北九州 e-port 構想 2北九州e-port...

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1 北九州 e-PORT 構想 2.0 フェーズⅡプラン 【第 1.0 版】 2017 年 3 月 北九州 e-PORT 推進機構

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    北九州 e-PORT 構想 2.0

    フェーズⅡプラン

    【第 1.0 版】

    2017 年 3 月

    北九州 e-PORT 推進機構

  • 2

    はじめに

    北九州 e-PORT 構想 2.0(以下「本構想」という)は、2002 年に策定された北九

    州 e-PORT 構想(以下「前構想」という)の成果を踏まえ、2015 年に「北九州 e-

    PORT 構想 2.0」として策定されたものである。

    前構想では、地域に情報産業を集積し、IT サービスを電気や水道のように、いつで

    も簡単便利に使える社会基盤として提供することを目指した。この 12 年間の取り組

    みの結果、八幡東区東田地区は全国でも有数のデータセンターの集積を実現し、コール

    センターや情報倉庫など、IT サービス基盤の形成は一定の成果を収めた。IT を電気や

    水道のように、いつでも簡単便利に使えるサービスとして提供するという目標につい

    ても、インターネットやスマートフォンの急速な利用拡大、また様々なクラウドサービ

    スの普及などにより、一定の水準に到達したものといえる。その一方で、中小企業の IT

    利活用の促進や、高齢化社会、地域創生などの対応のための IT 利用など、新たな課題

    への対応が求められる状況になってきた。

    そして構想は、2015 年に「北九州 e-PORT 構想 2.0」に進化し、IT サービスを利

    活用したビジネスの創出や、地域の課題を IT で解決するプロジェクトの推進など、IT

    による産業振興に向けた取り組みを実施することとし、フェーズⅠからフェーズⅢま

    での各 3 年、合計 9 年間の構想としてまとめた。

    このような中、本構想を推進する e-PORT 推進機構の事務局である公益財団法人九

    州ヒューマンメディア創造センター(以下「HMC」という)は、2018 年度より、公

    益財団法人北九州産業学術推進機構(以下「FAIS」という)に統合されることとなり、

    今後 e-PORT 推進機構の事務局も FAIS に置かれることとなる。

    本構想は、これまでのノウハウが蓄積された体制を維持しつつ、前述の組織統合によ

    って更なるシナジー効果を発揮させ、本構想の昇華並びに地域産業の発展に向けて新

    たなフェーズに臨むとともに、フェーズⅠで生じた課題や IT を取り巻く新たな状況に

    対応するため、フェーズⅡプランとしてまとめることとしたものである。

    なお、本構想フェーズⅡの取りまとめにあたっては、北九州地域で活躍されている有

    識者で構成された、北九州 e-PORT 構想 2.0 フェーズⅡ検討委員会(以下「検討委員

    会」という)において検討を重ねた内容について、北九州 e-PORT 推進機構顧問会(以

    下「顧問会」という)、並びに e-PORT パートナーからフィードバックを経て決定し

    たものであり、ご協力いただいた関係各位に深く感謝を申し上げる。

  • 3

    【検討委員会及び顧問会の日程】

    2017/9/1 第 1 回北九州 e-PORT 構想 2.0 フェーズⅡ検討委員会

    2017/9/28 北九州 e-PORT 推進機構顧問会

    2017/12/11 第 2 回北九州 e-PORT 構想 2.0 フェーズⅡ検討委員会

    2018/2/6 第 3 回北九州 e-PORT 構想 2.0 フェーズⅡ検討委員会

    2018/3/7 北九州 e-PORT 推進機構顧問会

    北九州 e-PORT構想 2.0 フェーズⅡ検討委員 (五十音順、敬称略)

    氏 名 役 職 名

    網岡 健司 特定非営利活動法人里山を考える会 理事

    池永 全志 国立大学法人九州工業大学 ネットワークデザイン研究センター長

    井上 龍子 八幡駅前開発株式会社 代表取締役社長

    牛島 雄二 公益財団法人北九州産業学術推進機構 産学連携統括センター

    ものづくり革新センター長

    里村 勉 北九州商工会議所 中小企業部長

    宗森 敏也 新日鉄住金ソリューションズ株式会社 IT インフラソリューション

    事業本部営業本部 九州営業グループリーダー

    田中 紀之 株式会社北九州銀行 営業統括部次長

    中村 彰雄 北九州市総務局 情報政策課長

    松岡 信行 北九州情報サービス産業振興協会 会長

    山下 耕太郎 北九州市産業経済局 新産業振興課長

    吉田 一直 YK STORES株式会社 代表

    吉村 英俊 公立大学法人北九州市立大学 地域戦略研究所 教授

    北九州 e-PORT推進機構顧問 (五十音順、敬称略)

    氏 名 役 職 名

    梅本 和秀 北九州市 副市長

    尾家 祐二 国立大学法人九州工業大学 学長

    東 敏昭 学校法人産業医科大学 学長

    松岡 信行 北九州情報サービス産業振興協会 会長

    松永 守央 北九州 e-PORT推進機構 最高執行責任者

    村上 公幸 西日本電信電話株式会社 北九州支店 支店長

    森脇 不知奈 山口キャピタル株式会社 代表取締役

  • 4

    目次

    第1章 背景 .............................................................................................................................................. 5

    1 「北九州 e-PORT 構想」の歴史 ......................................................................................................... 5

    2 フェーズⅠの成果........................................................................................................................................ 9

    3 フェーズⅠの課題..................................................................................................................................... 11

    4 産業を取り巻く環境の変遷 .................................................................................................................. 12

    (1) 産業を牽引する IT .................................................................................................................................... 12

    (2) 人手不足と生産性向上の必要性 ........................................................................................................ 17

    (3) FAISと HMC の統合 ............................................................................................................................. 19

    第2章 本構想のあり方 ................................................................................................................... 20

    1 フェーズⅡ策定にあたっての観点 .................................................................................................... 20

    (1) 検討委員会・顧問会等のフィードバック ..................................................................................... 20

    (2) 市からの示唆 ............................................................................................................................................... 21

    (3) 前構想のノウハウの活用 ....................................................................................................................... 22

    (4) e-PORT リソース .................................................................................................................................... 24

    2 フェーズⅡにおける取り組みの方向性 ........................................................................................... 25

