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がん性疼痛の治療について ー薬剤を中心にー 高知医療センター ペインクリニック科 青野寛

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Page 1: がん性疼痛の治療について ー薬剤を中心にーがん性疼痛の治療について ー薬剤を中心にー 高知医療センター ペインクリニック科 青野寛

がん性疼痛の治療について ー薬剤を中心にー         

高知医療センター ペインクリニック科   青野寛

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本日のメニュー

1.痛みとはどんなもの?

2. がんの痛みとその治療方針    消炎鎮痛剤

3.麻薬であるモルヒネの基礎知識

4.麻薬製剤であるモルヒネ徐放剤、速放剤

5.新しい麻薬製剤、オキシコドン、フェンタニール

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(1) 痛みとはどんなもの?

柳の木

樹皮からアセチルサルチル酸 (アスピリン)が作られ 1897年:初めての消炎鎮痛剤

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痛みの特徴

1.不快な感情、情動体験である   悲しみ、不安、孤独、天候などに左右される

2.痛み方は100人100色で多彩である   他人にはわかりにくい、評価しにくいものである

3.日常生活に支障をきたす    仕事にも支障

4.なくてはならないものである     人体に対する警鐘である

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急性痛と慢性痛

1.急性痛 今まさに、痛みがあり、すぐ対処が必要なもの 手術後痛、がん性疼痛、

2.慢性痛 一定の期間(約6ヶ月)治療され、その時期が過ぎても、痛みが 残ったり、新たな痛みを生じたりするもの

各種疼痛疾患、帯状疱疹後神経痛

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(2)がんの痛みとその治療指針

今の時代、2人に1人ががんになる時代です

がんになる人の約70~80%は痛みがあるといわれています

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がんの痛みの特徴

(1)がんの痛みは継続する、また反復する進行性の急性痛である (2)いろいろな因子が複雑に影響している

怒り 恐怖

うつ状態 孤独感

不安、疑問

仕事への不安 社会からの隔たり

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がんの痛みの治療

1.外科手術 2.化学療法 3.放射線療法 4.神経ブロック 5.薬物治療 6.その他、カウンセリング

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がんの痛みに使われる鎮痛薬

① 非ステロイド性消炎鎮痛剤 ② 麻薬系鎮痛剤(モルヒネ、リン酸コデインなど)

鎮痛補助薬 ③ 抗うつ剤(アミトリプチリンなど) ④ 抗けいれん剤(カルマバゼピンなど) ⑤ 抗不整脈薬(リドカインなど) ⑥ ケタミン ⑦ ステロイド  など

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  一般名            商品名 アセチルサルチル酸     アスピリン           ナブロキセン          ナイキサン          インドメタシン         インドメタシン         ジクロフェナックNa       ボルタレン          ナブメトン            レリフェン          ロルノキシカム         ロルカム           ロキソプロフェンNa ロキソニン        エトドラク             ハイペン           メロキシカム          モービック  セレコキシブ          セレコックス         

消炎鎮痛剤

欠点  副作用(胃腸障害、腎障害など)、天井作用などで  長く内服できない 

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1.オピオイドとは? オピオイド受容体、µ受容体、κ受容体、δ受容体に作用する薬剤   ① アヘン(opium)から作られる薬剤       リン酸コデイン、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニール   ② 合成麻薬       ペンタゾシン、ブプレノルフィン など

2.弱オピオイド

  リン酸コデイン、ペンタゾシン、ブプレノルフィン

3.強オピオイド

モルヒネ、オキシコドン、フェンタニール

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がんの痛みの治療方針 

1.定期的に   定時的に使用を

2.なるべく経口で  患者さんの一番楽なルートで

3.痛みの強さにあわせて     三段階的に

4.個人的に鎮痛剤   の量を調節、副作用に   注意 5. ダブルブロック モルヒネなどの麻薬と消炎鎮痛剤の併用

(1986:Twycross)

WHO:がんの痛みからの解放より

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がんの痛みを考える時には

1.① いつ痛むのか?    夜間、明け方、食事の前、後にいたむなど   ② 痛む場所は ? 画像診断は大事   ③ 痛みの性状は?     キリキリと、うずくような、押し付けられるような、etc.

