動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 -...

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動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 I. 研究目的 工藤(2004)は,運動学習に関する認知心理学 的研究を概観し,これまでの研究が,運動学習に 関する理論から導かれる学習法の有効性を検証す るトップダウン型の研究を中心に進められてきた ことを指摘するとともに,人間の運動学習の全体 像を明らかにするには,学習者が自分自身の学習 状況に応じて具体的にどのような学習行動を選択 しようとしているのかについても併せて検討しな ければならないと述べている。このような学習者 自身の学習行動に着目したボトムアップの研究 は,運動学習領域では十分には検討されてこな かった。 しかし最近,付加的フィードバック情報利用に 関し,あらかじめ実験的に決められた情報提供ス ケジュールではなく,学習者自身が利用スケ ジュールを決める自己調整条件の効果について調 べた Janelle et al. (1995)の実験をきっかけとし て,学習者自身が主体となって進める練習の意義 に関する研究が徐々に広まりつつある(Bund& Wiemeyer,2004;Chen& Lidor,2002;Chiviac- owsky& Wulf,2002;Chiviacowsky& Wulf, 2006;Chiviacowskyet al.,2005,2008;Janelle et al.,1997;Wrisberg& Pein,2002;Wulf& Toole,1999;Wulfetal.,2001;Wulfetal., 2005)。これらの研究では,おおむね,自己調整練 習条件の方が,外部から与えられた練習条件より も学習成績が優れているという結果が報告されて いる。 学習における自己調整の重要性については,い くつかの理論が提出されているが,運動学習領域 においてはZimmerman(1989,1990)の自己調整 学習理論がしばしば引用されている。Zimmer- manによれば,「自己調整学習」(Self Regulated Learning)とは,自分の学習に対してメタ認知の 面でも,動機づけの面においても,また行動の面 においてもアクティブな状態で進められる学習の ことである。この理論では,学習の成果を決定づ ける主要な要因の一つとして,学習方略の自覚的 使用を挙げており,このような意味での学習方略 のことを「自己調整学習方略」と呼んでいる。 運動課題の学習において,学習者が自発的に採 用する学習方略の有効性を明らかにしようとした 研究の多くは,動作系列の学習を課題として用い ている(Bouffard& Dunn,1993;Chen etal, 2001;Ferrari,1999;藤岡,1997;Ille&Cadopi, 1999;Poon&Rodgers,2000)。これらの研究は, 具体的な運動課題の学習における学習者の学習行 動そのものを分析しており,ボトムアップ型の研 究ということができる。 ただ,そこでの主たる研究目的は,自発的に採 用された学習方略を抽出することにあり,それら の方略と学習成果との関係については,分類され た方略の違いによる比較や,学習成果の高いグ ループと低いグループの間での方略の比較がなさ れているに過ぎない。Janelle et al.(1995,1997) の研究は別として,同様のことは強制練習よりも 自己調整練習の方が有効であることを示した前述 の研究にもあてはまる。それらの実験では,自己 調整練習条件と「くびき」条件との比較という形 で検討が行われている。これらの方法は,比較対 照となる練習条件に対する相対的優位性を明かに することができても,それが最善の方略であると いう保証はない。自発的に採用された学習方略の 妥当性は,単に方略の抽出やレベル間の相対比較, あるいは「くびき」条件との比較に留まるべきで はなく,客観的に有効性が確認されている学習方 23 工藤孝幾 :動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

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動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

工 藤 孝 幾

I. 研 究 目 的

工藤(2004)は,運動学習に関する認知心理学

的研究を概観し,これまでの研究が,運動学習に

関する理論から導かれる学習法の有効性を検証す

るトップダウン型の研究を中心に進められてきた

ことを指摘するとともに,人間の運動学習の全体

像を明らかにするには,学習者が自分自身の学習

状況に応じて具体的にどのような学習行動を選択

しようとしているのかについても併せて検討しな

ければならないと述べている。このような学習者

自身の学習行動に着目したボトムアップの研究

は,運動学習領域では十分には検討されてこな

かった。

しかし最近,付加的フィードバック情報利用に

関し,あらかじめ実験的に決められた情報提供ス

ケジュールではなく,学習者自身が利用スケ

ジュールを決める自己調整条件の効果について調

べたJanelle et al.(1995)の実験をきっかけとし

て,学習者自身が主体となって進める練習の意義

に関する研究が徐々に広まりつつある(Bund&

Wiemeyer,2004;Chen&Lidor,2002;Chiviac-

owsky& Wulf,2002;Chiviacowsky& Wulf,

2006;Chiviacowsky et al.,2005,2008;Janelle

et al.,1997;Wrisberg& Pein,2002;Wulf&

Toole,1999;Wulf et al.,2001;Wulf et al.,

2005)。これらの研究では,おおむね,自己調整練

習条件の方が,外部から与えられた練習条件より

も学習成績が優れているという結果が報告されて

いる。

学習における自己調整の重要性については,い

くつかの理論が提出されているが,運動学習領域

においてはZimmerman(1989,1990)の自己調整

学習理論がしばしば引用されている。Zimmer-

manによれば,「自己調整学習」(Self Regulated

Learning)とは,自分の学習に対してメタ認知の

面でも,動機づけの面においても,また行動の面

においてもアクティブな状態で進められる学習の

ことである。この理論では,学習の成果を決定づ

ける主要な要因の一つとして,学習方略の自覚的

使用を挙げており,このような意味での学習方略

のことを「自己調整学習方略」と呼んでいる。

運動課題の学習において,学習者が自発的に採

用する学習方略の有効性を明らかにしようとした

研究の多くは,動作系列の学習を課題として用い

ている(Bouffard& Dunn,1993;Chen et al,

2001;Ferrari,1999;藤岡,1997;Ille&Cadopi,

1999;Poon&Rodgers,2000)。これらの研究は,

具体的な運動課題の学習における学習者の学習行

動そのものを分析しており,ボトムアップ型の研

究ということができる。

ただ,そこでの主たる研究目的は,自発的に採

用された学習方略を抽出することにあり,それら

の方略と学習成果との関係については,分類され

た方略の違いによる比較や,学習成果の高いグ

ループと低いグループの間での方略の比較がなさ

れているに過ぎない。Janelle et al.(1995,1997)

