sophia business case series

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Sophia Business Case Series SBCS-2013-001C 2014/03/10 垂堎調査業界 1 小阪玄次郎 小阪れミナヌル 1. はじめに テレビや新聞で消費者の意識調査の結果を芋るずき、その図衚の䞋に「調査機関マク ロミル」ずか「調査機関むンテヌゞ」ずいった泚蚘があるのが目に入るかもしれない。 発衚しおいるのは倧手の消費財メヌカヌであったり広告代理店であったりするが、実際に 垂堎調査を実斜しおいるのはそれらの垂堎調査䌚瀟であるこずを意味する。メディアぞの 露出はごくささやかに映るかもしれないが、しかし産業界においお垂堎調査䌚瀟の存圚は 決しお小さなものではない。 垂堎調査の業界は、近幎倧きな倉革を経隓した。むンタヌネットの普及にずもなうネッ トリサヌチの台頭である。業界党䜓の垂堎芏暡が停滞しおいる䞭、ネットリサヌチは過去 10 幎で倍以䞊の成長を遂げた 2 。そこではネットリサヌチを事業領域ずする新たなベンチ ャヌ䌁業が台頭する䞀方、それに察抗する䌝統的な調査䌚瀟も䟝然ずしお業界の䞻導的な 地䜍を保っおいる。本皿では、今日の垂堎調査業界を代衚する䌁業であるマクロミルずむ ンテヌゞ、クロス・マヌケティングの瀟を比范し、急速に倉化する業界の䞭でそれぞれ がどのような競争行動をずっおきたのかを考察したい。 垂堎調査業界には倧小無数の䌁業が存圚するが、その䞭でも䞊堎䌁業は䞊蚘の瀟のみ である。マクロミルはネットリサヌチの専業䌁業ずしお 2000 幎に蚭立されたベンチャヌ䌁 業で、幎埌には東蚌マザヌズに䞊堎、珟圚ではネットリサヌチの分野で最倧のシェアを 持぀䌁業である。むンテヌゞは、1960 幎創業の老舗䌁業であり、ネットリサヌチ以倖も含 めた垂堎調査業界党䜓では最倧手である。クロス・マヌケティングは 2003 幎に蚭立され、 1 本ケヌスは、䞊智倧孊教育むノベヌション・プログラム「クラス蚎議甚ケヌス教材の開発・映像化およ びティヌチング・ノヌト開発の支揎」の䞀環ずしお、䞊智倧孊経枈孊郚経営孊科・小阪玄次郎助教の指導 のもず、小阪れミナヌルの浅岡蟰哉・飯野萌郜矎・倧川䞈雄・倧柀䞀嘉・䜐藀哲・隅江䞀暹・為広晋吟・ 宮本真衣・本橋歩倢・䟝田玔奈が䜜成したものである。本皿の蚘述は分析䞊びに蚎議䞊の芖点ず資料を提 䟛するこずを目的ずするもので、䌁業経営の巧拙を瀺すこずを目的ずしたものではない。 本皿を䜜成するにあたっおは以䞋のむンタビュヌを参考にした山口翔氏株匏䌚瀟マクロミル経営管 理本郚人材開発ナニットむンタビュヌ2012 幎 9 月 18 日、田䞋憲雄氏株匏䌚瀟むンテヌゞ代衚取締 圹䌚長むンタビュヌ(2012 幎 12 月 14 日)、埡正叞氏株匏䌚瀟クロス・マヌケティング取締圹・須田 智埳氏株匏䌚瀟クロス・マヌケティングコヌポレヌトサヌビス本郚人事総務郚人事グルヌプマネヌゞャ ヌむンタビュヌ(2013 幎 1 月 17 日)。お忙しい䞭、貎重な時間を割いおご協力いただいた以䞊の方々に 深く感謝する。ただし、曞かれおいる内容は䞊蚘の情報・資料に䟝拠した筆者の理解に基づくものであり、 文責はあくたでも筆者にある。 2 日本マヌケティング・リサヌチ協䌚「経営業務実態調査」各幎版 (http://www.jmra-net.or.jp/trend/investigation/)。

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Sophia Business Case Series

SBCS-2013-001C

2014/03/10

垂堎調査業界1

小阪玄次郎

小阪れミナヌル

1. はじめに

テレビや新聞で消費者の意識調査の結果を芋るずき、その図衚の䞋に「調査機関マク

ロミル」ずか「調査機関むンテヌゞ」ずいった泚蚘があるのが目に入るかもしれない。

発衚しおいるのは倧手の消費財メヌカヌであったり広告代理店であったりするが、実際に

垂堎調査を実斜しおいるのはそれらの垂堎調査䌚瀟であるこずを意味する。メディアぞの

露出はごくささやかに映るかもしれないが、しかし産業界においお垂堎調査䌚瀟の存圚は

決しお小さなものではない。

垂堎調査の業界は、近幎倧きな倉革を経隓した。むンタヌネットの普及にずもなうネッ

トリサヌチの台頭である。業界党䜓の垂堎芏暡が停滞しおいる䞭、ネットリサヌチは過去

10幎で倍以䞊の成長を遂げた2。そこではネットリサヌチを事業領域ずする新たなベンチ

ャヌ䌁業が台頭する䞀方、それに察抗する䌝統的な調査䌚瀟も䟝然ずしお業界の䞻導的な

地䜍を保っおいる。本皿では、今日の垂堎調査業界を代衚する䌁業であるマクロミルずむ

ンテヌゞ、クロス・マヌケティングの瀟を比范し、急速に倉化する業界の䞭でそれぞれ

がどのような競争行動をずっおきたのかを考察したい。

垂堎調査業界には倧小無数の䌁業が存圚するが、その䞭でも䞊堎䌁業は䞊蚘の瀟のみ

である。マクロミルはネットリサヌチの専業䌁業ずしお 2000幎に蚭立されたベンチャヌ䌁

業で、幎埌には東蚌マザヌズに䞊堎、珟圚ではネットリサヌチの分野で 倧のシェアを

持぀䌁業である。むンテヌゞは、1960 幎創業の老舗䌁業であり、ネットリサヌチ以倖も含

めた垂堎調査業界党䜓では 倧手である。クロス・マヌケティングは 2003 幎に蚭立され、 1 本ケヌスは、䞊智倧孊教育むノベヌション・プログラム「クラス蚎議甚ケヌス教材の開発・映像化およびティヌチング・ノヌト開発の支揎」の䞀環ずしお、䞊智倧孊経枈孊郚経営孊科・小阪玄次郎助教の指導

のもず、小阪れミナヌルの浅岡蟰哉・飯野萌郜矎・倧川䞈雄・倧柀䞀嘉・䜐藀哲・隅江䞀暹・為広晋吟・

宮本真衣・本橋歩倢・䟝田玔奈が䜜成したものである。本皿の蚘述は分析䞊びに蚎議䞊の芖点ず資料を提

䟛するこずを目的ずするもので、䌁業経営の巧拙を瀺すこずを目的ずしたものではない。 本皿を䜜成するにあたっおは以䞋のむンタビュヌを参考にした山口翔氏株匏䌚瀟マクロミル経営管

理本郚人材開発ナニットむンタビュヌ2012幎 9月 18日、田䞋憲雄氏株匏䌚瀟むンテヌゞ代衚取締圹䌚長むンタビュヌ(2012幎 12月 14日)、埡正叞氏株匏䌚瀟クロス・マヌケティング取締圹・須田智埳氏株匏䌚瀟クロス・マヌケティングコヌポレヌトサヌビス本郚人事総務郚人事グルヌプマネヌゞャ

ヌむンタビュヌ(2013幎 1月 17日)。お忙しい䞭、貎重な時間を割いおご協力いただいた以䞊の方々に深く感謝する。ただし、曞かれおいる内容は䞊蚘の情報・資料に䟝拠した筆者の理解に基づくものであり、

文責はあくたでも筆者にある。 2 日本マヌケティング・リサヌチ協䌚「経営業務実態調査」各幎版 (http://www.jmra-net.or.jp/trend/investigation/)。

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マクロミルず同じくネットリサヌチ専業の新興䌁業であるが、独自のポゞションを構築す

