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季節予報データを用いた台風予測研究 *1今北詠士,1重里昌,2佐藤友徳,3森正人,3今田由紀子,3木本昌秀
1東京海上研究所,2北海道大学大学院地球環境科学研究院,3東京大学大気海洋研究所
E-mail: [email protected]
1. 背景と目的
2. 方法
P132
4. まとめ 台風発生数の年々変動では、JRAの再解析データと季節予報データを用いたシミュレーションともに実際の台風発生数との間にある程度の相関が見られた。また、対象の期間を1988年~2010年と近年に限定すると相関係数がそれぞれ0.46、0.48と再現性がより高くなった。この原因として、1987年7月から行われた可降水量衛星観測データの同化などにより、観測・予測精度が向上したことなどが考えられる。
次に、確率台風モデルの初期渦の設定数と台風発生数
年々変動再現性との関係を調べた。今回は年間の台風が約1000個発生するように設定してあるが、初期渦の設定数を更に増やすことで改善の余地がある。
台風の発生場所については、EN時はLN時と比較し、北西太平洋南東海域で台風発生が増える傾向を再現できた。3月初期値は過少評価であるが、4月・5月初期値では少しではあるが改善傾向が見られる。
今後は、発生数のみならず経路や強度の季節予報にも挑戦し、防災や損害保険会社のリスクマネジメントに役
立てたい。
References Emanuel et al., 2008: Hurricanes and Global Warming: Results from
Downscaling IPCC AR4 Simulations. Bull. Amer. Meteor. Soc., 89, 347-367.
Sato et al., 2011: Verification of Downscaling Framework for Interannual Variation of Tropical Cyclone in Western North Pacific. SOLA, 7, 169-172.
Takaya et al 2010: Predictability of the Mean Location of Typhoon Formation in a Seasonal Prediction Experiment with a Coupled General Circulation Model , JMSJ 88, 799-812
3. 結果
3.2 初期渦の設定数を変えた時の相関の変化
3.1 台風発生数の年々変動再現性
過去30年間で、国内の自然災害に伴う損害保険金支払額上位10事例のうち8事例が台風によるものであるなど、台風は日本の社会・経済に大きな影響を及ぼす。そのため、前もってその年の台風ポテンシャルが分かる意義は大きい。
気象庁では7ヶ月先までの全球予報計算を実施してお
り、その結果の一部を季節予報として公開している。季節予報では、エルニーニョ等の大規模場の予測精度はよいものの、台風等の局地的な気象要素については未だ不確実性が大きい。
われわれはこれまで、台風の将来変化予測を目的として、低解像度の全球データと軸対称モデルを用いて、
台風の発生場所・発生数・経路・強度を確率的に推定する手法を開発し、2008年秋季大会より継続的に発表している。
今回、気象庁の季節予報再解析データを用い、軸対称モデルを活用することで、台風の発生数を予測する研究を試みたので、その結果について発表する。
シミュレーション台風発生数
実台風発生数
図2:1980-2010年の、実台風(赤線)と気象庁再解析データ(緑線)と季節予報データ(青線)を用いたシミュレーションの台風発生数における年々変動。検証の対象期間は、6月~12月で、初期値は5月16日のものを用い、アンサンブル数は5メンバーである。
図4:季節予報データからのシミュレーションによる、エルニーニョ(EN)、ラニーニャ(LN)時の台風発生場所の再現性。
図3:初期渦の設定数を変えた時の、シミュレーション台風と実台風数との発生数年々変動の相関。本発表のシミュレーション(3.1、3.3の結果)では年間の台風が約1000個発生するように設定している。
3.3 台風発生場所の再現性
相関係数
季節予報データを用いたシミュレーションの年間台風発生数 (1アンサンブルあたり)
EN LN EN-LN
JRA Best track
JRA25
3月初期値
4月初期値
5月初期値
0.2
0.21
0.22
0.23
0.24
0.25
0.26
0.27
0.28
0.29
0.3
0.31
0.32
0.33
0.34
0.35
1 51 101 151 201 251 301 351 401 451 501 551 601 651 701 751 801 851 901
図1: 台風モデルイメージ
① 渦度、大気の安定性から 熱帯低気圧の存在を仮定
