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12 PFU Tech. Rev., 28, 1,pp.12-18 (06,2017)
ScanSnap Cloud による,新たなスキャナ市場の開拓Using ScanSnap Cloud to Break into a New Scanner Market
塩谷英隆 *Hidetaka Shiotani
大森康雄 *Yasuo Omori
宮下和也 *Kazuya Miyashita
稲荷教司 **Kyoji Inari
宮川 修 **Osamu Miyakawa
* ドキュメントイメージビジネスユニット ドキュメントソリューション事業部 第一開発部** PFUテクノコンサル株式会社 技術センター
ScanSnap の新規ユーザー層の開拓と市場創出による販売拡大を目的として,ScanSnap Cloud サービスを
開発した.本稿では,ScanSnap Cloud のコンセプトとその核となる進化した UX,それを実現するための技術
的課題と解決に向けた取り組み,および市場の反響について説明する.
PFU has developed a ScanSnap Cloud service for the purpose of expanding sales by seeking
new ScanSnap users and creating new markets. This document explains about the concept
of ScanSnap Cloud and the advanced UX that is the core of ScanSnap Cloud, as well as the
technical issues and solutions to develop ScanSnap Cloud. This document also includes a
response from the market.
1 まえがき
PFU が 2001 年から販売しているドキュメントス
キャナ「ScanSnap(スキャンスナップ)シリーズ」は,
ワンプッシュ操作で紙文書を「カンタン・スピーディー」
に電子化できるツールとして,個人から企業までの幅広
いユーザーにご利用いただいている.
近年,人々の関心は,「モノ」消費から「コト」消費
へと移ってきており,ScanSnap も,紙文書の電子化
といった「モノ」の価値から,その電子化された文書を
簡単に利用できること,つまり,紙文書をスキャン(電
子化)するだけで,やりたいことができる「コト」の価
値が求められるようになってきた.
この市場のニーズに応えて,ScanSnap をより多く
のユーザーに使っていただけるようにするために,以下
のコンセプトの ScanSnap Cloud を開発した.
「カンタンを追及した,紙文書の有効活用」
1) いつでも,どこでも,紙文書をスキャンするだけ
でしたい「コト」ができる(「カンタン・スピーディー」
のさらなる進化).
2) 「コト」の価値を提供するパートナーと連携して,
できる「コト」が急速に増えていく.
2 ScanSnap Cloud とは
電子化された紙文書データの活用の場は,PC 上の
アプリケーションから,「コト」の価値を提供するクラ
ウドサービスへと,急速に移行している.ScanSnap
Cloud は,スキャンしたデータを,様々なクラウドサー
ビスと「カンタン・スピーディー」に連携させることで,
ユーザーにその「コト」価値を提供するサービスである.
スキャン時に必要なものは ScanSnap と Wi-Fi 環
境だけで,PC やスマートデバイスは必要ない.ユー
ザーは,ScanSnap に原稿をセットしてスキャンボタ
ンをワンプッシュするだけで,原稿種別(文書,名刺,
レシート,写真)に応じたクラウドサービスに直接連携
して,スキャンしたデータを自動保存することができる
(図 - 1参照).
このクラウドサービス連携によって,レシートをス
キャンするだけで家計簿作成,レシートや請求書をス
キャンするだけで会計帳簿作成,名刺をスキャンするだ
けで人脈整理などの「コト」ができるようになる.そし
て,できる「コト」は,連携するクラウドサービスが増
えるに従って,どんどん増えていく.
PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 13
ScanSnapCloud による,新たなスキャナ市場の開拓
3 システムと機能
ScanSnap のスキャンボタンをプッシュするだけで
「コト」ができるようにする「簡易操作」を実現するた
めには,以下の対応をする必要がある.
1) これまで手作業で行ってきたことを「自動化」
する.
2) どのタイプの文書をどのクラウドサービスに連
携させるかを「事前設定」させる.
この「自動化」や「事前設定」を,スキャンボタン以
外のユーザーインターフェースを持たない ScanSnap
で実現するために,ScanSnap Cloud のシステムを,
ScanSnap(ファームウェア),クラウドプラットフォー
ム上のサーバーアプリケーション,PC(Windows,
Mac),スマートデバイス(iOS,Android)上のクラ
イアントアプリケーションで構成し,各コンポーネント
には,「事前設定」,「自動化」,「簡易操作」機能を実装
している(図 - 2参照).
また,ScanSnap は,スキャン処理結果を表示する
画面を持たないため,PC やスマートデバイスに処理結
果を通知する機能も実装している.