    (1) 検討アプローチ .......................................................................................................................................... 25

    (2) 取り組みの方向性 ..................................................................................................................................... 27

    (3) e-PORT リソースの活用 ..................................................................................................................... 29

    第3章 アクションプラン............................................................................................................... 31

    1 各取り組み .................................................................................................................................................. 31

    (1) 新ビジネスの創出 ..................................................................................................................................... 31

    (2) 地域産業の高度化 ..................................................................................................................................... 33

    (3) 情報産業の発展 .......................................................................................................................................... 34

    2 年次目標 ....................................................................................................................................................... 35

    3 達成指標に関する方針 ........................................................................................................................... 37

    4 本構想の体制 .............................................................................................................................................. 38

    5 構想の実行にあたり ................................................................................................................................ 39

  • 5

    第1章 背景

    1 「北九州 e-PORT 構想」の歴史

    「北九州 e-PORT 構想」とは、北九州市が 2002 年より推し進めている地域ブ

    ランディング戦略である。

    海の港(Sea Port)である響灘大水深港、

    空の港(Air Port)である新北九州空港に次ぐ、

    第 3 の国際ハブポートとして「情報の港」を

    確立し、IT 社会における市民生活や企業活動

    あるいは行政サービスを支える社会基盤を地

    域の総力で構築するものとして発足した。

    この取り組みにより八幡東区東田地区には、

    データセンター、コールセンター等が集積され、それらの売上推計は 2016 年度で

    約 92 億円(北九州市推計)を超えるものとなった。

  • 6

    前構想フェーズⅢの最終年度である 2014 年頃の IT を取り巻く状況として、ソ

    ーシャルメディアやクラウドサービス、スマートデバイス、位置情報サービスなど、

    ビジネスユースから個人ユースにいたるまで、様々な製品・サービスが市場にインパ

    クトを与え、インターネットの普及に次ぎ、これらの IT によるモノ・サービスが生

    活の身近なものとなった。

    他方、北九州市は人口減少、人の高齢化、モノの老朽化など、山積する課題の中、

    北九州市は「北九州市まち・ひと・しごと創生総合戦略」、「北九州市新成長戦略」を

  • 7

    策定し、このような情勢を受けて北九州 e-PORT 構想も新たな戦略として、ビジネ

    ス創出、IT 利活用による市民利便性の向上、特定課題をテーマとして取り扱ったプ

    ロジェクト等を推進すべく、新たな挑戦として「北九州 e-PORT 構想 2.0」への進

    化を遂げた。

    本構想では、この取り組みに賛同する産学官民金1の団体を e-PORT パートナー

    として迎え、新たなビジネスのタネとなる特定テーマに対してコンソーシアムを形

    成し、新たな事業体を形成する「e-PORT チャレンジ」というスキームを構築し、

    2015〜2017 年度をフェーズⅠと定め、このスキームによるサービスを確立して

    いくことを目指した。

    図:e-PORT チャレンジ概略図

    1 産学官民金:産業、学術、官公庁、民間団体、金融、の 5業界の略。

  • 8

    ここまでが本構想フェーズⅠの概要である。

  • 9

    2 フェーズⅠの成果

    フェーズⅠの初年度は、本構想の仕組みづくりが中心であり、運営体制の構築や

    e-PORT パートナーの勧誘、プロモーションを主としたイベントの開催等を主に実

    施するとともに、一部の重点プロジェクトを推進してきた。また 2 年目には、1 年

    目の活動の継続に加え、新ビジネスの創出に向けた「ビジネスづくり対話会」や、ビ

    ジネスプランの腕試しの場としての「ビジネスプランコンテスト」などの取り組みを

    実施し、その枠組やノウハウを構築・形成してきた。

    その中でも、特に成果として取り上げておくべきものを以下に記載する。

    【e-PORT パートナー】

    初年度の 2015 年度には 68 団体が加入、2016 年度には 26 団体が加入し、

    2018 年 1 月時点で合計 111 団体の地域内外の産学官民金からなるパートナー

    が加入しており、様々な形で本構想に関わっていただいている。

    【事業提案の持込み】

    ビジネス創出関連では、主にe-PORTパートナーから持ち込まれた事業提案が、

    2016 年度末で合計 57 件ある。これらは

    必ずしも新ビジネスに限った相談ではな

    く、e-PORT 内でビジネスパートナーにめ

    ぐり合うことで解決したものも多い。

    【e-PORT 補助金】

    相談の中でもビジネス化することを前提にコンソーシアムを形成し、コンソー

    シアムによっては本構想で創設された補助金も活用しつつ、実証等の事業を推進

    しているものが 6 件ある。

  • 10

    【地方版 IoT 推進ラボへの選定】

    e-PORT 推進機構では、推進機構の活動やパートナーの事例紹介のため、展示

    会の出典やイベントの開催など、様々なプロモーション活動を実施してきた。こう

    した活動と前述のような事業成果や将来性が認められ、本構想は経済産業省より

    「地方版 IoT 推進ラボ」に選定され、「北九州市 IoT 推進ラボ」として活動するこ

    ととなった。

