ここがききたい!!...
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北海道医療大学歯学部内科学講座
中林 透
平成16年2月28日(土)
ここがききたい!!有病者歯科診療の心得
北海道医療大学歯学部同窓会北海道支部連合会
学術講演会
1.易感染者あるいは感染源としての歯科医療従事者① スタンダードプレコーション② B型肝炎とC型肝炎の概要と感染予防対策
2.歯科治療と感染性心内膜炎① 抗生物質予防投与が必要な歯科処置,心疾患② 感染性心内膜炎の予防の実際
3.薬物アレルギー① アレルギーの分類・検査・疾患② 薬物によるアナフィラキシー
コンクール<F>,ホルムアルデヒド③ 歯科と職業性アレルギー・職業性喘息
アクリル酸樹脂による気管支喘息ラテックスアレルギー
4.アスピリン喘息
本日の話題
易感染者あるいは感染源としての
歯科医療従事者
イラストレイテッド・クリニカルデンティストリー①患者の診かたと歯科診療.黒崎紀正 他編,医歯薬出版,ISBN4-263-40611-7,2001年 10月発行,7, 500 円.
歯科医療における感染予防対策と滅菌・消毒・洗浄.ICHG研究会編,医歯薬出版,ISBN4-263-44145-1, 2002年10月発行,3,500円.
是非ともそろえていただきたい書籍
恐らく皆様が学生時代に学ぶことのなかった,「医療面接」,「紹介状の書き方」や「感染予防」などの重要事項が満載.
歯科医療における感染予防の実際を説明.
● 歯科医療従事者は,職業的曝露の結果,患者を
通じて種々の病原体にさらされる可能性が高い.
● 歯科医療従事者が,逆に感染源となって患者,
他の医療従事者や自分の家族に感染を引き起こす
ことも否定できない.
易感染者, 感染源としての歯科医療従事者
● 唾液に触れる環境で処置が行われる.● 抜歯,歯肉の膿瘍切開あるいは外傷の処置など観血的処置が 少なくない.● エアータービン, エンジンなど歯科独特の切削機械を使用
するため, 血液や唾液が口腔外へ飛散することが多い.● リーマー, スケーラーなど鋭利な器具を多用するため,
器具による偶発的外傷をこうむりやすい環境である.● 十分な滅菌処理なしに再使用しているのが現状??● 感染症に対するスクリーニングテストを実施することなく,
頻繁に観血的処置 (局所麻酔, 抜歯, 歯石除去, 歯の切削など)を行っているのが現状.
歯科・口腔外科領域の特殊性
1996年にアメリカのCDC(疾病管理予防センター)より院内感染標準予防策として提唱され,血液・体液のみならず,分泌物や排泄物なども対象とした感染対策
(1) 手洗い (4) 針刺し事故対策(2) 手袋の着用 (5) 感染経路別予防策(3) その他の防護具の着用
感染予防対策
スタンダードプレコーション(Standard Precautions)標準的感染予防策
ユニバーサルプレコーション(Universal Precautions)
AIDS患者の増加に対応してとくに医療従事者の保護を中心に1985年に提唱され,すべての患者の血液は感染の可能性があるものとして取り扱い,針刺し事故の予防や血液・体液曝露事故に対する対策を講じようとする考え方
普遍的感染予防策
【参考】
1)
スタンダードプレコーション
どの患者も感染源である可能性を有するという認識で 対応する. 治療の際, 血液の混じた唾液に触れずに 治療することは, 不可能である.
2) すべての湿性の血液・体液・排泄物等は感染の可能性があるものとして取り扱う.
すべての患者の血液・体液・排泄物
血液,目視できる血液の混入した唾液,創,創からの浸出液,抜去歯,耳鼻分泌液,心嚢液,腹水,胸水,関節滑液,
脳脊髄液,精液,膣分泌液,尿,便,病理組織(生検材料,手術切除材料,剖検組織),胎盤 等
1.創傷・皮疹・手荒れのない健常な皮膚
2.健康な皮膚からの汗
3.閉鎖されていて表面が湿っていない創傷
4.肉眼的に汚染のない床,壁,天井などの環境
通常感染源になりにくいもの 参考
リキャップせず,針捨てBOXに直接廃棄する.
針を使用したとき(針刺し事故の防止)
バイオハザードマークを使用し,分別・保管・運搬・処理を行う.
感染性廃棄物を取り扱うとき
手袋,プラスチックエプロンを着用し,次亜塩素酸ナトリウム処理を行う
血液・体液・排泄物が床にこぼれたとき
手袋,プラスチックエプロン,マスク,ゴーグルを着用する
血液・体液・排泄物が飛び散る可能性のあるとき
手袋を着用し,はずした後は直ちに手洗いする.
血液・体液・排泄物に触れる可能性のあるとき
対 策状 況
スタンダードプレコーションの具体的対策
歯科医療における感染予防対策と滅菌・消毒・洗浄 p.7 表4
−△−−△模型制作
−△−△△石膏注ぎ
患者ごと−−○○印象採得
汚染時等−○○○診療器具の片づけ
−−△△△X線フイルムの現像
患者ごと−−−○X線撮影
患者ごと−○○○診療補助
患者ごと−−○○診療
歯科技工士歯科助手歯科衛生士歯科医師
交換の目安
職 種 別
スタンダードプレコーションと手袋の使用
△は必ずしも必要でない.*受付は手袋を必ず外す.*歯科技工士,臨床検査技師等は手袋をしたまま使用できる電話機等の備品を
決めておく.
歯科医療における感染予防対策と滅菌・消毒・洗浄 p.19 表7
*
イラストレイテッド・クリニカルデンティストリー①患者の診かたと歯科診療. p. 150 IV. 感染予防 25 感染予防の基本 表6より
① 爪は伸びていないか点検し, 時計や指輪, 腕輪をはずす.② 無菌操作時(創傷の処置など)以外は滅菌されていない
使い捨て手袋を使用する.③ 汚染の有無にかかわらず, 一度使った手袋を 他の患者に 使わない.④ 手袋をしたままで, ドアノブ, 電話機, 医療用機器にさわら
ない.⑤ 長時間使用して汗をかいた手袋は交換する.⑥ 手袋をはずしたらかならず手洗いをする.
(手袋にピンホールが開いていたり, 汗をかいて毛穴の 菌が増殖したり, 手袋が汚染されていることがある.)⑦ 汚染された手袋は, すべて感染性廃棄物として取り扱う.
手袋使用時の注意点
床等洗浄および乾燥
皮膚に直接触れないもの
日常手洗い最小リスクMinimal risk
歯科ユニット,洗面台・リネン等
洗浄および乾燥
傷のない正常な皮膚に接するもの
日常手洗い低リスクLow risk
歯科用ミラー,プライヤー,印象用トレー等
消毒傷のない正常な粘膜に接するが骨に接触しないまたは組織に刺入しないもの血液,血液の混入した唾液によって汚染された非観血的治療に使用するもの易感染者に使用するもの
衛生的手洗い中間リスクIntermedi-ate risk
滅菌 外科用器具,注射針,リーマー,スケーラー等
皮膚または粘膜を通過して直接体内に接触または導入されるもの
手術時手洗い衛生的手洗い
高リスクHigh risk
例対策のレベル対 象手洗い感染リスク
感染のリスクとその対策
歯科医療における感染予防対策と滅菌・消毒・洗浄 p.4 表1
・手洗いと手袋(マスク,ゴーグル等)・スタンダードプレ コーションの実施・清掃
髄膜炎,ジフテリア,肺炎(H.influenzae,マイコプラズマ,百日咳),ウイルス感染症(アデノウイルス等),インフルエンザ,流行性耳下腺炎,風疹
微生物を含む飛沫が短い距離(1m以下)を飛ぶ.(5μm以上の粒子)飛沫核は床に落ちる
飛沫感染
・特別な空気の処理, 換気が必要・手洗いと手袋・N95マスクの使用・スタンダードプレ コーションの実施・清掃
主な感染経路と予防対策
結核,麻疹,水痘レジオネラ肺炎(一次感染)
蒸発物の小粒子残留物(5μm以下の粒子)飛沫核が,空気の流れにより拡散する
空気感染
主な対策主な疾患感染媒体
歯科医療における感染予防対策と滅菌・消毒・洗浄 p.5 表2
● 空気感染(飛沫核感染)咳やくしゃみ, 会話, 医療処置などの際に飛沫として放出された
唾液や喀痰の成分が乾燥して直径5μm 以下の飛沫核となった もの, あるいは病原体を含む粉塵粒子が空気中に拡散し, これを 宿主が吸入することにより生じる感染. 長時間浮遊するため,
同室内ばかりでなく離れた場所まで広がって行く場合がある.
● 飛沫感染
空気感染と飛沫感染の違い
病原体を含む直径5μm以上の飛沫が, 粘膜・鼻腔・口腔粘膜に 定着することにより感染が発生する感染様式. 飛沫は空気中を 長く浮遊することはなく, 通常1m以内の距離で生じる.
カゼウイルス,インフルエンザウイルスなど
① ,② ,③ 代表例: 結核菌 麻疹 水痘
・環境内に長期生存 し,微生物量が少 なくて感染する
疾患・伝染性が高い皮膚 疾患・ウイルス性出血性
感染症
感染源が何かを介して間接的に伝播,患者ごとに交換されない手袋
間接接触感染
・手洗いと手袋・プラスチックエプロン
(マスク,ゴーグル等)・スタンダードプレ コーションの実施
・消化器,呼吸器, 皮膚あるいは創の 感染症,または
コロニー形成・MRSA,VRE,病原 性大腸菌O-157等 の感染症
直接接触して伝播,皮膚同士の接触,患者ケア時汚染された器械・器具との接触など
直接接触感染
接触感染
主な対策主な疾患感染媒体
主な感染経路と予防対策
歯科医療における感染予防対策と滅菌・消毒・洗浄 p.5 表2つづき
B型肝炎ウイルス (HBV: Hepatitis B virus)C型肝炎ウイルス (HCV: Hepatitis C virus)G型肝炎ウイルス (HGV: Hepatitis G virus)TT型肝炎ウイルス (TTV: TT virus)ヒト免疫不全ウイルス
HIV (Human Immunodeficiency virus)成人T細胞白血病ウイルス
(ヒトT細胞白血病ウイルス HTLV-1: HumanT- cell leulemia virus-1)
梅毒トレポネーマ (Treponema pallidum)クロイツフェルト・ヤコブ病
(CJD: Creudzfeldt-Jacob病)
針刺し切創事故において感染事故対策が必要とされる病原体, 感染症
参考
● その他の血液媒介病原体と針刺し事故後感染, 梅毒トレポネーマ , HTLV-1 も血液媒介病原体であり,
これらによる輸血後感染はよく知られているが, 針刺し事故後の 業務感染の報告はマラリアを除いてはみあたらない.
1) HTLV-1は成人T細胞白血病 (ATL)やHTLV-1関連ミエロパシー (HAM)の原因ウイルスである. HTLV-1を含む生きたTリンパ球を介してのみ感染が成立する. 10 cc 入らなければ感染しないともいわれている.
2) レトロウイルスであるHTLV-1やHIVでは唾液には感染性がないとされる.
マラリア
実際に問題になるのは, 以下の3つ
日常歯科診療における針刺し切創事故で感染対策の必要な病原体
1) B型肝炎ウイルス (HBV)2) C型肝炎ウイルス (HCV)3) HIV (Human Immunodeficiency virus, AIDS)
針刺し切傷事故を起こしたら
針刺し切傷事故発生
流水下で刺入部から血液を絞り出し大量の水で数分洗浄し, 次亜塩素酸ナトリウム,エタノール,ポビドンヨードによる消毒を行う.
汚染源の感染性 (HBV, HCVの有無)について確認する.
患者に承諾を得て, HBV ・HCVの検査する. 患者が承諾した場合, 検査費用は歯科医院負担.(HIVについては可能性が強い場合)
汚染源の感染性が不明の場合は
1回の針刺し事故による感染確率は,条件にもよるがおよそ以下のように覚えると良い.
HBV
HCV
HIV
%
%
%
1回の針刺し事故による感染確率
30
3
0.3
(Gerberding JL: New England Journal of Medicine 332: 444-451, 1995)
深い (刺) 傷,中空針,ウイルス量の多い血液は,体内に侵入するウイルス量が多くなるため,感染のリスクが高い.
