「一人一人が主体的に学習に取り組み ... · 事例 小学校 体育科 第4学年...

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-1- 小学校 体育科 第4学年 器械運動「マット運動」 「一人一人が主体的に学習に取り組み、 テーマ 動きを高めるマット運動指導方法の工夫」 ~側方倒立回転を中心として~ 授業改善 ・マット運動の技の系統表の見直し 側方倒立回転」の目指す姿の明確化と練習の場・方法の工夫 ポイント ・一人一人が主体的に取り組むための相互援助活動の工夫 学習状況の把握と分析 学習状況の把握 【評価規準】 運動の技能 運動への関心・意欲・態度 運動についての思考・判断 ○自分の力にあった技 ○学習の進め方や活動 ○「手ー手ー足ー足」 に挑戦したり、技の の仕方や行い方を理 のリズムで倒立姿勢 上達を目指したりし 解している。 (手ー肩ー腰がマッ マット運動の楽しさ (知識・理解) トに垂直)を経過し や喜びを味わおうと ○段階表を活用して、 た側方倒立回転を含 している。 自分に適した練習の む組み合わせ技がで (楽しさ体験) 場や練習の仕方を選 きる。 んでいる。 (技能の向上) ○仲間の姿を見合い、 (課題達成) 教え合いながら運動 ○目指す姿になったか しようとしている。 仲間や自分の姿や伸 (社会的態度) びを振り返っている (評価) 【把握方法】 (1)<運動の技能>について ①器械運動の技能の実態 前単元の「跳び箱運動」の技能の実態から把握 単元前に試技をして把握 ②基本の運動の実態 3年生までの基本の運動の実態から把握 ③側方倒立回転の実態 単元前に試技をして把握 (2)<運動への関心・意欲・態度>について ①マット運動アンケート調査 ②相互援助活動の様子 前単元の「跳び箱運動」の様子から把握

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事 例 小学校 体育科 第4学年 器械運動「マット運動」

「一人一人が主体的に学習に取り組み、テーマ

動きを高めるマット運動指導方法の工夫」

~側方倒立回転を中心として~

授業改善 ・マット運動の技の系統表の見直し

の ・ 側方倒立回転」の目指す姿の明確化と練習の場・方法の工夫「

ポイント ・一人一人が主体的に取り組むための相互援助活動の工夫

1 学習状況の把握と分析

学習状況の把握

【評価規準】

運動の技能運動への関心・意欲・態度 運動についての思考・判断

○自分の力にあった技 ○学習の進め方や活動 ○「手ー手ー足ー足」

単 に挑戦したり、技の の仕方や行い方を理 のリズムで倒立姿勢

元 上達を目指したりし 解している。 (手ー肩ー腰がマッ

の マット運動の楽しさ (知識・理解) トに垂直)を経過し

評 や喜びを味わおうと ○段階表を活用して、 た側方倒立回転を含

価 している。 自分に適した練習の む組み合わせ技がで

規 (楽しさ体験) 場や練習の仕方を選 きる。

準 んでいる。 (技能の向上)

○仲間の姿を見合い、 (課題達成)

教え合いながら運動 ○目指す姿になったか

しようとしている。 仲間や自分の姿や伸

(社会的態度) びを振り返っている

(評価)

