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実大免震建物の擁壁衝突実験とシミュレーション解析 EXPERIMENTS AND SIMULATION ANALYSIS OF COLLISION TO RETAINING WALL WITH REAL SCALE BASE-ISOLATED BUILDING 三輪田吾郎 1) 、小巻潤平 2) 、佐藤浩太郎 2) 佐野剛志 1) 、勝俣英雄 1) 、多幾山法子 3) 、林康裕 4) Goro MIWADA 1 , Jumpei KOMAKI 2 , Kotaro SATO 2 , Takeshi SANO 3 , Hideo KATSUMATA 3 , Noriko TAKIYAMA 3 , Yasuhiro HAYASHI 4 1) 大林組 技術研究所 1 Technical Research Institute, Obayashi Corporation e-mail : [email protected] 2) 京都大学大学院 工学研究科 修士課程 2 Graduate School of Eng., Kyoto University 3)京都大学大学院 工学研究科 助教・博士(工学) 3 Research Associate, Graduate School of Eng., Kyoto University, Dr. Eng. 4)京都大学大学院 工学研究科 教授・工博 4 Professor, Graduate School of Eng., Kyoto University, Dr. Eng. ABSTRACT: There is possibility that a base-isolated building is damaged by collision with a retaining wall during a mega-earthquake. Recently, a few studies have shown earthquake response analysis of collision assuming restoring force characteristics of the retaining wall, which are not supported by experimental data. Therefore, experiments of collision of a real scale base-isolated building with a retaining wall were carried out. The acceleration data on the superstructure and restoring force characteristics of the retaining wall including the soil behind during collision with the retaining wall were obtained. Using sway springs modeling the retaining wall including the soil behind, the behavior of the superstructure during such collision can be well simulated. キーワード: 免震、巨大地震、衝突、擁壁、シミュレーション 1.はじめに 近年、巨大地震が発生した際に、免震建物の上部建屋が擁壁に衝突し、上部建屋が損傷する可能性が 指摘されている。擁壁衝突が上部建屋の応答に及ぼす影響を評価するためには、擁壁衝突実験結果や実 地震時の擁壁衝突記録を基に作成したシミュレーションモデルによる地震応答解析を行う必要がある。 免震建物の擁壁への衝突については、これまでに縮小模型による実験 1) や解析検討 2)-5) が報告されてい るが、実大免震建物の擁壁への衝突実験は報告されていない。また、大地震時の免震層層間変位観測例 として、国内では2003年十勝沖地震により釧路市内の免震建物で30cm程度の免震層層間変位の観測報告 を筆頭に数件の観測報告 6)-8) がされているが、擁壁衝突事例の報告は無い。国外では1994年ノースリッジ 地震で、ロサンゼルスの免震建物において、外構から建物入口への架橋と免震建物との衝突事例の報告 9) がある。しかし、この衝突は滑動するよう設計された架橋の施工不具合に起因したもので、上部建屋 の擁壁への衝突現象を検討するために有益な情報を提供する事例ではない。 この様に、現状では大地震時に免震建物の上部建屋が擁壁に衝突した際の影響を検討するための実験 データや観測データは非常に少ない。また、地震観測システムを備えた免震建物であっても擁壁に荷重 第 13 回日本地震工学シンポジウム(2010) -502- GO11-Thu-PM-9

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実大免震建物の擁壁衝突実験とシミュレーション解析

EXPERIMENTS AND SIMULATION ANALYSIS OF COLLISION TO RETAINING WALL WITH REAL SCALE BASE-ISOLATED BUILDING

三輪田吾郎1)、小巻潤平2)、佐藤浩太郎2)、

佐野剛志1)、勝俣英雄1)、多幾山法子3)、林康裕4)

Goro MIWADA1, Jumpei KOMAKI2, Kotaro SATO2, Takeshi SANO3, Hideo KATSUMATA3, Noriko TAKIYAMA3, Yasuhiro HAYASHI4

1) 大林組 技術研究所

1 Technical Research Institute, Obayashi Corporation e-mail : [email protected]

2) 京都大学大学院 工学研究科 修士課程 2 Graduate School of Eng., Kyoto University

3)京都大学大学院 工学研究科 助教・博士(工学) 3 Research Associate, Graduate School of Eng., Kyoto University, Dr. Eng.

4)京都大学大学院 工学研究科 教授・工博 4 Professor, Graduate School of Eng., Kyoto University, Dr. Eng.