の研究は別として,同様のことは強制練習よりも

自己調整練習の方が有効であることを示した前述

の研究にもあてはまる。それらの実験では,自己

調整練習条件と「くびき」条件との比較という形

で検討が行われている。これらの方法は,比較対

照となる練習条件に対する相対的優位性を明かに

することができても,それが最善の方略であると

いう保証はない。自発的に採用された学習方略の

妥当性は,単に方略の抽出やレベル間の相対比較,

あるいは「くびき」条件との比較に留まるべきで

はなく,客観的に有効性が確認されている学習方

23工藤孝幾:動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

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略との比較において評価されるべきである。

そこで工藤(1998,2000)は,従来のトップダウ

ン型の研究で明らかにされてきた二つの運動学習

に関する研究成果を基に,客観的に有効であるこ

とが明らかにされている学習方法との比較で,学

習者が採用した学習方略の有効性を確かめてい

る。まず,工藤は(1998),運動技術を練習する際

にすべての練習試行でKRが提供される100%

KR条件より,2試行に1回の割でしか提供され

ない50%KR条件の方が保持パフォーマンスに

おいて優れているという実験結果(Winstein &

Schmidt,1990)を利用し,100%KR条件と50%

KR条件の他に,KR利用の仕方を被験者自身が

決めることができる「自己調整条件」を加えて実

験を行った。また工藤(2000)は,文脈干渉効果

(Shea& Morgan,1979)を題材として,自己調

整練習条件の学習成果を,ランダム練習条件やブ

ロック練習条件の学習成果と比較することによっ

て,自発的に採用された学習方略の妥当性を検討

している。これら二つの実験結果は,たとえそれ

が大学生の学習者であったとしても,最善の学習

方略を採用するとは限らないことを示すもので

あった(工藤,2004)。

また,工藤と片平(2007)は,動作系列のモデ

リングによる学習についても同様の試みを行って

いる。具体的には,その場で両足ジャンプを7回

繰り返す時の手足の動きを覚えるという運動課題

を用いて,自由に練習することが許される条件と,

外部からの指導のもとで行われる練習条件とを,

小学校高学年と大学生を対象として比較した。そ

の結果,小学生の場合は指導条件の方が自由練習

条件より優れているのに対し,大学生では,指導

条件と自由練習条件との間に差が見られないこと

を報告している。これらの結果は,小学生のレベ

ルでは,この課題の学習にかかわるメタ認知が獲

得されていないのに対して,大学生の場合は,有

効な練習方法を自発的に採用するためのメタ認知

が獲得されていることを示唆するものである。

ただし,この実験で用いられた運動課題は,動

作の系列をジャンプでつないでいくというもので

あり,練習を繰り返すには一定の体力を必要とす

るものである。したがって,学習者の学習行動に

は,メタ認知ばかりではなく,体力やメンタルな

面も影響していた可能性がある。また,工藤と片

平(2007)の実験における指導条件の指導内容は,

学習行動の観察結果に基づいて探索的に構成され

たものであり,必ずしも明確な根拠に基づくもの

ではなかった。そこで本研究では,① 体力的な要

求度の少ない動作系列の学習課題を用いて自発的

学習方略の抽出を試みること(実験1),② 実験的

な検討結果に基づいて指導内容を設定することに

より,改めて自由練習条件と指導条件との有効性

の比較を試みること(実験2及び実験3)を主たる

目的として実験を行った。

II. 実 験 1

1. 目的

前述したように,工藤と片平(2007)は,その

場で両足ジャンプを7回繰り返す時の手足の動き

を覚えるという運動課題を用いて,モデリングに

おける自発的学習方略の妥当性について検討し,

大学生は有効な練習方法を自発的に採用すること

ができることを示唆する結果を得ている。ただし,

これらの結果は,運動課題がジャンプ動作による

系列動作課題であり,練習を繰り返すには一定の

体力を必要とする課題の学習で得られたものであ

る。したがって,学習者の学習行動には,メタ認

知の他にも体力やメンタル面など,他の要因も影

響していたと考えることができる。そこで実験1

では,大学生を対象に,体力的な要求度の少ない

系列動作課題を用いて再度,自発的学習方略の抽

出を試みるとともに,学習成績のレベルによる学

習方略の相違の有無について調べることを目的と

する。

2. 方法

(1) 被験者

大学生男女25人を被験者とした。

(2) 学習課題

課題は,石倉と猪股(1995)の実験で用いられ

人間発達文化学類論集 第10号 2009年12月24

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た動作系列の学習課題を参考に作成した。八つの

ポーズの組み合わせによる動作系列(図1)を,決

められたスピードで遂行することが課題である。

遂行に要する時間は約5秒である。

この動作系列は,図中の④の動作を中心に左右

対称の動きになるように配置されており,この点

に気づけば動きを頭で覚えるには比較的容易であ

る。しかし,図中の②と⑥の局面において手と

足の出す側を逆にしたことと,③と⑤の局面に

おいてしゃがんだ時に腕を伸ばすようにしたこと

で,手足を協応させるのが困難な局面が含まれる

ようにした。こうすることで,頭で覚えるには比

較的簡単だが,覚えただけですぐにできるように

はならないような性質の運動課題になるよう配慮

した。

課題の提示は,モデルが課題を遂行する様子を

収録したビデオテープ(以後,デモテープと呼ぶ)

