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URL 本紙は、下記のアドレスからでもご覧いただけます。 ファッションレポート カウンター消費 REPORT REPORT 5 6 SYMPOSIUM TOPICS 2009年 繊維・ファッション市場展望 1-3 2009 毎月 1 回発行 vol.585 since 1960 ■発行/繊維経営企画部 ■大阪市中央区久太郎町 4-1-3 ■TEL06-6241-2027 ■FAX06-6241-2008 1 Vol.585 Contents NEWS CLIPPING 「初代/二代伊藤忠兵衛展」を開催 小林栄三社長が講演 4 海外報告 モスクワ 世界一物価の高い都市から 発行所 2009【出席者】 代表取締役専務 繊維カンパニープレジデント 岡藤 正広 常務執行役員 同エグゼクティブバイスプレジデント兼ブランドマーケティング第二部門長 佐々 和秀 執行役員 繊維原料・テキスタイル部門長 小関 秀一 執行役員 ファッションアパレル部門長 岡本 ブランドマーケティング第一部門長 大津寄正登 新年あけましておめでとうございます。2008年の上期は、万年不況といわれる繊維業界でも手応えが感じられるスタートを見せましたが、9 月15日のリーマンショックに端を発した世界同時不況の影響で、短期間に繊維を取り巻く環境は大きく様変わりしました。「繊維月報」新年号は、 繊維カンパニープレジデントの岡藤正広を囲み、繊維カンパニー4部門長が2008年の繊維・ファッション市場の特徴を回顧しながら、2009年 の市場を展望しました。 2008年 ヒットの理由 岡藤 あけましておめでとうございます。 2009年の展望に入る前に、2008年がどのよう な年であったか振り返っておこうと思います。 日経平均株価をみると、年初の1月4日の 高 値1万4691円が 結 果 的に最 高 値となり、 10月27日にはその半値の最安値7162円をつ け、その後は8000円台で推移し、越年する 結果となりました。原油価格に至っては大暴 騰し、7月11日に1バレル147ドルに達したもの の、12月には40ドルを割り込むまで下がるとい う大反落を見せました。 リーマンショック以降、実体経済へ波及し、 製造業などでの大幅人員削減発表など雇 用不安も年末にかけて表面化し、消費者は 生活防衛意識を強めてきました。ただ、そ うしたなかでも好調な売れ行きを示す商品・ サービスもあり、各分野でマダラ模様となっ ています。 昨年のヒット商品を振り返り、そのヒットの 理由をさぐることで、2009年に向けたビジネス のヒントが探れるかもしれません。まず、川 上分野から振り返ってもらうと。 オーガニックで『エコ』 小関 全体的には年初から厳しい状況が 続き、小売り・アパレルの商品発注絞り込み がテキスタイル産地の受注減につながり、とく に9月以降は消費マインドが急速に低下、厳 しさを増してきました。1~3月はもっと厳しくな ると覚悟しています。産地企業は存続を問わ れるほどシリアスな場面を迎える局面も考えね ばなりません。 そうしたなかでヒットし、話題となった商品 もあります。香港のITM(伊藤忠繊維原料 亜州)が手掛けたオーガニックコットンやプレ オーガニックコットンに対して消費者が認知し 始めました。オーガニックコットンは3年間、無 農薬・無化学肥料で栽培した綿花を指しま すが、「プレ」の試みはこの3年間、農民を 支援していこうとするプロジェクトです。インド で紡績していますが、合弁紡績のパットスピ ンは電力の3分の1を自前の風力発電で賄っ ており、こうした“ストーリー性”が顧客に好評 でした。 同じ綿がらみでは、インナー製造のロイネ が大手SPAに供給した、従来はほとんど廃 棄されていた未利用綿(落ち綿)を使った 肌着が前年比倍増の売り上げとなりました。 開発からロイネが携わり、レーヨンを絡めると いう工夫により落ち綿とはいえ柔らかく、高品 質を実現したことが評価されました。

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URL本紙は、下記のアドレスからでもご覧いただけます。

ファッションレポート カウンター消費

REPORT

REPORT

5

6

SYMPOSIUM

TOPICS

2009年 繊維・ファッション市場展望 1-3

2009

毎月1回発行

vol.585

since 1960

■発行/繊維経営企画部

■大阪市中央区久太郎町4-1-3

■TEL06-6241-2027

■FAX06-6241-2008  1

V o l . 5 8 5 C o n t e n t s

NEWS CLIPPING 「初代/二代伊藤忠兵衛展」を開催 小林栄三社長が講演 4

海外報告 モスクワ 世界一物価の高い都市から

発行所

アイデア・工夫がカギに

2009年

繊維・ファッション市場展望

【出席者】 代表取締役専務 繊維カンパニープレジデント 岡藤 正広 常務執行役員 同エグゼクティブバイスプレジデント兼ブランドマーケティング第二部門長 佐々 和秀 執行役員 繊維原料・テキスタイル部門長 小関 秀一 執行役員 ファッションアパレル部門長 岡本  均 ブランドマーケティング第一部門長 大津寄正登

 新年あけましておめでとうございます。2008年の上期は、万年不況といわれる繊維業界でも手応えが感じられるスタートを見せましたが、9月15日のリーマンショックに端を発した世界同時不況の影響で、短期間に繊維を取り巻く環境は大きく様変わりしました。「繊維月報」新年号は、繊維カンパニープレジデントの岡藤正広を囲み、繊維カンパニー4部門長が2008年の繊維・ファッション市場の特徴を回顧しながら、2009年の市場を展望しました。

2008年 ヒットの理由 岡藤 あけましておめでとうございます。2009年の展望に入る前に、2008年がどのような年であったか振り返っておこうと思います。 日経平均株価をみると、年初の1月4日の高値1万4691円が結果的に最高値となり、10月27日にはその半値の最安値7162円をつけ、その後は8000円台で推移し、越年する結果となりました。原油価格に至っては大暴騰し、7月11日に1バレル147ドルに達したものの、12月には40ドルを割り込むまで下がるという大反落を見せました。 リーマンショック以降、実体経済へ波及し、製造業などでの大幅人員削減発表など雇用不安も年末にかけて表面化し、消費者は生活防衛意識を強めてきました。ただ、そうしたなかでも好調な売れ行きを示す商品・

