土を育むバイオガスプラント消化液について - ceri.go.jp4¢ o300 900 5 100 50 2 500...

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成果報告 土を育むバイオガスプラント消化液について 独立行政法人土木研究所寒地土木研究所 資源保全チーム上席研究員 横濱 充宏 はじめに ただいま紹介にあずかりました横濱と申します。よ ろしくお願いいたします。 重点プロジェクト研究16に関しましては、先ほど鎌 田グループ長から概要について報告がございましたの で、私の方からは消化液の土壌生産性改善効果に焦点 を当ててお話ししたいと思います。 家畜ふん尿を主原料としたバイオガスプラントで は、メタン発酵によりバイオガスが発生するとともに 発酵残渣である消化液(図-1)が発生いたします。 この消化液は肥料成分を多く含むために農地で散布さ れまして液肥として使用されております。 消化液の特徴 まず最初に、消化液は生ふん尿とどう違うのかとい うところをお話ししてまいります。 消化液の固形分でございますけれども、左側が生ふ ん尿の固形分で右側が消化液の固形分でございます 図-2)。上側の藤色の方が有機物、下側のすみれ色 の方が灰分でございますけれども、固形分が多くてど ろどろの生ふん尿をメタン発酵させますと、有機物が 分解されまして固形分が少ないさらさらの消化液がで きます。つまり、消化液は固形分が少なく液肥として の散布作業性に優れていると評価できます。 次に、窒素成分(図-3)でございますけれども、 有機態窒素のメタン発酵による分解によりまして、消 化液ではアンモニア態窒素の量が多くなっておりま す。つまり、消化液は生ふん尿と比べると即効性の窒 素肥料成分が多い液肥として評価できるということで ございます。 続きまして、消化液のアンモニア揮散特性でござい ますけれども、生ふん尿にしろ消化液にしろ液中には アンモニアが含まれておりまして、これらを圃場に散 布いたしますとアンモニアの一部が大気へと揮散いた します。そうしますと、窒素肥料成分の損失を招くだ Etc. Etc. 図-1 図-2 82 寒地土木研究所月報 特集号 2011年度

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  • 成果報告

    土を育むバイオガスプラント消化液について   

    独立行政法人土木研究所寒地土木研究所資源保全チーム上席研究員 横濱 充宏

    はじめに

     ただいま紹介にあずかりました横濱と申します。よろしくお願いいたします。 重点プロジェクト研究16に関しましては、先ほど鎌田グループ長から概要について報告がございましたので、私の方からは消化液の土壌生産性改善効果に焦点を当ててお話ししたいと思います。 家畜ふん尿を主原料としたバイオガスプラントでは、メタン発酵によりバイオガスが発生するとともに発酵残渣である消化液(図-1)が発生いたします。この消化液は肥料成分を多く含むために農地で散布されまして液肥として使用されております。

    消化液の特徴

     まず最初に、消化液は生ふん尿とどう違うのかというところをお話ししてまいります。 消化液の固形分でございますけれども、左側が生ふん尿の固形分で右側が消化液の固形分でございます(図-2)。上側の藤色の方が有機物、下側のすみれ色の方が灰分でございますけれども、固形分が多くてどろどろの生ふん尿をメタン発酵させますと、有機物が分解されまして固形分が少ないさらさらの消化液ができます。つまり、消化液は固形分が少なく液肥としての散布作業性に優れていると評価できます。 次に、窒素成分(図-3)でございますけれども、有機態窒素のメタン発酵による分解によりまして、消化液ではアンモニア態窒素の量が多くなっております。つまり、消化液は生ふん尿と比べると即効性の窒素肥料成分が多い液肥として評価できるということでございます。 続きまして、消化液のアンモニア揮散特性でございますけれども、生ふん尿にしろ消化液にしろ液中にはアンモニアが含まれておりまして、これらを圃場に散布いたしますとアンモニアの一部が大気へと揮散いたします。そうしますと、窒素肥料成分の損失を招くだ

    Etc.

    Etc.

    図-1

    図-2

    82� 寒地土木研究所月報 特集号 2011年度

  • 300 900 5 100 50 2 500 300↓

    0.0

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    20.0 (t/10a)(t/10a)(t/10a)

    図-5図-3

    図-6図-4

    けでなく酸性雨の原因になります。そこで、生ふん尿と消化液を圃場施用してどれだけアンモニアが揮散するかを比較してみました。 その結果、どろどろしている生ふん尿は土にへばりついて下に浸透せずアンモニア揮散が進みますけれども、消化液の方はさらさらとしていてすぐに土中に浸透してアンモニア揮散が抑制されます(図-4)。つまり、消化液は圃場散布時のアンモニア揮散が少ない液肥として評価できます。環境に優しい液肥ということでございます。 次に、消化液の肥料成分(図-5)でございますけれども、このオレンジの線が原料である生ふん尿を示しておりまして、青い線が消化液でございます。生ふん尿で窒素とカリウムに富んでいてリン酸が少ない影響を受けまして、消化液もやはり同じように窒素とカリウムに富みリン酸が少ない肥料として評価できます。したがいまして、消化液を液肥として利用するときは消化液だけを圃場に施用するのではなくて、リン酸肥料を化学肥料として補足的に施用することが作物の生産性を保つために必要でございます。