【把握方法】

(1)<運動の技能>について

①器械運動の技能の実態

前単元の「跳び箱運動」の技能の実態から把握

単元前に試技をして把握

②基本の運動の実態

3年生までの基本の運動の実態から把握

③側方倒立回転の実態

単元前に試技をして把握

(2)<運動への関心・意欲・態度>について

①マット運動アンケート調査

②相互援助活動の様子

前単元の「跳び箱運動」の様子から把握

- 2 -

(3)<運動についての思考・判断>について

○体育の授業の観察

前単元の「跳び箱運動」の様子から把握

学習状況の結果と分析

(1)<運動の技能>について

①器械運動の技能の実態

【結果】

(4年生 男子12名・女子20名 合計32名)跳び箱・マット運動の技能

台上前転 前転 後転 開脚前転 開脚後転

技 が 「 で き 4段

る」段階 32人 32人 30人 24人 26人

割合(%) 100% 100% 94% 75% 81%

【分析】

この学年の器械運動の技能は、比較的高く、開脚前転・開脚後転も75%

が「できる」段階に到達している。これは、低学年時に、十分に基本の運動

や遊びの中で技能を身に付けてきた成果であると考えられる。

②基本の運動の実態

【結果】

基本の運動の「力試し」の様子

・腕立て川跳び越し‥全員がマットの外から外へと跳び越えることができる。

・かえるの足打ち‥少ない子で1回、多い子で7回できる。平均3.1回。た

くさん足を打つために、ほとんど倒立状態で足打ちをする

子も5人ほど見られる。

・補助倒立‥全員が自分から補助者に向かって倒立でき、3秒以上静止するこ

とができる。

【分析】

基本の運動をはじめ、他の運動(跳び箱運動など)の準備体操としても、

腕立て川跳び越し・かえるの足打ち・補助倒立など 「腕で体を支える」運、

動や 「逆さになる」運動を取り入れてきた。そのため、この学年の子ども、

たちには、全員が自分の体重を腕で支えることができ、逆さ感覚もある程度

身に付いていると考えられる。

③側方倒立回転の実態

【結果】

、 、側方倒立回転ができるとアンケートには15名いたが 実際に見てみると

「手ー手ー足ー足」のリズムで倒立姿勢(手ー肩ー腰がマットに垂直)を経

過した側方倒立回転ができていたのは5名であった。

【分析】

4年生の体力面では、腕立て川跳び越し、かえるの足うち、補助倒立など

を低学年時や、他の種目の準備運動などで経験させておけば、腕で体重を支

える体力は十分にあると考えられる。また、高学年に比べ、体重が急速に増

- 3 -

加しない4年生の時に、腕で体を支える技「側方倒立回転」を経験させるこ

とは、有効ではないかと考えた。

側方倒立回転が「できる」という子どもの意識と、実際の側方倒立回転の

「できる」姿にはズレがある。これを「手ー手ー足ー足」のリズムで倒立姿

勢(手ー肩ー腰がマットに垂直)を経過した側方倒立回転に高めることによ

り、他の技を扱う以上に充実感がもてるのではないかと考え 「マット運動、

の技の系統」の見直しを図りたいと考えた。

(2)<運動への関心・意欲・態度>について

①マット運動アンケート調査

【結果】

(4年生 男子12名・女子20名 合計32名)マット運動のアンケート調査

マット運動が好き 20名 マット運動が嫌い 12名

・回るのがおもしろい ・こわい

・できるとうれしい ・痛い

・かっこいい ・できないと恥ずかしい

挑 戦 し た い 前転 後転 開脚前転 開脚後転 側方倒立回転

技 0人 8人 10人 13人 22人(複数回答)