針刺し切傷事故による歯科医療従事者の健康被害 ー HBVおよびHCV
急性肝炎 劇症肝炎
キャリア化慢性肝炎
肝硬変
死
肝癌
急性障害
慢性障害
HBV >> HCV
HBV << HCV
急性ウイルス性肝炎の年別の推移
2,000
1,500
1,000
500
0
報告数
A 型
B 型
C 型
E 型
その他
不明
1999年(4月〜)
2000年 2001年 2002年
・A型肝炎が多い(慢性肝炎なし)・B型急性肝炎も少なくなく, 国立病院の統計では約4分の1
慢性肝炎
肝硬変
肝癌
130万人
20万人
6万人
わが国の慢性肝疾患患者
HCV感染70〜80 %
HBV感染20 %
慢性肝疾患の内訳
その他に無症候性HBVキャリア無症候性HCVキャリア
HCV 陽性(79%)
HBV 陽性(11%)
HBVおよびHCV陽性 (1%)
HBVおよびHCV陰性(11%)
肝癌の原因と肝癌切除後の生存率
55.7
34.8
47.9
84.4
74.164.9
40.4
30.2 25.8
0000
20202020
40404040
60606060
80808080
100100100100
1111 2222 3333 4444 5555 6666 7777 8888 9999 10101010
23.3
n=21,025
5 10[日本肝癌研究会:肝臓2000:41;799-811][日本肝癌研究会:肝臓2000:
41;799-811]
肝癌の原因 肝癌を切除した場合の生存率
原因ウイルス感染経路キャリア率(日本)
慢性化率肝癌への進展ワクチン
B型肝炎ウイルス(HBV)母子感染(垂直感染)1%150万人10%無症候性キャリアの1%程度実用化済,感染予防効果あり
B型肝炎ウイルス
肝硬変
HBVキャリアの転帰
遺伝子:DNA
HBVキャリア:B型肝炎ウイルスに持続感染している人
母子感染 無症候性
キャリア慢性肝炎
(100%) (10%)10歳〜
肝癌
(2〜3%)30歳〜
(〜1%)45歳〜
HBVの感染経路ー血液を介する非経口的感染
血液を介する感染輸血・血液製剤治療
母子感染(垂直感染)
性交渉による感染
ほとんど0
1986年1月(昭和61年): HBワクチンによる母児感染予防対策を 公費負担で開始
1972年(昭和47年):全献血血液にHBs抗原検査を開始1999年(平成11年):全献血血液にHBV-DNA検査を開始
激減
・現在の新規のHBV感染の90%以上を占める.・多くは急性肝炎(一過性感染)で終息するが,
1%が劇症化する.
別紙資料参照
国に1650万円賠償命令 患者ら5人のうち3人にB
B型肝炎に感染したのは乳幼児期の集団予防接種が原因として、札幌市の患者ら5人が、国に総額5750万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決.請求を退けた一審判決を変更,3人に対する1650万円の賠償を国に命じた.原告患者らの感染は注射器などを連続使用したことなどによる集団予防接種によるものと認めるのが相当。国は、感染のおそれがあることを当然に予見できたが、感染を未然に防止する義務を怠った」とされた.
型肝炎訴訟で札幌高裁判決
【平成16年1月16日】
Topics
別紙資料参照
乳幼児期の集団予防接種とB型肝炎感染をめぐる訴訟で、厚生労働省は28日、接種と感染の因果関係を認めて国に損害賠償を命じた札幌高裁判決を不服として最高裁に上告した。
上告理由について厚労省結核感染症課は「高裁判決は、過去の最高裁判例よりも不十分な立証で因果関係を認定している」などとしている。5人のうち、民法上の賠償請求権が消滅する除斥期間(20年)が経過しているとして請求を棄却された2人は27日、高裁判決を不服として上告している。
B型肝炎訴訟で国が上告「因果関係の立証不十分」【平成16年1月28日】
Topics
佐賀県内の保育園で2002年,発覚したB型肝炎の集団感染を分析し,アトピー性皮膚炎による湿疹をかいて出血していた園児らが,園内でじゃれ合うなどの「濃密な接触」をした結果,感染が広がった疑いが強い?との研究結果を,佐賀大医学部の市丸智浩助手(小児科学)らがまとめた.
HBVを含む血液などを介して感染するB型肝炎は,輸血や医療機関での事故,母子感染などが経路として知られているが,市丸助手は「今回のケースではこうした経路は原因とは考えられなかった.アトピー性皮膚炎を持つ児童の集団が,持たない集団よりも感染しやすさが4倍ほど高いことが分かった.
皮膚炎患者の一部は,湿疹を引っ掻いて出血しており,出血部分を介して感染が広がった疑いがあるという.
別紙資料参照【平成16年1月19日】
肝炎感染に皮膚炎関与?佐賀の集団感染分析で浮上
Topics
HBV感染が持続しているのに,ALT(GPT)が正常値を保って肝障害を起こさない状態. ・HBe抗原陽性無症候性HBVキャリア
その後の経過でALTが上昇してくる場合がある. ・HBe抗体陽性無症候性HBVキャリア
一般に予後が良い.
HBVキャリア
無症候性HBVキャリア asymptomatic HBV carrier
HBVキャリア
B型慢性肝炎患者
無症候性HBVキャリア
自分がHBVキャリアであると認識している集団
自分がHBVキャリアであるとの認識がないまま社会に潜在
B型肝炎ウイルスに持続感染している人
歯科医療従事者のB型肝炎ワクチン接種の
20〜30%
必要性
急性肝炎を発症
治 癒
99 %
・通常2〜3カ月以内に 肝機能は正常化・とはいっても最低1カ月は 入院・安静が必要・歯科医師の経済的損失も 少なくない
劇症肝炎に進展
1 %
死 亡治 癒
30 % 70 %
B型肝炎の一過性感染
B型肝炎ワクチンの接種の必要性
・ 3回接種,7カ月間で多くの場合感染予防に十分な抗体価が 得られる.・ただし感染予防効果は通常3年とされており,HBs抗体価の チェック, 抗体価低下の場合1回追加接種を行う
・採血およびワクチンに関わる費用は自費である.・ちなみに当大学ではHBワクチン接種前検査および接種後 検査が各々2,000円, ワクチン3回接種費用が12,000円,
Total 16,000円程度で対応している. 他院ではそれ以上か.
.
歯科医師・歯科衛生士の取るべき対応
HBワクチンは接種するべきである.
Step 1:HBs抗原, HBs抗体, できればHCV抗体も採血
Step 2:HBs抗原陰性, HBs抗体陰性を確認(HBVに感染既往がないことを示す)
Step 3:第1回目HBワクチン接種 (皮下注)
Step 4:第2回目HBワクチン接種(初回接種後1カ月)
Step 5:第3回目HBワクチン接種(初回接種後5カ月〜6カ月)
Step 6: HBs抗体採血 (第3回接種後1カ月)
Step 7: HBs抗体獲得の確認
HBワクチンの接種手順
B型肝炎の検査手順
HBs抗原・HBs抗体を検査
HBs抗原(ー)HBs抗体(ー)
HBs抗原(+)HBs抗体(ー)
HBs抗原(ー)HBs抗体(+)
HBe抗原・HBe抗体を検査
HBe抗原(ー)HBe抗体(+)
HBe抗原(+)HBe抗体(ー)
HBV-DNAを検査
過去・現在感染なし
現在感染している
感染既往ワクチン接種既往
感染性弱い 感染性強い
B型肝炎ウイルス量の定量
B型肝炎ウイルスマーカーの臨床的意義
B型肝炎
HBs 抗原
HBs 抗体
HBe 抗原
HBe 抗体
HBV 関連 DNA-PHBV-DNA
HBV 感染状態
過去のHBV感染, 防御抗体
血中HBV多い (感染性強い)肝炎例では肝炎の持続性とHBV増殖のマーカー
血中HBV少ない(感染性弱い) 肝炎例少ない
血中HBV量を示す. HBV 増殖のマーカー抗ウイルス効果の指標
DNA-P: DNA polymerase
参考
症 例:M. F. 71歳, 女性, 当別町在住
主 訴:便秘治療およびB型肝炎についての精査希望
現病歴:某肛門科で便秘のため大腸内視鏡を施行,特に問題ない
とされたが, 術前検査でB型肝炎の抗原が陽性と言われ
た. 便秘の治療およびB型肝炎の精査を希望され平成
14年3月1日内科初診.
既往歴:輸血歴なし. 献血の際に, 献血はできないと言われて
いる. 肝臓が悪いと言われたことはない.
家族歴:母親が肝硬変で53歳時死亡
兄が肝臓癌で66歳時死亡
弟が18歳時より肝臓が悪いと言われている
症例呈示
10. 献血に行き, 血液センターより「あなたの血液は輸血に 使用できないので, 病院で検査を受けて下さい」といった 内容の連絡を受けたことがありますか?: はい・いいえ
1. 過去に罹患した病気はあるか: ない2. 現在治療中の病気があるか: ない8. 輸血を受けたことがあるか: ない
・ところがこの後何も話しが進んでいない.
・肝障害がなく,輸血を受けたことのない66歳の女性の
血液が
・
輸血に使用できない →
肝臓疾患の家族内集積 →
平成8年4月2日の歯科初診時質問表から
HBV を示唆
を示唆
キャリア
HBVキャリア
HBV抗原-抗体検査HBs抗原:陽性,HBs抗体:陰性HBe抗原:陰性,HBe抗体:陽性HBV-DNA 陰性
肝機能:正常
内科での検査結果,診断,教訓
HBe抗体陽性無症候性
HBVキャリア
1. 質問表の記入事項の意味が理解できなければ,患者にいくら記入してもらっても無意味である.
2. 家族歴についての記入項目があれば, 肝臓疾患の 家族内集積からHBVキャリア家系と疑えた.
3. 担当歯科医師が変わる度に, 誰かが質問表に目を通し確認すれば, 数年に渡り放置されることもなかった.
4. 当院歯科では患者ごとに手袋を変えるシステムであり, 患者間交叉感染は起こらなかった.
無症候性H
・全献血血液にHBs抗原検査が行われるようになったのは1972年から・手術の際に輸血や血漿製剤の輸注を受けたかどうかを覚えている 患者さんは意外に少ない.
2002年4月1日より40,45,50,55,60,65,70歳では保健事業の健康診査(住民健診)に肝炎ウイルス検診が追加され,HCV抗体,HCV-RNA,HBs抗原を測定し,結果は受診者に通知されるようになった.
BVキャリアの疑診
輸血歴
1972年(昭和47年)以前の
血漿製剤の輸注歴 手術歴
肝炎ウイルスの節目検診を受けていない患者さん
慢性肝疾患の家族内集積 1986年以前の出生
献血不可
HCV
原因ウイルス感染経路キャリア率(日本)
慢性化率肝癌への進展ワクチン
C型肝炎ウイルス(HCV)血液(主に輸血)1.2〜1.5%150〜200万人60〜80%20%と高率未だ実用化には至っていない
C型肝炎ウイルス
肝硬変
感染者(キャリア)の転帰
遺伝子:RNA
HCVキャリア:C型肝炎ウイルスに持続感染している人
感染急性肝炎
慢性肝炎
(100%)0年
(70%)
肝癌
(25%)20年
(20%)30年〜
HCVの感染経路ー血液を介する非経口的感染
輸血・血液製剤治療
刺 青
経静脈的薬物乱用
針治療
透析などの医療行為
B型肝炎と比べ性交渉による感染および母子感染は少ない.
1989年(平成元年11月):全献血血液にHCV C1003抗体検査を開始1992年(平成4年2月):全献血血液に精度の高いHCV抗体検査を開始1999年(平成11年10月):全献血血液にHCV-RNA検査を開始
激減
わが国では経静脈的麻薬乱用者の約50%がHCV抗体陽性
個人専用の針を用いていない鍼灸院などが特に危険
医療行為後に発生したHCV感染の主体となっている
滅菌・消毒が徹底されているとは思われない
最近では
医療従事者の不適切な医療行為および
1.医療従事者から患者への感染・非常にまれ.
・HCV感染者であるからといって,医療に従事してはならないという意見はない.