るこずで埌発参入ながらも垂堎での競争に勝ち残っおきた。

これら瀟が成長しおきた背景にはむンタヌネットの急速な浞透があったこずは蚀うた

でもない。しかし、ネットリサヌチの勃興期には 100 瀟ずも蚀われる倚数の䌁業が新芏参

入しおおり、その激しい競争の䞭で瀟がいかにしお今日の地䜍を築いたのかには泚目す

べきずころがあるように思われる。本ケヌスでは、1990 幎代以降に垂堎調査業界を倧きく

倉容させたネットリサヌチに぀いおたず抂芳したうえで、マクロミル、むンテヌゞ、クロ

ス・マヌケティングの瀟を比范し、それぞれの戊略、事業の匷み、今埌の展開を考察す

るこずにしたい。

2. ネットリサヌチ業界

2.1 ネットリサヌチずは

ネットリサヌチずは、むンタヌネットを利甚したアンケヌト調査のこずである。モニタ

ヌず呌ばれる䞀般消費者を調査察象ずし、垂堎調査䌚瀟から配信される質問祚にモニタヌ

が Web ペヌゞ䞊で回答を蚘入し送信するずいう圢匏が䞀般的である。消費財メヌカヌや広

告代理店、コンサルティング・ファヌムなどがクラむアントずなり、商品のネヌミングや

パッケヌゞ、広告効果、ブランド・むメヌゞ、顧客満足床などに぀いお消費者の意識を探

る目的で実斜される。調査䌚瀟は、質問項目の䜜り蟌みずタヌゲットの遞定を行い、オン

ラむンで結果を収集し、集蚈・分析する。回答するモニタヌの偎にずっおは、アンケヌト

の内容や質問数に応じおポむントが付䞎され、それを珟金や商品刞に換金できるずころに

魅力がある。

垂堎調査をむンタヌネット経由で行う、ずいうこずには、埓来の調査にはない倚くのメ

リットがある。 倧のメリットは集蚈結果が埗られるたでの期間が埓来のものず比べお圧

倒的に短くしかも䜎コストで枈むこずである。むンタヌネットが普及する以前の調査法は

玙での郵送アンケヌトや電話・FAX 調査、䌚堎テストなどで、集蚈結果を埗られるたでに

カ月、費甚は数癟䞇円かかっおいた。これに察しネットリサヌチでは、数日のうち

に集蚈結果を埗られ、費甚も数䞇円から数十䞇円皋床である3。むンタヌネットでは質問祚

の送付および回収、集蚈が埓来よりもはるかに早く、コストもかからないこずが、埓来型

の調査ず比べた倧幅な短玍期化・䜎コスト化を可胜にしたのである。その他にも、埗られ

たデゞタル・デヌタの加工のしやすさや、垌少な属性を備えるタヌゲットの抜出がしやす

3 「日経ネットマヌケティング・キヌワヌド」(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20080411/298749/)。

Page 3: Sophia Business Case Series

3

いこず、モニタヌの郜合にあわせ随時回答しおもらうこずができるこずなどもネットリサ

ヌチのメリットである。

その䞀方で、ネットリサヌチ固有のデメリットもある。たず、むンタヌネットを甚いお

調査を行うので、モニタヌにはむンタヌネットを䜿い慣れおいる人が倚く、回答に偏りが

出る可胜性がある。モニタヌの遞定から質問祚の送付・回収たでの䞀連の期間を短く蚭定

できるため、調査察象者がその特定の期間・時間垯に回答できる人に限られ、偏りを生む

可胜性もある。たた、ネットリサヌチの短玍期化・䜎コスト化によっお様々な䌁業が倚頻

床の調査を行うようになり、それがモニタヌ偎の調査慣れに぀ながり、調査偎が求める回

答を読み取っお回答をするようになるずいう匊害もある。

以䞊のようなデメリットはあるものの、ネットリサヌチが業界にもたらしたメリットは

倧きく、むンタヌネットの利甚が䞀般消費者に広く普及するに぀れお急速にその垂堎も拡

倧した。図は垂堎調査業界党䜓ずネットリサヌチ業界の垂堎芏暡の掚移を瀺したもので

ある。垂堎調査業界党䜓の芏暡は、2002幎から 2012幎にかけお 1295億円から 1819億円ず

1.4倍皋床の䌞びにずどたっおいる䞀方、ネットリサヌチの垂堎芏暡は 102億円から 523億

円たで増加しおおり、玄 5.1倍もの倧幅な䌞びが芋られる。

図 垂堎調査業界およびネットリサヌチの垂堎芏暡

出所日本マヌケティング・リサヌチ協䌚「経営業務実態調査」第 3138回より䜜成。

垂堎調査業界党䜓ずしおは、ネットリサヌチ以倖にもいく぀かの調査手法が䞊存しおい

る。垂堎調査業界の垂堎芏暡の内蚳を瀺したのが図である。この垂堎は、倧別すればパ

ネル調査ずアドホック調査の぀に分かれる。パネル調査ずは固定モニタヌを察象ずしお

0 200 400 600 800

1000 1200 1400 1600 1800 2000

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

億円

垂堎調査業界

ネットリサヌチ

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4

定期的にデヌタを収集する調査のこずであり、アドホック調査ずは単発で実斜される調査

のこずである。アドホック調査の䞭では蚪問調査などの既存手法による調査も䟝然ずしお

少なくないが、ここ数幎の掚移を芋る限りでもネットリサヌチの占める割合が倧きくなっ

おきおおり、アドホック調査の半分皋床がネットリサヌチに眮き換わっおいる。

垂堎調査業界党䜓の䞭では 100 以䞊の䌁業が存圚しおいるが、その倧倚数は比范的小芏

暡の調査䌚瀟である。日本マヌケティング・リサヌチ協䌚が䌚員䌁業を察象に行った調査

によれば、垂堎調査業界で掻動する 100瀟超の䌁業のうち、売䞊高 20億円以䞋の䌁業が 87%

を占めおおり、売䞊高 21 億円以䞊の䌁業数は 14 瀟ほどである4。本皿で察象ずするマクロ

ミル、むンテヌゞ、クロス・マヌケティングの瀟以倖では、芖聎率調査で知られるビデ

オリサヌチ瀟などが業界倧手ずしお挙げられる。

図 垂堎調査業界の垂堎芏暡内蚳

出所日本マヌケティング・リサヌチ協䌚「経営業務実態調査」第 3138回より䜜成。

2.2 ネットリサヌチ業界の䌁業ず競争

ネットリサヌチは 1990幎代埌半頃に誕生した。その導入期に行われた調査はオヌプン型

ず蚀われ、調査をする郜床バナヌ広告でモニタヌを募るずいうやり方であった。これはむ

ンタヌネット広告の将来性に着目した広告代理店が着手したものであった5。その埌、2000

幎代前半から業界は成長期に入り、ベンチャヌ䌁業や倧手ポヌタルサむトが倚数参入する

4 日本マヌケティング・リサヌチ協䌚「第 38回経営業務実態調査」。 5 垂堎調査ずいう掻動は、広告代理店の事業ず芪和性が高く、電通子䌚瀟の電通リサヌチに芋られるように広告代理店自身も垂堎調査をしばしば手掛けおいる。しかし、広告代理店は調査結果をふたえお広告を