     次は、微量元素の含量(図-6)でございますけれども、こちらも同じオレンジが生ふん尿、青が消化液でございますけれども、生ふん尿で亜鉛と銅が多いのを受けて消化液でも亜鉛と銅が多くなっております。ただ、この幾つかの微量元素につきましては、肥料取締法によって基準上限値というのが決められておりまして、この基準上限値と比べますと消化液の微量元素含量というのは非常に少なくなっておりまして、消化液は安全な肥料であると評価できます。 消化液の施用法

     草地に対する消化液の施用法(図-7)は根釧農試によって明らかにされておりまして、基本的には消化液の肥効というのは現行の生ふん尿、つまりスラリーと同じ換算法で計算できる。全窒素が4割、リン酸が4割、カリ8割が作物に肥料分として吸われるということでございます。 ただし、バイオガスプラント消化液に限ってアンモニア態窒素含量が全窒素含量の半分以上を占める場合

    寒地土木研究所月報 特集号 2011年度�� 83

  • は、含まれるアンモニア態窒素が全部化学肥料と同様に利用されるとみなすことができる。つまり、10割利用できるということでございます。 施用法についても提案がされておりまして、一番草に必要な量を春に一度に消化液として施用するのではなく、秋と春の2回に分けて施用すると作物生産がよくなるということがわかっております。 続いて、畑作物に対する施用法(図-8)でございますが、秋まき小麦の場合は基肥ではなくて起生期の追肥として表面施用することが推奨されておりまして、施用適量は10アール当たり約2トンで、このとき肥効率は全窒素で7割、アンモニア態窒素で10割、カリウムで10割でございます。一方、てん菜、バレイショ、緑肥では、これは基肥として表面施用した後、アンモニア態窒素の揮散を防ぐために後で土壌に混和して、それから播種・移植を行います。施用適量は10アール当たり約3トンで全窒素の肥効率は4割、アンモニア態窒素は7割、カリウムは10割ということで報告されております。

    消化液の施用効果

     次に、消化液の施用効果でございますけれども、牧草地はごく表層の土壌の理化学性が牧草の生産性に大きな影響を与えるとされておりまして、そこで消化液の散布が土壌表層にどのように影響をもたらしたかを、表層0から5センチメートルの層と表層5から10センチメートルの層をそれぞれサンプリングしまして、0から5の値の分析値から5から10の分析値を差し引くことによって、表層0から5センチメートルにおける消化液による土壌の変化を導き出しました。 その結果、消化液を散布しない場合に比べて消化液を散布した方が腐植が増加します。腐植が増加しますと土壌が膨軟になったり、保肥力が高まる、排水性が高まるということが言われております。こちらは土の膨軟性の指標とされております容積重を調べたものでございますけれども、非散布区の容積重に比べて散布区の容積重の表層での低下が明らかに多く、腐植が増えて、ふかふかの土になるということが分かりました(図-9)。つまり、消化液の散布は化学肥料の散布に

    (2005)

    T-N NH4+-NA 1) B2)

    0.4 1.0 0.4 0.81) B/A

  • 比べて農地の地力増進に貢献できるということでございます。 次に、牧草に対する消化液の施用効果(図-10)です。左の図は一番草の収量を示したものです。左側が消化液散布したところ、右側が散布していないところで、消化液の散布によって1割程度の収量アップが望めました。 右の図は、牧草の重要な栄養分である粗たんぱく含量を示したものですけれども、消化液を施用していないところに比べて、施用したところで、1割ほど粗たんぱく含量がアップしておりまして、消化液の施用は化学肥料の施用に比べ牧草の品質・収量アップに貢献できることがわかりました。 また、畑作物でも消化液施用(図-11)を行っておりまして、化学肥料区の収量を100としたときの消化液施用区の収量を秋まき小麦、青刈りトウモロコシ、てん菜で調べました。結果としましてはどの作物でも化学肥料の施用区と遜色ない収量が得られるということで、消化液は畑作物に対しても液肥として利用可能なことがわかりました。 次に、土壌表層の微量元素含量(図-12)ですけれども、消化液を長期間散布しますと微量元素が過剰に集積してくるのではないかという懸念がございます。 例えば、重金属の亜鉛ですとか銅でございますけれども、長期間にわたる散布による亜鉛と銅の増加の様子を調べてみたのですけれども、ほぼ横に一直線になっておりまして、決して消化液の散布によって重金属が蓄積しないということがわかりました。 こちらは、牧草の体内の微量元素(図-13)の様子を調べたものでございます。左が化学肥料のみの区で、右が消化液施用8年目の区で、オレンジの線が鉄、モリブデン、マンガン、亜鉛、銅の作物体内の含量を示したもので、青い部分がこれらの元素が牧草に対して不足してしまう領域で、緑のところが適正含量の領域でございますけれども、消化液を8年散布した場合でも決してこれらの微量元素が過剰に蓄積することはなく適量に存在していることがわかりました。

    今後の課題

     今後は消化液だけではなく生の家畜ふん尿、堆肥、肥培かんがい液を同一圃場で長期的に施用し、それぞれの土壌生産性改善効果を比較検証し、家畜ふん尿液による土壌生産性改善技術を確立していきたいと考えております。御清聴、どうもありがとうございました。

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    図-11

    図-12

    図-13

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