2.内服以外に方法がないのか検討   化学療法、放射線療法、神経ブロックなど

3.使用する鎮痛剤の   副作用(便秘、吐き気、眠気など)をいつも頭の中に

4、患者さんの生活の質を落とさないように   ①食欲、②夜間不眠 ③排便が支障なくできる

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がんの痛みの治療の目標

第1目標:夜間眠ることができるようになる       (痛みで目がさめない状態)

第2目標:安静時痛がとれる       安静にしていれば、痛くないようになる       (笑ったり、クシャミや咳をしても大丈夫な状態)

第3目標:体動時痛がとれるまたは軽快する       からだを動かしたりしても、痛くない       (痛みが軽度で、普通の社会生活ができる状態)

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麻薬であるモルヒネの基礎知識

芥子ぼうず 芥子の花

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モルヒネの歴史

(1)アヘンは古代エジプトではすでに医術に使用された

(2)1806初めて、モルヒネが抽出される(Serturner) 18世紀中頃までに、医学で使用され出す

(3)アヘン戦争など不幸な歴史

果実に傷をつけて得られる白色 の液体を乾燥させたのがアヘン(opium)である

人は未だに、人工的にモルヒネを作り出すことが出来ず、 芥子の栽培から抽出している

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依存と耐性

1.精神的依存  精神的依存とはある薬物の摂取により快感を得るため、  または不快感を除くためにその薬物を衝動的に求める状態

2.身体的依存  薬物摂取の中断により、身体症状(禁断症状、不安、不眠、  振戦など)が出現する状態

3.耐性  薬剤を、持続投与し続けると、同じ量では、同じ効果が得られなく  なり、同じ効果を得るために、増量を余儀なくされる事

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モルヒネに関わる誤解、迷信 1.同じ麻薬でも、ヘロイン、大麻などの社会的麻薬   とは違い、モルヒネは医療用麻薬である   モルヒネが社会問題になったことなし !

2.麻薬中毒とは、社会用語であり、医学用語ではない   麻薬中毒が精神、身体性依存を生じたことをさすのあれば   がんの人に適切に使えば中毒は生じない !

3. 医療従事者側にも、問題あり   モルヒネを使用すると命を縮める薬である??   最後の手段として使う薬剤である????   モルヒネは単に鎮痛剤である!!!   化学療法、放射線療法と同時に使用しても問題なし

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がんの痛みにモルヒネが使用されるわけ?

1.安全な薬であるから   昔から、よくモルヒネ自体が研究されている   起こる副作用も予想でき、その対策も処置もできる

2.モルヒネは他の鎮痛剤に比べて、いろいろな痛みに効く   モルヒネは何年もの期間、内服できる薬剤である   天井作用はない

3.軽い多幸感、鎮静作用がある

4.内服だけでなく、坐剤、皮下注射、点滴などからでも投与できる

5.モルヒネ使用中は医者や、看護師、薬剤師などがそばで、    見ていてくれる

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がんの患者さんにモルヒネの精神的依存は なぜ起こらないか???  

1.昔からがんの人には、何故か精神的依存が   起こらないことで有名であった

2.モルヒネなどの麻薬系鎮痛薬はオピオイド受容体の   µ、κ受容体に働き、鎮痛作用をきたす

3.最近、κ受容体がµ受容体の作用により、引き起こされる   精神的依存を抑えていることがわかってきた

4.がんの痛みの人は痛みがあることにより、内因性の痛み   を抑える物質の作用で、普段よりκ受容体の働きが高ま   っていると考えられている

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副作用 

(1)便秘 モルヒネ内服では必発でほぼ100%。耐性はできない 緩下剤の使用は必須

(2)嘔気、嘔吐 約60%に生じ、内服最初の2週間ぐらい続き、耐性ができる 制吐剤の使用は必須

(3)眠気 内服の最初の1週間ぐらい続き、耐性ができる モルヒネ静注では特に多し

(4)掻痒感 皮膚乾燥を予防し、皮膚の手入れが大事

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まれな副作用

錯乱、幻覚

①錯乱: 夢状態、せん妄、もうろう状態などの意識障害時       にみられる思考過程の異常

②幻覚: 実在しないものが知覚されたように感じる事       患者さん自身は現実でないと理解している       (統合失調症とは違う)

お年寄りなど、モルヒネ投与開始直後や急な増量時に多い 頻度的には100人にひとり、 cf)向精神薬 頻度4~5%

これらの症状が出てきたとき、肝機能障害、高カルシウム血症など 全身状態の把握が大事!!