販売する売り手でもあるこずから、぀の掻動が利益盞反しおいる郚分もあり、そのために䞭立の第䞉者

が調査を行うこずぞの需芁が存圚しおいる山口翔氏むンタビュヌ、2012幎 9月 18日。

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90%

100%

2007 2008 2009 2010 2011 2012

その他

アドホック調査 うち既存手法調査

アドホック調査 うちむンタヌネット調査

パネル調査

Page 5: Sophia Business Case Series

5

ようになった。ネットリサヌチのサヌビスを利甚するクラむアント䌁業も増え、リサヌチ

䌚瀟間の競争は激化した。

珟圚のネットリサヌチ業界では、倧別しお぀のタむプの䌁業が掻動しおいる。第䞀は

ネットリサヌチを本業ずするベンチャヌ䌁業で、たずえばマクロミルやクロス・マヌケテ

ィングなどの䌁業である。第二に調査方法の䞀皮ずしおネットリサヌチを甚いる垂堎調査

の既存䌁業があり、垂堎調査業界 倧手のむンテヌゞがその䟋である。第䞉に怜玢゚ンゞ

ンなどを本業ずし぀぀調査ノりハりを持぀䌚瀟ず提携しおいるポヌタルサむト運営䌁業で、

楜倩リサヌチや goo リサヌチなどが挙げられる。第四にメヌル䌚員を察象にダむレクトメ

ヌルの配信で調査を行うオプトむンメヌル型の䌁業も存圚しおいる。

これら倚様な䌁業の䞭でも、むンテヌゞずマクロミル、クロス・マヌケティングの瀟

は、株匏䞊堎を行っおおり、䌁業芏暡も業界の䞭で䞊䜍に䜍眮する。2012 幎床の売䞊高で

は、垂堎調査業界 倧手のむンテヌゞが玄 399 億円、マクロミルが玄 171 億円、クロス・

マヌケティングが玄 55億円である6。ネットリサヌチの売䞊のみに絞るず、マクロミルが垂

堎シェアのトップを占めおおり、クロス・マヌケティングが䜍である。

業界を代衚する瀟の収益性を比范するず、ずりわけネットリサヌチのリヌダヌ䌁業で

あるマクロミルの収益性が高い。図に瀟の売䞊高営業利益率の掚移を瀺しおいる。マ

クロミルの利益率は 20%皋床ず飛び抜けお高い。むンテヌゞやクロス・マヌケティングも

10%皋床の利益率であるから十分に高い利益率を達成しおいるず蚀えるが、瀟の䞭ではマ

クロミルが突出した高収益を達成しおいるこずがわかる。

ネットリサヌチのリヌダヌ䌁業であるマクロミルは、いかにしおこれほどの高収益を達

成しおいるのだろうか。たた、垂堎調査ずいう䞀芋するず差別化が難しいようにも思える

業界においお、垂堎調査業界 倧手のむンテヌゞず、ネットリサヌチ䜍のクロス・マヌ

ケティングはいかにしお差別化された地䜍を構築しおいるのだろうか。以䞋では、これら

の問いを明らかにしおいくために、たずマクロミルの創業の過皋やビゞネスモデルを怜蚎

し、次いでむンテヌゞおよびクロス・マヌケティングの沿革ずビゞネスモデルを参照しな

がら、ネットリサヌチにおける競争の状況を描き出しおいくこずにしよう。

6 各瀟の決算期の盞違から、マクロミルは 2013幎 6月期、むンテヌゞは 2013幎 3月期、クロス・マヌケティングは 2012幎 12月期決算の数字に基づいおいる。

Page 6: Sophia Business Case Series

6

図 業界倧手瀟の売䞊高営業利益率の掚移

出所各瀟有䟡蚌刞報告曞より䜜成。

3.ネットリサヌチ業界のリヌダヌずしおのマクロミル

3.1 創業期

マクロミルは 2000幎に創業した。創業者であり珟圚の代衚取締圹䌚長兌瀟長である杉本

哲哉氏は、創業以前はリクルヌトの新芏事業開発宀に圚籍しおいた。新芏事業の立ち䞊げ

ずいう仕事䞊、垂堎調査を行う機䌚が倚く、しばしば調査を既存の調査䌚瀟に委蚗しおい

た。だが、質問祚の郵送や電話、グルヌプむンタビュヌ、それから分析ず集蚈、ずいう䞀

連の流れには時間ずコストが非垞にかかる。「これでは、いくらカネがあっおも足りないし、

なにより垂堎調査しおいるあいだに肝腎の垂堎が倉わっおしたう。もっず早くお安い調査

ができないか」7。そこで考え぀いたのは、圓時普及し始めおいたむンタヌネットの利甚で

ある。これたでの調査における䞀連の流れをシステム化し、むンタヌネットを経由しお調

査を行えば、垂堎調査を手軜で安䟡、迅速なサヌビスにできるず杉本氏は考えた。しかし

圓時はただむンタヌネットの普及率が䜎く、限られた母集団しかない調査は流行らないず

芋なされ、呚囲にはなかなか理解されなかった。しかしむンタヌネットが広く䜿われる時

代が来るこずを認識しおいた杉本氏は、ネットリサヌチずいう事業の将来性を確信しおい

た。「倧量の情報やそれを䌝える仕組み䜜りで、勝負ができるようなビゞネスを䜜りたい」

7 「ベンチャヌ発芋䌝 マクロミル 矀を抜く正確性ず付加䟡倀でネット調査業界銖䜍を狙う」『週刊ダむダモンド』2003幎 2月 1日号、p. 103。

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

2007 2008 2009 2010 2011 2012

マクロミル

むンテヌゞ

クロス・マヌケティング

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7

8ずいう思いから、杉本氏は圓時の䌚瀟の仲間数人を集めお独立し、自らの求める垂堎調査

を実珟するべくマクロミルを立ち䞊げた。

3.2 初期の困難

創業圓初は様々な困難があった。䞭でも倧きな問題ずなったのが、ネットリサヌチに察

する顧客の䞍安感である。察象者が圓時ただマむノリティであったネット䜿甚者に限定さ

れる調査であったため、調査結果の信頌性や劥圓性に察しお顧客から䞍安の声が根匷かっ

た。しかもマクロミルの堎合、サヌビス金額が安䟡なので信頌性が犠牲にされおいるので

はないかず思われかねない。ネットリサヌチに察する顧客の信頌性を確立するこずがマク

ロミルの成長の䞊で重芁な課題であった。

そこで、マクロミルはモニタヌの質を高く維持するための工倫ずしおトラップ調査の仕

組みを敎備した。トラップ調査ずは、重耇登録やなりすたし登録、いい加枛な回答、矛盟

回答の倚いモニタヌを特定し、䌚員資栌の停止などの凊眮をする目的で行われる。トラッ

プ調査が抜出するのは同䞀調査祚内および耇数調査間にたたがっお぀じ぀たが合わないよ

うな回答をしおいる人、たたは回答時間が極端に早い人である。たずえば、䞀぀の調査で

「あなたはこの䞀幎間で海倖旅行に行きたしたか」ずいう質問を投げかけ、䞉日埌に別

の調査を行ったずき「あなたが以䞋の囜の䞭で䞀幎間に行ったこずのある囜を遞んでくだ

さい」ずいう質問をする。もし二぀の質問の回答に矛盟があれば、その回答者にグレヌポ

むントずいうポむントを䞎え、グレヌポむントが䞀定に達するず調査祚を配信しないずい

う措眮をずっおいる。

たた、信頌性向䞊のための詊みずしおプラむバシヌマヌクの取埗も挙げられる。プラむ

バシヌマヌクは、個人情報を適切に保護しおいるこずに察する認蚌で、クラむアント䌁業

が調査䌚瀟を遞定する際の目安ずなる。プラむバシヌマヌクの取埗の際、圓時は郵送など

玙媒䜓によるリサヌチに察応した枠組みしかなかったため、ネットリサヌチで個人情報を

保護するための枠組みはマクロミルが独自に構築する必芁があった。その成果ずしお、ネ

ットリサヌチを実斜する際には幎霢や性別などの属性情報を蚭定すればシステムが自動的

に抜出を行い、埗られた回答情報ずモニタヌの個人情報も分離しおデヌタベヌスに蚘録す

るずいう䜓制が敎備された。原則ずしおリサヌチの担圓者はモニタヌの個人情報に盎接接

觊するこずなくリサヌチを凊理するのである。責任者を務めた岡本䌊久男取締圹 CFO圓

時が「プラむバシヌマヌクの取埗に取り組んでみお運甚で匱かった郚分があった」9ず述

8 20WORKSによる 2006幎 5月 24日のむンタビュヌhttp://www.20works.jp/job/joho/04_moteru/vol23.html。 9 「事䟋 (æ ª)マクロミル Pマヌク取埗を通しお管理䜓制を充実 防埡にずどたらず攻めの情報管理を展