2.患者から医療従事者への感染 ・HCV感染患者に使用した医療器具で医療従事者が
外傷を負うことで感染.・使用済み注射針による針刺し事故が最も多い
3.患者から患者への感染・再使用されたガラス注射器による静脈注射・ワクチン接種時の針の使い回し・医療機器の不備,消毒不十分(内視鏡など)・同一バイアルを多数の患者に使用することにより
生じる感染わが国では特に透析施設での感染が多い
事故に伴うHCV感染
HCVキャリア
HCVキャリア
C型慢性肝炎患者
無症候性HCVキャリア
自分がHCVキャリアであると認識している集団
自分がHCVキャリアであるとの認識がないまま社会に潜在
C型肝炎ウイルスに持続感染している人
無症候性HCVキャリア asymptomatic HCV carrier ① HCV 抗体陽性 かつ
② HCV-RNA が陽性 ③ 自覚症状がない
④ トランスアミナーゼも持続正常である健康診断で異常なしとされている可能性あり
HCV 血症がある
AST(GOT)とALT(GPT)特にALT(GPT)が肝障害の指標とされている
歯科治療に際して最も注意が必要
C型肝炎の検査手順
HCV抗体を検査
HCV抗体(ー) HCV抗体(高力価+) HCV抗体(低力価+)
HCV-RNA定性(PCR法)を検査
HCV-RNA(+) HCV-RNA(ー )
過去・現在感染なし
現在感染している 感染既往または現在も感染している
現在感染している 過去に感染したことがある
C型肝炎ウイルスマーカーの臨床的意義
C型肝炎
HCV抗体(第2,第3世代)
HCV core抗体
HCV RNA定性
HCV RNA定量
HCV core 抗原
HCV ゲノタイプ
HCV セログループ
過去・現在のHCV感染
HCVの増殖と関係HCVの存在,IFN効果判定(定量検査より感度鋭敏)HCV増殖のマーカーIFN感受性IFN感受性(IFN効果判定)HCV増殖のマーカー
IFN感受性
IFN感受性
HBs抗体とは異なりHCVの中和抗体はみいだされていない
IFN:インター フェロン
参考
無症候性HCVキャリアの疑診
鍼治療愛好家 透析患者
2002年4月1日より40,45,50,55,60,65,70歳では保健事業の健康診査(住民健診)に肝炎ウイルス検診が追加され,HCV抗体,HCV-RNA,HBs抗原を測定し,結果は受診者に通知されるようになった.
肝炎ウイルスの節目検診を受けていない患者さん
献血不可
1992年(平成4年)以前の輸血歴や臓器移植手術歴
産科疾患その他で出血が多かった人や大きな手術を受けたことがある患者
フィブリノーゲン製剤が投与
1988年(昭和63年)以前の血漿製剤の輸注歴
厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/qa/kenkou/hepatitis-c/index.html (Acrobat PDFファイルも)
C型肝炎の情報
平成15年8月更新(改訂V版)<作成>厚生労働省<作成協力>財団法人ウイルス肝炎研究財団 社団法人日本医師会感染症危機管理対策室
詳Q21:C型肝炎ウイルスは医療行為(歯科医療含む。)で 感染しますか? 現在、日本で行われている医療行為(歯科医療含む)でC型肝炎ウイルスに感染する可能性はまれと考えられています。しかし、長期間にわたって血液透析を受けている方は、施設内での感染が発生しており、医療機関における感染予防が重要な問題となっています。
C型肝炎について(一般的なQ&A)
血液を介して感染し、肝硬変や肝がんになる恐れがあるC型肝炎の予防ワクチンを、人間に投与して安全性と効果を確かめる臨床試験を始めると米セントルイス大が17日、明らかにした。
原因ウイルス感染を防御するワクチンで、担当医師は「このワクチンが人間に投与され、試験されるのは初めて。効果が確認できれば、感染まん延を防ぐ技術になる」と話している。
実用段階にあるC型肝炎ワクチンは現在ない。患者は日本だけでも約150万人といわれ、実用化が期待される。
別紙資料参照【平成15年11月17日】
C型肝炎ワクチン試験へ 人対象は初、米社が開発
実用化され日本でも承認されたら
Topics
すぐ接種しよう
針誤穿刺などの血液事故
HBs 抗原 HCV抗体汚染血液の検査
HBs 抗原 HCV抗体 (ー) (ー)
HBs 抗原 HCV抗体 (ー) (+)
HBs 抗原 HCV抗体 (+) (ー)
被汚染者の経過観察 被汚染者の血液の検査HCV抗体
HCV抗体(+) HCV抗体(ー)
HCVキャリア又は感染既往者
被汚染者の血液検査HBs 抗原 HCV抗体
万一発症し, 慢性化した場合は1年後以降にIFN治療予防的な免疫グロブリンあるいはI FN 投与の有効性は証明されていない
HBc抗体, HBe抗体の検査(変異型HBVを考慮して)
次のスライドへ
針刺し切傷事故対処法ともかく患者さんから採血させていただくことが必要
針刺し切傷事故対処法被汚染者の血液検査
HBs 抗原(+) HCV抗体(ー)
HBs 抗原 HBs抗体 (ー) (ー)
HBs 抗原 HBs抗体 (ー) (+)
HBs 抗原 HBs抗体 (+) (ー)
HBV感染既往者又はワクチン摂取者
HBVキャリア HBIG, HBワクチンを可能な限り速やかに投与 (48 )時間以内
HBIGとHBワクチンの使用スケジュール
汚染後月数HBワクチンHBIGHBs抗原/抗体の検査
0 1 2 3 4 5 6 7 12
(↓)↓ (↓) (↓)(↓) (↓) (↓) ↓ 1年後まで追跡できるだけ実施
● 治療対象患者さんの肝障害の有無を確認● B型, C型慢性肝炎患者か否かの把握.
B型の場合, 針刺し事故などの際には対策が存在する..
● 病態の把握 (すなわち医療情報のすみやかな収集)慢性肝炎か?肝硬変に進展しているか?
肝硬変に進展していれば, 蛋白合成能も低下し,凝固因子の産生も低下 →
C型の場合には, 現時点で対処法はない
易感染性, 易出血性感染能力の把握
HBVの場合は抗原ー抗体系の検査で推測可能HBe 抗原陽性, HBV-DNA 陽性患者は
感染力が強いHCVはHBVに比べ感染力は弱い
●
常に感染予防処置を怠らないよう心がける以外にはない!!
B型, C型慢性肝炎患者診療における留意点
Topics別紙資料参照【平成16年1月20日】
HIV 輸血感染を確認 日赤検査で遺伝子型一致エイズウイルス(HIV)感染者の血液が日赤の献血時検査をすり抜け、輸血された患者がHIVに感染
献血血液と患者のHIVの遺伝子タイプが一致
問題の血液は昨年5月献血され、検査で「陰性」とされて患者1人に輸血された。同じ献血者が同年11月に再び献血に訪れた時、HIV感染が判明。 5月の献血血液の保管検体をより精度の高い方法で調べた結果、HIVの遺伝子が検出された。
両者の因果関係が証明された
HIV検査目的の献血の横行
50人分の血清をまとめてその一部を検査する
検査体制の問題
Topics
別紙資料参照【平成16年1月28日】
HIV 2003年の新規のエイズウイルス(HIV)感染者
627人と過去最多
献血時検査で見つかったHIV感染者
87人と過去最多
献血者10万人当たりの感染者数
1,548人と過去最多
新規感染者が増えた主な要因
男性同士の性的接触による感染↑若年層の異性間接触による感染↑
03年に保健所や病院でHIV検査を受けた人の数は約76,000人02年の約62,000人から急増した。
新規感染が過去最多 献血時の判明増える
検査目的の献血が問題
●・
HIV自体の感染能力HIVのウイルス量が多いほど
● 感染能力が高い
・HIV陽性者の血液, 精液, 腟分泌液, 母乳には感染性あり・
HIVの感染源
HIV陽性者の涙, 唾液, ・
尿, 便には感染性なし
● 対象HIV感染患者および感染が強く疑われる患者の医療行為時に
針刺しなど刺傷事故あるいは粘膜や皮膚が血液, 体液などで曝露(汚染)された時.● 針刺し事故が起きたら
血液中には感染細胞も存在し感染源となる
◇針刺し部(創傷部)の血液をしぼり出しながら直ちに 水洗いする.◇曝露部の粘膜, 皮膚を直ちに水洗いする.
直ちに水洗い!
HIV感染症 (AIDS)
HBV>HCV>HIV感染能力の強さ
における針刺し事故
1. 曝露を受けた歯科医療従事者のHIV抗体検査直後,1カ月後, 3カ月後,6カ月後
2. 曝露を受けた歯科医療従事者に対する抗HIV薬の予防投与a. 投与開始時期:針刺し後できるだけすみやかに投与
(b. 投与薬剤
AZT (レトロビル
受傷1〜2時間以内)
) : 600 mg/日, 分3,毎食後3TC (エピビル
®
) : 300 mg/日, 分2,朝・夕食後Nelfinavir (ビラセプト
®
) :750 mg /日, 分3,毎食後上記3剤を併用する.
c. 投与期間:1カ月間
アメリカ合衆国のCDCが発表したガイドラインに基づき,国立国際医療センター,エイズ治療研究開発センターが作成した抗HIV薬の予防投与
®
針刺し切傷事故を生じた場合のHIV感染防止のための対処法
・スタンダードプレコーションを実践しよう.
・空気感染と飛沫感染の違いを覚えよう.
・手袋は患者ごとに取り替え,使い回しをしない.
・歯科医師・歯科衛生士はHBVワクチンの接種を行おう.
・半年に1回はHBs抗原・抗体とHCV抗体の検査を受けよう.HCVに感染しても,不顕性感染が多く感染に気づかない.20〜30年後に放置したつけが来る.
・HIV感染を疑う場合には,抗HIV薬の予防的内服は1〜2時間以内に!!
歯科医療従事者および患者の感染対策の心得
患者間交叉感染の防止
慢性肝炎→肝硬変→肝癌と進展
歯科のための感染対策ガイドライン(2003
Guidelines for Infection Control in Dental Health-Care Settings -- 2003.MMWR 2003; 52(RR17);1-61.CDC(米国疾病防疫センター)より2003年12月発表.
● 本ガイドラインは歯科のための感染対策勧告(1993)を改訂したもの
● 標準予防策(スタンダード・プリコーション)に準じ,その他の医科向けのCDCガイドラインなどを参照しながら歯科に特有な観点から総合的な歯科領域における感染対策について勧告
<1993年の勧告は普遍的予防策(ユニバーサル・プリ コーション)に準じていた>
吉田製薬のCDC Guideline紹介サイトから本文へアクセス可能http://www.yoshida-pharm.com/library/cdc/cdc.htmlhttp://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5217.pdf
)
別紙資料参照
歯科のための感染対策ガイドライン(2003)
● 1993年の勧告と同様血液や口腔・上気道に特徴的な感染源を考慮しHIV・HBV・HCV・結核などに重点を置く.
● クロイツフェルトヤコブ病(CJD)とその他のプリオン関連を追加.
● 感染および曝露の疑いのある職員の就業規制,血液媒介病原体への曝露後予防の詳細.
● 歯科特有の器具の滅菌と消毒、歯科領域において使用する水系の管理,
の内容
ラテックスアレルギー,教育と評価について● 環境については歯科機器,ライトのハンドル部分など頻繁
に接触する部分と床,壁,シンクなど頻繁に接触しない部分に分類して勧告.
● 手指衛生については,医療機関における手指衛生のためのガイドライン(2002)と同様に,手が目に見えて汚れていなければ速乾性手指消毒薬が使用できると記載.
別紙資料参照
歯科のための感染対策ガイドライン(2003)
1993年の勧告では解説のみ,今回は前半部分で解説を記載し,後半部分でその他のCDCとHICPAC(HealthcareInfection Control Practices Advisory Committee)のガイドラインと同様に科学データ,理論的根拠,適用の 可能性に基づいて勧告がカテゴリー分類されており,内容的にもその他の医科向けCDCガイドラインと整合性のとれたガイドラインとなっている.
の特徴
歯科大学附属病院などの院内感染対策委員会は,早急にその内容を把握し,従来より行っている感染対策との違いを明らかにした上で,自ら実践するとともに一般歯科開業医へ伝達・啓蒙する義務があると考える.
別紙資料参照
歯科治療と感染性心内膜炎感染性心内膜炎の病態の理解と
抗生物質予防投与の実際
・微生物 (多くは細菌)が心臓の心内膜 (一層の内皮細胞より なる) に感染し病巣を作った状態.・健全な心内膜への微生物の侵入は理論的には起こらない.・IEの55〜75%に弁膜症や先天性心疾患などの明らかな 基礎心疾患が存在.・臨床症状
● 感染症状:持続性の発熱,全身倦怠感,食欲不振,体重減少,悪寒戦慄,肝脾腫など.
● 心症状:心悸亢進,心雑音,不整脈,心拡大.● 心合併症● 心臓外合併症
・自然治癒がほとんど期待できない.・死亡率が高く, 治療が適切でなければ致死的.
