消化管における免疫介在性副...

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消化管における免疫介在性副作用の管理の実践的知見 www.medscape.org/commentary/gi-adverse-events 消化管における免疫介在性副作用の管 理の実践的知見 Neil Segal 博士: こんにちは。私は、ニューヨーク市に あるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの 免疫療法グループでディレクター、消化器がん指導医 助手を務めております Neil Segal です。 「消化管における免疫介在性副作用の管理の実践 的知見」のプログラムへようこそ。 本日お相手してくださるのは、ニューヨーク市にある メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの胃腸 科専門医の Robin Mendelsohn 医師です。ようこそ。 Robin B. Mendelsohn 医師: お招きいただきありがと うございます。 腫瘍内微小環境 [1] Dr Segal :本日は、免疫介在性の副作用(imAE)につ いてお話して参りたいと思います。まさに、免疫系を 活用したがん治療のここ数年間の素晴らしい成績を 振り返るのにちょうどよいタイミングではないでしょ うか。免疫療法とは基本的に、患者自身の免疫系を利 用して腫瘍を攻撃する療法です。ここ数年間で、著し い腫瘍縮小につながった高い有効性を達成する戦略 が複数みられています。 チェックポイント阻害薬はその1つです。まずはそれ についてお話しましょう。抗細胞傷害性T リンパ球関 連タンパク4 CTLA-4)、プログラム細胞死1 PD-1)およ びプログラム細胞死リガンド1 PD-L1)は抗体で、チェ ックポイントを阻害して免疫応答を全体的に改善す る、つまり、免疫能を強化して異物を攻撃するように 仕向けることで、がんに対する免疫活性を増強しま す。期待するのは腫瘍に対する一次応答ですが、しか しながら、有害事象(AE)が発生することも確認され ています。そのような有害事象を免疫介在性の有害 事象と呼んでいますが、その亢進した免疫応答は本 来ならば腫瘍を攻撃するはずですが、この場合は正 常組織を攻撃し、またT細胞活性の亢進が介在するこ とで基本的に強い反応を呈します。 N e i l H . S e g a l , M D , P h D 臨床ディレクター 免疫療法グループ 指導医助手 消化器腫瘍 メモリアル・スローン・ ケタリングがんセンター (米国ニューヨーク州ニューヨー ク) R o b i n M e n d e l s o h n , M D 臨床医学助教授 コーネル医科大学 臨床ディレクター 消化器病学・肝臓病学・栄養サービス フェローシップディレクター 臨床栄養学特別研究員 メモリアル・スローン・ケタリング がんセンター (米国ニューヨーク州ニューヨーク) Sznol M, et al. Clin Cancer Res. 2013;19:1021-1034 CELL T H 2 T H 2 PD-L2 T 細胞が間質で PD-L1調節 T 細胞のプライミングと 活性化 T 細胞が免疫細胞を 調節 T 細胞が極性化 TGF-β PD-L1 IFN-γ PD-L1/PD-1 CD8 + 細胞傷 害性 T 細胞 腫瘍 細胞 IFN-γR PD-1 PD-L1 MHC-I TCR IFN-γ 樹状細胞 T reg PD-L1 PD-1 PD-L1 M2 マクロフ ァージ PD-L2 PD-1 腫瘍に関連する線維芽細胞 IL-4/13 Shp-2 Shp-2 Shp-2 その他 NFκB PI3K PD-L1 PD-L1 PD-1 PD-1

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消化管における免疫介在性副作用の管理の実践的知見www.medscape.org/commentary/gi-adverse-events

消化管における免疫介在性副作用の管理の実践的知見

Neil Segal 博士:こんにちは。私は、ニューヨーク市にあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの免疫療法グループでディレクター、消化器がん指導医助手を務めております Neil Segal です。

「消化管における免疫介在性副作用の管理の実践的知見」のプログラムへようこそ。

本日お相手してくださるのは、ニューヨーク市にあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターの胃腸科専門医の Robin Mendelsohn 医師です。ようこそ。

Robin B. Mendelsohn 医師:お招きいただきありがとうございます。

腫瘍内微小環境[1]

Dr Segal:本日は、免疫介在性の副作用(imAE)についてお話して参りたいと思います。まさに、免疫系を活用したがん治療のここ数年間の素晴らしい成績を振り返るのにちょうどよいタイミングではないでしょうか。免疫療法とは基本的に、患者自身の免疫系を利用して腫瘍を攻撃する療法です。ここ数年間で、著しい腫瘍縮小につながった高い有効性を達成する戦略が複数みられています。

チェックポイント阻害薬はその1つです。まずはそれについてお話しましょう。抗細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク4(CTLA-4)、プログラム細胞死1(PD-1)およびプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)は抗体で、チェックポイントを阻害して免疫応答を全体的に改善する、つまり、免疫能を強化して異物を攻撃するように仕向けることで、がんに対する免疫活性を増強します。期待するのは腫瘍に対する一次応答ですが、しかしながら、有害事象(AE)が発生することも確認されています。そのような有害事象を免疫介在性の有害事象と呼んでいますが、その亢進した免疫応答は本来ならば腫瘍を攻撃するはずですが、この場合は正常組織を攻撃し、またT細胞活性の亢進が介在することで基本的に強い反応を呈します。

消化管における免疫介在性副作用の管理の実践的知見

モデレータ

NeilH.Segal,MD,PhD臨床ディレクター免疫療法グループ指導医助手消化器腫瘍メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(米国ニューヨーク州ニューヨーク)

パネリスト

RobinMendelsohn,MD臨床医学助教授コーネル医科大学臨床ディレクター消化器病学・肝臓病学・栄養サービスフェローシップディレクター臨床栄養学特別研究員メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(米国ニューヨーク州ニューヨーク)

