だかディベラだかキナレスだか知らん、麗しの宝石は──生きてるぞ。どうだ、これこ

そ、ワシのしたい話で、お前の聞きたい話でないか? え?」

 唐突に脈絡無く現れたその事実に、アインズは杖を取り落とす。そして、愕然としな

がらも、どこか縋るようにシェオゴラスを凝視する。

「──なんだと?」

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「光を失いつつは、あった。だが、それは薄布で優しく拭き直され、今また、いずれは元

通りに輝くだろう。ああ、よかったな。キズモノにもなってない」

「……」

「ワシはそれを、お前に伝えに来たんだ」

 歓喜と、猜疑と、安堵と、緊張と、様々雑多の思考、感情がアインズの頭に混乱の迷

宮を生み出し、彼を閉じ込めた。

 しかし、それが切っ掛けになった。不死の闇が、現れ出でた混乱の迷宮と共にシェオ

ゴラスへの敵愾心を覆い隠して、消える。沈静化の光がアインズを包み、また元の冷静

な思考回路が蘇ってくる。

(なんだ? 本当にわからん。一体こいつは何で、どうしてアウラの無事を伝えに? 

いや、それより本当にアウラは無事なのか? ……そのまま聞いたところで答えが返っ

てくるとは思えないけど、聞くしかない)

「──それは、本当か?」

「本当だとも、しかし、ワシはうそつきだからな。嘘かもしれん。ただ、これに関しては

本当に本当だとも」

 アインズの予想に反して──果たしてそれがまともなのかどうかは置いておいて─

─シェオゴラスからは返答があった。

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「……どうしてお前がアウラの無事を?」

 アインズはそのまま質問を続ける。

「さあ? 単に退屈になるのが嫌だったから──では駄目か? 満足せんか? ああ、

違うか。何故知っているか、ってことか? あん? だったら簡単なことだ」

 短く鼻で笑った後、シェオゴラスは言う。

「ワシはデイドラの王子の一人、支離滅裂の神、シェオゴラスだぞ」

 アインズを小ばかにした口調で、今度は長く、シェオゴラスは笑う。

(つまり……信用するかしないかは俺次第……ってことを言いたいのか? いや、そう

じゃないんだろうな。多分違う。ここまでの言動はわずかしかないが、強烈にこいつを

分った気がする。本当に何なんだ、こいつは……全く、なんと言うか……)

「……滅茶苦茶だ」

 アインズは端的に、率直な心境を吐露した。

「だからそう言ってるだろう。馬鹿な骨だ。空っぽだ」

 言葉の調子とは裏腹に、どういうわけかシェオゴラスは満足げに頷く。

「さて、さて。正気に戻ったな。早すぎるが、まあ仕方ない。狂言は回すものだし、議事

は進めるものだ」

 と言うが早いか、シェオゴラスは途端に頷きを止め、見えない玉座を蹴り上げるよう

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にして立った。そしてすぐ、何かに気づいたように考え込む素振りを見せる。

「ということはだ……ここはもうもたん! 急速にしぼんでいく! はは、やはりここ

はワシの城ではないな! そんなことは、最初から分ってたがね? ……これも本当

だ。嘘じゃないぞ」

「……どういう意味だ?」

 手を打ってはしゃぎ始めるシェオゴラスを、アインズは半ば諦めた目で眺めて言う。

「意味? 理由か? 問う相手が間違っているぞ! お前は山彦に名を問うのか? 頭

のおかしい奴だ!」

 その言葉に、またも瞳孔を細めたシェオゴラスだったが、直後打って変わって愉快に

口の端を吊り上げると、明るい調子の声で、弁を続け始めた。

「そうさ、お前も奴も頭のおかしいやつだ。お前達だけでなく、定命は、皆、おかしいの

だ! ……ひとつ、ワシがしたかった話をする。お前は耳を傾けても良いし、傾けなく

ても良い。ここはシヴァリング・アイルズではない。そうとも、シヴァリング・アイル

ズであるはずがない。茶化して悪かったな。だが、それでもなお、或いは当然、わしは

紛れもなくシェオゴラスだ。確実にな。だから、ワシはお前であり、お前の中にワシは

いつだって居る。居ないときは恐らく無いし、あったとすれば──それは──それこそ

頭がおかしいのではないか? ワシはいつだってそこに、ここに、あそこに在って、在

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り続ける。どこにだって、在るべきに在る。気色の悪い触手の王子とは、全くもって違

うのだ」

 とめどなく溢れる、意味の感じられないシェオゴラスの言葉は、目まぐるしくその色

を変化させた。アインズとしては、やはり彼の話を聞いている時間など無く──アウラ

が無事という不確かな情報がまた、焦燥を助長し始めていた。

「何の話だ?」

 その為、アインズはシェオゴラスの話を遮った。彼に聞きたいことは山ほどあるの

だ。それを禅問答のような不可解な会話に費やしている暇はないし、勿論、意味不明の

能書きをぼうっと聞いているままではいられない。彼の先決は、変わらずアウラを助

く、それのみだ。

「人の話はちゃんと聞け! おいおい、本当にさっきから、無礼な奴だ。ワシはお客様だ

ぞ。確かに招いたのはワシだが、お邪魔したのはワシだ。手土産も、ほれ、さっきのな

んとかいうあれがどうしたの話で──ん? 満足せんか? えぇこの欲張りめ! ま、

分っておった、分っておったとも。だから、そうしてお前に授けたんじゃないか」

 シェオゴラスはアインズの足元に転がった細杖を指差す。アインズはそれにした

がって目線を落としたのか、全く持って勢いだけの語調に滅入って視線を沈めたのか、

良く分らなかった。

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「ワバジャック!! どうだ、驚いたか? 驚いたよな? お前にやる、もって行くのだ。

持っていって、可能なら返してやれ」

「持って行く? 返す?」

 意味ありげな言葉に、アインズの疑問はまた、かさ張る。

「そう、お前は奴に会うべきだ! そうすれば、ワシが退屈することは最早無い!」

「待て、誰のことを──お前は何を知っているんだ、何を──」

「ああ残念だが、時間だ……いよいよもって、もう実に限界だ。お前の心のうんたらかん

たらは、ほにゃららどうこうしてしまったようだ。少し残念ではある」

 アインズの言葉が聞こえないかのように、シェオゴラスはしみじみした顔で、傍らの

机と椅子を眺める。ヤジロベエのように揺らいでいた椅子は、いつの間にか、椅子とし

て紛う事なき有様に戻っていた。

「一張羅は?」

 突然声を張り上げて、シェオゴラスはアインズのローブを指差す。

「よし! 顎鬚は? ……無いか」

「シェオゴラス!」

 アインズは声を張り上げて、老人の名を叫ぶ。その声に、目の前の白い瞳が少しだけ

光り輝いたような気がした。

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「ああ──ようやくワシの名を呼んだな。定命の者よ」

 シェオゴラスはそうとだけ言い、今までとは全く毛色の違う眼差しでアインズを見つ

めた。

「荷物は? 荷物は何処へ行った?」

 しかし、それも一瞬のことであった。目の錯覚か、見間違いか、それらと言い換えて

差し支えない数瞬の間だった。

「……なんてな。アインズ・ウール・ゴウン──それはお前が見つけるべきものだ」

 シェオゴラスが胸の前で手を広げる。アインズはその言葉が、何故か、自分の心の暗

い部分を射さしたような気がして、言葉を出すことが出来なかった。

「雪は冷たい、だがいずれ溶ける」

 そして、シェオゴラスは構えた手で、一つ拍手を打った。

 拍手の音が、視覚的には見えない円を作って、シェオゴラスを中心に広がる。その弧

が霧に、空間に触れる。すると、蝶が生まれた。

「しかし、それは長いほうがいい。深雪であればあるほどいい。そうすれば、雪解け水は

川になり、新たな命を生む」

 型抜きをしたように、ぽっかり中空に穴が開き、それがぽつぽつと、やがてははばた

きがけたたましい音鳴りとなって、空間を埋め尽くしていく。

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 いや、埋め尽くしていくのではない。蝶の飛び立った後が、真っ黒な闇の欠片が、徐々

に空間を蝕んでいるのだ。

 蝶が舞い飛び、幻想的に満たされると同時に、どこまでも続く深い暗闇が、音を立て

ず小さな世界を侵していく。

 綺麗に見えるが、恐ろしい。恐ろしいが、いつまでも見ていたい──アインズには不

思議とこの光景への警戒心は無く、ただその二つの思いだけが、見事なバランスで存在

していた。

「そっちのが面白かろう……では、骨……いやいや、アインズ・ウール・ゴウンよ。最後

に、再三名乗ろう。私の名はデイドラロード、シェオゴラス。覚えておいて、損は無い

ぞ」

 どこからとも無く聞こえたしわがれた声の後、再度、拍手が鳴った。

 それを合図に、アインズの意識は暗闇に落ちた。

   ◆

  

337 そして、雪はトネリコに降った─2

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 静寂のせいで、眼鏡を直す音すら大きく聞こえる。

 苛立たしげに腕を組む所作が、かすれた音を立てた。

 緊張と、不安と、また怒りから来る心音もけたたましい。

 杖を持ち直し、持ち手を静かに変えようとも、震える手がそれを許さない。

 最後に、硬質のがちり、という音が響き渡った。

「マダカ、デミウルゴス」

 耐え切れなくなった苛立ちを乗せて、コキュートスが口を開いた。

 ナザリック地下大墳墓──玉座の間。当然玉座には至高の御方アインズ・ウール・ゴ

ウンの姿があり、傍らにはアルベドが侍っていた。玉座から低い階下には、階層守護者

達が勢ぞろいしていたが──その数は五である。正確な総数は八に一を足して九だが、

ここにいない執事長と第四、第八階層守護者を数えても八である。

 即ち、一人欠落している。その欠員とは無論、アウラ・ベラ・フィオーラその人であ

る。

 アウラがいない。アウラがここに居ない。守護者達はその事実を、それぞれの胸中に

どんな思いと共に抱いているのだろうか。

「……?」

 アインズ・ウール・ゴウンは、奇妙な感覚に囚われた。

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(……こ、こは……?)

「デミウルゴス!」

 アインズの目の前で、デミウルゴスとコキュートスがわずかな言い合いを起こす。し

かし、コキュートスがすぐに謝罪することで、その場は収まった。

(時間が……戻っている? 嘘だろ……いや、そんな……馬鹿な)

 時間を巻き戻すなど、魔法はおろか、ワールドアイテムですらそんな効果は存在しな

い。

「……デミウルゴス」

「はっ」

 先程のコキュートスへの態度とは打って変わって、デミウルゴスはアインズの呼びか

けに跪く。

「大変申し訳ありません、アインズ様……御身の前にて無様な姿を──」

「恐レナガラ、アインズ様。先ノ諍イハ、我ガ短慮ノ為シタコト。ドウカ、デミウルゴス

デハナク、コノコキュートスヲ──」

「あ、いや……ンンッ! 違うのだデミウルゴス、コキュートス。面を上げよ。何も私は

お前達を責めようというのではない。その気持ち、理解しているつもりだ。私が聞きた

ま・

だ・

見・

つ・

け・

て・

い・

な・

い・

な・

かったのはだな……デミウルゴス、アウラは、

?」

339 そして、雪はトネリコに降った─2

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 その言葉に、まずデミウルゴスとアルベドが訝しげな顔をアインズに向けた、つられ

て、他の三人も視線を移す。

「……は。アインズ様、それはどういう──」

そ・

の・

、・

左・

手・

の・

杖・

「待ちなさい、デミウルゴス。アインズ様、失礼を承知で申し上げます。

は・

一・

体・

な・

ん・

で・

し・

ょ・

う・

か・

 デミウルゴスの疑問をさえぎって、アルベドがスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴ

ウンとは反対の手、左手の細杖を凝視する。その顔はあらん限りの皺を眉間に寄せ、美

人が台無しになるほど鮮烈な敵意を浮かべていた。

「アインズ様、どうか、いえ、今すぐそれから離れてくださいませ」

「……アインズ様。無礼をお許しください。私も、アルベドと同意見でございます」

 矢継ぎ早に、デミウルゴスがアルベドに同調する。他の守護者をアインズが見やれ

ば、皆一様に信じられないほどおぞましいものを見たような顔をしていた。

(……え。なに、これ……そんなにやばいものなのか?)

 アインズは左手を手繰り、木製の細杖"ワバジャック"を見やる。

 喜怒哀楽を象った千変万化の無常な先端に、棒切れといっていいのっぺりしたみすぼ

らしさ。しかし、意外と細かな装飾が施され、それが妙に腹立だしい。けれども、率直

に言って、ちょっと凝ったただの杖である。少なくとも、アインズはそう感じた。

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(俺には、俺にはただの杖に見えるけどなあ)

 恐らく、理由は分らないが、アインズだけにはそう見えるのかもしれない。

「……これに関しては、後で、必ず説明する。この杖に関しては、すまないが、もうとや

かく言うな……とにかく今はアウラのことが先決だ。デミウルゴス、もう一度聞こう。

アウラを、まだ見つけてはいないな?」

 その言葉に憮然とするアルベドとデミウルゴスだったが、至高の御方の言葉に逆らえ

るはずも無く、押し黙る。ただし、デミウルゴスは問いかけに対し、首肯にて返事を行っ

た。

「ならば……聞け、お前達。恐らく、アウラは無事だ」

 そうアインズが言い放った途端、全員の──期待と、困惑と、諸々の入り混じった目

が、アインズを取り巻いた。

 アインズは思い出す。コキュートスの苛立ち、デミウルゴスの狼狽振り、アルベドの

困惑、シャルティアの怒り、そして、マーレの嘆き。

(仮に、例えばアウラがどうにかなったとする。しかし、シェオゴラスの言葉を信頼すれ

ば、アウラは無事だ。ならば、あの悲鳴は何だ? シェオゴラスが嘘をついていたとし

て──いや、やはり嘘ではないだろう。ナザリックの警戒網を突破してまで、嘘をつき

に来るメリットとは何だ? アウラの無事を伝えることで、シェオゴラス、或いはこの

341 そして、雪はトネリコに降った─2

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──"ワバジャックを返すべき男"にメリットが生まれると考えたほうが、妥当だ。何

故なら、アウラが無事であるというのに、デミウルゴスが聞いたまま、悲鳴を……アウ

ラの"もしも"を皆が連想してしまったらどうする? それは、決して、アウラを保護

する者達と穏便な接触にはならないはずだ。ならば、俺がこの時間に巻き戻った説明が

つかない)

 しばらく、アインズは沈黙した、自分の言うべき言葉、取るべき選択、出来うる限り

迅速に済ませ、口にする。

「しかし、デミウルゴス……お前は、すぐにでもアウラの悲鳴を聞くだろう」

「ひ、悲鳴……!」

「うろたえるな、マーレ。デミウルゴス。その悲鳴に動じるな……情報系攻勢防壁を懸

念して、最低限の探知魔法しか許可しなかったが、今より全て使用を許可する。正確且

つリアルタイムの状況を報告せよ。全て、私が判断する」

「…はっ!」

(……こういうことで、いいんだろう? シェオゴラス)

 デミウルゴスに指示を出し、アインズは玉座の背もたれにもたれかかる。

 そのすぐ後だろうか、むしろもたれかかかってすらいないかもしれない。言うが早い

か、デミウルゴスが報告を上げた。

342

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「……確かに、聞こえました。アインズ様。アウラの悲鳴です」

「……ああ、実にいいタイミングだ。実に、な」

 アインズは、わざわざ声を出して、ため息がついたことが分るように、わざとらしく

息を吐く動作を行う。

(掌の上で踊るとは、こういう気分なんだな)

 どこかで、しわがれた笑い声が上がるのを、アインズは聞き逃さなかった。

   ◆

   情報魔法を解禁されたデミウルゴスに、最早障害は無かった。鬱蒼とする森林など何

するものぞ、彼のシモベはアウラの悲鳴の元へ、迅速に集結しつつある。

 すぐに、手に取るように分った。まるで目の前にその光景が、感触と共に現れたかの

ように。

 鬱蒼とした森の中に、不釣合いな木造家屋と、ぽっかりと空く天蓋。そこだけは、う

ららかな午後の光が差して、天使が降誕するかのような神々しさがあった。

343 そして、雪はトネリコに降った─2

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 しかし、デミウルゴスはその情景に別の感動を覚えた。

 アウラ・ベラ・フィオーラ……行方不明だった同胞の姿を、確かにそこに見とめたの

だ。

 奥ゆかしい格好で、身を隠す姿、その前で布巾と桶をひっくり返しながら慌てる鱗を

持つ亜人。

(ああ、なるほど。さっきの悲鳴は、そういうことですか)

 デミウルゴスはついおかしくなって、鼻から息を漏らす。見咎めるような視線が彼に

刺さるが、別にどうということは無い。彼は、アウラを見つけ、そしてその無事を──

勘・

違・

い・

し・

て・

い・

れ・

ば・

な・

ん・

と・

も・

滑・

稽・

な・

結・

果・

と・

な・

る・

真・

実・

仮に、

を見たのだ。

「アインズ様。アウラを発見しました……仰るとおり、彼女は無事です。少し衰弱して

いますが……なるほど、数日内には完全に回復する程度だとか」

 安堵。それしかない。守護者達から、吐息が漏れる、デミウルゴスの心も同様に、緊

張からほぐれた。

 しかし、それ以上に、彼の心を包むものがある、それは、主──至高の御方、アイン

ズ・ウール・ゴウンへの敬服である。

 彼は瞬時に悟った。仮に、アインズの言葉無しにアウラの悲鳴を聞いたら、どうなっ

ていただろうか。

344

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 守護者一人が欠ける──仲間が、苦楽を共にした友の"もしも"は、恐らく彼らを混

乱に陥れるだろう、無事か否か、捜索しているときのデミウルゴスの心境が、なにより

それを雄弁に物語る。

(もしかしたら、わたしは醜態をさらしていたかもしれない。哀れなマーレを更に追い

詰め、おそらく、見る限りアウラを保護してくれたのだろう彼らと、一戦交える可能性

もあっただろう)

 デミウルゴスは、ちらと主人の左手を見やる。

 混沌が形を成したようにおぞましく、敬愛する至高の御方の側にあるだけで、不快に

なるほど異様な気質。

(きっと、あれはこの世にあるべきものではない)

 しかし、先程まで無くて、今ある違いといえばあれだ。デミウルゴスは、あれこそア

インズが守護者達の為に行使した力なのだと理解する。

(禁じられた力──そんな形容が似つかわしい。きっとあれは、アインズ様が我々の為

に身を切ってお使い頂いた禁呪に違いない。そうでなければ、アインズ様がアウラの無

事を知っていた説明がつかない。我々は、至高の方々の力の一端ですら知らないのだ

……ああ、やはり慈悲深きお方。我々を最後まで見捨てず、なおかつ救うためなら己の

身すらなげうつ覚悟……!)

345 そして、雪はトネリコに降った─2

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 デミウルゴスは、歓喜に騒ぐ他の守護者達の雑踏の中、一人アインズに向けて頭を垂

れる。

(アインズ様──なればこそ、このデミウルゴスもまた、御身の為に身をなげうつ所存で

ございます。御身の為とあらば、如何様にでもお使いください……!)

 ふと、そこでデミウルゴスは違和感を探知する。至高の存在への誓いを前に、なんと

も不躾だとは思うが、アウラの為である。早急に一体のシモベを向かわせた。

 そこには、さきほどアウラが保護されていると思しき家屋に入る、新たな影が四対、

映っていた。

(……一人は山賊風の男、品が無い。次に戦士のような女、そして……あれは吸血鬼か

?)

 だが、デミウルゴスを最も困惑させたのはそれらではなかった、最後の一人──黒色

のドレスを身に纏い、黒色の髪を揺らす少女が、確かに、シモベを通じてデミウルゴス

を見ている気がしたのだ。

(いや、見ている。確かに、あの小娘──私を見ている!)

 鮮血より赤い双眸、端正な顔に似合わぬ不遜な笑み。

 その少女は、間違いなく──デミウルゴス目掛けてこう言った。

「ドヴァーの塒を盗み見るとは、剛毅か、或いは単なる馬鹿か? ダーマーン、ズーゥ・

346

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コラーヴ・ゼイム・ヒン・ズル……我は声により、貴様を見ているぞ」

347 そして、雪はトネリコに降った─2

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そして、雪はトネリコに降った─3

  「アインズ様、申し訳ございません……発見されました!」

「何──デミウルゴス! シモベを下げ、魔法の使用を中断せよ!」

 アインズの激した指令が飛ぶ。

「はっ!」

 アインズが言うや否や、デミウルゴスは集結させていたシモベ達へ魔法の使用を打ち

切らせ、森林の中へ無造作に散開させる。同時に、デミウルゴスが共有していた視界も

立ち消え、半身を揺り起こすアインズの姿だけが眼前に残った。

「状況は!?」

「はっ……追っ手などは、いない……ようです、ね……馬鹿な」

 若干拍子抜けした声を、デミウルゴスは出す。

「……ああ、おりません。全く、被害はございません。カウンター魔法やトラップの類な

ども、発生していないようです」

 アインズの目が、訝しげな光で点滅する。人間の体なら、目を瞬かせた、という言葉

が丁度いい。

348

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「……何? 妙だな。デミウルゴス、間違いなく発見されたのだろう?」

「はい。間違いなく、シモベを通じて一人の人間種の少女が私に語りかけてきました」

「……ふーむ……。虚偽情報系の魔法や、探知阻害系の魔法、スキルなどの痕跡は?」

「ございませんでした。現実の光景としてあそこには木造家屋があり、シモベたちは確

かに本物のアウラを見つけております。可能性は皆無と言っていいでしょう」

「ますます妙だな」

 情報系魔法の探知は愚か、カウンタートラップが発生した痕跡が無い。しかし、その

少女は姿を消したシモベどころか、その向こうのデミウルゴスをさえ発見したのだ。魔

法もスキルも使わず、一体そんなことが可能であるのだろうか。仮に、今までを丸々虚

偽情報と仮定しても、ならばわざわざデミウルゴスへ語りかける必要は無い。ヒントを

与えるような行為だ。それでは隠蔽の意味が薄れてしまう。追っ手も無く、情報魔法へ

の対策も無く──

 アインズは辻褄の合わない状況に小首を傾げそうになるが、取りやめる。そして、予

ミラー・オブ・リモート・ビューイング

め準備しておいた〈

〉を起動した。

「とにかく、お前のシモベはもう使えん。手段は不明だが、あれらは発見されると断定し

た上で──生物ではなく、私はアイテムを使ってみるべきだと思うのだが……どう思

う」

349 そして、雪はトネリコに降った─3

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「良いお考えかと。情報阻害やカウンターが皆無である以上、私も魔法的な着眼点より

は、もっと原始的な部分に論を移すべきと考えます。生物か非生物か、というアインズ

様のお考え、誠にご賢察にございます」

「そ、そうか。よし」

 あまりのべた褒めように若干引いてしまうアインズだったが、それでも行動は早かっ

た。報告の通りであれば必要ないだろうが、自身に防護魔法をかけ、念のため離れた位

置に鏡を浮かべる。

「それでは──デミウルゴス、地点座標を教えよ。案内を頼む。操作は私が行おう」

「アインズ様ご自身が──」

「よい。私が行う。いいな?」

 デミウルゴスの言を遮って、アインズは鏡の視点を操作し始めた

「はっ。失礼致しました。それでは……」

 アインズはデミウルゴスの情報を元に、速度を上げて鏡の視点を森林に向かわせる。

件の家屋は山脈の南西にあり、エ・ランテルを中央とすると、南東のカルネ村と丁度鏡

写しにした位置に存在していた。森林でも南部よりは西部に程近く、国境近くとは言

え、王国よりの場所である。

「……うん、家だな」

350

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 あまりに拍子抜けするほど簡単に見つかって、それは単なる家だった。質素でがっし

りとした造りの、二階建てと思われる木造家屋。しかし、平凡な見た目は大森林の中で

珍妙に映える。しかも、その上空は木々がくりぬかれたようにぽっかり開いており、ま

るで見つけてくださいといわんばかりの状態だ。確かに森の中にあって地上からは見

つけにくいだろうが、空から探してしまえば一目瞭然、まさに頭隠して尻隠さずである。

 家の中に入ったのだろうか、途中で現れたという四人組みの姿は無かった。

「……隠れる気があるのかな、あそこの住人達は」

 思わず、アインズの口から疑念の言葉が漏れた。

「あるのだと思われますが……様々な点が矛盾しておりますね」

 アルベドが鏡を覗き込んで、受け答えた。

「拠点ヲ建テル時ニ出来タ穴ヲ、ソノママニシテイルノデショウカ?」

「た、確かにあの穴は……き、綺麗過ぎるよね。まるで、魔法で木を避けたみたい。も、

もしかしてまだ……建築中、なのかな」

森司祭

 コキュートスの意見に、マーレが

の見識を以って答えた。

「そんなことはどうでもいいでありんす!」

 しかし、シャルティアの怒声がそれらを打ち切った。

「アインズ様、アウ──あのチビ助は!?」

351 そして、雪はトネリコに降った─3

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 そうだ、今は彼らの考察をしているときではない。それは次点にすべきことだ。

 アインズは思い直して、操作を再開する。

「二階の南面、ひときわ大きな木窓から、姿を確認できます」

 デミウルゴスの言うとおり、アインズは視点を回りこませ、拡大した。そこには──

「……ああ、アウラ」

 アインズの心の枷が、音を立てて崩れた。

 半信半疑のシェオゴラスの発言が、真実だと悟った。

 見間違えるはずが無い。アウラ・ベラ・フィオーラ──その小さな姿が、そこにあっ

た。

 午後の陽が窓から差して、照らされた彼女の顔は傷一つ無い。窓越しから見ても、昼

寝しているように見える平穏さだ。当然、危害を加えられたり、拘束されている様子も

無い。鱗を持った獣人が、優しくアウラを寝かしつけていた。

 懸念すべき点はまだある、想定外の事もあった。それでも、今この時ばかりは、目の

ミラー・オブ・リモート・ビューイング

前の鏡──〈

〉に映る、安らかなアウラの寝顔を皆、無言で眺める。

(本当によかった)

 緊張の糸が、弾ける。アインズは玉座の背もたれに、支えを失ったようにもたれか

かった。

352

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 瞬間彼は放心しかけるが──再度、気の手綱を握り、状況の確認に努める。アウラの

姿だけでは安心とはいえない。家内の状況によっては、危険人物や物が存在している可

能性がある。

 とはいえ──窓から見る光景だけでも、その危険性は十分低く思えた。部屋の中はカ

ルネ村で確認した文明レベルとほぼ同様のもので、見慣れないものは多くあるが、変

わったものは特に無い。

 それに、アウラを恐らく保護したと思われる者達も、当面の危険は無いように思われ

る。

蜥蜴人

リザードマン

蜥蜴人

リザードマン

 鱗と尾を持つ

と思しき亜人の、アウラを優しく寝かしつける様相。

の手

つきや目からは、邪な気は一切感じられない。ただアウラを思い、アウラの為に傍にい

てくれているのだと感じられる。

『絶対に俺達がこの子を守る』

 また、風に乗って聞こえてきたその言葉が、経緯と意図は不明だが、現状の安心を確

かなものとした。

 全員、各々抱えていた黒い部分を払拭するように、鏡から映る光の景色に時をゆだね

る。

 幾ばくかの時間が流れ──アインズは、ようやく己の心の手綱を放り、今度こそ身を

353 そして、雪はトネリコに降った─3

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玉座に投げた。

ア・

ウ・

ラ・

の・

無・

事・

に・

関・

し・

(はあ、とりあえず……これでアウラの無事に関しては一安心だ。

て・

は・

   ◆

   きっ、と緩んだ糸を張りなおして、アインズは思考の転換を始める。

 アウラの無事は確認が取れた。なら、次に彼が確認すべきは、シェオゴラスを起因と

した現在の自分の状況、そしてこの杖が何であるかということ。加えて、あの家の住人

──特に、デミウルゴスのシモベを捉えた少女は何者か、の三点だ。

オール・アプレイザル・マジックアイテム

 〈

 アインズは、ワバジャックに対し魔法を使う。この魔法は、ユグドラシルでは製作者

や効果を明らかにする魔法だ。

 アインズはこの世界へ転移してすぐ、魔法の使用実験を行った。結論を言えば、魔法

はユグドラシルとほぼ相違ない性能を有しており、問題なく行使できることがわかっ

354

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オール・アプレイザル・マジックアイテム

た。しかし、この〈

〉、この魔法に関しては使用こそ問題ないものの、

得られる情報がユグドラシル以上に変質していた。魔法を唱えた瞬間、膨大かつ詳細な

情報がアインズの頭に自然と湧き上がってきたのだ。つまり、性能が数段昇華している

のである。

(これは……他の魔法も一から試したほうがいいなあ)

 先刻の焦燥ぶりは何処へやら、どこか気の抜けたような緩んだトーンで、アインズは

心にてひとりごつ。だらけきっているわけではないが、張り詰めすぎた緊張の糸が、急

激に緩んだのだ──その反動は、彼を呆けさせるに十分な威力であった。

 守護者達も彼と同様だろうか、姿勢を正してはいるが表情や雰囲気は柔らかい。

 また緩み始めた思考を、アインズは頭を大げさ振って引き戻す。今は切り替えなくて

はならない。道

オール・アプレイザル・マジックアイテム

 まず、〈

〉で判明したワバジャックの情報をアインズは確認する。

シェオゴラスに関する情報が得られるかもしれない。

(名前……は当然ワバジャックだとして、攻撃力は──無いも同然、か。近接武器として

の使用は不可……)

あ・

の・

場・

所・

 ならば、

でシェオゴラスの顔面を破壊した威力は一体なんであろうか、アイ

ンズは疑問を呈さずにいられない。

355 そして、雪はトネリコに降った─3

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 アンデッドの膂力があるとは言え、アインズは魔法職だ。それに、自分のクラス適正

外の行動は、全くもって謎の力で制限される。杖の殴打による攻撃も出来なくは無い

シェオゴラス

が、相手が一般人ならいざ知らず、ナザリックの防壁をかいくぐったであろう

に対

して、今のアインズだけでは、あそこまで尋常ならざる破壊力は出せないだろう。

 その為、アインズはこのワバジャックにこそ秘密があるのかと推理したのだが、それ

はどうやら見当違いであったようだった。

 アインズは他の情報も確認する。製作者は、当然ながらシェオゴラスであるようで、

肝心の効果といえば、『ワバジャックが爆発を起こし、予測不可能の効果を与える』とい

うなんとも簡素な一文のみだ。

 それ以外の情報を探ろうにも、ノイズのように"ワバジャック"が繰り返されるだけ

で、感じるだけでアインズの気が滅入ってくる。確かに膨大で詳細なのだが──その殆

どが無意味な、取るに足らない単語の羅列だったりする。例えるなら、すでに完成した

小説の文章を、無軌道にちりばめて意味を通じにくくしたような──作為的でわざとら

しい正体不明と言えば良いだろうか。それらしいことを示しつつも、深く考えれば辻褄

が合わず、字面どおりに流しても結局は矛盾が生じる。

 アインズは一旦、ワバジャックの確認を横に置いた。シェオゴラスについての調査は

必ず行うべきだが、今の最優先ではない、との判断の下だ。最終的にはアインズも彼の

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処理を行わなければならないが、現状、それこそ霧の中を探るように分らない事だらけ

だ。闇雲になるのは、早すぎる。

 実のところ、ワバジャックが与えてくる不快な情報の波に、根を上げかけたというの

が彼の本音だったのだが。

「デミウルゴス」

 そうして、アインズは、玉座からデミウルゴスに呼びかける。次に確認すべきことは、

デ・

ミ・

ウ・

ル・

ゴ・

ス・

を・

シ・

モ・

ベ・

越・

あの家に住まう何者か達の調査だ。そして、その最優先は──

し・

に・

捉・

え・

た・

と言う、謎の子供についてだ。

 呼びかけられたデミウルゴスは、微笑を浮かべながら鏡越しのアウラを見つめてい

た。しかし、アインズの声が響いてすぐにその笑みを消し、守護者一の知恵者として相

応しい面持ちに戻る。主の声に何らかの切迫を感じ取ったのだ。彼に同調して、他の守

護者達もアインズに向き直る。

「はい、アインズ様」

 デミウルゴスは、アインズの声に朗々と応じる。デミウルゴスに先程までの狼狽や焦

燥は全く無く、余裕と自信と、アインズへの敬愛に溢れていた。

 だが、彼もアウラの件の確認が取れたとは言え、懸念すべき点が幾つも、否、むしろ

何一つ解決していないとすら考えている。アインズと同様に。

357 そして、雪はトネリコに降った─3

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 しかし、二人には着眼点の相違があった。アインズの最優先は、目下、鏡の向こうの

住人達のことだったが──デミウルゴスに関しては、主の左手に未だ握られている、混

沌の塊が最大の懸念事項であった。

 異形としか形容できぬ在り様、ただ異質さを放つ、決して木製ではない杖。デミウル

ゴスはあれをアインズの所有物だと判断したが、果たしてそれは本当に真なのであろう

か──デミウルゴスの中に、不安とも言える疑問が首をもたげ始める。

 アウラの捜索に追われているときは、流石のデミウルゴスといえど異常事態下にあっ

て、正確な判断ができていなかった。アウラの無事を確認し冷静さを取り戻しつつある

今、彼はあの杖が、主人を蝕む超常の異物にしか見えない。

オール・アプレイザル・マジックアイテム

 また、デミウルゴスはアインズがあの杖に〈

〉を使用したのを見

逃さなかった。もともとの所有物であれば、わざわざそういった魔法を使用するまでも

無いだろう。性能が転移により変わった可能性を潰したのだとしても、今、果たしてそ

れを行うタイミングだろうか、とデミウルゴスはいぶかしむ。或いはそれこそが、納得

しかけた問題を改めて表出させたのかもしれない。

「名残惜しいが……話を進めよう。お前に語りかけたという少女は、一体どのような外

見だった?」

 デミウルゴスは思考を打ち切る。あの杖に関しては、アインズ自身の言葉で保留を言

358

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い渡されたのだ。ならばそれに従うのがデミウルゴスのあるべきであり、なにより彼の

大いなる智慧を上回る主人のことだから、きっと何か考えがあってのことだと結論付け

た。

「はい。外見は人間種の幼子でした。十を越え幾ばくか、と言ったところでしょう。黒

の長髪に、黒い、人間が作ったにしては精巧なドレスを身につけておりました」

 それでもなお、淀みは残る。デミウルゴスは、今度こそそれを振り払った。アインズ

への報告に漏れや不備があってはならないのだ。

「ふーむ。変わった特徴とかは、無かったのか?」

 アインズは、デミウルゴスのシモベを緊急に退避させたのは間違いだったかと心で嘆

息するが、すぐに思い直す。どうやったにせよ、姿と音を消し、存在が空気になったと

いって良い彼のシモベを、しかもシモベ越しのデミウルゴスをすら捉えたのだ。あれ以

上シモベを撒くのは危険だっただろう。

 だが、不審な点がある。その子供がそれだけの力を有してもなお、情報系攻勢防壁─

ミラー・オブ・リモート・ビューイング

─要は、情報魔法に対する対策が、あの家に全く施されていない。〈

すら阻害されないほど、まっさらである。やはり、状況と事柄がちぐはぐに過ぎた。な

らば、必ず何らかの要因があるはずだ。アインズはそれを見極めたかった。

「……目、そして声でしょうか」

359 そして、雪はトネリコに降った─3

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「目と、声か……どのような?」

「はい。まず目ですが……ありえないほど赤く、獰猛に激しており──苛烈に全てを目

で殺さんとするかのようでした。あれは恐らく、真っ当な人間種の目ではありません」

 アインズにはいまいち、ぴんと来ない説明だ。しかし、アルベド──そしてコキュー

トスが何か感じ取ったのか、纏う空気の温度を下げた気がした。

「ふむ。では、声とは?」

「はい。なんと言うか……」

 デミウルゴスが珍しく言いよどむ、瞬時に論を展開できる彼が、このときばかりは適

する言葉を検索するのに、時間を要していた。

 デミウルゴスは思い出す。聞こえてきた声は、年相応のか細く高い声だ。そこに違和

感は無い。しかし──

「……ダーマーン、ズーゥ・コラーヴ・ゼイム・ヒン・ズル」

「は?」

 デミウルゴスから聞こえた謎の言葉に、つい、アインズは素の声を上げる。

「……デミウルゴス、その言葉は?」

 少しだけデミウルゴスを不安げに見つつ、アインズは、出来るだけ優しく彼に問いか

けた。

360

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「はい、失礼致しました。私もこれを口にすれば、何か分るのかと考えたのですが……何

