最先端技術で新たなict基盤構築とdevopsを実践! 「project … ·...

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NTT技術ジャーナル 2018.8 48 SKYの背景と目的 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)では,2009 年より社内システム ・ インフラのコスト削減と運用効率化 をめざし,サーバ統合,ネットワーク統合,共通機能基盤 化を進めてきました.その後,クラウド運用技術の向上に よりIT運用効率化の可能性が高まってきたこと,さらに昨 今のデジタルビジネス変革(デジタルトランスフォーメー ション)に対応するため,お客さまへのサービス提供のさ らなる迅速化が求められるようになってきました.そのた め,2015年に「開発スピード倍増」「運用コスト30%減」 を目標に掲げ,インフラ基盤のクラウド化促進とDevOps *1 環境との一体化をめざした「Project SKY」(SKY)を組 織横断で発足させました(図1 ). 開発工数の削減 インフラ構築,各種DevOpsツール群の利用を社内 向けポータルより一元管理 従来のシステム開発では,インフラの準備工程でサー *1 DevOps:開発(Development)と運用(Operations)を組み合わせたワー ドであり,開発担当者と運用担当者が連携して協力するソフトウェア開 発手法を指します. Project SKYの目標 【開発】 【運用】 技術・経験・ノウハウを ショーケースとして活用 マーケットのニーズを 取り込み社内で実践 お客さま 開発スピード 倍増 運用コスト 30%減 (プラス1)ショーケース化 リソース,ツール ノウハウ提供 コンサル 各システム主管の効率的な開発・運用に向けコンサル設置 ニーズを 取り込み ベンダの開発環境 との連携 外部ベンダ連携 社内システム・プロジェクトなど (100システム,100プロジェクト) (2018年 3 月現在) 開発・検証 リリース 運用 DevOps支援ツール ECL GCP +他社クラウド Azure AWS SKY Portal 内製開発推進 DevOps 16ツール (2018年 3 月現在) サーバやネットワークリソースを即時に払い出し 最新の16ツールをSKYから提供 監視運用の一元的提供 提供機能のメニュー化 運用作業自動化(稼働極小化) ポータルから一元提供 図 1  SKY施策全体イメージ f rom NTTコミュニケーションズ 最先端技術で新たなICT基盤構築とDevOpsを 実践! 「Project SKY」 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)では,デジタルトランスフォーメーションを促進し,サービスの迅速提供と競争 力確保のために,「開発スピード倍増」「運用コスト30%減」を目標に掲げ,インフラ基盤のクラウド化促進とDevOps環境と の一体化をめざした「Project SKY」(SKY)を2015年に発足させました.これにより,100以上のシステムで開発と運用 の高速化を実現した成果を挙げています.ここでは,SKYの営みを,①開発工数の削減,②運用コストの削減,③セキュリティ 強化,④人材育成,⑤ショーケース化の観点から紹介します.

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NTT技術ジャーナル 2018.848

SKYの背景と目的

NTTコミュニケーションズ(NTT Com)では,2009年より社内システム ・ インフラのコスト削減と運用効率化をめざし,サーバ統合,ネットワーク統合,共通機能基盤化を進めてきました.その後,クラウド運用技術の向上によりIT運用効率化の可能性が高まってきたこと,さらに昨今のデジタルビジネス変革(デジタルトランスフォーメーション)に対応するため,お客さまへのサービス提供のさらなる迅速化が求められるようになってきました.そのため,2015年に「開発スピード倍増」「運用コスト30%減」を目標に掲げ,インフラ基盤のクラウド化促進とDevOps*1

環境との一体化をめざした「Project SKY」(SKY)を組織横断で発足させました(図 1).

開発工数の削減

■ インフラ構築,各種DevOpsツール群の利用を社内向けポータルより一元管理従来のシステム開発では,インフラの準備工程でサー

*1 DevOps:開発(Development)と運用(Operations)を組み合わせたワードであり,開発担当者と運用担当者が連携して協力するソフトウェア開発手法を指します.

