日本標準商品分類番号872491 カリジノゲナーゼの …21kda コントロール 0.1 11...

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カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより、高血圧や末梢循環障害の 治療に広く用いられてきた。最近では、糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低 下させることにより、血管透過性を抑制することが示されたが、血管新生に対するカリジノゲナーゼの影響 を評価した報告はない。そこで今回、網膜血管新生に対するカリジノゲナーゼの役割を同定するため、 in vitro 及び in vivo モデルを用いて抗血管新生作用を検討した。 <試験方法> カリジノゲナーゼの 血管新生抑制作用 1)管腔形成試験 ( in vitro) ヒト臍帯静脈内皮細胞 (以下 HUVEC) と皮膚線維芽細胞の共培養系モデル(血管新生キット、クラボウ)を用いた。 あらかじめ培地中に血管新生促進物質である VEGF165 10ng/mL を添加し、その培地にカリジノゲナーゼをそれぞれ 0.01、0.1、1.0 および 10μg/mL となるよう添加した。培養11日目に、解析ソフト(血管新生キット定量ソフトウェア Ver.2、クラボウ)を用いて、新生血管の管腔面積、総延長、分岐点数および枝数を測定した。 2)細胞増殖試験 ( in vitro) 1well あたり2×10 3 cell の HUVEC またはヒト網膜毛細血管内皮細胞 ( 以下 HRMEC) を96穴マイクロプレートに 播種した。VEGF 165 および各濃度のカリジノゲナーゼを添加後、CCK-8 を用いた WST assayを行い、吸光度(492nm) を測定することにより定量した。 3)細胞遊走試験 ( in vitro) 1well あたり4×10 4 cell の HUVEC または HRMEC を12穴マイクロプレートに播種した。細胞の一部をはがし取り、 VEGF165 および各濃度のカリジノゲナーゼを添加し、24 時間後にその領域に移動してきた細胞数の測定を行った。 4)細胞増殖および細胞遊走シグナルについての western blot 解析 ( in vitro) HUVEC 1×10 5 細胞 / ウェルの密度で 12 ウェルプレートへ播種し、サブコンフルエンスの状態になるまで培養を行 った。VEGF165 およびカリジノゲナーゼを添加し、VEGF2 型受容体(以下 VEGFR2) は添加 2分後、ERK1/2 およ び p38 は添加 5 分後にそれぞれ VEGF165 誘発リン酸化抑制作用について western blot 解析を行った。さらに、検 出試薬を用いてバンドを発色させ、その輝度を測定することにより定量化した。 5)VEGF 165 切断試験 ( in vitro) Cell-free の状態で、培地中に VEGF165 およびカリジノゲナーゼを混合して 6 時間反応させ、western blot により バンドを検出した。 6)マウス未熟児網膜症モデル(以下 OIR モデル)に対する作用( in vivo本モデルは C57BL/6 マウスを生後 7~12 日目まで 75%高酸素条件下で飼育し、その後13 ~17日目まで通常 大気条件下で飼育することにより網膜中に異常血管を誘発させる。本試験では、生後 13 ~17 日目までの 5 日間、カリ ジノゲナーゼを皮下投与した。 7)ヒト硝子体液中カリジノゲナーゼ、VEGF 濃度 ( in vitro) 硝子体手術を施行した増殖糖尿病網膜症(PDR)、黄斑円孔(MH)、黄斑上膜(ERM)患者の硝子体液中カリジノゲナ ーゼ濃度及び VEGF 濃度を測定するとともに、カリジノゲナーゼによる硝子体液中 VEGF165 の切断作用を検討した。 日本標準商品分類番号 872491

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Page 1: 日本標準商品分類番号872491 カリジノゲナーゼの …21kDa コントロール 0.1 11 0μ g/ml カリジノゲナーゼ VEGF165 16kDa VEGF165断片 p38の リ ン 酸化率

 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより、高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた。最近では、糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより、血管透過性を抑制することが示されたが、血管新生に対するカリジノゲナーゼの影響を評価した報告はない。そこで今回、網膜血管新生に対するカリジノゲナーゼの役割を同定するため、in vitro 及びin vivoモデルを用いて抗血管新生作用を検討した。