感染性心内膜炎 Infective endocarditis: IE
感染性心内膜炎の心合併症
心合併症
心不全
死亡率
心不全合併なし
予後に最も影響を与える因子
心不全合併あり
6〜11
17〜
内科的治療のみでは予後不良で
34
外科手術を要す
弁輪膿瘍
心筋梗塞
・心不全をきたしやすい.・死亡率が高く, 外科手術が 必要となることが多い.
・大動脈弁に付着した疣贅が, 冠動脈に塞栓を生じ心筋梗塞 を起こすことがある.
%
%
感染性心内膜炎の心臓外合併症
心臓外合併症
末梢塞栓症
腎機能障害
脾膿瘍
細菌性動脈瘤
中枢神経系の合併症では死亡率が高い.
中枢神経系合併症 頻度: 20〜40%
中枢神経系の塞栓の74%が, 患者が
●
医療を求める前に発生.
●その他の中枢神経系合併症 脳膿瘍,髄膜炎,脳症 頭蓋内出血
頻度:脳塞栓
15〜90%以上が中大脳動脈領域に存在し死亡率が高い.
20%
・主起因菌: 黄色ブドウ球菌 ( )・
毒性が強い傷害のない弁に炎症 (弁膜炎)
.・発熱など症状が明らかで, 通常発症1週間以内に診断が 可能.・日単位で進行し, 早期死亡率が 高い.
を引き起こす
感染性心内膜炎の臨床経過による分類
感染性心内膜炎
急性心内膜炎 亜急性心内膜炎・主起因菌:
緑色連鎖球菌(viridans , 腸球菌,
コアグラーゼ陰性ブドウ 球菌など
group)
・あらかじめ障害された弁または心内膜が侵されることが多い.
・2〜3か月という慢性経過をとる.
弱毒菌
・歯科処置との関連が深い.
基礎病態:以前はリウマチ性弁膜疾患(減少) 先天性心疾患, 硬化性大動脈弁狭窄症等
経過・予後:・処置後約2週間〜1カ月後に発熱, 全身倦怠, 食欲不振, 体重減少などが出現する.・時間が経っていて歯科処置との関連に気付かない・
.緑色連鎖球菌性心内膜炎では, 治癒しなければ通常
Viridans group (口腔連鎖球菌) の特性
1. デキストランを産生し, 血小板・フィブリン塊への付着能が高い.
2. 血小板凝集関連蛋白を産生する.
6カ月以内に死亡する.
亜急性心内膜炎
血流の変化(ジェット流, 乱流)
心内膜の損傷
心内膜への血小板・フィブリンの沈着
心内膜への細菌の付着, 定着, 増殖
心弁膜疾患・先天性心疾患
一過性菌血症
正常な治癒機転として生じる
高速の血流が心内膜に損傷を与える
(無菌性心内膜炎)
①
②
①と②の存在が発症の必要条件
Vegetation (疣贅)の形成
感染性心内膜炎 (IE) の発症機転
大動脈
肺動脈
右房
左房
右室
左室
三尖弁
僧帽弁
大動脈弁
肺動脈弁
・女性にやや多い(男女比=1:2)
・成人の先天性心疾患 では最も多い.・先天性心疾患の中では 予後が良い.
・短絡血流の速度が遅くまた 低圧のため, IEを起こす危険は 非常に低い.
心房中隔欠損 (ASD) 参考
大動脈
肺動脈
右房
左房
右室
左室
心室中隔心室中隔欠損孔
・先天性心疾患で最も多い・
.5〜6歳頃までに20〜30%に
・
自然閉鎖がみられる.IE
・心室中隔欠損では欠損孔対側の 右室心内膜がジェット流により 損傷され,
を合併しやすい.
血栓や疣贅ができる ・
.大きな孔よりもジェット流となる
小さな孔のほうがIEを発症する 危険性が高い.
心室中隔欠損 (VSD) 参考
Alestig K, et al: Infective endocarditis: a diagnostic,therapeutic challenge for the new millennium.Scand J Infect Dis 32: 343-356, 2000.
スエーデンにおける感染性心内膜炎患者98名の基礎疾患と危険因子他の検討
武田 紹他:感染性心内膜炎の現状, 当施設における最近の経験. 日本小児循環器学会雑誌 17(4) 534〜539, 2001.
文献 1
文献 2
1992〜1998年までの東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所における感染性心内膜炎入院患者106例の検討
感染性心内膜炎の心基礎疾患, 発症危険因子,起因菌, 予後などについて
リウマチ熱既往感染性心内膜炎既往先天性心疾患二尖大動脈弁僧帽弁逸脱心臓病手術 (バイパス術を含む)全ての弁膜手術機械弁分類不能心雑音・動脈硬化弁膜疾患既往なし精査後弁膜疾患なし経静脈薬物中毒非薬物中毒・非弁膜症非薬物中毒・非弁膜症・非心臓疾患
19 %14 %10 %
7 %7 %
22 % 15 %10 %15 %44 %30 %
7 %23 %16 %
頻 度基礎疾患
感染性心内膜炎の基礎心疾患(文献1)より
感染性心内膜炎の既往人工弁HIV感染者血液透析経静脈薬物乱用85歳以上75歳以上全年齢
4,000400200150100
35 24
6
頻度 (10万人・年)危険因子
感染性心内膜炎の発症率 (文献1)より
肝硬変
腎疾患
悪性腫瘍合併例
ステロイド投与例
心疾患以外に心内膜炎を惹起しやすいと,考えられている疾患・病態
・
・
・
・
・
・
経静脈薬物乱用
糖尿病
● 基礎心疾患の内訳先天性心疾患 43例後天性心疾患 32例疾患不明 31例
● 感染経路:106例中64例が感染経路不明
感染性心内膜炎の感染経路
31% (106例中33例) が歯科関連 歯科治療後 24例
武田 紹他:感染性心内膜炎の現状, 当施設における最近の経験. 日本小児循環器学会雑誌 17(4) 534〜539, 2001.
1992〜1998年までの東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所における感染性心内膜炎入院患者106例の検討
口腔内疾患(根尖性歯周炎・齲歯)9例
● 起因菌血液培養陰性 21例
感染性心内膜炎の起因菌,手術例とその予後
連鎖球菌属 53例 [60% (53/89例)と最多]ブドウ球菌属 18例
● 手術例・予後手術例 65例そのうち急性期手術例 46例
死亡例 9例
武田 紹他:感染性心内膜炎の現状, 当施設における最近の経験. 日本小児循環器学会雑誌 17(4) 534〜539, 2001.
1992〜1998年までの東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所における感染性心内膜炎入院患者106例の検討
1. IEの症例の多くでは, 発症と侵襲的検査・治療手技との 関連が必ずしも明らかではないことを強調.
(医療訴訟に対抗するための具体的指針)2. 一過性菌血症を起こしうる検査・治療手技とそれらに
対する予防法を具体的に示した.3. 僧帽弁逸脱に対して, 予防投与の必要なものと必要でない
ものを区別する手順を具体的に示した.4. 歯科処置に対する予防では, 処置前60分前
2g一回投与で十分とした.5. ちなみに日本歯科医師会からは
アモキシシリン1991年以降ガイドライン
は呈示されていない.
感染性心内膜炎(IE)予防に対するAHA
Dajani AS, et al.: Prevention of bacterial endocarditis.Recommendations by the American Heart Disease Association.JAMA 277: 1794-1801, 1997.
ガイドライン
人工弁弁置換後(異種生体弁, 同種生体弁を含む)
感染性心内膜炎の既往 チアノーゼを伴う先天性心奇形
(単心室, 大血管転位, Fallot四徴など)
高リスク群
高リスク, 低リスク以外の先天性心疾患 後天性弁膜疾患
(リウマチ性弁膜症など)肥大型心筋症
中等度リスク群
逆流および/または弁尖肥厚を伴う僧帽弁逸脱
心内膜炎予防のための抗生物質予防投与を必要とする心疾患
これらの疾患名は覚えて下さい
僧帽弁逸脱症候群 mitral valve prolapse
<概念>収縮期に僧帽弁が弁輪を越えて左房側に落ち込み,僧帽弁閉鎖不全をきたす疾患.
<疫学>若い女性に比較的多くみられる
syndrome
.概して細身の体型.発生頻度:10〜30歳代では,男性0.5%,女性5%
<検査>必ず断層心エコーを施行し,総合判定<経過・予後>特発性の場合の予後は良好.
ごくまれに感染性心内膜炎の合併,腱索の断裂も生じる.
<治療>不整脈がみられず,無症状の症例に対しては,日常生活の規制は必要ない.高度な僧帽弁閉鎖不全の場合→弁置換術の適応歯科治療や手術に際しては,感染性心内膜炎の発症を予防する目的で抗生物質の投与を考慮.
参考
低リスク群 (IEのリスクは健常人と同程度 心房中隔欠損 (単独二次孔欠損)
心房中隔欠損, 心室中隔欠損, 動脈管開存症の術後
(術後6カ月以上経過したもの)
冠動脈バイパス術術後
)
生理的, 機能的または無害性心雑音
弁機能に異常のない川崎病の既往
弁機能に異常のないリウマチ熱の異常
心臓ペースメーカー植え込み後
除細動器植え込み後
逆流を伴わない僧帽弁逸脱
心内膜炎予防のための抗生物質予防投与が必要とされない心疾患
僧帽弁逸脱の疑い
逆流雑音を聴取 僧帽弁逆流の有無は不明かまたは判定出来ない
心エコー・ドブラ心エコー検査
緊急に手技が必要心エコー検査のための時間的余裕がない
抗生物質予防投与の適応
抗生物質予防投与の適応
抗生物質予防投与の適応なし
逆流が証明される 逆流または器質的異常が証明されない
抗生物質予防投与の適応
心雑音が鑑別できるか?
心エコーの施行・所見判定ができるか?
僧帽弁逸脱に対する抗生物質予防投与の適応
・抜歯
・歯周外科手術, スケーリング, プロービング,
ルートプレーニング, リコールメンテナンス
・インプラント植え込み, 歯牙の再植
・歯内療法(根尖を器具が越える場合)
・ストリップスの歯肉縁下挿入
・矯正バンドの装着(ブラケットを除く)
・歯根膜注射
・出血を伴う予防処置(ブラッシング)
抗生物質予防投与が必要な歯科処置
・充填処置・補綴処置・矯正装置の調整
・浸潤麻酔(口腔粘膜の局所麻酔注射)
・根管治療
根管内に器具がとどまる場合
・ラバーダム装着・縫合糸の抜糸・印象採得・
フッ素塗布
・口内法によるX線撮影
・乳歯の自然脱落
抗生物質予防投与が必要ない歯科処置
アモキシシリン標準的予防法
クリンダマイシン
セファレキシンまたはセファドロキシル
アジスロマイシンまたはクラリスロマイシン
成人2.0 g; 小児50 mg/kgを処置60分前に経口投与.
成人600 mg ; 小児20 mg/ kgを処置60分前に経口投与.
成人2.0 g; 小児50 mg/kgを処置60分前に経口投与.
成人500 mg ; 小児 50 mg/ kgを処置60分前に経口投与.
ペニシリンアレルギー例
小児へは成人用量を越えない範囲で投与する.
予防投与のレジメン (経口投与)
アンピシリン経口投与不可能の場合
ペニシリンアレルギーがあり
クリンダマイシン
セファゾリン
成人2.0 g; 小児50 mg/kg (2gを越えない)を30分前に静注または筋注.
成人600 mg; 小児20 mg /kgを処置30分前に静注
成人1.0 g; 小児25mg/kgを処置30分前に静注または筋注
かつ経口投与不能な場合
非経口投与が必要な症例では, 循環器内科・小児科と連携のとれる病院歯科・口腔外科へ紹介が無難
予防投与のレジメン (非経口投与)
AHAガイドライン(1997)の北海道医療大学附属病院歯科医師における認知度
阪田久美子他:北海道医療大学歯学部附属病院における感染性心内膜炎予防に関するアンケートの検討.東日本歯学雑誌22(2): 153-164, 2003.
●歯科治療が感染性心内膜炎の原因となることを良く知って いると答えたのは37%.●基礎疾患については「知らない」という回答が最も多く,
32%. ●基礎疾患について,AHAガイドラインにあげられている 基礎疾患名との一致率は55%.●予防投与を必要とする歯科処置についての認知度は80%.●抗菌薬予防投与について,AHAガイドラインの記載と 一致したのは6件で,全回答数の5.6%と低い.
平成14年4月に当院で診療している歯科医師140名に対してアンケートを実施.回収率は83.6%.