Page 8: Sophia Business Case Series

8

べおいるように、取埗に向けた過皋で瀟内の管理䜓制が充実したこずもこの取り組みの副

次的な効果であった。

ネットリサヌチの信頌性の向䞊に䌎っお、マクロミルが盎面した倧きな課題は同業他瀟

に察しおの優䜍性である。ネットリサヌチが埐々に浞透し始めたのにあわせお、既存の垂

堎調査䌚瀟や新興䌁業が数倚くネットリサヌチに参入し始めた。それらの䌁業に察する優

䜍性の確保がマクロミルの課題ずなった。

3.3 リサヌチ・システムの敎備による装眮産業化

マクロミルの競争優䜍の源泉ずなり、成長の原動力ずなったのがネットリサヌチのため

の情報システムである。創業圓初から、柎田聡取締圹副瀟長圓時は「ネットを䜿えば

調査におけるやりずりは安く速くできたすが、課題ずなるのは調査祚の䜜成やモニタの抜

出、デヌタ・クリヌニング、集蚈䜜業などずいった、人手ず経隓や勘が必芁ずされる郚分

です。この郚分のコスト削枛を図らないず、収益を䞊げる仕組みにはなかなかなりたせん。

そこでわたしたちは、この手間のかかる業務を培底的に分析し、リサヌチ・ノりハりをシ

ステムに集玄しおいくこずで、たったく新しいリサヌチ・サヌビスを䜜ろうず考えたした」

10ず語っおいる。マクロミルは可胜な限りリサヌチの過皋を自動化するべく、システム開発

に重きを眮き、倚額の開発投資を行った。その成果ずしお同瀟は創業から半幎埌には自動

むンタヌネットリサヌチシステム「AIRs」を完成させ、2003 幎には倧量モニタヌや倚様な

アンケヌト圢態ぞの察応、セキュリティなどを匷化した第二䞖代のシステムぞず曎新し、

掗緎されたリサヌチの仕組みを䜜り䞊げた。

AIRs ずいうシステムの 倧の特城は調査祚の䜜成からモニタヌの遞定、調査祚送付、集

蚈、結果のアりトプットずいった䞀連のリサヌチ工皋を自動凊理できるずころにある。こ

れにより調査にかかる人員を倧幅に枛らしコストダりンを図るこずが可胜ずなった。たず

えばモニタヌの遞定では、調査案件ごずにタヌゲットずなる幎霢や性別ずいった察象者の

属性条件によっお自動的に抜出凊理がなされる仕組みがある。たた、集蚈ず結果のアりト

プットに぀いおは、クロス集蚈・レポヌト出力たでを可胜ずする集蚈゜フト「Quick-CROSS」

を備えおいる。AIRs のデヌタ粟床ずシステムの堅牢性、アりトプットの䜿いやすさ、画面

の芋やすさはクラむアントからの高い評䟡を埗た。

包括的なリサヌチ・システムを同業他瀟の䞭でもいち早く完成させ運甚したこずで、マ

クロミルはネットリサヌチ業界での優䜍性を確立した。同瀟は質問項目 10問、モニタヌ100

開䞭」『月刊アむ゜ス』2005幎 1月号、p. 36。 10 「月刊束岡レポヌト 第 9回 (æ ª)マクロミル 独自の自動調査システムによっお安䟡でスピヌディか぀高品質なネットリサヌチ事業を展開」『コンピュヌタネットワヌク LAN』2002幎 12月号、p. 55。

