抗体検査・抗原検査・pcr検査 どう使い分ける? · 2020-05-20 ·...
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抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける? 5/17(日) 10:31 忽那賢志 | 感染症専門医ツイートシェアブックマーク
doi:10.1001/jama.2020.8259 より
5 月 13 日に抗原検査が承認され、週明けより医療機関での使用が開始されます。
また厚生労働省より献血検体を用いた抗体検査の結果が発表されるなど、抗原検査、抗体
検査、PCR など様々な検査の情報がニュースで流れています。
これらの検査はどう違い、どのように使い分ければよいのでしょうか。
抗体とは?
「抗体」という単語はよく聞かれると思いますが、実際にどんな形をしているかご存知で
しょうか。皆さん、両手を挙げて「Y」を作ってみてください。はい、それが「抗体」です。
抗体(Wikipedia といらすとやの共同作業)
抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、微生物などの異物に攻撃
する武器の一つです。
免疫グロブリンとも呼ばれ、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE の 5 種類があります。
例えば、デング熱に感染すると 1 週間くらいで IgM が、もう少し遅れて IgG が体内で作ら
れるので、デング熱の迅速診断キットは、IgM と IgG を測定することで診断できます。
ただし、抗体は感染してすぐには作られませんので、発症してからしばらくは血液中の抗
体を測定しても検出されない時期があります。
発症からの日数と抗体陽性率の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0897-1より)
ウイルスのどの部分の抗体なのかによって微妙に異なりますが、新型コロナウイルスでは
発症から概ね 2 週間くらいで 8 割の人が、概ね 3 週間くらいでほぼ全ての人が IgM または
IgG が陽性になります(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0897-1)。
しかし、この図を見てお分かりのとおり発症して間もなくは抗体を測定しても検出されな
い方が多いので、新型コロナの抗体検査が陰性であっても発症して 2 週未満であれば「新
型コロナではないとは言えない」ということになります。
抗原とは
では抗原とは何かと言いますと、チアリーダーが両手に持っているボンボンのようなもの
です。
チアリーダーが抗体、ボンボンが抗原をイメージしてください。
抗
体と抗原(Wikipedia といらすとやの共同作業その 2)
ウイルスなどの病原体が体内に入ってきた際に、ウイルスのタンパク質が抗原として認識
され、抗体が抗原をガッチリ捉えます(チアリーダー完成)。この結合により抗原はマク
ロファージなどの細胞に食べられやすくなります。
この抗原・抗体反応は人間のウイルスに対する免疫反応の一つです。
抗原検査とは、このウイルスのタンパク質である抗原(ボンボンのみ)を検出するもので
す。
PCR 検査とは
PCR 検査はウイルスの遺伝子の一部分を測定しますので、発症してウイルスが増えている
状態で検査を行えば陽性となります。
「コロナに罹ったら 14 日で復職 OK」は安全な基準か?でもご紹介しましたが、だいたい
鼻咽頭の PCR 検査は 3 週間くらいまで陽性になり続けます。
発症からの日数と PCR 検査、抗体検査、ウイルス分離の陽性率
(doi:10.1001/jama.2020.8259 より)
図は、それぞれの検査がいつからいつまで陽性になるかを示したものです。
この図の中に抗原検査はありませんが、ウイルスの一部を検出するという意味では PCR 検
査と同じ推移をすることになります。
発症してからしばらくは PCR 検査が陽性になりやすく、2 週以降は IgM/IgG が陽性になり
やすくなります。
つまり、今感染しているかどうかを知るためには PCR 検査と抗原検査が向いており、過去
に感染していたかどうかを知るためには抗体検査が適しているということになります。
それぞれの意義・長所・短所をまとめると以下のようになります。
PCR 検査・抗原検査・抗体検査の意義・検体・長所・短所(筆者作成)
抗原検査と PCR 検査はどう使い分けるのか
さて、抗原検査と PCR 検査はどちらも「今感染しているかどうか」を診断するためのもの