によって行った。被験者には,デモテープを利用

し,モデルと同じスピードで遂行することができ

るようになるまで練習することを求めた。

デモテープは,〔2秒間の直立姿勢→動作開始を

示す予備動作→5秒の本動作〕を1サイクルとし,

このサイクルが連続して提示されるように編集し

た。なお,モデルの動きは背後から撮影した。

(3) 実験手続き

被験者には,デモテープに収録したモデルの動

きを自分一人でできるように練習すること,練習

中はデモテープを流し続けること,練習の仕方は

自由であること,なるべく早く覚えること,覚え

たと思ったら合図することなどを告げた後,一人

で自由に練習させた。練習中の学習行動は,すべ

てビデオテープに収録された。

なお,被験者がモデルの動きを見ながら動作を

行っているのか(模倣),それともモデルの動きを

無視して動作を行っているのかを判定するため,

モニター画面を斜め40度の前方に配置すること

にした。このことにより,動作を行っている際に,

被験者がモニター画面を見ているか否かの判定を

しやすくした。

被験者から,覚えたという合図があった時点で

デモテープの再生を停止し,すぐにテストを行っ

た。2回連続してモデルとほぼ同じスピードで再

現できた場合を合格とし,できなければ引き続き

練習を継続させた。1,000秒経過しても達成できな

い場合は,その時点で練習を終了した。

合格の基準は,動きの質は問わないこととし,基

本的な動きの系列が正しく再現されていること,

所要時間がおおむねモデルのそれと同じであると

判断されることの2点であった。

実験終了後に,練習の仕方で工夫した点,自分

の練習方法に対する自己評価,効率的に覚えるに

はどのような練習方法が良いと思うかなどについ

てインタビューを行った。

3. 結果と考察

(1) 学習行動に基づく分析

ビデオに収録した学習行動に基づき,学習方略

の分析を行ったところ,学習行動は「観察」「模倣」

「動作」「イメージ」の四つの行動に分類すること

ができた。これは,動作系列の学習行動を分析し

た藤岡(1997)の結果とほぼ共通している。「観察」

とは,静止したままモデルの動きを観察する行動

図1 実験1で用いた動作系列の学習課題

25工藤孝幾:動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

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である。「模倣」とは,モデルの動きに同期させて

自分でも同じ動きを遂行しようとする行動であ

る。「動作」とは,モデルの動きを無視し,自分の

ペースで動作を試みる行動である。「イメージ」と

は,外見上なんの行動も見られず,しかも休息で

もないと判断された場合である。

特に練習の前半から中盤にかけては,それぞれ

の行動が1サイクルの中で一貫して行われること

は少ない。そこで,学習行動の分析に当たっては,

そのサイクルでどの行動が主として用いられてい

たかという観点で判断し,学習行動をサイクル単

位で集計した。

被験者ごとに,全所要時間に対するそれぞれの

行動に費やした時間の百分率を求め,それをその

行動の実施率として指数化した。この集計結果に

基づき,以下に示す基準で学習方略のタイプ分け

を行った。

・「模倣中心型」:模倣のみ,あるいは模倣を中

心に二つの学習行動で全体の90%以上を占

める場合。

・「動作中心型」:動作のみ,あるいは動作を中

心に二つの学習行動で全体の90%以上を占

める場合。

・「渉猟型」:三つ以上の行動が見られた場合。

なお,一つの行動のみで終始する単独型,観察

あるいはイメージを中心として他の行動と組み合

わせる「観察中心型」は見られなかった。

次に,被験者全体を達成までの所要時間に基づ

いて成績の上位群12名と下位群13名とに分類し

た。区分は,被験者全体の人数を2分割するとい

う便宜的理由のみでなく,12番目の成績と13番

目の成績との間に大きなパフォーマンスの差が見

られたことも考慮に入れて行った。

表1は,課題を達成するまでの所要時間の半分

の時点を境に練習前半と練習後半に分けた場合

の,上位群と下位群の学習方略のタイプを集計し

たものである。

条件数に対して被験者数が少ないこと,また系

列動作をモデリングで学習する場合,模倣をどの

ように用いるかが学習成績を左右する重要な要因

であること(工藤と片平,2007)から,動作中心

型と渉猟型とを統合し,模倣中心型とそれ以外の

型の2分類について上位群と下位群ごとに直接確

率計算を行ったところ,下位群でのみ有意であっ

た(上位群:p=0.768,下位群:p=0.047)。この

意味を解釈する手がかりとして,四つの行動実施

率の2グループの平均値を練習の前半と後半に分

けてグラフ化したのが図2と図3である。

上位群では練習の時期に関らず模倣中心に行わ

表1 上位群と下位群の方略比較

方略の型上位群(12人) 下位群(13人)

前半 後半 前半 後半

模倣中心型 9 6 9 3

動作中心型 0 2 0 7

渉猟型 3 4 4 3

計 12 12 13 13

図3 学習行動のレベル間比較(練習後半)

図2 学習行動のレベル間比較(練習前半)

