日本的比較広告が...

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中央大学商学部久保知一研究室第 3 期生卒業論文 1 日本的比較広告が 消費者購買意思決定プロセスに与える影響 武井俊也 中央大学商学部 久保知一研究室第 3 期生 E-mail: [email protected] 要約:比較広告は、欧米で盛んに行われているものの、実証研究が少なく、また日本 の国民性から日本に合わないともされている。そこで本論は日本に合う「日本的比較 広告」を定義し、さらに比較広告を受容した際の消費者の購買意思決定プロセスにつ いて解明し、その限界を示すことを目的とする。そこで、独自の ACA Model を構築し、 モデルの経験的妥当性を吟味する。また日本的比較広告・欧米的比較広告を対象とし て、それぞれのモデル (ACA –J ModelACA-EA Model) を構築する。本論では、分析 技法として多母集団の共分散構造分析を使用した。分析の結果、ACA Model の妥当性 が示されると共に、日本的比較広告と欧米的比較広告のそれぞれを受容した消費 者の特徴を新たに見出すことができた。本論は「日本的比較広告」の定義ならびに比 較広告を受容した消費者の購買意思決定プロセスを解明した点において今後の研究へ の貢献の大きい試みであったと言える。 キーワード:比較広告、Howard の消費者意思決定モデル、共分散構造分析、コ ーポレートレピュテーション、知覚リスク、知覚品質、ACA Model 1. はじめに 広告は企業が製品を宣伝する手段として必要不可欠である。また消費者にとっても日々生 活する中で欠かすことのできない情報源のひとつとなっている。そういった広告において近

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中央大学商学部久保知一研究室第 3 期生卒業論文

1

日本的比較広告が

消費者購買意思決定プロセスに与える影響

武井俊也

中央大学商学部 久保知一研究室第 3 期生

E-mail: [email protected]

要約:比較広告は、欧米で盛んに行われているものの、実証研究が少なく、また日本

の国民性から日本に合わないともされている。そこで本論は日本に合う「日本的比較

広告」を定義し、さらに比較広告を受容した際の消費者の購買意思決定プロセスにつ

いて解明し、その限界を示すことを目的とする。そこで、独自の ACA Model を構築し、

モデルの経験的妥当性を吟味する。また日本的比較広告・欧米的比較広告を対象とし

て、それぞれのモデル (ACA –J Model、ACA-EA Model) を構築する。本論では、分析

技法として多母集団の共分散構造分析を使用した。分析の結果、ACA Model の妥当性

が示されると共に、日本的比較広告と欧米的比較広告のそれぞれを受容した消費

者の特徴を新たに見出すことができた。本論は「日本的比較広告」の定義ならびに比

較広告を受容した消費者の購買意思決定プロセスを解明した点において今後の研究へ

の貢献の大きい試みであったと言える。

キーワード:比較広告、Howard の消費者意思決定モデル、共分散構造分析、コ

ーポレートレピュテーション、知覚リスク、知覚品質、ACA Model

1. はじめに

広告は企業が製品を宣伝する手段として必要不可欠である。また消費者にとっても日々生

活する中で欠かすことのできない情報源のひとつとなっている。そういった広告において近

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年、注目集めたものが2009年に行われたトヨタ自動車株式会社「プリウス (PRIUS)1」のカ

タログ広告である。これは、本田技研工業株式会社「インサイト (INSIGHT)2」を比較対象

とした比較広告であり、この広告に対し、業界内が騒然となった3。このように自社製品を

他社製品と比較して、その優位性を強調する手法の広告である比較広告は以前からアメリカ

を中心に盛んに行われていたが、日本では比較広告の表現が日本人の国民性4と背反する背

景や誹謗の恐れがあることから、具体的な相手を名指しするような行為は忌避され、事

実上の禁止状態にあった5。この状態に対し、外国製品の新規参入が阻害されるという外資

系企業の批判が相次ぎ、ついに1987年に公正取引委員会は比較広告促進のためのガイドライ

ン6を発表し、比較広告の事実上の解禁に踏み切った。その内容は (1) 主張する内容が客観

的に実証されている、(2) 実証されている数値が事実を正確、かつ適正に引用する、(3) 比

較の方法が公正である、という3つの条件を満たしていれば問題ないというものである。こ

のガイドラインによって日本において比較広告の実施可能な環境が整備されたといえる。

このように比較広告そのものが日本において歴史が浅いこともあり、実証的な研究は国内

でもほとんど見当たらない。さらに既述のように比較広告の表現自体が日本人の国民性と背

反する現状が存在する。この点において新たに研究を行う余地が存在すると考えられる。

本論は3つの研究目的を持つ。第1の目的は日本の風土・国民性に合う比較広告を「日本的

比較広告」として位置づけ、定義することである。第2の目的は消費者意思決定モデルを中

心に「コーポレートレピュテーション」、「知覚リスク」、「知覚品質」というオリジナル

の変数を加えた因果モデルを提唱し、「日本的比較広告」を受容した消費者の購買意図モデ

ルを構築することである。第3の目的は「日本的比較広告」と「欧米的比較広告」のそれぞ

れの広告を受容した消費者の購買意図モデルを比較し、それぞれの比較広告が与える影響の

違いを見出すことである。その意義は研究者のみならず、研究結果を反映させたプロモーシ

1 詳しくはトヨタ自動社株式会社 (TOYOTA) のウェブサイト (http://toyota.jp/prius/index.html) を参照されたい。 2 詳しくは本田技研工業株式会社 (Honda) のウェブサイト (http://www.honda.co.jp/INSIGHT/) を参照されたい。 3 詳しくは週刊ダイヤモンド・オンラインのウェブサイト内記事「業界騒然!ホンダ「インサイ

ト」をコケにするトヨタ「プリウス」の容赦ない“比較戦略”」

(http://diamond.jp/articles/-/764?page=2&action=login) を参照されたい(掲載日 2009 年 5 月 28 日、参照日

2011 年 1 月 21 日)。 4 欧米人は合理的であると言えるのに対し、日本人は感情的であるといえる (喜多川, 1983)。 5 自動車業界などで公正競争規約 (事業者団体が「不当な顧客の誘引を防止し、公正な競争を確保す

るため」に設定した自主的な業界のルール) に基づいて、他社製品との比較広告が禁止されていた。 6 1987 年 4 月 21 日に公正取引委員会は「比較広告についての景品表示法上の考え方」を発表した。