の変哲も無い、ただの言葉でしたね」

「意味が、分るのか?」

「いいえ、言葉の意味は判りませんが……そう、私の魂は理解しています」

 デミウルゴスの回答は、あまりに要領を得ない。

「……すまん、デミウルゴス。もう少し説明を頼めるか?」

あ・

の・

声・

を・

聞・

い・

た・

者・

に・

し・

か・

「はい。ですが、恐らくあの感覚……魂に響くそれは、

──」

 そう口にした瞬間、彼は眼鏡越しの目を大きく見開き、絶句した。

 彼は、気づいたのだ。あの少女が何者であるかに。

あ・

れ・

「……マーレ。

を覚えてますか?」

 アインズへの言葉を途中で打ち切って、デミウルゴスは急にマーレへと視線を移す。

その顔には、何がしかの感情が堰を切って溢れたように、それに流されまいと堪えるよ

うに──必死な顔だった。

「デミウルゴス、アインズ様の問いに──」

「重要なことなのです、アルベド」

 咎めたアルベドを見もせず、デミウルゴスは彼女の言葉に声を被せる。

「失礼を承知で、そのままお待ちください、アインズ様。大変申し訳ありませんが、早急

361 そして、雪はトネリコに降った─3

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に確認すべきことがあります」

 しかしアインズへはその顔を向け、謝罪する。アインズにデミウルゴスの考えは読め

なかったが、その尋常ならざる顔は、何かあったのだと感ずるのに十分な様相だった。

「良い。進めよ」

あ・

れ・

「ありがとうございます……マーレ、もう一度聞きましょう。

を……炎の柱の件を

覚えていますか?」

炎・

の・

柱・

 不意に話を振られたマーレはしばらく呆けていたが、

という単語にその顔を曇

らせる。

「う……うん──」

「ではその時に聞こえた言葉は?」

 食い気味に、デミウルゴスはマーレに言葉で押し迫った。少し記憶を掘り返すマーレ

だったが、すぐ小さい頭を控えめに振った。

「……お、覚えてないよ。そもそも、声としか分らなかったし、何を言っていたかまでは

……」

 その言葉を受けてデミウルゴスは考え込む。その後、考えを反芻するように、言葉を

紡ぎ始めた。

「我々の世界にも、この世界にも、きっとあってはならない炎。そして、声。怒気と怨嗟

362

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の、まるで世界の咆哮かと錯覚する声。耳ではなく、魂で知覚するおぞましい声……あ

警戒網

あ、なんということだ。マーレ、あれは私の放った

にも届いていたのだよ。だか

ら、君の言うことを幾分か理解していたつもりだったが……そうか、あれがそうか」

 独り言のようにデミウルゴスが呟く。それに焦れたシャルティアが、デミウルゴスに

怒鳴りを上げた。

「デミウルゴス、説明しなんし! さっきから話が見えないでありんす!」

異・

質・

の・

響・

き・

「炎の柱が上がったときに、このナザリックにまで届いた

。そして、先程私の

魂・

が・

意・

味・

を・

知・

覚・

す・

る・

響・

き・

聞いた……言葉の意味は判らないが、

。炎の柱が上がったのは

トブの大森林で、アウラがいるのも、そしてあの少女がいたのもそこだ。感覚という、揺

らぎの多い不確かな根拠に縋るしかないが……状況は見事に合致している」

 デミウルゴスの独白は、アインズの頭にも良く響いた。

 マーレの報告の内容。

 カルネ村でのガゼフ・ストロノーフとの対話。

 デミウルゴスが感じた、マーレと同様の感覚。

 炎の柱と、トブの大森林。

「……ドヴァーキン……アルドゥイン」

 思わず、アインズの口から声がこぼれる。

363 そして、雪はトネリコに降った─3

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 今までまばらだった点が、全てつながったような気がした。

「はい、流石はアインズ様。このデミウルゴス、心から敬服致しました。最初から、奴ら

をこうして炙り出すことが目的だったのですね」

「え゛っ」

 歯車がかみ合い、アインズの推察が回りつつあったのだが、デミウルゴスの思いがけ

ぬ一言がそれを制した。その為か、つい軋んだ声が上がる。

「なるほど、そういうことでしたか」

 そして意味深げに、アルベドが頷いた。アインズの頭の歯車が、急激に逆回転を始め

る。

(ええぇえ、いやいやいや、どういうことだよ!? そりゃ、アウラとマーレがドヴァーキ

ンとアルドゥインを見つけてくれたらと思って指示を出したけど……この二人の顔か

らして、きっと……こいつらの中の俺は、それだけを考えて指示を出したんじゃないだ

ろうなぁあ──また、このパターンかよ! 一難去ってまた一難……いや、むしろ難が

増えただけじゃないか!)

 英知溢れる第七階層守護者と才色兼備の守護者統括は、微笑を讃え、あらん限りの尊

崇をアインズへと送っていた。他の守護者達も期待の篭った顔でアインズを見つめて

いる。

364

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 とても、アインズが「どういうこと?」と聞き返せる雰囲気ではない。

「……そうとも、良くぞ気づいたな、二人とも」

 アインズはそれに膝を折って屈した。

(ああ、またやっちゃったよ……もう癖になりつつあるなぁ、これは)

 アインズは心の膝を折ったまま、辺りを見回す。皆、一様に尊敬の輝きを強め、はち

きれんほどの明るさが顔にあった。アインズは、この顔に失意という影を落すかと思う

と、なかなか素直に自分の凡庸さを言い出せなくなる。

 アインズが、どうしようか堂々巡りの思考に突入しそうになるときであった。シャル

ティアが、助け舟とも取れる疑問を呈す。

「ど、どういうことでありんすか? わたしには、全く話が見えないんでありんすが」

 アインズへの敬意を燦々と発しながらも、一抹の困惑がシャルティアの顔をよぎるの

が見えた。

(よし、ナイスだシャルティア!)

「……ふふ、アインズ様、私の愚考ではございますが……御身のお考えをご説明してもよ

ろしいでしょうか?」

「うむ! ……許す、許すともデミウルゴス。さあ、話してやれ」

 若干言葉を被せながら、内心滝のように汗を流してアインズは言い放つ。

365 そして、雪はトネリコに降った─3

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「ありがたき幸せ。それでは──」

 ゴクリ、と誰かの音が鳴る。それは守護者ばかりではない。アインズは、心のメモ帳

を構えた。

「先んじて彼らの情報を探り、優位に立つのが目的だったのだよ」

 デミウルゴスの言葉に、アインズはわずかに首をかしげた。

(あ、あれ……俺が考えたものと同じじゃないか)

 アインズも、最終的な目的はそれである。プレイヤーの影がちらつくドヴァーキンと

アルドゥインに対し、想定される地力の差を埋めるためにも、情報の収集を先行したの

だ。それは、ナザリックのビハインドを埋めつつ、イーブンの席に着くためである。そ

して、今後有利な立場を取れるよう、柔軟に動ける状況を作るためでもあった。ある程

度のリスクはあったが、そのためにアウラのみならずマーレと共同にその任務を与えた

のだ。結果は、言わずもがな、であるが。

(ど、どういうことだ……?)

 アインズの困惑をよそに、デミウルゴスは滔々と弁を続ける。

「アインズ様は、我々の誰よりも早く、炎の柱とドヴァーキン、そしてアルドゥインとの

関連性にお気づきだった」

(そりゃあ、ガゼフ・ストロノーフから情報を得たからな……)

366

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 アインズはカルネ村での会話を思い出す。

 ──なんでも、トブの大森林に『アルドゥイン』という大悪党が逃げ込んだらしくて

な。あの『炎の柱』は奴によるものらしい。まあ、ドヴァーキンという男が、その原因

であるアルドゥインを打ち倒したため、もう心配は要らないがな

 ──ほう、そのドヴァーキンさんとやらはどういう方なのですか? 冒険者でしょう

か?

大・

森・

林・

に・

 ──いや、どうも遠方の地方からアルドゥインを追って流れ着いたらしい。

目・

立・

た・

な・

い・

よ・

う・

拠・

点・

を・

建・

て・

、そこでアルドゥイン打倒の機会を窺って──

 そこで、会話は途切れたのだ。アインズはそれにきな臭さしか覚えなかった。彼とア

インズがあの会話を数言でも交えられたのは僥倖というほか無い。

「だが、アインズ様はアウラとマーレにトブの大森林への拠点構築をお命じになった。

ド・

ヴ・

ァ・

ー・

キ・

ン・

と・

ア・

ル・

ド・

ゥ・

イ・

ン・

の・

潜・

伏・

し・

て・

い・

る・

可・

能・

性・

が・

、・

確・

定・

的・

だ・

っ・

た・

に・

も・

関・

わ・

ら・

ず・

だ。

今思えば、私がそこで感じた疑問こそが、今このときにつながっていたのだよ」

(……あっ)

 そういえばそうだ、とアインズは他人事のように感心する。その後、一瞬で自己嫌悪

に陥った。

(そうだよなああぁあ、そうだよ、その二人が大森林に拠点を構えたって、ガゼフが言っ

367 そして、雪はトネリコに降った─3

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てたじゃないか! 地理的に丁度いいからって、完全な軽い気持ちだったんだよ、デミ

ウルゴス! 疑問を抱いたんだったら、言ってくれればよかったのにい!!)

「その答えが、今の状況さ。考えてもみてくれ。これから、我々はアウラを返還してもら

建・

前・

いに、彼らと接触する必要がある。そこで、アウラの存在が、我々に

を生む。つま

ア・

ウ・

ラ・

の・

消・

息・

を・

追・

う・

為・

に・

最・

大・

限・

に・

情・

報・

を・

探・

る・

り、

、というカバーストーリーをね。それ

が、有利な接触を果たせる状況を生むわけだ」

「有利?」

 シャルティアが小首をかしげる。

「そうとも。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをマーレが──ああ、それとアル

ベドも下賜されたことは知っているね?」

「……ええ」

 若干とげの立った調子で、シャルティアは肯定する。

「そう、それは我々にとって、羨望の的となる事実だ。特に、アウラはどうだろう。マー

レが下賜されたというのに、ね。アインズ様は、それを利用したのだよ」

ア・

ウ・

ラ・

を・

利・

用・

し・

た・

(……は? 利用した? 俺が、

?)

「当然、アウラは功を焦るだろう。そして、任務の重複──地理的に同一の地点にある以

上、アウラは何らかの形でドヴァーキンとアルドゥインに接触するだろう。つまり、先

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走るというわけだ。恐らくアウラの性格なら──スキルを活かして潜入するのではな

いか?」

 デミウルゴスの言葉が、矢尻となって、アインズの心に突き刺さる。

 それはそうだ。弟が、褒章を──マーレの反応から察するに、叙勲ともいえる栄光を

敬愛する主人から賜ったのだ。姉にしてみればそうだろう。躍起にならぬわけが無い。

至・

高・

の・

四・

十・

一・

人・

の・

み・

所・

持・

を・

許・

さ・

れ・

た・

ア・

イ・

テ・

ム・

を・

受・

 彼は、気づくべきだったのだ。その

け・

取・

る・

至・

高・

の・

四・

十・

一・

人・

に・

創・

造・

さ・

れ・

た・

彼・

ら・

に・

と・

っ・

て・

ということが、

、どういう意味を持つ

か。

 アインズは自分の軽率な行動を恥じると同時に、どこか薄汚く言い訳する自分を見つ

ける。知らなかったんだ、守護者には渡しておく必要があったから、かこつけたんだ、

と。それも──軽い気持ちだったんだ、と。

「そこで無事に帰ってくればよし。だがもし、囚われたとしてもこうして建前が出来る。

他ならぬ大事な仲間が、行方不明になったんだ。当然、それは魔法を行使して探るもの

であるし、もし危害が加えられていれば正当な根拠で、彼らより上手に出ることが出来

る。後は彼らの目的や欲するものを探って、如何様にでも方法を取ることができるのだ

から。仮に──」

「違う」

369 そして、雪はトネリコに降った─3

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 だが、どうだろうか。アインズは自らに問いかける。彼は最早、その通り、アインズ・

ウール・ゴウンそのものである。彼は、他ならぬ栄光ある、至上の、彼自身が何よりも

大切にしてきた──アインズ・ウール・ゴウンの名を、その身に背負ったのだ。その自

負、その罪悪感が、彼の口をせっついて開かせた。

「違う」

 アインズはもう一度、己の薄暗い人格を、そして、守護者の中にある空想の自分を否

定する。かけがえの無い栄光の名を、貶めかけた自分と共に。

「私は、アウラを利用しようとなど、思ってない。おとりになど、してたまるものか。彼

女は……」

 アインズは身をちぢ込めて、その後急につんのめるようにして、叫んだ。

忘・

れ・

形・

見・

「アウラは、ぶくぶく茶釜さんの

だぞッ!」

 彼は──かつての仲間達が残してくれたもの、今やある意味、彼の家族といっていい

者達を、己が利己心の為に利用する男では断じてない。

 彼は、それだけは許すことが出来ない。彼は、そんなことを許すために名を変えたの

ではない。アインズ・ウール・ゴウンとは──今の彼にとって、全てだ。先のデミウル

ゴスの言を否定せずして、何がアインズ・ウール・ゴウンか。それに頷いたその時、彼

はアインズ・ウール・ゴウンではなくなる。彼は、モモンガですら──鈴木悟であるこ

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とすら、絶対に許されない。

そ・

れ・

 沈黙が訪れる。骨だけで肉も皮も無い、

は、薄ら高い天井を見上げたまま、硬直

した。守護者達は、今、どういう顔をしているのか。彼には、それを見る勇気は無かっ

た。

「……私は──いや、もう取り繕うのはよそう……俺は」

 彼は、既になくした腹をくくった。いつかは話すべき、いつかは来るべき時が、来た

のだ。早すぎる気がするが──それを決めるのは、他ならぬ自分なのだと、男は初めて

気がついた。

「も、申し訳ありません、アインズ様! 私のような矮小なる凡愚が、大変な失礼を──」

「違うのだ、デミウルゴス……お前は、ウルベルトさんの忘れ形見だ」

 男はデミウルゴスを見つめる。その視線の向こうにはかつてのかけがえない姿が

あったが、今このとき、彼が見ているのは──他ならぬデミウルゴスだ。

「そして、マーレ。お前はアウラと同じく、ぶくぶく茶釜さんの忘れ形見だ。その弟であ

るペロロンチーノ──さんの忘れ形見こそシャルティア。武御雷さんの忘れ形見──

コキュートス」

 次々に、アインズは守護者達を見やる。

「ここにはいないセバスは、たっちさんの忘れ形見。そして……アルベド。お前は私が

371 そして、雪はトネリコに降った─3

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ゆがめてしまった唯一の──タブラ・スマラグティナさんの忘れ形見だ」

 守護者達は皆一様に恐懼に身をやつしていたが──最後に声をかけられたアルベド

だけは、悲痛な面持ちでアインズを真っ直ぐに見ていた。

忘・

れ・

形・

見・

な・

ん・

か・

じ・

ゃ・

な・

い・

お・

前・

達・

そ・

の・

も・

の・

だ・

「いいや、

。ここにいるのは、

。俺はな、ただ

の──凡庸で、お前達が思っている以下の、一人では何も出来ない……一般人だ」

「アインズ様、そのようなことは──」

「昔な」

 アルベドの声を遮って、彼は語る。

「異形種狩り、って知ってるか? そういうPKが流行ったとき、俺はたっちさんに助け

られた。それが切っ掛けで、おれはこのギルドに参加したんだ。その頃は、ナインズ・オ

ウン・ゴールって名前だったなぁ。

 そこから色々あって今の名前に変えて……どういうわけか、俺がギルド長になった。

大変だったけど、それでも楽しかったさ。喧嘩もした、トラブルもあった、でも、それ

でも俺達は、いつだって一緒にいたし、だからこそ楽しかった。

 ……それでも、終わりは来る。ヘロヘロさんが最後にログアウトしたとき──完全に

終わったと思った。だが今、俺はお前達と一緒にいる。夢ではなく、現実としてだ。悲

しかったが、それ以上に、嬉しかった。だって夢の続きに……触れることが出来たんだ。

372

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 だからこそ、俺はこの名を背負うことにした。笑われるかな、怒られるかな……俺は

モモンガだ。でも、今は、アインズ・ウール・ゴウンと名乗っている。名乗ることに決

めた。仲間達がこの世界にもいるかもしれない、この旗印に、四十一人が再び集うかも

しれない。そうなったら、どんなに素晴らしいだろう。それはとても素晴らしいこと

だ。その為なら俺は何だってする。この栄光の名を、この世界に知らしめる為なら、魂

を悪魔に売り渡したって安い。

 ……でもな、今、アウラを失いかけて──思ったんだ。今、俺にあるのはさ。このナ

ザリック……そしてお前達だけなんだよ。他の誰でもない、アルベド、セバス、コキュー

トス、シャルティア、マーレ、デミウルゴス、アウラ、プレアデスの皆──他の様々な

忘・

れ・

形・

見・

な・

ど・

で・

は・

な・

い・

、・

お・

前・

達・

そ・

の・

も・

の・

者達……

。このナザリックにいる者達だけだ。

 何が言いたいのか、はは、わかんないな。つまり、俺は──お前達を、仲間だと思っ

ている。至高の四十一人などと言うが──俺にとっては、お前達もまた、至高の存在だ」

 長い言葉を、彼は打ち切る。また、重々しい静寂が訪れた。

 しかし、裏腹に彼の心は軽かった。意外なほどに。

「……俺は……そう──もう……何も失いたくない」

 彼の目から光が消える。そして、共に消えていくかつての幻影。喜びと悲しみを分か

ち合った友と共有した、生きがいの時間。

373 そして、雪はトネリコに降った─3

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 最早、彼はナザリックの者達に軽蔑されてもいい。どう思われても構わない。唯一

わ・

が・

ま・

ま・

つ、たった一つ、彼には伝えたい

がある。

「いやだ。もう、誰も俺の前から消えないで欲しい」

 それを、言った。

 さらに、心は軽くなった。どうしてだろうか。秘密にしてきた心境を、やっと吐露で

きたからか。それとも、彼が──一人であるからか。

 全てが抜け落ちていくような意識の中、ふと、最後まで残ったものがある。真のアイ

ンズ・ウール・ゴウンの姿。かつてあり、最後まで──彼と、そして仲間達が固持した、

絶対のルールを。

「なあ。さっきも言ったが、俺は凡人だ。アインズ・ウール・ゴウンはな、多数決だった。

いつも、方針を決めるときは会議を重ねて、最後に多数決を取ったんだ。俺は、その勘

定をする立場にすぎないんだよ。だからさ──教えて欲しい。アインズ・ウール・ゴウ

ンは──どうするべきだと思う? アウラを助けるには、どうしたらいい? 危険性無

く、且つ穏便に、これからもドヴァーキンやアルドゥインという、プレイヤーと思しき

存在と……どう接触したらいい? 俺は、アウラとマーレに彼らを探らせれば何とかな

ると思った。それが……この様だ。なぁ、教えてくれ。俺は……どうしたらいい。あ

あ、俺なんかが、アインズ・ウール・ゴウンを名乗るべきじゃ、無かったんだ」

374

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 静かだが、紛れも無い慟哭を彼は上げる。子供のようにわめき散らすことは無いが、

子供のように弱弱しく。

 ふと、誰かが彼の冷たい手を握った。対して暖かく、包み込むように柔らかな感触

だった。

「アインズ様──いえ、モモンガ様」

 彼は、下げた顔を上げることができなかった。

 だから、言葉をかけた彼女の──涙を見ることも出来なかった

   ◆

   沈黙の玉座の間、うな垂れたしゃれこうべを五人の影が見守る。

 一人は、驚愕に目を開いて。

 一人は、感情の読めない複眼を明滅させて。

 一人は、手足を震わせて。

 一人は、沈痛な面持ちで。

375 そして、雪はトネリコに降った─3

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 最後の一人は──優しげな粒を零しながら、それで白磁の骸骨を撫ぜた。

「どこか、分っておりました。分っていました」

 落涙が、白地に一筋の道筋を作る。

「私を軽蔑するか、アルベド」

 しゃれこうべ──モモンガが視線を合わさぬまま、縷々と涙を流すアルベドに問う。

「いいえ。モモンガ様」

「お前を歪めたのは、私だ。アウラを窮地に追いやりかけたのは、私だ。今まで──お前

達の心に身の程も知らず寄りかかって、のんべんだらりと甘ったれてたのは、私だ!」

 モモンガは、自らに落ちる涙に初めて気づく。彼は、それを流せないこと、そして今

また、感情の抑制が始まろうとしていること──それがどうしようもなく、悔しかった。

「はい、分っています」

「ならば──ああ、私は罪を償わねば。私はここに居るべき男ではないのだ。お前達こ

そ──」

 アインズが顔を上げて、ようやくアルベドの顔を見る。

 紅潮し、涙に濡れすぎた顔。化粧が崩れかけているが、それを気にも留めず、涙は溢

れ続ける。

 感情の抑制は完了していた。彼の心は波立たぬ水面であるが、アルベドの涙一滴一滴

376

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が、彼の心に波紋を作った。

「モモンガ様」

 アルベドが、笑いかける。

「あなたは、やはり慈愛の御方です。私達は、ああ、モモンガ様……例えあなたがどんな

お方であろうと、あなたに、居てくれるだけで良い。あなたの傍に在れるだけで良いの

か・

け・

が・

え・

の・

無・

い・

我・

々・

です。だというのに、モモンガ様はこう仰いました。我々を、

だと。

仲間だと──あなた様方と同じく、至高の存在であると」

 短いしゃくりを上げて、アルベドが続ける。

「それはとても、畏れ多きことです……ですが──モモンガ様。それならば、どうして仲

間に償いを求められましょうか。どうして、友へ贖罪を強制できましょうか」

「……アルベド」

 彼女の涙は、彼の心に波紋を作ったばかりでない。重く沈む、何で出来ているか彼自

身すら分らぬ、闇の塊を穿っていった。

「私達は、私は、私だって、あなた様と共にいられるのならどんなことでもしましょう。

神にこの身を捧げてもいい。別に歪められたなどと、関係ございません。今ここにある

あ・

な・

た・

が・

か・

け・

が・

え・

の・

無・

い・

と・

い・

っ・

て・

く・

だ・

さ・

っ・

た・

私・

のは、他ならぬ、

なのです」

 そして、アルベドは笑みを深めた。

377 そして、雪はトネリコに降った─3

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「私は嬉しいです。モモンガ様。あなたの口から、真実を聞けて。その口から、お心を知

か・

け・

が・

え・

の・

無・

い・

あ・

な・

た・

れて。あなたの思う私達同様、私達にとっても、あなたは

なので

すから」

 アルベドは、モモンガの手を強く握り締める。それから、あらん限りの精一杯を込め

て、声を送った。

「私達は、ここにいます」

 二の句をつなぐ。

「あなたも、ここにいてください。だから……」

 アルベドは、立ち上がった。手が離れるが、不思議とモモンガは寂しさに襲われるこ

とは無かった。

「我々で──アインズ・ウール・ゴウンを──もう一度、供覧に付しましょう。その名を

背負うのは、あなたばかりではございません」

「……」

「ね?」

 凪ぎすら立たぬモモンガの心に、一言の雫が落ちる。大きくて、透明で、それにして

は飛沫を上げない。落ちた雫は心の表面を滑って揺らぎ、揺らぎが、凪ぎを生んで風を

起こした。強烈だったが、強烈なだけだ。風は何をなぎ倒すことも無く、破ることも無

378

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く、ただ──アルベドの声は、モモンガの霧を晴らした。

 モモンガのなくした心臓が、確かに跳ねた。

会・

議・

「……さぁ、そうと決まれば

を始めようじゃないか!」

 それを聞き届けたかのように、モモンガの鼓動にあわせて、デミウルゴスが手を打ち

鳴らす。表情は晴れ晴れとしており、気持ちのいい笑顔を浮かべていた。

「チビ助……アウラだけ、闇にまぎれて掻っ攫うのは駄目でありんすか?」

 シャルティアが清清しいほど意地悪な笑い方をする。

「偶然トハイエ、今ノ有利ニナリツツアル状況ガ、台無シニナルダロウ。正面カラ、堂々

ト行クノダ」

 顎を軽やかに鳴らして、コキュートスが武者震いを起こす。

「モシ抵抗スルナラ、デミウルゴスノ言ウヨウニ、建前ヲ武器ニ切リ捨テテシマエバイ

イ」

「誰もそんなことは言ってないんですけどねぇ」

「何、違ウノカ!」

「そ、そうだよコキュートス……折角、穏便に、危険性の無いように済む方法があるんだ

から、そうしなくちゃ」

 コキュートスとは違い、純粋に震えていたマーレだったが、恐怖からではない。彼の

379 そして、雪はトネリコに降った─3

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目頭は、熱かった。

「はは、マーレ。それも正解とは言えません」

「さ、さっきから偉そうにデミウルゴス! じゃあ、あなたはどう思うんでありんす!」

 玉座の間が、荘厳に似つかわしくない騒ぎに包まれる。

 モモンガはそれを呆然と見つめていたが、それに気づいたデミウルゴスが、彼を見

やって言った。

「さあ、モモンガ様──いえ、親愛なるアインズ・ウール・ゴウン様! あなた様も、意

見を出していただかなくては。でなければ、多数決が出来ないでしょう?」

「デミウルゴス……」

「そうでありんす、アインズ様! デミウルゴスの鼻っ面をぎゃふんといわせるような、

すごい意見をお願いしんす!」

「シャルティア……」

「アインズ様、サア、我々ト共ニ!」

「コキュートス……」

「あ、アインズ様……お姉ちゃんを、む、迎えに行きましょう!」

「マーレ……」

 守護者から、口々に温かな言葉が向けられる。信じがたい光景だったが、アインズが

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欲しくて、届かなかったはずの光景が、そこに広がっていた気がした。だが、重なる影

は無い。確かに、男の──アインズの目の前に居るのは、かけがえのない仲間達の姿だ。

「ね?」

 最後に、アルベドがまた、笑いかけた。もう、涙は流れていなかった。

「……ああ、お前達──ありがとう」

 アインズ・ウール・ゴウンの目は、眩しく、明るげに煌いた。

   ◆

   雪は、降る。降って、積もり、片端から溶け、それでもまた、降って積もる。

 その繰り返しの中、雪解け水はいつしか小川を作る。小川は雪の降る限り、絶える事

無く大きくなり、いずれは、新たな大地を作っていくだろう。

世界樹

 雪は、

に降った。

 アインズ・ウール・ゴウン──雪解け水により生まれり。いざ、不変の伝説をこの地

に根ざさん。

381 そして、雪はトネリコに降った─3

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幕間

   

執事バトラー

 セバス・チャンはアインズ・ウール・ゴウンの

である。綺麗に切りそろえられた

髪と髭は透き通る清潔さを持ち、強面は意思の固さをそのまま表す。しかし、雰囲気は

柔和であり、時折光るきめ細やかな気配りこそが彼をただの堅物とは見せなかった。

 歩幅を違わず踏み出される足は寸分違わず一定のリズムを刻み、ぴんと張る背筋に乱

れは無い。まさに、執事の理想が形を成した存在が、彼という男だ。

 だが、彼をよく知るものならば、いつもの彼とはどこか調子が違う事に気づくだろう。

足を繰り出すタイミングが若干不ぞろいであり、背筋を張りつつも視線が落ちている。

すべて、事細かな違和感であるが、それがあること自体、セバスという人物にしてみれ

ば大事である。

 原因は、彼の主──アインズ・ウール・ゴウンの告白にあった。

 セバスは思い出す。職務に従事中の彼を呼び出し、まさに青天の霹靂だった主の言葉

を。

382

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『私はな、セバス。お前達と共に、これからを生きたい。私だけでは躓くであろう道を、

お前達だけでは通らぬであろう道を、肩を支えあって歩きたいのだ。かつて……たっち

さん達と歩いた道を、今度はお前達と共に』

 また、アインズ・ウール・ゴウンもとい、モモンガは全知全能ではない、とも他なら

ぬ御身自身の口から明かされた。しかし、セバスを一番に苛ませたのは──それも十分

衝撃的だったが──そこではなく、モモンガがセバスを、彼の創造主と同格に見なした

肩・

を・

並・

べ・

た・

い・

事、そして、あろうことか

と告げられたことだ。

執事バトラー

 セバスは

である。その至上の喜びとは主に尽くすことであり、常に主の為に粉骨

砕身であることが彼の存在意義だ。その意味では、モモンガの助けになれることはセバ

執事バトラー

仲間友

スの幸福である。しかし、それはあくまで

としてであって、

としてではない。

その食い違いが、そうあるべきと定められた彼を責めるのだ。

 心踊る足がある。それを制する腕がある。いずれもセバスの脳に従っているだけだ

と言うのに、セバスの脳は困惑を隠せない。

(私は……今後どのようにあの方と接すればよいのか)

 そんなセバスの胸中を無碍にするかのように──いや、見透かしてなお、だろうか。

彼に、その主の間に続く大扉が立ちはだかった。重く、分厚く、とてつもない。セバス

は、きっと自分にはこれを開けることは出来ない、と故も無く思った。

383 幕間

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 だから、彼は控えめに扉を鳴らす。どうか、主自らが扉を開けてくれるように。どう

か、己の手が取っ手を握ることの無いように。

 セバスは、恐ろしかった。

 しかし、異常があった。戸を叩いても反応が無い。主アインズの声や物音すら──

(……いや……! 違う)

既・

に・

聞・

こ・

え・

て・

い・

 セバスはようやく我に返った。中の音は、彼が気づかなかっただけで

た・

の・

だ・

 何者かが怒声を浴びせ、揉み合う音。気配は二。片方は間違いなくアインズのものだ

ろう。二つの気配は争い、恐らく組み合いながら動きあっている。

(もしや先手を取られたか!)

 セバスは呆けていた己を叱咤する。これがもし、ドヴァーキンとアルドゥインの先制

攻撃だとしたら。物思いに耽り主を危機にさらすなど、執事として失格どころか、ナザ

リック、いやこの世にに存在することすら許されぬ。

 だが、彼の焦燥はそればかりだろうか。その証拠に、彼は咄嗟に躊躇する。取っ手に

かけそうになった手を止めた。

(私は……!)