ABSTRACT: There is possibility that a base-isolated building is damaged by collision with a retaining wall during a mega-earthquake. Recently, a few studies have shown earthquake response analysis of collision assuming restoring force characteristics of the retaining wall, which are not supported by experimental data. Therefore, experiments of collision of a real scale base-isolated building with a retaining wall were carried out. The acceleration data on the superstructure and restoring force characteristics of the retaining wall including the soil behind during collision with the retaining wall were obtained. Using sway springs modeling the retaining wall including the soil behind, the behavior of the superstructure during such collision can be well simulated. キーワード: 免震、巨大地震、衝突、擁壁、シミュレーション

1.はじめに

近年、巨大地震が発生した際に、免震建物の上部建屋が擁壁に衝突し、上部建屋が損傷する可能性が

指摘されている。擁壁衝突が上部建屋の応答に及ぼす影響を評価するためには、擁壁衝突実験結果や実

地震時の擁壁衝突記録を基に作成したシミュレーションモデルによる地震応答解析を行う必要がある。 免震建物の擁壁への衝突については、これまでに縮小模型による実験1)や解析検討2)-5)が報告されてい

るが、実大免震建物の擁壁への衝突実験は報告されていない。また、大地震時の免震層層間変位観測例

として、国内では2003年十勝沖地震により釧路市内の免震建物で30cm程度の免震層層間変位の観測報告

を筆頭に数件の観測報告6)-8)がされているが、擁壁衝突事例の報告は無い。国外では1994年ノースリッジ

地震で、ロサンゼルスの免震建物において、外構から建物入口への架橋と免震建物との衝突事例の報告9)がある。しかし、この衝突は滑動するよう設計された架橋の施工不具合に起因したもので、上部建屋

の擁壁への衝突現象を検討するために有益な情報を提供する事例ではない。 この様に、現状では大地震時に免震建物の上部建屋が擁壁に衝突した際の影響を検討するための実験

データや観測データは非常に少ない。また、地震観測システムを備えた免震建物であっても擁壁に荷重

第 13 回日本地震工学シンポジウム(2010)

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GO11-Thu-PM-9

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計等は設置されていないため、擁壁衝突を考慮したシミュレーション解析において特に重要な解析諸元

である復元力特性を、観測データから直接得ることは困難である。 これらの状況を踏まえ、解体予定となった免震建物を用いて擁壁衝突実験を実施した。本報は、この

実大免震建物の擁壁衝突実験並びにシミュレーション解析より、上部建屋の衝突時挙動を明らかにする

ことを目的とする。 2.実験概要

2.1.建物概要

実験対象とした免震建物は、東京都清瀬市の大林組技術研究所内の免震オフィスビル(ハイテクR&D

センター)である。実験時の免震建物外観および衝突対象とした擁壁を写真1、写真2に示す。免震建物

は、1986年1月に日本建築センターによる評定(評定番号:免3)を受け、同年8月に竣工し、2009年7月の

衝突実験後、同年8月に解体した。

2.1.1.上部建屋

上部建屋は地上5階建、延床面積1,600㎡、質量約2,600tのRC造である。免震建物の設計クリアランス

は375mmであるが、ジャッキストロークの関係で、上部建屋の擁壁衝突実験時には、衝突対象の擁壁面に

剛部材を設置し、上部建屋とのクリアランスを20mm~30mmとした。また、実験前に上部建屋南側の犬走

りの大部分を撤去し(写真2参照)、建物内の什器は概ね搬出した。

2.1.2.免震装置

免震装置は天然ゴム系積層ゴム14基および特殊鋼棒ダンパー96本である。積層ゴムの1次形状係数は

33.5、2次形状係数は2.8で、ゴムの静的せん断弾性係数が0.549N/mm2である。近年の一般的な天然ゴム

系積層ゴムと比較すると2次形状係数が小さく、せん断弾性係数は大きいが、擁壁の復元力特性および擁

壁衝突時の上部建屋の挙動を把握する上での支障は無い。また実験前に特殊鋼棒ダンパーは全数撤去し

た。

2.1.3.擁壁

上部建屋を衝突させる擁壁は、免震建物の南面に位置する擁壁である(以下、南面擁壁)。擁壁は厚さ

200mm、高さ1.2mのRC造である。擁壁の配筋は縦筋、横筋共にD10、D13@150mmのダブル配筋である。擁

壁および基礎の断面図を図1に示す。上部建屋が擁壁に衝突すると、擁壁に押されて背後地盤(埋戻し土)

