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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology 第 29 回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-10 鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29 2: 100, 2011 1.はじ制御性 T 細胞Tregは外来抗原に対する末梢性免疫容の誘導と維持に重要であり胸腺から分化誘導されCD4 + CD25 + natural occurring Treg nTreg)と末梢血で何らか の因子により分化誘導される誘導型 inducible Treg iTregが存在する。昨年,我々は当学会でスギ花粉抗原 Cry j-1 特異的 nTreg による疫反応の抑制的制御について報した特定の外来抗原刺激により誘された iTreg のサブセトで,IL-10 を高産生する type1 regulatory T cellsTr11,2) 疫療法により増加し,抗原刺激による疫反応の抑大きく関与ることが報告されてい2,3) よって, Cry j 1 特異的 iTreg の存在がスギ花粉症の根本治療を考える上非常に重要であるとい2.対と方4) はスギ花粉症患者 4 名および健常者 3 名。対梢血単細胞から CD4 + CD25 T CD4 T を分抽出しCD4 + CD25 T 細胞を,Cry j 1 存在下に CD4 T 胞より成した未成熟樹状細胞とともに,IL-2 IL-10 IL- 15 Rapamycin 加環境で 1 週間培養した。Wash out を行いCD3/CD28 刺激下でさらに 2 日間培養した。その刺激よるサイトカインIFN-γ IL-4 IL-10産生能を ELISA で解析した。またこれとは別に,Cry j 1 刺激のある群とい群に分け同様に培養し,抗原刺激の有で生じる上記イトカイン産生量の差を ELISA で比較解析した3.結CD3/28 刺激による,スギ花症患者における IL-10 量は健常者に比べ低下していた( P = 0.015)。これに対しIFN-γ IL-4 の産生量については検出できなかった(data not shownCry j 1 刺激による Cry j 1 特異的サイトカイ産生量については健常者とスギ花粉症患者でともに抗刺激の有で有意差は認めなかった4.考今回の解析で,Cry j 1 iDC とともに,IL-2 IL-10 IL- 15 Rapamycin 加環境で培養した系で誘された細胞が生する IL-10 健常者とスギ花粉症患者で差が認めらた。この結果からIL-10 とそれを産生する Tr1 は抗原特異的ではあるがアレルギー発症の有無・健常者の容に関係している可能性が示唆された。一方この培養では Cry j 1 特異的サイトカイン産生を出するには至ず,検討が必要であることも明らかとなった参考文1) Akdis C, Akdis M. Mechanisms and treatment of allergic disease in the big picture of regulatory T cells. J Allergy Clin Immunol. 2009; 123: 73546. 2) Palomares O, Yaman G, et al. Role of Treg in immune regulation of allergic diseases. Eur J Immunol. 2010; 40: 1232–40. 3) 湯田厚司,山中恵一,他.スギ花粉症の舌下免疫療法IL-10 産生性誘導型制御性 T 細胞による作用機序.鼻免アレル2010; 28(3): 229–33. 4) Bergmann C, Strauss L, et al. Expansion and characteristics of human T regulatory type 1 cells in co-cultures simulating tumor micro-environment. Cancer Immunol Immunother. 2007; 56: 1429–42. スギ花粉抗原特異的 IL-10 産生性誘導型制御性 T 細胞(Tr1)に関する検西 大,近松 一朗,増山 敬梨大学医学部耳咽喉科・頭頸部外The investigation of Japanese cedar pollen specic IL-10-producing inducible regulatory T cell (Tr1) Takahiro Yamanishi, Kazuaki Chikamatsu, Keisuke Masuyama Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, University of Yamanashi

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-10

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 100, 2011

1.はじめに制御性 T細胞(Treg)は外来抗原に対する末梢性免疫寛容の誘導と維持に重要であり,胸腺から分化誘導されるCD4

+CD25

+natural occurring Treg(nTreg)と末梢血で何らか

の因子により分化誘導される誘導型 inducible Treg(iTreg)が存在する。昨年,我々は当学会でスギ花粉抗原 Cry j-1

特異的 nTregによる免疫反応の抑制的制御について報告した。特定の外来抗原刺激により誘導された iTregのサブセットで,IL-10を高産生する type1 regulatory T cells(Tr1)1,2)

が免疫療法により増加し,抗原刺激による免疫反応の抑制に大きく関与することが報告されている2,3)。よって,Cry j 1

特異的 iTregの存在がスギ花粉症の根本治療を考える上で非常に重要であるといえる。

2.対象と方法4)

対象はスギ花粉症患者 4名および健常者 3名。対象の末梢血単核細胞から CD4

+CD25

− T細胞と CD4

− T細胞を分離

抽出し,CD4+CD25

− T細胞を,Cry j 1存在下に CD4

−T細

胞より作成した未成熟樹状細胞とともに,IL-2・IL-10・IL-

15・Rapamycin加環境で 1週間培養した。Wash outを行い,CD3/CD28刺激下でさらに 2日間培養した。その後刺激によるサイトカイン(IFN-γ・IL-4・IL-10)産生能を ELISA法で解析した。またこれとは別に,Cry j 1刺激のある群とない群に分け同様に培養し,抗原刺激の有無で生じる上記サイトカイン産生量の差を ELISA法で比較解析した。

3.結果CD3/28刺激による,スギ花粉症患者における IL-10産生量は健常者に比べ低下していた(P =0.015)。これに対し,IFN-γと IL-4の産生量については検出できなかった(data

not shown)。Cry j 1刺激によるCry j 1特異的サイトカイン産生量については,健常者とスギ花粉症患者でともに抗原刺激の有無で有意差は認めなかった。

4.考察今回の解析で,Cry j 1と iDCとともに,IL-2・IL-10・IL-

15・Rapamycin加環境で培養した系で誘導された細胞が産生する IL-10に,健常者とスギ花粉症患者で差が認められた。この結果から,IL-10とそれを産生する Tr1は抗原非特異的ではあるがアレルギー発症の有無・健常者の免疫寛容に関係している可能性が示唆された。一方,この培養系では Cry j 1特異的サイトカイン産生を検出するには至らず,検討が必要であることも明らかとなった。

参考文献1) Akdis C, Akdis M. Mechanisms and treatment of allergic disease in

the big picture of regulatory T cells. J Allergy Clin Immunol. 2009;

123: 735–46.

2) Palomares O, Yaman G, et al. Role of Treg in immune regulation of

allergic diseases. Eur J Immunol. 2010; 40: 1232–40.

3) 湯田厚司,山中恵一,他.スギ花粉症の舌下免疫療法とIL-10産生性誘導型制御性 T細胞による作用機序.耳鼻免疫アレルギー 2010; 28(3): 229–33.

4) Bergmann C, Strauss L, et al. Expansion and characteristics of

human T regulatory type 1 cells in co-cultures simulating tumor

micro-environment. Cancer Immunol Immunother. 2007; 56: 1429–42.

スギ花粉抗原特異的 IL-10産生性誘導型制御性 T細胞(Tr1)に関する検討

山西 貴大,近松 一朗,増山 敬祐

山梨大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科

The investigation of Japanese cedar pollen specifi c IL-10-producinginducible regulatory T cell (Tr1)

Takahiro Yamanishi, Kazuaki Chikamatsu, Keisuke Masuyama

Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, University of Yamanashi

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-11

エピナスチンの骨髄系樹状細胞機能調整作用

金井 憲一 1,古田 厚子 2,三邉 武幸 1,洲崎 春海 2

1昭和大学藤が丘病院耳鼻咽喉科2昭和大学医学部耳鼻咽喉科学教室

アレルギー性免疫応答において樹状細胞が重要な働きをしていることはよく知られている。しかし,H1受容体拮抗薬の樹状細胞に及ぼす影響については不明な点が多い。そこで今回,我国において多用されているH1受容体拮抗薬であるエピナスチンを用い,薬剤の樹状細胞機能に及ぼす効果について検討した。方法 BALB/C系マウスから採取した骨髄細胞を20 ng/mlのGM-CSFの存在下で培養,骨髄細胞由来樹状細胞(DCs)を得た。次に,この細胞を各種濃度の EPで処理,2日後に 100μg/mlのダニアレルゲン(Der f)を培地に添加し,EPの存在下で更に 24時間培養した。培養上清中の IL-6,TNF-α,IL-10及び IL-12濃度を ELISA法を用いて測定した。結果Der fの添加により増加した IL-6,TNF-α及び IL-10の産生は細胞をエピナスチン 25 ng/ml以上のエピナスチンで処理することにより有意に抑制された。一方,細胞のエピナスチン処理により IL-12の産生が有意に増強された。考察本実験の結果はH1受容体拮抗薬であるエピナスチンがTh1/Th2バランスを是正し,アレルギー性炎症病態改善に寄与している可能性があることが示唆している。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 101, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-12

第 2世代抗ヒスタミン薬のチオレドキシン産生増強作用

古田 厚子 1,浅野 和仁 2,金井 憲一 3,洲崎 春海 1

1昭和大学医学部耳鼻咽喉科学教室2昭和大学保健医療学部生理学研究室

3昭和大学藤が丘病院耳鼻咽喉科

【目的】チオレドキシン(TRX)は様々な酸化ストレスによって誘導される細胞の酸化還元反応や炎症性細胞遊走作用を有することが報告されているたんぱく質である。気管支喘息の下気道炎症性疾患におけるTRXの免疫調節作用に注目が集まっているものの鼻・副鼻腔疾患の病態形成における TRXの役割についてはほとんど検討されていない。今回スギ花粉症患者を対象に,鼻汁中のTRX濃度を検討するとともに,第 2世代抗ヒスタミン薬,塩酸エピナスチン(EP)と塩酸フェキソフェナジン(FEX)の TRX産生に及ぼす効果を検討した。【方法】ヒト急性骨髄性白血病細胞株(THP-1細胞)に過酸化水素および EPあるいは FEXを添加し,培養上清中の TRX量を ELISA法によって測定した。またスギ花粉症患者を対象に EP投与開始前および投与開始 2週間目に鼻汁を採取,鼻汁中TRX量を測定した。【結果】細胞培養系に EPあるいは FEXを添加すると培養上清中の TRX量が増加した。これら薬剤の統計学的に有意な産生増強作用濃度はそれぞれ 20 ng/mlと 100 ng/mlであった。またスギ花粉症患者鼻汁中の TRX量は健常人のそれと比較し,優位に低濃度であったものの,EP投与によりその量が健常者のそれとほぼ同程度にまで増加した。【結果】第 2世代抗ヒスタミン薬は鼻粘膜の TRX産生を増加させ,アレルギー性鼻炎の病態改善に寄与している可能性が示唆された。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 102, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-13

塩酸ピロカルピンによる鼻粘膜上皮の物理的特性の変化

三輪 正人 1,廣瀬  壮 1,中島 規幸 1,阿部実恵子 1,渡辺 建介 1,三輪真由美 2

1獨協医科大学越谷病院耳鼻咽喉科2はりま坂耳鼻咽喉科・アレルギー科

【目的】鼻粘膜には,Airway surface liquidと呼ばれる気道液が存在しており,粘液繊毛輸送機能の一端を担っていると考えられている。一方,乾燥性鼻炎あるいはドライノーズの存在が奥田,市村,洲崎らにより示唆されているが,詳細は不明である。今回,強力な分泌促進作用を持つムスカリンアゴニストであり,シェーグレン症候群や頭頚部の放射線治療に伴う口腔乾燥症状の改善に有用性が確認されている塩酸ピロカルピン(サラジェン(R))内服前後の鼻粘膜上皮の物理的特性の変化について検索した。【方法】正常ボランティア 18名に対して塩酸ピロカルピン(サラジェン(R)錠 5 mg)1錠内服前・後(1時間後)の鼻粘膜上皮の物理的バリア機能を,上皮間電位差(PD),鼻粘膜上皮水分蒸散量(TEWL)測定により評価した。あわせて,鼻汁量を重量法により測定した。【結果】塩酸ピロカルピン投与後,PDの低下,TEWLの増加が有意に認められた。鼻汁は増加傾向がみられた。【考察】塩酸ピロカルピン内服は,鼻粘膜上皮の物理的特性を変化させる可能性が示唆された。コリン作動性刺激後の,鼻粘膜繊毛上皮細胞に対するクロライドチャネル活性のパッチクランプによる実験結果や初代培養鼻粘膜上皮細胞における上皮間電位差の測定結果とあわせて考察を加えた。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 103, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-14

気道上皮における charge barrierの病態による変化

三輪 正人,呉  松晃,小松  陽,村上 敦史,池田 洋子,山口晋太郎,渡辺 建介

獨協医科大学越谷病院耳鼻咽喉科

【目的】気道上皮は「考えながら」,electric organとして charge barrierを維持していると思われる。一方,ポリアニオンであるヘパリンは,難治性気道炎症の治療に有効である可能性が示唆されている。今回,細菌感染のモデルとして LPSを,またウイルス感染のモデルとして poly(I:C)を用い,それらの気道粘膜上皮 charge barrierに対する影響とヘパリン投与による変化を検討した。【方法】初代培養気道粘膜上皮細胞を,LPSあるいは poly(I:C)により 24時間刺激した後,上皮膜抵抗(TER)を測定した。あわせて,ヘパリンをメディウム中に 24時間投与した群および LPSあるいは poly(I:C)24時間刺激後に 5分投与した群での前後の TERの変化を検索した。【結果】LPS,poly(I:C)刺激およびヘパリン投与24時間後,それぞれ用量依存性にTERが低下した。LPSあるいはpoly(I:C)刺激後ヘパリンを短時間投与すると,TERの低下が著明に減弱した。【考察】細菌あるいはウイルス感染により,気道粘膜上皮 charge barrier機能が低下し,またその低下が頂膜側からの短時間のヘパリン投与により改善される可能性が示唆された。あわせて,気道上皮障害に対する新しい局所治療の可能性についても考察を加えた。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 104, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-15

イネ科花粉飛散時期のアレルギー性鼻炎患者における夜間睡眠障害と日常生活への影響

鈴木 祐輔 1,2,太田 伸男 1,青柳  優 1,大久保 公裕 3

1山形大学医学部耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座2山形大学医学部地域医療システム学講座

3日本医科大学耳鼻咽喉科

Sleep disorder and Effect on the quality of daily life in the allergic rhinitis patients

Suzuki, Y.1,2, Ohta, N.1, Aoyagi, M.1, Okubo, K.3

1 Dept. of Otolaryngology, Yamagata University2 Dept. of Systems of the community healthcare, Yamagata University

3 Dept. of Otolaryngology, Nippon Medical School

1.はじめに近年,花粉症患者の鼻症状と夜間睡眠障害に関する報告が数多くなされており,夜間の鼻閉が一因となるとされている。また鼻炎症状が倦怠感や集中力の低下など日中のパフォーマンスを含めたQOLの低下を招き,労働や学業に及ぼす影響が大きいとの報告も多い。今回我々は,アレルギー性鼻炎患者への投薬治療による症状の改善が,QOL・睡眠の質・日中の諸活動へどのような影響をおよぼすのかを検討したので報告する。

2.対象と方法2010年度のイネ科花粉飛散時期(5月~7月)にかけて来院し,同意の得られたアレルギー性鼻炎患者 18例。男性 4例,女性 14例。平均年齢 44.7± 14.0歳。主抗原はカモガヤ 12例,チモシー 1例,カモガヤ/チモシー 4例,スギ 1例であったがどの症例もイネ科花粉へ陽性反応を示した。患者に対してはオロパタジン塩酸塩(アレロック®)を 1回 5 mg,1日 2回処方し,症状により適宜内服薬,点鼻薬を追加し加療した。これらの症例に対し初診時,および再診時にアンケート調査を実施した。アンケートには「日本アレルギー性鼻炎患者標準QOL調査票(JRQLQ No. 1)」,「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」,「日常生活に及ぼす影響の調査 アレルギー編(WPAI-AS)」を用いた。初診日は 5月 23日±15.8

日,再診間隔は 25.7日±10.6日で山形県におけるイネ科花粉飛散時期に一致していた。初診時および再診時における各項目のアンケート結果平

均スコアをWilcoxon符号付順位和検定にて,また JRQLQ

における鼻・目症状のスコアと PSQI・WPAI-ASのスコアとの相関関係を Spearmanの順位相関係数検定にて統計学的検討を加え,危険率 5%以下を有意差ありと判定した。

3.結果オロパタジン塩酸塩内服加療により JRQLQ No. 1において総括的状態,鼻・目症状(各項目),QOL全領域スコア,ともに改善を認めた(図 1)。また,PSQIにおいて初診時に比べ再診時では「睡眠の質」「睡眠困難」の項目で改善を認めた。睡眠困難の細分化項目として「夜間/早朝覚醒」「夜間頻尿」「息苦しさ」「咳/いびき」について改善を認めた。「睡眠の質」は「鼻

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 105―106, 2011

図 1 JRQLQ No. 1による初診時・再診時の症状の比較

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106 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

汁」「くしゃみ」「鼻閉」「鼻・目のかゆみ」と統計学的有意な正の相関を認め,「睡眠困難」は「目のかゆみ」と,睡眠困難の細分化項目である「息苦しさ」は「鼻汁」「くしゃみ」「鼻閉」と,「夜間/早朝覚醒」は「鼻閉」と有意な正の相関を認めた(図 2)。

WPAI-ASにおいて「労働能率低下」「日常生活障害」の項目で改善を認めた。「勉学能率低下」においては初診時に比べスコアは低下する傾向にあるが症例数が少なく,統計学的有意差を示すには至らなかった。「労働能率低下」は「鼻汁」「くしゃみ」との相関を,「日常生活障害」の程度は「鼻汁」「くしゃみ」「鼻閉」「鼻・目のかゆみ」「涙目」と有意な正の相関を認めた(図 3)。

4.考察当科における以前の報告では花粉飛散数の増加に伴い症状スコア・睡眠スコアともに上昇し,睡眠の質,入眠時間,睡眠困難,日中覚醒困難の項目で増悪を認めた1)。今回の検討では,PSQIにおいて初診時に比べ投薬加療後の再診時では「睡眠の質」「睡眠困難」の項目で有意差を持って改善し,「入眠時間」「日中覚醒困難」でも改善傾向を認め,以前の報告と同様の傾向を示した。またWPAI-ASでは「労働能率低下」「勉学能率低下」「日常生活障害」の項目で改善傾向を認め,花粉症による鼻・目症状が倦怠・集中力の低下を含めたQOLの低下,労働,学業に及ぼす影響が大きいことが示唆された。

睡眠障害の原因としては鼻症状の悪化,特に鼻閉が大きく関与しているとされてきたが 2,3),今回の検討では睡眠困難の原因となる「息苦しさ」「中途覚醒」が鼻汁・鼻閉・くしゃみ症状と有意差のある正の相関関係を示し,また「労働能率」は鼻汁・くしゃみとの相関関係が有意差を示し,鼻閉よりも影響が強いことが示唆された。睡眠障害の原因として鼻閉の他に後鼻漏からくる通過障害や,日常生活への影響の可能性として鼻をかむためのちり紙や薬を携帯しなくてはいけない煩わしさが考えられた4)。以上より,鼻炎症状の改善により睡眠障害や日常生活へ影響の程度も改善することが明らかとなった。また,特に睡眠障害は元来鼻閉との関連が注目されていたがその他の鼻・眼症状の関与も示唆されたため,これらも念頭に置き治療に当たることが必要であると考えられた。

参考文献1) 太田伸男,鈴木祐輔,他.スギ花粉症患者のQOLと睡眠障害.アレルギー・免疫 2010; 17: 250–7.

2) Woods L, Craig TJ. The importance of rhinitis on sleep, daytime

somnolence, productivity and fatigue. Curr Opin Pulm Med. 2006;

12: 390–6.

3) 千葉伸太郎.通年性アレルギー性鼻炎患者における睡眠の質に関する検討.睡眠医療 2008; 2: 337–42.

4) Camelo-Nunes IC, Sole D. Allergic rhinitis: indicators of quality of

life. J Bras Pneumol. 2010; 36: 124–33.

図 3 WPAI-ASによる初診時・再診時の症状の比較と鼻・目症状との関係

図 2 PSQIによる初診時・再診時の症状の比較と鼻・目症状との関係

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-16

当院における閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者の鼻治療(アレルギー性鼻炎)

大岡 久司 1,八木 正夫 2,朝子 幹也 1,河本 光平 3,濱田 聡子 4,友田 幸一 1

1関西医科大学附属枚方病院耳鼻咽喉科頭頸部外科2医仁会武田総合病院耳鼻咽喉科

3関西医科大学附属香里病院耳鼻咽喉科頭頸部外科4美杉会男山病院耳鼻咽喉科

1.はじめに閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS)は鑑別されるべき疾患や様々な原因への治療,また多彩な合併症を導いてしまうため,精神神経科をはじめとして呼吸器内科,循環器内科,耳鼻咽喉科,さらには歯科やコメディカルなどが連携するべき疾患である。当院では循環器内科,健康科学センターが開設している肥満外来,また耳鼻咽喉科一般外来においてOSASを疑われた症例に対して簡易モニター検査および終夜睡眠ポリソムノグラフ検査を行っている。その際,鼻閉を訴え,夜間開口してしまう症例を中心に,睡眠時無呼吸外来にて精査加療をおこなっている。まずnCPAP導入する目的も併せて,とくにアレルギー性鼻炎を併発するOSAS症例に対しての鼻治療は重要で,保存的加療が不十分であれば,下鼻甲介粘膜焼灼術,さらに鼻中隔矯正術および粘膜下下鼻甲介骨切除術など鼻腔形態改善手術を行っている。今回,以前他院にてOSASと診断されnCPAP導入されたが鼻閉のため中断していた症例が当科で鼻腔形態改善手術を施行し nCPAP再導入し得た 2症例を経験したので報告する。

2.症例症例 1

34歳男性(身長 169.2 cm 体重 82.4 kg 20歳時 65 kg BMI

28.78)主訴:起床時頭痛 鼻閉 いびき 無呼吸既往歴:気管支喘息,アレルギー性鼻炎,GERD

睡眠時間:平均 6時間 仕事:シフトワーク現病歴:2007年に睡眠時無呼吸症候群を疑われ近医にてPSGの結果 nCPAP導入後,鼻閉のため 1ヶ月で中止し放置していた。2008年 9月よりアレルギー性鼻炎に対して近医耳鼻科で内服点鼻薬やレーザー治療されていたが鼻閉改善せず,また 3年間で 10 kg増加し起床時頭痛が悪化したため,OSASに対して精査加療勧められ当科紹介となった。保存的加療で改善せず手術加療となった。

【検査所見】採血:WBC 5600/ml Eosino 7.0% AST 26 U/l

ALT 56 U/l IgE 137 U/ml ダニ 14.10 U/ml HD 12.30 U/ml

スギ 19.90 U/ml ヒノキ 1.56 U/ml 鼻汁好酸球:(−)CT:左凸鼻中隔彎曲,下鼻甲介粘膜肥厚,中鼻甲介蜂巣鼻腔通気度:両側 0.35 PaS/cm

3(+100 Pa)(図 1左)術前ポリソムノグラフAHI 23.4/h(仰臥位 23.9,右側臥位10.5)Stage 1:19% stage 2:62.7% stage 3:3.7% stage 4:0% stage REM:14.5% REM獲得 3回 睡眠潜時:1 min

REM潜時:95 min PLM:0

【鼻腔形態改善術施行】鼻中隔彎曲,アレルギー性鼻炎,扁桃肥大と診断し鼻中隔矯正術,粘膜下下鼻甲介骨切除術を施行後 nCPAP再導入(auto-CPAP4-7cmH2O)し使用時間は 7時間へ延長,鼻腔通気度:両側 0.15 PaS/cm3(図 1

右)と改善した。(扁桃肥大は今後手術予定としている。)症例 2

60歳男性(166.8 cm 105.2 kg BMI 37.81)主訴:鎮静中の無呼吸,日中眠気 ESS15

既往歴:脳梗塞,高血圧,糖尿病現病歴:2001年にOSASに対して近医で nCPAP治療を受けていたが鼻閉あり半年で自己中断してもいびきないため,放置していた。2010年 2月に早期胃癌のためドルミカム鎮静下に内視鏡下手術中 SpO2低下認めたため中止となり,当科紹介となった。副鼻腔炎,後鼻孔ポリープに対して保存的加療でポリープ縮小するが残存し鼻閉もあるため手術加療となった。【検査結果】WBC 6600/ml Eosino 5.9% HbA1c 7.7% UA

7.1 mg/dl TG 161 mg/dl AST 28 U/l ALT 45 U/l ALP 399 U/l

IgE 8007 U/ml ダニ 33.70 U/ml HD 34.20 U/ml ブタクサ0.51 U/ml カモガヤ 0.41 U/ml

CT:右凸鼻中隔彎曲,下鼻甲介粘膜肥厚,左中鼻道 polyp

後鼻孔 polyp

鼻腔通気度:両側 0.25 PaS/cm3(図 2左)

術前ポリソムノグラフィAHI 70.4/h(AI 64.3,仰臥位 67.0,左側臥位62.5)Stage 1:5.8% stage 2:67.0% stage 3:0.7%

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 107―109, 2011

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108 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

stage 4:0.0% stage REM:9.1% REM獲得 6回 睡眠潜時:0.0 min REM潜時:62.5 min PLM:0

【鼻腔形態改善術施行】アレルギー性鼻炎,副鼻腔炎,鼻茸に対して鼻茸切除術,鼻中隔矯正術,粘膜下下鼻甲介骨切除術施行し術後 3ヶ月時点で,自覚的改善(ESS6点)を認め,鼻腔通気度は両側0.12 PaS/cm

3(図2右)と低下し,内視鏡検査にて副鼻腔炎消失し nCPAP装着 4時間装着できている。

3.考察症例 1

アレルギー性鼻炎に対して薬物や粘膜焼灼術で鼻閉が改善しなかった症例に対して鼻中隔矯正術も含め鼻腔形態改善手術を行った結果,自覚他覚ともに鼻閉改善が見られた。さらに nCPAP再導入し得た。また睡眠衛生管理によ

り手術前後で 6→ 7時間睡眠確保でき,これらにより起床時頭痛を消失したと考える。今後,健康科学センターにて食事療法,運動療法がすすみ体重減少が図られれば,UPPPを検討し,治療後には PSGによりOSAS再評価し,nCPAP離脱へ向けて治療をすすめていく。症例 2

アレルギー性鼻炎,鼻茸を伴う副鼻腔炎に対して内服や点鼻薬物治療では改善せず,鼻中隔矯正術を含めて鼻腔形態を改善することにより副鼻腔炎が改善するとともに,nCPAP再導入し得た。また睡眠衛生管理により 7時間睡眠が確保でき,これらによって運転時眠気が消失したと考える。上部消化管内視鏡検査時,鎮静中の SpO2の低下は鼻腔形態改善により軽減すると思われるが,主たる狭窄部位である咽頭,峡口腔は肥満が原因と考え完全ではなく,nasal airwayの使用や全身麻酔下での処置が必要と考えら

図 1 症例 1術前(左)と術後(右)の鼻腔通気度横軸:圧(Pa),縦軸:流量(cm

3/S)

図 2 症例 2術前(左)と術後(右)の鼻腔通気度

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109耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

れた。装着時間は 4時間と短く面倒さによる装着時間の短縮につながっている。今後 CPAPタイトレーションも検討する。

4.まとめと考察今回,アレルギー性鼻炎や鼻中隔彎曲症を伴うOSAS症例に対してどちらも高度肥満であったが積極的な鼻腔形態改善により nCPAP再導入し得た 2症例を経験した。OSAS

の改善と睡眠衛生管理により,種々の主訴が改善されQOLの改善に繋がったと考える。OSASに対して nCPAP

やUPPPは有効な治療法であるがそれらは鼻腔抵抗値に異常がないことが前提である。鼻閉や夜間開口のある症例に対してはまず改善させることが重要であり,積極的に治療に関わっていく必要があると考える。2010年 7月より専門外来において検査・評価法および治療方法について再検討している。睡眠における鼻腔通気度検査の有用性について記された文献も多く,0.35~0.38 Pa/cm

3/secを超える症

例では鼻手術適応とも考えられている1–4)。現在,手術前後の客観的評価として内視鏡検査と鼻腔通気度検査を用いているが,他科と連携する上で,やや客観的評価に劣る内視鏡検査と比較して鼻腔通気度検査は数値が表示されるため指摘しやすいが,自覚と乖離する事が多く,今後さらなる検討が必要と思われた。

参考文献1) Nakata S, Noda A, et al. Nasal resistance for determinant factor of

nasal surgery in CPAP failure patients with obstructive sleep apnea

syndrome. Rhinology. 2005; 44: 296–9.

2) 千葉伸太郎.耳鼻咽喉,口腔領域疾患と睡眠時無呼吸症候群.医学のあゆみ 2005; 214: 549–54.

3) 下山久美子,安田 京,他.睡眠呼吸障害患者における鼻腔通気度測定の有用性.日呼吸会 2009; 47(6): 449–54.

4) 中田誠一.睡眠時無呼吸症候群と鼻呼吸障害についての鼻腔通気度検査の重要性.日鼻誌 2009; 48(1): 47–9.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-17

小児のいびき・睡眠障害と気道アレルギー疾患

増田佐和子 1,臼井 智子 1,太田 伸男 2,石戸谷淳一 3,岡野 光博 4,松根 彰志 5,堀口 茂俊 6,川内 秀之 7

1国立病院機構三重病院耳鼻咽喉科2山形大学耳鼻咽喉科

3横浜市立大学附属市民総合医療センター耳鼻咽喉科4岡山大学耳鼻咽喉科

5鹿児島大学耳鼻咽喉科6千葉大学耳鼻咽喉科7島根大学耳鼻咽喉科

Infl uences of airway allergic disease on snoring and sleep-disorder in children

Masuda, S.1, Usui, S.1, Ohta, N.2, Ishitoya, J.3, Okano, M.4, Matsune, S.5, Horiguchi, S.6, Kawauchi, H.7

1 Dept. of Otorhinolaryngology, National Mie Hospital2 Dept. of Otorhinolaryngology, Yamagata University

3 Dept. of Otorhinolaryngology, Yokohama City University Medical Center4 Dept. of Otorhinolaryngology, Okayama University

5 Dept. of Otorhinolaryngology, Kagoshima University6 Dept. of Otorhinolaryngology, Chiba University

7 Dept. of Otorhinolaryngology, Shimane University

1.はじめに良好な睡眠は小児の生活の基本の一つであるが,アデノイドや扁桃肥大,鼻閉などによりしばしばいびきや睡眠時の無呼吸が生じる。一方,気道アレルギー疾患が睡眠に影響を及ぼすさまざまな機序も明らかになってきた。そこで,小児のいびきと睡眠および関連する生活障害を評価するための問診票を作成し,睡眠障害の実態と気道アレルギー疾患の関与を検討した。

2.対象と方法2009年 12月の 9日間に三重病院小児科または耳鼻咽喉科外来を受診した 15歳以下の小児 365名(男児 213名,女児 152名)を対象とした。いびきと睡眠障害に関する問診票を作成して保護者に記入を依頼し,臨床診断とともに検討した。アンケートの項目は,基本症状としていびきと睡眠中の無呼吸,夜間の状態として夜間覚醒・寝返りを伴う睡眠障害・睡眠中の姿勢・夜尿・寝起き,日中の状態として鼻閉・傾眠・口呼吸・食事にかかる時間,疾患として医師の診断による通年性アレルギー性鼻炎・花粉症・副鼻腔炎・喘息・扁桃肥大の既往または現症とした。

いびきと無呼吸の頻度は,軽度はときどき(月に 1–3回くらいまで)あるもの,中等度はよく(週に 1–3回くらい)あるもの,重度はほとんど毎晩(週に 4回以上)あるもの,とした。

3.結果1)アンケートの状況:対象児の受診科は小児科が 254

名,耳鼻咽喉科が 111名,アンケート回収率は 92.9%で,年齢の中央値は 5歳であった。

2)いびきと無呼吸の頻度:対象児全体における中等度以上の頻度のいびきと睡眠中の無呼吸の有症率は,それぞれ 19.7%,1.4%であった。

3)いびきと他の症状との関連:いびきの頻度は,睡眠中の無呼吸の頻度・日中の鼻閉の程度・口呼吸の程度と有意(いずれも p<0.01)に関連していた。また,寝返りを伴う睡眠障害および夜尿とも一部関連がみられた。

4)いびきと疾患との関連:問診または診察で医師が診断した疾患について,中等度以上の頻度のいびきと有症率の間に相関がみられたのは,アデノイド・扁桃肥大・通年性アレルギー性鼻炎(いずれも p<0.01)・副鼻腔炎(p<0.05)であった。喘息・花粉症といびきとは有意な相

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 110―111, 2011

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111耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

関はみられなかった。表 1にこれらの疾患および年齢・性別・肥満度を独立変数とし,いびき(中等度以上)を従属変数として行ったロジスティック回帰分析の結果を示す。アデノイド,扁桃肥大,アレルギー性鼻炎のオッズ比はそれぞれ 6.038,5.463,2.276であり,小児の中等度以上のいびきに関して,アレルギー性鼻炎はアデノイドや扁桃肥大ほどではないが,これらに次ぐ危険因子であることが示された。

4.考察気道アレルギー疾患が睡眠障害を引き起こす機序としては,アレルギー性鼻炎による鼻閉が睡眠中の閉塞性呼吸障害を引き起こすこと,鼻閉そのものによる非生理的な呼吸が睡眠障害を引き起こすこと,アレルギー性炎症に関わるメディエーターが睡眠に影響を及ぼすこと,アレルギー性鼻炎に伴うくしゃみや水性鼻漏,痒みにより心理的なストレスが生じて不眠になること,ヒスタミンH1受容体拮抗薬により日中の眠気が生じること,などが考えられており,特に鼻閉の影響が大きいとされる1–3)。

小児は成人と異なる気道の解剖学的特性に加え,アデノイドや扁桃肥大の影響が大きい。成長期に長期間の呼吸障害が続くことにより,心身への発育の影響も指摘されている4)。今回の検討から,小児のいびきは夜間および日中の様々な生活上の問題と関連していること,アレルギー性鼻炎はアデノイドや扁桃肥大に次ぐ小児のいびきの危険因子であることが示された。同じ気道アレルギー疾患である喘息との関連はみられなかったことから,鼻炎による鼻閉の影響の大きさが示唆されるが,外来受診児を対象としたため喘息があっても良好にコントロールされている小児が多かったことが一因かも知れない。アレルギー性鼻炎をもつ小児では睡眠の質が障害されており,鼻炎の治療によって改善することが報告されている5)。アレルギー性鼻炎患児では睡眠への影響も考慮して診療にあたること,逆にいびきや睡眠障害のある小児ではアレルギーの関与を見逃さないことが大切であると考えられた。

参考文献1) Storms W. Allergic rhinitis-induced nasal congestion: its impact on

sleep quality. Prim Care Respir J. 2008; 17: 7–18.

