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ROAD TEST No 5113 McLaren MP4-12C Spider マクラーレンMP4-12Cスパイダー 2011年にクーペモデルが登場し、その翌年にスパイダーを追加したMP4-12Cだが、 その際に出力向上を含むアップデートも実施された。その効果のほどを確かめてみよう。 photo: Stan Papior WE LIKE 強力なパフォーマンス、傑出した乗り心地、すっきりとしたルーフ機構、サーキットでの走行性能 これもまたマクラーレンのロゴをモチーフにしている特 徴的なサイドエアインレットは、空気の流れを90°折り曲 げて、横向きにマウントされたラジエターに導くようにデ ザインされた。中央のブレードはカーボンファイバー製を オプションで選べる。 クーペモデル同様、すっきりとボディに一体 化されたスパイダーのデイタイムランニング ライトは、N ik eのロゴを逆さまにしたような マクラーレン・オートモーティブ社のロゴを模 した、特徴的なデザインがなされている。 フロントスポイラーはブラックが標準だが、 ほかの色も用意されている。標準品よりも軽 量なカーボンファイバー製リヤスポイラーを 選んだ場合、フロントもカーボンファイバー 製となる。 マクラーレンがもっともディテールにこだ わってデザインしたのが、このサイドミラー である。下部に彫り込まれたチャンネルは、ミ ラーのカバーが発生させた空気の乱流を整 える作用を果たす。 052 AUTOCAR 11/2013

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Page 1: ROAD TEST No 5113 McLaren MP4-12C Spider - AUTOCAR · McLaren MP4-12C Spider マクラーレンMP4-12Cスパイダー 2011年にクーペモデルが登場し、その翌年にスパイダーを追加したMP4-12Cだが、

ROAD TEST No 5113

McLaren MP4-12C SpiderマクラーレンMP4-12Cスパイダー

2011年にクーペモデルが登場し、その翌年にスパイダーを追加したMP4-12Cだが、その際に出力向上を含むアップデートも実施された。その効果のほどを確かめてみよう。photo: Stan Papior

WE LIKE 強力なパフォーマンス、傑出した乗り心地、すっきりとしたルーフ機構、サーキットでの走行性能

これもまたマクラーレンのロゴをモチーフにしている特徴的なサイドエアインレットは、空気の流れを90°折り曲げて、横向きにマウントされたラジエターに導くようにデザインされた。中央のブレードはカーボンファイバー製をオプションで選べる。

クーペモデル同様、すっきりとボディに一体化されたスパイダーのデイタイムランニングライトは、Nikeのロゴを逆さまにしたようなマクラーレン・オートモーティブ社のロゴを模した、特徴的なデザインがなされている。

フロントスポイラーはブラックが標準だが、ほかの色も用意されている。標準品よりも軽量なカーボンファイバー製リヤスポイラーを選んだ場合、フロントもカーボンファイバー製となる。

マクラーレンがもっともディテールにこだわってデザインしたのが、このサイドミラーである。下部に彫り込まれたチャンネルは、ミラーのカバーが発生させた空気の乱流を整える作用を果たす。

052 AUTOCAR 11/2013

Page 2: ROAD TEST No 5113 McLaren MP4-12C Spider - AUTOCAR · McLaren MP4-12C Spider マクラーレンMP4-12Cスパイダー 2011年にクーペモデルが登場し、その翌年にスパイダーを追加したMP4-12Cだが、

McLaren MP4-12C Spider ROAD TEST

MODEL TESTED ◎テスト車両概要

●モデル名:マクラーレンMP4-12Cスパイダー●車両本体価格:3000.0万円●日本発売時期:2012年7月3日●最高出力:625ps/7500rpm●最大トルク:61.2kgm/3000-7000rpm●0-97km/h加速:3.4秒●113-0km/h制動距離:43.4m●最大求心加速度:1.12G●テスト平均燃費:6.7km/ℓ●二酸化炭素排出量:279g/km

リヤガラスはルーフをオープンにするプロセスの最後でこの“エアロ”ポジションに移動し、走行風の巻き込みを減少させる。このガラスはルーフをクローズしたときでも開閉可能で、下げた場合、V8サウンドが盛大に室内に響きわたる。

テスト車両は標準装備の鋳造品よりも12%軽量な、5本スポークの鍛造アルミホイールを装着していた。過去に試乗したなかには、コルサ・タイヤを装着した個体もあった。

エンジンからのパイピングを短くするため高い位置にセットされたエグゾーストは、インコネル製のスポーツエグゾーストを選べばさらに輝きを増し、存在を主張できる。配管の見直しでパワーがアップした。