26 人間発達文化学類論集 第10号 2009年12月

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れているのに対し,下位群では練習前半と後半で

学習行動の変更が生じていることがわかる。図か

ら,練習前半では,レベルに関らず模倣中心に練

習していること,上位群は観察に比して動作が少

ないのに対し,下位群ではこの逆の傾向が見られ

ることなどが読み取れる。一方,練習後半では,レ

ベル間で学習行動に相違が見られ,上位群は模倣

中心に動作を併用しているのに対し,下位群では

この関係が逆転していることがわかる。

これらの結果は,上位群は,模倣しながら練習

しつつ,観察によって動きを記憶し,テープを見

ずに動作してみることによって学習状況をモニ

ターするという方略を採用していること,これに

対して下位群は,模倣によって十分に系列を覚え

る前に動作のみの練習を繰り返す方略を採用した

ために,練習が空転してしまっていることなどを

示唆している。

(2) インタビューに基づく分析

自分のとった練習方法は適切であったか,ある

いは,今の段階でもっと良い方法はどんな方法か

についての質問に対しては,「自分の方略は良かっ

た」と答えた被験者が10名,「別のやり方の方が

良かった」と答えた被験者が15名であった。ただ,

この回答結果と実際の学習方略のタイプ,あるい

は達成所要時間との関連性は見られなかった。「自

分のやり方は良くなかった」と答えた被験者のう

ちの6名は,「はじめから身体を動かして覚えれば

よかった」と述べており,6名は,「はじめは身体

を動かさずに観察すれば良かった」と述べている。

前者の理由としては,見ただけでは動きが覚えら

れないということが挙げられており,後者の理由

としては,はじめから身体を動かすと見ることに

集中できない,動きを覚えることができないと

いったことが挙げられた。

このように,自分が採った学習方略に関する自

己評価は全体として漠然としているところから,

実際の練習中に練習の仕方を意識的に工夫するこ

とは,あまり行われていないものと考えられる。た

だ,初めから身体を動かすことについての上記の

陳述は,その内容が正反対であるものの,後述す

るように,それぞれがモデリングにおける介入動

作の意義に関わるものであった。

練習する際に工夫した点についてのインタ

ビューでは,全員に共通する質問事項として「全

集法」と「分習法」に関する質問を行った。「分習

法」には「並列分習」と「系列分習」とがあるが

(Proctor&Dutta,1995),このうち手の動きと脚

の動きとを別に練習する「並列分習」を採用した

と答えた人は6名で,それ以外の19名は別々に覚

えようとはしなかったと答えた。また「分習法」を

採用したと答えた被験者の学習行動を見ると,全

員が手の動きを覚えてから脚の動きを付け加えよ

うとしており,「単純分習法」でなく「反復分習法」

あるいは「漸進的分習法」(Proctor& Dutta,

1995)を用いようとする意図が明らかであった。本

課題の場合は両手と両足を協応させる課題であ

り,単純な並列分習は適切な練習方法ではないと

考えられるが,この点についてはほとんどの被験

者が認識していたと言える。

次に,「系列分習」についての質問に対しては,

「特に分割はしなかった」が9名,「前半と後半に

分けて覚えた」が13名,「ある部分だけを取り出

して覚えた」が3名であった。今回の課題は,八

つの動きで前半と後半がまったく対称になってい

る。そのため,前半の四つの動きを覚えてしまえ

ば,後半はそれを逆にするだけであった。このよ

うな構造であることに気づいたかという質問をし

たところ,構造に気づかなかったのは3名で,残

りの22名は気づいたと答えている。また,前半と

後半に分けて覚えたと答えた13名全員がこの構

造に気づいていた。構造にはまったく気づかな

かったと答えた3名は,すべて全体の平均所要時

間(535秒)より大幅に(100秒以上)時間がかかっ

ていたことから,構造に気づいたかどうかが課題

達成の所要時間を決定する大きな要因であったこ

とがわかる。

この事に関連して,被験者全員に対し,頭で動

きを記憶したのはいつかについての質問をしたと

ころ,全体を10とした場合の3~4の時点と答え

た者が11名,5の時点が7名,7~8の時点が4名,

27工藤孝幾:動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

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「身体で覚えたので,頭では覚えていない」または

「覚えたのは最後にできたとき」と答えたのが3名

であった。このように,25名中18名の被験者が,

半分までには動きを記憶したと答えている。この

ことに基づけば,動きの再生を求めず記憶するだ

けの課題(後述)であるとすれば,この実験で得

られた全体の平均所要時間の約半分の時間で課題

を達成することができることになる。

以上が,練習する際に工夫した点についての共

通の質問に対する回答結果であるが,この他に被

験者からは,工夫した点として「リズムをとった」

(6名),「手と足が対称になっているので気をつけ

た」(2名),「動作の際,映像を頭に浮かべながら

やった」(2名),「頭の中で『曲げて,伸ばして,右,

左』などと言い聞かせてやった」(2名),「ダンス

のように流れで覚えた」(1名)といった回答が得

られた。

III. 実 験 2

1. 目的

運動学習におけるモデリングは,〔注意―保持―

動作再生―動機づけ〕の四つのプロセスで考えら

れている(Bandura,1969,1971,1986)が,これ

らは大きく,動きを記憶するプロセスと,記憶し

た動きを再生するプロセスとに区分することがで

きる。実験1では,成績の上位群は,模倣しなが

ら練習しつつ観察によって動きを記憶し,デモ

テープを見ずに動作してみることによって学習状

況をモニタリングするという方略を採用している

のに対し,成績の下位群は,模倣によって十分に

系列を覚える前に動作のみの練習を繰り返す方略

を採用しており,このため練習が空転してしまっ

ていることを示唆する結果が得られた。また,イ

ンタビューによれば,多くの被験者が課題達成に

要する時間の半分以下で動きの系列を記憶してい

ることがわかった。これらのことから,この運動

課題の場合は,はじめに動作系列を記憶し,後半

で動作の再生練習をする方法,すなわち,動きを

記憶するプロセスと,記憶した動きを再生するプ

ロセスとを時系列を踏んで学習する方法が有効で

あると考えられる。

ところで,Berger,et al.(1970)や Williams

&Willoughby(1971)は,モデルの動きを観察す

る際に,観察者側で動きが誘発される現象が見ら

れることを報告している。またWilliams(1987)