腫瘍内微小環境

SznolM,etal. ClinCancerRes.2013;19:1021-1034CELL

TH2

TH2細胞の PD-L2を介した阻害

T細胞が間質でPD-L1調節

T細胞のプライミングと活性化

T細胞が免疫細胞を調節

T細胞が極性化

TGF-β

腫瘍 PD-L1の IFN-γ介在性の上方制御

腫瘍細胞を死滅させるPD-L1/PD-1を介した阻害

CD8+細胞傷害性

T細胞

腫瘍細胞

IFN-γR

PD-1

PD-L1MHC-I

TCRIFN-γ

樹状細胞

Treg

PD-L1

PD-1

PD-L1

M2マクロファージ

PD-L2PD-1

腫瘍に関連する線維芽細胞

IL-4/13

Shp-2

Shp-2

Shp-2

その他NFκB PI3K

PD-L1

PD-L1

PD-1

PD-1

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他にもいくつかの作用機序が免疫介在性の副作用に関わっている可能性があると考えられています。たとえば、正常組織の関連する抗原に対して免疫応答が誘導され、免疫応答の標的が腫瘍組織だけでなく正常組織にも存在する場合が考えられます。また、免疫介在性副作用への関連性があるとされる炎症性サイトカイン(インターロイキン17(IL-17)の上昇など)や、

補体カスケードの介在も指摘されています。たとえば標的にCTLA-4が直接結合した場合などは、介在性補体の免疫応答への関与が考えられています。場合によっては免疫療法後に既存の抗体が増強し、これにより免疫介在性の副作用が生じるという仮説もあります。

免疫介在性副作用の概要[2,3]

一般的にチェックポイント阻害薬は忍容性は高いものの、免疫介在性副作用が生じる可能性があり、慎重に使用する必要があります。そのため、免疫介在性副作用が何であるかを知っておく必要があります。そして、具体的に何を観察し確認する必要があるかを分かっている必要があります。それが、消化管での副作用に関する本日のプログラムの議題となります。

全体的には、グレード3や4などのより重症度の高い免疫介在性有害事象の発現率は、PD-1阻害薬で治療を受ける患者では腫瘍の種類を問わず20%未満です。きわめて重篤な有害事象はさらに頻度が低くなります。抗PD-1を単独使用しない場合(抗PD-1薬+抗CTLA-4薬の併用など)は、グレード3ないし4の有害事象の発現率は上昇し、約55%程度になります。

多くの臓器や正常な組織は亢進した免疫応答の標的となる可能性があり、それによって副作用が生じます。本日は、その点についても触れていきます。今申し上げたのはすべて議論すべき重要なトピックですが……

消化管での免疫介在性副作用[4]

しかし本日は、消化管の免疫介在性副作用に焦点をあててお話します。その中でも、下痢は間違いなく最も多くみられる副作用です。下痢は大体は点滴3回実施後に生じますが、それよりも早い場合や遅い場合もあります。副作用としての下痢が生じるタイミングは広範囲にわたりますが、概ね3回の点滴後に生じます。

消化管の免疫介在性副作用は、CTLA-4を標的にする抗体で治療されている患者に多くみられます。CTLA-4阻害後は、グレード1以上のすべてのグレードの毒性ですと23〜33%にみられます。これは非常に一般的です。PD-1またはPD-L1を標的とする薬剤でも下痢は生じますが発現率は少なく、全グレードの毒性で20%未満です。先ほどの繰り返しになりますが、併用療法では発現率が高くなります。PD-1またはPD-L1阻害薬とCTLA-4阻害薬の併用療法の場合、免疫介在性の有害事象発現率は44%にまで上昇します。

a.HaanenJ,etal. AnnOncol.2017;28(Suppl4):iv119-iv141.

免疫介在性副作用の概要

• PD-1/PD-L1阻害薬でのグレード3または4の免疫介在性有害事象の発現率は20%未満[a]

• CTLA-4阻害薬でのグレード3または4の免疫介在性有害事象の発現率は10〜27%[a]

• 併用療法(PD-1阻害薬+CTLA-4阻害薬)でのグレード3または4の免疫介在性有害事象の発現率は〜55%[a] PostowMA,etal.Immune-relatedadverseeventsassociatedwith

immunecheckpointblockade.NEnglJMed.2018;378:158-168.著作権©2018MassachusettsMedicalSociety.MassachusettsMedicalSocietyから許可を得て転載。

a.PuzanovI,etal. JImmunotherCancer.2017;5:95.

消化管での免疫介在性副作用

• 下痢は最も頻度が高い消化器症状の1つ[a]

– 平均点滴3回で発現することが多いがいつでも起こりうる

– 抗 PD-1抗体 +抗 CTLA-4抗体併用療法での発現率が一番高い(全グレードで44%)

– CTLA-4阻害薬(全グレードで23〜33%)

– PD-1または PD-L1阻害薬(全グレードで19%以下)

• 消化管の他の部分に影響が出る場合もある

大腸炎

胃炎

腸炎

膵炎

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その他、毒性による副作用も消化管で生じます。肝炎や自己免疫性肝炎は、頻度は比較的低いので本日はお話しません。膵炎も頻度は低いですが、後ほど少し触れるかもしれません。本当に、免疫介在性副作用は消化管のどの部位にも発生する可能性があります。本日は可能性のある部位に着目して話を進めます。

免疫介在性副作用の分類にはいくつか方法があります。私どもの用いる分類方法は私ども自身で行う検査に基づいています。まず問診です。問診中に患者と話すときには症状について質問すると思いますが、そこから、適切な時期にX線撮影、内視鏡検査または病理検査の実施を考慮します。これについては後ほど、いくつかの症例をもとにお話します。

治療前の評価およびスクリーニング[4]

Mendelsohn先生、個別の症例について検討する前に、患者の治療前評価や診断検査ではどのような検査を実施し、一般的にどのようなことを考察するかについて検討するところから始めましょう。

Dr Mendelsohn:先生もおっしゃったように、最も多い副作用は下痢です。下痢は、高頻度の軟らかい便と定義されます。私どもは常に患者と話し、症状について尋ねます。感染の可能性を評価し、必要な場合には原因を排除します。また、その他さらに重篤なことが起こっていないことを確認します。怖いのは穿孔で、このような症例では早期段階での画像診断を考慮します。