AHAガイドライン(1997)
Antibiotic prophylaxis for dental patients with totaljoint replacements. JADA. 134: 895-899, 2003.American Dental Association; American Academy ofOrthopaedic Surgeons.
のfirst update
感染性心内膜炎(IE)予防に対するAHAガイドライン(1997)の最初のアップデート.(2003年7月)
AHAガイドライン(1997)
1) 血行性播種による関節への感染の潜在性のリスクを有する病態を提示
・
のfirst update
・関節置換術後2年以内の患者
関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)など炎症性関節症を有する患者薬剤あるいは放射線照射による免疫抑制
・
免疫不全症/免疫抑制状態にある患者
以前に人工関節感染症栄養不良状態,血友病,HIV感染症インスリン依存性(I型)糖尿病,悪性腫瘍
合併症を有する患者
2) 単にピンやプレートあるいはネジ(screw)を挿入している患者においては,感染性心内膜炎を起こすリスクの高い歯科処置(菌血症を起こしやすい歯科処置)の際の
抗生物質の予防投与は推奨していない.
AHAガイドライン(1997)
3) 下記の病態を有する患者に感染性心内膜炎を起こすリスクの高い歯科処置を行う場合は,感染性関節炎を起こす可能性が高く,抗生物質の予防投与を推奨.
①
のfirst update
過去2②
年以内に関節置換術を受けたことがある.
③人工関節に感染症を発症したことがある.炎症性関節症(関節リウマチなど),I 型糖尿病や血友病
④に罹患している.
⑤免疫不全状態や栄養不良状態にある.
4) 感染性心内膜炎を起こすリスクの高い歯科処置(菌血症を起こしやすい歯科処置)の定義および抗生物質の予防投与法には変更なし.
以前あるいは現在悪性腫瘍に罹患している.
Nakatani S, et al.; Committee on Guideline for Prevention and Managementof Infective Endocarditis, Japanese Circulation Society. Currentcharacteristics of infective endocarditis in Japan: an analysis of 848 casesin 2000 and 2001. Circ J. 67: 585-91, 2003.
日本循環器学会が,日本における感染性心内膜炎の予防,診断と治療のガイドラインを作成するために,2000年および2001年に全国の817施設に質問票を配布し,アンケート調査を行った.277施設より
日本における感染性心内膜炎の現状
848 についての回答が寄せられた.参加施設(北海道関係分)旭川医科大学,旭川赤十字病院,北海道大学医学部,岩見沢労災病院,国立函館病院,国立札幌病院,釧路市立病院,釧路医師会病院,室蘭市立病院,帯広厚生病院,小樽協会病院,札幌市立病院,札幌医科大学,札幌白石循環器病院,札幌南一条病院,砂川市立病院,手稲渓仁会病院,斗南病院,
症例
感染性心内膜炎の罹患年齢と原因
患者数総数:848例
200
150
100
50
0〜 20 20〜29 30〜39 40〜49 50〜59 60〜69 70〜79 80〜
年齢(歳)罹患年齢 平均年齢55歳 18歳.± 50歳代あるいは60歳代に多く発症原因 原因不明が約54%と最多,次いで歯科処置が18%と多い. アトピー性皮膚炎が5例に認められている.
感染性心内膜炎の基礎疾患としての心疾患600
400
200
0
100
300
500
心弁膜疾患
先天性心疾患
心筋症
冠動脈疾患
ペースメーカー
植え込み
基礎疾患なし
その他
心疾患として多いのは,心弁膜疾患65%(531例), 先天性心疾患9.1%(74例),ペースメーカー植え込み2.6%(21例)
患者数総数:848例
Staphylococci
感染性心内膜炎の原因微生物221
S.aureus 145MSSA 88MRSA 51Unknown 6
CNS 76S.epidermidis 31Others 45
Streptococci 345S.viridans 269Others 76
Enterococci 58E.faecalis 49Enterococcus sp. 9
Others 25
Gram-negative bacilli 41E.coli 7Klebsiella pneumoniae 5Haemophilus sp. 6Pseudomonas sp. 6Others 17
Fungi 7Candida sp. 6Unkown 1
Total 697
MSSA, methicillin sensitive Staphylococcus aureus;MRSA, methicillin resistant Staphylococcus aureus;CNS, coagulase-negative staphylococcus.
・グラム陽性球菌の連鎖球菌が49.5%(345例), 黄色ブドウ 球菌が31.7%(221例)と多かった.・MRSAは7.3%(51例)にみられた.
原因菌と処置との関連150
100
50
0
緑色連鎖球菌
黄色ブドウ球菌
歯科処置後
血管カテー
テル処置後
泌尿器科的
処置後
婦人科的
処置後
消化器科的
処置後
薬物
誘因不明
その他
・緑色連鎖球菌が原因菌として最も多いのは誘因不明で,次に歯科処置後が35.7%と多かった.
・黄色ブドウ球菌が原因菌として最も多いのは誘因不明で, 次に血管カテーテル処置後が17.9%と多かった.
処置・誘因
患者数
HEART NEWS 2004, No.1企画:日本循環器学会/教育研修委員会監修:中村憲司 東京女子医科大学循環器内科助教授発行:日本心臓財団/ 後援:日本医師会/協賛:第一製薬
感染性心内膜炎とは
患者さん向け啓発資料として発行されている.歯科治療との関連が強調されている.
(注)ICD:体内植込み型除細動器
別紙資料参照
1. アモキシシリン (サワシリン , パセトシン® ,アモリン® )などを常備する.
2.
®
セファクロル (ケフラール®)はViridans group に対する 抗菌力が弱いことを銘記する.(次のスライド参照)3. ペニシリンアレルギー例への対応としては,
クラリスロマイシン(クラリス orクラリシッド® )を常備する.
4.
®
の歯科診療は, 可能であれば循環器内科・ 小児科と連携できる病院歯科へ紹介する.
(心雑音の見極め, 心エコーの施行ができる施設)5. IEの基礎心疾患の中, 低リスク群では, 主治医と連絡を 取り, 対応策を協議の上歯科治療を始める.
(責任の分散・医療訴訟回避の意味でも重要.)
IEの基礎心疾患で高リスク群
一般歯科医院での対応
口腔連鎖球菌(緑色連鎖球菌)群に対する抗菌力が弱いから
MIC 50
AMPC CCL
MIC 90
St. Mitis (n=32) FPRMFMOX
0.05 1.56 0.0250.39
6.25 >100 3.1350
MIC 50
AMPC CCL
MIC 90
St. Milleri (n=18) FPRMFMOX
0.10 0.78 0.050.39
0.20 3.13 0.101.56
MIC : 最小発育阻止濃度(μg/mL)MIC 50 : 50%の細菌の発育を阻止するMICMIC 90 : 90%の細菌の発育を阻止するMIC
AMPCアモキシシリン(サワシリン )CCLセファクロル(ケフラール
®
)FMOXフロモキセフ(フロモックス
®
)FPRMファロペネム(ファロム
®
® )
木村美司ほか:各種抗菌薬に対する臨床分離株の感受性サーベイランス. 日本化学療法学会雑誌. 48(8):585-609, 2000.
なぜ使い慣れているケフラールではだめなの?
原告は, 被告歯科医院に歯科治療 (歯周治療, 齲歯治療) のため通院した. 診療を受けるにあたって予診録に心臓病, 肝臓病および糖尿病の既往症があり, 現在も治療中であることを記載した.原告は全顎にわたる歯周疾患で, 抜歯適応歯が二歯存在したが,主治医から抜歯をしないようにとの意見のため抜歯はやめ,原告に肝臓病の現症があることから, ①抗生物質の予防的投与
②は考えずに, を行ったと被告(歯科医師)は主張した.
観血的処置をできるだけ避けた歯科治療
歯科治療とIE
被告は治療のたびに, 発熱その他の異常がないかなどを問診し,
に関する判例
超音波スケーラーによる歯石除去, 患歯の注射抜髄, その後補綴処置がなされた. (underline )原告は, 被告による歯科治療の間に感染性心内膜炎, 脾膿瘍,脳膿瘍に罹患, 脾摘出術, 僧帽弁置換術および脳膿瘍の治療を受けた.
は出血を伴う処置
原告は, 治療費, 逸失利益, 慰謝料など7,800万円を請求,地裁は被告の過失を認め, 1,600万円の支払いを命じた.
①
歯科医師の過失として認定された事項
被告は, 心臓病の既往症がある原告に対して治療を進めるにあたって
説明義務違反
感染性心内膜炎罹患の危険性があることの説明を怠った過失がある.
② 被告は, 治療にあたり, 原告に心臓病の既往症があることを知っており,
治療行為開始における過失
主治医に対して, 直接歯科医療についての意見を求めるべき注意義務があるのにこれを怠った過失がある.
③ 感染性心内膜炎に対する予防処置を講じなかった
心臓病の患者が歯科治療の際に,
過失感染性心内膜炎に罹患する
のを予防するため, 治療前後に抗生物質を投与する義務がある
のにも関わらず, 被告は義務を履行せず, 漫然と本件治療を
行った.
AHA(1990年)および日本歯科医師会(1991年)では処置前1時間および処置後6時間の抗生物質の投与をガイドラインで示していた.
歯科医師の過失として認定された事項
歯科治療におけるIE
1. IEの発症に重要な
発症予防のための心得
菌血症をきたす歯科処置を銘記する. ( ).
2. IEの基礎心疾患の
未治療の成人歯周炎も含む
高・中・低リスク群の区別を銘記する.
3. 心臓ペースメーカー植え込み患者や体内植え込み型除細動 器を付けている患者は抗生物質予防投与対象とするのが
無難と思われる (←国内多施設アンケート Kunisada論文より)
←HEART NEWS 2004. No.1より)4. 心疾患以外のIEを起こしやすい病態を銘記する.
(糖尿病やステロイド投与など).
5. 患者本人が, IEの基礎疾患やIEを起こしやすい病態の存在に 気付いていない場合もある.
(循環器科への紹介もためらうべきではない)
歯科治療におけるIE
6.
発症予防のための心得
2年以内に人工関節置換術を受けた患者や感染性関節症を 起こしやすい基礎疾患を有する患者では,抗生物質予防 投与を行う.
(←American Dental Association; American Academyof Orthopaedic Surgeonsの勧告より)
7. 患者にインフォームした上で, AHAのガイドラインに 沿った抗生物質の予防投与を行う.
(IEあるいは感染性関節症を発症した場合にガイドラインに沿った予防投与を行ったかどうかが問われる)
8. わが国でも,日本循環器学会がわが国における感染性心内膜炎の診断,検査,治療および予防のガイドラインを
作成する動きがある.
薬薬薬薬物物物物過過過過敏敏敏敏症症症症
薬物アレルギー
歯科医療従事者の職業性アレルギー
薬物過敏症(drug hypersensitivity)
薬物アレルギー
アレルギー様反応
薬物不耐症
アレルギーと同様な症状を示すが, 薬物が抗原としては作用しない.
薬物過敏症
ペニシリン
薬物が抗原として作用
アレルギー
特異体質
遺伝的に規定された代謝異常
薬理作用による症状が過大に出現
アスピリン喘息
ヨード造影剤
例:
例:
例:
ヒトの素因, 体質に基づいて出現し, 薬物の薬理作用からは予測できない反応
局所麻酔薬
概 念 薬物の投与に際して生体内で発生する薬物またはその代謝産物を抗原とし, それに対応する抗体あるいは感作リンパ球との間で発現する有害な免疫反応をいう.
発症機序 薬物アレルギーの発症機序も,アレルギー疾患におけるCoombs & Gellのアレルギーの分類(I型〜IV型)に従う.
症 状 皮膚症状が多く約 %を占める.
経過・治療多くは原因薬物中止で数日以内に改善.アナフィラキシーショックなど重症例では副腎皮質
ステロイドの投与.
薬物アレルギー (drug allergy)
80
アレルギーとは
● 異物を排除しようとする生体の
?
免疫反応が
または な形で起こり,
組織傷害を起こすことをアレルギーという.
過剰
●アレルギー反応には四つの型がある.
不適切
Coombs & の分類I 型アレルギー (即時型)II 型アレルギー (細胞溶解型)III 型アレルギー (免疫複合体型)IV 型アレルギー (遅延型)
Gell
別紙資料1, 2, 3を参照下さい.
アレルギーの分類(Coombs & Gell)
エフェクター細胞の浸潤と活性化による炎症
サイトカインの産生
APC
IV 型アレルギー(遅延型)
感作T細胞
感作T細胞へ抗原提示
補体の活性化抗原
抗体
III 型アレルギー(免疫複合体型)
エフェクター細胞の浸潤と活性化による炎症
II 型アレルギー(細胞溶解型)
補体の活性化
赤血球など細胞表面上の抗原と抗体の反応 補体による溶解
I 型アレルギー(即時型)
血管拡張血管透過性の亢進発赤
マスト細胞表面上のFCεRIの架橋による活性化
IgEFCεRI
アレルギーとは
I型:
?