は,介入動作(motoric rehersal)のモデリングに

及ぼす役割について分析し,単なる受動的な観察

よりも,介入動作を伴わせた方が学習が促進され

ることを報告している。これらの事実に基づけば,

動作再生の必要がない単なる動作系列の記憶課題

として本課題を置き換えた場合でも,被験者は自

発的に介入動作を行うのではないかと考えられ

る。

そこで,ここでは実験1で用いた動作の系列を

用い,動作での再生を求めない単なる系列の記憶

課題として与えた場合の自発的学習方略を調べる

ことを第一の目的とする。以後,動作の再生を必

要としない場合を系列記憶課題と呼ぶ事にする。

また,系列記憶課題を自由に学習する条件,介入

動作を伴わせて学習する条件,介入動作を行わず

観察のみで学習する条件を比較することにより,

この系列記憶課題における最善の学習方略を明ら

かにするための手がかりを得ることが第二の目的

である。

2. 方法

(1) 被験者

実験1とは異なる大学生36人を被験者とした。

(2) 学習課題

実験1と同じデモテープを用いた。被験者に求

めたのは,動きの系列を記憶することであり,動

作の再生は求めなかった(系列記憶課題)。

(3) 実験手続き

被験者には,デモテープに収録したモデルの動

きを記憶すること,記憶中はデモテープを流し続

けること,なるべく早く覚えること,覚えたと思っ

たら合図することなどを告げた後,学習を行わせ

た。学習行動は,すべてビデオテープに収録され

た。

被験者から,覚えたという合図があった時点で

28 人間発達文化学類論集 第10号 2009年12月

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デモテープ再生を停止し,すぐにテストを行った。

テストは,動きの可能性をすべて示した図版(図

4)をそれぞれ10枚用意し,一つのポーズを1枚

の図版の上にスティックピクチャー方式で順次上

書きさせることによって行った。テストに失敗し

た場合は再びデモテープを流し,更に覚える努力

を継続させた。

被験者を,以下の学習条件に12人ずつランダム

に割り当てた。

①自由学習条件:課題を説明した後,一人で自

由に記憶させた。被験者の学習行動はすべて

ビデオテープに録画された。

②観察学習条件:手足を動かさずに観察のみで

覚えるように教示した。動作が誘発された場

合は,その都度動かさずに記憶するよう注意

した。

③動作学習条件:観察する時,可能な範囲で手

足の動きを伴わせる(介入動作)よう教示し

た。動きは,あくまでも補助的な動きに留め

るように指導した。また,動きが見られなく

なった場合は,その都度介入動作を行うよう

注意を与えた。

実験終了後,実験1同様に自分の練習方法に対

する自己評価を中心にインタビューを行った。

3. 結果と考察

(1) 学習行動に基づく分析

ビデオに収録した自由学習条件の被験者の学習

行動の分析を行ったところ,基本的には実験1の

系列動作課題の場合と同様に,「観察」「模倣」「動

作」「イメージ」の四つの行動に分類することがで

きた。そこで,被験者ごとに全所要時間に対する

それぞれの行動に費やした時間の百分率を求め,

それをその行動の実施率として指数化した。人数

が少ないので,実験1のように上位群と下位群の

統計的検定は行わないが,レベル間差はほとんど

見られなかった。また,練習の前半と後半の比較

でも,方略の違いは見られなかった。図5は,四

つの行動実施率を練習の前半と後半に分けて比較

したものである。

最も興味深い点は,ここでの課題が,記憶した

動きの系列を動作で再生する必要がないにもかか

わらず,すべての被験者が多かれ少なかれモデル

の動きに合わせて身体を動かしていた点である。

モデルの動きを無視し,自分で動かしてみようと

する「動作」に分類される行動はほとんど認めら

れなかった。

図6は,課題達成に要した時間を3条件で比較

図4 実験2で用いた記憶再生用の図版

図5 系列記憶課題における学習行動指数の比較

図6 系列記憶課題における課題達成所要時間の条件間比較

29工藤孝幾:動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

Page 8: 動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 - 福島大学...動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 工藤孝幾 I.研究目的

したものである。分散分析の結果,有意差が見ら

れたので(F=4.56,df=2/3,p<.05),LSD法に

よる多重比較を行ったところ,観察学習条件と動

作学習条件との間,及び自由学習条件と動作学習

条件との間に有意差が見られ(MSe=33384.5,

p<0.5),自由学習条件と観察学習条件との間に差

は見られなかった。

この結果は,動きの再生が求められていない場

合においても,積極的に介入動作を行うことに

よって記憶が促進されることを示している。前述

したように,自由学習条件のほとんどの被験者に

おいて,モデルの動きに合わせた自発的な動作が

観察されたにもかかわらず,自由学習条件が動作

学習条件の成績に達していないということ,また

自由学習条件と観察学習条件との間に差が見られ

なかったと言うことは,自発的な動作が記憶の成

績を促進するような機能を果たすまでには至って

いなかったことを示唆している。すなわち,介入

動作を積極的に使用した方が学習は促進されると

いうところまでは,被験者の考えが及ばなかった

ことを示しているといえる。

(2) インタビューに基づく分析

自由学習条件12名のうち,身体を動かして覚え

た被験者9名に,動作を再生する必要がなかった

のに身体を動かしたのはなぜかについて質問し

た。その結果,①「身体を動かした方が覚えやす

い」,②「動きに託して覚えておく」,③「身体を

動かすことによって系列が理解できる」,という3

種類の回答が得られた。また,観察のみを行って

いた3名のうち2名は,「観察だけでも覚えられ

る」,「身体を動かすとかえって混乱する」と述べ

ており,1名は「身体を使って覚えた方がよかっ

た」と述べている。

次に,観察学習条件12名に,観察するだけで身

体を使わないやり方についての感想を聞いたとこ

ろ,全員が「身体を動かした方がよかった」と答

えた。それに対して,動作学習条件の12名に身体

を動かして覚えるやり方について聞いたところ,8

名は「やりやすかった」と答え,4名は「見ること

に集中できないので,観察のほうがよい」と答え

た。

以上のことから,ほとんどの被験者が,動作の

再生が求められない記憶課題であっても,身体を

動かすことによって覚えやすくなると感じている

ことがわかる。ただ,前述したように,そのよう

な動作を積極的に使用した方が学習は促進される

というところまでは,考えが及ばなかったという

ことである。

なお,自由学習条件の中の2名,動作学習条件

の4名の被験者は,「観察の方が良い」,あるいは

「動きを伴わせることによって観察することに集

中できなくなる」といった,上記の内容とは正反

対の趣旨の感想を述べている。ただし,そのよう

に答えている被験者の数が動作学習条件に偏って

いることから,はじめから身体を動かすことを強

制されたために観察することに集中できなかった

点を述べたものと思われる。

動作を再生する必要がなかったのに身体を動か

したのはなぜかという質問に対する前述の3種類

の回答内容(①~③)は,介入動作によってなぜ

記憶が促進されるかを考える際の重要な手がかり

を提供している。①の「身体を動かした方が覚え

やすい」という回答はやや包括的な表現であり,そ

れをより具体的なレベルで表現したものが,②の

「動きに託して覚えておく」,あるいは③の「身体

を動かすことによって系列が理解できる」といっ

た回答であると考えられる。介入動作には,系列

の動きを覚えるための補助的機能と,系列の動き

を理解する上での補助的機能とが含まれていると

考えられるが,これらの回答はそれらを反映して

いるものと考えられる。

実験2の被験者全員に対して,実験1同様に八

つの動きの構造に気づいたかを質問したところ,

29名が「気づいた」と答え,残りの7名は「気づ

かなかった」と答えている。実験1同様,構造に

気づかなかった7名全員が,それぞれの条件にお

ける達成所要時間の平均値より時間がかかってい

たことから,動作での再生の有無に関らず,課題

の構造に気づくことが成績を左右する重要な要因

であることがわかる。

30 人間発達文化学類論集 第10号 2009年12月

Page 9: 動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 - 福島大学...動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 工藤孝幾 I.研究目的