クーペと同様、12Cのリヤウィングはポジションが2段階に変化する。ひとつは一定速に達すると展開する、他車にも見られる一般的な目的に沿った位置だが、もうひとつの位置ではハイスピードからの制動でエアブレーキとして機能する。

WE DON’T LIKE ライバルと比べて依然として刺激に欠けるサウンド、ビジュアル的な魅力、限界時に奥行きの浅いハンドリング

 12Cが登場する前にマクラーレンが製作したスポーツカーはF1のみだ。今や伝説的存在となっているその3シーターは1992年から1998年にかけて生産され、391km/hの最高速度、0-97km/h加速3.2秒、0-161km/h加速6.3秒という動力性能を誇った。 その後、マクラーレンはメルセデス・ベンツと組み、SLRマクラーレンを手掛けているが、2台目の純マクラーレン製ロードカーである12Cをロードテストするには、F1から17年後の2011年まで待たねばならなかっ

HISTORY 1994年の衝撃

た。そして2013年、今度はそのスパイダーモデルをテストする機会を得た。次の機会も同じくらい早い時期にやってくることを、われわれは願ってやまない。

伝説のF1は、マクラーレン初となる

ロードカー製造への挑戦だった。

053www.autocar.jp

Page 3: ROAD TEST No 5113 McLaren MP4-12C Spider - AUTOCAR · McLaren MP4-12C Spider マクラーレンMP4-12Cスパイダー 2011年にクーペモデルが登場し、その翌年にスパイダーを追加したMP4-12Cだが、

ON THE INSIDE

AUDIOオーディオオーディオシステムはメリディアン社によって12C専用に開発されたもので、オープンエアドライビング時の環境にも適合するようにチューニングされている。ラジオの受信性能は良好で、選局およびプリセットの操作もしやすい。

NAVIGATIONGPSナビゲーションGPSナビは、大型のロータリーダイヤル1個といくつかの小さな補助ボタン、それに

タッチスクリーンを使って操作する。直感的に使えるインターフェイスなので、説明書と首っ引きにはならずにすむ。操作しやすく、広範囲を網羅し、適切なルートを指示してくれるシステムだ。

COMMUNICATIONSコミュニケーション携帯電話のペアリングや外部オーディオ機器の接続は簡単だが、クルマのほかのシステムを操作する用途は当然ながら想定されていない。シャシーとパワートレインのセッティングはすべて、下層の独立したユニット内に置かれている。

空調のスイッチはドアレストに配置される。ドライバー側は全体をコントロールでき、助手席は自分の側の温度と風量を調節できる。

パワートレインとサスペンションのセッティングを、サーキット走行に適したモードに切り替えるためのローターリー式トグルスイッチ。アクティブボタンを操作すれば、EPSモードの切り替えと解除もできる。

いったん走り出してしまえばほとんど使わない、ギヤボックスの制御切り替えボタン、パーキングブレーキ、ルーフとウィンドウの開閉スイッチはセンターコンソールに配置されている。

054 AUTOCAR 11/2013

Page 4: ROAD TEST No 5113 McLaren MP4-12C Spider - AUTOCAR · McLaren MP4-12C Spider マクラーレンMP4-12Cスパイダー 2011年にクーペモデルが登場し、その翌年にスパイダーを追加したMP4-12Cだが、

2670mm1056mm 783mm

4509mm

1203mm

42% 58%

970mm min

1140mm max144

litres

1908mm1583mm1656mm

Turn

ing

circle

: 12.7

m

6.3ºobscured

12.0ºobscured

115m

m

Cent

re

McLaren MP4-12C Spider ROAD TEST

WHEEL AND PEDAL ALIGNMENT ステアリングホイールとペダルの配置

ガラス製カバーで覆われたエンジンルームは整然としている。油脂類の注入口は補給しやすいような構造になっているが、それ以外の部分はツインターボV8本体を含めてほとんど隠されている。

フロントのトランクは一般的なGTカーほど大きくはないが、ミドエンジンスーパーカーの大半よりも広い。小物を保持するネットが備わっている。

幅:720mm

奥行き:430mm

高さ:340mm

FRONT前方視界はクーペと変わりなく、きわめて良好である。後方視界も、スーパーカーとしてはよい部類に入る。

HEADLIGHTSとても良好。とくにメインビームは優秀だ。

HOW BIG IS IT? サイズはどれくらい?