も動くため、本報では両者を併せて擁壁部と称す。

2.1.4.建築地盤

建築地盤の地層構造はGL-7.0mまでが関東ロームでN値10以下である。GL-7m以深には武蔵野れき層が

あり、N値≧50である。杭はPHC杭でGL-7mのれき層で支持している。

実験方向

Z

X Y

写真 1 免震建物外観

実験方向

Y

Z

建屋南面の擁壁

撤去した犬走り

写真 2 衝突対象とした南面擁壁

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2.2.実験方法

擁壁衝突実験は、急速開放ジャッキにより上部建屋に初期変位を与えた後、ジャッキの油圧を急速に

開放し、積層ゴムの復元力により上部建屋を擁壁に衝突させる方法とした。免震層平面図を図 2 に、実

験の模式図を図 3 に示す。衝突実験は初期変位 40mm と 100mm の 2 ケースを実施した。本建物の免震

クリアランスは 375mm であるが、擁壁衝突実験では 375mm 以上のストロークの急速開放ジャッキを設

置することが困難であったため、擁壁に剛部材(鉄骨梁)を設置し、クリアランスを約 20mm~30mmとした。鉄骨梁は南面擁壁の 2 箇所(X1 通り、X7 通り)に設置し、さらに鉄骨梁に荷重計を取付け、

この鉄骨梁と荷重計を介して、上部建屋の基礎を擁壁に衝突させた。また本報に示す擁壁衝突実験以外

にも予備的な実験をおこなった 10)。

2.3.計測項目

2.3.1.荷重

擁壁衝突実験では、上部建屋と擁壁部との衝突荷重を計測するため、南面擁壁の衝突位置2箇所(X1通りおよびX7通り)にそれぞれ荷重計3台を設置した(図2参照)。南面擁壁のX1通りに設置した荷重計3台の合計値を WF 、X7通りに設置した荷重計3台の合計値を EF (X7通り)とする。 2.3.2.変位

B1Fの免震層変位計の設置位置を図4に示す。上部建屋‐擁壁上端間の変位、免震層層間変位および積

層ゴム底部基礎‐擁壁下部間の変位記号をそれぞれ nWBD 、 n

FBD および nFWD 0と称する。例えば )Y(DX

WB1 はX1

列における上部建屋‐擁壁上部間のY方向変位を示す。擁壁部変位 (Y)1XnFWD は式(1)より求める。

mXnFB

XnFW CDD −= (Y)(Y)1 (1)

( mC :衝突実験時のクリアランス、各実験ケース時のクリアランスは表 1 に示す)

図 2 免震層の荷重計および載荷装置の設置位(単位:mm)

X

Y

反力台

ジャッキ除荷

擁壁

載荷

衝突実験時に剛部材を設置

擁壁背後地盤

急速開放ジャッキ

上部基礎

除荷

衝突実験時のみ衝突

積層ゴム

図 3 免震建物の擁壁衝突実験の模式図

14,4

00

積層ゴム

21,6003,600 3,600〃 〃 〃 〃

実験方

急速開放型ジャッキ設計クリアランス

375mm

X1 X2 X3 X4 X5 X6 X7

Y1

Y2

Y3

FW FE荷重計(擁壁衝突実験時X1,X7に設置)

擁壁

犬走りは実験時撤去

擁壁

背後地盤 (埋戻し土)

PHC 杭

積層ゴム

Y

Z

図 1 擁壁および基礎の断面図(単位:mm)

写真 3 南面擁壁 X1通りの擁壁衝突実験状況(上部建屋が衝突した状態)

Y

Z 荷重計

鉄骨梁

建屋基礎

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2.3.3.加速度

上部建屋の加速度計の設置位置を図5に示す。上部建屋にはRFと1Fの西側と東側にY方向の加速度計

を、北側と南側にそれぞれX方向およびZ方向の加速度計を設置した(図5(a)、(c))。また、3F床にX、Y方向の加速度計を設置した(図5(b))。加速度記号は Aで表わし、各測定点を設置した階および平面内位