Project SKYの目標【開発】

【運用】技術・経験・ノウハウをショーケースとして活用

マーケットのニーズを取り込み社内で実践

お客さま

開発スピード 倍増運用コスト 30%減(プラス1)ショーケース化

リソース,ツールノウハウ提供

コンサル

各システム主管の効率的な開発・運用に向けコンサル設置

ニーズを取り込み

ベンダの開発環境との連携

外部ベンダ連携 社内システム・プロジェクトなど(100システム,100プロジェクト)

(2018年 3 月現在)

開発・検証 リリース

運用

DevOps支援ツール

ECL

GCP+他社クラウド

Azure AWS

SKY Portal

内製開発推進DevOps16ツール

(2018年 3 月現在)

サーバやネットワークリソースを即時に払い出し最新の16ツールをSKYから提供

監視運用の一元的提供提供機能のメニュー化運用作業自動化(稼働極小化)

ポータルから一元提供

図 1  SKY施策全体イメージ

from NTTコミュニケーションズ

最先端技術で新たなICT基盤構築とDevOpsを実践! 「Project SKY」NTTコミュニケーションズ(NTT Com)では,デジタルトランスフォーメーションを促進し,サービスの迅速提供と競争力確保のために,「開発スピード倍増」「運用コスト30%減」を目標に掲げ,インフラ基盤のクラウド化促進とDevOps環境との一体化をめざした「Project SKY」(SKY)を2015年に発足させました.これにより,100以上のシステムで開発と運用の高速化を実現した成果を挙げています.ここでは,SKYの営みを,①開発工数の削減,②運用コストの削減,③セキュリティ強化,④人材育成,⑤ショーケース化の観点から紹介します.

NTT技術ジャーナル 2018.8 49

バ ・ ストレージの構築,ネットワークの接続をそれぞれ実施し,開発においては,プロジェクトごとにさまざまなツールを各自のノウハウで用意していました.SKYでは,2017年4月,すべての開発プロジェクト向けに一元的なポータル(SKY Portal)を提供し,クラウド,ネットワーク接続の自動化機能を提供しました.利用者向けのトップ画面のイメージを図 2に示します.①  ポータルからNTT Comのハイブリッドクラウドサービス「Enterprise Cloud」(ECL) の管理API(Application Programming Interface)を呼び出し,各種リソース〔テナント,VPN-GW(ECLのリソースで外のネットワークと接続するゲートウェイ)など〕を自動手配することで,社内網やインターネットへの接続を自動化し,迅速に開発着手できるようにしています.今後,自動化を加速し,他社クラウド〔Azure,GCP(Google Cloud Platform),AWS(Amazon Web Services)〕の提供,DR(Disaster Recovery)対応などを実施予定です.②  ネットワーク担当に個別に申請していたIPアドレスの払い出しを見直し,SKY Portalからの自動払出しを実現しました.あらかじめSKY担当でIPアドレスをプールしておき,そこから利用者にIPを割り振る方式にすることで,利用者が都度申請する手間を削減しています.今後,既存の社内網などとの接続の高速化なども進める予定です.③  パブリッククラウド環境と従来のオンプレ仮想化環境からなるハイブリッドICT環境を実現するために,社内網との接続を一元提供することで,ネットワーク接続の期間を大幅に短縮しました.各システムの

VPN-GW~MCC(Multi-Cloud Connect)接続〔ECLとUNO(Universal One)の間を接続するサービス〕対応もSKY Portalから設定することが可能です.

■ DevOpsツールの統一による開発スタイルの標準化および開発工程の自動化による開発サイクルの短縮,操作ミスの削減SKY Portalでは,DevOpsツールを標準ツールとして提供し,さまざまなシステムの開発 ・ 運用で利用しています(図 3).以下に,利用例を記載します.(1) プロジェクト管理プロジェクト管理ツールとして,Confl uence/JIRAを提供しています.これにより,開発プロジェクト管理手法の統一をめざすとともに,開発プロジェクト以外の施策の管理にも共通的に利用できるようになりました.(2) 自動化GitLab(コード管理,構成管理),Jenkins(継続的インテグレーション),Ansible(プロビジョング)を活用しつつ,ツール間の自動連携の仕組みも開発し,自動化を加速しています.今後,さらなる開発スピードアップを実現するために,環

境の「標準化」による「自動化」範囲拡大と,全システムへの標準化,テンプレートなどの拡充につなげていきます.