また看護師全員に、起こりうる副作用とその観察・評価項目を伝えることも非常に重要です。それは患者にも行います。そうすることで、患者側も何を質問しどのようなことに注意すべきかが分かるので、医師が適切に治療前評価を行うことができます。診断は放射線科医と病理医と協力して総合的に判断して行います。

Dr Segal:治療前評価を集学的アプローチで行うという非常に重要なポイントに触れていただきましたね。

Dr Mendelsohn:はい、先生も先ほど触れておられたように、あらゆる側面を考慮することが必須ですし、複数の臓器に影響することもあるため、原因を探り当てることはこの場合急務だと思っています。

Dr Segal:それでは、診断と診断に至るまでにできること、それをいかに実践していけば良いのかについて症例2例を通じて話を進めていきましょう。

PuzanovI,etal. JImmunotherCancer.2017;5:95.

治療前の評価およびスクリーニング

•治療開始前に患者のベースライン確立が重要•集学的チームによるアプローチが鍵

治療前評価と診断検査を考慮

既往歴自己免疫疾患、感染症、内分泌系疾患および臓器特異的疾患の既往歴を詳細に問診

血液検査CBC、CMP、TSH、HbA1c、遊離T4、総CK、感染症スクリーニング、空腹時の脂質検査

皮膚の評価 全身の皮膚および粘膜の評価

肺機能検査ベースラインの酸素飽和度(ルームエアおよび歩行時)

心機能検査 ECG、トロポニン Iまたは T

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症例1

最初の症例は、Henry氏です。62歳男性、診断は悪性黒色腫で肺・肝転移あり。既往歴は、高血圧症でコントロール良好、そして憩室症です。喫煙歴(20年前より禁煙)があり、ニューヨークで建設関係の仕事をしています。

約2ヵ月前、CTLA-4阻害薬と抗PD-1の併用療法で治療を開始しました。ここ数日間にわたって、いくつか症状がみられ始めました。約3日前に軽度の腹痛が始まり、続いて水様便もみられ、本日の時点で排便回数は1日5回に増えています。便に鮮血が混入していたと本人からの報告がありました。つまり、直腸出血です。本日、痛みが増強したため、すぐに主治医のがん専門医に連絡しました。

Mendelsohn先生、彼の症状についてですが、患者の訴える症状に危険または気がかかりなものはありますか?

大腸炎[2,4,5]

Dr Mendelsohn:はい、あります。下痢と大腸炎の境界線は通常明確ではありませんし、それが当然です。大腸炎は大腸粘膜の炎症であり、下痢は大腸炎の症状である可能性もあります。大腸粘膜の炎症によって腹痛も生じますし、直腸出血も生じます。

この症例でお伝えしたいポイントは、おそらく事前に看護師と医師がHenry氏が発見すべき症状についてきちんと説明していたのであろうということ、それが功を奏し、Henry氏自身がいつ医師に連絡すべきかが分かっていたということです。軽度の下痢、軽度の腹痛に始まり、その後症状が悪化して直腸出血があった時点で、患者自身は医師に連絡すべきタイミングだと分かっていたのですね。直腸出血や腹痛は、頻回の軟便以上に重症度の高い何かが潜んでいる可能性を示唆します。

症例1

• Henry氏、62歳男性、黒色腫で肺・肝転移あり• PMH:HTN、憩室症• 社会的側面:喫煙歴あり、10年前に禁煙。建設現場勤務

• 約2ヵ月前に CTLA-4阻害 +抗 PD-1阻害の併用療法で治療を開始

• 3日前より軽度の腹痛が始まり、水溶便(5回/日)および直腸出血が認められる

• 指示通り、疼痛増強時ただちに主治医のがん専門医に連絡

PuzanovI,etal. JImmunotherCanc.2017;5:95;HaanenJB,etal. AnnOncol.2017;28(suppl4):iv119-iv142;BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

大腸炎

• 大腸炎は大腸粘膜の炎症である• 下痢は大腸炎の症状の1つであり、下痢と大腸炎はしばしば見分けがつかない

• 大腸炎の炎症の場合は通常、下痢に加え腹痛と直腸出血などの症状がみられる

• 大腸炎のリスクに関するわかりやすい説明による患者教育が必要で、どのような症状でも医師に連絡することを奨励する

大腸炎

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精密検査[2,4,5]

Dr Mendelsohn:先ほど触れましたが、感染とその可能性を排除するためには質問が重要です。発熱や悪寒、最近行った旅行先、最近使用した抗菌薬について質問し、さらに腹部膨満感や嘔気嘔吐など、消化管穿孔の兆候がないことを確認します。

Dr Segal:では、いざ患者が診察に訪れ、先ほど先生の説明のように細かく精査し、評価もした。そしてそこで、画像診断を考慮すべきかという疑問が出てきます。内視鏡検査を考慮すべきでしょうか?またどのような点を検査でみるべきでしょうか?この症例の場合、そういった精密検査に対するアプローチはどのようになると思われますか?

Dr Mendelsohn:重要なポイントですね。これに関してはゴールドスタンダードはないと思います。何か悪いものが潜んでいることが懸念される場合、コンピューター断層撮影(CT)スキャンを実施します。CTスキャンは具体的な診断には向かないので、大腸炎の診断には適していません。しかし、穿孔の可能性や他の原因による腹痛が考えられる場合に関してはCTスキャンが推奨されます。

内視鏡検査に関しては、免疫療法が使用され始めた当時は全員に実施していました。何が起こるか予測できませんでしたし。CTLA-4抗体が使用されて数年経過した現在では、まず感染に対応していられる余裕があることがわかりましたので、感染を排除した後に、通常はまずステロイドで経験的治療を行います。当科では通常、内視鏡検査は、患者に反応性がみられない場合や、感染に関する精密検査時には発見できなかったような何か重篤なものが潜在することが疑われる場合のためにとっておきます。