(1) セットアップ(事前設定)
クライアントアプリケーションは,ScanSnap と
ScanSnap Cloud ユーザーの紐づけ,ScanSnap の
読み取り設定,読み取った画像データの原稿種別(書類,
レシート,名刺,写真)に応じた保存先クラウドサービ
ス選択などを行う.
サーバーアプリケーションは,それらの設定情報を管
理する.
(2) スキャン(簡易操作)
ScanSnap は,スキャンボタンをプッシュするだけ
で,紙文書から読み取った画像データをサーバーアプリ
ケーションに送信する.
(3) 自動仕分け(自動化)
サーバーアプリケーションは,ScanSnap から受信
した原稿を,「文書」,「名刺」,「レシート」,「写真」の
四つの種別に自動的に判別する.原稿種別が誤判別され
た場合は,再度スキャンしなくても,クライアントアプ
リケーションのスキャン履歴から,正しい原稿種別に変
更できる.
(4) 画像データ処理(自動化)
サーバーアプリケーションは,画像データのサイズ検
出,向き補正,白紙ページ削除,OCR などを自動的に
実行する.
(5) 自動タイトル抽出(自動化)
サーバーアプリケーションは,画像データから分かり
やすいタイトル文字を抽出し,原稿内の日付と組み合わ
せて自動でファイル名を自動生成する.タイトルは,言
語指定をすることなく,日本語を含む 7 言語を自動判
別して抽出する.タイトルは複数候補検出し,期待と異
なるタイトルが設定された場合は,クライアントアプリ
ケーションのスキャン履歴で,複数候補の中から再設定
することができる.
(6) 自動クラウドサービス転送(自動化)
サーバーアプリケーションは,原稿種別に対応したク
ラウドサービスに,画像データを自動転送する.
(7) 処理結果通知
サーバーアプリケーションは,画像データが正常にク
ラウドサービスに転送されたこと,または,スキャン,
データ転送時になんらかのエラーが発生したことをユー
ザーに知らせるために,メッセージをクライアントアプ
◆図 -1 サービスの概要◆
(Fig.1-Serviceoverview)
◆図 -2 システムの構成◆
(Fig.2-Systemconfiguration)
名刺サービス
レシートサービス
ストレージサービス
写真サービス
ScanSnap Cloud
インターネット
PC,スマートデバイス(Win/Mac/iOS/Android) クラウドプラットホーム
サーバーアプリケーション
クラウドサービス
読み取り設定
スキャン履歴
連携サービス設定
クライアントアプリケーション
読み取り設定
連携サービス設定
スキャン履歴
画像処理 紙文書データ
設定・スキャン・保存処理
Web API
通知処理
処理結果通知
ドキュメント管理保存先サービス管理
ユーザー管理スキャナ管理
クライアント機器管理
ScanSnap
ファームウェア
アップロード
読み取り
画像変換
原稿種自動判別
タイトル抽出
紙文書データ
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ScanSnapCloud による,新たなスキャナ市場の開拓
PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)
リケーションにプッシュ通知する(図 - 3参照).
4 開発のポイント
ScanSnap Cloud のコンセプトを実現する上での
取り組みについて説明する.
4.1 操作ステップの削減提供価値が,「モノ」から「コト」に拡大しても,
ScanSnap 本来の「カンタン・スピーディー」の価値
を損なわないために,「コト」連携の操作ステップの削
減に取り組んだ(図 - 4参照).
これまでは,「コト」連携に以下の 5 ステップの操作
が必要であった(図 - 4の Before).
① PC またはスマートデバイスの起動.
② 用紙を種類別に仕分け.
③ 種類別に用紙を ScanSnap にセットし,スキャ
ンボタンをプッシュ.
④ 画像データを利用するクラウドサービスを選択
してアップロード.
⑤ PC またはスマートデバイスに保存された画像
データのファイル名変更.
ScanSnap Cloud を利用すると,以下の 1 ステッ
プだけになる(図 - 4の After).
① ScanSnap に用紙をセットしてスキャンボタ
ンをプッシュ.
このワンプッシュ「コト」連携は,3 章で説明した,
クライアントアプリケーションによる「事前設定」,サー
バーアプリケーションによる設定情報管理,自動仕分け,
自動タイトル抽出などの「自動化」機能によって実現さ
れている.
4.2 ユーザー誘導型セットアップScanSnap Cloud は,「コト」連携時の操作ステッ
プを大幅に削減できた半面,事前設定すべきことが増
えた.また,スマートデバイスでのセットアップは,
ScanSnap とスマートデバイスを無線 LAN 接続させ
て行うため,さらに手順が複雑になった.
