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工業会活動 14 SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加して 1.はじめに 革新航空機技術開発センターでは、海外の 革新的な最先端技術の調査や技術課題の研 究、そしてその結果の発信など、新たな活動 を行っている。今般その一環として、SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加し たので、その概要を報告する。 2.SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibition 概要 このイベントは2年ごとに開催されており、 今回は、モントリオールのPalais des congress de Montrealにて、 924日~26日の3日間開催さ れた。前日の23日にはホストであるBombardier 社の施設見学が用意されていた。その名前が 示すように航空技術に関する研究の発表と展 示会が同時に開催されており、研究発表総数 480 件以上、展示会の出品者は約100 社に 上っている。 日本からは、KHIIHI、および三菱航空機 3社が参加していた。 KHI は今回初めて、ロボットを使った摩擦 溶接の展示(写真2参照)を行った。 また研究発表は、IHI 2件、KHI 2件、およ び三菱航空機 1件の合計5件であった。(詳細 は後述) 研究発表は、マスター課程の院生から大学 教授、コンサルタント、企業技術者、とさま ざまな発表者により行われるが、企業技術者 からのプレゼンテーションも多く、全体の質 は高く感じた。このため、日本からの参加者 もあり、会員の皆様においては次回の参加を 検討してはいかがかと思う。 研究発表の一例として紹介したいのは、 PW 社の GTF Geared Turbo Fan)の Chief Engineer Michael Winter 氏による「Aero Propulsion Green Future」である。初飛行が成 功したBombardier C Seriesに搭載されたエン ジンについて全体が俯瞰できるものであっ た。 エンジン単体であれば16%の燃費の節減で 写真1 会場の外観 写真2 KHIの展示ブース

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Page 1: SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加 …2013/11/04  · SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加して 1.はじめに 革新航空機技術開発センターでは、海外の

工業会活動

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SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加して

1.はじめに革新航空機技術開発センターでは、海外の革新的な最先端技術の調査や技術課題の研究、そしてその結果の発信など、新たな活動を行っている。今般その一環として、SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibitionに参加したので、その概要を報告する。

2.SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibition 概要このイベントは2年ごとに開催されており、

今回は、モントリオールのPalais des congress de Montrealにて、9月24日~26日の3日間開催された。前日の23日にはホストであるBombardier 社の施設見学が用意されていた。その名前が示すように航空技術に関する研究の発表と展示会が同時に開催されており、研究発表総数は480件以上、展示会の出品者は約100社に上っている。日本からは、KHI、IHI、および三菱航空機の3社が参加していた。

KHIは今回初めて、ロボットを使った摩擦溶接の展示(写真2参照)を行った。また研究発表は、IHI 2件、KHI 2件、および三菱航空機 1件の合計5件であった。(詳細は後述)研究発表は、マスター課程の院生から大学教授、コンサルタント、企業技術者、とさまざまな発表者により行われるが、企業技術者からのプレゼンテーションも多く、全体の質は高く感じた。このため、日本からの参加者もあり、会員の皆様においては次回の参加を検討してはいかがかと思う。

研究発表の一例として紹介したいのは、PW社のGTF (Geared Turbo Fan)のChief Engineer Michael Winter氏による「Aero Propulsion Green Future」である。初飛行が成功したBombardier C Seriesに搭載されたエンジンについて全体が俯瞰できるものであった。エンジン単体であれば16%の燃費の節減で

写真1 会場の外観 写真2 KHIの展示ブース

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あるが、さらなるGreen Aviationの実現のためには、①Engineに関してはBigger Fan/Smaller Core、 ②革新的な機体設計、③Manufactural Hydrocarbon Drop in Fuel (Biofuelを含む) の3点が必要とのことであった。

3.Bombardier Dorval工場 見学Bombardier Challenger組立工場(本社)は

モントリオール国際空港に隣接しており、Challengerシリーズ(300、605型)の組み立ておよび605シリーズの主翼の製造が行われている。

Bombardier社は、以下の4社を買収統合し現在に至っている。

Canadair社(1986年)Short Brothers社(1989年:ベルファスト(北アイルランド))Learjet 社 (1990年:ウィチタ(米国)) De Havilland Aircraft of Canada(1992年:トロント)