別名「比較広告ガイドライン」と呼ばれ、日本で比較広告を行うことは合法である旨を確認するもの

であった。

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

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ョン戦略を立てられる点で小売業者や製造業者にとっても大きいものと考えられる。

本論は以下のように構成される。まず、第 2 節においては先行研究のレビューを行う。具

体的にはまず、比較広告について紹介し、日本的比較広告の定義を行う。その後に消費者購

買意思決定プロセスについて検討する。第 3 節においては消費者意思決定モデル (Howard,

1989) を基本として「コーポレートレピュテーション」、「知覚リスク」、「知覚品質」を組み

込み、比較広告を受容した際の消費者購買意思決定プロセスを描きだすオリジナルのモデル

を構築し、仮説を提唱する。理論分析に続いて行われるのは実証分析である。第 4 節では調

査方法に言及し、第 5 節では、構造方程式モデルの分析結果を検討する。さらに「日本的比

較広告」、「欧米的比較広告」を対象としてモデルの構築ならびに分析を行う。最終節ではこ

の分析結果の考察を行い、本研究の限界および今後の研究課題に言及し、次なる研究への橋

渡しを行う。

2. 先行研究のレビュー

「日本的比較広告」を受容した消費者の購買意思決定モデルを構築するために、比較広告

の現状の紹介、さらに「日本的比較広告」の定義を行う。加えて比較広告が消費者行動に与

える影響に関する研究、および消費者の選択行動モデル (Howard の消費者意思決定モデル)

のレビューを行う。

○日本における比較広告の現状の紹介

比較広告とは、他ブランドと、その競合会社のブランド名やイラストまたは他の顕著な

特徴情報を明示しながら、客観的に測定できる特徴や値段についての比較を行う広告であ

る(Federal Trade Commission, 1979)。特にこの FTC の定義する比較広告は、明示型比較広告

(DCA: Direct Comparative Advertising) と呼ばれ、欧米で盛んに行われている。

濱 (1991) によると、比較広告は従来の広告に比べ、広告を行った企業ならびに当該製品

への信頼や好感といったイメージを引き下げるが、一方で広告そのものは目立ち消費者の

興味をひく要素があると指摘している。

このような特徴を持つ比較広告は日本においては「他社の製品・サービスと直接比較して

当該企業の優位性をアピールするために有効であっても、日本では社会風土に馴染まない」

という意見や、「実際にはまだ少なく、欧米の同業他社がしのぎを削るような市場で見られ

る方法である」との意見も存在する (有賀・棟方・澤・田中, 1997)。

また、日本で明示型比較広告が受け入れられない理由として兼平 (2000) は 3 点挙げてい

る。第一は、比較広告ガイドラインに記載された実証済みの数値や事実を正確かつ適正に引

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用することが難しいため、テレビ向きではない、という理由である。第二は「比較広告=競

合他社を悪く言う広告」という思い込みが存在する中で「競合ブランド」をそのまま表現す

ることに日本のテレビはためらう、という理由である。第三は企業が自主的に規制をかけて

いるという理由である。また、稲垣・松木 (1994) も同様に日本人の国民性に適した独自の

比較広告の展開を図ることが必要であろうと指摘している。

このように 1987 年に比較広告を行う環境が整備された以降も明示型比較広告については

定着していない。そこで日本で比較広告を行う際は、日本に合う比較広告を探り、「日本的

比較広告」として定義していく必要がある。

○本論における「比較広告」の定義

そこでまず、欧米的比較広告を示す FTC の定義とは異なる、より包括的な「比較広告」

の定義を行う。小林 (1977) は広告主が競争企業の企業名または商品名を明かすか暗示して、

またはときには(比較対照が自社の他の既存商品の場合は)比較対照となる自社の他の商品

を示し、所定の比較基準または比較商品属性から、「自社の広告商品」と「競争企業の比較

対照商品または自社の他の商品」とを比較し説明するという形式をとりながら、広告商品の

相違点(優位性)を訴える広告が比較広告であると主張している。さらに、比較形式の広告

または比較形式的と見られる広告であっても、比較対照物と比較属性の両面がまったく示さ

れていないような広告は比較広告には含まない、としている。本論においてはこの小林の定

義を「比較広告」として捉えていく。

○「日本的比較広告」の定義

山口 (1993) は明示型比較広告 (DCA) と類似した比較広告として、相手を指名して比較

する広告である「指名型比較広告」について述べている。その一方で、比較相手を具体的に

記載せずに比較する広告として「無指名型比較広告」についても挙げている。

既述のように兼平 (2000) は、明示型比較広告が日本で受け入れられない理由のひとつと

して「競合ブランド」をそのまま表現することを日本のテレビがためらうという現状を挙げ

ている。しかし、この「無指名型比較広告」は比較相手を具体的に記載せずに比較するとい

う特徴からその現状を打開することができる広告であると考えられる。

さらに無指名型比較広告の種類として、いちばん比較型7、暗示比較型8、これだけ比較型9

7 いちばん比較型とは、相手を特定して名前を出さないが、「いちばん」という言葉を使うことによ

ってはっきりとライバルの製品やサービスとの比較を行う広告である (山口, 1993)。 8 暗示比較型とは、相手を特定して名前を出さないが、消費者がライバルの製品やサービスを想像で

きる広告である (山口, 1993)。ブランド X 型もその例のひとつである。

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という 3 つの型が挙げられている。この中でも、とくに注目すべきは「暗示比較型」である。

