session 2 免疫再構築症候群 irs - マルホ株式会社 … dihsの経過中に生じる...
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免疫再構築症候群(Immune Reconstitution Syndrome:IRS)とは、AIDS(後天性免疫不全症候群)などの免疫不全患者に、HAART(Highly Active Anti-Retroviral Therapy)のような強力な抗HIV(ヒト免疫不全ウイルス)療法を開始することで、免疫が回復した際に、潜伏していた病原体に対する免疫応答が一時的に増強し、感染症の症状が顕在化した状態のことである(図1)。 私が興味を持って診ていたのは、化学療法後に生じる肝障害や薬疹である。これらの経過をよくみると、化学療法終了後に生じており、免疫機能が回復してくると生じるのではないかと思われた。C型肝炎を伴うがん患者の報告1)で、抗がん剤中止後にC型肝炎ウイルスのウイルス量は激減していたが、肝機能は悪化していた。この反応では、通常、薬剤性肝障害が疑われるが、実際は低下していた免疫が抗がん剤の中止により回復して起こった反応であることが明らかにされた。これは免疫抑制剤の投与終了後に生じた日和見感染症や、がん化学療法後の薬疹や感染症が、実はIRSであることを示唆している。 IRSは、ステロイドの減量/中止後、化学療法の終了後、免疫抑制剤の減量/中止後などに生じやすいと考える。IRSの診断基準として次の3点が挙げられる。
〈IRS診断基準〉①免疫機能の回復に反して、臨床症状は悪化している。②CD4陽性またはCD8陽性T細胞の増加を認める。③感染症発症時にウイルスゲノムや病原体が認められない。
免疫再構築症候群(IRS)の概念
IRSとして捉えられるDIHS
IRSとして生じる帯状疱疹
図1 IRS概念図
表1 IRSとして生じる疾患
免疫再構築症候群(IRS)塩原 哲夫 先生 杏林大学医学部 皮膚科 教授
免疫機能と帯状疱疹Session 2
帯状疱疹はIRSとして生じる疾患の代表である(表1)2)。G-CSF製剤を投与されたがん患者に発症した帯状疱疹について考察する(図2)。G-CSF製剤投与により白血球数が回復したところで帯状疱疹を発症した。臨床的には典型的な帯状疱疹であったが、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster Virus:VZV) IgG値は上昇していなかった。また、この時に一致してCD8陽性T細胞が顕著に増加していた。
IRSとして生じる帯状疱疹はこのように免疫応答が盛んになった時に発症することが多いと思われる。 当院でIRSとして生じた帯状疱疹(IRS群:31名、平均年齢63.7±16.4歳)と、IRSではない帯状疱疹(non-IRS群:186名、平均年齢64.3±16.9歳)を比較した。その結果、発症頻度・平均年齢に大きな差は認められなかったが、三叉神経領域の有症率はIRS群では13%とnon-IRS群の52%に比べて顕著に低く、IRSとして生じる帯状疱疹は主に躯幹に発症する傾向を認めた。特に化学療法後にIRSとして生じる帯状疱疹は、手術創を含む神経支配領域に、化学療法終了から1~2ヵ月後に発症しやすい。また、VZV IgG値が上昇しにくいことも特徴である。
潜伏している病原体
臨床症状
時間
Shiohara T et al. Allergol Int. 59(4)333(2010)
● Mycobacterium avium complex 感染症● 肺結核● クリプトコッカス症● 単純ヘルペス● 帯状疱疹● C型肝炎ウイルス感染症
● B型肝炎ウイルス感染症 ● サイトメガロウイルス感染症● サルコイドーシス● グレーブス病● 橋本甲状腺炎● 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
Shiohara T et al. Allergol Int. 59(4)333(2010)一部改変
免疫機能(CD4陽性T細胞等)
病原体の量
薬剤性過敏症症候群(Drug-Induced Hypersensitivity Syndrome:DIHS)の原因薬剤はB細胞の分化抑制作用を持つものが多く(表2)、DIHSは免疫抑制から免疫活性化に移る過程に起こってくる病態ではないかと考えられる。 当院においてDIHS患者がどの程度IRS診断基準(左段)を満たすかを調査した結果、①の免疫機能の回復に反して、
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DIHSの経過中に生じるサイトメガロウイルス感染症