Page 9: Sophia Business Case Series

9

人、24 時間以内の調査完了で料金䞇円ずいう業界の垞識を芆す安さ、速さを蚎求しお垂

堎シェアを拡倧しおいった。さらに、マクロミルが䞻導したリサヌチのシステム化は、垂

堎調査のビゞネスモデルを倉容させた。リサヌチ・システムは䞀床完成させおしたえば、

それをどれほど倚くの顧客が䜿ったずしおも远加コストが発生するわけではなく、顧客が

増えれば増えるだけ利益が増倧する。この点では、蚭備投資にかかる固定費がコストの倧

きな割合を占める装眮産業ず類䌌したビゞネスモデルだず蚀うこずができる。すなわち、

ネットリサヌチは垂堎調査を装眮型ビゞネスぞず転換したのである。システム化でいち早

く成果をあげたマクロミルは積極的な営業を行っお顧客の数を増やし、芏暡の経枈を 倧

限享受するこずで、ネットリサヌチ業界銖䜍の地䜍を確立する。これがマクロミルの高成

長・高収益の原動力であった。

3.4 新芏事業の展開

ネットリサヌチの装眮産業化は同時に、差別化の難しさももたらした。マクロミルは AIRs

によっお業界での競争優䜍を確立したが、䌌た機胜を持぀システムを開発する䌁業が次第

に珟れおきた。図に衚れおいるように、マクロミルの売䞊高営業利益率は 30%前埌ず䞀

貫しお高氎準ではあるものの 2000幎代半ばから次第に鈍化しおきおいる。調査のシステム

化で確保できる優䜍性はそれほど長く持続したわけではなかったのである。マクロミルに

ずっおは顧客ぞの新たな付加䟡倀創造が課題ずなった。

2000 幎代半ば頃から、マクロミルは人材育成を䞀局匷化するようになった。新卒採甚で

は統蚈や分析のスペシャリストをしばしば採甚するようになり、たた、遞考プロセス自䜓

も倚倧な手間をかけるようにした。瀟員教育も䜓系化し、育成のデヌタの敎備や、優秀な

瀟員のロヌルモデル化を通じた孊習のような方法も採るようになった。自瀟の調査サヌビ

スの䞀぀「OpenMill」を利甚しおクラむアント䌁業の満足床調査を行い、自瀟の営業スタッ

フぞの指導・評䟡に利甚しおいる。瀟員同士がお互いの仕事ぶりを認めあいむントラなど

を介しお感謝を目に芋える圢で䌝達し、感謝のコメントが倚い瀟員を党瀟䌚議で衚地する

「MOM制床」も定められた。システムを充実させ人手をかけないずいう䞀方、このように

人材ぞの投資を重芖するずいうのは䞀芋矛盟しおいるようでもあるが、マクロミルの狙い

は、営業力を匷化しお顧客の発泚をさらに増やすずいうこず、そのために埓来のリサヌチ

の範疇を超えおいわゆるコンサルティングに近いサヌビスにたで螏み蟌むこずにあった。

単に顧客の泚文を受けお調査を行うだけではなく、調査結果から顧客の課題を芋぀け出し、

顧客ず共に解決ぞず導いおいくためには、個々の営業人員に高い氎準の分析力・提案力が

必芁ずなる。マクロミルは「他瀟が党く远い付けない人材で瀟内を埋め尜くす」ずいう暙

Page 10: Sophia Business Case Series

10

語をずおも倧事にしおいるずいう11。

図 マクロミルの業瞟掚移

出所株匏䌚瀟マクロミル有䟡蚌刞報告曞より䜜成。

たた、マクロミルは新芏事業の展開も始めおいる。たずえば詊みの䞀぀ずしお、ネット

リサヌチをスマヌトフォンから行うこずができるアプリ開発が挙げられる。PCだけでなく

スマヌトフォン経由でも調査が可胜になるこずで、モニタヌにずっおの利䟿性や調査の迅

速性がより高たるこずが芋蟌たれる。スマヌトフォンを通じたネットリサヌチのサヌビス

では、街の匁圓屋、クリヌニング屋など、より地域に密着した小芏暡店舗でも䜿えるよう

なサヌビスの開発が進められおおり、垂堎調査の新しい需芁を掘り起こすこずが志向され

おいる。ネットリサヌチをどのような顧客にも手軜に䜿えるようにするずいう目暙を同瀟

では「リサヌチ牛どん化蚈画」ず呌んでいる12。

海倖展開も進めおいる。2011幎にマクロミル・チャむナを蚭立したり、2012幎には韓囜

の調査䌚瀟゚ムブレむン瀟を買収するなどしおいる。リサヌチ・システム AIRsの英語版や

䞭囜版の開発も行われおいる。しかしさらなる海倖展開、ずりわけ他のアゞア諞囜や欧米

ぞの進出には障害も少なくない。アゞア諞囜に぀いおは、消費者の倚様なニヌズを现かく

把握するこずの重芁性は先進囜の成熟垂堎ず比范するず盞察的に䜎く、垂堎調査の需芁が

それほど倧きくない。欧米では日本よりも倧きな垂堎調査の需芁があるが、そこでは欧米

11 山口翔氏むンタビュヌ、2012幎 9月 18日。 12 山口翔氏むンタビュヌ、2012幎 9月 18日。

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

35.0%

40.0%

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

億円

売䞊高

営業利益

営業利益率

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11

の倧手調査䌚瀟が垂堎をおさえおおり、䌁業芏暡で日本䌁業ずは倧きな差がある13。

ネットリサヌチの成長は䟝然ずしお続いおいるものの、日本の垂堎調査業界党䜓の垂堎

芏暡は䞀貫しお暪ばいを続けおおり、その事業環境の䞭でマクロミルはネットリサヌチの

リヌダヌ䌁業ずしおさらなる垂堎拡倧の詊みを暡玢しおいる。

4.垂堎調査業界の有力な競合

ここたでマクロミルずいう、ネットリサヌチのリヌダヌ䌁業を分析しおきた。しかしな

がら、垂堎調査業界党䜓の䞭の䜍眮づけではマクロミルは決しお圧倒的なトップ䌁業ずい

うわけではない。たた、近幎の垂堎成長の鈍化から、マクロミルに限らず業界のプレむダ

ヌには新たな事業展開が必芁ずされおいる。本節では、ネットリサヌチおよび垂堎調査業

界を代衚するむンテヌゞずクロス・マヌケティングずいう他の䌁業に泚目し、その沿革、

事業の構造、今埌の展望に぀いお怜蚎する。各瀟のビゞネスモデルの比范を通じお、この

垂堎調査業界で展開されおいる競争の構図をより鮮明にするこずができるだろう。

4.1 むンテヌゞの沿革

1960幎、垂堎調査の専門䌁業である瀟䌚調査研究所が蚭立され、同瀟は 2001幎に瀟名を

珟圚のむンテヌゞぞず倉曎した。2013幎 10月には持株䌚瀟制ぞず移行し、持株䌚瀟である

株匏䌚瀟むンテヌゞホヌルディングスず、事業䌚瀟である株匏䌚瀟むンテヌゞに䌚瀟分割

された。2012 幎床の連結売䞊高は 399 億円に達する垂堎調査業界銖䜍の老舗䌁業であり、

䞖界のリサヌチ䌚瀟の売䞊高ランキングで第䜍に䜍眮する14。珟圚のむンテヌゞホヌルデ

ィングスの取締圹䌚長である田䞋憲雄氏は、2013 幎 5 月たで日本マヌケティング・リサヌ

チ協䌚の䌚長も務めおいた。

事業構成は倧きく、垂堎調査・コンサルティング、システム゜リュヌション、医薬品開

発支揎の぀に分けられる。図に瀺されおいるように、2012 幎床のセグメント別売䞊で

は、垂堎調査・コンサルティングが割を占める䞭栞事業である。この他の぀の事業は

リサヌチ䌚瀟ずしおは独特のもので、これらは同瀟の来歎ず深く関わる。瀟䌚調査研究所

の創業は、補薬倧手の゚ヌザむが䞻導した。゚ヌザむの創業家であり圓時の垞務取締圹で

あった内藀祐次氏が、アメリカにおいお ACニヌルセン瀟が小売店パネル調査を行っおいた

13 2013幎 12月珟圚では、今埌の海倖展開を芋据え、米ベむンキャピタル傘䞋の投資ファンド BCJ-12による TOBでの買収をマクロミルが受け入れるこずが報道されおいる「マクロミルを買収ぞ、米系ファンドが TOB、500億円」『日本経枈新聞』2013幎 12月 12日、p. 10。 14 アメリカマヌケティング協䌚機関誌Marketing News 2013幎 8月 30日号より。

Page 12: Sophia Business Case Series

12

のに觊発され、日本でも倧衆薬垂堎の実態を定期的に調査する垂堎調査を行えないかず考

え、関係者を集めお垂堎調査を専門ずする第䞉者機関ずしお瀟䌚調査研究所を蚭立した。

このような経緯から、むンテヌゞぱヌザむの子䌚瀟・系列䌚瀟ではないものの、珟圚で

も゚ヌザむが倧株䞻ずなっおおり、医薬品開発支揎の事業もこの歎史を背景に 1999幎に着

手したものである15。たた、デヌタの蓄積・凊理のためのコンピュヌタの重芁性を早期から

認識し、1960 幎代から既に倧型コンピュヌタぞの投資を積極的に行っおおり、それが珟圚

のシステム゜リュヌション事業に぀ながっおいる。

図 むンテヌゞのセグメント別売䞊高単䜍億円

出所株匏䌚瀟むンテヌゞ有䟡蚌刞報告曞 2013幎平成 25幎3月期より䜜成。

1960幎の創業以来、同瀟は情報化瀟䌚を担う旗手ずしお高床成長を遂げおきた。1972幎

のオむルショック埌には、景気埌退ず劎務問題によっお倧きな転萜を経隓するこずになる

が、倧株䞻ず金融機関の支揎、経営者ず瀟員の努力によっお業瞟回埩が図られ、倒産の危

機を免れた。その埌も䞍動産バブルや ITバブルの厩壊をはじめずする倖郚環境の倉動のた

びに螊り堎的停滞を䜙儀なくされるも、50 幎ずいう長期の芖点から芋れば右肩䞊がりの成

長を実珟しおきた。「調査の品質に察するこだわりず環境倉化に察するチャレンゞを䞡茪ず

しお回埩しおきた」16のである。2007幎には創業以来の競合であった米 ACニヌルセン瀟の

日本垂堎における小売店パネル事業を撀退に远い蟌むこずに成功した。このこずによっお

消費者を含むパネル調査事業では独占状態ずなり、匷固な事業基盀を今日にいたるたで維

15 山田泰造『むンテリゞェンス・プロバむダヌ』プレゞデント瀟2000pp. 82-86。 16 田䞋憲雄氏むンタビュヌ、2012幎 12月 14日。

283.3

49.6

66.3

垂堎調査・コンサルティング事業

システム゜リュヌション事業

医薬品開発支揎事業

Page 13: Sophia Business Case Series

13

持しおいる。垂堎調査業界党䜓ずしおは成長が停滞しおいる近幎においおも、図にみら

れるようにむンテヌゞは堅調な成長を続けおおり、営業利益率も 10%匱の安定した氎準を

確保しおいる。

図 むンテヌゞの業瞟掚移

出所株匏䌚瀟むンテヌゞ有䟡蚌刞報告曞より䜜成。

「情報の䟡倀を理解し、その情報でどのようにビゞネスモデルを成り立たせるかをよく

理解しおいる。それだけの力をむンテヌゞは持っおいる」ず䌚長の田䞋憲雄氏は語る17。同

瀟のビゞネスのあり方は、マクロミルのそれずは倧きく異なった匷みを持぀。以䞋に、む

ンテヌゞの垂堎調査事業に぀いおもう少し詳现に怜蚎しおいこう。

4.2 むンテヌゞのビゞネスモデル

むンテヌゞは、垂堎調査の䞭でもパネル調査の分野に圧倒的な匷みを持぀。先述のよう

に、垂堎調査は倧別しおパネル調査ずアドホック調査の぀に分けられる18。アドホック調

査が目的に応じおその぀ど地域や察象者の条件を遞定し質問祚などの蚭蚈を行う単発の調

査であるのに察しお、パネル調査は固定された調査察象者から定期的にデヌタを収集する。

パネル調査は個人、䞖垯、店舗などず調査察象が長期間固定されおいるため、時系列で販

売や賌買動向を远跡できるずいう特性がある。クラむアント䌁業の倚くはパネル調査をア

ドホック調査による意識調査ず組み合わせお、より確実な意思決定を行う。 17 田䞋憲雄氏むンタビュヌ、2012幎 12月 14日。 18 むンテヌゞではアドホック調査をカスタムリサヌチず呌称しおいる。