2) 原 浩貴,山下裕司,他.アレルギー性鼻炎と睡眠障害との関連について教えてください.JOHNS 2009; 25: 460–4.

3) Hiraki N, Suzuki H, et al. Snoring, daytime sleepiness, and nasal

obstruction with or without allergic rhinitis. Arch Otolaryngol Head

Neck Surg. 2008; 134: 1254–7.

4) 宮崎総一郎,新谷朋子.睡眠時無呼吸症候群.日本小児耳鼻咽喉科学会 編.小児耳鼻咽喉科治療指針.金原出版;2009.

p. 246–51.

5) Yuksel H, Sogut A, et al. Sleep actigraphy evidence of improved

sleep after treatment of allergic rhiniti. Ann Allergy Asthma

Immunol. 2009; 103: 290–4.

表 1 中等度以上のいびきに関わる危険因子としての疾患(ロジスティック回帰分析,変数増加法ステップワイズ(尤度比)による)

*:医師に診断されている,または診察時医師が認めた疾患

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-18

1.はじめにスギ花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎は,鼻や眼などの局所症状に加えQOLを大きく損なう疾患であり1,2),海外では睡眠障害についても多くの報告が存在する3,4)。我々は,日本のスギ花粉症における睡眠障害について報告してきた。また,ARIAのガイドラインでは,持続性かつ中等症/重症なアレルギー性鼻炎患者に対してはまず鼻噴霧用ステロイド薬を使用することを推奨している。我々は,鼻噴霧用ステロイド薬のスギ花粉症に対する初期療法における有用性についても報告してきた。しかし,日本における鼻アレルギー診療ガイドラインでは,いわゆる初期療法に鼻噴霧用ステロイド薬は含まれておらず,一般的には第 2世代抗ヒスタミン薬が広く用いられているのが現状である。そこで,鼻噴霧用ステロイド薬であるフルチカゾンフランカルボン酸エステルあるいは第 2世代の抗ヒスタミン薬であるロラタジンを用いた初期療法を行い,スギ花粉症患者のスギ花粉飛散による睡眠障害に及ぼす影響について検討を行った。

2.対象と方法過去にスギ花粉症の既往を有し,スギの皮膚テスト陽性かつARIAのガイドラインで中等症・重症に分類される患者のうち文書にて同意の得られた 48名を対象とした。なお,BMIが 25以上の患者は除外した。スギ花粉症症状出現日以降からフルチカゾンフランカルボン酸エステル点鼻液 1日 1回 110μgを投与し,症状がひどければロラタジン10 mgを 1日 1回追加する点鼻治療群 24例と,スギ花粉症症状出現日以降からロラタジン 10 mgを 1日 1回投与し,症状がひどければフルチカゾンフランカルボン酸エステル

点鼻液 1日 1回 110μgを追加する内服治療群 24例について,オープンラベルランダム化群間比較試験を行った。スギ花粉飛散前とスギ花粉飛散ピークに,睡眠障害については簡易ポリソムノグラフィー(日本光電:携帯用睡眠時無呼吸検査装置 SAS-2100),ピッツバーグの睡眠質問票(PSQI-J)を用いて評価した。また,花粉飛散前とピークのアレルギー日記を用いた症状スコア,Epworth Sleepiness

Scale(ESS),RQLQ・JRQLQを用いたQOLについても検討を行った。

3.結果点鼻治療群,内服治療群の患者背景を比較したところ,年齢・性別・重症度等に有意差は見られなかった。簡易ポリソムノグラフィーによるAHIは,スギ花粉飛散前とスギ花粉飛散ピークにおいて有意な変化は見られなかった。しかし,両群ともに飛散ピーク時に睡眠時無呼吸が増悪する症例がわずかであるが存在し,とくに内服治療群では飛散前に軽症であったがピークに中等症まで増悪した症例が 2例見られた。睡眠の質を示すピッツバーグ睡眠質問票(PSQI-J)を用いた PSQIGについては,花粉飛散前とピークにおいて有意な変化は認めなかった。アレルギー日記による症状については,鼻総症状スコア

(TNSS)についてベースラインからの変化で比較すると,スギ花粉本格飛散開始後で内服治療群に比べ点鼻治療群で有意に低く症状が抑えられていた。昼間の眠気を示す ESSについては,点鼻治療群では飛散前とピークで有意な変化は見られなかったが,内服治療群では飛散前に比べ飛散ピークで有意に高値になっていた。

スギ花粉症患者を対象とした睡眠障害に関する試験

松岡 伴和 1,宮田 政則 1,山西 貴大 1,高橋 吾郎 2,上條  篤 1,増山 敬祐 1

1山梨大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科2浜松医科大学医学部耳鼻咽喉科

The study of sleep disorder in patients with Japanese cedar pollinosis

Tomokazu Matsuoka1, Masanori Miyata1, Takahiro Yamanishi1, Goro Takahashi2, Atsushi Kamijyo1, Keisuke Masuyama1

1 Department of Otorhinolaryngology, Head&Neck Surgery, Faculty of Medicine, University of Yamanashi2 Department of Otolaryngology, Faculty of Medicine, Hamamatsu University School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 112―113, 2011

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113耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

疾患特異的なQOLの尺度として,国際的に使われている RQLQと,日本で広く用いられている JRQLQを用いて検討を行ったところ,RQLQ・JRQLQともに,点鼻治療群では飛散前とピークで有意な変動は見られなかったが,内服治療群では飛散ピークで有意にQOLが悪化していた。疾患特異的QOL質問票である RQLQと JRQLQの睡眠に関する項目について検討すると,両者には強い相関が見られた。また,睡眠質問票である PSQIGと ESSの間でも強い相関が見られた。QOL質問票の睡眠に関する項目と睡眠質問票の間ではごく一部で弱い相関が認められた。

4.考察簡易ポリソムノグラフィーを用いたAHIについては,全体としては花粉飛散前と飛散ピークにおける有意な変化を認めなかった。しかし,とくに内服治療群において花粉飛散前にもともと睡眠時無呼吸症候群軽症あった症例のうち飛散ピークに中等症まで増悪した症例を 2例認めた。睡眠時無呼吸検査において,中等症以上は昼間の眠気等何らかの臨床症状があると考えられている。従って,簡易ポリソムノグラフィーの結果からも,花粉飛散により睡眠障害を示す症例があると考えられた。睡眠の質についての質問スコアである PSQIGについては飛散前とピークに有意差を認めなかった。しかし,昼間の眠気を示す ESSについては,点鼻治療群では飛散前とピークで有意差を認めなかったが,内服治療群においては飛散ピークで有意に高値であった。花粉飛散少量シーズンでも花粉飛散により睡眠障害をおこし,治療法によって障害の程度が異なる可能性が示唆された。症状については,TNSSはスギ花粉本格飛散開始後で内服治療群に比べ点鼻治療群で有意に低く症状が抑えられていた。疾患特異的なQOLの尺度である RQLQ・JRQLQともに,点鼻治療群では飛散前とピークで有意な変動は見ら

れなかったが,内服治療群では飛散ピークで有意にQOL

が悪化していた。以上のことより,鼻噴霧ステロイド薬を用いた初期療法により患者は症状が抑えられるのみでなく,少なくともスギ花粉少量飛散シーズンでは花粉飛散によるQOLの悪化を抑制していたと考えられた。疾患特異的QOL質問票である RQLQと JRQLQの睡眠に関する項目,あるいは睡眠質問票である PSQIGと ESS

の間では強い相関が見られた。しかし,QOL質問票の睡眠に関する項目と睡眠質問票の間ではごく一部で弱い相関が認められたのみであった。疾患特異的質問票の睡眠に関する項目と睡眠質問票の結果には解離があり,花粉飛散少量シーズンの睡眠に対する影響について検討する上で,どちらが有用であるかは議論の余地が残る。鼻噴霧ステロイド薬を用いた初期療法により,患者は症状が抑えられるのみでなく花粉飛散におけるQOLよる低下から解放され,さらに ESSの結果から睡眠障害に対する抑制効果も示唆された。今後,スギ花粉症の睡眠に対する影響にさらに検討していくためには,どのように評価するべきかさらに検討する必要があると考えられた。

参考文献1) 荻野 敏,入船盛弘,他.アレルギー性鼻炎患者における

QOL(第 1報)スギ花粉飛散期のQOL.耳鼻と臨床 2000; 46:

131–9.

2) 荻野 敏,入船盛弘,他.アレルギー性鼻炎患者におけるQOL(第 2報)スギ花粉症のQOLと背景因子.耳鼻と臨床2000; 46: 223–9.

3) Rimmer J, Downie S, et al. Sleep disturbance in persistent allergic

rhinitis measured using actigraphy. Ann Allergy Asthma Immunol.

2009; 103(3): 190–4.

4) Muliol J, Maurer M, et al. Sleep and allergic rhinitis. J Investig

Allergol Clin Immunol. 2008; 18(6): 415–9.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-19

1.はじめにスギ花粉症における労働生産性や睡眠に関する研究 1,2)

は行われているが,アトピー性皮膚炎に関してはほとんど研究が行われていない。アトピー性皮膚炎は慢性的な瘙痒が主症状であり,この痒みによる睡眠障害,集中力や能率の低下が労働生産性を障害すると考えられ,アトピー性皮膚炎における労働生産性,睡眠について明らかにすることは意義のある調査であると考えられる。またアトピー性皮膚炎,スギ花粉症はともに国民病として認識されるほど有病率が高く,今後さらにこれらのアレルギー疾患に悩まされる患者は増加すると考えられ,合併した場合の労働性産生,日中の眠気について調査を行うことは重要である。そこで今回はアトピー性皮膚炎が労働生産性や睡眠にどのような影響を及ぼすかを検討し,さらに合併することで症状が重症化することで知られているスギ花粉症の影響について検討を行った。

2.対象と方法2010年の花粉飛散ピーク時に兵庫県・大阪府内の計 8

施設の耳鼻咽喉科及び 1施設の皮膚科診療所外来を受診し,研究に承諾の得られたアトピー性皮膚炎患者(アトピー性皮膚炎群)64名,スギ花粉症患者(スギ花粉症群)130名,アトピー性皮膚炎にスギ花粉症を合併している患者(合併群)110名を対象にアンケート調査を行った。

患者自己記入質問紙として疾患特異的労働生産性評価尺度であるWPAI-AS(Work Productivity and Activity Impair ment

Questionnaire̶Allergy specifi c),主観的日中の眠気を測定する日本呼吸器学会 ESS(Epworth Sleepiness Scale)暫定版を含むアンケート調査を行った。データ解析にはWilcoxon-Mann Whitney test,Kruskal-

Wallis test,non-paired t-test,one-way ANOVAを用いた。集計解析にはMicrosoft Offi ce Excel 2007,統計学的分析にはPASW Statistics 17を用いた。有意水準は特に明記しない限り,両側 5%を有意レベルとした。

3.結果2010年の大阪大学におけるスギ花粉飛散数は 302個/cm

2

で,例年と比較して非常に飛散量の少ない年であった。1)対象者背景対象者 304名のうち,アトピー性皮膚炎群 64名,スギ花粉症群 110名,合併群 130名で,平均年齢は順に 31.7歳,42.5歳,32.9歳と 30~40代の対象者が多い傾向であった。2)疾患別による労働生産性就労者における労働時間損失率は順に,平均 0.6%,0.4%,

3.0%,労働能率障害率は平均 20.6%,25.2%,32.7%,全般労働障害率は平均 24.3%,24.9%,33.1%であった。授業受講者における勉学時間損失率は平均 0%,0.7%,0%,勉学能率障害率の平均 17.7%,49.0%,18.4%,全般勉学障害率は

アトピー性皮膚炎患者の労働生産性と日中の眠気~スギ花粉症合併の影響~

小柳 桃朱 1,塩崎 由梨 1,長野 拓三 2,荻野  敏 1,有本 啓恵 3,入船 盛弘 3,岩田 伸子 3,大川内一郎 3,菊守  寛 3,瀬尾  律 3,竹田真理子 3,玉城 晶子 3,馬場 謙治 3,野瀬 道宏 3

1大阪大学医学系研究科保健学専攻2長野皮膚科医院

3NPO大阪アレルギー・健康支援機構(OHCASS)

Work productivity and day time sleepiness in Japanese patients with atopic dermatitis:the infl uence of Japanese cedar pollinosis

Koyanagi, M.1, Shiozaki, Y.1, Nagano, T.2, Ogino, S.1, Arimoto, H.3, Irihune, M.3, Iwata, N.3, Ookawauchi, I.3,Kikumori, H.3, Seo, R.3, Takeda, M.3, Tamaki, A.3, Baba, K.3, Nose, M3.

1 Graduate School of Allied Health Sciences, Faculty of Medicine, Osaka University2 Nagano dermatology clinic

3 Osaka Health Care and Allergy Supporting Systems (OHCASS)

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 114―115, 2011

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115耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

平均 19.2%,43.7%,19.7%であった。日常活動障害率においては,平均 26.1%,33.0%,36.5%であった。3)疾患別によるESS

アトピー性皮膚炎群,スギ花粉症群,合併群の三群間で日中の眠気を比較検討した。ESSスコアは,アトピー性皮膚炎群 7.9,スギ花粉症群 9.6,合併群 9.1であり,スギ花粉症群が最も日中の眠気が弱く,合併群において最も眠気が強いという結果であった。4)個人属性男性と女性の 2群間で比較した。労働時間損失率に関してはアトピー性皮膚炎群と合併群において女性が,労働能率障害率ではスギ花粉症群において男性が,全般労働能率障害率ではアトピー性皮膚炎群と合併群において女性が,日常活動障害率ではスギ花粉症群において男性が,合併群では女性のほうが若干障害されている結果が示された。ESSは,スギ花粉症群のみ女性のほうが日中の眠気が強い結果であり,他の群では差は見られなかった。次に年齢を「~29歳」「30~49歳」「50歳~」の 3群に分類し,比較検討を行った。労働生産性では大きな差はみられなかったが,どの群でも年齢が若いほうが労働生産性を障害されている傾向があった。ESSに関しては,どの群においても一貫した傾向はみられなかった。

4.考察アトピー性皮膚炎は慢性的な瘙痒感により,集中力や能率が低下すると考えられている。その瘙痒感は一般的に夜間に増強し,入眠障害や中途覚醒などの睡眠障害が起きるため,日中の眠気が増悪し,より生産性が低下する可能性がある。室田ら3)の研究では瘙痒感が労働生産性に障害を及ぼすことが示されており,今回の研究においても全般労働障害率は 24.3%障害されており,アトピー性皮膚炎が労働生産性に影響を与えることが示唆された。ESSに関しても Johnsら4)の研究によって定義されている正常値 5.9よりもスコアが高く,アトピー性皮膚炎患者が日中の眠気を感

じていることが示された。その原因として,主に夜間の痒みと抗ヒスタミン薬による副作用の二つが考えられる。また今回の調査ではアトピー性皮膚炎患者に対するスギ花粉症の影響が明らかになった。労働生産性,ESSともに合併群のほうが障害されており,アトピー性皮膚炎にスギ花粉症を合併することで労働生産性がより障害されることが示唆された。上記したように今回の研究では,アトピー性皮膚炎にスギ花粉症を合併することで労働生産性,日中の眠気が増悪する結果であった。この結果はアトピー性皮膚炎の症状である瘙痒感,瘙痒感による不眠に加えて,スギ花粉症の鼻症状・目症状や,鼻閉などによる睡眠障害がおこることによって,日中の眠気が悪化し,日常生活や社会生活により障害をきたし,労働生産性が増悪すると考えられる。しかし今回の結果は十分な結果であるとはいえない。それぞれの睡眠障害や労働生産性は各々の症状や薬剤が影響しているため,重症度や使用している薬剤などの関連が重要となってくる。今回の研究では,症状や薬剤についての分析は行っておらず,十分な解析ができていない。今後対象者の症状の重症度や,使用している薬剤を明らかにしたうえで,睡眠障害や労働生産性との関連を調査していく必要があると考えられる。

参考文献1) 大久保公裕,小林 慎.花粉症治療における労働生産性の意義.アレルギー・免疫 2007; 14(2): 218–26.

2) Craig TJ, Ferguson BJ, et al. Sleep impairment in allergic rhinitis,

rhinosinusitis, and nasal polyposis. Am J Otolaryngol. 2008; 29(3):

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3) 室田浩之,北場 俊,他.かゆみを伴う皮膚疾患での労働生産性の評価とヒスタミンH1拮抗薬による改善効果の検討.Progress in Medicine. 2009; 29(7): 212–8.

4) Johns MW. A new method for measuring daytime sleepiness: the

Epworth sleepiness scale. Sleep. 1991; 14(6): 540–5.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-20

1.はじめにスギ花粉症治療に初期療法が勧められ,広く普及している。鼻アレルギー診療ガイドライン(2009年版)1)では,初期療法の投薬開始時期について「第 2世代抗ヒスタミン薬は花粉飛散予想日または症状が少しでも現れた時点で内服開始し,その他の薬剤では飛散予測日の 1~2週間前をめどに治療を始める」と記載され,薬剤投与開始日は予想されるスギ花粉飛散開始日に規定される。スギ花粉飛散開始日は地域により異なり,かつ,年ごとにも異なる。その年の各地でのスギ花粉飛散開始日がわからなければ,薬剤服用時期も明確ではない。適切な薬剤服用時期を決めるには花粉飛散開始日の予想が必須であるが,現状ではまだ明確な予想法が示されていない。われわれは以前よりスギ花粉飛散開始時期は秋の気候に左右されるのではないかと考え,検討を行ってきた 2)。今回,スギ花粉飛散開始日と秋の気温を全国の都市で検討した。その結果,九州から関東にかけては,11月中旬の気温から飛散開始日の予想が可能と考えられたので報告する。

2.方法1)全国のスギ花粉飛散開始日佐橋が日本花粉学会誌(40~54巻)で報告したデータを参照し,1994年から 2010年までの 17年間の全国のスギ花粉飛散開始日を抜粋した。調査期間内で,同一施設が継続して測定している全国 30都市の情報を採用した2)気象情報気象庁ホームページで公開されている過去のアメダスデータを参照し,花粉観測地から最も近い気象観測点の情報を採用した。旬毎(1ヵ月を上旬・中旬・下旬で示す)の平均気温,平均最高気温,平均最低気温を集積した。

3)統計学的検討気温と花粉飛散開始日の相関にはピアソンの積率相関係数を用い,p<0.05を有意とした。

3.結果まず,三重県津市における年間の旬毎の気温とスギ花粉飛散開始日の相関関係を解析した結果,11月中旬の平均気温(p=0.0027,r=0.67),平均最高気温(p=0.0011,r=

0.70),平均最低気温(p=0.013,r=0.58)がスギ花粉飛散開始日と有意に正に強く相関していた。その結果を参考に,全国 30都市の花粉飛散開始日と秋の気温の関係を検討した。全国的には平均最高気温よりも平均気温と相関する都市が多かった。11月中旬平均気温とは,福岡市,広島市,徳島市,西宮市,東大阪市,和歌山市,大垣市,静岡市,中央市,八王子市,東京都,埼玉県坂戸市が有意に相関した。名古屋市と水戸市は 11月中旬平均気温とは相関しなかったが,平均最高気温で相関した。岡山市,米子市,松山市,高松市では相関がなく,山形市を除く関東以北や日本海側の都市でも相関がなかった。福岡市から関東地域にかけての広い範囲で 11月中旬平均気温と花粉飛散開始日が相関しており,この時期の気温が花粉飛散開始日に影響があると考えられた。

4.考察多くの臨床医に実践されている初期療法は,スギ花粉飛散開始日を想定して投薬開始日を決める。しかし,スギ花粉の飛散時期は年ごとに異なり,飛散開始日に 2週間以上の差がある。従って,適切な初期療法の実践には花粉飛散開始日の予想が急務である。スギ花粉飛散開始日の予想についてこれまでにいくつか

関西から関東太平洋岸地域における 11月中旬の気温によるスギ花粉飛散開始日予想

湯田 厚司,宮本由起子,竹内 万彦

三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科

Prediction of starting date of Japanese cedar pollen scatteringby the temperature in mid-November

Atsushi Yuta, Yukiko Miyamoto, Kazuhiko Takeuchi

Department of Otorhinolaryngology, Head and Neck Surgery, Mie University Graduate School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 116―117, 2011

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117耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

の報告があり,1月 1日からの最高気温の積算値が花粉飛散日と関係するとされるが 3–6),我々が再検証したところ,1月 1日からの累積最高または平均気温は花粉飛散日と関連しなかった。スギの花芽は前年の夏に形成され,開花には秋から冬にかけて一定期間に低温にさらされる休眠打破が必要とされる。従って,秋から冬の気温が花粉飛散開始に影響するのではないかと考え2),月ごとの気温と花粉飛散開始日の関係を見たところ,有意ではないが 11月の 1ヵ月間の気温が飛散開始に影響していた。さらに詳細に検討すべく旬ごとの検討を行った結果,11月中旬の平均気温は福岡から関東までの広い範囲で花粉飛散開始日と相関していた。一方で,日本海沿岸から東北地方の飛散開始日に気象との相関を見いだせなかった。11月中旬以外の時期も全て検討したが,山形市を除いて相関がなかった。松原ら7)は降雪地のスギ花粉飛散開始日には雪の影響があると報告しており,異なる検討が必要かと思われた。平ら8)は植物の生理学的観点から気温 0.17 °C以下ではスギ雄花が発育しないことを明らかにし,飛散開始日に寒冷地の気温が影響することが考えられた。

11月中旬の気温は,気象庁のアメダスデータから誰でも簡単にインターネット上で最新のデータを参照できる。今回の結果を参考にスギ花粉飛散開始日の予想を行えば,全国の半数近い地域で適切な時期からの初期療法も可能となり,有用な情報になると思われた。

本研究は厚生労働省科学研究費(H20 –免疫 –一般 – 003)の助成を受け,また,スギ花粉測定には文部科学省研究費(10770882,15591805,18591865)の助成を受けた。

参考文献1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症―.改定第 6版.東京:ライフ・サイエンス;2009.

2) 佐々木康二,三品朋子,他.スギ花粉における秋の気象条件と花粉飛散の影響.東海花粉症 2006; 17: 59–63.

3) 橋詰隼人.林木の交配に関する基礎的研究(V).鳥取大農演報 1973; 25: 81–96.

4) 斎藤洋三,竹田英子.東京都文京区における 1988年のスギ・ヒノキ科空中花粉調査.日本花粉誌 1988; 34: 149–52.

5) 村山貢司.関東におけるスギ花粉情報.日本花粉誌 1988; 34:

153–6.

6) 岸川禮子.福岡市におけるスギ・ヒノキ科花粉飛散の年次変動と気象条件―スギ・ヒノキ科花粉飛散予報.アレルギー1988; 37: 355–63.

7) 松原 篤,白崎理喜,他.降雪地域におけるスギ花粉飛散開始日の予測.耳鼻と臨床 2005; 51: 220–5.

8) 平 英彰,寺西秀豊,他.スギの花粉飛散開始日の予測について 植物生理の観点から.アレルギー 1992; 41: 86–92.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-21

愛知県豊明市における過去 28年間のスギ,ヒノキ科花粉飛散状況

伊藤 周史,内藤 健晴,堀部 智子,三村 英也,長島圭士郎

藤田保健衛生大学医学部耳鼻咽喉科学教室

花粉飛散数と花粉症の発症や重症度との間に密接な関係があり,花粉飛散数の調査は研究面だけでなく,患者への情報提供の面でも重要である。当教室では,1978年よりDurham型捕集器を愛知県豊明市にある藤田保健衛生大学外来棟 1階屋上に設置し花粉観測を開始し 1983年よりスギ,ヒノキ科花粉を分けて計測している。スギ,ヒノキ科花粉飛散数は前年の夏の気象条件などにより年により大きな変動がある。また,地球温暖化の影響にて近年の気象条件は前年の夏,花粉飛散期共に変化してきている。今回我々は 1983年から 2010年までの 28年間のスギ,ヒノキ科花粉飛散状況や気象条件の変化などの影響について検討した。スギ花粉は 1995年の 6012個/cm

2が最も多く平均飛散数はスギ花粉 1611個/cm2,ヒノキ科花粉は

2005年の 2835個/cm2が最も多く平均飛散数は 761個/cm

2であった。気象条件の変化が飛散開始日,飛散期間などに及ぼす影響など検討し報告する。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 118, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-22

スギ花粉症に対する舌下免疫療法の臨床効果とバイオマーカーに関する検討

米倉 修二 1,藤村 孝志 1,2,稲嶺 絢子 1,茶薗 英明 1,櫻井 大樹 1,堀口 茂俊 1,花澤 豊行 1,岡本 美孝 1

1千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学2理化学研究所

Examination of the therapeutic effects of sublingual immunotherapyfor Japanese cedar pollinosis and potential biomarkers

that would predict the therapeutic response

Syuji Yonekura1, Takashi Fujimura1,2, Ayako Inamine1, Hideaki Chazono1, Daiju Sakurai1,Shigetoshi Horiguchi1, Toyoyuki Hanazawa1, Yoshitaka Okamoto1

1 Department of Otolaryngology, Head and Neck Surgery, Graduate School of Medicine, Chiba University2 The Institute of Physical and Chemical Research

1.はじめに本邦におけるスギ花粉症の治療は,抗ヒスタミン剤等を使用した薬物療法が中心であるが,根本治療とはならない。従来,スギ花粉症状の長期寛解が期待できる治療として,皮下注射による抗原特異的免疫療法が施行されてきた。しかし,痛みを伴う,頻度は少ないながら重篤な副作用がある,頻回の通院を要するなど患者負担も大きく,実際には治療の施行が減少しているのが現状である。安全で患者負担の少ない免疫療法として,舌下投与による抗原特異的免疫療法(SLIT)が期待されており,特にヨーロッパにおいては保険診療として実用化されている。近年,本邦においても標準化スギ花粉治療エキスを用いたスギ花粉症に対する SLITの有効性が報告されている1)。本発表では,スギ花粉症に対する SLITの有効性の検討,ならびに治療機序の解明・治療バイオマーカーの探索を目的として,千葉大学において 2006–2008年の 2年間にわたり施行した臨床試験より得られた知見について報告した。なお,これらの結果については既に Clin Immunol(2011)に報告されている2)。

2.対象と方法試験のデザインはランダム化プラセボ対照二重盲検試験で,千葉県・東京都在住のスギ花粉症患者を対象とした。介入は標準化アレルゲン治療エキス「トリイ」スギ花粉による舌下免疫治療で,2分間の舌下吐き出し法とした。維持量は国内で得られる最も高い濃度である 2000 JAU/mlを

1 ml,週 1回投与した。試験は 2006年 9月に開始され,2008年 5月に終了した。今回の発表では 2年目である2008年のスギ花粉飛散期の臨床効果とバイオマーカーについて検討した。

3.結果解析対象は実薬群 51名,プラセボ群 37名で特異的 IgE

抗体価をはじめ,各群のキャラクターに差を認めなかった。症状薬物スコアの検討では,2008年は千葉で 6596個と比較的花粉飛散の多い年であったが,本格花粉飛散期に実薬群はプラセボ群に比べて低値を示していた。また,飛散ピーク時のスコアの平均を比較すると実薬群の方が有意に低値を示しており,今回の治療の臨床効果が明かとなった。この臨床試験が終了したのち,シングルブラインドで治療終了 1年後の 2009年の春の症状について追跡調査を行ったところ,この年は千葉の花粉飛散が 5486個と例年並みの花粉飛散数であったが,実薬群で有意にスコアが低値を示しており,少なくとも治療終了 1年後もその効果は持続していると考えられた。

2008年の飛散期の前後の採血で得られた末梢血単核細胞を Cry j 1で刺激した際のサイトカイン産生ついて検討した。実薬群全体,実薬群の中で症状が軽症であった群,実薬群の中で症状が重症であった群,プラセボ群に階層化してみると,IL-4では実薬群の軽症グループのみが飛散前後で明かな上昇を認めなかった。IL-5に関しては全ての群で有意な上昇があったが,実薬群の軽症群はその傾向が緩

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 119―120, 2011

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120 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

徐であった。同様に IL-13,IL-2についてもやはり実薬群の軽症グループでは有意な上昇を認めず,舌下免疫治療を受け軽症で済んだグループでは飛散前後でサイトカインの産生の上昇が抑制されると考えられた。以前の我々の preliminaryな検討で,舌下免疫療法を受けた患者では Cry j特異的調節 T細胞が誘導され,症状が抑制されることが示唆された 3)。今回も同様の検討を行なったところ,実薬群で調節性 T細胞が飛散前後で増加していた群ではプラセボ群と比較して有意に臨床症状を抑制していなかったが,減少していた群では有意差は認めなかった。これより,舌下免疫療法により誘導された調節性T細胞が臨床症状の抑制に関与していることが示唆された。スギ特異的 IgE/総 IgE比をパラメータとした症状の比較を行った。実薬群をこの IgE比の平均である 0.19で分け,症状の比較を行ったところ,この IgE比が小さいグループで有意に臨床スコアが低いことが示された。IgE比と臨床スコアの相関を見てみると,実薬群では有意な相関を認めたが,プラセボ群では認めなかったことから,この比は単に症状の強さではなく,舌下免疫治療の効果を予測する因子となりえる可能性があると考えられた。臨床症状の抑制に関与していることが示唆された。スギ特異的 IgE/総 IgE比をパラメータとした症状の比較を行った。実薬群をこの IgE比の平均である 0.19で分け,症状の比較を行ったところ,この IgE比が小さいグループで有意に臨床スコアが低いことが示された。IgE比と臨床スコアの相関を見てみると,実薬群では有意な相関を認めたが,プラセボ群では認めなかったことから,この比は単

に症状の強さではなく,舌下免疫治療の効果を予測する因子となりえる可能性があると考えられた。

4.考察今回の 2年間の舌下免疫療法において,有意な症状軽減効果を投与 2年目に認め,また投与終了 1年後もその効果は持続していると考えられた。実薬群の軽症グループでは,重症グループあるいはプラセボ群と比較して,Cry j 1特異的サイトカイン産生の有意な抑制が認められた。Cry j特異的調節性 T細胞は舌下免疫療法の臨床効果に関して,有用なバイオマーカーとなる可能性があると考えられた。また,特異的 IgE/総 IgE比は舌下免疫療法の臨床効果に関して,有用な予測因子となる可能性があることが示唆された。

参考文献1) Horiguchi S, Okamoto Y, et al. A randomized controlled trial of

sublingual immunotherapy for Japanese cedar pollinosis. Int Arch

Allergy Immunol. 2008; 146: 76–84.