サービスもあり、各分野でマダラ模様となっています。 昨年のヒット商品を振り返り、そのヒットの理由をさぐることで、2009年に向けたビジネスのヒントが探れるかもしれません。まず、川上分野から振り返ってもらうと。

オーガニックで『エコ』 小関 全体的には年初から厳しい状況が続き、小売り・アパレルの商品発注絞り込みがテキスタイル産地の受注減につながり、とくに9月以降は消費マインドが急速に低下、厳しさを増してきました。1~3月はもっと厳しくなると覚悟しています。産地企業は存続を問われるほどシリアスな場面を迎える局面も考えねばなりません。 そうしたなかでヒットし、話題となった商品

もあります。香港のITM(伊藤忠繊維原料亜州)が手掛けたオーガニックコットンやプレオーガニックコットンに対して消費者が認知し始めました。オーガニックコットンは3年間、無農薬・無化学肥料で栽培した綿花を指しますが、「プレ」の試みはこの3年間、農民を支援していこうとするプロジェクトです。インドで紡績していますが、合弁紡績のパットスピンは電力の3分の1を自前の風力発電で賄っており、こうした“ストーリー性”が顧客に好評でした。 同じ綿がらみでは、インナー製造のロイネが大手SPAに供給した、従来はほとんど廃棄されていた未利用綿(落ち綿)を使った肌着が前年比倍増の売り上げとなりました。開発からロイネが携わり、レーヨンを絡めるという工夫により落ち綿とはいえ柔らかく、高品質を実現したことが評価されました。

代表取締役専務 繊維カンパニープレジデント

岡藤

正広

執行役員 繊維原料・テキスタイル部門長

小関

秀一

2 2009年 繊維・ファッション市場展望2009年(平成21年)1月号

『機能』はちょっとした工夫 岡藤 産地でのトピックスは。 小関 温水シャワーで洗えるスーツがヒットしました。これは愛知県一宮市の機業のちょっとしたアイデアが生かされたものです。このほかワコールのはくだけで痩せる「クロスウォーカー」が大ヒットしましたが、これは北陸産地との共同開発による編み地に工夫がありました。ダブルラッセルでは福井の八田経編が開発した強度を保ちながら超軽量を実現した素材が、スポーツ系スニーカーで製品に使用され、一流選手にも愛用されています。

 また、産地におけるブランディングが意欲的に進められ、成果を上げてきました。「今治タオル」「泉州タオル」「播州織」などがその代表的な事例で、新しい産地像を模索する動きを続けています。 岡藤 オーガニックコットンの浸透は『環境・エコ』への意識の高まりが進んだためでしょう。そして『明確な機能』がクロスウォーカーのヒットにつながったといえます。五輪前に話題となったスピードの水着「レーザーレーサー」もそうです。また、ユニクロの「ヒートテック」「ブラトップ」や先ほどのシャワーで洗えるスーツは、リーズナブルな価格に機

欧州のスーパーブランドといえども例外ではなく、売り上げの2ケタ%下落、直営店でのディスカウントといったこれまでなら考えられないような事態となりました。また、170円から一時110円台まで下がった円高ユーロ安から、“円高還元値下げ”を通じて売り上げのてこ入れを図っていますが、長期的な戦略ではありません。 当社関連での動きを見ると、「コンバース」のシューズが好調でした。定番の「ALL STAR カラーズ」は販売見込み7万足に対して受注は2倍の14万足に達しました。中敷やソールなどのスペックを改め、見た目は変わらないのに機能が向上したのが理由です。ヒールのあるレディススニーカーも7万足と計画を4割上回る販売を達成しました。これまでの顧客以外の、普段スニーカーを履かない層に受け入れられたものです。 そしてマスコミにも大きく取り上げられた伊勢丹とのコンバース誕生100周年コラボレーション企画です。初日開店前に300人が行列したことが話題を呼びました。伊勢丹とは初の取引でしたが、『今しか買えない/限定商品』ということで脚光を浴びました。 このほか、シューズの大手小売チェーンの中で、地価下落、賃貸料低下という背景から出店攻勢をかけると同時に、消費者に訴求力のあるブランドシューズと価格と品質に優れた自社ブランドをバランスよく展開し増収増益を達成されているところがありますが、「コンバース」も多少とも貢献できたことをうれしく思っています。 「メリッサ」とのコラボによる「ヴィヴィアンウェストウッド」のブラジル製ラバーシューズは、08秋冬だけで2000足(小売価格約3500万円)売れました。09春夏に向けて大幅な発注増となり、小売価格で1億円を超える見込みです。ファッション性と価格のバランスが優れ、『お買い得感』をかもし出したものです。また、メルボメンズウェアーが展開する「麻布テーラー」は、生地・スタイルにこだわりを持ち、『隠れ家』を思わせる店舗で紳士スーツをオーダーするプロセスも楽しめるスタイルが口コミからファッション雑誌でも評判となり、21店舗で売り上げ32億円と前年比10%増を達成しました。これも商品、ファッション性と価格のバランスがこなれたものといえます。 また、「ポールスミス」のライセンス(シチズン)でのスイス製時計が好調です。従来の市場はスイス製高級時計(30万円以上)もしくは日本・中国製のファッション時計(5万円以下)に二極化していましたが、スイス製で10万円前後という価格設定がその背景にあります。本物でしかも価格がこなれている点が評価さ

れたといえます。 50周年企画の復活柄による「ミラショーン」のヒットも挙げておきたい。仕掛け・販促の成果でもありますが、前述の「麻布テーラー」のプレスのうまさも特筆されます。環境関連では「ハンティングワールド」のボルネオチャリティーバッグが1年で2万点(小売価格約3億円)売れたことも驚きです。 岡藤 「ランバン」「ヴィヴィアンウェストウッド」などは歴史があり、アイデンティティーが確立したしっかりしたブランドが本物の強みを生かしたといえます。