    また、これによって関係省庁や企業、地域メディア等からの取材が入り、本構想

    の認知度向上は加速しつつある状況にある。

  • 11

    3 フェーズⅠの課題

    フェーズⅠの中核を簡単に表現すると、「e-PORT チャレンジ」という仕組みを構

    築し、その仕組みの中で地域の課題解決を目的としたコンソーシアムを形成し、ビジ

    ネスを創出することであった。

    プレイヤーとなる数多くの e-PORT パートナーが存在することや、ビジネス化を

    考える検討会、ビジネスプランコンテストなど、新しいビジネスを創出するための仕

    組みとしては確立されたといえる。

    しかしながら、前節にもあるように形成されたコンソーシアムもあるが、まだ実際

    のビジネスになったものは存在せず、独立したビジネスの前段階にあるものといえ

    る。コンソーシアムの形成やその他の取り組みを含め、様々なユースケースが積み上

    がっているものの、ビジネスとして成功するまでにはいたっていない状況にある。ま

    た、地域課題を解決するというアプローチについては、数々の議論が巻き起こるもの

    のビジネスに直結するものは少なく、出口を設定することが難しいことも判明した。

    つまり、いかにビジネス化までもっていくかという点、また、これまでのユースケ

    ースを体系化し、どのように今後の活動に活かしていくかの2点がフェーズⅠの結

    果から見える重要な課題として浮き彫りとなったといえる。

  • 12

    4 産業を取り巻く環境の変遷

    (1) 産業を牽引する IT

    ア IT の動向

    約 20 年前にインターネットが普及して以降、産業界は IT が牽引する構図と

    なったといえる。他の産業がゆるやかな発展を続ける中で、IT は今も爆発的な

    進歩を続けており、他の産業の進歩も IT の進歩によってもたらされる構図とな

    っている。

    例えば、下表のような先端技術は汎用性が高く、製造業、サービス業、金融な

    どの様々な分野での活用が期待されており、また今日における技術等の状態を

    2015 年時点と比較すると、明らかな変革や進歩が見られる。

    IT 分野 2015 年時点 2018 年現在

    IoT2 スマートフォン、自動

    車、ビル建物等限定的な

    利用

    IoT 向けの汎用OS3や、通信規格、汎用小

    型通信デバイスの登場により急速に普及

    AI(人工知能) 画像認識や将棋などの限

    定領域での実験が中心

    コンピューターの性能の向上、ビッグデー

    タ4の蓄積、機械学習 API5の実用化によ

    り、一般企業での開発が容易に

    ロボット 産業用マニピュレーター6

    が中心

    ドローンが登場

    人型ロボットやペット型ロボットなどが身

    近な存在に

    また、AIや IoT の組み合わせにより、よ

    り高度な動作や判断が可能に

    オープンデータ7 行政府によるデータの整

    備と公開

    行政府の法整備によって活用が本格化

    民間の持つデータの活用も視野に

    フィンテック8 金融、サービス、決済が

    ワンストップ化される

    (あるいは目指す)

    仮想通貨(暗号通貨)の投機ブーム

    ブロックチェーン技術による新たな決済機

    構の構築

    海外先進都市では現金が不要化

    2 IoT:Internet of things(モノのインターネット)の略。身近なモノや産業用機械など、様々なモノをインターネットに繋げて制御、監視、データ採取等を行う技術のこと。 3 OS:Operationg System の略。Windows や Linux、iOS、Androidなど、パソコンや様々なデバイスを制御するためのベースとなるシステムのこと。 4 ビッグデータ:膨大なデータ、特にインターネット上に無秩序に存在している大量データのこと。 5 API:Application Programming Interference の略。特定目的の演算を行うプログラムのこと。 6 マニピュレーター:人が操縦して何らかの作業を実行する機械(ロボット)のこと。 7 オープンデータ:元は誰かが作成した(または保有している)、誰でも(あるいは限定的に)二次利用が可能なデータ。行政府が公開しているデータを示すことが多い。 8 フィンテック:Finance と Technologyを組み合わせた造語。ITによる金融分野の新たな技術。

  • 13

    IoT、AI、ロボットの 3 分野は、個々の技術のみでは実現されることは限定的

    であったが、相互に組み合わさることでシナジー効果を産み始めている。例え

    ば、IoT により採取した精緻なデータを AI で分析することで、より精度の高い

    判断を行うことが可能となり、その結果から現場の機械等に対して高度な制御

    を行うことが可能となっている。またロボットは、AI と IoT により人が操作す

    るマニピュレーターから、全自動ないしは大部分の操作の自動化が可能となる

    などの進化を遂げている。

    これらのテクノロジー(特に IoT 及び AI)が世界に第 4 次産業革命をもたら

    すといわれており、生産性向上のチャンスと捉えられ、全国的な人手不足への対

    応の可能性が期待されている。

    また、オープンデータはテクノロジーそのものではないが、産業活用や市民利

    便性の観点から期待されているものである。これまでなかなか活用に結びつか

    なかった取り組みであるが、2016 年 12 月に国会にて「官民データ活用推進

    基本法」が可決・成立し、追って北九州市においても 2017 年 12 月に「官民

    データ活用推進基本条例」が制定されたことにより、今後のデータ活用の活性化

    が期待されている。また、マイナンバーの普及に向けた動きとも相まって、いよ

    いよオープンデータの本格的な実用化が始まろうとしている。

    本構想においても、このような動きを民間のビジネスチャンスと捉え、取り組

    みの支援を行っていくことになるものと考えている。

    図:官民データ活用関連法と e-PORT

  • 14

    このように、あらゆる産業を高度化する上で ITは無視できない存在であるが、

    IT はあくまでも手段であり目的ではない。したがって、いかに産業が求めるも

    のに対し IT が応えていくかが今後のカギとなってくる。

    イ 各テクノロジー(IoT/AI/ロボット)の情勢

    総務省(及び IHS Technology)の 2016 年時点での「IoT デバイス数の推

    移及び予測」によると、IoT デバイスの利用は 5 年間で倍になることが予測さ

    れており、特にコンシューマ分野での利用の伸び率も高いが、産業用途での伸び

    率も非常に大きいものと予想されている。

    IoT はあらゆるものをインターネットに繋ぐことで遠隔制御を可能とし、人の

    目視によることなくデータの取得と分析によって事態の予知を可能とする等、

    製造業を中心として様々な業種での活用が期待されている。

    世界の IoTデバイス数の推移及び予測

    出典:総務省 & IHS Technology

  • 15

    同じく技術分野では、AI(人工知能)の利活用においても調査研究と導入にあ

    たっての模索が盛んになってきており、様々な分野での活用への期待が高まっ

    ている。

    AI とは人の手では扱いきれないほどの大量なデータ(ビッグデータ)を特定

    の方法で処理させて解を導き出す技術で、解の精度は、データ量はもちろんのこ

    とコンピューターの処理速度に依存する。このため、コンピューターの処理性能

    がムーアの法則で知られるよう日進月歩で高速化されることに合わせてAIも進

    化し、このことが人の思考を超越するほど劇的な進化を遂げることになる。その

    タイミングをシンギュラリティ(技術的特異点)といい、その後のコンピュータ

    ーの進化は、コンピューター自身が行っていくという世界になるといわれてい

    る。

    現時点では AIの実用化は、音声認識や画像認識、囲碁・将棋などの分野に多

    少あるものの、まだまだ限定的である。AI は裾野の広い技術であるため、今後

    産業に導入されていくことを視野に入れておくことは重要である。

    人工知能(AI)の利活用が望ましい分野

    出典:総務省「ICT の進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成 28年)