そこで,セットアップが多少複雑でも,ユーザーが迷
わず,加えて,複雑さを感じにくくするために,ユーザー
誘導型セットアップを採用した(図 - 5参照).◆図 -3 プッシュ通知メッセージ例◆
(Fig.3-Pushnotificationexamples)
◆図 -4「コト」連携の操作ステップの削減◆
(Fig.4-Reductioninthestepsthatarerequiredfor
multipleservices)
Before
After
Step①PC or スマートデバイス起動
Step①スキャン
Step④PC or スマートデバイスで連携クラウドを選択
Step⑤ファイルのリネーム
Step②用紙の仕分け
Step③スキャン
◆図 -5 ユーザー誘導型セットアップ◆
(Fig.5-Setuptoguideusers)
小項目設定の自動スクロール(横方向)
連番
大項目設定の自動スクロール(縦方向)
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ScanSnapCloud による,新たなスキャナ市場の開拓
(1) ウィザード設定
通常のウィザード方式での対話型設定は,全設定項
目を順番に設定させていく.この方式では,設定項目が
多くなると,ユーザーが途中で挫折してしまうことがあ
る.そこで,まず設定項目を,大項目(ScanSnap の
Wi-Fi 設定,ファームウェアアップデート,アカウント
作成,クラウドサービスの選択)と,大項目の詳細設定
をする小項目に分類し,大項目を縦方向に並べ,小項目
をその横方向に順に並べて,自動スクロールで進めるこ
とにした.横方向の小項目すべての設定が完了すると,
大項目に設定完了を表すチェックマークが表示され,縦
方向に自動スクロールして次の大項目が表示される.こ
れにより,大項目単位で段階的に正しく設定を進められ
ているという達成感を得やすくした.
(2) 進行状態表示
大項目に連番を表示して,現在何番目の設定まで進ん
でいるか,また,縦に手動スクロールできるようにする
ことで,残りの設定がどれだけあるかを確認できるよう
にした.
4.3 スキャン性能の確保通常,ScanSnap は PC に接続して使用され,スキャ
ンした画像は PC に転送される.ScanSnap Cloud
では,スキャンした画像データは,無線 LAN 環境から
インターネット経由で ScanSnap Cloud に転送され
るため,PC への転送時に比べて,ネットワーク転送時
間が増える分,見かけ上のスキャン性能が悪化する.
ScanSnap 本来の良さであるサクサクとスキャンで
きる軽快な使用感を損なわないために,ScanSnap の
ファームウェアに以下の対策を実施した.
(1) 処理の並列化および多重化による転送効率の向上
用紙のセット,読み取りからインターネット転送まで
を効率的に行うため,転送制御の徹底した並列化を実施
した.
読み取った画像データを装置内に溜め込まず,順次
ScanSnap Cloud へ転送する方式とし,読み取りと転
送を並列して処理させるようにした(図 - 6参照).
ScanSnap Cloud へのデータ転送は,これまでの
単一プロセスで行っていた処理を,制御系とデータ転送
系に分離して負荷分散させ,加えて,データ転送も多重
化して,転送効率を高めた(図 - 7参照).
(2) 通信セッション確立時間の短縮
用紙をセットしてからスキャンボタンをプッシュする
までの「期間」に着目し,通信に必要なセッション確立
などの準備処理を,投機実行注1)的にこの「期間内」に
前もってやっておくことで,トータルのスキャン時間を
短縮させた(図 - 8参照).
4.4 システムアーキテクチャScanSnap Cloud を開発する際のシステム要件は,
以下のとおりである.
1) システムの拡張性,柔軟性を確保できること
2) 経済性に優れていること
注1) 投機実行とは,処理に条件分岐がある場合に,分岐先を予測して,あらかじめ処理を実行しておくこと.