VISIBILITY TEST 視認性テスト

シートを最後方の位置までスライドさせた状態では、シートバックがリクライニング途中でリヤバルクヘッドにぶつかってしまう。テスト車はオプションのヒーテッド電動シートを装備していた。

ドライビングポジションはストレートに感じられる。ペダルはふたつしかない。ブレーキペダルが中央に置かれているため、左足を使ったブレーキングがしやすい。スロットルペダルの右側へのオフセット量は適正である。

055www.autocar.jp

われわれは通常、すでにロードテストを実施したスーパーカーを、ルーフが取り去られたか

らという理由だけで再び対象として取り上げることはない。2011年6月にテストした12Cのオープンモデルに白羽の矢を立てたのは、マクラーレンがそれに施した変更がきわめて奥深く、再テストの意味があるように思えたからだ。 12Cは当初から、その名誉のために再テストを実施するような失敗作ではなかった。実際、われわれは満点評価まであと星ひとつという9点の評価を与えている。だが、同時にフェラーリ458イタリアへの評価に星ひとつおよばなかったのも、紛れもない事実である。われわれは、決して独断に満ちた判定を下したわけではない。3000万円以下級のミドシップスーパーカーの購入を検討する人にとって、契約印を押すべきクルマはフェラーリだという結論は、きわめて合理的に導かれたのである。 だが、マクラーレンの技術者たちはその後、モータースポーツにルーツを持つメーカーにしかできないであろう迅速さで派生モデルの開発に取り組んできた。12Cのクーペからスパイダーへの変更点

は、単なるフォールディングハードトップにとどまらない。それらがどのような結果をもたらしたのかに重点を置いて、変化のほどを確かめてみたい。

DESIGN&ENGINEERING意匠と技術★★★★★★★★☆☆ フォールディングハードトップの装着が12Cのボディラインに与えた影響はきわめて小さい。クーペと変わりなくルックスは魅力的な部類に入るが、デザインそのものの力よりも、それがマクラーレンであるという理由で人目を引くことも否めない。 ウォーキングからの発表はいつも控えめすぎる傾向があるが、効率のいい仕事ぶりは彼らのトレードマークとなっている。それを知っていれば、オープンボディの構造的な剛性がクーペを発売するはるか以前から計算されていたと聞いても、おそらく驚きはしないだろう。2枚のパネルで構成されるルーフとそれを動かすメカニズムは40kgの重量増を招くものの、カーボンファイバー製タブのねじり剛性に少しも不足が発生していないのは、当然のこと

として受け止められるはずだ。 オープンルーフを別にすれば、スパイダーとクーペのメカニズムはほぼ共通である。だが、たゆまぬ改良の結果、2011年にテストした車両とは細部がかなり変わっている。 エンジンはフラットプレーンクランクの3.8ℓV8ツインターボで、最高出力は600ps/7000rpmから625ps/7500rpmへとアップした。なお、最大トルクは変更なく61.2kgmだ。マクラーレンによれば、マイルドなターボラグがアンダーステアをもたらし、ハンドリングのバランスをスポイルしていたが、控えめなパワー増強がスロットルレスポンスを向上させ、その問題点は解決されたという。 そのほかにも注目すべき修正点はふたつほど挙げられる。変速機構の調整と、エンジン音をキャビンに取り込む“インテークサウンドジェネレーター”の復活だ。なお、これらはすでにデリバリーされた全12Cに追加施工が可能である。 それ以外のセットアップは既存モデルからのキャリーオーバーだ。すなわちカーボンファイバー製タブ、その前後に固定されたアルミ製サブフレーム、

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274km/h

23.6s

257km/h

19.1s

241km/h

16.2s

225km/h

13.6s

177

8.2s

193km/h

9.8s

209km/h

11.5s

48km/h 64 80 97 113 129 145 161

1.6s 2.1 4.02.7 3.3 7.0s4.9s 5.8s

10s5s0 20s15s

274km/h

24.8s

257km/h

19.4s

241km/h

16.2s

225km/h

13.9s

177

8.5s

193km/h

9.9s

209km/h

11.6s

48km/h 64 80 97 113 129 145 161

1.8s 2.2 4.12.8 3.4 7.2s5.0s 6.1s

10s5s0 20s15s

48-0km/h

48-0km/h

80-0km/h

80-0km/h 113-0km/h

113-0km/h

43.4m

53.9m27.0m

22.0m

9.7m

7.9mDRY

WET

20m10m 40m 50m30m0

 これまでにテストした12Cはすべてカーボンセラミック製ブレーキディスク装着車だったが、この個体は鋳鉄製ディスクを装着していた。当然といえるが、カーボンセラミック製ディスクよりも制動力の加減が多少やりやすく、耐フェード耐性は劣っていた。とくにコルサ・タイヤでそれは顕