【分析】

マット運動は、できばえがはっきり分かってしまう運動であると同時に、

逆さになることに対する「恐怖心」と、倒れたときの「痛さ」が意欲面のマ

イナス要因となる。これらを軽減する「スモールステップ」の練習の場を設

定し、教具を開発することが必要であると考えた。

また、マット運動では、学習の意欲を持続させることが大変重要になる。

そのため、子どもたちの実態に合わせて挑戦意欲の高い 「側方倒立回転」、

を取り上げることは、有効ではないかと考えた。

②相互援助活動の様子

前単元の「跳び箱運動」において、仲間を励ましたり、跳び箱の横に立っ

て補助しようとしたりする姿勢は身に付いてきている。試技への一言アドバ

イスも位置付けてきたが、これは、できる児童とできない児童の差が激しか

った。

本単元では、より一人一人が主体的に仲間と関わって学習していけるよう

に、相互援助活動を明確にしようと考えた。

(3)<運動についての思考・判断>について

○体育の授業の観察

前単元の「跳び箱運動」の台上前転では 「技の段階表」に基づき、自分、

の技の姿(段階)を知り、自分の課題に合った「練習場所や方法」を選んで

活動できるようにしてきた。

その結果 「段階表」により自分の姿をつかむことはできるようになり、、

自分の課題もはっきりともてるようになってきた。しかし 「練習の場」を、

選ぶ段階で、自分の課題とズレた練習の場を選んだり、できるようになって

- 4 -

もいつまでもその場に居続けたりといった姿が見られた。

「段階表」と「練習の場と方法」を明確にすることにより、自分に必要な

練習を自分で選択して取り組む力を育てたいと考えた。

授業改善へ

2 分析に基づく授業改善

(1) 授業改善の方針

マット運動では、各学年の発達段階と技の系統に基づいて、確実に技能を身に付けて

いくことが大切である。低学年の「マット遊び」段階で、前転・後転をはじめとしたい

ろいろな回転を十分に経験し 「逆さになる感覚」を身に付けておくことは、その後の、

マット運動において、扱う技を選ぶ時に大きな影響を与える。

しかし、現実問題として、マット運動(遊び)に使える時間は減少している。そのた

め、基本の運動をはじめ、その他の運動の準備体操として「逆さになる感覚」や「体を

支える感覚」を体感させる「腕立て川跳び ・ かえるの足打ち ・ 補助倒立」などの」 「 」 「

動きを取り入れることも大切である。

本校の4年生の「体力 、今までの「運動経験 、技に対する「挑戦意欲」などの実」 」

態に合わせて 「側方倒立回転」を中心とした単元を仕組みたいと考えた。、

さらに、一人一人が自分の姿を知り、自ら練習場所や方法を選んで、主体的に練習を

進められるように「技の段階表」を明確にしようと考えた。

マット運動は、個人種目であるために、集団種目以上に仲間との相互援助活動を意図

的に位置付けていくことが、主体的な学習を進める上でも、技能を身に付ける上でも、

大切になってくる。

一人でも多くの子に「マット運動が好き」になってもらいたいと思い、次の3点で授

業改善を図ることとした。

マット運動の技の系統表の見直し①

「側方倒立回転」の目指す姿の明確化と練習の場・方法の工夫②

③一人一人が主体的に取り組むための相互援助活動の工夫

(2) 改善の具体的方途と実践の結果

①マット運動の技の系統表の見直し

【改善の具体的方途】

この4年生は、低学年のマット遊びで、いろいろなころがりに十分に触れ、技能も

高い。この児童の技能や関心・意欲などの実態に応じて、マット運動の<技の系統表

>の見直しを図った。

(※P12及び資料3「マット運動の技の系統表」参照)

従来、4年生のマット運動では 「開脚前転と開脚後転」を中心の技として扱って、

きたが、これを児童の実態に応じて 「側方倒立回転」に見直した。、

<技の系統表の見直しのポイント>

・1,2年生の基本の運動で 「背中を丸めて回る動き 「背中を伸ばして回る動、 」

き 「手で支える動き」を位置付ける。」

・3年生のマット遊びのいろいろな転がり方で、開脚技(開脚前転・開脚後転)を

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経験させる。

・4年生に「側方倒立回転」を位置付ける。

・5,6年生及び中学校への技のつながりを考える。

【実践の結果】

○マット運動の「満足度」の変化

4点

3

2

1

時間1 2 3 4 5

○マット運動「アンケート調査」より

単元開始前 単元終了後

マット運動が好き 20人 → 30人

マット運動が嫌い 12人 → 2人

○「マット学習ノート」より

・ 側方倒立回転」ができるようになってうれしかった。「

・初めはこわかったけれど、やっていくうちにどんどん楽しくなった。家でやっ

たら「すごいね」といわれてうれしかった。

・着地で立てるようになった。3年生にも教えてあげたい。

・もっといろいろな技ができるようになりたい。

・応援団の子がやっていたのができてすごくうれしかった。

あこがれの強い技ができるようになることで、自信をもって、他の学年の子や家族

の前でやって見せたりすることも多くなった。

授業の満足度も、時間を経過するごとに高いものとなった。

②「側方倒立回転」の目指す姿の明確化と練習の場・方法の工夫

ア 「側方倒立回転」の技の姿とポイントが分かる段階表を作成する。、

(資料4「側方倒立回転」段階表 参照)