「ライフスタイル」に注目 佐々 東京のブランドマーケティング第二部門は、ブランドビジネスに加え、繊維資材、ライフスタイル系の商品を扱っています。先ほどから『環境・エコ』関連の商材が話題に上っていますが、当部門でも同様です。ブランドでは「キャサリン・ハムネット」がエコロジーを追求するなかでオーガニックを採用、2008年度は前年比112%の売り上げを確保するなど好調でした。 資材関連ではクールルーフネットが脚光を浴びました。コンビニエンスストアなどの平屋根に同ネットをかけ、熱を遮断することでエネルギー効率を上げる工夫です。寝具でも冷却ジェルマットが暑い夏の夜を癒す道具としてヒットしました。温暖化する地球環境に対して、こうした商品は今後とも市場に浸透していくと思われます。 ライフスタイルといえば、ガソリン価格の高騰などで外出を控え、家の中で楽しむという『巣ごもり消費』も特徴でした。生活防衛の産物ともいえるものですが、雑貨アイテムの売り場がショッピングセンターや量販店で広がりました。量販店でマグカップやステンレスボトル、タオル、バッグのセット販売が好調という話もあります。ディーン&デルーカでもマグカップが好調に売れたという報告もあり、このほかフランスのホーロー鍋などの料理雑貨がヒットしたようです。マグカップのヒットは、「マイカップ」を使用する「エコ」が「節約」というとらえ方でなく、美意識、おしゃれとして根づき始めた象徴と受け取れます。

ファンドの終焉 岡藤 商品ではありませんが、2008年を特徴づけるものとして、「ファンドの終焉」がありました。成長事業を中心に内外ファンドが市場に参入し、繊維産業にも進出してきましたが、結果的にうまくいったケースが少なかったことは否めません。

ブランドマーケティング第一部門長

大津寄

正登

能をプラスして消費者から高い評価を受けました。安くてファッショナブルとして受けたH&Mしかり、『お買い得感』の重要性を示唆しているといえます。 ファッションアパレル部門でのトピックスは。

『お買い得感』も大事な要素 岡本 全般に厳しい一年でした。ファッションアパレル部門はメンズ・レディス・スポーツのOEMとユニフォームを手がけています。メンズは3月ごろまで良かったものの、4月以降暗転。レディスはとくに百貨店向けエレガンス系が軒並み打たれた一年でした。 一昨年あたりから注目を浴びた服飾雑貨ですが、昨年はバッグ、靴、アクセサリーなどは価格帯が安いものを含め不振でした。その一方で、昨年と同じ服を新しく見せる効果のあるストール、柄・色タイツがヒットしました。これは『お買い得感』に分類されるでしょう。また、服の傾向がよりカジュアル化したことの表われかもしれません。 スポーツは堅調で、なかでも女子ゴルフ、

ランニングが好調でした。ただ業界では五輪効果はあまりなかった、とされています。ユニフォームは2006年の受注分が寄与し堅調でしたが、9月以降完全に潮目が変わったといえます。製造業を中心に更新需要が厳しくなってきました。 岡藤 ゴルフを中心とするスポーツは昨年も良かったようです。石川遼選手が着用する「ヨネックス」のウエアの売り上げが前年比4倍増となり、横峯さくら選手の「ルコックゴルフ」や上田桃子選手の「パーリーゲイツ」など、スタープレーヤーに対する『憧れ』もヒットのキーワードになりそうです。ブランドマーケティング分野ではどうですか。

『今しか買えない/限定商品』 大津寄 07秋冬物以来、インポート、ライセンスビジネスともに、独自性やストーリーのあるブランドでなければ売れないという観がありましたが、9月のリーマンショックといった金融危機から実体経済へ影響が及ぶにつれ、急激に市況が悪化してきたのが現状です。

32009年 繊維・ファッション市場展望2009年(平成21年)1月号

常務執行役員

繊維カンパニーエグゼクティブバイスプレジデント

兼ブランドマーケティング第二部門長

佐々

和秀

執行役員 ファッションアパレル部門長

岡本 均

 岡本 当社の取引先にもファンドが参入し、そのうちの一社の三景は結局、当社が買収する形で傘下入りしました。ファンドの良しあしは別にして、お金を投入しただけで企業が再建できるほど単純なものではありません。今後は三景の機能をフル活用いただけるよう支援していきたいと考えています。 岡藤 金余り現象が世界的にファンドの登場を促したわけですが、最後に参入した繊維にはいかんせんその手法が通じなかった。一般企業経営者とファンドとはそもそも考え方が逆転しています。PL(損益計算書)を例に見ると、売上高は「お客さま」に当たります。つまり、お客さまに販売してはじめて売り上げ

が立つ部分です。そこから仕入先にお支払いする仕入原価を引いて粗利益が計上され、販売経費や人件費等を引いて税引き前利益となります。そこから税金等を払い、利益金処分として株式配当、役員賞与等が決定されます。 ところが誤解を恐れずに言えば、多くのファンドはボトムラインであるべき配当や自らの収入を先に考え、仕入先や社員を犠牲にして経費をできるだけ抑えていく、また、売り上げを伸ばすための長期的な投資をしないなど、PLの上部に当たる部分を基本的に犠牲にしていく考え方です。1980年当時、米国企業におけるCEOの報酬は一般労働者の42