置を加速度記号の右肩に、測定方向を記号右隣の括弧内に示す。例えば )(YARE は、RF東側に設置した測

定点でのY方向加速度を示す。

3.実験結果

初期変位40mm、100mmの各ケースの擁壁衝突実験結果をそれぞれ図6、図7に示す。また初期変位

100mmのケースにおける衝突3回目までの加速度および荷重の時刻歴波形について、時間軸を拡大した

波形を図8に示す。図6より、初期変位40mmのケースでは )(1 YA W で1回、 )(1 YA E で2回それぞれ衝突ピー

クが見られる。なお、図6の加速度波形上の約8秒に現れる負方向のピークは、急速開放ジャッキ除荷時

に生じた加速度であり、全衝突実験の加速度波形にも共通して現れている。衝突時の1Fでの最大加速度

は86cm/s2、擁壁部の最大変位は5.2mmである。図7より、初期変位100mmのケースでは )(1 YA W で6回、

)(1 YA E で7回それぞれ衝突時のピークが見られる。擁壁衝突時の1FにおけるY方向の最大加速度は

211cm/s2である。 )(1 YA W の加速度波形より、衝突時の速度を求めると10.4cm/sである。擁壁部の最大変位

は25.9mmであり、擁壁に作用する荷重 WF および EF の最大値はそれぞれ648kN、505kNである。図8にお

いて、初回の衝突時には WF と EF の荷重波形の立上り時刻に差があり、 WF の衝突時刻が約0.1秒早い。2回目の衝突時には、逆に EF の衝突時刻が約0.1秒早く、上部建屋がねじれ振動を伴って衝突している。

RFの加速度波形 )(ZARN と )(ZARS は除荷直後並びに擁壁衝突後の波形が逆位相となっており、上部建屋に

ロッキングが発生していると考えられる。Y方向の加速度波形では、除荷直後並びに擁壁衝突後に、免

震建物の1次固有周期よりも短い周期の振動が励起されており、この短周期の振動もロッキングの発生に

よるものと考えられる。 X1、X7 での擁壁部復元力特性を図 9 に示す。図 9 より、X1、X7 での復元力‐変位関係は 250kN~300kN

程度までほぼ線形関係にあるが、この復元力を超えると剛性が低下し、弾塑性性状を示す。初期変位

40mm の衝突実験ケースにおける最大荷重点での割線剛性を求めると、X1 では約 50.4kN/mm、X7 では

54.2kN/mm である。また、初期変位 100mm の衝突実験ケースでは 1 回目の衝突の擁壁部変形後に 6mm~7mm の残留変位が生じた。2 回目以降の衝突ではこの残留変位が生じた状態のまま、衝突を繰り返し

図 4 B1F 免震層での変位計測位置図(単位 mm)

積層ゴム

擁壁

450

430

320n

FBD

nFWD 0

nWBD

)(YDnWB

)(XDn

FB

)(YDnFB

)(0 YDn

FW

:上部建屋‐擁壁上端間の Y 方向変位(n=X1,2,4,5,7)

:免震層層間変位の X 方向変位(n=Y1,3)

:免震層層間変位の Y 方向変位(n=X1,4,7)

:積層ゴム底部基礎‐擁壁下部間の Y 方向変位(n=X1,4,7)

X

Y

X

Y

X

Y

図 5 免震建物各階での加速度計測位置図

),( ZXARN

)(YARE)(YARW

),( ZXARS

(a)RF X4

Y1

Y2

Y3

),(3 YXA C

(b)3FX4

Y1

Y2

Y3

),(1 ZXA N

)(1 YA E)(1 YA W

),(1 ZXA S

X4

Y1

Y2

Y3

(c)1F:試験方向(Y方向)

:試験直交方向(X方向)

:鉛直方向(Z方向)

加速度測定点(Y 方向)加速度測定点(X 方向)加速度測定点(Z 方向)

X1 X7初期変位40mm 24.0 32.0初期変位100mm 25.0 32.5

実験ケースクリアランス(mm)

表 1 衝突実験時のクリアランス(単位 mm)

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ている。 擁壁衝突実験後、擁壁‐背後地盤に間隙の発生や、擁壁脚部を中心としたひび割れを確認した(写真4)。