(3) 最善の学習方略について

動作再生の必要がないにもかかわらず,動きを

伴わせて記憶しようとしている点は,Berger,et

al.(1970)や Williams&Willoughby(1971)の

研究と同じであり,単なる受動的な観察よりも介

入動作を伴わせた方が,学習が促進されるという

Williams(1987)の主張を支持する結果であった。

Cohen(1981)や藤田(1995)は,行為に関する記

憶に関し,単に文章や言語のみで記憶するのに比

べ,実際の行為を伴わせた方が,記憶再生パフォー

マンスが優れていることを報告している。同様に

Meacci& Price(1985)やRoss(1985)は,運

動技術をメンタルリハーサルによって学習する際

に,動作のシミュレーションを伴わせることに

よって学習が促進されることを示している。更に,

喜多(2002)は,身振り(ジェスチャー)の機能

として,ノンバーバルなコミュニケーションの

ツールとしての機能だけでなく,思考を促進する

機能が含まれていると述べている。このように,介

入動作には,動きに託して覚えておくという機能

や,身体を動かすことによって系列の理解を促進

する機能が含まれてことを示すものである。ただ,

繰り返しになるが,自由学習条件の成績が動作学

習条件のそれより劣っていたということは,その

ような機能を積極的に使用することによって効率

的に学習を進めようとするところまでは,考えが

及ばなかったということを意味するものである。

前述したように,モデリングによる運動学習の

プロセスは,モデルの動きを記憶するプロセスと,

記憶した動きを再生するプロセスとに区分するこ

とができる。実験2の結果は,前半のプロセスに

おける最善の学習方法とは,単に観察のみで記憶

するのではなく,積極的に介入動作を用いながら

観察する方法であることがわかる。そして,前半

におけるこの介入動作は,後半における動作再生

の練習にも積極的な影響を及ぼすと考えられる。

すなわち,単に観察のみで記憶するのに比べ,動

きの質そのものは不十分であるとはいえ,動きの

実体験を持っていることは,動作の再生練習に

とって積極的な意味があると考えられる。

以上のことから,実験1で用いた学習課題の最

善の学習方法とは,前半では介入動作を伴わせな

がら動きの系列を記憶することに集中し,記憶が

確立したところで徐々にモデルの動きから離れ動

作の再生練習に移行するやり方,すなわち実験1

で明らかになった成績上位者の学習方略に近いも

のであることがわかる。

IV. 実 験 3

1. 目的

以上の結果から,この課題の学習では,動きを

記憶するプロセスと,記憶した動きを再生するプ

ロセスとに区分し,はじめに介入動作を伴わせな

がら動作系列を覚え,その後に動作再生の練習を

する方略が適していると判断される。このうち,前

半の練習における介入動作とは,あくまでも補助

的な動きであることが重要である。なぜなら,モ

デルの動きそのものを模倣しようとすると,動作

遂行そのものに注意が奪われてしまい,肝心の動

きの系列を記憶する方がおろそかになってしまう

からである。

また,後半の動作再生の練習においては,動作

遂行速度に対する注意が必要であると考えられ

る。前述したように,この課題では,手と足の出

す方向を逆にしたことと,しゃがんだ時に腕を伸

ばすようにしたことにより,手足を協応させるの

が困難な部分が含まれるように工夫されている。

Walter& Swinnen(1992)は,身体部位間の動

作の連結とは異なる協応を獲得する場合(decou-

pling)は,最初はゆっくりとした動作で行い,徐々

にスピードアップしていく調整練習法(Lintern

& Gopher,1978)が有効であることを示してい

る。したがって,この課題の場合,動作再生練習

の段階では,最初からモデルと同じ速度で練習す

るのではなく,初めは記憶をたどりながらゆっく

りと遂行し,徐々にスピードアップして最終的に

モデルの動きの速度に近づけていく方略が適して

いると考えられる。

そこで,これらの知見に基づいて構成した指導

の下で練習させた場合の学習成果を,学習者の判

31工藤孝幾:動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

Page 10: 動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 - 福島大学...動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 工藤孝幾 I.研究目的

断で自由に練習した場合の学習成果と比較するこ

とによって,自発的に採用される学習方略の妥当

性を検討することが,実験3の主たる目的である。

2. 方法

(1) 被験者

以下に述べる指導条件の被験者として,新たに

大学生男女15人を被験者とした。自由練習条件に

ついては,実験1の被験者のデータをそのまま利

用した。

(2) 課題

学習課題は,実験1と同一である。

(3) 手続き

被験者を,以下の2条件に割り当てた。(自由練

習条件は,実験1のデータを使用した。)