2012年の売り上げは1.7兆円で、航空8,600億 (51%)、鉄道ほか8,100億(49%)であり、ビジネス機は航空売り上げの過半数で4600億円となっている。

2013年は、179機のデリバリー、343機の受注がある。(1USD=100円)

工場内はよく整理整頓されており、大変きれいで騒音は少ない。また楽な姿勢で作業ができるように器材(スタンド等)が配置されていた。工場内の表示はBombardier社の世界に展開するすべての工場で共通とのこと。製造設備に関しては金属翼の製造と組み立てのため目新しいものは特に見かけなかった。

会社内共通の言語はフランス語または英語ではあるが、ここではフランス語とのこと。ただし、各工場または委託先から納入される部品が組み合わされるが、仏語、英語の混合は気にならないとのことであった。ちなみに当工場内の表示はすべてフランス語でバイリンガルとなっていない。

製造ラインでは工程が終了した機体が次の工程に移動する。工程を担当する作業者はその作業エリアに留まり同じ作業を担当する仕組みとなっている。各作業エリアには製造番号が記載(ラベル)されたコンテナー(大小あり)に、その工程で必要な部品が入れられ集められている。機体もそう大きくはない(全長20m程度)ので、自動車の製造ラインに見られる部品のJust in Timeに近い印象を受けた。

写真3 Dorval工場外観

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Challengerの総生産は958機、300と航続距離延長型である605は別々の製造ラインで作業が行われている。組み立てに平均18ヵ月かかるが、顧客との調整で短縮は可能とのこと。605のラインの半分相当部分では主翼の製造が行われていた。作業場ごとに、ボードにQC活動の掲示物

(日本語のQC:KAIZEN、MONDAITEN、GEの6シグマ等)が掲示されていた。改善の優先順位を明確にするために、作業ごとにThree Priority Itemsとして三点のみを記載させていた。

Pre Flight DepartmentはAvionicsやAuto Pilot関連の点検および調整を行う部署で、10機程度が配置されており、ここでそれらの作業が5日間かけて実施される。また、可動式の壁を隔てたスペースに

Delivery Centerが設けられており、顧客への引き渡しが行われる。4機の機体がここでデリバリーを待っており、セレモニー用の椅子、機体出入り口につながる赤絨毯などが用意されていた。なお、605のベース価格は23億円程度(23百万ドル)、顧客の仕様により10億円程度増えることもあるとのことであった。

前回のSAE 2011はツールーズにて、エアバス社がホストとなって開催され、A380組立工場の見学ツアーが計画されたためかBoeingからの参加者も多数であったとのこと。今回のBombardier社工場見学にも企業からの参加者が多かった。

4.SAE 2013 Aerotech Congress and Exhibition

(1)基調講演の概要①Bombardier Cシリーズ VPのRob Dewar 氏 「Bombardier C Series:Change is in the air!」  9月16日のCシリーズの初飛行を受けての

講演。Cシリーズは現在15ヵ国、388機の受注があり、CFRPを主翼、胴体後部、垂直尾翼、水平尾翼に使用し12,000ポンドの軽量化を図った。  またPW GTF1500による低燃費や、MEA(More Electric Aircraft)も考慮した電動ブレーキを採用、Advanced Flight Deck、Side StickによるFBW、等の新技術を採用した。  新設計の機体の形状と2列+3列の席の配置でシートの幅が広く取れ、乗客にとっても快適であるとのこと。初飛行の映像も紹介されたが、GTFのエンジンの騒音が低いことが印象的であった。

② Principal Military Deputy Assistant Secretary of the Army(Acquisition, Logistics, and Technology)and Director, Acquisition Career Management LTG William N Phillips 氏  「STEM:Sustaining Today, Inspir ing

Tomorrow's Youth」  米国陸軍の人材育成と資材調達に関しての講演が行われた。軍では多くの研究者が活躍しており、単に武器・航空機に関する研究だけではなく、例えばマラリアのワクチンの開発はソマリア駐在軍に役に立っている。優秀な研究者を育てるには、STEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)が大切であり、大学(Army Research Labでの研究)・高校(Army Outreach Education System)からも優秀な学生を支援する仕組みがあり、さらに科学が好きになるように小学生に向けての啓蒙も行っている。