上部建屋においても、1FY1通りのX3、Y3通りのX3およびX4の柱脚においてひび割れを確認した。

4.シミュレーション解析

4.1.上部建屋のモデル化

実験方向と同じ南北方向を解析の対象とした。解析モデルは免震層と上部構造5層とを合わせた6質点

のせん断型モデル(図10)とし、ロッキングは考慮しない。免震層及び上部構造の諸元を表2に、その他

の解析諸元を表3に示す。シミュレーション解析の周波数は500Hz(衝突実験データのサンプリング周波

数512Hz)とした。解析モデルの上部構造の弾性剛性は、設計部材断面を基に別途作成した立体モデル

擁壁に見られた ひび割れ

写真4 擁壁衝突実験後の南面擁壁の西側隅角部でのひび割れ

X Y

Z

図 8 擁壁衝突時挙動(初期変位 100mm)

時間 (s)13 14 15 16 17 18 19 20

加速

度(G

al)

-250

-125

0

125

250

時間 (s)13 14 15 16 17 18 19 20

加速

度(G

al)

-250

-125

0

125

250

加速度

(cm

/s2 ) 図

31加速度

(cm

/s2 )

ロッキング振動

(Y)1WA(Y)1EA

(Y)RWA(Y)REA

時間 (s)13 14 15 16 17 18 19 20

荷重

(kN

-100

100

300

500

700WFEF

荷重

(kN

)

図 9 衝突実験における擁壁部復元力特性

0

700

0 15 30

初期変位40mm初期変位100mm

()

X1

擁壁部変位 (Y)11

XFWD (mm)

荷重FW

(kN

)

0

700

0 15 30

初期変位40mm初期変位100mm

()

X7

擁壁部変位 (Y)71

XFWD (mm)

荷重FE

(kN

)

時間 (s)13 14 15 16 17 18 19 20

加速

度(G

al)

-50

-25

0

25

50

加速度

(cm

/s2 ) ロッキング振動

(Z)RNA(Z)RSA

図 6 擁壁衝突実験での変位波形、加速度波形及び荷重波形(初期変位 40mm)

時間 (s)0 20 40 60 80

荷重

(kN

-100

0

100

200

300WFEF

荷重

(kN

)

時間 (s)0 20 40 60 80

加速

度(G

al)

-100

-50

0

50

100

加速度

(cm

/s2 )

時間 (s)0 20 40 60 80

-50

-25

0

25

50

変位

(mm

) (Y)1XFBD

(Y)7XFBD

(Y)1WA(Y)1EA

急速開放ジャッキ除荷時のピーク

Y

Z

時間 (s)0 20 40 60 80

荷重

(kN

-100

100

300

500

700

時間 (s)0 20 40 60 80

加速

度(G

al)

-250

-125

0

125

250 時間 (s)

0 20 40 60 80

変位

(m

m)

-120

-60

0

60

120

)(1 YA W

)(1 YA E

)(1 YD XFB

)(7 YD XFB

WFEF

加速度

(cm

/s2 ) 変位

(mm

)

図 7 擁壁衝突実験結果(初期変位 100mm)

荷重

(kN

)

急速開放ジャッキ除荷時のピーク

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を用いてPushOver解析を行い、算出した値を用いる。各層の質量は、立体モデルにおける当該階床及び

その上下の柱半分の質量とする。上部建屋の総質量は2,576tである。この立体モデルの質量には天井、

床及び設備等の固定荷重が含まれ、実験前に什器の搬出を行なっていることから積載荷重はゼロとして

いる。免震層の剛性は、衝突実験前に実施した免震層静的加力実験の結果より13.1kN/mmとする。復元

力特性は免震層、上部構造ともに線形とした。減衰は初期剛性比例型とし、1次モードに対する減衰定数

を、免震層では自由振動実験より1.8%、RC造の上部構造では3.0%と与える。これらの解析諸元による

質点系モデルの固有周期は2.79秒であり、衝突実験前に実施した自由振動実験結果から求めた固有周期

2.71sとは差があるものの、その差は3%程度であるため、解析モデルの諸元は変えないものとする。 4.2 擁壁部のモデル化

擁壁部は水平ばねによりモデル化し、免震層の変位がクリアランスを越えた場合に働くものとする。

クリアランスは、初期変位40mm及び100mmの擁壁衝突実験ケースで異なるため、2つの実験ケースの平

均値 mC =28.4mmとする(表1参照)。擁壁部の剛性 WK は、3章に示した擁壁衝突実験の結果(図9 初期変

位40mmケース参照)より、X1とX7での擁壁部の剛性を足し合わせ、104.6kN/mmとする。擁壁部の復元

力特性は、地盤と擁壁の非線形性を考慮せず弾性とした。擁壁部の減衰は、建物が擁壁部に衝突してか

ら離れるまでの間に働く瞬間剛性比例型とする。免震建物と擁壁部の反撥係数をe とし、擁壁部の質量

を無限大とすると、擁壁部の減衰定数h は式(2)の様に表せる。 22 )(lnπ/ln eeh +−= (2)