運用コストの削減

■一括監視による,故障検知の自動化,予兆検知の導入NTT Comのサービスは,多数のシステムが複雑に連携することで実現されています.サービスの安定的提供には,故障発生の早期発見,切分けおよび復旧対応が不可欠です.従来,アプリケーション,ミドルウェア,サーバ,ストレージ,ネットワークをバラバラに監視していたため,早期発見はできても,故障個所,原因の特定,対処に時間がかかるケースがありました.SKYでは2018年度中に,アプリケーションからインフラまで一括監視機能の実装をめざしています.現在,アプリケーション~サーバの監視とネットワークの監視のためのデータ取得機能,ユーザ体感品質分析機能をそれぞれ開発し,その後統合をめざしています.さらに,NTT研究所などと連携し,AI(人工知能)技術などを活用した故障の予兆検知にも対応させたいと考えています.■ 監視機能のテンプレート化による監視漏れの防止と省力化従来,システム個々で監視項目を設計していましたが,故障発生時に監視設計漏れを発見することがありました.SKYでは,最低限実施すべき監視項目をテンプレート化

【速く使う】クラウド,ネットワーク…

自動払い出し

【簡便に開発,運用】各種ツールを

自動インストール

【一目で状態が分かる】運用,監視,自動化

ダッシュボード

システム概要

申請・ジョブ状況

環境払い出し

CI/CDツール

運用監視

管理

ポータルから基盤リソースを一元管理

図 2  SKY Portal利用者向けトップ画面イメージ

NTT技術ジャーナル 2018.850

することで,監視漏れを防止しました.監視設定は,SKY Portalから監視エージェントのインストールを自動化することで,監視開始までに各システムで対応していた50営業日の作業も,デフォルト設定であれば,各サーバ5分で完了します.将来的に,自動化の範囲をアプリケーションやシステム連携も視野に広げていきたいと考えています.

セキュリティ強化

昨今のニュースで報道されるように,セキュリティに関する事件が頻発しています.セキュリティを確保し,コンプライアンスを遵守することは企業の生命線となっています.NTT Comでは,UTM(Unifi ed Threat Management)*2

による侵入防御,社内ネットワーク内の通信ログ分析による標的型攻撃防御,サーバ,端末へのウイルス対策などを実施してきました.さらにSKYでは,新たに,開発工程における対策を追加しました.具体的には,製造工程のタイミングで脆弱性をチェックするソースコード診断の基盤〔SAST(Static Application Security Testing)*3〕や,OSやミドルウェアの脆弱性診断を検証環境の構築時点か

ら実施できる機能を提供しています.脆弱性を早期発見することで,開発手戻りを抑止し,スピードやコストとトレードオフになりがちなセキュリティ対策を効率良く実施し,セキュリティを兼ね備えた高速システム開発をめざしています.今後もセキュリティ対策の基盤拡充とセキュリティ教育の充実を図り,ハードとソフトの両面でセキュリティを強化していく予定です.

人 材 育 成

SKYは,利用説明会,ハンズオン研修,各ツールの問合せ対応などを充実させたことで,2017年度,当初予定の40システムを大きく上回る100システム(社内システム全体の4分の1)が開発で利用するようになっています.また,開発や運用以外の利用用途も模索した結果,100プロジェクトがプロジェクト管理機能などを利用しています.個々の要望を取り込み,カスタマイズや,標準テンプレートの作成 ・ 展開も推進し,利用を拡大しています.また,SKYの取り組みそのものが複数のシステムや業務をまたがったシステム開発や運用,セキュリティにかかわり,人材育成の場となっています.主に以下の人材育成の観点があります.・ システム開発や運用,セキュリティ技術の専門性や,最新技術に関する深い知識と技術的探究心を有し,企

業界の先進事例となるスピード開発を実現!