<試験方法>

カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用

1)管腔形成試験 (in vitro)   ヒト臍帯静脈内皮細胞 (以下 HUVEC) と皮膚線維芽細胞の共培養系モデル(血管新生キット、クラボウ)を用いた。

あらかじめ培地中に血管新生促進物質であるVEGF165 10ng/mL を添加し、その培地にカリジノゲナーゼをそれぞれ0.01、0.1、1.0 および 10μg/mL となるよう添加した。培養11日目に、解析ソフト(血管新生キット定量ソフトウェア Ver.2、クラボウ)を用いて、新生血管の管腔面積、総延長、分岐点数および枝数を測定した。

2)細胞増殖試験 (in vitro)   1well あたり2×103cell の HUVEC またはヒト網膜毛細血管内皮細胞 ( 以下 HRMEC) を96穴マイクロプレートに

播種した。VEGF165および各濃度のカリジノゲナーゼを添加後、CCK-8 を用いた WST assayを行い、吸光度(492nm)を測定することにより定量した。

3)細胞遊走試験 (in vitro)   1well あたり4×104cell の HUVEC または HRMECを12穴マイクロプレートに播種した。細胞の一部をはがし取り、

VEGF165 および各濃度のカリジノゲナーゼを添加し、24時間後にその領域に移動してきた細胞数の測定を行った。4)細胞増殖および細胞遊走シグナルについての western blot 解析 (in vitro)   HUVEC 1×105 細胞 / ウェルの密度で12 ウェルプレートへ播種し、サブコンフルエンスの状態になるまで培養を行

った。VEGF165 およびカリジノゲナーゼを添加し、VEGF2 型受容体(以下 VEGFR2) は添加 2分後、ERK1/2 および p38 は添加 5 分後にそれぞれ VEGF165 誘発リン酸化抑制作用についてwestern blot 解析を行った。さらに、検出試薬を用いてバンドを発色させ、その輝度を測定することにより定量化した。

5)VEGF165 切断試験 (in vitro)   Cell-free の状態で、培地中に VEGF165 およびカリジノゲナーゼを混合して 6 時間反応させ、 western blot により

バンドを検出した。6)マウス未熟児網膜症モデル(以下 OIR モデル)に対する作用(in vivo)   本モデルは C57BL/6マウスを生後 7~12 日目まで 75%高酸素条件下で飼育し、その後13~17日目まで通常

大気条件下で飼育することにより網膜中に異常血管を誘発させる。本試験では、生後13~17日目までの5日間、カリジノゲナーゼを皮下投与した。

7)ヒト硝子体液中カリジノゲナーゼ、VEGF 濃度 (in vitro)   硝子体手術を施行した増殖糖尿病網膜症(PDR)、黄斑円孔(MH)、黄斑上膜(ERM)患者の硝子体液中カリジノゲナ

ーゼ濃度及び VEGF濃度を測定するとともに、カリジノゲナーゼによる硝子体液中 VEGF165 の切断作用を検討した。

日本標準商品分類番号 872491

Page 2: 日本標準商品分類番号872491 カリジノゲナーゼの …21kDa コントロール 0.1 11 0μ g/ml カリジノゲナーゼ VEGF165 16kDa VEGF165断片 p38の リ ン 酸化率

21kDa

コントロール 0.1 1 10 μg/mlカリジノゲナーゼ

VEGF165

VEGF165断片16kDa

p38のリン酸化率

0

0.5

1

1.5

2

コントロール 生食

##

10

10 μg/mlカリジノゲナーゼ

VEGF165

##

細胞遊走率

0

0.5

1

1.5

2

2.5

コントロール 生食 0.1 1 10 10 μg/mlカリジノゲナーゼVEGF165

**

コントロール 生食カリジノゲナーゼ

VEGF165

10μg/ml 10μg/ml

500μm 血管新生

血管内皮細胞

##:p<0.01(student t-test)**:p<0.01、*:p<0.05

(Dunnett の多重比較)コントロールを 1とした相対比

##:p<0.01、†:p<0.05(student t-test)コントロールを 1とした相対比

VEGF165 の切断作用

血管新生抑制作用(HUVEC)

p38のリン酸化抑制作用(HUVEC)

細胞遊走抑制作用(HRMEC)

