「息苦しい」の臨床2017/07/15 · 心筋梗塞・肺塞栓・気胸・気道閉塞...
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「息苦しい」の臨床
58歳女性
主 訴 :労作時の息切れと疲労感
現病歴 :受診の2週間前に、長い階段を登っている
最中に息切れを感じた。
その後日常生活に問題はないが、
なんとなく疲労感がとれなくて内科を受診。
既往歴・家族歴:特記すべきものなし
BT36.5℃,BP120/60,HR60/min ,RR18/min,SpO2 98%
どうして“息切れ”を感じるのでしょう
息が切れるということはどういうこと
• どういうときに息切れを感じますか?
50Mを全力疾走したら息切れを感じますね
• このときの酸素飽和度は?
過換気状態で100%に達しています
• なぜそれでも苦しいのでしょう
組織レベルでの酸素の需要に十分な酸素の供給が行われないとき「息切れ」を感じる
組織へ十分な酸素の供給をできない原因
• 肺疾患(ガス交換がうまくいかない)
• 心疾患(十分な血液量が末梢へ運ばれない))
• 血液疾患(十分な酸素が末梢へ運ばれない)
酸素供給量=心拍出量×動脈血酸素含有量
心拍出量(CO)=心拍数(HR)×1回拍出量(SV)
動脈血酸素含有量(CaO2) =
1.34×Hb×SaO2(%)/100+0.003×PaO2(mmHg)
呼吸困難を生じるもう一つの病態は
• 心因精神性の呼吸困難感頭で息切れを感じてしまう代表的疾患は「パニック障害」
• この症例で会わないところは、
労作性であり、発作性でないこと
58歳女性
主 訴 :労作時の息切れと疲労感
現病歴 :受診の2週間前に、長い階段を登っている
最中に息切れを感じた。
その後日常生活に問題はないが、
なんとなく疲労感がとれなくて内科を受診。
たばこ(-) アルコール(-) 主婦
食欲はふつう 睡眠障害なし 体重は変わらない
既往歴・家族歴:特記すべきものなし
BT36.5℃,BP120/60,HR60/min ,RR18/min,SpO2 98%
何を考えますか
肺疾患の可能性は?
• COPD・・・女性、喫煙歴なし、呼吸器症状なしより否定的
• 肺結核後遺症・・既往歴なし
• 慢性肺塞栓、肺高血圧など・・・きわめてまれな疾患、リスクファクターなしで可能性は低い
心不全の可能性は?
• 高血圧性、冠動脈病変、弁膜症・・・既往歴のない本例では考えにくい
• アルコール性、産褥性心筋症、特発性心筋症などもまれで本例では当てはまらない
• 心筋炎後の心不全など・・・最近熱性疾患に罹患したという病歴もなし
貧血の可能性は?
鉄欠乏性貧血の特徴的所見
• 匙状爪
• 青色強膜
• 異味症(pica)、氷食症(pagophagia)
• Plummer-Vinson症候群:
鉄欠乏性貧血に舌乳頭萎縮、
舌炎、口角炎、痛みによる
嚥下障害を合併したもの
Hbは8.0g/dl
• 次に見なければいけないのは?
MCV
• MCVで大球性、正球性、小球性があるが、一番早急に対処しなければならないのは?
正球性
• 正球性貧血を見たら何を考える?
出血と溶血
• 見かけの正球性貧血を鑑別するには?
RDW(red cell distribution width)
本例のMCVは70fL
小球性貧血
赤血球の寿命は?