【具体的改善の方途】

①改善点1

単元の初めでは、児童たちが採点しやすいことを考えて、4点満点の段階表を使っ

ていたが、単元の後半では、児童たちの技の意識が「着地で立てる」ことに向かって

いったため 「着地で立てる」ことを段階表に組み込んだ5段階のものにさらに改善、

した。

- 6 -

5点の技の姿

○手ー肩ー腰がマットと垂直であり、足がピン5 うまく

となって回り、立つことができる4点の技の姿 点

○腰や膝が伸びて、まっすぐに回れる ○一直線に回り、立つことができる4 うまく 4 立てる

△手ー肩ー腰がマットと垂直でも、足は曲がる点 点

○手ー肩ー腰がマットと垂直(倒立姿勢)であ ○手ー肩ー腰がマットと垂直であり、腰が高い3 できる 3 できる

り、腰が高い △着地でおしりをついたり、足が前後にずれる点 点→

○手ー手ー足ー足の順につける ○手ー手ー足ー足の順につける2 なんと 2 なんと

△手ー肩ー腰がマットと垂直になっていない △手ー肩ー腰がマットと垂直になっていない点 か 点 か

△両足が同時に着く △両足が同時に着く1 できな 1 できな

△両手をついてから倒れてしまう △両手をついてから倒れてしまう点 い 点 い

②改善点2

「着地で立てない」時に、どのようなポイントを意識して練習するのか(指導の手

立て)を明確にする。

着地で立てない◎つまずきの姿 →

つまずきの様相 つまずき克服の手立て児童

A 足が手から離れたところに着 ・勢い(回転力)を付ける。ビュンッと。

子 くため起き上がれない ・手の近くに足を着くようにしるしを付ける。

・補助して足の着く位置を体感させる。

B 手でしっかり支えていないた ・ゆっくしたリズムで、手ー手ー足ー足と確実に

子 め倒れて立てない 体重移動する。手拍子に合わせて。

・補助をして確実な体重移動を体感させる。

C 足が前に倒れてくる ・背中のそりを意識するために、体の前面にダン

子 ボールを置いてそれを乗り越える。

・補助して腰や足の位置を体感させる。

D 足が後ろに行って立てない ・背中を反り過ぎないように、背中側にダンボー

子 ルを置いて意識させる。

・補助して背中を反り過ぎないように体感させ

る。

【実践の結果】

○側方倒立回転の「できる」段階のポイントは、倒立姿勢(手ー肩ー腰がマットと

垂直で、腰が高い)を経過して回転できるかどうかであり、この姿をすべての児

童たちにできるようにしたいと考えていた。しかし、児童の意識の中に 「着地で、

倒れないで立つ」という願いが強くあり、特に3点のできるの段階で 「手ー肩ー、

腰がマットと垂直(倒立姿勢)で、腰が高い」であっても、着地で立てない(おし

りを着いたり、足が前後に大きくずれる)と2点と判断してしまっていた。このた

め、自分の伸びをしっかりと判定してもらえない場合が多数見られてしまった。そ

こで、4段階から5段階の段階表に改善し 「倒立姿勢が経過できたら3点 「さら、 」

- 7 -

に、着地で立てたら4点」と技の姿を明確にしたことで、少し の技の伸びでも認

め合うことができた。

「側方倒立回転」の得点の変化

5点

4

3

2

1

時間1 2 3 4 5

○技のポイントの明確化

「着地で立てない」時に、どのようなポイントを意識して練習するのか(指導の

手立て)を明確したことで、児童たちは、自分のつまずきに合った練習場所や練習

方法を意識することができた。また、教師も指導の手立てとしての見通しをもつこ

とができた。

着地で立てないつまずきの姿 →

つまずきの様相 つまずきに応じた指導と子どもの変容児童

A 足 が 手 か ら 離 れ ・足を着く場所に「足型のマーク」をはり、ビュンと勢いを

子 た と こ ろ に 着 く つける。

た め 起 き 上 が れ ↓

ない ・少しずつ手に近いところに着地できるようになり、さっと

は立てないが、ゆっくりと立てるようになった。

B 手 で し っ か り 支 ・腕が曲がり、勢いをつけることばかり考えていたため、教

子 え て い な い た め 師が補助に入り、まず手を伸ばし倒立姿勢で止まって、手

倒れて立てない で体重を支えることを体感させる。

・まだ、立てないが、手で体重を支えて回転できるようにな

った。

C 足 が 前 に 倒 れ て ・勢いよく回転することに意識がいっていたため、補助し倒

男 くる 立姿勢でとめて、背中の反りを体感させる。その後、体の

前面にダンボールを置いてそれを乗り越えることで、足を

体の真横に着くことを意識させる。

・少しずつ足を体の横に近づけて立てるようになった。

D 足 が 後 ろ に 行 っ ・前方倒立回転(ハンドスプリング)のように背中を反って

○児童のノートより・

「今日は、こしを上

げることを目標にし

て取り組んだ。足が

ずれて立てなかった

けど倒立(姿勢で)