 佐々 体内に取り込む食品について、消費者は神経質になっています。中国ギョーザ事件が記憶に新しいところですが、衣料にもそれが影響してきました。 小関 例えば肌着のロイネは年間3500万枚の肌着を販売していますが、直接肌に触れるものですので、念には念を入れて『安心・安全』には気を遣っています。 岡藤 カシミヤ製品で異繊維が混入する事件が後を絶ちません。昨年も一流の百貨店や有力アパレルが扱った商品で表面化しました。衣料品でも「しっかりしたところから買いたい」という気持ちを消費者に一段と高めさせた観があります。 岡本 安心・安全といえば、ユニフォームにおけるICチップの使われ方が変化してきました。企業ユニフォームなどは別注が大半です。昨年、宅配便の配達を装った男が元厚生事務次官や家族を殺傷するという不幸な事件がありました。あの事件以来、宅配便の配達時に自宅玄関を開けてもらえないケースが増えたと聞きます。市販のものは別にして、流出した企業ユニフォームがネットなどで知らず知らずのうちに売買され、それによってトラブルが起きれば、その流出企業にとって重大な損害が発生します。ユニフォームが廃棄されるまでトレースするためにICチップを内蔵させ、管理していく手法が急速に広まりました。元来、物流の円滑化、合理化狙いだったICチップがトラブル防止へと使われ方が変化したものです。 大津寄 高級ブランド製品にもICチップが使用され始めました。これは主に偽物防止対策ですが、ICチップの低価格化でさらに広がる見通しです。

2009年 マーケットはどうなる 岡藤 この2008年の傾向を踏まえて、2009年のマーケットはどうなるか占ってほしい。 小関 金融危機の広がりが実体経済を疲弊させ、市場の委縮は避けられません。繊維の川上・川中を展望した場合、単純に“メードイン・ジャパン”だからといって売れる環境にはありません。価格、機能にさらになんらかの付加価値を付けないと行き詰まってしまう。販売数量が減っても商品・サービスで特化しなければ存在さえ危うくなるほど状況はシリアスです。 生産地では中国が今後とも軸となるのは変わりませんが、“一辺倒”から脱却する動きは続くと思われます。その候補地としてベトナムなどアセアン地域が引き続き浮上してきそうです。コスト以外の安心・安全も考慮に入れながら産地移動が進む図式です。 岡本 環境・エコに関してはもう一歩進

み、「カーボン・オフセット」という考え方や商品・サービスに二酸化炭素排出量を表記する「カーボン・フットプリント」がさらに一般化しそうです。それに対応して商品・サービスを進化させねばなりません。 作り場ではチャイナ・プラスワンを模索する動きが継続しますが、人権感覚や倫理感覚がより望まれ、CSR(企業の社会的責任)経営を踏まえたモノ作り拠点の確立が課題となります。同時に、従来の価格競争力や品質での優位性を併せ持つことが重要で、そこに伊藤忠の特性を見いだしていくべきだと考えます。 大津寄 高価格品にとって逆風が一段と強まると予想されますが、常にアップデートしたものを提供していく必要があります。ファッション性と価格が釣り合うものでないとだめで、また、コラボなどの仕掛けが大事な要素になりそうです。昨年健闘した「コンバース」「レスポートサック」「麻布テーラー」などに学ぶべきかと考えます。 佐々 2008年はいろんな経験をしました。100年に一度といわれるような世界的な金融危機等で2009年のファッションマーケットの縮小は避けられないと考えます。だからこそ今、市場の拡大に取り組むべきです。日本市場だけでなく、中国を中心とするアジア市場への進出をスピードアップすることが重要です。伊藤忠がそのけん引役として、取り組みノウハウやアイデアなどを提供し、市場拡大の任務を果たせば、業界に貢献できると確信します。 岡藤 まことに残念ではありますが、しばらくは高価格帯の商品にとっては茨の道が続くでしょう。そうなると、ちょっとしたアイデア、工夫、ひとひねりが消費者を引き付けることになり、「一人勝ち」のチャンスを生みます。極論すれば、高度な研究・開発よりも“ひらめき”“アイデア”の勝負になると思います。R&Dにお金をかけても消費者に受け入れられるとは限りません。 2008年を振り返るなかで、『お買い得感』『明確な機能』『憧れ』『今しか買えない/限定商品』『環境・エコ』『安心・安全』などのキーワードが挙げられました。マーケットを見据えながら、これらのキーワードを進化させて2009年に臨むべきと考えます。 伊藤忠・繊維カンパニーには、祖業である繊維産業に貢献するという責務があります。そのためにも足元を固めながら筋肉質な体質にし、この困難な時代を乗り切らなければなりません。神経を研ぎ澄まし、時代の変化の先を敏感に感じ取り、柔軟に変化、対応していけば、いつか道は開けます。取引先の皆さんと繊維業界を明るくしていくことを、この新年に誓い、1年後を笑顔で迎えたいと思います。皆さんの奮闘に期待します。

倍とされていました。それが直近では262倍になっています。さすがにこれは行き過ぎとしか思えません。ファンドはグローバルスタンダードの必要性を日本の多くの経営者に認識させた点は評価できますが、結局、「かき回し、整理して、退場した」ということになるのではないでしょうか。当社は昨年150周年を迎えましたが、創業者の初代伊藤忠兵衛ら先達の近江商人が実践した「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」にはほど遠かったといえます。 さて話題を変えて、2008年は販売チャネルにも異変がありました。

“わざわざ”買いから“フラッと”買い 佐々 百貨店が極度の不振に陥るなど販売チャネルごとの明暗が鮮明となりました。消費者の購買傾向の変化も昨年の特徴といえます。とくに注目を浴びたのが「駅ビル」「駅ナカ」です。“わざわざ”買い物に出かけるのではなく、退勤時に“フラッと寄って”買い物する。服飾雑貨にしても百貨店の専用売り場ではなく、駅ビル、駅ナカの雑貨屋さん、

専門店、セレクトショップなどで立ち寄り買いの傾向が強まりました。 岡本 ケータイやパソコンで買い物ができるマガシークが好調だったのも、指摘された「わざわざ買い物に行かない」という客層をとらえたからという見方もできます。マガシークは今3月期で売上高100億円を射程に入れるほど伸びてきました。消費者が買い物に時間をかけたくなければ、駅など日常通過する場所での買い物が好都合です。ショップの側もその消費者の変化をとらえて、雑貨を前面に押し出したVMDを実践しています。その一方で、百貨店のほか、ガソリン高などがクルマで行かなければならない郊外のショッピングセンターを不振に陥らせました。