DIHSの経過中に生じる感染症としてサイトメガロウイルス(CMV)感染症があり、重症化しやすいため問題となっている。当科のDIHS患者をCMV-DNA検出群と非検出群に分けて比較したところ、検出群は6名、非検出群は12名であった3)。検出群は高齢の男性が多く、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)のウイルス量は非検出群よりも有意に多かった(Unpaired t test,p=0.01)。本検討で、我々が最初に経験したDIHSの経過中に生じたCMV感染症の症例を紹介する3)。本症例では、メキシレチン塩酸塩の投与中止後に、DIHSを生じたため、
プレドニゾロン(PSL)50 mgを投与したところ症状は治まった。1週後にPSL40 mgに減量すると、背部に潰瘍を認め、患部の病理所見からCMV感染症と診断された。本症例は、最終的に消化管出血により死亡した。次に経験したのはアロプリノールの投与によりDIHSを生じた症例である。DIHSに対してステロイドは投与していなかったが、CMV感染症を予測し、CMV検査を実施していたところ、4週後に皮膚の小潰瘍の出現とともにCMV再活性化が認められた。同日、ヘモグロビンレベルが急激に低下したため、迅速に消化管出血の外科的処置をし、ガンシクロビルを投与したところ救命し得た。 ステロイド使用中の患者に消化性潰瘍が生じた場合、ステロイドが原因と判断し、減量するのが一般的と思われる。しかし、その消化性潰瘍がステロイドの減量によって生じたIRSとしてのCMV感染症が原因であった場合、患者の過剰な免疫応答によって引き起こされた感染症であるため、ステロイドの減量によってむしろ悪化する可能性が高い。IRSの概念を知っていれば、CMV感染症がステロイドの減量中など免疫が回復してくる時に生じやすいことがわかるため、CMV検査を実施し陽性であれば、ステロイドを減量せずに、抗ウイルス薬の投与を検討することが可能となる。 DIHSの経過中に生じるCMV感染症には、以下の特徴がある。
①高齢の男性に生じやすい。②ステロイド減量後に生じやすいが、ステロイド非投与の 症例にも生じることがある。③DIHS発症5~7週後に生じやすい。④HHV-6再活性化の程度とDIHSの発症率は比例する。⑤白血球、血小板の減少時に生じやすい。⑥消化管出血はしばしば致死的である。
さらに、DIHSの経過中に生じるCMV感染症を見逃さないために、白血球、血小板の減少、皮膚小潰瘍の出現、腰痛・腹痛の出現に注意するとともに、CMV IgG値は目安にならないこと、迅速診断として用いられるCMVアンチゲネミア法の結果を過信しないことが重要である。
臨床症状の悪化を認めた患者は75%、②のCD4陽性T細胞数が増加した患者は86%、CD8陽性T細胞数が増加した患者は38%であった。③の感染症発症時にウイルスゲノムが検出されなかった患者は88%であった。このように、DIHS患者は高率にIRSの診断基準を満たすことから、DIHSはIRSとして捉えることができると言える。つまり、DIHSの原因薬剤投与中は免疫抑制状態となり、その期間にウイルスが増殖する。原因薬剤の投与中止により免疫が回復してくると、そのウイルスに対する免疫応答が一時的に増強することで感染症のような臨床症状を呈すると考えられる。この過程はIRSの発症過程と類似している。
IRSと診断された場合はステロイドなどの免疫抑制剤は減量せず、むしろ新たに投与することも考慮する。IRSは、臨床医が知っておくべき極めて有用な臨床上の概念である。
IRSの対処法
表2 DIHSの原因薬剤
図2 IRSとして生じた帯状疱疹発症例
〈51歳 女性〉
12/23 30 1/6 13 20 27 172/3 10
2/6 LymCD3CD4CD8CD19CD56
(932)(323)(635)(14)(140)
112582.9%28.7%56.4%1.2%12.4%
VZV-IgMVZV-IgGVZV-CFVZV DNA
HSV-IgMHSV-IgGHSV-CF
0.4418.54>
0.4848.716
0.2316.64>
2.0x101>
0.3126.016
70006000500040003000200010000
帯状疱疹
アシクロビル点滴静注750mg/日 10日間
G-CSF製剤
Shiohara T et al. Allergol Int. 59(4)333(2010)
※注射用アシクロビルは、通常、成人には7日間点滴静注する
白血球数
白血球
リンパ球
好中球分葉核球
(/μL)
赤色で示している薬剤はB細胞の分化を抑制する作用を持つ
ジアフェニルスルホン(ダプソン)サラゾスルファピリジンメキシレチン塩酸塩アロプリノールミノサイクリンジルチアゼムピロキシカム
抗痙攣剤 カルバマゼピン フェニトイン フェノバルビタール ゾニサミド ラモトリギン バルプロ酸ナトリウム
1) Vento S et al. Lancet. 347(8994)92(1996)2) Shiohara T et al. Allergol Int. 59(4)333(2010)3) Asano Y et al. Arch Dermatol. 145(9)1030(2009)