2) Fujimura T, Yonekura S, et al. Increase of regulatory T cells and the

ratio of specific IgE to total IgE are candidates for response

monitoring or prognostic biomarkers in 2-year sublingual immuno-

therapy (SLIT) for Japanese cedar pollinosis. Clin Immunol. 2011;

139: 65–74.

3) Fujimura T, Yonekura S, et al. The induced regulatory T cell level,

defined as the proportion of IL-10(+)Foxp3(+) cells among

CD25(+)CD4(+) leukocytes, is a potential therapeutic biomarker

for sublingual immunotherapy: a preliminary report. Int Arch

Allergy Immunol. 2010; 153: 378–87.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-23

スギ・ヒノキ科花粉症における問診による第 2世代抗ヒスタミン薬の薬剤選択と患者満足度調査(第 2報)

戸嶋 一郎,星 恵理子,小河 孝夫,柴山 将之,瀬野 悟史,神前 英明,清水 猛史

滋賀医科大学耳鼻咽喉科

Investigation of patient satisfaction to Second-generation antihistaminesin the treatment of Japanese cedar and cypress family pollinosis (Part 2)

Tojima, I., Hoshi, E., Ogawa, T., Shibayama, M., Seno, S., Kouzaki, H., Shimizu, T.

Dept. of Otorhinolaryngology, Shiga University of Medical Science

1.はじめに我々は,大量飛散年であった 2009年の花粉症シーズンに,スギ・ヒノキ科花粉症患者を対象として,患者の希望により「効果の高さを特長とする薬剤(効果重視群)」と「眠気の少なさを特長とする薬剤(眠気軽減群)」の 2群に振り分け薬剤を投与し,その効果,およびQOLに及ぼす影響,患者満足度について報告した 1)。その結果,効果重視群と眠気軽減群はいずれも良好な症状改善効果を示し,症状の改善に伴いQOLスコア,労働効率の改善が認められた。また,治療後のアンケート調査において,薬剤,治療全般に対する高い満足度が得られ,9割以上の患者が「2

種類の薬剤があるという説明を受け,自分で飲み薬を選択できてよかった」と回答していた。今回少量飛散が予測されていた 2010年に同様の検討を行い,薬剤の治療効果と患者満足度を改めて調査した 2)。

2.対象と方法2010年 2月 21日から 5月 14日までの期間に,滋賀県下

18施設を受診したスギ・ヒノキ科花粉症患者で,本試験への参加に同意が得られた 114例を対象とした。対象患者は初診時の問診から,効果重視群または眠気軽減群の 2群に振り分け,効果重視群はオロパタジン塩酸塩経口薬(アレロック®)5 mgを 1回 1錠,1日 2回経口投与し,眠気軽減群はフェキソフェナジン塩酸塩(アレグラ® 錠 60 mg)1

回 1錠,1日 2回経口投与,またはロラタジン(クラリチン®

錠 10 mg)を 1回 1錠,1日 1回経口投与した。各薬剤を 2

週間以上投与した時点で評価した。

3.結果登録症例数 114例のうち再来院しなかった 18例を除外

し,96例を解析対象とした。効果重視群は 42人,眠気軽減群は 54人で,この 2群間に有意差は認められなかった(表 1)。初診時の涙目スコアは効果重視群が眠気軽減群より高いもののその他の初診時スコアについては両群間で有意差はなく,効果重視群における,くしゃみ,鼻みず,眼のかゆみ,日常生活の支障度の各スコアは投与 1週間目から有意に低下し,涙目についても投与 2週目に有意なスコア低下が認められた。一方,眠気軽減群では,くしゃみ,日常生活の支障については投与 1週間目から,鼻みずについては投与 2週目から有意なスコア低下が認められた(図1)。初診時の重症度スコアでは両群間に有意差はなく,再診時には両群ともに有意なスコアの低下が認められた。治療効果判定における改善以上の改善率は,効果重視群で83.3%,眠気軽減群で 59.6%と有意差を認めた(図 2)。

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 121―123, 2011

表 1 患者背景

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122 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

JRQLQを用いた初診時・再診時のQOLスコア平均値は効果重視群の全項目,眠気軽減群のほとんどの項目において再診時に低下が見られた(図 3)。患者満足度調査においては,症状改善の程度について「この飲み薬を飲む前と比べて花粉症の症状はどのように変わりましたか?」と尋ねたところ,効果重視群の82.9%,眠気軽減群の69.3%が「非常によくなった」「良くなった」と回答した。飲み薬に対する満足度については,効果重視群の 95.1%,眠気軽減群

の 86.8%が「満足」「やや満足」と回答した(図 4)。副作用については調査期間中,効果重視群では 42例中 4例に眠気が認められたが,眠気軽減群には副作用は見られなかった。

2009年と 2010年の初診時の重症度と薬剤希望の内訳では,重症以上の患者割合は 2009年では 58.4%,2010年で50.0%であった(図 5)。治療全般に対する満足度については,2009年で効果重視群 91.5%,眠気軽減群 93.4%,2010

年で効果重視群 100%,眠気軽減群 90.0%であった。また内服薬の印象について尋ねると「2種類の飲み薬があることを説明され自分で選べてよかった」と回答した患者は,2009年で 91.8%,2010年で 96.1%であった(図 6)。

4.考察2010年においても効果重視群,眠気軽減群ともに良好

図 1 症状スコアの推移

図 2 症状重症度スコアの推移と治療効果判定

図 3 JRQLQスコアの推移

図 4 飲み薬に関する治療後患者アンケート結果

図 5 2009年,2010年の初診時重症度スコアと薬剤希望内訳

図 6 2009年,2010年の治療満足度と薬剤希望問診に対する印象

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123耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

な症状改善効果が認められ,症状の改善に伴いQOLスコアの改善が認められた。また,両シーズンとも,治療後のアンケート調査における,治療全般に対する満足度は 90%

以上といずれも高く,9割以上の患者が「2種類の薬剤について説明され,自分で選べてよかった」と回答していた。花粉症患者に対し簡単な問診を実施することによって患者満足度が向上したと考えられた。

参考文献1) 瀬野悟史,星恵理子,他.スギ・ヒノキ科花粉症における問診による第 2世代抗ヒスタミン薬の薬剤選択と患者満足度調査.診療と新薬 2009; 46: 1185–95.

2) 星恵理子,戸嶋一郎,他.スギ・ヒノキ科花粉症における問診による第 2世代抗ヒスタミン薬の薬剤選択と患者満足度調査(第 2報).診療と新薬 2010; 47: 1123–33.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-24

スギ花粉症患者における花粉飛散総数の違いによる症状日記と QOLへの影響

~皮下および舌下免疫療法と初期療法での検討~

宮本由起子,湯田 厚司,竹内 万彦

三重大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科

The infl uence on the clinical effi cacy and quality of life (QOL) in the patientswith Japanese cedar pollinosis according to the different pollen dispersal

Yukiko Miyamoto, Atsushi Yuta, Kazuhiko Takeuchi

Department of Otorhinolaryngology, Head and Neck Surgery, Mie University Graduate School of Medicine

1.はじめにスギ花粉症治療として,初期療法とともに抗原特異的皮下免疫療法が有効である。我々は,過去にスギ花粉症に対する皮下免疫療法のQOL評価や治療成績について検討し,スギ花粉症に対する皮下免疫療法が薬物治療よりも高い臨床効果を示すことを報告してきた1,2)。しかし,これらの成績は,治療法のみならず,評価年のスギ花粉飛散数により大きな差がでると考えられた。そこで,今回スギ花粉の少量飛散年,中等度飛散年,大量飛散年における初期療法と免疫療法の評価でどのような変化が現れるかを検討した。また,皮下免疫療法に変わる新しい治療法として期待されている舌下免疫療法についても加えて検討をおこなった。

2.対象と方法1)検討年とスギ花粉飛散数

2008年から 2010年の 3年間で検討した。スギ花粉飛散数は,津市内の 9階建てビル屋上に設置したダーラム型花粉収集器で連日測定した。2)対象と治療法皮下免疫療法,舌下免疫療法,初期療法で治療したスギ花粉症患者を対象とした。皮下免疫療法群は鳥居社標準化アレルゲン治療エキス「トリイ」スギ花粉で行い,維持量に達している患者を対象とした。スギ花粉症の新規治療である舌下免疫療法は,既報の方法2,3)で行った。初期療法群は鼻アレルギー診断ガイドライン4)に準じた薬剤で治療した例を対象とした。それぞれの群は基本となる治療法を開始し,スギ花粉飛散時に症状の増悪があれば,鼻アレルギー診断ガイドライン4)に準じた薬物治療を追加した。皮

下または舌下免疫療法群においては薬剤の初期療法を併用せず,花粉飛散時に症状が出現してから薬剤の服用を開始し,有症時には薬剤の頓用でなく連用を勧めた。対象例数は,2008年が皮下免疫療法,舌下免疫療法,初期療法の順に 18例,23例,15例であり,2009年が同順に 14例,23

例,16例,2010年が同順に 29例,30例,18例であった。3)評価方法毎日の症状日記は鼻アレルギーガイドライン(2009)4)

に準じてスコア化し,QOLは日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票(No1)を用いた。4)検定日記から得たスコアの群間の統計学的検定には

Bonferroni/Dunn検定を用い,QOLにはMann-whitney U検定を用いた。p<0.05で有意とした。

3.結果1)検討年のスギ花粉飛散総数スギ花粉総数は 2008年 2,691個/cm

2(過去 25年間の測定で 13番目に多い),2009年 11,941個 /cm

2(同 3番目),2010年 839個/cm

2(同 21番目)であった。この結果,2010

年を少量飛散年,2008年を中等度飛散年,2009年を大量飛散年とした。2)臨床症状評価少量飛散年では,3療法共に症状スコアが小さく良好で,各群での差がなかった。併用薬は舌下と皮下で少なかった。中等度飛散年には,症状スコアと併用薬ともに皮下免疫療法が最も良好で,次いで舌下免疫療法,初期療法の順となった。大量飛散年には,3療法の症状スコア差は小さ

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 124―125, 2011

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125耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

くなるが,皮下免疫療法と舌下免疫療法の併用薬が少ないため初期療法より良好となった。臨床症状においては,少量飛散年には差が出にくく,中等度飛散年に 3療法での差が明確となった。3)QOL評価

QOLは少量飛散年には 3療法ともに良好で差がなかった。中等度飛散年でも 3療法ともに良好であったが,皮下免疫療法は初期療法療法より 5つの項目(精神集中,人つきあい,睡眠障害,倦怠感,疲労)で有意に良好であり,皮下免疫療法は舌下免疫療法より3つの項目(外出支障度,人つきあい,他人との会話・電話)で良好であった。一方で,大量飛散年には 3療法の差が大きくなり,皮下免疫療法は初期療法療法よりも全ての項目で有意に良好であり,皮下免疫療法は舌下免疫療法より2つの項目(外出支障度,人つきあい)で有意に良好で,舌下免疫療法は初期療法より 4つの項目(新聞読書,記憶力,倦怠感,疲労)で有意に良好であった。QOLでは大量飛散年で治療法への影響が大きかった。

4.考察スギ花粉症の治療効果の評価には,臨床症状による評価やQOLによる評価など,多くの評価方法がある。これらの評価もスギ花粉飛散数により影響を受けるが,今回の検討により,大きく異なるパターンを示すことが明らかとなった。少量飛散年では,どの治療法でも効果があり,差が出ないと考えられ,治療法による優劣がつけられないと

考えられた。中等度飛散年では,花粉飛散による臨床症状への大きな影響が現れており,各治療での差もはっきりしていた。しかし,QOLが大きく違うわけではなく,花粉症患者の日常生活にどこまで影響しているか不明であった。一方で,大量飛散年では,初期療法よりも免疫療法の方が臨床症状で勝っていると解釈されるが,QOLにおいてはさらなる差が出ていた。花粉飛散が多いことが花粉症患者QOLに大きな支障となっているのかと考えられた。これらの結果から,各種治療法の評価には,花粉飛散数

の影響も大きいと考えられ,臨床症状とQOLの療法の評価をどのようにとらえていくかが重要なことと考えられた。

本研究は厚生労働省科学研究費(H20―免疫―一般―003),文部科学省研究費(10770882,15591805,18591865)の助成を受けた。

参考文献1) 荻原仁美,湯田厚司,他.スギ花粉症に対する免疫療法の治療成績.耳鼻臨床 2010; 103: 215–20.

2) 湯田厚司,大久保公裕.当科におけるスギ花粉症に対する舌下免疫療法の現状と 2年間の治療成績.耳鼻免疫アレルギー2008; 26: 285–9.

3) 湯田厚司,宮本由起子,他.小児スギ花粉症に対する抗原特異的舌下免疫療法.アレルギー 2009; 58: 124–32.

4) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症―改訂第 6版.東京;ライフサイエンスメディカ:2009.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-25

スギ花粉症初期療法における第 2世代抗ヒスタミン薬の投与法に関する検討

北村 剛一,大塚 康司,山口 太郎,清水 雅明,鈴木  衞

東京医科大学耳鼻咽喉科学講座

Evaluation of the appropriate dosage for prophylactic second-generation antihistamin administration for Japanese cedar pollinosis

Koichi Kitamura, Koji Otsuka, Taro Yamaguchi, Masaaki Shimizu, Mamoru Suzuki

Department of Otolaryngology, Tokyo Medical University

1.はじめに鼻アレルギー診療ガイドライン(2009版)1)には,例年,強い花粉症の症状を示す症例での初期療法が推奨されている。なかでも第2世代抗ヒスタミン薬を用いた初期療法は,花粉飛散開始前から過敏性の亢進を抑制し,その有効性は高い。しかしながら,患者の初期療法に対する満足度調査では,治療効果には満足しているが,飛散後と同量の内服容量の必要性やコストに対する不満をもつ患者も少なくない2)。そこで今回我々は,第 2世代抗ヒスタミン薬のオロパタジン塩酸塩の初期療法の用量および効果について検討し,さらに飛散後治療との臨床効果につき比較検討した。

2.対象と方法対象

2010年度 1月~4月までに東京医科大学病院耳鼻咽喉科および西東京中央総合病院を受診し,スギのアレルゲン検査にて RAST値が 2以上で,例年強い花粉症の症状を呈し本試験の参加に文書で同意を得た 131例である。その内訳は初期療法を行った 83症例および飛散開始後に治療を開始した 48症例である。方法初期療法を希望したスギ花粉症患者 83例を初期治療群とし封筒法にて 2群(A・B群)に分けた。A群は,第 2

世代抗ヒスタミン薬のオロパタジン塩酸塩をスギ花粉飛散開始まで 5 mgを 1日 1回就寝前(半量)に投与し飛散開始後は 1日 2回朝および就寝前(常用量)に投与した。B

群は,第 2世代抗ヒスタミン薬のオロパタジン塩酸塩をスギ花粉飛散開始から 5 mgを 1日 2回朝および就寝前(常用量)に投与し飛散開始後も継続投与した。また,飛散開始後に薬物療法を開始した 48例を飛散後治療群(C群)とし,オロパタジン塩酸塩 5 mgを 1日 2回

朝および就寝前(常用量)に投与した。なお,鼻症状が激しい場合に,ケミカルメディエーター遊離抑制薬点眼,第 2世代抗ヒスタミン薬点眼,ステロイド薬点鼻・点眼・経口・筋注,ケミカルメディエーター遊離抑制薬点鼻・経口,ケミカルメディエーター受容体拮抗薬点鼻・経口,Th2サイトカイン阻害薬を併用可能とした。評価項目(1)鼻症状の程度初診時に花粉症日記を患者に配布し,毎日,くしゃみ回数,鼻汁回数,鼻閉の程度,日常生活の支障度,服薬状況の記入を求めた。各自覚症状の程度を鼻アレルギー診療ガイドラインの重症度分類1)に従いスコア化した。(2)眼症状花粉症日記に眼のかゆみ,流涙の程度を記入し,各症状の程度を鼻アレルギーの新重症度分類3)に従いスコア化した。(3)患者のQOL

初診時と再診時に日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票(JRQLQ)No1

4)を用いてQOLを評価した。(4)Medication Score

併存薬剤の使用頻度につき検討した。評価方法は鼻アレルギー診療ガイドライン(2009年度版)1)に従い点数化し,合計点数/日で花粉飛散期の併用を平均した。

3.結果(1)花粉飛散状況東京医科大学病院の所在する東京都新宿区に近接した千代田区の 2010年度のスギ花粉飛散数は例年より少なく,総飛散数は 743個/cm

2であった。今回,2月 10日から 4月16日までの花粉飛散期を 3期に分けて飛散前期,飛散中期,飛散後期とし,各症状やQOLを評価した。

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 126―127, 2011

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127耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

(2)鼻症状スコア患者日記によるくしゃみ,鼻汁,鼻閉では,初期療法の

A群とB群とで症状の改善に有意な差はなかった。飛散中期でB群がC群に比べ有意な低値を示した。(3)眼症状眼のかゆみ,涙目ともにA群と B群と C群とでの症状の改善に有意な差はなかった。(4)日常生活の支障度と重症度スコア重症度スコアでの飛散中期で B群が C群に比べ有意な低値を示した。A群とB群とでは,日常生活の支障度と重症度スコアでの有意差はなかった。(5)JRQLQによる領域別スコアすべての項目においてA群と B群とで有意差はなかったが,A群とC群とで飛散前期の社会生活と睡眠,飛散中期の日常生活と戸外活動で有意差があった(図 1)。(6)Medication Score

初期治療群と飛散後治療群とで他の薬剤の使用に有意差はなかった。

4.考察初期治療を受けた患者の満足度調査2)では,56.7%の満足度が得られているが,25.2%の不満な患者も存在する。不満の理由として,服薬期間が長くなるために治療費の増加を懸念したり,初期治療では症状が全くないか軽いことから軽微な副作用を懸念するためではないかと思われる。したがって,初期治療には,花粉飛散期の効果が期待でき,副作用が少ない治療薬の選択や投与方法5)を考慮することが重要と考えられる。今回我々は,即効性があり,持続時間も長く,副作用も少なく,患者のライフスタイルに応じた選択が可能な薬剤である第 2世代の抗ヒスタミン薬のオロパタジン塩酸塩を用いて,初期療法の投与法およびその臨床効果について検討した。

2010年度は花粉飛散数が少ない年ではあったが,初期治療群(半量および常用量)は飛散後治療群に比べ鼻症状を抑制する傾向があり患者のQOLの維持にも寄与したと思われた。また,半量投与の初期治療群は,常用量投与の初期治療群に比べても同等の臨床効果で,他の薬剤(点鼻・点眼・内服)の使用頻度も抑制し,安価で投与回数も少なく,患者が満足する初期治療であると思われた。大量飛散が予想されている 2011年ではあるが,半量投与の初期療法が飛散数に左右されるか,どうか更なる検討が必要である。

参考文献1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン ―通年性鼻炎と花粉症― 2009年度版(改討第 6版).東京;ライフ・サイエンス:2009.

2) 今野昭義.患者満足度に関するweb調査結果よりみた花粉症治療の問題点.MEDICO 2004; 35: 19–20.

3) 奥田 稔.鼻アレルギー ―基礎と臨床―(改討版).大阪:医薬ジャーナル社 2005.165.

4) 奥田 稔,大久保公裕,他.日本アレルギー性鼻炎QOL標準調査票(2003年度版).アレルギー 2003; 52: 21–56.

5) 北村剛一,大塚康司,他.スギ花粉症の初期治療における第 2世代抗ヒスタミン薬投与量の検討.日鼻誌 2010; 49(4):

513–9.

図 1 JRQLQによる領域別スコア

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-26

花粉症と咳嗽―プランルカスト水和物初期療法の有用性 3年間の検討―

完山 理咲 1,朝子 幹也 1,河本 光平 3,濱田 聡子 2,大岡 久司 1,友田 幸一 1

1関西医科大学耳鼻咽喉科2美杉会男山病院耳鼻咽喉科

3関西医科大学香里病院耳鼻咽喉科

Ceder Pollinosis and Cough— The 3 Years Substantial Investigation of Pollen Allergy Suffers and

Preseasonal Prophylactic Treatment with Leukotriene Receptor Antagonist —

Risaki Kanyama1, Mikiya Asako1, Kohei Kawamoto3, Satoko Hamada2, Hisasi Ooka1, Koiti Tomoda1

1 Kansai Medical University Otolaryngology2 Otokoyama Hospital Otolaryngology

3 Kori Hospital Otolaryngology

1.はじめに花粉症患者では,花粉飛散に伴い鼻症状の増悪QOLの

低下がよく知られている。また,近年One airway,one disease

の概念が提唱され,上気道の症状と下気道の症の関連性が注目されている。花粉症患者においては,花粉飛散に伴い鼻症状のみならず,『咳』や『のどのイガイガ感』といった下気道の症状を認める患者も少なくない。

2008年度~2009年度,無作為抽出したスギヒノキ花粉症患者に対して,患者アンケート調査と質問票を用いたQOL調査を行った。また,その症例に対してスギヒノキ花粉症に対するプランルカスト初期治療を行ない,その結果を報告した。今回,2010年度も同様の調査を行い花粉症患者における咳と鼻症状/QOLとの関連性を検討するとともに,初期療法の有用性について検討した。

2.対象と方法スギ・ヒノキ花粉飛散前または飛散期に関西医科大学附属関連病院に来院した花粉症患者のうち,質問票を回収で

きた 164例を対象とした。そのうち,飛散期未治療症例43例を,咳を認めた25例・咳を認めなかった 18例に分け,質問票を用いて下気道症状(咳,のどのイガイガ感,痰)の有症率および咳と鼻症状/QOLとの関連性を各項目の程度について,0~4点(4

点が最も悪い)で評価した。また,スギ花粉飛散以前に来院し,プランルカストによる単独治療を開始した 6例を初期療法(+)群とし,スギ花粉飛散期に来院した未治療の 51例を初期療法(−)群とした。こちらも質問票を使用し,咳・イガイガ・痰の各有症率ならびに鼻症状/QOL(質問票を用いて評価)を比較検討した。

3.結果少量飛散年であった 2010年は咳の有無でくしゃみ・鼻水・鼻づまりの 3大症状や目鼻のかゆみで有意差は認めなかったが,咳がある群で咽頭のイガイガ感を合併しやすくQOLが低下していることがわかった(表 1)。

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 128―129, 2011

表 1 スギ花粉症患者における咳あり群と咳なし群との症状の比較

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129耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

2008年~ 2010年の未治療患者の飛散期のQOLを比較すると,花粉飛散の多かった 2009年でQOLの低下が認められ,飛散量とQOLには相関があると考えられた。2010

年の調査でも,咳嗽の有無とQOLに有意差が認められた(図 1)。初期療法を行うことで咳と喉のイガイガ感や,くしゃみ・鼻汁・鼻閉といった鼻症状に関しても初期療法をすることで有意に症状が抑制されていた。また,初期療法によりQOLの悪化を抑制する傾向があることがわかった(図 2)。

4.考察スギヒノキ花粉症患者に咳嗽を主眼にした実態調査を行った。2009年の調査で鼻閉や咳嗽に効果の高い抗ロイコトリエン拮抗薬を初期治療に用いる事で大量飛散年でも鼻閉,咳嗽にとどまらず,鼻汁に関しても効果が高く,飛散後に使用するよりもさらに有効である事が示唆された。今回の調査で 2008年や 2010年のような少量飛散年でも初期療法をおこなうことで,飛散期の鼻症状やQOLの悪化だけでなく,咳やイガイガ感の発症も抑制する可能性が示唆された。ヒスタミンによる中枢抑制の心配をせずに症状の軽い時期から連用できる抗ロイコトリエン拮抗薬は初期治療,特に咳嗽を伴う症例にはQOLの低下を抑制する最適な初期治療薬であると考えている。インペアドパフォーマンスがなく,作業効率や学習効果に影響を与えにくく,運転など

に関する注意喚起を改めて必要としない薬剤での初期治療が一定の効果を示した事は医療経済的にも重要な意味を持つと考える。

参考文献1) 安場広高,佐藤 寛,他.スギ花粉症合併気管支喘息に対する花粉飛散期の pranlukast投与の効果.アレルギー・免疫2008; 15: 74–81.

2) 内藤健晴.【慢性咳嗽治療を理解するための基礎と臨床】喉頭アレルギーと咳嗽(花粉症を含めて).日本薬理学雑誌2008; 131: 412–6.

3) 意元義政,藤枝重治.【咳の臨床】スギ花粉症と咳嗽.MEDICO 2007; 38: 411–5.

4) 意元義政,山田武千代,他.【慢性咳嗽再考】花粉症と慢性咳嗽.喘息 2007; 20: 41–3.

5) 藤枝重治,田中 健,他.花粉症と咳,アレルギー性副鼻腔炎について.耳鼻咽喉科免疫アレルギー 2005; 23: 23–6.

6) 東野正明,山田武千代,他.【アレルギー性咳嗽の病態と治療】花粉症と咳嗽.アレルギー科 2005; 19: 218–22.

7) 朝子幹也.花粉症と咳嗽.千里丘山田臨床医学談話会会報2009; 27(7): 63–8.

8) 上野幸恵,朝子幹也,他.花粉症と咳嗽 スギ・ヒノキ花粉症患者実態調査とプランルカスト初期療法の有用性について.耳鼻咽喉科免疫アレルギー 2010; 28(2): 117–8.

図1 スギ花粉症患者におけるQOLについて(2008,2009,2010年)

図 2 プランルカストによる初期療法の有無における QOLの比較

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-27

初期療法におけるプランルカスト,モメタゾンフランカルボン酸点鼻薬の併用効果

菅原 一真,御厨 剛史,橋本  誠,原  浩貴,山下 裕司

山口大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学分野

Effect of Pranlukast and Mometasone fruoate on seasonal allergic rhinitis

Kazuma Sugahara, Takefumi Mikuriya, Makoto Hashimoto, Hirotaka Hara, Hiroshi Yamashita

Department of Otolaryngology, Yamaguchi University Graduate School of Medicine

1.はじめにスギ花粉症の診療において重症例を中心に初期療法がひろく行われている。初期療法に用いられる薬剤として抗ヒスタミン薬が広く用いられているが,眠気などの副作用の可能性がある。副作用として眠気のない薬剤としては,抗ロイコトリエン薬や点鼻ステロイド薬が候補となり,それぞれの初期療法に使用した場合の有用性が報告されている1,2)。今回,我々は眠気の副作用の少ないプランルカスト,モメタゾンフランカルボン酸点鼻薬を併用することによるスギ花粉症初期療法の有効性について検討した。

2.対象と方法当科と研究協力施設を受診した,スギ花粉症患者 52例を対象とした。プランルカストの内服,モメタゾンフランカルボン酸点鼻薬にて治療を開始し,鼻症状,QOLに関するアンケート表を配布し,調査開始時より 2週間毎に記載させた。治療終了後,アンケートを回収し,各項目をスコア化,検討した。

3.結果初期療法群(28例)と飛散後治療群(24例)の 2群に分けて検討した。2群に年齢や性差に有意差を認めなかった。初期療法群では,飛散期になっても,鼻症状スコア,

QOLスコアは上昇せず,初期療法として充分な効果を認めた。飛散後に追加治療を要した症例はほとんどなかっ

た。一方,飛散後治療群でも治療開始時期に高値を示したスコアが治療開始とともに低下する傾向を認めた。副作用として眠気を訴えた症例はなかった。

4.考察今回の検討では,初期療法群はシーズンを通じてスコアは一定で上昇することはなかった。また,眠気の副作用は認めなかったことから,今回使用した 2剤の併用は,初期療法として充分な効果を示すことが明らかとなった。ただ,飛散後治療群でも,治療開始後に各スコアは速やかに低下していた。本年度の花粉飛散量が平年と比べて少なかったためと考えられた。2剤を併用した初期療法が重症患者を対象とした場合に有用と考えられるので,大量飛散年での検討を行う必要があると考えられた。

本研究を行うにあたり貴重な臨床データと御指導を賜りました研究協力施設の諸先生に深く感謝申し上げます。

参考文献1) Sasaki K, Okamoto Y, et al. Cedar and cypress pollinosis and

allergic rhinitis: quality of life effects of early intervention with

leukotriene receptor antagonists. Int Arch Allergy Immunol. 2009;

149: 350–8.

2) 服部玲子,角川貴継,他.局所ステロイド薬を用いたスギ花粉症の初期療法の有用性.耳展 2006; 49: 41–5.

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 130―131, 2011

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131耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

図 1 山口県におけるスギ・ヒノキ花粉飛散状況。2010年は少量飛散であり,スギ・ヒノキともに飛散数は少なかった。

図 2 使用したアンケート。選択式の調査票にて鼻症状・QOLについて評価した。

図 3 Symptomスコア。初期療法群は全期間を通じて症状スコアの上昇はみられなかった。飛散後治療群は初診時にスコアが高値を示したものの,治療開始直後にスコアは低下した。

図 4 QOLスコア。Symptomスコアと同様に初期療法群では全調査期間を通じて低く抑えられていた。

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-28

スギ花粉症初期療法におけるエピナスチン塩酸塩の有効性の検討

安田  誠,浜  雄光,浅野 純志,西尾 健志,萠拔 陽子,椋代 茂之,久  育男

京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室

Prophylactic treatment with epinastine hydrochloride for cedar pollinosis

Yasuda, M., Hama, T., Asano, J., Nishio, T., Haenuki, Y., Mukudai, S., Hisa, Y.

Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Kyoto Prefectural University of Medicine

1.はじめにアレルギー性鼻炎は治療によりある程度症状をコントロールすることは可能となったが一般には治癒を得ることは困難な慢性疾患であるとされている。治癒困難の疾患であるためQOLの向上を治療目標に求める傾向が強い。また花粉症初期療法は,様々な薬剤で治療効果が認められている。そこで我々は今回第 2世代抗ヒスタミン薬のひとつであるエピナスチン塩酸塩を用いて 2009年,2010年と 2

年連続でスギ花粉症初期療法を行い JRQLQ No. 1を用いて評価を行ったのでその結果を報告する。

2.対象と方法調査対象医療機関を受診したスギ花粉症患者なかで同意の得られたものに日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票(JRQLQ No. 1)を記入してもらい,初期療法群と無治療群に分類し各項目をスコア化し 2群間で比較検討した。初期療法群は初期療法として 1週間以上エピナスチン塩酸塩を内服し調査対象医療機関を受診したものとし,無治療群は未治療で調査対象医療機関を受診したものとした(表 1)。調査期間は 2009年は 2月 16日~3月 19日の 32日間,2010年は 2月 22日~3月 15日の 22日間とした。なお花粉飛散量は 2009年が 4084個/年と大量飛散,2010年は 553

個/年と前年の 8分の 1程度の少量飛散であった(図 1)。

3.結果2009年は初期療法群と無治療群の比較において症状スコアは水っぱなと鼻ずまりで両群間に有意差を認めた。QOLスコアは多くの項目で両群間に有意差を認めた(図2-a,b)。2010年は症状スコア,QOLスコアいずれの項目においても両群間に有意差を認めるものはなかった(図3-a,b)。

4.考察大量飛散年であった 2009年は初期療法群と無治療群の比較において症状スコアは 2症状で有意差があったのみでその他の症状ではほぼ両群間で同程度であった。一方QOLスコアは多くの項目で両群間に有意差があり全項目を通じ初期療法群が無治療群よりスコアが低い傾向にあった。このことから花粉症治療の効果判定には症状だけでなくQOL評価も含めて行うのが望ましいと考えられた。次に少量飛散年であった 2010年については初期療法群と無治療群の間に症状スコア,QOLスコアのいずれにも有意差を認めなかった。このことから少量飛散年では初期療法の適応や開始時期を検討すべきであると考えられた。以上よりエピナスチン塩酸塩を用いた初期療法は有効であるが,飛散量に応じて適応や投与開始時期を調整する必要があると考えられた。

5.まとめエピナスチン塩酸塩による花粉症初期療法の効果を

JRQLQ No. 1を用いて検討した。大量飛散年では症状スコア,QOLスコアいずれにおいても両群間で有意差を認めたが,少量飛散年では両群間に差を認めなかった。エピナスチン塩酸塩による花粉症初期療法は有効であるが,花粉飛散量や症状の程度などにより適応を検討する必要があると考えられた。

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 132―134, 2011

表 1 対象患者

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133耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

図 1 京都市における 2009年と 2010年のスギ花粉飛散状況。2009年は総飛散数 4084個/cm2で大量飛散年であり,2010年は総飛散数 553

個/cm2と少量飛散年であった。

2009年の症状スコアと総括的評価

図 2-b 2009年の QOLスコアと領域別 QOLスコア

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134 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

図 3-a 2010年の症状スコアと総括的評価

図 3-b 2010年の QOLスコアと領域別 QOLスコア

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-29

スギ花粉非飛散期における鼻誘発反応とプランルカスト前投与の効果

牧瀬 高穂,松根 彰志,黒野 祐一

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学

【目的】スギ花粉症は代表的な季節性アレルギー性鼻炎であり,その治療にはさまざまな方法があり,臨床研究も多数行われている。しかし,季節性であるがゆえに年 1回のスギ花粉飛散期に研究が行えるのみであり,毎年スギ花粉飛散数が異なることから,研究が進めにくいことが現状である。そこで今回我々は,大澤らが報告したスギ花粉非飛散期の鼻症状誘発反応を追試するとともに,プランルカスト前投与による臨床症状の変化と鼻粘膜中への炎症細胞浸潤について検討を行った。【方法】スギ花粉非飛散期に,アレルギー検査でスギ花粉症と診断された患者ボランティアを対象とした。スギ花粉エキスの鼻内投与とプランルカストの内服を行い,鼻症状発現の有無と鼻粘膜擦過組織への炎症細胞浸潤について検討を行った。【結果】スギ花粉非飛散期に一定量のスギ花粉エキス投与によって鼻症状は誘発された。プランルカスト投与により,鼻症状と鼻粘膜擦過組織への炎症細胞浸潤に変化を認めた。【結論】スギ花粉非飛散期にスギ花粉エキスを経鼻投与することにより,花粉飛散期とほぼ同様の鼻症状を再現することができた。また,プランルカストの前投与による抑制効果も認められ,初期療法薬選択の一助となりうることが示唆された。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 135, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-30

肥厚性鼻炎鼻粘膜における上皮細胞増殖因子 erbBとタイト結合蛋白の発現

鈴木 秀明,Nguyen Khac Hung,柴田 美雅,若杉 哲郎,北村 拓朗

産業医科大学医学部耳鼻咽喉科

肥厚性鼻炎はアレルギー性,薬剤性,血管運動性などの要因によって発生する。鼻汁,くしゃみ,後鼻漏などの鼻症状が主に薬物療法の対象となるのに対し,不可逆的に肥厚した鼻粘膜は持続的な鼻閉をもたらし,下鼻甲介切除などの手術を余儀なくされることが多い。今回われわれは肥厚性鼻炎鼻粘膜における上皮細胞増殖因子 erbB1, 2, 3, 4の発現と局在について検討した。対象は当科にて下鼻甲介切除術を受けたアレルギー性・非アレルギー性肥厚性鼻炎患者 12例で,摘出した下鼻甲介粘膜における erbB1, 2, 3, 4の発現を,蛍光免疫組織化学法と定量的RT-PCR法により調べた。蛍光免疫組織化学法ではCarl Zeiss

Axio蛍光顕微鏡を用い,付属のソフトウェアにより蛍光強度を測定した。その結果,免疫組織学的に上皮細胞と鼻腺細胞に erbB1, 2, 3, 4すべての発現が認められた。なかでも erbB1の発現が最も強く,次いで erbB2が発現しており,erbB3, 4の発現は比較的弱かった。定量的 RT-PCR法でもこの発現強度と一致する所見が得られた。肥厚性鼻炎粘膜では erbB1とerbB2が上皮細胞と鼻腺細胞の増殖の制御に関与しているものと考えられた。さらに erbBの活性化に関与すると考えられているタイト結合蛋白の発現と局在についても検討した。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 136, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-31

1.はじめに鼻腔は空気中の種々の物質に最初にさらされる部位である。鼻内に侵入した細菌,真菌,汚染化学物質等は鼻粘膜および副鼻腔粘膜と反応して鼻炎や副鼻腔炎を起こすが,その持続性の刺激は鼻茸を発生させる。これまで,細菌や真菌,アレルギー性鼻炎と鼻茸の研究は盛んに行われてきたが,化学物質と鼻茸との関連についてはあまり研究がない。空気中の汚染物資としては,ディーゼルエンジン排気ガス中の微粒子(diesel exhaust particles: DEP)やタバコの煙などが有名であるが,これらに含まれる多くの微粒子はaryl hydrocarbon receptor(AhR;通称ダイオキシン受容体)のリガンドであることがわかっている1,2)。そこで,今回我々は,手術によって切除されたヒト鼻茸標本におけるAhRの発現について検討した。

2.対象と方法鼻閉等を主訴に千鳥橋病院付属千代診療所耳鼻咽喉科を受診し,内視鏡下副鼻腔手術にて鼻茸を切除した後,パラフィン包埋された 20名分のヒト鼻茸組織標本を使用した。2.0μmの切片を作成し,シンプルステインMAX-PO(ニチレイ)を用いて免疫染色を行った。脱パラフィン後,10 mMクエン酸溶液(pH 6.0)を用いてマイクロウェーブ処理し(抗原賦活化),3%過酸化水素加メタノールで内因性ペルオキシダーゼを失活させた。1次抗体は,Santa Cruz

Biotechnology社のanti AhR(1:150; sc-5579),eotaxin(1:200;

sc-28878)を使用し,4 °C overnightで反応させた。洗浄後,シンプルステインMAX-POと常温で 1時間反応させた後,aminoethylcarbazol(AEC)で発色させた。

3.結果AhRは,鼻茸切片上のほとんどの細胞に発現していた。上皮層においてのみ,すべての細胞が発現している all

type 12例と一部の細胞しか発現していない partial type 8例の 2群に分かれた。年齢,性別,血中好酸球比,血中好酸球数,組織中好酸球比,Lund-Mackay scoreのいずれも all

群と partial群で違いがなかったが,上皮層の eotaxin染色Gradeは all群のほうが大きかった(P<0.05)。

4.考察これまでにDEPがアレルギー性鼻炎の発症に関与しているとか,マウスやラットでは 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p- -

dioxinの結合は肝臓に次いで鼻腔に多いといった研究から,ヒトでも鼻粘膜にAhRが発現しているであろうことは予想されていた。本研究から,鼻茸標本とはいえヒト鼻粘膜上皮にAhRが発現していることが分かった。実際ヒトは恒常的にAhRのリガンドの曝露を受けており2,3),常に何らかの曝露影響が及んでいる可能性がある。本研究において,ヒト鼻茸ではほとんどの細胞がAhR

を発現していたが,上皮内の細胞では発現パターンが異なっていて,AhRを発現する細胞が多いほど,eotaxinを産生する細胞も多いことが分かった。これまでに,AhRとeotaxinの関連を研究した報告は全くなく,因果関係の詳細は不明である。しかしながら,eotaxinが増えることは好酸球炎症を増強することになるので好ましいことではない。今後はAhRの活性化と eotaxinの産生に関して,さらなる研究を進めていきたい。

ヒト鼻茸における Aryl hydrocarbon receptorの発現

久保 和彦 1,村上 大輔 2,小宗 静男 2

1千鳥橋病院耳鼻咽喉科2九州大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科

Expression of aryl hydrocarbon receptor in the human nasal polyp

Kazuhiko Kubo1, Daisuke Murakami2, Shizuo Komune2

1 Dept. of Otorhinolaryngology, Chidoribashi General Hospital2 Dept. of Otorhinolaryngology, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 137―138, 2011

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138 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

参考文献1) Meek MD. Ah receptor and estrogen receptor-dependent modulation

of gene expression by extracts of diesel exhaust particles. Environ

Res. 1998; 79: 114–21.

2) Kasai A, Hiramatsu N, et al. High levels of dioxin-like potential in

cigarette smoke evidenced by in vitro and in vivo biosensing.

Cancer Res. 2006; 66: 7143–50.

3) Suzuki G, Takigami H, et al. Dioxin-like and transthyretin-binding

compounds in indoor dusts collected from Japan: average daily

dose and possible implications for children. Environ Sci Technol.

2007; 41: 1487–93.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-32

1.はじめに血瘤腫は 1917年田所らによって命名された臨床的な診断名である。鼻副鼻腔に発生する血瘤腫は比較的稀であるが,鼻出血,鼻閉等の悪性腫瘍類似の臨床症状を呈し,画像検査上も骨破壊を伴うことがあり,その鑑別がしばしば臨床上問題となる。今回,上顎洞に発生した血瘤腫の 5症例を経験したので経過及びその成因と治療について若干の考察を加えて報告する。

2.対象と方法1)対象

2009年 5月から 8月のイネ科花粉飛散中に山形大学医学部付属病院耳鼻咽喉科にて外科的治療を行った 5症例である。摘出した標本は,ペリオスチン,CD31および CD34

について免疫組織学的に検討を行った。2)症例症例 1:38歳,男性。主訴:右鼻出血,鼻閉。既往歴:特記すべき事なし。現病歴:約 1か月前から右鼻閉を自覚した。7日前から鼻出血が出現,その後も繰り返すため平成 13年 3月 12日当科初診された。初診時,右中鼻道に易出血性のポリープを認めた。その後も断続的に右鼻出血が続き,右鼻腔の腫瘤の増大傾向認めたため,精査加療目的にて平成 13年 3月30日当科入院となる。画像所見:鼻単純レントゲン検査では右鼻腔および上顎洞にびまん性の陰影を認めた。副鼻腔単純 CTにて,右上顎洞内に膨張性の発育を示す軟部組織陰影が描出され,上顎洞内側壁の骨破壊が認められた(図 1)。MRIでは T1強調画像で低信号領域の一部に高信号領域が混在している像を

呈し,T2強調画像では低から高信号領域の混在している像が認められた。両者の境界は比較的明瞭で,Gd-DTPA

造影画像では腫瘤辺縁に造影効果がみられ,腫瘤内部も不均一に造影されていた。頸動脈からの血管造影検査ではあきらな腫瘍濃染は認めず,栄養血管も確認されなかった。臨床経過:入院後,Caldwell-Luc法に準じて腫瘍の摘出術を行った。上顎洞の前壁は一部非薄化しており,上顎洞内の腫瘤の一部を術中迅速病理に提出した結果,悪性所見は認められず炎症と壊死組織との診断であった。中鼻道から下鼻道にかけて下鼻甲介も含めて鼻腔側壁を切除し,上顎洞内容物を可及的に摘出した。出血量は 56 mlであった。病理組織検査の結果,HE染色で出血と凝固塊を主体とす

上顎洞血瘤腫の免疫組織学的検討

太田 伸男,渡辺 知緒,伊藤  吏,阿部 靖弘,窪田 俊憲,石田 晃弘,八鍬 修一,鈴木 祐輔,青柳  優

山形大学医学部情報構造統御学講座耳鼻咽喉頭頚部外科学分野

The pathohisitological analysis of hematocle in maxillary sinsu

Nobuo Ohta, Tomoo Watanabe, Tsukasa Ito, Yasuhiro Abe, Toshinori Kubota,Akihiro Ishida, Shuichi Yakuwa, Yusuke Suzuki, Masaru Aoyagi

Dept. of Otolaryngology, Yamagata Univ. School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 139―140, 2011

図 1

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140 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

る組織中に実質及び網目状に増生する血管は存在するものの,抗 CD34抗体を用いた免疫染色で血管腫などの腫瘍性病変や悪性所見は認められないことから血瘤腫と診断された(図2,表1,表2)。現在,血瘤腫の再発は認められない。

3.結果今回検討した 5症例を表 1にまとめた。いずれの症例においても,出血,壊死,硝子変性,血管新生などの多彩な病理所見が認められたが,その程度は症例によって異なっていた。また,ペリオスチン,CD31および CD34の発現もいずれの症例においても認められた。

4.考察血瘤腫は鼻出血などの症状や画像上骨破壊を認めることがあり,臨床上悪性腫瘍と鑑別が必要となる。治療の原則は外科的治療であるが,出血に対する対策が重要である。血管造影で栄養血管が明らかな場合は塞栓術,不明な場合は外頚動脈結紮等が行われることがある。栄養血管が明らかな症例では,術前の塞栓術が術中の出血の制御に有効であると考えられた。血瘤腫の成因は不明であるが,血管腫

や炎症,出血などの二次的産物としての血管腫様病変などが考えられている。出血,壊死,硝子変性,血管新生などの多彩な病理所見が認められ,ペリオスチン,CD31およびCD34の発現も確認された。これらの分子はそれぞれ,血管及び新生血管,さらに組織修復に関与する分子であり,出血,壊死,硝子変性,血管新生などの変化が繰り返されることによって血瘤腫が形成されるものと考えられた。

参考文献1) 田所喜久馬.上顎洞血瘤について.大日耳鼻 1917; 23: 359.

2) 八木澤瑞穂,他.鼻腔血瘤腫の 1例 上顎洞血瘤腫との組織学的検討.日鼻誌 2006; 45: 142–7.

3) Yagisawa M, Ishitoma J, et al. Hematoma-like mass of the maxillary

sinus. Acta Otolaryngol. 2006; 126: 277–81.

4) Omura G, Watanabe, et al. Organized hematoma in the paranasal

sinus and nasal cavity. Imaging diagnosis and pathological fi ndings.

Auris Nasus Larynx. 2010; 37: 173–7.

5) Takayama G, Arima K, et al. Periostin: A novel component of

subepithelial fi brosis of bronchial asthma downstream of IL-4 and

IL-13 signals. J Allergy Clin Immunol. 2006; 118(1): 98–104.

図 2 病理組織学的所見

表 1 患者背景

M, male; F, female; MS, maxillary sinus; R, right; L, left; MM, middle meatus; LW, lateral wall

表 2 病理組織所見

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-33

好酸球性と好中球性の慢性副鼻腔炎における細菌検査の比較

廣津 幹夫,小野 倫嗣,加瀬  香,楠  威志,池田 勝久

順天堂大学

慢性副鼻腔炎の病態は,アレルギー性鼻炎や喘息の合併により多様化しつつある。その中で細菌感染は重要な要因である。今回我々は中等度~高度病変の好酸球性と好中球性の慢性副鼻腔炎の洞内細菌に関して調査を行った。2008年 1月~2010

年 5月までに当科で慢性副鼻腔炎と診断され,内視鏡下副鼻腔手術を必要とした 110症例を好酸球性・好中球性症例に分け,上顎洞を中心とした副鼻腔内容物の好気性菌・嫌気性菌・常在菌の検出菌を列挙し,検出率を菌体及び症例の観点から比較した。検出率の比較では,菌体・症例どちらにおいても,好酸球性・好中球性症例で有意な差をみることはできなかった。どちらの症例においても,起炎菌と推定される最近の中でMSSAが最も多く検出された。また,常在菌の Staphylococcus属にも治療抵抗性を持つ菌体が検出され,慢性副鼻腔炎の病態と Staphylococcus属の細菌に何らかの関連性があると推測した。今回,我々が得た嫌気性菌の検出率は文献などによるデータよりも低値であった。厳密な起炎菌検索を行うためには,副鼻腔粘膜組織・鼻茸組織及び鼻汁中のDNA解析や嫌気空間からの検体採取が必要と思われる。また,常在菌のみ検出された検体がどちらも症例においても約 4割となっており,本来副鼻腔内に存在することが少ない Corynebacteriumなどが多く検出されていることから,慢性副鼻腔炎の病態に常在菌が何らかの関与を持っていると考察した。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 141, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-34

1.はじめに気管支喘息(以下,喘息)を合併した慢性副鼻腔炎は,一般に治療に抵抗して難渋することが多い1)。今回我々は,喘息を合併した慢性副鼻腔炎手術症例の臨床的特徴を検討したので報告する。

2.対象と方法2005年 1月~2010年 12月(6年間)において,喘息を合併した両側慢性副鼻腔炎の手術症例 108例を対象とした。男性 66例,女性 42例。平均年齢は 50歳(12~80歳)であった。アスピリン喘息は 32例(30%)に認めた。術後の評価ができたものは 39例あり,その平均観察期間は5カ月であった。以下(①~⑤)について,評価できた症例において,それぞれレトロスペクティヴに検討した。① 術前のアレルギー血液検査:好酸球,IgE値② 手術方法③ 手術所見:開放した副鼻腔粘膜の状態④ 術前後の嗅覚障害:日常のにおいアンケート2),Visual

Analogue Scale(VAS),基準嗅力検査(T&T検査)の平均認知閾値,静脈性嗅覚検査(アリナミン®検査)⑤ 術後の内視鏡による鼻内所見

3.結果① 高好酸球血症(10%以上)は 31%(29/95例),高

IgE血症(RIST≧300 IU/mL)は 37%(31/84例)に認めた(図 1)。抗原特異的 IgE(RAST)では,通年性(ハウスダスト,ヤケヒョウダニ)と季節性(花粉;スギ,ヒノキ,カモガヤ,ブタクサ,ヨモギ)ともに感作を認めたものは,33%(28/84例)であった。② 全例が入院して,全身麻酔(80例)あるいは局所麻酔(28例)下に,両側の内視鏡下副鼻腔手術(endoscopic

sinus surgery,以下 ESS)を行った(表 1)。全体で 52例はESS単独で,56例は ESSに鼻中隔矯正術および下鼻甲介手術を併行した。③ 中鼻道ポリープは 94%(102/108例)に認めた。前篩骨洞病変は全例に認め,ポリープが多かった(図 2)。蝶形骨洞の病変が最も少なかった。副鼻腔は両側同様な所見であった。④ 嗅覚障害は 82%(89/108例)に認めた。嗅裂部所見はポリープが最多(72%,64/89例)であった。術前後の嗅覚評価ができた 38例において,日常のにおいアンケートは術前 24%から術後 62%,VASが術前 20%から術後

気管支喘息を合併した慢性副鼻腔炎手術症例の検討

都築 建三,竹林 宏記,岡  秀樹,阪上 雅史

兵庫医科大学耳鼻咽喉科

Clinical study of patients with chronic sinusitis accompanying bronchial asthma

Kenzo Tsuzuki, Hironori Takebayashi, Hideki Oka, Masafumi Sakagami

Department of Otolaryngology, Hyogo College of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 142―143, 2011

図 1 術前のアレルギー血液検査

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143耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

52%へ有意に改善した(Wilcoxon検定の符号付順位検定)(図 3)。T&T平均認知域値による判定基準から,治癒 9例(24%),軽快 12例(32%),不変 17例(44%)であった。静脈性嗅覚検査ではアリナミン反応群の改善率(治癒と軽快)は 59%(20/34例)で,無反応群 25%(1/4例)よりも高かった。⑤ 手術所見と同様に,開放した副鼻腔粘膜の状態(ポリープ,浮腫,正常,癒着)と開存の程度(完全閉塞,部分閉塞,開存)について検討した(図 4)。前篩骨洞の粘膜病変が術後も腫脹しやすい傾向を認めた。

4.考察喘息を合併した慢性副鼻腔炎の手術症例について報告した。前篩骨洞の粘膜病変が術前に強く,術後も腫脹が生じやすい傾向を認めた。嗅覚障害は 82%に認め,ESSにより 55%が改善した。今後の課題は,術後の治療法について検討して,治療成績の向上をめざすことである。

参考文献1) 太田 康.副鼻腔炎喘息合併例に対する手術.JOHNS. 2008;

24: 189–92.

2) Takebayashi H, Tsuzuki K, et al. Clinical availability of a self-

administered odor questionnaire (SAOQ) for patients with olfactory

disorders. Auris Nasus Larynx. 2011; 38: 65–72.

表 1 手術方法

図 2 ESS手術所見

図 3 嗅覚障害に対する ESS後の効果判定

図 4 術後の鼻内所見

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-35

1.はじめに近年,マクロライド療法や内視鏡下副鼻腔手術によっても改善の乏しい難治性副鼻腔炎が注目されている。従来型の副鼻腔炎と異なる病態が考えられ,アレルギーの関与も示唆されている1)。また,喘息を合併する副鼻腔炎は難治化するという報告も散見する2)。今回,当院で 3年間に実施した副鼻腔手術症例において,アレルギー素因・喘息合併の有無に注目し臨床的特徴を検討した。

2.対象と方法2007年 1月~2009年 12月,副鼻腔炎と診断され当科で内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行した症例の内,血清特異的IgE抗体検査(CAP-RAST法)の同意を得た 167例(男性113例,女性 54例 年齢 10~85歳,平均 52歳)において,アレルギー素因(抗原感作,血清総 IgE値,血中好酸球(%)),喘息合併の有無に注目し,術前の臨床症状(鼻汁・鼻閉・後鼻漏・嗅覚障害)・副鼻腔 CT所見について検討した。血清特異的 IgE抗体検査については,スギ,ヒノキ,カモガヤ,ブタクサ,ヨモギ,ハウスダスト,コナヒョウヒダニ,ゴキブリ,ユスリカ,動物上皮,カビの 11項目を測定し,先の我々の報告3)に従い 0.35 UAU /ml(Class 1)以上をカウントした。また,副鼻腔 CT所見は Lund-Mackay

system4)を用い,上顎洞・篩骨洞病変についてスコアを比

較した(前・後篩骨洞は 1項目としてスコアリングし,病変の判定は,上顎洞中心・篩骨洞中心・上顎洞と篩骨洞が同程度の例と 3群に分類した)。各因子の統計学的解析には,χ2検定を用いた。

3.結果①各アレルギー素因について抗原感作では,いずれの項目にも感作されていない症例

(以下 感作陰性)は全体の 38%であり,1項目以上に感作されている症例(以下 感作陽性)は,全体の 62%であった。1項目だけに感作されている単独感作症例は 14%

(23例)であり,その内訳はスギ8例,カモガヤ3例,ダニ,カビ,ブタクサ,ヨモギ,ゴキブリ,ユスリカ 2例であった。2項目以上の重複感作は 48%であった。各種抗原感作率については,スギが 63%と著明に高く,ハウスダストやダニ等の通年性抗原より高い感作率であった。各種の抗原特異性は認めなかった。血清総 IgE値の平均は 287.3 IU/lであり,基準値上限 170

以上(以下 高値群)は 37%であった。また,血中好酸球(%)の平均は 4.9%であり,6%以上(以下 増多群)は33%であった。②アレルギー素因の検討臨床症状において,鼻汁が出現する症例の割合は血清総

IgE値高値群で有意に高く(p<0.01),鼻閉・嗅覚障害を訴える症例の割合は血中好酸球増多群で有意に高かった(p<0.001・p<0.05)。後鼻漏は各アレルギー素因において同等の割合で認めた。副鼻腔 CT所見においては,上顎洞中心に病変を認める症例の割合が,血清総 IgE値高値群・血中好酸球増多群では有意に低かった(p<0.05・p<0.001)。また,篩骨洞中心に病変を認める症例の割合は,血中好酸球増多群で有意に高かった(p<0.001)。上顎洞と篩骨洞に同程度の病変を認める症例の割合は,血清総 IgE値高値群・血中好酸球増多群においてやや高い傾向を示したが有意性は認めなかった。③喘息合併症例の検討喘息の合併は全症例の17%(29例,以下合併群)認めた。その内,約 8割(24例)は感作陽性症例であり,血清総IgE値の平均は 439.4 IU/l,血中好酸球(%)の平均は 9.2%

を示した。

当科における副鼻腔手術症例の検討

濵本 真一,兵  行義,原田  保

川崎医科大学耳鼻咽喉科

A clinical study of endoscopic sinus surgery for patients with chronic sinusitis

Masakazu Hamamoto, Yukiyoshi Hyo, Tamotsu Harada

Dept Otolaryngology, Kawasaki Medical School

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 144―145, 2011

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145耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

臨床症状の検討では,嗅覚障害を訴える症例の割合が喘息合併群で有意に高かった(p<0.01)。その他の症状の割合も喘息合併群で高い傾向を示したが有意性は認めなかった。また,副鼻腔 CT所見の検討では,篩骨洞を中心に病変を認める症例の割合が喘息合併群で有意に高かった(p<0.01)。

4.考察難治性副鼻腔炎はマクロライド療法が無効であること,嗅覚障害の出現があること,篩骨洞中心に病変を認めること等と報告され,アレルギーの観点からは I型アレルギーの関与の可能性は低いとされている。本検討において,血中好酸球増多群では,嗅覚障害を訴える症例や副鼻腔 CT所見で篩骨洞中心に病変を認める症例の割合を有意に高く認めた。また,喘息合併群でも嗅覚障害や篩骨洞中心に病変を認める症例の割合を有意に高く認めた。血中好酸球増多・喘息合併症例では,臨床的に難治性副鼻腔炎が疑われ,難治性を来す要因としては好酸球炎症の

関与が示唆された。また,抗原感作の有無や血清総 IgE値の検討では,難治性を疑う有意な結果を認めず,諸家の報告同様,難治性副鼻腔炎において I型アレルギーの関与は少ないと考えられた。今回,チャートレビューという形式で検討を行った。今後,病理組織学的な検討や術後症例の長期的な予後の検討も行っていきたいと考えている。

参考文献1) 日本鼻科学会.副鼻腔診療の手引き.東京:金原出版;

2007.2) 柳  清.慢性副鼻腔炎に対する内視鏡下鼻内手術後の予後に関する研究―上顎粘膜の組織像と内視鏡所見から―.耳展1998; 41: 15–37.

3) 増田勝己,原田 保,他.川崎医科大学耳鼻咽喉科におけるアレルギー性鼻炎の現況(第 1報)―2000年,2001年の CAP-

RASTの結果について―.川崎医会誌 2003; 29: 263–73.

4) Lund VJ, Mackay IS. Staging in rhinosinusitus. Rhinology. 1993;

31: 183–4.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-36

1.はじめに好酸球性副鼻腔炎は難治性,再発性の慢性副鼻腔炎である。感冒,喘息などをきっかけに副鼻腔炎が急性増悪を繰り返していることが予想される。今回嗅覚,鼻漏,鼻閉などの症状の悪化をもとに,好酸球性副鼻腔炎の急性増悪について検討した。

2.対象と方法日本赤十字社医療センター副鼻腔炎外来において H21

年 7月からH22年 6月までの 1年間通院治療を行った好酸球性副鼻腔炎患者 21例に対し,急性増悪(嗅覚低下,鼻漏の悪化,鼻閉の悪化)をきたした例の原因,治療方法,鼻症状の予後を調べた。この際,嗅覚,鼻漏,鼻閉のうちどれか一つでも悪化を認め,さらに鼻・副鼻腔所見に悪化が認められるものを急性増悪とした。続いて 1年を通して急性増悪が生じる季節を調べた。

3.結果1)鼻症状の悪化

H21年 7月からH22年 6月までの 1年間通院治療を行った好酸球性副鼻腔炎患者 21例中,52.4%の 11例に急性増悪が認められた。2)悪化症状急性増悪は述べ 23回あり,そのうち嗅覚低下は 22回と最も多く,鼻漏増悪が 14回,鼻閉増悪が 12回であり,嗅覚低下がもっとも生じやすかった。喘息発作を併発したのは 6回であった。3)原因(表 1)原因は,感冒,喘息発作が多かったが,ステロイド内服停止,Rn点鼻停止など副作用発現防止のためのステロイド治療の一時的な停止によって増悪する症例も多くみられた。

4)治療方法(表 2)急性増悪に対する治療は,Rn点鼻,ステロイド内服など

のステロイド治療が多かった。感冒による炎症には抗菌薬,あるいは抗菌薬+ステロイド投与が多かった。急性増悪には,やや強めのステロイド投与が有効であると思われた。5)急性増悪の鼻症状の予後急性増悪の鼻症状は 23回中 19回で軽快し,予後良好であった。

好酸球性副鼻腔炎 嗅覚低下症例の検討

太田  康,山田智佳子,滝沢 克己,坂田 阿希

日本赤十字社医療センター耳鼻咽喉科

The study of acute exacerbation in eosinophlic sinusitis

Yasushi Ota, Chikako Yamada, Katumi Takizawa, Aki Sakata

Japanese Red Cross Medical Center

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 146―147, 2011

表 1 急性増悪の原因

表 2 治療方法

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147耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

6)急性増悪が起きる季節(図 1)急性増悪が起きる季節は,3月や 6月などの季節の変わり目が多く見受けられたが,1年を通して認められた。7)急性増悪のアンケート調査(表 3)回答が得られた 21例中 12例のアンケート結果では,冬から春先に急性増悪をおこす症例が多かった。これは,感冒,喘息,花粉症などの増悪因子が多いためと考えら得る。6)と一致しないところがあるが,6)は症例数も少ないため,もう少し検討する必要がある。

4.考察好酸球性副鼻腔炎は難治性,再発性の慢性副鼻腔炎であり,急性増悪を繰り返していると予想できたが,実際約半数の症例で複数回にわたって急性増悪を繰り返していることがわかった。増悪事に生じる一番頻度の高い症状は,嗅覚低下であった。これは病変部位が篩骨洞,嗅裂に強いという疾患の特徴からであると思われる。急性増悪の状態

は,ステロイド投与,抗菌薬投与などによる治療によってほぼ軽快し,治療反応性はよかった。ただし,ステロイド内服症例は,ステロイド内服を停止すると急逝増悪をおこす可能性が高く,今後は好酸球性副鼻腔炎に対するステロイド内服の方法を検討していく予定である。好酸球性副鼻腔炎における急性増悪は,ほぼ 1年を通して生じていた。アンケート結果からは感冒,喘息,花粉症が多い冬から春先に悪化するという答えが多かった。もう少し検討数を増やしてからの再調査が必要と思われるが,急性増悪と気温や湿度などの気候との関係も調べていく必要があると思われる。

参考文献1) 春名真一,鴻 信義,他.好酸球性副鼻腔炎.耳展 2001;

44(3): 195–201.

2) 森山 寛.好酸球性副鼻腔炎.日耳鼻専門医通信 2002; 70:

8–9.

3) 太田 康.好酸球性副鼻腔炎に対するフルチカゾン倍量投与の試み.日耳鼻 2006; 109: 157–62.

