固定化した中州の制御による 河岸部での深掘れ抑制へ ... -...
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固定化した中州の制御による 河岸部での深掘れ抑制への取り組み
谷口 和哉1・坂元 美佐2
1河川部 水災害予報センター(〒950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町1-1-1).
2金沢河川国道事務所 調査第一課 (〒920-8648 石川県金沢市西念4-23-5).
近年,手取川では砂州の固定化,澪筋の固定化・深掘れが顕著となっており,河岸の深掘れに
よる構造物の安定性低下,砂州の固定化・樹林化による河積阻害といった治水上の問題が生じて
いる.これらの問題に対し,手取川11k付近の固定化した中州と河岸部の深掘れ箇所において,
有効な対策を見出すための現地試験を開始した.本論文は,流路の深掘れメカニズムの考察,対
策工計画までの過程,今後の評価・検証につなげるモニタリング調査について報告する.
キーワード 急流河川,砂州,局所洗掘,水路掘削,モニタリング
1. はじめに
手取川では平成年代に入り,砂州の固定化と澪筋の固
定化・深掘れが進行し(図-1),流路と砂州の比高差が
拡大している.要因として,大規模洪水の減少,手取川
ダムの建設(昭和55年竣工),治山・砂防事業の推進,
砂利採取(現在は採取規制),河道掘削,護岸整備とい
った複数の要因が関与していると推察される1).
澪筋の固定化・深掘れは,一見すると,河道変化が活
発で,澪筋位置の予測が難しかった過去から比較すると
平常時の管理がしやすく,あるいは流下断面の拡大とも
捉えられるが,一方で,河床低下による護岸の根入れ不
足といった河川構造物の安定性の低下や,水面幅の縮小,
平水位の低下による樹林域の拡大・発達を招くため,全
体としてみれば,治水安全度を低下させる負の側面の方
が大きい.これまでは根継護岸といった対症療法的な対
応を行ってきたが,澪筋の固定化・深掘れが拡大してい
く中で,予防保全によって,河道の健全性を確保するた
めの有効な対策を見出すことが急務と捉えている.
澪筋の固定化・深掘れの生じるメカニズムについては,
竹林・江頭・清水ら2)~4)が,複列砂州であっても,流量
減少や樹林化によって固定砂州が形成されると,集中的
な蛇行流路(自己形成流路)が誘発される現象を示した.
長田・福岡ら5)は,低水護岸が横侵食を規制し,自然河岸
とは異なり土砂供給がないことで縦侵食が増幅され,護
岸前面では澪筋の固定化・深掘れが生じる現象を示した.
辻本ら6)は,供給土砂量が減少すると砂州移動速度が鈍化
し,澪筋の固定化が進む現象を示した.
澪筋の固定化・深掘れに対する対応策としては,様々
な調査研究が行われているが、大きくは①固定砂州の解
消を図る方策(樹木伐開・管理,砂州の切り下げ7),水路
掘削による導水8),ダムのフラッシュ放流),②洪水中の
適正な土砂供給を促す方策(土砂還元9),河岸部の盛土10)),
③主流路への流量集中を緩和する方策(副流路の復元11),
導水路の掘削8)),④澪筋の河床洗掘を抑制・解消する方
策(澪筋の埋め戻し12),13))などが報告されている.
現段階では,上記のような様々な観点による調査・研
究に対する包括的・体系的な取りまとめは行われておら
ず,他河川での成功例がそのまま手取川に適用できるか
は不明である.このため,本研究では,不確実な事象に
対処することを前提に,仮説の検証を繰り返し,手取川
に適した対応策を現地フィールドを使用しながら検討す
るものとした.
本報告では,①澪筋の固定化・深掘れが生じたメカニ
ズムの推定,②その解消に向けた対策工の計画,③現地
施工,④モニタリングを行った過程までを報告する.
図-1 手取川の河道状況
2. 設定した仮説
検討するにあたり,手取川の河床変遷から12.0k付近の
中州に着目してみると,平成18年7月出水の災害復旧工事
に伴う仮排水路の設置を契機として,中州内部に流路が
徐々に拡大、さらに水当たりとなる上流部から侵食が始
まり、最終的に平成25年7月出水を受け,固定化されてい
た中州が消失しとものと考えられる(図-2).
このことから,水当たりを設置することで中州が消失
するのではという仮説を立て,実際に現地試験フィール
ドを設定し,仮説を検証することとした.