Goodwin & Etgar (1980) は、ブランド X 型の比較広告 (上記の「暗示比較型」と同様) は商

品に対する評価において他社ブランドとの比較を行わない従来広告や名指し型比較広告

(欧米的比較広告) よりも効果的である10と指摘している。

また、Mueller (1987) は、日米間の広告表現について比較したところ、アメリカでは論旨

が明快でブランド名と製品特徴を強調する hard-sell 広告が主流なのに対し、日本では雰囲気

や情緒を訴求する soft-sell 広告が多いことを指摘している。こうした研究から日本では主張

の柔らかい広告が受け入れられる傾向があると考えられる。

そこで本論において「無指名型比較広告」かつ「暗示比較型 (ブランド X 型)」である比較

広告を「日本的比較広告」として定義する。

○比較広告に関する研究

石橋・中谷内 (1991) は、日本における比較広告の研究はほとんどなく、アメリカにおい

ても実証研究の比率が低いことを指摘している。そしてその実証研究も比較広告についての

仮説を理論的に設定し、それも実証的に扱ったものはそれ程多くない、とも主張している。

実際に欧米における先行研究を見ていくと、比較広告についての代表的な研究としては

Wilkie & Farris (1975) と Greyser (1975) が挙げられる。Wilkie & Farris (1975) は比較広告の

特徴として (1) 受け手の注目を集める、(2) ブランドの知識を効率よく伝える、(3) 信頼性

が高い、という利点と共に (4) 消費者からの反論が増加する可能性がある、と指摘している。

また、Greyser (1975) は広告業界における経験則をまとめ、比較広告が肯定的効果をもたら

すために、(1) 自社製品が固有の利点をもっていること (2) 競合銘柄が自社銘柄よりも市場

で強いこと (3) 銘柄ロイヤリティの低い消費者が多数いること (4) 主婦の判断を真っ向か

ら批判しないこと、以上の 4 条件が満たされない限り、比較広告は行うべきではなく、特に

市場のリーダーは比較広告をすべきではない、と指摘している。

その他にも Goodwin & Etgar (1980) をはじめ、多くの研究や考察がなされてきたが、アメ

リカにおける比較広告についての実証研究は比較広告の真新しさがなくなってしまったこ

とや広告という研究対象の広さを原因に、混沌としているとの指摘がある (石橋, 中谷内,

1991)。

近年の日本においては石橋・中谷内 (1991)、濱 (1991) をはじめ、比較広告と非比較広告

9 これだけ比較型とは、相手を特定して名前を出さないが、「これだけ」という表現を使用すること

で比較を行う広告である (山口, 1993)。 10 Goodwin & Etgar (1980) は、広告内容そのものに対する理解の程度という限られた指標についての

みであるが、比較広告は非比較広告よりに比べて良い反応が得られたと指摘している。

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の効果の違いを明らかにする研究や企業・ブランド (商品) イメージ11との関連の研究に焦

点を当てた研究が多く、消費者が比較広告の情報を受容した際の購買意思決定プロセスを導

く研究は存在しない。

そこで本論は比較広告を受容した際の消費者の購買意思決定プロセスについて焦点を当

て、解明していく。

○Howard の消費者意思決定モデル

消費者意思決定プロセスを解明するにあたり、代表的な研究のひとつとして Howard の消

費者意思決定モデルが挙げられる。このモデルは、Howard-Sheth モデルに代表される刺激―

反応型モデルに情報処理研究での成果を加えて、刺激―反応型モデルの再評価を試みたモデ

ルである (Howard, 1989)。

図 1 Howard の消費者意思決定モデル

このモデルでは消費者は外部から刺激 (情報) を受け、その刺激をもとにブランド認識や

態度形成、確信を行う。このプロセスには 2 つのルートが存在し、ブランド認識から態度や

確信が形成されるルート、情報を得て、そこから直接態度や確信に至るルートが考慮されて

いる。情報とは外部からの刺激の程度である。ブランド認識とは与えられたブランドをカテ

ゴリー分けする際に、他ブランドと区別するために持つ当該ブランドの物理的属性に対する

認識の程度である。確信とは当該ブランドに対して下す判断の確信度合いである。態度とは、

当該ブランドに対して抱く期待の度合いである。

本論は比較広告による情報を受容した消費者の購買意思決定プロセスを解明することを

11 濱 (1991) において「イメージ」は「良さ」、「信頼度」、「好感度」の 3 項目によって構成されてい

る。

情報

態度

ブランド認識 購買意図

確信

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

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目的に提起していることから、このモデルをベースに研究を進めていく。

3. モデル構築および仮説の提唱

本節では、「日本的比較広告」を受容した消費者の購買意思決定プロセスを解明するにあ

たり、比較広告を受容した消費者の意思決定プロセスを解明するオリジナルのモデルを構築

する。そのために、まず Howard (1989) の消費者意思決定モデルを基本として「コーポレー

トレピュテーション」、「知覚リスク」、「知覚品質」について検討する。

○Howard の消費者意思決定モデルより仮説の提唱

まず、第 2 節でレビューした Howard の消費者意思決定モデルの概念を変換する。本論が

研究対象とするのは比較広告であり、モデル内の「情報」が示す外部からの刺激を具体的に

特定し、「比較広告による情報」として位置づける。さらに「ブランド認識」は既述のよう

に当該ブランドの物理的属性に対する認識であるため、後に新たに加える「知覚品質」に変

換する。

また、消費者意思決定モデルにおいて、情報から態度への影響について正の相関関係があ

るとされている。しかし、Wilkie & Farris (1975) が指摘するように、比較広告によって消費

者からの反論が増加する可能性がある。このように各消費者によって比較広告を見た際に当

該ブランドに対して抱く好意は異なると考えられる。そのため、モデル構築にあたり、情報

から態度への直接の影響はないものとする。

また、情報から確信へと影響を与えるプロセスについて考える。まず、比較広告による情

報が「知覚品質」に影響を与える。そして「知覚品質」は、物理的属性に対する評価として

の「確信」へと影響を与えると考えられる。そのため、モデル構築にあたり、情報から確信

への直接の影響はないものとする。

よって本論において Howard の消費者意思決定プロセスより直接、抽出するのは以下の 2

つの仮説である。

H1:態度は購買意図に正の影響を与える。

H2:確信は購買意図に正の影響を与える。

○コーポレートレピュテーション

つづいてコーポレートレピュテーション (Corporate Reputation: CR) について考察する。一

般にコーポレートレピュテーションは、企業の評判と訳される。具体的な定義として

Fombrun & Van Riel (2004) は、コーポレートレピュテーションはその企業が価値のある成果

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を生み出す能力をもっているかどうかに関して、その企業の活動に利害関係を持つ人々が抱