4.3 擁壁衝突実験のシミュレーション解析

擁壁衝突実験(初期変位100mm)のシミュレーション解析の結果より得られた、免震層及び擁壁部の

復元力特性を図11に、1F層せん断力-免震層層間変位関係を図12に示す。図12において、振動開始後、概

ね免震層層せん断力の約8割が1Fに作用しているが、衝突後1F層せん断力は、衝突による擁壁部からの

表 3 質点系モデルの解析諸元

擁壁部剛性 k w 104.6kN/mm

上部構造減衰定数 3.0%

免震層減衰定数 1.8%クリアランス Cm 28.4mm

固有周期 2.79s

図 13 解析における各階の加速度波形比較 (擁壁衝突実験(初期変位 100mm))

-150

0

150

0 5 10

5F3F1F

変位

(m

m)

時間(s)

加速度

(cm

/s2 )

表 2 免震層及び上部構造諸元

階 i 質量(tf) 階高(cm) 剛性 k i(kN/mm)

1次刺激関数

5 576 390 2331 1.0044 347 420 2957 1.0033 350 420 3758 1.0012 363 430 4524 0.9991 358 430 6492 0.997

B.I. 582 80 13.1 0.996

(t)

-2800

0

2800

-60 0 120

解析結果実験結果免

震層

層せ

ん断

力 (k

N)

免震層層間変位 (mm)-2800

0

2800

-60 0 120

解析結果実験結果

擁壁部

への

荷重

(kN

)

免震層層間変位 (mm)

-Cm

図 11 復元力特性 (a) 免震層 (b) 擁壁部

擁壁に衝突

図 10 質点系モデル

上部構造

免震層

擁壁部

kw

ki

Y

Z

-2800

0

2800

-60 0 120解析結果

1F層

せん

断力

(kN

)

免震層層間変位 (mm)図 12 1F 層せん断力‐免震層層間変位関係

-解析結果

mC-

擁壁に衝突

ジャッキ除荷後の 1F 総せん断力は、免震層総せ

ん断力の 8 割程度

上部建屋の振動開始に伴い、1F 層のせん断力が急

激に上昇する

-507-

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反力を受けて急増している。また図13に示す様に、解析結果において5F、3F及び1Fの加速度応答に違い

が見られないため、加速度時刻歴の比較には1Fでの応答のみを用いる。 擁壁衝突実験(初期変位40mm、100mm)とそのシミュレーション解析の結果の比較を図14、図15に

示す。初期変位40mm、100mmのどちらの場合も、反撥係数e を0.8(式(2)より、減衰定数h =7.1%)と

すると実験結果と良好な対応が得られる。初期変位100mmの場合、2回目衝突以後の免震層層間変位に

ついては、実験結果に比べて解析結果の振幅が小さくなっている。実験では1回目の衝突で擁壁部が塑性

化し、クリアランスが増大しているが、解析では擁壁部を線形としたことが原因であると考えられる。

実験結果における1Fの加速度波形では、上部建屋のロッキングによる短周期の振動が励起されているが、

解析結果にはこの短周期の振動は現れない。 4.4 初期変位による感度解析

初期変位の増加させた場合の衝突挙動の変化を確認するため、反撥係数eを 0.8、初期変位を 28.4mm(= mC )から 300mm として解析を行った。得られた応答波形の例を図 16~図 18 に示す。衝突が生じる

場合は生じない場合に比べて、加速度振幅が小さく、周期が短い。また、衝突が生じる場合、初期変位

を増やすと、周期が短く、上部構造の応答が増大している。また、初期変位を増大させた場合での上部

図 15 擁壁衝突実験との比較 (初期変位 100mm)

-100

0

100

0 5 10

e=0.4e=0.6

e=0.8実験結果

変位

(m

m)

時間(s)

-Cm

-150

0

250

0 5 10

e=0.4e=0.6

e=0.8実験結果

加速度

(G

al)

時間(s)

(a)免震層層間変位(X4 通り)

(b)1F 加速度波形

加速度

(cm

/s2 )

図 14 擁壁衝突実験との比較(初期変位 40mm)