 陸軍のこれからの研究課題については非常に明快な説明があり、以下のポイントが説明された。・ Manned unmanned teaming(MUMT):有

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人機と無人機の最高のコーディネーション、運用の柔軟性・ Gray Eagle:無人機がIOT(Initial Operational

Testing)を完了・ Multiyear Procurement:UH60MやCH47Fの複数年契約による経費削減・ Future Vertical Lift(FVL):Future Vertical

Lift(FVL)機の研究(Tiltrotor、Advanced Rotor、Compound Rotor)・ Degraded Visual Environment Mitigation:視界不良時の対策(Sensor、Cue、Flight Control)・ Min ia ture Unmanned Aer ia l Vehic le (MUAV):昆虫のような超小型無人機・ Improved Turbine Engine Program(ITEP):ヘリコプター用エンジンの燃費向上(25%)、軽量化、低価格化

③ ATAG (Air Transportation Action Group) Executive Director  Paul Steele 氏  「Securing Our License to Grow - Shifting

Paradigms for a Sustainable Aviation Future」  民間航空の現状と将来の展開についての講演。世界全体の航空業界の売り上げは220兆円、5,660万人の雇用を創出しており、国に例えるならばGDP19位に匹敵する規模である。  今後20年間に3,400機の新型民間機が市場に出回り、2030年の売り上げは690兆円を見込んでいる。航空路も欧米を中心としたものから、アジアと中東、アジアと南米と等を結ぶ路線に推移し、これらの乗客の増加が予想される。中国では2016年までに82の空港が新しく作られる。

 一方、航空機によるCO2の排出に関しては2050年までに半減(2005年と比較)することが求められている。

 現在開催中(2013年9月24日~10月4日)のICAO第38回総会で、次回総会(2016年)までに、MBM(Market Based Measurement:経済的手法)に至るRoadmapが決められれば望ましい。CO2削減に関しては、①新技術(新機材・バイオ燃料)、②運航方式、③施設(空港施設・新管制方式)、④MBM(排出権売買等)の4つの柱から対応する。

 なお、ICAO第38回総会で決議されたCO2削減案については、次のニュース記事を参照されたい。

航空温室ガス規制で合意国連専門機関、20年までに導入【ニューヨーク=共同】 国連専門機関の国際民間航空機関(ICAO)は4日、カナダ・モントリオールで開いた総会で、航空機から出る温暖化ガスの削減策を2020年までに導入することを決めた。排出量取引など市場メカニズムに基づく仕組みを設計する。ICAOは、温暖化をめぐるこうした対策への国際的な合意は主要産業界では初めてとしている。 具体的な内容は今後ICAO加盟各国間の交渉を経て作成し、次回16年の総会で決定する。AP通信によると世界全体の二酸化炭素排出量の中で航空産業が占める割合は2%未満だが、発展途上国を中心に拡大を続けている分野のため、対応を急ぐ。 ICAOのロベルト・コーベ理事会議長は今回の決定を「航空産業が多国間の話し合いにより温暖化対策に取り組む上で、歴史的な前進」と評価した。 (出所:日本経済新聞 WEB版 2013.10.05.より)

(2)日本からの参加者の研究発表① IHI 技術開発センター 制御技術部  油圧技術グループ 担当部長 森岡 典子 氏  「More Electric Architecture for Engine and

Aircraft Fuel System」  Engine Gear Boxで駆動されているFuel

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Pumpを電動に換えると同時に機体の燃料タンク内にあるBoost Pumpも電動化し、機体Fuelシステム全体を革新する提案である。

②IHI 基盤技術部 電子技術室 室長 大依 仁 氏  「Power Management System for the Electric

Taxiing system incorporating the More Electric Architecture」

 電動モーターによるTaxiingの提案というよりも、むしろRegenerative Fuel Cell(RFC)を機体電源システムに組み込んだFlight Phase全体を通じてのシステムマネージメント概念の提案である。

③ KHI 航空宇宙カンパニー 生産技術部  生産技術課 瀬川 周平 氏  「Development of a Dril l bi t for CFRP/

Aluminum-Alloy Stack:To improve Flexibility, Economical Efficiency and Work Environment」

 CRFPとアルミ板材を合わせた部分の穴あけ作業を改善するために、独自の形状と材質のドリルの刃先を開発した。

このほか、スケジュールが調整できず聴講はできなかったが、以下2氏の研究発表があった。④KHI航空宇宙カンパニー 生産技術部 生産技術課 主事 岡田 豪生 氏 「Assembly Study of Refill FSSW」⑤三菱航空機 営業部  マーケッテンググループ  戦略チームリーダー 小川 太郎 氏 「Market Trend and Forecast」

(3)海外からの参加者の研究発表① Evgeni Ganev, Mike Koerner, Honeywell

International Inc.