『安心・安全』は永遠のテーマ 岡藤 販売チャネルではテレビ通販も伸びています。当社も進出しましたが、テレビでは比較的安価なもののほうが売れ行きはいいようです。食品は高いほうが売れているようですが。

4 NEWS CLIPPING2009年(平成21年)1月号

「初代/二代伊藤忠兵衛展」を開催

小林栄三社長が講演

その長きにわたって我々は情報格差̶̶情報の「量」「質」「スピード」の差を利用して商売してきました。ところがネット社会の到来で量とスピードは大差ない時代となりました。もう一つの武器であった「商社金融」もリスクマネジメントが声高に叫ばれるいま、その手法に一つ間違いがあれば「投資不適格」の烙印を押されかねません。 そうした時代を潜り抜け、伊藤忠商事は川上から川下までの一貫した取り組みによるバリューチェーンの構築を全業態で進めてきました。その基礎となったのは、「商売は菩薩の業」と信じて店員にそれを徹底させた初代忠兵衛の経営理念です。新しい150年を創っていくためにも、この精神を継承していきたいと考えています。

足元固め、筋肉質にして乗り切る

 さて2008年9月以降、経営環境が激変してきました。米国発のサブプライムローン問題は2007年夏に表面化し、その後欧州でも影響が表れはじめ、今や世界中に大きな影響を与えています。このことはお金がグローバルに回っていることを強く印象づけました。リーマン・ショック以降の金融不安が実体経済にも波及し、当面、厳しい景況が続くのは間違いありません。 反省を込めて振り返ると、私はここまで深刻な事態になるとは考えませんでした。サブプライム問題が表面化したころ、「下手をすると欧米の金融機関は、1年分の利益が吹き飛ぶかもしれない」と、今から思うとかなり楽観的な見方をしていました。営業部門との話の中で「これはおかしい、以前とは違う」と感じたのが2008年の2、3月ごろでした。 ちょうどそのころ、ベトナムを訪問しましたが、現地で会う方会う方、まだ自信のある口ぶりでした。しかし、5月になると猛烈なインフレで先行きの不透明さは誰の目にも明らかになり、たかだか2カ月程度でガラリと状況が変わってしまいました。そして理解しがたい

資源や食糧の値動きもありました。石油も食糧もピークからあっという間に3割、3分の1の水準に下がってしまいました。 11月下旬に訪米した際には、実体経済の冷え込みを痛感しました。西部では「オバマ政権がスタートする。2009年後半から景気は好転する」とシリコンバレーの著名な経営者は楽観視していましたが、東部では不安というより「おびえ」に似た雰囲気が漂っていました。ビッグ3(自動車)がどうなるか分からず、住宅価格も下げ止まらない、では恐怖が先に立つのはやむを得ないでしょう。 また、スタッフを各地に派遣し、情報収集も試みましたが、世界の建機の2割が稼働しているとされたドバイはぱったりと止まり、上半期に自動車が飛ぶように売れたロシアもその反動に見舞われています。中国は4兆元に及ぶ財政出動を決定し、本気で景気てこ入れに乗り出そうとしていますが、やはりモノの動きは鈍くなっています。 1990年代の初め、世界のGDPはおよそ日本円で3000兆円、株・債券等のバーチャル経済はその2倍の6000兆円とされていました。いまGDPは5000兆円規模ですが、バーチャル経済は1京5000兆円から2京円と3~4倍に膨れ上がっており、このギャップを解消するという意味でも、大きな調整局面にあると考えます。 これらの情報に接すると、2009年の経済について強気の見方はできません。政府には雇用問題や地域経済について早め早めの手を打っていただき、我々は早期の景気回復を祈りながら足元を固め、筋肉質な体質にして次に備えることが肝要かと考えます。

厳しい現実待つ人口減少社会

 最後に、これからの日本について、少しお話したいと思います。 国連統計によると、当社創業の1858年当時、世界の人口は12億人で、うち日本は3000万人でした。今、世界の人口は67億人を数え、日本は1.3億人です。150年の間に日本の人口は1億人増えました。2050年にはそれぞれ92億人、1億人、2150年には85億人、3000万人と推定されています。日本人は150年で1億人増え、今後150年で元に戻るということです。出生率がこのままの低水準が続くなら2300年には地球上に日本人は消えてなくなります。

 先進国で例外的に人口が増えている国としてフランスとアメリカがありますが、その背景には出生率や移民の受け入れという要因があります。日本が今後どのような道を選ぶのか、ここは性根を据えて考えねばなりません。100年、150年は遠い未来の話ですが、日本の少子高齢化という現実に向き合って、その中での成長モデルを真剣に模索していく必要があると考えています。 我々は改めて「アジアのなかの日本/世界のなかの日本」ということを考えるべきです。よりグローバリゼーションを進めなければなりません。グローバリゼーションとは何も外国語ができる、といった問題ではありません。「多様な価値観を受け入れる」ということです。互いに宗教や習慣などを理解し尊重することが必要です。 伊藤忠商事も中期経営計画のテーマを「世界企業を目指し、挑む」とし、真のグローバル企業を目指しています。とくに人材戦略については2003年から人材の多様化をすすめており、年齢、国籍、性別、を問わない多様な人材の活用を推進しています。こうやって振り返ってみると過去150年、CSR経営、人材育成、チャレンジ精神という3つの経営指針のもとで発展してきました。これからの150年はこれに「グローバリゼーション」と「多様化」を加えて5つのベースで経営を推し進めていく考えです。 もう一つ、今の厳しい環境を打開するには明るくいくことが大切です。「景気」「天気」は個人が変えることはできませんが、「元気」は個人の思いでどうにでもなります。朝の来ない夜はなく、冬のあとには春が控えています。どうか元気を出してこの困難な時期を共に乗り切っていきましょう。最後に、この関西は当社創業の地です。改めて今日までご支援いただいた関西、大阪の皆様に感謝いたしますとともに、今後とも伊藤忠商事に対してご高配を賜りますようお願い申し上げます。

