これは始まりの終わりであって、終わりの始まりで …41 2009.3....

40 2009.3. Volo(ウォロ)3 月号(No.443) 41 2009.3. Volo(ウォロ)3 月号(No.443) その 3 <作品情報> 2007年/日本/DV/122分 ディレクター ズカット(DC)版) 2007年/日本/DV/108分 シアター (劇場)版) ■出演:水谷洋一/水谷甲太郎 他 ■監督・撮影・編集:柴田 誠  ■製作:『鳥類』/ Sei SHIBATA ■配給・宣伝:Nui企画/楠瀬かおり  ■録音・整音:岸本祐典/浅井佑介 ■音楽 : 米田みちのぶ  ■題字:ジュンコ ■協力 : ビジュアルアーツ専門学校・大阪 ■後援:山ドキュ in 大阪 これは始まりの終わりであって、終わりの始まりではない 監督 田 誠 せい 1995年1月17日の阪神・淡路大震災への思いは、いつも重くのしかかっています。 私は震災そのものには直接被害は受けていません。しかし、実は、あるきっかけがあって、 震災に深く関わることになりました。それは、神戸市内のある建物の話なのですが、被災し たその建物の映像を制作するチャンスを得て、震災の傷跡を目の当たりにしました。この 映像は、その後裁判の関係で日の目を見ることはありませんでしたが、実際、現場に携 わった人々の思いや理不尽なことに対する怒りは、私の心に深く焼き付いていまし た。本当にそれでいいのか、という思いが、私自身に芽生えました。 あれから何年かの時を過ごすことになりますが、このような震災への思いを記憶 にとどめるための仕事をしよう、そう考えていた矢先に、「雪印牛肉偽装詐欺事件」を 告発した倉庫会社・西宮冷蔵の水谷社長と出会いました。 『ハダカの城』においても、実は震災の傷跡が随所に現れてきます。それに対す る様々な思いが、この映像を制作する動機となりました。 1995年1月17日、周りがそうであったのと同じく、西宮冷蔵の倉庫も少な からず被害を受けることになります。そして被災した倉庫を再稼働させるた めに骨を折ってくれたのが雪印食品でした。奇しくも7年後の2002年1月 17日、雪印食品幹部からかかってきた一本の電話。水谷社長は、その電 話の真意が雪印食品の「完全犯罪宣言」、すなわち雪印食品が外国産牛肉 を国産と偽って販売していた事実、その偽装工作の舞台が自らの倉庫 内で行われていた事実、そして「震災の時助けてやったんだから黙っ とけよ」というメッセージだった事実を知ることになります。 「世話にはなったが、許せなかった」 それは、一連の偽装行為に対する怒りであると同時に、震災を 軽んじたことに対する怒りでもありました。結果として、その年 の2月23日に、水谷社長は雪印食品を告発することになります。 水谷社長にも、そして雪印食品にも、震災は重くのしかかって いました。偶然ではない、震災という一つのキーワードが、パズ ルのようになってかかわっていくのを感じたんです。 これらの些細な人の感情が、重なり、繋がりあってド ラマが見えてくることが面白いと思いましたね。 Copy Free: 「共感シネマ館」は複写、転写OK! 取材 編集委員 杉浦 健 ●柴田 誠さんプロフィール 1992 年、大阪写真専門学校(現、ビジュアルアーツ専門学校・ 大阪)放送・映画学科、卒業。その後、企業VP、TV番組 等、 フリーランスでの映像制作の現場を経て、現在は、ビジュ アルアーツ専門学校・大阪の放送・映画学科スタッフ。 (2009 年 2 月 10 日、奈良県大和郡山市内で行われたサローネ・ デル・ロト第 506 回例会にて) 【共感シネマ館で紹介した作品の上映情報】 2008年11月号で紹介した 『ブラジルから来たおじいちゃん』 ●3月21日(土)から27日(金)まで  ●10:35〜(1日1回上映)京都シネマ 京都市下京区烏丸通四条下ル西側 COCON烏丸3F ☎075-353-4723  全国各地で行われる自主上 映の情報は随時、ブログに アップされています。 http://black.ap.teacup.com/ bardbone/ 『ハダカの城』予告編 Ver.070820 (2 分 30 秒)視聴可能です。