3. 現地試験フィールドの概要
(1) 現地試験フィールドの選定
手取川全川において、河道内の樹林化が進行した平成
年代以降の航空写真により,中州が固定化した箇所を抽
出した.このうち樹林化の変化パターンとして,洪水後
の変化がほとんど無く,平成10年頃の樹木範囲を維持し
ている11.0k中州を選定した.
(2) 11.0k中州周辺の現状
図-3に11.0k中州の航空写真および縦断図を示す.中州
を挟むように左右岸に2つの流路が存在し,右岸側を主流
路,左岸側を副流路(平常時の流水なし)としている.
中州と流路の標高差は3~4m程度あり,比高差が非常に大
きく,中州は全面的に樹木・草本に覆われている.また,
右岸側が左岸側に比べて河床が低く,流水が右岸側に集
中し,中州下流の右岸側10.6k~10.8k付近では水衝部と
なり、流路の深掘れが発生している.
(3) 中州に働く水理量の算定
準二次元不等流計算および平面二次元流況解析を実
施し,固定化した中州に働く水理量を把握した.準二
次元不等流計算で,昭和60年,平成10年,平成25年にお
ける流量規模別水理量を算定した結果(図-4),どの
年代においても中州に働く水理量は小さいため,流出
せず、固定化が進行したと推定した.また,平面二次
元流況解析では,平成27年10月実施の測量結果(50mピ
ッチ)より3次元地形を作成し,平面的な水理量を算定し
た.図-5に流量規模別の水深の計算結果を示す.中州は
平均年最大流量(1,100m3/s)でもほとんど冠水せず,不
等流計算結果よりもさらに樹林化しやすい環境にあると
推定した.中州が完全に水没するには,計画高水流量
(5,000m3/s)が必要であり,中州の冠水頻度がいかに小
さいかがわかる.
(4) 中州の形成機構の考察
a) 地形の変化
昭和年代は、出水や河道掘削,砂利採取により中州地
形は変化していたが,平成年代以降は中州が固定化し,
ほとんど変化していない.
また、11.0k地点における横断図の経年変化から,現在
の中州の高さは砂利採取開始前の最深河床高程度に相当
しており,その高さは戦後~昭和年代にかけて行われた
河道掘削あるいは砂利採取によって概ね形成されたもの
と推定した.
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右岸
右岸2
左岸
砂州
標高
(T.
P.m
)
河床勾配:1/200程度
縦 断 図52
10.6 10.7 10.8 10.9 11.0 11.1 11.2 11.3 11.4 11.5 11.6 距離標(km)
右岸みお筋~中州⇒比高差3~4m
右岸みお筋~左岸みお筋⇒比高差2m
図-3 対象フィールド概要
図-2 12.0k中州の経年変化
b) 植生の変化
現在の中州に植生が進入し始めた昭和60年頃に,元々
存在した種はアキグミであったが,平成9年~14年の間に
ハリエンジュなどの外来種が登場し,その後着々と拡大
した.また、平成20年~25年の間にヌルデ-アカメガシワ
群落が突然出現し、範囲を拡大している.現在では,こ
の2種が支配的であり,元々の樹種のアキグミは水際の一
部に生えているのみである(図-6).
4. 試験施工
(1) コンセプト
洪水時に移動し,下流への土砂供給を可能とする「攪
乱されやすい中州」とすることで,流れの分散と主流の
制御を図り,一方の河岸に流れを集中させない,洪水時
に土砂を適度に供給しやすい状態をつくることで,澪筋
の深掘れ緩和を図り,水衝部の緩和を解消することを目
標とする.
対策案として①樹木伐開,②中州の切り下げ,③水路
設置による流れの誘導の3案を検討したが,①樹木伐開
では洪水時の掃流力を高められるが,冠水頻度を高める
という 抜本的な解決にならず,一時的な対応に留まる.
また,②中州の切り下げは掃流力・冠水頻度ともに一定
の効果は期待できるが,平均2m程度の切り下げで約5万m3
の大規模な掘削が必要となり、初期コストや環境へのイ
ンパクトが大きくなる.一方、③水路設置による流れの
誘導については12k付近の仮排水路を再現するものであり,
自然出水を利用するため,安価かつ環境への影響低減が
得られ,成功した場合の他箇所への拡充を期待出来るこ
とから③案を選定した.
(2) 対策工の概要
中州中央部に水路(延長約700m)を掘削し,その土砂
を上流流入部に投入することで,中央部の水路及び左岸
流路に導水しやくする計画とした.また、左岸流路を活
図-6 植生図の経年変化
図-4 準二次元不等流計算結果
図-5 平面二次元流況解析結果
用し,流路側から中州を侵食させることを目的として,
中州河岸のアーマー化を解消するため,伐開と中州河岸
の掘り返しを計画、攪乱を図った(図-7).