著だ。だがPゼロでさえも、ドライサーキットではタイヤより先にブレーキが音を上げる結果となった。 12Cは素晴らしくクイックで、動作は落ち着いていた。スタビリティコントロールの完全解除が可能になったが、操作は少々面倒である。そして、解除状態ではプ

ッシュアンダー傾向が出るが、それはシステムを動作させ、内側後輪にブレーキが介入しても変わらない。前軸荷重が42%しかないことを考えれば、これは必然といえるだろう。トラクションを制限するESPと組み合わせて、ようやくニュートラルなクルマとなる。

 ESPをオフにすると、ターボラグが軽減されたこの最新モデルではドリフトに持ち込むのが容易で、しかも維持しやすい。だが、前後重量配分とターボエンジン、それに機械式LSDを持たない特性から、速くはあるが、最高レベルのライバルほどには走りに楽しさがない。

Start/finishT1T2

T4

T3

T5 T6

T7

T8

■ドライサーキットマクラーレンMP4-12Cスパイダーラップタイム:1分8秒9フェラーリ458イタリア参考タイム:1分8秒9

458イタリアのテスト時に比べて大きく不利なコンディションと、グリップ性能の劣るタイヤにもかかわらず、12Cスパイダーはまったく同じラップタイムを記録した。これは2011年にテストした、コルサ・タイヤを履いた12Cクーペよりコンマ数秒遅いだけだ。サーキットでの速さは驚異的である。

Start/finishT1

T2

T3

T4

T5T6

T7

TRACK NOTES サーキットテスト

ON THE LIMIT 限界時の挙動

マクラーレンMP4-12Cスパイダー

雪解け水が路面を横切っていたT4では、探りながらの走りとなってしまった。ただ、そんな状況でも立派なタイムを叩き出した12Cには賞賛を送りたい。

ヘアピンの立ち上がりでも良好なトラクションが得られた。テールスライドしてもコントロールしやすいクルマだ。

■ウェットサーキットマクラーレンMP4-12Cスパイダーラップタイム:1分13秒4フェラーリ458イタリア参考タイム:1分12秒7

悪条件下ではこの個体が装着していたPゼロのほうが、ドライグリップに優るコルサ・タイヤよりも有利だと証明された。12Cスパイダーのタイムは、2011年にウェットサーキットで走らせたクーペモデルよりも、6秒近く速かった。

2011年のクーペよりもスロットルレスポンスが向上したおかげで、ドリフトに持ち込み、それを維持するのは、12Cスパイダーのほうが簡単だった。

メインストレートエンドでしっかりと減速できて、高速コーナーのT1へとスムーズにつなげていけた。スロットルを戻すと生じるオーバーステアはほとんど出なかった。

■発進加速テストトラック条件:湿潤路面/気温4℃0-402m発進加速:11.6秒(到達速度:208.4km/h)0-1000m発進加速:20.6秒(到達速度:258.6km/h)

フェラーリ458イタリア

■制動距離97-0km/h制動時間:2.36秒

ON THE ROAD

056 AUTOCAR 11/2013

ダブルウィッシュボーン式のサスペンション、コイルスプリング、4輪統合制御式のハイドロニューマティックダンパーという組み合わせに変わりはない。なお、テスト車両は鋳鉄製ブレーキディスクとピレリPゼロを装着していた。テスト実施日は気温が低く、オプションのカーボンセラミックブレーキディスクやPゼロ・コルサを装着するよりも標準装備状態に向いている環境だった。

INTERIOR室内★★★★★★★★☆☆ 生産は、従来のマクラーレン・テクノロジーセンターから、すぐ近くのマクラーレン・プロダクションセンターに移管された。60億円以上を投じて新設された、実質的には12C専用の工場である。 組み付け精度、見た目や手触りのクオリティはさらに向上している。繊細に作り込まれたエアベントに象徴されるような、これまでも素晴らしいクオリティだった要素は、相変わらず高品質なままということだ。むしろ、ステッチと仕上げの質にいたっては、今まで以上に高まったようにさえ思える。 とはいえ、華やかさを求めるのであれば違うクルマをお勧めするのもこれまで同様だ。このクルマのインテリアは、シンプルさと機能性が信条である。 大半のテスターにとって、ナビゲーションとオーディオシステムをメーカーが意図したとおりの形で試すのは今回がはじめてだった。オーディオと空調の操作系統は、ルーフをオープンにした状態でベストの能力を発揮できるように調整し直されている。ルーフの開閉は30km/h以下で作動し、所要時間は17秒だ。そのスイッチが、クーペとスパイダーのキャビンを識別できる唯一の相違点である。 全体的に見て室内はよくできている。だが、一部のテスターからは、シートをもっと低く調整したいとの声が聞かれた。また、背の高いドライバーの場合、シートを後方へ最大限スライドしたときにリクライニング量が十分ではなかった。これは、ステアリングホイールのリーチを多めに確保したことも関係している。ステアリングホイールをレースカー並み