して回れて、3点が

取れたのでうれしか

った 」。

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子 て 立 て な い ( 反 しまい立てないため、まず、川とびにもどって練習する。

りすぎて) その後、教師の補助により、倒立姿勢の状態から横に足を

下ろす練習をして体感させる。

・川とびでは普通にできるのだか、マットにもどって行うと

。 、一度ついてしまった癖はなかなかもどらなかった しかし

補助をするうちに、少しずつそりが少なくなっていった。

側方倒立回転の練習の場の設定と教具の開発①

【実践の結果】

、 、 、つまずきに応じた練習の場を設定し 教具を開発し 指導・援助をすることにより

動きを高めることができた。

つまずき1 ○恐怖心が強く、思い切って腰を上げることのできない(後ろに 倒

れることが怖い)子に対して <第2時の実践より>

。 。 、Y子のプロ ・マット運動は好き かえるの足うちは1回できる 練習に対しては

フィール 慎重であり、後ろに倒れることの恐怖心が大変強い。そのため、マ

ットに手をついてから、ピョンと足だけ移動させる回転となり、第

1時=1点。マットだけだとなかなか思い切って練習に取り組むこ

とができず、1回の試技にかける時間がたいへん長くなっていた。

練習の場 ◇セーフティーマットや教師の補助により負荷を軽減する。

指導の仕方 ◇セーフティーマットを背面に敷いて、倒れても痛くないようにして

練習するが、それでも腰の上がらない児童に対しては、さらに教師

が補助について倒立姿勢を体感させる。

児童の変容 ○倒れることへの恐怖心からほとんど腰が上がらず、なかなか積極的

(Y子) に練習に取り組むことのできないY子に対して、セーフティーマッ

トと教師の補助を同時につけて倒立姿勢を経過する感覚を体感させ

た。3回ほど繰り返すと教師の補助なしで、自分からマットに倒れ

こむように腰を上げる練習を始めた。その後、班の仲間と自分たち

のマットにもどって練習をすることができるようになり、競技会で

は、2点の評価を受けた。

つまずき2 ○「手ー手ー足ー足」のリズムがとれない児童(手と足を着くタイミ

ングが分からず、片手になってしまったり、両手をついてから両足

でジャンプしたりする児童)に対して <第2時の実践より>

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M子のプロ ・マット運動は好き。かえるの足うちは3回できる。運動の能力は高