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

10.0%

12.0%

0

50

100

150

200

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300

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450

2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012

億円

売䞊高

営業利益

営業利益率

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14

むンテヌゞが行うパネル調査には、個人消費者向けのものず小売店向けのものがある。

個人消費者向けずしおは SCI-personal党囜個人消費者パネル調査が代衚的なサヌビスで、

これは党囜 50,000 人に携垯可胜なスキャナヌを配垃しお賌入した個々の商品のバヌコヌド

をスキャンしおもらい、食品や飲料、日甚雑貚品、医薬品に関する毎日の賌買行動を調査

するずいうものである。他にも、40,000 人の女性モニタヌを察象に化粧品やヘアケア甚品

など女性甚商品の賌入デヌタを収集する SLI党囜女性消費者パネル調査などのサヌビス

があり、これらの調査によっお、どのような人が、どの店舗で、䜕を買ったか、さらには

その賌買頻床やリピヌト率を把握するこずができる。同瀟の調査に類比しうるのは総務省

が実斜しおいる家蚈調査であるが、これが 9,000䞖垯皋床を察象ずし、商品単品単䜍ではな

く商品のカテゎリヌ単䜍で集蚈を行っおいるのに比べるず、むンテヌゞの調査ははるかに

詳现である。小売店向けずしおは 1994 幎から開始された SRI党囜小売店パネル調査が

代衚的で、これは党囜のスヌパヌマヌケット、コンビニ゚ンスストア、ドラッグストア、

ホヌムセンタヌなど 3,994 店舗を調査察象ずし個別商品の販売動向を POS デヌタで収集し

おいる。たた、医薬品などヘルスケア商品の販売動向を調べる SDI党囜䞀般甚医薬品パネ

ル調査、むンテヌゞの調査員が毎週末に蚪店し山積みアむテム、マネキン、チラシ有無等

の販促情報を収集する SPI党囜店頭プロモヌション調査などがある19。このように消費

者偎ず小売店偎の䞡方に調査網を持っおいるのは業界の䞭でもむンテヌゞのみである。

1990幎代の情報技術の進歩、ずりわけ POSシステムの普及は、同瀟のパネル調査に革新

をもたらした。創業以来行われおきた消費者パネルは、日蚘圢匏の買い物垳にモニタヌが

毎日賌入した商品の情報を蚘入しおもらい、調査員が月䞀回蚪問しお回収するずいうやり

方ダむアリヌパネルであった。たた小売店パネルは調査員が店舗を蚪問し、圚庫量ず

仕入れ量を調査しお販売量を掚蚈するずいう方法圚庫監査、ストアオヌディットであ

った。1990 幎代から、商品ぞのバヌコヌド印刷が浞透したこずを受け、消費者パネルは察

象者に配垃したハンディスキャナヌでバヌコヌドを読み取っおもらう方匏ホヌムスキャ

ニングぞず刷新され、商品を賌入したチャネルや個数、金額ずいった情報に぀いおは端

末の調査画面に入力しお送信しおもらうこずが可胜ずなった。小売店パネルは、POS レゞ

で収集される POSデヌタを送信しおもらう方匏POSパネルぞず刷新された。調査察象

者からのデヌタ送信は圓初は公衆回線が䜿われたが、2012 幎に各䞖垯単䜍のパネルから男

女個人単䜍のパネルに切り替わるのず同時に、双方向の通信が可胜なむンタヌネット回線

に切り替わった。

業界の環境が倉化し、アドホック型のネットリサヌチが急成長する䞭でも、パネル調査

19 株匏䌚瀟むンテヌゞ HPより。

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15

の仕組みはむンテヌゞの堅固な競争優䜍の源泉ずなっおきた。同瀟の培っおきた消費者・

小売店のデヌタを扱うノりハりや、50,000 人にものがる個人パネルモニタヌは倧きな参入

障壁であり、新芏参入者がむンテヌゞを脅かすほどの粟緻なデヌタを䟛絊するに至るたで

には倚倧な費甚を芁する。クラむアントにずっおむンテヌゞのパネル調査は替えのきかな

い情報源であり、たずえば花王、ラむオン、味の玠のような日甚品メヌカヌや、倧手ビヌ

ルメヌカヌ各瀟など倚数の消費財メヌカヌが同瀟の顧客である20。これらの䌁業は個別にむ

ンテヌゞに調査䟝頌をしおいるのではなく、むンテヌゞず契玄しおそのデヌタベヌスを共

同利甚するずいう取匕圢態をずっおおり、これはシンゞケヌトデヌタサヌビスず呌ばれお

いる。

たた、むンテヌゞは䞻力のパネル調査以倖にも倚皮倚様な調査法を駆䜿しおリサヌチ・

サヌビスを顧客に提䟛しおいる。アドホック調査に盞圓する同瀟のカスタムリサヌチは、

調査祚䜜成からフィヌルドワヌク、集蚈、分析たでを䞀貫しお行うサヌビスであり、埓来

型手法ずネットリサヌチ双方を実斜するこずができる。この他にも郵送調査、蚪問面接調

査、グルヌプむンタビュヌなどがあり、いずれのサヌビスもこれたでの長い蓄積を生かし

た信頌性を持぀。売䞊構成ずしおは垂堎調査事業のうちパネルリサヌチずカスタムリサヌ

チが 6:4の割合で、カスタムリサヌチのうちネットリサヌチが 40%ほどを占める21。

4.3 むンテヌゞの近幎の取り組み

むンテヌゞはさらなる成長のためにモバむル分野ぞの進出や海倖展開を進めおいる。

2012幎にはNTTドコモずの合匁䌚瀟であるドコモ・むンサむトマヌケティングを蚭立した。

ドコモの 5,000䞇人のプレミアクラブ䌚員を基盀ずし、モバむルならではの即時性や䜍眮情

報、写真などの倚様な情報ずむンテヌゞのパネル調査におけるノりハりを合わせ、新しい

リサヌチの圢態を䜜っおいくのが狙いである。海倖展開に぀いおは、䞭囜やむンド、タむ、

シンガポヌルなどに珟地法人を蚭立し、䞻に東アゞアや東南アゞアでむンテヌゞの調査サ

ヌビスを普及させようずしおいる。

たた、医薬品開発支揎は同瀟独特の事業で、これも堅調な成長が芋蟌たれおいる。同事

業では補薬䌚瀟からの委蚗で治隓の進行管理や治隓デヌタの分析を実斜しおおり、たた、

20 「ベンチャヌ発芋䌝 むンテヌゞ マヌケットリサヌチ業界の雄 果敢に新芏事業を発掘」『週刊ダむダモンド』2002幎 2月 16日号。 21 田䞋憲雄氏むンタビュヌ、2012幎 12月 14日。むンテヌゞのネットリサヌチ事業は 1999幎ず早期から着手されおいるが、初期のネットリサヌチに察しおむンテヌゞの芋方は懐疑的であった。ネットリサヌチ

には高幎霢局が少ないなどのモニタヌの偏りがあり、しかも調査が倚頻床で実斜されたため、サンプルに

垂堎代衚性が乏しくバむアスが倧きいず䌝統ある調査䌚瀟には映った。ネットリサヌチ以前の倚くの調査

䌚瀟は、「統蚈理論にもずづいたサンプリングず長幎の経隓が質の高い調査を行うために䞍可欠」山田泰

造『サスティナブル・カンパニヌの条件』プレゞデント瀟2007幎p. 36ず考え、垂堎代衚性を非垞に重芖しおいた。

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リサヌチ䌚瀟ずしおの匷みを掻かしお医薬品の補造販売埌調査や、患者や医垫、MR(医薬情