  「Power and Thermal Management for Future Aircraft」

 独立した装備品であるAPU(Auxiliary Power Unit)、EPU(Emergency Power Unit)、ECS(Environmental Control System)及びTMS(Thermal Management System)を統合してPTMS(Power and Thermal Management System)とすることにより、構成品の共有化、統合を行い、装備品の容量及び重量を削減する。

② Mirko Jakovljevic, TTTech. Computertechnik AG  「Generic Fly-by-wire Architectures and

Systems with TTP」  Fly-by-wireシステムに重要となるリア ルタイム性を確保するためにTTP(Time Triggered Protocol)を採用し、よりシンプルなネットワーク環境を構築することによって、ソウトウエア開発を容易にする。

③ Enno Vredenborg, Frank Thielecke, Hamburg University of Technology  「Thermal Management Investigations for

Fuel Cell Systems On-Board Commercial Aircraft」

 現在捨てている燃料電池からの発生熱を客室の温度維持用熱源として利用することによって機体内部の熱を効率的に利用する方法を考案し、熱容量(エネルギー)の面から実現可能性を調査している。

④Masa Hirvonen, Honda Aircraft Company Inc.  「H o n d a J e t S y s t e m s I n t e g r a t i o n a n d

Development」  ホンダジェットでは専用の地上試験装置(ASITF:Advanced System Integration Test

Facility)を製作し、機体の試験に使用して

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いる。このASITFは高度なシミュレーションが可能であり、従来フライト試験で行っていた項目の一部を地上で行うことができ、実フライト試験の時間を削減できる。

⑤ Neno Novakovic, Milorad Manojlovic, United Technology Aerospace Systems  「Power Dissipation Optimization Process in

Aircraft Secondary Power Distribution Systems」

 航空機の電気化を推進するために、電源の二次側(負荷側)の接続をネットワーク化し、SSPC(Solid State Power Controller)による配電部(PDU:Power Distribution Units)により最適な制御を行う。

⑥Avraham Ardman, Bombardier Aerospace 「More Electric Demonstrator Project Update」  ボンバルディア社では電気化を推進し、エンジン抽気は全廃、油圧系は降着装置(主脚)のみ残し、その他は電気化する。降着装置用の油圧系は主脚付近にのみ配置することにより、現状の油圧系より大幅に軽量化する。

5.所感 航空工業会の国際連携当初は日本からの参加者(社)があること

も知らず、最終の詳細なプログラムで5件の研究発表と展示を知った次第である。参加者に伺うとSAEのイベントには以前から参加していたとのことであり、会員の皆様にもSAE

の Aerotech Congress and Exhibitionを知っていただき、是非いろいろな意味で利用していただければと思う。

例えば、前日のBombardier工場見学会には、日本からの参加者や他のメーカーからも多数参加しており、同業者間では普段実現しえない貴重な機会を活用していた。また、研究発表に関しては、国際経験のために社歴の比較的若い担当者に発表を行わせる会社もあった。

技術セッションの発表は各30分程度であったが、既に決まっている事項の現状報告だけではなく、将来的な構想、思案中の事項など海外メーカーあるいは研究者が検討中の情報を得ることができ、日本企業にとっては海外動向を知る絶好の機会であった。また、質疑応答時間もあり、さらに発表後に意見を交換することも可能であった。日本にいては海外メーカー等の担当者と意見交換できる機会はほとんど無く、このような機会を利用して幅広く人脈を広げることは非常に有効だと考えられる。今回の海外調査なども含め、いろいろな機会を通じて広報し、今後の更なる活動や参加を促して行きたい。なお、隔年でSAE Aerospace Systems and

Technology Weekが開催されており、次回は2014年9月23日~25日に米国シンシナティで開催されることになっている。

〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部部長 杉田 明広、飯島 澄〕