フィール く、台上前転は、6段を4点の姿で跳べる。側方倒立回転では、手

、 、を着くタイミングが分からず 片手を着いてから倒れる回転となり

第1時=1点。

練習の場 ◇帯状のひもに手と足の位置をつけ、円弧から順に直線に移動できる

ようにした。

指導の仕方 ◇まず、円弧を描くように配置し、ゆっくり「手ー手ー足ー足」と横

、 、 。で声をかけながら 手足の位置にあわせて 移動させるようにする

少しずつ直線に伸ばして練習させる。

子どもの変 ○M子は、手の着き方がまったく分からず、はじめ片手が着いた段階

容(M子) で足を着いていた。そこで、手と足の位置をマークしたひも(ガム

テープを張り合わせて作成=写真)を半円を描くように置き、手と

足の位置を確認した。その後、口リズムに合わせながら、円を描く

ようにゆっくり手と足の着く場所を見ながら練習することで、少し

ずつリズムよくできるようになった。その円を順番に直線に近づけ

るように、することで、後半練習では自分の班のマットで、練習で

きるようになった。競技会では 「手ー手ー足ー足」のリズムでつ、

けるようになり、2点の評価を受けた。

つまずき3 ○手ー腰ー肩が垂直(倒立姿勢)がとれず、腰が高く上がらない児童

に対して <第3時の実践より>

。 。 、H子のプロ ・マット運動は好き かえるの足うちは2回できる 練習に対しては

。 、フール 自分から何度も積極的に取り組むことができる 側方倒立回転では

「手ー手ー足ー足のリズム」で順につくことはできる(2点)が、

、 。倒立姿勢を経過することができず 川跳びに近い状態になっている

練習の場 ◇教師が腰を補助する。また、ダンボールを積んで回転する。

指導の仕方 ◇倒立姿勢を体感させるために、教師が補助をする。グループ練習で

- 10 -

は、ダンボールを置いて腰の高さを意識させる。

児童の変容 ○腰の位置が高くならないH子には、腰を支える補助により、腰の位

(H子) 置を体感させた。ただし、児童同士で補助しあうことは難しく、教

師の補助に限られた。腰を支えて、横に下ろすことを5回繰り返す

と、手で体重を支える感覚がつかめたようである。まだ、両足同時

で着地するところは見られたが、体重をしっかりと腕で支えられる

ようになり、腰が肩の上に来るようになった。その後、自信をつけ

てダンボールを積んで何度もに練習し、3点の評価をもらうことが

できた。

H子のノートより

「特別コースで(腰を補助してもらった)やったら、腰の上げ方が

分かった。ダンボールを積んでやったら、3段まで落とさずにでき

るようになってうれしかった。今度は、ぴしっと腰を上げられるよ

うにする 」。

つまずき4 ○足先まで伸ばして回れない児童に対して <第4時の実践より>

。 。 、R男のプロ ・マット運動は好き かえるの足うちは5回できる 運動能力は高く

フィール 練習にも意欲的に取り組む、班のリーダーである。第3時で、腰が

上がって、立てるようになり、4点の評価を受けるが、膝が曲がっ

てやや小さな側方倒立回転になっている。

練習の場 ◇ゴムひもを手の届く高さにはり、それを足でさわろうとすることに

より膝を伸ばすことを意識させる。

指導の仕方 ◇5mほどのゴムを子どもが手を伸ばして届く程度の高さに斜めに張

る。斜めに張ることにより、身長差に対応できる。手を挙げてちょ

うどゴムに手が届く位置の真下で回転させ、つま先がゴムに触れる

ように膝を伸ばさせる。ゴムに鈴をつけておけば、その音でさわっ

たことが本人にも確認できる。

児童の変容 ○「膝を伸ばして」とアドバイスを受けてもなかなか伸ばせなかった

(R男) R男は、ゴムに足で触れようと、低い位置から順に高いところ(手

が届くところ)で練習をすることにより、膝が伸びた回転ができる

ようになった。5点の評価を受ける。

②一人一人が主体的に取り組むための相互援助活動の工夫

○ベルトコンベアー練習により 「演技するもの」と「見るもの」の場を明確する。、

- 11 -

・ いくよ。○○見とって 「いいよ」の声をかけさせ、演技するものは、自分の「 」

気を付ける技術ポイントを見る側にはっきりと伝える。

・一回の試技ごとに、見る側は、どうだったのかをアドバイスをする。

・マットの横で「手ー手ー足ー足 「腰 「伸ばせ」など、口リズムや瞬時の声を」 」

いつもかけるようにする。

・後半練習での課題別練習でも、それぞれの課題のコースに集まったもので、ベル

トコンベアー練習を実施する。

・ かがやき見つけ」により、だれのどんなアドバイスや補助でできるようになっ「

たのか、あるいは、心強かったのかを発表することで広げる。

(体育館での配置)