◆図 -6 読み取りとデータ転送処理の並列化◆
(Fig.6-Parallelprocessingforscanninganddata
transfer)
◆図 -7 データ転送処理の分散化による転送効率の向上◆
(Fig.7-Improvingdatatransferefficiencyby
distributingtheprocesses)
◆図 -8 セッション確立処理の投機実行によるスキャン時間の短縮◆
(Fig.8-Shorteningthetimerequiredforscanning
withspeculativeexecutionofsession
establishmentprocesses)
並列
画像1 画像3
画像1 画像3
画像4画像2
画像4画像2
単一プロセス
親プロセス
子プロセス1
子プロセス2
制御系通信プロセス
+
画像転送プロセス
子プロセス管理
削減
読取開始通知
セッション確立
読取設定取得
セッション確立
イメージ送信
セッション確立
読取終了通知
セッション確立
読取開始通知
読取設定取得
イメージ送信
読取終了通知
用紙セット ▼
▼ スキャンボタンのプッシュ
セッション確立
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ScanSnapCloud による,新たなスキャナ市場の開拓
PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)
3) 既存 Windows注2)資産(画像処理)を活用でき
ること
4) 信頼性(SLA,セキュリティ)を確保できる
こと
5) 日本の法律を準拠法とすること
6) グローバル展開が容易であること
これらの要件に対応するため,システムインフラスト
ラクチャーとして,Microsoft Azure注2)クラウドプ
ラットフォームを採用した.2),3),4),5)につ
いては Azure そのものの特長であるが,1),6)に
ついては,ScanSnap Cloud のシステムアーキテク
チャも関係するので,以下に説明する.
4.4.1 システムの拡張性,柔軟性の確保ScanSnap Cloud は,クラウドプラットフォーム
上で,その拡張性を最大限に引き出すため,以下のアー
キテクチャを採用した(図 - 9参照).
1) ScanSnap,クライアントアプリケーション,
クラウドサービスからのリクエストを受け付ける
フロントエンドサーバーは Web アプリケーション
ファイアウォール機器で負荷分散される.
2) 画像データ処理を行うバックエンドサーバーは,
メッセージキューで負荷分散される.
メッセージキューとは,Azure が提供している
サーバー間メッセージ通信の仕組みで,フロントエ
ンドサーバーが受信したリクエストのうち,画像
データ処理などの負荷の高い処理を伴うリクエス
注2) Windows お よ び Microsoft Azure は, 米 国 Microsoft Corporation の,米国,日本およびその他の国における登録商標または商標です.
トは,メッセージキューにメッセージとして送信さ
れ,バックエンドサーバーが,そのメッセージを順
次受信することで,それらのリクエストは複数の
バックエンドサーバーに振り分けられる.
3) リクエスト数の増減による処理速度の変化を抑
制するために,フロントエンドサーバー,バックエ
ンドサーバーともに,その数を手動,自動で増減さ
せることができる.手動増減は,Azure 管理 Web
サイトから手操作で実施し,自動増減は,CPU 負
荷率,処理待ちリクエスト数を閾値にして自動実行
される.
4.4.2 グローバル展開グローバル展開の課題は,ユーザーとサーバー間の
データ転送遅延の最小化と,EU の一般データ保護規
則注3)などの個人データ保存場所の制約への対応であっ
た.この課題をクリアするために,グローバル構成を採
用した(図 - 10参照).
各リージョン(地域)のユーザーは ScanSnap
Cloud のアカウント作成時に,クライアント機器の OS
の国コード情報をもとに,リージョン振分けサーバーに
よって適切なリージョンサーバーに割り当てられ,以
降のクライアントアプリケーション,ScanSnap から
のリクエストはすべて各リージョンサーバーに送信さ
れる.
注3) 2018 年 5 月に EU 加盟国で施行される,個人データの処理や移転に関する法律.EU 加盟国を含む欧州経済領域(EEA)内で取得した個人データの EEA 外への移転を原則禁止しているため,ScanSnap Cloud においても個人データの処理や保存場所について適切な対応が必要とされる.
◆図 -9 高拡張性アーキテクチャ◆
(Fig.9-Highlyscalablearchitecture)
◆図 -10 データ転送遅延とEUの法令に対応したグローバル構成◆
(Fig.10-Globalconfigurationthatpreventsdata
transferdelayandcomplieswithEU
regulations)
メッセージキュー
ロードバランサー
Webアプリケーションファイアウォール
フロントエンドサーバー
フロントエンドサーバー
リクエスト
1)Webアプリケーション ファイアウォールによる 負荷分散
2)メッセージキューによる 負荷分散3)自動,手動での
数の増減
バックエンドサーバー
バックエンドサーバー
日本ユーザー 北米ユーザー 欧州ユーザー
欧州リージョン日本リージョン
DB
フロントエンドサーバー
バックエンドサーバー
ストレージDB
フロントエンドサーバー
バックエンドサーバー
ストレージ
北米リージョン
リージョン振分けサーバー
DB
フロントエンドサーバー
バックエンドサーバー
ストレージ
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ScanSnapCloud による,新たなスキャナ市場の開拓
4.5 連携クラウドサービスの拡大幅広いユーザーに ScanSnap を利用していただくに
は,できるだけ多くのクラウドサービスと連携する必要
がある.そのために,ScanSnap Cloud では,2 方式
のクラウドサービス連携を提供している.ScanSnap
Cloud がクラウドサービスの Web API を呼び出して
画像データを送信する「プッシュ型クラウドサービス
連携」と,クラウドサービスが ScanSnap Cloud の
Web API を呼び出して画像データを受信する「プル型
クラウドサービス連携」である(図 - 11参照).