本番デプロイ

Ansible

Fabric

Maven Nexpose SeleniumWeb Driver

docker

Jenkins Jmeter SonarQube

CheckStyle

SDxEnterprise Cloud Azure AWS

GCPGitLab Redmine

Subversion

JIRA SoftwareConfluence

Junit

FindBugs

受入試験

結合試験 総合試験

コーディング 単体試験

リソースプール リポジトリ・チケット

商用維持環境

商用環境

検証環境

開発環境

自動化 統合化 標準化

図 3  複数のシステム環境を共通管理した,自動化,統合化,標準化の実践例

*2 UTM:複数の異なるセキュリティ機能を1つのハードウェアに統合し,統合脅威管理を行うことです.

*3 SAST:ソースコード内の主要なソフトウェア・セキュリティ脆弱性を検出し,排除できる高機能な静的アプリケーション・セキュリティ・テストです.

NTTコミュニケーションズfrom

NTT技術ジャーナル 2018.8 51

業内 ・ 企業間で必要とされる機能やコンポーネントなどの設計 ・ 構築を行うことにより,最適なサービスやインフラを提供することができる・ 利用者の業務や利用シーンを深く理解し,潜在的な要件までとらえて最適な設計 ・ 開発 ・ 構築 ・ 保守運用を実現できる・ 社内外 ・ 組織横断的なテクニカルリーダシップを発揮し,業務やビジネスプロセスを改革できる・ 国内外の最新技術動向や潮流を積極的に仕入れ,サービスに還流できる・ 技術のプロとして社内外の専門家 ・ ベンダとの信頼関係を構築し,そこから得られる情報 ・ 知識をビジネスに還元できる

ショーケース化

SKYの営みはNTT Com自身のデジタルトランスフォーメーションですが,お客さまのデジタルトランスフォーメーションへの貢献にもつなげたいと考えています.本施策の成果は,自社フォーラム,DevOps推進協議会(約

50社),itSMF(英国で1991年に非営利団体として設立された会員制フォーラム)(約110社),取材による社外への事例紹介,クラウドやソリューションなどの社外向けサービスにも展開し,ショーケース化も進めています.

今後の展開

「SKYステップアップイメージ」を図 4に示します.今後はシステムの開発高速化だけでなく,運用安定化,自動化,信頼性(可用性),利便性向上を重点課題として取り組み,NTT研究所やグループ会社との連携を強化します.また,社内外への利用展開も推進し,さらなる成長をさせたいと考えています.

◆問い合わせ先NTTコミュニケーションズ システム部 企画部門TEL 03-6700-9931FAX 03-3509-7582E-mail kikaku-sy ntt.com

サーバ,ネットワーク,ツール,セキュリティ等の基本機能提供完了今後(Season 2 ),機能拡充と利用拡大を加速

利用者目線

今後(Season 2 )<拡張機能提供>

Season 1 (~ 2018年 3 月)・基本機能提供

サーバ,ネットワーク,ツール,セキュリティ,監視運用等

利用者の希望を「素早く」かなえる

シンプル(簡単) 自動化 高信頼 利用拡大 育成

(1-1)サービスメニュー化

問合せ一元化

コンサル一元化

ネットワーク自動接続(内部)

サーバリソース(ECL)

監視

一次運用

認証

脆弱性診断

ポータル DevOpsツール(15) ・ソフトウェア管理 ・PJ管理 ・情報共有    :

コンテナ(将来)

AI

(2-3)ネットワーク自動接続(拡張)

(2-4)運用自動化

(2-1)ツール自動連携

(3-1)サーバリソース(他社クラウド)

(3-2)サーバリソース(DR拠点化)

(2-2)End-End監視

(2-6)リモートアクセス

(3-3)グループ会社利用(エメリオ,CW)

(2-5)認証拡張(ベンダ等) (4-1)開発者育成(社内)(内製等)

オペレータ開発者・運用者 システム利用者 外部ベンダ

ショーケース化

図 4  SKYステップアップイメージ