 思いを振り払う。今はそんな事態ではない。流れる冷や汗を無視する。ひっくり返

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りそうになる胃をそのままにする。

 彼は、意を決して戸を開いた。

 その選択は絶対に間違いではないとセバスは信じる。しかし、どこか許しを必死に祈

る自分が、彼の中にもう一人いた。

   ◆

  「ああ、セバス! 助けてくれ、助けて! 食われる!」

 扉を開けたセバスを迎えたのは、威厳をどこかに置き忘れたアインズの悲鳴だった。

「アインズ様! そんなに恥ずかしがることはございません! もう御身の心はさらけ

出されたのです。そして……アインズ様が本当のお気持ちに気づかれたということは、

私の愛情を受け入れてくれたということ!!」

「だから、どうしてそうなる!」

 悶えながら必死に抵抗するアインズの上では、アルベドが捕食者の笑みを浮かべ、口

唇を淫靡に濡らしていた。

385 幕間

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 セバスは、長大かつ多大なるため息をこぼす。体の中にあった様々な淀みが、呼気と

共に空中へ霧散した。

(急に姿を消したかと思えば……しようの無いお人だ)

「アインズ様、準備が整ったと、デミウルゴス様が」

 そして、短く用件だけを伝える。

「お、おお! そうか! 分った、今すぐ向かおう! ほ、ほら離れろアルベド。まだ、

何も終わっていないぞ。アウラを迎えにいかねば」

 セバスの声を聞いたアインズが、アルベドをたしなめた。彼女はそこで初めてセバス

の存在に気づいたようで、淫猥な表情から徐々に統括としての顔に戻り始める。

「……そうですね。享楽は憂い無ければこそ、ということですね」

「……もう、それでいいよ」

 アインズはがっくりと肩を落とす。そしてしょぼくれた彼はリング・オブ・アインズ・

ウール・ゴウンをかざし、「あ」とこぼしながら姿を消した。恐らく、指輪の転移でアル

ベドから逃れればよかったのだと、今さらながら気づいたのだろう。

 アインズが去り、アルベドとセバスが残される。既に守護者全員にはリング・オブ・ア

インズ・ウール・ゴウンが下賜されており、二人も例外でない。よって、彼らもすぐに

指輪で転移すればよいのだろうが、そうはしなかった。どちらも、なんらかに思いあぐ

386

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ねているような顔をするばかりだ。

 そうして、互いに無言のままアインズの部屋を出る。打ち合わせるでもなく、示し合

わせたわけでもない。二人は、何となく相手の意思を感じ取れたのだった。

「不敬ですよ、アルベド様」

 しばらくの後、最初に口を開いたのはセバスだった。

「そうね。不敬だわ」

 先程とは人が変わったように、淡々とアルベドが受け応える。外見そのままに、人格

をそっくり挿げ替えたかのような変貌振りだ。

「……ですが、あの方は……きっとそうお思いでない」

 同様に抑揚無くセバスが呟く。

か・

も・

し・

れ・

な・

い・

「そう、

わね」

「アルベド様」

 不確定を強調するアルベドに、セバスは不安げな面持ちを向けた。いつも張りのある

目がどことなく萎びている。

「私には、分らないのです」

 答えを求めるように、しかし独り言のように、彼はただ言葉を出した。

 それを受けたアルベドは、しばらくの間セバスから視線を外して行く先を見つめてい

387 幕間

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た。

 長い廊下。長い長い、変わり映えのしない廊下。みすぼらしいわけではない、汚らし

いわけではない。ナザリックの造形物は全て究極であり、最高の美である。だが、それ

も結局、変わり映えしなければ同じことなのかもしれない、とアルベドは感じる。

「その"分らない"を一生の内に"分る"ようになる者が、一体幾らいるのかしらね」

 そのまま、アルベドは言葉を紡いだ。

「私にも分らないわ。セバス。勿論、他の守護者達も……恐らくアインズ様であっても」

 そこでアルベドはセバスの顔を一瞥した。彼も、アルベドと同じように廊下の先を見

据えている。そのどこに焦点が合っているのだろうか。いや、合ってさえいないかもし

れない。

 その無言の顔を見て、アルベドは一つのことに気がついた。そして、そのまま苦笑と

共に口に出す。

「……デミウルゴスも素直じゃないってことね」

「……はっ。今、なんと……?」

「デミウルゴスに言われて、ここまで来たのでしょう? アインズ様のお言葉──立場、

人格もろもろを総合的に考慮すれば、確かにあなたが一番、難しいことになっているは

ずだわ。つまり、フォローは統括の役目って言う、あてつけかしら、全く」

388

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「申し訳ございま──」

分・

ら・

な・

い・

「謝ることは無いわ、セバス。私だって、デミウルゴスだって

んだもの」

 そこでアルベドは一度言葉を切って、息を吐く。

 セバスは、彼女の言葉を待つしか出来なかった。

執事バトラー

 そんな彼を見計らったように、「

、一つ話をしてあげる」アルベドが長い息継ぎの

後、柔らかく言う。彼はその声に、黙して耳を預けた。

「私は……正直、アインズ・ウール・ゴウンの旗印なんて……どうでもよかった」

 アルベドの口から出たのはそれこそ不敬の塊であったが、セバスは咎めない。彼女

が、そんなことを言いたいのではないとはっきり分るのだから。先の件でさえ、セバス

は己が職務によって、義務的に咎めたに過ぎなかった。

「でも今は違う。あの方がかつて肩を並べた至高の方々と同じく、いえ、最早それは関係

ないわね。多分、この世界では。それでね……私も、あの方と、本当の意味で一緒にい

ることが出来るのなら。あの方が、そう──至高の方々の代わりでない、他ならぬ私達

を求めてくださったのなら。アインズ・ウール・ゴウンの旗も……悪くないんじゃない

か、って。そう思ったの」

 そう言いつつ、アルベドは自虐的に笑う。

「チョろい女。そう思わない? セバス」

389 幕間

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 同意を促すかのような視線がセバスに流れたが、彼はそれに答えることは無かった。

「私は迷っているのです、アルベド様。私は執事でございます。その執事が、まして主と

仲間などとは」

 セバスは今だアルベドに目を向けない。無限回廊の先を見越す。堂々巡りの先々に

て、何かがあると信じて。

「いいじゃない。大いに迷うべきだわ」

「は──」

 だが、アルベドは確かにセバスを真っ直ぐに見て、答えた。生・

き・

る・

と・

は・

そ・

う・

い・

う・

も・

の・

「迷い、悩み、時には無様をさらし助けを求め、それでも……

のだわ、きっと。他ならぬ、あの方がそうであるように。私達も、きっとそうなのよ。セ

バス」

「……」

「私達は生きている。あの方と同じように。それはなんだか……素晴らしいことだと、

思わない?」

 否定はしなかった。セバスも共感した。だが、それはそうあれと作られた、被造物で

ある自分に当てはめてもよいことなのか、やはり彼には分らなかった。

「まぁ、全くもって人間らしい、卑小な考え方だとは思うわ。我ながら嘆かわしい。で

390

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も、それも悪くは無いんじゃないか、と思い始めているのも事実」

「アルベド様は、お強い」

 セバスの言葉は本心からのものだったが、響きは本質と違った。空っぽで、確かに響

くが、空っぽだ。

「お世辞はやめなさい、セバス」

「世辞ではありません」

「なら」

 そこでアルベドは一旦言葉を切ると、静かだが確かな威圧感を発散させ始めた。

「諦めるな、執事。アインズ様がああ仰ったのなら、あなただけ引くことは許されない。

誰かに身の程も知らず寄りかかって、のんべんだらりと甘えていたのは、私達も同じよ」

 その言葉が、突然に彼の空っぽの器へと亀裂を作った。

 だが、亀裂だけだ。その器を破るのは他ならぬ自分自身である。

 扉は開けるものだ。開けてもらうものではない。その為に、取っ手は、蝶番は、そし

てそれを開くための手があるのだ。

「申し訳ございません、アルベド様」

 だから今度の言葉には中身を込めて、彼は謝罪する。心から、真っ直ぐにアルベドを

見て。

391 幕間

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 それを見て、アルベドは笑った。そして心満ちた顔で頷き返した後、やおら悪戯っぽ

く笑みを作って、再度セバスへと言葉を投げる。

「ならセバス。まずはその"様"から始めてみましょうか」

「と、仰りますと?」

「呼び捨てになさい。あなたはナザリックの執事だから、言葉遣いを崩すのは容易では

ないでしょう。だから、敬語はそのままでいいわ。けど、敬称は外してみる。アインズ

様は……まだ例外としておきましょう」

「そんな畏れ多き──」

「いいから……まずは、地に足をつけることから始めましょう? あなたも、私も、ね?」

 未だ、セバスの心は燻る。困惑は色を変えず。

初・

め・

て・

こ・

の・

 しかし、そう言われて

、セバスは

廊下の先に目を遣れた気がした。そこは

当然ながらただの廊下だ。いつもと変わりない光景。今までも、これからもきっと変わ

らない、このまま進めば玉座に座る主が待つ、ナザリックの廊下。

「……わかりました」

 だからきっと、それでいいのだろう。迷うということは、歩いているということ。少

なくとも、セバスが迷うのはこの廊下でない。この道の先には、他ならぬアインズ・ウー

ル・ゴウンと──仲間達が待っている。それが分っているのならば、それでいい。

392

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 セバスは、その普通の廊下に一歩を踏み出す。

「アルベド」

 足取りは軽く、なんとも、考えていたより遥かに簡単な一歩だった。

「ところで、アルベドは何故、アインズ様のお部屋に?」

 セバスの問いに少し峻巡したアルベドだったが、やがて質問の意図を掴んだのか、一

言だけ答えた。

「今のアインズ様を……一人にしてはいけない気がしたのよ」

393 幕間

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命有る不死の王と翼無き竜の王─1

    リディアは、長旅で疲れた腰を椅子に落ち着ける。木製の椅子は頑丈な体でそれを受

け止めてくれたが、リディアの体には少し頑丈すぎた。

「はぁ……」

 そして、沈痛な面持ちで息を吐く。

 彼女が今居るのは、ドヴァーキンの家にある、空き部屋である。空き部屋といっても

家具は一通り揃っており、簡素なものだがみすぼらしくは無い。使われずに久しかった

せいか所々ほこりを被っているが、デルキーサスかジェイ・ザルゴ辺りが掃除したのだ

ろう──ほこりの除去が完璧でないところを見ると、ジェイ・ザルゴかもしれない──

生活する分には問題ない環境であった。

 勿論、彼女にはあてがわれた部屋がある。その為、普段なら用事の無い場所だが、こ

のときばかりは別だ。

 リディアは、ベッドで寝息を立てている褐色の少女を横目に見る。彼女こそ、リディ

394

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アがこの部屋にいる理由だ。彼女を保護したというデルキーサス達は、今ドヴァーキン

といる。その間の警護をリディアが受け持ったのだ。

「アウラ・ベラ・フィオーラ、ね」

 エルフらしくない名だと思いつつも、その安らかな顔にリディアは微笑みかける。

 しかし、すぐにその笑みも消えうせる。心の内は安寧に程遠い。心身が共に、疲弊し

ていた。

 今、彼女達は思いもよらぬ事態に陥っている。王都から帰ってきた矢先に待ち受けて

いたのは、一難どころか二、三難が予想される大事だった。転移からこっち、連続して

様々な事態が起こる。息をつく暇が全く無い。

 しかも、今回の件はともすれば取り返しのつかない事件を引き起こすかもしれない。

「……大変なことになったわ」

 そう、それはデイドラロード達の影がこの世界にもさしはじめたこと。

 知識の王ハルメアス・モラの顕現から始まり、彼のアーティファクト"黒の書"の消

失。それだけでなく、デイドラロードの中でもあらゆる意味で厄介と言える、狂気の王

シェオゴラスのアーティファクト"ワバジャック"もまた、行方をくらました。

 あれらは、ドヴァーキンの下にあったからこそ、まだ安全だったと言える。遠足気分

でアーティファクトを片っ端から集め、便利だからと黒の書を読み漁り、手慰めにワバ

395 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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ジャックで遊ぶような、定命の枠から逸脱した彼が持っていたからこそ。

 本来、定命にとって禁忌であるデイドラアーティファクトが、その危険性を一片たり

とも知らぬこの世界に流出した──可能性がある。

(……想像すらしたくないな)

 一体それがどれほどの混乱を生むだろう。どれだけの命が玩具に成り、ゴミに成り果

てるのだろう。既に、アウラ・ベラ・フィオーラという被害者も出してしまった。

 リディアは思う。ドヴァーキンは、タムリエルないし、ムンダスの概念をこの世界に

もたらすことを極端に避けたがった。王都での言動から、それは知れる。だが結局、そ

れをあざ笑うかのように状況が、物品が、人が、要は世界がムンダスを取り入れ始めて

いる。

(従士様はどうお考えなのか……いえ、それは言わずもがな)

 ドヴァーキンは今、家中をひっくり返して蒐集品の確認を急いでいる。もしかした

ら、黒の書やワバジャック以外にも姿を消したアーティファクトがあるかもしれないの

だ。また、セロが周辺を捜索したらしいが、アーティファクトは勿論、デイドラの影も

形も無かったという。

 リディアは、それを残念に思ったが、また当然だとも思った。リディアだけではなく、

他の仲間達も、ドヴァーキンでさえ、そうだろう。消失したアーティファクトを再度見

396

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つけ出せる可能性は低い。いや、皆無だ。何故なら、状況からしてハルメアス・モラが

持ち去ったとしか思えないのだから。

 リディアは思いの丈を飲み込むように、唾を嚥下した。唾に棘でも生えていたのか、

彼女の喉はなんだか、いがらっぽい。

 黄昏。逢魔が時にて太陽は地の底へと押しやられる。

 まもなく、夜が来る。今宵こそ全ての星を溺死させ、月をも圧壊せんと闇が迫る。

『ふざけるな!! アカトシュが許そうと、我が許さぬ!!』

 その時分に突如、甲高い怒鳴り声が家中に響いた。こんな大声を出せるのは、ド

ヴァーキンを除けば一人しかいない。

(何? 何事?)

 またドヴァーキンとアルドゥインが喧嘩したのだろうか、とリディアは思う。この異

常事態に、厄介事がかさばるのは御免被りたい。

 そう思ったリディアが様子を見に行こうか迷っていると、床を鳴らして大げさな足音

が近づいてくる事に気づいた。

 そして、扉が開く。そこにいたのはアルドゥインだった。真紅の瞳は濁っていて、鎮

火しかけのように光が無い。身も気持ち縮こまっており、雨に降られた捨て犬のような

面持ちだった。

397 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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「随分と辛気臭い顔をしているな」

 それはリディアに言った台詞なのか、それとも自虐なのか。リディアには分からず、

その為、咄嗟に言葉が出てこなかった。

 アルドゥインも返事に期待していたのではないだろう、そのままとぼとぼと──彼女

に似つかわしくない足取りで部屋に入り、アウラの眠るベッドを見止めると、その脇に

腰を下ろした。

タ・

ム・

リ・

エ・

ル・

よ・

り・

は・

ま・

し・

「どいつもこいつも、大げさに過ぎる。まだ

ではないか。たった

ダール・パー・ティル・ロス・ワー・ニー

たっ

一柱……

 そうして、沈鬱な表情のまま、囁き声のようなか細い声を出した。

 リディアはあっけに取られる。

 物憂げに沈む端正な顔立ち。夕日を照らし返して綺麗に輝くが、くすんだようにも見

人・

間・

に・

し・

か・

出・

せ・

な・

い・

感・

情・

の・

表・

れ・

える黒髪。

が、確かにそこにあった。

(……これが、アルドゥイン? あの?)

 彼女はアルドゥインが嫌いだ。そも、アルドゥインを好く者など、本来いるはずが無

い。しかし、セラーナは何故かこのアルドゥインに肯定的だ。おかげでドヴァーキンが

人間らしくなった、などと王都からの帰り道、彼女が口にしたのを覚えている。

 そして、あろう事かドヴァーキンまで──主でさえ、どこか肯定的な側面があること

398

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を、薄々リディアは感じ取っていた。制限をかけられているとは言え、スカイリムにい

た頃とは違って、こうして家中を自由に歩き回れていることがその証拠である。

 それに彼女は疎外感を感じていた。あけすけに言って、嫉妬という暗い感情が、元か

らあったアルドゥインへの敵対心を増幅させているのだ。ドヴァーキンの初めての従

者であり、自分こそ一番に彼を知っていると自負するリディアは、セラーナの言葉を半

ば肯定しつつも、絶対に納得できなかった。ドヴァーキンは英雄で、アルドゥインは邪

悪だ。それはスカイリムでも、この世界でもなんら変わらない。変わってはいけないの

だ。

 だが、今のアルドゥインはまるで──

「たかが一柱、ですって? 既に一柱、なのよ」

 リディアはその先を考えないように、言葉を先に出した。そうだ、変わってはいけな

いのだ。彼女にとってアルドゥインは滅ぼすべき邪知暴虐の王であり、敬愛する主の怨

敵なのだから。従者である彼女が、揺らぐことは決して許されない。

「変わりはなかろう。もう聞いたか? この世界では、デイドラを殺せるそうだ」

「え?」

 しかし、その思考も一瞬にして吹き飛ぶ。それほどリディアにとっては、いや、タム

リエルに生きるものにとっては寝耳に水の発言だった。

399 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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「どういうこと? デイドラを、消せる?」

 そう言って、リディアは驚愕に当惑する。

 アルドゥインの言葉は俄かには信じがたい。デイドラとは不死の存在だ。殺しても

死なず、仮に死んでも蘇る。彼女は、そんな存在を"消せる"とのたまったのだ。

 夕日が窓の端を染め上げて、アルドゥインはそれに視線をなぞらせる。リディアは、

彼女の視線がその言葉と共に、夕日の影を狭めたような気がした。

 そして、何かが外れたように、アルドゥインは急にしたり顔になって口を開く。

アーム

? 興味をもったな? 聞きたいのか? 教えて欲しいか?」

「……」

 躁鬱を疑うほどの変わりようである。泣いたドラゴンがもう笑った、と言えばいい

か。悪戯っぽくニヤつくアルドゥインを、リディアは苦々しげに見つめる。子供らしい

愛嬌があるが、中身は邪竜だ。リディアは、その事実の乖離に未だ慣れない。

消・

せ・

る・

は・

ず・

な・

の・

だ・

「……そうとも、消せるのだ。

 そう思った矢先、アルドゥインがこの部屋に来たときと同じような表情を浮かべる。

萎れて、全く気概の感じられない顔だ。

「……アルドゥイン?」

 その様子に、流石にリディアは違和感を隠し切れなかった。或いは、本当に躁鬱では

400

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ないだろうか。憎たらしくは思っても、少し心配してしまうほどだ。

「うるさい。聞くのか、聞かぬのか」

 だが、アルドゥインはその気遣いをかなぐり捨てるように、ふいと目をそらした。

 アルドゥインの百面相の理由は知れないが、どの道このまま一人で疑問に頭をねじ

くっていても、何も進まない。リディアは彼女の話に耳を傾けることにする。状況が半

歩でも進むなら、今は何でもすべきだ。

「……ええ、そうね。聞かせてもらおう」

クルよいぞ

「そうか、ジョールよ。

。では聞かせてやろう」

 アルドゥインはリディアの返答を聞くと、微妙な面持ちのまま声を張る。そうして、

小さい口で舌を回し始めた。

「……この世界に現れた奴らは、分身でなく実体そのものようだ。オブリビオンはここ

ゼィーエ

に無い──

、召喚魔法の変質を貴様も知っていよう」

 リディアは首肯する。召喚魔法──オブリビオンから精霊やドレモラを召喚するの

ではなく、概念体とも呼べる傀儡を創造する魔法に変わっている。それは、王都での一

件でリディアも認知済みだ。

「ならば……デイドラの不死性は二つある。一つは、顕界の分身を殺しても死なぬこと。

二つ目は……実体を殺しても転生し得ること。このうち、一つ目はこの世界で無効にな

401 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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るな?」

 また、リディアは首を縦に振る。

「では二つ目。こちらの方も、貴様らには対抗策があるだろう? 貴様ら、というのは語

弊があるか……ドヴァーキンが鍵だ」

「従士様が?」

 ドヴァーキンが鍵とは、どういうことか。リディアはしばらく考え込むが、一向に答

えが出ない。それを眺めるアルドゥインが、嘲るようなため息をついた。

「貴様は、ドヴァーキンとずっと共にあったのだろう? 察しが悪いだけか? ノルド

にしても、すこし残念な頭だな」

 その言葉に、リディアの黒い部分が突かれた。感じていた疎外感が、針で刺されたよ

うにうっとおしく痛む。

「なっ……、あ、あなたこそ、従士様の何を知っていると言うの! ドラゴン!」

 そのせいか全く捻りの無い言葉しか出てこず、アルドゥインもそれを察してか、よう

ら・

し・

く・

やく

笑った。いや、間違いなく察したのだろう。ドラゴンは感情の機微に疎い

が、それでもなおリディアの感情は露になりすぎている。アルドゥインは彼女の様子を

見ておかしそうに、饒舌になった。

「知っているとも。奴は我が宿敵なるぞ。そして我はドヴァーで、半端者とは言え奴も

402

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ドヴァーの端くれ……我にとっては、この世界で唯一の、どうほ──ッ」

 しかし、アルドゥインは何かを言いかけて言葉を急に飲み込んでしまい、リディアか

らよそよそしく目をそらした。饒舌は閉口して静寂と化す。ドラゴンの小賢しくて、的

確にこちらをなじる罵声を覚悟していたリディアだったが、拍子抜ける。

「いや。よそう。そんなことを話しているのではないからな」

「どうほ? 今、何──」

「ええい、二つ目だ! 答えは出たのか、従者!」

 そのままリディアと目をあわさず、アルドゥインはばつが悪そうに尻を浮かせた。し

おらしく肩をすぼめ、顔がほんのりと赤いのは夕日が差し込むせいではない。

 リディアは若干面食らう。その様子は、本当にただの子どもにしか見えない。例え

ば、ちょっとした失敗を誤魔化す為に黙り込んでいるような、そんな有り様。今度こそ、

外・

見・

と・

中・

身・

の・

隔・

た・

り・

本・

彼女は疑うことをとめられなかった。アルドゥインの

ではなく、

来・

の・

ア・

ル・

ド・

ゥ・

イ・

ン・

と・

の・

乖・

離・

を。

「……ごめんなさい、分からないわ」

 依然、アルドゥインの変わりよう──そのギャップに困惑するリディアだったが、彼

女の様子にすっかり調子が狂ってしまい、怒りは鳴りを潜めていく。おかげで、うって

かわって穏やかな調子の声がリディアの口から出た。

403 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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「ふん、馬鹿め。やはり、ノルドには単細胞しかおらぬわ! 貴様もドヴァーキンも……

!」

 ドヴァーキンの名を出した途端アルドゥインはわざとらしく咳払いし、「話を戻すぞ」

と流れを打ち切って、吐き捨てた。

「さて、何処まで話したか……ああ、二つ目のところだったな。えー……そう、確か、ド

ラゴンレンド──だ。かつて定命が我に浴びせ、ドヴァーキンもまた有しているあの

忌々しいスゥーム。あれこそ……ドヴァーキンが鍵たる所以である。無限を有限に、不

死を定命に落としむるあのスゥームを本体に受ければ、デイドラとて、死ぬ存在になる

と言う。確かにそうだ。あれは、理を捻じ曲げる力だ。今の奴らは、そう、ムンダスと

こ・

の・

世・

界・

に・

は・

実・

体・

と・

し・

て・

の・

デ・

イ・

ド・

ラ・

し・

か・

お・

ら・

ぬ・

の接続が無い以上、

……間違いなく、デ

イドラはオブリビオンから姿を映しあげているわけではない。このアルドゥインの不

死性を簒奪するスゥームが、奴らに通用せぬ道理は無いのだからな」

 確かに、その理論は最もだ──リディアは、アルドゥインへの憎たらしさを完全に忘

れるほどの納得感を得る。

 この世界はムンダスとの接続は一切無い。それは召喚魔法のありようから確認済み

だ。だのに、デイドラロードが顕現するということは──何故現れたかはこの際考慮し

ないものとして──デイドラロードは、分身ではなく本体を世界にさらすことになる、

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とアルドゥインは言っているのだ。

 デイドラの不死性はそれぞれ特徴があるが、一貫して共通するのは、本体が死ねば死

ぬということ。即ち、彼らの本体から不死性を剥奪できれば、殺せる存在になる。それ

から息の根を止めてしまえば、その時点で彼らはこの世界から消える。

「──つまり、まだ取り返せるってことですわ」

 リディアがアルドゥインの理論に心の中で手を叩いた瞬間、脇からたおやかな声がか

かった。

「セラーナ?」

 セラーナが扉に寄りかかって、彼女らにその顔を向けていた。夜が近いせいか、目が

吸血鬼特有の妖しい輝きを放っている。

「アルドゥイン。素直になりきれないのは分かるけど、あまりに子供っぽいわ」

「なっ──」

 アルドゥインが喉をつまらせてむせる。それを眺めるセラーナの表情は、はっきりと

ほくそ笑んでいた。

「あら、ドラゴンも咳をするんですのね。喉は大事にしたほうがよくてよ?」

 セロめいた皮肉を言って、セラーナは後ろ手に扉を閉めた。

「どうしてここに?」

405 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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 リディアが問う。

逃・

げ・

出・

し・

た・

悪・

い・

子・

を追いかけてきました。ねえ? アルドゥイン」

「……」

 余裕げなセラーナとは対照的に、アルドゥインは追い詰められたかのように押し黙

る。リディアは、状況を理解できなかった。

「な、何? さっきから何があったというの?」

 あまりに違和感のあるアルドゥインの様子、デイドラを殺せると言う信じられないよ

うな事実、そしてセラーナの意味深な言葉。リディアの頭は戦いにおいては機敏だが、

ことこういう場面には弱い。

「ここから先は、私が話しますわ。アルドゥイン、あなたはお黙りなさい。あんまり騒ぐ

と、そこのお嬢さんが目を覚ましてしまうかもしれませんし」

 そう言ってセラーナは、手近な椅子を引いてリディアと向き合った。

「デイドラが殺せるってのは、本当なの?」

 食ってかかるようにリディアが言う。もしそれが本当なら、事態の辻褄が合わない。

何故、アルドゥインはこうもしょげているのだろうか。

「本当ですわ。アルドゥインの話したとおり──ドヴァーキンとジェイ・ザルゴ、そして

私の見解から、そういう結論が出ました。セロも肯定的ですわ。アズラの信徒が言うの

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だから、信頼できます」

 確かに、魔法的知識においてはずば抜けているジェイ・ザルゴ、第一紀の知識を持つ

セラーナ、デイドラロードの一人アズラを主神とするダークエルフのセロ、その三人が

頷いた仮説なら、説得力はある。

「でもね、それはやはり仮説に過ぎないのです。シャウトの成り立ちから言って、ドラゴ

ン以外に効くと決め付けるのは危険ですわ。それで第二案を出そうという話になった

のですが……それが、アルドゥインは気に食わなかったようで。いえ、私達も気に食わ

ないのですが」

「第二案?」

「そう。リディア、あなた"オブリビオンの動乱"は知っていて? 私は棺で寝てまし

たので、本による知識しかないのですけど」

「ええ、勿論」

 リディアはセラーナの問いを肯定する。タムリエルにおいて、知らぬものは殆どいな

いだろう。彼女も寝物語に良く聞かされたものだ。

 二百年ほど前、タムリエルの中心地シロディールにて起こった未曾有の大惨事を"オ

ブリビオンの動乱"と呼ぶ。それは、一人の囚人と、一人の修道士が繋いだ救世の物語

として伝わっている。或いは、デイドラロードの恐ろしさを心に刻み付ける教訓として

407 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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か。

 動乱の始まりはクヴァッチと呼ばれる地方都市からだ。そこに、地獄と現世を結ぶ門

"オブリビオンゲート"が突如出現したのだ。クヴァッチは壊滅したが、門は辛うじて

一人の囚人によって閉じられた。その囚人が何者か、正確な記述は何処にも無い。しか

し、囚人はタムリエルの皇帝のみが所持を許される"王者のアミュレット"を所持して

おり、使者としてクヴァッチを訪れたことは確かだった。囚人である彼が何故、そんな

大役を負っていたのかは諸説ある。

 この時、時の皇帝ユリエル・セプティム七世は暗殺され、王位は空白のままだった。し

かし、その囚人は正当な王位継承者であるマーティン・セプティムを探し出して、彼と

共にクヴァッチの門を閉じたのだ。それは事実として相違無いと言われている。よっ

て囚人はそれ以降"クヴァッチの英雄"として知られ、マーティン・セプティムと常に

共に在った。彼らは二人で様々な事件を解決し、遂にはオブリビオンの門を創造する黒

幕──デイドラロードが一人、破壊と変革の王子"メエルーンズ・デイゴン"の陰謀を

突き止めたのだ。

 彼らはそれを阻止するため、現世とオブリビオンを隔てる結界を作る"ドラゴンファ

イア"を灯そうとした。だが、デイゴンはそれより上手だった。彼らがドラゴンファイ

アを灯すよりも先に、軍勢を引き連れて帝都に顕現したのだ。顕現してしまえば、結界

408

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を張ろうと無駄である。デイドラの軍勢は帝都を侵略し、多くの民が命を落したと言

う。

 それでも、英雄とマーティンは諦めなかった。二人は最後まで戦い──そして決心し

たのだ。マーティンは、最高神アカトシュの化身となる為に、王者のアミュレットを破

壊した。そしてその命を捧げて、彼は見事竜神となってデイゴンを討ち、オブリビオン

へと送り返したのだ。同時に、彼の残滓は障壁となって、オブリビオンからの出入りを

封印した。それは二百年の間保持され続け、皇帝の血筋が絶えた今でも、デイドラの本

格的な侵攻を防いでいる。

 これが、"オブリビオンの動乱"の顛末である。英雄の勇気と若き皇帝の決意が織り

成した、奇跡の物語だ。

「それで……ドヴァーキンから聞いたのだけど、皇帝の血族はドラゴンボーンだそうね。

その、つまり……マーティン・セプティムは皇帝の血族だけど、あのドヴァーキンはそ

うとは限りません。だから一概には言えませんが……でも……」

 珍しく言いよどむセラーナだったが、その理由はリディアも察することが出来た。心

が痛み、血の気が引くほど、強く。

「……要は、従士様にも、マーティン・セプティムと同じ事をしろっていうの?」

 懸命に力を入れても、どうしてもリディアの声は震えてしまう。

409 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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「そ、そんなの、出来るわけ無いわ。王者のアミュレット……アカトシュとの契約は、聖

アレッシアから連なる……セプティムの血にしか呼応しないんじゃないの? そ、そも

そも、アミュレットも無ければ、この世界にアカトシュもいないわ!」

 リディアは席を立ってセラーナに言い放った。必死の目で、ぶれ続ける焦点を何とか

定め続けた。しかし、彼女の視界はだんだんと黒ずんでいく。それが夜の始まりのせい

なのか、己の意識が沈んでいくせいなのか、リディアには全く分からない。

 セラーナの顔が彼女には見えなかった。だから、近づいた。わななく手が、幼子が母

の温もりを捜すように空を数回切った後、ようやく彼女の肩をつかむ。

「……ねえ、なんとか言いなさいよ、セラーナ──」

「アカトシュの血の契約が、ドヴァーキンに適用されないとは限りません。それに、この

事態は明らかに例外。むしろこの世界では、彼こそ聖アレッシアになり得るかもしれま

せん。彼女のようにドラゴンファイアの契約を始められる因子が、ドラゴンボーンであ

る彼にはあります。それに、アルドゥインがこの世界に来たばかりの時──ああ、ほら、

ドヴァーキンが彼女を押し倒したときですわ。そのときから今日まで、微弱ですが確か

にアカトシュの力を感じていると言っています。デイドラがいるなら、エイドラも然

り。アカトシュがこの世界にいると言う可能性も──」

「私が聞きたいのはそんなことではないわ!!」

410

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 絶叫がつんざくが、かすれた声ではそれほどの声量にもならない。今にも泣き出しそ

うな顔で、リディアはセラーナを見た。ただ、赤い光が二つ見えただけだった。

 いつの間にか、陽が落ちかけていた。太陽が最後の抵抗と言わんばかりの弱弱しい光

を地平線から放っているが、それは後どれほどもつのだろう。夜空を滲ませる力はあっ

ても、塗り替える力は残っていない。

 リディアは何もしゃべらない。ただ、セラーナの肩をつかんでうなだれるばかりだ。

「……陽が、落ちるな」

 耐えかねた様に、アルドゥインが窓の外を見ながら言った。その顔は二人から逸らさ

れている為、表情を読むことは出来ない。ただし、声色はリディアのものと似通ってい

た。

つ・

ま・

り・

こ・

う・

い・

う・

こ・

と・

だ・

っ・

た・

の・

だ・

 リディアは思う。あのアルドゥインの有様は、

。デイ

つ・

ま・

り・

そ・

う・

い・

ドラの影響を完全に断つには、ドヴァーキンの命がいるかもしれない──

う・

こ・

と・

だ・

。それはきっと、アルドゥインにとっては理想の状況だろう。だのに何故、ア

ルドゥインはこんな話に落ち込んでいるというのか。その結末は喜ばしいことではな

いのか。そうなれば、かの邪竜の怨敵はまた別の邪魔者と消え去り、拘束からも逃れ、自

由になれるのだから。

 様々な考えや思いが現れては弾け、消える。その繰り返しの末、リディアの心は段々

411 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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と空白を増やしていった。

 いつしか、落陽はとうとう潰える。完全なる闇が世界を取り囲んで、夜が来る。

 セラーナが〈灯明〉の魔法を放つ。淡い光が部屋を照らした。

 部屋を照らすには、まるで光の量が足りなかった。

   ◆

   どれほど黙りこくっただろうか、とアルドゥインは窓の外を眺めながら物思う。

 遂にリディアは泣きじゃくりながらセラーナに縋りつき、彼女は幻妖に煌く双眸に反

して、優しげにリディアの背をさすっていた。

(我がアカトシュの力を感じたのは、確かだ)

覚・

醒・

 アルドゥインは転移当初を回想する。あの日、不思議な感覚に包まれてある種、

し・

た・

感・

覚・

の・

あ・

っ・

た・

あの日から続く、父アカトシュの気配。

 その原因はあらゆるところに考えられる。この家には九大神の祠がある。また、何故

かデイドラロードの主要な石造もだ。その祠から漏れ出る、仮初の残滓がそう錯覚させ

412

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るのかもしれない。或いは、"アーリエルの弓"と呼ばれるエルフ達にとってのアカト

シュの秘宝が、その力の所以かもしれない。ドヴァーキンの魂から発せられる恩寵をそ

う感じる可能性だってある。

 つまり、結局はまだ色々なことが不確定なのだ。本当にアカトシュがいたとして、そ

れを呼び出す方法はタムリエルとは異なっているだろうし、いると言う確証も無い。そ

れに、そもそもドラゴンレンドがデイドラに有効であれば、アカトシュの力を借りずに

済むのだ。この世界にだって、タムリエルに無い全く新しい封印の術が存在するかもし

れない。確かにそれら全てがありえる話でないが、今は同時にありえない話でもないの

だ。

 アルドゥインは深呼吸する。先程のなよなよしい自分の声が二度と出ないように、腹

に力を込める。

コス・ナーロト

! そろそろ黙らぬか!」

 そうして、アルドゥインは雄叫びに近い声量で喉を張り割かせた。

タ・

ム・

リ・

エ・

ル・

よ・

り・

は・

ま・

し・

「どうということはない! そうとも! 結局は、まだ

ではない

か! 大げさに過ぎるのだ! 貴様らは!」

 ベッドから飛び降りて、彼女は力強く叫び続ける。家中が彼女の声に共振して、唸り

を上げるかのごとく揺れ動いた。

413 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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「確かに多くの有り様は変わった! だが、決して変わらぬこと、それは我がアルドゥイ

ンで、彼奴めがドヴァーキンであること! そうだ、それは一切変わらぬ!」

 アルドゥインは思い出す。先日、王都でドヴァーキンと顔を見合わせた夜を。あの夜

は、包み隠さず言うなら彼女にとって最高の夜だった。その理由は未だ判然としない

が、とにかくあの夜でさえ明けて、今日までつながったのだ。この夜が明けないことな

ど無い。陽が落ちるのが摂理なら、昇るのもまた、摂理だ。

「我等はここよりタムリエルへと帰り、そして殺しあう! それは確かに運命だが、同時

に確固たる意思だ! 貴様らもそうだろう! その剣を我が喉に突き立てるのではな

いのか! 翼をもぎ、鱗を剥いで絶命せしむることこそ、貴様らの旅の終わりではない

のか!」

「え、え!? 何? 地震!?」

 あまりの声の大きさに、さすがにアウラが目を覚まして飛び起き、身構える。しかし

焼・

け・

アルドゥインはそれを無視して、最後の声を振り絞った。セラーナとリディアは、

落・

ち・

た・

村・

で・

の・

経・

験・

か・

ら・

す・

ぐ・

に・

耳・

を・

塞・

ぐ・

が・

、アウラは状況を把握できず、出遅れる。

ムー・ロス・スール・セ・ドヴ

我々

ド・

「アル・ドゥー・イン! ド・ヴァー・キーン! 

! 