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402009.3. Volo(ウォロ)3 月号(No.443)41 2009.3. Volo(ウォロ)3 月号(No.443)

その3

<作品情報>2007年/日本/DV/122分 ディレクターズカット(DC)版)2007年/日本/DV/108分 シアター(劇場)版)■出演:水谷洋一/水谷甲太郎 他■監督・撮影・編集:柴田 誠 ■製作:『鳥類』/ Sei SHIBATA■配給・宣伝:Nui企画/楠瀬かおり ■録音・整音:岸本祐典/浅井佑介■音楽 : 米田みちのぶ ■題字:ジュンコ■協力 : ビジュアルアーツ専門学校・大阪■後援:山ドキュ in 大阪

これは始まりの終わりであって、終わりの始まりではない監督 柴

し ば た

田 誠せ い

  1995年1月17日の阪神・淡路大震災への思いは、いつも重くのしかかっています。 私は震災そのものには直接被害は受けていません。しかし、実は、あるきっかけがあって、震災に深く関わることになりました。それは、神戸市内のある建物の話なのですが、被災したその建物の映像を制作するチャンスを得て、震災の傷跡を目の当たりにしました。この映像は、その後裁判の関係で日の目を見ることはありませんでしたが、実際、現場に携わった人々の思いや理不尽なことに対する怒りは、私の心に深く焼き付いていました。本当にそれでいいのか、という思いが、私自身に芽生えました。 あれから何年かの時を過ごすことになりますが、このような震災への思いを記憶にとどめるための仕事をしよう、そう考えていた矢先に、「雪印牛肉偽装詐欺事件」を告発した倉庫会社・西宮冷蔵の水谷社長と出会いました。 『ハダカの城』においても、実は震災の傷跡が随所に現れてきます。それに対する様々な思いが、この映像を制作する動機となりました。 1995年1月17日、周りがそうであったのと同じく、西宮冷蔵の倉庫も少なからず被害を受けることになります。そして被災した倉庫を再稼働させるために骨を折ってくれたのが雪印食品でした。奇しくも7年後の2002年1月17日、雪印食品幹部からかかってきた一本の電話。水谷社長は、その電話の真意が雪印食品の「完全犯罪宣言」、すなわち雪印食品が外国産牛肉を国産と偽って販売していた事実、その偽装工作の舞台が自らの倉庫内で行われていた事実、そして「震災の時助けてやったんだから黙っとけよ」というメッセージだった事実を知ることになります。 「世話にはなったが、許せなかった」 それは、一連の偽装行為に対する怒りであると同時に、震災を軽んじたことに対する怒りでもありました。結果として、その年の2月23日に、水谷社長は雪印食品を告発することになります。 水谷社長にも、そして雪印食品にも、震災は重くのしかかっていました。偶然ではない、震災という一つのキーワードが、パズルのようになってかかわっていくのを感じたんです。 これらの些細な人の感情が、重なり、繋がりあってドラマが見えてくることが面白いと思いましたね。

Copy Free: 「共感シネマ館」は複写、転写OK!

取材 編集委員 杉浦 健

●柴田 誠さんプロフィール1992 年、大阪写真専門学校(現、ビジュアルアーツ専門学校・大阪)放送・映画学科、卒業。その後、企業VP、TV番組 等、フリーランスでの映像制作の現場を経て、現在は、ビジュ アルアーツ専門学校・大阪の放送・映画学科スタッフ。

(2009 年 2 月10 日、奈良県大和郡山市内で行われたサローネ・デル・ロト第 506 回例会にて)

【共感シネマ館で紹介した作品の上映情報】

2008年11月号で紹介した『ブラジルから来たおじいちゃん』●3月21日(土)から27日(金)まで ●10:35〜(1日1回上映)京都シネマ京都市下京区烏丸通四条下ル西側COCON烏丸3F ☎075-353-4723 

全国各地で行われる自主上映の情報は随時、ブログにアップされています。http://black.ap.teacup.com/bardbone/

『ハダカの城』予告編 Ver.070820(2 分 30 秒)視聴可能です。