マスト細胞はFcεレセプターを介してIgEを結合させ, 抗原が侵入するとIgEが架橋され, 脱顆粒と 化学伝達物質が遊離されアレルギー反応が起こる.
II型: 抗体は生体自身の細胞 (標的細胞)や輸血された 赤血球などの外来の抗原に作用する. その結果 killer 細胞による細胞障害作用や補体の関与した細胞融解が 起こる.
III型: 免疫複合体が組織に沈着する. 補体が活性化され,多形核白血球がその沈着部位に集まり局所の障害と
炎症を起こす.
IV型: 抗原で感作されたT細胞は再び同一の抗原に接触するとサイトカインを放出する. サイトカインは炎症反応を引き起こし, 炎症性伝達物質を放出するマクロファージを集積・活性化させる.
参考
・狭義には,また臨床実地の観点からは,
アレルギー性疾患
I型アレルギーに よる疾患をさすことが多い.
・代表的疾患 アトピー性皮膚炎 気管支喘息 アレルギー性鼻炎・花粉症 じんま疹
・その他食物アレルギーアナフィラキシー など
I 型
II 型
III 型
IV 型
皮膚症状 全身症状
じんま疹(血管浮腫)
アナフィラキシーショック,アトピー性気管支喘息,鼻アレルギー
溶血性貧血 (ハプテン細胞型,自己抗体型), 血小板減少症,顆粒球減少症,Goodpasture症候群
紫斑(過敏性血管炎)
血清病型反応, 薬物熱, 過敏性血管炎,Arthus現象, ループス症候群,溶血性貧血 (免疫複合体型), 血小板減少症, 白血球減少症, 膜性腎症
接触皮膚炎 呼吸困難, 痙攣, 意識消失(農薬)
薬物アレルギーの症状
アナフィラキシー狭義の
アナフィラキシー
IgE抗体を介したI 型アレルギー反応
ヒスタミンロイコトリエン
肥満細胞の活性化
化学伝達物質の放出
発症機序
アナフィラキシー様反応
IgE抗体は関与しない補体の関与や原因物質の直接作用
じんま疹,呼吸困難,血圧低下など
例 ヨード造影剤,局所麻酔薬非ステロイド性抗炎症薬
ソバなど食物によるものラテックス手袋によるもの
臨床症状
● 抗生物質ペニシリン系, セフェム系, アミノグリコシド系薬剤,塩酸ドキシサイクリン
● 臓器・酵素製剤 塩化リゾチーム, トロンビン,
インスリン(同種・異種)● 抗血清・ワクチン類 治療用ウマ血清, 減感作用アレルゲンエキス,
各種ワクチンなど● 筋弛緩剤 塩化アルクロニウム, 臭化パンクロニウム,
塩化スキサメトニウム● HCO 60含有剤 ビタミンK2, エノシタビン●その他
非ステロイド系抗炎症薬, 局所麻酔薬など
アンダーライン歯科繁用薬剤
アナフィラキシーショックを起こしうる主な薬剤
アナフィラキシーの疫学
33%33%33%33%
19%19%19%19%14%14%14%14%
13%13%13%13%
7%7%7%7%
3%3%3%3%
11%11%11%11%食物
特発性ハチ
薬物
運動
その他
免疫療法
Yocum MW, et al. Epidemiology of anaphylaxis in Olmsted County: Apopulation based study. J Allergy Clin Immunol 1999; 104(2 Pt1): 452-6.
アメリカのMayo Clinicからの報告・病院外での罹患率は年0.03%
<特発性アナフィラキシー> 原因の特定できない場合,もしくは原因となる異物が存在せず自発的に生じるものを特発性アナフィラキシーという.
・アトピー素因は約 %にみられる.50
アトピー性皮膚炎,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎などのアトピー性疾患を発症しやすい遺伝的背景をもつこと.アトピーとIgE抗体との関係が明らかにされてから,IgE抗体を産生しやすい遺伝的背景をさすこともある.
Kjellman,N.-I.M.: Acta Paediatr Scand,66,465,1977.
両親ともアレルギーなし
片親がアレルギー
両親ともアレルギー
両親ともアレルギーで同じ出方をする
兄弟1人アレルギー
子のアレルギー発症率
アトピー素因
12.0
19.8
42.9
72.2
%
%
%
%
%32.3
・アトピー素因が危険因子となるアナフィラキシー
アトピー素因とアナフィラキシー
食餌性 運動誘発性 特発性 造影剤
・アトピー素因が危険因子とみなされていないアナフィラキシー
インスリンアレルギー ペニシリンアレルギー
ラテックスアレルギー
患者本人のみならず家族のアトピー性素因の有無の確認が大事
アレルギーの問診
家族歴 アトピー性素因は遺伝傾向がある.
既往歴
季 節 花粉症: シラカバ,スギ
薬 物
職 業
食 物
ペット
状 況
環 境
室内塵アレルギー,真菌アレルギー
材木工場などアレルゲン発生状況
イヌ,ネコ,ハムスター
ホヤ, カイコ,ラテックス(天然ゴム)
抗生物質,酸性解熱消炎鎮痛剤
穀物 (米, 小麦,
局所麻酔薬
),魚介類・甲殻類,果物・野菜
ソバ
1) 前駆症状:口唇・手足のしびれ感,喉のつまった感じ,動悸,(自覚症状) 悪心,めまい感,耳鳴,胸部不快感,便意,尿意
2) ついで :くしゃみ,咳,皮膚紅潮,じんま疹,血管浮腫2) つぎに :血圧低下,顔面蒼白,喘鳴,呼吸困難,下痢など3) 重症例では,意識消失,死に至る.
経口,経皮的な接触ではやや時間がかかるがそれでも30分以内に発症
起因物質を投与後数分以内に発症するのが特徴
アナフィラキシーショックの症状
症状の出現順序を頭にいれておくこと
症状の出現がはやければはやいほど重篤である.
床上安静, 下肢挙上
バイタルサインのチェック
(0.1%) 皮下注 0.2〜0.5ml症状が続けば, 15分ごとに繰り返す
ショック
エピネフリン
虫刺症, あるいは減感作でアレルゲン皮下注の場合
穿刺部位の近位側をマンシェットで緊縛穿刺部位に(0.1%)皮下注 0.2〜0.5ml
チアノーゼ, 喉頭浮腫
エピネフリン
酸素吸入 気管内挿管気管切開
血圧低下
, 血管確保補液 (細胞外液)
別紙資料4ページアナフィラキシー
(ショック)の治療)”
参照”
アナフィラキシーショックの治療(1)
このステップは歯科医院で対処すること.その間に救急車の出動を要請する.
血圧低下の進行, 遷延補液続行ドパミン 2〜10 μg/kg/min
1〜5 μg/kg/min
喘鳴, 気管支攣縮
ドブタミン
静注 250 mg/10min続いて0.5〜1mg/kg/hr で点滴
症状の重症化, 遷延化予防
アミノフィリン
100〜 500 mg静注あるいは点滴静注じんま疹に対して, ヒドロコーチゾン
30mg筋注ジフェンヒドラミン
治療後少なくとも数時間は経過観察重症のときは改善しても24時間程度入院観察
虫刺症, あるいは減感作でアレルゲン皮下注の場合
穿刺部位の近位側をマンシェットで緊縛穿刺部位にエピネフリン(0.1%)皮下注 0.2〜0.5ml
チアノーゼ, 喉頭浮腫
酸素吸入 気管内挿管気管切開
血圧低下
, 血管確保補液 (細胞外液)
アナフィラキシーショックの治療(2)
テルモより発売 薬剤が既に充填されている注射器(プレフィルドシリンジ).注射剤の多くは,アンプルやバイアル容器に充填されており,これらは一旦シリンジ(注射器)に吸引・溶解してから注射をしたり,他の薬剤に配合される.プレフィルドシリンジは,病院業務を効率化するだけでなく,混注作業中の細菌汚染のリスクを軽減し,また薬剤取り違え事故の防止にも有用.
エピネフリン注射液 エピクイック® 0.1%
EPIQUICK
注シリンジ
0.1% INJECTION®
歯科医院に常備すべきエピネフリン製剤と考える.
エピクイック® 0.1%注シリンジの使い方
シリンジ先端部に直接手が触れないように注意し,注射針等と接続して使用する.
キャップを矢印の方向にまわしてはずす.
1 2
1. 少量の薬物で症状が発現する. これに対して中毒は 一般に投与量との間に相関がある.2. アナフィラキシーでは, 薬物を最初に与えた ときには起こらないのが原則. ただし, これには例外がある.→次のスライド
3. 薬物を与えられた人の内少数の人だけに起こる.すなわち, 生体側の状況も原因の一部として考慮に入れる必要がある.
4. その薬物の薬理作用と無関係の症状である.異なった薬理作用の薬物で同様な症状が出現する.
5. 特異抗体(IgE型抗体)が出現する.
薬物によるアナフィラキシーの特徴
1. 当該薬物の投与歴がなくても知らないうちにその薬物の侵入を受けている場合がある.別の薬物その他に当該薬物が含まれている可能性がある.
・PL顆粒 (アセトアミノフェンが含まれる)・市販総合感冒薬(アスピリン, イブプロフェン,
インドメサシンなど非ステロイド系抗炎症薬が 含まれる)
2. 以前服用した薬物(市販薬など)や投与された薬物について曖昧であることが多い.すなわち
®
「問診上最初であること」は必ずしも「薬物投与 に関して最初であること」を意味しない.
薬物によるアナフィラキシーの例外
3. 他の薬物アレルギーを有し, それに対して交叉反応として アナフィラキシーが起こることがある.
1) セフェム系抗生物質内での交叉反応 2) ペニシリン系抗生物質とセフェム系抗生物質や
ペネム系抗生物質 共に
薬物によるアナフィラキシーの例外
βラクタム系薬で化学構造が類似 ペニシリンアレルギーの人がセフェム系抗生物質に対して 反応を起こす確率は
従って例えばセフェム系抗生物質で薬疹がでたことがある患者にケフラール (セフェム系) を投与するのは® .大変危険
.訴訟になったら負ける
5〜16 %
抗生物質の作用機序:細胞壁合成阻害薬
ペプチドグリカン
ペプチドグリカン
LPS
LPS:リポ多糖類
抗菌薬
β-ラクタマーゼ
グラム陰性菌グラム陽性菌
バンコマイシングリコペプチド薬
ペニシリン系薬
セフェム系薬 第1世代, 第2世代, 第3世代, 第4世代カルバペネム系薬モノバクタム系薬
β-ラクタム薬
抗生物質の作用機序:蛋白合成阻害薬 核酸合成阻害薬
マイコプラズマクラミジアリケッチア
蛋白合成阻害テトラサイクリン系薬マクロライド系薬アミノ配糖体クロラムフェニコール
核酸合成阻害
ST合剤サルファ剤
ニューキノロン薬
ニトロイミダゾール
・まず使用して問題ないとされた抗生物質について 主治医に確認するのが基本.
・一般的な抗生物質の選択方法
① ペニシリン系やセフェム系 (ケフラール , トミロン® , フロモックス
®
など)を投与しない.② ペネム系 (ファロム
®
)を投与しない.③
®
有効菌種を考慮した上で, マクロライド系(クラリシッド ・クラリス® など),
ケトライド系 (ケテック
®
)やニューキノロン系(クラビット
®
)などを投与する.®
特定の抗生物質の副作用が明らかな場合
1. ペニシリン系・セフェム系・ペネム系の副作用,アナフィラキシー
有効菌種を考慮した上で,① ペニシリン系, セフェム系, ペネム系 (ファロム )を
投与する.② ニューキノロン系を投与する.
®
有効菌種を考慮した上で,① ペニシリン系, セフェム系, ペネム系 (ファロム )を
投与する.② マクロライド系やケトライド系を投与する.
®
特定の抗生物質の副作用が明らかな場合
2. マクロライド系やケトライド系の副作用, アナフィラキシー
3. ニューキノロン系の 副作用, アナフィラキシー
・ペニシリン系:(
アモキシシリン(サワシリン®など)感染性心内膜炎予防に必須)
・セフェム系:新世代セフェム系やペネム系への移行 ケフラールと比べ, 抗菌スペクトラムが広いのみならず,
有害事象の発生が少ない.ケフラールの口腔連鎖球菌への抗菌力は弱い.