  • 16

    更に、日本の産業用ロボット(マニピュレータ)は、バブル景気の時代を中心

    に世界に先駆けて実用化が進み、様々なものの自動化が進んだ。ところがデフレ

    期以降には国内が需要不足になったため、大量生産化・自動化等を進める必要性

    が弱まり、ロボットの導入は減少していった。そして世界では 2000年代後半

    から本格的にロボットの導入が進められ、2018 年現在では、日本は既に導入

    数でアメリカや中国に抜かれている可能性が高い状況にある。

    ※マニュピュレーティングロボットのみ

    出典:一般社団法人日本ロボット工業会「世界の産業用ロボット稼動台数」を基に作成

    これらの点から、来たるべき供給不足(人手不足)時代に対応するには、これ

    からの成長分野である IoT や AIの活用を念頭に、また元々は日本のお家芸であ

    るロボットを組み合わせることで、より技術の高度化の裾野を広げながら、産業

    の生産性向上を図っていくことが必要である。

  • 17

    (2) 人手不足と生産性向上の必要性

    ア 生産年齢人口比率の減少

    近年、国内では人口減少や少子高齢化が問題視されており、北九州市において

    も例外ではない。しかし、実際の問題となるのは人口そのものの減少ではなく、

    生産年齢人口比率の減少、つまり生産活動に従事する者の数の減少にある。

    出典:国立社会保障・人口問題研究所(出生中位・死亡中位推計)を基に作成

    国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040 年までに日本の生産

    年齢人口比率は、現在の 60%から 54%に落ち込むこととなる。これを需給の

    関係で述べると、全人口を総需要、生産年齢人口を総供給とすれば、平均で毎年

    約 0.23%ずつ生じる供給不足(人手不足)をこの先数十年もの間、継続的に埋

    めていかなければならないこととなる。0.23%とは、日本全体の GDP のうち

    約 1 兆円、北九州市だけでも約 80 億円の市場規模に相当する。それだけの供

    給不足を毎年埋めていくためには、生産性の向上をもって産業を高度化してい

    くことが不可欠である。

  • 18

    イ IT 分野における人材不足

    前項に記載したとおり、今後、生産年齢人口比率の低下によって、IT 人材に

    も不足が生じてくることは必然であり、2016 年度経済産業省「IT 人材の最新

    動向と将来推計に関する調査結果」においても、2020 年には 36.9 万人の IT

    人材が不足する(内訳:情報セキュリティ人材 19.3 万人、先端 IT 人材 4.8 万

    人、その他 IT 人材 12.8)とされている。

    また、IT 企業の人材だけではなくユーザー企業の情報システム部門の人材に

    ついても、7.3 万人が不足するとされている。

    出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」

  • 19

    (3) FAIS と HMC の統合

    冒頭でも述べたとおり、本構想推進の中核を担っている HMC が 2018 年 4 月

    より FAIS と統合される予定である。

    HMCが、主に情報産業に対する支援であるのに対し、FAIS の取り組みは、主

    に製造業や研究開発の支援であり、対象産業とレイヤーの異なる支援を行ってき

    た。両者がこの時期に統合されること

    の意味は大きい。前構想は IT 産業の

    集積にも大きな価値をもたらしたが、

    現在の複雑かつ高度化する IT は、画

    一的に商品・サービスといった形で提

    供できるような単純なものではなく、様々な産業における様々な利用シーンを想

    定することで、裾野が無限に拡がっていく起点となるものと考えられる。

    そのため本構想の対象は、情報産業という枠組みに留まることが許されず、この

    ような意味では、特に高度化が急がれる製造業の支援を主とする FAIS との統合

    により裾野を拡げていくことは、地域産業にとっても北九州 e-PORT 構想にとっ

    てもプラスとなるものであり、チャンスであるといえる。

  • 20

    第2章 本構想のあり方

    1 フェーズⅡ策定にあたっての観点

    (1) 検討委員会・顧問会等のフィードバック

    本書冒頭に掲載のとおり、本構想フェーズⅡを策定するにあたり、検討委員会を

    設置し検討を行った。また、そこで検討された内容について、e-PORT 推進機構

    内に設置されている顧問会に諮問し、内容を精査した。

    フェーズⅠの成果と課題については前述したとおり、様々な取り組みによって

    ユースケースは積み上がっているものの、それらのノウハウがきちんと体系化さ

    れておらず、また独立したビジネスの創出につながっていない点も課題であった。

    これを踏まえたうえで実施した検討委員会及び顧問会でも、フェーズⅠで仕組

    みができあがったことは評価すべきであるが、「どこをゴールとし、どういった戦

    略をもって達成するか、という点をもっと明確に定義すべきである」との指摘があ

    った。また、従来の情報産業を支援の対象とすることで、「技術シーズや製品、サ

    ービスありきのプロダクトアウトのアプローチとなっているが、これを市場あり

    きのマーケットインに転換すべきではないか」との指摘もあった。

    これらの問題提起を始めとし、同会から得たフィードバックは多岐に渡る内容

    であり、本構想を総合的に再検討することで対応することとした。

    図:検討委員会及び顧問会フィードバック内容概略

  • 21

    (2) 市からの示唆

    事務局である HMC を所管する北九州市産業経済局新産業振興課からは、中期

    的なスケジュールを勘案しつつ、事業の柱として、①フェーズⅠで実施してきた事

    業の強化と拡充、②FAIS 統合によってシナジー効果を生み出せる取り組みとして、

    新たに生産性向上支援に係る事業、この 2 点を実施していくべきであり、そのア

    ウトカムとして市内産業の振興と成長を目指すべきであるとの示唆があった。

    図:市(新産業振興課)の構想見直しに関する示唆

    また、「第1章 4 (1)ア IT の動向」にあるように、「官民データ活用推進基本条

    例」の制定を契機に、北九州市総務局情報政策課が主体となってデータ活用に係る

    取り組みを推進することになっており、今後、行政手続のオンライン化や官民デー

    タの活用促進などを進めるための推進計画を策定することになる。

    これに関しても、新たなビジネスの創出のチャンスであり、今後の動向に注目し

    ながら、効果的な取り組みを進めていくことが求められている。

  • 22

    (3) 前構想のノウハウの活用

    前述の「第1章 1 「北九州 e-PORT 構想」の歴史」で述べたとおり、従来の北

    九州 e-PORT 構想にて集積された iDC やコールセンターは、2016 年度時点で年

    間売上 92 億円にまで集積した。これによって北九州には、より安全かつ堅実に情

    報システムを運用するための情報セキュリティ、メンテナンスなど「守りの IT」の

    ノウハウが蓄積された。つまり、北九州には情報システムを安心して預けられ、任せ

    ることができる下地ができ上がっていることを意味する。

    守りの IT は、従来の情報システムの保全はもちろんのこと、先端 IT の推進におい

    ても当たり前に必要な土台であり、常に欠かすことのできないものである。

    図:守りの ITの守備範囲(イメージ)