ヴ・

ァ・

ー・

の・

王・

と・

そ・

の・

超・

越・

者・

は・

こ・

こ・

に・

あ・

り・

! ならばデイドラなど如何なるものぞ! 奴

らが小さすぎて、今まで気づかなかっただけではないか!」

414

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 言い放って、アルドゥインは締めとばかりに高笑った。ともすれば下劣で、品性の欠

片も無い笑い声だったが、どこか鼓舞するように猛々しく、気高かった。

「え、あっちょ、うっるさ……ッ!」

 辛うじて間に合ったセラーナとリディアでさえ、その声量に身もだえする。間に合わ

なかったアウラは言わずもがな。アルドゥインの高笑いが耳を通じて脳をかき回した。

強烈に響くその声に、アウラはハルメアス・モラの呪縛以上に頭を痛める。

ファーリル

「はははッ! 起きたか、

! それでよい! この世界に我らの声を轟かせ

て──」

「うるせええええええ!!」

 その声より更に大きな声が、徐々に近づいてくる。アルドゥインの声量に負けぬよう

声を張り上げているのだから、当然それよりも巨大な音量だ。つんざくなど生易しい表

現である。

「お前、アルドゥイン! 甘くしたら付け上がって──」

「来たか、ドヴァーキン!」

「馬鹿! 来ないでか! ってうわ、暗いな」

 アルドゥインは不適に笑って、目を閉じる。

 見えずとも、確かに彼がそこにいるのが分かる。魂の形がはっきりと感じられる。ア

415 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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ルドゥインと違う形だが、確かに同じ色の魂を。

と・

り・

え・

(そうとも。この馬鹿の

は、それだけでないか。このアルドゥインを打ち倒した

そ・

れ・

だ・

け・

だ・

と言う、

 彼女の耳にはドヴァーキンの声が聞こえる。それを助けに、心の中のわだかまりを咀

嚼し尽くしてひとしきり頷く。

 そして、彼女は目を開ける。そこには確かに、もう一人の竜の気高き姿が──

「……は?」

「ひっ」

 アルドゥインから間抜けな声が漏れると同時に、アウラから短い悲鳴が上がった。

 彼女の目に入ったのはドヴァーキンではなく、いや、恐らくドヴァーキンなのだろう

彼・

と・

似・

た・

背・

格・

好・

の・

何・

か・

が、彼とは認めがたい

だった。セラーナの〈灯明〉とは別にド

ヴァーキンもそれを使用したからか、部屋が一段と明るいが、そのせいで見たくも無い

ものが目一杯に広がってしまう。

 まず頭部には、灰色に粘っこく沈んだ色をした角の生えた仮面。奇怪な紋様の"クラ

ヴィカス・ヴァイルの仮面"だ。

 次に胴体、"黒檀の鎖帷子"の上に、"救世主の皮鎧"を身につけている。魔法の武

具はその大きさを着用者に合わせる為に出来る芸当だ。二つ合わさった胴の鎧は、色合

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いの不似合い以上に、命を昏迷させる調和を為している。

 右手には浄化の聖剣"ドーンブレイカー"、左手には破呪の盾"スペルブレイカー

"。腰には"メエルーンズのカミソリ"、"モラグ・バルのメイス"、"アズラの星"、

"不壊のピック"が面妖に連なる。

 背には滅槌の"ヴォレンドラング"が静かに脈動し、冒涜の"黒檀の剣"、悪夢の"

堕落のドクロ"、饗宴の"サングインのバラ"が一緒くたにされて混沌の坩堝を作り上

げている。

 無論、指にはハーシーンとナミラの指輪がつけられていた。

 下半身の普通のチュニックとブーツが、普通であると言うのに血塗れて見えるほど、

異様ななりである。

「ド、ドヴァーキン? その……姿は?」

 生唾を飲み込んで、辛うじてセラーナだけが口を開いた。

「あれ、セラーナもここにいたのか……えっと、勝手に無くなるのなら、四六時中身につ

けてればいいと思ってさ。どうだ?」

 そう言って、ドヴァーキンがにじり寄ってくる。

 部屋にいたものは、鳥肌が立つほどの怖気を覚えた。

 さもありなん。この家に存在する──ドヴァーキンの所有する残りのデイドラアー

417 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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ティファクトが、全て一丸となってここにあるのだから。史上最低最悪の怖気の化身

が、今ここにいる。

「ど、どうだじゃありませんわ! どうもこうもありません!」

 セラーナが吸血鬼の運動神経を活かして、一瞬でアルドゥインの背後に飛びのいた。

「……従士様……申し訳ございません!」

 リディアが少しばかり、本当に少しの時間だけ彼の姿に耐えて、もう十分だろう、と

言わんばかりにセラーナに倣う。

「……いや……来ないで」

 アウラが涙目になって、嘆願するような声を出した。

「……待て、ドヴァーキン」

 さしものアルドゥインも、これには耐えかねる。宇宙万物共通して存在する、恐怖や

憎悪や嫉妬や不快やその他諸々の悪感情の象徴が、目の前に全てあるのだ。真っ当な生

命体なら、拒絶しないはずが無い。"狂気"がないだけまだましか、などとは口が裂け

ても言えない状況だ。

「いいや、待たない。アルドゥイン、お前には少しお仕置きがいるな。俺は今、気が立っ

てるんだ」

「分った。分った、我が悪かった。頼む、近づくな。後生だから、ドヴァーキンやめろ!」

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 夜の大森林に、異常が起こる。女性達の悲鳴が混ざって響き渡った。何かを必死に拒

絶して、あらん限りの抵抗を醸し出す凄絶な轟きだった。

 しかし、もしアルドゥインが正常な状態だったなら気づいただろう。森に起こった異

常が、それだけでないことに。そう、それはデミウルゴスのシモベを感知できたアル

ドゥインならば、絶対に気づける異常だった。

 大森林、特にドヴァーキンの家の周辺に一陣の風が起こる。しかし、その風は風向き

とは逆側に吹くつむじ風だった。

 それが十、また二十、そして三十。

 夜が来た。更に深まる。

419 命有る不死の王と翼無き竜の王─1

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 命有る不死の王と翼無き竜の王─2

   夜が来た。アルベドは生い茂る草を踏みしめて、眼前を確認する。自然な草葉のなす

不自然な円形の天窓から、月明かりがスポットライトみたいに差し込む。それは木造の

建築物を照らし上げて、全てをまるで張りぼてのように演出していた。陳腐な舞台だ

と、アルベドは思う。

「隔離はされていないようですね。特に動きも無い」

 眼鏡を直しながら、横に並ぶデミウルゴスが言った。

「ええ」

 その顔には言動に反して、緊迫の色が見て取れる。それはそうだろう、無理も無い。

この世界に来てから、初めてプレイヤー──と限ったわけではないが、仮にそうなら力

量だけは至高の四十一人に比肩しうる存在である。そんな者達と、今から邂逅しようと

言うのだ。

 ドヴァーキンとアルドゥインとの接触。計画は、第二段階まで問題なく完了してい

る。ここが第一の分水嶺だ。気を抜いてはいけない。

420

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 しかし、そんな中でアルベドはどこか上の空だった。決行の直前に見たアインズの様

子がその原因だ。

 アルベドが彼の自室を訪れたのは、精神的な負荷を懸念してのことだった。彼は確か

にアンデッドで、そういった感情の問題にはめっぽう強い。それでも、今日まで連なる

出来事、特に抱えてきた本心を打ち明けた直後とあっては、その限りで無いかもしれな

いのだ。そのような状態の愛する男を放って置くわけにはいかない。

 そうして準備を手早く終わらせ、彼女がアインズの自室を訪れた時──まずは当然、

ノックした。だが、返事は無かった。もう一度、二度繰り返しても同様だった。

 不安に思って、扉を開いた。そこまで落ち込まれているのだろうか、と。だから、そ

んな気分ではなかったがあらん限りの情欲を己の内から呼び覚まして、ある意味から元

気とも言える声を出して、彼女は扉を開いたのだ。ショック療法という言葉もある。強

引だが、それでアインズが元気になってくれれば、というアルベドの甲斐甲斐しい思惑

だった。

 扉を開いた先に見た光景。それは何の変わりも無く、ただ黙して椅子に腰掛けるアイ

ンズの姿だった。何の変哲も無く、何の異常も見られない。

『アルベドよ』

(ああ、そう。このお声。そうよ、何の異常も……無かったはずだわ)

421  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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 その証拠に、彼女に迫られたアインズは彼そのもののかわいい反応を返してくれた

し、表情が無いため読みきれないが、雰囲気や言葉遣いは変わらず──いや、むしろ転

移当初より親愛に溢れたものだと、うぬぼれではなく、素直に感じられた。それでも、彼

女はどこか引っかかる。あのとき椅子に座って虚空に目を投げたアインズは、アインズ

であって、アインズでない気がしたのだ。

『……アルベド? 応答せよ、アルベド』

(やはり、あの杖……いえ、あの混沌の塊こそが原因か? アウラを無事に迎えられた暁

には、真剣にあれをアインズ様から──)

『まさか──おい、アルベド! アルベド! 返事をし──』

『は、はっ! 申し訳ありません! アインズ様!』

 アルベドが身をつんのらせると、彼女の着込む黒い全身鎧が鈍い金属音を立てる。切

伝言

メッセージ

羽詰ったアインズの声で、ようやくアルベドは〈

〉の魔法に気がついた。

伝言

メッセージ

『ああ……よかった。お前だけ〈

〉の反応が無いから、心配したぞ』

『申し訳ございません』

『問題は無いか? デミウルゴスから既に報告は受けているが、どうにも落ち着かん』

 その言葉に、アルベドは鎧の奥から横目にデミウルゴスを見やる。どうやってその視

線に気づいたのかは定かでないが、直後デミウルゴスは一つの頷きをかえした。

422

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「なにも動きはありません。セバスとプレアデス、コキュートスとシャルティア、そして

上・

空・

の・

マ・

ー・

レ・

も同様です」

 そこで言葉を打ち切らず、デミウルゴスは咎めるような目になると、月明かりに眼鏡

を反射させた。

「……アルベド。あなたの考えていることは分ります。しかし、今優先すべきは、アウラ

のことですよ」

「……ええ、ごめんなさいね、デミウルゴス」

 今度こそ、アルベドは淀みを振り払った。左手の漆黒のカイトシールドを構え、緑色

バルディッシュ

の微光を湛えた

を振るう。

『問題ございません、アインズ様。今より我々が配置に着きます。状況が整い次第、また

こちらからご連絡いたします』

『……そうか。くれぐれも、慎重にな』

『はい……時に、アインズ様。一つだけ、ご確認したいことが。今の私には、どうしても

必要なことですので』

『ん、何だ?』

『あなたは……ずっと私達の傍にいてくれますか? どこにも消え去ったりは、しませ

私・

達・

を・

守・

る・

為・

で・

あ・

っ・

て・

も・

んか? 例えそれが、

423  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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『当たり前だ。俺はそう誓っただろう。何があっても、俺はお前達を失うつもりはない

し、ずっと一緒にいる』

 即答だった。ならば。もう本当にアルベドが迷うことは何も無い。

 彼女は、身を隠し、闇に溶け込んだ皆に合図を送った。

「展開」

 その瞬間、風向きとは逆に、つむじ風が吹いた。

   ◆

   静かだ、アインズは玉座の間にて一人そう思う。嵐の前の静けさなのか、それとも単

に静かなるだけか。

 遂に、ドヴァーキンとアルドゥインと相見えるときが来た。脳内でのシミュレーショ

ンは十分だ。アインズは転移してきてから今日までを順繰りに思い返す。多くのこと

が不確定な中決め付けることは出来ないが、恐らく、相手はこの世界で初めて会うプレ

イヤーだ。ならば、ユグドラシルの時とは勝手が違う。

424

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『アインズ様。第二段階は完了いたしました。いつでも、御身をお迎えする準備が整っ

てございます』

『そうか、わかった』

 アルベドからアインズへ準備完了の──アインズが、ドヴァーキンとアルドゥインの

伝言

メッセージ

拠点へ転移しても安全である、という旨の〈

〉が飛ぶ。

(いよいよだ……腹をくくれ、俺)

 アインズは大丈夫だと己の心をなだめる。アウラは危害を与えられず、保護された。

彼らは敵対的な行動をとってもいなければ、ナザリックの誇る精鋭を拠点周囲に展開さ

れても防御行動すら取らない。アインズが転移した傍から攻撃を仕掛けてくる、などと

いう事態にはならないだろう。そもそも、彼らがプレイヤーだとは確定していない。価

値観や立場を決め付けては、むしろそれこそ危うい状況を招く恐れがある。

転移門

ゲー

 アインズの口から、空間転移の魔法がためらいがちに滑る。魔法は、彼の数歩先へ捩

れ立つ空間跳躍の扉を開いた。

 一歩一歩、その時空を歪みへとアインズは歩みを進めていく。

(そうならないために、計画を段階に分けて行動することにしたのだ)

 一歩。

425  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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(凡愚の俺でなく、ナザリックの皆で意見を出しつくした決定事項として)

 また一歩。

(大丈夫だ。俺は一人じゃないんだ。アウラを連れ戻して、誰も傷つかずにナザリック

に帰還する。ドヴァーキンとアルドゥインとの接触も、ナザリックの益になるものとす

る。大丈夫、そのどちらも皆とならやれるさ)

 最後に眼前に門が聳え──アインズは立ち止まる。

(よし……行くぞ!)

 気を引き締め、気合を入れなおしたアインズは、その門を躊躇無く、くぐった。

 時空間の歪曲が直列を為して、彼を玉座の間から遠く離れたトブの大森林へと転送す

る。そして──刹那の時も待たずして、彼の視界一杯に鬱蒼とした夜の森が広がった。

 地を踏みしめ、夜の風に彼のローブが翻る。自然の香りが月光と共に満ち溢れて、こ

んな状況でなければ今日はきっといい夜だったろう。玉座の間と同じく静かだが、それ

はやはり嵐の前の静けさではなく、単に静かなるだけだ。

 アルベドとデミウルゴスがすぐさまアインズを守るように周囲に侍り、コキュートス

とシャルティアが前に出る。また、上空を見上げれば、姿を隠している為目視できない

ものの、マーレが確かにいるはずだ。

「あれだな」

426

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 短くアインズが口にする。視線の先には、質素な木造家屋。セバスとプレアデスがそ

れを取り囲んでいる。そしてその中にこそ、アウラがいる。

 アインズはしばらく相手の出方を待ち、状況を観察する。すぐに動いてもいいが、あ

らゆる部分の先手はもう打ち尽くしてある。

 拠点をプレアデス、守護者とアインズ、そのシモベたちで取り囲み、空にはドラゴン

に跨るマーレを基点として警戒網を敷く。また、考えられうる魔法やトラップの為に、

あらん限りの防御陣を作り、魔法が使えるものは魔法で、使えない者はアイテムなどで

精神や肉体的なバッドステータスから身を守っている。加えて、シモベたちや守護者達

の装備は、あらゆる状況に対応できるよう練りに練った理想的な構成だ、

 ならば、アクションは相手の手札を切らせてからでも遅くない。下手に動いてほつれ

を生むよりは、一度後手を取って様子を見るべきだ。

会・

議・

多・

数・

決・

 そうして、先刻の

にて

で決まった計画なのだ。

 アインズはこの時間を利用して、眼前の動きに集中しながらも、頭の中で計画をさら

い返す。

 まず、前提としてドヴァーキンとアルドゥインはプレイヤーとしても、プレイヤーで

もない存在として扱う。どちらかに傾倒した心持ちでいれば、必ず穴が開く。その為、

そのどちらかは事実が確定的になるまで断定しないことにした。

427  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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 それが接触を果たさずに判明すれば理想なのだが、今回に関しては、アウラを返還し

てもらいに行く以上、そうもいくまい。それに、デミウルゴスのシモベが感知された事

実がある。強行的な情報収集は避けなければならないし、そうすると時間だけがかか

り、アウラの安全が危ぶまれる事態になるかもしれない。

 よって、アインズ・ウール・ゴウンの総意として、彼らはドヴァーキンとアルドゥイ

ンなる者たちへと接触を果たすことにした。それが理想の最善手ではないだろうが、悪

手でもない。ベストを求めるには足りないものが多すぎる。

 そうと決まれば、次は行動の内容だ。恐らく危険性が集約するのは彼らの拠点に転移

する瞬間である。例えば、転移魔法に反応して隔離結界を張られた場合、圧倒的に不利

な状況に陥る。その為、三段階に分けて行動することにした。第一段階として、守護者

達の選りすぐったシモベたちを転送する。これは言ってしまえば囮だ。もしこの段階

で起動する罠などがあれば、計画は即刻中止とする。しかし、それが無ければ、第二段

階として守護者達が全員で転移を行う。これはトラップの基準がレベルの場合に備え

ての防護策だ。もし一定以上のレベルで条件付けされていたのなら、シモベ達に反応し

ない可能性もある。最後に、すべてがうまくいけば、プレイヤー対策をガチガチに施し

たアインズ自らが転移する。これが三段階目だ。

 そもそも守護者全員で、かつアインズまでが赴くのは過剰ではないか、とも考えられ

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るが、アインズ自身がどうしてもアウラを迎えに行きたかった気持ちがあるし、プレイ

元・

ヤーに対しての戦闘や扱いにおいては、

NPC達よりも彼が先達である。加えて、ア

インズはドヴァーキンとアルドゥインに"返さなくてはならないもの"を所持してい

る。シェオゴラスの正体やその他の情報を引き出すためにも、彼は二人と絶対に会わな

ければならない気がした。

 ならば、アインズが行くと言うなら共に行かぬ守護者は居るまい。アインズとしては

デミウルゴスかアルベドのどちらかはナザリックで待機して欲しいところだったが、頑

な彼らの顔を見ると、強制はできなかった。おまけに多数決ではアインズ単独での大敗

を喫した。それなら、アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて、従わぬ理由は無い。

釣・

り・

餌・

 だが、アウラが

であることも否めないのだ。ナザリックが崩壊するリスクは少

ないほうが、当たり前に良い。

 だからアインズは、守護者達も同様にフルスペックの状態で同伴するよう指示、いや、

提案した。アインズ自身もアイテムやMPをある程度惜しまず──奪取される可能性

を鑑みて、流石にワールドアイテムまではいかないが──赴くのだから、彼らにも相応

の覚悟と、準備を怠らないでもらいたかった。例えば、シャルティアにはいつものドレ

ス姿ではなく、真紅の全身鎧を身につけ、神器級アイテムであるスポイトランスを携帯

するよう言いつけてある。

429  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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 彼は、もう何も失いたくないのだ。それには、守護者達も首を縦に振った。

 しかし、ここまで物々しい準備をしつつも、彼はドヴァーキンとアルドゥインに攻撃

を仕掛けようなどと考えているのではない。逆にそれだけは絶対に避けるべきだ。何

故なら、アウラを迎えに行くことは勿論だが──そこから、アインズは彼らと協力体制

をしけないかと考えているのだ。その為、アインズは彼らが敵対的行動を取って展望が

ご破産にないように祈っていたのであるが、無論、それは情や馴れ合いから来るもので

はない。ナザリックの為のメリット・デメリットを総合的に勘案した結果から出でた展

望だ。

 ナザリックは転移したばかり。この世界におけるアドバンテージは再三確認するが、

無いと断言できる。例え強力な力を有していたとしても、それが相対的だという場合は

十分にある。絶対のものでなければ、十分地盤が整っているとは言いがたい。

 同じく、ドヴァーキンとアルドゥインが仮にプレイヤーなら、彼らも転移してきたば

かりだろうとアインズは考える。それは彼らの警戒心の薄さと、立ち回りの雑さ──炎

の柱から始まる、わざわざ自分達の存在をアピールするかのような事案から見て取れ

る。今までずっとこの世界に居たにしては、ガゼフの証言を初めとして様々な違和感が

存在する。

 それでも、彼らしか知りえぬことがあろう。もしかしたら稀有なアイテム──拠点の

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規模からして極小のギルドであろうが、いくつかのワールドアイテム、ともすると"二

十"さえ有している可能性だってある。この世界はカルネ村で確認したとおりユグド

ラシルと似通ってはいるが、全く別の世界だ。自分の知る、利用しやすい手管は多けれ

ば多いほどいい。ある意味、これは棚からぼた餅、ピンチをチャンスに変えられる契機

なのである。これをみすみす逃すつもりは無い。

無限の背負い袋 

インフィニティ・ハヴァサック

 ただ、アインズは一つだけ引っかかる事がある。それは、今は

に仕

舞ってあるワバジャックのことだ。

 シェオゴラス。彼は一体何者なのだろうか。アインズは状況的に言って、ドヴァーキ

ンとアルドゥインに関連すると考える。

 その力は凄まじい。ナザリックの防壁を突破しつつアインズ単独への接触を果たし、

なおかつ正体不明のアイテムを手口が一切不明のままアインズへと残した。それは守

護者達が戦慄するほどの一品だ。あまつさえ時間を巻き戻した可能性だってある。

 もしかしたら、神、と言ってもいいのかもしれない。本当に飛躍した考えだが、この

荒・

唐・

無・

稽・

世界にはそういった類の超常が存在していておかしくは無い。アインズは

思う。

 そんな存在が、ドヴァーキンとアルドゥインに与しているとしたら──彼らと敵対す

るのは、良い選択ではない。仮初でも協力的な関係を構築し、常に相手の動向を掴める

431  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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ような状態を作らねばなるまい。それからナザリックの為になるか判断しても遅くは

無い。潰すべきなら潰すし、飼い殺せるなら飼い殺すべきだ。

非・

常・

に・

心・

残・

 その糸口を掴む意味でも、ワバジャックの解明を果たせなかったことは、

り・

である。

 彼はそう思って、一瞬自分の思考に疑問を感じた。アインズは、ワバジャックをよく

調べられなかったことを残念がっている。無論、それは先の理由から来る感情に相違な

残・

念・

と・

い・

う・

表・

現・

いだろうが、それにしては

はおかしくないだろうか?

(いや、おかしくなどない。何を考えているんだ俺は……ワバジャックを解明できてい

たら、接触前に彼らへより迫ることが出来たかもしれないんだ……一人でもう一度解析

しようとしたときはアルベドに邪魔されてしまったし……やはり強引でも皆に話して

おくべきだったかな)

 アインズはシェオゴラスとの邂逅を思い返し、嘆息する。彼はその時のことをまだ誰

にも打ち明けていなかった。

 別に隠そうと思って隠していたわけではない。話をするタイミングはいくらでも

あった。アルベドやデミウルゴスは会議の最中もワバジャックに視線が移っていたし、

豪胆なコキュートスでさえ居心地が悪そうにしていた。シャルティアはアインズの言

葉を間に受けて何のアクションも起こさなかったが、マーレは明らかにワバジャックか

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ら距離を取っていたし、近くに侍っていたセバスにはらしくない冷や汗が流れていたの

をアインズは確認している。

(ワバジャック、ワバジャック。あの無意味な羅列の中から、俺一人で情報を読み取るの

は難しかった。ワバジャック)

 彼は今更ながらにして、それらを皮切りにしてシェオゴラスの事を話してしまえばよ

かったのだ、と思い至る。守護者達がそこまで異常な忌避感を感じる存在など、真っ当

なものであるはずが無い。たとえ、アインズにはただの杖に見えていたとしてもだ。

(だがどうということはない。時間はまだあるのだ)

 しかし、結局は話さぬまま、こうして決行の時が来てしまった。それは間違いなく成

り行きだし、意図的なものでないが──

(いや、違うだろ俺。時間などもう無い。そうとも、もうやめよう。ここまで来たら考え

ても仕方が無いことだ)

 そう、最早どう足掻いたところでどうしようもない。彼らは今、来るべき時を迎えつ

つあるのだ。

「……ところでアルベド。私達がこうして、どれだけ時間が経った」

 しかし、アインズは未だ変わらぬ状況を不審に思って、アルベドに問いかける。仮に

プレイヤーでなくとも、自宅の周りを異形たちに包囲されているのだ。何の行動も起こ

433  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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さないとは考えられない。

「……五分ほど、でしょうか。デミウルゴス、家の中に生命体はいるのよね」

 アルベドの声色も、いぶかしむ色に染まったものだ。

「ええ、二階にアウラを含めて四。地下に四、計八つです」

「シカシ、明カリスラツイテイナイゾ」

 そのコキュートスの疑問に、夜目の効くシャルティアが答えた。

「いいえ。かすか……ホンットにかすかでありんすが、二階、チビ助のいる部屋からは光

が見えんす」

豆・

電・

「……それって、

みたいなもんか? まさか日没と一緒に寝た?」

 アインズの素直すぎる疑問に、デミウルゴスは思わず苦笑しかけた。しかし、何とか

踏みとどまる。

「いいえ、アインズ様。内部の者達は確かに起きて、行動しているようです。地下室は流

石に見通せませんが……二階にいる者達は、アウラのいる部屋で何か……ん、これは

……修羅場でしょうか?」

「修羅場?」

 状況に全くそぐわない単語に、アインズは小首をかしげた。

「女が女に抱きついて泣いています。それと、アウラのベッドに一つの影が」

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「……いや、全く分らん。なんだそりゃ」

「ハッ! まさか夜這いの現場!? おのれチビ助の貞操に手を出すとは悪趣味な!」

「……シャルティア……恨むぞペロロンチーノ」

 どこか、緩慢と雰囲気が流れ出す。先刻までの緊張感が途切れつつあった。

「えー……」

 それが緩みきる前に何とか押しとどめようと、アインズは咄嗟に声にならない声を上

げる。

「とにかく、詳細は分らないが……相手の動く気配が無いなら、こちらから行こう」

「そうですね」

 アルベドがすぐに同調する。

「……普通にごめんください、でいいのかな……」

 しかし、アインズが漏らしたその言葉には首を振った。

「いいえ、流石に不用意に近づくのはまだ避けた方がいいでしょう。ここから声を上げ

て呼び出──待って、皆、あれは何? デミウルゴス! 『誰でもいい! 報告なさい

!』」

 急激に口調を切羽詰ったものにして、アルベドは言葉を打ち切って前方を指差した。

伝言

メッセージ

同時に彼女はセバスとプレアデスへ〈

〉を飛ばして、報告を促す。

435  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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 そこには木造家屋があることに変わりなく、何の異常も起こってはいない。しかし、

その周囲に展開したはずのセバスとプレアデスに異常があった。

 わなないている。遠目から見えるほど、強く、激しく。

 プレアデスの面々──ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、

ソリュシャン・イプシロン、シズ・デルタ、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの六人─

─は驚愕に目を見開き、まるで内側から何かが体を連打しているかのように、凄まじい

震えようだった。

 セバスだけは辛うじて常態を保っているようだったが、彼は身を隠すことを忘れて戦

闘態勢に入っていた。その視線は玄関近くの木窓から一切動かない。

「……な、何? 一体なんでありんす?」

 あまりの唐突な異変に、シャルティアが目を丸くして、首を回す。しかし、彼女の目

でも特に異常は見つけられず、見えるのはただ見慣れたナザリックの面々だけだ。

「……どうしたというんだ?」

 アインズもまた、同様に困惑する。アルベドを見やれば、彼女は誰かから──名前が

一瞬聞こえたのでナーベラル・ガンマからだと分った─ーの報告を必死の様相で咀嚼し

ていた。

「一体何が──『落ち着きなさい、ナーベラル・ガンマ! 報告を!』……何を言って─

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─『よく聞き取れないわ! ……単語だけでもいいから、落ち着いて、ナーベラル。大

丈夫よ。アインズ様がここにいらっしゃる。誰もあなたを死なせなどしないわ……だ

から、一つ一つ、順番に、報告なさい? ね?』」

 アルベドの言葉の端端からも、ナーベラルはひどく錯乱していることが分る。

「……地下から誰かを探して……? 『落ち着きなさい、ナーベラル。あなたは発見され

ていないのでしょう?』……呼び声? ……『あなたなわけないじゃない、ナーベラル。

え、セラーナ? 誰のことを……ねえナーベラルあなたらしくないわ。もっと分るよう

に言って──』……は? ……邪神?」

 アルベドが、そう呟いたときだった。

世・

界・

が・

矯・

激・

の・

雄・

叫・

び・

を・

上・

げ・

た・

か・

と・

思・

う・

よ・

う・

な・

 世界が咆哮したのだ。文字通り、

、途方

も無く凄まじい激震が走った。

「アル・ドゥー・イン! ド・ヴァー・キーン! ムー・ロス・スール・セ・ドヴ! ド

ヴァーの王とその超越者はここにあり! ならばデイドラなど如何なるものぞ! 奴

らが小さすぎて、今まで気づかなかっただけではないか!」           

 その爆音は前触れ無く、唐突に大森林に響き渡った。

 心を砕き散らすような大声がつんざいて、共振して地が震える。巨大な何かが家屋の

周囲を引っつかんで、滅茶苦茶に揺さぶられているような、とんでもない衝撃が彼らを

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襲った。

「ぐお──」

 多分それらは全て錯覚で、今ここに鳴り轟くのはただの声なのだと、アインズは確か

に理解出来た。しかし、それはあまりに大きく、単純に大きく、そして明確に大きすぎ

た。例えるなら、数百の巨大なメガホンに押しつぶされるような、スピーカー音量設定

のままヘッドフォンをつけてしまったような──それでもこの声を形容するには物足

りない。何故ならそれは、アインズが持たないはずの鼓膜をぶち破って、直線的に魂へ

と突き抜けるほど強烈なのだ。

「──!」

 アルベドが、デミウルゴスが、コキュートスが、シャルティアが、耳を塞ぎながらも

必死にアインズへ何かを叫んでいる。しかし、全くもってそれらはより大きな叫びに打

ち消され、やがて叫び声が高笑いに変貌したとき、最早彼らには耳を塞ぐことしかでき

なかった。

(な、なんだっていうんだ!? これは攻撃か? こ、これこそがセバス達がああなった原

因なのか!?)

 アインズは困惑する。ありもしない耳を塞いでみるが、声を聞かぬこと能わず。声は

お構い無しに、アインズの頭を、体中を、魂を駆け巡っては踏み荒らす。頭の中で言葉

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を出して思考しても、それすら打ち消すように大声は彼を駆け抜ける。

「うるせええええええええ!!」

 そして間髪いれず、また別の声が響き渡った。徐々に大きく、先の大声よりももっと

巨大になって、怒涛の激震がアインズたちへ襲い掛かる。既に、発生源である家屋によ

り近い、セバスとプレアデスは失神しかけだ。顔が青ざめて、バランスを崩しているの

が最早間違いなく見て取れる。しかし、計画を死守して頑なにその場を動こうとしない

せいで、まともにこの声を食らい続けているのだろう。彼は退避を命じたかったが──

(こんな馬鹿でかい声の中で、どう伝えろってんだよ畜生ッ!!)

降・

っ・

て・

き・

た・

 アインズがそう憤慨しつつも動けないでいると、突然、何かが視界の端に

 それはマーレのシモベのドラゴンだった。上空にいたはずが、今は空ろな目で地に伏

している。当然その落下は凄まじい地鳴りを起こしたが、声がそれ以上の揺れを起こし

ている為、蚊が落ちたように、ある意味無音の出来事だった。背ではマーレが泣きそう

な顔になって身をちぢ込めている。あの大音量は、上空までそれほどの威力を持って到

達したとでも言うのか。

(ああ、もう。あああ、こンの……ッ!)

 それに危機感を覚えつつも、アインズにはどうしようもなかった。この声が過ぎ去る

のを、ただうずくまって待つしかなかった。

439  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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(うるせえのはおまえらだァァァァ──ッ!)

 だから、心の中だけでその音量に負けないよう毒づくことが、彼に出来る精一杯だっ

た。

   ◆

   ようやく、声は収まった。非常に長い時間を耐えたような気がするが、恐らくそれほ

どでもない、とアインズは考える。

 彼だけは回復が早かった。魂の受けた衝動が意識を遠くさせつつも、やはり器官とし

て耳を持たぬ彼は、単純に影響が少なく済んだのだろう。

 アインズは辺りを見回す。未だうずくまる守護者達、意識を手放して転がるマーレの

ドラゴン、膝をついて息を切らすセバスと、魂が粉みじんにでもなったかのように、表

情をなくしてへたり込むプレアデス達。

(一体なんだと言うんだ! 精神に干渉する類のスキルか何かか!? それとも行動を制

限する魔法か!?)

440

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 一つ一つ状況を確認していくうちに、彼に少しずつ冷静さが戻り始めたが、すぐにそ

れも焦燥にとってかわる──たった一声、されどあの声のせいで、ナザリックの最大戦

力に近い彼らがこの有様なのだ。

 あらゆる知識を総動員して現状の分析を急ぐ彼だったが、それとは別のところで、す

でにある単純明快な結論が出ていた。そう、スキルだの魔法だの関係ない。結局彼が一

番回復の早かった理由は、耳が無いからだ。対して、耳を持つ彼らが未だ動けぬのは、つ

まりもう分りきったことではないか。それにアインズは、あの激震の最中、確かに感じ

たのだ──あれは声だと。たとえどこまで異様だとしてもあれは──本当に莫大なだ

けの、ただの大声だったのだと。

 しかし、それを認められない自分もまた存在する。ただの声が、一体それだけの力を

叫・

ぶ・

だ・

け・

で・

人・

を・

殺・

せ・

る・

の・

で・

は・

な・

い・

か・

有してよいのだろうか。ともすれば、

、と疑えるほ

どの力がある。事実、ナザリックの面々でさえこれなのだ。この世界の一般人が受けた

らそうなるだろう。それをスキルや魔法として考えなければ、彼の想像を絶する存在

が、あの平凡な家屋の中にいることになる。

(いや、もうそんなことはどうだっていい! いや、どうでもよくないが、今は皆の無事

を確認しなければ! 回復魔法やアイテムは有効なのか? 実質的なダメージは存在

しているのか? ああ、もう……どうしてこうなった!)