Dr Segal:他の先生方もやはりさまざまな症状が出た患者を診察した経験があると思いますが、そのような場合や、そしてHenry氏のような場合も含め、当院でもやはり精密検査は考慮すると思います。ただ、比較的診断が確実であると思われるケースではーー以前にそのようなケースがあったのですが、そのときは治療にすぐ踏み切りました。確かに、治療を実施しない場合もあります。その場合はまた次に必要な対応をします。

PuzanovI,etal. JImmunotherCanc.2017;5:95;HaanenJB,etal. AnnOncol.2017;28(suppl4):iv119-iv142;BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

精密検査

• 感染を排除– 発熱や悪寒の有無、最近の旅行、最近使用した抗生物質について尋ねる

– 血液検査および糞便培養の精密検査を実施する

• 消化管穿孔の兆候の有無を確認– 腹部膨満感、嘔気、嘔吐

• 炎症マーカーや便潜血検査を適宜実施し炎症の程度を把握• 画像診断

– CTは一般的に穿孔疑いや他の原因による腹痛を特定する必要性が発生するまでは行わない

– 内視鏡検査は、治療への反応不良や他の原因による下痢があり、グレード2以上の場合に実施することが多い

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症状のグレード[4]

Dr Segal:では症例に戻りましょう。Henry氏は来院しCTスキャンを受けました。CTスキャンで何がわかったかは後ほど話しますが、今ここでお話したいポイントは定義の方法です。症状を定義するとアルゴリズムに役立ちます。またカテゴリーに分類することは意思決定に役立ちます。ここで、大腸炎のグレード分類についてお話しいただけますか?

Dr Mendelsohn:下痢と大腸炎の両方をグレード分類します。下痢は排便の頻度を基にグレード分類します。グレード1は1日4回未満ですが、ベースラインより多い場合とされます。ベースライン時に1日4〜5回排便がある人もいるので、これは重要な点です。免疫療法開始後、私どもに連絡が来て排便は4〜5回だと報告します。つまり下痢があるとみなされる回数ですが、それがその患者のベースラインなのです。ベースラインを確立することは常に重要です。

そこから、グレードは上昇します。1日4〜6回の排便はグレード2、7回以上の場合はグレード3となります。

大腸炎に対しては、通常内視鏡検査所見または病理学的特徴により定義されますが、腹痛と直腸出血があります。これはグレード2です。腹痛が激しく増強した場合はグレード3になります。グレード4は、致死的な痛みの場合です。

大腸炎の管理[4]

Dr Segal:この症例では、身体診察、症状の確認およびCTスキャンを実施し、CT所見では肥厚がみられました。

Dr Mendelsohn:はい、非特異的でした。

Dr Segal:そしてステロイドで治療を開始したということですね。では、ステロイドの投与法と他に考慮する薬剤についてお話します。大腸炎や中等度の下痢のある患者には、一次治療として先生は通常どのようにステロイドを開始しますか?

Dr Mendelsohn:とくに中等度の症例では、通常、1日あたり prednisone 1 mg/kg に相当する用量から開始します。より重症な場合には、2mg近くまで増量することもあります。通常は48時間以内に反応がみられます。反応がみられない場合には通常別の手段をとります。

PuzanovI,etal. JImmunotherCancer.2017;5:95.

症状のグレード

•症状を比較できるように、その患者の排便のベースラインを確立することが重要

グレード 大腸炎

1 無症状、グレード1の下痢(頻度4回/日以下。ベースラインより多いこと)

2 腹痛、便中に粘液または血液、グレード2の下痢(頻度4〜6回/日)

3 強い腹痛、排便習慣の変化、腹膜刺激症状、グレード3の下痢(頻度7回/日以上)

4 グレード3+致死的な症状

PuzanovI,etal. JImmunotherCancer.2017;5:95.

大腸炎の管理

• Henry氏の症状はグレード2の大腸炎と診断された

グレード 管理の方法

124〜48時間は密に経過観察。ICIは継続。症状が持続する場合、定期的に便および血液検査を実施。刺激物は避ける。止瀉薬は適宜使用可能だが推奨はされない

2

ICIは保留。外来で便および血液検査。下痢のみの場合2〜3日経過観察し、prednisone1mg/kg/日(またはそれに相当する用量のmethylprednisolone)を開始。下痢 +大腸炎の症状がある場合、prednisone1mg/kg/日(またはそれに相当する用量)を直ちに開始

3 ICIは見合わせる。副腎皮質ステロイドを直ちに開始。入院を考慮する

4

ICIは中止し入院。便および血液の精密検査を実施。炎症マーカー、画像診断、内視鏡検査、胃腸科専門医への相談を行う。prednisoneを静脈内投与で1〜2mg/kg/日(またはそれに相当する用量のmethylprednisolone)投与

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ステロイドへの反応[2,4,5]

Dr Segal:ではこの症例で、infliximabを開始することを考慮する段階だと想定して話を進めてみましょう。Henry氏は、ステロイドを投与され、そして2日後には下痢が始まった。腹痛があり、症状が改善している兆候はみられない。自分が彼の主治医の立場だとそういう見解を持つと思います。先生にもご相談しましたし、一緒に診ている患者さんも多くいます。あのときが決断の時だったと思うのです。ではここで、とるべきアプローチはどのようなものでしょうか?この時点でinfliximabを開始しますか?

Dr Mendelsohn:はい、開始します。infliximabを開始する時期に正解はありません。多くの医師は、5〜7日経っても反応がない場合は開始します。私どものように長年この治療に携わってきた医師は、経験から48時間後に反応がなければその後に反応がみられることは稀であると知っていますので。したがって、48時間で反応がない場合にはinfliximabを開始します。待つ医師もいます。正解はないのです。用量は5mg/kgです。通常、1回のみ投与します。

Dr Segal:1回投与して、数日のうちに反応性がみられるかを観察するということですね。

Dr Mendelsohn:通常、この場合も最初の48時間以内に反応がみられます。そしてステロイドを減量していきます。

ステロイドの減量[2,4,5]

Dr Segal:では、別のシナリオで考えてみましょう。Henry氏が診察に訪れました。ステロイド開始後48時間以内に症状が改善し始め、つまり先ほどのinfliximabの使用に至った部分のシナリオはなかったとします。ステロイドの投与を継続する患者では、ステロイドは1週間継続しますか、それとも2週間ですか?一般的にどのくらいの期間でステロイドを減量していきますか?