プッシュ型クラウドサービス連携は,ScanSnap
Cloud 側で実装するが,これだけでは急速なユーザー
層の拡大は望めない.クラウドサービスを展開している
ISV注4)にプル型クラウドサービス連携機能を実装して
もらうことによって,できる「コト」が増えていくとい
うコンセプトを実現し,その結果としてユーザー層が拡
大する.プル型クラウドサービス連携機能を開発するた
めの Web API は SDK として ISV に提供している.
5 サービス開始後の反響
ScanSnap Cloud は,国内からサービスを開始し,
その後,北米,欧州に順次グローバル展開している.サー
ビス公開後にいただいた反響をもとに,目標としていた
コンセプトは概ね実現できたと考えている.
5.1 利用者の反響既存の操作性の課題の克服や「コト」の価値の提供に
対するユーザーの次の評価は,これまでの「カンタン・
注4) Independent Software Vendor の略.特定のコンピュータメーカーや OS メーカーと関係を持たない独立系ソフトウェア企業のこと.
スピーディー」のさらなる進化と紙文書の有効活用がで
きたことを示していると考える.
1) 「使用する際の PC 電源投入やスキャナ接続の煩
わしさから解放された.」
2) 「既存機種で利用できる神アップデート」
3) 「確定申告のとき役立ちそう」
5.2 クラウドサービス提携各社からのメッセージScanSnap がクラウドサービスの「入口」,「ハブ」
になったという次の評価は,「モノ」の価値提供から「コ
ト」の価値提供への移行に成功していることを示してい
ると考える.
1) 「ScanSnap は,単なるスキャナーではなく,
クラウドサービスを活用する利用者の生活の入り口
に,また一歩近づいたと感じています.」参1)
2) 「スキャナーが IoT デバイスとして直接クラウド
に繋がり,且つ様々なクラウドサービスのハブにな
ることで非常に利便性の高い,新しい体験をお客様
に提供することが可能となります.」参1)
5.3 グッドデザイン賞受賞究極の「カンタン・スピーディー」と,ユーザー層
の拡大につながるサービスが実現できたことの評価とし
て,2016 年度グッドデザイン賞を受賞することができ
た参2).「ソフトウェア・サービス・システム/インター
フェイス」カテゴリでの受賞は PFU では初めてであり,
審査委員からは,
「これまではパソコン等との接続やデータ化した後の
情報の整理に手間がかかっていたが,スキャナに取り込
むだけで自動的に処理をしてくれる.紙の書類のデータ
化を究極まで簡易化したサービスであり画期的である.
オフィスのみならず家庭でも利用も増えるのではないか
と今後の広がりに期待する.」
との講評をいただいた.
6 むすび
「紙文書のワンプッシュ電子化」から,「紙文書のワ
ンプッシュ活用」を目指して,PFU 初のクラウドサー
ビスとして開発された ScanSnap Cloud によって,
ScanSnap の新たな活用を利用者に体験させる「コト」
提供を実現できた.
今後は,さらに幅広い層のユーザーにご利用いただ
けるよう,公開国の拡大,クラウドサービスを提供する
◆図 -11 クラウドサービスとの連携方式◆
(Fig.11-Methodforinteroperationwithcloud
services)
クラウドサービスScanSnap Cloud
プル型クラウドサービス連携
プッシュ型クラウドサービス連携
プル
クラウドサービスScanSnap Cloud
プッシュ
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ScanSnapCloud による,新たなスキャナ市場の開拓
PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)
ISV とのパートナーシップ強化,機能強化に取り組んで
いく.
参考文献参1) 株 式 会 社 PFU:2015 年 11 月 25 日 プ レ ス リ リ ー ス
「ScanSnap が様々なクラウドサービスと直接連携」
https://www.pfu.fujitsu.com/news/2015/new151125.html
参2) 公益財団法人 日本デザイン振興会:Good Design Award クラウドサービス [ スキャンスナップ クラウド ]
https://www.g-mark.org/award/describe/44468