③ 最大風速が17.2 m/sを超えたものを「台風」と定義
⑤ 経路上の環境場データを用いて強度モデルで各ステップの台風強度を計算
④ 850hPa、700hPa、500hPa、200hPaの各高度の風の月平均データに日平均風から求めた変動成分、βドリフトの効果を加え、台風の進路を決定
⑥ 最大風速が17.2 m/sを下回った台風・陸域に36時間以上とどまった台風を消滅させる
② 軸対称台風強度モデルで台風強度を計算
10
252 200500700850 vvvvv
TC
-15N 15N-35N 35N‐
2 (緯度/10)+0.5 4
β:βドリフト(北向き、m/s)
経路モデル
v :各高度の風速
要素 使用したLayerと用途
海面水温 surface・・・大気の安定度、台風強度の計算
湿度8層(1000hPa~300hPa)…大気の安定度計算
925hPa、850hPa…台風強度の計算
気温17層(1000hPa~10hPa)…大気の安定度計算
200hPa・・・台風強度の計算
風速850hPa、700hPa、500hPa、200hPa・・・台風経路850hPa、200hPa・・・台風強度の計算(鉛直シア)
850hPa・・・台風発生の計算(渦度)
海面気圧 surface・・・大気の安定度計算
表1:台風モデル中で使用している変数リスト
月平均の環境場のデータを用いて、台風の発生・経路を推定した。台風の経路については周囲の風速データを用いて、発生・発達についてはEmanuel et al.の軸対称モデル”CHIPSモデル”を基に構築した軸対称台風強度モデル(Sato et al., 2011)を用いて推定した(図1)。
使用した変数は表1の通り。
使用するデータ(月平均) JRA再解析データ(1980-2010年) 気象庁季節予報データ(1980-2010年) ※モデルバイアスを取り除くため、予報期間ごと、対象月毎に以下の処理を行っている。 1、予報期間ごと、対象月毎に、季節予報データ内の平年値を計算
2、季節予報データの各年の値と、予報期間毎、対象月毎の季節予報平年値(対象年のデータを除く) との差分を計算
3、気象庁再解析データ(1980-2010年)平年値に2、で求めた差分を加える。
4、すべての月のデータがそろっている、1980-2010年のデータを解析に利用した。
使用した初期値と検証の対象期間は表2の通り。
表2:使用した初期値と予報対象期間 初期値 検証の対象期間
台風発生数の年々変動 ・5月16日 6月~12月
台風発生場所の再現性・3月17日・4月16日・5月16日
6月~10月
0.001 0.005 0.01 0.015 0.02 0.001 0.005 0.01 0.015 0.02 -0.006 0.006-0.003 0.003
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
68
268
468
668
868
1,068
1,268
1,468
1,668
台風発生数年々変動
赤線:観測(1980-2010) 緑線:JRA(1980-2010) 青線:季節予報(1980-2010)
1980~2010 1988~2010JRA 0.34 0.46
季節予報 0.32 0.48
対象期間相関係数
CMIP5マルチモデルと確率台風モデルを組合わせた将来台風予測② ~温暖化の度合いが台風に与える影響評価~
*1斎藤龍生,1今北詠士,2佐藤友徳,3森正人,4今田由紀子,3木本昌秀 1東京海上研究所,2北海道大学大学院地球環境科学研究院,3東京大学大気海洋研究所,4気象庁気象研究所
E-mail: [email protected]
1. 背景と目的
2. 方法
4. まとめ 本結果(表3参照)より、将来、台風の強度は強くなることが示された。各シナリオの将来気候(2081-2100年)の平均中心気圧を温暖化初期(2006-2020年)の値と比較すると、2シナリオ共に99%信頼水準で有意な差が見られ、7モデル平均では、RCP4.5シナリオで2.5hPa低下、RCP8.5シナリオで4.8hPa低下するという結果が得られた。
将来気候(2081-2100年)の台風平均中心気圧について、2シナリオでの比較を行ったところ、+2.0hPa~-4.8hPa
(=RCP8.5-RCP4.5,表3参照)とモデル毎に大きなばらつきがあり、99%信頼水準で有意な差は見られなかった。
2シナリオともに東シナ海において発生数が増加するという同様の傾向が見られ、さらに、北西太平洋の東側で発生数が増え、それに伴い日本の東の海域を通過する台風数が大幅に増加することがわかる。これらの原因について、今後、環境場の変化を分析し、どの要素が大きく影響しているか検証していきたい。
References Emanuel et al., 2004: Environmental Control of Tropical Cyclone Intensity.