    また、守りの IT を支えているのも IT 人材であり、IoT や AI といった先進的な先

    端 IT の裏側にも必ず縁の下の力持ち的な存在として、守りの IT に従事する人材が

    必要とされている。

    加えて、前述の「第1章 4 (2)イ IT 分野における人材不足」にあるように、現時

    点においても IT 人材は不足しており、今後さらに IT 人材の不足が進行していくこ

    とと想定されている。このように全国的には IT 人材を確保することは厳しい状況に

    あり、もちろん北九州においても例外ではなく、現に本構想の検討委員会において

    も、ユーザー企業、特に中小企業において IT に対応していく人材が不足しているた

    め、IT 導入が進まないという意見が多くあった。しかし、北九州には前構想によっ

    て培われた守りの IT に係る人材及びノウハウが豊富であり、このことが全国的な IT

    人材不足の状況下においても、相対的な優位性をもたらしているといえる。

  • 23

    また、e-PORT では、前構想からの取り組みとして「北九州地区電子自治体推進

    協議会(以下「KRIPP」という)9」が、平成 15 年より総合行政ネットワーク(以

    下「LGWAN」という)10の整備、運営を皮切りに、様々な行政システムを共同で利

    用しており、新たな共同利用サービスについても検討を行っている。

    現在、KRIPP において、共同利用を行っているサービスは、「LGWAN の共同利

    用」、「LGWAN アクセス回線の共同利用」、「インターネット接続サービス」、「シス

    テムデータバックアップ」、「共同 GIS」がある。過去には「電子申請サービスの共同

    利用」もあった。

    このように、複数の自治体が行政システムを共同している実績があること、共同利

    用に取り組む意欲のある自治体が数多くあること、iDC が集積しており LGWAN の

    アクセスポイントがあることなど、e-PORT は行政サービスの共同利用に向けた取

    り組みを推進できる、非常に高いポテンシャルを有しているといえる。

    このような中、国(総務省)においても、自治体クラウドの取り組みを加速したい

    と考えており、各自治体も行政コストをこれまで以上に削減したいと考えていると

    ころである。

    LGWAN-ASP11など、行政システムの共同利用サービスの提供については、民間

    企業にとっても大きなビジネスチャンスであり、自治体クラウドの取り組みも含め

    検討を進めていく。

    9 北九州地区電子自治体推進協議会:通称 KRIPP(クリップ)という、北九州地区を中心とした

    自治体で構成される団体(18自治体、1団体)。平成 14年度にIT資源やノウハウの共有化を図

    りながら、安価で高度な情報システムを構築し、電子自治体を実現していくため設立された。 10 総合行政ネットワーク:通称 LGWAN(エルジーワン)という、地方公共団体を相互に接続す

    る行政専用のネットワークのこと。基本的には一般利用者がインターネットを介して接続するこ

    とはできない帯域。 11 LGWAN-ASP:LGWAN帯域上で稼働するソフトウェアアプリケーションのこと。

  • 24

    (4) e-PORT リソース

    本構想では、これまで積み上げてきたあらゆる活動資産を「e-PORT リソース」

    と称している。e-PORT リソースとは、下表に示すとおり 7 つに分類された、連携

    パートナーや活動実績に基づく活動プラットフォーム、ビジネスシーズ等のノウハ

    ウであり、本構想の推進の基礎となるものである。フェーズⅡでは、これら e-PORT

    リソースを十分に活用し、フェーズⅠ以上に質の高い取り組みと、新たな取り組みの

    実現を図っていくことが望ましいと考える。

    表:ePORTリソース

    リソース 説明

    e-PORT パートナー

    産学官民金、計 100 を超える団体が e-PORT のパートナーとして加

    入している(2017年 12月現在)