Dr Mendelsohn:まず、大部分の方がステロイドには反応することを知っておくことも重要です。患者さんが受診に来られて治療すると、大部分の方はきちんと反応します。反応性がみられた時点で、減量します。急激に減量すると急激に再燃しやすいので、ゆっくり減量します。通常、少なくとも1ヵ月かけて減量します。

医師によってやり方が若干違うため、減量を担当する医師を決めておくのが重要です。これによって混乱を避けられます。1ヵ月かけてゆっくり減量します。重症な潰瘍がある症例では、これまでの経験からより長い時間を要すること、そして再燃すると潰瘍の重症度が高くなることケースがあることが分かっているため、もう少し長期間かけて減量します。状況を把握するために、減量開始前に患者全員に内視鏡検査を実施すべきだという医師もいます。つまり、反応性を示した場合の多くは、1ヵ月かけてゆっくり減量するということになります。

PuzanovI,etal. JImmunotherCancer.2017;5:95.HaanenJ,etal. AnnOncol.2017;28(Suppl4):iv119-iv141.BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

ステロイドへの反応

• Henry氏は48時間後もステロイドに反応しない•どう進めるか?

– まだ胃腸科専門医に相談していない場合はこの時点で相談する

– 内視鏡検査を考慮する– Infliximab5mg/kg– Infliximabの開始をどのくらいの期間待つかガイドラインはさまざまであるが、反応しない時点から2〜7日後のどこかで開始

PuzanovI,etal. JImmunotherCancer.2017;5:95.HaanenJ,etal. AnnOncol.2017;28(Suppl4):iv119-iv141.BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

ステロイドの減量

• Henry氏が48時間以内に反応し回復の兆しが認められた場合

•どのくらいの期間ステロイドを投与するべきか?– 大部分の患者はステロイドに反応する– ゆっくりとステロイドを減量するのが重要であり、急激な減量は再燃のリスクが高い

– 減量は通常4〜6週間かけてゆっくり行う•混乱を避けるため、減量を主導する医師を集学的チームから1人選んでおくことが重要である

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治療再開[4,5]

Dr Segal:では、次に何をしましょう?ステロイドを減量し、改善も見られました。ここで免疫療法を再開するべきでしょうか?このような状況では確かに、再開に関してはすべての患者に当てはまる答えは無いと思います。最初の免疫介在性副作用の重症度、ステロイドへの反応の程度、予測される転帰によって変わってきます。免疫介在性の副作用が発生した患者の一部には、反応が持続し、治療を再開する必要がない場合もあります。このタイミングこそ画像診断が必要で、スキャンの所見、病変の進展度、反応の程度を確認する必要があり、それらの情報をもとに免疫療法を再開する必要があるか否かを決めます。

副作用発現後に抗PD-1治療を再開することには意義があります。副作用症状は再燃しないかもしれません。実際、PD-1単独療法を受ける患者の約半数では再開後に副作用症状は再燃せず、もう半数では再び起こります。同じ副作用が再び発生する場合と、別の毒性がみられる場合があります。全員に当てはまる明確な答えがあるわけではないので、状況に合わせ対応します。

Dr Mendelsohn:Henry氏の場合では、先生は治療を再開すると思われますか?

Dr Segal:Henry氏にはCTスキャンを実施したところ腫瘍が反応しています。腫瘍が反応しているということで、私ならこの時点では再開しません。経過観察し、再開する兆候がみられたときに再開します。

がん専門医と胃腸科専門医の協働

この症例検討では、がん専門医、そして胃腸科専門医それぞれの立場の視点からお話を進めていますが、免疫介在性の副作用の対応については私どもはどのように協働すればよいと思われますか?

Dr Mendelsohn:まず、胃腸科専門医は、疾患の経過のどの時点においてもがん専門医の先生方をサポートする体制でいるということを知っていただきたいと思います。ただ、そのがん専門医の先生の守備範囲によって違ってくると思います。先生の中には、infliximab投与中でもご自身でステロイドを使うことに抵抗がなく、infliximabに反応しなくなった時点で私どもに相談をする先生もいらっしゃいます。

典型的な大腸炎症状が認められた場合には、胃腸科専門医にご相談いただくことが重要だと思います。そうすることで幅広く鑑別診断を行うことができるため、何かを見過ごす確率も減らせます。ステロイドやinfliximabへの反応性がみられない場合にも、私どもに相談いただくのが良いと思います。そのような場合は通常、感染の疑いやその他の病因を排除するために、内視鏡検査での評価を推奨しています。

結局のところ、やはり治療を担当されているその先生個人の守備範囲によると思います。私どもは、どの段階でもヘルプできます。

PuzanovI,etal. JImmunotherCancer.2017;5:95.BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

治療再開

• Henry氏に反応がみられ、ステロイド減量中に症状はグレード1より低くなる

• 免疫チェックポイント阻害薬は再開可能か?– 症状がグレード1以下に改善した患者では治療再開を選択してもよい– 対応すべき問題はまだ多くあり、再開は個々の状況によって決定する

– 免疫介在性副作用の発症時の重症度、ステロイドへの反応性の程度、考えられる転帰など、すべてが治療再開の決定に影響する因子

– この時点での画像診断は疾患の進展と反応性を確認するのに役立つ

• CTスキャンで腫瘍が反応している所見が認められた-反応性がみられることと症状の重症度に鑑みて、免疫チェックポイント阻害薬は開始しない

がん専門医と胃腸科専門医の協働

胃腸科専門医は治療経過のどの段階でも対応可能

がん専門医が胃腸科専門医に相談するタイミングは、がん専門医の守備範囲によって異なる

• がん専門医のにはすぐに胃腸科専門医に相談する医師もいるが、経験豊富な医師の場合は自分自身で治療する方を好む場合もある

経験に関わらず胃腸科専門医への相談が推奨されるケース

• 患者がステロイドにも infliximabにも反応しない場合• 症状が非典型的である場合

Page 9: 消化管における免疫介在性副 作用の管理の実践的知見img.medscapestatic.com/.../106/892106_transcript_jpn2.pdf免疫介在性副作用の概要[2,3] 一般的にチェックポイント阻害薬は忍容性は高いも

