sqip研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

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論文の書き方 入門 鷲崎 弘宜 @Hiro_Washi [email protected] SQiP研究会 ミニ講座 2014117

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日時: 2014年11月7日 18:15-19:15 題目: ミニ講座「論文の書き方入門」 講師: 鷲崎 弘宜 概要: 活動成果としての「報告」から一歩進めて、研究成果として「論文」を書く方法を解説します。具体的には、典型的な論文構成、研究課題および貢献の明示、動機づけの重要さ、評価のあり方、妥当性への脅威や制限の考慮、一般読者や査読者を意識した読解性向上のコツなどを、 例を交えて具体的に解説する予定です。活動成果を「論文」として執筆し残すことは、各研究員やチームにおける論理的思考力の研鑽、問題解決の把握と掘りさげ、根拠のある形での成果適用や展開、年度を越えた積み重ね、さらには、外部投稿を通じた広く一般への貢献に繋がります。

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Page 1: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

論文の書き方入門

鷲崎弘宜@Hiro_Washi

[email protected]

SQiP研究会 ミニ講座 2014年11月7日

Page 2: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

既存の良い資料

• [鵜林] 鵜林尚靖、"世界を目指す論文の書き方 ~ 不採録コメントに学ぶ ~"、SES2011チュートリアルhttp://ws.cs.kobe-u.ac.jp/~masa-n/ses2011/ses2011_tutorial2.pdf

• [Orso] Alex Orso, How to Get My Paper Accepted at Top Software Engineering Conferences, http://www.slideshare.net/alexorso/how-to-get-my-paper-accepted-at-top-software-engineering-conferences

• [千葉] 千葉滋, “論文の書き方”http://www.csg.is.titech.ac.jp/~chiba/writing/

• [Shaw] Mary Shaw, "Writing Good Software Engineering Research Papers," ICSE'03, mini tutorial http://www.cs.cmu.edu/~Compose/shaw-icse03.pdf

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Page 3: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

目次

• 論文とは何か

• 典型的な論文構成

• 査読に通すコツ

• 余談: どこに出す?研究者の評価とは?

• まとめ

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Page 4: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

論文(paper)とは何か

• 論議する文。筋道を立てて述べた文。 -- 広辞苑

• 学問の研究成果などのあるテーマについて論理的な手法で書き記した文章 --Wikipedia

• NOT 報告(やっこう)

• NOT 作文

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Page 5: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

なぜ研究論文を書くのか

• 自身のため–論理的思考力の研鑽

–問題解決の把握と掘りさげ

–社会的認知の向上、キャリア形成

• 自組織のため–根拠のある形での成果適用や展開

–積み重ねと発展

• 学問、社会への貢献–知識や方法の検証、フィードバック

–積み重ねと体系化を通じた学問形成

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Page 6: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

研究論文を書く上で大事なのは・・・

良い論文を読むこと。

良い研究をすること。

これらに勝るものなし。

• Do exciting research, and the papers will come [Orso]

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Page 7: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

研究論文を書く上で大事なこと

• 記述が論理的で納得できる– 論理的繋がり、議論、根拠

• 主張が明快で絞られている– 問題、解決

• 第三者にとって読みやすい– 典型的な論文構成– トピックセンテンス– 例、図表

• 研究の早い段階からアイディアや今後の計画を論文形式で書いておく– 何が問題?研究課題?貢献?– 実験は何をすべき?

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Page 8: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

目次

• 論文とは何か

• 典型的な論文構成

• 査読に通すコツ

• 余談: どこに出す?研究者の評価とは?

• まとめ

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Page 9: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

典型的な論文構成

0. タイトル

1. 概要

2. はじめに(導入)

3. 背景

4. 提案

5. 実験(評価): 議論、妥当性への脅威を含む

6. 関連研究

7. おわりに(結論と展望)

8. 参考文献

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Page 10: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

0. タイトル

• 概要をさらに要約した結果

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タイトル

概要

論文本体

Page 11: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

1. 概要

• 背景、問題、解決、根拠の大切な部分に絞って要約

• ここがNGだと、全てNG

• NG

○○は重要である。しかし・・・。そこで我々は~を提案する。

• OK

○○について・・・という問題がある。その解決のため我々は~を提案する。実験により×××を確認した。

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Page 12: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

2. はじめに(導入)