    事業に対して、主体者、支援者、被支援など、様々なあり方によって

    参画されている

    プロモーション 展示会への出展、オウンドメディア12発信、地域メディア連携等によ

    るプロモーション活動

    実証フィールド 市、大学、民間団体などとの連携を通じて提供されるビジネスの実証

    フィールド

    ストックシーズ e-PORT にストックされた、まだ市場に出ていない技術シーズ、ビジ

    ネスシーズ等。主に、e-PORTパートナーから提供されたもの

    データセンター e-PORT が培ってきたデータセンターサービス

    外部機関ネットワーク e-PORT パートナーの他、関係省庁、行政、その他の協力機関との連

    携ネットワーク

    北九州市 IoT 推進ラボ 経済産業省が認定する『地方版 IoT推進ラボ』の北九州市版、北九州

    e-PORT 構想 2.0≒北九州市 IoT 推進ラボ

    12 オウンドメディア:自社で刊行している冊子や自社WEBなど、自前で持つ広告手段の総称。

  • 25

    2 フェーズⅡにおける取り組みの方向性

    (1) 検討アプローチ

    これまで述べられた論点から、下記 2 点を課題とし、これらをどのように取り

    組むかについての検討を実施した。

    ビジネスを輩出するためのアプローチ再検討

    新たな取り組みとしての生産性向上支援のアプローチ検討

    まず、市場規模の視点からいうと、2014 年度市内総生産によれば、北九州市

    の産業構成比は上位からサービス業が 23%、製造業が 19%となっている。人手

    不足の解消のためには、まずはこの 2 産業の現場の実態を把握する必要がある。

    さらに、サービス業の中でも社会保障分野の事業は人手不足が顕著といわれてい

    るが、そういった分野での IoT やロボットの活用による生産性向上の可能性はど

    うであるか、あるいはそれらを下支えする製造業の生産性がボトルネックではな

    いか、といった仮説検証も重要である。

    図:市場規模からの視点

  • 26

    次に、産業構造の視点からいうと、その例として、製造業からサービス業へモノ

    が提供され、サービス業から個人ユーザーへサービスが提供される、という図式が

    ある。一方で、IT 産業は製造業、サービス業、個人ユーザーと何れにもサービス

    を提供する業種であるが、IT サービス自体が目的であるものは少なく、ほとんど

    の場合は各産業を助けるための手段を提供するものである。

    従来の e-PORT 構想では、基本的に IT 産業をターゲットに支援を行ってきて

    おり、IT 産業を支援すれば様々な産業に役立つビジネスが生まれるであろうとい

    う、いわゆるプロダクトアウト的なアプローチであった。このことから、市場ニー

    ズが十分に把握されておらず、出口戦略が不十分なために新ビジネスの創出にい

    たらない原因であるとの仮説が見えてきた。

    図:産業構造からの視点

    つまり、生産性向上の支援を行うにせよ、新ビジネスの創出を行うにせよ、市場

    ニーズを捉えた、いわゆるマーケットインによるアプローチが必須であることが、

    本構想フェーズⅡの見直しの根幹になるものと結論づけている。

  • 27

    (2) 取り組みの方向性

    前構想では、地域情報産業の振興を図ることに軸足を置いてきており、その成果

    は iDC13やコールセンターの誘致など、大きな成果を上げてきた。

    次に、本構想のフェーズⅠにおいては、IT サービスの創出による地域課題の解

    決を掲げてきており、取り組みは一定の進捗を上げているものの、こちらは十分な

    結果が得られているとはいい難い状況にある。これはフェーズⅠのアプローチが、

    IT サービスの創出を前提とするプロダクトアウト傾向にあったことが問題と指摘

    されている。また、ゴールについても地域課題の解決という測定が難しいものであ

    ったことに加え、産業発展のターゲットも IT に絞られており、狭く、そして解釈

    の難しい内容であったことも問題であった。

    そこでフェーズⅡからは、これまで積み上げてきた IT のノウハウや e-PORT

    パートナー等のネットワークなどのe-PORTリソースを活用することを視野に入

    れつつ、プロダクトアウトのアプローチからマーケットインの視点を重視した活

    動、つまり技術シーズやサービスありきではなく、まず市場が求めていることに重

    きを置いた取り組みを進めることとし、更にゴールについては北九州市を中心と

    する地域産業の振興とする。

    地域産業の振興のための具体的な取り組みとして、

    ①フェーズⅠで進めてきた「新ビジネスの創出」の取り組みをさらに加速させ、

    具体的なビジネス化につなげていく。

    ②プロダクトアウトからマーケットインへの転換の具体例として「地域産業の

    高度化」を支援する取り組みを展開する。

    ③前構想の成果として集積した iDC との連携を強化していくとともに、北九州

    市の強みである「守りの IT」を活かした取り組みとして、IT 人材の育成と獲

    得を含めた「情報産業の発展」に貢献していく。

    これら3つの取り組みを通じて「地域産業の振興」を図っていく。

    13 インターネットデータセンターの略

  • 28

    図:北九州 e-PORT構想 2.0 フェーズⅡにおける取り組みの方向性

    これら、①新ビジネスの創出、②地域産業の高度化、③情報産業の発展 の方向

    性のもと、それぞれ具体的な取り組みやサービスを展開していく。

    図:取り組み全体像

    また、これらの取り組みを推進していくにあたっては、フェーズⅠまでに培って

    きた e-PORT リソースを存分に活用するとともに、e-PORT リソースの更なる

    蓄積と発展を進めていく。

  • 29

    (3) e-PORT リソースの活用

    e-PORT リソースは、前述の「1 (4)e-PORT リソース」に記載されたとおり、e-

    PORT パートナー、プロモーション、実証フィールド、ストックシーズ、データセン

    ター、外部機関ネットワーク、北九州市 IoT 推進ラボの 7 つを定義している。

    基本的な e-PORT リソースの活用方針は下表のとおりとする。

    表:ePORTリソース活用方針

    リソース 活用方針

    e-PORT パートナー

    ビジネスを相談したい者に対して、対応できる者や壁打ち相手を紹介

    する

    ビジネスパートナーを探す者に対して、適用者を紹介する

    訴求力のある特定テーマに対してWGを形成する

    プロモーション 各活動や、e-PORTパートナーとの関連事業について、プロモーショ

    ンを行う