素晴らしい「三方よし」の精神

 伊藤忠商事は1858年(安政5年)、初代伊藤忠兵衛が麻布の持ち下り、つまり出張販売を始めた年を創業の年としています。それから150年が経過しました。先ほどミュージアムで数々の資料を拝見して、初代/二代忠兵衛翁の姿を改めて知ると同時に、先達の強い思いに接し、身が引き締まる心地にあるところです。 当社の創業者は、本当に素晴らしい近江商人であったと思います。何よりも近江伝統の「三方よし」の精神は近年のCSR(企業の社会的責任)経営の原点というべきものです。「売り手よし」「買い手よし」はすぐに思い浮かびますが、「安政の大獄」という歴史的事件のあったそのころに、この「世間よし」の精神で市場を開拓していったということに驚くとともに先達に改めて敬意を表します。 この「世間よし」の精神を伊藤忠商事は150年間、ずっと経営の軸足に置いてきました。言わばこのDNAがなければ今日への成長、発展はなかったでしょう。2つ目のDNAは「人を大事にしてきた」ことです。社員を見つけ、教育し、成長を促す。そして「チャレンジ精神」を植えつけました。当社ではたとえ成功したとしても、そこにチャレンジがなければ評価しません。逆にチャレンジして、残念にも失敗したとしても、これは評価します。 伊藤忠商事はご承知のとおり「非財閥系」の商社です。グループとしての大きな組織を持っていなかった分、個人がそれぞれ挑戦、研鑽してきたと自負しています。「組織的にはライバルよりもやや小さいかもしれない。でも1対1の勝負では負けない」という伝統を育んできました。それが150年の間にあったであろう幾度の試練を乗り越えさせてきたDNAであるとみています。 商社の危機として印象に残っているのは約30年前の『商社不要論』『商社・冬の時代』といわれたころのことです。創業150年のうち、

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ニュース・クリッピング

講演する小林社長

「初代/二代伊藤忠兵衛展」会場で

 伊藤忠商事の小林栄三社長は昨2008年12月11日、大阪市中央区の大阪産業創造館ホールで伊藤忠商事創業150周年を記念して大阪商工会議所大阪企業家ミュージアムが開催した「初代/二代伊藤忠兵衛展」の記念講演を行いました。小林社長は、 ①創業150年に思うこと②激変する経営環境③これからの日本̶̶について所感を述べ、そのなかから一部を抜粋して掲載します。

モスクワ 世界一物価の高い都市から

5海外報告2009年(平成21年)1月号

85.00

90.00

95.00

100.00

105.00

今季08/09年の世界綿花輸入高は02/03年以来の低水準の前季比12%減の730万トンの見通し。世界同時不況による繊維消費などが綿花消費に影響を及ぼす。中国の輸入が24%減と大きく、欧米向け繊維輸出に依存する構図が大きく崩れ、綿花消費を冷え込ませている。超長綿は米、中、エジプトの3大供給国で40%以上の減産。細番綿糸生産の紡績は原料高・製品安の苦しい状況が継続しそう。

11月5日に、EMIが722豪州セント/501USセントまで下落した後、500USセント辺りが続いてきたが、それまで買い付けを手控えてきた中国が買い付けを本格化。12月17日に764豪州セント/532USセントまで上昇し、クリスマス前の取引を終えた。後半のオークションは、1月14日から再開される。

米国の利下げを受けて、ドル/円は13年ぶりの安値となる87円13銭まで下落した。世界的な景気後退を受けて本邦投資家による対外投資の動きが鈍っていることに加え、日米の金利差がなくなったこともあり、引き続きドル/円の下値リスクは考えざるを得ない。年末年始は例年値動きが大きくなる傾向あり、安値割れトライの局面も。今後1カ月の予想レンジは85~91円台。  (12/22記)

NY綿花

豪州羊毛 M/I 為 替75.00

65.00

55.00

45.00

35.00

(USセント/LB) (AUSTセント/KG) (円/US$)900

850

800

750

7009月1日

12月30日

11月30日

10月31日

10月1日

10月20日

12月19日

11月4日

11月19日

10月4日

10月17日

12月16日

12月1日

11月16日

11月1日

海外報告

 1990年代終わりから現在の金融危機直前まで、原油をはじめとする資源価格は非常に高い水準で推移してきた。ロシアは世界でも有数の資源生産国で、石油生産はサウジアラビアに次いで世界第2位、天然ガスの生産は世界1だ。この資源高の恩恵を受けて、ロシア経済は急成長を遂げた。購買力平価GDPのランキングではなんと、英国やフランスと同程度の6~7位にランクインしている。モスクワではポルシェやレクサスが当たり前のように走り、高級スーパーでは日本のリンゴが1個2000円で売られているほど。某コンサルティング会社の発表では今年も3年連続でモスクワが「世界一物価の高い都市」となった。

消費ブーム 2000年代始めころは“ニューロシアン”と呼ばれる一部の新興富裕層のみが国の富の大部分を占め、60%以上の一般市民は月収300ドル以下の低所得者だった。その後の継続した経済成長で人々の所得は急速に上昇し、2007年時点ではその割合は30%未満にまで下がった。現在では月収600ドル以上の中~高所得者層の割合は26%となっている。 以前はロシア小売市場の大半部分はオープンエアマーケットが占めているとされたが、今、とくにモスクワなど大都市では雨後の筍のようにあちこちで新しい現代的なショッピングコンプレックスがオープンし、平日・週末を問わず消費者でごった返している。1990年代のロシア経済危機の記憶も新しいロシア人にとって、モノと活気にあふれ、明るく清潔なショッピングモールでの買い物はそれそのものが娯楽となっている。“消費ブーム”といわれて久しいが、今日でもまだまだ市場に飽和感は見られない。