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McLaren MP4-12C Spider ROAD TEST

バットレスが付いた12Cでは、SLSロードスターほどの開放感はない。458スパイダーとほぼ同程度である。

 12Cスパイダーのリトラクタブルハードトップはたった2ピースで構成され、それらはオープン時には、ハードなトノカバーの下にすっきりと収納される。クーペと異なるボディパーツは、2枚のルーパネルフとトノカバー、そしてエンジンカバーのみだ。 車速30km/h以下であればルーフの開閉操作が可能で、その動作は17秒で完了する。オープン時にはルーフはトノカバーの下に収まっており、そのために確保されているスペースは、クローズ状態だと追加の荷物スペースとして使える。 シート後方にはふたつの盛り上がったバットレスがあり、それぞれにスティール製のサブフレームが組み込まれ、クルマが転覆した際の衝撃から乗員を保護する役割を果たす。マクラーレンがこのモデルにポップアッププロテクションシステムを採用しなかったのは、それによる重量増を嫌ったからだ。

12Cスパイダーは下手なラグジュアリーカーよりも乗り心地がいい。

UNDER THE SKIN 17秒で別世界

057www.autocar.jp

に胸の近くまで引き寄せることが可能なゆえに、なおさらシートバックを倒したくなるのだ。

PERFORMANCE動力性能★★★★★★★★★★ この項目では、テスト車が装着していたタイヤの影響が現れた。スーパーカーのパフォーマンスという評価項目において、12Cが依然としてトップレベルにあるのは間違いない。だが、今回のテストはクーペモデルを扱った2011年当時よりも気温が低い条件下で行われ、また、タイヤがPゼロ・コルサではなく普通のPゼロだったため、0-97km/hのタイムは0.1秒遅い3.4秒にとどまった。このタイム差は、タイヤの違いを考えればさほど残念なことでも驚くようなハプニングでもない。 それでもなお、このクルマは7秒より少しだけ多い時間があれば161km/hまで加速可能だ。発進から20.6秒後には1000mに到達し、その時点で車速は257km/hを超えている。前回のクーペに比べるとわずかに遅いが、パワーは4%増えた一方で重量は3%増えており、コルサほどはグリップしないタイヤとカーボンセラミック製よりも慣性の大きい鋳鉄製ブレーキディスクを装着していることを考慮すれば、それは取るに足らない差異である。同じ条件であれば、むしろこちらのほうが速いはずだ。 増加したものといえば、音量が挙げられる。具体的にはアイドリング時で2dB、3速ギヤで全開にしたときで3dB増加した。より情感的なサウンドになったと表現できるかもしれないが、とはいえ多少の変更では、12Cの根本的な性質を変えるまでにはいたらない。リカルド社が設計したV8は、周辺要素を変更したところで本質的なキャラクターは変わらないのだ。依然として遠慮ないほどに効率がよく、2基のターボもそのままだ。サウンドのスリリングさでは、相変わらず458イタリアにおよばない。メルセデス・ベンツSLSと比べても、本質的なサウンドエンジニアリングのレベルは一歩譲る。前方にトンネルが現れたときにオープンにしてフルスロットルで突っ込みたい気分に駆られるという点では、12C

スパイダーは3番手に甘んじるのだ。 だが、われわれには“キャラクター”よりも効率を重要視したい領域がある。それは、ギヤボックスの機能性と、ステアリングホイールに取り付けられたパドルの操作力の軽減だ。これまでのステアリングホイールはF1マシーンのそれを真似た形状だったが、ロードカーを公道で運転するにはあまり意味があるとはいえなかった。ギヤチェンジのフィールはこれまでより満足できる。ただし、パドルの操作性向上がそれに貢献しているかは判断しがたい。 ターボユニットの性質を考えれば、シフトダウン時に458と同等の鋭い吹け上がりが望めないのはやむを得ないだろう。とはいえ、魅力的だが活気のないSLSのV8とは同程度だといえる。