    実証フィールド ビジネスの可能性を実証する段階にあるものに対し、できる限りシー

    ンに合った実証フィールドを、関係団体等を通じて形成し提供する

    ストックシーズ

    知見を持つコーディネーターが、様々な議論の機会にてストックシー

    ズを照合し、ビジネス創出や課題解決のネタとして、あらゆるシーン

    で提供する

    データセンター 相談者のシーンに応じて、データセンターの提供や、サービスの案内

    を行う

    外部機関ネットワーク シーズやニーズの共有、専門家の紹介や派遣によるアドバイス提供、

    セミナー等の機会提供、実証フィールドとしての連携等を行う

    北九州市 IoT 推進ラボ 全国 IoT 推進ラボネットワークを活用し、先進技術の情報交換、ラボ

    のメンターを介した助言等を行う

    その中でも、e-PORT パートナー、プロモーション、実証フィールドの活用を

    重視し、これらを以下のように取り組むことで、取り組み全体の底上げを図ってい

    く。

  • 30

    【e-PORT パートナー】

    e-PORT パートナーは、フェーズⅠで 100 を超える団体が加盟しており、

    本構想に関わっている。フェーズⅡでは、特に新ビジネス創出の取り組みにおい

    て、市場の期待値が高いことが想定される分野において WG(ワーキンググル

    ープ)を形成し、新ビジネス創出に対して高いコミットメントが可能なパートナ

    ーとの本格的な議論と事業の推進を図っていく。

    【プロモーション】

    プロモーションの目的は、本構想のブランディングであり、ひいては本構想で

    生まれた事業の加速や、加盟するパートナーのビジネスにメリットを生じさせ

    ることが狙いである。展示会への出展、イベントの開催・共催・後援、オウンド

    メディア(フリーペーパー、ホームページ、デジタルサイネージ等)により、本

    構想の取り組みの積極的な発信と、視察の受入、メディア等への露出を図ってい

    く。

    【実証フィールド】

    ビジネスにおいて、新規性が高ければ高いほど、また裾野が広ければ広いほ

    ど、それが世の中で機能するのか、あるいは世の中に受け入れられるのかが重要

    な課題となる。それらを実証するにはフィールド、つまりそれら技術・サービ

    ス・モデル等を享受する一定規模の対象(人)が必要となる。フェーズⅡでは、

    市、大学、民間団体などとの連携をより強化し、実証可能なフィールドを拡げる

    とともに、積極的な実証活動を行っていく。

  • 31

    第3章 アクションプラン

    1 各取り組み

    (1) 新ビジネスの創出

    新ビジネスとは、新製品の販売開始、

    新サービスの開始、新ビジネスモデルの

    開始、公にリリースされるもの、あるい

    は創業などのことである。

    地域産業を支えるためには、新たな事業が継続的に生み出される土壌が必要と

    考えており、北九州市においてもコワーキングスペース等のサービスや、公共等の

    支援機関でのサービスも充実してきている。また、本構想においても、フェーズⅠ

    の期間から新ビジネスの創出に係る支援を実施してきており、いくつかのビジネ

    スの芽が育ってきている。

    上記にあるような外部環境を活用しつつ、またフェーズⅠで培ったノウハウも

    活用し、フェーズⅡにおいても継続して新ビジネスの創出を推進していく。

    新ビジネス創出支援アクションマップ

    「新ビジネスの創出」では、上図にあるように、ビジネス化までの一連の流れを

    支援のサービスとして提供・実施する。

    他の支援機関との連携も行いつつ、独自にコミュニティ活動への協力や後援な

    どの支援、新ビジネス検討会の開催などによって新ビジネスの土壌づくりを行い、

    ビジネス相談会、ビジネスマッチングなどを通じて本格的にビジネスをプランに

    落とし込んでいくためのコーディネート、そして出口としてのビジネス化に対す

    る補助金や、プロモーションによる発信、プロジェクト伴走による継続的な支援な

  • 32

    どによって、実際のビジネスの助走あるいは軌道に乗るところまでの実効性のあ

    る支援を行っていく。

    各アクションの詳細は下表のとおりである。

    表:新ビジネス創出のアクション詳細

    アクション 内容

    新ビジネス検討会

    地域課題解決を目的としたビジネスアイディアを掘り起こし、ビジネ

    スのタネを発掘する検討会

    参加者のバックボーンを問わず、幅広くビジネス創出の機運醸成、人

    脈の形成を行う取り組み

    ビジネスプランコンテ

    スト

    ビジネスプランの構築、腕試し、アイディアブラッシュアップ、プロ

    モーション等、新ビジネスを志す個人・団体に機会を提供する取り組

    コミュニティ活動支援 ビジネス創出について、直接ではなくとも間接的に繋がる活動に対し

    て、場の提供や繋ぎ等の支援を行う

    パートナー訪問 事務局スタッフが e-PORT パートナーを訪問し、情報交換を行う

    ビジネス相談

    事務局スタッフ(コーディネーター)が、e-PORT パートナーや地域

    でビジネス展開を考えている団体等から、ビジネス相談を受け付けた

    り、ビジネス相談会を実施し、壁打ち、協力者の調整、実証方法な

    ど、様々な支援を行う取り組み

    マッチングイベント

    主に e-PORT パートナー向けに、市場動向や先端技術等の情報提供

    を行うとともに、e-PORT 内でビジネスパートナーとしてネットワー

    ク形成が図れる場を提供する

    ビジネス化支援補助金 新たなビジネスを実現する、あるいはその社会実験を望む団体に対

    し、補助金を交付する

    プロジェクト伴走支援 上記、様々な入り口によって形成されたビジネス創出のプロジェクト

    に対して、アドバイスやマネジメント等の継続的な支援を行う

    プロモーション支援

    e-PORT での取り組みや、e-PORTパートナーを内外に発信する機

    会を、展示会出展、主催イベント、オウンドメディア等によって設け

  • 33

    (2) 地域産業の高度化

    前述の「第1章 4 (2)ア生産年齢人口比率の減少」に記載のとおり、人手不足

    の解消は生産性向上によって対応すべき課題である。またその生産性の向上にあ

    たっては、「第1章 4 (1)イ各テクノロジー(IoT/AI/ロボット)の情勢」にあ

    るような先端テクノロジーを使い研鑽を積んでいくことで、より将来に対する持

    続性が個々の企業に備わっていくものと考える。

    このことを踏まえ、本構想の「地域産業の高度化」では、新たに地域産業の生産

    性向上に資する取り組みを行っていく。

    図:地域産業の高度化の仕組み化プロセス(イメージ)