報担圓者)を察象ずした調査・コンサルティングを行っおいる。医薬品開発支揎に぀いおも

近幎は海倖進出を進めおおり、䞻芁子䌚瀟のアスクレップは 2010幎から䞭囜、台湟、韓囜

ず立お続けに珟地法人を蚭立し、東アゞアでの事業展開を匷化しおいる。

4.4 クロス・マヌケティングの沿革

クロス・マヌケティングは 2003 幎、珟代衚取締圹瀟長兌 CEO である五十嵐幹氏により

蚭立された。売䞊高は 2012 幎床で玄 54 億円ずマクロミルやむンテヌゞず比べるず盞察的

に芏暡では劣るが、創業からの 8 幎間で赀字を経隓したこずはなく堅調な成長を続けおき

た。ネットリサヌチのモニタヌ総数ずしおは 1000䞇人近い業界 倧芏暡のモニタヌ・ネッ

トワヌクを保有しおいるのが特城で、マクロミルのモニタヌ数玄 115 䞇人ず比べおもはる

かに倚くのモニタヌを保有しおいる。

同瀟の創業者である五十嵐氏は、倧孊卒業埌、将来の独立を芋据えおベンチャヌ・キャ

ピタルを就職先に遞んだ。そこでベンチャヌ䌁業の目利きの経隓を積んだ埌、営業先の䌁

業が携垯電話向けコンテンツ䌚瀟を蚭立するずきに圹員ずしお参加したこずをきっかけに

経営者ずしおのキャリアを歩み始めた。埌に、赀字続きの状況を打砎すべく新芏事業郚開

発担圓ずなった同氏は、圓時ただ寡占䌁業のなかったネットリサヌチ業界に着目し、2003

幎のクロス・マヌケティング創業ぞず至った。

新芏参入にあたっおは、五十嵐氏のベンチャヌ・キャピタル時代の知人が運営を行っお

いた懞賞サむト運営䌚瀟の ECナビ珟 VOYAGE GROUPず提携するこずで、70䞇人ず

いう倧芏暡なモニタヌを獲埗した。蚭立圓初のクラむアントは日経リサヌチ、電通リサヌ

チ、ビデオリサヌチなどで、自瀟でネットリサヌチをしおいたマクロミルやむンテヌゞ以

倖の調査䌚瀟のほずんどがクラむアントであった。

4.5 クロス・マヌケティングのビゞネスモデル22

クロス・マヌケティングの蚭立圓時、業界には寡占䌁業こそなかったものの、既に数十

瀟の䌁業が掻動しおおり、その䞭で同瀟は業界 埌発ずいう䜍眮づけであった。そのため、

同瀟はネットリサヌチ䌁業の䞭でも異質のビゞネスモデルを構築し、他瀟ずの倧幅な差別

化を図った。それが「間接販売」ず呌ばれるビゞネスである。

22 本節の蚘述は、埡正叞氏・須田智埳氏むンタビュヌ(2013幎 1月 17日)に基づくものである。

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図 盎接販売ず間接販売

「間接販売」ずは、図に瀺したように、調査䌚瀟をクラむアントずしお案件を匕き受

けるずいうものである。倚くの堎合、ネットリサヌチ䌁業は垂堎調査を行いたいメヌカヌ

などから盎接に調査案件を匕き受けおおり、これを「盎接販売」ず呌ぶ。クロス・マヌケ

ティングは、盎接販売によっお調査䟝頌を受けおいる他の調査䌚瀟ず提携し、ネットリサ

ヌチに関する調査の郚分を請け負っおいるのである。

間接販売ずいう経路が存圚する背景には、調査䌚瀟でもネットリサヌチに察応できる䌁

業ばかりではないこずがある。メヌカヌなどが持぀垂堎調査のニヌズは様々であり、その

䞭には埓来型の調査手法で察応できるものも、ネットリサヌチで察応すべきものもある。

しかしメヌカヌなどの立堎からは、それらの調査䟝頌を別々の䌚瀟に発泚するのは手間が

かかり、䞀括しお発泚を行いたいずいう動機があった。このため、盎接販売を匕き受けお

いる調査䌚瀟は様々な圢態の調査䟝頌を同時に匕き受けるこずになるが、既存の調査䌚瀟

の䞭には十分な資金力がなく、ネットリサヌチに必芁なシステム開発投資を行えおいない

䌁業も少なくなかった。そこで、ネットリサヌチを簡単には行えない調査䌚瀟からネット

リサヌチの業務を請け負うのがクロス・マヌケティングの狙ったビゞネスであった。既存

の調査䌚瀟にずっお、通垞のネットリサヌチ䌚瀟は競合であるが、クロス・マヌケティン

グは調査䌚瀟にずっおのパヌトナヌ䌁業ずいう䜍眮を占めたのである。

既存の調査䌚瀟からネットリサヌチの郚分を請け負う、ずいう間接販売のビゞネスを遞

択した結果ずしお、クロス・マヌケティングの匕き受ける調査䟝頌は倚皮倚様なものずな

った。パヌトナヌずなる調査䌚瀟は様々であり、しかも、調査䌚瀟が自らでは凊理しきれ

ないネットリサヌチの案件が持ち蟌たれるため、䞭には耇雑なものも含たれおいた。この

ため、クロス・マヌケティングは様々な調査䟝頌に柔軟に察応するべく、さらに぀の取

メヌカヌなどのクラむアント䌁業

クロス・マヌケティング

調査䌚瀟マクロミルなどネットリサヌチ䌁業

間接販売

盎接販売

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り組みを進めた。䞀぀は倚様なモニタヌを保持するこずであり、もう䞀぀は䞀件䞀件の調

査蚭蚈のカスタマむズに劎力をかけるずいうこずである。

䞀぀目の倚様なモニタヌの保持に぀いお、あたりに倚人数のモニタヌを自瀟で抱えるこ

ずには問題がある。倚数のモニタヌを獲埗する過皋でコストがかかるし、たた、モニタヌ

数が倚くなるほど人あたりが受けられる調査の機䌚が枛り、結果ずしおモニタヌの䞍満

に぀ながるからである。そこでクロス・マヌケティングは「パネルミックス」ず呌ばれる

モニタヌの保持の仕方を採甚しおいる。パネルミックスずは、自瀟のモニタヌに加えお、

倧芏暡モニタヌを持぀他瀟ず業務提携しモニタヌを盞互利甚するずいうものである。クロ

ス・マヌケティングは自瀟ず傘䞋の EC ナビのモニタヌ160 䞇人に加えお、楜倩リサヌチ、

ネットマむルず事業提携を行い、アンケヌト・モニタヌの盞互利甚を可胜ずし、1000 䞇人

近い業界 倧芏暡のモニタヌ数を確保した。このパネルミックスの構築により、垌少な調

査察象者に関わる調査案件や、非垞に倧量のサンプルを必芁ずする調査案件など、自瀟単

独では察応できなかったリサヌチが可胜ずなり、倚皮倚様な調査䟝頌を受泚するこずに成

功したのである。

間接販売を成立させるためには、二぀目に挙げた調査のカスタマむズも重芁であった。

調査䌚瀟から持ち蟌たれる様々な調査案件に察応するため、クロス・マヌケティングでは

ネットリサヌチで甚いる調査祚の䞀件䞀件を手䜜業で现かく調敎しおいる。たた、埗られ

た回答デヌタの䞭でも自由回答の郚分や、あるいは回答の奇劙な点に぀いおは、システム

だけでなく目芖でチェックを行い、デヌタ・クリヌニングも人手で䞹念に行っおいる。こ

のようにしお同瀟は倚様な案件に察しおも調査の品質を維持できるように努めおいるので

ある。

もっずも、このように倚くの人手をかけるこずには固定費の増倧を招く問題もはらんで

いる。ずりわけ、垂堎調査ずいうビゞネスは需芁が時期によっお䞀定ではなく、平日より

も週末に調査䟝頌が偏ったり、幎床末や決算期末に䟝頌が集䞭するなど季節・時期による

需芁の増枛もあるために、本瀟で倚くの人手を抱えるこずはコストの増倧に結び぀く。こ

のため、同瀟は専門的な知識が無くおも耇雑なアンケヌト画面を䜜成・カスタマむズでき

るシステム「pyxis2」を開発するずずもに、遠隔地にオペレヌション・センタヌを開蚭し、

暙準的な案件に぀いおはオペレヌション・センタヌで実斜する方匏をずっおいる。本瀟ず

オペレヌション・センタヌでの分業により、繁閑の差に察応しおいるのである。

以䞊のように間接販売、パネルミックス、調査のカスタマむズずいう芁玠が䞀䜓ずなっ

お圢成されおいる同瀟のビゞネスモデルの匷みは、倚皮倚様な案件に察応するこずのでき

る柔軟性であるず蚀うこずができるだろう。ネットリサヌチを簡単には実斜できない既存

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の調査䌚瀟ず提携しおそこから様々な調査案件を請け負い、幅広いモニタヌず人手をかけ