水路諸元は掘削土量の制約により,水路底幅を5m,側
岸勾配を1:2,水路勾配を1/300(現河床勾配1/200に対
して緩勾配)とした.水路勾配の設定にあたっては,右
岸流路と水路下流端で比高差がある場合,一様勾配だと
洪水減衰期に水路下流端で土砂堆積が生じる可能性があ
るため,勾配変化点を設け下流に土砂を引き込みやすく
することを目的に,水路下流150m区間は1/30と勾配をき
つくし,合流地点の河床と擦り付けるよう設定した(図
-8).
(3) 対策工実施後の流況予測
計画した対策工の地形条件において,前述した平面二
次元流況解析モデルを用いて試験施工実施後の流況予測
を実施した.
現況では,平均年最大流量(1,100 m3/s)でもほとんど
冠水しないが,対策工実施後では,平均年最大流量(1,100
m3/s)で水路を満杯で流下,水路周辺の攪乱が期待でき
る.また,右岸流路への流れの集中の緩和についても,
対策工実施後では実施前に比べて分流量,分流比が減少
しており,対策工の効果が期待できる.流量規模別の右
岸流路,水路,左岸流路の分流量および分流比を表-1に
示す.
左岸流路の活用という点については,現況では平均年
最大流量(1,100m3/s)で分流し,表層粒径(φ200mm)は
移動しないが,対策工実施後では,融雪出水の平均流量
(500m3/s)で分流し,導水頻度が増大する.また,平均
年最大流量(1,100 m3/s)で表層粒径(φ200mm)が移動
し,河床変動を伴うと推定されることから,左岸流路に
面した中州の攪乱が期待できる(図-9).
樹木伐開
水 路 横 断 図
底幅B=5m
H=1.5m程度(0.1~2.9m)
掘 削原地盤
水路上部 B=平均10m(5~14m)
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10.6 10.7 10.8 10.9 11.0 11.1 11.2 11.3 11.4 11.5 11.6
右岸
右岸2
左岸
砂州
水路敷高
I=1/30、L=150m
I=1/300、L=550m
標高
(T.
P.m
)
縦 断 図
左岸みお筋高さ相当
右岸みお筋は、掘削土を流用して埋戻し
みお筋高さ相当
10.95k
10.8k
11.5k
呑口部敷高T.P.+60m
図-7 対策工平面図
図-8 掘削水路の諸元(左図:断面図,右図:縦断図)
分流量 (m3/s)
※()内は分流比(%)
500m3/s 1,100m3/s 2,000m3/s
左岸 水路 右岸 左岸 水路 右岸 左岸 水路 右岸
現況(掘削前)
(H27.2 地形) 0(0%) 0(0%) 500(100%) 48(5%) 0(0%) 952(95%) 263(13%) 0(0%) 1,737(87%)
現況+対策工計画(掘削前)
(H27.2 地形+計画) 25(5%) 3(1%) 472(94%) 144(14%) 10(1%) 846(85%) 439(22%) 39(2%) 1,522(76%)
表-1 対策工実施後の流量規模別の分流量
(4) 試験施工概要
平成27年11月に試験施工として掘削水路の施工を実施
した.計画していた掘削土砂の右岸流路への投入は現地
状況から困難であり,水路および左岸流路への導水は,
盛土締切と分流工の設置にて実施した.
5. 現地モニタリング
(1) モニタリング項目
対策工による効果を把握するために,平成27年11月よ
りモニタリングを開始した.モニタリング項目およびモ
ニタリング位置・範囲は図-10に示す通りである.
(2) モニタリング結果
a) 現地状況
盛 土締切と分流工設置により,平常時においても水路
及び左岸流路に導水され,右岸の分流量を緩和している
と推察できる.一方で,平常時でも 旧流路部や水路から
横越流している箇所があり,左右岸流路の比高差が解消
できないため,導水した流水の一部は右岸流路に戻って
しまうことが わかった(図-10).
ま た,旧流路部に着目してみると,小規模出水後には,
当該箇所の水路幅の拡大が確認でき(図-11),中州を削
っていく効果を波及させられることがわかった(図-12).
右岸流路の流量集中を防ぐという目的に対しては,右
岸側へ流れが全て戻ってしまうことは望ましくはないが,
中州の攪乱という目的に対しては 効果があったと言える.
b) モデルの検証
平成27年12月11日に発生した小規模出水時(基準地点
の鶴来で暫定最大流量約600m3/s)の水位のモニタリング
結果と流況解析で求めた水面形を比較すると,よく合致
しており,小規模出水での本解析モデルの妥当性は確認
できた(図-13).なお,左岸流路については,分流の上
流端の地形により計算結果が大きく変わるため,この地
形の把握が重要であるとわかった.