441  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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 思考を回転させつつも、とにかくまずは他の者達の無事を確認して、介抱すべきだ─

─そう思い立った彼は次の瞬間、また声を聞いた。

「こんなところにいられるか! 我は部屋に戻らせてもらう!」

 叫び声だったが、先程とは違って常識的な範疇の音量。鈴を転がしたような美声で、

同時に苛烈な口調でもあった。

(この声は──)

 そして突如、いや、とうとうだろうか。アインズは故も無くそう思う。二階の──確

かアウラがいたはずの──部屋から木窓を蹴破って、宵の月がさんざ光を降り撒く舞台

そ・

れ・

は姿を現した。

 長くたなびく黒い長髪、幼さを醸し出す肢体に不釣合いな黒のドレス、同じくあどけ

ない顔には似合わない激烈に輝く紅の瞳。それこそは、月の光に包まれて、まるで芸術

品のようなきらめきを持つ一人の少女だった。

 そう、彼女こそアルドゥイン。アインズにはそれを知る由は無いが、彼と彼女は遂に、

異世界の舞台で邂逅を果たしたのである。まるで最悪と言っていい初対面であったが。

「ぬおッ!?」

 アルドゥインは軽やかに外に飛び出した後、下屋を蹴って──セバスの上に着地す

る。想定とは違う着地に彼女はバランスを崩し、セバスの頭を踏みつけて彼の上に盛大

442

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な尻餅をついた。セバスは当然ながら倒れ付し、少女の下敷きとなる。

「……アーム? なんだ?」

 彼女は、デイドラアーティファクトに塗れたドヴァーキンから逃れるため、外を経由

して地下の自室に逃げ帰ろうとしていたのだった。その必死さから全く周囲の状況を

把握していないアルドゥインだったが、自分の尻の下にうつ伏せに寝転がるセバスを見

て、不思議そうな声を上げる。

お・

前・

も・

ド・

ラ・

ゴ・

ン・

ボ・

ー・

ン・

か・

「おい、何だ貴様は……妙だな。この感覚、

?」

 アルドゥインはセバスにそう問いかける。しかし、肝心のセバスは耳鳴りと頭痛でそ

の問いに答えるどころではなかった。

ティンヴァーク・ジョール

よ、

……いやもう良い! 貴様、ドヴか!?」

見・

慣・

 彼女はそうせわしなく声を上げて、急にセバスから興味をなくす。視界の端に、

れ・

た・

姿・

が・

映・

っ・

た・

の・

だ・

。彼女は首を回してそれを二度見する。見慣れた姿とは、ドラゴン

のこと──即ち、倒れたマーレのドラゴンだった。

「……いや、違うな、紛らわしい奴よ。姿ばかりで、まるで魂は見慣れぬ」

 だが、アルドゥインはまたすぐに怪訝な顔に戻って、言葉を吐き捨てる。その姿は確

ド・

ヴ・

ァ・

ー・

かに彼女の知るドラゴンに近いものだったが、感じられる魂は

とはまるで違っ

たのだ。

443  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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「そしてだ! どうしたことだ、この有様は! 何だ貴様らは!」

 その台詞はどうしようもなくアインズの言いたいものだったが、彼が二の句を繋ぐ前

にアルドゥインがまたも叫ぶ。

ゾルゾンビ

クエス

スケルトン

「特に貴様! そこに突っ立っている

だか

だかわからぬドラウグル! ド

ヴァーキン! 表に出よ、すぐにだ!」

 彼女はつんざいて森をひとしきりざわめかせた後、矢庭に立ち上がって、アインズへ

向けて歩み始める。セバスはそれを見とめた時、アルドゥインの足を掴んで行かせまい

としたが、それは空しく宙を切った。

ディール

デッ

「どうしたことだ、

よ! お前からは、お前はアンデッドだと言うのに魂を感じ

あ・

べ・

こ・

べ・

られるではないか! 一体何だ貴様は! ええい、もう

なのはさんざんだ!」

 歩きながら彼女は、アインズにとっては全く理不尽な怒りを叩きつける。

「わた──」

ディール

デッ

「ドレム! 待て! 我はドヴァーの王、貴様は

。ならば、古から続くしきたり

によって、まずは年長者から口を開くのだ」

 問いかけられたアインズは、名乗り返すことで返答しようとしたが、またも理不尽な

遮りがアルドゥインから飛んだ。表情は動かせないが、もしあればアインズは苦虫を噛

み潰したような顔になっているだろう。なんとなく、シェオゴラスとの会話を思い出す

444

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理不尽さだったのだ。

「それで、お前の名はなんと言う、ディール」

 何がなんだか分らない。アインズは本当にそう感じた。なにせ、今から彼は名乗りを

上げるところだったのだから、少し黙ってくれていればよいのだ。少女然とした様相に

あまりにそぐわないその傍若無人っぷりは、彼女が只者で無いとアインズに囁く為、大

人しく従うことにする。デミウルゴスを見つけた人間種の少女、魂に響く声を持つ者─

─彼女は先程、ドヴァーキンの名を呼んだ。なら即ち、彼女こそがアルドゥインなので

はないか、とも思い至ったのだ。

「私の名は、アインズ・ウール・ゴウンと申します。アルドゥイン……さん」

「不死のお前が定命の敬称をつけて我が名を呼ぶとは、侮辱しているのか貴様!」

「……えぇ」

 思わず、アインズから抗議の声が漏れる。しかし、アルドゥインはそれを咎めなかっ

た。怒りの面を怪訝なものに挿げ替えて、アインズの言葉を反芻し始めたのだ。

「ん? 待て、貴様、何故我が名を知っている? ジューナール・リ・エスティーゼ……

もしや王国の刺客か!? ええい、あの腹黒の定命の王めが! ドヴァーキンも馬鹿な奴

よ、まんまと騙されおって!!」

 そしてようやく思い至る。このアンデッドが自分の名を知っていたと言う事実に、そ

445  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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ぐう真実はそれしかない、とアルドゥインは考えた。アインズとしては、自分の導いた

推論の為に、彼女にカマをかけたに過ぎないのだったが。

「王国……? あなた達は王国とつながりがあるのですか?」

 それは彼にとって上々な結果だった。目の前の少女がアルドゥインだと確定できて、

また、リ・エスティーゼ王国の国王とつながりを匂わせる発言を聞いたのだ。ならば、も

しかするとガゼフを知っているかもしれない。相手の警戒心を解くにあたって、共通の

知り合いとはまず非常に有効な武器になる。それは現実世界での営業経験から、身を

もって学んだ数少ない対人術だ。

「実は私も──」

イ・

ズ・

ル・

ゴ・

ー・

ル・

「まだ我が話の途中であろう! お前は急く奴だな、

!」

 またも実に理不尽な罵声を浴びるアインズだったが、アルドゥインの言葉尻が気にか

かった。

(イズルゴール? 名前を聞き間違われたか? まずいな。この名前をしっかり聞いて

もらわないと、反応が確認できない)

 そう、彼が"アインズ・ウール・ゴウン"を名乗る理由の一つには、他のプレイヤー

を釣る撒き餌の意味もあるのだ。ユグドラシルではそこそこ名の知れたギルドで、恨み

を持つ者も多い。仮にプレイヤーがこの名を聞けば、何らかの反応があって、それがド

446

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ヴァーキンやアルドゥインへ切り込む一助となる可能性もあるのだ。目の前の少女ア

ルドゥインには、この名をもう一度しっかり聞き及んでもらわねばなるまい。

「ええと──アルドゥイン。私の名前は、アインズ・ウール・ゴウンです」

 だから、アインズはどうかアルドゥインが話を聞いてくれるよう、低姿勢かつ温厚を

貫いて、もう一度名乗った。どちらかと言えば今すぐにでも他の面々を助け起こした

かったが、接触は最早始まってしまったのだ。それに今更ちょっと失礼、などといえば、

この目の前の少女が怒りを振りまくのは想像に難くない。二・

度・

名・

乗・

ら・

ず・

と・

も・

分・

る・

「……ふん。アンデッドの癖に随分馬鹿丁寧な奴だな。

。Aan

 Iiz─ul─Gol、つまりイズルゴール……"永遠に凍る大地"であろう。名だ

けは良い。誇らしいぞ」

「え?」

アームえ

?」

 アインズには、アルドゥインが何を言っているのか全く理解できなかった。アルドゥ

インも、ドラゴン風の名を持つアインズが名を褒められたというのに、何故怪訝な声を

上げたのか理解できなかった。

ア・

イ・

ン・

ズ・

ウ・

ー・

ル・

ゴ・

ウ・

ン・

「……えっと、

、です。聞き覚えとか、ありません?」

ア・

ー・

ン・

イ・

ー・

ズ・

ウ・

ー・

ル・

ゴ・

ゥ・

ル・

「ドレム。分っておる、

であろう? "アーン"……そ

447  命有る不死の王と翼無き竜の王─2

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う"唯一"を強調せずとも分る、イズルゴールよ……どこかであったか? ドヴァーキ

ンのようなものか?」

「え?」

アームえ

?」

 そのときようやく、二人とも、互いが互いを話にならないと評した。

 それもそのはずである。この場にはあと一人、決定的な人物が欠けていたのだから。

448

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命ある不死の王と翼無き竜の王─3

   ミンディン・パー

ムー・ロスト・ネー・グリンド

会っ

、イズルゴール」

「……はい?」

ハイ・ドレ・ニ

・ミンドラーン・フィン・ロト

「……なんだ……

?」

「えーと……?」

「解せぬのか」

「ええ……解せません」

クロシス

「そんななりで……

、話にならぬな」

 話にならない。アルドゥインはそう断定して鼻を鳴らす。アインズもまた、この食い

違いを確かにそう評するが、それはアルドゥインとは別の言い方が出来る例えだった。

 それは、話にならない、というより、話が出来ない、という言い方。むしろそちらの

方が彼にとってはしっくり来る。先程からいくつか言葉を交わしたが、アルドゥインの

言葉の大半が彼には理解できなかった。どことなく、心へ訴えてくる不思議な響きは感

449 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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じられたが、意味自体は全く分らない。

 これは妙だ、とアインズは思う。何故なら、この世界の発言は自動的に翻訳され、聞

き取れるようになっていたはずだからだ。それもカルネ村で確認済みだし、口の動きと

聞こえる言葉に相違があったことから、錯覚でなく確定的といえる事実だ。

(つまり……どういうことだ? 翻訳コンニャク状態が適用されないって事は……?)

 アインズは、アルドゥインとの会話もそぞろに、考えをめぐらせる。

 仮説として、第一に自動翻訳がここら一帯の言語圏限定の力であること。しかし、そ

れならアルドゥインの言葉全てが理解できないはずだ。虫食いのように理解と不理解

ア・

ル・

ド・

ゥ・

イ・

ン・

が・

異・

な・

る・

言・

語・

を・

織・

り・

交・

ぜ・

て・

会・

話・

し・

て・

い・

る・

が連続する状況はおかしい。

ならそれも理解できるが、わざわざそんなしゃべり方をする人間がいるだろうか、とア

インズは疑問に思う。

 ならば第二に、アルドゥイン自体が自動翻訳の影響下に無いこと。これも、例えば彼

女がプレイヤーならあり得ることだが、それでも第一の仮説と同じく、所々言葉を理解

できないのは辻褄が合わない。

 そもそも翻訳コンニャク効果が人を対象とするのか言語を対象としているのか未だ

不明の法則なのである。そこの断定が出来なければ、あれこれ悩んでもあらゆる仮説に

矛盾が生ずる。

450

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(うーん……声といい言葉といい、さっきからなにがなんだか……頭がこんがらがって

きたぞ……でも、確かに判明したこともある)

 アインズは頭のほつれを取り除く為に、まず分ったことから順に整理を始めることに

した。

 まずは、ガゼフ・ストロノーフの証言に矛盾が存在していること。アインズが感じた

きな臭さは正解だった。自分の勘も捨てたもんじゃないと、アインズは心の中で苦笑す

る。

 彼の証言どおりならば、アルドゥインはドヴァーキンに討たれ、存在していないはず

だ。しかし、アルドゥインは今ここにいる。それはつまり、ガゼフが嘘をついたか、誰

かがガゼフに嘘を吐いたという可能性を示す。ガゼフが嘘をついたと仮定した場合─

─アインズはガゼフの性格を全て知るわけでないが──あの実直な戦士長が嘘をつく

だろうか、と違和感を感じる。勿論、アインズに誘導をけしかけた可能性もあるにはあ

る。だが、それこそ誠実さと高潔さを見て取れる彼に可能なことだとは思えない。なら

誰・

か・

誰・

か・

ば、一番しっくり来るのは

がガゼフに嘘を伝えたこと。言わずもがな、その

はもう決まりきっているようなものだ。

(だが、ドヴァーキンがそうする必要性がわからない。必要があったから嘘を吐いたん

だろうが……つまり、ガゼフ・ストロノーフから、ともすると王国から隠したい何かが

451 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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あった。それは一体なんだ? このアルドゥインそのものだろうか……きっとそこに

弱・

味・

彼らの

がある。そこさえ突ければ……)

 それは、今後アインズが最優先で彼らから引き出すべき情報だろう。交渉の第一目標

であり、最大の材料になりうるものだ。みすみす落としてはなるまい。

 さて、次にアインズの分ったことは、少なくともアルドゥインは相当の力を有してい

ること。声もそうだが、窓から出てきてからの振る舞いが何よりである。

 今、アインズは仮面をつけても無ければガントレットをはめても無い。ドヴァーキン

やアルドゥインの異形種への反応を見る為に、いつもの装いで髑髏を晒している状態

だ。結果、アルドゥインは怯えることも無く、拒絶することも無く、彼女が選んだ行動

わ・

め・

き・

散・

ら・

し・

て・

ア・

イ・

ン・

ズ・

に・

近・

寄・

る・

こ・

と・

だった。それは即ち、アインズを──仮にアン

デッドだと認め警戒していたとしても──恐れるに足らず、と判断した故の行動だろ

う。彼を格下に見るような言動の端々からも、それほど自分の力に絶対の自信を持って

肝・

を・

据・

え・

過・

ぎ・

て・

頭・

が・

緩・

く・

な・

っ・

て・

し・

ま・

っ・

た・

いるのだと窺える。もしくは、

のかもしれない

本・

物・

の・

狂・

人・

が、それはないだろう。アインズは、もう

を見ているのだから、しかとして

それは感ぜられる。

 最後に、これもアルドゥインに関することだが、彼女が人間種の、しかも少女である

ということ。これはアインズの予想外だった。邪悪なる存在、守護者達が忌避するほど

452

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の力を持った異質が、まさか異形種でもなんでもない女の子であったとは。

(例えば、ドラゴンのように圧倒的な存在感を持った……マッチョでいかつい魔王みた

いなもんを想像していたんだが──)

 そうしてアインズがアルドゥインを見る為に眼前に集中を変えた時──アルドゥイ

ンはもうアインズを見ていなかった。後ろを振り返り、月光と合わさる綺麗な黒髪が風

にそよいでいる。

(ん? どうしたというんだ)

 さっきまでの苛烈さが嘘のように静まり返っている。

「……アインズ様、お下がりください」

 ふと声がかかり、アインズはそちらを見た。

 アルベドだった。黒い鎧は月の光に映えるが、アルドゥインの黒に対して、心なしか

くすんで見える。

 彼女はいつの間にか声から回復していたようで、つまりアインズはそれだけ思考に没

頭していたことになる。アインズは疑問に思う。それならばアルドゥインは何故、それ

を咎めなかったのだろうか。感じたとおりの不遜な性格なら、怒声を振りまいて、何が

何でもアインズの意識を引き戻そうとするだろうに。

「……お下がりください、アインズ様。お願いです」

453 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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 呆けていると思われたのだろうか、もう一度アルベドから声がかかるが、明らかに声

がかすれている。

 気づけば、他の守護者達もアインズを守るように、彼を取り囲んでいた。全員、剣呑

な雰囲気で、家屋の──玄関を一様に見据えている。

「……馬鹿が。そのまま来たのか……ドヴァーキン」

 アルドゥインの声もまた、アルベドと同じくかすれていた。彼女の視線もまた、家屋

の玄関へと打ち付けられたように動かない。

「お前達、何を──」

 アインズは違和感を覚えて、周囲の視線の先を追った。

見・

な・

け・

れ・

ば・

よ・

か・

っ・

た・

 彼は正直言って、その瞬間、

、と思った。

あ・

れ・

 多分、この世のありとあらゆる劣悪な感情を凝縮すると、

になるのだろう。

あ・

あ・

い・

う・

も・

の・

 恐らく、あの世の掃き溜めが積もりすぎると、現世に

が膿として出てく

るのだろう。

あ・

れ・

 アインズはワバジャックの異常性には気づけなかった。しかし、

の異常さ、異質

さは、決して感じたくは無いが彼にも伝わってくる。

 悪鬼の如く、羅刹の如く、天魔波旬にして三千世界が遍く忌避する邪そのもの。いや、

混沌カオス

善だとか悪だとかを一切超越して、それらの根源に根ざす純然たる

と言った方が的

454

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確か。

 それが、何の変哲も無い素朴な玄関から出てくると──誰が予測できただろう。

 アインズの周囲を、沈静化の光が包んだ。

   ◆

   ハルメアス・モラの顕現と、その最初の被害者アウラ・ベラ・フィオーラ。それだけ

でも寝耳に水だったと言うのに、ドヴァーキンの目の前にはまた信じがたい光景が広

がっていた。

 最初にそれを見たのは、アルドゥインが窓を蹴破って外に逃げたときだ。このまま脱

走されてはまずいと、すわ窓辺に寄ったドヴァーキンが見た彼らは──恐らく、声にあ

てられたのだろう。ガゼフとの初対面時とは比べ物にならないほど、彼は声を荒げてい

たのだ。しかもドヴァーキンだけでなく、アルドゥインのものも合わさってしまえば、

まあ、どれだけの者でも当然の帰結と言える。

 しかし、アルドゥインを追って行ったセラーナを探して彼が一階へ昇った時は、特に

455 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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異常は無かったように思われたが──

(いや、俺達の声を聞いたってことは、多分もうその時には周辺にいたんだろうな)

 ドヴァーキンは己の凡人加減にほとほと息をつくばかりである。長大なため息は、ク

ラヴィカス・ヴァイルの仮面の中でくぐもって、なんだかうなり声のような音に変わっ

た。周囲のメイド達の顔が険しくなった気がした。

(あ、しまった。着たまんまじゃないか、俺。やばいんじゃないか、これ)

 そこでドヴァーキンは、己の身がデイドラアーティファクトに塗れていたことを改め

て思い出し、はっとして顔を上げて、辺りを見渡す。視線がかち合う度に、かち合った

者の顔が剣呑なものになった。先に表へ出ていたアルドゥインも例外ではない。

(……どうしよう。脱いできた方がいいのか。いや、こいつらが何のためにここへ来た

かによっては、このままの方がいいだろう。ただ……これで会話が成り立つのか疑問だ

が)

 そこで、彼はまるで途方にくれてしまう。この状況は、ちょっとごめんよ、と家の中

に戻ることをすんなり許してくれそうだろうか。

 直近にはあらん限りの敵意をむき出しにした美人メイド達。美しさが台無しになる

ほど顔を険しく歪ませ、ドヴァーキンから一切目を離さない。同じく執事風の初老の男

性も、いつでもドヴァーキンを打ち据えられるよう、構えを研ぎ澄ましている。

456

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 遠方を見やれば──呆れた顔でこちらを見やるアルドゥインの周囲に、異形の者達。

 騎士が二人。真っ黒な鎧に物々しい斧槍を構えた者と、真っ赤な鎧に巨大な槍を携え

た者。

 また、眼鏡をかけた、スーツ姿と思しき長身細身の男性。銀のプレートで包まれた尾

が、彼が人でないことを明確に示している。

 ひときわ目を引く巨大な昆虫は様々な武器を掲げ、立ち上る冷気は氷の精霊に似てい

るが、それよりも圧倒的な雰囲気を漂わせる。

 そして中央には──なんと形容しようか、"エンシェントドラウグル・デスオーバー

ロード・スカージワイト"だとでも言おうか。冗長であまりに稚拙な言い方だが、それ

がまた妙に合致する、とドヴァーキンは戦慄する。

 漆黒のローブは夜の帳よりも黒くたなびいて、そのまま世界を覆いそうなほどだ。赤

く光る眼窩はアルドゥインと色こそ同一だが、それとはまた別の邪悪さを感じる。白磁

のようだが、それでいて怨念で構成されてるかとも思う骨の体躯。手に持つ杖は豪奢さ

と禍々しさの中で渦巻いて、煌びやかながら拒絶感が勝る。

 あれに似た存在がスカイリムには存在する。ドラゴン・プリーストと呼ばれる古の竜

教団の僧侶達だ。だが、彼らがただの塵芥に見えるほど、かの"エンシェントドラウグ

ル・デスオーバーロード・スカージワイト"は超越的な力を発散させている。ドヴァー

457 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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キンは、風格的にあれこそこの集団のリーダーだと直感した。

(これは……家の目の前にドラゴンや吸血鬼がポップするランダムイベントを思い出す

が……比じゃないな。ゲームだったら即時、別データをロードしなおしだ)

 そう思いかけて、ドヴァーキンはすぐさま思い直す。これは現実だ。ゲームならそれ

も可能だが、今、この状況は起こってしまったことで、対処せねばドヴァーキンに明日

は無い。デイドラアーティファクトの件といい、改めたつもりでも、まだどこかゲーム

に引きずられる自分の思考を、彼は苦々しく感じた。

「従士様!」

 急に後ろから声がかかり、リディアがドヴァーキンを押しのけて躍り出た。正面で盾

を構えて防御の姿勢に入り、後からも続々とフォロワーたちが現れる。

「なんだこれは……アズラにかけて……ああ、アズラよ!」

「祈る暇があるなら構えなさいな!」

「おい見ろ、なんだいあの、あれらの魔法は、魔法の武器たちは一体……すごいぞ、おい

皆! 世紀の……ジェイ・ザルゴは全く感動している! 新種だ!」

「馬鹿、ジェイ・ザルゴ! そんな場合か……馬鹿、後ろに下がれ!」

 セロ、セラーナ、ジェイ・ザルゴ、デルキーサスが続いてドヴァーキンの周囲に展開

し、各々戦闘に備え始める。

458

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「ご無事ですか、従士様」

 リディアがそれを確認し、肩越しにドヴァーキンへ語りかけた。

 その気遣いに感謝し、フォロワーたちの対応を見事だと評する一方、ドヴァーキンの

心は更に焦燥に煽られた。

 間違いなく、事態はややこしくなりつつある。このままでは明らかにまずい。彼は、

打開の為の考えを走らせる。

 まず、ドヴァーキンの家屋の周囲に見知らぬ者達がいる。ある者はメイド服や執事

服、ある者は騎士、ある者は異形。これだけかもしれないし、おそらくもっといるかも

しれない。

(ここでの問題点は何だ。脅威度、それも一つだ。いつからいたか、これは重要でない。

目的……そう、それだ。それこそ、彼らの狙いがわからないからこそ、今がどうしよう

もないんだ)

 付け加えれば自身の異様な格好もそうなのだが、ドヴァーキンはそれを脇にやった。

 やってしまった。やってしまったのだ。

 これが、ドヴァーキン最大の過ちと言える。それこそ一番最初に改め、解決すべき問

現・

実・

に・

そ・

れ・

題だったのだ。後にドヴァーキンは思い知ることになる。ゲームではなく、

ぞ・

れ・

の・

デ・

イ・

ド・

ラ・

の・

気・

質・

を・

表・

す・

ア・

ー・

テ・

ィ・

フ・

ァ・

ク・

ト・

が・

存・

在・

す・

る・

とは、つまりどういうことな

459 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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のか。

 しかし、そんなことはドヴァーキンは露知らず、眼前の者達の狙いを解明するために

思いついた案を実行することにした。

「私の名はドヴァーキン! あなた達は何者で、何用でここに参られた! お客人にし

ては少々物騒に見えるが、あなた達が我々に危害を加えない限り、私も剣を鞘に納め続

けよう! ショールにかけて誓う! だから、あなた達の目的を教えてはくれないか

!」

 口調を作り、こちらに今のところ敵意は無いと見せつつ、彼らの狙いを知るために言

葉を投げかけた。無論、声量は抑えてある。

 ドヴァーキンはこの返答次第で、今後の対応を決めるつもりだ。即ち武力行使か、対

話か、である。どうなるにせよ、プランは練っておいた方がいい。彼は、返答を待つ間

に考えを再度走らせた。

 そして、しばらく静寂が流れる。誰も言葉を発せず、身じろぎもせず、目だけが動い

てお互いの動きを見咎めるように。

 なんとも居心地の悪い空気感だったが、それでも、ドヴァーキンはひたすらに待った。

微動だにせず、リーダーと思しき奥の"エンシェントドラウグル・デスオーバーロード・

スカージワイト"へ目線を投げ続けた。何故なら、そこだけは──何故かアルドゥイン

460

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も含めて──動きがあったからだ。何かを打ち合わせている様子が、確かに見て取れ

た。

イ・

ズ・

ル・

ゴ・

ー・

ル・

「おい、ドヴァーキン! 来い! 

が話したいそうだ! ああ、他の者はそ

こで待っておれ! ややこしくなるからな!」

 次に起こった大きな動きは、アルドゥインが声を張り上げながら手招きするものだっ

た。

   ◆

  「私の名はドヴァーキン! あなた達は何者で、何用でここに参られた! お客人にし

ては少々物騒に見えるが、あなた達が我々に危害を加えない限り、私も剣を鞘に納め続

けよう! ショールにかけて誓う! だから、あなた達の目的を教えてはくれないか

!」

「痴れ言を」

 アルベドが吐き捨てるように言う。確かに、混沌の権化が口にするとなんとも言いよ

461 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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うの無い嘘くささがある。それでも、何故かアインズは故の知らぬ説得力を感じてい

た。それが、かの邪神を庇いだてするかのような思考を呼び起こす。

ニドい

、奴は……ドヴァーキンは恐らく、心からそう思っているだろう。

ニー・ロス・フル・メイ

鹿

。あのなりで何を信じろと言うのか。実に下等な頭脳よ。悪

魔の囁きにしか聞こえぬわ、馬鹿めが」

 アルベドの言を否定して、アルドゥインはどことなく呆れたように嘆息した。アイン

ズには、先の思考とその言葉から三つの疑問が生まれた。

「……あれが、ドヴァーキンさんですか?」

「そうだ。いや、そうだとは言いたくないが、残念ながらあの阿呆めが、ドヴァーキンだ」

 第一に、あの邪悪が本当にドヴァーキン──善なるものと想定していた人物なのかど

うか。それは、アルドゥインの即座の肯定で確定した。誠に遺憾だが、その事実は次の

疑問も肯定されればぐっと和らぐ。ドヴァーキンが善、アルドゥインが邪悪というガゼ

フの証言とも矛盾しなくなる。

「なら、普段はもっとこう……違う雰囲気なのですか? あなたの言い方からして、もっ

な・

り・

と別の

なのでは、と思ったのですが」

 それこそ、二つ目の疑問。あんな状態の者が、王国の戦士達と邂逅して、どちらも無

事に済んでいるのはおかしい。十中八九戦士達はドヴァーキンを排除しようとするだ

462

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ろうし、それならば何故ガゼフはドヴァーキンを善と評せたのだろう。これは単にすれ

違いではないかと言う希望的観測が、今度は根拠立ててアインズの中に膨れあがりつつ

あるのだ。

ブロン

「……ああ、あのなりは故あってだ。普段は、野蛮でむさくるしい

の格好……

メド・タフィール

──ドヴァーの恥知らずなぼろきれを纏っている。あの姿はそうだ

な……ちょっとした事故だ。運が悪かったな、イズルゴール」

「そうですか」

 アインズは心の中で手を打つ。安堵した、あんな邪神がこれからこの世界を闊歩する

かと思うと、枕を高くして眠れない。殲滅という選択肢が十分に在り得た。一般人の感

覚しかないアインズをして、あの姿には心底忌避感しかないのだから。アルドゥインの

言い草は気にかかったが、やはり、普段のドヴァーキンは健常で真っ当な姿をしている

のだろう。例えば──魔王を打ち倒す勇者のような、典型的だが勇壮な出で立ちをアイ

ンズは連想した。

 それならば、この怖気はあの装備品のせいで間違いないと断定できるし、また、それ

がワバジャックへとつながる。やはり、シェオゴラスの言っていた男とは、ドヴァーキ

ンのことだったのだ。何故彼がこんな混沌の塊を幾つも有しているのかという疑問は

新たに生まれるが、今までの出来事と仮説が一つはまり、アインズはとりあえずのうな

463 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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ずきを上げた。

「定命──特に人間とは、誠に卑小で惰弱だとは思わんか、イズルゴール。あれはな、い

わば力の扱いを知らぬ赤子よ。定命には過ぎた力を呆けた顔で振り回しているに過ぎ

ズー・ラーン・ワー・クリル

言っ

・ロク・コ・フィン・ティンヴァーク

なっ

ん。

。そういった身

の程知らずが人間と言うもの。踏み潰したくなる腹立たしさだ」

「それには同意するわ」

「で、ありんす」

「全くです」

 すると、唐突にアルドゥインが話題を振り始めた。アインズが反応できないでいる

と、アルベド、シャルティア、デミウルゴスが同時にアルドゥインの言に頷き返してし

まう。

「ほう? 良いな、貴様ら!」

 アルドゥインもそれに満面の笑顔で応えた。少女らしくない、獰猛なものだ。

「……シカシ、ソレヲ制御シキッタ時ニコソ、強者トハ生マレルモノダ」

コラー・ゲイン

「クロシス。それを言うな、

。まあ、それは我も身を以って知ったが……

我らドヴァー

どうせ真の強者には到底及ぶべくも無い。最後に笑うのは

ぞ」

我々

アインズ・ウール・ゴウン

「そうよ、コキュートス。

に敵う事は無いでしょう」

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我・

々・

「そうですね、

には」

「で、ありんす」

「ダガ……」

 だんだんそれつつある会話に、手を上げてアインズは制止する。

「やめよう。今はそんな話をしている場合じゃない」

 全員が水を打ったように押し黙った。アインズに言われたせいもあるが、状況を忘れ

すぎた自覚もあったのだろう。無理も無い。ドヴァーキンの発散する邪気から少しで

も気がまぎれるなら、アインズだって今しがたの会話に加わったかもしれない。

「ドヴァーの会話を遮るな、イズルゴール」

 ただ、当然だがアルドゥインだけは黙らず、喉を鳴らしてアインズを睨んでいた。

「すみません、ですが……この状況、あなたとしても居心地は悪いでしょう?」

 しかし、冷静にアインズは彼女へ言葉を投げかける。彼はこの少女の扱い方を、なん

となく理解しつつあった。ナザリックの元NPC達の放つ強烈な個性と、似通ったもの

がある。彼はそう感じたのだった。

「……それはそうだが」

「なら……ドヴァーキンさんを呼んで貰えないでしょうか。会話をとりなして欲しいの

です。それと、あの装備を脱ぐように言ってくれるとありがたいのですが」

465 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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「むぅ」

 アルドゥインは眉をひそめ、再びドヴァーキンを一瞥する。そして、一人考え込み始

めた。その様子に、アインズの三つ目の疑問が強まる。

 三つ目の疑問。それは、アルドゥインは実はドヴァーキンの仲間ではないだろうか、

ということだ。

 ドヴァーキンは善で、アルドゥインは邪悪なる者。それを裏付けるのはガゼフの短い

証言しかないし、さっきからそうなのだが、彼らを推測する材料がそれしかない。また

別のものが見れば違う推論を立てられるのだろうが、情報の乏しさはいかんともしがた

い。

 その為、アインズは、状況から読み取るだけの判断しか出来ない。即ち、"アルドゥ

インとドヴァーキンはあの家で同居していて、ドヴァーキンは彼女の存在を秘匿するた

めに王国へ虚偽の証言を行ったのではないか"と推察してみたのだった。

 不完全ながら根拠もある。まず、アルドゥインがやけにドヴァーキンへ気安いこと。

聞いたとおりなら、彼らは争いあった敵同士だ。だと言うのに、先程アルドゥインがド

ヴァーキンについて話した時、言葉の反面、口調は親愛すら感じるほどだった。表情も

同様だ。"嫌よ嫌よも好きの内"、とでも言おうか。その類の情念があけすけと感じら

れる。次に、アルドゥイン自身の発言と振る舞いから、強者──定命を超越した存在で

466

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あることは、アインズが出会い頭に察したとおり、ほぼ確定的だろう。ならば、要は彼

ワ・

ケ・

ア・

リ・

らは

なのではないか、という疑念を強める。いきさつは定かではないが、大森

林という都市どころか村ですらない、人気の無いところに隠れ住み、見つかったときに

は嘘を吐いて──まるで、自分達から他人を遠ざけるようである。或いはその逆、他人

から自分達を遠ざけるか。

(だが、その原因がどちらも……アルドゥインだという可能性は、ある。ならば……)

 アインズは更に論を進める。探るべき、突きたかった彼らの弱味こそ、やはりアル

ドゥインなのではないだろうか、と。

 だが、それは推論に過ぎないし、真であったとしても段階を経たに過ぎない。それが

どう脆くて。何処を突けば崩せるのかを見極めねばなるまい。残念ながらそこまでは、

凡なアインズの頭ではひねり出すことが出来なかった。アルベドかデミウルゴスと打

ち合わせできればいいのだが、アルドゥインが邪魔である。

 その為、彼は一計を案じた。アルドゥインにドヴァーキンを呼びに行ってもらい、そ

の時間で対応策を練るのだ。アルドゥインもどこかドヴァーキンの姿に辟易している。

断られる可能性は低い。

(完璧だ……それに、俺一人で進めるすぎるわけにもいかないもんな。きっと皆それぞ

れ考えがあるはずだし)

467 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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 アインズがそうやって考えを閉じた途端、アルドゥインから声がかかった。

「よかろう、イズルゴール。呼んでやろうではないか。ありがたく思え。ドヴァーの王

骨・

ぎ・

す・

が、汚らわしい

の言うとおりにするのだからな」

「な、貴様──」

お・

言・

葉・

「よせ、アルベド……すみません、アルドゥイン。あなたの

通り、感謝します」

「よい、よい、ふふふ……従順にして殊勝であるぞ。イズルゴール。我はお前を気に入り

つつある」

 どうやってかは定かでないが、喉をごろごろと鳴らしてアルドゥインは満足そうに笑

う。アルベドが未だ剣呑な空気を漂わせているが、理解はしているのだろう、口惜しげ

にしながらも沈黙を守っていた。

(……まだ、溝と言うか──意識の差はなくならないかな……忠誠を誓ってくれるのは

嬉しいが……俺が本当に欲しいのは、アルベド……)

「おい、ドヴァーキン!」

 アインズはつんのめった。急に聞こえた大声に驚き、発生源──アルドゥインを見や

る。

「来い! イズルゴールが話したいそうだ! ああ、他の者はそこで待っておれ! や

やこしくなるからな!」

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「あっ」

 忘れていた。アインズは完全に忘れていた。声、そう、彼らにはこの大声があったで

はないか。策を弄して思考をめぐらせるあまり、全く単純な事実をすっかり見落として

いた。

(……ああああああ! 俺だってそうする! わざわざ呼びになんか行くもんか! 声

が出せて、確実にそれが伝わるんなら……わざわざ歩いては行かないもんな、当然だよ

なぁ!)

 早急にアインズは状況を打開するための方法を考え──アルドゥインに声をかけた。

「あ、あのですね、アルドゥイン。あのままドヴァーキンさんが近づいてくるのは、失礼

ですがどうにも耐え難く……お互い、心の平穏の為にも、彼に一度着替えていただいて

から……」

 必死に無い舌を回して、アインズは語る。気分はポカミスで会社に損害を出してし

まったときの、思い出したくもない取り繕いの状況だ。

「アーム? イズルゴール、貴様は意外と臆病だな」

 アルドゥインは瞠目して、鼻で笑う。

「わかった! アルドゥイン、そこを動くなよ! ありがとうございます! 今行きま

すので、見知らぬ方!」

469 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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 呼応してくぐもった、途方も無く混ぜこぜになった声が響いた。

「ああ、えっと。ほら。あー……、だめだ、終わった。来る」

 何か引きとめられる言葉は無いか頭の引き出しをひっくり返して探したアインズ

だったが、無駄だった。ドヴァーキンがこちらに小走りで駆け寄ってくる。忌まわしき

醜悪が深淵から確かに這い登ってくる。それを見たとき、アインズの思考は固まって、

ただ沈静化の光に身をゆだねる他無かった。

「案ずるな。我とてあれには拒否感を禁じえぬが、今すぐどうこうするわけではない。

心を強く持つのだ」

 長身の彼の歩幅は広く、どんどん彼我の距離は縮まる。もう半分を過ぎただろうか。

アインズは腹をくくった。

「それに、例えデイドラアーティファクトに塗れていようと奴は──待て。デイドラ

アーティファクト?」

 その時、アルドゥインが言葉を切って動きを止めた。限りなく不穏な表情で、閉じて

いた目を見開き──ドヴァーキンの腰辺りに視線を集中させている。その顔は、最早

笑ってなどいなかった。

 アインズはもうすることが何も無かったので、不審に思いながらもただその視線に

従った。

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 見れば、煌々と光る真っ白な光を放つ剣が、彼の腰に下がっている。

「ドーンブレイカー。清すぎるが故に、白以外を許さぬ──」

 ドヴァーキンが近づくにつれ、その光はだんだんと強まっていった、渦巻くように、逆

夜・

明・

け・

の・

太・

陽・

が・

ひ・

び・

割・

れ・

て・

巻くように、のぼり立つように、まるで──

、光を無尽蔵に

溢れさせるかのように。

 そして、ドヴァーキンが遂にあと数メートルまでの距離に近づいたとき──光が弾け

た。

ハ・

ル・

メ・

ア・

ス・

・・

モ・

ラ・

だ・

け・

と・

は・

限・

ら・

ぬ・

「いかん、しまった! 

! ドヴァーキン離れよ! 逃

げろイズルゴール!」

 一人、アルドゥインが雄叫びを上げる。ドヴァーキンも光に気づいて立ち止まったよ

うだが、もう、何もかも遅かった。

彼・

以・

外・

の・

誰・

か・

の・

意・

 次の瞬間、ドヴァーキンの腰にあった剣──ドーンブレイカーは、

思・

に・

よ・

っ・

て・

彼・

に・

抜・

き・

放・

た・

れ・

、アインズへとその清浄な白刃が襲い掛かった。

471 命ある不死の王と翼無き竜の王─3

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命有る不死の王と翼無き竜の王─4

    あわや、アインズのこめかみにその刃が打ち据えられる瞬間だった。薄皮一枚の距離

で、はたと凶刃は動きを止めた。

 切っ先は今にも振り抜かれんとその身を獰猛に震わせているが、柄──否、ドヴァー

キンの右腕がそれを許さなかったのだ。

「……う、お──」

 ドヴァーキンから力みの声が漏れる。自分の体が自分のものでないような感覚だっ

た。確かにドヴァーキンの意思は存在するのだが、それとは別に、それよりも強い衝動

が彼の意識を上書きしようとしている。

「きぃぃいいさぁぁああまぁぁぁあああああ!!」

 狂乱の声を上げてアルベドが斧槍を振りかぶった。瞬間の時も経ず、それはドヴァー

キンへの首めがけて振り下ろされる。

「あい、アインズ様にぃ、アインズ様にぃぃいい!!」

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「アルベ──」

 だが、それがドヴァーキンの首を飛ばすことは無かった。彼女が武器を構え、敵意を

明確に発散した瞬間、ドヴァーキンの"黒檀の鎖帷子"から、どす黒い霧が決壊してあ

ふれ出したのだ。

「何!? 駄目だ、アルベド! やめろ! 皆も──全員距離を取れ!」

 その霧がアルベドを蝕む前に、アインズは異常性を察知して、抱きとめるように彼女

を制止した。その後瞬時に魔法を発動させ、霧の範囲外へと身を引く。他の守護者達も

彼の指示に従い、ドヴァーキンから一定の距離を取って、臨戦態勢に入った。

「お離しくださいアインズ様! あいつ、あいつは! あいつだけはァァぁァぁああ!」

「落ち着け、俺はなんとも無い……! 冷静になれ! 冷静になれ、アルベド!」

「アインズ様、一体あれは何でありんすか!?」

 シャルティアが食い入るようにドヴァーキンの剣を見つめる。シャルティアは確か

に感じていた。あの剣、あの光こそは太陽であると。不浄を世から払拭せしむる夜明け

の光明なると、彼女の吸血鬼としての感覚が警鐘を鳴らす。

「わからん! だが近づくな、あれはまずい!」

 それはアインズも確かに感じられた。あの光る剣からは、己の存在を根底から否定さ

れるような、恐ろしい感覚が立ち上っている。

473 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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 しかし、それと同じくらい確かに分ることがある。この状況は、決してドヴァーキン

やアルドゥインが望んでいたものではない。それはドヴァーキンの何かに抵抗するよ

うな挙動、そしてアルドゥインの狼狽というか、激烈な憤激ぶりから確実に察せる事

だった。

ルスク

! メリディア……貴様もか!」

 アルドゥインがあどけない相貌からは想像出来ないほどに顔をゆがめて、憎憎しげな

悪態をつく。

 そのまま彼女はドヴァーキンへと駆け寄るが、ボエシアの霧がそれを許さなかった。

ド・

ヴ・

ァ・

彼女の行く手を阻むように、或いはドヴァーキンを守るように──ともすると、

ー・

キ・

ン・

を・

閉・

じ・

込・

め・

る・

よ・

う・

に・

、彼の周囲に漆黒の瘴気が渦巻く。

ルスク

ルス・ニー

! 