American Meteorological Society, 61, 843-858. Emanuel and Nolan, 2004: Tropical cyclone activity and the global climate
system. 26th Conference on Hurricanes and Tropical Meteorology. Emanuel et al., 2008: Hurricanes and Global Warming: Results from
Downscaling IPCC AR4 Simulations. Bull. Amer. Meteor. Soc., 89, 347-367.
Sato et al., 2011: Verification of Downscaling Framework for Interannual Variation of Tropical Cyclone in Western North Pacific. SOLA, 7, 169-172.
図1: 確率台風モデルイメージ
① 渦度、大気の安定性から 熱帯低気圧の存在を仮定
③ 最大風速が17.2 m/sを超えたものを「台風」と定義
⑤ 経路上の環境場データを用いて強度モデルで各ステップの台風強度を計算
④ 850hPa、700hPa、500hPa、200hPaの各高度の風の月平均データに日平均風から求めた変動成分、βドリフトの効果を加え、台風の進路を決定
⑥ 最大風速が17.2 m/sを下回った台風・陸域に36時間以上とどまった台風を消滅させる
② 軸対称台風強度モデルで台風強度を計算
10
252 200500700850 vvvvv
TC
-15N 15N-35N 35N‐
2 (緯度/10)+0.5 4
β:βドリフト(北向き、m/s)
経路モデル
v :各高度の風速
地球温暖化により台風の発生数や強度、経路がどのように変化するのかは社会的に大きな影響がある。
特に損害保険業界にとって、台風に代表される自然災害の中長期的な変動を把握することは、持続的に損害保険サービスを提供をする上で重要である。
そこで、低解像度の全球データと軸対称モデルを用いて、台風の発生場所・発生数・経路・強度を確率的に推定する手法を考案し、2008年秋季大会より継続的に発表している。
2011年春季大会までは、月平均の再解析データおよび
高解像度大気海洋結合モデルMIROC4のGCMデータを用いて、将来気候における台風の発生・経路・強度の傾向を推定し、台風の発生域が北西太平洋の東部に広がること、台風の経路が東寄りにずれること、台風の中心気圧が低下することなどを示している。
2013年秋季大会の発表では、CMIP5の9機関15モデルの将来予測実験の結果(RCP4.5シナリオ)を用いて、確率台風モデルによるマルチモデルアンサンブル実験を今世紀末までの期間を対象に実施した結果、中心気圧は今世紀末には現在気候下に比べて2~3hPa程度減
少、北西太平洋の東から北の方向にかけて台風発生数が増え、それに伴い日本の東海上を通過する台風数が増加する傾向となった。
今大会では、CMIP5の4機関7モデルの将来予測実験の結果(RCP4.5シナリオ及びRCP8.5シナリオ)を用いて、確率台風モデルによるマルチモデルアンサンブル実験を今世紀末までの期間を対象に実施し、シナリオ毎の結果を比較することで、温暖化の度合いが台風に与える影響について評価を行ったので、その結果について報告する。
月平均の環境場のデータを用いて、台風の発生・経路・発達を推定した。台風の経路については周囲の風速データを用いて、発生・発達についてはEmanuel et al.の軸対称モデル”CHIPSモデル”を基に構築した軸対称台風強度モデル(Sato et al., 2011)を用いて推定した(図1)。
使用した変数は表1の通り。各変数について、2.5度メッシュに換算して使用した。