120日
鉄欠乏状態は4ヶ月以上前から存在
鉄欠乏の原因を明らかにすることが
大切(特に消化管腫瘍)
急性の呼吸困難
• 急激に起こった呼吸困難には1分1秒を争う対応を必要とする
• ショックバイタルや低酸素血症があれば緊急の処置が必要
さ : 酸素る : ルート確保も : モニターちょう : 超音波(エコー)しん : 心電図(12誘導)き : 胸部X線
急性の呼吸困難
• 突然の発症であれば管(胸部では血管や気道、食道)が詰まるか破れるか膜(胸部では胸膜)が破れた時の症状の可能性が高い
• 急性呼吸困難の5大疾患
①気道閉塞(窒息)
②肺塞栓症
③緊張性気胸
④心筋梗塞
⑤心タンポナーデ
突然発症の呼吸困難(SpO2の低下)は
心筋梗塞・肺塞栓・気胸・気道閉塞
• 診察手順
1.聴診であたりをつける
左右差はないか---自然気胸
喘鳴はないか---喘息・心不全・COPD
2.冷汗はないか
心筋梗塞
3.頚静脈の怒張はないか
緊張性気胸・肺塞栓症・心タンポナーデ
“なんぎー”と言う患者に最初にすることは?
• まずはVital sign血圧・心拍数・体温・呼吸数
• ・経皮的酸素飽和度SpO2 緊急度・重症度の判断に用いられる
動脈血酸素濃度PaO2とSpO2の関係
“40-50-60/70(75)-80-90” role
SpO2 88%---PaO2 55mmHg
SpO2 50%---PaO2 27mmHg
パルスオキシメーターの弱点
• 血圧低下<80mmHg(ショック)
• 寒冷で手指が冷たい(低体温)
• 手指がひどく汚れている
• 特殊なマニキュア
• 血管病変や血管外傷
• 一酸化炭素中毒
• メトヘモグロビン血症
SpO2は呼吸数とセットで評価する
呼吸困難評価では呼吸数とSpO2に敏感になること!!
・血圧、心拍数、体温は加齢や内服薬剤の影響をうけやすい
・呼吸数は体調不良時に早期から異常をきたす
呼吸数25回/分以上は要注意
・可能な限り30秒くらいかけて測定する。
呼吸を真似してみるのも有用
・SpO2値が出ない場合は緊急事態が多い
低体温、ショック(循環不全)
数値にこだわりすぎない事
バイタルサインを判断する
• とくに呼吸数とSpO2の評価は重要
次の5症例の原因疾患を推測してみよう
症例1:85歳男性、SpO2 85% 呼吸数30回/分
症例2:85歳男性、SpO2 84% 呼吸数 8回/分
症例3:72歳男性、SpO2 95% 呼吸数26回/分
症例4:72歳男性、SpO2 95% 呼吸数15回/分
症例3:18歳女性、SpO2 99% 呼吸数38回/分
StridorとWheezeを区別しよう
• Stridor:吸気に著明な連続性ラ音上気道に70%以上の狭窄があるので患者には窒息の危険がある
急性喉頭蓋炎、上気道異物、声帯浮腫・
クループ症候群など
• Wheeze:呼気時が主であるが吸気呼気ともに聴取、気管支喘息で聴かれる音
症例 40歳 男性
• 喘息の既往はあるが発作は年2回ぐらいで継続して治療は受けていない、非喫煙者
• 呼吸困難を主訴に夜間に救急外来を受診。ここ二日間続けて来院しており、ほとんど眠れていない。肩で息をしておりとにかく息がつらいといっている
• 血圧160/100mmHg 脈120回/分 体温37℃
呼吸数40回/分 SpO2 84%
当直医はCO2ナルコーシスを心配して酸素は経鼻1Lで開始するよう指示した
症例 喫煙家の78歳男性
• 発熱と息苦しさがあり、救急車で来院
• SpO2 85%と低酸素血症が疑われマスクで5Lの酸素を投与されていた
• 救急車では意識ははっきりしていたが病院に着いたときは患者は呼びかけても反応しなくなっていた
意識レベル低下の原因は?