RIDE&HANDLING乗り心地と操縦安定性★★★★★★★★★☆ 重要なことから述べていこう。2年前のクーペモデルと同様、12Cスパイダーの乗り心地は素晴らしくしなやかで、見事に躾けられている。12Cは量産スーパーカーで最良といえる水準にあるのみな

らず、区切りをスポーツカー全般に拡げても指折りといえる1台だ。類い希な快適性を備えたクルマである。4つの輪をボンネットに掲げたクルマの多くに匹敵するほどの、下手なラグジュアリーカーよりも良好な乗り心地だ。ほかのスーパーカーではガレージにしまい込んだままにしたくなっていた人でも、12Cなら積極的に乗りたくなるだろう。しかも12Cスパイダーは、クーペとまったく同等のリジッドなフィールを味わわせてくれる。それは458やSLSでは味わえないような感覚だ。 けれど、われわれのいちばんの関心事は、それ以上にスロットルレスポンスに関する変更がハンドリングバランスに与える影響のほうにある。なぜなら基本特性として12Cを支配するターボラグとプッシングアンダーの連鎖こそが、限界時のダイレクトなアジャスト性能でこのクルマが458に比肩するのを邪魔しているからだ。12Cクーペの評価が9点にとどまった理由は、ほかの漠然とした“パーソナリティ”的特徴ではなく、その一点にあった。 クーペからモディファイを受けているこのスパイダーで、それが改善されているのは間違いない。確かに装着タイヤがコルサより格下のPゼロで、しか

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一部バックナンバーは www.autocar.jp に掲載されています。

0 02000 800060004000 10,0000

Engine (rpm)

61.2kgm/3000-7000rpm

625ps/7500rpm

Powe

r out

put (

ps) Torque (kgm

)

28

55

83

111

203

14101

41304

69507

97710

608

406

811

72 litres

1

2

3

4

5

84km/h 8500rpm

129km/h 8500rpm

175km/h 8500rpm

225km/h 8500rpm

288km/h 8500rpm

6 328km/h 7594rpm

7 328km/h* 5758rpm* claimed

■発進加速実測車速mph(km/h) 秒30 (48) 1.840 (64) 2.250 (80) 2.860 (97) 3.470 (113) 4.180 (129) 5.090 (145) 6.1100 (161) 7.2110 (177) 8.5120 (193) 9.9130 (209) 11.6140 (225) 13.9150 (241) 16.2160 (257) 19.4170 (274) 24.8

■エンジン駆動方式:縦置き後輪駆動形式:V型8気筒+ツインターボ, 3799ccブロック/ヘッド:アルミ軽合金ボア×ストローク:φ93.0×69.9mm圧縮比:8.7:1バルブ配置:4バルブDOHC最高出力:625ps/7500rpm最大トルク:61.2kgm/3000-7000rpm許容回転数:8500rpm馬力荷重比:424ps/tトルク荷重比:41.5kgm/t比出力:165ps/ℓ

■メカニカルレイアウト12Cスパイダーはカーボンファイバー製のバスタブ構造を採り、それにクラッシュ構造体としてアルミのサブフレームが固定されている。後部のサブフレームには、V8ツインターボエンジンと7段デュアルクラッチのギヤボックスが縦置きされている。サスペンションは前後ともコイルスプリングのダブルウィッシュボーンで、なめらかに動作するオイルダンパーにより、ロールを抑えつつも卓越した乗り心地を提供する。

■燃料消費率オートカー実測値 消費率総平均 6.7km/ℓツーリング 8.3km/ℓ動力性能計測時 2.1km/ℓメーカー公表値 消費率市街地 5.5km/ℓ郊外 12.9km/ℓ混合 8.6km/ℓ燃料タンク容量 72ℓ現実的な航続距離 484kmCO₂排出量 279g/km

■サスペンション前:ダブルウィッシュボーン /コイル+スタビライザー後:ダブルウィッシュボーン /コイル+スタビライザー

■ステアリング形式:ラック&ピニオン(油圧アシスト)ロック・トゥ・ロック:2.70回転最小回転半径:6.35m

■ブレーキ前:φ370mm通気冷却式ディスク後:φ350mm通気冷却式ディスク

■シャシー/ボディ構造:カーボンファイバーモノコック車両重量:1474/1520kg(実測)抗力係数:naホイール:(F)8.5J×19in, (R)11.0J×20inタイヤ:(F)235/35R19, (R)305/30R20 ピレリ・Pゼロスペアタイヤ:補修キット■変速機形式:7段DCTギヤ比/1000rpm時車速〈km/h〉①3.98/9.8②2.61/15.1③1.90/20.8④1.48/26.6⑤1.16/34.0⑥0.91/43.3⑦0.69/57.0最終減速比:3.31