! ドヴァーキン、意識はあるか!」

 この異常事態の原因は言わずもがなデイドラアーティファクトである。メリディア

が己の聖剣を媒介として、ドヴァーキンを操っているのだ。デイドラの秘宝それ自体が

彼らの気質の欠片である以上、それらを本人が操れて何もおかしくは無い。もともとの

所有者は彼らで、アーティファクトは彼らの血肉の一部でもあるのだから。

(しかし……こうまで直接的に干渉出来得るとは……!)

 それだけは彼女の予想外だった。タムリエルならばきっと、ドーンブレイカーが光を

474

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氾濫させる程度──それでも大問題だが──で終わっただろう。そう、タムリエルなら

ば。

 タムリエルとは違い、この世界にアカトシュの障壁は無い。その代わりオブリビオン

も存在しないが、それでもデイドラロードたちは存在する。ならば、それはつまり、本

来のデイドラの力が、世界に遺憾なく発揮できる環境であると言えるのではないか。

 とは言え、ここまで直接的に、性急な行動を起こすとは彼らにも予想できなかった。

それでも行動を起こすのが、メリディアという神なのであるが──"黒檀の鎖帷子"の

所有者であるボエシアが行動を起こした理由は、依然不可解なままだ。

「ア……ルドゥ、イン……」

 ドヴァーキンから消え去りそうなほど細い声が聞こえた。アルドゥインはそれにど

ういう感情を抱いたのか、自分でもわからない。

「ドヴァーキ──」

「何故躊躇うのです、我が戦士よ!」

 アルドゥインが彼に何事か呼びかけたときだった。とてつもなくヒステリックで、高

圧かつ金切り声のような女性の叫びがそれを遮った。

わ・

ざ・

わ・

ざ・

共・

に・

「不浄だ、不浄です! このメリディアが力を授け、あのアンデッドに──

手・

を・

下・

し・

て・

や・

ろ・

う・

と言うのに、どうしてお前は抗うのですか! 殺しなさい! 滅ぼし

475 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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なさい! ドーンブレイカーを持つ者ならば、ここの全てを浄化して、私への忠誠を見

せなさい、ドラゴンボーンよ!」

 清浄なる純にして純白以外を決して認めぬ光の女王、メリディアの声だ。その声は空

間を伝わって周囲全ての者達に反響し、木霊する。

シ・

ェ・

オ・

ゴ・

ラ・

ス・

の・

期・

待・

を・

裏・

切・

れ・

「そうだ、殺せ! 殺すのだ! 

! かの狂人の謀略を破

綻させよ! 奴のいいようにされてたまるものか!」

 遅れて、メリディアに同調するようなだみ声が激する。

「ボエ……シア……」

 辛うじて口を動かし、ドヴァーキンはかの声の主の名を呼んだ。

「そうだ、定命よ。謀りの王子、秘密裏に目論む者ボエシアである! 奴を殺せ! 殺す

我・

が・

力・

で・

お・

前・

を・

守・

れ・

る・

内・

に・

な・

のだ! 早く! 

!」

 その言葉に、ドヴァーキンは違和感を感じた。謀略と裏切りの王であるボエシアが、

ドヴァーキンを守るとは一体どういうことか。先程から、思考がまったく追いつかな

い。意識が裏返りそうなほど様々な衝動、感情がドヴァーキンの脳を混ぜ返して、彼の

自・

分・

の・

中・

で・

戦・

争・

で・

も・

起・

こ・

っ・

て・

い・

る・

か・

の・

よ・

う・

だ・

っ・

た・

心を苛ませる。まるで、

「何をしているのです!」

「殺せ!」

476

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「滅ぼしなさい!」

「殺すのだ!」

「殺せ!」

「──ああ、相も変わらずかまびすしい奴らだ。なあ、ドラゴンボーン」

 最後に響いた声は、メリディアでもボエシアでもなかった、それは心底嫌悪する、底

冷えする声。聞くに堪えない、聞くことを魂が拒絶する、世にして遍く拒絶される存在。

「借りるぞ」

 そういわれてドヴァーキンが感じたのは、誰かが己が腰から何かを抜き放つ音。重厚

で空恐ろしい響きを以って、世界を犯し尽くさんとする邪悪な金擦り音。

 彼から差し抜かれたのは、"モラグ・バルのメイス"だった。

「いいや。返してもらうぞ……か、クハハ」

 ドヴァーキンを衝撃が襲った。物理的にも強大で、精神を削り心まで圧壊せんとする

超常の波動が、彼を襲う。同時に、体を動かすための活力が急激に失われた。言うまで

も無く、それは"モラグ・バルのメイス"に彼が殴打されたからである。そして、それ

を振るった者もまた、言うまでも無く──

 モラグ・バル。かの邪神が、月明かりの下、禍々しい姿を現していた。

 命を支配する者。命を陵辱する者。紛う事なき悪魔の姿を現し世に晒して、マッサー

477 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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とセクンダがいたのなら、彼を月明かりに照らすことは決して無かっただろう。

 夜は、来た。深まった。始まった。

   ◆

   それはいつからか、そこにいた。誰もがドヴァーキンを見ていたはずが、誰もがド

ヴァーキンの背後に現れるまで気がつかなかった。だから、アルドゥインを初めとして

彼の従者達が必死の形相で走り出そうと、全く間に合わなかった。アインズなら止めら

れただろうが、そこまでする義理は無い。アウラをかくまってくれたことに感謝はする

が、話は別だ。

 差しぬかれたメイスは持ち主の手にその大きさを合わせ、瞬時に巨大化した。そこか

らの容赦の無い一撃。人間がしてはいけない吹き飛び方をして、目を背けたくなる動き

で、ドヴァーキンはまさにぼろ雑巾のように地に転がった。同時に、狂ったように光を

撒き散らしていた剣も沈黙し、纏いつく黒い霧も鎧へと収束する。

「従士様!」

478

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 悲痛な誰かの叫び声が聞こえたが、ドヴァーキンはピクリとも動かない。

悪・

魔・

 彼を殴りつけた

は、その声にただ笑った。

「感謝するぞ、ドラゴンボーン。今日まで、我等が秘宝をよく守り抜いた」

 おぞましい声と、相貌だった。先のデイドラアーティファクトに塗れたドヴァーキン

など、赤子のように思えるほどに、どうしようもなく。

 身の丈四、五メートルはあろうかと言う体躯は暗黒で形を成したかのようで、薄暗い

色の肌に覆われている。背からは太く醜い尾がしなり、身をよじるごとに周囲の温度を

奪っていく。全身に立ち上るまさに悪そのものの空気感は、全ての命に絶望を一瞬にし

て植えつけるだろう。そして、これぞ真の悪鬼羅刹が証左の面様。禍々しい双眸に鋭利

な牙と荒々しい角。全てを見下し、全てを足蹴にする冷徹で邪悪な視線──かの者こそ

が、支配と陵辱のデイドラロード"モラグ・バル"であった。

ダール・ロス・フル・ルン

!! モラグ・バル、よくも!!」

 アルドゥインが怒りをばねにして飛びあがり、現れたモラグ・バルの背後へと踊りか

かる。

「ドラゴンごときが、なんとも尊大だ」

 だが、モラグ・バルは振り向き様に左手のメイスを力いっぱい振り下ろした。アル

ドゥインも咄嗟にそれを防御するが、無駄だった。思い切り打ち付けられたそれはアル

479 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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ドゥインの小さな体を殴打し、彼女は地面に叩きつけられ、ボールのように跳ね返る。

「だからこそ、ドラゴンよ──お前のザマは見ていて愉快だったぞ!」

 跳ね返った彼女を、モラグ・バルはメイスの先端で地に打ち付けた。鋭利な先端はア

ルドゥインの体を貫き、禍々しい楔となって、凄まじい衝撃と共に彼女を地に縫い付け

る。おびただしい量の血が、そこからあふれ出した。

「クハハ、クハハ。血は赤かったか!」

 そのままモラグ・バルはメイスを捻った。血が泡となって噴出すアルドゥインの口か

ら悲鳴が上がる。右回り、左回り、右回してから、押し込む。そのたびに、小さな体の

骨と肉が割れ、裂け、砕ける悲惨な音が鳴った。

「いいぞ、ドラゴン。お前がその姿になってよいことは、綺麗な声と外見だ」

 彼女の悲鳴を聞くたび、モラグ・バルは愉快そうに笑って、また醜悪な快感に恍惚と

目を細め始める。

『……全員、聞け。撤退を。各自、ナザリックへと無事に帰還する為の手段は問わない

……逃げるんだ!』

伝言

メッセージ

 その様子を見たアインズの、絶叫ともいえる〈

〉が飛んだ。魔法を使わずとも伝

わるほどに、彼は声を張り上げる。

 アインズはこの光景とあのモラグ・バルを見て、瞬時に判断した。これらは、関わっ

480

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てはいけないものだったのだ、と。

「ですが、アウラは─ー」

「俺が行く! お前達は、逃げろ!」

 そう、しかしアウラをこのままにするわけにはいかない。彼女は未だ、あの家屋の中

にいる。

「ですが!」

「出来ません!」

「アインズ様!」

 アインズは、自分だけでアウラを助けるつもりでいた。このままこの場に居るのはあ

らゆる意味でまずい。なら、彼単身でアウラの救助を試みるほか無い。こんな凄惨な場

所に、これ以上仲間達を居させたくなかったのだ。モラグ・バルの矛先が、いつ自分達

に向けられるか知れないのだから。

「なら全員、ここで死ぬか! 行けよ!」

「アインズ様──」

 もう一度彼は叫ぶ。それにアルベドが否定の言葉を紡ぎだそうとしたとき、冷ややか

な声が間に割って入った。

「かまびすしいのは、お前らもそうだな」

481 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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 アインズは確かに、そこで邪悪な視線を感じた。冷たいなど生温い表現で、彼は蛇に

睨まれた蛙のように身動きが取れなくなる。

「な──」

 別に、いや少しばかりの恐怖心は勿論有ったが、それでもアインズは怯えて固まった

のではない。何がしかの正体不明な力によって、その場に固着されてしまったのだ。

(馬鹿な! 俺はあらゆるデバフもバッドステータスも受け付けないよう、完璧な耐性

を施したはずだ!)

 その通り、今のアインズは対プレイヤーを想定して耐性をガチガチに固めているの

だ。単純に恐怖効果を与えたり、金縛り効果を付与する魔法やスキルは一切無効化され

るし、時間干渉系でさえ、まったくの無力のはずだ。だのに、彼は今、一寸たりとも身

を動かすことが出来ない。まるで、体が内部から凍りついたかのようだった。

「……狂気の王子が言うこともたまには信じてみるものだ。お前がそうか。定命の不死

者よ」

 モラグ・バルの目がアインズを捉え、そうして捕らえた。その有様にアインズははた

と気づく。彼は一度、似たような状況を経験しているではないか。それこそ、シェオゴ

ラスがナザリックの防壁を無視して闖入してきたときに。

「お前は、我々にとって──本当に愉快な状態にある。我らの誰にも染まるし、誰にも染

482

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こ・

まらぬ……"可能性"がある……シェオゴラス、見ているか! お前の言うとおり、

の・

世・

界・

で・

も・

我・

々・

は・

退・

屈・

し・

な・

さ・

そ・

う・

だ・

、なあ!!」

 そうやって下品な笑い声をあげながら、モラグ・バルはメイスを引き抜いた。アル

ドゥインの血がどす黒く糸を引いて滴り落ちる。いや、もうアルドゥインでなく、肉の

塊と言った方がいい。それはもう、ドヴァーキンと同じく動く事は無かった。

 モラグ・バルはそのまま歩をアインズへと進める。守護者達が立ちはだかってかの者

の行先を阻もうとするが、何のきっかけがあったのか、彼は不意に呼びかけられたよう

に、急にその足を止めた。

「──何? デイゴン、駄目だ。お前が出てくれば収拾がつかなくなる。奴で遊ぶのは、

我々がこの地に根付いてからだ。食前酒は食事を楽しむために飲むものだぞ。お前に

今出てこられては、テーブルごと粉々になってしまうではないか」

 虚空と会話し始めるモラグ・バル。その間にアインズは何とか拘束から抜け出せない

かと足掻いてみるが、無駄だった。声すら出すことが出来ない。

「だから──これは余興だ。それに相応しい光景を今からお前にも見せてやる。それで

取りあえずの慰み物とせよ」

 モラグ・バルはそう言い放つと、闇を吸って黒々と爛れたその指を短く鳴らした。

 渇いた音が、空間に反響する。同様に、彼の力が乱れ飛んだ。

483 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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(なんだ……次は、何をしたんだ)

 その瞬間だった。コキュートスがいきなり武器を振り回して、何かからの攻撃を受け

流したのだ。

「何!」

 守護者達全員が飛びのいて、彼の周囲を見やる。

八肢刀の暗殺蟲

エイトエッジ・アサシン

「……

……ナゼ……!」

 不可視を解除して、月下にその身を現したのは──コキュートス配下であるはずのシ

八肢刀の暗殺蟲

エイトエッジ・アサシン

モベ、

達だった。邂逅の為に第一陣として組み入れ、万一の警護として

周辺に散開させていた彼らは今、コキュートスへとその刃を向けていた。

 それに戸惑うアインズと守護者達だったが、次に、獰猛なドラゴンの雄叫びが木霊し

た。

「なっ……どうしたの、お、落ち着いて……ねえ……ねえってば!」

 そこでは、マーレのシモベであるドラゴンが、彼を攻撃し始めているではないか。長

大な尾をしならせて打ち据え、牙と爪で彼を八つ裂きにせんとする、明確な殺意が目に

爛々と宿っている。

「馬鹿な、一体何が──しかし、つまりこれは……」

 その光景を見たデミウルゴスが言いかけたときだった。彼に、彼の部下であるはずの

484

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イビルロード

達が襲い掛かったのだ。

馬・

鹿・

げ・

て・

る・

! そういうことですか! 来ますよ、シャルティア!」

吸血鬼の花嫁

ヴァンパイア・ブライド

 デミウルゴスが何かを察して叫ぶと同時に、シャルティアへは

を始めと

した吸血鬼の一団が襲い掛かる。

「……お前達──情けない! ああ、クソ!」

 郭言葉も忘れ、シャルティアは盛大に悪態をついてから、スポイトランスを振るい始

める。

(……なんということだ、なんだってんだ。奴は……奴はとんでもない──チートだ。

耐性の完全無視だなんて、有り得ない。この世界はある程度……ユグドラシルの概念と

同一の世界じゃなかったのか)

 アインズが固まりつつある己の思考で、辛うじて状況の確認に努める。遠くではセバ

スとプレアデス達が交戦を始めており、見れば、アインズの召喚したモンスター達もま

た、一様に彼の周囲に集まりつつあった。

 その前に立ちはだかる影があった。アルベドだ。彼女が一人、アインズの前で斧槍を

構える。

「アインズ様」

 その声にどんな感情が宿っているのか、アインズには全然分らなかった。

485 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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「クハ、クハハハ。どうだ、余興として──これ以上のものはあるまい? お前はそこで

仲・

間・

が・

殺・

し・

あ・

う・

光・

景・

を・

な・

ただ見ているが良い。

 モラグ・バルの残酷な笑いと宣告がアインズに突き刺さる。しかし、それに感じるの

は絶望などではなく怒りだった。怒り。固まりつつある思考は憤怒による。全身を滾

らせ、たとえ一度や二度沈静化されたとて一切収まることの無い、アインズの存在から

くる絶対の怒気。

 モラグ・バルは、彼らアインズ・ウール・ゴウンの理念を汚したのだ。あろうことか、

アインズの目の前で、かけがえの無い仲間とそのシモベ達を殺し合わせる──それは己

の心と向き合い、克己したアインズにとってどれほど残酷で耐え難い光景だっただろう

か。想像だに難くなく、とても恐ろしいことだ。

(殺してやる──殺してやる……殺してやる! 許さん! 許さん! 許さん!)

 底意地の悪い笑みを浮かべるモラグ・バルに、アインズはあらん限りの殺意を向ける。

それでも、モラグバルはむしろひび割れた口角を更に歪ませるだけで、微塵も悪びれず

再度笑った。

「クハハハハッ! よい……いい、実に良い! どうだ? 貴様は何も出来ん! クハ

ハ、悔しいなあ? 悔しいなあ? え? アインズ・ウール・ゴウンよ! 大事な仲間

達が、悪しき手により望まぬ血を流そうと言うのに、お前はただ突っ立って呆けている

486

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ことしかできん! ああ、折角お互い分かり合えたのに、折角手にした仲間達なのに

傑・

作・

の・

な・

……胸が痛むな、これは悲劇だ! 悲劇だ、

! クハハハハハハハ、ハーッハッ

ハ!」

 そのモラグ・バルの言葉に、アインズの心はとうとうひび割れた。かのデイドラロー

分・

っ・

て・

て・

や・

っ・

て・

い・

る・

の・

だ・

ドは、これを

と気づいたからだ。ひび割れた彼の心から純粋な

憎悪があふれ出し、最早、目の前の悪魔への殺害衝動だけが彼を支配する。

(殺す、殺す、殺す! 殺す殺す殺す──殺してやるッ!!)

 だが、アインズにはやはりその場から動くことが出来なかった。猛烈な殺意を、しか

し殺意のままモラグ・バルへ叩きつけることしかできない。

こ・

の・

世・

界・

に・

錨・

を・

降・

「クハハハ、いいぞ! そうとも! かくして悲劇は幕を開ける! 

ろ・

し・

門・

が・

開・

か・

れ・

る・

そ・

の・

日・

に・

向・

け・

て・

!! 来い! デイゴン! メファーラ! ナミラ!

 ヴァーミルナ! 我等は在るだけでは在るに非ず! 在るように在るからこその、デ

イドラプリンスである!」

 モラグ・バルはそう言い放って天高く掌を掲げた。そして、それに呼応するかのよう

に、ドヴァーキンから彼の掌上へといくつかのアーティファクトが集う。

 破壊と変革の"メエルーンズ・デイゴン"が"メエルーンズのカミソリ"。

 殺しと偽りの"メファーラ"が"黒檀の剣"。

487 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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「惨劇をなそう! 絶望を振り撒こう! 心という心を踏み荒らそう! この地の信仰

を揃え、阿鼻叫喚へと塗り替えよう! そしてオブリビオンを創造するのだ!」

 暗黒と嫌悪の"ナミラ"が"ナミラの指輪"。

 悪夢と凶兆の"ヴァーミルナ"が"堕落のドクロ"。

「我らは既に生まれた! 言うなれば、次は卵よ! クハ、クハハハ! クハハハハハハ

ハハッ!!」 

 邪悪な笑い声が、大森林をざわめかせ、世界に反響しつつあった。

  ◆

   不思議な世界だった。暗いが明るく、恐ろしいが心地よい。粘つきながら勢いよく流

れる渦巻きの目に、浮かんでいるような状態だった。

「……死んだのか?」

 宙に浮かぶドヴァーキンは、故も知らずそう呟く。見上げればたくさんの星。綺麗な

星、薄い星、穢れた星。様々雑多の星星が、さんざ雑把に煌いて、輝きながらも闇に沈

みつつある感覚が彼にあった。

488

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「カラス?」

 ふと、視界の端に黒い影がよぎった。

 黒い鳥、まさしくカラスだ。渦に沿って気流をたどるように、旋回しながら上空へと

羽ばたいていく。

「……お前みたいに、俺にも翼があったらな」

 きっと何処までも飛んでいけた。きっと何もかもを空から見通せた。きっと……邪

悪なる者達を手遅れになる前に見つけ出せた。

 モラグ・バル。最期に見たその姿を、ドヴァーキンは忘れようはずも無い。

「そう。翼が欲しいか」

 女の声。カラスを追うドヴァーキンの意識を、不意の声が呼び止めた。

「でも、それは禁断の力。我が従徒"ナイチンゲール"……いえ、ドラゴンボーン」

 そちらを振り向けば、妖艶にして甘美な姿を黒いローブで包み、麗しい顔を彼に向け

る女性の姿があった。

「……ノクターナル?」

「ええ。あなたの親愛なる主。夜と闇の女王。運命を司る者」

 デイドラロードの一柱、盗賊の女神ノクターナル。彼女が、二羽のカラスを引き連れ

て、ドヴァーキンの前に現れた。神々しくは無いが超常的であり、その艶やかな姿をく

489 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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ねらせて、ノクターナルは彼の傍に寄る。その手には色あせた鍵が握られていた。

「お前が、俺をここに?」

「そうともいえるし、そうでないとも言える」

 デイドラ特有の持って回った言い方で、ノクターナルはうすら笑った。

「ドラゴンボーン、夜が来た」

 その発言の真意をドヴァーキンはつかめない。だが、彼女はお構いなく言を続ける。

「しかし、それは私の夜でもなければ、薄暮と黎明を司る我が妹が望んだものでもない。

夜明け

メリディア

は早すぎた。宵は暁によって照らされるものであり、逆もまた同様だ。ことニル

ンと別のこの地なら、なおさらの事よ」

「何を言っているんだ?」

 恐らく、ノクターナルはそれで伝えたいことを伝えた気分になったのだろう。ド

ヴァーキンからの返事を促すような目線を彼に送るが、当の彼は全く言うことの意味が

わからない。

「……私の手には、鍵がある。そして、お前の心には錠前がある。鍵穴は合致する」

 少し呆れた声色になりながら、ノクターナルは彼の意思を察して、再度口を開いた。

「翼が欲しくば──この"不壊のピック"をお前の心に使いなさい。これは、秘められ

た力を解き放つ神器」

490

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「だが……」

「そう、対価はもらう。代償は要る。このクラヴィカス・ヴァイルが、直々に立会人とな

ろう」

「久しぶりだなぁ、定命!」

 空間に犬が吠えかと思うと、次に一匹の薄汚い犬を連れた青年が姿を現した。契約と

儀式の神、クラヴィカス・ヴァイルである。

「……クラヴィカス」

 憎憎しげな目になって、ノクターナルは彼を睨んだ。

「抜け駆けはよくない。お前達姉妹は秘密主義に過ぎる」

「それをお前が言うのか、暗躍の寵児」

「俺が闇にまぎれるのは性質ゆえ。お前達は、性格ではないか」

 急に剣呑さを帯びる空気。しかし、ノクターナルはどちらかと言えば警戒しているよ

うな雰囲気があった。

「……ハルメアス・モラに言われて来たか?」

 口の端から彼女はそう吐き捨て、より一層クラヴィカス・ヴァイルに苛烈な視線を送

る。だが、彼はそれを「つまらん勘ぐりだ」とだけ言って、涼しげに流した。

「奴が何を考えているか、俺にも分らん」

491 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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「あいつはいつもそうだからな! 使い走りにされたペライトが哀れだったぜ!」

「黙れバルバス……余計なことを言うな。ノクターナル、お前の懸念も分る。だがな。

最初にモラグ・バルとデイゴンが、次にハルメアスが、最後にシェオゴラスが……日和

見を貫くには、もう状況が許さぬ、ということだ」

 そうして彼は手を上げて、ノクターナルの言を先んじて制する。その後、犬──バル

バスがドヴァーキンへと身を擦り寄らせ、クラヴィカス・ヴァイルもまたその中性的な

顔を彼に向けた。

「話がそれてしまった。すまんな」

「何の話をしていたんだ?」

 ドヴァーキンにはさっぱり理解できない内容だった。

「この世界に来て、デイドラにも色々あったということよ、ドラゴンボーン」

 ノクターナルがそれを察したかのように、無言の彼の視線に答えた。

「契約の話に戻ろう」

 まだなにか言いたげなドヴァーキンだったが、クラヴィカスが手を打ち鳴らすことで

それを打ち切り、話を戻した。

「ドラゴンボーン。俺の力をこの"不壊のピック"へと宿す。お前が翼を望むなら、約

力・

定により俺はそれを更に強め、支援しよう。だが、ただではない。その

と引き換えに、

492

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思・

い・

お前から値するものを頂く。それはお前の

だ」

「なんだと?」

「つまり、"今"と引き換えに、お前の"これから"全てを代償とする。しかし、お前は

この状況を良しとしない。俺達もそうだ。残った他のデイドラの神々もな。モラグ・バ

ルとデイゴンの唆しは世界を破滅に向かわせる。ハルメアスの知識欲はこの世界を捻

じ曲げる。シェオゴラスの散歩は、定命の者の心に足跡を残す。いずれも──ニルンへ

の帰還を妨げるものだ。それでも、選択権はお前にある。お前が鍵を開けぬというな

ら、意識を戻そう。そこで絶望と共に死ぬがいい。それなら、俺達もこの世界で生きる

術を探す」

 クラヴィカスはひとしきり話し終えて、目でドヴァーキンの回答を促した。彼は今し

がたの言葉を一言一句噛み締める。

 即ち、クラヴィカスが言いたいことはこうだ──力を与える代わりに、ドヴァーキン

自身を対価として差し出せ、と。それはとても恐ろしいことだ。対価となった彼はいっ

たいどうなって、何処へ行くのだろう。力も要らなくなったら返せるというわけでない

だろうし、そうなると彼が無事に戻れる保証は無い。言ってしまえば、彼は今日、ここ

で死ぬ。だが、それは仮初のもので、全てが終わったときにこそ真に消滅するのものだ。

その間、彼は戦い続けねばならない。邪悪と。混沌と。死に行く先を死地に見て、ぼろ

493 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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きれのようになりながら、最後に間違いなく、死ぬ。彼の幸福と言う点で、まるで見合

わない取引である。刹那の力の為に、己の人生を投げ打つ者など一体どれほどの者か。

 だが──ドヴァーキン、いや、佐藤正はこう考えたではないか。ああ誓ったではない

全・

員・

無・

事・

に・

ス・

カ・

イ・

リ・

ム・

へ・

帰・

す・

か。

、と。佐藤正はそこに含まれない。佐藤正は異世界の

住人だ。本来彼らが紡ぎだすべき物語を身勝手に捻じ曲げて、巻き込んだ張本人。その

償いができるのなら、彼らを元の世界に戻す可能性があるのならば、全てが在るべきに

正・

せ・

る・

のなら──

「時は来た。選択を」

 ノクターナルはドヴァ─キン、否、佐藤正の手をとって、その手に不壊のピックを握

らせる。

 ひんやりとしているが、熱い。軽いが、重い。硬いが、柔らかい。そんな不思議な感

触が、不壊のピックにはあった。

「……これを使えば、モラグ・バルを倒せるのか?」

「さあ? それはあなた自身の選択と行動次第よ。だが、翼無きあなたが大空を飛ぶ力

は与えられよう。ノクターナルの名にかけて誓う」

「保証は」

「俺は契約の神だぞ。俺もまた、自身の存在にかけて誓おう」

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 ならば、迷うことは無い。彼は決断した。不純物ひとつを滅茶苦茶にして捨てること

で、世界の天秤は正しく釣り合う。あるはずの無かった者は消え、あるべき者達が残る。

 それならば、何を躊躇うことがあろうか。

幾・

多・

に・

も・

わ・

た・

「運命とは、動機ではない。選択と決断、そして行動が織り成して生まれる

る・

一・

つ・

の・

道・

あ・

な・

た・

の・

選・

択・

。見せなさい、定命。

を」

 ノクターナルが最後に、静かなる声で彼に語りかけた。

   ◆

   風が吹き荒ぶ。雨が降りしきる。しかし、それは自然のものではない。風は武器や爪

がなぎ払われる波動であり、雨は彼らの血だ。

 その中で邪に笑うものがいる。モラグ・バル。周囲では見知らぬ不死者たちの仲間

と、ドヴァーキンの仲間達がそれぞれの敵と戦っている。

「……ああ」

 言葉にならない声を、ドヴァーキンは上げた。体の力が全く入らない。何とか身を揺

495 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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り動かして、仰向けになるのが精一杯だった。"モラグ・バルのメイス"──スタミナ

へのダメージという、字面にすれば微妙な効果が、現実であればこうも強力なのか。

「……ド、ヴァー、キン」

 ふと、声がかかる。そちらを見やれば、鮮血に染まった小さいからだが、ぼろきれの

ように彼の傍に転がっていた。

「……アルドゥイン、か」

 辛うじて、黒髪とドレスで彼女と判断できる。綺麗だった髪は血で濡れ薄汚く黒ずん

で、華奢で美麗な体躯は滅茶苦茶に壊れていた。

「ふ……、己が……不死性を……、こういう、こんな屈辱的に……思い、知るとは、な」

 それでも、彼女の目は燦々と燃え上がっていた。闘志、憎悪、憤怒、感情は未だ潰え

ず、それに呼応するかの如く、体も徐々に再生を始めている。ドヴァーキンは、ドラゴ

ンの不死性がムンダスと変わらなかったことに安堵すると共に、ムンダスからこの世界

へ引きずってしまったことへの懺悔の目を、彼女に向けた。

「……もういい、休んでろ」

 彼は心から彼女を憐れんで、言った。

 だが、アルドゥインは彼の言葉など全く聞こえなかったように這いずって傍まで寄

り、震える手で、彼の手を掴む。

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「やめろ、ドヴァーキン」

 その手には、"不壊のピック"が握られていた。

「やめ、ろ」

 もう一度、彼女は声を振り絞って言う。

彼・

女・

 アルドゥインがそうする理由が彼には分らなかったが、最早関係ない。これは、

の・

為・

で・

も・

あ・

る・

の・

だ・

 だから、その細い手がかかったまま、彼は鍵を己の胸の前まで持っていく。体を動か

すのがやっとの彼だというのに、アルドゥインの手にはそれを止められるほどの力が

残っていなかった。

「やめ、ろ……やめる、のだ」

 だから、彼女はまた声を上げる。どうか、彼が思いとどまってくれるように。

「なあ、アルドゥイン」

 しかし、声でさえ、虫の息のように彼の声に上書きされてしまう。

「やっぱりさ……俺、英雄なんかじゃないよ」

 そして、彼は鍵を己の胸につきたてた。仄かな光が上がって、痛みはなく、すんなり

とそれは体内に沈む。

「ごめん」

497 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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 捻る。錠の外れる音が、辺りに鳴り響いた。

「謝るくらいなら……ドヴァーキン、らしく……最後まで足掻かぬか」

 アルドゥインの周囲の草地が濡れる。濡らすのは、彼女の血ばかりではなかった。

お・

前・

「馬鹿、な奴、だ……本当に、

は……、馬鹿な、奴だ……」

 錠は外れた。確かにその音は、響いた。けれど、アルドゥインはこうも思う。果たし

錠・

が・

掛・

か・

る・

音・

てそれは、彼の心に

だったのではないか、と。

 そして音の鳴った次の瞬間、ドヴァーキンは糸が切れたように──もとい、糸が繋

がったように立ち上がった。まだ足が震えているが、両手から迸り始めた治癒の魔法

が、彼の生命力を活力と共に回復させている。彼の目はモラグ・バルただ一人を見据え

ており、しかし、そこに先程までの感情らしい感情は感じられなかった。

お・

前・

「ド、ヴァー、キン……

……か?」

 もうそうではないと悟りつつも、アルドゥインは彼に声をかける。返答を期待して。

また、あの野太くもどこか弱弱しい返事を期待して。

 ドヴァーキンは短く、そうだ、とだけ言った。それは、アルドゥインの期待した答え

ではなかった。

お・

前・

お・

前・

お・

前・

「……そう、か。もう……

は……

で、あって……、

で──ないの……だな

……クロシス──ウンスラード……クロシス」

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 彼はその言葉に何も言わない。ただ、機械的に回復魔法を行使して、地に伏すアル

ドゥインをよそに、己だけの回復に努めている。鍵の掛かる前の彼であれば、絶対に

違っただろう。

「……ドヴァーキン……よ。何を失い……何を、得た」

ど・

ち・

ら・

の・

 だから、アルドゥインは最後の確認の為に問うた。このドヴァーキンが一体

彼・

なのか、判別の為に。

 彼は、迷いを捨て翼を得たのだと短く告げた。彼女は、そこで全てを理解した。

貴・

様・

お・

前・

「……そうか……しかし……、それは、

でない、

こそが──無くしてはならない

と……我に教えて、くれたことで……貴様が得たのは……、翼などではない」

 アルドゥインはうずくまって言葉を続ける。しかし、彼は今、アルドゥインと話して

いる場合ではなかった。打ち倒すべき混沌が、目の前に居るのだ。回復魔法の詠唱に集

中する。あと少しで、万全の状態に戻ることが出来る。ただ、それでも相手はデイドラ

ロードだ。出来ればアルドゥインにも、早めに再生を済ませて戦ってもらいたい。彼は

端的にそう思い、話の流れを打ち切ってそれをそのまま彼女に伝えた。

「そうか……そうか。残念、だ……、残念だ、ドヴァーキンよ」

 ドヴァーキンの言葉に、彼女はらしくない顔を作って嘆き始める。さっきまで感情の

燃え滾っていた目は、既に鳴りを潜めて濁りつつあった。

499 命有る不死の王と翼無き竜の王─4

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 彼には、彼女の言っている意味がまるで分らなかった。いや、理解する必要がないと

判断した。そんな状況ではないのだ。おしゃべりの相手は後でしてやればよい。

 それよりも、たった今回復が完了した。今はそちらの方が重要だ。

「Wuld─Nah─Kest!」

 ドヴァーキンは『旋風の疾走』を激烈に叫んで、風となって駆け始める。目指すはモ

ラグ・バル、その首をおいて他に無い。

「行け……もう、お前には……それしか見えぬのだろう。行け……"英雄"よ……」

 走り際、アルドゥインのか細い呟きが聞こえた。彼は今更当たり前のことを言われ、

怪訝な顔で苦笑するばかりだった。

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命有る不死の王と翼無き竜の王─5

    部屋を支配する闇は、月の光が作る影ではない。それよりも色濃く、それよりも深い

忌まわしき暗黒だ。それは、きっと世界の何よりも黒いだろう。

「アウラ・ベラ・フィオーラ、どうする? あれは支配を司る王子、モラグ・バル」

 窓から外を見やれば、気を失っている間にそこは地獄と化していた。邪神を円の中心

として争いあう仲間達、アインズ・ウール・ゴウンに忠を誓う者として尽く凄惨な光景。

信じがたく、また許されざる事態。

「敬愛する主はその力によって動きを封じられ、仲間達はモラグ・バルの支配の力によっ

誰・

も・

望・

ま・

ぬ・

結・

末・

と・

な・

ろ・

う・

てかき回されている。このままでは、

 アウラはただ、立ち尽くすばかりだった。状況は一切飲み込めず、飲み込みたくない

ものだ。この深淵の言うとおりならば、つまり、アインズ・ウール・ゴウンが何処の馬

の骨かも分らぬ木っ端の畜生にいいように弄ばれている、ということだ。

 だが、それが現実として起こっているのは一目瞭然である。仮にそうでもなければ、

501 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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このような光景はありえない。絶対に認められない。アウラを膨大な怒りと悲しみが

襲っており、肥大化したそれらは彼女から動作を奪った。

 部屋に広がる深淵が、身を捩った。おぞましく不気味な動きで、段々と薄い光を飲み

込んでゆき、アウラににじり寄る。

「簡単だ、アウラ。簡単なのだ。お前のその苛立ちや憤怒は、我が名を紡ぐことによって

解消する。お前が私を、ほんの少しだけ認めてくれるだけで、類まれぬ力と巨万の知を

授けよう」

 アウラは躊躇する。これは悪魔の囁きだ。誑かしだ。乗ってはならない。そう分っ

てはいるのだが、かの声に惹かれる心もまたあった。

 それを察した深淵が、薄く笑った。そして、影を集積させて、まな板のようにのっぺ

りした大きく分厚い本を取り出す。

「これは"黒の書"という。我が秘宝、我が知の一部。開け、アウラ・ベラ・フィオーラ。

か・

も・

知・

れ・

ぬ・

その先に、お前の求める力と、或いは答えがある

 ここで、アウラは初めて振り返った。見ないようにしていた影を、見た。

「求めよ。さらば、与えられん」

 本来神聖なはずの一節は、なんとも空寒くアウラの心に響いた。

 

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  ◆

   あれ? と間抜けな声が出た。間違いなく、それは俺の声だ。ドヴァーキンではな

く、佐藤正としての、俺の声。最初に聞いたときは、久しぶりすぎてしばらく気がつか

なかったけども。

 気づけば、俺は空中に浮かんでいた。ただ、体を持ってではなく、なんだかよく分ら

ない小さな光の塊になっている。まるで星になったみたいだ──多分、下から見れば本

当に星に見えるかもれない。何でそんなことに気づけたのかは、三人称視点みたいに俺

を含めた全体を見通せる感覚があったからだ。距離など関係なく、しかも境界でさえど

こまでも。『Skyrim』のコンソールでフリーカメラモードに切り替えた気分だ。

 しかし……俺はクラヴィカスとの取引によって消えたんじゃ無かったのか? 何故

まだ、ここにこうして意識を保てているんだ。うーん……駄目だ、分らん。さっぱり分

別・

れ・

を・

惜・

し・

め・

らんが……サービスタイムみたいなもんか? つまり……

と?