いているイメージ12の集積であると定義している。

このコーポレートレピュテーションをモデルに組み込むにあたり、混同されやすい類似概

念であるブランド、イメージ、アイデンティティとの違いを明らかにする必要がある。コー

ポレートレピュテーションは、「焼き印をつけること」を意味するブランドよりも広い概念

である (蒋, 2008)。さらにコーポレートレピュテーションは、イメージ、アイデンティティ13

を基礎的構成要素としている (Fombrun & Van Riel, 1997) 。

Wilkie & Farris (1975) は比較広告の特徴のひとつとして消費者からの反感が増加する可能

性があると指摘している。また同様に石橋・中谷内 (1991) は、比較広告は受け手の注目を

集めるが、反感を招き、広告主のブランドイメージを悪くさせることを明らかにしている。

かくして、比較広告による情報は、イメージを構成要素として含むコーポレートレピュテー

ションを下げると考えられる。また、同様にコーポレートレピュテーションはイメージを構

成要素とするため、コーポレートレピュテーションが高ければその企業が抱える製品に対し

てより好意的な態度が形成されると考えられる。ゆえに以下の仮説が導かれる。

H3:情報はコーポレートレピュテーションへ負の影響を与える。

H4:コーポレートレピュテーションは態度へ正の影響を与える。

○知覚リスク

つづいて、知覚リスクについて考察する。知覚リスク14とは Bauer (1960) により提唱され

た概念である。この概念を、中村 (2003) は「人々の主観に基づく危険性評価」と定義して

いる。

Wilkie & Farris (1975) は比較広告の特徴のひとつとして客観的に実証された事柄について

しか比較広告の内容に含めてはいけないという規制が存在するため、信頼性が高いと指摘し

ている。さらに朝日新聞の広告モニター調査 (1992) では比較広告に対して「その商品特徴

がわかってよい」という意見が 85.7%を占めるなど、比較広告による情報が商品特徴を明ら

12 Fombrun & Van Riel (1997) は、イメージとはある企業の外部者がその企業に対して持っている印象

や理解であると指摘している。 13 Fombrun & Van Riel (1997) は、アイデンティティとは企業の内部者である従業員と経営者がもって

いる企業の本質、他の企業と差別化させる上での中核となる個性であると指摘している。 14 Bettman (1974) によれば、知覚リスクとは、「固有のリスク (inherent risk)」 と「処理されたリスク (handled risk)」の構成概念である。固有のリスクとは、消費者が製品クラスに対して抱く潜在的なリ

スクであり、処理されたリスクとは、消費者が通常の購買状況で製品クラスからブランドを選択する

際に招くコンフリクトの大きさである。この知覚リスクという概念は、Bauer (1967) によって、マー

ケティング研究に応用された。

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

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かにすることで、消費者の購買に対する知覚リスクを軽減させると考えられる。

また、Bettman (1974) は知覚リスクについて、消費者は態度に影響を与えていることを指

摘している。知覚リスクが低下すれば当該製品に対してより好意的な態度が形成されると考

えられる。ゆえに以下の仮説が導かれる。

H5:情報は知覚リスクへ負の影響を与える。

H6:知覚リスクは態度へ負の影響を与える。

○知覚品質

つづいて知覚品質について考察する。Holbrook (1981) は商品の属性情報はその消費者の

知覚という媒介効果を受け、消費者の態度を形成すると指摘している。また Zeithaml (1988)

は製品属性情報の手がかりから推測された知覚品質は、製品の知覚価値を高め、知覚価値を

経て購買に至るものと述べている15。

さらに既述のように本論は、「知覚品質」をモデルに組み込むにあたり、「ブランド認識」

を変換したものとして扱う。そのため、確信を抱くプロセスとしては、まず、比較広告によ

る情報が「知覚品質」に影響を与える。そして、「知覚品質」は、物理的属性に対する評価

としての「確信」へと影響を与えると考えられる。そのため、知覚品質が高まれば、確信も

高まると考えられる。ゆえに以下の仮説が導かれる。

H7:情報は知覚品質へ正の影響を与える。

H8:知覚品質は態度へ正の影響を与える。

H9:知覚品質は確信へ正の影響を与える。

ここまでに提唱された仮説を図 2 に示す構造方程式モデルとして表現する。本論ではこの

モデルを ACA モデル (Acceptance of Comparative Advertising model) とし、実証分析を行うこ

とで、仮説の経験的妥当性をテストする。

15 Zeithaml (1988) によれば、消費者の製品に対する知覚品質は、実際の具体的品質とは異なっており、

製品の具体的属性が抽象化されてとらえられており、もっと抽象的な上位概念レベルにあるとされて

いる。

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図 2 ACA モデル

4. 調査方法

本論では、先に導出した理論モデルの経験的妥当性をテストするために、質問票調査を行

った。調査対象には、学生のみならず一般消費者を選択した。測定尺度の作成にあたっては、

「比較広告による情報」と「コーポレートレピュテーション」は独自に開発し、「知覚リス

ク」は中村 (2003)、「知覚品質」は Jin & Suh (2005)、「態度」、「確信」、「購買意図」は、Howard

(1988) を参考にして開発した。本調査を行う前に、プリテスト (n=21) を行い、質問文のさ

らなる検討を行った。同時に調査対象となる財の検討も行い、対象となる一般消費者が答え

やすい最寄品として、最終的に「炭酸飲料」と「歯磨き粉」が採用された。紙面には具体的

に財をイメージしてもらうことを目的に、製品のデータを掲載した。今回は炭酸飲料につい

ては、日本コカ・コーラ株式会社「コカ・コーラ16」を採用し、歯磨き粉については、花王

株式会社「クリアクリーン17」を採用した。

また調査に際し、場面想定法を採用した。場面想定法とはあるシナリオで描写された場面

の中に回答者自身がいると想定して、その場面での自分の認知、感情、行動などを推測して

回答してもらう調査方法であり、回答者がシナリオから想像して評価してもらうため、シナ

リオを複数用意することでたくさんの状況や条件について回答が得られるという長所があ

る。この手法は広告を見てもらい回答してもらう本調査において適していると考えられる。

具体的には 1 つの財に対し、日本的比較広告と欧米的比較広告の 2 パターンを例示し、それ

16 質問票の作成にあたり、日本コカ・コーラ株式会社のウェブサイト

(http://www.cocacola.co.jp/products/pop.html) を参照した。 17 質問票の作成にあたり、花王株式会社のウェブサイト (http://www.kao.com/jp/clearclean/index.html)を参照した。

購買意図

(+)

(+)

(-)

(+)

(+)

(+)

(-)

(+)

(-)

コーポレート レピュテーション

比較広告による 情報

知覚品質

知覚リスク

確信

態度

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

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ぞれに回答してもらう形をとった。本質問票には 2 つの財を採用している関係上、1 人の回