-40

0

40

0 5 10

e=0.4 e=0.6 e=0.8 実験結果

変位

(m

m)

時間(s)

-Cm

-60

0

80

0 5 10

e=0.4e=0.6

e=0.8実験結果

加速度

(G

al)

時間(s)

(a)免震層層間変位(X4 通り)

(b)1F 加速度波形

加速度

(cm

/s2 )

図 18 擁壁衝突のシミュレーション解析結果(初期変位 300mm)

-300

0

300

0 5 10

衝突あり衝突なし

変位

(m

m)

時間(s)

-Cm

-450

0

450

0 5 10

衝突あり衝突なし加

速度

(G

al)

時間(s)

(a)免震層層間変位(X4 通り)

(b)1F 加速度波形

加速度

(cm

/s2 )

図 17 擁壁衝突のシミュレーション解析結果(初期変位 100mm)

-100

0

100

0 5 10衝突あり衝突なし

変位

(m

m)

時間(s)

-Cm

-150

0

150

0 5 10衝突あり衝突なし加

速度

(G

al)

時間(s)

(a)免震層層間変位(X4 通り)

(b)1F 加速度波形

加速度

(cm

/s2 )

図 19 初期変位による応答の変化

0

450

0 50 100 150 200 250 300

5F(衝突あり)1F(衝突あり)5F(衝突なし)1F(衝突なし)

加速度

(Gal

)

初期変位 (mm)Cm

0

0.0003

0 50 100 150 200 250 300

5F(衝突あり)1F(衝突あり)5F(衝突なし)1F(衝突なし)

最大層

間変

形角

(R

ad)

初期変位 (mm)Cm

0

9000

0 50 100 150 200 250 300

擁壁部反力1F層せん断力免震層層せん断力

作用

する

力 (k

N)

初期変位 (mm)Cm

(a)最大加速度 (b)最大層間変形角 (c)1F 床に作用する力

加速度

(cm

/s2 )

図 16 擁壁衝突のシミュレーション解析結果(初期変位 40mm)

-40

0

40

0 5 10

衝突あり 衝突なし

変位

(m

m)

時間(s)

-Cm

-60

0

60

0 5 10

衝突あり衝突なし加

速度

(G

al)

時間(s)

(a)免震層層間変位(X4 通り)

(b)1F 加速度波形

加速度

(cm

/s2 )

-508-

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構造の最大加速度と最大層間変形角、擁壁部変位、擁壁部最大反力、1F 及び免震層の最大層せん断力の

変化を図 19 に示す。いずれの最大応答も初期変位の増加と線形に応答が増大している。図 19(a)、(b)に示す様に衝突が生じる場合は生じない場合に比べて、上部構造の最大加速度と最大層間変形角が約 2.5倍となっている。

4.1節で述べた様に、シミュレーション解析は線形解析であるため、図19(a)~(c)に示した初期変位と各

パラメータがほぼ比例関係となっている。本報の衝突実験結果は線形解析により、ほぼシミュレーショ

ンすることできるが、今後、地震応答解析を行うにあたっては非線形解析結果との差異を比較し、実務

への有用性を含めて、適切な解析方法を検討する必要があると考えられる。 5.まとめ

実大免震建物を用いた擁壁衝突実験結果とそのシミュレーション解析より明らかとなった事項は以下

の通りである。 (1) 擁壁への衝突によって、免震建物の見かけの振動周期の減少、上部建屋の最大層間変形と最大加速

度の増大(実験建物では約2.5倍)、ロッキング振動の励起が確認された。 (2) 衝突により擁壁の局部的な損傷と変形の集中、擁壁の残留変形や擁壁-背後地盤間の間隙を確認する

とともに、実免震建物の擁壁及び背後地盤(擁壁部)の復元力特性を把握することができた。 (3) 免震建物の擁壁への衝突挙動は、衝突時にのみ作用する擁壁・背後地盤の水平ばねと減衰を考慮す

ることで概ねシミュレーションすることができた。 本報のシミュレーション解析では擁壁部の剛性については実験結果を用いた。しかし擁壁部は各免震

建物により仕様が異なるとともに、擁壁部の復元力特性の設定方法や上部建屋と擁壁部の復元力特性の

相対関係によって上部建屋の応答が変化することが充分に予想されるため、今後の課題としたい。 謝辞

本報の実験には、京都大学大学院博士前期課程の鈴木恭平氏にご協力頂いた。記して謝意を表する。 参考文献

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