・マクロライド系: クラリスロマイシン嫌気性菌のペプトストレプトコッカス属もカバー.(ペニシリンアレルギー患者の
感染性心内膜炎予防に
必須)・ケトライド系: ケテック®
嫌気性菌のペプトストレプトコッカス属やプレボテラ属 もカバー)→3日間で効果判定・ニューキノロン系:
クラビット®
嫌気性菌を含むグラム陽性菌群およびグラム陰性菌群を 広くカバーできる
歯科診療所で常備すべき抗生物質
コンクール <F>によるアナフィラキシー
コンクール<F>はグルコン酸クロルヘキシジンを0.36%の濃度で含有
クロルヘキシジンをグルコン酸塩とすることによって水溶性としたビグアナイド系化合物.皮膚に対する刺激が少なく,臭気がほとんどない生体消毒薬で,適用時に殺菌力を発揮するのみならず,皮膚に残留して持続的な抗菌作用を発揮する.
(適応)・・
手術時手洗い
・手術部位の皮膚
・創傷部位(創傷周辺皮膚)
(注意点)日本では,・
血管カテーテル挿入部位
・結膜嚢以外の粘膜への適用は禁忌.結膜嚢の洗浄後も滅菌精製水での洗浄が必要
グルコン酸クロルヘキシジンの特徴
一般名:グルコン酸クロルヘキシジン
化学名:Chlorhexidine Gluconate
′1,1 -hexamethylenebis[5-(4-chlorophenyl)biguanide]
構造式:
性 状:グルコン酸クロルヘキシジン液は,無色〜微黄色の 澄明な液で,においはなく,味は苦い. 溶媒の量を増加するとき白濁する.
光により徐々に着色する.商品名:ヒビテン,ヒビテングルコネート,ヒビスクラブ,
ヒビディール ,ウエルアップ/ヒビスコールなど 多種
digluconate
グルコン酸クロルヘキシジン
適用範囲(承認に基づく効能・効果. 推奨されるものについては下線)
むし歯・歯肉炎の予防,口臭予防コンクール<F>原液 0.36% (医薬部
手指
外品)
0.2%グルコン酸クロルヘキシジンエタノール擦式製剤
手術部位の皮膚,医療用具(金属、非金属)
0.5%グルコン酸クロルヘキシジンエタノール液
手指4%グルコン酸クロルヘキシジンスクラブ
外陰・外性器の皮膚(界面活性剤配合製剤;赤色タイプの場合は適用不可)
0.02%グルコン酸クロルヘキシジン液
結膜嚢(界面活性剤配合製剤;赤色タイプの場合は適用不可)
0.05%以下のグルコン酸クロルヘキシジン液
皮膚の創傷部位,手術室・家具・器具・物品
0.05%グルコン酸クロルヘキシジン液
手指・皮膚,手術部位の皮膚,医療用具
0.1〜0.5%グルコン酸クロルヘキシジン液
・皮膚に対する毒性,経口毒性は低い.・
グルコン酸クロルヘキシジンの副作用
過敏症(ショック,発疹・蕁麻疹など .・
)の報告あり膀胱・腟・口腔などの粘膜や創傷部位に使用してショッ
クが発現したとの報告が十数症例報告され,第24次薬効再評価(昭和60年7月30日公示:薬発第755号)において,結膜嚢以外の粘膜(膀胱・腟・口腔など)への適用
や創傷,熱傷への適用の一部(広範囲,高濃度)が禁忌となった.
・これらのショックの例のほとんどは適正濃度を超えた
0.2〜1%での使用によるものであった.・中枢神経,聴覚神経への適用は禁忌.・高濃度(0.1%以上)のグルコン酸クロルヘキシジンが眼に
混入すると角膜障害を起こす.
グルコン酸クロルヘキシジンによる
・グルコン酸クロルヘキシジンは市販の歯磨き,軟膏,薬用クリーム,うがい剤に使用されているため,この症例は過去に何らかの薬剤から感作を受けていた可能性があり,今回のアナフィラキシーが発症したものと考察した.
・国内では過去21年間に32例のアナフィラキシーショックなどのアレルギー症例の報告がある.
・医薬品としては粘膜での使用が禁止されているグルコン酸クロルヘキシジンが医薬部外品としては粘膜での使用が認められむし歯・歯肉炎の予防,口臭予防の目的で使用されている.
アナフィラキシーショック
1.外傷などが伴う治療後には,コンクール<F> (グルコン酸クロルヘキシジン配合洗口液:医薬部外品) を使用しないで下さい.
2.グルコン酸クロルヘキシジン配合の製剤を外傷などの口腔粘膜に使用した場合,アナフィラキシーショックを起こすことがあります.
3.シリンジで歯周ポケットに直接投与する等の用法外の
製造元・発売元のコメント
使用はなさらないで下さい.
・過去に手術を受けた患者では,消毒薬による副作用が
なかったかどうか確認する.
・市販の歯磨き,軟膏,薬用クリーム,うがい剤などで
副作用がなかったかどうか確認する.
・副作用がないことを問診で確認した上で,
コンクール<F>などを勧める.
・その際には適正な濃度で使用するように指導する.
日頃の心がけ
コンクール <F>などを患者に勧めるのであれば
Kunisada M et al : Anaphylaxis due to formaldehyde released fromroot-canal disinfectant. Contact Dermatitis. 47(4): 215-218, 2002.
患 者:50歳、女性。既往歴:過去3年間に歯科処置に伴いじんま疹が出現。現病歴:1999年6月21日根尖性歯周炎に対しパラホルム-アルデヒドを含有する歯髄失活剤の Neoparaformpasta
ホルムアルデヒドによるアナフィラキシー
と亜鉛華ユージノールセメント剤 Neodyne
®
による処置を受けた3時間後に四肢および体幹にじんま疹が出現した。数日後パラホルムアルデヒドを含有する根管消毒薬 Periodon
®
を用いた歯科処置を受けた8時間後に、喘鳴、じんま疹を伴うアナフィラキシーが出現した。根管消毒薬とセメントを除去し、水溶性ステロイドの静注により症状は2日以内に軽快した。
®
Chemicals % vehicle Prick test Patch testNeoparaformpasta
プリックテスト及びパッチテスト結果
Paraformaldehyde 1% aq. 2+ 2+ Dibucaine hydrochloride 1% pet. ー ー
Benzyl alcohol 5% pet. ー ーPeriodon
®
Paraformaldehyde 1% aq. 2+ 2+ Dibucaine hydrochloride 1% pet. ー ー
Guaiacol 5% pet. ー ーNeodyne
®
Zinc oxide 1% pet. ー ー Calcium hydroxide 1% pet. ー ー Rosin 20% pet. ー ー
Eugenol 1% pet. ー 2+Formaldehyde 1%aq. 2+ 2+
N.D., not done.
®
報告者 年齢/性 症状歯科処置から発症までの時間 (hr)
IgE-RAST
プリックテスト
AL-Nashiら(1977) 23/F 顔面の腫脹 1 未施行 未施行1Formanら(1986) 57/M 血管浮腫 4 未施行 未施行2Itoら(1988) 66/M アナフィラキシー 0.7 未施行 陽性3Ebnerら(1991) 57/M アナフィラキシー 1 陽性 陰性4
45/F アナフィラキシー 10 陽性 陰性533/F アナフィラキシー 5-6 陽性 陰性6
Fehrら(1992) 40/F アナフィラキシー 1.5 陰性陽性720/F じんま疹 ? 未施行8 陰性39/M アナフィラキシー ? 未施行9 陰性59/F 血管浮腫 ? 未施行10 ?
Wantkeら(1995) 67/M アナフィラキシー 10 陽性11 陰性
Sayamaら(1996) 39/F アナフィラキシー 2 未施行13 陽性Sayedら(1995) 37/F じんま疹 2-3 未施行12 陽性
Kunisadaら(2002) 50/F アナフィラキシー 8 陽性15 陽性Haikeiら(2000) 41/F アナフィラキシー 直後 陽性14 陽性
歯科治療におけるホルムアルデヒドによる I 型アレルギー
歯科治療におけるホルムアルデヒドによる
・ホルムアルデヒドによるアレルギー症状としては、IV型 アレルギーの機序で発症する接触皮膚炎の報告が多い。
・I型アレルギーの報告例は少ない。
・発症時間の明らかな12報告例のうち6例が、歯科処置後 2時間〜10時間後に発症している。
・formaldehydeが、水溶性のparaformaldehydeから 次第に溶出し、象牙質から歯の外へ、さらに循環血中に 移行し、アナフィラキシーを引き起こす閾値を超える のに2〜12時間かかると推察されている。
・通常のアナフィラキシーの常識と異なり、遅発性の発症 があり得ることを、知っておく必要がある。
I 型アレルギーの報告
定 義ラテックスアレルギーは天然ゴムによって起こる即時型 (I型) アレルギー反応であり,アナフィラキシーショック 起こすことがある.をプリックテストなど皮内反応
ゴム製品の製造過程で添加される化学物質によって感作される
ゴムによる接触皮膚炎
(遅発型アレルギー反応 IV )による
型アレルギー
接触部位に限局した発赤, 腫脹,さらに漿液性丘疹,水疱形成,びらん, 結痂に至る
接触皮膚炎
ラテックスアレルギー
添加加硫促進剤硬化剤
酸化防止剤
ラテックス蛋白質
パッチテスト (
latex 天然ゴム
貼布試験)
日用生活品 炊事用手袋 ゴムテープ ゴム風船 おもちゃ 乳首 おしゃぶり ゴム靴 ゴーグル ゴムバンド コンドーム
医療用品 外科用手袋 点滴回路 カテーテル 歯科用ラバーダム 麻酔バッグ マスク
天然ゴム(ラテックス)製品
ラバーダム rubber dam
生(天然)ゴムrubber
歯科医師や歯科衛生士のラテックス手袋
ラテックス手袋のパウダー
パウダーに吸着したラッテクスアレルゲン蛋白質の
吸引により起こる
歯科用ラバーダム
麻酔薬カートリッジ
ディスポーザブル注射器
輸液セット
ラテックスアレルギーの原因となる歯科用具など
一般手術室医師手術室看護師歯科医師その他の医療従事者二分脊椎症患者
0.8 %7.5 %5.6 %
%1.3 %
36. 0 %
国内でのラテックスアレルギー患者の頻度
全医療従事者の 1.1〜3.9 %
欧米でのラテックスアレルギー患者の頻度
13.7
2. 長期間医療用ゴム製品を使用する患者や医療処置を継続する患者
1. 医療従事者医師, 看護師,
二分脊椎症患者, 尿道奇形を有する患者
歯科医師, 歯科衛生士,検査技師, 病院内勤務者など
4. 食物アレルギーを有する患者アボカド, バナナ, クリ, キウイフルーツ,
ウリ,トマト, パイナップル, ソバ, モモ,グレープフルーツ, ピーナッツ, ジャガイモ
3. ゴム製品の製造, 取り扱いに従事する者
5. 主婦 ゴム手袋着用による炊事・掃除
ラテックスアレルギーのハイリスクグループ
概 念 ラテックスアレルギーと果物との交叉反応により 即時型アレルギーを呈する病態をいう.症 状・経過 ラテックスアレルギー患者が, バナナやクリを摂取 した後に突然じんま疹や鼻症状が出現し, さらに 全身の潮紅, 血管浮腫, 呼吸困難感, 血圧低下などの アナフィラキシー症状へと進展することがある.原因食物
アボカド, バナナ, クリ, キウイフルーツ, ウリ,トマト, パイナップル, ソバ, モモ,グレープフルーツ, ピーナッツ, ジャガイモ
対 処 該当食物の摂取を避けることしかない.
ラテックスーフルーツ症候群
ラテックスフリー手袋(合成ゴム製品)ダーマプレン(アンセル)センシダーム(東レ)
ラテックス低蛋白製品ニューデックス(インターメド)ガメックス(アンセル)センシタッチ・プロ・ノーパウダー(東レ)オーソペディック(アンセル)ノーパウダー(アンセル)手術用ゴム手袋(ジエイ・エム・エス)ウルトラダーム(バクスター)ニュトラロン(ジョンソン&ジョンソン)ソフティー(高純度天然ゴム,歯科用: モリタ・ダンロップホムプロダクツ)モイスチャー(高純度天然ゴム,家庭用)ママサヤン(高純度天然ゴム,家庭用)
ダーマテックス(インターメド)デュラプレーン(バクスター)
ラテックスアレルギー配慮手袋
口腔アレルギー症候群(OAS
<概念>
)
シラカバを中心とした花粉症患者において,新鮮な果物,野菜,ナッツ類などの摂取に伴って生じる主としてかゆみや腫れなどの口腔咽頭の粘膜症状が出現することをさす.・シラカバ花粉症の20%にリンゴ果肉によるOASあり.・シラカバ花粉症と合併するOASはリンゴ,サクランボ,
モモが多い.<発症機序>
患者がまず特定の花粉症に感作され,生成されたIgEの,果物,野菜との共通抗原性によって発症する,IgE を介した即時型反応とされる.<症状>
原因となる食物を食べて約15分以内にそれが触れた,口腔,口唇,咽頭部に刺激感,かゆみ,ひりひり感,突っ張り感などが現れる.喘息やアナフィラキシーなどもあり.