答者に 4 つの広告に回答してもらった。なお、質問文に関しては全て同一である。

清水 (2006) は消費者の代表性という意味で疑問の残る学生をサンプルとして得られた結

果では、マーケティング戦略の応用は難しいことを指摘している。そこで本調査は関東(埼

玉・東京・群馬・千葉)に住む学生のみならず、社会人に個別に協力を依頼する形式で行わ

れた。このようにすることで、対象を学生というカテゴリーを超えてより一般消費者に近い

サンプル採集に努めた。このような内容で調査を行ったところ、回収数 120 であった。欠損

値のあるものや著しく回答に隔たりがあるもの18を除くと、有効回答数 116、有効回答率

96.7%を得た。

日本的比較広告の作成に際し、日本コカ・コーラ株式会社「綾鷹19」を参考にした。また

同様に欧米的比較広告の作成に際しても、データに関しては、日本的比較広告との違いによ

る影響が出ないように参考にして作成した。

5. 分析結果

○ACA モデルについての検討

図 2 に示された ACA モデルを、統計ソフト SPSS Inc PASW Statistics 18 および Amos 18 を

用いて共分散構造分析によって経験的にテストした。まず、信頼性分析を行ったところ、ク

ロンバックの係数は以下の表 1 のような結果になった。

妥当性のチェックのため、確認的因子分析が行われた。2値は 1009.074 で、自由度は 110、

有意確率は.000 であった。適合度指標 GFI および自由度調整適合度指標 AGFI は、それぞ

れ.793 および.712 となり、モデルの適合度は低い値を示している。さらに推奨値が.10 以下

とされる平均二乗誤差平方根 RMSEA は.133 となり、このデータはモデルに適合していない

という結果になってしまった。モデルの適合度ならびにデータのモデルへの適合度は既存研

究の推奨値をわずかに満たさないが、その点を考慮しつつ解釈を行うこととする。

つづいて、構造方程式を共分散構造分析によって推定した。まず、このモデルの全体的評

価を行う。2値は 651.704 で、自由度は 110、有意確率は.000 であった。適合度指標 GFI お

よび自由度調整適合度指標 AGFI は、各々.865 および.812 となっている。先ほどの確認的因

子分析同様に、モデルの適合度は、既存研究の推奨値をわずかに満たさないが、その点を考

慮しつつ解釈を行うこととする。

18 たとえば、回答が全て 1 である質問票のことである。 19 質問票の作成にあたり、日本コカ・コーラ株式会社のウェブサイト (http://ayataka.jp/) を参照した。

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武井 俊也

12

表 1 構造方程式モデルの推定結果 (ACA‐EA モデル)

潜在変数 観測変数 (質問項目 : 1-5 の 5 点尺度で測定) クロンバック

の係数

(比較広告によ

る)情報

広告○によって私は●●に対して理解できたと感じる

.815広告○の情報はわかりやすいと感じる

広告○の情報は信頼できるものだと感じる

コーポレート

レピュテーション

広告○を行う△△ (企業) のイメージを良いと感じる

.889

広告○を行う△△ (企業) としての活動は評価できる

と感じる

広告○を行う△△ (企業) の行動とイメージは合致し

ていると感じる

知覚リスク ●●にお金を使うことは賢いこととは思わない

.834●●を買うことは、不快だと思う

知覚品質 他の▲▲に比べて私は●●の品質が高いと感じる

.913他の▲▲に比べて●●は高品質な商品であると感じる

態度

●●を買う時、良い買い物をしたと感じる

.908●●を買うことは自分にとって望ましい

●●を買うことは私のニーズを満たしてくれる

確信

●●は私にとって自信を持って購入できる商品である

と感じる .871

●●を他人に勧めてもよいと感じる

購買意図 私は店頭で見つけたら購買したいと思う

.904私は今後も●●を買いたいと思う

(注) ○には広告の番号、●●には対象製品名、△△には対象製品を取り扱う企業名、

▲▲には対象製品のカテゴリー名が入る。

以下に広告番号と連動した詳細について記載。

日本的比較広告:①コカ・コーラ:日本コカ・コーラ株式会社:炭酸飲料

欧米的比較広告:②コカ・コーラ:日本コカ・コーラ株式会社:炭酸飲料

日本的比較広告:③クリアクリーン:花王株式会社:歯磨き粉

欧米的比較広告:④クリアクリーン:花王株式会社:歯磨き粉

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

13

一方、推奨値が.10 以下とされる平均二乗誤差平方根 RMSEA は.103 となっており、デー

タがこのモデルへわずかに適合していないということが示された。

次に、モデルの部分的評価を行う。態度は、購買意図に正の影響を与えていた (=.586,

t=15.478, p<0.01)。これは、仮説 1 を支持する結果である。次に、確信は、購買意図に正の

影響を与えていた (=.497, t=13.554, p<0.01)。これは、仮説 2 を支持する結果である。次に、

比較広告による情報は、コーポレートレピュテーションに正の影響を与えていた (=.315,

t=5.810, p<0.01)。これは、仮説 3 を棄却する結果である。これは比較広告の特徴であるデー

タの明示性が消費者の情報に対する理解・信頼へとつながり20、結果としてコーポレートレ

ピュテーションを高める結果へとつながったと考えられる。したがって比較広告による情報

はコーポレートレピュテーションに正の影響を与えたと考えられる。次に、コーポレートレ

ピュテーションは、態度に正の影響を与えていた (=.082, t=1.981, p<0.05)。これは仮説 4 を

支持する結果である。次に、比較広告による情報は、知覚リスクに負の影響を与えていた (=

-.185, t= -3.598, p<0.01)。これは、仮説 5 を支持する結果である。次に、知覚リスクは、態度

に負の影響を与えていた (= -.161, t= -3.357, p<0.01)。これは、仮説 6 を支持する結果である。

次に、比較広告による情報は、知覚品質に正の影響を与えていた (=.531, t=9.780, p<0.01)。

これは、仮説 7 を支持する結果である。次に、知覚品質は、態度に正の影響を与えていた

(=.602, t=13.045, p<0.01)。これは、仮説 8 を支持する結果である。次に、知覚品質は、確信

図 3 ACA Model 分析結果 (n=464)

20 Goodwin & Etgar (1980) を参照されたい。

態度

購買意図

.586**

コーポレート レピュテーション

比較広告による 情報

知覚品質

知覚リスク

確信 .497**

.315**

.082*

-.185**

-.161**

.531** .602**

.680**

2=651.704 (d.f.=110), p<0.01

GFI= .865, AGFI= .813, RMSEA= .103* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意