不用意な酸素投与によるCO2ナルコ-シス
• 意識レベルはJCSⅡ-30 瞳孔散大
血圧130/72mmHg 呼吸数5回/分
SpO2 98%(O2 5L) 手足は温かい
• 慢性的な高炭酸ガス血症があると高濃度酸素投与でCO2ナルコーシスをおこす
CO2ナルコーシスをおこす5疾患
1.肺結核後遺症
2.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
3.睡眠時無呼吸症候群(SAS)
4.胸郭変形
5.神経・筋疾患
CO2貯留に伴う身体所見(高CO2血症では脳血管と表在皮膚血管は
拡張し腎血管は収縮する)
• 5-10mmHg以上の上昇→手足が温かい・頬の潮紅(末梢血管拡張)・瞳孔散大(交感神経亢進作用)
• 15mmHg以上の上昇→frapping (asterixis)
• 20mmHg以上の上昇→傾眠
• 30mmHg以上の上昇→冷汗・うっ血乳頭
• 40mmHg以上の上昇→昏睡(すべての反射低下・縮瞳)
症例:72歳男性
• 高血圧、脂質異常症にて通院中の患者
約半年前から労作時の呼吸困難があり、内科外来を受診。
喫煙歴20本/日x50年
血圧132/64、心拍数70回/分(整)、体温36.4℃呼吸数18回/分 SpO2 96%(室内気)
呼吸困難感の原因は?
身体診察
Ⅲ音なし頚静脈怒張なし起座呼吸なしPNDなし
慢性閉塞性肺疾患COPD
• 頸部:気管短縮・呼吸補助筋の発達
(胸鎖乳突筋が発達)
• 吸気時の鎖骨上窩の陥凹
• 吸気時の肋間陥凹(Hoover徴候)
• 樽状胸郭
• 四肢の筋肉の委縮
• 頚静脈が吸気につぶれるか
慢性閉塞性肺疾患の人でみること
・気管短縮があるか
・胸鎖乳突筋が発達しているか
・吸気時の鎖骨上窩の陥凹があるか
・頚静脈が吸気につぶれるか
安定期COPDの管理指針
重症度はFEV1の低下だけではなく、症状の程度や増悪の頻度を加味し、重症度を総合的に判断した上で治療法を選択する。
管理法
管理目安
疾患の進行
Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期
外科療法換気補助療法
酸素療法
吸入用ステロイド薬
長時間作用性抗コリン薬・β2刺激薬の併用(テオフィリンの追加)
長時間作用性抗コリン薬またはβ2刺激薬(必要に応じて短時間作用性気管支拡張薬)
呼吸リハビリテーション(患者教育・運動療法・栄養管理)
呼吸困難・運動能力・身体活動性の低下・繰り返す増悪
軽症 → → → → → → → → → 重症
禁煙・インフルエンザワクチン接種・全身併存症の診断と管理
FEV1の低下
症状の程度
57
COPD患者にばち状指を見たら
• 肺がんを鑑別する必要がある
まとめ
• 外来でみる労作時呼吸困難の原因は
1. 肺疾患
2. 心疾患
3. 貧血
4. 心因性
労作時呼吸困難というと、1.2を想起しやすいが
鉄欠乏性貧血やパニック障害も息切れをきたす高頻度疾患である
喘息治療のABCABCへそ曲がりルール
A:always O2,SpO2チェックし酸素化を評価
B:β刺激剤吸入 0.5ml 20分ごとx3
C:corticosteroid,ソルメドロール125mg点滴
アスピリン喘息ではデキサメサゾン8mg
A:aminophylline ネオフィリン点滴
B:ボスミン0.3ml皮下注 20分ごとx3まで
C:抗コリン剤吸入
Mg(マグネゾール)1-2g点滴 約20分で
その他:胸部圧迫法sqweezing
⊿心拍数20ルール
⊿HR/⊿BT>20→細菌感染症の可能性大
体温が1℃上昇毎に心拍数が20/分以上
増加する場合細菌感染症の可能性大
VS : BP100/60 HR120 RR26 BT38.6( 普段のVS : HR60 BT36.5 )HR60上昇/BT2℃上昇=30>20
この患者は、急性腎盂腎炎と診断され入院・加療となった
CRPは早期には上昇しない
症例 心筋梗塞の既往がある82歳女性
• 中大脳動脈領域の脳梗塞で入院しグリセオールなどの点滴治療が行われているが、呼吸回数が増えて苦しそうな呼吸になった。
• SpO2 87%(room air) 血圧130/60mmHg脈拍120/分 呼吸数28回/分 体温36.4℃
・頚静脈の怒張なし・両側肺野に喘鳴wheezeを聴取・眼の周囲のむくみあり、前脛骨部の浮腫あり
高齢発症の喘息でしょうか次の一手は?