表 3 悪化する季節 アンケート(12例)

図 1 急性増悪が起きる季節

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-37

1.はじめに鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の第一選択の治療法は内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)であるが,術後再発を伴う予後不良症例もしばしば経験する1,2)。今回,ESSを施行した慢性副鼻腔炎患者の予後因子について検討を行った。

2.対象と方法対象:当科で手術を施行した慢性副鼻腔炎患者 27名。男性 20名,女性 7名,平均年齢 49.6歳(15~81歳),喘息合併例 7名(アスピリン喘息 6名)。術後観察期間:平均 20.1か月(3~84か月)治療法:内視鏡下鼻内副鼻腔手術(ESS)を行い,術後,マクロライド系抗生物質,抗ロイコトリエン薬,ステロイド点鼻薬を投与した。また,鼻茸再発時にはステロイド内服薬を短期間投与した。方法:以下の項目を術後再発例と非再発例に分けて検討し比較した。・ 喘息合併の有無・ 鼻茸組織好酸球数:鼻茸組織切片を作成し,May-

Grünwald-Giemsa染色にて 1 mm2あたりの好酸球数を測

定した。・ 末梢血好酸球数・ CTスコア:術前の CTを Lund-Mackay System(両側のスコアの合計)を用いてスコアリングし,慢性副鼻腔炎の重症度を客観的に評価した。

3.結果・喘息合併の有無再発例(7例)では喘息合併 5例,うちアスピリン喘息

4例であり,非再発例(20例)では喘息合併 2例,うちアスピリン喘息 2例であった(図 1)。

・鼻茸組織好酸球数再発例において,著明な好酸球の集積を認め,非再発例よりも有意に多く認めた(図 2)。また,再発回数と鼻茸組織好酸球数の間に有意な相関を認めた(図 3)。・末梢血好酸球数再発例において,非再発例よりも有意に多かった(図

4)。再発回数と末梢血好酸球数の間に相関は認められなかった。・CTスコア再発例と非再発例の間に有意差は認めなかった(図 5)。

4.考察鼻茸組織中及び末梢血の好酸球数,喘息合併の有無が予後因子と考えられた。

慢性副鼻腔炎の術後予後因子の検討

浅香  力,本田 耕平,伊藤 永子,石川 和夫

秋田大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座

The investigation of prognosis factor after endoscopic sinus surgeryfor chronic sinusitis

Chikara Asaka, Kohei Honda, Eiko Ito, Kazuo Ishikawa

The Department of Otorhinolaryngology-Head and Neck Surgery, Graduate School of Medicine, Akita University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 148―149, 2011

図 1 喘息合併の有無。再発例(7例)では喘息合併 5例,うちアスピリン喘息 4例であり,非再発例(20例)では喘息合併 2例,うちアスピリン喘息 2例であった

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149耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

ステロイドの内服が術後の再発に有効であった。喘息合併症例では再発症例が多いことから,長期にわたる術後の経過観察が重要である。

参考文献1) Larsen K, Tos M. A long term follow-up study of nasal polyp

patients after simple polypectomies. Eur Arch Otorhinolaryngol.

1997; 254(Suppl 1): S85–8.

2) Jantti-Alanko S, Holopainen E, et al. Reccurence of nasal polyps

after surgical treatment. Rhinology. 1989; 8: 59–64.

鼻茸組織好酸球数。再発例で 825個/mm2,非再発例 346

個/mm2。再発例の鼻茸組織で有意に多く好酸球を認めた。

図 3 鼻茸組織好酸球数と再発回数。鼻茸組織好酸球数と再発回数の間に有意な相関を認めた。

図 4 末梢血好酸球数。再発例で 15.0(%),非再発例 5.1(%)。再発例の鼻茸組織で有意に多く好酸球を認めた。

図 5 CTスコア。再発例と非再発例で有意差は認めなかった。

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-38

1.はじめに好酸球性副鼻腔炎は鼻茸や副鼻腔粘膜への著明な好酸球浸潤を特徴とし,通常の慢性副鼻腔炎とは異なる臨床的特徴を有する疾患で,気管支喘息を合併することが多く,下気道病変との関連も指摘されている。治療に際しては通常の慢性副鼻腔炎とは鑑別して適切な治療を選択することが肝要である。

2.対象と方法今回我々は平成 16年 4月から平成 22年 4月までの 6年間に当科を受診し,内視鏡下副鼻腔手術を施行し診断の確定した好酸球性副鼻腔炎患者 11例を対象として,臨床病理学的検討を行った。これらの症例において,年齢,性別,合併症,鼻汁好酸球,血中好酸球(%),嗅覚障害,鼻内および CT画像所見,再発の有無,採取組織中の好酸球数(個 /400倍視野)に関し個別に検討を行った。術後治療としては,抗ロイコトリエン薬,ステロイド点鼻薬を中心に使用,また再発傾向の状態によっては経口ステロイド薬を投与した。局所療法としては,ステロイド含有液を使用したネブライザー療法,鼻副鼻腔洗浄を施行した。再発例のうち局所制御不良例に対しては経口ステロイド薬投与ないし局所麻酔下鼻茸切除を施行した。

3.結果好酸球性副鼻腔炎患者全 11例(表 1)おいて,男性 7例,女性 4例,年齢 29~62歳で平均 54.2歳であった。合併症は喘息 8例(アスピリン喘息 5例含む),アレルギー性鼻炎 3例,蕁麻疹 3例であった。ESS術後再発症例は 8例認めた。11例中 10例で嗅覚障害を自覚し,そのうち基準嗅覚検査で 4例に嗅覚脱失を認めた(図 1)。全例に篩骨洞病変が中心の高度副鼻腔炎および両側多発性の鼻茸を認めた。11例中 7例において末梢血液中で明確な好酸球増加

(>6%)を認めた(図 2)。採取組織中好酸球数(400倍視野下で最多 3ヵ所視野での平均値。ただし術前ステロイド投与症例も含む。)では 11例中 9例において平均 100個以上(うち2例は平均200個以上)と好酸球優位であった(図3)。ESS施行にて術後全例に鼻閉,鼻漏など鼻症状の改善を認めたが,その後 8例に再発を認めた。

4.考察自験例から,喘息(アスピリン喘息を含む)合併例,嗅覚障害,鼻内および CT画像所見,血液中および組織中好酸球数は,好酸球性副鼻腔炎を疑う重要な因子であることが示唆された。現在,好酸球性副鼻腔炎は確固たる定義や診断基準は示されていないが,その臨床的特徴として 1)成人,両側・多発性浮腫状の鼻茸,2)中鼻甲介付近(中鼻道・嗅裂)の病変が強く,嗅覚障害例が多い,3)粘調性分泌物(にかわ状)の貯留,4)鼻アレルギーの関与が少なく,IgE値は様々,5)喘息,アスピリン喘息に伴うこと

当院における好酸球性副鼻腔炎症例の検討

松本 亮典,小川 晃弘,西川 奈見,宮武 智実

姫路聖マリア病院耳鼻咽喉科

A clinical study of cases of eosinophilic sinusitis undergone endoscopic sinus surgery

Ryosuke Matsumoto, Teruhiro Ogawa, Nami Nishikawa, Tomomi Miyatake

Division of ENT, Himeji St. Mary’s Hospital

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 150―151, 2011

表 1 当科における好酸球性副鼻腔炎症例

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151耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

が多い,6)血中好酸球の増多,血中・鼻粘膜 ECP濃度が高値,7)篩骨洞病変が中心で,汎副鼻腔炎例も多い,8)ステロイドの全身投与が有効,9)治療特に手術療法に抵抗性(鼻茸易再発等),等があげられる1)。当院手術施行 11例中 8例に再発(鼻茸および粘性鼻後鼻漏・鼻閉症状再燃)を認めたが,鼻腔通気不良や喘息への影響から鼻茸切除術等を反復施行した症例は 2例であり,その他は保存的に(局所洗浄や経口ステロイド薬追加)コントロール可能であった。ESS施行により副鼻腔を可及的に単洞化し術後の局所療法を徹底することにより,上下気道の病態改善を促す意味で,手術的加療は有効であると考える。諸家の報告でも術後に喘息症状の改善がみられ,手術療法を肯定する論文は多い2,3)。術後治療としては,当科では抗ロイコトリエン薬およびステロイド点鼻薬を中心に使用し,局所療法を併用した。保存的治療の柱として副腎皮質ステロイドと抗ロイコトリエン薬の有効性が認められている4)。ステロイド点鼻薬は効果は経口ステロイドに比し少ないが,副作用は少ないので長期間使用が可能である。当科での全 11例中,術後再発を認めず経過良好であった 3例の中には,術前の血中好酸球値(%)や採取組織中好酸球数が有意に高かった症例も認め,いずれも術後の予後を考慮するうえで,必ずしも有効な指標とはなりえないと考えられた。また,再発を認めた 8例では,7例において喘息(アスピリン喘息 5例を含む)の合併を認め,難治性を左右する因子として喘息の合併は重要と考えられた。なお,アスピリン喘息症例は自験 5例において,全例に程度の差はあるものの再発を認めた。たとえ組織中に好酸球浸潤が多くとも,気管支喘息の合併がなければ ESS術後予後は良好である可能性が高いとの報告もある5)。当院で経験した好酸球性副鼻腔炎患者 11例について,臨床病理学的に検討を行った。症状や合併症,鼻内および画像所見,血液中および組織中好酸球数などから本疾患を確実に診断し,適切な治療を選択することが肝要である。

また喘息(アスピリン喘息を含む)合併例は,難治性として十分注意して対処すべきであり,術前よりあらかじめ,再発の可能性および下気道病変を含め長期的なフォローが必要であることを説明し,術後の治療計画を考慮しておくことが大切と考える。

参考文献1) 森山 寛.好酸球性副鼻腔炎.日耳鼻専門医通信 2002; 70:

8–9.

2) Higashi N, Taniguchi M, et al. Clinical features of asthmatic patients

with increased urinary leukotriene E4 excretion: involvement of

chronic hyperplastic rhinosinusitis with nasal polyposis. J Allergy

Clin Immunol. 2004; 113: 277–83.

3) Palmer JN, Conley DB, et al. Effi cacy of endoscopic sinus surgery

in the management of patients with asthma and chronic sinusitis.

Am J Rhinol. 2001; 15: 49–53.

4) 野中 学.好酸球性中耳炎・副鼻腔炎の診断と治療好酸球性副鼻腔炎の病態と治療.日耳鼻 2007; 110(1): 1–6.

5) 出島健司,足立直子,他.慢性副鼻腔炎における好酸球浸潤と気管支喘息の合併.日耳鼻 2008; 111: 58–64.

図 1 好酸球性副鼻腔炎症例における基準嗅覚検査結果 図 2 好酸球性副鼻腔炎症例における末梢血好酸球比率

 好酸球性副鼻腔炎症例における組織中好酸球数

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-39

1.はじめに疫学的なアレルギー実態調査はアレルギー疾患の動向を知る上で有用であり,今までにも多くの調査結果が報告されている。今回私たちは,鳥取大学医学部学生 100人を対象としてアンケート調査と 33種類の抗原に対する抗原特異的 IgE

抗体を網羅的に測定できるマストイムノシステムズ II-S

〈MAST33〉(日立化成工業,東京)を用いてアレルギー疾患の罹患率と主要抗原への感作状況を中心としたアレルギー実態調査を行った。

2.対象と方法1)対象無作為に選出した鳥取大学医学部学生 100名(男性 46

名,女性 54名)を対象とした調査を行った。年齢は 19~27歳,平均年齢 22.0歳であった。2)方法対象者全員に気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎,食物アレルギーそれぞれの有無についてのアンケート調査を行い,血清総 IgE(RIST)測定と抗原特異的IgE抗体をマストイムノシステムズ II-S〈MAST33〉(日立化成工業株式会社,東京)を用い測定した。血清総 IgE(RIST):正常値 1731 IU/ml以下。MAST33:class 2~3を陽性と判定。

3.結果1)各種香華陽性率各種抗原の陽性率は,コナヒョウヒダニ 56%,HDI

56%,スギ 51%ヒノキ 28%,オオアワガエリ 25%,ハルガヤ 23%,カニ 13%と吸入抗原が食物抗原より多い傾向を示した。

2)重複感作数2個以上の抗原重複感作症例は 74例(74%),12個以上の多数抗原重複感作症例は 3例(3%)認められた。平均重複感作数は,3.6個であった。多数抗原重複感作症例は,吸入抗原,食物抗原の両方に多数の抗原特異的 IgE抗体陽性を認めた。3)重複感作数と血清総 IgE

重複感作数と血清総 IgEの間には,相関関係を認めた。(回帰分析,相関係数:0.62,p<0.0001)4)HDI,スギ,イネに関する感作

1982年(76例),1998。1999年(42例)に当科で行った調査結果と比較すると,スギ花粉単独感作率の増加傾向を認めた。5)アレルギー疾患の既往有病率は,気管支喘息 19%,アレルギー性鼻炎 54%,アトピー性皮膚炎 23%であり,いずれもコナヒョウヒダニ,HDIの抗原特異的 IgE抗体が高値であった。

4.考察過去にも多数のアレルギー疾患に対する報告されており,アレルギー疾患の増加傾向を指摘されている。しかし,各種抗原特異的 IgE抗体結果を比較すると,表

1で示すようにそれぞれの報告で大きな差は認められなかった1–9)。重複感作について,荻野ら1)は平均 3.5個,2.52個,奥田ら9)は 3.9個と報告しており,当科の 3.6個とほぼ同様の結果であった。有病率について,別所ら3)は気管支喘息 13.1%,17.2%,荻野ら7)は 2.4%,当科は 19%とやや高い傾向を示した。また,アレルギー性鼻炎は,荻野ら7)は 36.2%,当科は54%と増加傾向を示した。

鳥取大学医学部学生におけるMAST33を用いたアレルギー実態調査

森實 理恵,榎本 雅夫,福島  慶,竹内 裕美,北野 博也

鳥取大学医学部感覚運動講座耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野

The survey of allergy with MAST33 in studentsat the Tottori University school of medicine

Morizane, R., Enomoto, T., Fukushima, K., Takeuchi, H., Kitano, H.

Department of Otolaryngology, Head and Neck Surgery, Faculty of Medicine Tottori University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 152―153, 2011

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153耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

アレルギー疾患の有病率は増加傾向を認めるが,アレルギー疾患の原因抗原はダニ,HD,スギ,イネ科花粉が依然主な原因抗原となっていた。引き続き,今回得た結果を検討する予定である。

参考文献1) 荻野 敏,他.新しい特異的 IgE抗体測定法MAST検討.耳展 1991; 34(補 7): 595–608.

2) 別所佳代子,他.大阪大学における鼻アレルギーの現状(第17報).耳鼻と臨床 1991; 37: 33–9.

3) 別所佳代子,他.大阪大学における鼻アレルギーの現状(第23報).耳喉頭頸 1992; 64(8): 627–31.

4) 荻野 敏,他.MAST法による特異的 IgE抗体陽性者の地域差(第 1報).耳鼻と臨床 1994; 40: 505–12.

5) 荻野 敏,他.MAST法による特異的 IgE抗体陽性者の地域差(第 2報).耳鼻と臨床 1995; 41: 95–101.

6) 荻野 敏,他.MAST法による特異的 IgE抗体陽性者の地域差(第 3報).耳鼻と臨床 1996; 42: 145–51.

7) 荻野 敏,他.アレルギー疫学調査研究(第 1報).耳鼻と臨床 1999; 45: 553–337.

8) 荻野 敏,他.スギ花粉症自己診断例のアレルゲン陽性率.耳鼻臨床 2001; 94: 1073–8.

9) 奥田茂利,榎本雅夫,他.和歌山県日高郡中学 1年の 2003

年におけるアレルギーに関する疫学調査.日耳鼻 2006; 109:

742–8.

表 1 過去の調査結果

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-40

1.はじめにアレルギー性鼻炎に合併する副鼻腔病変の機序として,アレルギー炎症による ostiomeatal complex(OMC)の閉塞が挙げられている。

2.目的アレルギー性鼻炎における CTでの副鼻腔の陰影,OMC

の所見,鼻腔通気度について検討する事である。対象と方法

2009年 1月~2010年 8月の期間に当院を受診したアレルギー性鼻炎患者 105人,コントロールとして非アレルギー性鼻炎患者 43人を対象とした。方法:鼻腔通気度,CTによるOMCの開存度1)を測定した。同時に血中好酸球,IgEとの相関も検討した。

3.結果副鼻腔病変(左右重複あり)は全例上顎洞病変でアレルギー性鼻炎患者では貯留のう胞 39洞,びまん性粘膜肥厚21洞,液体貯留 1洞であった。また非アレルギー性鼻炎患者では貯留のう胞 11洞,びまん性粘膜肥厚 5洞であった。副鼻腔病変の比較では両者は有意差が無かった(P=

0.06)。両者ともに鼻腔通気度の抵抗性が高値で,OMC幅が狭窄しているほど有意に副鼻腔病変を認めた(P<0.05)。しかし,血中好酸球,IgEの程度と副鼻腔病変は相関が無かった。

4.考察とまとめ副鼻腔病変とアレルギー性鼻炎・鼻腔形態異常との関連には様々な報告がなされてきたが,未だコンセンサスが得られていない2–7)。本検討では,アレルギー性鼻炎の合併の有無にかかわらず鼻腔通気度の抵抗性が高い場合や,OMCの閉塞が上顎洞病変と有意な相関関係があった。

参考文献1) Bhattacharyya N. Do maxillary sinus retention cysts refl ect obstruc-

tive sinus phenomena? Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2000;

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2) Naclerio RM, deTineo ML, et al. Ragweed allergic rhinitis and the

paranasal sinuses. A computed tomographic study. Arch Otolaryngol

Head Neck Surg. 1997; 123: 193–6.

3) Piette V, Bousquet C, et al. Sinus CT scans and mediator release in

nasal secretions after nasal challenge with cypress pollens. Allergy.

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4) Baroody FM, Suh SH, et al. Total IgE serum levels correlate with sinus

mucosal thickness on computerized tomography scans. J Allergy

Clin Immunol. 1997; 100: 563–8.

5) Karlsson G, Holmberg K. Does allergic rhinitis predispose to

sinusitis? Acta Otolaryngol Suppl. 1994; 515: 26–8.

6) Slavin RG, Leipzig JR, et al. “Allergic sinusitis” revisited. Ann

Allergy Asthma Immunol. 2000; 85: 273–6.

7) Jones NS. CT of the paranasal sinuses: a review of the correlation

with clinical, surgical and histopathological fi ndings. Clin Otolaryngol.

2002; 27: 11–7.

アレルギー性鼻炎における副鼻腔病変の検討

小野 倫嗣,加瀬  香,本間 博友,楠  威志,池田 勝久

順天堂大学医学部附属順天堂医院 耳鼻咽喉・頭頸科

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 154―155, 2011

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155耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

図 1 OMCの計測INF(infundibulum):篩骨漏斗を計測(Bhattacharyya. 2000.)

図 2 アレルギー性鼻炎患者/非アレルギー性慢性鼻炎患者副鼻腔病変の比較両者では有意差は無かった(P=0.06)。

表 1 アレルギー性鼻炎の患者背景

表 2 非アレルギー性鼻炎患者背景

図 3 慢性鼻炎における鼻腔抵抗・OMCサイズと副鼻腔病変a.アレルギー性鼻炎,非アレルギー性鼻炎ともに鼻腔抵抗値が高いほど,有意に上顎洞病変を認める(P<0.05)。b.アレルギー性鼻炎,非アレルギー性鼻炎ともに OMC幅が狭窄しているほど,有意に上顎洞病変を認める(P<0.05)。

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-41

1.はじめにアレルギー疾患は,内的因子や外的因子が複雑に絡み合っており,患者の症状やQOLに大きく影響していることが先行研究より報告されている1)。また,QOLは人種や文化,生活環境によって大きく差がでること,疾患特異的であることが知られている2)。今回,大学生におけるアレルギー疾患の有病率を調査し,罹患状況や背景因子がQOLに与える影響について,検討を行った。

2.対象と方法2008~2010年において,大阪大学の 1回生を対象に,

SF-8調査票・アレルギー疾患の有無・生活習慣などを含むアンケート調査を実施し,3年間の症状,QOLを比較検討した。この研究は,ヘルシンキ宣言を遵守して遂行された。

3.結果対象者の人数は 2008年 172人,2009年 153人,2010年

173人,男子学生の割合はそれぞれ,32.0%,39.2%,24.9%,平均年齢は 18.5,18.6,18.6歳であった。アレルギー疾患有病率は 59.1%,56.0%,62.4%で,半数以上が何らかのアレルギー疾患を有していた。各年度間で患者背景において,有意な差はみられなかった(表 1)。住居形態とアレルギー疾患の有病率をみた結果,下宿生に比べ自宅生の方がアレルギー性鼻炎を有する者が有意に高かった。

QOLの比較を無疾患群とアレルギー疾患群で比較した結果,アレルギー疾患群の方が SF-8の各項目で,QOLが低下する傾向にあった。また,アレルギー疾患群の中でも,アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患を合併している群の方がより,QOLの低下がみられた。

アレルギー症状(くしゃみ,鼻水,鼻づまり,目の痒み・涙,喉のかゆみ,息苦しさ,皮膚の痒み,不眠)を有する個数によって,3つに重症度を分けた結果,GH,PF,VT

で重症度が高くなるにつれて,有意にQOLの低下がみられた(t-test p<0.05)。PCS,MCSについても同じくQOL

の低下の傾向が見られた(図 1)。アレルギー疾患群のみで,QOLの比較を行った結果,朝食の有無では,毎日食べる群より,殆ど食べない群がより PCSの低下がみられた。また,睡眠時間についても,十分な睡眠より不十分だと感じている群が,SF-8の全ての項目でQOLが低く,VT,SF,MH,MCSについて有意差がみられた(図 2,3)。生活満足度についても,同様の結果が得られ,GH,VT,SF,MH,RE,MCSで,満足している群より,不満足と感じている群の方が,QOLの低下がみられた。

4.考察アレルギー性鼻炎の全国的な有病率は,地域,対象,調査法,調査時期,報告者によりばらつきが大きいが,通年性アレルギー性鼻炎が 18%,スギ花粉症が 13~16%,スギ

大学生におけるアレルギー疾患と QOL:2008~2010年の比較

塩崎 由梨,小柳 桃朱,荻野  敏

大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻

Assessment of quality of life in university students with allergic disease:comparison of 2008 to 2010

Yuri Shiozaki, Momoha Koyanagi, Satoshi Ogino

Osaka University Graduate School of Medicine, Division of Health Sciences

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 156―157, 2011

表 1 回答者背景

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157耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

花粉以外の花粉症が 10%程度とされており1),今回の 3年間の有病率の比較ではそれよりも高い値がみられた。大学生における今回の結果では,無疾患群と比較して,アレルギー疾患群の方が PCSやその他の項目でQOLの低下がみられ,またアレルギー疾患の合併数が増えるほど,有意にQOLの低下がみられた。また,食事や睡眠にみられるような生活習慣因子がQOLの低下に関与することが明らかになった。先行研究でも,Walkerらの研究によると3),花粉症を有する学生は対照群と比して,花粉飛散期に行われる試験の成績が有意に下がることが明らかにされており,またアレルギー性鼻炎患者を対象に行った奥田らの研究4)では労働損失時間は 3%前後,大久保らの研究5)では労働生産性の障害率は 39%と報告されている。このことから,アレルギー疾患は,社会生活,睡眠,特に大学生には肝心な学業や仕事の集中力の低下に著しく影響を及ぼしていると考えられた。アレルギー疾患は治療によって症状をコントロールすることは可能であるが,根治を得ることは困難である。従って,QOLの向上を治療目的に,今後もアレルギー疾患患者のQOLを左右する因子について検討していく必要がある。

参考文献1) 大久保公裕.花粉症の全身症状.アレルギー・免疫 2009; 16:

149–152.

2) 社団法人日本アレルギー学会.アレルギー疾患診断・治療ガイドライン.東京:協和企画;2007.

3) Walker S, Khan-Wasti S, et al. Seasonal allergic rhinitis is

associated with a detrimental effect on examination performance in

United Kingdom teenagers: case control study. J Allergy Clin

Immunol. 2007; 120: 381–7.

4) 奥田 稔,Crawford B, et al. アレルギー性鼻炎・結膜炎QOL

調査票(RQLQ)日本語版及びアレルギーによる作業能率の低下,活動性障害調査表(WPAI-AS)日本語版の開発.アレルギー 2003; 52: S70–S86.

5) 大久保公裕,小林 慎.花粉症治療における労働生産性の意義.アレルギー・免疫 2007; 14: 218–26.

図 2 QOLの比較 ~睡眠時間(SF-8各項目)~

図 3 QOLの比較 ~睡眠時間(PCS・MCS)~

図 1 QOLの比較 ~アレルギー症状数別~

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-42

1.はじめにスギ花粉症患者は馬場らの報告1)によれば急増しており,1998年の調査では 16.2%の有病率であったのに対し,2008年には 26.5%と10%以上も上回り,通年性アレルギーを超える値となった。その急増しているスギ花粉症患者にとって,治毎年のスギ花粉飛散数はその年ごとのQOLや症状を大きく左右する因子として重要である2)。飛散数と症状の関係について検討した報告はしばしば認められるが,現状として毎日の飛散数だけで花粉情報として報告されている場合が多い。花粉飛散総数だけでなくどのような因子が症状の増悪には必要であるのかが重要であると思われる。そこで,今回我々は 2005年~2010年の間の 6年間のスギ花粉飛散ピーク時に受診した患者に日本アレルギー性鼻炎標準アンケート調査No. 1(JRQLQ)を施行し,各年のスギ花粉飛散量と症状,QOLの関係について検討したので報告する。

2.対象と方法対象

2005年~2010年の 6年間の間にスギ花粉飛散ピーク時を含む 2週間の間に川崎医科大学附属病院耳鼻咽喉科およびその関連施設を受診した無治療の患者を対象とした。方法スギ花粉飛散数に関しては,川崎医科大学附属病院,および川崎医療短期大学屋上にてDurham法にて測定した。またアンケートに関しては上記期間中に来院した患者に対して,JRQLQを用いて記入して頂いた。検定各年における患者の性差や年齢別には χ2検定を,症状

やQOLに関してはMann-Whitney検定を用いて解析を施行した。

3.結果1)スギ飛散状況と評価時期

6年間におけるスギ花粉飛散ピーク時期では,もっとも早かったものでは 2006年であり,3月 1日~3月 14日であった。もっとも飛散ピークを迎えるのが遅かったのは2010年で 3月 8日~3月 21日であった。しかしこの 6年間おおよそ 3月 2週目から 3週目の間に飛散のピークを迎えることが多かった。総飛散数ではスギ・ヒノキの総飛散数でもっとも多かった年が 2005年 5374.8個/cm

2であり,逆に最も少なかった,2006年年は 1389.8個/cm

2であった。アンケート実施において対象とした患者に各年度におけ

る性差と年齢においては統計的有意差を認めなかった。2)花粉飛散量と JRQLQにおける症状スコア

2005年と 2009年が大量飛散年であり,2006年と 2010

年は渉猟飛散年であり,2007年と 2008年は中等度の飛散年であった。その結果,症状スコアと花粉の飛散量を合わせてみると,飛散が少ない年は症状スコアは低く,飛散数の多い年は症状スコアが高いことが分かった。しかし中等度の飛散量の年である 2007年と 2008年では症状スコアは 2008年の方が悪く,単純に花粉飛散量に症状は一致しないことが分かった。また花粉飛散数と症状スコアの相関をみたところ,「水っぱな」と「くしゃみ」「目のかゆみ」「涙目」では症状スコアとの花粉飛散数との相関は認められたが,「鼻閉」や「鼻のかゆみ」に関しては花粉飛散量と相関を認めなかった。

スギ花粉飛散量の違いに注目した最大飛散期における症状と QOL

兵  行義 1,濱本 真一 1,増田 勝巳 2,原田  保 1

1川崎医科大学耳鼻咽喉科2赤穂中央病院耳鼻咽喉科

Japanese cedar pollinosis impact on quality of life and symptoms

Yukiyoshi Hyo1, Masakazu Hamamoto1, Katsumi Masuda2, Tamotsu Harada1

1 Department of Otolaryngology, Kawasaki Medical School2 Department of Otolaryngology, Ako Central Hospital

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 158―159, 2011

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159耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

3)花粉飛散量と JRQLQにおけるQOLスコア先の症状スコアと同様にQOLのスコアについても検討をした。全項目を通じて最もQOL症状が悪かったものは2005年であり,ついでQOLが悪かった年は 2008年であった。ついで 2009年のQOLスコアが悪かった。そこで先ほどと同じようにスギ花粉飛散量とQOLスコアにおいて相関を見たところ,「新聞や読書の支障」や「総括的状態」においては有意にスギ花粉飛散数とQOLスコアは相関した。(p<0.001)4)各年におけるスギ花粉飛散状況の検討スギ花粉飛散 2週間前に飛散した日数に関して検討した

ところ,2005年は 90個~120個/cm2が 1日あり,120個/cm

2

以上飛散した日が 1日であった。2006年,2007年は 1日もなく,2008年は120個/cm

2以上飛散した日が1日あった。2009年は 90個~120個/cm

2が 4日,120個/cm2以上飛散し

た日が 4日であった。2010年は 1日もなかった。

4.考察通年性アレルギー性鼻炎に比べスギ花粉症は花粉の短期間の急激な暴露を伴うために,花粉本格飛散期には症状はより重症化し,日常生活に与える影響は大きく,QOLが障害されると報告されている3)。そのスギ花粉症患者に

とってはその年のスギの飛散数は重要であるが症状は飛散数とはある程度は相関をするが,QOLに関しては相関しないことが分かった。つまり今回の検討において中等度飛散年における症状や

QOLの状態が花粉の飛散量に一致していないことを考えると,大量飛散や少量飛散の年では症状が花粉量には起因するが,中等度飛散においては花粉の飛散量よりも,昨年度の飛散状況や,飛散ピークまでの飛散の仕方がもっとも重要な因子ではないかと推察することができた。今後も引き続き注目して検討し,花粉飛散期の症状に最も重要な因子について検討していく予定である。

参考文献1) 馬場廣太郎,中江公裕.鼻アレルギーの全国疫学調査(1998

年との比較)耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として.Progress in Medicine. 2008; 28: 2001–12.

2) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症― 2009年度版(改訂第 6版).東京:ライフ・サイエンス;2008.