• ミニ論文として独立して成り立つ+以降のポインタ– 背景、問題提起、研究課題、関連研究、解決のアイディア、実験結果、貢献、以降の構成

– 根拠のない事柄、一般論は不要– 扱う問題の範囲を最初から絞る

• NG近年、○○が普及しつつある。その中でウンヌン。しかし・・・。そこで我々は~を試みた。その結果を報告する。

• OK○○について・・・という問題がある。その解決のため我々は~を提案する。実験により×××を確認した。本論文の貢献は次の通りである。

• AAA• BBB

本論文の以降の構成は次の通りである。12

Page 13: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

3. 背景、扱う問題

• 問題提起型– 動機づけの例の明示Motivating Example

• 問題解決型– 関連研究およびその未解決問題の明示(例があるとなおよい)

• NG– 品質とは・・・。レビューとは・・・。

– だらだらと教科書にあるような一般技術の説明に終始

• OK– 3.1 関連する特定の専門技術や領域説明– 3.2 動機づけの例

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4. 提案

• どれだけ苦労したかではなく、「何を」「どのように」「その制限」を正確に

• 焦点を絞り、分かりやすく– アイディアの要点– 提案手法やシステムの名前付け– 例中心

• NG– 我々は2ヶ月の開発により〇〇を実現した。○○はA,B,Cから構成される。Aは・・・

• OK– 我々は・・・を実現する手法WashizakiMethod(WM)を提案する。WMは・・・という場合において~に対して・・・を実現する。WMの技術的要点はα、β、γである。

– αは・・・。例えば図Xにおいて・・・

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5.実験(評価)• 典型的構成

– 答える研究課題・質問 Research Question を最初に– そのうえで実験条件、結果、実験結果からRQへの回答を議論– 妥当性への脅威 Threats to Validity

• 定量化にこだわる• 実際にはあらゆる側面・状況を評価できているわけではない

[千葉]– 「実験」「ケーススタディ」「Validation」

• NG– 提案手法を・・・に適用した。その結果~

• OK– 本論文が答えようとする研究課題は以下である。

• RQ1. ・・・

– 5.1 実験内容– 5.2 実験結果– 5.3 議論– 5.4 妥当性への脅威 15

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研究課題 Research Questions

• 小分けにしてそれぞれ妥当性や重要性、達成度合いを確認しやすくする

• 種類 [Shaw]– 開発の方法: How can we do X?– 分析・評価の方法: How can I evaluate X ?– 特定インスタンスの設計・評価・分析: How good is X?– 一般化・特性化: Given X, what will Y be?– 実現可能性・さらなる調査: Is it possible to accomplish X at all?

• NG– RQ. 拡張可能な~により・・・を支援できるか?

• OK– RQ1. ~を自動的に得られるか?– RQ2. ・・・の達成効率は、~が○○より優れているか?– RQ3. ~は実用的な時間内で実行可能か?

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妥当性への脅威 Threats to Validity• 内的妥当性への脅威(Threats to Internal Validity)

– 因果関係の確かさに影響を与える事柄を議論

– 例えば提案手法の利用と作業効率向上の間の因果関係について、被験者の慣れ、経験や環境の相違、などが影響を与える可能性あり

– OK: 実験において~なので、・・・が~に影響した可能性がある。これは内的妥当性への脅威である。今後、・・・により影響の有無を確認したい。

• 外的妥当性への脅威(Threats to External Validity)– 一般化の可能性に影響を与える事柄を議論– 利用者の違い、組織の違い、ドメインの違いなど– OK: 実験は一つの企業における一つの・・・ドメインに限定して実施したものであり、これは外的妥当性への脅威である。ただし、提案手法は・・・ドメインに特化して設計されたものではなく、~という特徴を有するドメインであれば同様に有効な可能性がある。今後、・・・により他のドメインや企業における有効性を検証したい。

• 他にも様々な妥当性への脅威– 構成概念妥当性(Construct Validity)– 基準関連妥当性(Criterion-related Validity)– 内容的妥当性(Content Validity) 17

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6. 関連研究

• 論文誌や学位論文では、しばしば冒頭に置いて当該研究を位置づける

• 当該研究との関係を説明する [Orso]

–競合

–補間

–重複

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7. おわりに(結論と展望)

• 論文全体の要約であるが

–具体的に

–結果、貢献の強調

• 加えて今後の展望(Future Work)

–言い訳を並べない [鵜林]

–今後の発展の可能性を示す

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目次

• 論文とは何か

• 典型的な論文構成

• 査読に通すコツ

• 余談: どこに出す?研究者の評価とは?