Dr Segal:ここまで、Henry氏の症例についてご意見を伺いました。毒性についても触れ、管理についてもお話を聞きました。最終的には、Henry氏はステロイドに反応し、免疫介在性の副作用は解決されました。これは非常に運のよかったケースで、多くの症例でそうなることを期待します。

症例2

2番目の症例に移りましょう。患者はVeronica氏です。62歳女性、非小細胞肺がん肝転移、既往歴はなし。喫煙歴は20年間で2年前より禁煙。職業は司書です。抗PD-1単独療法で約3ヵ月前から治療を開始し、 2、3日前より、胃部不快感を訴え始めました。嘔気があり、嘔吐もしました。主治医のがん専門医に連絡し症状を報告しました。この症例での症状は、先ほどとは若干異なります。Mendelsohn先生、この症例の患者の症状で何か気になるものはありますか?

上部消化管症状[6]

Dr Mendelsohn:はい。先生もおっしゃったように、症状は下痢の症状とは異なります。私どもは、下痢の症状については日常的に診療し経験も多いので対応方法もよく分かっているのですが、いま、とくにPD-1阻害薬では、上部消化管症状がみられるケースが増えています。胃、十二指腸、膵臓で免疫介在性の変化が起こる可能性があり、これらすべてが、上腹部痛、嘔気・嘔吐を引き起こす可能性があります。私どもの患者でPD-1 阻害薬を使用している方で、セリアック病を併発している方もいらっしゃいました。

上部消化管症状については、下痢の管理方法ほどはよく分かっていません。そのため、原因を鑑別診断して対策を講じることができるように、上部消化管症状の患者を担当されるがん専門医の先生には、早期から胃腸専門医に相談いただくことを通常お勧めしています。

Dr Segal:興味深いですね。ここまでで、大腸炎そして胃炎という、消化管の2つの異なる領域での疾患について検討しました。

症例2

• Veronica氏、62歳女性。非小細胞肺がん肝転移• PMH:なし• 社会的側面:喫煙歴20年。2年前より禁煙。司書

• 抗 PD-1阻害薬で過去3ヵ月間治療• 心窩部不快感、嘔気・嘔吐を発現• 指示通り主治医のがん専門医に連絡し上記症状を報告した

a.CollinsM,etal. AnnOncol.2017;28:2860-2865.

上部消化管症状

• 上部消化管症状は発生しうるがあまり一般的ではない

• 消化管の免疫介在性副作用を発症した20名を対象とした後ろ向き研究では、上部消化管に炎症がみられたのは4名[a]

– 症状の内訳は、嘔気および食欲不振(n=4)、嘔吐(n=3)、嚥下障害(n=1)

• 症例数の少ないまれな症状への対応は必ずしも簡単ではない

• 早期の胃腸科専門医への相談が重要である

• 内視鏡検査が必要

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胃炎[5]

そしてこの症例では、免疫介在性副作用が胃に発現したことにより、このような診断がついた患者さんの実際の症状についてお話していますが、これは従来、必ずしも常に懸念されていた副作用ではありません。大腸炎や下痢はそうです。しかし、今回は胃です。これまでにみてきた他の免疫介在性副作用の治療で胃炎に適用できることは何でしょう?治療について話す前に、まず検査について検討していきましょう。上部内視鏡検査を実施することにどのような意義があるでしょうか?どのような所見がみられるでしょうか?

Dr Mendelsohn:現時点では、上部消化管の免疫介在性の副作用についてよく分かっていません。通常、注意を要する重症度の上部消化器症状がみられる患者には、生検と上部内視鏡検査を推奨します。胃・十二指腸の上部内視鏡検査で所見に異常がなくても、そのときに無作為に生検してサンプルを採取します。

一般的な逆流性食道炎、そして免疫介在性の胃・十二指腸炎のケースがありますが、これは病理検査を行わなければ鑑別できません。診断には病理專門医の存在が欠かせません。

この場合十分な症例数をみていないからという理由だけで、内視鏡検査を実施せずに経験的治療としてステロイドを開始することは通常しません。内視鏡検査で、重症の胃炎ーー 通常びまん性胃炎ですが、その所見がある場合は経験的治療としてステロイドを開始します。症状がひどければ病理の結果が出る前に開始する場合もあります。待てる場合は待ちますが、通常は内視鏡所見に基づいて開始が可能です。実際、多くの場合ステロイド治療が奏効するため、より速いペースで減量して治療を完了させられ、経過も良好になります。

症例2 − 結論

Dr Segal:ではここでVeronica氏の経過について少し考えてみましょう。その後、経過はどうなりましたか?先ほど述べた症状で来院しました。彼女は、内視鏡検査を受けて炎症が認められ、胃腸科専門医は免疫介在性の胃炎であろうと考えました。生検も実施されました。胃腸科専門医の見解に基づき、私どもはステロイドを高用量で開始し、その翌日には症状が改善し始めました。患者の自覚症状も軽快しました。そこでステロイドの減量を開始しました。減量中も症状は改善し続けました。ステロイド中止後、症状の再燃は認められませんでした。彼女はステロイドに良く反応し、胃炎については解決しました。

BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

胃炎

• 上部内視鏡での生検を推奨• 診断には病理医が重要な役割を果たす

– 症状の原因は逆流性食道炎から免疫介在性の胃・十二指腸炎までと幅広い

• 内視鏡検査なしにステロイドは開始しない

– 重症度が高いびまん性胃炎の場合はステロイドでの治療が推奨される

– 多くの患者でステロイドは奏効し速いペースで減量を完了できる

胃炎

症例2−結論

• Veronica氏は上部内視鏡と生検を受けた•内視鏡検査で炎症がみつかり、胃腸科専門医は免疫介在性であると診断した

•高用量でステロイドを開始し、翌日に症状が軽快し始めた

•ステロイド減量完了後、症状は再燃しなかった

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膵炎[5]

Dr Mendelsohn:最初のほうに触れましたが、痛み、嘔気・嘔吐で他に考えられるのは膵炎です。アミラーゼやリパーゼの上昇は多くの人でみられますが、これだけでは必ずしも膵炎があるとは言えません。抗PD-1阻害薬では値の上昇が認められますが、症状がない場合は治療は行いません。患者にアミラーゼとリパーゼの上昇があり、上腹部痛や嘔気・嘔吐の膵炎症状がみられる場合には治療します。この症例に関してですが、Veronica氏のアミラーゼ値とリパーゼ値を確認しましたが正常でした。これは免疫療法中は常に留意しておく点となります。

Dr Segal:私の患者で、治療中の受診でアミラーゼ値とリパーゼ値を定期検査として測定したところ、1週間前には正常であったのが上昇していて、症状がないことがありました。その時点までアミラーゼ値とリパーゼ値に上昇はみられませんでした。そこで心配になり、CT スキャンを行いましたが結果は正常でした。膵炎を根拠付けるエビデンスは認められませんでした。そこで問題は、PD-1を継続するかということになります。継続が適切のように思われるのですが……

Dr Mendelsohn:はい、症状がない限りステロイドによる治療は推奨しません。膵炎は胃炎と区別するのが困難な場合があります。このような場合には、膵炎かを確認するために上部内視鏡検査を行うことがあります。アミラーゼ値とリパーゼ値が上昇していても、多くの場合膵炎の症状はありません。ごく少ない割合の人が、実際に膵炎を発症します。

Dr Segal:症状と特徴的なX線検査所見がみられず、かつ高アミラーゼと高リパーゼを示す患者は、どうやら明確に2つに分かれるようですね。稀ですが、他の免疫介在性の副作用のように治療を要する膵炎を発症する患者もいます。

Dr Mendelsohn:私どもは、そのような患者には同日中にステロイドを投与します。

Dr Segal: このような症例では、身体診察と問診がとても重要になります。また、CTを行う意義のある場合もあるでしょう。

BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

膵炎

• 急性膵炎が起こりうるが稀である• アミラーゼまたはリパーゼの上昇だけでは膵炎とは確定されない

– アミラーゼまたはリパーゼが高値で症状が無く、CTスキャンで膵炎の兆候がみられない場合は、一般的に免疫チェックポイント阻害薬を継続し、ステロイド投与で対応すべきではない

• 症状は、上腹部痛、嘔気・嘔吐• 上部内視鏡検査が胃炎と膵炎を鑑別するのに役立つ

• 症状がありアミラーゼまたはリパーゼが高値の場合は、ステロイド投与での対応がよい

膵炎

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小腸炎[5]

Dr Segal:小腸炎も下痢のある患者でみられますね。では、精密検査を実施して大腸炎の診断がつかず、CTスキャンを施行します。こういった状況では、CTスキャンはどのくらい有用なのでしょうか?小腸に肥厚がみられれば、小腸炎が下痢を引き起こしていると判断できます。そこで大腸炎と同じような治療をします。CTスキャンは診断に役に立ちました。ただ、すでに下痢がみられる患者の管理という面では、CTスキャンは本当に何か違いをもたらしたのでしょうか?小腸炎についてどうお考えですか?どういう状況での使用が適切なのでしょうか?

Dr Mendelsohn:先ほどもお話していたように免疫介在性副作用は消化管のどの部位にも発現する可能性があります。そして画像診断ですが、それによって小腸炎が見つかる場合もあります。画像診断で映らない場合もあります。内視鏡検査で発見できる場合もあります。そのあたりについては、私どもも良く分かっていません。確かに、下痢がみられる場合はCTスキャンと内視鏡検査を行います。CTスキャンか大腸内視鏡検査を実施して結腸が正常の場合には、他に原因を探します。そのとき、CTスキャンは腸炎を発見するために重要ですが、免疫介在性でない感染性の腸炎の可能性を留意しておくことも重要です。ですので、感染症の精密検査も行うことを推奨します。ステロイドは感染を悪化させる可能性があります。通常、ステロイド開始前には感染を排除できているかを確認します。

結論[2,4,5]

Dr Segal:診断へのアプローチ、つまり重症度の評価や治療法決定に至るまでのアプローチにはアルゴリズムがあるようですね。ステロイドを開始し、適切に免疫が抑制されるまでの段階的な増量には、さまざまなアルゴリズムが存在します。過去数年間で確実に、本日お話した症状のみられる多くの患者を通して、どう治療するのが最適かが分かってきています。

免疫療法がより一般的に行われるようになり、多くの種類のがんの治療で重要な役割を担うようになってきているため、副作用管理という認識自体がより重要になってきました。従来の免疫療法に反応性のある腫瘍だけでなく、その他の種類も免疫療法に反応性を示すことも分かってきています。これは、治療として確立されただけでなく、他の形での免疫療法の利用を特定する試みも多くあります。

そういった免疫療法を開発・展開させ、理解が深まる中で、免疫介在性副作用に対する認識と管理の重要性も高まっています。そのような中、免疫介在性副作用に対応するため、特定の副作用に経験が深い集学的チームの見解を取り入れて治療を進められるさまざまなアルゴリズムが構築されました。たとえば、Society for Immunotherapy of Cancer によるガイドラインや、アメリカ臨床腫瘍学会によるガイドラインなどがそれにあたります。これらはすでに発表されているガイドラインで、とくに役立つリソースであると言

BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]

小腸炎

• 発生頻度はまれである• 主訴は通常下痢である• 内視鏡検査や CTスキャンが小腸炎を特定するのに必要な場合がある

• 感染性の小腸炎は免疫介在性でないので、感染を有無を調べる精密検査が推奨される

• ステロイド開始前に感染を排除することは必須である 腸炎

a.BrahmerJ,etal. JClinOncol.2018.[雑誌掲載前オンライン発表]b.Puzanov I,etal. JImmunotherCanc.2017;5:95.c.HaanenJB,etal. AnnOncol.2017;28(Suppl4):iv119-iv141.