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(4) 麻薬製剤である    モルヒネ徐放剤、速放剤

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モルヒネ徐放製剤

(1)わが国で初の徐放製剤で、今までのモルヒネ製剤の使    い方を変えたとまで言われる薬剤

(2)一日2回(3回)の内服で、作用時間は8~12時間

(3)食事の影響なし、規則正しく、決められた時間に内服を

 MSコンチン(1989)    

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MSコンチン以外のモルヒネ徐放剤

1.カデイアン、   パシーフ、   ピーガード(錠剤)

一日に一度の内服でまかなえる

2.モルぺス細粒

細粒であるために胃管など からも投与できる

(1999) (2001)

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速効性モルヒネ製剤

1.速攻性のモルヒネは内服後15分以内に吸収され、30分   で最大鎮痛効果濃度に達する 2.MSコンチン、オキシコンチン使用中にいたみが強くなった   とき、屯用として、レスキューとして使用 3. 速攻性のモルヒネは4時間ごとに定期処方で、徐放剤の   代わりとして使用できる

モルヒネ坐剤 アンペック坐剤

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(5)新しい麻薬製剤

      オキシコドン

    (オキシコンチン)

(シオノギ製薬協賛)

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オキシコドン(2002) オキシコンチン 

(1)κ受容体への作用も強く、モルヒネに比べ、耐性がきにくい

(2)MSコンチンと比べて、吸収も安定しており、ほぼ1日2回   作用時間は12時間と考えてよい

(2)モルヒネより、便秘、吐き気など副作用の程度が少ない

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オキシコンチン、MSコンチンの使用量 (高知医療センター)  2005.4~2006.3

オキシコンチン MS コンチン

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

5mg

10mg

20mg

40mg

 10mg

 30mg

 60mg

5916

5303

2301

3523

2418

1106

524

(オキシコンチン)

(MSコンチン)

5 10 20 40

(錠)

10 30 60

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症例   59歳  女性

診断名  卵巣がん、腰痛 現在、卵巣がんで化学療法中。最近、腰痛があり、ロキソ ニン、ボルタレンなどの消炎鎮痛剤を定期で使用して いたが、次第に腰痛が激しくなり、当科に紹介となる。 CT上腹部大動脈周囲に転移が認められた。 夜間痛強く、夜は十分に休めていない、食欲はない

初回処方 オキシコンチン5mg(MSコンチン10mg)  2錠/日 ノバミン5mg                    2錠/日

ボルタレン   37.5mg          2錠/日 サイトテック   200μg          2錠/日  朝夕食後

オプソ5mg、   疼痛時、2時間空ければ何度でも内服可

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フェンタニール(デュロテップ)パッチ

(ヤンセン株式会社協賛)

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フェンタニール(1959)、 フェンタニールパッチ (2003) 2.5mg,  5mg, 7.5mg,    10mg

(1) フェンタニールパッチは経皮的鎮痛薬、内服せずとも よく、消化器癌の多い日本では患者に多大な恩恵

(2)将来的にはオキシコンチンなどのモルヒネ製剤に代って、 がんのいたみの治療の主役になる可能性あり

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フェンタニールパッチの欠点

(1)使用が3日に一度のために、調節性に乏しい

  突出痛に対しては、レスキュードーズとして、

  モルヒネ速放剤などの鎮痛剤が必要である

(2)もっとも小さいパッチが2.5mgで、それがオキシコンチ         ン40mg/日、MSコンチン60mg/日に相当する

麻薬製剤としては最初から使いにくい

(2) 3日に1度の貼り替えではもたない患者がいる

(3) 風呂に入ったりすると、はがれたり、作用が減弱

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1.がんの痛みをこらえるためだけに、大切な一日を消費して   しまうことほど、もったいないことはありません

2.適切な薬を適切に使用することで、がんの痛みは軽くする   ことができます。ひいてはがんの患者さんが、自分の病気   に向き合うための助けになると思います

3.がんは今では痛みで、苦しむ病気ではありません

終わりに