引き続きモニタリングを実施し,流量規模の大きい出
水に対する精度検証や平面二次元河床変動解析モデルの
構築を進めていく.
0 0.2 0.4 0.8 1.0 0.6
(m/s)現地に存在する 粒径範囲 ~60cm
←計算上の移動粒径5cm 80cm 120cm
20cm 45cm 60cm
図-10 モニタリング平面図
掘削後 空中写真(H27.12.1撮影)
図-9 対策工実施後の流況予測
目的 調査数量・範囲 実施時期
横断測量 詳細な地形把握(50mピッチ) 37測線 H27.11実施(掘削後)
航空写真撮影 みお筋位置の変化や植生の状況把握 10.2k~12.0kH27.12.1実施(掘削後)
H27.12.14実施(12月洪水後)
水位計測 物理諸元の把握 15基 H27.11設置~モニタリング実施中
写真撮影 植生状況や冠水状況の把握 5基 H27.11設置~モニタリング実施中
表層河床材料調査 表層の河床材料の把握(200mピッチ) 19箇所 H28.7実施予定
河床変動モニタリング 右岸水衝部・深掘れ部の河床変動の把握 1箇所(R10.55k) H28.2設置~モニタリング実施中
モニタリング項目
6. おわりに
固定化した11.0k中州において,主に「中州の攪乱」と「主
流部への流量緩和」を目的に,水路掘削,分流工の設置等
の試験施工を実施し,効果の把握のため,モニタリング
を実施している.現時点では,小規模出水を受けて,越
流部の拡大や水路や左岸流路への導水など目的に対する
一定の効果は確認できたところである.
今後は3年程度で集中的にモニタリングを実施し,その結
果を反映することでモニタリング手法の見直しや掘削水
路の維持管理の在り方等について,順応的管理を行いな
がら,「中州の制御」により,深掘れを解消する手法を
見出していきたい.
参考文献
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壊,河川技術論文集,第5巻,1999
2) 竹林洋二,江頭進治,岡部健士ほか:給水・給砂の非定常性
と植生の繁茂を考慮した中州及び水路の形成水理条件,水
工学論文集,第49巻,2006
3) 清水義彦ほか:礫床河川の植生化による中州・みお筋の形
態変化について,土木学会論文集B1 Vol.68, No.4, 2012.
4) 清水義彦ほか:複列中州における単列蛇行流路の形成に関
する数値解析,土木学会論文集B1 Vol.70, No.4, 2014
5) 福岡捷二,長田健吾ほか:石礫河川の河床安定に果たす石
の役割,水工学論文集,第52巻,2007
6) 辻本哲郎ほか:土砂供給の量と質が中州河道に及ぼす影響
に関する基礎的研究,河川技術論文集,第15巻,2009
7) 仲村学ほか:阿賀川における礫河原再生に向けた河道整備,
河川技術論文集,第19巻,2013
8) 清水義彦ほか:固定中州の掘削による中小洪水営力を用い
た樹林化抑制と水衝部対策について,河川技術論文集,第21
巻,2015
9) 福島雅紀,山下武宣ほか:河道掘削および砂礫の敷設供給
に対する河床の応答,河川技術論文集,第13巻,2007
10) 北陸地整:治水と環境の調和した新たな河岸防護技術の手
引き~巨石付き盛土中州を用いた河岸防護工~,2013
11) 山口里美,渡邊康玄ほか:流路の固定化が進行した河道に
おける効率的な旧流路回復手法に関する検討,河川技術論
文集,第21巻,2015
12) 貴家尚哉ほか:阿賀川における樹木管理と礫河原の再生に
ついて,河川技術論文集,第17巻,2011
13) 福岡捷二ほか:多摩川上流部における治水と環境が調和し
た総合的な河道管理,河川技術論文集,第19巻,2013
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水位
(T.P
.m )
距離標(km)
右岸測定水位 左岸測定水位
水路測定水位 計算水位(右岸)
計算水位(左岸) 計算水位(水路)
河床(右岸) 河床(左岸)
河床(水路)SK1
SK2 SK3
SK4
SK5SK6
SK13SK14
SK15SK9
SK7SK8
SK10
SK12SK11
図-12 洪水後の越流箇所
図-11 洪水後航空写真
図-13 モニタリング結果と計算水位
洪水後(H27.12.15撮影)