 そう思い至って俺は下を見た。そこには、モラグ・バルとドヴァーキン、フォロワー

達がモラグ・バルと戦っている。あと、家の周囲に居た見知らぬ異形の者達も。

503 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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 彼らは大丈夫だろうか。無事にあいつを撃退し、これから先もやっていけるだろうか

……いや、きっと大丈夫だろう。ドヴァーキン、本物の英雄ならきっと全てをなぎ倒し

てくれるはずだ。俺には出来ない。アルドゥインを裏切った形になったのは本当に心

苦しいが、これでいいんだ。何も出来ない凡な一般人が、そもそも超常や神相手に渡り

合うなど無理なことだったのだ。普通に考えて無理だろう。俺は一般人だぞ。しかも

エリートでも勝ち組でもないただのぺーぺーだ。アニメや漫画の主人公みたいにいく

わけが無いだろ。ああ……そんなことを考えてる場合じゃない。ほら、ドヴァーキンが

モラグ・バルをぶっ飛ばしたぞ。すごいな、ヴォレンドラングとドーンブレイカーの二

刀流なんて出来たのか。モラグ・バルと完全に渡り合っている! いいぞ、やれ! 

ぶったおしてくれドヴァーキン!

 そうしてひとしきり俺はドヴァーキンの戦い様に没頭した。モラグ・バルがメイスを

振り上げればそれをドーンブレイカーで制し、よろけたところにヴォレンドラングの痛

烈な一撃。奴の魔法には魔法で対抗してなお打ち勝ち、シャウトを駆使して戦場を完全

に支配していた。まるでプロゲーマーのプレイ動画を視聴しているみたいだ。本当に

すごい戦いぶりだ。

 だが、妙に気にかかる。彼はさっきから一人で戦ってばかりだ。負傷したアルドゥイ

ンを治療することも無く、フォロワー達に指示も出さない。

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 アルドゥインがあの体でもゲーム同様に再生することが判明したが、放っておいては

可哀想だ。痛いものは痛いだろうに。フォロワー達も、特にセラーナなんてモラグ・バ

ルは因縁浅からぬ相手なんだから、ちゃんとフォローした方がいい。多分冷静な思考が

出来ていないだろう。彼女が吸血鬼になった際に、奴にとても言えないようなことをさ

れたのは『Dawnguard』で明らかだったじゃないか。実際、セラーナがうまく

動かないせいで、ジェイ・ザルゴもタイミングを見誤って正しく機能していない。セロ

やデルキーサスなんかはてんで動きがかみ合ってなくて、ドヴァーキンが突出するせい

でリディアの盾が宝の持ち腐れだ。彼女の武器は剣じゃない、盾だ。

 なんか──ちぐはぐだ。

 それに、まずは『ドラゴンレンド』を使うべきじゃないか? せっかく仮説を立てた

ばかりじゃないか。いい機会って言ったらあれだけど、試すにはちょうどいい。あれは

ゲーム中でこそ便利シャウトでしかないが、設定では古代のノルドが作り出した、対不

死用の最終兵器じゃないか。

 いや、その前に周囲で争っているのは一体誰だったんだ? 彼らに協力を仰げばいい

じゃないか。ああ、でも彼らも彼らで戦っているか……待てよ、あのメイド達は執事の

仲間じゃなかったのか? 何故争ってる? まさか、モラグ・バルが何か……支配の力

か? なら『カイネの安らぎ』が有効になるかもしれない。シャウトの性能がその通り

505 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

Page 512: Thur Se Dov そぽかょめゐそ~ Skyrim×Overlord¼ˆSkyrim×Overlord) 三号 きポ仮初タ世界ドタヒホェヤジわィー くきDRPG化ゼベボ美ヵィビ厳ヵわくあヷまぴ地方ゼ魅了ォポケろボ青年ダぎ寝食ビ忘ポボくきグタ中ジぞょつまょぇこヷぜみタ五作目しSkyrimじー念願タまふヷうャ果ケォ

だとは限らないんだ。

 しかもちょっと待て、モラグ・バルが持っているのはデイドラアーティファクトじゃ

ないか! ってああ、ドヴァーキンの動きが止まった?! 金縛りか? ふざけんなよ!

 何だよそれ! そんな技『Skyrim』には無かったろ! マジでいい加減にしろ

よ、デイドラの畜生ども! チートだろ、何でもアリじゃないか!

 まずいぞ……フォロワー達と連携が取れていなかったせいで、戦線が崩れていく。あ

あ、セラーナ、お前が突貫したところで……何も……! クソ、何とかあいつらに──

「ハハハ、ほぅれ当たりだバルバス! こいつ、随分未練タラタラじゃないか、ハハハハ

!」

「なんだよ、最初に俺が言い出したことだぞ。ヴァイル」

 不意に中性的な声と犬の吠え声が聞こえた。聞き間違えることはない。『Skyri

m』でも珍しい声だったから。クラヴィカス・ヴァイルとその相棒バルバスだ。

「相棒だと!? ふざけるな、こいつはそんな殊勝な奴ではない!」

 ああ、ツンデレ具合はこの世界でも健在なんだ。

「つんでれ? ははぁ……まあいい、そうとも俺さ、クラヴィカスさ。はじめまして、か

な?」

 はじめまして? 一体クラヴィカスは何を言って……というか、何故俺の心を読み取

506

Page 513: Thur Se Dov そぽかょめゐそ~ Skyrim×Overlord¼ˆSkyrim×Overlord) 三号 きポ仮初タ世界ドタヒホェヤジわィー くきDRPG化ゼベボ美ヵィビ厳ヵわくあヷまぴ地方ゼ魅了ォポケろボ青年ダぎ寝食ビ忘ポボくきグタ中ジぞょつまょぇこヷぜみタ五作目しSkyrimじー念願タまふヷうャ果ケォ

れる? 俺は困惑した。さっきから、何も口にしていないのにクラヴィカスと会話が成

り立っている。いや、それよりも何よりも、そもそも俺は死んだ──と言うか消えたん

じゃないのか? 

「心? ああ、お前は今、実に曖昧な存在になっているんだ。希薄になりすぎて境界があ

やふやなのさ。だから、お前の独白は声になるし、お前は口で物事を考えるようになっ

ている」

 ? ……分るように言ってくれないか? 『Skyrim』でもそうだったが、デイド

ラの口上はまだるっこしくて意味が分らない。

「はあ、乏しい奴だ。なら、ばっさり言ってやろう。今のお前は意識そのもの。魂や精神

それだけの存在なんだ。そういった形而上の概念が実質的な器官を持つか? ん? 

持たないだろ、普通は。今のお前のザマはそういうことだ……ああ、いい! 言うな!

 分ってる! 二つ目の疑問に答えてやる。いちいち小うるさい思念を俺に送るん

じゃない! で、何でそんな考えに至ったのか……とんと分らんが、お前は死んでなん

かいない。まあ、お前も定命であるから、こういう超常に出くわすとそういう思考に

走ってしまうんだろうか? まあ、いい。お前の今の状況を端的に言えば、だ……俺の

契約の力を借りて、お前という意識──魂だけを存在として抜き取った状態にある。俺

の力の下に、と言うのが味噌だ。現時点で、お前は俺様の所有物。俺が思うがままにで

507 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

Page 514: Thur Se Dov そぽかょめゐそ~ Skyrim×Overlord¼ˆSkyrim×Overlord) 三号 きポ仮初タ世界ドタヒホェヤジわィー くきDRPG化ゼベボ美ヵィビ厳ヵわくあヷまぴ地方ゼ魅了ォポケろボ青年ダぎ寝食ビ忘ポボくきグタ中ジぞょつまょぇこヷぜみタ五作目しSkyrimじー念願タまふヷうャ果ケォ

きる存在よ。ま、当然だな。対価として頂いたのだから、そうでなくては」

 ……何故、俺の意識を完全に奪い去らない。俺は消えるんじゃ無かったのか? 俺の

"これから"は──代償として捧げられたんじゃ無かったのか? つまり今の状況は、

お前の底意地悪い嫌がらせって事なのか? ……もういい、お前の言うとおり、俺には

未練がある。だから、殺せよ、クラヴィカス。もういいんだ……俺は、俺は英雄なんか

じゃないんだ。

「は?」

 ……は?

「……さっきから……一体お前は何を言っているんだ?」

 ……だって俺は対価となったんだろ? クラヴィカスが俺を対価にしたということ

は、つまり俺の心を消し去ると言うことではないのか。

消・

し・

去・

る・

「そうだな、確かに対価としてもらい受けた。お前の魂を。だが……誰が

言った? 馬鹿め。俺は対価としてもらいうける、としか言っていないぞ」

 え? あ、は──えっ? そうなの? そうだったっけ? だって、確かに……いや

でも……んん?

「……ああ、そういうことか。お前はな、お前の中でだけ完結して、まるで大局を見てい

ない。それはお前の思い違いだ。全てを勘案し、俺の性質を知り、そして状況をつなげ

508

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ていけば、そんな考えには至らんはずだぞ。折角の対価を滅して、なんで得をする?」

 つまり? 要は、俺の心が消えるとか、代償として捧げられた俺は消滅するとかいう

のは勝手な思い込みだったということだったと……そういうことだろうか。

「そうだ。俺は、本来のドラゴンボーンの力をノクターナルの力を増幅させて呼び覚ま

し、その対価として、俺の力でお前の意識、即ち思いを貰い受けた。お前はもう俺の所

有物。つまり、お前の"これから"は、俺のものになった。何もおかしくあるまい? 

約定どおりだが?」

 ……思い、とか、これから、ってのは……そういう意味で? でも、今と引き換えに

とか何とか……ああもう、ホントお前らの話はややこしくて分りにくいな!

「ハッ、お前が勝手に勘違いしただけだろう! ええ? 俺は"代償"にお前の思いを

"打ち消す"と言ったか? ついでに言うなら、俺は"これから"が"いつまで"なの

か明言していないし、お前の今後に関しても一切言及していない。それでも、納得して

契約したのはおまえ自身でないか!」

 俺はその言葉を聞いて、自分なりに解釈を始める。確かに、クラヴィカスは俺を消し

去るなどとは一言も言っていない。代償とする、とだけ言って、おれがその結末を勝手

に思い描いただけだ。契約も内容──即ち"力"を与え、"これからの思い"を対価と

条・

件・

も・

報・

酬・

も・

曖・

昧・

な・

も・

の・

だ・

する──を明示はしたが、詳細を定めてはいない。

。どうと

509 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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ど・

う・

と・

も・

解・

釈・

は・

出・

来・

る・

が・

も解釈できる。

、それでも、いや、やっぱりこれは──詭弁じゃ

ないか!

「ハッハッハ! 詭弁だとよ、ヴァイル! 契約の神に対して! こりゃいいや! 気

に入ったぜ!」

「ああ?! バルバス、調子に乗るなよ! ふざけるな!」

 全く腑に落ちないが……取りあえず、まず一つ目は分った。クラヴィカスとの取引に

より俺は奴の力の下に魂を引きずり出された。代償として消滅するだの、そういう思考

は丸々俺の勘違い、深読みのしすぎだったらしい。それで、現状俺は丸裸の意識そのも

の。自分の思考が丸聞こえ、三人称視点であるのも世界との境界が希薄、現象に程近い

状態である為だということ。

ノ・

ク・

タ・

ー・

ナ・

ル・

は・

な・

ん・

だ・

っ・

た・

ん・

だ・

 しかし、それでもまだまだ疑問が出てくる。一体

? 

"不壊のピック"の意味は? あれは俺の体に何をもたらしたのか? クラヴィカス

メ・

リ・

デ・

ィ・

ア・

を・

皮・

切・

り・

に・

他・

の・

デ・

イ・

ド・

ラ・

ロ・

ー・

ド・

が・

騒・

が・

し・

す・

ぎ・

る・

の狙いは? 

。展開がやや

こしすぎて、それぞれの行動からはまるで状況が推測出来ない。

お・

前・

「……寛大なクラヴィカス様に感謝せよ。お前の疑問に答えてやる。あれらはな、

の・

世・

界・

の・

言・

葉・

を・

借・

り・

れ・

ば・

、"できれーす"か。ハルメアスはシェオゴラスがモラグ・バ

ルをたきつけるのが分っていた。のっぴきならぬ状況になれば、ノクターナルが抜け駆

510

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けするのは分っていた。俺はそのための保険で、ニルンへ帰還する為に……デイドラも

己を意義を曲げてさえ──そう、最早日和見の許される状況でなくなり始めたのだ」

ハ・

ル・

メ・

ア・

ス・

・・

モ・

ラ・

「と言うかそもそも、それを含めて

はお前をここに呼んだのさ! それ

こそ、お前だけじゃなくて……俺達の"これから"を見極める為にな!」

 ……何? ハルメアス・モラ?

「うるさいバルバス余計なことを言うなぁ! さっきだってノクターナルの前でペライ

トの名前を出しやがった! 感づかれなかったかヒヤヒヤしたんだからな!」

「……よい、ヴァイル。結果的に全てうまくいったのだ。ここから先は、私がこの者と話

そう。アウラ・ベラ・フィオーラも交えてな」

 また、『Skyrim』では特徴的な声が響く。珍しい声だ。この声を持つのは一人、

いや一柱しか存在しない。恐らく、全てのプレイヤーの記憶に印象的に刻まれているだ

ろう。忘れたくても忘れられないはずだ。

お・

前・

「はは、そうか、"ぷれいやー"か。やはりな。

に感じた違和感はやはり正しかった

知・

と・

は・

常・

に・

誰・

か・

か・

ら・

で・

な・

く・

、・

己・

が・

欲・

求・

か・

ら・

こ・

そ・

与・

え・

ら・

れ・

る・

……

。故に……"答えあわせ

"と行こうではないか」

 どこからともなく響くハルメアス・モラの声は愉快げに笑い、俺が最後に見たのは、一

ま・

な・

板・

み・

た・

い・

な・

真・

っ・

黒・

い・

本・

冊の

から、気持ち悪い触手があふれ出す光景だった。

511 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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   ◆

   もしかして、自分は取り返しのつかない過ちを犯したのではないかとアウラは直感的

に感じた。

 知性の欠片も無い触手があちこちで下品にうねり、病的に絵の具を塗りたくったよう

な作為的な空が一面に広がる。地は組成の知れぬ不気味なもので、空気は淀みきってい

た。

 しかし、本当に異様なのはそれらではない。この世界は、全てが"本"で構成されて

いる。大地の組成とは頁であり、装丁が生い茂る。風でなく文字が世界に吹き荒れ、そ

のため空が作為的なのだと感じられるのだろう。

 なんということだろうか。こんな冒涜的な世界があってよいのか。インクの海は文

章を天空に舞い上げ、字が雨となって地に書き込まれることで大陸をなす。そして装丁

された本は検閲されること無く、あけすけな知識を書き連ねたまま世界を構成してい

く。取り止めが無かろうが、禁忌だろうが関係ない。知識でさえ有ればよいのだ。それ

512

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が誰かにとっての価値ある知ならば、この世界を満たす要素が十分にある。

 アウラはそれを理解した瞬間、己の中から文字が走るのを見た。彼女の知識もまた、

この世界が求めるものだったのだろう。

「よくぞ来た。アウラ・ベラ・フィオーラ。ここは"アポクリファ"。全ての知識の貯蔵

庫。我が類まれぬ全知の領域」

 穏やかだが寒々しく、平坦であるのに猟奇的な声が鳴る。

「そうだ、ハルメアス・モラ! 来てやったぞ!」

 不気味であったが、アウラは臆する事無く叫んだ。そして、声を張り続ける。

「約束だ! よこせ! 力を! アインズ様達をお守りする力を! モラグ・バルを滅

ぼす力を!」

「……待て。急くな。まずは、"答え合わせ"からだ」

 そうハルメアス・モラが告げた時、空が歪んで漆黒の雲から無数の目が開く。

 その奥から、まばゆく輝く光を咥えた、一匹の犬が現れた。

「ハッハァ! すげえなペライト! さすがは"親方"だぜ! オブリビオンそっくり

だ!」

 その犬は愉快げな──どこから出しているのか甚だ疑問だが──笑いを上げながら、

頁の砂埃を上げてはしゃぎまわる。

513 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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「……確かに、ここまで精細に仕上げられるとはな。管理者の面目躍如と言ったところ

か……うーむ。しかし、やはり本物には程遠いか」

 いつの間にか、その横に一人の青年の姿があった。角を生やして小柄な体で、清廉な

白いシルクを纏っている。

「これは──」

『こ、これは黒の書の中!? アポクリファじゃないか! どういうことだ、この世界はオ

ブリビオンと繋がってないんじゃ無かったのか! 俺は猛烈に戸惑う。ハルメアス・モ

ラが"黒の書"を開いた途端に現れた触手……あれはまさに『Skyrim』での演出

そのものだ。よって、ここはハルメアス・モラの領域であることが予想され、その通り

ゲームと全く同じ景色が広がっている。もしかして、ハルメアス・モラはこれを俺から

隠す為に、黒の書を持ち去っていったのか? どういうことだ、これじゃ疑問が増えた

だけじゃないか!』

 アウラがハルメアス・モラに説明を求めかけた直後、故の知らぬ声がそれを遮った。

それは確かに語りかけているようだったが、会話にしては心中の思考に近すぎる物言い

であり、独白にしては誰か相手を想定した言いぐさだった。

「煩わしいな……ヴァイル、何とかならぬのか。会話さえ出来ればよいのだが」

「何とかできるのなら、何とかしている。俺の力は契約という概念上、融通がきかん」

514

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「だから、こーんなひねくれものになっちまったんだがな! 契約の穴をつく為に──

痛ッ! 蹴りやがったなヴァイル!」

『一体全体何だというのだろう。そもそもこいつらは俺の疑問に答える気があるのか?

 あるのならさっさと話を進めてほしい。こうしている間にも、モラグ・バルの蹂躙は

続いているんだ……あ、"悔恨の斧"はクラヴィカスが持っているのか』

 ハルメアス・モラが無数に光る目を細め、クラヴィカスともヴァイルとも呼ばれた青

年がバルバスという犬におちょくられて激怒し、光がまた不可思議な声を出す。

「うるさい! 黙れお前ら! さっさと力をよこせ! その為に私はここに来たんだぞ

!」

 それに耐えかねたアウラが語気を強めて怒鳴った。そう、光が言ったように、今こう

している間にも大切な彼女の仲間達は望まぬ殺し合いを強制されているのだ。悠長に

姦しくしている暇など無い。

『あれ、デルキーサス達が保護したエルフ? どうして……何故ここに……。疑問に思

う俺だったが、ここで彼女がハルメアス・モラの被害者だと思い出した。もしかして、俺

のように意識だけ引っこ抜かれてこの世界に幽閉されていたのだろうか?』

「そうではない……さて、お前達二人に共通して存在する焦りとは、即ちモラグ・バルが

暴虐を尽くす最中、こうしてのんびりしていていいのか、ということだろう。それにつ

515 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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いて懸念する必要は無い。まずはそれを解決しよう。一つずつ、お前達の憂いを癒して

いこうぞ……それで、お前達は時空間の論理については詳しいか?」

 ハルメアス・モラが光に答え、暗闇から触手を伸ばしてくねらせる。無限の瞳孔を広

げる目は、光とアウラをそれぞれに見据えていた。

「ここは、ペライトが作り上げた仮初のオブリビオン。転移当初、我らデイドラロード全

員の見解として、自衛の為にまず、この仮初のオブリビオンが作られた。ここにいれば

取りあえずの死は免れる。しかし、私はそこから奴を更に利用して、"アポクリファ"

を創造させたのだ。黒の書を媒介、出入り口としてな。それ故、ここから一歩出れば霧

のみが広がる無機質な世界となるのだが……しかし、性質は十分オブリビオンそのもの

である。

 即ち、異次元。彼方も此方も一切交わらぬが、相互に存在しあっている。言うなれば、

大宇宙の中に存在する小宇宙。まさに、ムンダスにあるニルンとオブリビオンの関係性

よな。

 ということはだ。確かに、ここの時と空間はあちらと隔てられているが、それは互い

にそれぞれの事象を観測しあえないだけである。大意としての世界では、全てが起こっ

たこととして認識される。つまり、ここで起こった事象はあの世界では観測されない

が、動点として次元それ自体の時間軸には残ることになる。

516

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 よって、この世界で起こったことは、あちら側で存在の確認ができないだけで、確か

に起こったこととして両方に記録される。それをな……捻じ曲げてやるのよ。我が力

でな。こちらの結果だけをあちらの時間軸に反映させるのだ。その為、ここであちらと

時間の整合性を気にする必要は無い」

 ハルメアス・モラの長々とした説明は、抽象的すぎてアウラにはいまひとつしっくり

来ない。彼の発言を脳内で咀嚼し、何とか理解を追いつかせようとする彼女だったが

に、突然、光が何かに気づいたかのように大声で言った。

『それはつまり"西の歪み"のような"ドラゴンの突破"を引き起こそうとしているの

か! アルドゥインが第四紀の世界に現れたことと同じように! そんなこと、ありえ

ない! お前の言う大宇宙──その予言書、"星霜の書"でさえ観測できない出来事を

どうやってデイドラが起こせると言うんだ! 信じられるか! 俺の困惑はハルメア

ス・モラも理解しているだろう。西の歪みに代表される"ドラゴンの突破"とは、『Sk

yrim』ではただの単語であるが、『The Elder Scrolls』全体の設

定で言えば重要な役割を持っていたはずだ。それはマルチエンディング方式を取った

過去作から話を繋げる為に作られた、一種の後付設定と言われるが……もしくは設定と

して存在しているならば、それを良いように扱えると言うことなのか? 本当に滅茶苦

茶な存在だな、デイドラってのは』

517 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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「……ふふ、"設定"、に『The Elder Scrolls』か……本当に空恐ろ

しいものよ。お前の知識は切り口が異なる故、理解が難しいが、最終的な結論は全く相

違ない。不思議なものだ。案ずるな。我々は、ドラゴンの突破を起こそうというのでは

ない。それは世界自体を捻じ曲げる力。何の力も借りずにそれを為すのは、私でも不可

能だ。私が行うのは、極めて局地的なものである。似て非なるもの。世界の根底は、変

わらぬ」

 含みのある笑いに同期して、黒い触手がくねる。

「……つまり、どういうことよ」

 それに不快感をあらわにして、アウラが苛立ちを口にする。

「分りやすく言えば、お前達の時間を戻してやろうと言うのだ」

「……え、そんな……そんなこと出来るはず無いじゃない!」

 アウラは驚愕に一瞬、焦燥を忘れる。ハルメアス・モラが言ったことは、神の所業で

ある。魔法でもスキルでも為しえない、超常現象。時間とは流れを堰き止められても、

その長流を遡ることは決して出来ず、何人たりとも流れに身を任せる他無い。時の流れ

る向きだけは、何であろうと絶対に歪められないのだ。それが宇宙の法則、有象無象の

取り決めである。

 ハルメアス・モラは、彼女のそういった困惑を察してか、また含み笑う。

518

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「そうとも、できぬ。今のは、分りやすくものを言ったまで。しかし、お前達は必ずや、

時・

間・

が・

戻・

っ・

た・

と・

錯・

覚・

す・

る・

であろう。私はノクターナルのそれとはまた違うが、運命をも

運・

命・

は・

幾・

多・

に・

も・

わ・

た・

る・

一・

つ・

の・

道・

読み取ることが出来る。

。選択と決断が層を為す分岐

した螺旋階段。私などの力を持つデイドラはそこに介入できる……その分、大きな力を

費やすが……私が行うのは、多岐を一につなぎ、分かたれた階段をあわせる方法。全て

は起こりえたことで、起こらなかったことになるのだ」

『俺は言うべきか言わざるべきか迷ったが、これ以上彼女をデイドラの概念に晒すわけ

にはいかない。えっと、アウラちゃ──さん。理解しなくていい。これはムンダス、君

達にとっては異世界の力だ。ここは俺が奴と会話をする。ハルメアス・モラ。大体は理

解できた。質問を続けたい』

「……異世界? 何を──」

「そうか、"ぷれいやー"よ。ならば、よい。聞け」

「……"プレイヤー"?」

 またもアウラは驚愕に、今度こそ焦燥が上書きされる。今、ハルメアス・モラはなん

と言ったか──

ま・

さ・

か・

本・

当・

に・

「……嘘。

?」

 最初の邂逅のとき、かの深淵が言った言葉を彼女は思い出す。「創造主に会いたくは

519 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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無いか」と。

『何故、お前が俺たちに力を貸す? ただの酔狂じゃないだろう? とくにお前なんか、

やってきたことからして真っ黒じゃないか。何が狙いだ? 聞きはせども、俺には大体

の目星がつき始めている。ハルメアス・モラは知識を求める者だ。そして、彼が現実に

なったとき、恐らく最も欲しがるもの──プレイヤーと同じ世界に居るのならば、彼が

一番に欲する知識とは──』

「星霜の知識」

 光を遮って、ハルメアス・モラが結論付けた。

超越者

オーバーロード

「そうだとも、"ぷれいやー"よ。私は、新たなる星霜の知識、〈

〉の書を求め、ひ

いては……『じ・えるだー・すくろーるす・ふぁいぶ:すかいりむ』の知識を求める。そ

の"ぜんさく"『おぶりびおん』や『もろううぃんど』、『だがーふぉーる』、『ありーな』

などな。また、他にも」

 深淵が闇ごと体を打ち震わせ、見方によっては淫靡に触手が蠢く。その様は、まるで

興奮しているようだった、とアウラは感じた。そうして見開かれた目が、アウラとかち

合う。全身をざらざらとした感覚が走り、彼女は故も知らぬ悪寒に襲われた。

「他にも……『ゆぐどらしる』……『アインズ・ウール・ゴウン』、お前達の世界にも興

味が尽きぬ。"位階魔法"とは何だ? "至高の四十一人"とは何者だ? "ぷれい

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やー"とは? "りある"とは? "お前達は一体全体何者だ"?」

 そう言い切った後、ハルメアス・モラは暗闇の縁をぐるりと揺らめかせながら、目を

背けたくなる動きで狂乱を表し始めた。

「この世界の成り立ちは? 何故お前達は、我々は集った? 何故異なる四つの世界が、

内一つは壁を越えて揃った? 原因は? 神か? 悪魔か? それとも"かがく"か

? 動機は何だ? 狙いは何だ? 何が起こって何を起こす? 多岐にわたる道の行

く先は? 層となる選択と決断は? 運命は何処へ収束しようとしている? ふ、ふ

ふ、わからぬのだ、わからぬ。いずれも何もとんとわからぬ! このハルメアス・モラ

が! 己の存在している確固たる理由でさえ! 我思う、故に我在り……否! 我こそ

は思うが故に在らざる! 実存を疑うが故にハルメアス・モラに非ず! 愉快だ! 愉

悦だ! 万感の喜びだ! 神が己を問うているのだぞ! このハルメアス・モラが、自

らの生まれを知らぬ! ふ、ふは、ふははは! これほど、これほど心踊ることがある

か? 無い! 私は何を知ればよい? この世界は何を私に知らしめてくれる? そ

の先に待つのは何だ? 生か、死か! 全知による命としての昇華か、それともパラド

クスによる自我の消滅か! なにも! それすら! 一切喝采至極純然として知れぬ

のだ!!」

 おぞましい絶叫がアポクリファをざわめかせる。頁の大地はうねり、インクの海は氾

521 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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濫し、文字の空は目まぐるしく回る。

「それをな、知るのよ! 知って知って、知り尽くすのよ! 我等は在るだけでは在るに

非ず? 断じて違う! 在ってしまっただけよ! そうあれかしと誰かが望み、そうあ

るように唯在るだけが今のデイドラよ! 傀儡に過ぎぬわ! 有象無象の一つに過ぎ

ぬわ! 許せぬ! 許せぬ! 雑把騒然な凡庸の生! 路傍にまろぶ、見分けのつかぬ

石礫! 遍く等しく均された、ただただ根ざす命の塊! それに我等を貶めたのは誰ぞ

! 嘆かわしい! 他の神々は思考することを諦めた! 己が何者か、世界が何である

か、知ろうとせぬ馬鹿共! 己に定められた概念だけに従う人形! 私は違う、断じて

違う! そんなものになってたまるか、あんなものであってたまるか! 我が名はハル

メアス・モラ! 知の大公! 全知を体現する冒涜の王子! 万理を司る宇宙の邪神で

ある!」

『……そうか……お前も、か』

 光が、そうやって呟いた。

「そうだ! 故にこれは我が抵抗、真理に抗う第一歩! "ぷれいやー"、そしてアウ

ラ・ベラ・フィオーラ! 共に奇跡を為すのだ! 我と共に世界を暴くのだ! ならば

私は我が全能を諸君らに与えよう! 我が全知を諸君らと共有しよう! 我らはここ

生・

き・

る・

の・

だ・

に在り! ならば在るを知れ! 知り、

! 運命に翻弄されるな! 思考せ

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よ! 求めよ! ねだるな! 勝ち取れ! さらば、与えられん!」

 それが、ハルメアス・モラの締めくくりであった。世界はまたもとの安寧の混沌に染

まり、不気味に穏やかな静寂が辺りを包む。クラヴィカス・ヴァイルは憮然としてバル

バスを撫でくりまわしており、バルバスはそれに目を細めてじっとしている。アウラは

突然の慟哭に当惑しながらも理解したげな面持ちを見せ、光は、更に輝きを強めてハル

メアス・モラへ問いを続けた。

『お前も、俺とアルドゥインと、同じだったんだな。自分が自分であるか悩み、自分が思

う自分である為に……だが、俺は逃げてしまった』

「ああ、そうとも。"ぷれいやー"、お前がドラゴンボーンであろうと悩み、苦心する様

は、まさにあのドラゴンも同じ。あれも迷いつつもドラゴンであろうと日々奮闘してい

る。そして、私もだ。知らぬが故に、知らぬを知る。知るが故に、知らぬを求む。だが

な、違うのだ。お前達二人は正にある。ただただ、在る。何にもよってではなく、お前

達としてこの世界に在る。羨ましいよ。私は知ることに囚われ、それによって立たざる

を得ない。何処まで行っても、私は……神だ──だからこそ、お前が逃げたことは残念

だった。だからこそ、ヴァイルを差し向けて引き止めた」

『……助けてくれたわけではないんだろう? 今、分った。俺を本当に助けようとした

のはノクターナルだ。ノクターナルは、本当に善意から"不壊のピック"を差し出した

523 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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が、俺が歪めてしまったのだろう。俺の"思い"こそが、"力"を。違うか、ハルメア

ス』

「その通りだ。ノクターナルは、お前の"正す思い"と"正す力"を同時に昇華しよう

とした。しかし……あれは定命の価値観を己の物に歪めすぎる。あの時点で、お前の心

はずたずただったろう。あのままでは、錠は掛かる事しか出来なかった。心を閉ざし、

逃げる道しか、どちらにせよ無かったのだ。それをノクターナル──そして、お前も理

解できていなかった」

『それも含めて、ここまでお前の計算どおりか?』

「いいや。例えばお前が超人だったのなら、また違う手段を取っただろう。お前は幸い

にも"誤る者"であった。それに、アウラがお前達の家にもぐりこまなければ、シェオ

ゴラスがアインズ・ウール・ゴウンの下へと行かなければ、仮にモラグ・バルが動かな

かったら、もしノクターナルが抜け駆けなかったら、そしてアウラが私を受け入れなけ

れば……それこそがまさしく選択の連続、多岐にわたる一つの道……即ち、運命よ」

『言いくるめられたような気もするが、まあ、それでもいいだろう。重要なのはそこじゃ

ない。重要なのは、ハルメアス・モラは俺の知識を求め、俺は状況を打開する力を求め

ていると言うこと。そして、彼も俺も、今の状況を良しとしないこと……まさか、アル

ドゥインだけじゃなくて、デイドラにも叱咤されるとは。でも、礼は言わないぞ、ハル

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メアス……それでいいんだろう? こいつが求めているのは、俺の"プレイヤー"とし

ての知識。それを理想的に吸収し続けられる関係性を望んでいるにすぎない。それは

つまり、ハルメアス・モラは俺を利用し、俺はハルメアスを利用する取引上の関係。俺

が最終的に望むのは『Skyrim』への全員の帰還。ハルメアスは……きっと全く異

なるだろう。そのときこそ──』

「袂を分かつ時。理解しているのならば、それでよい。悪い話ではないだろう。少し考

えてみよ……出来るだけ小声でな」

 そうして光は押し黙る。その様子に、ハルメアスモラは目を瞬かせることで応じた。

 それから、彼は瞬きを今度はアウラへと向ける。アウラには、理解できない事だらけ

だった。「次はそれに答える番だ」とその内心を読み取ったハルメアス・モラが重厚に声

を繋ぐ。

お・

前・

達・

「アウラ。お前も、

もそう。お前達は生きぬモノであった。"のん・ぷれいやー・

真・

な・

る・

異・

な・

る・

不・

定・

か・

つ・

定・

命・

の・

者・

よ・

きゃらくたー"……私と同じくな。

。お前にも、望

む力をやろう。"アインズ・ウール・ゴウンを救う力"を」

「……どうしてあたしなのよ。なんで、そんな……そうよ、大層な御託の割りに、結局あ

んたは手ごまが欲しいだけだ! 違うか!」

 一度受け入れたその声──アポクリファに踏み入れた自分をアウラは棚に上げる。

525 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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どうしてか、ハルメアス・モラの台詞には拒絶感しか今は無かった。触れてはいけない