VEGF165の血管新生作用とカリジノゲナーゼの抑制作用VEGF165

リン酸化

リン酸化

VEGFR1

細胞遊走

p38

コントロール 生食

VEGF165

VEGF165

カリジノゲナーゼ(0.01μg/ml)

カリジノゲナーゼ(0.1μg/ml)

カリジノゲナーゼ(1.0μg/ml)

カリジノゲナーゼ(10μg/ml)

500μm

Page 3: 日本標準商品分類番号872491 カリジノゲナーゼの …21kDa コントロール 0.1 11 0μ g/ml カリジノゲナーゼ VEGF165 16kDa VEGF165断片 p38の リ ン 酸化率

10APMAEGGGQN

20HHEVVKFMDV

30YQRSYCHPIE

40TLVDIFQEYP

50DEIEYIFKPS

60CVPLMRCGGC

70CNDEGLECVP

160LELNERTCRC

165DKPRR

80TEESNITMQI

90MRIKPHQGQH

100IGEMSFLQHN

110KCECRPKKDRC102-K107(m/Z849)

120ARQENPCGPC

130SERRKHLFVQ

140DPQTCKCSCK

150NTDSRCKARQ

VEGF165のアミノ酸配列

管腔面積

00.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

コントロール 生食

##

0.01 0.1 1 10μg/mlカリジノゲナーゼVEGF165

**

**

分岐点数

0123456789

コントロール 生食 0.01 0.1 1 10μg/mlカリジノゲナーゼVEGF165

**

** **

枝数

00.511.522.533.544.5

コントロール 生食 0.01 0.1 1 10μg/mlカリジノゲナーゼVEGF165

**

****

総延長

00.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

4

コントロール 生食 0.01 0.1 1 10μg/mlカリジノゲナーゼVEGF165

**

**

##

細胞増殖率

0

0.5

1

1.5

2

コントロール 生食 0.1 1 10 10 μg/mlカリジノゲナーゼVEGF165

VEGF受容体のリン酸化率

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

生食 1

**

10 μg/mlカリジノゲナーゼ

VEGF165

ERK1/2のリン酸化率

0

0.5

1

1.5

2

コントロール 生食

##

10

10 μg/mlカリジノゲナーゼ

VEGF165

血管新生

血管内皮細胞

##:p<0.01(student t-test)**:p<0.01、*:p<0.05(Dunnettの多重比較)コントロールを 1とした相対比

VEGF165 の切断部位の検討

血管新生抑制作用(HUVEC)

細胞増殖抑制作用(HRMEC)

VEGFR2のリン酸化抑制作用(HUVEC)

ERK1/2のリン酸化抑制作用(HUVEC)

VEGF165の血管新生作用とカリジノゲナーゼの抑制作用VEGF165

##:p<0.01(student t-test)*:p<0.05(Dunnett の多重比較)コントロールを 1とした相対比

##:p<0.01、†:p<0.05(student t-test)コントロールを 1とした相対比

**:p<0.01、*:p<0.05(Dunnett の多重比較)生食を 1とした相対比

リン酸化

リン酸化

VEGFR2

PKC

細胞増殖

ERK1/2

Page 4: 日本標準商品分類番号872491 カリジノゲナーゼの …21kDa コントロール 0.1 11 0μ g/ml カリジノゲナーゼ VEGF165 16kDa VEGF165断片 p38の リ ン 酸化率

カリジノゲナーゼ

(μg/ml)

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

黄斑円孔 黄斑上膜 増殖糖尿病網膜症

**##

黄斑円孔

黄斑上膜

増殖糖尿病網膜症カリジノゲナーゼ

(μg/ml)

VEGF(pg/ml)

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.3

0.4

1000 2000 4000 8000

VEGF

(pg/ml)

0

200

400

600

800

1000

1200

黄斑円孔 黄斑上膜 増殖糖尿病網膜症

**##

カリジノゲナーゼ

黄斑円孔 増殖糖尿病網膜症

カリジノゲナーゼ

免疫沈降法(VEGF)

VEGF

VEGF断片16kDa

21kDa

(10μg/ml)

***N

ode数

0

50

100

150

200

生食 20 50 μg/kgカリジノゲナーゼ

**

0

0.5

1

1.5

2

2.5

生食 20 50 μg/kgカリジノゲナーゼ

Node面積

(mm2)

21kDa

カリジノゲナーゼ

免疫沈降法(VEGF)