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武井 俊也

14

表 2 構造方程式モデルの推定結果

H1 態度 → 購買意図 (+) .586 15.478**

H2 確信 → 購買意図 (+) .497 13.554**

H3 比較広告による情報 → コーポレート

レピュテーション(+) .315 5.810**

H4 コーポレート

レピュテーション → 態度 (+) .082 1.981 *

H5 比較広告による情報 → 知覚リスク (-) -.185 -3.598**

H6 知覚リスク → 態度 (-) -.161 -3.357**

H7 比較広告による情報 → 知覚品質 (+) .531 9.780**

H8 知覚品質 → 態度 (+) .602 13.045**

H9 知覚品質 → 確信 (+) .680 15.161**

* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意

に正の影響を与えていた (=.680, t=15.161, p<0.01)。これは、仮説 9 を支持する結果である。

分析結果は図 3 および表 2 に示されている。

以上の分析から購買意図形成に影響を与えるルートについて考える。購買意図に影響を与

える態度 (=.586) 、確信 (=.497) の変数のうち、態度がより強い影響を与え、態度に影響

を与えるコーポレートレピュテーション (=.082) 、知覚リスク (= -.161)、知覚品質

(=.602) の変数のうち、知覚品質の方が強い影響を与えていた。このことから、間接的では

あるが、比較広告によって影響を受けた知覚品質がもっとも購買意図形成に影響を与えると

考えられる。

以上の分析から得た ACA モデルをベースに、本論の第 3 の目的である「日本的比較広告」、

「欧米的比較広告」のそれぞれを対象とした新たなモデルを構築する。

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

15

○日本的比較広告モデルについての検討

つづいて ACA モデルについて日本的比較広告のみを対象 (n=232) として統計ソフト

SPSS Inc PASW Statistics 18 および Amos 18 を用いて共分散構造分析によって経験的にテス

トし、ACA-J Model (Acceptance of Comparative Advertising in Japan model) を作成する。

構造方程式を共分散構造分析によって推定した。このモデルの全体的評価を行う。2値は

350.490 で、自由度は 110、有意確率は.000 であった。適合度指標 GFI および自由度調整適

合度指標 AGFI は、それぞれ.868 および.817 となっている。モデルの適合度に関しては基準

値に多少達していないものの、推奨値が.10 以下とされる平均二乗誤差平方根 RMSEA は.097

となっており、データがこのモデルへ適合していることが示された。

次に、モデルの部分的評価を行う。態度は、購買意図に正の影響を与えていた (=.711,

t=11.743, p<0.01)。これは、仮説 1 を支持する結果である。次に、確信は、購買意図に正の影

響を与えていた (=.373, t=6.937, p<0.01)。これは、仮説 2 を支持する結果である。次に、比

較広告による情報は、コーポレートレピュテーションに ACA モデルと同様に正の影響を与

えていた (=.616, t=7.659, p<0.01)。これは、仮説 3 は棄却された。既述のようにこれは比較

広告の特徴であるデータの明示性が消費者の情報に対する理解・信頼へとつながり、結果と

してコーポレートレピュテーションを高める結果へとつながったと考えられる。したがって

比較広告による情報はコーポレートレピュテーションに正の影響を与えたと考えられる。次

に、コーポレートレピュテーションは、態度に正の影響を与えていた (=.201, t=3.093,

p<0.05)。これは仮説 4 を支持する結果である。次に、比較広告による情報は、知覚リスクに

有意かつ負の影響は与えておらず (= -.069, t= -0.995, p>0.05) 、仮説 5 は棄却された。これ

は日本的比較広告として取り扱ったブランド X 型の比較広告では比較対象を明示しない関

係上、具体的な他社との相対的な比較を行えず、直接的に知覚リスクに影響を与えるに値し

ないためであると考えられる。次に、知覚リスクは、態度に負の影響を与えていた (=-.215,

t=-2.529, p<0.05)。これは、仮説 6 を支持する結果である。次に、比較広告による情報は、知

覚品質に正の影響を与えていた (=.482, t=6.449, p<0.01)。これは、仮説 7 を支持する結果で

ある。次に、知覚品質は、態度に正の影響を与えていた (=.492, t=7.334, p<0.01)。これは、

仮説 8 を支持する結果である。次に、知覚品質は、確信に正の影響を与えていた (=.657,

t=9.802, p<0.01)。これは、仮説 9 を支持する結果である。分析結果は表 3 および図 4 に示さ

れている。

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表 3 構造方程式モデルの推定結果 (ACA-J モデル)

H1 態度 → 購買意図 (+) .711 11.743**

H2 確信 → 購買意図 (+) .373 6.937**

H3 比較広告による情報 → コーポレート

レピュテーション(+) .616 7.659**

H4 コーポレート

レピュテーション → 態度 (+) .201 3.093*

H5 比較広告による情報 → 知覚リスク (-) -.069 -0.995

H6 知覚リスク → 態度 (-) -.215 -2.529*

H7 比較広告による情報 → 知覚品質 (+) .482 6.449**

H8 知覚品質 → 態度 (+) .492 7.334**

H9 知覚品質 → 確信 (+) .657 9.802**

* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意

仮説 5 の棄却を受け、モデルより削除する。さらに仮説には提唱していないものの、比較

広告による情報から間接的に影響を受ける形で知覚リスクを経て態度、購買意図に影響を与

える、コーポレートレピュテーションと知覚リスク間の因果関係を新たに挿入してモデルを

分析してみた。その結果が図 5 である。興味深いことに、コーポレートレピュテーションは

知覚リスクに対して有意かつ負の影響を与えている (= -.153, t= -2.051, p<0.05)。これは企業

に対する評価の高さが当該製品への信頼を招き、知覚リスクを引き下げるためと考えられる。

本論では図 5 に示すこの修正型 ACA-J モデルを日本的比較広告の最終モデルとして提示

する。

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

17

図 4 ACA-J Model 分析結果 (n=232)

図 5 修正型 ACA-J Model 分析結果 (n=232)

○欧米型比較広告モデルについての検討

つづいて ACA モデルについて欧米的比較広告のみを対象 (n=232) として統計ソフト

SPSS Inc PASW Statistics 18 および Amos 18 を用いて共分散構造分析によって経験的にテス

トし、ACC-EA Model (Acceptance of Comparative Advertising in Europe and America model) を

態度

購買意図

.714**

コーポレート レピュテーション

比較広告による 情報

知覚品質

知覚リスク

確信 .371**

.613**

.193**

-.226**

.479** .490**

.657**

2=347.722 (d. f. =110), p<0.01

GFI= .871, AGFI= .820, RMSEA= .097* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意。

実線: 有意、太線: 新たに追加

-.153*

態度

購買意図

.711**

コーポレート レピュテーション

比較広告による 情報

知覚品質

知覚リスク

確信 .373**

.616**

.201*

-.069

-.215*

.531** .492**

.657**

2=350.490 (d. f. =110), p<0.01

GFI= .868, AGFI= .817, RMSEA= .097* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意。