競争が激化するアパレル市場 ロシアのアパレル市場規模は年率20%前後で急拡大を続け、2007年度小売ベースで400億ドルとも言われ、国内外の無数のアパレルメーカーがこの市場でシェアを獲得すべくしのぎを削っている。そして今、専らターゲットとされているのが拡大する中間所得層で、オープンエアマーケットからショッピングモールへ消費の場を変えつつある大きな消費者の塊となった。ロシアにはすでにBenetton、Mexx、Top Shop、Marks & Spencer、C&Aなど外資の中~低価格アパレルが進出しているが、とくに、ZARAをはじめとするインディテックスグループの健闘が目立つように感じる。モスクワの主要なショッピングモールには必ずといっていいほどZARAがあり、客足は常に絶えず、試着室とレジには両腕に商品を抱えた人の長蛇の列ができている。まるでフリースブーム当時のユニクロのような雰囲気だ。同グループの2007年ロシアでの売り上げは前年比65%増以上であったとか。加えてH&Mやユニクロも近くロシアへ出店する予定で、今後ますます競争が激化し、市場の成熟化が進んでいくとみられる。

金融危機の影響 飛ぶ鳥を落とす勢いだったロシア経済にも、世界的な金融危機の影響が顕在化してきた。原油価格の下落、株価の暴落、ルーブル安等々様々な要因が波及的に影響、銀行は流動性確保のために貸し出しを事実上凍結した。貸し渋りや貸しはがしによって極めて多くのロシア企業が資金繰りに窮し、賃金不払いが大手企業でも発生、多くの企業が従業員の解雇に踏み切っている。消費市場への影響も出始めており、2008年10月度小売売上の伸びは12.3%増と過去2年来で最低を記録した。いくつかの流通大手はすでに破綻の危機が報じられている。 一方でロシア経済は1990年代、社会主義経済から市場経済への移行による混乱および1998年の金融危機によりどん底

の状態にあった。多くの日系企業もそれにより甚大な痛手を負い、ロシアからの撤退もしくは大幅な規模縮小を余儀なくされた。その後、日系企業のロシア再進出は03年ころから活発化したものの、その時にはすでに新興の国内企業や欧米・中国・韓国などの外資企業が事業基盤を築いており、日系は出遅れたといわれている。歴史的な観点から現在のこの状況を見ると、とらえようによっては日系企業がロシアに事業基盤を築く機会の再来なのかもしれない。

日本びいきのロシア 日本人にとっては意外かもしれないが、ロシア人には圧倒的に親日派が多い。プーチン首相が柔道愛好家なのはよく知られているが、例えば車や家電は日本製が一番と皆口をそろえて言い、街には日本食レストランがあちこちにある。また、多くのロシア人は三島由紀夫や村上春樹を読んだことがあり、黒澤明や北野武の映画をよく知っている。昨今よく言われるCool Japanの流れとはまた違い、ロシアの場合は敬意すら込めた“日本びいき”と言える。日本の企業にとってこのことは極めて有利な追い風だろう。加えて今後ロシアの消費市場が成熟化してくる過程において、価格のみではなくそれに見合った品質や機能性が求められるようになれば、高品質/高機能でリーズナブルな日本製品に対する需要は高まるはずだ。確かに、未整備な法制度や煩雑な書類手続き、困難な企業情報へのアクセス、言葉の問題、また通関・物流の難しさなど各論では何かと障害の多い市場だが、日系企業にとって有望な海外市場の一つであるということは間違いない。 最後に、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク(旧レニングラード)に面白い小売店舗があるので紹介する。店の名前は「jara」。ジャパンとロシア(ロシア語で“ ラシーヤ”)の両国名にかけているとのこと。コンセプトは“mono- national fashion center”。ロシアで初の日本の最新モードを専門に扱う小売店舗で、KAMISHIMA CHINAMI、everlasting sprout、KINOなど日本のデザイナーズブランドを扱っている。jaraを運営するロシア企業Toshi社のGudzenko社長はこう語る。 「概して日本製品には、歴史的に“有利なスタートポジション”が与えられている。なぜなら旧ソ連時代から、日本製品には品質、デザイン性、機能性において良いイメージがあるから」

露天が中心だった小売市場に明らかな変化も

日本の最新モードを扱う「jara」モスクワ市内中心部の地下ショッピングセンター

MARKETREPORT

伊藤忠商事㈱ モスクワ事務所繊維部 志和大樹

6 ファッションリポート2009年(平成21年)1月号

No.541

カ ウ ン タ ー 消 費カ ウ ン タ ー 消 費未曾有の不況の中でも生活を楽しむ消費者

太田 敏宏 [email protected]伊藤忠ファッションシステム株式会社 リーテイルソリューションチーム

 2008年は激動の年だった。燃料費高騰から始まり、サブプライム問題に端を発したアメリカ経済の暴風。リーマンショックやビッグ3のショック、それが飛び火する形で、トヨタショック、ソニーショック……。まさにショックの連続だった。 戦後最悪や未曾有という言葉が不況の枕詞となり、これでは消費指数も下がるばかりである。 ところが、すべての商品やすべての業態が売れないのであれば、不況のせいにできる。厄介なのは、この不況をもろともせず、もしくはこの不況を追い風にして売れているものも存在するのである。

 たとえば、家計の節約から自宅で食事をする人が増えているので、お米が売れている。お米にこだわると、お米と相性のいいおかずやふりかけ、お茶漬けというような類のものが売れている。また、炊飯器にもこだわるようになり、いいお米を本来のおいしさで食べたいと気持ちと、安いお米でも炊飯器の力でおいしくという発想の両方から炊飯器は注目アイテムとなる。さらに圧力IHや土鍋釜、炭釜、銅釜、鍛造ダイヤモンド銀釜など内釜の開発競争も手伝って、さらに注目が集まっている。

 5万円パソコンも売れている。処理能力は劣るものの、メールやネットの利用中心であれば支障がないという簡易的なパソコンである。台湾のメーカーが先発し、売れ行き好調なことから、国内のメーカーも次 と々参入している。ネット接続用のデータ通信契約を同時にすれば、5万円パソコンが100円で買えるということも後押しとなる。この現象は、パソコンの価格破壊ではなく、こんなに安いの