・「自由練習条件」:被験者には,デモテープに

収録したモデルの動きを自分一人でできるように

練習すること,練習中はビデオを流し続けること,

練習の仕方は自由であること,なるべく早く覚え

ること,覚えたと思ったら合図することなどを告

げた後,一人で自由に練習させた。

・「指導条件」:はじめに,練習の仕方について

の説明がなされた。すなわち,最初は動きの系列

を記憶すること,その際,デモテープのモデルの

動きに合わせて軽く手足を動かすようにするこ

と,完全に動きの系列を覚えたら,なるべくデモ

テープを見ないようにして動作の再生練習をする

こと,その際,初めはゆっくりと行い徐々にスピー

ドアップしてモデルの動きに近づけるようにする

ことなどである。説明の後,被験者は説明を受け

た練習法で練習を行った。実験者は被験者の練習

状況を観察し,練習の仕方が説明した内容から逸

脱している場合は,その都度,前述の原則に従っ

て指導を行った。

これまでの実験と同様,覚えたと思った時点で

被験者に合図をさせ,テストを行った。不合格で

あれば練習を継続させ,1,000秒経過しても達成で

きない場合は,その時点で練習を終了させた。

実験終了後,実験1同様に自分の練習方法に対

する自己評価を中心にインタビューを行った。

3. 結果と考察

(1) 学習行動に関する分析

図7は,自由練習条件と指導条件の課題達成ま

での所要時間を示したものである。分散に等質性

が見られなかったので,ウェルチの法による t 検

定を行ったところ,2条件間に有意差が見られた

(t=2.245,df=37.7,p<.05)。この結果は,今回と

同様の趣旨で行った工藤と片平(2007)の実験に

おける大学生の結果とは異なるものである。工藤

と片平(2007)の実験の場合,小学生では自由練

習条件よりも外部から練習の仕方が強制された条

件(強制練習条件)の効果が確認されたが,大学

生では自由練習条件と強制練習条件との間に差は

見られていない。

このように,大学生に関して異なる結果が得ら

れた原因の一つは,今回の場合,大学生の中にお

いても課題達成のレベルによって学習方略の相違

が生じたことが原因と考えられる。工藤と片平

(2007)の実験では,学習成績のレベルによる方略

の違いは見られなかったが,今回の場合は不十分

な方略を用いている被験者が含まれており,彼ら

に対して外部からの指導が効果を発揮したものと

考えることができる。

もう一つの理由として考えられるのは,工藤と

片平(2007)の実験における強制練習条件の方法

があくまでも探索的に設定されたものであるのに

対して,今回の実験の場合は,実験的検討に基づ

いて構成された練習方法であったという違いであ

る。すなわち,前者は必ずしも最適の練習方法で

図7 指導条件と自由練習条件の課題達成所要時間の比較

32 人間発達文化学類論集 第10号 2009年12月

Page 11: 動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 - 福島大学...動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 工藤孝幾 I.研究目的

はなかったのに対して,本実験の指導条件は,こ

の課題の学習にとってより適切な方法であった可

能性が高いということである。

以上の結果は,大学生においても,自由に練習

させた場合に比べて,指導の下に行われる練習の

方が成績は優れていること,したがって,大学生

であっても,この課題を練習するための適切な学

習方略を自発的に採用するには至っておらず,練

習の仕方についての指導が必要であることを示す

ものである。

(2) インタビューに基づく分析

最後に,実験終了後に行ったインタビュー結果

について示す。指導条件の被験者に対して,自分

が実際に行った練習の仕方についてどのような感

想を持ったかを質問したところ,「このやり方がい

いと思う」と答えた被験者は,15名中のわずか3

名であった。そこで,それ以外の12名に,どのよ

うな練習をしたかったかを尋ねたところ,「最初か

らもっと身体を動かしたかった」,「不得意なとこ

ろを取り出して練習したかった」,「前半と後半に

分けて練習したかった」,「もっとゆっくりとした

動きで練習したかった」など,様々な答えが述べ

られた。また,実験1と実験2のインタビュー同

様,八つの動きで前半と後半が対称になっている

ことに気づいたかという質問をしたところ,構造

に気づかなかったのは2名で,残りの13名は練習

前半の早い段階で構造に気づいたと答えている。

興味深い点は,指導練習条件の方が自由練習条

件よりも課題達成の所要時間において優れていた

にもかかわらず,その方法を積極的に評価する人

は15名中3名しかいなかった点である。それ以外

の13名は,前述したように様々な希望を表明して

いるが,彼らに自由に練習をさせれば,おそらく

は自由練習条件の被験者と同様の練習方法を採用

したはずである。したがって,以上のインタビュー

結果は,大学生であってもその課題に適した学習

方略を自発的に採用できるとは限らないことを強

く示唆するものである。

V. ま と め

(1) 全体の要約

本研究の目的は,工藤と片平(2007)の先行研

究の問題点を踏まえ,手と脚の動きの組み合わせ

による系列動作課題を学習する際に学習者が自発

的に採用する学習方略を抽出すること,及び,そ

の方略が課題を学習する上で妥当な方略であるの

かを,大学生を対象に再度,実験的に明らかにす

ることであった。

実験1では,課題のみを説明し,学習の仕方を

すべて被験者に委ねた時の学習行動の分析を行っ

た。課題達成に要する所要時間に基づき学習成績

の上位群と下位群の比較を行ったところ,上位群

は,模倣しながら練習しつつ観察によって動きを

記憶し,モデルの動きを見ずに動作してみること

によって学習状況をモニターするという方略を採

用しているのに対し,下位群は,模倣によって十

分に系列を覚える前に動作のみの練習を繰り返す

方略を採用したために,練習が空転してしまって

いることなどを示唆する結果が得られた。

上記の結果に基づき,実験2では,実験1と全

く同一の動作系列を用い,動作で再生する必要が

ないという条件の下で動作系列の順序を記憶する

際,介入動作を伴わせることによって学習が促進

されるということを実験的に明らかにすること,

及びその課題を学習する際に自発的に採用される

学習方略を抽出することを目的とした。その結果,

動きの再生が求められていない場合においても,

介入動作を行うことによって記憶が促進されるこ

と,自由学習条件においてほとんどの被験者が自

発的な介入動作を行っていること,それにもかか

わらず,介入動作を強制した動作学習条件の成績

には達していないことがわかった。このことは,介

入動作を積極的に使用することによって学習が促

進されるという認識には至っていないことを示唆

している。

そこで実験3では,これら二つの実験結果,及

び関連する先行研究に基づき,はじめに介入動作

を伴わせながら動作系列の順序を覚え,その後,

33工藤孝幾:動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討

Page 12: 動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 - 福島大学...動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 工藤孝幾 I.研究目的