実線: 有意、破線: 非有意。

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武井 俊也

18

作成する。

構造方程式を共分散構造分析によって推定した。このモデルの全体的評価を行う。2値は

356.523 で、自由度は 110、有意確率は.000 であった。適合度指標 GFI および自由度調整適

合度指標 AGFI は、各々.854 および.797 となっている。モデルの適合度に関しては基準値に

多少達していないものの、推奨値が.10 以下とされる平均二乗誤差平方根 RMSEA は.098 と

なっており、データがこのモデルへ適合していることが示された。

次に、モデルの部分的評価を行う。態度は、購買意図に正の影響を与えていた (=.494,

t=10.240, p<0.01)。これは、仮説 1 を支持する結果である。次に、確信は、購買意図に正の

影響を与えていた (=.569, t=11.861, p<0.01)。これは、仮説 2 を支持する結果である。次に、

比較広告による情報は、コーポレートレピュテーションに ACA モデルと同様に正の影響を

与えていた (=.446, t=5.736, p<0.01)。これは、仮説 3 を棄却する結果である。既述のように

これは比較広告の特徴であるデータの明示性が消費者の情報に対する理解・信頼へとつなが

り、結果としてコーポレートレピュテーションを高める結果へとつながったと考えられる。

したがって比較広告による情報はコーポレートレピュテーションに正の影響を与えたと考

えられる。次に、コーポレートレピュテーションは、態度に有意かつ正の影響を与えておら

ず (= -.028, t= -0.492, p>0.05) 、仮説 4 を棄却する結果である。これは欧米的比較広告とし

て取り扱った明示的比較広告の具体的な他社比較が当該製品に対する好意的な態度へ直接

的な影響を与えなかったためであると考えられる。次に、比較広告による情報は、知覚リス

クに負の影響を与えていた (= -.404, t= -5.131, p<0.01)。これは、仮説 5 を支持する結果であ

る。次に、知覚リスクは、態度に負の影響を与えていた (= -.123, t= -2.079, p<0.05)。これは、

仮説 6 を支持する結果である。次に、比較広告による情報は、知覚品質に正の影響を与えて

いた (=.612, t=7.946, p<0.01)。これは、仮説 7 を支持する結果である。次に、知覚品質は、

態度に正の影響を与えていた (=.686, t=10.408, p<0.01)。これは、仮説 8 を支持する結果で

ある。次に、知覚品質は、確信に正の影響を与えていた (=.706, t=11.850, p<0.01)。これは、

仮説 9 を支持する結果である。分析結果は表 4 および図 6 に示されている。

仮説 4 の棄却を受け、モデルより削除する。さらに仮説には提唱していないものの、コー

ポレートレピュテーションを経て態度、購買意図に影響を与える、コーポレートレピュテー

ションと知覚リスク間の因果関係を新たに挿入してモデルを分析してみた。その結果が図 7

である。興味深いことに、コーポレートレピュテーションは知覚リスクに対して有意かつ負

の影響を与えている (= -.343, t= -4.101, p<0.01)。既述のようにこれは企業に対する評価の高

さが当該製品への信頼を招き、知覚リスクを引き下げるためと考えられる。本論では図 7 に

示すこの修正型 ACA-EA モデルを欧米的比較広告の最終モデルとして提示する。

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

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表 4 構造方程式モデルの推定結果 (ACA‐EA モデル)

H1 態度 → 購買意図 (+) .494 11.743**

H2 確信 → 購買意図 (+) .569 11.861**

H3 比較広告による情報 → コーポレート

レピュテーション(+) .446 5.736**

H4 コーポレート

レピュテーション → 態度 (+) -.028 -0.492

H5 比較広告による情報 → 知覚リスク (-) -.404 -5.131**

H6 知覚リスク → 態度 (-) -.123 -2.079*

H7 比較広告による情報 → 知覚品質 (+) .612 7.946**

H8 知覚品質 → 態度 (+) .686 10.240**

H9 知覚品質 → 確信 (+) .706 11.850**

* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意

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20

図 6 ACA-EA Model 分析結果 (n=232)

図 7 修正型 ACA-EA Model 分析結果 (n=232)

6. 本論の知見と今後の課題

近年、国内景気の低迷などを原因に企業の広告費は減少傾向にあり、加えてテレビ・新聞・

雑誌・ラジオの 4 媒体の広告収入が減少する中で、効果的な広告への投資が求められている。

そこで、比較広告がいかに消費者の購買意思決定プロセスに影響するかを解明することは、

態度

購買意図

.495**

コーポレート レピュテーション

比較広告による 情報

知覚品質

知覚リスク

確信 .570**

.416**

-.199*

-.128*

.591** .679**

.702**

2=341.707 (d. f. =110), p<0.01

GFI= .866, AGFI= .814, RMSEA= .095* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意。