3) 角谷千恵子,荻野 敏,他.スギ花粉症におけるアウトカム研究(第 3報)―スギ花粉症症状,QOLの地域間比較―.アレルギー 2005; 54: 541–50.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-43

2010年春季アレルギー性鼻炎患者に対するARIAの分類に基づいた質問票調査

宮田 政則 1,2,松岡 伴和 1,2,大戸 武久 2,小澤  仁 2,島田 和哉 2,藤森  功 2,堀内 博人 2,渡部 一雄 2,松崎 全成 2,高橋 吾朗 3,増山 敬祐 1,2

1山梨大学医学部耳鼻咽喉科頭頚部外科2山梨環境アレルギー研究会

3浜松医科大学耳鼻咽喉科

【背景】国際的なアレルギー性鼻炎の診療ガイドラインであるARIA(Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma)ではアレルギー性鼻炎を季節性と通年性という用語を用いず,間欠性鼻炎と持続性鼻炎に分類している。また,重症度を軽症と中等症/重症の 2段階とし,単純化された分類となっている。しかしながら,我が国の代表的な季節性アレルギー性鼻炎であるスギ花粉症では,有病率も高く花粉飛散時期も長期にわたり,また大量飛散期には重症例が多く見られるという特徴があり,ARIAの分類では我が国の花粉症の実情に合わない,現実的でないとの意見もある。そこでまずはスギ花粉症から見たARIAの分類を詳しく検討する必要があると考えられる。【目的】2010年春季アレルギー性鼻炎患者を対象に,ARIAに基づき分類しその臨床的特性を評価した。【方法】2010年春季アレルギーシーズンに該当病院および診療所を受診した患者で,春季季節性アレルギー性鼻炎と臨床的に診断された症例に対し,ARIAの分類に基づいた質問をアンケート方式で回答してもらった。【結果】3209人より回答を得,内1918人より完全な回答を得た。このうち間欠性が362人(18.9%),持続性が1556人(81.1%)また軽症が 628人(37.7%),中等症/重症が 1290人(62.7%)となった。これらのデータ分析し詳細な結果を報告する。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 160, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-44

1.はじめにアレルウォッチ涙液 IgEは,イムノクロマトグラフィー法を利用した日本国内で初めての涙液中総 IgEを迅速,簡便に行う測定試薬です。特殊な測定機器を必要とせず,5 IU/mL未満から検出可能で,患者から採取した涙液で短時間(涙液採取後 10分)に結果が得られます。検査施設を持たない医療機関でも使用でき,患者の来院時に検査結果が得られるため,ポイントオブケアとしての有用性が期待されています。

2.対象と方法2009年 3月 1日から 11月 30日において,臨床症状,重症度,既往歴,鼻以外のアレルギー症状の有無などからアレルギー性鼻炎と臨床診断された 8~68歳の患者 25名(男:女= 15:10)平均 29.6歳。対照者は,手術目的で入院された臨床的にアレルギー性鼻炎と診断されない 56~82歳の患者 5名。アレルウォッチを鼻腔内に留置しストリップのコントロールライン部分がぬれるまで鼻汁を採取。検体採取部を 10分間浸した後,ヒト総 IgE検出用ストリップを取り出し,効果判定を行う。可能であれば鼻汁好酸球,RAST,血中好酸球数を測定する。

3.結果アレルギー性鼻炎と臨床的に診断した 25名中アレルウオッチ陽性例は,20例陰性例は 5例であった。対象者 5名中アレルウオッチ陽性例は 0例で,有病正診率は 80% 無病正診率は 100%で有意差を認めた。

25名中鼻汁好酸球陽性率 7例 /13例(54%)RAST陽性者 5例 /5例(100%)血中好酸球高値 2例 /6例(33%)であった。

4.考察アレルウォッチ涙液 IgE検査キットはアレルギー性鼻炎患者の鼻汁でも有意差を持って陽性を示し,アレルギー性鼻炎の診断に有用と考えられた。今回は臨床的アレルギー性鼻炎患者の鼻汁を調査したが,本製品をアレルギー性鼻炎の診断の根拠とするにはランダマイズされた前向き研究が必要。涙液に比べて鼻汁は粘性が高くキットへの浸透が不良で時間がかかる。

参考文献1) 中川やよい,石崎道治,他.アレルギー性結膜疾患に対する涙液中総 IgEのイムノクロマトグラフィ測定法の臨床的検討.臨床眼科 2006; 60: 60–6.

アレルギー性鼻炎におけるアレルウォッチ涙液 IgEの有用性

佐々木 豊

沼津市立病院耳鼻いんこう科

Effi cacy of allerwatch teara IgE for allergic rhinitis

Yutaka Sasaki

Dept. of Otorhinolaryngology, Numazu Municipal hospital

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 161, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-45

1.はじめにアレルギー性鼻炎は I型アレルギーに基づく疾患であり,診断は,くしゃみ,水性鼻汁,鼻閉の 3主徴をもち,鼻汁好酸球検査,皮膚テストまたは血清特異的 IgE抗体,鼻誘発テストのうち 2項目が陽性の時に確診される。前回我々は,汎用検査用免疫グロブリン Eキット,アレルウォッチ涙液 IgEを用いてスギ花粉症患者に対して花粉曝露試験を行い,アレルギー性鼻炎の診断に応用できないか検討を行った。その結果,鼻汁中の IgEは鼻汁好酸球と相関を認め,鼻汁 IgE検査が有用であることが示唆された。今回,さらに通年性アレルギー性鼻炎患者を加えて,この検査が有用であるか検討を行った。

2.対象と方法1)スギ花粉症患者 22名(スギ花粉症群)を対象にスギ花粉曝露試験を行い,曝露前の血清総 IgE,スギ特異的IgE,鼻汁好酸球,曝露後の鼻汁好酸球,涙液と,鼻汁中総 IgEを測定した。2)非アレルギー性鼻炎患者 16名(非アレルギー性鼻炎群)は,水性鼻汁を主訴に,MAST33で33種の抗原特異的 IgE抗体が全て陰性であった患者を対象とし,血清総 IgE値,鼻汁好酸球,鼻汁 IgEを測定した。3)通年性アレルギー性鼻炎患者 11名(通年性アレルギー性鼻炎群)を対象に鼻汁,涙液 IgE,鼻汁好酸球,血清総IgE,ダニ 1特異的 IgEを測定した。このうち鼻汁中総 IgE

と他の測定値との2群間の相関を統計学的に調べた。涙液,鼻汁 IgEはアレルウォッチ涙液 IgEを使用した。専用のストリップの検体部分を被験者の下眼瞼,もしくは鼻内に挿入し 1~2分間そのまま保持して検体を採取した。その後展開液に10分間留置し,目視により発色したテストライン

とコントロールラインを比較し判定した。判定はコントロールラインとの発色の違いを,陽性,弱陽性,陰性の 3

段階で半定量的に判定した。

3.結果アレルウォッチによる鼻汁 IgEはスギ花粉症群では曝露前後の鼻汁好酸球数と相関し,スギ特異的 IgEと弱い相関,血清総 IgE,涙液中総 IgEとは相関を示さなかった(表 1)。非アレルギー性鼻炎群では血清総 IgE,鼻汁好酸球数と相関を示さなかった(表 2)。通年性アレルギー性鼻炎群では血清総 IgE,ダニ 1特異的 IgE,涙液 IgEに相関し,鼻汁好酸球数とは相関しなかった(表 3)。スギ花粉症群と通年性アレルギー性鼻炎群を合わせたものをアレルギー性鼻炎群とし,鼻汁好酸球検査と鼻汁 IgE検査を比較した結果,いずれの検査もスギ花粉患者に陽性例が有意に多く,感度では鼻汁好酸球検査が鼻汁 IgE検査より高く,特異度では逆に鼻汁 IgE検査が鼻汁好酸球検査より高かった(表 4,5)。

4.考察これまで,IgEの局所産生については,証明されているが,明らかな機序は不明である1–3)。今回,スギ花粉症群では,鼻汁 IgEが鼻汁好酸球と相関し,スギ特異的 IgEをとは弱い相関をした。また,血清総 IgEとは相関しなかった。このことは,IgEが局所産生しているためであると考えることができる。アレルウォッチによる鼻汁中総 IgEは,患者の侵襲も少なく,迅速,簡便に検査ができ,今後症例を集積する必要があるが,アレルギー性鼻炎の診断の重要な検査となる可能性が示唆される。

アレルギー性鼻炎患者における鼻汁 IgE測定

福島  慶 1,竹内 裕美 1,森實 理恵 1,北野 博也 1,硲田 猛真 3,榎本 雅夫 1,2,3

1鳥取大学医学部感覚運動医学講座耳鼻咽喉頭頸部外科学分野2NPO日本健康増進支援機構

3りんくう総合医療センター市立泉佐野病院耳鼻咽喉科

The application of rapid test for allergic conjunctival diseases to nasal diseases

Kei Fukushima1, Hiromi Takeuchi1, Rie Morizane1, Hiroya Kitano1, Sakoda Takema2, Tadao Enomoto1,2

1 Department of Otolaryngology, Head and Neck Surgery Faculty of Medicine Tottori University2 NPO Japan Health Promotion Supporting Network

3 Department of Otorhinolaryngology, Rinku General Medical Center, Izumisano Municipal Hospital

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 162―164, 2011

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163耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

参考文献1) Baraniuk JN. Mechanisms of Allergic Rhinitis. Curr Allergy

Asthma Rep. 2001 May; 1(3): 207–17. Review.

2) Rondon C, Romero JJ, et al. Local IgE production and positive

nasal provocation test in patients with persistent nonallergic rhinitis.

J Allergy Clin Immunol. 2007; 119(4): 899–905.

3) Powe DG, Jones NS. Local mucosal immunoglobulin E production:

does allergy exist in non-allergic rhinitis? Clin Exp Allergy. 2006;

36(11): 1367–72.

表 1 スギ花粉症患者における検査成績

相関:鼻汁 IgE vs. 血清総 IgE,スギ花粉 CAP-RAST,鼻汁好酸球(花粉曝露前・後),涙液 IgE(Spearman

rank correlation)

表 2 非アレルギー性鼻炎患者における検査成績

相関:鼻汁 IgE vs.血清総 IgE,鼻汁好酸球(Spearman rank

cor rela tion)

表 3 通年性アレルギー性鼻炎患者における検査成績

相関:鼻汁 IgE vs. 血清総 IgE,ダニ 1特異的 IgE,鼻汁好酸球,涙液 IgE(Spearman rank correlation)

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164 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

表 5 アレルギー性鼻炎群(スギ花粉症群+通年性アレルギー性鼻炎群)と非アレルギー性鼻炎群の鼻汁中 IgE検査

χ2検定 p=0.003

感度(陽性一致率)57.6%,特異度(陰性一致率)87.5%

表 4 アレルギー性鼻炎群(スギ花粉症群+通年性アレルギー性鼻炎群)と非アレルギー性鼻炎群の鼻汁好酸球検査

χ2検定 p=0.05

感度(陽性一致率)66.7%,特異度(陰性一致率)62.5%

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-46

1.はじめにアレルギー疾患にせよ,癌にせよ,最も生理的・理想的な治療方法は,破綻した免疫系に介入して免疫恒常性をワクチン等によって回復させることである。しかし,減感作を期待するアレルギー疾患においても,排除免疫惹起を期待する感染症や癌においても当該抗原を接種するという方法は同一であり,なぜ両極端の目的の結果が得られるのかはわかっていない。これまで我々はNKT細胞に着目して,検討を進めている。NKT細胞は,糖脂質である α-GalactosylceramideがMHC class I様分子であるCD1dによって提示され,活性化する。このNKT細胞を用いてワクチンの投与部位によって得られる免疫応答に差があるか鼻粘膜投与と口腔底粘膜投与に焦点を当て検証することを目的とした。

2.対象・方法・結果IRB承認の 17名の臨床試験を立案した。移動様式を検討する検討方法は,末梢血採血を行い,

PBMC(末梢血単核球)を分離し,GM-CSF+IL-2存在下にて,1週間培養してAPCを作成した。day 6に αGalCerをパルスし,day 7に細胞を回収し,111Inでラベル後に,下鼻甲介または口腔底または皮膚に投与した。投与後,6 h・24 h・48 h・1 w後に RIシンチグラムを用いて撮像し,評価を行った。免疫学的反応を検討する方法は,採取した PBMCを用いて,末梢血中のNKT細胞数を FACS解析,IFN-g産生細胞数を ELISPOT assayにて評価した。その結果鼻粘膜投与では頚静脈領域リンパ節が主要なプライミングサイト,これに対し口腔底投与では主要なプライミングサイトは顎下リンパ節であった。口腔底投与群において,APCがより多くリンパ節へ移動したにも関わらず,免疫学的応答が得られなかった。口

腔底投与群では Tregの誘導がある可能性が示された。口腔底粘膜―顎下リンパ節には鼻粘膜―頚静脈リンパ節では低頻度の LC様DCの存在が確かめられた。

3.結論以上より,口腔底粘膜―顎下部リンパ節に調節性 T細胞を誘導し易い,微小環境が備わっている可能性が示唆された。本研究の結果からは,APCの投与ルートの選択によって,免疫応答を亢進(癌治療)または寛容(アレルギー治療)の方向へと導く新しいツールとなる可能性が示唆された。

口腔底(舌下)粘膜から投与するワクチンの免疫応答の特殊性

堀口 茂俊,黒崎 元良,米倉 修二,櫻井 大樹,茶薗 英明,岡本 美孝

千葉大学耳鼻咽喉科

A characteristic of immune response of vaccine from oral fl oor mucosa

Horiguchi, S., Kurosaki, M., Yonekura, S., Sakurai, D., Chazono, H., Okamoto, Y.

Dept. of Otolaryngology, Chiba University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 165, 2011

図 1

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-47

鼻性 NK/T細胞リンパ腫における microRNAの発現

岸部  幹,吉野 和美,長門 利純,高原  幹,片山 昭公,林  達哉,原渕 保明

旭川医科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科

鼻性NK/T細胞リンパ腫は鼻腔,咽頭に初発する破壊性の壊死性肉芽腫が特徴で多臓器不全により予後は極めて不良である。腫瘍の起源として,NK細胞,あるいは γδT細胞があり,その発症にはEpstein-Barr virusが関与するとされている。また,近年発癌のメカニズムのひとつとしてmicroRNAの発現異常による発癌が様々な癌で報告されてきている。今回我々は,本疾患で発現異常を来しているmicroRNAをスクリーニングするため,正常末梢血NK/T細胞,鼻性NK/T細胞リンパ腫細胞株(SNK-6,SNK-1,SNT-8)を用い,microRNA arrayを行った。方法としては,上記細胞株よりアプライドバイオシステムス社製のmicroRNA抽出キットmirVanaを用いて total RNAを抽出した。抽出した total RNAは東レ社に受託しmicroRNA

arrayを行った。その結果,正常末梢血NK/T細胞と鼻性NK/T細胞リンパ腫細胞株で発現差のあるmicroRNAが複数個検出された。その分子生物学的意義について考察し報告する。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 166, 2011

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-48

1.はじめに上咽頭癌はほぼ全症例において腫瘍細胞に EBVが同定

され,発現している EBV関連蛋白(EBNA1,LMP1,LMP2)は CTLによる標的抗原となり得る。しかしながら上咽頭癌の CTL免疫療法の臨床試験では十分な成果が報告されていないのが実情である。その理由として,EBNA3などの上咽頭癌では発現していない EBV関連蛋白と比較して,これらの蛋白が十分に抗原提示されていないことが挙げられる。本研究では,腫瘍蛋白である LMP1が抗原提示されにくいメカニズムについて検討する。

2.対象と方法GFP標識野生型 LMP1(LMP1-B95.8)および LMP1の凝集に重要なN末端 1-43が欠失した Δ1-43LMP1,LMP1のシグナル伝達に重要な C末端変異 LMP1(PQT>AAA,Y384G,PQT>AAA/Y384G)プラスミドを上皮系細胞に遺伝子導入し,T細胞による IFN-γ産生を抗原提示能の指標としてフローサイトメトリーにて測定した。さらに LMP1

によるMHC class I分子と TAP蛋白の誘導についても検討した。

3.結果抗原提示能は Δ1-43LMP1発現細胞で最も高く,LMP1-

B95.8発現細胞で最も低かった。上皮系細胞においてLMP1が,MHC class I分子やと TAP蛋白を誘導することが判明した。

4.考察LMP1が抗原提示されない理由として,1)LMP1が蛋白凝集によりペプチドに分解されにくい可能性,2)LMP1

の抗原ペプチドが分解されやすい可能性,3)シグナル伝達により誘導されたMHC class I分子や TAP分子が内在蛋白の抗原提示のみに利用されて LMP1抗原が相対的に提示されにくくなっている可能性,などが考えられた。今後も LMP1抗原提示能について解明を進めていきたい。

参考文献1) 脇坂尚宏,吉崎智一.上咽頭癌における EBV-LMP1特異的な細胞障害性 T細胞(CTL)活性化機構に関する基礎的研究.耳鼻免疫アレルギー 2009; 27: 224.

上咽頭癌における EBV-LMP1抗原提示能に関する基礎的研究

脇坂 尚宏,近藤  悟,吉崎 智一

金沢大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科

Basic mechanism of EBV-LMP1 antigen-presentation in nasopharyngeal carcinoma

Naohiro Wakisaka, Satoru Kondo, Tomokazu Yoshizaki

Department of Otolaryngology, Head and Neck Surgery, Kanazawa University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 167, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-49

1.はじめに近年,CD133を発現する腫瘍細胞が癌幹細胞の性質を持つことが様々な固形腫瘍において報告されている1,2)。前回の本学会にて報告した CD133陽性頭頸部扁平上皮癌細胞について,癌幹細胞の性質の 1つである抗腫瘍薬への耐性につき実験的検討を行ったので報告する。

2.対象と方法従来のmagnetic cell sorting法を用い,頭頸部扁平上皮癌培養細胞(DHN-1株)から CD133

+のものと CD133−のも

のを分離し,以下の実験をおこなった。① それぞれの細胞集団に,濃度依存性に薬効を示す抗腫瘍薬としてmitomycin-C(MMC)ないし cisplatin(CDDP)を培地に添加し,2時間曝露させた。72時間後に回収し,fl ow cytometry(FCM)を用いて apoptosisを起こした癌細胞の割合(%)を定量的に測定した。② 薬剤耐性に関与するとされる多剤耐性関連蛋白

multidrug resistance protein 1(MRP1)の発現3)を FCMにて検討した。CD133

+およびCD133−細胞を培地のみ,ないし

CDDP添加培地にて培養し,比較した。CDDP存在下にて長期間培養し4,5),薬剤耐性を持たせたDHN-R細胞株も比較対象とした。

3.結果① いずれの細胞集団も,濃度依存性に apoptotic cellの割合は増加を示した。しかしながら,ある濃度においてはCD133

−細胞に比べ,CD133+細胞の apoptotic cellの割合が

低かった。高濃度の抗腫瘍薬存在下では,いずれの細胞集団もほぼ死滅した。以上より,CD133

+細胞はCD133−細胞

に比べ,抗腫瘍薬に対する薬剤感受性が低いことが示唆された(Fig. 1a and 1b)。

② 培地のみで培養した CD133+および CD133

−細胞では,MRP1の発現に差は見られなかった。それに比べ,培地に CDDPを 40μg/mlの濃度で添加(2時間暴露)した条件で培養した後には,CD133

+細胞にのみMRP1の発現の増強が認められた(Fig. 2)。

4.考察実際の化学療法において,何らかの要因で十分量の抗腫瘍薬が癌組織に到達できない場合がある。たとえば,腫瘍組織への血流が乏しいような状態や,full doseでの投与が困難な各種基礎疾のある高齢者の場合である。このような状態のときに,CD133

+扁平上皮癌細胞のような薬剤耐性を持つ細胞集団が生存してしまう可能性が考えられる。原因の一つとして,本研究の結果から CD133+扁平上皮癌細胞においてはMRP1の up regulation

6)が起こり易いことが示唆された。また,CD133陽性頭頸部扁平上皮癌細胞は癌幹細胞の性質の一つである抗腫瘍薬に対する薬剤耐性,特に癌細胞外への薬物排出能が高い可能性が考えられた。

参考文献1) Sheila K, Ian D, et al. Identifi cation of a cancer stem cell in human

brain tumors. Cancer Res. 2003; 63: 5821–8.

2) Shengyong Y, Jinjun L, et al. CD133 positive hepatocellular

carcinoma cells possess hifg capacity for tumorigenicity. Int J

Cancer. 2007; 120: 1444–50.

3) Marcel K, Marcel H, et al. Analysis of expression of cMOAT

(MRP2), MRP3, MRP4, and MRP5, homologues of the multidrug

resistance-associated protein gene (MRP1), in human cancer cell

lines. Cancer Res. 1997; 57: 3537–47.

4) 松崎洋海,木田亮紀,他.頭頸部癌細胞株におけるシスプラチン耐性関連遺伝子の検索.日大医誌 2003; 62: 543–548.

CD133陽性頭頸部癌細胞の薬剤感受性についての実験的検討

金谷 洋明,今野  渉,平林 秀樹,春名 眞一

獨協医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科

In-vitro evaluation of chemotherapeutic drug sensitivityin CD133 positive squamous cell carcinoma of head and neck

Kanaya, H., Konno, W., Hirabayashi, H., Haruna, S.

Dept. of Otorhinolaryngology Head and Neck Surgery, Dokkyo Medical University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 168―169, 2011

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169耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

5) 野口雄五,遠藤壮平,他.頭頸部癌細胞株におけるシスプラチン耐性の機序および解除の検討.日大医誌 2004; 63: 209–15.

6) Uematsu T, Naramoto H, et al. Refractory factors in head and neck

cancer: ATP binding Cassette transporters expressed in head and

neck cancer cell lines. Oral Sci Int. 2006; 3: 72–83.

Fig. 2 MRP1 expression in CD133+ cells cultured with CDDP was

higher (arrow) than DHN-R cells (black) and other cells. Isotype control

(white) was also done.

Fig. 1 a, b: CD133+ cells tended to survive under MMC or CDDP

compared to CD133− cells. Bar; statistical differences were only distinct

at 40μg/ml administration of both drugs).

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-50

CD133陽性頭頸部扁平上皮癌細胞における浸潤能の検討

今野  渉,金谷 洋明,平林 秀樹,春名 眞一

獨協医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科

Evaluation of invasive effi ciency in CD133 positive squamous cellcarcinoma of head and neck

Wataru Konno, Hiroaki Kanaya, Hideki Hirabayashi, Shin-ichi Haruna

Dokkyo Medical University, Department of Otorhinolaryngology, Head and Neck Surgery

1.はじめに癌幹細胞は癌全体の数%に含まれ,自己複製能ならびに造腫瘍性をもち,腫瘍の転移・浸潤・増殖に深く関わる細胞種団である。CD133陽性細胞は肝細胞癌や原発性脳腫瘍の癌幹細胞として報告されているが 1,2),近年頭頸部扁平上皮癌においても CD133陽性細胞がその性質を有すること報告され3),我々も前回の本学会においてその性質について発表した。今回我々は,その CD133陽性細胞を用いて,その浸潤能について検討したので報告する。

2.対象と方法従来の方法によって,頭頸部扁平上皮癌培養細胞から

CD133陽性と CD133陰性の細胞集団を分離し,それぞれBecton Dickenson社 BioCoat

TM Matrigel

TM Invasion Chamber

を用いての検討をおこなった。これはインナーチャンバーとアウターチャンバーの二重構造になっており,インナーチャンバーの底部は基底膜に見立てたマトリックスゲルと8μmの細孔のあいたポリエチレン膜で構成されている。アウターチャンバーの中に浸潤誘因因子としてヒト線維芽細胞培養上清(HFS:Human fi broblast supernatant)を添加したものと,添加していないものを用い,インナーチャンバー内に 5×10

4個の細胞を入れ一定時間培養したのちに,そのマトリックスゲルと細孔を通過した細胞の多寡を測定した。各条件については 3ウェルずつ培養を行い,測定は各ウェルで 10視野ずつ 100倍視野下で細胞数をカウントし平均を求めた。なお,コントロール群としてマトリックスゲルが無いポリエチレン膜のみのインナーチャンバーを使用し,マトリックスゲルを含むチャンバーと,含まないチャンバー

で,それぞれ同一の条件で培養も行なった(図 1)。また,HFS添加下で培養した CD133陽性細胞を vimentin/

cytokeratinおよび vimentin/Epithelial cell adhesion molecule

(EpCAM)を蛍光抗体法で二重標識し,細胞形質の変化を観察した。

3.結果1)ヒト線維芽細胞培養上清添加下で膜通過細胞数

100倍視野下での平均細胞数は CD133陽性細胞では130.4個であったのに対して CD133陰性細胞では 43.7個であり,有意にCD133陽性細胞で多かった(図 2)。2)%浸潤能マトリックスゲルを含むチャンバーと,含まないチャンバーで,それぞれ同一の条件で培養を行なった結果,ヒト線維芽細胞上清添加培養で,CD133陽性細胞では 70.5%,CD133陰性細胞では 30.0%であった。またヒト線維芽細

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 170―171, 2011

 実験概要

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171耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

胞上清添加の有無で比較すると,CD133陽性細胞では添加により浸潤能が促進された(図 3)。3)蛍光抗体法による vimentin発現の検討

HFS添加下で培養した CD133陽性細胞において cyoto-

keratinおよび EpCAMと同時に vimentinの発現が認められた。

4.考察癌幹細胞は腫瘍の転移・浸潤・増殖に深く関わる細胞集団であり,頭頸部扁平上皮癌においては CD44陽性細胞が癌幹細胞として報告されているが,近年 CD133陽性細胞もその性質を有することが報告されている3)。今回の検討において CD133陽性細胞は CD133陰性細胞と比較して高い浸潤能を示した。特にヒト線維芽細胞上清を加えた条件において浸潤が促進された。これはヒト線維芽細胞上清中に含まれる各種サイトカインやケモカインといった浸潤誘因因子に反応し高い浸潤能を示したと推測された。またヒト線維芽細胞上清添加下で培養した CD133陽性細胞での蛍光抗体法を用いた検討では,間葉系マーカーで

ある vimentinと,上皮系マーカーである cyotokeratinおよび EpCAMの発現が同時に認められた。これらの結果は上皮間葉転換(EMT:epithelial-mesenchymal transition)を起こしている所見と考えられた。EMTは TGF-β等のサイトカインによって誘導され,EMTを起こした細胞は高い運動性や浸潤能を獲得することが知られている。以上より頭頸部扁平上皮癌において CD133陽性細胞は

癌幹細胞としての性質を有し,EMTを起こし局所浸潤と局所転移巣の形成に強く関与している可能性が示唆された。

参考文献1) Beire D, Hau P, et al. CD133

+and CD133

−glioblastoma-derived

cancer stem cells show differential growth characteristics and

molecular profi les. Cancer Res. 2007; 67: 4010–5.

2) Yin S, Li J, et al. CD133 positive hepatocellular carcinoma cells

possess high capacity for tumorigenicity. Int J Cancer. 2007; 120:

1444–50.

3) Prince ME, Ailles LE, et al. Cancer stem cells in head and neck

Squamous cell cancer. J Clin Oncol. 2008; 26: 2871–5.

図 3 %浸潤能図 2 ヒト線維芽細胞培養上清添加下でのマトリックスゲル通過細胞数(個/視野)

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-51

ヒト頸部脂肪組織における脂肪関連リンパ球集積の免疫化学染色による検討

茶薗 英明,米倉 修二,櫻井 大樹,堀口 茂俊,岡本 美孝

千葉大学医学部附属病院

【目的】我々は頭頸部リンパ節転移の機序について考察するため,以前より原発腫瘍と頸部リンパ節を連絡する頸部脂肪組織に注目している。以前本学会で頸部脂肪に存在するリンパ節集積について報告したが,最近になり動物実験における本細胞集団についての検討が散見される。【方法】頭頸部癌症例における頸部リンパ節郭清により摘出された検体から明らかなリンパ節を取り除いた脂肪組織を 11症例を対象とした。それぞれ頸部リンパ節レベル分類ごとに脂肪をホルマリン固定を行い,32ブロックをH-E染色,VEGF-C,

VEGF-D, VEGFR3について免疫染色を行い,一部のブロックでD2-40について検討した。いずれもリンパ管新生に関連した試薬であり,切片上で検討を行った。【結果】手術先行症例転移なし,転移あり,放射線治療後に分類し,まだあまり報告のない頸部脂肪組織における染色結果についての興味深い結果を得たので詳細を報告する。

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会プログラム・抄録集より転用

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 172, 2011

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-52

頭頸部癌の診断・治療・予後評価におけるダブル腫瘍マーカーシステムの有用性

―10年間の検討―

川内 秀之,片岡 真吾,青井 典明,清水 保彦,森倉 一朗,清水香奈子,淵脇 貴史

島根大学医学部耳鼻咽喉科学教室

Availability of double tumor marker system for diagnosis, treatment,and prognosis of patients with head and neck cancer

Hideyuki Kawauchi, Shingo Kataoka, Noriaki Aoi, Yasuhiko Shimizu, Ichiro Morikura,Kanako Shimizu, Takafumi Fuchiwaki,

Department of Otorhinolaryngology, Shimane University, Faculty of Medicine

1.はじめに我々1)は長年にわたり頭頸部癌の診断や予後評価におけ

る腫瘍マーカーの意義について,扁平上皮癌関連抗原(SCC

抗原)とサイトケラチン 19フラグメント(CYFRA21-1)の両腫瘍マーカーを選択し,ダブルマーカーモニタリングシステムの評価を行ってきた。今回は,島根大学医学部付属病院で治療を行った頭頸部扁平上皮癌症例について,治療開始前,治療中,治療終了後,その後の観察期間中の血清中濃度の変動について検討したので,その結果を予後評価を中心に報告する。

2.対象と方法対象症例:1993年から 2004年 12月までの間に島根大学医学部付属病院で治療を行った頭頸部扁平上皮癌症例 417

例(新鮮例 319例,再発例 98例)(表 1)である。方法:同患者より,口頭にて両腫瘍マーカーを測定することの同意を得て,経時的に血液を採取し,血清中濃度を ELISA法にて測定した。カットオフ値1,2)は,SCC抗原が 1.5 ng/ml,CYFRA21-1が 2.5 ng/mlとした。統計学的解析には,Mann-

Whitney U test,Welch’s testを用いた。

3.結果部位別の陽性率

CYFRA21-1は,上咽頭,中咽頭,下咽頭,鼻副鼻腔で陽性率が高く,口腔,喉頭で低かった(表1)。SCC抗原は,中咽頭,下咽頭,口腔,鼻副鼻腔で陽性率が高く,上咽頭,喉頭で低かった。両マーカーを比較すると,上咽頭,中咽

頭,下咽頭,喉頭で,CYFRA21-1の方が陽性率が高く,口腔,鼻副鼻腔では SCC抗原の方が,陽性率が高かった。ダブルマーカーシステムを用いた場合(図 1),各々の部位の扁平上皮癌症例における陽性率は 42.9%から 86.7%と上昇し,単独での腫瘍マーカーのモニターより明らかに有用であることが示された。治療後の経過観察再発前後での陽性率を両マーカーで検討した場合(75

症例),腫瘍の消失後に陰性となり,再発により陽性に転じた症例の割合は,SCC抗原で 54.9%,CYFRA21-1で71.8%となり,腫瘍の増大につれて,その値が上昇する傾向が強かった(図 2)。初回治療時に陰性であったが,再発時に陽性に転じた症例も,SCC抗原で 48%,CYFRA21-1

で 54.5%となり,腫瘍マーカーのモニターの有用性を示唆した。

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 173―174, 2011

表 1 原発部位別の陽性率とマーカー値

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174 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

予後との関係患者の予後と腫瘍マーカーの値について検討すると,治療前の SCC抗原が 10 ng/ml以上だった症例では,原病死もしくは再発後原病死となった割合が 70.0%,CYFRA21-1

では 10 ng/ml以上だとその割合が 100%であった。治療開始時における両マーカーの陽性率は,非担癌で 5年生存例では,SCC抗原,CYFRA21-1とも29.0%であったのに対し,5年以内の原病死例では,SCC抗原が 56.4%,CYFRA21-1

が 67.7%と高い割合を示した(図 3)。

4.考察以上の結果から,両腫瘍マーカーは腫瘍の診断,消失,再発さらには増大などの指標として有用性が高いことが他の報告 3,4)と同様に示された。患者の予後判定にも寄与しうるため,頭頸部扁平上皮癌の診断に当たっては,両腫瘍マーカーを併用すると,腫瘍マーカーとしての有用性がさらに高まることが示唆された。頭頸部癌の診断や経過の把握においては,電子内視鏡などでの観察や画像診断などが有益であることは言うまでもないが,ダブル腫瘍マーカーの経時的なモニタリングは,局所での腫瘍の制御,頸部リンパ節や遠隔転移の有無を知る上での支援システムとして有益であることを強調しておきたい。

参考文献1) 佐野啓介,加藤太二,他:腫瘍マーカー CYFRA21-1の頭頸部扁平上皮癌における有用性の検討.日耳鼻 1997; 100: 790–7.

2) Niemann AM, Goeroegh T, et al. Cut-off value determination of

CYFRA 21-1 for squamous cell carcinomas of the head and neck

(SCCHN). Anticancer Res. 1997; 17(4B): 2859–60.

3) Céruse P, Rabilloud M, et al: Study of cyfra 21-1, a tumor marker,

in head and neck squamous cell carcinoma. Ann Otol Rhinol

Laryngol. 2005; 114(10): 768–76.

4) Al-Shagahin H, Alkotyfan K, et al: Cyfra 21-1 as a serum tumor

marker for follow-up of patients with laryngeal and hypopharyngeal

squamous cell carcinoma. Anticancer Res. 2009; 29(8): 3421–5.