結論

•免疫介在性副作用の管理、重症度評価、診断、そして重症度に応じて治療のためのアルゴリズムがある

•がんに対する免疫療法の普及に伴い、免疫介在性副作用をいかに発見して管理するかについて理解を深めることの重要性も高まっている

• ASCO®、SITCおよび ESMOなど、いくつかのガイドラインが昨年発表され、副作用管理に役立てられる[a-c]

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えます。実際に治療に携わる先生方には、このガイドラインを副作用管理に大いに役立てていただけるのではないでしょうか。

Mendelsohn先生、本日は非常に興味深いお話ができたと思います。ご参加いただきありがとうございました。

Dr Mendelsohn:こちらこそ、ありがとうございます。

ありがとうございました

Dr Segal:本アクティビティにご参加いただき、ありがとうございました。

本アクティビティにご参加いただき、ありがとうござ

いました。

参考文献

1. Sznol M, Chen L. Antagonist antibodies to PD-1 and B7-H1 (PD-L1) in the treatment of advanced human cancer. Clin Cancer Res. 2013;19:1021-1034.

2. Haanen J, Carbonnel F, Robert C, et al. Management of toxicities from immunotherapy: ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2017;28(suppl 4):iv119-iv142.

3. Postow MA, Sidlow R, Hellmann MD. Immune-related adverse events associated with immune checkpoint blockade. N Engl J Med. 2018;378:158-168.

4. Puzanov I, Diab A, Abdallah K, et al. Managing toxicities associated with immune checkpoint inhibitors: Consensus recommendations from the Society for Immunotherapy of Cancer (SITC) Toxicity Management Working Group. J Immunother Cancer. 2017;5:95.

5. Brahmer JR, Lacchetti C, Schneider B, et al. Management of immune-related adverse events in patients treated with immune checkpoint inhibitor therapy: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline. J Clin Oncol. 2018. doi:10.1200/JCO.2017.77.6385. [Epub ahead of print].

6. Collins M, Michot JM, Danlos FX, et al. Inflammatory gastrointestinal diseases associated with PD-1 blockade antibodies. Ann Oncol. 2017;28:2860-2865.

Page 14: 消化管における免疫介在性副 作用の管理の実践的知見img.medscapestatic.com/.../106/892106_transcript_jpn2.pdf免疫介在性副作用の概要[2,3] 一般的にチェックポイント阻害薬は忍容性は高いも

略語

AE = 有害事象

ASCO® = American Society of Clinical Oncologists(アメリカ臨床腫瘍学会)

CBC = complete blood count(全血球数測定)

CD = cluster of differentiation(分化抗原群)

CK = creatine kinase(クレアチンキナーゼ)

CMP = comprehensive metabolic panel(包括的代謝パネル)

CT = computed tomography(コンピューター断層撮影)

CTLA-4 = cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4 (細胞傷害性Tリンパ球関連抗原)

ECG = 心電図

ESMO = European Society for Medical Oncology(ヨーロッパ臨床腫瘍学会)

GI = gastrointestinal(消化管)

HbA1c = glycated hemoglobin(糖化ヘモグロビン)

HTN = hypertension(高血圧)

ICI = immune checkpoint inhibitor(免疫チェックポイント阻害薬)

IFN = インターフェロン

IL = interleukin(インターロイキン)

imAE = immune-mediated adverse event(免疫介在性の有

害事象・副作用)

IV = 静脈内

MHC = major histocompatibility complex(主要組織適合性遺伝子複合体)

NFκB = nuclear factor κ-light-chain-enhancer of activated B cells(活性化B細胞の核因子κ軽鎖エンハンサー)

NSCLC = non-small cell lung cancer(非小細胞肺がん)

PD-1 = programmed death-1(プログラム細胞死‐1)

PD-L1 = programmed death-ligand 1(プログラム細胞死リガンド‐1)

PMH = past medical history(既往歴)

Shp-2 = Src homology region 2 domain-containing non-transmembrane protein-tyrosine phosphatases(src-ホモロジー2領域を有する非膜貫通型プロテインチロシンホスファターゼ)

SITC = Society for Immunotherapy of Cancer(仮訳:がん免疫療法学会)

TCR = T-cell receptor(T細胞受容体)

TGF = transforming growth factor(形質転換成長因子)

TH2 = T helper cell 2(Th2細胞)

Treg = regulatory T cell(制御性T細胞)

TSH = thyroid-stimulating hormone(甲状腺刺激ホルモン)

免責事項

本文書は教育を唯一の目的として作成されたものです。本文書を読むことで医学生涯教育(CME)の単位を取得することはできません。このアクティビティに参加ご希望の方は、www.medscape.org/commentary/gi-adverse-events にアクセスしてください

本アクティビティの内容に関するご質問は、アクティビティ提供者 [email protected] までお問い合わせください。

技術的なサポートについては [email protected] までお問い合わせください

上記の教育アクティビティには、症例に基づいた模擬的シナリオが含まれる場合があります。これらのシナリオにおいて描写される患者は架空のものであって、実際の患者との関連性を意味するものでも、ほのめかすものでもありません。

ここで示した資料は、medscape.org の教育プログラムを支援する企業や Medscape, LLC の見解を必ずしも反映するものではありません。これらの資料では、米国食品医薬品局の承認を受けていない医薬品や既承認医薬品の適応外使用についての検討が行われている場合があります。取り上げられているいずれの医薬品についても、使用前に有資格の医療者への相談が必要です。参加者は、患者の治療または本アクティビティで示された療法の適用を行う前にすべての情報とデータの確認を行ってください。

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