薬薬薬薬物物物物過過過過敏敏敏敏症症症症
アスピリン喘息
患 者:28歳,男性,歯科技工士.主 訴:喘鳴,呼吸困難既往歴:16歳より気管支喘息 平成13年,蓄膿症,鼻ポリープで手術家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成15年2月18日より某内科で気管支喘息にて通院.平成15年3月25日某歯科医院で智歯の抜歯を受けた.抜歯後の痛みに対して処方されたポンタール を® 内服1時間後に喘鳴の出現・増悪あり,同内科に緊急入院しステロイド等の投与にて軽快した.同院でアスピリン喘息と診断された.平成15年4月より当院歯科技工部で研修していたが,5月に喘息発作を起こし当科を受診,リンデロン ,® ネオフィリン の点滴静注で軽快した.現在抗ロイコトリエン薬の
®
アコレート 400mg/日,
® プレドニン 7.5® mg/日, テオロング 400 mg/日
にて維持療法中である.アスピリン喘息と言われており,当院ではNSAIDsを処方していない.
®
症例提示
・末梢血好酸球数 1400/mm3と好酸球増加あり・IgE 1213 IU/mlと高値・RAST(抗原特異的IgE抗体) 下記項目で強陽性
ヤケヒョウダニ class 3 ハウスダスト1 class 4 オオアワガエリ class 2 シラカンバ class 5
ネコ上皮 class 4上記検査所見および発症年齢を考えると,
検査データと診断
アトピー性喘息患者がアスピリン喘息を合併していると考える.
歯科技工室の環境を確認したところ,レジンモノマーの刺激臭が強く,これが喘息発作誘発の一因と考えられた.
概 念・アスピリンのみならず, 全ての酸性解熱消炎鎮痛薬
( )で発作が誘発発作が 誘発される喘息・気管支喘息の病態を修飾する一病型
疫 学・成人喘息患者の
酸性非ステロイド系抗炎症薬
10〜20%を占め, 決してまれではない!!・ に達する.・
鼻ポリープのある患者では34%
・発作は重症型が多く, その程度はCOX-1の阻害効果とほぼ並行する.
病歴のみでは全体の約6割しか診断できない.
アスピリン喘息 aspirin induced asthma (AIA)
膜リン脂質
アラキドン酸
PGG2
PGH2
PGE2PGD2
PGF2α
LTC4LTD4LTE4
Phospholipase A2
5-LOFLAP
LTA4LTA4Hydrolase
COX-1/COX-2
LTA4 SynthaseLTB4
PG: プロスタグランディンLT: ロイコトリエンCOX: シクロオキシゲナーゼ5-L0: 5-リポオキシゲナーゼFLAP: 5-リポオキシゲナーゼ 活性化蛋白
Asprin
抗炎症作用
好炎症作用
COX-1阻害による, PGE2産生の低下, LT産生過剰が起こる
アスピリン喘息の推定発症機構
1. 成人の喘息の約10%に出現する.小児ではまれ.2. 20〜50代に多い.女性にやや多い.(男:女=2:3)3. ときに,意識障害をきたすほどの大発作になり,
死ぬこともある。4. 重症で治りにくくなることがある。5.
アスピリン喘息の臨床的特徴
慢性鼻炎,鼻茸(鼻ポリープ)や蓄膿(副鼻腔炎)を 合併していることが多い。
6. 嗅覚が低下していることが多い。
薬を投与してから約30分以内に,まず鼻水・鼻閉に始まり,次に咳・ゼーゼーが出始め,喘息発作となり呼吸困難に陥る.
≪典型的な発作の起こり方≫
一般薬局より入手した感冒薬あるいは解熱鎮痛薬
歯 科
医 科 整形外科 婦人科 外科 内科 泌尿器科
西澤ら:アスピリン喘息重症例, 死亡例の減少法の捜索.アレルギー, 43: 404, 1994.
( )
原因薬剤 頻 度
188
(18)12.0 % (6)10.0 % (5)
8.0 % (4) 8.0 % (4)
36.0 %
(406事例)
アスピリン喘息潜在患者の危険性
%12.3
%
(50)
46.3
( )% 8621.2
数分〜2 時間 (平均20分)
数分〜2 時間
1〜6 時間
数分〜1時間
数分〜40分
数分〜40分
1時間
3〜16 時間
1〜8 時間
2〜8 時間
1〜4 時間
1〜4 時間
1時間
?
内服薬(飲み薬)
坐薬
シップ・塗り薬
筋肉注射
血管注射
吸入薬
点眼剤
薬剤の投与方法 発作出現までの時間 持続時間
薬を使ってから発作が出るまでの時間
投与経路に関わらず, 喘息発作を引き起こす.
1.酸性解熱鎮痛薬(酸性NSAID)2.
アスピリン喘息の誘発物質と発作誘発力
コハク酸エステルステロイド3.食品,医薬品添加物(1)パラベン(2)サルファイト(3)安息香酸ナトリウム(4)色素(5)ベンジルアルコール4.サリチル酸化合物(1)各種香辛料(2)自然界のサリチル酸を含んだ果実,野菜 (イチゴ,ミカン,ジャガイモ,ブドウなど)5.香料 (1)ミント (2)化粧品の匂い
強い強い
やや強いやや強い
中弱い
弱い〜無?
弱い極めて弱い
中〜弱い弱い
発作誘発物質 発作誘発力
コハク酸エステル リン酸エステルステロイド ステロイド (AIAに禁忌) (AIAに注意)
ハイドロコーチゾン ソルコーテフ 水溶性ハイドロサクシゾン
®
コートン®
プレドニゾロン 水溶性プレドニン®
コーデルゾール®
メチルプレドニゾロン ソル・メドロール®
, ─
デキサメサゾン ─ リンデロン
®
ベタメサゾン ─ デカドロン®
アスピリン喘息(AIA)はすべてのコハク酸エステル型ステロイドに過敏性を有する.リン酸エステルステロイド製剤もリンデロン
®
®
はサルファイト,デカドロン®はパラベンを含み, 急速静注は危険. 両者どちらかを1時間以上かけて点滴するのが望ましい.
本邦における静注用ステロイド剤
分 類
小児期より湿疹, 食物アレルギー, アレルギー性鼻炎,薬剤アレルギーなどアレルギー体質がある.外来性の刺激に反応する(IgE抗体の存在).
アトピー型
が関与する.I型のアレルギー
外来性の刺激に反応しない. 非アトピー型
35歳以上での発症. 気道の感染が誘因となることもある.
非アトピー型の中にアスピリン喘息患者がいる.
・軽症例では夜中から明け方の喘鳴, 咳, 息切れを訴える.・進展すると:呼吸困難, 喘鳴, 起坐呼吸, 聴診でラ音の聴取.・発作をコントロールできない状態を
症 状
喘息重積状態という.
気管支喘息
発作強度と発作頻度の組み合わせで判定する.
1. 発作強度
2. 発作頻度(平均日数)
1)1週間に1日以下
2)1週間に4日未満
3)1週間に4日以上
3. 重症度(軽症・中等症・重症)
日本アレルギー学会喘息重症度判定基準
A(小発作)
B
C (大発作)
苦しいが横になれる
(中発作)苦しくて
苦しくて動けない
普通
横になれないやや
困難
普通にできる
困難かなり困難(トイレ・洗面にかろうじ
不能
なし
て行ける)
あり
呼吸困難 会 話 動 作 チアノーゼ
正常
なし
正常ないし意識障害,
失禁
意識状態
正常
注 ① 発作強度は主に呼吸困難の程度で判定し, 他の項目は参考項目である.
② 発作強度が混在するときは発作強度の重い方をとる.
気管支喘息の発作強度
① 次の場合は発作頻度のいかんにかかわらず ととする.
中等症以上
② 次の場合は発作頻度のいかんにかかわらずステロイド薬を治療上必要とする場合
とする. イ)
重症プレドニゾロン換算量1日10mg以上のステロイド
依存性のある場合ロ) 発作強度C (大発作) で1回でも意識障害を伴う
ような発作があった場合
123
W A B C (喘鳴のみ)
軽軽軽
軽軽中
中中重
中重重
頻度強度
気管支喘息の重症度
治療手順1) 酸素投与2) エピネフリン ( , ボスミン® エピクイック® )
3) 末梢血管の確保4) アミノフィリンの点滴投与5) 副腎皮質ステロイド剤の点滴投与:
・
0.1〜0.3 ml 皮下または筋注
(ソルコーテフコハク酸エステル型ステロイドの急速静注は禁忌
, サクシゾン® , ソル・メドロール® ,水溶性プレドニン
®
: パラベン含有)・
®
リン酸エステル型ステロイドの点滴投与が一番安全(リンデロン , デカドロン®が最も良い : パラベン含有)
・中発作以上がほとんど・アスピリン喘息患者は潜在的に
®
コハク酸エステル型
・通常の気管支喘息と異なり遅発相はないので,急性期を 乗り切れば良い.
ステロイドに過敏
アスピリン喘息の急性期治療
1. 使用開始から症状発現までの時間 1時間以内
内服・坐薬ともに使用開始1時間以内に発作を生じるのが
普通で, 2時間経った後に反応が始まることはまずない.
2. 鼻汁や鼻閉を伴うことがほとんどである
鼻症状がなければ, NSAIDによるものでない可能性が高い.
3. NSAID誘発発作は, 起坐呼吸になるほどの
重症発作がほとんどである.
軽い場合は否定的.
NSAIDが発作の原因と判断可能なポイント
基本的に安全に用いることができるが効果は弱い●歯科適応あり・塩酸チアラミド(ソランタール )・エピリゾール(メブロン
®
, アナロック® )●歯科適応なし・エモルファゾン(ペントイル
®
)など
塩基性解熱鎮痛薬
アセトアミノフェン(カロナール
®
など)®
1回の投与量が 歯科適応あり
を超えると500 mg 過敏症状の発現のでなるべく少量を用いる 頻度が高くなる
困ったことに添付文書に塩基性解熱鎮痛薬とアセトアミノフェンもアスピリン喘息に禁忌と記載されている.
アスピリン喘息患者に使用できる鎮痛剤
1. アスピリン喘息の可能性も考慮に入れ, 医療面接する.
誘因, 発作強度, 発作頻度, 重症度, 薬物アレルギーの有無, 発作時の対応など,慢性鼻炎・副鼻腔炎・鼻ポリープや
解熱鎮痛薬(
医療面接のポイント
市販薬を含む)による発作の既往の有無,ステロイド投薬の有無と量
2. 重症度判定で「中等症」や「重症」例は, 可能であれば
3. 歯科治療に緊急性がない場合には, 本格的な 治療を開始する前に, 患者の状態について担当医師と連絡をとる.
病院歯科へ紹介する.
発作強度, 発作頻度, 重症度, アスピリン喘息の可能性の 有無については, 特に照会状の中で触れ, 尋ねること.4.吸入薬を常用している患者では, 吸入薬を持参してもらう.
気管支喘息患者の歯科治療の心得
5.アスピリン喘息患者には, レジンモノマーや 根管消毒薬 など歯科材料の刺激臭を嗅がせない.6. 歯科用局所麻酔薬のカートリッジが やパラベン ピロ亜硫酸
を含有しており, アスピリン喘息を誘発する 可能性があり投与しない.
(代替法)防腐剤を含有しない
ナトリウム
歯科用局所麻酔薬のカート
リッジを用いる.7. 歯痛止めとしては, 塩基性NSAID,無効ならアセトアミ ノフェン( を処方する. またアスピリン
喘息の危険性を明示した, 各社, 500mg以下)
を患者に提供する8. アスピリン喘息の患者には
薬剤情報書の処方を避ける
(黄色の薬
).9.
タートラジンなどの色素が喘息を誘発するため.エピネフリン(皮下注)を常備する
気管支喘息患者の歯科治療の心得