■安全装備アイドリング:59dB3速最高回転時:86dB3速48km/h走行時:68dB3速80km/h走行時:72dB3速113km/h走行時:76dB

■安全装備ABS, ESPEuro N CAP/ na

注意事項:馬力荷重比とトルク荷重比の計算にはメーカー公称車両重量を使用しています。 © Autocar 2013. テスト結果は権利者の書面による承諾なしに転用することはできません。

ウェットハンドリングサーキットで走り比べると、標準タイヤのPゼロはコルサよりもこれだけ速い。

今回の12Cスパイダーは、2011年にテストした12Cクーペよりこれだけ重かった。

ROAD TEST

5.7sec

50kg

■今月の数字

■最高速

SPECIFICATIONS 計測テストデータ

DATA LOG

■エンジン性能曲線

■中間加速〈秒〉mph (km/h) 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th

20-40 (32-64) 1.8 2.9 6.3 - - -

30-50 (48-80) 1.3 2.0 3.3 5.3 - -

40-60 (64-97) 1.3 1.7 2.4 4.1 7.2 -

50-70 (80-113) 1.3 1.7 2.2 3.3 6.1 14.0

60-80 (97-129) - 1.8 2.3 2.9 5.1 11.6

70-90 (113-145) - 1.8 2.4 3.1 4.3 10.6

80-100 (129-161) - 1.9 2.5 3.3 4.5 8.9

90-110 (145-177) - - 2.6 3.5 4.8 7.9

100-120 (161-193) - - 2.6 3.6 5.2 8.7

110-130 (177-209) - - 3.0 4.0 5.8 10.0

120-140 (193-225) - - - 4.2 6.4 -

130-150 (209-241) - - - 4.5 7.3 -

140-160 (193-257) - - - 5.4 - -

058 AUTOCAR 11/2013

も鋳鉄製ブレーキという不利もあった。また、コース脇に雪の塊が残る寒い日だったうえ、それが解けて高速コーナーの路面を濡らしてもいた。にもかかわらず、パワーアンダーステアへの耐性が高まったおかげで、ドライハンドリングサーキットではクーペから0.3秒遅れるにとどまっている。念のため記しておくと、2011年のクーペと同じPゼロ・コルサを装着したところ、ラップタイムは0.5秒も短縮した。間違いなくマクラーレンは、すでに驚くほど速いクルマをさらに加速させ、2年前には手が届かなかった458を打ち負かせるほどのマシーンを造り上げたといえるだろう。同じコースでのラップタイムが、それを証明している。 それでもわれわれは、前回と同じ言葉を今回も繰り返さなければならない。そう、“速さがすべてではない”のだ。アンダーステアは減少したし、ステアリングシステムの手応えもどんな基準に照らしても秀逸だと評価できるが、それでも458のほうが、限界時により多くの選択肢をドライバーに提供するし、スロットルによるコーナリングラインのアジャストがしやすい。簡潔に述べるなら、フェラーリのほうがドライビングがより刺激的なのだ。その差はわずかだが、見逃せるものではない。

BUYING&OWNING購入と維持★★★★★★★★☆☆ 25psのパワー増と重量増は、燃費とCO₂排出量の数値になんら影響していない。実測燃費は以前にテストしたクーペモデルとおおむね変わらず、巡航で8.3km/ℓ、総合で6.7km/ℓ、サーキットテストで2.1km/ℓという結果だった。それゆえ、サーキット走行に出かけるときは、72ℓの燃料タンクを満タンにして出掛けたほうがいい。150kmほど走っただけで空になるからだ。それ以外にかかるコストは妥当な範囲だ。この手のクルマの維持費が高いのは、12Cに限ったことではない。

Page 8: ROAD TEST No 5113 McLaren MP4-12C Spider - AUTOCAR · McLaren MP4-12C Spider マクラーレンMP4-12Cスパイダー 2011年にクーペモデルが登場し、その翌年にスパイダーを追加したMP4-12Cだが、

われわれはこう考える

情熱と正確さ、活気、そしてバイタリティの魅力的なミックス。無敵。

スナイパーライフルを満載したキャビネットのなかに置かれたラッパ銃。サウンドがうるさく横柄で人目を引く。

リフレッシュされたがかつてのような勢いはない。だが、依然として筋金入りのスーパーカー。

エンジニアリングの驚異。マクラーレンの純なイメージと戦闘的な本能にふさわしいクルマ。

長年贔屓にしてきたクルマ。新型ギヤボックスによって、より速い走りと扱いやすさがもたらされた。

4th3rd 5th2nd1st

McLaren MP4-12C Spider ROAD TEST

初期に採用されていたリリースではなく、真っ当なドアボタンが付いたことを歓迎したい。開けるのに失敗したときに恥ずかしかっただけでなく、クルマが汚れていたときに手まで汚れることがあったからだ。 マット・プライアー