    北九州市は製造業(主には鉄鋼業)、サービス業が盛んであるため、この点を軸

    に産業のニーズを把握し、また統合を予定している FAIS が推進している取り組

    みとのすり合わせを行うとともに、市や e-PORT パートナーの協力を得つつテー

    マ設定を行い、現場実態調査を経て、特定分野の研究や開発の支援、導入支援等の

    仕組みを構築する。

    基本的な方向性としては、IoT/AI/ロボット等の先端テクノロジーを取り込み、

    特に「ものづくりの分野における生産性革命の実現」を目指すものとし、支援の詳

    細な内容については、対象となる企業のニーズや効果的な分野を考慮したうえで

    決定する。

  • 34

    (3) 情報産業の発展

    情報産業の発展に資する取り組みとして、前構想から行ってきた iDC などの集

    積に加え、市を支援する形で、システムインテグレーション、セキュリティ、メン

    テナンス等の iDC 周辺事業者に対する誘致活動を推進することとする。これは、

    前述の「第2章 1 (3)前構想のノウハウの活用」に記載のとおり、これまで育ん

    できた情報産業の集積を維持、拡大させつつ、今後更に関連する企業群の集積を進

    めることは、あらゆる地域産業の発展を下支えするためにも有効である。

    また同様に、情報産業を下支えする IT 人材の育成に係る取り組みについても、

    引き続き行っていく。

    図:情報産業の発展の取り組み

    前述の「第1章 4 (2)イ IT 分野における人材不足」に記載されたとおり、IT 人

    材は急速に不足していく傾向にある。

    その一方で、「第2章 1 (3)前構想のノウハウの活用」に記載したとおり、北九

    州市には守りの ITを行ってきたノウハウを持つ人材が豊富であるという優位性も

    ある。また、従前よりHMCが実施してきた実践型 IT人材育成プログラムのほか、

    FAIS が実施し始めた生産性向上スクールや、地域の大学連携による育成プログラ

    ムなど、いわゆる即戦力人材の育成は盛んになってきている。

    本構想でもそれらの取り組みと連携しつつ、特に中小企業において、IT 導入を

    推し進められるような IT 人材の育成に力を入れていくこととする。

    その他、産業集積の観点から効果が高いと見込まれる取り組みについては、情勢

    を考慮しつつ、企業誘致支援、IT 人材育成に限らず積極的に取り込んでいくこと

    とする。

  • 35

    2 年次目標

    2015年の本構想策定時、フェーズⅠを2015〜2017年度、フェーズⅡを2018

    〜2020 年度、フェーズⅢを 2021〜2023 年度と、各 3 年間x3 フェーズの計 9

    年計画とした。また、情報産業における技術の変遷は過去も現在も早く、あまり長期

    的な計画を立ててもすぐに陳腐化してしまい、時勢に合わないものとなってしまう

    懸念がある。よって当初構想の計画スパンを踏襲し、フェーズⅡは 2018〜2020

    年度の 3 年計画とする。

    なお、前述のとおり 2018 年度には事務局の FAIS 統合がある。本構想と FAIS

    の中期計画とのスパンが異なることも想定されるため、統合に際し相互の計画につ

    いての整合性を図っていく。

    図:フェーズⅡスケジュール

    【新ビジネスの創出】

    フェーズⅠで行ってきた仕組み・ノウハウを活用し、タネづくりから出口まで

    を総合的に行っていくため、フェーズ前半はまずサービスインする事業の創出

    に注力し、後半はビジネスの輩出と質を高める方向へとシフトチェンジしてい

    く。

  • 36

    【地域産業の高度化】

    新たな仕組み構築のため、フェーズ前半は調査と試行運用を実施、後半につれ

    て仕組みのブラッシュアップを行いつつ、生産性向上事業の実績を増やしてい

    くこととする。

    【情報産業の発展】

    市の企業立地支援課等の連携を図り、企業誘致支援を推進する。

    また、これまで HMC が実施してきた実践型 IT 人材育成、FAIS が推進して

    いる生産性向上スクール等、より実践に近い講座を主軸としつつ、併せて若年層

    向けの将来世代の人材育成も行っていく。

  • 37

    3 達成指標に関する方針

    まず、最終目標としての KGI14は、地域産業の振興が達成されたものと見なせる全

    体指標として、支援によりプラス作用のあった「事業(者)の延べ数」、及び「事業

    (者)の総売上」と設定する。これは本構想が終了した時点でのゴールを示すもので

    ある。

    次に、KPI15は時点目標として各年度で「プロセス KPI」と「結果 KPI」を設定す

    る。もちろん各年度で達成すべきは結果 KPI であるが、本構想の取り組みは一足飛

    びに結果を出せるものではないため、結果に到達するまでの間はプロセス KPI を目

    指し、プロセスを熟すことで結果に繋がるという仮説に基づき、これらを設定する。

    表:取り組みKPI/KGI

    取り組み プロセス KPI 結果 KPI KGI(最終目標)

    ①新ビジネスの創出

    ・イベント数/時間

    ・参加者数

    ・相談数

    ・ビジネスマッチング数

    ・新ビジネス創出数

    ・継続事業数

    支援によりプラス作

    用のあった

    ・事業(者)の延べ数

    ・事業(者)の総売上

    ②地域産業の高度化 ・相談数

    ・支援企業数 ・生産性向上企業数

    ③情報産業の発展

    ・立地関連の相談/紹介/

    訪問/視察数

    ・講座実施数/時間

    ・受講者数

    ・立地企業数

    ・立地企業売上総額

    ・支援企業への就業者数

    e-PORT リソース

    ・パートナー数

    ・フィールド実証数

    ・ストックシーズ(ノウ

    ハウ)数

    ・プレス数/出展数

    ・アクティブパートナー

    各取り組みの KPI 項目は上表のとおりとし、設定値については各年度のアクショ

    ンプランにて具体的な値の設定を行うものとする。

    14 KGI:Key Goal Indicator の略。最終目標達成指標、重要目標達成指標などともいう。 15 KPI:Key Performance Indicator の略。中間評価指標、業績評価指標などともいう。KGIを達成するための中間的な指標ともいえる。

  • 38

    4 本構想の体制

    前述のとおり事務局を務める HMC は FAIS と統合することとなるが、基本的に

    はこれまでどおり、e-PORT 推進機構が本構想の運営を実施する。

    事務局は各取り組みの実施及びビジネス主体者の支援を行っていく。

    各取り組みにおいて、要所にて e-PORT パートナーと連携し、調査事項にて e-

    PORT パートナーの協力を得ることや、催し物については共催・後援・協力等によ

    って、相互にメリットの大きい方法を取り入れながら推進を図っていく。

    また、地方版 IoT 推進ラボ(北九州 IoT 推進ラボ)としてのラボ同士の取り組み

    連携や、国の IoT 推進ラボからの支援活用、IoT 推進ラボのブランドの活用も行って

    いく。

  • 39

    5 構想の実行にあたり

    本構想には、新ビジネスの創出により生きたビジネスを生み出すことや、新たな地

    域産業の高度化を支援する取り組み、事務局である HMC と FAIS の統合など、多

    くの挑戦要素が含まれており、一筋縄で成功するものではないことを肝に銘じなけ

    ればならない。特に、事務局の統合によって、内部リソースが十分に確保できないリ

    スクや、市の外郭団体であるがゆえに人事異動によってノウハウの後退するリスク

    などもはらんでいる。

    こういった外的要因があることも踏まえ、達成指標、体制、スケジュールについて

    は、必要に応じて顧問会等に諮問しつつ、適宜見直しを行うことで弾力的な運用を図

    っていくこととする。