← ○ 演技するもの

○→○→○→○ →

見るもの

【実践の結果】

○前単元の跳び箱(台上前転)では、ペアもしくはトリオ練習を位置付けてきたが、

補助をしながら、アドバイスもすることは児童たちにとっては大変なことであり、

アドバイスに大きな個人差があらわれた。ベルトコンベアー練習により、互いの

姿を確実に見合うことができるようになり、ポイントのアドバイスや励ましや合

いの姿が高まった。さらに 「ダンボールを置いて練習するといいよ 「セーフテ、 。」

ィーマットのところで練習してこようか 」など、練習の場や方法をアドバイスし。

合うこともできるようになった。

3 授業改善後の成果

①4年生マット運動の単元指導計画の改善

○ 児童の実態に応じて、<マット運動の技の系統表>を見直し、4年生の単元にお

○児童のノートより

・今日は「腰を高く上げる」めあてで取り組んだけど、3班のみんなが 「マット見、

て」とか 「腰」とか、声をかけてくれたし 「がんばって」と励ましてくれてう、 、

れしかった。ダンボールを置いてやろうといわれて、三つ積んでやったら、さわら

ずに回れたので 「やったー」と思いました。3点になった。、

- 12 -

いて 「側方倒立回転」を取り上げたことは、子どもの意欲を持続させ、主体的に、

練習を進めることにつながった。

②「側方倒立回転」の目指す姿の明確化と練習の場・方法の工夫

○「側方倒立回転」の技の姿とポイントが分かる段階表を作成し、さらに「倒立姿勢

を経過する」ポイントと「着地で立つ」ポイントを分け、4段階から5段階に修正

したことにより、技能の少しの上達でも評価できるようになり、意欲化につながっ

た。

児童たちが評価しやすいように二つに分けたポイント

4 立

点 て

○リズムよく一直線に回転し、立てる。足は伸びていない。

3 で

点 き

○手ーかたーこしが垂直(倒立姿勢)でこしが高い

着地で倒れたり、足が前後にずれたりする

○「着地で立てない」つまずきに応じた指導の手立てを持つことにより、見通しをも

って練習を進めることができた。

つまずき 指導の手だて

- 13 -

足が手から離れたところに ・勢い(回転力)をつける。ビュンッと。

着くため起き上がれない ・手の近くに足を着くようにしるしを付ける。

・補助して足の着く位置を体感させる。

手でしっかり支えていない ・ゆっくしたリズムで、手ー手ー足ー足と確実に体重

ため倒れて立てない 移動する。手拍子に合わせて。

・補助をして確実な体重移動を体感させる。

足が前に倒れてくる ・背中のそりを意識するために、体の前面にダンボー

ルを置いてそれを乗り越える。

・補助して腰や足の位置を体感させる。

足が後ろに行って立てない ・背中を反り過ぎないように、背中側にダンボールを

置いて意識させる。

・補助して背中を反り過ぎないように体感させる。

○ 側方倒立回転の練習の場の設定と教具の開発したことにより 「側方倒立回転」の、

技能が高まった。

練習の場 対象児 練習方法 教具

セーフティーマット 思 い 切 っ て 逆 さ に ・セーフティーマットを背

コース なれない児童 面に置き、さらに教師が補

助しながら、恐怖心を軽減

する。

「手ー手ー足ー足」 手 ー 手 ー 足 ー 足 の ・手と足の位置をつけたひ ・手と足の位

コース リ ズ ム で で き な い もを円弧を描くように配置 置のしるしを

児童 し、ゆっくり口リズムに合 つけた帯状の

わせながらつけるようにす ひも(ガムテ

る。少しずつ直線に伸ばし ープを張り合

ていく。 わせて作成)

腰上げコース 腰 が 高 く 上 が ら ず ・補助により、倒立姿勢を ダ ン ボ ー ル

倒 立 姿 勢 を 経 過 で 体感させる。倒立姿勢の感 (各班に4個

きない児童 覚がつかめてきたら、ダン ほどあるとよ

ボールを1~4段ほど積ん い。A4の用

で、腰があたらないように 紙の箱が子ど

意識させる。 もには扱いや

すい)

足ピンコース 足 先 ま で 伸 ば せ な ・ゴムをはり 鈴をつける ・鈴をつけた、 。

い 児 童 ( 5 点 を め 回転したとき足がさわれば ゴムひも(5

ざす児童) 音で確認で、足先まで伸ば m 程 度 は 必

すことを意識させる。 要)

③一人一人が主体的に取り組むための相互援助活動の工夫

「 」 「 」 、○ 演技するもの と 見るもの の役割を明確にしたベルトコンベアー練習により

自分たちで技を見合い、ポイントについてのアドバイスをし合う姿が高まった。

- 14 -

ベルトコンベアー練習

・ いくよ。○○見とって 「いいよ」の声をかけさせ、演技するものは、自分の「 」

気を付ける技術ポイントを見る側にはっきりと伝える。

・一回の試技ごとに、見る側は、どうだったのかをアドバイスをする。

・マットの横で「手ー手ー足ー足 「腰 「伸ばせ」など、口リズムや瞬時の声を」 」

いつもかけるようにする。

・後半練習での課題別練習でも、それぞれの課題のコースに集まったもので、ベ

トコンベアー練習を実施する。

・ かがやき見つけ」により、だれのどんなアドバイスや補助でできるようにな「

たのか、あるいは、心強かったのかを発表することで広げる。

← ○ 演技するもの

○→○→○→○ →

見るもの

課題

△段階表の「技のできばえ」や「うまくなるためのポイント」をさらに見直し、児童

たちが意識しやすい明確で簡単なものにしていく。

△「腰を高く上げる」ことと「着地で立つ」ための指導の手立てをさらに工夫し、有

効なものを確立する。