です。
ではこの 2 つの検査はどう使い分ければよいのでしょうか。
抗原検査は約 30 分で診断できるというメリットがある一方、感度は PCR 検査に劣るとされ
ます。
新
型コロナ抗原検査キット(山元佳医師撮影)
抗原検査キットの添付文書には 2 つの検討結果が記載されています。
1:国内臨床検体(陽性 27 検体/陰性 45 検体) 感度 37%・特異度 97.8%
※ただし用いている検体のウイルス量が少ない検体が多く含まれている
2:行政検査検体(陽性 24 検体/陰性 100 検体) 感度 66.7%・特異度 100%
どちらも感度は低く、特異度は高いという結果です。
これはつまり「本当の感染者を見逃してしまうことはあるが、陽性と出た場合の結果は信
用できる」ということです。
ウイルス量が多い検体(100 コピー/テスト以上)だけで見ればもう少し感度が良さそうで
すが、いずれにしても「抗原検査が陰性であっても新型コロナを否定はできない」「抗原
検査が陽性であれば新型コロナと診断できる」と考えて良さそうです。
想定される抗原検査と PCR 検査のフロー(SARS-CoV-2 抗原検出用キットの活用に関するガ
イドライン.令和 2 年 5 月 13 日.厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部)
現在想定されている使い方は、新型コロナが疑われた方に抗原検査を施行し、陽性であれ
ば新型コロナと診断、陰性であっても確定例との接触歴や渡航歴、臨床症状などから新型
コロナが否定できない場合に PCR 検査を行うという流れです。
これにより診断までの時間は短縮化されるというメリットがありますが、診断までに二度
の検査が必要になる事例が出てきます。
この辺りは、抗原検査の精度改善や PCR 検査の時間短縮などで今後改善されていくと考え
られます。
抗体検査はどのように役立つのか
では抗体検査はどのように使用するのが適切なのでしょうか。
「抗体検査」東京の献血で0.6%陽性、結果にばらつき
例えば、こちらのニュースでは東京で行われた献血の検体を用いて抗体検査をしたところ
0.6%が陽性であったというものです。
このように、PCR 検査などで確定診断された患者以外に、診断されていない(主に無症状
~軽症の)症例がどれくらいあるのかを把握する上では長期間陽性が続く抗体検査が適し
ています。
この結果をそのまま解釈すれば、東京都の人口 927 万人のうち 0.6%である 55620 人が新
型コロナに感染していたということになり、実際に都内で診断されているよりも約 10 倍の
感染者がいるということになります。
このように、抗体検査は個人個人の診断というよりも、感染症の全体像を把握し、公衆衛
生上の対策に役立てることができます。
抗体検査の解釈の注意点
しかし、抗体検査の結果の解釈には注意が必要です。
さきほど、東京都の人口 927 万人のうち 0.6%である 55620 人が新型コロナに感染してい
たということになり、実際に都内で診断されているよりも約 10 倍の感染者がいるというこ
とになる、と述べました。
しかし、抗体検査キットについては現時点ではどれくらい正確なのかに関する情報がまだ
十分ではありません。
抗
体検査キットの性能評価(厚生労働省発表資料より)
東京都に住む 500 人の献血検体を用いていますが、2020 年 4 月の検体の陽性率が 0.6%なの
に対し、2019 年 1~3 月の検体の陽性率は 0.4%でした。
「そうか・・・新型コロナウイルス感染症は実は 2019 年の時点で国内で流行していたの
か・・・これは世紀の大発見や!」というわけではなく、偽陽性(感染してないのに陽性
と出ること)と考えられます。
コロナウイルスの中には風邪の原因となるヒトコロナウイルスも 4 種類ありますが、これ
らの風邪のウイルスと交差反応が起こり、風邪を引いた人でもこの新型コロナの抗体検査
キットが陽性になってしまう可能性もあります。
この偽陽性を差し引いて考えると、東京都の真の陽性率はそれほど高くないのかもしれま
せん。いずれにしても、より精度の高い抗体検査による、より大規模な検討が必要と考え
られます。
いずれの検査も「正しいタイミングで使うこと」と「正しく結果を解釈できること」が大
事
抗原検査、PCR 検査、抗体検査の使い分け方についてご紹介しました。
これらを使う場合は「正しいタイミングで使うこと」と「正しく結果を解釈できること」
が求められます。
検査は万能ではありませんので、それぞれの使い所、長所、短所を理解し、検査の限界を
知った上で上手く使い分けることが重要です。