• まとめ

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Page 21: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

査読に通すには・・・

査読で落とされること。

それに勝るものなし。

• Embrace rejection [Orso]

• 不採録コメントに学ぶ [鵜林]

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Page 22: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

投稿対象を知る

• 論文の典型的構成

• 論文の内容の傾向

• 査読者の顔ぶれ

• 査読プロセス

• 一般読者、参加者の顔ぶれ: 誰のために書くのか?

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Page 23: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

査読者を掴む

• 査読者の時間は非常に限られている– タイトル、概要で惹きつけて、「はじめに」「おわりに」で他のパートを読む気にさせる

– 図表、例を多用する– 貢献や研究課題を目立たせる– 「数」にこだわる– トピックセンテンス。結論を先に。

• 参考文献を「まっとうに」– 一般書籍ばかりとしない– 投稿対象会議・論文誌で発表された論文を含める

• 査読者は当該研究領域の専門家「とは限らない」– 段階的に詳細・複雑な事柄に入る [Orso]

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Page 24: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

文章作法に沿う [千葉]

• トピックセンテンス(段落の主張)を各段落の先頭に持ってくる

• 結論を先に書き、理由、例を続ける– NG: ~である。すると・・・なので、従って○○である。

– OK: ○○である。なぜならば・・・である。例えば~。

• 論理的な繋がりを心掛ける–論理の飛躍のないように

• 例を中心に説明を進める

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Page 25: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

目次

• 論文とは何か

• 典型的な論文構成

• 査読に通すコツ

• 余談: どこに出す?研究者の評価とは?

• まとめ

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Page 26: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

余談: どこに出す?

• 論文誌: 知識の積み重ねと学問形成– 研究の完成形が求められる

– ランク: SCI/SCIE 収録(インパクトファクター)、CORE Journal Rank、DBLP収録など

• 国際会議: 議論、アイディア共有、フィードバック、知識の積み重ね– 研究の中間成果、一定の完成度が必要

– ランク: CORE Conference Rank、DBLP収録など

• 国内会議: 議論、アイディア共有、フィードバック、 (知識の積み重ね)– 研究の初期・中間成果

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ソフトウェア品質関係の国際会議

• 認知された「まっとう」な国際会議– CORE Rankあり

http://www.core.edu.au/index.php/conference-rankings

– DBLP等メジャーなインデックスに収録 http://dblp.uni-trier.de/

– 全般: ICSE (CORE Rank A*), ASE(A), FSE(A), ESEC(A), SEKE(B), COMPSAC(B), APSEC(C)ほか

– 特定: ISSTA(A), ESEM(A), ISSRE(A),QoSA(A), QSIC(B), ARES(B) , PROFES(B), ICST(C) ほか

• ×××な国際会議– 概要投稿、そもそも予稿集を入手不可、CORE Rankなし、インデックス未収録

– WCSQ, ANQなど 27

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ソフトウェア品質関係の国内会議

• 知識の積み重ね– 論文投稿、厳格な査読、予稿集

– 全般: 情報処理学会ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム SES、日本ソフトウェア科学会ソフトウェア工学の基礎ワークショップ FOSE

– 特定: ソフトウェアテストシンポジウム

• その場での情報共有・議論– 概要投稿 and/or 査読無し

– 全般: 情報処理学会ソフトウェア工学研究会、電子情報通信学会ソフトウェアサイエンス研究会

– 特定: ソフトウェア品質シンポジウム SQiP

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Page 29: SQiP研究会2014 ミニ講座「論文の書き方入門」 2014年11月7日

研究者の評価• 論文数、被引用数

– h-index: 被引用数がh以上の論文数h以上– Google Scholarで研究者をチェックしてみよう

http://scholar.google.co.jp/

• 外部資金獲得額• 本来は研究の中身・価値、その社会貢献・インパクト

– Bruce C. Gibb, “Lies, damned lies and h-indices”– ペリプラノン, “Impact Factorかh-indexか、それとも・・・”

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まとめ

• 論文を書こう。自分、自組織、学問・社会。

• 論文は報告・作文とは異なる

• 論文は論理的に納得できて、主張が明快で、読みやすいこと(文章作法に従うこと)

• 研究の早い段階から論文を書き始める

• 典型的な論文構成を抑えよう

• 投稿対象や査読者を知ろう

• どこに投稿するか、よく考えよう。目的は?

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