なら、2台目・3台目やお出かけ用のパソコンとして最適と思って購入されている。安いことは購入のきっかけとはなっているものの、買い増しという新しい需要が大いに喚起されているのである。

 家電製品ばかりではない。 2008年前半の燃料高騰では、クルマを使うことを控えた消費者も多い。クルマでの通勤をやめて、「節約、メタボ対策(ダイエット)、エコロジー」という3つの大義名分が含まれた自転車に鞍替えしている消費者も増えている。どうせ自転車で通勤するならかっこ良くということで、クロスバイク(マウンテンバイクとロードレーサーをクロスオーバーした自転車)という新しい都市型自転車が売れている。高級なものになると数十万円するようなものまである。ガソリンが値下がりを続けていく中で、再び自転車からクルマへ戻るかと思えばそうではなく、自転車=粋。自動車=野暮。という構図が出来上がりつつあるため、クルマへの興味や話題は、会話にのぼらなくなりつつある。それどころか、クルマの情報を消費者に伝えるはずのクルマ雑誌でさえ、自転車の特集を組むということさえ起きている。また、一部のクロスバイクのブランドやサイクルウェアなどは、ファッションブランドのように扱われ始めている。一方クルマは、メーカーの派遣社員解雇や売上高激減など暗い話題が多く、これ以上マイナス面のニュースが続くと、クルマそのものが嫌われることを助長しかねない。

 この正月の準備としては「かるた」がヒット商品になった。中でも「おやじギャグかるた」が売れ筋だったという。「中年だっちゅうねん」「台湾にいきたいわん」などの背筋も凍るよう

なネタ満載のかるたである。燃油サーチャージの影響が残り海外には行かない。国内もいろいろとお金がかかるから行かない。家にこもるという積極的?選択をとり、親子や友人とのコミュニケーションをかるたでとるというような風景が見える。お金を使わなくても楽しむ方法を消費者は良く知っている。

 また、ネット購買あるいはネット絡みの購買も伸びている。不況になると商品や価格の比較検討を、よりシビアに行うようになる。1円でも安く買いたい、1円でも得するような商品選びをしたいというのが心情である。そのため、インターネットを使って検索するようになる。(その1円でも安くするために使われたネット接続時の電気代や通信料などでその差額は消えていると思われるのだが…)。口コミ情報サイトなどで、一番メリットの高い商品を探し出し、価格の比較サイトで1円でも安い店を選び出す。大概は、実際の店舗よりも、ネットでの購入が最も安くなっていることから、ネットでそのまま決済をすることになる。そのため、不況だとネットショッピングが活性化する。

 衣料品に目を向けてみると、ユニクロ一人勝ち状態。2008年11月の国内事業の売上高が130%となり、単月の売上高としては過去最高を記録している。「不況=安物を買う=ユニクロに行く」という短絡的なことではなく、「ヒートテック」という吸湿発熱のインナーやフリース、ダウンジャケットなどの売り上げが好調に推移したためである。 その証拠に、過去最高売上を記録する前月の10月はユニクロでさえ、前年比でマイナスである。また、寒さが要因という人もいるが、11月はすべての小売業が絶好調なんてことは起きていない。ユニクロの過去最高売上

高は消費者に話題を提供したことで生まれたものである。

 話題がなければ、行かない。話題があれば殺到する。これはここ数年における顕著な現象で、不況でも好況でも同じ結果となっている。「不況の時は何をやっても売れない。コスト削減を中心にして、じっと我慢」などという戦略をとっていては、売れるポテンシャルのあるものでさえ売れなくなってしまう。不況の時こそ、仕掛けなければ、消費者は動かないのである。

 消費者は不況を乗り切る、あるいは不況に対抗するための手段としての消費=カウンター消費を行っていると考えられる。90年代初頭のバブル崩壊以降、不況との付き合い方や不況における生活の楽しみ方をマスターしてきたのである。

 実施されるかどうかも定かではない定額給付金の特需を待つようでは業績は回復しない。たとえ、定額給付が実施されたとしても、消費者はその時に話題になっている商品や自分なりに消費マインドが刺激された商品を買うはずである。そうでなければ定額給付金を貯めるということを考えるはずである。話題になっていない商品や魅力のない商品は、特需が起きても消費される対象にはならない。消費者はモノを買えないわけではないし、モノを買わないわけではない。欲しいものが分からない、あるいは欲しいという気持ちが沸かないのである。消費者は、この不況に対する企業からのカウンタープランを求めているのである。この提案が魅力的であれば消費する。提案しない企業は、さらに厳しい状況が予想される。

2009年 視点を変えた思いっきりの良さや大胆な発想を持ちたい!

伊藤忠ファッションシステム株式会社 代表取締役社長

 新年あけましておめでとうございます。本年もご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。 昨年の秋、予想外の規模とスピードで経済危機に見舞われたことから、大方の人たちが、「守」に入るのは当然のこと。その結果、消費はプロテクトされ、モノが売れないという声があちらこちらから聞こえています。マスコミもそれを煽るかのように、連日○○社が人員削減、前年対比マイナス○○円、下方修正、といったネガティブな話題を振り舞いています。 このままでは、世の中がどのようになってしまうのかと、不安がよぎらない方がおかしいくらいです。 しかし、不安だからといってこのまま頑なに“ 守り”を貫いた

ところで、世の中はそう簡単に良くはなっていかないでしょう。同じ世の中に身を置いていくのであれば、少しでも“幸せ”を感じて生きたいものです。 これまでの常識を常識として維持することだけにこだわらず、少し視点を変えて、新しい立ち位置や見方を探すことが大切だと思います。 2009年アメリカの新大統領の力強い言葉、“CHANGE”に勇気付けられたように、当社も、新しい提案や既存の業務の枠に捉われない試みなどに積極的にチャレンジし、社員にも思いきりの良さや大胆な発想を期待したいと思っております。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

三宅 純二