この12Cは、ボルボのようなフローティングタイプのセンターコンソールを採用している。その後方にカップホルダーを隠したおかげでキャビンがすっきりとして見え、またドライバーの腕の動きを邪魔するものが少なくなった。反面、収納スペースを設けるのがむずかしくなる。 マット・ソーンダース

ROAD TEST

AUTOCAR VERDICT ●オートカーの結論

McLaren MP4-12C Spider「458とのギャップは、とくにスパイダー同士を 比べるのであれでば無視できるほどに縮まった」

ローンチ当初よりもよくなっているか? イエス、オフコース。悪くなった部分はあるか? ノー。マクラーレ

ン12Cスパイダーは、数多くの点で初期モデルのクーペから改善されている。それはとくに限界時のハンドリングに顕著だ。スロットルレスポンスやシフトパドルの動作といったディテールの変更によってもたらされた、つまり細やかな変更を積み重ねて得られた成果である。逆にいえば、変化は根本的なものではないともいえる。 たとえば、ハンドリングバランスは改善されたが、最初期から飛躍しているかといえばそれほど遠く離れてはおらず、エンジンがタービンを2基もぶら下げている事実にも変

わりはない。われわれが2年前に12Cクーペに下した最終評価を決定づけたのはそれらの要素だったが、今回の結論を左右したのもそこだった。 12Cスパイダーでもっとも評価すべきは、フェラーリ458スパイダーとは違い、ルーフを取り去ったことによって生じる不満が微塵もない点だろう。それどころか改良前のクーペより明らかに優れているほどだ。なお、458スパイダーの評価はクーペより星ひとつ少なく、12Cと同じ星9つである。二者択一であれば、458のほうがスーパーカーらしいとするテスターのほうが依然として多い。けれど、その差はこれまでになく縮まっている。

TESTERS’ NOTES●テスターのひと言コメント

★★★★★★★★★☆

No 5113

結論

車両価格最高出力最大トルク0-97km/h加速最高速度燃料消費率(混合)車両重量(公称値)CO₂排出量

★★★★★★★★★☆ ★★★★★★★★★☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★★☆☆ ★★★★★★★☆☆☆

3060.0万円 3000.0万円 2590.0万円 2339.0万円 3127.635万円570ps/9000rpm 625ps/7500rpm 571ps/6800rpm 525ps/8000rpm 570ps/8000rpm55.1kgm/6000rpm 61.2kgm/3000-7000rpm 66.3kgm/4750rpm 54.0kgm/6500rpm 55.1kgm/6500rpm3.4秒(0-100km/h公称) 3.4秒 3.8秒(0-100km/h公称) 3.8秒(0-100km/h公称) 3.9秒(0-100km/h公称)320km/h 333km/h 317km/h 311km/h 324km/h8.5km/ℓ 8.6km/ℓ 7.6km/ℓ 7.5km/ℓ 7.4km/ℓ1430kg 1474kg 1740kg 1810kg 1485kg275g/km 279g/km 308g/km 310g/km 327g/km

MERCEDES-BENZSLS AMG Roadsterメルセデス・ベンツv

LAMBORGHINILP570-4 SpyderランボルギーニLP570-4スパイダーペルフォマンテ

MCLARENMP4-12C SpiderマクラーレンMP4-12Cスパイダー

AUDIR8 Spider 5.2 FSI quattroアウディR8スパイダー5.2FSIクワトロ

TOP FIVE

われわれなら、クーペよりもスパイダーを選ぶ。オプションに関しては個人の好み次第でかまわないが、リセール バリューを下げるようなカラーは避けたい。

SPEC ADVICE●購入にあたっての助言

JOBS FOR THEFACELIFT●マイナーチェンジ時に望むこと

・エンジン音はワイルドになったが、依然としてライバルのような高揚感は得られない。

・ESPのセッティングをもっと増やし、解除操作も簡単にしてほしい。現時点での12Cは、ドライバーに制御の多くを依存している。3000万円をクルマに投じるような人は、自分自身で判断を下すことに慣れているはずだ。

FERRARI458 Spiderフェラーリ458スパイダー

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