図 1 診断時の陽性率(ダブルマーカーシステム)

図 2 再発前後の腫瘍マーカー値の推移(75例)

図 3 治療開始時の腫瘍マーカー値と予後(344例)

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-53

一般臨床における鼻症状に対する治療方針の検討

唐木 將行,森   望

香川大学医学部耳鼻咽喉科頭頚部外科

Study of treatment for nasal symptoms in the general clinical

Karaki Masayuki, Mori Nozomu

Department of otorhinolaryngology, Faculty of Medicine, Kagawa University

1.はじめに鼻漏(水性,粘性,膿性),後鼻漏,鼻閉などの鼻症状は一般的な症状であり,日常診療において大変多く遭遇する症状である。そして,アレルギー性鼻炎の症状をコントロールすることが気管支喘息のコントロールに有用であるとされている1)。治療方法は抗菌薬,抗ヒスタミン薬,抗ロイコトリエン薬などの組み合わせで治療が行われることが一般的であるが,耳鼻咽喉科,内科,小児科などで治療方針が異なる場合がある。今回我々は耳鼻咽喉科,呼吸器内科,小児科の 3診療科の医師対して鼻症状に対する治療の現状についてアンケートを用いて調査を行った。今回のアンケート結果に基づき各診療科の治療の現状について報告する。

2.対象と方法香川県にて日常診療を行っている耳鼻咽喉科,呼吸器内科,小児科の 3診療科の医師対して鼻症状に対する治療の現状についてアンケートを行った。解析回答数は耳鼻咽喉科 34名,内科 76名,小児科 43名であった。アレルギー性疾患の診断方法,アトピー要因の有無,鼻閉の有無,鼻漏の性状(水性,粘性,膿性)ごとの投薬内容,点鼻薬の使用の有無,使用薬物内容,他の診療科への紹介の有無,紹介内容,耳鼻科では紹介されたい症例,治療効果判定の時期や内容,気管支喘息合併について調査した。

3.結果各診療科間で治療方法に大きな相違はなかったがいくつかの項目で若干の相違が認められた。耳鼻科への紹介では内科は後鼻漏や難治例が多く,小児科では中耳炎症例が多かった。耳鼻科の紹介希望は手術例が最も高かった。

治療効果判定は 1週間で評価している施設が最も多く,投薬の変更が 8割以上であった。点鼻薬使用は小児科でも半数が使用しており,内科では

9割以上の医師が使用していた。遊離抑制薬や抗ヒスタミン薬は小児科で高く,血管収縮薬は耳鼻科で高かった。気管支喘息と副鼻腔炎の合併についての問診は耳鼻科で最も高く,呼吸器内科で最も低かった。アレルギー性鼻炎の診断は症状以外では耳鼻科は所見,

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 175―176, 2011

図 1 診療科別の点鼻薬使用頻度

図 2 診療科別の使用点鼻薬の内訳

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176 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

検査で,内科は検査,時期で,小児科は検査,時期,既往歴や家族歴で診断していた。治療薬では小児科が第一世代抗ヒスタミン薬の使用が多かった。総合感冒薬は内科で使用率が高かった。アトピー素因の有無にかかわらず,鼻閉のある症例では抗ロイコトリエン薬と点鼻薬の使用率が高かった。点鼻薬使用は耳鼻咽喉科,内科,小児科の順であった。局所ステロイド薬の処方に関して,耳鼻咽喉科と内科がほぼ同等の使用率であった。

4.考察点鼻薬使用に関して,小児科の使用が低かった原因として,小児が点鼻薬を希望しないことや適応のある点鼻薬が限られる,保護者のステロイド使用に対する不安などが考えられた。そのためか小児では遊離抑制薬や抗ヒスタミン薬の点鼻の使用頻度が高かった。

気管支喘息と副鼻腔炎の合併についての問診率は大変高く,耳鼻咽喉科で 90%,小児科で 75%であった。その理由として,近年One airway One diseaseの概念が広まってきている1)ことがその理由のひとつとして考えられた。逆に呼吸器内科で 55%程度とあまり問診されていなかった。その理由として,既往症として気管支喘息があり,以前から通院している症例が多いため,あえて問診していないのではないかと思われた。鼻アレルギーの診断方法として耳鼻咽喉科は症状以外に所見や検査にて診断しているが,鼻内所見がとれること,患者自身が検査を希望することがその理由として考えられた。内科では典型的な症状にてほとんど診断しており,時期的な症状があれば,季節性アレルギー性鼻炎と診断している傾向にあった。小児科は症状による訴えが低く,50%

強ほどであったが,時期,気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの既往歴,家族歴により総合的に診断している場合が多い傾向にあった。採血による検査は小児では協力は得られにくいが,40%強で行われており,地方自治体により違いはあるが,6歳未満は無料などの乳幼児医療制度のためか検査率は内科より高かった。経口治療薬で小児科の第一世代抗ヒスタミン薬の使用頻度が著明に高かったが,その理由として,第二世代抗ヒスタミン薬の適応が限られていることが反映していると思われた。また同様に内科で総合感冒薬の使用が他の診療科と比較して多かったが,ウィルス感染による急性鼻炎や感冒症状に第 2世代の抗ヒスタミン薬が適応になっていないことがその原因と考えられた。各診療科での治療方針の相違は鼻内所見が容易にとれるかどうか,採血等の検査が簡便に可能かどうか,自治体の医療制度,薬物の適応などが反映していると思われた。

参考文献1) Bousquet J, Cauwenberge P, et al. Allergic rhinitis and its impact on

asthma. J Allergy Clin Immunol. 2001; 108: S147–334.

 気管支喘息と副鼻腔炎合併の問診

図 4 診療科別鼻アレルギー診断の根拠

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-54

1.はじめに保存的治療に抵抗するアレルギー性鼻炎の鼻閉症例には,下鼻甲介手術が適応となる1)。基本的には以下の 3つの方法(①~③)をとっている。当科では日帰り手術として,①アルゴンプラズマ凝固療法(Argon Plasma

Coagulation,以下APC)2)と,②高周波電気凝固療法(Celon

ENT®,以下Celon)を行っている。また,③強い鼻中隔彎

曲のために下鼻甲介手術のみでは効果が見込めない症例には,入院して鼻中隔矯正術とマイクロデブリッダー手術(以下Xomed Powered System

®,以下XPS)を行っている。APCは下鼻甲介粘膜手術,CelonとXPSは下鼻甲介粘膜下手術と位置づけられる。術後の効果判定は,来院時期による症状や経過観察期間にばらつきなどが問題点になる。今回我々は,通年性のアレルギー性鼻炎において,上記 3つの手術方法の術後成績を検討した。

2.対象と方法2007年 2月から 2010年 5月(3年 4ヵ月間)に,当科で行った下鼻甲介手術例のうち,術後 3ヵ月以上観察できた通年性アレルギー性鼻炎 135例を対象とした(表 1)。男性 81例,女性 54例。平均年齢 27歳(6~76歳)。手術適応は,鼻アレルギー診療ガイドライン(以下,ガイドライン)1)の「中等症」以上で薬物療法の無効例とした。手術方法は,APCが 17例,Celonが 103例,XPSが 15例であった。術後の平均観察期間は 9ヵ月であった。原則術後 3ヵ月毎に経過観察して,自覚症状について,

Visual Analogue Scale(VAS)とガイドラインに基づいて検討した。術前レベルを 0として術後の改善度を検討した。

手術方法ごとの治療前後の比較はWilcoxon符号付き順位和検定,術式間の比較はKruskal-Wallis検定を用い,p<0.05

で有意とした。

3.結果VASによる自覚症状の改善度は,中央値がAPCは 51%,

Celonが 41%,XPSが 65%でいずれも有意(p<0.05)に改善を認め,術式間に有意差はなかった(図 1)。鼻閉改善度は,いずれの方法も中央値が 2で有意

(p<0.05)に改善を認め,術式間でAPCと Celonに有意差(p<0.001)を認めた(図 2)。鼻汁改善度は,中央値でAPCが 0,Celonが 1,XPSが 1

で,Celonに有意(p<0.05)な改善を認め,術式間でAPC

とCelonに有意差(p<0.001)を認めた(図 3)。くしゃみ改善度は,中央値でAPCが 0,Celonが 1,XPS

が 1で,Celonに有意(p<0.05)に改善を認め,術式間に有意差はなかった(図 4)。

当科における下鼻甲介手術の術後検討

竹林 宏記 1,都築 建三 1,岡  秀樹 1,深澤啓二郎 2,大門 貴志 3,阪上 雅史 1

1兵庫医科大学耳鼻咽喉科2神戸市

3兵庫医科大学数学科

Results of inferior turbinate surgery in patients with perennial allergic rhinitis

Hironori Takebayashi1, Kenzo Tsuzuki1, Hideki Oka1, Fukazawa Keijirou2, Takashi Daimon3, Masafumi Sakagami1

1 Department of Otolaryngology, Hyogo College of Medicine2 Fukazawa ENT Clinic, Kobe

3 Department of Biostatistics, Hyogo College of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 177―178, 2011

表 1 対象症例

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178 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

重症度の改善度は,中央値でAPCが 1,Celonが 1,XPS

が 2でいずれも有意(p<0.05)に改善を認め,術式間はAPCとCelonに有意差(p<0.05)を認めた(図 5)。

4.考察通年性アレルギー性鼻炎に対する下鼻甲介手術の効果を自覚症状の改善度から検討した。鼻閉はいずれの方法でも有意に改善した。Celonは鼻汁とくしゃみにも有用性が示唆された。APCとXPSは,より多くの症例で検討する必要があると考えられた。術後経過期の別に分けて有効性を検討する必要があると考えられた。

参考文献1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会:奥田 稔ほか(編):第 4章,検査・診断法.p. 17–31,鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症― 2009年版(改訂第 6

版),ライフ・サイエンス,2009.2) 都築秀明,都築建三.花粉症・アレルギー性鼻炎に対するアルゴンプラズマ鼻粘膜焼灼治療.明日の臨床 2009; 21: 27–30.

図 1 VASによる改善度

図 2 鼻閉の改善度

図 3 鼻汁の改善度

図 4 くしゃみの改善度

図 5 重症度の改善度

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-55

1.はじめにアレルギー性鼻炎,特に通年性鼻アレルギーは症状が慢性的でQOLに与える影響は大きい1)。今回我々は,治療中(第二世代抗ヒスタミン薬,鼻噴霧用ステロイド薬,点鼻ヒスタミン薬)でありながら鼻閉症状が残存する通年性鼻アレルギー患者を対象に,モンテルカストの追加投与を行い自覚症状と日常生活障害について検討したので報告する。

2.対象と方法2008年及び 2009年の 6月から 12月の間に山口県内の研究協力施設を受診した成人通年性鼻アレルギー患者の内で以下の条件を満たし,同意の得られた者を対象とした。①従来の治療薬(抗ヒスタミン薬・鼻噴霧用ステロイド薬)で 2週間以上治療している患者 ② JRQLQ No. 1に規定される,鼻づまり(やや重い:2点以上)を有する患者③抗ロイコトリエン薬,抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬,経口ステロイド薬を服用していない患者最初の受診時に,日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票2)

(JRQLQ No. 1)による評価を行い,それまでの治療薬剤を変更することなく,モンテルカストナトリウム 10 mg/日を追加投与した。2週後及び 4週後に再び調査票を記入してもらい本施設へ郵送してもらい評価を行った。

3.結果対象症例数は 20例であった。調査開始前の病型は,鼻閉型が 15例(75.0%),くしゃみ・鼻漏型 2例(10.0%),充全型 3例(15.0%),重症度は,最重症 8例(40.0%),重症 6例(30.0%),中等症 6例(30.0%)であった。追加投

与 2週後から各症状が改善するとともに,日常生活,戸外生活,社会生活,身体,精神生活,睡眠の各ドメインのQOLスコアも改善した。4週後にはさらに改善効果が認められた(図 1)。

4.考察前治療で鼻閉症状が改善しない患者に対しても,モンテルカスト追加投与は比較的早期(追加投与後 2週間)から

通年性鼻アレルギーに対するモンテルカスト追加投与の自覚症状及び QOL改善効果

御厨 剛史,菅原 一真,橋本  誠,原  浩貴,山下 裕司

山口大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科学分野

The effect of additional administration of montelukast on the QOL scoresin patients suffered from perennial allergic rhinitis

Takefumi Mikuriya, Kazuma Sugahara, Makoto Hashimoto, Hirotaka Hara, Hiroshi Yamashita

Department of Otolaryngology, Yamaguchi University Graduate School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 179―180, 2011

図 1 上段に症状スコア,下段に QOLスコアの各項目を示す。平均値±標準偏差 #:p<0.05,##:p<0.01,###:p<0.001(0週目との比較 Wilcoxonの符号付き順位検定)

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180 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

明らかな自覚症状と日常生活障害改善効果を示した。モンテルカスト追加投与は,治療に抵抗性のアレルギー性鼻炎患者に対する有用な治療方法の一つであると考えられた。しかし中には効果が乏しい症例もあり,適切な症例の選択が重要であると考えられた。

参考文献1) 鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会.鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症― 2009年版(改訂第 6

版).東京:ライフ・サイエンス;2005.2) 奥田 稔:アレルギー性鼻炎QOL調査票 その開発と利用.アレルギー 2003; 52(Suppl): 1–20.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-56

1.はじめに抗アレルギー薬に限らず,現在様々な薬品に対する安価な後発医薬品が発売され,増大する医療費抑制の要と考えられている。例えば,エピナスチンには 20種類を越える後発医医薬品が市販されており,先発品のアレジオンP

20 mgの薬価が 162.9円に対して,後発品の安価なものではアルピードP

20 mgが 50円,アレジオテックP20 mgが

60.6円など半額以下に設定されている薬剤もあるし,メデジオンP

20 mgが 129.6円と,それ程薬価に差の無い薬剤もある。後発医薬品は,薬剤の主成分は先発品と同じであり,メディアでもそのように PRされているが,効果が先発品よりの落ちる後発品が存在することは一般臨床でも経験されることでもある。現在の保険医療制度では,外来で処方する薬剤の先発,後発医薬品の選択は患者に任せられており,薬剤選択の現状は不明瞭であると言わざるを得ない。そこで,抗アレルギー薬を内服中の患者を対象として,後発医薬品の認知率,使用経験の有無,薬剤選択の理由などの先発および後発医薬品に関する意識調査を行ったので報告する。

2.対象と方法1)対象

2009年度に当科アレルギー外来を受診し,抗アレルギー薬の内服薬で治療中の患者を対象とした。年齢は 15歳以上で,アンケート前に本人および 20歳未満の場合には保護者の同意取得後にアンケート調査を実施した。2)調査項目①年代,性別 ②後発医薬品を知っていたか(認知率)③後発医薬品の使用経験の有無 ④後発医薬品の効果はど

うだったか ⑤先発・後発医薬品のどちらを希望するか⑥選択の理由(自己負担額,有効性など)3)検討内容調査対象全体での認知率,使用経験,効果,今後の処方の希望,選択の理由などについて,また,後発医薬品の認知率と処方の希望については男女別および年齢層別にも検討した。

3.結果①年代,性別:有効回答者数86名(男性40名,女性46名)。10歳台 6名,20歳代 9名,30歳代 15名,40歳代 10名,50

歳代 21名,60歳代 14名,70歳代 11名。②認知率:対象全体の認知率は 73.3%であった。年齢別では 40歳代でやや高い傾向が認められたが,明らかな差は認められなかった。性別では男性で 65.0%よりも女性で80.4%と高い傾向(p=0.10)が認められた。③使用経験:全体の 30.3%が後発医薬品を使用したことがあると回答した。④後発医薬品の効果:後発医薬品を使用した中の 21.1%で効果が弱くなったと回答した。⑤使用希望:全体では先発品の希望が 38.4%,後発品の希望が 31.4%と拮抗していたが,性別で検討すると先発品を希望する割合は女性の方が男性よりも有意に高値であった。年代別では 10歳代と 60歳代以上で先発品の希望が多く,20歳代,50歳代では後発医薬品の希望が多かった。⑥選択の理由(図 1):先発品の希望の理由としては「安全性が証明されている」「有効性が証明されている」が各々30.7%,22.6%と回答数が多かった。後発品では「自己負担額が安い」が 43.9%と最も多かったが,先発品同様に安

抗アレルギー薬内服中の患者を対象とした後発医薬品に関するアンケート調査

稲葉 健介 1,松原  篤 2,長岐 孝彦 2,西澤 久徳 2,新川 秀一 2

1弘前大学医学部医学研究科2弘前大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科学講座

A questionnaire survey on generic medicine among the allergic patients

Inaba, K.1, Matsubara, A.2, Nagaki, T.2, Nishizawa, H.2, Shinkawa, H.2

1Hirosaki University School of Medicine2Dept. of Otorhinolaryngology, Hirosaki University Graduate School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 181―182, 2011

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182 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

全性や有効性が証明されていることを挙げた回答者も少なくなかった。

4.考察後発医薬品の認知率は 73.3%にのぼり,後発医薬品の存在は充分に認識されている事が明らかとなったが,その一方で後発医薬品を使用した経験がある者は 30.2%に留まっていた。認知率に関して性別ごとに検討すると,後発医薬品の認知率は男性よりも女性の方が高い傾向が得られた。しかし,先発品の処方を希望するのは女性の方が有意に高く,認知率とは相反する結果が得られた。この理由として,女性の方が後発品について各種のメディアを通じた情報を多く有しており,後発医薬品特有の副作用や使用実績のなさについての不安を抱えていた可能性から,このような調査結果になった可能性がある。

後発医薬品の問題点は,効果や副作用の頻度が先発品と同等かどうかということにある。今回の調査では,後発医薬品を使用した経験ありと答えた患者のうち,21.1%で効果が弱くなったと回答しており,以前から指摘されているように,患者の実感として必ずしも同等ではないことが示唆される。副作用に関しては,過去の報告でオキサトミドの後発品により副作用が強く出た症例が報告されている1)。また,エピナスチンの後発医薬品には喘息喘息発作を惹起する可能性のある香料や安息香酸ナトリウムを含有するものがあることも指摘されている2)。ところが,今回の調査において後発医薬品使用の希望の理由として「有効性が証明されている」や「安全性が証明されている」も少なからず挙げられており,後発医薬品が先発品と完全には同等なものではないという事実が患者に正確に伝わっていないと考えられる。医師側もこのような現状を把握し,後発医薬品に対する正確な情報を患者に伝える必要があると考えられた。

参考文献1) 荻野 敏.後発医薬品に変更したことにより全身倦怠感の出現をみたアレルギー性鼻炎症例.JIAO. 2007; 25(4): 301–4.

2) 渡邊直人.エピナスチン塩酸塩に着眼したジェネリック医薬品への注意点.アレルギー 2011; 60(1): 51–2.

 先発・後発医薬品選択の理由(%)

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-57

1.はじめにアレルギー性鼻炎患者は以下の理由において慢性副鼻腔炎を増悪させやすいと考えられている。① IL-5が好酸球増加を惹起し好酸球による粘膜浮腫を増悪させる,そのため副鼻腔換気障害が引き起こされる。② IL-4,IL-13は杯細胞化生誘導による粘性鼻汁の増加を引き起こし後鼻漏の原因となる。これらのことを踏まえて非有症期アレルギー性鼻炎を合併する慢性副鼻腔炎患者に対してマクロライド少量投与法におけるトシル酸スプラタストの付加効果の検討を行った。

2.対象と方法CT,XPで副鼻腔陰影を有する慢性副鼻腔炎を合併する,非有症期アレルギー患者を(アレルギー性鼻炎,気管支喘息,アトピー性鼻炎)対象とした。ただし,急性副鼻腔炎や慢性副鼻腔炎球性増悪期や季節性アレルギーの有症期は除外した。調査対象患者をクラリスロマイシン単独投与群,トシル酸スプラタスト併用群の 2群に無作為に割り付け,各試験薬を 3ヶ月以上投与した。初診時,再診時に自己評価による症状スコアならびに試験薬に関するアンケートを記入させた。羽柴らの基準に従い,鼻症状の自覚症状,他覚所見について評価を行い,これらの項目について症状項目の評点が 0になったものを消失,症状項目の評点が軽減するも 0

にはなっていないものを改善,症状項目の評点が変わらないものを不変,症状項目の評点が増えたものを悪化と判定した。改善度の評価は上記の判定に従い,各項目の 2/3以上が消失し他の項目が改善したものを著明改善と評価し,項目

の 2/3以上が消失または改善し悪化の項目がないものを改善,項目の 2/3未満が消失または改善で悪化の項目があるものを軽度改善,すべての項目で不変または悪化の項目があるものを不変として評価した(表 1,2)。

3.結果自覚症状についてはクラリスロマイシン単独投与群

63.2%と比較してトシル酸スプラタスト併用群 84.0%と改善傾向が高く,併用群における自覚症状の改善が認められたが,有意な差は得られなかった(表 3)。他覚所見については単独投与群 66.7%と比較してトシル酸スプラタスト併用群 71.4%と改善傾向が高いが優位な差

アレルギー性疾患を合併した慢性副鼻腔炎に対するトシル酸スプラタスト,マクロライド併用療法の効果

横田  誠,中村 善久,鈴木 元彦,村上 信五

名古屋市立大学医学部耳鼻咽喉科

The effect of Suplatast tosilate and macrolide-combination thrapyfor chronic sinusitis with Allergic disease

Yokota, M., Nakamura, Y., Suzuki, M., Murakami, S.

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 183―184, 2011

表 1 自覚症状評価項目

表 2 他覚所見評価項目

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184 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

は得られなかった(表 4)。「鼻をかむ程度」「1日あたりのくしゃみ回数」は有意に症状の消失・改善を認めた。慢性副鼻腔炎症状である後鼻漏,頭重感は有意差を認めなかった(表 5)。

4.考察アレルギー性鼻炎(非有症期)を合併する慢性副鼻腔炎に対する,マクロライド少量投与法におけるトシル酸スプラタストの付加効果を検討した。IPD併用群は,単独群に比較し,鼻症状(自覚症状,他覚所見)の改善度は高い傾向にあったが,有意な差ではなかった。アレルギー素因を持つ慢性副鼻腔炎患者には,アレルギー非有症期であってもトシル酸スプラタストなどの抗アレルギー薬を併用することで鼻症状の改善が望めることが示唆された。

表 4

単独投与群 66.7%と比較してトシル酸スプラタスト併用群 71.4%

と改善傾向が高いが優位な差は得られなかった。

表 5

「鼻をかむ程度」「1日あたりのくしゃみ回数」は有意に症状の消失・改善を認めた。慢性副鼻腔炎症状である後鼻漏,頭重感は有意差を認めなかった。

表 3

単独投与群 63.2%と比較してトシル酸スプラタスト併用群 84.0%

と改善傾向が高く,併用群における自覚症状の改善が認められたが,有意な差は得られなかった。

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-58

1.はじめに近年主に好酸球性副鼻腔炎症例および Churg-Strauss症候群,慢性関節リウマチに合併する難治性の副鼻腔炎等の増加に伴い,ステロイド点鼻薬を中心としたステロイド薬の長期使用を余儀なくされる機会が多くある1,2)。ステロイド点鼻薬は局所での作用が中心で,全身的な副作用が出にくいとされており3),特に最新のステロイド点鼻薬はバイオアベイラビリティが低く,その効果の高さに比して全身への影響が少ないとされている4)。今回我々は種々のステロイド点鼻薬やプレドニン,セレスタミンといった内服ステロイド薬の長期使用を行っている症例に関して副作用調査を施行し,安全性を検討したので報告する。

2.対象と方法対象は 2006年 1月から 2011年 1月までに関西医科大学附属枚方病院耳鼻咽喉科を受診した患者 38名(男:女=13:6,年齢 64.7±8.6歳)で,全例にステロイド点鼻薬(ナゾネックス,アラミスト,フルナーゼ,スカイロン,ミリカレット,リンデロン)を 6ヶ月以上継続投与行った。38

名中 30名はステロイド内服(プレドニン,セレスタミン)も併用した。疾患の内訳は,好酸球性副鼻腔炎 27名(AIA

2名),慢性副鼻腔炎 3名,嗅覚障害 3名,肥厚性鼻炎 2名,アレルギー性鼻炎 2名,Churg-Strauss症候群 1名であった。副作用の項目として局所薬に関しては出血や刺激感(鼻痛)を調査し,内服と局所薬の共通項目として腹部症状,不眠,体のむくみや体重増加,血圧上昇の有無を調査した。また続発性副腎皮質機能不全の評価として血漿ACTH値およびコルチゾール値を測定し,異常低値をACTH 5 pg/dL

未満かつコルチゾール値 10 g/dL未満とし評価した。

3.結果1)ステロイド点鼻薬のみ長期投与を行った群(8名)で

は副作用認めなかったものが 87%(7名),鼻出血を認めたものが 13%(1名)であった(図 1a)。ステロイド内服とステロイド点鼻を併用した群では,副作用認めなかったものが 70%(21名),鼻出血 17%(5名),副腎皮質機能低下 10%(3名),鼻刺激感 3%(1名)であった(図 1b)。

2)プレドニゾロン換算総内服量が増加するにつれて,血漿コルチゾール値,ACTH値の両値が低値を示す症例が増加した。

ステロイド長期使用に関する副作用調査

濱田 聡子,朝子 幹也,河本 光平,大岡 久司,友田 幸一

関西医科大学耳鼻咽喉科

The study of side effects of long-term administration of corticosteroids

Satoko Hamada, Mikiya Asako, Kohei Kawamoto, Hisashi Ooka, Koichi Tomoda

Department of Otorhinolaryngology, Kansai Medical University, Osaka, Japan

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 185―186, 2011

図 1a.ステロイド点鼻薬のみ長期投与行った群の副作用。

図 1b.ステロイド内服薬とステロイド点鼻薬を併用した群の副作用

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186 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

3)ステロイド点鼻薬総量と副作用の関連はみられなかった。

4)副腎皮質機能低下を示した症例はすべてプレドニゾロン換算総内服量が 1000 mg以上であった。

4.考察ステロイドは局所薬においても長期使用に伴う副作用の発現を危惧される事が多いが,今回長期的に局所ステロイドのみを使用した症例に関しては若干の局所反応を除いて副腎皮質機能の低下につながる大きな副作用は 1例も認めなかった。この事はステロイド点鼻薬のバイオアベイラビリティの低さも一助となっていると考えられた。内服プレドニゾロン換算総投与量が 1000 mgを超えると副腎皮質機能の抑制が懸念されるといわれているが,今回の検討でも内服ステロイドの大量投与を行っている症例ではACTH

とコルチゾール両値の低下を認める傾向にあった。ステロイドの減量が可能な症例では局所薬の併用しながら緩やかな減量を試みる必要性があることが示唆された。

参考文献1) van Camp C, Clement PA, et al. Results of oral steroid treatment in

nasal polyposis. Rhinology. 1994; 32: 5–9.

2) 野中 学.好酸球性副鼻腔炎の保存的治療.JOHNS. 2007;

23: 857–61.

3) Lipworth BJ, Jackson CM, et al. Safty of inhaled and intranasal

corticosteroids: lessons for the new millennium. Drag Safety. 2000;

23: 11–33.

4) Daley-Yates PT, Kunka YY, et al. Bioavailability of fluticasone

propionate and mometasone furoate aqueous nasal spray. Eur J Clin

Pharmacol. 2004; 60(4): 265–8.

図 2 プレドニゾロン換算総内服量と副腎皮質機能。横軸―プレドニゾロン換算総内服量。縦軸―血漿 ACTH値と血漿コルチゾール値

 全症例の使用したステロイド点鼻総点本数と副作用。(⬆副腎皮質異能低下 ⇧鼻出血)

 ステロイド内服症例のプレドニゾロン換算総内服量と副作用。(⬆副腎皮質異能低下 ⇧鼻出血)

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-59

1.はじめに上気道に病変が限局した限局型ウェゲナー肉芽腫症

(Wegener Granulomatosis: WG)では,WGに特異的な PR3-

ANCAが陽性である。一方,MPO-ANCAは,顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangitis: MPA)やアレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群:CSS)などで陽性となるが,疾患特異性が低い。今回,中耳炎様の耳症状で発症し,感音難聴と顔面神経麻痺を伴い,MPAや CSSの診断基準を満たさないMPO-ANCA陽性例を経験した。

2.症例症例:62歳,女性。主訴:両難聴,両顔面神経麻痺。既往歴:高血圧,甲状腺機能亢進症。家族歴:特記すべきことなし。現病歴:平成 21年 11月より耳閉感を自覚し,近医耳鼻咽喉科を受診。両側滲出性中耳炎と診断され,鼓膜チューブ留置術を行われたが症状は改善しなかった。平成 22年 2

月中旬よりめまいが出現。3月 5日には両側混合性難聴を認め,骨導聴力が悪化したため他院耳鼻咽喉科に入院し,ステロイド漸減療法を施行された。聴力は軽度改善を認めたが退院後に再び悪化し左顔面神経麻痺が出現したため,平成 22年 3月 16日に当科を紹介された。初診時所見:両側鼓膜にチューブが留置中であり,鼓室に粘稠な貯留液と肉芽組織を認めた。鼻粘膜には痂皮や肉芽組織を認めなかった。検査所見:耳漏菌検査は陰性,耳漏中に好酸球は認めなかった。標準純音聴力検査では右 92.5 dB,左 88.5 dBの混合性難聴を認めた。左顔面神経麻痺はスコア 14/40であっ

た。平衡機能検査では右向き眼振を認め,カロリックテストでは左 CPを呈した。中耳 CTでは両側乳突蜂巣及び中耳腔に軟部陰影を認めたが,明らかな骨破壊は認めなかった。造影MRIでは硬膜の肥厚は認めなかった。胸部X線では異常を認めなかった。血液検査では白血球 8500/mm

3

と基準値内,CRP1.79 mg/dlと軽度高値,PR3-ANCAは陰性で,MPO-ANCAが陽性(122 EU/ml:正常10 EU/ml未満)であった。尿検査では異常を認めなかった。次第に右顔面神経麻痺も出現し,両側とも完全麻痺となった。その後,左舌下神経麻痺が出現した。入院後経過:平成 22年 3月 19日に,聴力が悪く CPを呈していた左耳に対し全身麻酔下に鼓室・乳突洞試験開放術を施行した。鼓室と乳突洞に肉芽が充満していたが,膿汁,骨破壊,顔面神経の露出は認めなかった。病理組織検査では鼓室と乳突洞の肉芽には壊死や肉芽腫を認めず,明らかな血管炎も認めなかった。確定診断は得られなかったがMPO-ANCAが陽性で臨床症状が進行性であったため,当院膠原病内科に紹介し,MPO-ANCA関連血管炎として加療を行った。治療経過:治療はステロイド剤と免疫抑制剤の投与を行った。4月 2日よりステロイドパルス療法としてメチルプレドニゾロン(mPSL)1000 mgを 3日間点滴投与し,その後,プレドニゾロン(PSL)35 mgの経口投与を開始し,漸減した。同時にシクロフォスファミド(CPA)100 mg/日の投与を開始した。なお本症例は甲状腺機能亢進症にてプロピルチオウラシル(PTU)を内服中であった。PTUの副作用としてのMPO-ANCA関連血管炎が報告されており,PTUを中止したうえで治療を行った。ステロイド投与開始から 18日目の 4月 20日にはMPO-ANCAは 60 EU/mlと

両側感音難聴と顔面神経麻痺をきたしたMPO-ANCA陽性例

神村盛一郎 1,千田いづみ 1,阿部 晃治 1,陣内 自治 1,宇高 二良 2,田村 公一 1,武田 憲昭 1

1徳島大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科2宇高耳鼻咽喉科医院

A case of MPO-ANCA positive associated withbilateral hearing loss and facial palsy

Seiichiro Kamimura1, Izumi Chida1, Koji Abe1, Osamu Jinnouchi1, Jiryo Udaka2, Koichi Tamura1, Noriaki Takeda1

1 Tokushima University2 Udaka ENT Clinic

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 187―188, 2011

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188 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

低下した。耳漏は停止し,中耳貯留液を認めなくなった。聴力は徐々に改善し,5月 31日には右 66.2 dB,左 55.2 dB

となった。投薬開始から約 2カ月後には CMV肝炎を発症したため,CPA投与は中止し,ステロイド投与のみとした。両側顔面神経麻痺は加療開始から約 4カ月後には改善傾向となり,両側閉眼・瞬目可能となった。現在 PSL 10 mg内服中である。

3.考察本症例の臨床的特徴を以下に示す。1.中耳炎様症状で初発する。2.感音難聴が進行する。3.顔面神経麻痺を伴う。4.めまいや他の脳神経麻痺を伴うことがある。5.病変は中耳に限局し,肺病変や腎病変を伴わない。6.MPO-

ANCAが陽性で,PR3-ANCAが陰性である。7.中耳病変の病理組織検査で特徴的な所見を認めない。正し,病理組織の一部に壊死性肉芽腫,血管炎,多核巨細胞などを認めることがある。8.治療にはステロイドと免疫抑制剤の併用が有効である。本症例のように中耳炎様の耳症状で発症し,感音難聴と顔面神経麻痺を伴うMPO-ANCA陽性例は過去にも報告されている1–4)。病理組織検査を行っても診断がつかず,

Wegener肉芽腫疑いやANCA関連血管炎として,ステロイドに加えて免疫抑制剤を投与され,軽快を得ている。このような症例を限局型MPO-ANCA関連疾患と診断するべきか,独立した自己免疫性内耳障害と診断すべきか,コンセンサスは未だ得られていない。診断名と診断基準を検討し,多施設で実態を把握する必要がある。また,治療にはステロイドに加えて免疫抑制剤が必要であるが,病理組織検査を行ってもウェゲナー肉芽腫や,顕微鏡的多発血管炎,Churg-Strauss症候群と診断できない場合には免疫抑制剤が使用できず,予後不良となってしまう可能性がある。免疫抑制剤使用の適応についても検討が必要と考えられる。

参考文献1) 高山雅裕,柴田敏之,他.耳症状で初発した cANCA陰性

Wegener肉芽腫症例.Otol Jpn. 2001; 11(4): 289.