使用するデータ(解像度2.5度、月平均) NCEP再解析データ(1989-2008年) CMIP5の4機関7モデルデータ(2006‐2100年)(RCP4.5シナリオ及びRCP8.5シナリオ) ※再解析データ月平均値(1989-2008年)に、月ごとの4機関7モデルの現在気候データ(2006-2020年)平均値と各年のデータの差分を加えたデータを用いて計算を実施した。
※用いた4機関7モデルは表2の通りである。 要素 使用したLayerと用途
海面水温 surface・・・大気の安定度、台風強度の計算
湿度8層(1000hPa~300hPa)…大気の安定度計算
925hPa、850hPa…台風強度の計算
気温17層(1000hPa~10hPa)…大気の安定度計算
200hPa・・・台風強度の計算
風速850hPa、700hPa、500hPa、200hPa・・・台風経路850hPa、200hPa・・・台風強度の計算(鉛直シア)
850hPa・・・台風発生の計算(渦度)
海面気圧 surface・・・大気の安定度計算
表1:台風モデル中で使用している変数リスト 表2:計算に使用したCMIP5のデータ一覧
機関名 モデル 国 利用規制
ACCESS1-0
ACCESS1-3
Commonwealth Scientific andIndustrial Research Organisation
in collaboration with theQueensland Climate Change
Centre of Excellence
CSIRO-Mk3-6-0 AUSTRARIA unrestricted
IPSL-CM5A-LR
IPSL-CM5B-LR
MPI-ESM-LR
MPI-ESM-MR
unrestricted
unrestricted
unrestricted
Commonwealth Scientific andIndustrial Research Organisation
and Bureau of Meteorology
Institut Pierre-Simon Laplace
Max Planck Institutefor Meteorology
AUSTRARIA
FRANCE
GERMANY
3. 結果(台風発生場所・経路・強度変化)
図2,3:それぞれのシナリオについて、①実台風(1951-2009)②温暖化初期シミュレーション台風(2006-2020)③将来気候シミュレーション台風(縦列期間)を表し、③と②の差をとることで、温暖化による影響を示した。 差分の図は、暖色系の方がより多くの台風が発生・通過したことを示す。また、本図は全体が1となるように正規化している。
図2:シミュレーション台風発生場所変化
図3:シミュレーション台風経路変化
表3:各モデルの平均中心気圧の温暖化差分及びシナリオ差分
(単位:hPa)シナリオ差分
(RCP8.5-RCP4.5)
モデル名\平均期間2006-2020年
2081-2100年
差2006-2020年
2081-2100年
差2081-2100年
ACCESS1-0 985.6 982.9 -2.7 985.4 978.2 -7.2 -4.7ACCESS1-3 987.8 983.6 -4.3 988.0 981.2 -6.7 -2.3
CSIRO-Mk3-6-0 985.9 982.8 -3.1 987.8 983.2 -4.6 0.5IPSL-CM5A-LR 985.4 983.3 -2.1 984.6 985.3 0.7 2.0IPSL-CM5B-LR 985.0 983.1 -1.9 984.9 979.0 -5.9 -4.1MPI-ESM-LR 983.3 980.8 -2.5 984.3 979.5 -4.8 -1.3MPI-ESM-MR 983.2 981.9 -1.3 982.2 977.4 -4.8 -4.67モデル平均 985.2 982.6 -2.5 985.3 980.5 -4.8 -2.1
RCP4.5シナリオ RCP8.5シナリオ