(50μg/kg)生食

VEGF164

VEGF164断片16kDa

 OIR モデルマウスにカリジノゲナーゼを皮下投与したところ、異常血管である Node 数及び Node 面積を用量依存的に有意に抑制した。またカリジノゲナーゼ投与群における網膜及び硝子体液を分析したところ、21kDa 付近におけるVEGF164 の減少と、16kDa 付近に切断された VEGF164 の断片が確認された。

 ヒト硝子体液中のカリジノゲナーゼとVEGF濃度を測定したところ、いずれも黄斑円孔(MH)や黄斑上膜(ERM) に比べて、増殖糖尿病網膜症(PDR)では有意に高値を示し、両者には統計学的に有意な相関(p<0.001)が認められた。PDR患者の硝子体液では、カリジノゲナーゼを添加することで16kDa付近に切断されたVEGF165の断片が確認された。

OIRモデルマウスに対する作用

ヒト硝子体液カリジノゲナーゼ・VEGF濃度の関係

**:p<0.01、*:p<0.05(Dunnett の多重比較)

カリジノゲナーゼ生食

**、##:p<0.001(Steel-Dwassの多重比較)

p<0.001(Spearman の順位相関検定)

Page 5: 日本標準商品分類番号872491 カリジノゲナーゼの …21kDa コントロール 0.1 11 0μ g/ml カリジノゲナーゼ VEGF165 16kDa VEGF165断片 p38の リ ン 酸化率

N.S.

細胞増殖率

0

0.5

1

1.5

2

2.5

コントロール 生食

##

0.1 1 10 10 μg/mlカリジノゲナーゼ

VEGF121

N.S.

細胞遊走率

00.511.522.533.54

コントロール 生食 0.1 1 10 10 μg/mlカリジノゲナーゼ

VEGF121

##

コントロール 生食カリジノゲナーゼ(10μg/ml)

VEGF121

リン酸化VEGF受容体

総VEGF受容体

βアクチン

コントロール 生食カリジノゲナーゼ

VEGF121

10μg/ml 10μg/ml

500μm

VEGF受容体のリン酸化率

0

0.5

1

1.5

生食 カリジノゲナーゼ(10μg/ml)

N.S.

VEGF121

管腔面積

0

0.5

1

1.5

コントロール カリジノゲナーゼ

N.S.

総延長

0

0.5

1

1.5

コントロール カリジノゲナーゼ

N.S.

分岐点数

0

0.5

1

1.5

コントロール カリジノゲナーゼ

N.S.

枝数

0

0.5

1

1.5

コントロール カリジノゲナーゼ

N.S.

(50μg/kg)

(50μg/kg)

(50μg/kg)

(50μg/kg)

VEGF121に対する影響

OIR モデルマウスで、生後 8 日目(相対的虚血負荷前)の生理的血管新生に対するカリジノゲナーゼの影響を検討したところ、血管の管腔面積、総延長、分岐点数および枝数には有意な差が認められなかった。

VEGF121 による血管内皮細胞の増殖・遊走及び VEGFR2 のリン酸化に対するカリジノゲナーゼの影響を検討したところ、いずれの項目に対しても、有意な変化は見られなかった。

N.S.(student t-test)コントロールを 1とした相対比

a:生後 0 日(コントロ-ル)b:生後 4 日(コントロ-ル)c:生後 8 日(コントロ-ル)d:生後 8 日(カリジノゲナ-ゼ)

##:p<0.01(student t-test) N.S.(Dunnett の多重比較)コントロールを 1とした相対比

N.S.(student t-test)生食を 1とした相対比

生理的血管新生に対する作用

本文中の図表はすべて 中村信介、原英彰他:ATVB 31:1041-1048 及び SFⅣ SFⅤ,2011

##:p<0.01(student t-test)N.S.(Dunnett の多重比較)コントロールを 1とした相対比

Page 6: 日本標準商品分類番号872491 カリジノゲナーゼの …21kDa コントロール 0.1 11 0μ g/ml カリジノゲナーゼ VEGF165 16kDa VEGF165断片 p38の リ ン 酸化率

2015

カルナ

クリン

25

カルナ

クリン

50

ルナクリン

50

カルナ

クリン

25

2016年2月改訂CAR-127R 84805 PM0216