気管支喘息ではなくうっ血性心不全
心不全の3徴
1. 全身倦怠感(malaise)
2. 頻脈(tachycardia)
3. 呼吸苦(dyspnea)
• 喘鳴wheeze=気管支喘息ではない
• 喘鳴を聴取したら必ず心不全と鑑別を
• 心臓喘息と称される肺うっ血の場合も末梢気道閉塞による喘鳴が聴取される
• 最も大事なのは既往歴
• 喘息の治療は気管支拡張β刺激剤
• 心臓喘息の治療は利尿剤(心保護・心仕事量の軽減でβ遮断剤)
単独の心不全の場合にβ刺激剤の吸入を行った場合は、行わなかった
場合と比べ、血管拡張薬の量が増え、人口呼吸を要することが多くなり、入院期間も長くなったと報告されている
Ann EmergMed 51:25-34,2008
Q:発作性夜間呼吸困難と起座呼吸との違いは?
クリニカルシナリオ(CS)
CS1:BP>140mmHg急激に発症し、全身の浮腫は軽度。びまん性肺水腫。酸素、硝酸薬。水分貯留がない限り利尿剤は使わない。
CS2:BP 100~140mmHg徐々に発症し、体重増加を認める。軽度肺水腫。肝腎機能障害が認められる。酸素、硝酸薬。慢性的に水分貯留があれば利尿剤を使う。
CS3:BP<100mmHg低拍出状態が主。軽度肺水腫及び全身浮腫。脱水であれば補液。そうでなければ強心剤を検討する。
CS4:急性冠症候群CS5:右心不全
急性心不全時の起坐呼吸の治療:まずは
迅速な評価
• SpO2>95%確保
• 静脈ライン確保
• 心電図
• 病歴と身体所見
• 胸部X線
• 電解質や腎機能
• BNP値
• 可能なら心エコー
初期治療(10分以内)• 酸素吸入:5L/分• SpO2>95%確保• ミオコールスプレー1-2パフ(10分間隔で繰り返しても可)• NIPPV(BiPAP)を考える
バイタルサイン
はじめのルート確保時の点滴は、微量であれば何でも良いが、当院では5%ブドウ糖100mlを使うことが多い。
治療(80%以上はこれでうまくいく)
初期対応の後に
収縮期血圧>140mmHg 収縮期血圧100-140mmHg 収縮期血圧<100mmHg
・ハンプ 2V+5%糖液100ml 4ml/H
・ミオコールスプレー適宜
・利尿剤は水分貯留時に使う
・ハンプ 2V+5%糖液100ml 4ml/H
・ミオコールスプレー適宜・ラシックス1A静注
脱水がなければドブトレックス600 3ml/HやPDEIII阻害薬。
循環器科医師に早めにconsult。
• 血圧が保たれていれば、ミオコールスプレーを上手に使う(10-15分毎)。• 体格が小さい人や血圧100mmHg近くの症例はハンプ2V。• NIPPVは急性心不全に対抗する有効な武器。躊躇せずに使おう。• 100点満点の治療でなくても60点の治療でも十分。一番いけないのは放置プレー。
心不全増悪による再入院の誘因として最も多いのは
A. 感染症
B. 不整脈
C. 精神的ストレス
D. 塩分・水分制限の不徹底
E. 治療薬服薬の不徹底
慢性心不全患者に指導すべきことは?
A 禁煙
B アルコール制限
C カロリー制限
D 塩分制限
E 水分制限
3つ選んでください
慢性心不全患者に対する指導として正しいものは?
A 空咳が出たら治療薬の服用をすぐに中止する
B 症状がなければ治療薬の服用を中止してもよい
C 1日2Kg以上体重が増加したら水分摂取を控える
D 夜間に息苦しさで目覚めることがあったらすぐに受診する