実線: 有意、太線: 新たに追加

-.343*

態度

購買意図

.494**

コーポレート レピュテーション

比較広告による 情報

知覚品質

知覚リスク

確信 .569**

.446**

-.028

-.404**

-.123*

.612** .686**

.706**

2=356.523 (d. f. =110), p<0.01

GFI= .854, AGFI= .797, RMSEA= .098* : 5%水準で有意、** : 1%水準で有意。

実線: 有意、破線: 非有意。

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

21

その効果の検証・把握を行う上で、今後さらに重要性を増すであろう。また、日本に合う比

較広告として日本的比較広告を定義し、研究を進めたことも十分に価値が高いと言えるであ

ろう。

本論は Howard の消費者意思決定モデルを援用し、さらに新たに「コーポレートレピュテ

ーション」、「知覚リスク」、「知覚品質」をオリジナルの変数として加えた因果モデルを提唱

し、比較広告を受容した際の消費者購買意思決定プロセスを解明しようと試みてきた。

構築されたモデルは、一般消費者を対象としたアンケートから得られたデータを用い、構

造方程式モデルによって経験的にテストに付された。さらに ACA モデルの確定後、「日本的

比較広告」、「欧米的比較広告」それぞれを対象として再度、構造方程式モデルによって経験

的にテストに付された。

○分析結果からの考察

分析結果が示すこととして(1) ACA-J モデル、(2) ACA-EA モデル、(3) ACA-J モデル・

ACA-EA モデルの比較の 3 点から考察を行う。

(1) ACA-J モデルにおける考察

ACA-J モデルにおいては、日本的比較広告による情報から知覚リスクへ負の影響を与える

という仮説が棄却されたことから、修正型 ACA-J モデルにあるように日本的比較広告によ

る情報は直接的に知覚リスクへ影響を与えず、コーポレートレピュテーションを経て知覚リ

スクに影響を与えることが示された。加えて、コーポレートレピュテーション、知覚リスク

を経て態度、購買意図に影響を与えることも示された。

また、修正型 ACA-J モデルの分析結果から購買意図形成に影響を与えるルートについて

考える。購買意図に影響を与える態度 (=.714)、確信 (=.371) の変数のうち、態度がより

強い影響を与え、態度に影響を与えるコーポレートレピュテーション (=.193)、知覚リスク

(= -.226)、知覚品質 (=.490) の変数のうち、知覚品質がもっとも強い影響を与えていた。

このことから、間接的ではあるが、比較広告によって影響を受けた知覚品質がもっとも購買

意図形成に影響を与えると考えられる。さらに比較広告による情報からの直接的な影響に関

してのみ着目すると、ACA-J モデルにおいてはコーポレートレピュテーション (=.613)、知

覚品質 (=.479) のうち、コーポレートレピュテーションがもっとも影響を与えていた。

以上の結果から日本的比較広告を受容した消費者は態度やコーポレートレピュテーショ

ンといった企業や当該製品に対する感情的な判断によってより購買に至りやすいというプ

ロセスが見出された。

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22

(2) ACA-EA モデルにおける考察

ACA-EA モデルにおいては、コーポレートレピュテーションから態度へ正の影響を与える

という仮説が棄却されたことから、修正型 ACA-EA モデルとしてあるように欧米的比較広

告による情報によって影響を受けたコーポレートレピュテーションは直接的に態度へ影響

を与えず、知覚リスクを経て態度に影響を与えることが示された。加えて、知覚リスクが態

度を経て購買意図に影響を与えることも示された。

また、修正型 ACA-EA モデルの分析結果から購買意図形成に影響を与えるルートについ

て考える。購買意図に影響を与える態度 (=.495)、確信 (=.570) の変数のうち、確信がよ

り強い影響を与えた。さらに確信へと影響を与える知覚品質が態度 (=.679) に対してより

確信 (=.702) への影響の方がより強い影響を与えた。このことから、間接的ではあるが、

比較広告によって影響を受けた知覚品質がもっとも購買意図形成に影響を与えると考えら

れる。さらに比較広告による情報からの直接的な影響に関して ACA-EA モデルにおいては

コーポレートレピュテーション (=.416)、知覚リスク (= -.199)、知覚品質 (=.591) のうち、

知覚品質がもっとも影響を与えていた。

以上の結果から欧米的比較広告を受容した消費者は確信、知覚品質といった物理的属性に

よる判断によって購買に至りやすいというプロセスが見出された。

(3) ACA-J モデル・ACA-EA モデルの比較による考察

ACA-J モデル・ACA-EA モデルの分析結果を以下の 3 つの観点によって比較し、まとめた

ものが表 5 である。

表 5 モデルの分析結果比較

観点 ACA-J モデル ACA-EA モデル

「購買意図」形成に対して 「態度」がもっとも

強い効果を与える

「確信」がもっとも

強い効果を与える

「コーポレートレピュテーション」

に対して

「態度」・「知覚リスク」

に効果を与える

「知覚リスク」にのみ

効果を与える

「比較広告による情報」からの

直接的な影響に対して

「コーポレートレピュテ

ーション」へもっとも強

い効果を与える

「知覚品質」へもっとも

強い効果を与える

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日本的比較広告が消費者購買意思決定プロセスに与える影響と効果

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「購買意図」形成に対しては、ACA-J モデルにおいては「態度」がもっとも強い効果を

与え、一方で ACA-EA モデルにおいては「確信」がもっとも強い効果を与えていた。また

「コーポレートレピュテーション」に対しては、ACA-J モデルにおいては「態度」、「知覚リ

スク」に影響を与えていた一方で ACA-EA モデルにおいては「知覚リスク」にのみ影響を

与えていた。また「比較広告による情報」からの直接的な影響に対しては、ACA-J モデルに

おいては「コーポレートレピュテーション」へもっとも強い影響を与え、一方で ACA-EA

モデルにおいては「知覚品質」へもっとも強い影響を与えていた。

このような比較による結果を踏まえ、それぞれの比較広告について述べる。

日本的比較広告を受容した消費者は態度やコーポレートレピュテーションといった企業

や当該製品に対する感情的な判断によってより購買に至りやすいというプロセスが見出さ

れた。一方で欧米的比較広告を受容した消費者は確信、知覚品質といった物理的属性による

判断によって購買に至りやすいというプロセスが見出された。そのため、企業の特徴によっ

て取り扱う広告手法を変えることが効果的な手法であると考えられる。具体的には、日本的

比較広告は感情的な判断を受けやすいため、当該製品に対する好意的な消費者が多い場合や

企業に対する評価が高い場合に有効であると示唆される。一方で欧米的比較広告は物理的属

性による判断を受けやすいため、当該製品の品質が他社よりも極めて高い、もしくは品質の

面で他社よりも秀でた新たな指標を持つ場合に有効であると示唆される。

○今後の課題

本論には以下のような限界が存在する。第 1 に、定義ならびに比較の度合いに関する点で

ある。本論において「日本的比較広告」を「無指名型比較広告」かつ「暗示比較型 (ブラン

ド X 型)」である比較広告として定義したが、具体的に取り上げたデータ等が日本の風土や

国民性の特徴を加味した比較広告を表現できているかという点で、改善の余地があるものと

考えられる。第 2 に、調査方法に関する点である。今回は調査対象を一般消費者として選択

したものの、回答の大半が 20 代によって占められている。さらに調査の容易さから広告の

対象を紙面広告に限定していることが課題として挙げられる。実際の広告は紙面、TVCM 等、

様々な形で幅広い世代の消費者に受容されている。そのため、調査対象を拡張すると共に、

世代間のばらつきがないように調査を行う必要がある。第 3 に、観測変数と潜在変数の妥当

性に関する点である。これに関しては、信頼性分析などで一定の基準を満たしているものと

判断できるが、独自の潜在変数が比較広告による情報、ならびにコーポレートレピュテーシ

ョンの特徴を適切に表現できているかという点で、改善の余地があるものと考えられる。

しかし、以上の限界を考慮しても、本論は日本的比較広告の定義ならびに比較広告を受容

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武井 俊也

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した消費者の購買意思決定のプロセスを包括的に解釈しうる数少ない研究として、先駆的役

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