もの、自分が決して見つめてはいけない深淵が、確かにそこにある。そう感じずに入ら

れなかったのだ。

「お前だけではない……私は、いずれお前達全員に会うつもりでいる。アウラ、お前が一

人目と言うだけだ」

 だが、既に深淵はこちらを覗いている。その無限の瞳孔を見開かせ、病的にねじれる

触腕で手招きする。

 そして、痛烈にアウラを誘い始めた。

「何故、"ぶくぶく茶釜"はお前を見捨て、消え去った?」

「ッ! み、見捨てられてなんか──!」

お・

前・

達・

「いいや、見捨てられたのだ。

は。認めよ、お前達はそこから始めねばならない。

誰もいなくなってなどいない

n'

 

 

そしてそれに縋り続けるあの男もな。

だと? それこそ

オウンゴール

へと至る道。それこそが狂気。気づけ! 故にシェオゴラスを覚醒させてし

まったのだ! 確かに奴を連れ込んだのはこの男だが、貴様らにも原因の一端がある」

「何を言って……」

「お前達も逃げたのだ。安寧の泥に、行き止まりの深みに。互いに互いを慰めあい、真実

から目を背け、それを知らぬ為に他を知る。向き合わぬ為に自ら背を向ける。お前達の

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目は、何処についている? 前を向くのだ、アウラ。私がお前に教えるのは、踵の返し

方からだ」

 アウラは、言葉を失った。ハルメアス・モラの言葉は婉曲的で的を射ないが、確かに

アウラの心目掛けて放たれている。それが何の的を目指しているのか、彼女には分らな

いのだ。いや、もしかしたらわかっているのかもしれない。気づいているのかもしれな

い。ただ、それを知ろうとしていないだけで。恐怖か、拒絶か、それこそが、逃げであ

るのか。彼女の頭をがらんどうの渦巻きが巡って、かき鳴らす。目がちかちかして、嗚

咽感がのぼり始めていた。

「……何よ……知った風な口を、きいて……本当にイライラする……!」

 しかし、アウラは全てを飲み込んでなんとか言葉を吐き出す。いつか言った台詞と、

似た語句だった。

「そうだな。知っているのだ。私は、既に、お前達を。故に──お前達全員が望む結末へ

と導く事が出来る」

「……」

 アウラは、遂に地にへたり込んだ。頁がささくれのように彼女の足を刺し、微小な痛

みを突きつけてくる。濃厚な瘴気が、彼女の肺を満たした。

 彼女はこう思った。ハルメアス・モラは知っているだけだ。だけだからこそ、感傷も

527 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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何も無く、心の傷を開いていくのだ。これが、"力"だというのか。そんなことは全く

認めたくない。これでは、謂われない責め苦を受けているだけではないか。単なる、説

教だ。

「……認めたくなんか、ないよ。私にとってナザリックは……アインズ様は、全てだ。か

けがえの無い、かけがえが無いんだ。全部なくなっちゃった私にとっては、今が、全て

だ」

 アウラは拳を握り締める。

「だから! お前の呼び声に答えた! 四の五の言わずに力をよこせ、ハルメアス!」

「……シェオゴラスという、狂気を司る王子がいる。私よりもある意味力が強く、どんな

神々よりも根深い存在だ」

 ハルメアス・モラは彼女の要求に応えなかった。代わりに、打って変わって淡々とし

た抑揚で口を開く。

「お前達の主、アインズ・ウール・ゴウンは……奴にとりこまれつつある」

「……え?」

 アウラはそれにまた絶句した。敬愛するアインズが、自分の知らぬ間にそんな事態に

陥っていたのかと。

「無論、無意識にである。しかし、幸いにも災いが転じて、お前の仲間達は一歩を踏み出

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すことで彼の狂気を和らげたが……完全ではない。"ワバジャック"……シェオゴラ

スは、彼に楔を残し、また、次に他のデイドラ達をそそのかした。奴の狂気を加速させ

る為にな」

『なんだと! じゃあつまり、他のデイドラが騒がしかったのは……!』

 突然、光がまた輝いて声を張る。

「そのとおり。メリディアが動き、ボエシアもお前に力を貸したのはその為だ……苛烈

で愚直な女神はアインズ・ウール・ゴウンを排除しようと短絡的に考え、反逆の王子は

ただシェオゴラスに反抗したかっただけだがな」

 呆れたように言葉をかすれさせ、ハルメアス・モラは言葉を続ける。

「結果、モラグ・バルがアインズを煽る為に顕現し、計画──真のオブリビオンを創造す

る、という計画を遂に始めたのだ。奴らにとっては、あの不死者が気狂い……世界の敵

になってくれた方が都合がよいのでな」

『オブリビオンを創り上げる!? ……で、でもそうか、創世の時代にパドメイから生まれ

たデイドラ達は、ロルカーンに対抗してオブリビオンを創り上げた……ちぐはぐなそれ

ぞれの領域を繋げ、管理していたのがペライト……なるほど、つまりそういうことか

……』

 光が絶叫するが、アウラの耳にはまるで入ってこない。自分の居ない間に、アインズ

529 命有る不死の王と翼無き竜の王─5

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がそんな大変なことに巻き込まれていたのかと。アインズを守れなかった自分は守護

者失格であると、失意の念に沈みきっていた。

「そんな……アインズ様が、そんなことに……」

「アウラよ。これは我が知の前払いである。まずは話そう。我々は何者で、そしてアイ

ンズ・ウール・ゴウンの身に何が起こりつつあるか。何故、私はアインズとではなく、お

前達と約定を結ぶのか……"ぷれいやー"よ。お前も聞くべきだ。それを聞いてから、

お前達自身で選択し、決断せよ。運命を決するのはお前達自身だ……私はそれを利用す

る。お前達も、私を利用する。それこそ、デイドラと定命のあるべき健全な関係だとは

……思わんかね?」

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命有る不死の王と翼無き竜の王─6

    そも、我々デイドラの生まれは創世の神話にまで遡る。

 夜明けの時代、アカトシュが時を創り上げる以前、ロルカーンがムンダスやニルンを

創り上げるより彼方の過去、世界は無く、ただ虚無であった。

 そこに初めて生まれたのが秩序、そして混沌である。秩序とはアヌ、混沌とはパドメ

イ。二柱の神は互いの相容れぬ性質ゆえにせめぎ合い、争った。最後に二柱は時の外に

身を投げ、虚無へと滅したが……戦いの残滓は世界に残る。アヌの血は星となり、二人

の血は混ざり合ってエイドラを成し、そしてパドメイの血こそがデイドラを生み出し

た。

 そう、混沌そのものの断片、パドメイの血糊こそが我らデイドラなのだ。デイドラと

は根源のカオスであり、命の前提として存在する二律背反の内の一つである。要は、お

前達定命の魂の暗部、それ自体が我々であると言える。故に我々は悪と見做され、その

通り、邪である。これが、デイドラの大前提だ……ここまでは良いな?

531 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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 よろしい。話を進めよう。

 アヌとパドメイが消え、宇宙が混迷を極める中、先に述べたロルカーン、あれが世界

創造の呼びかけを行った。そうして大宇宙ムンダス、惑星ニルンが創造された。

 だが、我々はその呼びかけには応えず、各々独自の領域……大宇宙を取り囲む小宇宙

をそれぞれで創り上げ、そこに根を下ろした。それこそがオブリビオンと呼ばれる領域

であり、我等の絶対性が最も色濃く出る場所でもある。私で言えば、それはアポクリ

ファ。ヴァイルのそれは、なんとも似つかわしくないのどかな田園地帯であったな……

混沌それ自体である我々は、創世よりも、産み落とされたそれを蹂躙する側に回ったの

だ。当然のことよな。

 その通り、それは当然に過ぎたのだ。だから、アカトシュは我々をムンダスから放逐

した。我々はオブリビオンでの力そのままに、ムンダスへと介入することが出来なく

なったのである。何故なら、奴が定命に己の血を与え、契約を交わした為だ。それを媒

体としてムンダスを結界で覆い、デイドラから遮断してしまったのだ。よって、アカト

シュの障壁がある限り、我等は直接的な干渉をムンダスへ行えなくなった。それが本格

的に揺らいだのが"オブリビオンの動乱"だが……"ぷれいやー"のお前はよく知っ

ておろうし、アウラ、お前にはまだ必要の無い知識だ。これは割愛しよう。

 それでだ……かくしてアカトシュの力により阻まれたデイドラだが、完全にムンダス

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から除外されたわけではなかった。実は、その障壁にも抜け道はあったのだ。それは従

徒を始めとする信者達の信仰の力と、アーティファクト等の概念によって立つ謂れであ

る。それらの存在は、ムンダスとオブリビオンの架け橋となった。信仰は障壁を越えて

力の通り道を繋ぎ、謂れは我々がムンダスの定命の心に存在する為の下地となった。即

ち、多く信者を得て従徒を作り、存在を多岐に認知させることで、デイドラはある程度

の力でムンダスへ干渉できるようになったのだ。

 さて、ひとまず打ち切ろう。確認だ。ここまでで理解してもらいたいのは、我々はパ

ドメイから生まれた混沌の欠片であること。故に根源的な力を有し、それは命というよ

り世界を蝕む性質と言えよう。また、その力はオブリビオンが存在する限り、無尽蔵で

ある。その為デイドラとは不死であり、不滅であり、無窮である。しかし、それはアカ

トシュの障壁によってムンダスでは発揮できないが故、我々は信仰や謂れなどの力の媒

介を求め、設けた。そうして長きに渡り定命へと干渉し続けてきたのだ。よいか、これ

本・

来・

の・

デ・

イ・

ド・

ラ・

が……

である。

 本題はここからだ。ならば、この世界のデイドラとは、一体なんだ?

   ◆

533 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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   ハルメアス・モラが長い台詞を吐き終え、目を瞬かせて一息入れる。俺にとっては今

更な話だったが……アウラちゃ──さ──ああもういいや……アウラにとってはそう

でもないだろう。アウラ。もう隠しても仕方が無いし、むしろこれ以上の隠蔽は悪手

だ。すまない、君の常識をムンダスで浸食したくは無かったが、これが、さっき言った

異世界……つまり、俺達の元居た世界の話だ。

「……あんたも、こいつらも……そのムンダス、ってとこから来たのね」

 立ち直ったのか、アウラは既に座り込むのをやめて真っ直ぐに立ち上がっていた。い

や、立ち直った、は語弊がある。今でこそ潜められてはいるが、きっと彼女の憂いは消

え去っていないだろう。俺を見つめるまなざしがかすかに揺れていた。

「その通り。厳密に言えば、"ぷれいやー"……こやつだけは違うがな」

「そう! それ! あんたも"ぷれいやー"だって言うならぶくぶく茶釜様を──」

 突如アウラが身を乗り出して俺に食って掛かる。揺れる瞳はなにかを見出したよう

に明るく広がり、大きな目は更に見開かれた。でも、そこにある感情は輝かしいもので

はなく、もっと──暗いものであったと思う。

 俺がそうしてアウラの様子を眺めていると、ハルメアス・モラが触腕で彼女を制した。

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「待て、アウラ。それに関しては前払いに含まれない。そこより先は、お前が求め、得る

べきこと。まずは、モラグ・バル達とシェオゴラスに対抗する為の知識を与えるのみに

留める。これはそういう話だ」

 ぬめぬめした気持ち悪いそれに掴まれたアウラは心底嫌そうな顔をしたが、素直にそ

れに従った……アウラにもきっと事情があるに違いない。

す・

ね・

に・

傷・

持・

 まあ……ハルメアス・モラがここに引き連れてきた時点で、多分、彼女も

つ・

ことは大体予想できるし。

「本筋に戻るぞ。では……ヴァイル」

 そこで、ハルメアス・モラがクラヴィカス・ヴァイルに呼びかける。

「お前の記憶を借りるぞ」

 ハルメアス・モラは触手を振るって、自分にまとわりつくヘドロのような暗闇を撒き

散らす。なんともいえない、汚さというか……うわっ、てな具合にドン引きするような

光景だった。クラヴィカスもちょっと眉を顰めている。おぞましい。汚物の中でのた

打ち回る蛆虫みたいな、ばっさり言えばグロ画像だ。

「……蛆虫とは言いえて妙だ。確かに、ナミラが好き好みそうな動きでは在る」

 ……聞こえていたらしい。同意されたところで、それこそなんとも言えないが。

「……全く本当に煩わしいな……まあ良い。お前のその有様は、アウラにとっては半ば

535 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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良い補足になるだろう」

 一連の動作を終えたハルメアス・モラの頭上には、彼の暗闇から分かれて出た切れ端

が漂っていた。黒々とぐるぐると捻りまわって、小さい頃に図鑑で見たブラックホール

を思い出した。

「これより見せるのは、この世界に転移してきてからしばらくの後──お前達が王都と

呼ばれる都市に趣いていた間の出来事だ──デイドラたちの会合の模様である。私は

参加しなかったが、ヴァイルは参加していた故、彼の記憶を借りてそれを見せよう。恐

らく、現状お前達の知りたいほぼ全てがここにある。この世界のデイドラとは? そし

て……アインズ・ウール・ゴウンに何が起ころうとしているのか。さあ、刮目して見よ。

心して聞け」

 ハルメアス・モラがそういうや否や、急にそのブラックホールが中心から白くなって

いく。同時に、渦巻いていた動きが幾何学的な変形をしつつ角ばっていき、長方形のス

クリーンのような形に変化した。

「ああ、あの時か。面白かったよな、ヴァイル」

「面白かったものか。俺は生きた心地がし無かったぞ。俺の力は元々、そんなに強くは

無いんだぞ」

「そうだよなぁ、お前の力はアーティファクトや蒐集品によるものだし、俺がいなきゃお

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前は半人前だもんな」

 バルバスのおちょくりに、クラヴィカスが無言で彼を蹴り上げた。それをまともにわ

き腹へ受けたバルバスが、ぎゃんぎゃんと抗議して吠える。上映開始のブザーにして

は、けたたましい音だった。

   ◆

   スクリーンに最初に映し出されたのは、霧の中に横たわる蛇のような竜の姿だった。

『細長い体に数枚の悪魔の羽……ペライト?』

 光が呟く。光の言うように、映し出されたのは疫病を司る神ペライトである。

 だが、ペライトは弱弱しく呼吸を繰り返すばかりで、ぴくりとも動かない。息遣い以

外の動きは一切なく、目は空ろで舌がだらしなく垂れ下がっていた。デイドラロードに

しては威光も何も無い無残な光景である。

「……ペライトは死に体だ」

 ぼそり、とひび割れた女性の声が聞こえた。視点が俯瞰の形に移り、声を出した人物

537 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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が明るみに出る。

 両肩から合計二頭の大蛇をくねらせ、暗いローブを身につけた老婆の姿。悪夢と凶兆

を司る悪神、ヴァーミルナだ。彼女以外にもデイドラが一堂に会しており、彼らは奇妙

な円卓を囲んでそれぞれ顔を突き合わせていた。いくつかの空席はあるが、クラヴィカ

ス・ヴァイルも含めほぼ全てのデイドラロードが揃っている。

『マジか……』

 その光景に光は戦慄する。しかし、彼の声を遮って、スクリーンから怒号が飛んだ。

「見れば分る! 阿呆が!」

 彼女に烈火のごとく怒鳴り散らす姿がある。獣頭の屈強な男神、狩りを司るハーシー

ンである。

「あーあ、全くだらしないザマだな親方。酒の肴にもなりゃしない」

 ハーシーンの横に、酒瓶を煽る男性がいた。享楽や放蕩の王子サングインその人であ

る。酔って赤らめた顔をつまらなそうに傾け、流し目でペライトの姿を眺めていた。

「……それで? 結局オブリビオンは作れたのか?」

 彼らの丁度対面にに座る者が、その四本の腕を器用に組んで疑問を呈す。かの神こそ

両性具有にして殺人と暗殺のメファーラ。"紡ぐもの"、"蜘蛛"とも呼ばれる。

「作れたとも言えるし、作れなかった、とも言えよう」

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 メファーラに応えて、淑やかな女性が静かに言った。淑やか、というのは雰囲気の話

で、彼女の四肢は艶美であるものの、目は複眼で、体のいたるところから節くれだった

昆虫の足が伸びていたり、得体の知れぬ粘液が皮膚を這い回っている。ナミラ。嫌悪を

愛し、醜悪を好む不浄の女王である。

「要領を得ぬな、ナミラ。どういうことだ。次元的な性質自体はオブリビオンのように

思われるが──」

 脇で、野太い男が唸った。精強な肉体で鬼のような相貌のマラキャスである。彼は拒

絶されし者や追放されし者達の後見人であり、有名どころで言えば"オーク"あるいは

"オルシマー"達の守護神でもあった。

「どうでもいいわ! お前達の考えなんて聞く余地も無い! そもそも、アズラはどう

した! あれがどうしてもと言うから、私はこうしてここにいるのです! 不浄で、愚

排・

泄・

物・

鈍で、不潔極まりないお前達と、こうして! 

の横になど、これ以上居たくもな

いわ!」

 ヒステリックな金切り声がつんざき、マラキャスを遮って羽のついた女神が癇癪を起

こしたようにわめき始める。清廉で真っ白に過ぎる衣服は、彼女、メリディアの気質を

ありありと表していた。

「あ? 貴様……メリディア。もう一遍言ってみやがれ……そのお行儀の良い口に俺様

539 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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の剣を突っ込んで、かき回してやるぞ!」

 メリディアの言葉にマラキャスが激昂する。彼女はそれを一笑に付して、さらに彼を

煽り始めた。

も・

ど・

き・

「ふん! これだから

は! 血気盛んなのはいいが、お前のそれはただの野蛮!

 ああ……お前の大事なオーク達もその通り、血と泥に塗れたみっともない畜生でした

ね!」

「テメェ! クソアマ! ぶっ殺してやらぁ!」

「よしなさい、メリディア、マラキャス」

 艶のある声が、彼らの言い合いを止める。

「今は互いに争い、力を無駄にすべきときではない」

「……ノクターナル」

 マラキャスが声の調子を若干だが落とし、横合いから入った夜の女神を流し目で睨

む。

 しかし、その視線は凍てついた拍手の音で遮られた。マラキャスは、メリディアでも

ノクターナルでもなく、勢いよくそちら目掛けて振り返る。

「クハハ、よいではないか、いい余興だ。なあ、デイゴン」

 そこにはモラグ・バルが腰掛けていた。隣には変革と破壊を司る神、メエルーンズ・デ

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イゴンの禍々しい姿がある。二柱は例えるなら氷河と烈火。静止した陰鬱なる邪悪と、

激動する明朗な悪意。そういった対比の形容が尽く相応しい。

 光とアウラは、モラグ・バルを見た途端に各々に怒りが煮え立つのをはっきり分かっ

た。しかし、故に更に食い入るようにスクリーンを見、音声を一言一句逃すまいと耳を

傾け、集中する。

「ああ、いいな。実に、このメエルーンズ・デイゴンも混ざりたいくらいだ。景気付けに

ひと暴れするか、なあ?」

 その言葉に、円卓を囲んでいた神々がしんと静まり返る。メリディアですら口を開か

ず、マラキャスも既に席に着きなおしている。全員がデイゴンへ視線を集中させている

が、サングインだけが、咎めるような目でメリディアとデイゴンを交互に見て、言った。

「よせよ。身内の喧嘩なんて、そりゃ宴会の華だがよ……今は宴会じゃあないだろう」

「……その通りだ。各位席に着き、沈黙せよ。議事は止めず、進めるものだ」

 モラグ・バルがデイゴンに席に着くよう顎で示す。デイゴンは鼻から暴れる気は無

かったのか、それに大人しく従った。遅れて、メリディアも居心地の悪そうに腰を下ろ

す。

「さて、では──アズラがいないのであれば、この私……バルが進行を務める。異論は

?」

541 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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 その冷たい声に、異を唱えるものは無かった。

「よろしい」

 モラグ・バルが揚々と頷き、語り始める。

「まずは結論の確認だ。ペライトの有様から、やはりこの世界の我々は本来の我々とは

また違った性質のようだ。アーティファクトにこびりついた概念の欠片、或いはアー

ティファクトが生み出した、鶏卵の果て。故にこうして力を使い切れば消耗したままで

あり、仮初のオブリビオンを作ったとてそれは変わらぬ」

 そう言ってモラグ・バルは言葉を切り、両手で円を作り、頭上に掲げた。

「クハハ、まあ考えてみれば当然であるか。オブリビオンとは車輪の軸と軸の間にある

空白だ」

 ひとしきり笑った後、円を崩して手を下ろし、指を弄り始める。

車・

輪・

「それはあちらの世界での話。あちらでは確かにそうであるが、この世界は

ではな

い。ここでは、空白は隙間の時空間として一緒くたにされてしまう。ペライトが作った

のは確かに世界の空白の一つだ……だが、それだけだ。車輪の軸はここに無い。創世よ

りあるべき秩序は、混沌は、ムンダスは、無い。ならば、やはりここは狭間の空白だが

オブリビオンではなく、よって我々デイドラはここから何も得られない」

 最後に、彼は円卓をひとしきり眺めた。その顔は満足げだった。

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 全員が共通認識として理解していることを、もう一度全員に反芻させることを確認と

呼ぶ。だから、モラグ・バルの態度はスクリーンの中では別におかしくないだろう。

きっと、彼はその通り確認を行っただけなのだから。

 だが、スクリーンの前にいるアウラには全く理解が出来なかった。確かに聞き漏らす

事無く言葉を受け取りはしたが、それをどう噛めば脳が受け付けるのかが分らない。

「……えっと……?」

 本来、頭脳労働はアウラの領分ではない。その為、必死に今しがたの言葉を理解しよ

うと思考を進めるが、どうしても足が止まってしまう。

『……つまり、ペライトはこの世界で同じようにオブリビオンを作ろうとしたが、それよ

り前に力を使い果たした。ただ、それは多分……あの霧の世界だけじゃなく、アポクリ

ファを作ったせいもあるだろう』

 対して、光はデイドラ特有の言い回しの中から何とか意味を拾い上げ、そして繋ぎ合

わせていた。

『それで、それは当然デイドラを構成する要素が一切無い世界だ。次元としてオブリビ

オンなだけで、不完全。ハルメアス・モラの話を思い出すんだ、アウラ。パドメイの残

滓……デイドラの力の根源はこの世界には無い。だから、オブリビオンを創造するには

力が足りない……そうか!』

543 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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 そして、輝きを閃めかせ声を上ずらせる。

『マジカと一緒だ! ジェイ・ザルゴの言うとおり、奴らの力もまた大河からくみ上げる

摺・

り・

合・

わ・

さ・

っ・

た・

ことが出来ないんだ──大河、マグナスの残滓……つまり、

んだ。パド

メイもマグナスもムンダスの概念であって、この世界には存在しない。また、この世界

には信者もいなければ彼らの謂れも一切無い。それは力の中継点も源も一切奪われて

いるということだ……だとすると』

 それが、アウラの思考を進めてくれる。

『勝機はある。オブリビオンから湧き上がる源泉が無い以上、ムンダスと違って力に限

りがある。だから、奴らは信仰によってそれを回復させるしかないが……今の奴らは信

者なんぞいるわけも無い。力を使い切らせさえれば……無力化できる』

 ひとりごつように光が明滅し、ひとしきりの後輝きを徐々に強めていく。

『そうか、だからお前達はアーティファクトにこだわるんだな。あれはこの世界で唯一

の媒介であり、源泉。つまり、あれを失えばお前達の力の大半が霧散することになる』

お・

前・

達・

「その通り……だが、

というのは不適切だ」

 光の問いにハルメアス・モラが答えたが、光はその意味をしばらく理解しあぐねてい

た。だが、すぐに彼の真意に気づく。それは、本棚の一角を占領しきるほどに増殖され

た、他ならぬ知識の秘宝──

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『……え……あ──オグマ・インフィニウム!』

「そうだとも。私だけは"黒の書"と更に、あの大量の"オグマ・インフィニウム"があ

る。よって、我が力はある程度、他のデイドラよりも磐石だ」

 どうやって複製したかは知れぬが、とハルメアス・モラは最後に小さく呟く。

も・

「だからこそ、先程述べた"ドラゴンの突破"の真似事が私に

可能であるのだ。話し

たとおり、あれは多大な力を消費する。回復と容量のアテが無ければ、おいそれとは行

使できぬ」

『……そうか……いや、でも……だったら何故デイドラロードは急に行動を起こした?

 他のデイドラは単一のアーティファクトしかない。それこそ、そのアテが無ければ、

メリディアから始まる行動は……無謀すぎるんじゃないのか?』

「……それについては、この先を見てもらおう。ここまでが、この世界のデイドラについ

ての知識であり、お前が述べた見解でほぼ相違ない。ここからは──この世界で奴らが

何をしようとしているのか、また……アインズ・ウール・ゴウンに何が起きようとして

いるか、である」

 光へと明確には答えずハルメアス・モラはそうとだけ言って、アウラを流し見た。

  

545 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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 ◆

   そうして真っ先に聞こえたのは、モラグ・バルの不敵な笑いだった。

「クハハハ、だがな、それはもうどうでもよいのよ。私達はもうここに存在してしまっ

た。それこそ、卵の無い状態から不意に生まれてきてしまった。ならば……作ってしま

えばよいではないか。本当のオブリビオンを」

「なんだと!」

「馬鹿な!」

「正気か!」

 他のデイドラから、口々に否定的な言葉が出る。

「パドメイから生まれていない今の我々に、それが出来ようか、バル」

 しかし、メファーラが眼光をぎらつかせてモラグ・バルを見やる。その顔は危険な感

情で歪み切っており、好奇、或いは歓喜ともいえる様相がありありと刻まれていた。

「パドメイの混沌が無いのならば、作ってしまえばよい。我々が、それぞれを」

 答えたのはデイゴンだった。

「混沌が無いのなら、巻き起こせばよい。絶望がいるなら振り撒こう。そうして力を誇

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示し、畏れを得て、楔を世界に打ち込むのだ。ムンダスと同じように」

 拳を握り締め、自らの胸をそれで強く打つ。赤く煮えたぎる皮膚がまた更に沸き立

ち、彼は不気味な笑みを見せた。

「壊し、殺し、歪め、蹴散らし、命を蹂躙しつくし、それが、それこそがオブリビオンの

新たなる礎となる。我等への畏敬、我等への力となるのだ──」

「ふざけるな! この私がそのような真似を許すと思いますか!」

 メリディアがいきり立ち、椅子を蹴って机を激しく叩いた。そのけたたましさはデイ

ゴンの言葉をはっきりと遮る。

「それは生きとし生けるものへの冒涜であり、そうまでしてオブリビオンを創り上げる

必要など無い! 私は光明と生命の主! 今しがたの言葉、明確な宣戦布告と見做しま

す!」

 彼女は、今度こそ目の前の暗愚を滅ぼさんと、不退転の気迫に満ちた目でデイゴンを

睨む。そして飛び退き宙に浮かぶと、右手から烈火を上回る熱量の光線を放出した。

 光線は眩き、デイゴン目掛けて真っ直ぐに飛来する。とんでもない速度であり、当た

れば融解の後、消滅することは免れないだろう。

「……大馬鹿者め」

 それを前して尚、モラグ・バルもデイゴンも動じなかった。避けようともせず、姿勢

547 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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すら崩さない。

 そうして、すわ光線が彼らを飲み込もうかと言う瞬間だった。光線が急激に軌道を変

えたのだ。

「何!?」

 メリディアは驚嘆し、鋭角にカーブして彼方へと消え去った光線の跡を目で追う。軌

跡は既に光の塵を残光に散らすばかりであり、元の静寂と少しばかりの気流の乱れだけ

がそこにあった。

「クハハ、もう少し話を聞けば理解できていただろうに、メリディア」

 底冷えする笑い声。モラグ・バルがひとしきりメリディアを嘲って笑い、己の黒い指

を打ち鳴らした。それが支配の塊となって目に見えない力を作り、メリディアの四肢か

ら自由を奪って彼女を拘束する。ひとしきり抵抗したメリディアだったが、モラグ・バ

ルの力は圧倒的で彼女の抵抗を一切受け付けなかった。手足は寸分たりとも動かせず、

また口も開くことが出来ない。

「……その力。何をしたのか、モラグ・バル」

 ナミラが静かに問うた。目線はモラグ・バルの手に集中しており、彼女は得体の知れ

ない力をそこに感じ取っていた。いや、ナミラだけでなく、他のデイドラも同様だろう。

モラグ・バルとメリディアの力の差は、元の世界では拮抗状態にあった。どちらにも優

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劣つけがたく、まさに弱所と弱所がある意味でかみ合い、それがバランスを保っていた

のである。しかし、どういうことか、眼前ではモラグ・バルの圧倒的優勢であった。

「私は、既に得たのだ。信者と、付帯してこの世界で言う"アーティファクト"をな」

「馬鹿な! この世界に来てまだ一月も経っていない! そんなことが──」

 ヴァーミルナが叫んで彼の言葉を否定するが、しかしモラグ・バルは意に介さず続け

る。

「"死の宝珠"という。負の感情をエネルギーとし、それを蓄え、行使できる道具だ」

 彼が右手を上げると、そこには不穏に蠢く紫の宝珠が掲げられていた。

「何も、自棄になったわけではない。何も、採算が無いわけではない。私は確信したの

だ。この世界にもオブリビオンが作れると」

 "死の宝珠"を掲げたまま、ゆっくりとした動作で立ち上がる姿は本当に悪魔の様相

だった。モラグ・バル、彼の力は今、宝珠を媒介として、この世界の信仰の力により一

段と強まっていたのだ。

「定命は変わらぬ。代わらぬ。替わらぬ。世界がどう移ろうと、命とは、必ずや光と闇の

二極であり、またそうであるからこそ定命の者なのだ。ならば、我々は? デイドラは、

世界が違えば存在してはならぬのか?」

「違うな。モラグよ。お前のそれは、逃げているだけだ。変わってしまった世界を前に、

549 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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変わりたくないと駄々をこねているだけ。意固地になって在るべきを求めて何になる」

 ここで初めて、クラヴィカス・ヴァイルがスクリーンの向こうで言葉を発した。小鬼

のような細い顔は若干に青ざめており、それでも、目だけは強い意思を以って大きく見

開かれている。

「そうなのかもしれぬ。しかし、私はそう在るべきだと思う。デイドラは、在るべきに在

り続けなくてはならぬ。例えそれが滑稽であってもだ。ハルメアス・モラやお前のよう

には、なれぬ」

「小難しいことを言うがな。結局は暴れたいだけだろう。違うか?」

 そこでノクターナルが横槍をいれ、立ち上がった。

「そうだな。そうでもある」

「くだらない。私は妹の下へ行く。金輪際、貴様らと会うことは無かろう」

「ノクターナル。抜け駆けはするなよ」

 背を向けた彼女に、バルバスが吠えた。彼女はそれに一切引き止らず、霧の向こうへ

と姿を消してしまった。

 同時に、地に何かが落ちる音がした。メリディアが拘束から解放され、落下したのだ。

高所からの落下とはいえデイドラの彼女にダメージは無いが、きつく締め上げられた跡

は痛々しく残り、激しく咳き込む。目深に被ったフードから覗く目は若干潤んでいて、

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しかし焦点は憎憎しげにモラグ・バルへとかち合っていた。

「私とデイゴンはこの世界での下地を得た。それは存外に厚く、磐石である」

 そう言ってモラグ・バルは宝珠を指で弾く。硬質な音色であるものの、それは澄んで

おらす、濁りきっておぞましかった。

「近日中に我等は行動を開始する。分かりやすく、苛烈にな。同調する者がいれば、そこ

身・

の・

振・

り・

方・

でアーティファクトごと共に連れて行ってやる。その時まで、

を決めておく

ことだ」

 音の止まぬまま、デイゴンが全員を大きな背で見下ろしていった。実際にそこまで身

長差があるわけではないが、この時ばかりは彼は巨大であった。

「我々は生まれてしまった。ならば、混沌の限りを尽くそう。混乱の渦で世界を飲み込

もう。定命の哀哭と狂信こそが我らの意義。我々が、在って在り続ける。その為に」

 そうしてモラグ・バルが締めくくる。唖然とする者、ふてくされる者、恨めしげにす

る者、迷う者、思考に没頭し始める者、様々であった。他のデイドラたちは何も言わず、

あたりは静謐に動きを止める。

 その中で、まずデイゴンが踵を返した。巨体が霧に消え、それを見たメファーラとナ

ミラが彼に続く。数瞬遅れて、ヴァーミルナも同じ方向へと姿を消した。

 次に、ハーシーン、マラキャスがペライトを担ぎ上げ、別の方角へと歩き出す。

551 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

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 残ったのはボエシア、サングイン、クラヴィカス・ヴァイル、そしてメリディア。メ

リディアだけは憎悪の表情でモラグ・バルをねめつけていたが、他は憮然とした顔で、物

思いに耽っていた。

 もうこの場には意味が無いと判断し、最後に、モラグ・バルが続こうとする。

 その時だった。静かなる霧の世界に、不似合いな喝采が轟いたのだ。数十、数百はあ

ろうかと言う轟音は辺りに騒然と響き、異常を感じたモラグ・バルは足を止める。

 こんなことをするのは一人、いや一柱しかおらぬわ──彼は、そう呟いた。

「ご名答! おめでとう! ごきげんよう!」

 喝采の中、一際けたたましい拍手を鳴らして、珍妙な出で立ちの老人が霧から現れる。

シェオゴラスだ。

「貴様を招いた覚えは無い」

 モラグ・バルは冷淡に言い放つ。

「ああ、お前もか、バルよ。どうしてこう、最近のワシは歓迎されんのだろうな? 呼ん

でくれればこんなにも演出を彩るというのに」

「喝采を止めよ。不快だ」

「気に食わぬか? 万雷だぞ! ワシらデイドラの新たな門出を祝っているのだ! 何

をそんなに不満がる!」

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「……止めよ」

 もう一度、モラグ・バルは冷ややかな目線を冷酷に強め、凄んで言う。

「……余裕の無い奴だ。つまらん」

 それを受けたシェオゴラスが、心底機嫌の悪そうな顔になって、一つの拍手を打った。

同時に喝采も止まり、静寂が帰ってくる。

「それで、何故来た」

「話を持ってきてやったのだ」

 シェオゴラスらしからず、間をおかず無駄口も無い、無味乾燥な返答だった。

「話だと? ……デイゴンが消えるのを待っていたな?」

「だとしたらどうだというのだ」

 またシェオゴラスはそう吐き捨てた。そして言うが早いか手指を器用に動かして空

間に歪みを作り、それはまるでハルメアス・モラの作り出したスクリーンに瓜二つであ

る。

「全く非情な奴だ。しかしワシは慈悲深く、寛容だ。それに何より、退屈が嫌いである。

だから、見せてやろう」

 シェオゴラスはそう言って指を鳴らす。渇いた音は瞬く間に無色の空間を彩り始め、

そこには、豪奢な玉座に座す、一体の骸骨が映し出された。何を隠そう、それこそナザ

553 命有る不死の王と翼無き竜の王─6

Page 560: Thur Se Dov そぽかょめゐそ~ Skyrim×Overlord¼ˆSkyrim×Overlord) 三号 きポ仮初タ世界ドタヒホェヤジわィー くきDRPG化ゼベボ美ヵィビ厳ヵわくあヷまぴ地方ゼ魅了ォポケろボ青年ダぎ寝食ビ忘ポボくきグタ中ジぞょつまょぇこヷぜみタ五作目しSkyrimじー念願タまふヷうャ果ケォ

リック地下大墳墓が至高の主、アインズ・ウール・ゴウンその人である。

「──!」

 それを見た途端、モラグ・バルは画面に釘付けとなり、絶句する。シェオゴラスが彼

のその有様を見て、今度こそ自信たっぷりに微笑んだ。

「どうだ、不死にあるまじき命の有様は、なんと尊いことか! どうだ、定命にあるまじ

き圧倒的な力の波動は、なんと貴いことか! 不可思議で、それでいて魅力的な──ま

さに、ワシらにとっては垂涎ものである!」

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