ゆっくりとした動作速度での練習から徐々にス

ピードを上げるようにして動作系列の再生を練習

する方法がこの課題を学習する最善の方法である

と想定し,この方法に沿って指導を行う指導条件

の有効性を,自由練習条件での学習成績と比較し

た。その結果,自由に練習させた場合に比べて,指

導の下に行われる練習の方が優れていること,し

たがって,大学生であっても,この課題を練習す

るための適切な学習方略を自発的に採用するには

至っておらず,学習効率を上げるには練習の仕方

についての指導が必要であることを示す結果が得

られた。

本研究で得られた結果は,大学生は適切な学習

方略を自発的に採用することができるとする工藤

と片平(2007)の先行研究とは異なるものであっ

た。このような違いが見られた原因の一つとして,

工藤と片平(2007)の実験で用いた学習課題では,

学習成績のレベルによる方略の違いは観察されな

かったのに対して,本実験では上位群と下位群と

に差が見られている点を挙げることができる。つ

まり今回の場合,不十分な方略を用いている被験

者が含まれており,彼らに対して外部からの指導

が効果を発揮したということである。もう一つの

理由として考えられるのは,工藤と片平(2007)の

実験において自由練習条件と比較した指導条件は

探索的に設定されたものであるのに対して,今回

の実験の場合は,事前の実験的検討結果に基づい

て構成された指導内容であったという違いであ

る。すなわち,前者は必ずしも最適の指導内容で

はなかったのに対して,本実験の指導は,この課

題の学習にとって最適なものであった可能性が高

いということである。

(2) 全体的考察

前述したように,自発的学習方略の有効性に関

する従来の研究結果は,学習者は最善の方略を選

択することができるとするものと,必ずしも最善

の方略を選択するとは限らないとするものとが報

告されているが,本研究では後者を支持する結果

であった。自発的な練習は,動機づけの観点から

は大いに奨励されるべきものであり,アスリート

が高いパフォーマンスを発揮するためには必ず取

り組まなければならないものである。Cleary&

Zimmerman(2001)やKitsantas&Zimmerman

(2002)は,一流のアスリートほど,練習の過程を

より積極的に自己調整していることを明らかにし

ている。しかし,自己調整による練習が効果を発

揮するには,自発的に採用される学習方略が妥当

なものでなければならない。なぜなら,不適切な

学習方法を自発的に繰り返すことは,努力の空回

りとなるからである。今回の結果も含め,工藤の

一連の研究結果は,それがたとえ大学生であった

としても,学習者は最善の学習方略を選択すると

は限らないことを示している。

運動学習において自発的に採用される学習方略

は,その時の練習環境やコンディションなど様々

な要因で左右される。その中で,これら外的な要

因以上に強い決定力を持っているのは,学習者が

運動学習に関連して有している「メタ認知」であ

る。すなわち,学習者が妥当な学習方略を採用す

ることができるかは,運動学習に関るメタ認知の

確かさにかかっている。今回の研究も含め,運動

学習に関わるメタ認知の検討は,ようやく始まっ

たばかりであり,今後,様々な運動課題や練習場

面において,メタ認知の実態やその妥当性を明ら

かにする試みが必要である。

本研究では,モデリングによる運動学習を題材

として自発的学習方略の妥当性の問題を検討した

が,運動学習においてモデリングが果たす役割は,

今後ますます重要さを増していくものと考えられ

る。運動学習における課題提示手段として,これ

までは教師自身や高い技術レベルの生徒による模

範演技の提示が中心であったが,近年の目覚まし

いAV機器の発達と普及は,映像によるモデルの

反復提示を可能としている。他方で,運動学習の

望ましい在り方として,教師中心の一斉指導から,

生徒の能力や個性に応じた学習者中心の学習形態

へと授業改善が求められている。このような中で,

モデル情報の反復提示とその自発的利用の機会は

今後ますます増大していくであろう。今回得られ

たモデル映像の利用方略に関する知見を基に,自

34 人間発達文化学類論集 第10号 2009年12月

Page 13: 動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 - 福島大学...動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 工藤孝幾 I.研究目的

発的に採用されるモデリングの学習方略の妥当性

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(2009年10月6日受理)

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付 記

本論文は,筆頭執筆者に支給された平成15・16年度科学研

究補助金(基盤研究C2,課題番号15500403)による実験

データの一部に,データを追加し分析し直したものである。

また,この論文の実験結果の一部は,平成16年の日本ス

ポーツ心理学会第31回大会において発表した。

36 人間発達文化学類論集 第10号 2009年12月

Page 15: 動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 - 福島大学...動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討 工藤孝幾 I.研究目的

Reanalysis of the Validity of Spontaneously Adopted Learning

Strategies during the Practice of Movement Sequences

KUDO Koki

With fifth and sixth graders and university students as subjects,Kudo(2007)investigated the

validity of spontaneously adopted learning strategies when learning movement sequences.The

learning task in the study was to reproduce seven consecutive poses in a fixed order while jumping

with both feet in the same place.Results demonstrated that elementary school students performed

better in the condition where they received external practice instructions than in the condition

where they practiced autonomously,whereas university students showed no difference in perfor-

mance between the two practice conditions.From the results,Kudo inferred that university

students had developed metacognition in the spontaneous use of effective learning strategies,while

elementary school students had not yet developed this.

The movement task in Kudo’s study,however,was reproducing movement sequences with a

jumping movement,which requires a certain physical strength.Accordingly,the learning behav-

iors in that study may have been influenced not only by metacognition but also the subjects’physical

strength and other mental factors.Therefore,this study,having a different learning task involving

movement sequences that were less demanding with respect to physical strength,reexamined the

validity of learning strategies that subjects spontaneously adopt.

In addition,while Kudo had a control condition with external instructions to examine the

efficacy of spontaneously adopted learning strategies,the contents of those instructions had not

been adequately considered.Therefore,this study first conducted a preliminary experiment in an

attempt to enhance the validity of the instructions,and the final instructions were based on the

preliminary study’s outcomes.This study had only university students as subjects.

Differing from Kudo’s results,this study demonstrated that subjects performed better under the

condition with practice instruction than in the condition with autonomous practice.Including

findings of post-experiment interviews about their learning behaviors regarding practice,the

results demonstrated that even university students had not yet reached a level where they spontane-

ously adopted learning strategies appropriate to the task,and would benefit from receiving practice

instruction to achieve optimal performance.

37工藤孝幾:動作系列の学習における学習方略の妥当性の再検討