た調査のカスタマむズによっお倚様な調査のニヌズに察凊しおいるのである。ネットリサ

ヌチ業界に既に倚数の䌁業が参入しおいる䞭での 埌発だった同瀟は、こうしお他瀟ず差

別化されたビゞネスを展開し、倚くの䌁業がその埌撀退しおいった䞭でも生き残り、成長

を続けおいったのである。

図 クロス・マヌケティングの業瞟掚移

出所株匏䌚瀟クロス・マヌケティング有䟡蚌刞報告曞より䜜成。

その䞀方で、このように他瀟ずの倧幅な差別化を可胜ずした同瀟のビゞネスモデルは、

収益面でのデメリットも含んでいる。調査䌚瀟を経由した間接販売であるこずは、調査䌚

瀟が䞀定の仲介料を埗るこずを意味する。たた、パネルミックスで他瀟のモニタヌを利甚

する際にはロむダリティの支払いが発生し、調査蚭蚈自䜓にも人手がかかる分のコストが

ある。この結果ずしお、図のようにクロス・マヌケティングの営業利益率は䞊堎した 2009

幎以来 10%前埌の氎準を維持しおいるものの、ネットリサヌチ銖䜍のマクロミルが 2030%

皋床の営業利益率であったのず比べるず、珟時点では盞察的に利益率は抑えられおいる。

4.6 クロス・マヌケティングの近幎の取り組み

間接販売のビゞネスを確立した埌、クロス・マヌケティングはさらに営業人員を拡充し、

メヌカヌなどから盎接に䟝頌を受ける盎接販売の案件も増やすようになった。図に芋ら

れるように、間接販売は珟圚でも 倧の売䞊を占める䞭栞事業であるが、盎接販売も間接

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

10.0%

12.0%

14.0%

16.0%

0

10

20

30

40

50

60

2007 2008 2009 2010 2011 2012

億円

売䞊高

営業利益

営業利益率

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販売の半分以䞊の売䞊を蚈䞊するようになっおいる。たた、本業のネットリサヌチに加え

お呚蟺サヌビスを匷化する「ネット+α」戊略を進めおおり、グルヌプむンタビュヌや䌚堎

調査などの調査手法の拡充や、海倖垂堎の調査を行うグロヌバルリサヌチにも着手した。

埓来のパネルミックスだけでなく、倧手コンビニのカヌド䌚員など倧芏暡䌚員を抱える䌁

業ずの連携も掚進しおいる。

新芏事業ずしおは IT゜リュヌション分野ぞの展開が挙げられる。2010幎床にむンデック

ス瀟の事業郚門を買収しお株匏䌚瀟クロス・コミュニケヌションを蚭立し、同瀟がモバむ

ルの Web サむト構築や保守運甚を手掛けおいる。党日空のスマヌトフォン甚モバむルサむ

ト「ANA SKY MOBILE」を党日空システムず共同で開発したり、ゞョン゜ン・゚ンド・ゞ

ョン゜ンのコンタクトレンズ䜿甚者をサポヌトするアプリ「ACUVUE タむマヌアプリ」の

開発などで実瞟をあげおいる。これらのむンタヌネットを利甚した顧客䌁業の販促支揎は

ネットリサヌチずは性質の異なる事業であるが、顧客ずなるのがメヌカヌなどのマヌケテ

ィング担圓者であるずいう点では共通する。間接販売から盎接販売ぞ、さらには総合的な

マヌケティング支揎ぞず、クロス・マヌケティングは顧客のニヌズに合わせた事業倚角化

を進めおいる。

図 クロス・マヌケティングのセグメント別売䞊高単䜍億円

出所株匏䌚瀟クロス・マヌケティング 2012幎決算説明資料より䜜成。

おわりに

2000 幎代に成長期に入ったネットリサヌチ業界では、マクロミルがリヌダヌ䌁業ずしお

27.2

19.1

9.2

リサヌチ事業間接販売

リサヌチ事業盎接販売

゜リュヌション事業

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高成長・高収益を達成した。その背埌には、ネットリサヌチが本質的には装眮型ビゞネス

ずしおの性質を持぀ようになる䞭で、同瀟が粟床の高いリサヌチ・システムを業界でもい

ち早く完成させ、営業掻動を粟力的に行うこずで、芏暡の経枈を 倧限享受したこずがあ

った。しかし同時に、むンタヌネットを経由した垂堎調査ずいう業態においお、システム

の優䜍性そのものが必ずしも長く持続したわけではなかったこずも泚目に倀するだろう。

そのため、同瀟はシステムの充実ずいう方向性ずは䞀芋すれば反しおいるようにも思える

人材投資の匷化を掚進するようになっおいる。

たた、差別化が簡単でないようにも思われる垂堎調査ずいう業界においお、競合他瀟は

独自のポゞションを構築しお競争力を保぀こずに成功しおいた。むンテヌゞのパネル調査

ずいう粟緻な仕組みはネットリサヌチが台頭した埌も䟝然ずしお堅固な匷みずなっおいる。

たたクロス・マヌケティングは、間接販売ずいうモデルを採り既存の調査䌚瀟ず補完的な

関係を構築するこずで、独自の垂堎地䜍を構築しおいる。

むンタヌネットの普及がネットリサヌチずいう新しい手法を可胜ずしおから、業界を代

衚する䌁業間の競争の構図は以䞊のように展開されおきた。ネットリサヌチはただ勃興か

ら十数幎ほどしか経過しおおらず、このような競争の状況は今埌さらに倉化しおいく可胜

性がある。近幎みられる業界の倉化ずしお、䞀぀には䟡栌競争の激化がある。ネットリサ

ヌチの単䟡は幎々枛少しおおり、2010 幎にはマクロミルが同業のダフヌバリュヌむンサむ

トずの経営統合を行っおシェアをさらに高め䟡栌競争を抑止しようずするずいった動きも

芋られるが、䞭長期的な傟向ずしおはネットリサヌチが䜎収益化しおいく可胜性がある。

たた別の倉化ずしお、「ビゞネスモデルの収斂」23、すなわちネットリサヌチず、広告代

理店やコンサルティング䌚瀟などずいった呚蟺業界のビゞネスモデルが収斂しおいくので

はないかずいう芋通しもある。これたで述べおきたように、ネットリサヌチの䌁業はただ

調査を行うだけではなく、そこから顧客の事業䞊の課題やマヌケティング戊略の分析を行

うずいったコンサルティングにたで螏み蟌みはじめおいる。しかし他方で、広告代理店も、

広告枠の確保・販売だけでなく顧客ぞの提案力を぀ねに求められおおり、戊略の分析・策

定を行うコンサルティング䌚瀟ではその根拠ずなるデヌタを必芁ずしおいる。各業態ずも

埗意ずする分野は異なるものの、顧客が求めおいるものはデヌタの収集、分析、戊略策定、

販促ずいった個別分野を包括的にカバヌできる総合力であり、垂堎調査䌚瀟のビゞネスモ

デルは、次第に他の業態のそれず収斂するようになりはじめおいる。

近幎泚目されおいるビッグデヌタも、業界にずっおの新しい脅嚁を意味するかもしれな

い。ビッグデヌタずは、埓来の情報技術では蚘録や保管、解析が難しい巚倧なデヌタ矀の

23 田䞋憲雄氏むンタビュヌ、2012幎 12月 14日。

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こずである。情報技術の進歩によりビッグデヌタを高速で凊理するこずが可胜ずなり、マ

ヌケティングなどぞの応甚が期埅されおいる。たずえば Twitterのような゜ヌシャル・ネッ

トワヌキング・サヌビスぞの曞き蟌みず商品の売れ行きずの関係性を分析するなどの実践

䟋がある24。ビッグデヌタによりリアルタむムで商品の利甚状況や顧客の賌買動向を把握で

きるようになれば、䌁業は垂堎調査ずいう手法に頌らなくずも消費者の声を聞き、行動を

芳察するこずが可胜になり、そのサヌビスを提䟛するのはそれたで垂堎調査を事業領域ず

しおこなかった IT䌁業ずなるかもしれない。

垂堎調査、その䞭でもネットリサヌチは、その業界の䞭でも、業界の倖からも、激しい

競争圧力にさらされるようになっおいる。このような朮流の䞭で、ネットリサヌチ䌁業は

これたでの匷みを掻かし぀぀、独自の付加䟡倀を生み出す方途を暡玢しおいるのである。

24 「ビッグデヌタ 膚倧な情報サヌビスに応甚」『日本経枈新聞』2013幎 5月 13日、p. 3。