2) 油川陽子,片山隆行,他.MPO-ANCA陽性で両側感音性難聴と頭痛をきたした 1例.内科 2008; 101(4): 812–4.

3) 高岡麻里絵,萩原 晃,他.耳症状のみで発症したウェゲナー肉芽腫症疑い例.耳鼻臨床 2010; 103(3): 201–8.

4) 臼渕 肇,児玉 梢,他.顔面神経麻痺を来したMPO-ANCA

陽性の中耳炎 2症例.日耳鼻 2010; 113: 67–71.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-60

1.はじめに小児の滲出性中耳炎において,無莢膜型インフルエンザ菌は主たる起炎菌の一種である。その菌体外膜に存在するリポオリゴ糖は多様な生理活性を認め,細菌の気道粘膜上皮への定着および浸潤に関与している。そのリポオリゴ糖の位相変異により表出する phosphorylcholine(PC)は細菌の気道粘膜上皮への定着および浸潤に関わり,さらに中耳炎の罹患期間の遷延化をきたし難治化する原因となる。現在,PCを epitopeに表出するリポオリゴ糖の位相変異に伴い,中耳貯留液の性状に影響を与える事が示唆されている。今回,PCにおける無莢膜型インフルエンザ菌の位相変異とその中耳粘膜における粘液産生能に対する影響について,中耳粘膜を組織学的に検討することで中耳粘膜における杯細胞化への PCの影響を検討し,また中耳粘膜よりRNAを抽出した後にムチン遺伝子の発現に対する PCの影響についても検討したので報告する。

2.対象と方法HE染色およびWGA染色

Balb/cマウス中耳腔に PC-BSA(bovine serum albumin)および BSAを 10 μl(10 mg/ml)投与。投与後 1日,3日,1

週,2週にマウスの中耳貯留液および中耳骨胞を採取。HE

染色ならびにWGA染色にて中耳粘膜の組織学的評価をおこなうとともに,中耳粘膜に発現した杯細胞数を測定した。Mucin gene測定(real time RT-PCR)両群より採取した中耳粘膜から RNAを抽出し,Muc5ac,

Muc5b,Muc2,Muc19mRNAの表出について real time PCR

にて測定した。Controlは未処置マウス中耳粘膜とした。シアル酸ELISA

マウス中耳貯留液 50μlを 100μl PBSにて希釈後,100μl

を 96穴 ELISAプレートの各wellに入れ乾燥させた後に,PBS-Tweenに て 洗 浄 後,各wellに peroxidase標 識WGA

(1 :2000希釈)100μlにて一晩室温にて反応させた。PBS-

Tweenにて洗浄後,TBST試薬にて発色させ,405 nm波長にて吸光度を測定し,中耳貯留液中のシアル酸濃度につき比較をおこなった。

3.結果HE染色およびWGA染色

PC-BSA群において,中耳粘膜に発現する杯細胞数の増加傾向を認めた。

HE染色においては,処置後 1日目には両群とも中耳局所に炎症細胞浸潤を認めたが,3日目以降では炎症細胞浸潤は減弱していた。

WGA染色においては,両群ともに中耳粘膜上皮・杯細胞・中耳貯留液にWGA陽性像を認め,PC-BSA群において,杯細胞数の増加と中耳貯留液濃染像を認めた。Mucin gene測定(real time RT-PCR)

PC-BSA群において,Muc5ac,uc2mRNAの表出増強を認めた。シアル酸ELISA

3日目を除き,PC-BSA群において中耳貯留液中のシアル酸濃度の増加を認めた。

4.考察今回の検討において,PC-BSA群において中耳粘膜における杯細胞数の増加および中耳貯留液中のシアル酸濃度の増加を認め,mucin geneの表出の増強も認めた。PCが中耳粘膜における粘液産生能に影響を与えることが示唆された。

インフルエンザ菌位相変異による phosphorylcholine(PC)の中耳粘膜への影響

岩崎 太郎,平野  隆,児玉  悟,川野 利明,藤田 佳吾,鈴木 正志

大分大学医学部耳鼻咽喉科学講座

Effect of phosphorylcholine on mucin production and gene expressionin the middle ear in the mice

Iwasaki Taro, Akashi Hirano, Satoru Kodama, Masashi Suzuki

Department of Otolaryngology, Faculty of Medicine, Oita University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 189―190, 2011

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190 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

図 3 WGA染色(PC-BSA群)

図 4 WGA染色(BSA-control群)

図 1 HE染色(PC-BSA群)

図 2 HE染色(BSA-control群)

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-61

1.はじめにC57BL/6マウスは加齢による感音難聴の動物モデルとして広く使用されている。誘導型のNO合成酵素(NOS II)は,蝸牛の病的状態で発現し,構成型のNO合成酵素(NOS

I,III)と比べ大量のNOを産生する。また酸化ストレスは脳や心臓などさまざまな臓器で加齢変化に対する関与が報告されている。そこで今回,マウスモデルを用いて加齢による難聴に対して酸化ストレスの関与について検討した。

2.対象と方法7週齢,7–8ヶ月齢,12ヶ月齢の C57BL/6マウス(雌)を実験動物に用いた。麻酔後,ABRにて聴覚機能を評価したのち,内耳を 4%パラホルムアルデヒドで経心臓還流固定後摘出し,浸漬固定した。10% EDTAで脱灰したのちパラフィン包埋した。mid-modiolar section(8μm)を作製し,脱パラフィン後,LSAB法で免疫組織染色を行った。一次抗体には酸化ストレスのマーカーとして抗マロンデアルデヒド(MDA)抗体(rabbit polyclonal, Biotrend),抗 8-ヒドロキシグアノシン(8-OG)抗体(goat polyclonal, Natutec)を用い,さらに抗NOS II抗体(rabbit polyclonal, Biomol)を用いた。

DABで発色したのち光学顕微鏡下に観察を行った。蝸牛のタンパクの網羅的解析のため,7週齢,9ヶ月齢のC57BL/6マウスの蝸牛を摘出後,iTRAQ標識による質量分析(MS)1)により検討を行った。

3.結果ABRでは 7–8ヶ月齢および 12ヶ月齢では 7週齢と比べ,

click,4 k,6 k,8 k,12 kHzで有意(p<0.01)に聴力レベルの低下を認めた。免疫組織染色の結果では酸化ストレスマーカーであるMDAおよび 8-OGは,7週齢と比べ 7–8ヶ月齢および 12ヶ月齢の蝸牛ラセン神経節細胞では発現増強をみとめた。NOS IIは 7週齢と比べ 7–8ヶ月齢および

12ヶ月齢では,ラセン神経節や蝸牛外側壁,コルチ器で発現増強を認めた。蝸牛タンパクの網羅的解析では,GeneOntologyにより,タンパクの機能(molecular func tion),生物学的な役割(biological process)にわけ,機能分類を行うと,発現が低下しているタンパクでは,細胞内での代謝に関与するものが多かったミトコンドリア関連タンパクの発現減少とともに抗酸化作用を示すと考えられるペロキシレドキシンの発現低下も認めた。

4.考察活性酸素の細胞毒性(酸化ストレス)は脂質への障害は脂質過酸化,DNAの酸化に代表される。脂質過酸化のマーカーであるMDA,DNA酸化のマーカーである 8-OGは今回の検討では,7–8ヶ月齢,12ヶ月齢のマウス蝸牛(特にラセン神経節細胞)に発現増強しており,蝸牛での酸化ストレスの加齢による増加が示唆される。誘導型NOS(NOS

II)は構成型NOSと比べ,大量のNOを産生する2)。NOS

IIは 7–8ヶ月齢,12ヶ月齢のマウス蝸牛に発現増強しており,加齢マウスの蝸牛の細胞障害,細胞死への関与が疑われる。蝸牛タンパクの網羅的解析では,抗酸化作用を示すと考えられるペロキシレドキシンの発現低下も認め,酸化ストレスの増加に関与することが示唆された。細胞内での代謝に関与するものが多く,ミトコンドリア関連タンパクの発現低下を認めた。蝸牛での活性酸素産生低下のために,有効な抗酸化剤の投与をおこなうことは今後検討すべき課題である。

参考文献1) Swan EEL, Peppi M, et al. Proteomics analysis of perilymph and

cerebrospinal fl uid in mouse. Laryngoscope. 2009; 119: 953–8.

2) Gross SS, Kilbourn RG, et al. NO in septic shock: good, bad or

ugly? Learning from iNOS knockouts. Trends Microbiol. 1996; 4:

47–9.

加齢マウスにおける蝸牛プロテオミクス解析

寺西 正明,中島  務

名古屋大学耳鼻咽喉科学教室

Proteomics analysis on cochlea of the aged mice

Teranishi, M., Nakashima, T.

Dept. of Otorhinolaryngology, Nagoya University, Graduate School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 191, 2011

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-62

1.はじめにPFAPA症候群とは,周期性発熱(periodic fever),アフタ性口内炎(aphthous stomatitis),咽頭炎(pharyngitis),頸部リンパ節腫脹(cervical adenitis)を主症状とする症候群であり,乳幼児期に発症する1)。炎症を反復する自己炎症疾患(autoinfl ammatory desiese)に分類される疾患であり,感染や自己免疫などとは異なる2)。今回我々は扁摘が有効であった PFAPA症候群の 2症例を経験したので報告する。

2.対象と方法症例 1は 5歳 11か月の男児。主訴は周期的に繰り返す発熱であった。5歳 0か月頃より発熱を繰り返すようになり,5歳 9か月頃から近医総合病院小児科にて加療を受けるようになった。免疫不全等の精査を受けたが異常を認めず,精査加療目的で徳島赤十字病院小児科と耳鼻咽喉科に紹介となった。初診時は体重 19 kg。発達成長は問題なし。体温は 37.4 °C。咽頭発赤なし,扁桃は埋没型で膿栓なし。アフタ性口内炎なし,頸部リンパ節腫脹なし。当院を初診後 8か月の間に 12回の発熱発作を認め,入院した。発熱は突発的に起こり,38~40 °Cまで上昇し,5日間ほど持続した。発熱には著明な倦怠感を伴うが,解熱とともに軽快した。経過中にアフタ性口内炎も認めるようになったため,本症例を PFAPA症候群と診断した。発熱時にプレドニゾロン 1 mg/kgを点滴静注すると,数時間で解熱したが,

非発熱期間が短縮して次の発熱発作が出現した。そのため家族は 2回目以降のステロイド使用を希望しなかった。そこで 6才 6ヶ月時に扁摘およびアデノイド切除術を施行した。症例 2は 5歳 9ヶ月の男児。主訴は周期的に繰り返す発熱。3歳0ヶ月頃から月に1~2回の頻度で発熱を繰り返し,上気道炎などと診断されていた。3歳 10ヶ月頃から扁桃の発赤や白苔を伴うようになり,慢性扁桃炎と診断されるようになった。この頃から発熱に周期性がみられるようになり PFAPA症候群と診断され,5歳 9ヶ月時に扁摘目的で当科紹介となった。初診時に 38.9度の発熱あり。咽頭発赤あり,扁桃発赤と白苔の付着あり。頸部リンパ節腫脹なし。発熱時にプレドニゾロン 1 mg/kgを点滴静注すると速やかに解熱したが,発熱の反復を抑制することはできなかった。本人,家族と相談し5歳10ヶ月時に扁摘を行った。

3.結果症例 1の口蓋扁桃は埋没型であった。バイポーラーや剥離子を用いて定型的に手術を行った。術中に特記すべき異常所見はなく,術後経過も良好であった。術後 2週間目に38度台の発熱が一度だけ起こったが,以後 18ヶ月以上経過観察しているが周期性発熱を認めていない。症例 2の口蓋扁桃は I度肥大であった。コールドメスにて手術を行った。術中,術後に特記すべき異常を認めなかった。症例 2

において摘出した口蓋扁桃の病理組織検査を行うと,慢性

扁摘が有効であった自己炎症疾患 PFAPA症候群例

中野 誠一 1,雫  治彦 1,秋月 裕則 2,岩崎 英隆 2,七條 光市 3,生越 剛司 3,渡邉  力 3,中津 忠則 3,武田 憲昭 4

1JA高知病院

2徳島赤十字病院3徳島赤十字病院小児科

4徳島大学

PFAPA syndrome, an autoinfl ammatory disease treated using tonsillectomy

Seiichi Nakano1, Haruhiko Shizuku1, Hironori Akiduki2, Hidetaka Iwasaki2, Koichi Shichijou3,Takeshi Ogose3, Tsutomu Watanabe3, Tadanori Nakatsu3, Noriaki Takeda4

1 JA Kochi Hospital2 Tokushima Red Cross Hospital

3 Tokushima Red Cross Hospital Department of Pediatrics4 University of Tokushima School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 192―193, 2011

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193耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

炎症の所見のみで特記すべき組織学的な異常を認めなかった。術後 12ヶ月以上経過観察しているが周期性発熱は認めていない。

4.考察PFAPA症候群の病態としてサイトカイン調整機能異常が考えられている3,4)。TNF-α,IL-1β,IL-6などの pro-

infl ammatory cytokine,あるいは IFN-γなどの Th1 cytokine

が活性化するのに対し,anti-infl ammatory cytokineの IL-4

は増加しないことが多く,他の自己炎症疾患と同様にNF-κBの上流の自然免疫系炎症機構の関与が疑われている1,5)。我々の経験した 2症例においても,発熱に伴ってIL-1βや IL-6,IFN-γが増加していた。

PFAPA症候群などの自己炎症疾患では,好中球やマクロファージ内の細胞内センサーの遺伝子異常のために,NF-κB活性や IL-1などのサイトカイン調整の制御に異常が生じ,食細胞の異常や炎症性サイトカインの産生異常が生じるため,自然発生的に炎症が起こると考えられている2)。

PFAPA症候群の治療として扁摘やアデノイド切除が著効すると報告されている。ランダム化比較試験により,扁摘のみ6)または扁摘とアデノイド切除術7)を併用することが PFAPA症候群に有効であることが証明されている。

これらの手術治療が著効するということは,扁桃やアデノイドの組織において,好中球やマクロファージに進入した外来抗原の刺激がトリガーとなり,細胞内センサーの異常を誘発している可能性があると考えられる。この外来抗原刺激の除去効果が,PFAPA症候群に対して扁摘やアデノイドが著効する理由と考えられた。

参考文献1) 村田卓士,岡本奈美,他.PFAPAの診断と治療.日臨免疫会誌 2007; 30: 101–7.

2) 上松一永.自己炎症疾患の臨床像.日臨免疫会誌 2007; 30:

63–7.

3) 原美智子,岡 尚記,他.PFAPA症候群の 1例におけるサイトカインの経時的変動の解析.日児誌 2006; 110: 939–44.

4) Stojanov S, Hoffmann F, et al. Cytokine profi le in PFAPA syndrome

suggests continuous infl ammation and reduced anti-infl ammatory

response. Eur Cytokine Netw. 2006; 17: 90–7.

5) 久保伸夫,金子一成.PFAPAと自己炎症疾患.耳鼻臨床2008; 101: 395–407.

6) Renko M, Salo E, et al. A randomized, controlled trial of tonsil-

lectomy in periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and

adenitis syndrome. J Pediatr. 2007; 151: 289–92.

7) Garavello W, Romagnoli M, et al. Effectiveness of adenotonsil-

lectomy in PFAPA syndrome. J Pediatr. 2009; 155: 250–3.

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-63

1.はじめにPFAPA(Periodic fever, Aphtous stomatitis, Pharyngitis,

Adenitis)症候群は主症状である周期的な発熱,アフタ性口内炎,咽頭炎,頸部リンパ節炎の頭文字に由来する乳幼児期に発症する非遺伝性の自己炎症性疾患である。まだ原因や治療法は確立していないが,最近発熱発作予防にシメチジンの定期内服が効果的との報告があるが,その有効性は症例によって異なり,まだ本邦での報告は少ない。今回,シメチジン定期内服が無効で周期的な発熱発作を繰り返しその際扁桃に膿栓を認めたため,アデイド切除術および両側口蓋扁桃摘出術を施行したところ有効であった PFAPA

症候群の 1症例を経験したので報告する。

2.症例症例:8歳 2ヵ月 男児既往歴:自閉症家族歴:兄が脳性麻痺,近親者に周期性発熱の既往なし。現病歴:2007年 3月より紫斑病性腎炎,ネフローゼ症候群として当院小児科で加療。尿蛋白,尿潜血陽性のためPSL内服を開始した。2007年 9月より発熱を周期的に反復し,発熱時には扁桃炎症状を伴うこともあった(図 1)。2009年 10月より,20日前後の周期で扁桃炎を反復し,PFAPA症候群の疑いでシメチジン内服加療を受けていた。その後も発熱・扁桃炎症状を繰り返すため,扁桃摘出術目的に当科紹介され,2010年 8月 3日手術目的に当科入院となる。入院時現症:身長 123 cm(−0.5 SD),体重 26.9 kg(+0.1

SD),体温 36.6 °C

口腔内に異常所見なし,口蓋扁桃Mc. II °頸部リンパ節を触知しない検査所見:咽頭細菌培養検:Normal Flora

胸部X線:明らかな異常所見を認めない血液検査所見:免疫グロブリンおよびサイトカイン(TNF,IFN,IL-6)に異常を認めなかった。臨床経過:2010年 8月 5日全身麻酔下にアデノイド切除術および両側口蓋扁桃摘出術を施行された。術後経過良好にて 8月 14日当科退院となる。その後,8か月経過しているが術前に認められた周期性発熱は全く生じていない。病理組織学検査:慢性扁桃炎に特徴的な濾胞の増殖と間質の線維化などの非特異的な炎症症所見のみが認められた(図 2)。

3.考察周期性発熱(Periodic Fever),アフタ性口内炎(Aphthous

stomatitis),咽頭炎(Pharyngitis),頸部リンパ節炎(Adenitis)を主症状とし,約 80%が 5歳以下の乳幼児期に発症する。3~8週の間欠期をおいて発熱を周期的に反復し,発熱期間は約 3~6日間である。発熱時には口内炎,頸部リンパ節炎,咽頭炎,扁桃炎などの症状を伴うが,間欠期には無症状である。PFAPA症候群と鑑別を要する周期的発熱疾患として ①家族性地中海熱,②高 IgD症候群,③TNF受容体関連周期性発熱症候群などがあり,これらの疾患を念頭に置いて診断と治療を勧める必要がある(表 1)。近年,サイトカインの調節機構の異常が発症に関与していると報告されているが,PFAPA症候群の原因は未だに不明である。治療法であるが,ステロイドの内服による著効例の報告が多いが,有熱期間を短縮させる効果はあるものの,発作の反復を予防する効果はない。発作の予防にはシメチジン,扁桃摘出術,サリドマイドなどの有効例が報告されている。予後は良好であり,発症後 4~8年で自然治癒する。

PFAPA症候群の 1症例

太田 伸男,鈴木 祐輔,八鍬 修一,渡邊 知緒,伊藤  吏,石田 晃弘,窪田 俊憲,大竹 悟史,青柳  優

山形大学医学部情報構造統御学講座耳鼻咽喉頭頚部外科学分野

A case of PFAPA syndrome

Dept. of Otolaryngology, Yamagata Univ. School of Medicine

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 194―195, 2011

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195耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

4.まとめ周期的な発熱に扁桃炎症状を伴っており PFAPA症候群と診断した。シメチジン内服を行っていたが,発熱のコントロールが得られなかったため,口蓋扁桃摘出術を施行した。術後は発熱なく経過しており,扁桃摘出術が有効であったと考えるが,今後長期的な経過を観察する必要がある。

参考文献1) Peridis S, et al. PFAPA syndrome in children: A met-anlysis on

surgical versus medical treatment. Int J Pediatr Otorhinolaryngol.

2010; 74(11): 1203–8.

2) Bharti B, et al. Randomized trial of adenotonsillectomy versus

expectant treatment in PFAPA syndrome: is the impasse over? J

Pediatr. 2010; 156(4): 689–90.

3) Thomas KT, et al. Periodic fever syndrome in children. J Pedatr.

1999; 135(1): 15–21.

図 1 発熱カレンダー

表 1 PFAPA症候群の診断基準

術中所見

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©2011 Japan Society of Immunology & Allergology in Otolaryngology

第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-64

1.はじめにIgA腎症は掌蹠膿疱症とならぶ代表的扁桃病巣疾患であり,近年扁桃摘出術とステロイドパルス療法を組み合わせた治療法の有効性が各施設にて報告されている。しかし,口蓋扁桃を病巣としたその発症機序の全貌に関してはまだ明らかになっていない。IgA腎症患者の扁桃リンパ球はIgAを過剰に産生することが知られている。その過剰産生のメカニズムとして,我々は T細胞非依存性にイムノグロブリンの産生を亢進させる BAFF(B-cell activating factor)に着目し,細菌由来DNAの刺激にて BAFFが IgA腎症扁桃から過剰産生され,IgA産生増加に寄与していることを報告した1)。近年,より選択的に IgAの産生を促すAPRIL

(a proliferation-inducing ligand)が同定され,IgA腎症の病態との関与が報告されている。しかし,IgA腎症扁桃におけるAPRILを検討した報告はない。今回我々は,扁桃リンパ球におけるAPRILの発現,さらに細菌由来DNA刺激における産生を検討したので,文献的考察も含めて報告する。

2.対象と方法IgA腎症(IgAN)8名(男性 4名,女性 4名,年齢 18~

65歳,中央値 38歳),習慣性扁桃炎(RT)8名(男性 5名,女性 3名,年齢 36~46歳,中央値 40歳)から得られた口蓋扁桃を使用した。まず,比重遠沈法にて扁桃単核球を分離し,無刺激,CpG-ODN(Deoxycytidyl-deoxyguanosine oligo-

deoxynucleotides)刺激,コントロール―ODN刺激下にて48時間培養し,上清を回収,APRIL濃度を ELISA(Bender

MedSystems GmbH)にて測定した。また,単核球から磁気ビーズ(Dynabeads Untouched Human B Cells)によりB細胞を分離し,抗ヒトToll like receptor(TLR)9抗体(LifeSpan

BioSciences)にて細胞内染色後,フローサイトメトリーにて測定を行った。

3.結果IgA腎症群において無刺激培養下においても培養上清の

APRIL発現が亢進していた(p=0.09)。また CpG-ODN刺激においてもAPRIL産生は亢進したが,有意差は認められなかった。扁桃B細胞内での TLR 9の発現は,IgA腎症群にて有意に亢進していた。

4.考察IgA腎症扁桃単核球は単純培養下においても IgAの産生が亢進していることが報告されている2)。APRILも無刺激下にて産生が亢進していたことから,IgA産生亢進に関与している可能性が示唆される。今後中和抗体等を使用して検討を続ける予定である。また,CpG-ODNは B細胞内のTLR 9に結合し,APRIL受容体であるTACI(Transmembrane

activator/calcium modulator and cyclophilin ligand interactor)の発現を高め,その感受性を亢進させることが報告されている3)。今回,B細胞内 TLR 9の発現が亢進していたことは,APRILの発現自体に加え,その受容体の亢進も IgAの産生に関与している可能性が示唆される。今後は受容体自体の発現についても検討していく予定である。

参考文献1) Goto T, Bandoh N, et al. Increase in B-cell-activation factor (BAFF)

and IFN-gamma productions by tonsillar mononuclear cells

stimulated with CpG-ODN in patients with IgA nephropathy. Clin

Immunol. 2008; 126: 260–9.

2) Egido J, Blasco R, et al. Immunological abnormalities in the tonsils

of patients with IgA nephropathy: inversion in the ratio of IgA: IgG

bearing lymphocytes and increased polymeric IgA synthesis. Clin

Exp Immunol. 1984; 57: 101–7.

3) Katsenelson N, Kanswal S, et al. Synthetic CpG oligodeoxynu-

cleotides augment BAFF- and APRIL-mediated immunoglobulin

secretion. Eur J Immunol. 2007; 37: 1785–95.

IgA腎症における APRIL(A ProlifeRation-Inducing Ligand)の検討

高原  幹,吉野 和美,長門 利純,岸部  幹,原渕 保明

旭川医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科

APRIL (A ProlifeRation-Inducing Ligand) in tonsils from IgA nephropathy patients

Miki Takahara, Kazumi Yoshino, Toshihiro Nagato, Kan Kishibe, Yasuaki Harabuchi

Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Asahikawa Medical University

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 196―197, 2011

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197耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

図 2 扁桃 B細胞内の TLR 9発現。磁気ビーズにより B細胞を分離し,フローサイトメトリーにて測定を行った。その結果,TLR

9発現は IgA腎症群にて有意に亢進していた。

図 1 CpG-ODN刺激による扁桃単核球からの APRILの産生。分離した扁桃単核球を無刺激,CpG-ODN刺激,コントロール―ODN刺激下にて 48時間培養し,上清を回収,APRIL濃度を測定した。単純培養においても IgA腎症群での APRIL産生が亢進している傾向が認められた。

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第 29回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会 一般ポスター P-65

1.はじめに全身の軟骨および軟骨類似組織に炎症を来たす再発性多発性軟骨炎症例の約 20~30%は死に至り,死因の大多数は気道病変由来である。気道軟骨病変は気管・気管支のみならず喉頭軟骨も標的臓器となる。今回,我々は比較的稀な喉頭蓋の変形を来たした症例を経験したので報告する。

2.症例(76歳,男性)現病歴

2010年 5月 10日右耳介腫脹と鼻閉のため,近医耳鼻咽喉科を受診した。右耳介炎・鼻中隔膿瘍を認め抗生剤およびNSAIDにて加療を開始したが,病態が改善しないため7月 7日当科紹介受診となった。尚,症例は同年 1月頃より咳嗽・痰のため近医内科での加療を,同年 4月より右強膜炎のため近医眼科での加療を受けていた。特記すべき既往歴はなかったが,認知症を合併していた。現症右耳介軟骨の著しい腫脹および右外耳孔の狭小化,右軟骨部外耳道の発赤,鼻中隔膿瘍,右眼球結膜充血,喉頭蓋の軽度肥厚,両声帯の軽度発赤を認めた。両鼓膜・口腔・咽頭は異常所見を認めず,感音難聴も認めなかった。なおCRPは8.63 mg/dl,白血球は9400 cells/mlであった。喉頭は,喉頭蓋の軽度肥厚と両声帯の軽度発赤を認めた。胸部 CT

では気管および主気管支の壁の肥厚および変形を認めた。頭頚部 CTにて鼻中隔膿瘍および右耳介の不均一な造影効果を伴う腫大を認めた。経過耳介症状と炎症反応は改善傾向を示していたため抗生剤・NSAIDによる治療を継続したが,7月 28日右耳介腫脹の再燃を来たした。再燃後の耳介軟骨生検で再発性多発性軟骨炎に矛盾しなかったため,当院リウマチ科入院にてプレドニン(以下 PSL)30 mgの全身投与を開始した。PSL

投与開始 2日目は耳介・鼻中隔に大きな変化は認めなかったが,5日目は右耳介腫脹の著名改善および鼻中隔膿瘍の消失と鞍鼻の形成を認めた。尚 5日目は呼吸器症状に変化がなかったため,喉頭の評価は行わなかった。その次の診察は症例の都合により PSL開始約 4週間後となった。呼吸器症状に変化はなかったが,PSL投与開始時からの誤嚥が判明し,視診にて喉頭蓋の著しい変形を確認した。その後,喉頭蓋変形の増悪は認めなかったが,PSLの漸減に伴い炎症反応の増悪を認めたため免疫抑制剤の併用を要した。

3.考察再発性多発性軟骨炎の診断基準にある標的臓器病変の経過中に出現する頻度は,耳介軟骨が約 80~90%で最も多く,以下,関節(約 80%)・鼻軟骨(約 70%)・眼窩内(約65%)・気道軟骨(約 55%)・内耳障害(約 45%)の順であり1),気道軟骨炎は稀な病変ではない。一般に本疾患の死亡率は 20~30%であり,死因の約 8割は気道病変由来と報告されている2)。病初期の軟骨病変は軟骨周囲炎・軟骨炎・軟骨融解を示し,進行すると軟骨壊死・線維化が生じ不可逆性となる。このため気道軟骨では,その支持機能が消失し,気道狭窄などが出現する3)。気道病変を有する症例の約 30%は気管切開術を要し1),呼吸器症状が出現している症例の約半数は喉頭病変を有すると報告されている3)。喉頭病変の種類とその頻度は,声門上の発赤・腫脹

65.3%,声門の発赤・腫脹 61.5%,声門下の発赤・腫脹23.1%,声帯運動障害 15.4%,喉頭蓋の変形 15.4%,甲状軟骨の圧痛・疼痛 7.7%であり3),喉頭蓋変形の頻度は低い。本症例の喉頭蓋変形の発見までに時間を要した。これは,本症例の呼吸器症状が乏しく,本疾患には誤嚥を訴える症例が少ないため,患者への注意が弱くなったことが原因であった。

喉頭蓋の変形を来たした再発性多発性軟骨炎の一例

前田 昌紀,本間 あや,愛宕 義浩,山田 和之,吉村  理

市立札幌病院耳鼻いんこう科

A case of relapsing polychondritis with deformation of epiglottis

Maeda, M., Honma, A., Atago, Y., Yamada, K., Yoshimura, T.

Dept. of Otolaryngology, Sapporo City General Hospital

耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 29(2): 198―199, 2011

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199耳鼻免疫アレルギー(JJIAO) 2011: 29(2)

4.結語・ 喉頭蓋の変形を来たした再発性多発性軟骨炎の 1例を経験した。・ 本症例のように呼吸器症状に乏しく誤嚥のみを訴える例もあり,喉頭所見の変化にも注意を払う必要があると考えられた。

参考文献1) McAdam LP, O’Hanlan MA, et al. Relapsing polychondritis: pro-

spec tive study of 23 patients and a review of the literature. Medicine.

1976; 55: 193–215.

2) 鈴木光子,内田和仁,他.頑固な肋軟骨部痛で発症し,高度気管狭窄症状を示した反復性多発軟骨炎(Relapsing Poly-

chondritis)の 1例―本邦 53例の文献的考察―.日胸疾会誌1983; 21: 665–71.

3) 角田信篤,荒木信彦,他.声門下狭窄にて発症した再発性軟骨炎(Relapsing Polychondritis)の 1例.日気食会報 1991; 4:

497–502.